(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023114825
(43)【公開日】2023-08-18
(54)【発明の名称】レーダシステム及びレーダ信号処理方法
(51)【国際特許分類】
G01S 13/66 20060101AFI20230810BHJP
【FI】
G01S13/66
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022017363
(22)【出願日】2022-02-07
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中川 陽介
(72)【発明者】
【氏名】栗原 秀輔
(72)【発明者】
【氏名】竹谷 晋一
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AB07
5J070AH02
5J070AH12
5J070AH31
5J070AH35
5J070AK40
(57)【要約】
【課題】 長時間積分時にも、少ない処理規模で高効率に積分を行ってロスを低減する。
【解決手段】 実施形態によれば、送信系統から送信される単パルスまたは変調したN(N≧2)パルスの反射波を受信系統で受信し、slow-time軸でコヒーレント積分処理するレーダシステムにおいて、前記受信系統で、受信信号のCPIをM(M≧2)分割し、M通りの分割単位でレンジ-ドップラデータを生成して反射点のセルを仮検出し、分割CPI毎のQ(Q≧1)個の各々の仮検出セルに対して分割CPI間の相関処理し、位相を0度から360度までP(P≧1)通り変化させて加算し、位相探索処理によってその加算結果が最大になる位相項を用いてベクトル合成し、そのベクトル合成結果を用いて目標を検出する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信系統から送信される単パルスまたは変調したN(N≧2)パルスの反射波を受信系統で受信し、slow-time軸でコヒーレント積分処理するレーダシステムであって、
前記受信系統で、受信信号のCPI(Coherent Pulse Interval)をM(M≧2)分割し、M通りの分割単位でレンジ-ドップラデータを生成して反射点のセルを仮検出し、分割CPI毎のQ(Q≧1)個の各々の仮検出セルに対して分割CPI間の相関処理し、位相を0度から360度までP(P≧1)通り変化させて加算し、位相探索処理によってその加算結果が最大になる位相項を用いてベクトル合成し、そのベクトル合成結果を用いて目標を検出するレーダシステム。
【請求項2】
前記受信系統は、前記M通りの分割単位でRDデータを生成して反射点のセルを仮検出した後、さらに各分割単位でクラスタ分析を行ってQ(Q≧1)個のクラスタを抽出し、各々のクラスタに対して、分割CPI間の相関処理後、位相を0度から360度までP(P≧1)通り変化させて加算し、その加算結果が最大になる位相項を用いてベクトル合成し、そのベクトル合成結果を用いて目標を検出する請求項1記載のレーダシステム。
【請求項3】
前記受信系統は、前記位相探索処理として、M通りの分割単位を順にmとm+1(m=1~M-1)の2通りのCPIを選定して、位相を0度から360度までP(P≧1)通り変化させて加算し、加算した結果が最大になる位相項を用いてベクトル合成し、ベクトル合成した結果を用いて目標検出する請求項1記載のレーダシステム。
【請求項4】
前記受信系統は、前記位相探索処理として、M通りの分割単位を用いて、位相を0度から360度までP(P≧1)通り変化させて、P(M-1)通りの加算結果が最大になる位相項を用いてベクトル合成し、ベクトル合成した結果を用いて目標を検出する請求項1記載のレーダシステム。
【請求項5】
前記受信系統は、前記位相探索処理として、各CPI分割単位において、slow-time軸でコヒーレント積分する際に、fast-time軸でFFT処理してレンジ周波数軸に変換した後、レンジ周波数をQ(Q≧1)分割し、各々の帯域において、帯域のサンプル以外は0埋めした信号を逆FFTして狭帯域パルス圧縮した後、slow-time軸でFFT処理したQ通りの結果を振幅積分して仮検出し、仮検出結果より、位相探索によりレンジウォーク補正した各CPI分割単位RDデータを用いて位相探索積分をする請求項1記載のレーダシステム。
【請求項6】
送信系統から送信される単パルスまたは変調したN(N≧2)パルスの反射波を受信系統で受信し、slow-time軸でコヒーレント積分処理するレーダ信号処理方法であって、
前記受信系統で、受信信号のCPI(Coherent Pulse Interval)をM(M≧2)分割し、M通りの分割単位でレンジ-ドップラデータを生成して反射点のセルを仮検出し、分割CPI毎のQ(Q≧1)個の各々の仮検出セルに対して分割CPI間の相関処理し、位相を0度から360度までP(P≧1)通り変化させて加算し、位相探索処理によってその加算結果が最大になる位相項を用いてベクトル合成し、そのベクトル合成結果を用いて目標を検出するレーダ信号処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、遠距離の小目標を検出するレーダシステム及びレーダ信号処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のレーダシステムでは、積分ヒット数が多い場合や、PRI(Pulse Repetition Interval)が長くCPI(Coherent Pulse Interval)が長い長時間積分を行うと、レンジウォークやドップラウォークにより、積分ロスが生じる課題があった。
【0003】
この対策のために、例えば特許文献1に開示される積分系列最大化手法、特許文献2に開示される積分系列最大化(速度・加速度補正)がある。特許文献1の手法は、チャープ帯域全体を利用し、レンジ周波数軸に0埋め処理を施して擬似的に高分解能化した上で、slow-time軸の積分系列を探索法で最大化する手法である。しかしながら、この手法では、レンジウォークが大きい場合は、探索法の範囲が増えることになり、処理規模が増大してしまう。また、特許文献2の手法は、速度及び加速度の探索法で、積分系列を最大化する手法である。しかしながら、この手法でも、やはりレンジウォークが大きい場合は、探索法の範囲が増えて、処理規模が増大してしまう問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4881239号公報
【特許文献2】特許第5025403号公報
【特許文献3】特許第5072694号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】SAR方式(パルス圧縮) 大内、‘リモートセンシングのための合成開口レーダの基礎’、東京電機大学出版局、pp.131-149(2003)
【非特許文献2】CFAR(Constant False Alarm Rate:定誤警報率)、吉田、‘改訂レーダ技術’、電子情報通信学会、pp.87-89 (1996)
【非特許文献3】DBSCAN(Density-based Spatial Clustering of Applications with Noise)、Sebastian Raschka、‘Python機械学習プログラミング’、インプレス、pp.319-323 (2016)
【非特許文献4】相関追尾、吉田、‘改訂レーダ技術’、電子情報通信学会、pp.254-259 (1996)
【非特許文献5】NN(Nearest Neighbour)相関処理、Samuel S. Blackman、 ‘Design and Analysis of Modern Tracking Systems’、Artech House、pp.8-11 (1999)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上述べたように、従来のレーダシステムでは、長時間積分を行うと、レンジウォークやドップラウォークにより、積分ロスが生じる課題があった。積分系列を最大化する手法レンジウォークが大きい場合は、探索法の範囲が増えて、処理規模が増える問題がある。
【0007】
本実施形態の課題は、長時間積分時にも、少ない処理規模で、高効率に積分を行い、ロスを低減することのできるレーダシステム及びレーダ信号処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本実施形態は、送信系統から送信される単パルスまたは変調したN(N≧2)パルスの反射波を受信系統で受信し、slow-time軸でコヒーレント積分処理するレーダシステムであって、前記受信系統で、受信信号のCPI(Coherent Pulse Interval)をM(M≧2)分割し、M通りの分割単位でレンジ-ドップラ(RD)データを生成して反射点のセルを仮検出し、分割CPI毎のQ(Q≧1)個の各々の仮検出セルに対して、分割CPI間の相関処理後、位相を0度から360度までP(P≧1)通り変化させて加算し、その加算結果が最大になる位相項を用いてベクトル合成し、そのベクトル合成結果を用いて目標を検出する。すなわち、長時間のCPIを分割して、各々の分割単位で積分することで、レンジウォークの影響を小さくし、さらに分割CPI間を位相探索して積分することで、効率よく全CPIにおける積分を行う。
【0009】
前記受信系統としては、前記M通りの分割単位でRDデータを生成して反射点のセルを仮検出した後、さらに各分割単位でクラスタ分析を行ってQ(Q≧1)個のクラスタを抽出し、各々のクラスタに対して、分割CPI間の相関処理後、位相を0度から360度までP(P≧1)通り変化させて加算し、その加算結果が最大になる位相項を用いてベクトル合成し、そのベクトル合成結果を用いて目標を検出する。すなわち、長時間のCPIを分割して、各々の分割単位で積分することで、レンジウォークの影響を小さくし、さらにクラスタ分析により誤検出を低減したうえで、分割CPI間を位相探索して積分することで、効率よく全CPIにおける積分を行う。
【0010】
前記位相探索法としては、M通りの分割単位を順にmとm+1(m=1~M-1)の2通りのCPIを選定して、位相を0度から360度までP(P≧1)通り変化させて加算し、加算した結果が最大になる位相項を用いてベクトル合成し、ベクトル合成した結果を用いて目標検出する。すなわち、分割CPI間の積分の際の位相探索において、分割CPIの隣接する2通り毎に位相探索することで、高速目標のように分割CPI間でレンジ-ドップラセルの移動量が大きい場合でも効率よく積分でき、また位相探索のテーブルを小さくでき、処理規模を低減できる。
【0011】
また、前記位相探索法としては、M通りの分割単位を用いて、位相を0度から360度までP(P≧1)通り変化させて、P(M-1)通りの加算結果が最大になる位相項を用いてベクトル合成し、ベクトル合成した結果を用いて目標を検出する。すなわち、分割CPI間の積分の際の位相探索において、全分割CPIに対する探索位相のテーブルを持つことで、全CPI間で最適な位相探索を実施し、積分効率を向上させることが可能となる。
【0012】
また、前記位相探索法としては、各CPI分割単位において、slow-time軸でコヒーレント積分する際に、fast-time軸でFFT処理してレンジ周波数軸に変換した後、レンジ周波数をQ(Q≧1)分割し、各々の帯域において、帯域のサンプル以外は0埋めした信号を逆FFT(狭帯域パルス圧縮)した後、slow-time軸でFFT処理したQ通りの結果を振幅積分して仮検出し、仮検出結果より、探索法によりレンジウォーク補正した各CPI分割単位RDデータを用いて位相探索積分をする。すなわち、狭帯域化により、レンジ分解能を低減し、レンジウォークの影響を軽減した上で、CFARにより反射点を仮検出し、広帯域のレンジ高分解能データを用いて、仮検出によるサーチ範囲を限定して処理規模を低減した後に、レンジウォーク補正してslow-time軸でFFT処理することで、分割CPI内でも効率よく積分することができ、その後の分割単位間の位相探索積分と組み合わせることで、全CPIに対する積分効率を最大化することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、第1の実施形態に係るレーダシステムの送信系統及び受信系統それぞれの構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、第1の実施形態に係るレーダシステムの受信系統の処理手順を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、第1の実施形態において、受信系統の処理動作を示す概念図である。
【
図4】
図4は、第1の実施形態に適用されるNN相関処理による追跡処理の様子を示す図である。
【
図5】
図5は、第2の実施形態に係るレーダシステムの送信系統及び受信系統それぞれの構成を示すブロック図である。
【
図6】
図6は、第2の実施形態に係るレーダシステムの受信系統の処理手順を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、第2の実施形態において、受信系統の処理動作を示す概念図である。
【
図8】
図8は、第2の実施形態に適用されるDBSCANによるクラスタ分析手法を示す図である。
【
図9】
図9は、第3の実施形態に係るレーダシステムの受信系統に適用される位相探索法の処理の流れを示すフローチャートである。
【
図10】
図10は、第4実施形態に係るレーダシステムの受信系統に適用される位相探索法の処理の流れを示すフローチャートである。
【
図11】
図11は、第5の実施形態に係るレーダシステムの送信系統及び受信系統それぞれの構成を示すブロック図である。
【
図12】
図12は、第5の実施形態に係るレーダシステムの受信系統の処理手順を示すフローチャートである。
【
図13】
図13は、第5の実施形態の受信系統に適用されるレンジウォーク補正の処理手順を示すフローチャートである。
【
図14】
図14は、第5の実施形態の受信系統において、通常のパルス圧縮処理を用いた場合の処理例を示す図である。
【
図15】
図15は、第5の実施形態の受信系統に適用されるレンジウォーク補正の処理例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、実施形態について、図面を参照して説明する。
【0015】
(第1の実施形態)
図1乃至
図4を参照して、第1の実施形態について説明する。
【0016】
図1は第1の実施形態に係るレーダシステムの構成を示すブロック図で、(a)が送信系統の構成を示すブロック図、(b)が受信系統の構成を示すブロック図である。
【0017】
図1(a)に示す送信系統では、信号生成器11で送信種信号を生成し、変調器12で送信種信号に伝送情報を変調多重し、周波数変換器13で変調信号を高周波信号に変換し、パルス変調器14で高周波信号をパルス変調して送信パルス列を生成し、送信アンテナ15からN(N≧2)ヒットのパルスをPRI(Pulse Repetition Interval:パルス繰り返し周期)間隔で送信する。
【0018】
図1(b)に示す受信系統では、送信アンテナ15から送信されたパルス信号の反射波を受信アンテナ21で受信し、その受信信号を周波数変換器22でベースバンドに周波数変換し、AD変換器23でディジタル信号に変換してCPI(Coherent Pulse Interval:コヒーレントパルス間隔)信号(fast-time及びslow-time信号)を得る。続いて、AD変換器23から出力されるCPI信号をCPI分割器24でM(M≧1)通りに分割し、パルス圧縮器25でCPI分割単位毎にパルス圧縮(非特許文献1参照)し、slow-time軸FFT処理器26でslow-time軸におけるFFT処理を行ってM通りのレンジ-ドップラ(RD)データを得る。次に、仮検出器27でCFAR(非特許文献2参照)等による仮検出処理を行って反射点観測値を持つセルを仮検出し、位相探索積分器28で仮検出セル間の類似度による相関処理を行って、仮検出数Q(Q≧1)個分の分割CPI間の相関結果を得て位相探索積分を行い、この位相探索積分の結果をもとのRDデータに置き換えた後、検出器29でCFAR等により目標を検出し、検出した目標の位置、速度等の目標情報を出力する。
【0019】
なお、上記の送信系統と受信系統は、一体であってもよいし、互いに離れた場所に設置されていてもよい。
【0020】
上記構成によるレーダシステムにおいて、
図2乃至
図4を参照してその処理動作を説明する。
図2は、本実施形態に係るレーダシステムの受信系統の処理手順を示すフローチャート、
図3は、本実施形態の受信系統の処理動作を示す概念図、
図4は、本実施形態に適用されるNN相関処理による追跡処理の様子を示す図である。
【0021】
上記送信系統で送信アンテナ15からPRI間隔でN(N≧2)ヒットのパルス信号が送信されると、上記受信系統では、送信パルス信号の反射波を受信アンテナ21で受信し、その受信信号を周波数変換器22でベースバンドに周波数変換し、AD変換器23でディジタル信号に変換してCPI信号を得て、
図2に示す信号処理を行う。この信号処理は、AD変換器23から出力されるCPI信号をCPI分割器24でM(M≧1)通りに分割し(ステップS11)、パルス圧縮器25で分割単位毎にパルス圧縮し(ステップS12)、slow-time軸FFT処理器26でslow-time軸におけるFFT処理を行ってM通りのRDデータを得て(ステップS13)、仮検出器27で各々のRDデータについてCFAR等により反射点観測値を持つセルを仮検出する(ステップS14)。
【0022】
上記ステップS12~S14の処理をCPI分割単位で順次実行し(ステップS15,S16)、全分割単位での処理が終了した場合には、位相探索積分器28において、入力されたRDデータについて仮検出セル間の類似度によって相関処理し(ステップS17)、仮検出数Q(Q≧1)個分の分割CPI間の相関結果を得て位相探索積分を行い(ステップS18~S20)、この分割CPI間における位相探索積分の結果をもとのRDデータに置き換える(CPI内のRDデータ合成)(ステップS21)。このようにして得られたRDデータ合成出力を検出器29に入力してCFAR等により目標を検出し、検出した目標の位置、速度等の目標情報を出力する(ステップS22)、一連の処理を終了する。
【0023】
ここで、上記信号処理における長時間積分方式について述べる。PRI間隔で送信したパルス毎に、PRI内のレンジセル単位でデータを取得すると、CPIが長い場合には目標のレンジウォークが発生する。この場合、slow-time軸でそのままFFT処理してもロスが発生するため、対策が必要となる。
【0024】
そこで、本実施形態では、
図3(a)に示すように、CPIをM(M≧1)通りに分割して、
図3(b)に示すように、各々のCPI分割単位毎にパルス圧縮、slow-time軸FFT処理を行ってM通りのRDデータを取得し、各々のRDデータについて、
図3(c)に示すように、CPI分割単位毎に探索積分を行って、
図3(d)に示すように、CFAR等により反射点観測値を仮検出する。この際、CPI分割単位毎ではRDデータのSN(信号対雑音電力比)が低いため、通常の振幅スレショルドより低めに設定して誤検出を許容することで、検出率を向上させる。このように、分割CPI毎に仮検出を行うと、分割CPIそれぞれの仮検出結果が異なる。このため、RDデータ上の仮検出セル間を類似度によって相関処理し、仮検出数Q(Q≧1)分の分割CPI間の相関結果を得る。例えば、分割CPI毎のQ個のRDデータがM系列あるとして、相関追跡処理(非特許文献4参照)を利用することで、仮検出毎のQ通りの相関結果を得ることができる。
【0025】
具体的には、
図4に示す一般的なNN(Nearest Neighbor)相関追跡処理(非特許文献5)を利用できる。このNN相関追跡処理は、各サイクルの平滑値を元に、想定する運動モデルを元にして次のサイクルの予測値を算出し、予測値を中心に相関ゲートを設定し、相関ゲート内の観測値の中で、予測値に最も近い観測値をNN値として抽出する。次に予測値とNN値を元に、平滑値を算出し、次のサイクルの予測値を算出する処理を繰り返す。複数の航跡(平滑値)がある場合には、以上の処理を航跡毎に繰り返す。本実施形態では、各サイクルが、slow-time軸を分割した各単位の順番に対応し、仮検出毎に各分割単位の対応をとるようにしている。このことから、長時間積分で分割CPIの時間が長く、各分割CPI間の仮検出セルが移動している場合でも、相関追跡処理により、正しく相関処理できるメリットがある。
【0026】
この仮検出毎のQ通りの分割CPI間の位相は互いに異なる。このため、ベクトル合成結果を得るために、位相探索積分を行う。この位相探索積分の具体的な手法については第3の実施形態、第4の実施形態で述べる。この位相探索積分の結果をもとのRDデータに置き換えた後、CFAR等により、目標検出する。
【0027】
上述したように、CPI分割単位毎にパルス圧縮及びslow-time軸FFT処理を行うと、CPI分割単位毎ではSNが低いため、目標以外にもクラッタ等による誤検出が発生する。これに対して、位相項を探索してベクトル合成することで、SNを向上させて目標を検出しやすくできる。
図3では、わかりやすいように各目標を1点で記述しているが、実際には1個の目標の周囲に複数のセルが含まれている。この積分結果をRDデータに置き換えて、CFARや複数の極大値検出等により高いSNで目標を検出することができる。
【0028】
以上のように、本実施形態に係るレーダシステムは、送信系統から送信される単パルスまたは変調したN(N≧2)パルスの反射波を受信系統で受信し、slow-time軸でコヒーレント積分処理するが、受信系統で、受信信号のCPIをM(M≧2)分割し、M通りの分割単位でRDデータを生成して反射点のセルを仮検出し、分割CPI毎のQ(Q≧1)個の各々の仮検出セルに対して、分割CPI間の相関処理後、位相を0度から360度までP(P≧1)通り変化させて加算し、その加算結果が最大になる位相項を用いてベクトル合成し、そのベクトル合成結果を用いて目標を検出する。このように、長時間のCPIを分割して、各々の分割単位で積分することで、レンジウォークの影響を小さくし、さらに分割CPI間を位相探索して積分することで、効率よく全CPIにおける積分を行うことができる。
【0029】
(第2の実施形態)
図5乃至
図8を参照して、第2の実施形態について説明する。
【0030】
図5は第2の実施形態に係るレーダシステムの送信系統及び受信系統それぞれの構成を示すブロック図で、(a)が送信系統の構成を示すブロック図、(b)が受信系統の構成を示すブロック図である。また、
図6は第2の実施形態に係るレーダシステムの受信系統の処理手順を示すフローチャートである。
図5及び
図6において、
図1及び
図2と同一部分には同一符号を付して示し、ここでは重複する説明を省略する。また、
図7は第2の実施形態において受信系統の処理動作を示す概念図、
図8は第2の実施形態に適用されるDBSCANによるクラスタ分析手法を示す図である。
【0031】
本実施形態において、第1の実施形態と異なる点は、
図5(b)の受信系統において、slow-time軸FFT処理器26と仮検出器27との間にクラスタ分析器30を配置し、
図6に示すように、slow-time軸FFT処理(ステップS13)の実施後、所定のクラスタ分析法によりクラスタ分析を行い(ステップS23)、その分析結果を仮検出器27に入力するようにしたことにある。第1の実施形態では、位相探索積分前の信号として、パルス圧縮とslow-time軸FFT処理のみを実施した場合について述べた。この場合、位相探索積分する際のレンジ-ドップラセルとしては、目標候補のみでなく、誤検出も含まれるため、その後の仮検出間の相関処理や位相探索積分処理の処理規模が増える。第2の実施形態では、その処理規模の増大を抑圧する手法として、分割CPI毎に、パルス圧縮及びslow-time軸FFT処理したRDデータに対してクラスタ分析を用いる。
【0032】
具体的には、
図7(a)に示すように、CPIをM(M≧2)通りに分割して、
図7(b)に示すように、各々のCPI分割単位毎にパルス圧縮、slow-time軸FFT処理を行ってM通りのRDデータを取得し、各々のRDデータについて、
図7(c)に示すようにクラスタ分析を行った後、
図7(d)に示すように探索積分を行った後、
図7(e)に示すようにCFAR等により反射点観測値を仮検出する。
【0033】
上記クラスタ分析を用いる手法としては、例えば
図8に示すDBSCAN(非特許文献3)がある。これは、コア点に対して半径ε内にMinPts点のボーダ点が存在するようにクラスタを形成する手法である。2つのパラメータである半径εとMinPts点数を設定することで、誤検出を抑圧することができる。
図7(c)では、この様子を示している。1個の目標の周囲には、複数の反射点があるが誤検出は少ないことを利用して、クラスタを抽出できていることがわかる。このクラスタを用いて、分割CPI間で相関処理し、各目標を対応付けた後、位相探索積分を用いるのは、第1の実施形態と同様である。クラスタの場合には、各々の目標に対して複数の反射点があるため、複数の反射点内で重心演算等をして1点にすれば、相関処理を簡易化できる。これにより、分割CPI毎のRDデータの中の目標を効率的に積分し、CFARや複数の極大値検出等によって検出することができる。
【0034】
以上のように、本実施形態では、前記受信系統において、M通りの分割単位でRDデータを生成して反射点のセルを仮検出した後、さらに各分割単位でクラスタ分析を行ってQ(Q≧1)個のクラスタを抽出し、各々のクラスタに対して、分割CPI間の相関処理後、位相を0度から360度までP(P≧1)通り変化させて加算し、その加算結果が最大になる位相項を用いてベクトル合成し、そのベクトル合成結果を用いて目標を検出する。このように、長時間のCPIを分割して、各々の分割単位で積分することで、レンジウォークの影響を小さくし、さらにクラスタ分析により誤検出を低減したうえで、分割CPI間を位相探索して積分することで、効率よく全CPIにおける積分を行うことが可能となる。
【0035】
(第3の実施形態)
第3の実施形態では、
図9を参照して、前述の位相探索法を具体例について述べる。
図9は、第3の実施形態に係るレーダシステムの受信系統に適用される位相探索法の処理の流れを示すフローチャートである。
図9において、
図6と同一部分には同一符号を付して示し、ここでは異なる部分について説明する。
【0036】
本実施形態の位相探索法は、
図9のステップS24~S29が該当する。すなわち、仮検出間相関を行った後(ステップS17)、位相補正積分による位相探索を行い(ステップS24)、0度から360度まで順次位相を変更して最大値となる位相を選定する(ステップS25~S27)。上記ステップS24~S27の処理をCPI分割単位で順次変更しつつ実行し(ステップS28,S29)、ステップS19に移行する。
【0037】
ここで、ステップS24の位相探索法としては、一般にはCPI分割単位毎のRDデータを生成した後、仮検出結果を用いて仮検出点毎に相関処理した後の処理となるが、本実施形態では、分割CPIを順に位相補正して加算する方式とする。これは、目標の移動速度が速く相関処理がうまく動作しない場合に、時間の離れていないRDデータを合成するには有利な手法と言える。すなわち、分割CPI番号m番目までの加算結果に対して、次のm+1番目のRDデータの位相を変えながら最大値になるように位相を探索する。この処理は次式で表現される。
【0038】
【数1】
このp通りの位相のうち、RDsum(m+1,q)が最大となるpを選定する。これを繰り返すとRDsum(M,q)(q=1~Q)が得られる。このRDsumにより、高いSNのRDデータを合成できるため、CFARや複数の極大値検出等による検出を行うことができる。
【0039】
以上のように、本実施形態に係る位相探索法では、M通りの分割単位を順にmとm+1(m=1~M-1)の2通りのCPIを選定して、位相を0度から360度までP(P≧1)通り変化させて加算し、加算した結果が最大になる位相項を用いてベクトル合成し、ベクトル合成した結果を用いて目標検出する。
【0040】
すなわち、分割CPI間の積分の際の位相探索において、分割CPIの隣接する2通り毎に位相探索することで、高速目標のように分割CPI間でレンジ-ドップラセルの移動量が大きい場合でも効率よく積分でき、また位相探索のテーブルを小さくでき、処理規模を低減することができる。
【0041】
(第4の実施形態)
第4の実施形態では、
図10を参照して、前述の位相探索法の具体例を述べる。
図10は、第3の実施形態に係るレーダシステムの受信系統に適用される位相探索法の処理の流れを示すフローチャートである。
図10において、
図6と同一部分には同一符号を付して示し、ここでは異なる部分について説明する。
【0042】
第3の実施形態では、位相探索積分の際に、分割CPIを順に用いる手法について述べた。これに対して、目標の移動速度が遅い場合には、分割CPI全体に渡って、位相補正して積分する手法も考えられる。第4の実施形態では、目標の移動速度が遅い場合の位相探索法について述べる。
【0043】
本実施形態の位相探索法は、
図10のステップS24、S25、S27、S30が該当する。すなわち、仮検出間相関を行った後(ステップS17)、位相補正積分による位相探索を行い(ステップS24)、分割CPI全体に渡って0度から360度までの範囲で予め設定された位相テーブルに従って位相を変更し(ステップS30)、最大値となる位相を選定する(ステップS27)。上記ステップS24、S25、S27、S30の処理を実行してステップS19に移行する。
【0044】
すなわち、本実施形態では、分割CPI番号m番目までの加算結果に対して、位相テーブルに示される次のm+1番目のRDデータの位相を変えながら最大値になるように位相を探索する。
【0045】
【0046】
探索用位相テーブルは、P(M-1)通りの位相テーブルとなる。このTAB通りの位相のうち、RDsum(tab,q)が最大となるtabを選定する。この場合はM個の分割CPI全体に渡り、同時に位相補正して積分するため、最適な積分を選定することができる。この最大値により、高いSNのRDデータを合成できるため、CFARや複数の極大値検出等による検出を行うことができる。
【0047】
以上のように、本実施形態に適用される位相探索法は、M通りの分割単位を用いて、位相を0度から360度までP(P≧1)通り変化させて、P(M-1)通りの加算結果が最大になる位相項を用いてベクトル合成し、ベクトル合成した結果を用いて目標を検出する。これにより、分割CPI間の積分の際の位相探索において、全分割CPIに対する探索位相のテーブルを持つことで、全CPI間で最適な位相探索を実施することができ、積分効率を向上させることが可能となる。
【0048】
(第5の実施形態)
第1乃至第4の実施形態では、CPI毎のパルス圧縮及びslow-time軸FFT処理によりRDデータを得ていた。しかしながら、目標が超高速の場合には、分割CPI内でもレンジウォークが生じる場合が考えられる。第5の実施形態では、
図11~16を参照して、この対策について述べる。
【0049】
図11は、第5の実施形態に係るレーダシステムの送信系統及び受信系統それぞれの構成を示すブロック図で、(a)が送信系統の構成を示すブロック図、(b)が受信系統の構成を示すブロック図である。また、
図12は第2の実施形態に係るレーダシステムの受信系統の処理手順を示すフローチャートである。
図11及び
図12において、
図5及び
図6と同一部分には同一符号を付して示し、ここでは重複する説明を省略する。
【0050】
また、
図13は、第5の実施形態の受信系統に適用されるレンジウォーク補正の処理手順を示すフローチャート、
図14は、第5の実施形態の受信系統において、通常のパルス圧縮処理を用いた場合の処理例を示す図、
図15は、第5の実施形態の受信系統に適用されるレンジウォーク補正の処理例を示す図、
図16A及び
図16Bは、
図15に示すレンジウォーク補正の処理例を示す図である。
【0051】
本実施形態において、第2の実施形態と異なる点は、
図11(b)の受信系統において、CPI分割器24の処理後、狭帯域レンジ圧縮器31で狭帯域でのレンジ圧縮を行い、slow-time軸FFT処理器32でslow-time軸におけるFFT処理を行い、振幅積分器33で積分処理を行った後、仮検出器34で反射点観測値のセルを仮検出し、一方で、広帯域レンジ圧縮器35で分割CPI出力をレンジ圧縮し、レンジウォーク補正器36により仮検出器34で取得した仮検出セルのレンジウォークを補正してslow-time軸FFT処理器26に送るようにし、また、
図12に示すフローチャートにおいて、パルス圧縮処理(ステップS12)の後、レンジウォーク補正を行い(ステップS28)、slow-time軸FFT処理(ステップS13)に移行するようにしたことにある。
【0052】
まず、通常のパルス圧縮(非特許文献1参照)の場合は、
図14に示すように処理される。パルス圧縮は、入力信号とレンジ圧縮用信号との相関処理である。これを周波数領域で行うため、
図14(a1)に示す受信パルス信号と
図14(a2)に示す参照信号の各々をfast-time軸でFFT処理して、
図14(b1)、(b2)に示す信号を取得する。続いて、
図14(c)に示すように共役乗算した後、fast-time軸逆FFT処理を施して
図14(d)に示すパルス圧縮波形を取得する。ここで、パルス圧縮後のパルス幅が目標の動きに比べて狭い場合は、帯域を制限して、距離分解能を低くする方がレンジウォークの影響を抑圧できる。このため、
図15に示すように、帯域制限した狭帯域でパルス圧縮することを考える。
【0053】
まず、
図11に示すように、CPI分割までは第1の実施形態、第2の実施形態と同じである。次に、レンジ周波数の全帯域を分割して狭帯域パルス圧縮器31によりパルス圧縮し、slow-time軸FFT処理器32でFFT処理した後、各分割単位を振幅積分器33で振幅積分して仮検出器34で反射点観測値を仮検出する。一方、全帯域を用いて広帯域パルス圧縮器35でパルス圧縮し、仮検出結果を用いて、レンジウォーク補正器36で後述するレンジウォーク補正を行い、以後、第1、第2の実施形態と同様に、slow-time軸のFFT処理を行い(26)、仮検出を行う(27)。この仮検出結果を用いて、分割CPI間の位相補正積分を行い(28)、高SNのRDデータを用いてCFAR等による検出を行い(29)、目標情報を得る。
【0054】
上記レンジフードの仮検出器34及びレンジウォーク補正器36に対応するステップS28のレンジウォーク補正処理は、具体的には
図13に示す処理が実行される。
【0055】
図13において、まず、広帯域信号を送受信し(ステップS41)、fast-time軸で複数の狭帯域に分割し(ステップS42)、fast-time軸の狭帯域圧縮を行い(ステップS43)、全狭帯域について終了するまで狭帯域圧縮処理を繰り返す(ステップS44、S45)。全狭帯域の圧縮処理が完了した場合には、各圧縮処理結果を振幅積分し(ステップS46)、CFAR等による仮検出を行い(ステップS47)、slow-time軸FFT処理前にfast-time軸広帯域圧縮を行う(ステップS48)。
【0056】
続いて、積分系列探索法によりslow-time軸圧縮結果の最大系列を抽出し(ステップS49)、slow-time軸FFT処理前に積分系列をシフトするレンジウォーク補正を行い(ステップS50)、ステップS49で得られた仮検出数が終了するまでステップS49、S50の処理を繰り返す(ステップS51、S52)。仮検出数に達した場合には、slow-time軸FFT処理前のfast-time軸広帯域に圧縮し(ステップS53)、
図12に示すステップS13以降の処理に移行する。
【0057】
次に、
図15を参照して、より具体化した処理について述べる。まず、帯域制限した狭帯域パルス圧縮について定式化する。
図15(a1)、(a2)に示す入力信号と参照信号をfast-time軸でFFT処理すると次式となり、
図15(b1)、(b2)に示すようになる。
【0058】
【数3】
これをゼロ埋め処理と帯域制限を行うと次式となり、
図15(c1)、(c2)に示すようになる。
【0059】
【数4】
帯域制限した信号と参照信号とを共役乗算すると、次式となり、
図15(d1)、(d2)に示すようになる。
【0060】
【数5】
時間軸上にするには、このsを次式に示すように逆フーリエ変換すればよい(
図15(e1)、(e2))。
【0061】
【0062】
以上の0埋めを利用した処理により、狭帯域レンジ圧縮と広帯域レンジ圧縮のレンジセルの分解能を同じにでき、狭帯域レンジ圧縮で仮検出したセルをそのまま広帯域レンジ圧縮に対応させることができる。
【0063】
帯域分割すると、全体帯域の場合に比べてSNが分割数分だけ低下している。このSN低下を防ぐためには、帯域分割毎にパルス圧縮した結果をコヒーレント合成する必要があり、第1乃至第4の実施形態に述べたような位相探索法が考えられる。ただし、処理規模が増えるため、簡易な手法として振幅積分を考える。これは周波数分割した単位毎の結果を振幅に変換して積分する手法である(
図15(f))。この結果を用いて仮検出する。
【0064】
次に、広帯域パルス圧縮については、
図14に示した通常のパルス圧縮と同様であり、次の通りである。
【0065】
【数7】
時間軸上にするには、このsを逆フーリエ変換すればよい。
【0066】
【0067】
次に、
図16A及び
図16Bを用いて、レンジウォーク補正について説明する。まず、狭帯域レンジ圧縮結果に対して、CFAR等により仮検出し、仮検出毎にレンジセルを抽出して、レンジセルRm(m=1~Mt:Mtは仮検出数)を得る(
図16A(a))。
【0068】
次に、広帯域レンジ圧縮し(
図16B(d))、slow-time軸はFFT処理前の信号(RDwide)を用いて、仮検出したRmセルを中心に、Rp(p=1~P、P≧1)セル、また、選定レンジセルRpを通るQ(Q≧1)通りの勾配を持つslow-time軸のNセルの積分系列(Rm11~RmPQ通り)を設定(
図16A(b))し、各積分系列を、レンジ軸でRmセルになるようにレンジウォーク補正して、slow-time軸で並べ替える(
図16A(c))。この系列をslow-time軸でFFT処理したP×Q通りの結果の最大値が最大となる積分系列(slow-time軸FFT前)を選定する(
図16B(e))。更に、必要に応じてドップラウォーク補正をした後、RDwideのうち、レンジRm×ドップラNセルのデータを最大となる積分系列に置き換える処理をMtセル分繰り返して、RDcalデータを得る(
図16B(f))。このRDcalデータを用いて、slow-time軸FFTすれば、高いSNのRDデータを得ることができる。
【0069】
このRDデータを用いて仮検出(27)し(
図16B(g))、第1乃至第4の実施形態に述べた位相探索(28)を用いて、分割CPI間の信号を効率よく合成でき、CFARや複数の極大値検出等により、高いSNで検出処理(29)を行うことができ、目標情報を得ることができる。
【0070】
なお、以上の例では、レンジウォーク補正のみについて述べたが、長時間積分に対するドップラ補正手法(特許文献3参照)を適用してもよい。
【0071】
以上のように、本実施形態では、位相探索法において、各CPI分割単位にslow-time軸でコヒーレント積分する際に、fast-time軸でFFT処理してレンジ周波数軸に変換した後、レンジ周波数をQ(Q≧1)分割し、各々の帯域において、帯域のサンプル以外は0埋めした信号を逆FFT(狭帯域パルス圧縮)した後、slow-time軸でFFT処理したQ通りの結果を振幅積分して仮検出し、仮検出結果より、探索法によりレンジウォーク補正した各CPI分割単位RDデータを用いて位相探索積分を行う。したがって、狭帯域化によりレンジ分解能を低減し、レンジウォークの影響を軽減した上で、CFARにより反射点を仮検出し、広帯域のレンジ高分解能データを用いて、仮検出によるサーチ範囲を限定して処理規模を低減した後に、レンジウォーク補正してslow-time軸でFFT処理する。このようにすることで、分割CPI内でも効率よく積分することができ、その後の分割単位間の位相探索積分と組み合わせることで、全CPIに対する積分効率を最大化することが可能となる。
【0072】
なお、本発明は上記実施形態をそのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0073】
11…信号生成器、12…変調器、13…周波数変換器、14…パルス変調器、15…送信アンテナ、
21…受信アンテナ、22…周波数変換器、23…AD変換器、24…CPI分割器、25…パルス圧縮器、26…slow-time軸FFT処理器、27…仮検出器、28…位相探索積分器、29…検出器、30…クラスタ分析器、31…狭帯域レンジ圧縮器、32…slow-time軸FFT処理器、33…振幅積分器、34…仮検出器、35…広帯域レンジ圧縮器、36…レンジウォーク補正器。