(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023114693
(43)【公開日】2023-08-18
(54)【発明の名称】重症熱性血小板減少症候群ウイルス抗体検出キット及び重症熱性血小板減少症候群ウイルス抗体検出方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/569 20060101AFI20230810BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20230810BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20230810BHJP
C07K 14/175 20060101ALI20230810BHJP
【FI】
G01N33/569 L ZNA
G01N33/53 N
G01N33/543 521
G01N33/543 541Z
C07K14/175
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022017149
(22)【出願日】2022-02-07
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り アドレス:https://www.jcvim.org/2021/、https://www.jcvim.org/2021/program.html、掲載日:令和3年2月9日 集会名、アドレス:第17回日本獣医内科学アカデミー学術大会、オンライン開催 https://www.jcvim.org/2021/、開催日(ウェブサイトでの公開日):令和3年2月19日
(71)【出願人】
【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
(71)【出願人】
【識別番号】302072136
【氏名又は名称】株式会社キューメイ研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168114
【弁理士】
【氏名又は名称】山中 生太
(74)【代理人】
【識別番号】100162259
【弁理士】
【氏名又は名称】末富 孝典
(74)【代理人】
【識別番号】100146916
【弁理士】
【氏名又は名称】廣石 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】松鵜 彩
(72)【発明者】
【氏名】桃井 康行
(72)【発明者】
【氏名】曲 泰男
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA50
4H045BA70
4H045CA01
4H045DA86
4H045EA53
4H045FA50
4H045GA26
(57)【要約】
【課題】迅速かつ簡便に、IgMとIgGとを区別して検出することができる重症熱性血小板減少症候群ウイルス抗体検出キット及び重症熱性血小板減少症候群ウイルス抗体検出法を提供する。
【解決手段】重症熱性血小板減少症候群ウイルス抗体検出キットは、重症熱性血小板減少症候群ウイルスの標識された組換え核酸タンパク質と、血液検体に暴露される検体反応部、及び血液検体中の重症熱性血小板減少症候群ウイルスの核酸タンパク質に対する抗体を捕捉する捕捉部31を有するクロマトグラフ媒体10と、を備える。捕捉部31は、抗体としてのIgM抗体と特異的に結合する抗IgM抗体が固定化されたIgM抗体捕捉部31a、及び抗体としてのIgG抗体と特異的に結合するIgG抗体捕捉分子が固定化されたIgG抗体捕捉部31bの少なくとも一方を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重症熱性血小板減少症候群ウイルスの標識された組換え核酸タンパク質と、
血液検体に暴露される検体反応部、及び前記血液検体中の重症熱性血小板減少症候群ウイルスの核酸タンパク質に対する抗体を捕捉する捕捉部を有するクロマトグラフ媒体と、
を備え、
前記捕捉部は、前記抗体としてのIgM抗体と特異的に結合する抗IgM抗体が固定化されたIgM抗体捕捉部、及び前記抗体としてのIgG抗体と特異的に結合するIgG抗体捕捉分子が固定化されたIgG抗体捕捉部の少なくとも一方を備える、
重症熱性血小板減少症候群ウイルス抗体検出キット。
【請求項2】
前記検体反応部は、前記組換え核酸タンパク質を有する、
請求項1に記載の重症熱性血小板減少症候群ウイルス抗体検出キット。
【請求項3】
前記IgG抗体捕捉分子は、Protein A/Gである、
請求項1又は2に記載の重症熱性血小板減少症候群ウイルス抗体検出キット。
【請求項4】
前記組換え核酸タンパク質は、
配列番号1に示されるアミノ酸配列を有する、
請求項1から3のいずれか1項に記載の重症熱性血小板減少症候群ウイルス抗体検出キット。
【請求項5】
前記組換え核酸タンパク質は、
発色分子で標識されている、
請求項1から4のいずれか1項に記載の重症熱性血小板減少症候群ウイルス抗体検出キット。
【請求項6】
前記血液検体は、ヒト、ネコ又はイヌの血液検体である、
請求項1から5のいずれか1項に記載の重症熱性血小板減少症候群ウイルス抗体検出キット。
【請求項7】
クロマトグラフ媒体上の捕捉部に捕捉された血液検体に含まれる重症熱性血小板減少症候群ウイルスの核酸タンパク質に対する抗体を、前記抗体に結合した、重症熱性血小板減少症候群ウイルスの標識された組換え核酸タンパク質を介して検出し、
前記捕捉部は、前記抗体としてのIgM抗体と特異的に結合する抗IgM抗体が固定化されたIgM抗体捕捉部、及び前記抗体としてのIgG抗体と特異的に結合するIgG抗体捕捉分子が固定化されたIgG抗体捕捉部の少なくとも一方を備える、
重症熱性血小板減少症候群ウイルス抗体検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重症熱性血小板減少症候群ウイルス抗体検出キット及び重症熱性血小板減少症候群ウイルス抗体検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
重症熱性血小板減少症候群(severe fever with thrombocytopenia syndrome、以下「SFTS」ともいう)は、ブニヤウイルス科フレボウイルス属のSFTSウイルス(以下「SFTSV」ともいう)によるマダニ媒介性の新興感染症である。SFTSVの感染例が中国、韓国、日本、ベトナム、及び台湾で報告されている。
【0003】
ヒトにおけるSFTSは、発熱、筋肉痛、腹痛、意識障害、神経症状、又は多臓器不全等の症状を呈する。現在までに約600名の感染が報告されており、致死率は約30%と高い。
【0004】
また、SFTSは人獣共通感染症であり、ヒト、ネコ、及びイヌを含む多くの動物種がSFTSVに感染し得るため、マダニと野生生物の間でウイルスが維持されている。中でもネコの発症例が300例以上あり、ネコにおける致死率は約60%と非常に高い。また、SFTSVに感染したネコ等の伴侶動物と濃厚接触した飼い主又は獣医療関係者の感染が報告されている。しかし、SFTSは新興感染症であるため、多くの獣医師が診療経験を持たない。
【0005】
現在、SFTSの確定診断には、ELISA又はRT-PCRが利用されている。しかし、いずれの検査も医療機関又は動物病院ではなく外部で行われるため診断に一定の時間を要する。特にネコ等の小動物においてはSFTSの進行が非常に速いため、迅速に診断し、早期に治療を開始することが重要である。したがって、一般の医療機関又は動物病院において検査が可能な迅速簡易検査法が求められている。
【0006】
特許文献1には、重症熱性血小板減少症候群ウイルス抗体検出キットが記載されている。当該キットは、重症熱性血小板減少症候群ウイルスの核タンパク質(以下「核酸タンパク質」又は「NP」とも称する)に結合する抗体を、イムノクロマト法により検出することができる。したがって、一般の医療機関で使用することができ、SFTSを迅速に診断することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
SFTSVに感染すると、まずIgM抗体が産生され、約2週間後にIgGが産生される。上記特許文献1に記載の重症熱性血小板減少症候群ウイルス抗体検出キットは、IgMとIgGを区別して検出することができないため、対象が現在SFTSウイルスに感染しているのか、過去に感染したことがあるために抗体が検出されるのかが判別できない。特にネコにおけるSFTSは進行が非常に速いため、現在SFTSVに感染していることを確認するには、IgG抗体と区別してIgM抗体を検出することが特に重要である。また、SFTSVの中和抗体はIgG抗体であるため、SFTSの個体が回復期に入ったことを確認するには、IgM抗体と区別してIgG抗体を検出することが重要である。
【0009】
本発明は上述の事情に鑑みてなされたものであり、迅速かつ簡便に、重症熱性血小板減少症候群ウイルスに対するIgM抗体とIgG抗体とを区別して検出することができる重症熱性血小板減少症候群ウイルス抗体検出キット及び重症熱性血小板減少症候群ウイルス抗体検出法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の観点に係る重症熱性血小板減少症候群ウイルス抗体検出キットは、
重症熱性血小板減少症候群ウイルスの標識された組換え核酸タンパク質と、
血液検体に暴露される検体反応部、及び前記血液検体中の重症熱性血小板減少症候群ウイルスの核酸タンパク質に対する抗体を捕捉する捕捉部を有するクロマトグラフ媒体と、
を備え、
前記捕捉部は、前記抗体としてのIgM抗体と特異的に結合する抗IgM抗体が固定化されたIgM抗体捕捉部、及び前記抗体としてのIgG抗体と特異的に結合するIgG抗体捕捉分子が固定化されたIgG抗体捕捉部の少なくとも一方を備える。
【0011】
また、前記検体反応部は、前記組換え核酸タンパク質を有する、
こととしてもよい。
【0012】
前記IgG抗体捕捉分子は、Protein A/Gである、
こととしてもよい。
【0013】
前記組換え核酸タンパク質は、
配列番号1に示されるアミノ酸配列を有する、
こととしてもよい。
【0014】
また、前記組換え核酸タンパク質は、
発色分子で標識されている、
こととしてもよい。
【0015】
また、前記血液検体は、ヒト、ネコ、又はイヌの血液検体である、
こととしてもよい。
【0016】
本発明の第2の観点に係る重症熱性血小板減少症候群ウイルス抗体検出方法は、
クロマトグラフ媒体上の捕捉部に捕捉された血液検体に含まれる重症熱性血小板減少症候群ウイルスの核酸タンパク質に対する抗体を、前記抗体に結合した、重症熱性血小板減少症候群ウイルスの標識された組換え核酸タンパク質を介して検出し、
前記捕捉部は、前記抗体としてのIgM抗体と特異的に結合する抗IgM抗体が固定化されたIgM抗体捕捉部、及び前記抗体としてのIgG抗体と特異的に結合するIgG抗体捕捉分子が固定化されたIgG抗体捕捉部の少なくとも一方を備える。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、迅速かつ簡便に、重症熱性血小板減少症候群ウイルスに対するIgM抗体とIgG抗体とを区別して検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施の形態に係るクロマトグラフ媒体の構成を示す図である。(A)はクロマトグラフ媒体の上面図を示す。(B)はクロマトグラフ媒体の(A)に示すX-X’破線で切断し、分解したクロマトグラフ媒体の矢視図を示す。
【
図2】実施例1において、回収したタンパク質のSDS-PAGE像を示す図である。
【
図3】実施例2における、抗NP IgM抗体及び抗NP IgG抗体の検出結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本発明は下記の実施の形態及び図面によって限定されるものではない。なお、下記の実施の形態において、“有する”、“含む”又は“含有する”といった表現は、“からなる”又は“から構成される”という意味も包含する。
【0020】
本実施の形態に係るSFTSV抗体検出キットは、血液検体に含まれるSFTSVのNPに対する抗体(以下「抗NP抗体」という)を検出するためのキットである。本実施の形態に係るSFTSV抗体検出キットにより検出し得る抗NP抗体は、抗NP IgM抗体(IgM抗体)及び抗NP IgG抗体(IgG抗体)である。被験個体の血液検体に抗NP抗体であるIgM抗体が検出された場合、当該被験個体は現在SFTSVに感染している、すなわちSFTSであることが強く推認される。血液検体に抗NP抗体であるIgG抗体が検出された場合、被験個体がSFTSVに感染している又は感染していた、すなわちSFTSである又はSFTSであったと診断される。血液検体は、被験個体の全血であってもよく、被験個体の血液に含まれる血清及び血漿等の成分であってもよい。また、血液検体は、被験個体の全血、血清及び血漿等の成分を緩衝液等で希釈した検体であってもよい。
【0021】
SFTSVは、1本鎖RNAウイルスである。SFTSVのゲノムRNAは、L分節、M分節及びS分節の3分節で構成される。NPは、非構造タンパク質とともにS分節にコードされている。SFTSVが属するブニヤウイルス目において、NPは高度な免疫原性を有し、抗原又は抗体検出の標的として様々な分野で選択されている。
【0022】
本実施の形態に係るSFTSV抗体検出キットは、イムノクロマトグラフィーで血液検体中の抗NP抗体を検出する。このため、SFTSV抗体検出キットは、クロマトグラフ媒体10を備える。
【0023】
図1(A)はクロマトグラフ媒体10の構成を示す図である。
図1(A)に示されたX-X’破線でクロマトグラフ媒体10を切断し、分解したクロマトグラフ媒体10を矢視したときの状態を
図1(B)に示す。クロマトグラフ媒体10は、サンプルパッド1、コンジュゲートパッド2、メンブレン3、吸収パッド4及びバッキングシート5を備える。
【0024】
サンプルパッド1は、血液検体が滴下される部材である。サンプルパッド1は、サンプルパッド1に滴下された血液検体が浸透する媒体であれば、任意の媒体で形成される。サンプルパッド1は、コンジュゲートパッド2に接している。
【0025】
検体反応部としてのコンジュゲートパッド2は、発色分子で標識した重症熱性血小板減少症候群ウイルスの組換えNP(以下「rNP」とする)を有する。rNPは、公知の方法で構築される発現系で発現させることができる。発現系は、例えば、SFTSVのNPをコードする遺伝子を組み込んだ発現ベクターを導入した細胞である。好ましくは、発現系は大腸菌で構築される。発現系で発現されたrNPは、好ましくはアフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー及びゲルろ過クロマトグラフィー等の任意の精製方法によって精製される。好適には、グルタチオンSトランスフェラーゼ(以下「GST」とする)がC末端に付加されたrNP(rNP-GST)がアフィニティークロマトグラフィーで精製される。
【0026】
rNPは、人為的に発現させたNPであって、SFTSVの種々の株におけるNPのアミノ酸配列を有するものであれば特に限定されない。例えば、rNPのアミノ酸配列は、国内で分離されたSFTSV日本系統1型(J1)株のNPのアミノ酸配列である(配列番号1)。なお、精製のためにrNPにGSTを付加する場合、GSTはrNPのアミノ酸配列に含まないものとする。
【0027】
rNPを標識するための発色分子は、例えば、着色セルロース粒子、金コロイド粒子、又はポリスチレン粒子等の、当該分野で知られる任意の発色分子を使用することができる。好適には、発色分子は着色セルロース粒子である。
【0028】
コンジュゲートパッド2は、サンプルパッド1と接する面の反対側の面でメンブレン3と接している。メンブレン3は、例えば、ニトロセルロースシート等のイムノクロマトグラフ用濾紙である。
【0029】
メンブレン3は、血液検体中のSFTSVのNPに対する抗体を捕捉する捕捉部31を有する。捕捉部31は、上記抗体としてのIgM抗体と特異的に結合する抗IgM抗体が固定化されたIgM抗体捕捉部31a、及び上記抗体としてのIgG抗体と特異的に結合するIgG抗体捕捉分子が固定化されたIgG抗体捕捉部31bを備えるIgM抗体又はIgG抗体と特異的に結合するとは、IgM抗体又はIgG抗体に対する結合親和性が、例えば、ウシ血清アルブミン等の非特異的な物質に対する結合親和性よりも高いことを意味する。捕捉部31がIgM抗体捕捉部31a及びIgG抗体捕捉部31bの両方を含むことで、単一のキットでIgM抗体とIgG抗体の両方をそれぞれ区別して検出することができる。特に、ネコ等の小動物では、衰弱時に多量の採血をすると命に関わる危険があるため、この構成が好適である。
【0030】
血液検体は、ヒト、ネコ、又はイヌ等を含む任意の動物種の血液検体であってもよい。好適には、血液検体は、ヒト、ネコ、又はイヌの血液検体である。最も好適には、血液検体は、ネコの血液検体である。
【0031】
血液検体がヒトの血液検体である場合、抗IgM抗体は、抗ヒトIgM抗体である。血液検体がネコの血液検体である場合、抗IgM抗体は、抗ネコIgM抗体である。抗IgM抗体を産生する動物種は特に限定されず、ヤギ、マウス、ラット、又はウサギ等、任意の動物種が産生する抗IgM抗体を選択することができ、市販の抗IgM抗体であってもよい。
【0032】
IgG抗体捕捉分子は、IgG抗体以外の抗体とは実質的に結合せず、IgG抗体と結合する物質であれば特に限定されない。IgG抗体捕捉分子は、例えばプロテインA/G、プロテインA、プロテインG、又は抗IgG抗体である。IgG抗体捕捉分子は、好適にはプロテインA/Gである。血液検体がヒトの血液検体である場合、IgG抗体捕捉分子として使用できる抗IgG抗体は、抗ヒトIgG抗体である。血液検体がネコの血液検体である場合、IgG抗体捕捉分子として使用できる抗IgG抗体は、抗ネコIgG抗体である。抗IgG抗体を産生する動物種は特に限定されず、ヤギ、マウス、ラット、又はウサギ等、任意の動物種が産生する抗体を選択することができ、市販の抗IgG抗体であってもよい。
【0033】
なお、実質的に結合しないとは、全く結合しないか、又は本実施の形態に係るSFTSV抗体検出キットによる検出結果に影響しない程度の結合を意味する。
【0034】
メンブレン3に固定化される抗IgM抗体及びIgG抗体捕捉分子の濃度は特に限定されず、適用する血液検体の希釈倍率等に応じて適宜調製され得るが、例えば0.1~10mg/mL、好適には0.5~1.5mg/mLである。血液検体として適切な溶媒で10~50倍に希釈した被験個体の血清を用いる場合、例えば、捕捉部31に直線状に塗布される抗IgM抗体溶液及びIgG抗体捕捉分子溶液の濃度は、0.1~10μg/cm、好ましくは0.5~5μg/cm、より好ましくは0.75~1.5μg/cm、特に好ましくは1.0μg/cmである。
【0035】
また、メンブレン3は、rNPに対する抗体を表面に直線状に塗布し固定したコントロールライン32を有する。コントロールライン32に固定化された抗体は、例えば、抗rNP-GST抗体又は抗rNP抗体である。抗体を産生する動物種は特に限定されず、Tウサギ、ヤギ、又はニワトリ等の任意の生物種が産生する抗体を選択することができる。当該抗体は、動物に抗原としてのrNP又はrNP-GSTを免疫し、公知の方法で作製できる。
【0036】
コントロールライン32に固定化される抗体の濃度は特に限定されず、適用する血液検体の希釈倍率等に応じて適宜調製され得るが、例えば0.001~0.1mg/mL、好適には0.005~0.15mg/mLである。血液検体として10~50倍に適切な溶媒で希釈した被験個体の血清を用いる場合、例えば、コントロールライン32に直線状に塗布される抗体の濃度は、0.001~10μg/cm、好ましくは0.01~1.0μg/cm、より好ましくは0.01~1.0μg/cm、特に好ましくは0.01μg/cmである。
【0037】
メンブレン3は、コンジュゲートパッド2と接する面と同じ面で吸収パッド4と接している。吸収パッド4は、サンプルパッド1に滴下された血液検体を吸い上げる。吸収パッド4は、液体を速やかに吸収保持できる素材であればよく、例えば、濾紙、綿布、ポリエチレン又はポリプロピレン等からなる不織布等を吸収パッド4に用いることができる。
【0038】
メンブレン3は、コンジュゲートパッド2と接する面の反対側の面でバッキングシート5に貼り付けられている。バッキングシート5は、サンプルパッド1、コンジュゲートパッド2、メンブレン3、及び吸収パッド4を固定する台紙である。サンプルパッド1、コンジュゲートパッド2、メンブレン3及び吸収パッド4は、上から
図1(B)に示す順番でバッキングシート5の表面に固定される。
【0039】
続いて、本実施の形態に係るSFTSV抗体検出方法について説明する。当該SFTSV抗体検出方法は、第1の反応ステップ、第2の反応ステップ及び検出ステップを含む。第1の反応ステップでは、コンジュゲートパッド2に保持されたrNPを血液検体に暴露する。より詳細には、サンプルパッド1に反応用緩衝液に混合された血液検体が滴下されると、血液検体は毛細管現象によってコンジュゲートパッド2へ浸透する。そして、コンジュゲートパッド2に保持されたrNPと血液検体に含まれる抗NP抗体とが抗原抗体反応によって結合して、rNPと抗NP抗体との複合体(rNP-抗NP抗体複合体)が形成される。rNPと抗NP抗体との複合体は、毛細管現象でメンブレン3を移動する。
【0040】
第2の反応ステップでは、rNPに結合した抗NP抗体を、メンブレン3の抗IgM抗体捕捉部31a及び抗IgG抗体捕捉部31bで捕捉する。まず、IgM抗体捕捉部31aにおいて、rNPとIgM抗体と抗IgM抗体との複合体(rNP-IgM抗体-抗IgM抗体複合体)が形成され、当該複合体は、IgM抗体捕捉部31aで堰き止められる。続いて、rNPとIgG抗体とIgG抗体捕捉分子との複合体(rNP-IgG抗体-IgG抗体捕捉分子複合体)が形成され、当該複合体は、IgG抗体捕捉部31bで堰き止められる。
【0041】
第1の反応ステップにおいて、抗NP抗体と複合体を形成しなかったrNPは、捕捉部31で捕捉されずに、コントロールライン32に達する。コントロールライン32において、抗NP抗体と複合体を形成しなかったrNPは、抗rNP抗体又はrNP-GST抗体によって捕捉される。
【0042】
検出ステップでは、捕捉部31で捕捉された血液検体に含まれる抗NP抗体を、該抗NP抗体に結合したrNPの標識を介して検出する。IgM抗体捕捉部31a及びIgG抗体捕捉部31bには、rNPが有する発色分子が濃縮されるため、IgM抗体捕捉部31a及びIgG抗体捕捉部31bが直線状に呈色する。目視で呈色を判定することで、抗NP抗体を検出できる。
【0043】
以上詳細に説明したように、本実施の形態に係るSFTSV抗体検出キットは、迅速かつ簡便にIgM抗体とIgG抗体とを区別して検出することができる。当該SFTSV抗体検出キットは、下記実施例2に示すように、急性期及び回復期のいずれの血清からも高い特異性及び感度で抗NP抗体を検出できる。
【0044】
なお、本実施の形態に係るSFTSV抗体検出キットは、サンプルパッド1を備えることとしたが、サンプルパッド1を省いた構成でもよい。この場合、コンジュゲートパッド2に血液検体を滴下すればよい。
【0045】
また、SFTSV抗体検出キットは、コンジュゲートパッド2を備えない構成、すなわちハーフストリップの構成をとることもできる。ハーフストリップの構成とする場合、例えば、SFTSV抗体検出キットは、サンプルパッド1、メンブレン3、及び吸収パッド4を備えるクロマトグラフ媒体10と、試薬としてrNPとを備える。当該SFTSV抗体検出キットを用いたSFTSV抗体検出方法では、まず、rNPが血液検体に加えられて検体が調製される。当該検体中では、血液検体に含まれていた抗NP抗体がrNPと反応し、rNP-抗NP抗体複合体が形成される。
【0046】
続いて、当該検体がサンプルパッド1に滴下されると、rNPと抗NP抗体との複合体は、毛細管現象でメンブレン3を移動する。そして、rNPに結合した抗NP抗体を、抗IgM抗体捕捉部31a及び抗IgG抗体捕捉部31bに捕捉させる。
【0047】
なお、サンプルパッド1から捕捉部31までの長さは、滴下する血液検体の量及び濃度等によって適宜設定される。また、本実施の形態では、サンプルパッド1に血液検体が滴下されることとしたが、サンプルパッド1を血液検体に浸す、すなわちディップスティック式としてもよい。
【0048】
本実施の形態に係るSFTSV抗体検出キットは、簡便に使用するために、上記SFTSV抗体検出キットの構成が一体となったカセット型又はカートリッジ型の検出キットであることが好ましい。
【0049】
なお、血液検体からIgM抗体が検出されることは、被験個体のSFTSVへの感染を示す。血液検体からIgG抗体が検出されることは、被験個体のSFTSVへの感染あるいは既往を示す。また、血液検体からIgM抗体とIgG抗体の両方が検出される、又はSFTSである被験個体の血液検体からIgG抗体が検出されることは、被験個体がSFTSVに感染し、現在回復に向かっていることを示す。このため、上記実施の形態に係るSFTSV抗体検出キットは、SFTSV検出キットとして使用されてもよい。また、上記実施の形態に係るSFTSV抗体検出キットは、SFTS診断キットとして使用されてもよい。また、当該SFTSV抗体検出キットは、感染急性期における医療機関又は動物病院での迅速診断を実現し、発症早期の投与が望ましいとされるSFTS治療薬のコンパニオン診断としても有用である。
【0050】
なお、捕捉部31は、IgM抗体捕捉部31a及びIgG抗体捕捉部31bの一方のみを有する構成としてもよい。捕捉部31としてIgM抗体捕捉部31aのみを有する場合、本実施の形態に係るSFTSV抗体検出キットは、IgGと区別してIgMを検出することができる。捕捉部31としてIgG抗体捕捉部31bのみを有する場合、本実施の形態に係るSFTSV抗体検出キットは、IgMと区別してIgGを検出することができる。また、本実施の形態では、コンジュゲートパッド2から吸収パッド4に向かってIgM抗体捕捉部31a、IgG抗体捕捉部31bの順に配置されているが、IgG抗体捕捉部31b、IgM抗体捕捉部31aの順で配置されてもよい。
【実施例0051】
実施例1:イムノクロマトグラフィーの作製
(SFTSVのNPをコードする遺伝子の増幅及び組換えタンパク質の精製)
以下、別段の記載がない限り、各キットは添付のプロトコールに従って使用した。核酸抽出装置magLEAD 6gC及び試薬キットmagDEA DxSV(PSS社製)を用いて、SFTSV日本系統1型(J1)株感染ネコ血清からRNAを抽出した。抽出したRNAを鋳型としてRT-PCRを行い、SFTSVのNP遺伝子全長を増幅した。RT-PCRに用いたプライマーとして、NP-F(配列番号2)及びNP-R(配列番号3)を用いた。得られた880bpの増幅産物を、In-fusion HD Cloning Kit(TaKaRa社製)を用いて、EcoRI及びNotIで処理した大腸菌用発現ベクターpGEX-6P-1(Cytita社製)に挿入した。このプラスミドを大腸菌BL21細胞に形質転換し、イソプロピル-β-チオガラクトピラノシド(IPTG)(最終濃度1mM)による誘導後、Glutathion Sepharose 4B(Cytiva社製)を用いてGST融合組換え核酸タンパク質(rNP-GST)を溶出した。回収したrNP-GSTの一部を、PreScission Protease(10ユニット、Cytiva社製)を用いてGSTを切断し、組換え核酸タンパク質(rNP)として回収した。回収したrNP-GST、rNP、及びGSTをSDS-PAGE解析し、目的のタンパク質が回収できていることを確認した(
図2)。
【0052】
(コントロール用ポリクローナル抗体の作製)
ウサギに1mg/mLのrNP-GSTを免疫し、その血清を得た(株式会社スクラムに委託)。Protein Gを用いたアフィニティカラムSpin column based Antibody Purification Kit(コスモ・バイオ社製)を用いて、推奨プロトコールに従って、血清から抗NP-GSTウサギポリクローナルIgG抗体を精製した。
【0053】
(メンブレンへの抗体塗布)
ニトロセルロースメンブレン(FF 120HP Plus、GE Healthcare社製)に捕捉用抗体を塗布した。1つ目のテストラインには抗ネコIgMヤギ抗体(BETHYL社製)、2つ目のテストラインには抗ネコIgGヤギ抗体(BETHYL社製)又はProtein A/G(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を、200mMリン酸緩衝液を用いてそれぞれ1.0mg/mLに調整し、1.0μg/cmで塗布した。コントロールラインには、上記で精製した抗NP-GSTウサギポリクローナルIgG抗体を0.01mg/mLに調整し、0.01μg/cmで塗布した。メンブレンに各抗体を塗布した後、50℃で30分間乾燥させ、0.5%カゼイン及び50mMホウ酸を用いて室温で30分間ブロッキングし、0.5%スクロース、0.05%コール酸ナトリウム、及び50mM Tris-HClにより、室温で30分間洗浄及び安定化処理を行い、その後、50℃で30分間乾燥させた。
【0054】
(着色セルロース粒子への抗原感作)
着色セルロース粒子(nanoact、旭化成社製)に、100mM MES、及び上記で精製したrNP(粒子重量対比1.8%)を添加し、超音波分散後、37℃で2時間静置した。その後、カゼイン(1.0%カゼイン、100mMホウ酸、pH9.2)によるブロッキングを行い、洗浄後、塗布液(0.2%カゼイン、15%スクロース、33mMホウ酸、pH9.2)中に浮遊させた。
【0055】
ポリエステル製コンジュゲートパッド(250Y、旭化成社製)を、0.05%Tween(登録商標)-20水溶液に浸し、30秒間超音波処理を行った後、37℃で30分間乾燥させた。マイクロピペットを用いて、210μLの抗体感作セルロース粒子を10mm×80mmのコンジュゲートパッドに均一に塗布した。
【0056】
(イムノクロマトキットの組み立て)
上記のメンブレン及びコンジュゲートパッド、サンプルパッド(S-06、旭化成社製)、ならびに吸収パッド(AB-02、旭化成社製)をパッキングシート(フォーディクス社製)の所定の位置にそれぞれ配置して組み立てた。その後、これを5mm幅に裁断し、イムノクロマトストリップとした。
【0057】
実施例2.イムノクロマトグラフィーによる抗NP抗体の検出
ネコの血清検体を用いて、実施例1で作成したイムノクロマトストリップの評価を行った。検体、2018年から2020年までに、PCR又はELISAによりSFTSと診断されたネコ血清11検体と、健康なネコの血清2検体の計13検体を用いた。各検体を展開液(0.5%Tween(登録商標)-20、1.5%Triton(登録商標)X-100、0.1%硫酸アンモニウム、PBS)で10倍希釈した。これをサンプルパッドに40μL添加し、室温で30分間静置した。目視により、-、±、+、++の4段階で評価を行い、+及び++を陽性と判定した。
【0058】
イムノクロマト法の結果をELISAでの結果と比較するために、上記イムノクロマト法で使用した検体と同一の13検体を用いて、SFTSV感染Huh7細胞を抗原とした間接ELISA法による試験を行い、OD値が0.5超の検体を陽性と判定した。
【0059】
(結果)
表1に示すように、本実施例のイムノクロマトグラフィーでは、急性期又は急性期~回復期のネコの検体(検体番号6~9)からは、1つの検体(検体番号9)を除きIgM抗体を検出することができた。回復期のネコの検体(検体番号1~3、10、11)には、IgM抗体とIgG抗体が両方検出された検体(検体番号1、2)、IgG抗体のみが検出された検体(検体番号3)、いずれも検出されなかった検体(検体番号10、11)があった。回復期のうち、検体番号1~3についてはELISA法と一致する結果であり、実際に検体に含まれる抗体量を反映しているものと考えられる。また、陰性のネコの検体(検体番号4、5)では、IgM抗体とIgG抗体のいずれも検出されず、偽陽性はみられなかった。
【0060】
急性期のネコの検体(検体番号8)では、IgM抗体のみが検出された。この結果は、当該ネコのSFTSが、中和抗体であるIgG抗体を産生する段階にまだ入っていないことを示唆している。このことから、結果により被験個体が現在SFTSのどの段階にあるのかを推測できる可能性が示され、IgM抗体とIgG抗体とを区別して検出することの重要性が示された。
【0061】
従来法であるELISA法との比較では、本実施例のイムノクロマト法で、IgM抗体が陽性であると判定された検体、及びIgG抗体が陽性であると判定された検体の100%が、ELISA法でも同様の判定であった。イムノクロマト法でIgM抗体が陰性であると判定された検体、及びIgG抗体が陰性であると判定された検体の75%が、ELISA法でも同様の判定であった。IgM抗体及びIgG抗体の双方について、イムノクロマト法とELISA法の一致率は84.6%であった。これらのことから、本実施例のイムノクロマト法は、従来法であるELISA法と比較して遜色のない性能を有し、臨床において十分使用可能であることが示された。
【0062】
【0063】
検体番号6、12、13に加え、別の3検体(2020-6、VL104及び2019-123)について間接ELISA法、PCR及び本実施例のイムノクロマト法を比較した結果を
図3に示す。
【0064】
本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等な発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、本発明の範囲内とみなされる。