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特開2023-114826レーダシステム及びレーダ信号処理方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023114826
(43)【公開日】2023-08-18
(54)【発明の名称】レーダシステム及びレーダ信号処理方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/06 20060101AFI20230810BHJP
【FI】
G01S13/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022017364
(22)【出願日】2022-02-07
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】栗原 秀輔
(72)【発明者】
【氏名】中川 陽介
(72)【発明者】
【氏名】竹谷 晋一
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AB07
5J070AH02
5J070AH12
5J070AH31
5J070AH35
5J070AK40
(57)【要約】
【課題】 長レンジ高分解能及びドップラ高分解能に目標を検出する。
【解決手段】 実施形態によれば、レンジ周波数軸狭帯域及びslow-time軸制限により、レンジ分解能及びドップラ分解能を制限し、レンジウォーク及びドップラウォークの影響を軽減した上で、CFAR等により仮検出し、広帯域のレンジ高分解能データ及びドップラ高分解能データを用いて、仮検出によるサーチ範囲を限定して処理規模を低減した上で、レンジウォーク(速度によるレンジセルずれ)とドップラウォーク(加速度によるドップラセルずれ)を補正して、slow-time軸でFFT処理することで、レンジ高分解能及びドップラ高分解能に目標を検出する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信系統から送信される単パルスまたは変調したN(N≧1)ヒットのパルス信号の反射波を受信し、その受信信号から目標信号を抽出するレーダシステムであって、
slow-time軸にNs(Ns≧1)セル、fast-time軸にNf(Nf≧1)セルある信号を用いて、前記受信信号を前記fast-time軸でFFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)処理してレンジ周波数軸に変換し、
前記レンジ周波数軸をMf(Mf≧1)分割、前記slow-time軸をMs(Ms≧1)分割してMf×Ms分割信号を生成し、
前記Mf×Ms分割信号以外のNf×Ns領域を0埋めして、前記Mf×Ms分割信号のfast-time軸をレンジ圧縮し、
前記Mf×Ms分割信号のslow-time軸をFFT処理し、振幅積分して反射点を仮検出してPt(Pt≧1)個のレンジセルRt、ドップラセルFtを抽出し、
前記レンジ周波数軸の全帯域の信号を用いて前記受信信号をレンジ圧縮し、slow-time軸は、全slow-time軸のFFT処理前の信号(RDbef)を用いて、前記仮検出により抽出されたPt個のセルを中心に、所定の探索範囲の速度(Sv通り)及び加速度(Sa通り)とレンジセルのバイアス分(Sb通り)を用いて、slow-time軸に沿った積分系列(Sv×Sa×Sb)を設定し、
前記slow-time軸に沿った積分系列をレンジ軸でRtセルになるようにレンジウォーク補正して、slow-time軸で並べ替えた後にslow-time軸でFFT処理したSv×Sa×Sb通りの結果のピーク値が最大となる、slow-time軸FFT処理前の積分系列を選定し、前記slow-time軸FFT処理前の信号(RDbef)を置き換え(RDaft)、
前記仮検出Pt毎に繰り返した置き換え信号(RDaft)を用いて、slow-time軸FFT処理し、その結果を用いて、反射点を検出して目標信号を出力するレーダシステム。
【請求項2】
前記レンジウォーク補正について、レンジシフト量を、レンジ周波数軸の位相勾配で設定する請求項1記載のレーダシステム。
【請求項3】
前記受信信号から所定の振幅スレショルドを超えるドップラセルを中心に±Rセルの信号出力を抽出し、ドップラ周波数を0にシフトし、それ以外は0埋めした信号を逆FFT処理し、その結果の共役複素値を補正係数として、前記slow-time軸の信号を補正する請求項1記載のレーダシステム。
【請求項4】
送信系統から送信される単パルスまたは変調したN(N≧1)ヒットのパルス信号の反射波を受信し、その受信信号から目標信号を抽出するレーダ信号処理方法であって、
slow-time軸にNs(Ns≧1)セル、fast-time軸にNf(Nf≧1)セルある信号を用いて、前記受信信号を前記fast-time軸でFFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)処理してレンジ周波数軸に変換し、
前記レンジ周波数軸をMf(Mf≧1)分割、前記slow-time軸をMs(Ms≧1)分割してMf×Ms分割信号を生成し、
前記Mf×Ms分割信号以外のNf×Ns領域を0埋めして、前記Mf×Ms分割信号のfast-time軸をレンジ圧縮し、
前記Mf×Ms分割信号のslow-time軸をFFT処理し、振幅積分して反射点を仮検出してPt(Pt≧1)個のレンジセルRt、ドップラセルFtを抽出し、
前記レンジ周波数軸の全帯域の信号を用いて前記受信信号をレンジ圧縮し、slow-time軸は、全slow-time軸のFFT処理前の信号(RDbef)を用いて、前記仮検出により抽出されたPt個のセルを中心に、所定の探索範囲の速度(Sv通り)及び加速度(Sa通り)とレンジセルのバイアス分(Sb通り)を用いて、slow-time軸に沿った積分系列(Sv×Sa×Sb)を設定し、
前記slow-time軸に沿った積分系列をレンジ軸でRtセルになるようにレンジウォーク補正して、slow-time軸で並べ替えた後にslow-time軸でFFT処理したSv×Sa×Sb通りの結果のピーク値が最大となる、slow-time軸FFT処理前の積分系列を選定し、前記slow-time軸FFT処理前の信号(RDbef)を置き換え(RDaft)、
前記仮検出Pt毎に繰り返した置き換え信号(RDaft)を用いて、slow-time軸FFT処理し、その結果を用いて、反射点を検出して目標信号を出力する
レーダ信号処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、遠距離の小目標を検出するレーダシステム及びレーダ信号処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のレーダシステムでは、積分ヒット数が多い場合や、PRI(Pulse Repetition Interval:パルス繰り返し周期)が長く、CPI(Coherent Pulse Interval:コヒーレントパルス周期)が長い長時間積分を行う場合に、レンジウォークやドップラウォークにより、積分ロスが生じる課題があった。
【0003】
この対策として、例えば特許文献1、2に示される積分系列最大化の手法がある。特許文献1の手法は、チャープ帯域全体を利用し、レンジ周波数軸について、0埋めにより擬似的に高分解能化して、slow-time軸の積分系列を探索法で最大化する手法である。しかしながら、この手法では、レンジウォークが大きい場合に、探索法の適用範囲が増大してしまい、処理規模が増えてしまう。また、特許文献2に示される手法は、速度及び加速度の探索法で、積分系列を最大化する手法である。しかしながら、この手法でも、レンジウォークやドップラウォークが大きい場合に探索法の範囲を増えてしまい、処理規模が増えてしまう問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4881239号公報
【特許文献2】特許第5025403号公報
【特許文献3】特許第5072694号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】SAR(Synthetic Aperture Radar: 合成開口レーダ)方式(レンジ圧縮)、大内、‘リモートセンシングのための合成開口レーダの基礎’、東京電機大学出版局、pp.131-149(2003)
【非特許文献2】CFAR(Constant False Alarm Rate)、吉田、‘改訂レーダ技術’、電子情報通信学会、pp.87-89(1996)
【非特許文献3】PGA(Phase gradient autofocus: 位相勾配オートフォーカス),Charles V.Jakowatz,‘Spotlight-Mode Synthetic Aperture Radar: A Signal Processing Approach’, Springer, pp.251-256(1996)
【非特許文献4】窓関数、武部、‘ディジタルフィルタの設計’、東海大学出版会、pp.62-65(1985)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上述べたように、従来のレーダシステムには、レンジウォーク及びドップラウォークによる積分ロスを低減する目的で、積分系列を最大化する手法があるが、長時間積分の場合は、長時間のFFTを探索範囲にわたって処理する必要があり、全体の処理規模が増大してしまう課題がある。
【0007】
本実施形態の課題は、長時間積分時にも、少ない処理規模で、レンジウォーク及びドップラウォークによる積分ロスを低減することのできるレーダシステム及びレーダ信号処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、実施形態に係るレーダシステムは、送信系統から送信される単パルスまたは変調したN(N≧1)ヒットのパルス信号の反射波を受信し、その受信信号から目標信号を抽出するもので、前記受信信号をfast-time軸でFFT処理してレンジ周波数軸の信号に変換した後、前記レンジ周波数軸をMf(Mf≧1)分割、slow-time軸をMs(Ms≧1)分割し、Mf×Ms分割した信号をそれ以外のNf×Ns領域は0埋めした信号を用いて、fast-time軸はレンジ圧縮し、slow-time軸はFFT処理したMf×Msの信号を振幅積分して、CFAR等により仮検出してPt(Pt≧1)個のレンジセルRt、ドップラセルFtを抽出する。次に、レンジ周波数の全帯域の信号を用いてレンジ圧縮し、slow-time軸は、全slow-time軸のFFT処理前の信号(RDbef)を用いて、仮検出したPt個のセルを中心に、所定の探索範囲の速度(Sv通り)及び加速度(Sa通り)とレンジセルのバイアス分(Sb通り)を用いて、slow-time軸に沿った積分系列(Sv×Sa×Sb)を設定し、各積分系列をレンジ軸でRtセルになるようにレンジウォーク補正して、slow-time軸で並べ替えた後にslow-time軸でFFT処理したSv×Sa×Sb通りの結果の最大値が最大となる積分系列(slow-time軸FFT処理前)を選定し、slow-time軸FFT処理前の信号(RDbef)を置き換える(RDaft)。これを仮検出Pt毎に繰り返したRDaft信号とslow-time軸FFT処理した結果を用いて、CFAR等により目標信号を検出する。すなわち、周波数帯域制限及びslow-time軸制限を行い、反射点の仮検出を行い、全帯域のレンジ圧縮を行い、レンジウォーク及びドップラウォークを補正し、全slow-time軸のFFT処理を行って目標信号を検出する。
【0009】
以上のように、実施形態では、レンジ周波数軸を狭帯域及びslow-time軸制限により、レンジ分解能及びドップラ分解能を制限し、レンジウォーク及びドップラウォークの影響を軽減した上で、CFARにより仮検出し、広帯域のレンジ高分解能データおよびドップラ高分解能データを用いて、仮検出によるサーチ範囲を限定して処理規模を低減した上で、レンジウォーク(速度によるレンジセルずれ)とドップラウォーク(加速度によるドップラセルずれ)を補正して、slow-time軸でFFTすることで、レンジ高分解能及びドップラ高分解能に目標を検出できる。
【0010】
また、実施形態に係るレーダシステムは、送信系統から送信される単パルスまたは変調したN(N≧1)ヒットのパルス信号の反射波を受信し、その受信信号から目標信号を抽出するもので、第1FFT処理手段と、第2FFT処理手段と、検出手段とを備える。第1FFT処理手段は、slow-time軸にLs(Ls≧1)セル、fast-time軸にNf(Nf≧1)セルある信号を、分割単位として順次入力して、各々の単位でslow-time軸で第1FFT処理を行ってドップラセル(ls=1~Ls)を得る。第2FFT処理手段は、既に処理したMs(Ms≧2)個の分割単位を用いて、前記ドップラセル毎にMsポイントの第2FFT処理を行う。検出手段は、前記第2FFT処理手段の処理結果を元のドップラセル(ls=1~Ls)毎に配列した信号を長時間積分して目標を検出する。
【0011】
すなわち、順次入力する分割単位の第1FFT処理と既に処理済みの複数の分割単位を用いて第2FFT処理を行うことにより、処理規模を低減して、長時間のFFT処理を実現できる。
【0012】
また、実施形態に係るレーダシステムは、送信系統から送信される単パルスまたは変調したN(N≧1)ヒットのパルス信号の反射波を受信し、その受信信号から目標信号を抽出するもので、まず、slow-time軸にNs(Ns≧1)セル、fast-time軸にNf(Nf≧1)セルある信号を用いて、fast-time軸でFFTしてレンジ周波数軸にした後、レンジ周波数をMf(Mf≧1)分割し、slow-time軸をMs(Ms≧1)分割し、Mf×Ms分割した信号をそれ以外のNf×Ns領域のうち、fast-time軸は0埋めし、slow-timeは0埋めしない信号を用いて、fast-time軸はレンジ圧縮し、slow-time軸はFFT処理したMf×Msの信号を振幅積分して、仮検出してPt(Pt≧1)個のレンジセルRt、ドップラセルFtを抽出する。次に、レンジ周波数の全帯域の信号を用いてレンジ圧縮し、slow-time軸は、Ms分割した後、各々の分割単位でMs回第2FFTし、各分割単位のドップラセル(ls=1~Ls)毎に、Msポイントのslow-time軸のデータに対して、仮検出したPt個のセルを中心に、所定の探索範囲の速度(Sv通り)及び加速度(Sa通り)とレンジセルのバイアス分(Sb通り)を用いて、slow-time軸に沿った積分系列(Sv×Sa×Sb)を設定し、各積分系列をレンジ軸でRtセルになるように、レンジシフト量を、レンジ周波数軸の位相勾配で設定するにより、レンジウォーク補正して、slow-time軸で並べ替えた後にslow-time軸で第2FFT(Msポイント)したSv×Sa×Sb通りの結果の最大値が最大となるMsポイントの積分系列(slow-time軸FFT前)を選定し、Msポイントのslow-time軸で第2FFTした結果を、ドップラセル(ls=1~Ls)に置き換える。続いて、前記ドップラセル(ls=1~Ls)を仮検出Pt毎に繰り返したレンジ-ドップラデータを用いて検出する。
【0013】
すなわち、レンジ周波数軸狭帯域及びslow-time軸制限により、レンジ分解能及びドップラ分解能を制限し、レンジウォーク及びドップラウォークの影響を軽減した上で、CFARにより仮検出し、広帯域のレンジ高分解能データと、2段FFTによる高分解能ドップラデータを用いて、仮検出によるサーチ範囲を限定して処理規模を低減した上で、レンジウォーク(速度によるレンジセルずれ)とドップラウォーク(加速度によるドップラセルずれ)を補正して、レンジ高分解能及びドップラ高分解能に目標を検出できる。
【0014】
上記方式を用いると、長時間積分時にも、少ない処理規模で実現でき、またレンジウォーク及びドップラウォークによるロスを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、第1の実施形態に係るレーダシステムの送信系統及び受信系統の構成を示すブロック図である。
図2A図2Aは、第1の実施形態の受信系統全体の処理の流れを示すフローチャートである。
図2B図2Bは、第1の実施形態の受信系統全体の処理の流れを示すフローチャートである。
図3図3は、第1の実施形態の受信系統の処理の様子を示す図である。
図4図4は、第1の実施形態で用いられる狭帯域レンジ圧縮処理の様子を示す図である。
図5図5は、第1の実施形態で用いられる時分割FFT処理及び振幅積分処理の様子を示す図である。
図6図6は、第1の実施形態で用いられる広帯域レンジ圧縮処理の様子を示す図である。
図7A図7Aは、第1の実施形態で用いられるレンジウォーク及びドップラウォーク補正処理の様子を示す図である。
図7B図7Bは、第1の実施形態で用いられるレンジウォーク及びドップラウォーク補正処理の様子を示す図である。
図8図8は、第1の実施形態で用いられるslow-time軸FFT処理の様子を示す図である。
図9A図9Aは、第2の実施形態の受信系統全体の処理の流れを示すフローチャートである。
図9B図9Bは、第2の実施形態の受信系統全体の処理の流れを示すフローチャートである。
図10図10は、第2の実施形態において、積分系列探索法による誤検出発生対策処理の流れを示すフローチャートである。
図11図11は、図10に示す誤検出発生対策処理の様子を示す図である。
図12A図12Aは、第3の実施形態の受信系統全体の処理の流れを示すフローチャートである。
図12B図12Bは、第3の実施形態の受信系統全体の処理の流れを示すフローチャートである。
図13図13は、第3の実施形態において、PGAによる誤検出発生対策処理の流れを示すフローチャートである。
図14図14は、図13に示すPGAによる誤検出発生対策処理の様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、実施形態について、図面を参照して説明する。
【0017】
(第1の実施形態)
図1乃至図5を参照して、第1の実施形態について説明する。
【0018】
図1は第1の実施形態に係るレーダシステムの構成を示すブロック図で、(a)が送信系統の構成を示すブロック図、(b)が受信系統の構成を示すブロック図である。
【0019】
図1(a)に示す送信系統では、信号生成器11で送信種信号を生成し、変調器12で送信種信号に伝送情報を変調多重し、周波数変換器13で変調信号を高周波信号に変換し、パルス変調器14で高周波信号をパルス変調して送信パルス列を生成し、送信アンテナ15からN(N≧2)ヒットのパルスをPRI(Pulse Repetition Interval:パルス繰り返し周期)間隔で送信する。
【0020】
図1(b)に示す受信系統では、送信アンテナ15から送信されたパルス信号の反射波を受信アンテナ21で受信し、その受信信号を周波数変換器22でベースバンドに周波数変換し、AD変換器23でディジタル信号に変換してCPI(Coherent Pulse Interval)信号(fast-time及びslow-time信号)を得る。
【0021】
次に、AD変換器23から出力されるCPI信信号を2系統に分配する。一方の系統では、狭帯域レンジ圧縮器24による狭帯域レンジ圧縮、slow-time軸分割器25によるslow-time軸の分割、slow-time軸FFT処理器26によるslow-time軸のFFT処理、CFAR(Constant False Alarm Rate:定誤警報率、非特許文献2参照)仮検出器(CFARでなくてもよい)27による反射点観測値の仮検出を行う。狭帯域信号にするのは、レンジ分解能を低下させてレンジウォークの影響を抑圧するためであり、slow-time軸を分割するのは、ドップラ分解能を低下させてドップラウォークの影響を抑圧するためである。なお、レンジ周波数帯域の分割やslow-time軸の分割により、SNが低下するため、分割単位毎の処理結果を振幅積分することにより、SN低下を防いで仮検出するようにしている。
【0022】
他方の系統では、広帯域レンジ圧縮器28により送信したチャープ帯域で広帯域レンジ圧縮を行い、レンジウォーク・ドップラウォーク補正器29に入力する。この補正器29において、CFAR仮検出器27で仮検出された反射点の観測値で広帯域レンジ圧縮出力のレンジウォーク、ドップラウォークを補正して、slow-time軸FFT処理器30でslow-time軸のFFT処理を行って、仮検出点を通るslow-time軸信号に置き換えた後、CFAR検出器(CFARでなくてもよい)31により反射点の観測値を検出して目標判定を行い、測距、測速、測角を行って目標情報として出力する。
【0023】
なお、上記の送信系統と受信系統は、一体であってもよいし、互いに離れた場所に設置されていてもよい。
【0024】
上記構成によるレーダシステムにおいて、図2乃至図8を参照して受信系統の受信データ取得後の処理動作を説明する。ここで、図2A及び図2Bは第1の実施形態の受信系統全体の処理の流れを示すフローチャート、図3は第1の実施形態の受信系統のレンジ周波数帯域及びslow-time軸分割処理と仮検出までの処理の様子を示す図、図4は第1の実施形態で用いられる狭帯域レンジ圧縮処理の様子を示す図、図5は第1の実施形態で用いられる時分割FFT処理及び振幅積分処理の様子を示す図、図6は第1の実施形態で用いられる広帯域レンジ圧縮処理の様子を示す図、図7A及び図7Bは第1の実施形態で用いられるレンジウォーク及びドップラウォーク補正処理の様子を示す図、図8は第1の実施形態で用いられるslow-time軸FFT処理の様子を示す図である。
【0025】
まず、図1(a)に示した送信系統から送信されるN(N≧2)ヒットの送信パルスが目標等で反射した信号は、受信アンテナ21で受信され、周波数変換器2でベースバンドに周波数変換されて、AD変換器23によりディジタル信号に変換され、これによって受信データが取得される。このように、N(N≧2)ヒットの送信パルスを受信して得られた受信データをPRI(Pulse Repetition Interval:パルス繰り返し周期)データによるCPI(Coherent Pulse Interval:コヒーレントパルス周期)データと呼ぶ。このCPIデータは、レンジセル毎のfast-time軸とPRI間のslow-time軸の2次元データである。
【0026】
ここで、本実施形態で用いる長時間積分方式について述べる。PRI間隔で送信したパルス毎に、PRI内のレンジセル単位でデータを取得する。この取得データを用いて長時間積分処理を実施する。長時間積分の場合には、目標の速度及び加速度により、slow-time軸に対してレンジセル及びドップラセルが動く。このため、高分解能なレンジ圧縮及びslow-time軸FFT処理を行うと、目標SN(信号対雑音比)が低下する。この対策として、本実施形態では、レンジ分解能とドップラ分解能を低下させて、仮検出することを考える。
【0027】
すなわち、本実施形態に係るレーダシステムでは、送信系統において、信号生成器11で送信種信号を生成し、変調器12で変調信号を生成し、周波数変換器13で高周波信号に変換して、パルス変調器14でパルス変調し、送信アンテナ15から、N(N≧2)ヒットのパルスを送信する。
【0028】
また、受信系統において、受信アンテナ21で受信した信号は、周波数変換器22で周波数変換され、AD変換器23でディジタル信号に変換され、受信信号として出力される。次に、受信信号がパルス圧縮(非特許文献1参照)信号の場合は、帯域制限した狭帯域でパルス圧縮(レンジ圧縮)し(24)、slow-time軸(NヒットのPRI軸)を分割し(25)、分割したslow-time軸でFFT処理して(26)、CFAR等により反射点を仮検出する(27)。狭帯域信号にするのは、レンジ分解能を低下させてレンジウォークの影響を抑圧するためであり、slow-time軸を分割するのは、ドップラ分解能を低下させて、ドップラウォークの影響を抑圧するためである。なお、レンジ周波数帯域の分割や、slow-time軸の分割により、SNが低下するため、分割単位毎の処理結果を振幅積分することにより、SN低下を防いで、仮検出する。
【0029】
一方、AD変換器23からのディジタル信号は、送信したチャープ帯域で広帯域レンジ圧縮し(28)、仮検出した反射点を元に、レンジウォーク・ドップラウォーク補正して仮検出点を通るslow-time軸信号を置き換えた後(29)、slow-time軸FFT処理を行い(30)、CFAR等により目標を検出して目標情報を得る(31)。
【0030】
上記構成において、図2A及び図2B図3を参照して、本実施形態の受信系統の処理について説明する。図2A及び図2Bは、本実施形態の受信系統の処理の流れを示すフローチャートである。また、図3は、本実施形態の受信系統の処理の様子を示す図である。
【0031】
本実施形態のレーダシステムでは、図2Aに示すように、広帯域のパルス信号を送受信して(ステップS11)、AD変換器23からのCPI(Coherent Pulse Interval)信号(fast-time及びslow-time信号、図3(a))を用いて、fast-time軸でFFTして、レンジ周波数軸に変換する(ステップS12、図3(b))。この信号を用いて、レンジ周波数軸及びslow-time軸の信号をそれぞれ、Mf及びMs分割し、Mf×Ms通りの信号を得る(ステップS13,S14、図3(c))。レンジ周波数軸では分割信号以外は、0埋めとする。一方、slow-time軸では、FFTポイント数を減らすために、0埋めしない。このMf×Ms通りの信号の各々で、fast-time軸でパルス圧縮(ステップS15)、slow-time軸でFFTして(ステップS16)、レンジ軸及びドップラ軸で低分解能の信号を得て、更にMf×Ms通りの信号を振幅積分し(ステップS17~S21)、CFAR等により仮検出点を求める(ステップS22)。
【0032】
この部分を定式化する。わかりやすくするために、レンジ圧縮とslow-time軸FFTについて、各々説明する。実際には、レンジ圧縮後、slow-time軸FFTまたは、その逆の順で処理を行う。
【0033】
まず、図4を参照して、狭帯域レンジ圧縮について述べる(非特許文献1参照)。図4は、本実施形態で用いられる狭帯域レンジ圧縮処理の様子を示す図である。レンジ圧縮は、入力信号とレンジ圧縮用信号の相関処理であり、これを周波数領域で行う場合について定式化すると次の通りである。
【0034】
まず、入力信号(図4(a1))と参照信号(図4(a2))をfast-time軸でFFTすると(1)式(図4(b1))、(2)式(図4(b2))となり、これらを帯域制限すると(3)式(図4(c1))、(4)式(図4(c2))となり、帯域制限した信号と参照信号を共役乗算すると、(5)式(図4(d1)、(図4(d2))となる。
る。
【0035】
【数1】

時間軸上にするには、このsを次式のように逆フーリエ変換(図4(e1)、(図4(e2))すればよい。
【0036】
【数2】

上記の結果を振幅積分することで、仮検出セルが抽出される(図4(f))。
【0037】
以上により、狭帯域レンジ圧縮と広帯域レンジ圧縮のレンジセルの分解能を同じにでき、狭帯域レンジ圧縮で仮検出したセルをそのまま広帯域レンジ圧縮に対応させることができる。
【0038】
次に、図5を参照して、時分割FFT処理について定式化する。図5は、本実施形態で用いられる時分割FFT処理の様子を示す図である。
【0039】
まず、入力信号(図5(a))は(7)式となり、帯域制限を行ってslow-time軸を分割し(図5(b))、slow-time軸でFFT処理すると(8)式となる(図5(c))。
【0040】
【数3】
【0041】
前述したように、レンジ圧縮からslow-time軸FFTに移行する場合は、(6)式を(7)式の入力信号に置き換えて、(7)、(8)式の処理を行えば、図5(c)の信号に対するfast-time軸パルス圧縮及びslow-time軸FFT処理を受けた信号を得る。そこで、さらに振幅積分すれば、図5(d)の信号を得て、CFAR等により反射点を仮検出できる。
【0042】
仮検出後の処理について、図2B及び図8を参照して説明する。
図2Bにおいて、仮検出後は、fast-time軸の広帯域でのレンジ圧縮を行い(ステップS23)、slow-time軸を分割してFFT処理を行い(ステップS24)、積分系列探索法によりレンジ及びドップラの積分系列を補正し(ステップS25)、slow-time軸FFT処理を行って(ステップS26)、その結果を保存する(ステップS27)。この時点で速度数を判断し(ステップS28)、所定の速度数に達していない場合には、速度を変更して(ステップS29)ステップS25~S28の処理を繰り返す。所定の速度数を超えた場合には、所定の加速度に達したか判断し(ステップS30)、達していなければ加速度を変更して(ステップS31)、ステップS25~S30の処理を繰り返す。所定の加速度に達した場合には、レンジバイアスの調整が終了したか判断し(ステップS32)、調整が終了していなければ、レンジバイアスを変更して(ステップS33)、ステップS25~S32の処理を繰り返す。レンジバイアスの調整が終了している場合には、FFT処理結果から最大系列を抽出し(ステップS34)、最大系列の置き換えを行って(ステップS35)、仮検出数が最大値に到達したか判断し(ステップS36)、達していなければ、仮検出数を変更してステップS25~S36の処理を繰り返し実行する。仮検出数が最大値に達した場合には、slow-time軸のFFT処理を行い(ステップS38)、CFAR等により目標となるセルを検出する(ステップS39)。
【0043】
図6は、本実施形態で用いられる広帯域レンジ圧縮処理の様子を示す図である。すなわち、仮検出後は、元の入力信号(図6(a1))と参照信号(図6(a2))を用いて、fast-time軸の広帯域レンジ圧縮を行って、fast-time軸でFFTを行い(図6(b1)、(図6(b2)))、両者の複素共役乗算を行う(図6(c))。この時の処理は次式となる。
【0044】
【数4】

時間軸上にするには、このsを次式のように逆フーリエ変換すればよい(図6(d))。
【0045】
【数5】
【0046】
次に、図7A及び図7Bを用いて、レンジウォーク及びドップラウォーク補正について説明する。図7A及び図7Bは、本実施形態で用いられるレンジウォーク及びドップラウォーク補正処理の様子を示す図である。
【0047】
まず、狭帯域レンジ圧縮及び分割slow-time軸の処理結果に対して、CFAR等により仮検出し、仮検出毎にレンジセルを抽出して、レンジセルRt(t=1~Pt:Ptは仮検出数)を得る。補正する単位として、slow-time軸で分割した信号を生成し、分割した信号毎にslow-time軸でFFT処理を行う(図7A(a))。
【0048】
次に、広帯域レンジ圧縮し、slow-time軸はFFT前の信号(RDwide)を用いて、仮検出したRtセルを中心に、所定の探索範囲の速度(Sv通り)及び加速度(Sa通り)とレンジセルのバイアス分(Sb通り)を用いて、slow-time軸に沿った積分系列(Sv×Sa×Sb)を設定する(図7A(b))。この積分系列は次式となる。
【0049】
【数6】
【0050】
各積分系列を、レンジ軸でRtセルになるようにレンジウォーク補正して、slow-time軸で並べ替える。このレンジウォーク補正では、レンジ周波数軸でシフトする手法(図7A(c))があり、後述する。ここの系列を全slow-time軸でFFT処理したSv×Sa×Sb通りの結果の最大値が最大となる積分系列(slow-time軸FFT処理前)を選定する(図7B(d))。レンジRt毎に、slow-time軸でNセルのデータを最大となる積分系列に置き換える処理を仮検出のPtセル分繰り返して、RDcalデータを得る(図7B(e))。このRDcalデータを用いて、slow-time軸FFT処理してCFAR等により検出する(図7B(f))。この時の入力信号(図8(a))はslow-time軸のFFT処理により図8(b)に示すようになる。
【0051】
上記の処理手順により、仮検出によりサーチ範囲を限定して処理規模を低減した上で、レンジウォーク補正及びドップラウォーク補正をして、高いSNで処理できるため、誤検出は抑圧しつつ、目標を検出することができる。
【0052】
以上のように、本実施形態では、単パルスまたは変調したslow-time軸にNs(Ns≧1)セル、fast-time軸にNf(Nf ≧1)セルある信号を用いて、まず、fast-time軸でFFT処理してレンジ周波数軸にした後、レンジ周波数をMf(Mf≧1)分割し、またslow-time軸をMs(Ms≧1)分割し、Mf×Ms分割した信号をそれ以外のNf×Ns領域は0埋めした信号を用いて、fast-time軸はレンジ圧縮し、slow-time軸はFFT処理した Mf×Msの信号を振幅積分して、CFAR等により仮検出してPt(Pt≧1)個のレンジセルRt、ドップラセルFtを抽出する。次に、レンジ周波数の全帯域の信号を用いてレンジ圧縮し、slow-time軸は、全slow-time軸のFFT処理前の信号(RDbef)を用いて、仮検出したPt個のセルを中心に、所定の探索範囲の速度(Sv通り)及び加速度(Sa通り)とレンジセルのバイアス分(Sb通り)を用いて、slow-time軸に沿った積分系列(Sv×Sa×Sb)を設定し、各積分系列をレンジ軸でRtセルになるようにレンジウォーク補正して、slow-time軸で並べ替えた後にslow-time軸でFFT処理したSv×Sa×Sb通りの結果のピーク値(極大値)が最大となる積分系列(slow-time軸FFT前)を選定し、slow-time軸FFT前の信号(RDbef)を置き換える(RDaft)。これを仮検出Pt毎に繰り返したRDaft信号を用いてslow-time軸FFT処理し、その結果を用いて、CFAR等により検出する。
【0053】
すなわち、レンジ周波数軸狭帯域及びslow-time軸制限により、レンジ分解能及びドップラ分解能を制限し、レンジウォーク及びドップラウォークの影響を軽減した上で、CFAR等により仮検出し、広帯域のレンジ高分解能データ及びドップラ高分解能データを用いて、仮検出によるサーチ範囲を限定して処理規模を低減した上で、レンジウォーク(速度によるレンジセルずれ)とドップラウォーク(加速度によるドップラセルずれ)を補正して、slow-time軸でFFT処理することで、レンジ高分解能及びドップラ高分解能に目標を検出することができる。
【0054】
(第2の実施形態)
第1の実施形態では、レンジウォーク及びドップラウォーク補正の手法について述べた。ここで、レンジウォーク補正をレンジ周波数軸で実施する手法について述べる。各目標Ptの積分系列の候補(Sv×Sa×Sb通り)の各々について、レンジウォーク及びドップラウォーク補正するには、図7A(c)に示すように、slow-time軸のセル毎に、レンジ軸のシフトを補正する必要がある。この際、レンジセル単位でシフト量を決めると、シフト量に量子化誤差が発生し、slow-time軸でFFT処理する際のドップラ軸サイドローブが劣化し、SN(信号対雑音比)も低下し、誤検出が発生する。本実施形態は、この対策について、図9A及び図9B図10及び図11を参照して説明する。
【0055】
図9A及び図9Bは、第2の実施形態の受信系統全体の処理の流れを示すフローチャート、図10は、第2の実施形態において、誤検出発生対策処理の流れを示すフローチャート、図11は、図10に示す誤検出発生対策処理の様子を示す図である。図9A及び図9Bにおいて、図2A及び図2Bと同一部分には同一符号を付して示し、ここでは異なる部分について説明する。
【0056】
本実施形態の受信系統において、第1の実施形態と異なる点は、図9Bにおいて、ステップS40の積分系列探索法のレンジ及びドップラの積分系列補正処理による誤検出発生対策処理にある。この処理は、レンジ圧縮後のslow-time軸のデータを入力して(ステップS401)、fast-time軸FFT処理して、レンジ周波数-slow-time軸に変換する(ステップS402)。次に、積分系列(Sv×Sa×Sb通り)毎に、slow-time軸のセル毎にレンジシフト量を算出する(ステップS403、図11(a))。さらに、slow-time軸のセル毎に、レンジシフト量に応じた位相勾配を次式により算出する(ステップS404、図11(b))。
【数7】
【0057】
slow-time軸のセル毎に位相勾配によりレンジ周波数軸を補正し(ステップS405)、そのレンジ周波数軸を逆FFTして、レンジ圧縮-slow-time軸の信号を得る(ステップS406)。
【0058】
【数8】
【0059】
この結果を積分系列毎(Sv×Sa×Sb通り)に繰り返して、slow-time軸FFT処理の結果が最大となる積分系列を抽出すれば、レンジウォーク及びドップラウォーク補正結果(図11(c))を得ることができる。
【0060】
以上のように、本実施形態では、レンジウォーク補正について、レンジシフト量を、レンジ周波数軸の位相勾配で設定するようにしている。すなわち、レンジウォークをレンジ周波数軸の位相勾配でレンジセル単位以下の高精度に補正しているので、slow-time軸でFFT処理することで、目標をレンジ高分解能に検出できる。
【0061】
(第3の実施形態)
第1の実施形態、第2の実施形態では、レンジウォーク及びドップラウォーク(速度及び加速度)により、slow-time軸毎にレンジがずれることに対する補正手法について述べた。この際、レンジセルずれを補正しても、レンジセル内の速度、加速度による位相の補正まではできていない。本実施形態では、合成開口処理のオートフォーカス手法であるPGA(Phase gradient autofocus,非特許文献3参照)と類似の手法(特許文献3参照)を適用する例について、図12乃至図14を参照して説明する。図12A及び図12Bは第3の実施形態の受信系統全体の処理の流れを示すフローチャート、図13は第3の実施形態において、PGAによる誤検出発生対策処理の流れを示すフローチャート、図14図13に示すPGAによる誤検出発生対策処理の様子を示す図である。図12A及び図12Bにおいて、図2A及び図2B図9A及び図9Bと同一部分には同一符号を付して示し、ここでは異なる部分について説明する。
【0062】
本実施形態において、第1、第2の実施形態と異なる点は、図12Bの最大系列置き換え処理(ステップS35)の後、仮検出数終了判断(ステップS36)の前に、PGAによる誤検出発生対策処理(ステップS41)を追加した点にある。
【0063】
上記PGAによる誤検出発生対策処理は、まず、レンジウォーク及びドップラウォーク補正で仮検出されたレンジセルのレンジ圧縮-slow-time(ドップラ)軸信号を入力し(ステップS411、図14(a1)、図14(a2))、所定の振幅スレッショルド値を超えたピーク値(極大値)を抽出する(ステップS412、図14(b1)、図14(b2))。
【0064】
次に、ピーク値をとドップラ軸でゼロ周波数にシフトするように、ドップラ軸の信号の並べ替えを行う(ステップS413)。これは、ピーク値のドップラ軸に対する位相勾配を除き、速度及び加速度による位相ずれのみを抽出するためである。
【0065】
次に、ピーク値(0ドップラ)を中心に±R(R≧1)セルに窓関数(非特許文献4)を乗算し、窓関数の外側をゼロ埋めした信号s0を生成し(ステップS414、図14(b1)、図14(b2))、この信号の逆FFT処理を行う(ステップS415、図14(c))。これは、次式に示すように、位相ずれの振動成分を取り除き、安定した補正成分を得るためである。
【0066】
【数9】
【0067】
次に、この信号S0(ts)の逆特性となる補正量Wc(ts)を、次式に示すようにslow-time軸の信号の補正値として算出して、入力信号を補正し(ステップS416、図14(c))、その補正後、FFT処理を行ってドップラ軸の信号を得る。
【0068】
【数10】

このFs0(fs)を用いれば、速度や加速度変化による位相変化がある場合でも、高いSNで目標を検出することができる。
【0069】
以上のように、本実施形態では、所定の振幅スレショルドを超えるドップラセルを中心に±Rセルの信号出力を抽出し、ドップラ周波数を0にシフトし、それ以外は0埋めした信号を逆FFT処理し、その結果の共役複素値を補正係数として、slow-time軸の信号を補正するPGA処理を追加した。これにより、slow-time軸の位相変化を抽出して、逆補正することでドップラウォークを補正した後、slow-time軸でFFTするようにしているので、目標を高感度に検出することができる。
【0070】
なお、実施形態では、レーダ波を送受信するシステムについて述べたが、他のシステム(通信等を含む)の送信源を利用するパッシブレーダの場合にも適用できる。
【0071】
また、本発明は上記実施形態をそのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0072】
11…信号生成器、12…変調器、13…周波数変換器、14…パルス変調器、15…送信アンテナ、
21…受信アンテナ、22…周波数変換器、23…AD変換器、24…狭帯域レンジ圧縮器、25…slow-time軸分割器、26…slow-time軸FFT処理器、27…CFAR仮検出器、
28…広帯域レンジ圧縮器、29…レンジウォーク・ドップラウォーク補正器、30…slow-time軸FFT処理器、31…CFAR検出器。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9A
図9B
図10
図11
図12A
図12B
図13
図14