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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023114817
(43)【公開日】2023-08-18
(54)【発明の名称】光機能材料
(51)【国際特許分類】
   C01G 19/02 20060101AFI20230810BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20230810BHJP
   B01J 23/14 20060101ALI20230810BHJP
【FI】
C01G19/02 Z
B01J35/02 J
B01J23/14 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022017345
(22)【出願日】2022-02-07
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】劉 揚新
(72)【発明者】
【氏名】楊 悦
(72)【発明者】
【氏名】山口 晃
(72)【発明者】
【氏名】田邉 豊和
(72)【発明者】
【氏名】宮内 雅浩
(72)【発明者】
【氏名】山口 健志
【テーマコード(参考)】
4G169
【Fターム(参考)】
4G169AA02
4G169BB04A
4G169BB04B
4G169BC22A
4G169BC22B
4G169HB06
4G169HC04
4G169HE20
4G169HF02
4G169HF04
(57)【要約】
【課題】Sn酸化物で構成され、可視光に対しても十分な性能を発現する光機能材料を提供する。
【解決手段】SnおよびOを合計で80原子%を超えて含有し、CuKα線を用いたX線回折測定において、2θ=27.5±1.0°、29.4±1.0°、32.8±1.5°、35.9±1.0°にピークを有している。SnおよびOを合計で80原子%を超えて含有し、CuKα線を用いたX線回折測定において、2θ=27.5±1.0°、29.4±1.0°、32.8±1.5°、35.9±1.0°にピークを有し、さらに2θ=46.0±0.7°、47.2±0.7°、50.4±0.7°、51.8±0.7°、54.2±1.0°、59.8±1.0°、62.8±1.0°、70.1±1.0°のうちの1箇所以上の位置にピークを有している。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SnおよびOを合計で80原子%を超えて含有し、
CuKα線を用いたX線回折測定において、2θ=27.5±1.0°、29.4±1.0°、32.8±1.5°、35.9±1.0°にピークを有していることを特徴とする光機能材料。
【請求項2】
SnおよびOを合計で80原子%を超えて含有し、
CuKα線を用いたX線回折測定において、2θ=27.5±1.0°、29.4±1.0°、32.8±1.5°、35.9±1.0°にピークを有し、さらに2θ=46.0±0.7°、47.2±0.7°、50.4±0.7°、51.8±0.7°、54.2±1.0°、59.8±1.0°、62.8±1.0°、70.1±1.0°のうちの1箇所以上の位置にピークを有していることを特徴とする光機能材料。
【請求項3】
SnおよびOを合計で80原子%を超えて含有し、
結晶構造が、互いに直交する3軸からなる単位構造を有し、最も短いc軸方向を法線とする平面に射影した原子配置において、Sn原子4個を頂点とする中空の四角形構造を有することを特徴とする光機能材料。
【請求項4】
SnおよびOを合計で80原子%を超えて含有し、
結晶構造が、互いに直交する3軸からなる単位構造を有し、該3軸から形成される[111]方向を法線とする平面に射影した原子配置において、最も短いc軸方向を該平面に射影した方向に対してSn原子2個からなるダンベル構造におけるSn原子同士を結ぶ方位が平行となる原子配置と、最も短いc軸方向を該平面に射影した方向に対してSn原子2個からなるダンベル構造におけるSn原子同士を結ぶ方位が直交となる原子配置とを有していることを特徴とする光機能材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Sn酸化物からなる光機能材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上述のSn酸化物は、紫外線照射によって光触媒活性を示す材料であり、光エネルギーによる有用物質製造や環境浄化関連分野、太陽電池、光センサ分野において使用される光機能材料として使用されている。
ここで、Sn酸化物は、可視光域における吸収率が低いことから、可視光域で使用した場合に十分な光学特性を発揮することができないおそれがあった。
【0003】
そこで、特許文献1においては、可視光域における光学特性に優れた光機能材料として、2価の無機スズ塩と、チタン(IV)およびジルコニウム(IV)からなる群より選択されるd-ブロック金属のアルコキシドとを、アルカリ条件下で水熱処理することによって形成されるスズ/d-ブロック金属複合体材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4240310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に開示されているように、可視光域における光学特性を向上させるために、Sn,O以外の添加元素を添加する場合には、製造工程が複雑となり、製造コストが高くなるといった問題があった。特に、有害元素や高価な希少元素を添加する場合には、これらの元素の管理が難しく、製造コストがさらに高くなる傾向にある。
そこで、Sn,O以外の元素の含有量が少なくても、可視光域における光学特性に優れた光学機能材料が求められている。
【0006】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、Sn酸化物で構成され、可視光に対しても十分な性能を発現する光機能材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討した結果、Sn酸化物の結晶構造を特定の構造に制御することにより、可視光域における光吸収特性が向上するとの知見を得た。本発明は、この知見に基づいてなされたものである。
【0008】
本発明の一態様に係る光機能材料は、SnおよびOを合計で80原子%を超えて含有し、CuKα線を用いたX線回折測定において、2θ=27.5±1.0°、29.4±1.0°、32.8±1.5°、35.9±1.0°にピークを有していることを特徴としている。
【0009】
また、本発明の一態様に係る光機能材料は、SnおよびOを合計で80原子%を超えて含有し、CuKα線を用いたX線回折測定において、2θ=27.5±1.0°、29.4±1.0°、32.8±1.5°、35.9±1.0°にピークを有し、さらに2θ=46.0±0.7°、47.2±0.7°、50.4±0.7°、51.8±0.7°、54.2±1.0°、59.8±1.0°、62.8±1.0°、70.1±1.0°のうちの1箇所以上の位置にピークを有していることを特徴としている。
【0010】
さらに、本発明の一態様に係る光機能材料は、SnおよびOを合計で80原子%を超えて含有し、結晶構造が、互いに直交する3軸からなる単位構造を有し、最も短いc軸方向を法線とする平面に射影した原子配置において、Sn原子4個を頂点とする中空の四角形構造を有することを特徴としている。
【0011】
また、本発明の一態様に係る光機能材料は、SnおよびOを合計で80原子%を超えて含有し、結晶構造が、互いに直交する3軸からなる単位構造を有し、該3軸から形成される[111]方向を法線とする平面に射影した原子配置において、最も短いc軸方向を該平面に射影した方向に対してSn原子2個からなるダンベル構造におけるSn原子同士を結ぶ方位が平行となる原子配置と、最も短いc軸方向を該平面に射影した方向に対してSn原子2個からなるダンベル構造におけるSn原子同士を結ぶ方位が直交となる原子配置とを有していることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明の光機能材料によれば、X線回折パターンおよび結晶構造が上述のように規定されていることから、SnおよびOを合計で80原子%を超えて含有する組成とされていても、可視光域での光吸収特性に特に優れている。
よって、本発明によれば、Sn酸化物で構成され、可視光に対しても十分な性能を発現する光機能材料を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態である光機能材料を構成するSn酸化物のEDS測定結果の一例である。
図2】本実施形態である光機能材料を構成するSn酸化物の原子数比率Sn/Oを示すグラフである。
図3】従来のSn酸化物の結晶構造の模式図である。
図4】リートベルト解析によるフィッティング結果とX線回折測定結果を示す図である。
図5】本実施形態である光機能材料を構成するSn酸化物の結晶構造の模式図である。
図6】本実施形態である光機能材料を構成するSn酸化物のHAADF-STEMによる観察写真である。
図7】本実施形態である光機能材料を構成するSn酸化物の光吸収特性を示すグラフである。
図8】本実施形態である光機能材料を構成するSn酸化物の価電子エネルギー端の計測結果を示すグラフである。
図9】本実施形態である光機能材料の製造実験の結果を示すグラフである。
図10】本実施形態である光機能材料の製造実験の結果を示すグラフである。
図11】本実施形態である光機能材料を光触媒として使用した場合の二酸化炭素(CO)の還元試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の一実施形態である光機能材料について、添付した図を参照して説明する。
本発明の一実施形態である光機能材料は、例えば、太陽電池、光触媒、光センサ等に好適に用いられるものである。
【0015】
本実施形態である光機能材料は、SnおよびOを合計で80原子%を超えて含有するSn酸化物で構成されている。また、本実施形態においては、SnとOの原子数比率Sn/Oが70%以上80%未満の範囲内とされていることが好ましい。
なお、SnおよびOの合計含有量は90原子%以上であることが好ましく、95原子%以上であることがより好ましく、99原子%以上であることがさらに好ましい。
また、SnとOの原子数比率Sn/Oの下限は71%以上であることがより好ましく、72%以上であることがさらに好ましい。一方、SnとOの原子数比率Sn/Oの上限は79%以下であることがより好ましく、78%以下であることがさらに好ましい。
なお、本実施形態である光機能材料は、原材料の不純物、製造工程、後工程、試料評価時の取り扱い、機能性評価、機能性付与、基板・基体、容器などに起因した不可避的あるいは意図的な要因にて、H、Li、Be、B、C、N、F、Na、Mg、Al、Si、P、S、Cl、K、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、As、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sb、ランタノイド、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Pb、Biの中から選ばれる1種または2種以上を、合計で20原子%未満の範囲で含んでいてもよい。
【0016】
ここで、本実施形態である光機能材料のEDS測定結果の一例を図1に示す。なお、EDS測定は、JEOL社のJEM-ARM200Fにて、JED-2300T検出器を用い、加速電圧200kVのSTEMモードにて実施した。
図1に示すように、本実施形態である光機能材料は、SnおよびOを合計で80原子%を超えて含有している。また、SnとOの原子数比率Sn/Oが70%以上80%未満の範囲内とされている。
ここで、本実施形態である光機能材料についてSnとOの原子数比率Sn/Oを測定した結果を図2に示す。原子数比率Sn/Oの平均値が76.2%となっている。
すなわち、本実施形態である光機能材料においては、上述の原子数比率Sn/Oを最も近接する整数比とすると、Snで構成されているものといえる。以下、本実施形態である光機能材料を構成するSn酸化物をSnと記載することがある。
【0017】
本発明の光機能材料であることは、例えば、X線回折装置を用いて回折ピークを測定することで確認することができる。X線回折装置として、例えば、リガク株式会社のSmartLabを用い、CuKα線を入射X線とし、Out-of-Plane法、すなわち、θ/2θ法や、In-Plane法で回折強度のピークを測定することができる。入射X線は集中法、ならびに、平衡ビーム法を用いても構わない。X線回折測定に用いる試料は、粉末状、薄膜状、バルク状でも測定可能である。また、本発明の機能性材料のX線回折ピークを特定することができれば、前記リガク株式会社のX線回折装置に限定する必要は無い。
【0018】
そして、本実施形態である光機能材料を構成するSn酸化物(Sn)においては、CuKα線を用いたX線回折測定において、2θ=27.5±1.0°、29.4±1.0°、32.8±1.5°、35.9±1.0°にピークを有している。
また、本実施形態である光機能材料を構成するSn酸化物(Sn)においては、CuKα線を用いたX線回折測定において、2θ=27.5±1.0°、29.4±1.0°、32.8±1.5°、35.9±1.0°にピークを有し、さらに2θ=46.0±0.7°、47.2±0.7°、50.4±0.7°、51.8±0.7°、54.2±1.0°、59.8±1.0°、62.8±1.0°、70.1±1.0°のうちの1箇所以上の位置にピークを有している。
また、本実施形態である光機能材料を構成するSn酸化物(Sn)においては、CuKα線を用いたX線回折測定において、2θ=27.5±0.5°、29.4±0.5°、32.8±0.5°、35.9±1.0°にピークを有することが好ましい。
また、本実施形態である光機能材料を構成するSn酸化物(Sn)においては、CuKα線を用いたX線回折測定において、2θ=27.5±0.2°、29.4±0.2°、32.8±0.2°、35.9±0.5°にピークを有することが更に好ましい。
すなわち、本実施形態である光機能材料を構成するSn酸化物(Sn)においては、従来のSn酸化物(Sn)とは、X線回折測定おけるピーク位置が異なっており、結晶構造が異なっていることになる。
【0019】
ここで、従来のSn酸化物(Sn)の結晶構造については、J.Wang,et al., Adv. Energy Mater., 6, 201501190 (2016)の図1(a)に開示されている。図3に、従来のSn酸化物(Sn)の結晶構造の模式図を示す。
従来のSn酸化物(Sn)においては、Sn原子に挟まれたO原子が存在しない平板状の空隙(図3の矢印で示す部分)が存在していることが確認される。
【0020】
次に、CuKα線を用いたX線回折測定において、2θ=27.5±1.0°、29.4±1.0°、32.8±1.5°、35.9±1.0°にピークを有するSn酸化物(Sn)の結晶構造を、リートベルト解析により導出した。さらには2θ=27.5±1.0°、29.4±1.0°、32.8±1.5°、35.9±1.0°にピークを有し、さらに2θ=46.0±0.7°、47.2±0.7°、50.4±0.7°、51.8±0.7°、54.2±1.0°、59.8±1.0°、62.8±1.0°、70.1±1.0°のうちの1箇所以上の位置にピークを有するSn酸化物(Sn)の結晶構造を、リートベルト解析により導出した。
なお、リートベルト解析は、ソフトウェア(Fullprof.)を用いて実施し、解析の初期構造としてはSn(PbOの結晶構造のPbをSnに置き換えた構造を用いた。この初期構造としては、非特許文献 J.R.Gavarri, et al., J. Solid State Chem. 36, 81 (1981)から得られる300Kの原子座標を使用し、原子位置、ピークの形、ピーク強度、バックグラウンドなどのパラメータの制約を一つずつ外して精密化し、その後徐々に制約解除するパラメータを増やして精密化した結果、上記のフィッティング結果が得られた。
【0021】
図4に、リートベルト解析によるフィッティング結果(fitted intensity)とX線回折測定結果(raw data)との比較したものを示す。Error bar はraw dataとfitted intensityの差を表すが、その差は小さい。
したがって、得られた結晶構造に対するX線回折測定のフィッティング結果は、本実施形態である光学機能材料を構成するSn酸化物(Sn)のX線回折測定結果を極めて良く再現することができた。
【0022】
次に、リートベルト解析により得られた結晶構造が安定に存在し得るかどうかを確認するため、以下のように第一原理計算を実施した。
平面波基底と擬ポテンシャルを用いた第一原理計算を用いた。第一原理計算のソフトウェアとしてはQuantum Espresso ver.6.7Max, 擬ポテンシャルとしてはノルム保存型のpbe-mt_fhiのタイプを選び、交換相関相互作用としてPBE、分散力XDMを用い、さらに収束性を確認した結果、波動関数のカットオフエネルギーを80Ry、電子密度のカットオフエネルギーを320Ry、k点サンプリングはMonkhorst-Pack形で(4,4,4)で分割し、得られた分割点をサンプリング間隔の半分の大きさのベクトル成分だけ逆格子空間内でシフトさせた。
上述のJ.Wang,et al., Adv. Energy Mater., 6, 201501190 (2016)においては、「Sn原子に挟まれたO原子が存在しない平板状の空隙」を計算するために分散力が重要であることが指摘されている。
【0023】
そこで、分散力として、A. D. Becke and E. R. Johnson,J. Chem. Phys.127, 154108 (2007); ibid, 124108 (2007).に記載されたXDMを採用し、詳細な結晶構造が報告されているα-SnOとルチル構造のSnOの結晶構造を再現するXDMのパラメータを決定することにより、その間の原子数比率Sn/Oを有するSnの結晶構造の安定性を確認した。
第一原理計算による結晶構造の評価に用いる分散力XDMに対し、パラメータセット(a1=0.9、a2=1.4)が得られた。このパラメータを用いた表1および表2の結果からSn-O混合価数系の範囲内で未知の結晶構造に対する予言性を有する計算条件が得られたと判断した。なお、表1および表2における「文献値」は、J.Wang,et al., Adv. Energy Mater., 6, 201501190 (2016)に記載された数値である。
【0024】
【表1】
【0025】
【表2】
【0026】
上記の手順で計算を実行し、CuKα線を用いたX線回折測定における2θ=27.5±1.0°、29.4±1.0°、32.8±1.5°、35.9±1.0°にピークを有し、さらに2θ=46.0±0.7°、47.2±0.7°、50.4±0.7°、51.8±0.7°、54.2±1.0°、59.8±1.0°、62.8±1.0°、70.1±1.0°のうちの1箇所以上の位置にピークを有するSn酸化物(Sn)に対し、第一原理計算においてエネルギー的に安定であると確認できた結晶構造は、図5に示すように、互いに直交する3軸からなる単位構造を有し、最も短いc軸方向を法線とする平面に射影した原子配置において、Sn原子4個を頂点とする中空の四角形構造を有することが確認された。
なお、本発明においては、「直交」は90°±3°とし、 「平行」は0°±3°とする。また、図5において、大きな球体がSn原子、小さな球体がO原子を表す。
【0027】
また、CuKα線を用いたX線回折測定における2θ=27.5±1.0°、29.4±1.0°、32.8±1.5°、35.9±1.0°にピークを有し、さらに2θ=46.0±0.7°、47.2±0.7°、50.4±0.7°、51.8±0.7°、54.2±1.0°、59.8±1.0°、62.8±1.0°、70.1±1.0°のうちの1箇所以上の位置にピークを有するSn酸化物(Sn)に対し、高角散乱環状暗視野走査透過顕微鏡法(HAADF-STEM)によるSn原子像の評価を実施した。
なお、HAADF-STEM測定は、 JEOL社のJEM-ARM200Fを用い、加速電圧200kVのSTEMモードにてSn原子像を測定した。Cu製マイクログリッドに粉末状サンプルを分散したものをSTEM観察用試料として用いた。
【0028】
その結果、図6に示す通り、電子密度の高いSn原子の配列が観測され、本実施形態である光機能材料を構成するSn酸化物(Sn)は、互いに直交する3軸からなる単位構造を有し、該3軸から形成される[111]方向を法線とする平面に射影した原子配置において、最も短いc軸方向を該平面に射影した方向に対してSn原子2個からなるダンベル構造におけるSn原子同士を結ぶ方位が平行となる原子配置と、最も短いc軸方向を該平面に射影した方向に対してSn原子2個からなるダンベル構造におけるSn原子同士を結ぶ方位が直交となる原子配置とを有することが確認された。
なお、図6の模式図において、大きな球体がSn原子、小さな球体がO原子を表す。
【0029】
次に、従来のSn酸化物(Sn)と本実施形態である光機能材料を構成するSn酸化物(Sn)について、紫外・可視分光光度計による従来のSn酸化物(Monoclinic)と本実施形態である光機能材料を構成するSn酸化物(Orthorhombic)の光吸収特性を評価した。結果を図7に示す。
なお、紫外・可視分光光度計は、日本分光株式会社のV-670を用い、積分球ユニットを用いた拡散反射法で、波長範囲300~800nmを測定した。測定に際し、硫酸バリウムの粉末を標準試料として用い、拡散反射率のキャリブレーションを行った。
図7に示すように、本実施形態である光機能材料を構成するSn酸化物(Sn)においては、従来のSn酸化物(Sn)に比べて、可視光域での光吸収特性に優れていることが確認される。
【0030】
また、本実施形態の光機能材料である(Orthorhombic)Snのイオン化ポテンシャル、すなわち、価電子帯のエネルギー準位を評価検討するため、理研計器の大気中光電子収量分光装置(Photoemission Yield Spectroscopy (PYS), 装置名:AC-3)を用い、室温、大気雰囲気にて粉末状のサンプルの価電子エネルギー端の計測を行った。結果を図8に示す。
図8に示すように、本実施形態の光機能材料である(Orthorhombic)Snの価電子帯の準位は、従来型(Monoclinic)Snよりも浅く、より小さい光エネルギーで電子を励起できる。すなわち、前記光吸収スペクトルにおいて、本実施形態の光機能材料である(Orthorhombic)Snのほうが、従来型(Monoclinic)Snよりも多くの可視光を吸収できた結果と矛盾しないことがわかった。バンドギャップが狭くて光触媒としての性能が低いSnOは低エネルギー側、バンドギャップが広くて可視光応答性を有しないSnOは高エネルギー側に価電子エネルギー端が存在し、従来型(Monoclinic)Snはその中間に存在する。それらに対して、本実施形態の光機能材料である(Orthorhombic)Snは、SnOとほぼ同じ位置に価電子エネルギー端が存在し、可視光応答性を有しかつ光触媒としての性能を有する特徴を示唆する結果が得られた。
【0031】
ここで、本実施形態である光機能材料を構成するSn酸化物(Sn)が従来のSn酸化物(Sn)に比べて、可視光域での光吸収特性に優れている理由は、以下のように推測される。
従来のSn酸化物(Sn)においては、図3に示すように、Sn原子に挟まれたO原子が存在しない平板状の空隙が存在している。このように、平板上の空隙に面したSn原子の電子状態では、Sn原子同士の相互作用の働きが弱まる。
一方、本実施形態である光機能材料を構成するSn酸化物(Sn)においては、図5に示すように、Sn原子4個を頂点とする中空の四角形構造を有している。このように、中空の四角形の空隙に面したSn原子は、Sn原子同士の相互作用の働きが強まる。これにより、従来のSn酸化物(Sn)よりも可視光領域での光吸収特性が増強されたものと考えられる。
【0032】
また、本実施形態である光機能材料を構成するSn酸化物(Sn)においては、図6に示すように、互いに直交する3軸からなる単位構造を有し、該3軸から形成される[111]方向を法線とする平面に射影した原子配置において、最も短いc軸方向を該平面に射影した方向に対してSn原子2個からなるダンベル構造におけるSn原子同士を結ぶ方位が平行となる原子配置と、最も短いc軸方向を該平面に射影した方向に対してSn原子2個からなるダンベル構造におけるSn原子同士を結ぶ方位が直交となる原子配置によって、Sn原子同士の相互作用の働きにより、可視光に対する応答性が向上するものと考えられる。
【0033】
次に、本実施形態である光機能材料の製造実験例について説明する。
塩化第二スズ二水和物( SnCl2・2H2O )0.90 gと、クエン酸三ナトリウム二水和物( Na3(C3H5O(COO)3) ・ 2H2O )2.94 g を10mLの純水中に溶解した。この溶液に、0.2 mol/L の水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液 10 mL を加え、攪拌し所望の濃度の原料液を得た。この水溶液を、100mLの内容積のテフロン(登録商標)製(三愛科学社製平底テフロン(登録商標)容器)の水熱反応容器に加えて水熱反応を行うが、容器内に水溶液を充填する割合(Fill Factor, %)によって、結晶相をコントロールすることができる。
【0034】
Fill factorを変える実験では、前記溶液組成が一定のもと、溶液総量を適宜増減したうえ、原料液として合成に用いる。具体的には、前記原料液のFill Factor を20%,40%,60%、80%として、容器内を原料溶液と残部の大気で満たし、180℃×12時間の水熱合成を行った。水熱反応後は直ちに容器を水冷して冷却し、試料を濾過、乾燥して粉末状のサンプルを合成してXRDを測定した。
【0035】
図9に示すように、Fill Factorが40%以上の条件で、CuKα線を用いたX線回折測定において、2θ=27.5±1.0°、29.4±1.0°、32.8±1.5°、35.9±1.0°にピークを有するSn酸化物(Sn)が得られた。
特に、Fill Factorが60%以上の条件では2θ=27.5±1.0°、29.4±1.0°、32.8±1.5°、35.9±1.0°にピークを有し、さらに2θ=46.0±0.7°、47.2±0.7°、50.4±0.7°、51.8±0.7°、54.2±1.0°、59.8±1.0°、62.8±1.0°、70.1±1.0°のうちの1箇所以上の位置にピークを有するSn酸化物(Sn)が得られた。
【0036】
また、Fill factor 20%の条件で、水熱反応容器の上記において大気で満たしたヘッドスペースに対して、大気、酸素、窒素の条件で同様に水熱合成を行った。
この結果、図10に示すように、窒素雰囲気の場合に、CuKα線を用いたX線回折測定において、2θ=27.5±1.0°、29.4±1.0°、32.8±1.5°、35.9±1.0°にピークを有し、さらに2θ=46.0±0.7°、47.2±0.7°、50.4±0.7°、51.8±0.7°、54.2±1.0°、59.8±1.0°、62.8±1.0°、70.1±1.0°のうちの1箇所以上の位置にピークを有するSn酸化物(Sn)が得られた。
【0037】
これらの実験結果から、水熱合成時において、容器内に水溶液を充填した際の水溶液以外の空間における酸素量を制御することによって、生成するSn酸化物(Sn)の結晶構造が変化すると推測される。
【0038】
次に。本実施形態である光機能材料を光触媒として用いた場合の効果を確認するために、可視光照射下における二酸化炭素(CO)の還元試験を実施した。評価結果を図11に示す。
閉鎖系のガラス製リアクター(光照射のための窓板は石英を使用)を用い、40mLの純水、10mLのトリエタノールアミン(TEAOH)、本実施形態である光機能材料の粉末0.1gを、リアクター内で撹拌子を用いて混合した。混合の際、COガス(G1グレード)を、ガラスチューブを用いて30分間バブリングした。
【0039】
その後、キセノンランプ(ハヤシレピック製、LA-410UV-3, 出力: 150W)を、紫外線カットオフフィルター(430nmカットオフ)を介して石英窓から本実施形態である光機能材料の粉末が分散した溶液に照射した。
所定時間ごとに、リアクター内のヘッドスペースにある気体1mLをガスタイトシリンジ( VICI Pressure-Lok syringe)を用いて採取し、バリア放電イオン化検出器を搭載したガスクロマトグラフ(Shimadzu BID-2010)を用いてCOの濃度を分析した。なお、すべての評価は約25℃の室温で実施した。
【0040】
図11に示すように、可視光の照射によりCOの発生が確認されており、本実施形態である光機能材料が、光触媒として有効に使用可能であることが確認された。
還元した生成物である一酸化炭素(CO)は、合成ガスを構成する付加価値の高いガスである。このため、可視光域で優れた光触媒活性を有する本実施形態である光機能材料は、温暖化ガスである二酸化炭素を原料として、可視光域での光触媒として用いることで、一酸化炭素(CO)を生成することができ、特に有用である。
【0041】
以上のように、本実施形態である光機能材料においては、Sn酸化物(Sn)であっても、特定の結晶構造を有することにより、可視光域における光学特性に優れていることが確認された。
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