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特開2023-114597下地保護構造、躯体被覆構造および下地保護構造形成用セット
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  • 特開-下地保護構造、躯体被覆構造および下地保護構造形成用セット 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023114597
(43)【公開日】2023-08-18
(54)【発明の名称】下地保護構造、躯体被覆構造および下地保護構造形成用セット
(51)【国際特許分類】
   E04D 5/06 20060101AFI20230810BHJP
   E04D 5/00 20060101ALI20230810BHJP
   E04D 11/00 20060101ALI20230810BHJP
   B29C 63/02 20060101ALI20230810BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20230810BHJP
   B32B 5/16 20060101ALI20230810BHJP
【FI】
E04D5/06 B
E04D5/00 D
E04D11/00 C
B29C63/02
B32B27/30 101
B32B5/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022017011
(22)【出願日】2022-02-07
(71)【出願人】
【識別番号】000223403
【氏名又は名称】住ベシート防水株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】八木 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】別宮 浩之
(72)【発明者】
【氏名】中川 祐司
(72)【発明者】
【氏名】森本 純平
(72)【発明者】
【氏名】神藤 寿雄
【テーマコード(参考)】
4F100
4F211
【Fターム(参考)】
4F100AA00B
4F100AC03B
4F100BA02
4F100CA04A
4F100DE01B
4F100DE02B
4F100EH46
4F100EJ86
4F100YY00B
4F211AA15
4F211AB11
4F211AB16
4F211AC03
4F211AH43
4F211SA01
4F211SC06
4F211SD01
4F211SD11
4F211SN12
(57)【要約】
【課題】躯体に敷設される下地としての防水シート等に対して可塑剤を効率よく移行させることができる移行層を備え、かつ、この移行層の表面におけるべたつきの発生を長期に亘って抑制または防止することができる下地保護構造、かかる下地保護構造を備える躯体被覆構造、および、かかる下地保護構造を形成することができる下地保護構造形成用セットを提供すること。
【解決手段】本発明の下地保護構造301は、床部を有する躯体を被覆する下地の少なくとも一部を被覆する移行層1と、移行層1に積層された粒子層3とを備えるものであり、移行層1は、塩化ビニル系樹脂と可塑剤と溶媒とを含有し、前記可塑剤を前記下地に移行するように構成され、粒子層3は、複数の粒子31を有し、これら粒子31が単層をなして敷き詰められたものである。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
床部を有する躯体を被覆する下地の少なくとも一部を被覆する移行層と、該移行層に積層された粒子層とを備える下地保護構造であって、
前記移行層は、塩化ビニル系樹脂と可塑剤と溶媒とを含有し、前記可塑剤を前記下地に移行するように構成され、
前記粒子層は、複数の粒子を有し、該粒子が単層をなして敷き詰められたものであることを特徴とする下地保護構造。
【請求項2】
前記粒子は、無機粒子である請求項1に記載の下地保護構造。
【請求項3】
前記無機粒子は、タルクの粒子である請求項2に記載の下地保護構造。
【請求項4】
前記無機粒子は、鱗片状または板状をなしている請求項2または3に記載の下地保護構造。
【請求項5】
前記粒子は、その平均粒径が0.6μm以上40.0μm以下である請求項1ないし4のいずれか1項に記載の下地保護構造。
【請求項6】
前記下地は、防水シートである請求項1ないし5のいずれか1項に記載の下地保護構造。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の下地保護構造と、前記下地とを有することを特徴とする躯体被覆構造。
【請求項8】
床部を有する躯体を被覆する下地の少なくとも一部を被覆する移行層と、
複数の粒子を有し、該粒子が単層をなして敷き詰められている粒子層とを備える下地保護構造における、
前記移行層を形成するために用いられる移行層形成用樹脂組成物と、前記粒子層を形成するために用いられる複数の前記粒子とを有する下地保護構造形成用セットであり、
塩化ビニル系樹脂と、可塑剤と、溶媒とを含む前記移行層形成用樹脂組成物を、前記下地の少なくとも一部に塗布することで塗布膜を形成し、
その後、複数の前記粒子を、前記塗布膜上に、単層をなして敷き詰めることで前記粒子層を形成した後に、前記塗布膜を乾燥させることで前記移行層が形成されるように構成されていることを特徴とする下地保護構造形成用セット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下地保護構造、躯体被覆構造および下地保護構造形成用セットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建築物の高耐久化が求められるに伴って、多くの建築物の屋上やベランダ等の躯体において、樹脂シートを敷設施工したシート防水構造が採用されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
このシート防水構造では、例えば、屋上の床部と、床部の外縁に沿って立設して設けられた壁部との境界部に、この境界部の形状に対応して形成された、塩化ビニル系樹脂で被覆された鋼板(金属板)を配置し、この鋼板の少なくとも一部を、塩化ビニル系樹脂と可塑剤とを含有する防水シートを用いて覆う構成となっており、これにより、屋上の境界部に対して防水が施される。
【0004】
ここで、防水が施工される屋上等の形状は、当然、様々である。そのため、前記鋼板としては、複数の種類の形状のものが予め用意され、実際に施工される屋上等の境界部の形状に合致するものが複数選択される。そして、これら鋼板は、前記境界部にその形状に対応して、隣接するもの同士に間隙が形成されるように並べられ、この状態で防水シートにより覆われる。
【0005】
このような構成のシート防水構造では、施工後に年月を経ると、日光や、雨水(泥水)に晒されることに起因して、防水シートから可塑剤が揮散し、その結果、防水シートの柔軟性が低下する。そのため、防水シートに応力が生じ、これにより、防水シートの防水性が低下する懸念が発生するという問題があった。
【0006】
この防水シートにおける応力の発生は、防水シートからの可塑剤の揮散によるため、例えば、特許文献2、3のように、防水シートに、塩化ビニル系樹脂と可塑剤とを含有する移行用(保全補修用)シートを貼付することが提案されている。
【0007】
このように移行用シートを防水シートに貼付する構成とすることで、移行用シートに含まれる可塑剤を防水シートに移行(拡散)させることができるため、防水シートの柔軟性を優れたものに回復させることができる。その結果、防水シートにおける応力の発生を解消することができる。
【0008】
このように防水シートに、移行用シートを貼付する場合に限らず、防水シートに対して、可塑剤を効率よく移行させることができる、他の形態をなす構成のものの開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007-70877号公報
【特許文献2】特開平8-207157号公報
【特許文献3】特開2015-196947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、移行用シートに代えて、塩化ビニル系樹脂と可塑剤と溶媒とを含有するクリーム状をなす移行層形成用樹脂組成物を塗布・乾燥させることで、塩化ビニル系樹脂と可塑剤とを含有する移行層を防水シートに形成することが考えられるが、この場合、防水シートに移行させるのに十分量の可塑剤が移行層に含まれることに起因して、移行層の表面にべたつきが生じ、そのため、諸般の問題が生じるのが実情であった。
【0011】
そのため、本発明の目的は、躯体に敷設される下地としての防水シート等に対して可塑剤を効率よく移行させることができる移行層を備え、かつ、この移行層の表面におけるべたつきの発生を長期に亘って抑制または防止することができる下地保護構造、かかる下地保護構造を備える躯体被覆構造、および、かかる下地保護構造を形成することができる下地保護構造形成用セットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このような目的は、下記(1)~(8)に記載の本発明により達成される。
(1) 床部を有する躯体を被覆する下地の少なくとも一部を被覆する移行層と、該移行層に積層された粒子層とを備える下地保護構造であって、
前記移行層は、塩化ビニル系樹脂と可塑剤と溶媒とを含有し、前記可塑剤を前記下地に移行するように構成され、
前記粒子層は、複数の粒子を有し、該粒子が単層をなして敷き詰められたものであることを特徴とする下地保護構造。
【0013】
(2) 前記粒子は、無機粒子である上記(1)に記載の下地保護構造。
(3) 前記無機粒子は、タルクの粒子である上記(2)に記載の下地保護構造。
【0014】
(4) 前記無機粒子は、鱗片状または板状をなしている上記(2)または(3)に記載の下地保護構造。
【0015】
(5) 前記粒子は、その平均粒径が0.6μm以上40.0μm以下である上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の下地保護構造。
【0016】
(6) 前記下地は、防水シートである上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の下地保護構造。
【0017】
(7) 上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の下地保護構造と、前記下地とを有することを特徴とする躯体被覆構造。
【0018】
(8) 床部を有する躯体を被覆する下地の少なくとも一部を被覆する移行層と、
複数の粒子を有し、該粒子が単層をなして敷き詰められている粒子層とを備える下地保護構造における、
前記移行層を形成するために用いられる移行層形成用樹脂組成物と、前記粒子層を形成するために用いられる複数の前記粒子とを有する下地保護構造形成用セットであり、
塩化ビニル系樹脂と、可塑剤と、溶媒とを含む前記移行層形成用樹脂組成物を、前記下地の少なくとも一部に塗布することで塗布膜を形成し、
その後、複数の前記粒子を、前記塗布膜上に、単層をなして敷き詰めることで前記粒子層を形成した後に、前記塗布膜を乾燥させることで前記移行層が形成されるように構成されていることを特徴とする下地保護構造形成用セット。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、下地保護構造が備える移行層から、躯体に敷設される下地としての防水シート等に対して可塑剤を効率よく移行させることができ、かつ、下地保護構造において、移行層に対して、粒子が単層をなして敷き詰められた粒子層が被覆されているため、この移行層の表面におけるべたつきの発生を長期に亘って抑制または防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】躯体に施工されたシート防水構造と、このシート防水構造が備える下地としての防水シートに形成された下地保護構造とを備える躯体被覆構造を部分的に取り出した部分斜視図である。
図2図1に示す躯体被覆構造のA-A線断面図である。
図3図2に示す躯体被覆構造の点線で囲まれた領域[B]に位置する下地保護構造の周辺を拡大した拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の下地保護構造、躯体被覆構造および下地保護構造形成用セットを添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0022】
以下では、まず、下地としての防水シートを備えるシート防水構造に、本発明の下地保護構造が適用された躯体被覆構造(本発明の躯体被覆構造)について説明する。
【0023】
<躯体被覆構造>
図1は、躯体に施工されたシート防水構造と、このシート防水構造が備える下地としての防水シートに形成された下地保護構造とを備える躯体被覆構造を部分的に取り出した部分斜視図、図2は、図1に示す躯体被覆構造のA-A線断面図、図3は、図2に示す躯体被覆構造の点線で囲まれた領域[B]に位置する下地保護構造の周辺を拡大した拡大断面図である。なお、以下の説明では、図1図3中の上側を「上」、下側を「下」と言う。また、図1では、説明の便宜上、躯体被覆構造が備えるシート防水構造の全体を示すことなく、躯体が備える床部と壁部との境界部付近を部分的に図示している。
【0024】
躯体被覆構造500(本発明の躯体被覆構造)は、屋上やベランダのような躯体100(構造体)に施工された、シート防水構造10と、このシート防水構造10を、保全補修する下地保護構造301とを有している。
【0025】
躯体100は、本実施形態では、図1に示すように、床部101と、この床部101の外縁を取り囲むように沿って立設して設けられた壁部102とを有している。
【0026】
シート防水構造10は、この躯体100、すなわち枠体をなす壁部102と、壁部102の底部を構成する床部101に対して施工されるものであり、防水シート20と、配置部材50とを有しており、これにより、躯体100に対する防水性が付与される。
【0027】
配置部材50は、床部101と壁部102との境界部103に沿って、複数のものが並んで配置され、この状態で、防水シート20は、隣接する配置部材50同士を跨ぐように覆っており、これにより、躯体100の境界部103における防水性が確保される。すなわち、躯体100の境界部103は、日光や雨水に晒されることで、ひび割れ等の亀裂が生じ易い位置であるが、この境界部103が日光や雨水に直接的に晒されることが防止されて、配置部材50および防水シート20が日光や雨水に晒されることになるため、躯体100の境界部103における防水性が確保される。
【0028】
配置部材50は、前述の通り、床部101と壁部102との境界部103付近に配置されるものである。
【0029】
この配置部材50は、表面が樹脂で被覆されている金属板(鋼板)からなり、図1に示すように、底部51と、立ち上がり面52とを有している。
底部51は、床部101を臨む平面視で、4つの辺で囲まれた長方形状をなしている。
【0030】
また、立ち上がり面52は、底部51の縁部、すなわち4つの辺のうちの一方の長辺から立設しており、壁部102を臨む平面視で、底部51が備える長辺と同じ長さを有する長辺を備える、4つの辺で囲まれた長方形状をなしている。
【0031】
これら底部51および立ち上がり面52は、それぞれ、境界部103に配置する際に、床部101および壁部102に対応するように位置設定される。
【0032】
本実施形態では、境界部103に沿うように、上記の構成をなす2つの配置部材50(第1配置部材および第2配置部材)が、間隙55を形成した状態で並んで配置されている。
【0033】
なお、本実施形態では、同一形状をなしている2つの配置部材50が境界部103に配置されているが、防水が施工される躯体100の形状は、当然、様々であることから、配置部材50としては、複数の種類の形状のものが予め用意され、実際に施工される躯体100が備える境界部103の形状に合致するものが複数選択される。そして、これら配置部材50は、前記境界部103にその形状に対応するように、間隙55を形成した状態で並べられる。
【0034】
また、配置部材50は、前述の通り、表面が樹脂で被覆されている金属板で構成される。このように、樹脂で被覆することで、金属板の腐食を確実に防止することができる。
【0035】
金属板としては、特に限定されないが、例えば、ステンレス鋼板、鉄板のような鋼板、アルミ板、銅板等が挙げられるが、鋼板であるのが好ましい。これにより、配置部材50を優れた強度を有するものとし得る。
【0036】
また、金属板の厚さは、特に限定されないが、0.1mm以上3mm以下程度であるのが好ましく、0.3mm以上2.5mm以下程度であるのがより好ましい。
【0037】
樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニルのような塩化ビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができるが、ポリ塩化ビニルであるのが好ましい。ポリ塩化ビニルは、溶剤溶着性や熱融着性に優れるため、金属板の腐食をより確実に防止することができる。
【0038】
また、樹脂により金属板を被覆する厚さは、特に限定されないが、0.03mm以上2mm以下程度であるのが好ましく、0.1mm以上0.7mm以下程度であるのがより好ましい。
【0039】
防水シート20は、図1に示すように、シート状(板状)をなし、隣接して配置された2つの配置部材50(第1配置部材および第2配置部材)を、これら同士の間に形成された間隙55を包含した状態で覆うものである。
【0040】
これにより、境界部103が日光や雨水に直接的に晒されることが防止されて、配置部材50および防水シート20が日光や雨水に晒されることになるため、躯体100の境界部103における防水性が確保される。
【0041】
このような防水シート20は、ポリ塩化ビニルのような塩化ビニル系樹脂と可塑剤とを含有する塩化ビニル系樹脂シートで構成される。このような構成の防水シート20によれば、防水シート20を加熱した状態で貼り合わせることにより、2つの配置部材50を、間隙55を跨いだ状態で防水シート20により覆うことができる。
【0042】
また、防水シート20の厚さは、特に限定されないが、例えば、0.1mm以上5mm以下程度であるのが好ましく、0.3mm以上2mm以下程度であるのがより好ましい。これにより、配置部材50とともに床部101と壁部102とを、防水シート20により確実に覆うことができる。
【0043】
ここで、以上のような構成のシート防水構造10では、施工後に年月を経ると、日光や、雨水に晒されることにより、防水シート20から可塑剤が揮散する。そのため、防水シート20の柔軟性が低下することにより、防水シート20に防水シート20の劣化にともなう応力が生じることがある。
【0044】
そのため、本実施形態のような構成をなすシート防水構造10では、隣接する配置部材50同士の間に間隙55が形成され、防水シート20が配置部材50に接合されていないことに起因して、防水シート20に生じた応力により、防水シート20に、床部101の反対側に向かって突出する半球状をなす凸部が生じたり、ひび割れ等が発生し、その結果、この間隙55に対応する位置の防水シート20において、防水シート20の防水性が低下してしまう懸念が発生することがある。
【0045】
したがって、間隙55に対応する位置の防水シート20において、防水シート20に揮散した可塑剤を再度供給することができれば、防水シート20の柔軟性を優れたものに回復させることができる。そのため、防水シート20における応力の発生を解消し得ることから、間隙55に対応する位置の防水シート20において、防水シート20の防水性が低下するのを的確に抑制または防止することができる。
【0046】
そこで、本発明では、図1図3に示すように、シート防水構造10が備える、可塑剤の揮散が認められる防水シート20、すなわち間隙55に対応する位置の防水シート20に、可塑剤を供給することを目的に、移行層1と粒子層3とを備える下地保護構造301が形成されている。
【0047】
このように、間隙55に対応する位置の防水シート20に、下地保護構造301を形成することで、この下地保護構造301が備える移行層1から、間隙55に対応する位置の防水シート20に効率よく可塑剤を移行させることができる。そのため、防水シート20の柔軟性を回復させることができる。したがって、防水シート20における応力の発生を解消して、間隙55に対応する位置の防水シート20において、防水シート20の防水性が低下するのを的確に抑制または防止することができる。
【0048】
この下地保護構造301は、間隙55に対応する位置の防水シート20上に接合して設けられた(積層された)移行層1と、この移行層1の防水シート20とは反対側に積層された粒子層3とを有する積層体で構成される。
【0049】
移行層1は、後述する移行層形成用樹脂組成物を用いて形成されたものであり、塩化ビニル系樹脂と可塑剤と溶媒とを含有し、上記の通り、間隙55に対応する位置の防水シート20上に接合して設けられることで、この移行層1に含まれる可塑剤が下地としての防水シート20に効率よく移行し得るように構成されている。
【0050】
この移行層1は、溶媒を除く構成材料における、塩化ビニル系樹脂の含有量が好ましくは1.0重量%以上25.0重量%以下、より好ましくは5.0重量%以上15.0重量%以下に設定され、溶媒を除く構成材料における、可塑剤の含有量が好ましくは40.0重量%以上90.0重量%以下、より好ましくは50.0重量%以上80.0重量%以下に設定されている。これにより、移行層1に含まれる可塑剤を、下地としての防水シート20に効率よく、かつ長期に亘って移行させることができるようになる。
【0051】
また、移行層1は、その平均厚さが1mm以上7mm以下であることが好ましく、3mm以上5mm以下であることがより好ましい。これにより、下地としての防水シート20に可塑剤を移行させる移行層1としての機能と塗布作業性とを、確実に発揮させることができる。なお、この移行層1の平均厚さは、移行層形成用樹脂組成物を用いて形成した直後の平均厚さのことを言い、移行層1の厚さは、防水シート20への可塑剤の移行に伴い薄くなることになるが、前記形成の直後における移行層1の厚さを1としたとき、防水シート20に可塑剤が移行した後における移行層1の厚さは、0.5以上であることが好ましい。これにより、移行層1が薄くなること、すなわち移行層1が収縮することに伴い、下地保護構造301の見栄えに変化が生じるのを的確に抑制または防止することができる。
【0052】
粒子層3は、図3に示す通り、複数の粒子31を有し、これら粒子31が単層をなして敷き詰められたものである。すなわち、複数の粒子31が、厚さ方向において重なることなく、平面状をなして面方向に沿って並列されたものである。
【0053】
かかる構成をなす粒子層3が、移行層1を被覆するように、移行層1に積層されている。そのため、下地保護構造301において、粒子31が単層をなして敷き詰められた粒子層3が最外層として露出している。ここで、例えば、可塑剤を高い含有量で含む移行層1が最外層として露出していると、このことに起因して、比較的早期に、移行層1の表面に可塑剤が漏出することに起因して、この表面にべたつきが発生し、この表面におけるべたつきに基づく、諸般の問題が生じるが、本発明では、粒子層3が、移行層1を被覆して、最外層として露出するように形成されている。これにより、移行層1の表面に漏出する可塑剤を粒子層3で吸収しつつ、下地保護構造301において、粒子層3が最外層として露出して、最外層の表面における可塑剤の漏出を的確に抑制または防止することができる。そのため、下地保護構造301の最外層におけるべたつきの発生を、長期に亘って的確に抑制または防止することができる。
【0054】
なお、本明細書において、粒子層3において、粒子31が単層をなして敷き詰められたとは、複数の粒子31が、厚さ方向において重なることなく、平面状をなして面方向に沿って並列された状態のことを言うが、この状態に限らず、移行層1の全面に対して合計0%超以上3%以下程度、好ましくは合計0%超以上1%以下程度において、粒子が厚さ方向に、2つ、または3つ程度重なることは許容される。
【0055】
また、粒子層3において、粒子31により、移行層1の全面が被覆されているのが好ましいが、粒子層3を平面視で見たとき、移行層1の全面に対して合計0%超以上3%以下程度、好ましくは合計0%超以上1%以下程度、複数の粒子31同士の間から移行層1が露出している場合についても、移行層1が粒子層3により被覆されていると言うことができる。
【0056】
この粒子31は、シリカ、アルミナ、チタンホワイト、水酸化アルミニウム、ゼオライト、タルク、クレー、マイカ、スメクタイト、バーミキュライト、ガラス等のうちの少なくとも1種を含む無機粒子、または、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリエステル系樹脂、フッ素系樹脂、およびこれらの共重合体等のうちの少なくとも1種を含む樹脂材料や、植物性有機物で構成される有機粒子のいずれであってもよいが、無機粒子であることが好ましい。粒子31を無機粒子で構成することにより、有機粒子で構成する場合と比較して、粒子31ひいては粒子層3の耐候性の向上を図ることができる。
【0057】
また、粒子31は、粒子31が無機粒子で構成される場合、タルクの粒子であることが好ましい。これにより、粒子層3を、移行層1を被覆する被覆層として設けることに起因して、粒子層3を介して視認される移行層1の色調に変化が生じるのを的確に抑制または防止することができる。すなわち、粒子層3を、透明性を有する透明層として、移行層1を被覆するように形成することができる。
【0058】
また、粒子31は、いかなる形状をなしていてもよく、例えば、鱗片状、偏平状、板状、顆粒状、球状、繊維状、針状、紡錘状等をなすものが挙げられるが、鱗片状または板状をなしているのが好ましい。これにより、粒子31の厚さが厚くなり過ぎるのを的確に抑制しつつ、比較的少量の粒子31をもって、移行層1のほぼ全面を被覆することが可能となる。
【0059】
さらに、粒子31は、その平均粒径が0.6μm以上40.0μm以下であるのが好ましく、5.0μm以上20.0μm以下であるのがより好ましく、7.0μm以上17.0μm以下であるのがさらに好ましい。これにより、移行層1の表面に漏出する可塑剤を粒子層3で確実に吸収しつつ、最外層としての粒子層3の表面における可塑剤の漏出を的確に抑制または防止することができる。また、粒子31がタルクの粒子で構成される場合、粒子層3を介して視認される移行層1の色調に変化が生じるのをより的確に抑制または防止することができる。なお、粒子31が球状をなさない場合、その粒径とは、その粒子31が有する幅が最大となっている最大幅のことを言うこととする。
【0060】
かかる構成をなす、移行層1と粒子層3とを有する積層体からなる下地保護構造301は、移行層1を形成するために用いられる移行層形成用樹脂組成物と、粒子層3を形成するために用いられる複数の粒子とを有する下地保護構造形成用セットを用いて、例えば、以下のようにして形成することができる。
【0061】
すなわち下地保護構造301の形成は、移行層形成用樹脂組成物を、前記下地の少なくとも間隙55に対応する位置に塗布することで塗布膜を形成する塗布膜形成工程と、複数の粒子を、塗布膜上に、単層をなすように敷き詰めることで粒子層3を形成する粒子層形成工程と、塗布膜を乾燥させることで移行層1を形成する移行層形成工程とを経ることで、実施することができる。上記のような、移行層形成工程と粒子層形成工程とを経ると言う、比較的簡単な工程により、下地保護構造301の形成を行うことができる。
【0062】
以下、シート防水構造10に対する、下地保護構造301の形成に用いられる、移行層形成用樹脂組成物について説明する。
【0063】
<移行層形成用樹脂組成物>
移行層形成用樹脂組成物は、可塑剤を防水シート20に対して移行させる移行層1の形成に用いられ、塩化ビニル系樹脂と、可塑剤と、溶媒とを含むものである。
【0064】
この移行層形成用樹脂組成物は、移行層形成用樹脂組成物に含まれる塩化ビニル系樹脂の溶解パラメーター(SP値)をA[(cal/cm31/2]とし、移行層形成用樹脂組成物に含まれる溶媒の溶解パラメーターをB[(cal/cm31/2]としたとき、これらの差の絶対値|A-B|は、|A-B|≦2.0なる関係を満足するものであることが好ましい。
【0065】
塩化ビニル系樹脂の溶解パラメーターAと溶媒の溶解パラメーターBとの差の絶対値|A-B|を前記範囲内に設定することにより、塩化ビニル系樹脂を溶媒中に優れた溶解性をもって溶解させることができる。そのため、移行層形成用樹脂組成物を、クリーム状(ペースト状)をなすものとし得る。したがって、移行層形成用樹脂組成物を、防水シート20に塗布した後に乾燥させると言う工程を経ることで、間隙55に対応する位置の防水シート20に対して確実に移行層1を形成することができる。そして、この移行層1から、移行層形成用樹脂組成物に含まれる可塑剤を、防水シート20に効率よく移行させることができるため、防水シート20の柔軟性を確実に回復させることができる。
【0066】
なお、本明細書における溶解パラメーター(SP値)は、ハンセン(Hansen)溶解パラメーターを表し、このハンセン(Hansen)溶解パラメーターは、ヒルデブランド(Hildebrand)によって導入された溶解パラメーターを、分散項δD,極性項δP,および水素結合項δHの3成分に分割し、3次元空間に表したものである。
【0067】
分散項δDは、分散力による効果、極性項δPは、双極子間力による効果、さらに水素結合項δHは、水素結合力による効果を示す。
δD: 分子間の分散力に由来するエネルギー
δP: 分子間の極性力に由来するエネルギー
δH: 分子間の水素結合力に由来するエネルギー
で表すことができる(なお、それぞれの単位はMPa0.5である。)。
【0068】
ヒルデブランド(Hildebrand)のSP値と、ハンセン(Hansen)のHSPの間には、以下に示す関係が認められる。
【0069】
ヒルデブランドのSP2=δD2+δP2+δH2
【0070】
また、HSPの定義と計算は、Charles M.Hansen著、Hansen Solubility Parameters: A Users Handbook(CRCプレス,2007年)に記載されている。
【0071】
ここで、それぞれ、分散項はファンデルワールス力、極性項はダイポール・モーメント、水素結合項は水、アルコールなどによる作用を反映している。また、HSPによるベクトルが似ているもの同士は溶解性が高いと判断できる。
【0072】
HSP距離(Ra)は、例えば、溶質(塩化ビニル系樹脂)のHSPを(δD,δP,δH)とし、溶媒のHSPを(δD,δP,δH)としたとき、下記の式により算出することができる。
【0073】
HSP距離(Ra)=
{4×(δD-δD+(δP-δP+(δH-δH0.5
【0074】
また、混合溶媒のハンセンのHSPは、混合比率として体積を用いて、下記の式により算出することができる。
【0075】
[δDm,δPm,δHm]=
[(a×(δD+b×δD),(a×(δP+b×δP),(a×(δH+b×δH)]/(a+b)
【0076】
以下、かかる構成をなす、移行層形成用樹脂組成物に含まれる各種構成材料について説明する。移行層形成用樹脂組成物は、前述の通り、塩化ビニル系樹脂と、可塑剤と、溶媒とを含有する。
【0077】
(a)塩化ビニル系樹脂
塩化ビニル系樹脂は、移行層形成用樹脂組成物を防水シート20に塗布した後に乾燥させた際に、その乾燥物すなわち移行層1を、層状をなすものとするために、移行層形成用樹脂組成物の主材料として、移行層形成用樹脂組成物中に含まれるものである。
【0078】
この塩化ビニル系樹脂としては、塩化ビニルを含む重合体、すなわちオリゴマー、プレポリマーおよびポリマーであれば特に限定されないが、例えば、塩化ビニルの単量重合体、または塩化ビニルと、酢酸ビニル、エチレン、もしくはプロピレン等との共重合体、およびこれらの2種以上の重合体の混合物等が挙げられる。これらのものを塩化ビニル系樹脂として用いることにより、移行層形成用樹脂組成物を用いて形成された移行層1から、移行層1中に含まれる可塑剤を、防水シート20側に確実に移行させることができるようになる。また、塩化ビニル系樹脂は、これらの中でも、特に、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体であることが好ましい。これにより、移行層形成用樹脂組成物における、塩化ビニル系樹脂の溶解性の向上を図ることができるとともに、塩化ビニル系樹脂の高粘度化を図ることができる。さらに、形成される移行層1中での、可塑剤の保持性を向上させることができる。
【0079】
この塩化ビニル系樹脂は、その溶解パラメーターAが9.0(cal/cm31/2以上11.0(cal/cm31/2以下であることが好ましく、9.5(cal/cm31/2以上10.5(cal/cm31/2以下であることがより好ましい。これにより、差の絶対値|A-B|を、|A-B|≦2.0なる関係を満足するものに、比較的容易に設定することができる。
【0080】
また、移行層形成用樹脂組成物における塩化ビニル系樹脂の含有量は、3重量%以上20重量%以下であることが好ましく、5重量%以上10重量%以下であることがより好ましい。塩化ビニル系樹脂の含有量を前記範囲内に設定することにより、移行層形成用樹脂組成物を用いて、層状をなす移行層1を、確実に形成することができる。また、移行層形成用樹脂組成物を用いて形成された移行層1から、移行層1中に含まれる可塑剤を、防水シート20側に確実に移行させることができる。
【0081】
(b)可塑剤
可塑剤は、移行層形成用樹脂組成物を防水シート20に塗布した後に乾燥させることで形成された移行層1から、防水シート20に移行させるものとして含有されるものである。
【0082】
この可塑剤としては、特に限定されないが、例えば、DOP(ジオクチルフタレート)、DBP(ジブチルフタレート)、DIBP(ジイソブチルフタレート)、DINP(フタル酸ジイソノニル)、DHP(ジヘプチルフタレート)、ジアルキル(C9~C11)フタレートのようなフタル酸エステル系可塑剤、DOA(ジ-2-エチルヘキシルアジペート)、DIDA(ジイソデシルアジペート)、DOS(ジ-2-エチルヘキシルセバセート)のような脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤、エチレングリコールのベンゾエート類のような芳香族カルボン酸エステル系可塑剤、およびTOTM(トリオクチルトリメリテート)のようなトリメリット酸エステル系可塑剤、エチレン酢酸ビニル共重合体系可塑剤、ポリエステル系可塑剤等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのものを可塑剤として用いることで、可塑剤が移行層1から防水シート20に移行した際に、低下した防水シート20の柔軟性を確実に再度向上させることができる。
【0083】
この可塑剤は、その溶解パラメーター(SP値)が、8.0(cal/cm31/2以上10.0(cal/cm31/2以下であることが好ましく、8.5(cal/cm31/2以上9.5(cal/cm31/2以下であることがより好ましい。これにより、移行層形成用樹脂組成物において、塩化ビニル系樹脂ばかりでなく可塑剤をも、溶媒中に優れた溶解性をもって溶解させることができる。
【0084】
また、移行層形成用樹脂組成物における可塑剤の含有量は、20重量%以上65重量%以下であることが好ましく、30重量%以上55重量%以下であることがより好ましい。可塑剤の含有量を前記範囲内に設定することにより、移行層形成用樹脂組成物を用いて形成された移行層1中から防水シート20側に可塑剤を、確実に移行させることができる。
【0085】
(c)溶媒
溶媒は、移行層形成用樹脂組成物に含有し、塩化ビニル系樹脂を溶解することで、移行層形成用樹脂組成物をクリーム状(ペースト状)とするために含有されるものである。
【0086】
この溶媒としては、特に限定されないが、例えば、n-ヘキサン、トルエン、o-キシレンのような炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、シクロヘキサノンのようなケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ノルマルブチル、酢酸イソブチルのようなエステル系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)のようなエーテル系溶媒、メタノール、エタノール、1-プロパノールのようなアルコール系溶媒が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのものを溶媒として用いることで、移行層形成用樹脂組成物中において、塩化ビニル系樹脂を溶解させて、移行層形成用樹脂組成物を、クリーム状(ペースト状)をなすものとし得る。
【0087】
この溶媒は、その溶解パラメーターBが、7.5(cal/cm31/2以上10.5(cal/cm31/2以下であることが好ましく、8.5(cal/cm31/2以上9.5(cal/cm31/2以下であることがより好ましい。これにより、差の絶対値|A-B|を、|A-B|≦2.0なる関係を満足するものに、比較的容易に設定することができ、かつ、移行層形成用樹脂組成物を乾燥させることで得られる移行層1を、防水シート20に対して適度な密着性を発揮するものとして形成することができる。
【0088】
また、溶媒は、混合溶媒であり、最低の沸点を有する溶媒の沸点が好ましくは60℃以上、より好ましくは65℃以上であり、最高の沸点を有する溶媒の沸点が好ましくは135℃以下、より好ましくは130℃以下であるものが選択される。これにより、移行層形成用樹脂組成物を乾燥させる前には、移行層形成用樹脂組成物をより確実にクリーム状をなすものとすることができ、かつ、移行層形成用樹脂組成物を乾燥させることで得られる移行層1を、防水シート20に対して優れた密着性を発揮するものとして形成することができる。
【0089】
以上のような溶解パラメーターBおよび混合溶媒の沸点の関係を考慮すると、溶媒の具体的な組み合わせとしては、例えば、トルエン、酢酸エチル、酢酸ノルマルブチル、酢酸イソブチルのうちの少なくとも1種と、メチルエチルケトン、テトラヒドロフランのうちの少なくとも1種との組み合わせが挙げられ、環境への安全性を考慮すると、酢酸エチル、酢酸ノルマルブチル、酢酸イソブチルのうちの少なくとも1種と、テトラヒドロフランとの組み合わせが挙げられる。
【0090】
また、移行層形成用樹脂組成物における溶媒の含有量は、15重量%以上45重量%以下であることが好ましく、25重量%以上35重量%以下であることがより好ましい。溶媒の含有量を前記範囲内に設定することにより、移行層形成用樹脂組成物中に、塩化ビニル系樹脂を溶解させることができる。また、移行層形成用樹脂組成物を用いて、層状をなす移行層1を、確実に形成することができる。
【0091】
(d)粘度調整剤
また、移行層形成用樹脂組成物は、塩化ビニル系樹脂、可塑剤および溶媒の他に、さらに、粘度調整剤を含有することが好ましい。
【0092】
移行層形成用樹脂組成物に粘度調整剤が含まれることで、移行層形成用樹脂組成物の粘度を適切な範囲内に設定して、移行層形成用樹脂組成物を、確実にクリーム状をなすものとし得る。
【0093】
この粘度調整剤としては、特に限定されないが、例えば、酸化チタン、クレー、シリカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。中でも、炭酸カルシウムであることが好ましい。
これにより、移行層形成用樹脂組成物の高粘度化を確実に図ることができる。
【0094】
また、粘度調整剤は、粒子状をなし、その平均粒径が0.5μm以上20μm以下であることが好ましく、0.5μm以上10μm以下であることがより好ましい。平均粒径を前記範囲内に設定することにより、移行層形成用樹脂組成物中における粘度調整剤の分散性の向上を図ることができる。
【0095】
また、移行層形成用樹脂組成物における粘度調整剤の含有量は、5重量%以上20重量%以下であることが好ましく、10重量%以上15重量%以下であることがより好ましい。粘度調整剤の含有量を前記範囲内に設定することにより、移行層形成用樹脂組成物の粘度を比較的容易に適切な範囲内に設定することができる。
【0096】
さらに、移行層形成用樹脂組成物には、上述した各構成材料の他、安定剤、安定助剤、紫外線吸収剤、着色剤、滑剤等を添加するようにしてもよい。
【0097】
なお、安定剤としては、例えば、グリシン亜鉛等が挙げられ、この場合の安定助剤としては、例えば、リン酸トリクレジル(TCP)、リン酸トリキシリル(TXP)、リン酸トリブチル(TBP)、リン酸トリ-2-エチルヘキシル、リン酸2-エチルヘキシル・ジフェニルのような有機リン酸エステル等が挙げられる。
【0098】
このような移行層形成用樹脂組成物は、塩化ビニル系樹脂の溶解パラメーターAと、溶媒の溶解パラメーターBとの差の絶対値|A-B|が、|A-B|≦2.0なる関係を満足するのが好ましいが、1.0≦|A-B|≦1.5なる関係を満足するのがより好ましい。これにより、塩化ビニル系樹脂を溶媒中により優れた溶解性をもって溶解させることができるため、移行層形成用樹脂組成物を、より優れたクリーム状をなすものとすることができ、さらに塩化ビニル系樹脂の溶解パラメーターAと溶媒の溶解パラメーターBの差が小さすぎないため、移行層1と防水シート20との剥離を比較的容易に実施することが可能となる。
【0099】
また、移行層形成用樹脂組成物を、クリーム状をなすものとしたとき、移行層形成用樹脂組成物の23℃における粘度は、5,000mPa以上20,000mPa以下であることが好ましく、10,000mPa以上15,000mPa以下であることがより好ましい。これにより、移行層形成用樹脂組成物の防水シート20に対する供給を、比較的容易に実施することが可能となり、間隙55に対応する位置の防水シート20に、より均一な厚さに設定された移行層1を成膜することができる。
【0100】
以上、本発明の下地保護構造、躯体被覆構造および下地保護構造形成用セットについて説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0101】
例えば、本発明の下地保護構造および躯体被覆構造において、各構成は、同様の機能を発揮し得る任意のものと置換することができ、あるいは、任意の構成のものを付加することができる。
【実施例0102】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
なお、本発明はこれらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0103】
1.原材料の準備
まず、下地保護構造の形成に用いた原材料を以下に示す。
【0104】
(塩化ビニル系樹脂)
塩化ビニル系樹脂として、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体(東ソー社製、「リューロンベスト952」、SP値:10.4(cal/cm31/2)を用意した。
【0105】
(可塑剤)
可塑剤として、DINP(ジェイプラス社製、SP値:8.9(cal/cm31/2)を用意した。
【0106】
(溶媒)
溶媒として、酢酸エチル(昭和電工社製、沸点:77℃、SP値:9.1(cal/cm31/2)、酢酸ノルマルブチル(KHネオケム社製、沸点:126℃、SP値:8.5(cal/cm31/2)、酢酸イソブチル(KHネオケム社製、沸点:118℃、SP値:8.3(cal/cm31/2)、THF(三菱ケミカル社製、沸点:66℃、SP値:9.5(cal/cm31/2)を用意した。
【0107】
(粘度調整剤)
粘度調整剤として、炭酸カルシウム(備北粉化工業社製、「ソフトン2200」、平均粒径:1μm)を用意した。
【0108】
(安定剤)
安定剤として、Ca-Zn系液状安定剤(ADEKA社製、「SC-32」)を用意した。
【0109】
(着色剤)
着色剤として、酸化チタン(石原産業社製、「R-680」)、カーボンブラック(三菱ケミカル社製、「三菱カーボンブラック#45」)を用意した。
【0110】
(粒子)
粒子31として、タルク粒子(日本タルク社製、「MS-P」、粒径:14μm、粒子形状:鱗片状)を、タルク粒子(富士タルク工業社製、「RL217」、粒径:20μm、粒子形状:鱗片状)を、タルク粒子(日本タルク社製、「SG-2000」、粒径:0.85μm、粒子形状:鱗片状)を、ニッカリコ粒子(ニッカ社製、「AS-100」、粒径:16μm、粒子形状:球状、主材料:植物性有機物)を、それぞれ、用意した。
【0111】
2.移行層形成用樹脂組成物の調製
まず、塩化ビニル系樹脂としての塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体(6.0重量%)と、可塑剤としてのDINP(50.0重量%)と、粘度調整剤としての炭酸カルシウム(9.0重量%)と、溶媒としての酢酸ノルマルブチル(14.0重量%)およびTHF(14.0重量%)と、前記安定剤(6.0重量%)と、前記着色剤(1.0重量%)とを、ミキサーを用いて25℃で均一に混合することで、移行層形成用樹脂組成物を調製した。
【0112】
なお、移行層形成用樹脂組成物の23℃における粘度は、回転数を20rpmとして回転粘度計(トキメック社製、「B形粘度計 BH形」)を用いて測定した。
【0113】
3.下地保護構造301の防水シート20への形成
(実施例1)
移行層形成用樹脂組成物および粒子31(タルク、14μm)を用いて、防水シート20に対して、下地保護構造301を形成した。
【0114】
より詳しくは、防水シート20を用意し、この防水シート20に対して、移行層形成用樹脂組成物を塗布することで、防水シート20を被覆する塗布膜を成膜した。
【0115】
次いで、この塗布膜上に、複数の粒子31を、単層をなして敷き詰めることで粒子層3を形成した。
【0116】
次いで、塗布膜を乾燥させることで平均厚さ2mmの移行層1を成膜することで、防水シート20上に形成された、実施例1の下地保護構造301を得た。
【0117】
なお、防水シート20としては、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して可塑剤が60重量部含まれるものを用いた。
【0118】
(実施例2~4)
移行層形成用樹脂組成物の調製に用いる原材料、およびその含有量を、それぞれ、表1に示す通りに変更し、さらに、粒子層3の形成に用いる粒子31として、それぞれ、表1に示すものを用いたこと以外は、前記実施例1と同様にして、実施例2~4の下地保護構造301を得た。
【0119】
(比較例1)
粒子層3の形成を省略したこと以外は、前記実施例1と同様にして、比較例1の下地保護構造301を得た。
【0120】
4.評価
防水シート20上に形成された各実施例および比較例の下地保護構造301について、以下の方法を用いて、それぞれ、評価した。
【0121】
<粒子層3の形成に基づく移行層1の色調の変化>
防水シート20上に形成された各実施例の下地保護構造301について、粒子層3の形成に基づく、移行層1の色調の変化について、目視にて観察し、その変化の程度を、比較例1における移行層1と比較して、以下に示す評価基準に基づいて評価した。
【0122】
[評価基準]
比較例1における移行層1と比較して、色調の変化が
◎:認められない
○:若干認められるが、違和感を与える程度のものとは言えない
×:明らかに認められる
【0123】
<下地保護構造301の最表面におけるべたつきの発生の低減効果>
防水シート20上に形成された各実施例および比較例の下地保護構造301について、粒子層3の表面、すなわち下地保護構造301の最表面におけるべたつきの発生の有無を、粒子層3の形成60日後において、目視にて観察し、その低減効果を、以下に示す評価基準に基づいて評価した。
【0124】
なお、粒子層3の形成後の60日間において、各実施例および比較例の下地保護構造301について、7月から8月の屋外に暴露した。
【0125】
[評価基準]
粒子層3の表面におけるべたつきの発生が
◎:認められない
○:若干認められるが、べたつきに起因する問題が生じているとは言えない
×:明らかに認められ、べたつきに起因する問題が生じる
以上のようにして得られた、各評価における評価結果を表1に示す。
【0126】
【表1】
【0127】
表1に示すように、各実施例では、粒子が単層をなして敷き詰められた粒子層3が移行層1を被覆しており、これに起因して、粒子層3の表面すなわち下地保護構造301の最表面におけるべたつきの発生を、的確に抑制または防止し得る結果を示した。
【0128】
これに対して、比較例では、移行層1に対する粒子層3の形成が省略されており、その結果、移行層1の表面すなわち下地保護構造301の最表面にべたつきが発生する結果を示した。
【符号の説明】
【0129】
1 移行層
3 粒子層
10 シート防水構造
20 防水シート
31 粒子
50 配置部材
51 底部
52 立ち上がり面
55 間隙
100 躯体
101 床部
102 壁部
103 境界部
301 下地保護構造
500 躯体被覆構造
図1
図2
図3