(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023114624
(43)【公開日】2023-08-18
(54)【発明の名称】受粉装置
(51)【国際特許分類】
A01H 1/02 20060101AFI20230810BHJP
【FI】
A01H1/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022017046
(22)【出願日】2022-02-07
(71)【出願人】
【識別番号】000242530
【氏名又は名称】北菱電興株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100173406
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 真貴子
(74)【代理人】
【識別番号】100067301
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 順一
(72)【発明者】
【氏名】山田 浩之
(72)【発明者】
【氏名】元山 志保
【テーマコード(参考)】
2B030
【Fターム(参考)】
2B030AA02
2B030AB03
2B030HA07
(57)【要約】
【課題】
花収納部に花を収納し、花収納部外周で発生させた気流を花収納部内に侵入させ、収納した花の雄しべの花粉を気流に乗せて雌しべの柱頭に付着させて受粉させる受粉装置であり、花粉をほぼ全ての雌しべの柱頭に満遍なく付着させることができると共に、付着した花粉は受精し易い花粉になる受粉装置を提供する。
【解決手段】
花収納部と前記花収納部に沿うように装着して使用するボトムカバーと前記花収納部の外周に気流を発生させる気流発生装置とを備え、前記ボトムカバーにはスリットが設けられ、前記ボトムカバー内に花を収納し、前記気流発生装置によって発生させた気流が前記ボトムカバーのスリットから侵入し、前記侵入した気流で前記収納した花を受粉させる受粉装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
受粉装置であって、前記受粉装置は、
花収納部と前記花収納部に沿うように装着して使用するボトムカバーと前記花収納部の外周に気流を発生させる気流発生装置とを備え、前記ボトムカバーにはスリットが設けられ、前記ボトムカバー内に花を収納し、前記気流発生装置によって発生させた気流が前記ボトムカバーのスリットから侵入し、前記侵入した気流で前記収納した花を受粉させる受粉装置。
【請求項2】
前記スリットがらせん状のスリットである請求項1記載の受粉装置。
【請求項3】
前記花収納部に一つの花を収納して受粉させる請求項1又は2記載の受粉装置。
【請求項4】
前記気流が渦流及び/又は乱流である請求項1乃至3いずれか記載の受粉装置。
【請求項5】
受粉後に色付きのマイクロミストを噴射して前記収納した花に色を付ける請求項1乃至4いずれか記載の受粉装置。
【請求項6】
前記花がイチゴの花である請求項1乃至5いずれか記載の受粉装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、受粉装置に関する。詳しくは、花収納部に花を収納し、花収納部内に気流を侵入させ、収納した花の雄しべの花粉を気流に乗せて雌しべの柱頭に付着させて受粉させる受粉装置であり、花粉をほぼすべての雌しべの柱頭に満遍なく付着させることができると共に、付着した花粉は受精し易い花粉になる受粉装置に関する。
【背景技術】
【0002】
イチゴは虫媒花であり、従来、イチゴの栽培にはミツバチが用いられてきた。
【0003】
しかし、ミツバチは減少傾向にあり、栽培に使用できるミツバチも高騰したりして、安定して虫媒用のミツバチを供給することが困難であるという問題がある。
【0004】
そこで、花粉を梵天に付着させ、付着させた花粉を一花毎にほぼすべての雌しべの柱頭に満遍なく付着させて受粉するという人工授粉が行われている。
【0005】
しかし、梵天で花粉を付着させる人工授粉方法だと、まず、梵天に付着させる花粉を採取しなければならず、手間がかかると共に、花粉採取時に同一花内にある雌しべを傷つける虞がある。
【0006】
また、イチゴは雌しべの柱頭に満遍なくまた十分に花粉が付着しないと受精不良となり奇形果になるため、人工授粉を行う者の熟練度が低いと奇形果が増えて商品にならないという問題がある。
【0007】
梵天による人工授粉の場合、熟練就農者が受粉させた場合であっても約30%の奇形果が発生すると言われており、初心者では約95%が奇形果となると言われている。
【0008】
また、採取した花粉は、温度や湿度等によって、発芽しなかったり、花粉管が伸びなくなってしまったりすると雌しべの柱頭に満遍なく付着させたとしても受精不良となるため奇形果が増えるという問題がある。
【0009】
そこで、花粉を採取する手間がかからず、また、作業者の熟練度に関わらず、受精し易い花粉を雌しべの柱頭に満遍なくかつ十分に付着させることができ、イチゴの花に使用すれば奇形果の発生を抑制できる受粉装置の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2012-85586
【特許文献2】特開2013-135634
【0011】
特許文献1には、閉鎖空間を構成するチャンバーに複数の植物を収容し、空気によって振動を与えて受粉させる振動受粉装置が記載されている。
【0012】
しかし、複数の植物を収容した大きな空間で振動を与えるので、花粉の柱頭に満遍なくまた十分に花粉を付着させることが困難であり、イチゴのような植物では奇形果が増えるという問題がある。
【0013】
特許文献2には、植物にらせん状の圧縮空気を放出して受粉させる受粉装置が記載されている。
【0014】
しかし、植物全体に圧縮空気を当てるため、全ての花の柱頭に花粉を満遍なく付着させることができないから、イチゴのような植物では、ほぼすべての雌しべの柱頭に花粉を付着させることができず奇形果が増えるという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明者らは前記の問題を解決することを技術的課題とし、試行錯誤的な多くの試作、実験を重ねた結果、花収納部と前記花収納部に沿うように装着して使用するボトムカバーと前記花収納部の外周に気流を発生させる気流発生装置とを備え、前記ボトムカバーにはスリットが設けられ、前記ボトムカバー内に花を収納し、前記気流発生装置によって発生させた気流が前記ボトムカバーのスリットから侵入し、前記侵入した気流で前記収納した花を受粉させる受粉装置であると、花粉が満遍なく雌しべの柱頭に付着して受粉すると共に、付着した花粉は受精し易い花粉になるから、イチゴの花に使用すれば奇形果が生じ難い受粉装置になるという刮目すべき知見を得て、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記技術的課題は次のとおりの本発明によって解決できる。
【0017】
本発明は、花収納部と前記花収納部に沿うように装着して使用するボトムカバーと前記花収納部の外周に気流を発生させる気流発生装置とを備え、前記ボトムカバーにはスリットが設けられ、前記ボトムカバー内に花を収納し、前記気流発生装置によって発生させた気流が前記ボトムカバーのスリットから侵入し、前記侵入した気流で前記収納した花を受粉させる受粉装置である。
【0018】
また本発明は、前記スリットがらせん状のスリットである前記の受粉装置である。
【0019】
また本発明は、前記花収納部に一つの花を収納して受粉させる前記の受粉装置である。
【0020】
また本発明は、前記気流が渦流及び/又は乱流である前記の受粉装置である。
【0021】
また本発明は、受粉後に色付きのマイクロミストを噴射して前記収納した花に色を付ける前記の受粉装置である。
【0022】
また本発明は、前記花がイチゴの花である前記の受粉装置である。
【発明の効果】
【0023】
本明細書においては、イチゴの花を例に挙げて説明するが、本発明はイチゴの花の受粉に限定されるものではない。
【0024】
本発明は、ボトムカバーを装着した花収納部に花を収納し、花収納部の外周に発生させた気流をボトムカバーのスリットから侵入させ、収納した花の雄しべの花粉を気流に乗せて飛散させるので、ブラウン運動によってほぼ全ての雌しべの柱頭に花粉を付着させることができる。
【0025】
収納した花の花粉で受粉させることができるので、花粉を別途採取する必要がないため、手間がかからず、また、花粉採取により花や雌しべを傷つけることがない。
【0026】
また、気流に乗って飛散した花粉は、発芽し易く、また、花粉管が伸び易い花粉になるので、雌しべの柱頭に付着すれば受精し易いため、本発明における受粉装置にてイチゴの花を受粉させれば奇形果が生じる割合を低下させることができる。
【0027】
また、発生させる気流は、花収納部内の空気であり、外部から空気の供給を受けないので、収納した花の雄しべの花粉以外の雄しべの花粉が混入し難い受粉装置である。
【0028】
したがって、花収納部に一つの花を収納して受粉させれば、自家受粉させることができる。
【0029】
また、気流が渦流であれば、さらに雌しべの柱頭が傷つき難い受粉装置になる。
【0030】
また、気流が乱流であれば、さらに、満遍なく、花粉が柱頭に付着する受粉装置になる。
【0031】
また、受粉後に、目視できる色を付けたマイクロミストを花に噴射するようにすれば、作業者が受粉させた花を目視で判別することができるので作業効率に優れる受粉装置になる。
【0032】
本発明における受粉装置は、花粉が雌しべの柱頭に満遍なく付着して受粉すると共に、付着した花粉が受精し易い花粉であるため、イチゴの花の受粉に使用すれば、作業者の熟練度によらず、奇形果の発生を抑制できる受粉装置である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】花を収納した本発明における受粉装置の図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図2を参照して、本発明における受粉装置は、花収納部と、花収納部に沿うように装着できるボトムカバー1と、花収納部の外周に気流を発生させる気流発生装置2を備える。
【0035】
花収納部は花が収納できる形状であればよい。
【0036】
花収納部にはボトムカバー1を装着し、ボトムカバー1の内部の空間に花を収納する。
【0037】
収納する花は一花に雄しべと雌しべを有する花であることが好ましい(
図4)。
【0038】
ボトムカバー1は花収納部に沿うような形状であれば良いが、釣鐘状が好ましい。
【0039】
ボトムカバー1にはスリット10が設けられており、花収納部の外周で発生させた気流がスリットから侵入して、ボトムカバー内に収納した花の雄しべの花粉を飛散させ、飛散した花粉が収納した花の雌しべの柱頭に付着して受粉する。
【0040】
ボトムカバー1のスリット10の形状は特に限定されないが、らせん状であることが好ましい。
【0041】
発生させた気流が侵入し易く、雌しべの柱頭に満遍なく付着させることができるからである。
【0042】
ボトムカバーのスリットは少なくとも側面にあればよく、天井部にはスリットがなくてもよい。
【0043】
本発明における受粉装置には、花収納部の外周に気流を発生させる気流発生装置2を有する。
【0044】
気流発生装置としては、ローターを例示する。
【0045】
一回の受粉につき、ローターの回転数は7,000~10,000rpmで気流を発生させて、4~5秒間花を保持することが好ましい。
【0046】
7,000rpmより回転数が少なかったり、4秒間より短いと、花粉が満遍なく柱頭に付着しない虞があり、10,000rpmより回転数が多かったり、5秒間以上保持してもそれ以上の効果は得られないからである。
【0047】
気流発生装置によって発生した気流は花収納部のスリットから内部に侵入し、収納した花の雄しべからから花粉が気流に乗って飛散するので、ほぼ全ての雌しべの柱頭に満遍なく付着させることができる。
【0048】
また、侵入した気流に乗って飛散した花粉の発芽率は高く、花粉管の成長にも優れる花粉になるので柱頭に付着すれば受精し易い花粉である。
【0049】
花粉が柱頭に満遍なく付着し、また、付着した花粉は受精し易い花粉なので、イチゴの花に使用すれば奇形果の発生を抑制することができる。
【0050】
気流は特に限定されないが、渦流を発生させると、柱頭が傷つき難くなるので、さらに受精し易くなって、奇形果の発生を抑制することができる。
【0051】
また、乱流を発生させると、さらに、柱頭に満遍なく花粉を付着させることができるので、奇形果の発生を抑制することができる。
【0052】
渦流と乱流は単独で発生させてもよいし、交互に発生させてもよい。
【0053】
気流の発生を停止した後、目視できる色を付けたマイクロミストを花に噴射することが好ましい。
【0054】
受粉が完了した花を目視できるようになるので作業効率に資するからである。
【0055】
マイクロミストは自動で噴射するようにしてもよいし、手動で噴射するようにしてもよい。
【0056】
マイクロミストは特に限定されないがイチゴの生育に無害なものが好ましい。
【0057】
マイクロミストとしては水に食紅を混合した水溶液を例示する。
【0058】
マイクロミストを噴射した後、花収納部から花を取り出し、受粉完了である。
【0059】
本発明による受粉装置であれば、作業者の熟練度に関わらず一回約4秒~5秒程度で受粉させることができる。
【実施例0060】
本発明における受粉装置の実施の形態及び実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0061】
(実施の形態)
図1を参照して、本発明の実施の形態に係る受粉装置は直径46mm、高さ145mmの円筒状で、重量は290g程度で非常に小型の装置だから、作業者が片手で把持して操作することができる。
【0062】
図3を参照して、本発明の実施の形態に係るボトムカバーは高さが1.65cm、直径2.3cmで容積が約6.3cm
3の釣鐘状をしており、側面にはらせん状のスリットを有し、天井部は塞がれているものを使用した。
【0063】
図2を参照して、本発明の実施の形態に係る受粉装置は花収納部の外周に気流を発生させるローター2が配置されている。
【0064】
ローター2はモーター4で回転させ、モータ4はバッテリー5に接続されている。
【0065】
ローター2は制御基板6で制御されており、スイッチを操作することで、渦流や乱流又はこれらを混合した気流等任意の気流を選択して発生させることができる。
【0066】
溶液タンク3には、精製水に約0.2重量%の食紅を混合した水溶液が収容されている。
【0067】
溶液タンク3に収容した水溶液は超音波振動子7でマイクロミストを形成し、溶液噴射口から収納した花に付着させることができる。
【0068】
(受粉試験)
イチゴ(品種:紅ほっぺ)を温度管理されたハウス内にて育成し、開花4日以内で開葯70%以上の花を選択した。
【0069】
イチゴの花を実施の形態に記載の受粉装置の花収納部に収納し、ローターを7,200rpmで回転させながら5秒間保持し受粉させた。
【0070】
n=30花にて合計7回、合計210花を受粉させた。
【0071】
受粉させた花は15℃~20℃に保持したハウスで50日間栽培し、イチゴの奇形果の発生の割合を測定した。
【0072】
奇形果か否かは熟練就農者による判定において健全果以外を奇形果として判定した。
【0073】
健全果とは果実の容姿において、形の整った美しい円錐形であるもの又は僅かな不稔部分が確認されるものを言い、それ以外は奇形果として評価した。
【0074】
210花の中で、42花からできたイチゴは奇形果であり、約20%が奇形果であった。
【0075】
(花粉試験)
受粉試験と同様に、イチゴ(品種:紅ほっぺ)を温度管理されたハウス内にて育成し、開花4日以内で開葯70%以上の花を選択した。
【0076】
開花した花から直接梵天で花粉を採取し、乾式寒天培地(スクロース10重量%、粉末寒天1重量%、残部蒸留水)に撒き、26℃、24時間培養したものをコントロールとした。
【0077】
実施例は実施の形態に記載した受粉装置にイチゴの花を収納し、7,200rpmで5秒間保持した後、雌しべの柱頭に付着せずに花収納部内に残った花粉を採取し、コントロールと同じ培地及び条件で培養した。
【0078】
発芽試験及び花粉管伸長試験共に同じ方法で培養したものをコントロール又は実施例として使用した。
【0079】
(発芽試験)
本実施例においては、花粉管の伸長が花粉の直径を超えたものを発芽花粉と定義した。
【0080】
光学顕微鏡で視認可能範囲の花粉100個中の発芽花粉の数を測定した。
【0081】
観察場所を変え、3か所について同じく100個中の発芽花粉の数を測定し、3か所の平均値を発芽率とした。
【0082】
結果を表1に示す。表1における「比」はコントロールとの比を表す。
【0083】
【0084】
表1記載の発芽試験と同様の試験を4回行い、計5回行った結果、本発明に係る受粉装置で飛散させた花粉はコントロールと比べて16%~32%発芽率が高く、平均で24.7%発芽率の高い花粉であった。
【0085】
(花粉管伸長試験)
乾式寒天培地上の、10個の発芽花粉をランダムに選定し、光学顕微鏡で拡大して花粉管の長さ(nm)を測定した。
【0086】
結果を表2に示す。単位は(nm)であり、「比」とはコントロールとの比を表す。
【0087】
【0088】
表2記載の花粉管伸長試験と同様の試験を4回行い、計5回行った結果、本発明に係る受粉装置で飛散させた花粉はコントロールと比べて1.03~1.77倍花粉管の長さが長い花粉であり、平均で1.33倍花粉管の長さが長い花粉であった。
【0089】
本発明における受粉装置であれば、花粉がほぼ全ての柱頭に満遍なく付着すると共に、付着した花粉は発芽率が高く、また、花粉管の伸長に優れる花粉であるので、イチゴの花に使用した場合には、奇形果が発生し難い受粉装置であることが証明された。
本発明における受粉装置は、花収納部と花収納部に沿うように装着して使用するボトムカバーを備え、花収納部の外周で発生させた気流をボトムカバー内に侵入させ、収納した花の雄しべの花粉を気流に乗せて雌しべの柱頭に付着させて受粉させるから、花粉をほぼすべての雌しべの柱頭に満遍なく、また、十分に付着させることができると共に、付着した花粉の発芽率は高く、また、花粉管の伸長にも優れる花粉であって、受精し易い花粉になるから、イチゴの花に使用すれば、作業者の熟練度に関わらず、奇形果が生じ難く、作業効率に優れる受粉装置である。
また、一回約4秒~5秒で受粉させることができ、また、受粉させた花にマイクロミストを噴射することで受粉させた花を目視で確認できるので作業効率に優れる受粉装置である。
したがって、本発明は産業上の利用可能性の高い発明である。