(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023114659
(43)【公開日】2023-08-18
(54)【発明の名称】高清浄鋼の溶製方法
(51)【国際特許分類】
C21C 7/10 20060101AFI20230810BHJP
C21C 7/04 20060101ALI20230810BHJP
【FI】
C21C7/10 J
C21C7/04 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022017097
(22)【出願日】2022-02-07
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【弁理士】
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】久志本 惇史
(72)【発明者】
【氏名】小山 達也
(72)【発明者】
【氏名】関口 修兵
【テーマコード(参考)】
4K013
【Fターム(参考)】
4K013AA07
4K013BA08
4K013BA14
4K013CE01
4K013CE04
4K013EA19
4K013FA02
(57)【要約】
【課題】RH型真空脱ガス装置で脱ガス処理を行う際に、溶鋼中に存在する介在物をより効率よく除去することが可能な高清浄鋼の溶製方法を提供する。
【解決手段】RH型真空脱ガス装置において、真空槽の浸漬管を溶鋼に浸漬させて前記真空槽内を減圧し、前記浸漬管から環流ガスを流して前記溶鋼を環流させることによって脱ガス処理を行い、次いで脱ガス処理中において金属Alを添加し、金属Alを添加後に前記真空槽内に具備した上吹きランスから酸素を吹付ける高清浄鋼の溶製方法であって、前記酸素を吹付ける時の送酸速度を7.5~10Nm
3/hr/t、送酸量を0.7~1.2Nm
3/tの範囲とし、前記酸素の吹付け終了後の前記溶鋼の環流時間を所定の範囲に制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
RH型真空脱ガス装置において、真空槽の浸漬管を溶鋼に浸漬させて前記真空槽内を減圧し、前記浸漬管から環流ガスを流して前記溶鋼を環流させることによって脱ガス処理を行い、次いで脱ガス処理中において金属Alを添加し、金属Alを添加後に前記真空槽内に具備した上吹きランスから酸素を吹付ける高清浄鋼の溶製方法であって、
前記酸素を吹付ける時の送酸速度を7.5~10Nm3/hr/t、送酸量を0.7~1.2Nm3/tの範囲とし、前記酸素の吹付け終了後の前記溶鋼の環流時間tafterを以下の(1)式および(2)式を満たす範囲とすることを特徴とする高清浄鋼の溶製方法。
1.8・W/Q≦tafter≦4.0・W/Q ・・・(1)
Q=11.4・G1/3・D4/3・{ln(P1/P0)}1/3 ・・・(2)
ここで、Wは溶鋼質量(t)、Qは溶鋼環流量(t/min)、Gは環流ガス流量(Nl/min)、Dは浸漬管内径(m)、P1はガス吹き込み位置での圧力(Pa)、P0は真空槽内圧力(Pa)を表す。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、二次精錬工程において脱ガス処理中にAlを添加して上吹きランスから酸素を吹き付けて介在物を除去する高清浄鋼の溶製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼中の粗大介在物は、鋼種を問わず鉄鋼材料の特性を著しく低下させる。そのため、多くの鋼種を溶製する際には、溶鋼の二次精錬処理において粗大介在物の除去が行われる。介在物を除去する技術としては、特許文献1には、送酸時にCaO粉上吹きを併用し、火点で生成する介在物をCaO-Al2O3としてスラグへの浮上除去を促進させる溶鋼の昇温精錬方法が開示されている。また、特許文献2には、送酸時のAl添加を送酸前ではなく送酸中の特定のタイミングとすることにより、送酸中の溶鋼Al濃度を低く維持するとともに、生成する介在物を低融点化して浮上除去を促進させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3267177号公報
【特許文献2】特許第5131827号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】桑原ら:鉄と鋼,第73巻(1987年)S176頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年では、さらに粗大介在物を除去した高清浄鋼の溶製が求められている。特許文献1に記載の方法は、送酸条件および送酸後の条件が不明確であり、送酸による介在物除去効果が不十分であるとともに、CaO粉を用いる分の多くのコストがかかってしまう。また、特許文献2に記載の方法では、低Al鋼の溶製を目的としていることから酸化させるAl量が少ないため、介在物除去効果が不十分である。
【0006】
本発明は前述の問題点を鑑み、RH型真空脱ガス装置で脱ガス処理を行う際に、溶鋼中に存在する介在物をより効率よく除去することが可能な高清浄鋼の溶製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、RH型真空脱ガス装置で脱ガス処理を行い、脱ガス処理中に金属Alを溶鋼に添加して真空槽内の上吹きランスから酸素を溶鋼に吹付けてAl2O3を生成させ、介在物の凝集合体を生成して浮上除去を促進させる方法について鋭意検討した。RH真空脱ガス装置にて溶鋼の環流を行うことで介在物の凝集合体が生じるが、介在物径が大きいほど介在物に働く浮力が大きくなり、介在物が溶鋼表面に浮上しやすくなるため溶鋼外への除去が容易となる。しかしながら、脱ガス処理前の段階のAlキルド鋼のT.O濃度は数10ppmであり凝集合体頻度が低く、一定以上のサイズの介在物が鋼中に残り易い。これに対し、酸素上吹きにより数100ppmオーダーの酸素を酸化させAl2O3を多量に生成させることで、介在物の凝集合体頻度が大幅に増加するため、通常処理で除去し切れなかった介在物が効率的に浮上除去できるようになる。
【0008】
そこで、本発明者らは、Al2O3を多量に生成させ、鋼中に存在する介在物と凝集合体させて効率的に介在物を除去するための最適な条件が存在することを見出し、本発明に至った。
【0009】
本発明は以下のとおりである。
(1)
RH型真空脱ガス装置において、真空槽の浸漬管を溶鋼に浸漬させて前記真空槽内を減圧し、前記浸漬管から環流ガスを流して前記溶鋼を環流させることによって脱ガス処理を行い、次いで脱ガス処理中において金属Alを添加し、金属Alを添加後に前記真空槽内に具備した上吹きランスから酸素を吹付ける高清浄鋼の溶製方法であって、
前記酸素を吹付ける時の送酸速度を7.5~10Nm3/hr/t、送酸量を0.7~1.2Nm3/tの範囲とし、前記酸素の吹付け終了後の前記溶鋼の環流時間tafterを以下の(1)式および(2)式を満たす範囲とすることを特徴とする高清浄鋼の溶製方法。
1.8・W/Q≦tafter≦4.0・W/Q ・・・(1)
Q=11.4・G1/3・D4/3・{ln(P1/P0)}1/3 ・・・(2)
ここで、Wは溶鋼質量(t)、Qは溶鋼環流量(t/min)、Gは環流ガス流量(Nl/min)、Dは浸漬管内径(m)、P1はガス吹き込み位置での圧力(Pa)、P0は真空槽内圧力(Pa)を表す。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、RH型真空脱ガス装置で脱ガス処理を行う際に、溶鋼中に存在する介在物をより効率よく除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】OB処理での送酸量と送酸速度との関係での好適な範囲を説明するための図である。
【
図2】OB処理後の環流時間の好適な範囲を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。まず、Al2O3を多量に生成させて介在物を除去する具体的な手順について説明する。
【0013】
本実施形態では、RH型真空脱ガス装置を用いて脱ガス処理を行う。具体的には、真空槽の浸漬管を取鍋内の溶鋼に浸漬し、その後真空槽を減圧して溶鋼を真空槽内に吸い上げ、浸漬管から環流ガスを流して溶鋼を環流させることによって脱ガス処理を行う。そして、脱ガス処理中の任意のタイミングで送酸量に応じた量の金属Alを溶鋼にすべて添加し、溶鋼を環流させたまま真空槽内の上吹きランスから酸素を吹付けてOB(Oxygen Blowing)処理を行う。酸素の吹付けにより溶鋼中のAlを酸化させてAl2O3を生成させ、粗大介在物として浮上分離させる。このとき、OB処理終了後も後述する範囲内で溶鋼の環流を継続する。
【0014】
なお、金属Alを添加する前の段階で溶鋼中に含まれる介在物は、一般的な溶鋼成分を前提とした場合、概ねAl2O3単相に近い介在物となるが、成分規格、プロセスによってはCaO、SiO2、TiO2等を含む低融点組成になる場合もある。本実施形態では、これらの介在物はOB処理によって生成されたAl2O3に凝集されて介在物の凝集合体として浮上除去される。
【0015】
続いて、OB処理での酸素の吹付けおよびOB処理後の後環流時間の条件について詳細に説明する。
図1は、送酸量と送酸速度との関係を示す図である。
図1において、実験の結果、○印はOB処理を行わなかった場合よりも清浄性が改善(鋼中の介在物をより除去)できた条件を表し、×印はOB処理を行わなかった場合よりも清浄性が悪化(鋼中の介在物がより残存)した条件を表している。
【0016】
以上の結果から、OB処理での上吹きランスからの送酸速度は7.5~10Nm3/hr/tとする。送酸速度が7.5Nm3/hr/tよりも小さいと、酸素ジェットがソフトブローとなるため着酸効率が低下し、かつ酸素ジェットが溶鋼表面で衝突する火点の攪拌が弱まる。これによりAl以外にも溶鋼中に含まれるSiやMnの酸化までもが生じてしまい、介在物の除去効果が低下してしまう。一方、送酸速度が10Nm3/hr/tよりも大きいと、鋼中のT.O濃度が高くなりすぎ、介在物の浮上速度に対して生成速度が過剰となる。そのため、環流中に介在物の浮上分離が追い付かず、清浄度が悪化してしまう。
【0017】
また、
図1に示した結果から、OB処理での送酸量は0.7~1.2Nm
3/tとする。送酸量が0.7Nm
3/tよりも少ないと、OB処理によるAl
2O
3の生成量も少なすぎるため、凝集合体による介在物浮上促進効果が得られない。一方、送酸量が1.2Nm
3/tよりも多いと、添加する金属Alの量は送酸量に応じて決定されるため、脱ガス処理中の金属Alの添加量も多くなる。そのため、環流中に介在物の浮上分離が追い付かず、清浄度が悪化してしまう。
【0018】
次に、OB処理後の後環流時間について説明する。OB処理のよって生成されたAl
2O
3はOB処理後の後環流で浮上分離させて除去する必要がある。ここで環流条件は設備仕様で異なるため、非特許文献1に記載されている桑原らの式による溶鋼環流量を用いて条件を規格化する必要がある。
図2は、OB処理後の環流時間の好適な範囲を説明するための図である。
図2における横軸はOB処理後の後環流時間(min)を表し、縦軸はOB処理を行わなかった場合に対する溶鋼中の介在物個数の比を表している。つまり、縦軸の数値が1未満であれば、介在物除去効果があったことを表している。実験の結果、OB処理後の後環流時間に好適な範囲が存在することが確認できた。
【0019】
以上の結果から、OB処理終了後の後環流時間tafter(min)は以下の(1)式および(2)式を満たす条件とする。
1.8・W/Q≦tafter≦4.0・W/Q ・・・(1)
Q=11.4・G1/3・D4/3・{ln(P1/P0)}1/3 ・・・(2)
ここで、(1)式中のWは溶鋼質量(t)を表し、Qは溶鋼環流量(t/min)を表す。また、(2)式中のGは環流ガス流量(Nl/min)、Dは浸漬管内径(m)、P1はガス吹き込み位置での圧力(Pa)、P0は真空槽内圧力(Pa)を表す。
【0020】
OB処理終了後の後環流時間tafter(min)が1.8W/Qよりも短いと、OB処理で生成されたAl2O3を除去しきれず、溶鋼中に介在物が残存してしまう。一方で、OB処理終了後の環流時間tafter(min)が4.0W/Qよりも長いと、Alが燃焼し続け、再酸化によりAl2O3が増え続けて清浄性が悪化する。ここで、再酸化とは、転炉から流出したスラグに起因するFeO,MnO等の低級酸化物を含む取鍋上部のスラグと、溶鋼中Alとが反応し、低級酸化物の還元によりAl2O3介在物が継続的に溶鋼内に供給される反応を指す。
【0021】
また、溶鋼中の介在物の個数は、電子顕微鏡により10μm超の介在物に対して単位面積当たりの個数を計測して評価することができる。また、清浄性の向上効果が得られたか否かについては、具体的には、試験対象の同一鋼種において、酸素の上吹きありの場合と、酸素の上吹きなしの場合とで脱ガス処理終了後のサンプルを採取し、サンプルから10μm超の介在物の個数を計数し、酸素の上吹きなしの場合での介在物の個数よりも低位であった場合に、清浄性の向上効果がありと判断することができる。
【0022】
以上のようにOB処理での酸素の送酸速度および送酸量を上記の範囲に設定し、かつOB処理終了後の環流時間を上記の範囲に設定することにより、OB処理によって生成されたAl2O3が溶鋼表面に浮上しにくい介在物を凝集して浮上分離するため、溶鋼の清浄性をより向上させることができる。また、溶鋼中の介在物の組成によらず凝集合体として浮上除去されるため、幅広い鋼種にわたって安定的に清浄化させることができる。
【実施例0023】
次に、本発明の実施例について説明するが、この条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するための一条件例であり、本発明は、この実施例の記載に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する種々の手段にて実施することができる。
【0024】
320t規模の溶鋼を取鍋に出鋼して合金を添加し、C濃度が0.05-0.20質量%、Si濃度が0.1-0.5質量%、Mn濃度が0.2-0.6質量%、P濃度が0.01-0.03質量%、S濃度が0.001-0.005質量%、Al濃度が0.01-0.05質量%である組成に調整した。そして、取鍋の溶鋼にRH型真空脱ガス装置の浸漬管(内径D=0.6m)を浸漬させ、真空槽内を真空引きして溶鋼を真空槽内に吸い上げた。以下の表1に示す環流ガス流量G(Nl/min)で環流Arガスを溶鋼内に流し、溶鋼を環流させながら脱ガス処理を開始した。なお、このときの真空槽内圧力P0は6.67kPaで、ガス吹き込み位置での圧力P1は100kPaであった。
【0025】
続いて、脱ガス処理中の任意のタイミングで、表1に示す送酸量に応じた量の金属Alを溶鋼に添加し、必要な金属Alをすべて添加した後に、真空槽内に設置された上吹きランスから酸素の上吹きを実施し、表1に示す送酸速度および送酸量でOB処理を行った。OB処理の終了後は、表1に示す後環流時間tafterだけ溶鋼の環流を継続し、脱ガス処理を終了した。この時、脱ガス処理後の溶鋼サンプルを採取し、電子顕微鏡にて介在物の個数を調査した。この時、試験対象の同一鋼種において酸素の上吹きなしの実験も併せて行い、脱ガス処理終了後の溶鋼サンプルでも介在物の個数を調査した。酸素の上吹きなしの場合の介在物個数よりも低位であったもの(酸素の上吹きなしの場合の介在物個数との比で1未満)を発明の効果ありと判断した。
【0026】
【0027】
表中の下線は、本発明の範囲外であることを示している。Ch.No.1~3は、いずれもOB処理での送酸速度は7.5~10Nm3/hr/tの範囲内で、かつ送酸量は0.7~1.2Nm3/tの範囲内で、さらに後環流時間が(1)式および(2)式の条件を満たしたため、清浄性の向上効果が確認できた。
【0028】
一方、Ch.No.4は、送酸速度が小さすぎたため、酸素の吹付けがソフトブローとなってしまい、Al以外にもSiやMnの酸化が生じてしまった。このため、介在物の除去効果が低下してしまった。Ch.No.5は、送酸速度が大きすぎたため、介在物の浮上速度に対し介在物の生成速度が過剰となり、清浄度は低かった。
【0029】
Ch.No.6は、送酸量が少なすぎたため、凝集合体による介在物浮上促進効果が十分に得られなかった。また、Ch.No.7は、送酸量が多すぎたため、その分Al2O3量が多く生成され、環流中に介在物を除去し切れず、清浄性は低かった。
【0030】
Ch.No.8は、OB処理後の後環流時間が短すぎたため、OB処理によって生成したAl2O3を十分に除去し切れず、清浄性は低かった。Ch.No.9は、送酸後の後環流時間が長すぎたため、溶鋼中のAlが過剰に再酸化し、清浄性は低かった。