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特開2023-114857蛍光X線分析装置、データ処理方法、およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023114857
(43)【公開日】2023-08-18
(54)【発明の名称】蛍光X線分析装置、データ処理方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/223 20060101AFI20230810BHJP
【FI】
G01N23/223
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022017407
(22)【出願日】2022-02-07
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 佑多
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA04
2G001CA01
2G001EA03
2G001FA08
(57)【要約】
【課題】蛍光X線分析装置の分析結果においてサムピークを適切に除去するための技術を提供する。
【解決手段】X線検出器12の出力を処理することによって得られた、試料Sの初期スペクトルを処理する方法が提供される。CPU30は、試料Sを構成する1以上の元素のそれぞれについて、初期スペクトルにおける計数値と特性X線のエネルギの値とを用いて、サムピークを形成する計数値の予測値を算出する。そして、CPU30は、初期スペクトルの計数値から、試料Sを構成する1以上の元素のそれぞれについて算出された予測値を差し引くことにより、初期スペクトルからサムピークを除去する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料のX線を検出するX線検出器と、
前記X線検出器の出力を処理することにより、前記試料の初期スペクトルを生成するデータ処理ユニットと、
前記初期スペクトルから1以上のサムピークを除去するための除去処理を実行するプロセッサと、を備え、
前記除去処理は、
前記試料を構成する1以上の元素のそれぞれについて、前記初期スペクトルにおける計数値と特性X線のエネルギの値とを用いて、サムピークを形成する計数値の予測値を算出することと、
前記初期スペクトルの計数値から、前記試料を構成する1以上の元素のそれぞれについて算出された前記予測値を差し引くことと、を含む、蛍光X線分析装置。
【請求項2】
前記予測値は、用いられる特性X線のエネルギの前記値が高くなると小さくなる、請求項1に記載の蛍光X線分析装置。
【請求項3】
前記予測値を算出することは、前記初期スペクトルにおける計数値、第1係数、および第2係数の積を算出することを含み、
前記第2係数は、所与の定数から特性X線のエネルギの前記値を差し引くことによって得られる項を含む、請求項2に記載の蛍光X線分析装置。
【請求項4】
前記所与の定数は、所与の元素の特性X線のエネルギの値である、請求項3に記載の蛍光X線分析装置。
【請求項5】
前記プロセッサは、
前記初期スペクトルと前記初期スペクトルに対応するシミュレーションデータとを用いて、エネルギに関するオフセット値を特定し、
前記予測値の算出に、前記オフセット値だけシフトされた前記初期スペクトルが利用する、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の蛍光X線分析装置。
【請求項6】
前記オフセット値は、前記初期スペクトルと前記初期スペクトルに対応するシミュレーションデータとの差分に基づいて算出される、請求項5に記載の蛍光X線分析装置。
【請求項7】
X線検出器の出力を処理することによって得られた、試料の初期スペクトルを処理する方法であって、
前記試料を構成する1以上の元素のそれぞれについて、前記初期スペクトルにおける計数値と特性X線のエネルギの値とを用いて、サムピークを形成する計数値の予測値を算出するステップと、
前記初期スペクトルの計数値から、前記試料を構成する1以上の元素のそれぞれについて算出された前記予測値を差し引くステップと、を備える、データ処理方法。
【請求項8】
前記予測値は、用いられる特性X線のエネルギの前記値が高くなると小さくなる、請求項7に記載のデータ処理方法。
【請求項9】
前記予測値を算出するステップは、前記初期スペクトルにおける計数値、第1係数、および第2係数の積を算出することを含み、
前記第2係数は、所与の定数から特性X線のエネルギの前記値を差し引くことによって得られる項を含む、請求項8に記載のデータ処理方法。
【請求項10】
前記所与の定数は、所与の元素の特性X線のエネルギの値である、請求項9に記載のデータ処理方法。
【請求項11】
前記初期スペクトルと前記初期スペクトルに対応するシミュレーションデータとを用いて、エネルギに関するオフセット値を特定するステップをさらに備え、
前記予測値の算出には、前記オフセット値だけシフトされた前記初期スペクトルが利用される、請求項7~請求項10のいずれか1項に記載のデータ処理方法。
【請求項12】
前記オフセット値を求めることは、
前記初期スペクトルと前記初期スペクトルに対応するシミュレーションデータとの差分を算出することを含む、請求項11に記載のデータ処理方法。
【請求項13】
コンピュータによって実行されることにより、前記コンピュータに、請求項7~請求項12のいずれか1項に記載のデータ処理方法を実施させる、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光X線分析装置、データ処理方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光X線分析装置の分析結果のプロファイルには、メインのピーク(例:Kα線)だけでなくサムピークが存在する。サムピークの強度は、計数率、および、検出器の時間分解能に依存する。m番目のサムピークの強度I(m+1)のメインピークの強度I(1)に対する比を、計数率とピーキングタイムとを利用して導出する方法が、非特許文献1(Ryohei Tanaka, Koretaka Yuge, Jun Kawaia, Hussain Alawadhib、Artificial peaks in energy dispersive X-ray spectra: sum peaks, escape peaks, and diffraction peaks、X-RAY SPECTROMETRY、John Wiley & Sons, Ltd.、2017年、46,p5-p11)に開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Ryohei Tanaka, Koretaka Yuge, Jun Kawaia, Hussain Alawadhib、Artificial peaks in energy dispersive X-ray spectra: sum peaks, escape peaks, and diffraction peaks、X-RAY SPECTROMETRY、John Wiley & Sons, Ltd.、2017年、46,p5-p11
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1に開示されたような従来の方法を利用して分析結果のプロファイルからサムピークが除去された場合、サムピークとして必要以上にデータが除去される事態、および、サムピークの除去が不足している事態が生じていた。
【0005】
本発明は、係る実情に鑑み考え出されたものであり、その目的は、蛍光X線分析装置の分析結果においてサムピークを適切に除去するための技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のある局面に従う蛍光X線分析装置は、試料のX線を検出するX線検出器と、X線検出器の出力を処理することにより、試料の初期スペクトルを生成するデータ処理ユニットと、初期スペクトルから1以上のサムピークを除去するための除去処理を実行するプロセッサと、を備え、除去処理は、試料を構成する1以上の元素のそれぞれについて、初期スペクトルにおける計数値と特性X線のエネルギの値とを用いて、サムピークを形成する計数値の予測値を算出することと、初期スペクトルの計数値から、試料を構成する1以上の元素のそれぞれについて算出された予測値を差し引くことと、を含む。
【0007】
本開示のある局面に従うデータ処理方法は、X線検出器の出力を処理することによって得られた、試料の初期スペクトルを処理する方法であって、試料を構成する1以上の元素のそれぞれについて、初期スペクトルにおける計数値と特性X線のエネルギの値とを用いて、サムピークを形成する計数値の予測値を算出するステップと、初期スペクトルの計数値から、試料を構成する1以上の元素のそれぞれについて算出された予測値を差し引くステップと、を備える。
【0008】
本開示のある局面に従うプログラムは、コンピュータによって実行されることにより、コンピュータに、上述のデータ処理方法を実施させる。
【発明の効果】
【0009】
本開示のある局面に従うと、蛍光X線分析装置の分析結果においてサムピークが適切に除去される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態に係るX線分析装置1の構成例を示す図である。
図2】微分波から台形波への変換処理について説明するための図である。
図3】X線分析装置1がヒストグラムメモリ54に格納された計数値に基づいて生成した波高分布図の一例を示す図である。
図4】メインピークの計数値を用いた、サムピークについての予測値の算出を説明するための図である。
図5】Feについての初期スペクトルの一例を示す図である。
図6】検出結果とシミュレーション結果との相違の一例を示す図である。
図7】サムピークを除去された後のスペクトルの一例を示す図である。
図8】オフセット値の設定のためにX線分析装置1が実行する処理のフローチャートである。
図9】オフセット値の利用によるサムピーク除去後のスペクトルの変化の一例を示す図である。
図10図11を参照して後述するデータ処理に利用される設定データの一例を示す図である。
図11】X線分析装置1において、試料の検出結果を利用して波高分布図を出力するために実行される処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0012】
<X線分析装置1の構成>
図1は、本実施形態に係るX線分析装置1の構成例を示す図である。一実現例では、X線分析装置1は、エネルギ分散型蛍光X線分析装置である。図1に示すように、X線分析装置1は、X線管球10と、X線検出器12と、プリアンプ14と、微分回路16と、アンプ18と、ADC(Analog to Digital Converter)20と、CPU(Central Processing Unit)30と、メモリ31と、信号処理装置40とを含む。X線検出器12は、エネルギ分散型分光器である。信号処理装置40は、X線分析用信号処理装置である。
【0013】
X線管球10は、1次X線を試料Sに出射する。X線管球10は、たとえば、陽極であるターゲットと、陰極であるフィラメントと、ターゲットおよびフィラメントを収容する筐体とを有する。ターゲットに高電圧を印加するとともに、フィラメントに低電圧を印加すると、フィラメントから放射された熱電子がターゲットの端面に衝突し、当該端面にて1次X線を発生させる。ターゲットの端面で発生した1次X線は試料Sに出射される。1次X線が試料Sに照射されると、1次X線により励起された蛍光X線が試料Sから放出され、X線検出器12に入射される。
【0014】
X線検出器12は、予め定められた波長域の蛍光X線の強度を検出する。X線検出器12は、筐体内部に配置され、上記波長域の蛍光X線の強度を検出する検出素子を有する。検出素子は、たとえば、リチウムドリフト型Si半導体素子である。
【0015】
X線検出器12の出力信号はプリアンプ14で増幅される。プリアンプ14により出力信号は階段波状の信号となる。階段波状の信号の各段が蛍光X線を検出していることを示している。各段の高さが波長λ、すなわちX線エネルギEを表している。
【0016】
プリアンプ14で増幅された出力信号は、微分回路16に送られる。微分回路16は、コンデンサCおよび抵抗Rによって構成され、階段波を次の式(1)で表す微分波に変換する。階段波を微分波に変換することで、ダイナミックレンジを広くとることができ、結果的に高分解能を得ることができる。微分波はアンプ18で増幅され、ADC20に送られる。
【0017】
【数1】
【0018】
ただし、τ(=RC)は時定数、Tはサンプリング周期、nはサンプル数、aは(exp(-T/τ))である。
【0019】
ADC20は、アナログ信号である微分波を所定のサンプリング周期でサンプリングしてデジタル信号(以下、微分波デジタル信号と記載する)に変換する。微分波デジタル信号は、信号処理装置40に入力される。
【0020】
信号処理装置40は、一般的に、FPGA(Field-Programmable Gate Array)をはじめとするロジックデバイスによって構成される。
【0021】
本実施の形態において信号処理装置40は、オフセット補正部44と、台形波変換フィルタ46と、ベースライン補正部48と、ゲイン/オフセット調整部50と、ピーク検出器52と、ヒストグラムメモリ54とを含む。
【0022】
オフセット補正部44は、ADC20から与えられる微分波デジタル信号のオフセット補正を行ない、補正後の微分波デジタル信号を台形波変換フィルタ46に出力する。
【0023】
台形波変換フィルタ46は、オフセット補正部44によって補正された微分波を式(2)で示される台形波に変換するように構成されるデジタルフィルタである。
【0024】
【数2】
【0025】
ここで、式(2)において、Mは台形波の上底の時間に相当し、Nは台形波の立ち上がり時間および立ち下がり時間を表す。
【0026】
図2は、微分波から台形波への変換処理について説明するための図である。図2の左側に示される微分波は、台形波変換フィルタ46において、図2の右側に示されるように、立ち上がり時間および立ち下がり時間がいずれもNであって、上底の時間がMとなる台形波に変換されることとなる。
【0027】
台形波変換フィルタ46において生成された出力波形は、ベースライン補正部48およびゲイン/オフセット調整部50によってベースラインおよびゲインが調整された後、ピーク検出器52に入力される。
【0028】
ピーク検出器52は、出力波形におけるピークを検出して各ピークの波高値(ピークトップ値)を取得する。ピーク検出器52は、ピーク毎にピークトップ値に応じたX線エネルギEの計数値をインクリメントして、ヒストグラムメモリ54に格納する。
【0029】
メモリ31は、プログラムデータを格納するプログラム格納領域31Aと、データを格納するデータ格納領域31Bとを含む。X線分析装置1は、CPU30が、プログラム格納領域31A(または、X線分析装置1外の記憶装置)に格納されたプログラムを実行することにより、種々の処理を実施する。
【0030】
CPU30は、ヒストグラムメモリ54に格納された計数値に基づいて、波高分布図(エネルギスペクトルヒストグラム)を生成する。波高分布図は横軸に蛍光X線エネルギEを示し、縦軸に元素の含有量(強度)を示す。波高分布図では、試料S中に含まれる元素から放出される蛍光X線のエネルギEに対応する位置に各元素固有のピークが現れる。CPU30は、このピークの出現位置およびそのX線強度値などに基づいて、含有元素の定性分析および定量分析を行なう。
【0031】
<サムピーク>
図3は、X線分析装置1がヒストグラムメモリ54に格納された計数値に基づいて生成した波高分布図の一例を示す図である。図3の波高分布図は、試料Sとして、Niを含有するステンレス鋼(Ni含有SUS)を対象としている。図3には、低エネルギ側の波高分布図G11と、高エネルギ側の波高分布図G12とが示される。各波高分布図において、横軸はエネルギを表し、縦軸はX線光子のカウント数を表す。また、本明細書では、特記する場合を除いて、波高分布図の横軸および縦軸は、図3の横軸および縦軸と同様である。
【0032】
波高分布図G11には、いわゆるメインピークが示される。メインピークとは、各元素の特性X線に起因するピークである。波高分布図G11の線L11は、5つのピークを含むスペクトルである。5つのピークは、エネルギの低い順に、CrのKα線、CrのKβ線、FeのKα線、FeのKβ線、およびNiのKα線に対応する。
【0033】
波高分布図G12には、いわゆるサムピークが示される。サムピークとは、波高分布図において観察されるゴーストピークの一種である。短い間隔で2個のX線が検出器に入射した場合、検出器が当該2個のX線を分離計測することができず、1個のX線として計測する場合がある。その結果、2個のX線は、当該2個のX線のエネルギーを加算したエネルギーを持つピークとして観察される。このように観察されるピークが、サムピークである。
【0034】
波高分布図G12の線L12は、見かけ上8つのピークを含むスペクトルである。エネルギの最も低い場所に位置するピークは、CrのKα線に起因するサムピークである。2番目にエネルギの低い場所に位置するピークは、Crに起因するサムピークである。3番目にエネルギの低い場所に位置するピークは、Feに起因するサムピークである。4番目にエネルギの低い場所に位置するピークは、Feに起因する2つのサムピークが重なったものである。5番目にエネルギの低い場所に位置するピークは、FeのKα線に起因するサムピークである。そして、エネルギの高い側の3つのピーク(6~8番目にエネルギの低い場所に位置するピーク)のそれぞれは、Feに起因するサムピークである。
【0035】
X線分析装置1は、ヒストグラムメモリ54に格納された計数値に基づいて、波高分布図を生成する。このように生成される波高分布図は、本明細書では「初期波高分布図」とも称される。初期波高分布図に含まれるスペクトルは「初期スペクトル」の一例である。
【0036】
X線分析装置1は、初期スペクトルからサムピークを除去することにより、出力用の波高分布図を生成する。このように生成される波高分布図に含まれるスペクトルは、本明細書では「最終スペクトル」とも称される。
【0037】
X線分析装置1は、図4等を参照して後述されるように、サムピークの除去に、各サムピークが起因する元素のメインピークの計数値を利用する。
【0038】
<サムピークとして除去される計数値>
図4は、メインピークの計数値を用いた、サムピークについての予測値の算出を説明するための図である。図4には、波高分布図G21および波高分布図G22が含まれる。波高分布図G21は、ある試料について取得された初期スペクトルのうち、5つのメインピークのエネルギ領域に対応する。波高分布図G22は、波高分布図G21内のメインピークの計数値を利用して算出される予測値を模式的に示す。波高分布図G22に示された予測値の算出について、より具体的に説明する。
【0039】
X線分析装置1は、メインピークP11の中心位置の前後の所与のエネルギ範囲の計数値を利用して、メインピークP11に対応する元素に起因するサムピークの計数値の予測値を算出する。ピークの中心位置の前後の所与のエネルギ範囲は、半値幅FMHMCoefとして、図10を参照して後述される。
【0040】
図4には、メインピークP11から予測される計数値が、枠M11および枠M12内に示される。枠M11には、メインピークP11の中心位置より低エネルギ側に位置する点V11近傍の計数値から算出された予測値が示される。枠M11内の予測値は、10.7~13.2keV辺りに亘って値を有する。枠M12には、メインピークP11の中心位置より高エネルギ側に位置する点V12近傍の計数値から算出された予測値が示される。枠M12内の予測値は、10.7~13.2keV辺りに亘って値を有する。
【0041】
X線分析装置1は、また、メインピークP21の中心位置の前後の所与のエネルギ範囲の計数値を利用して、メインピークP21に対応する元素に起因するサムピークの計数値の予測値を算出する。
【0042】
図4には、メインピークP21に対応する予測値が、枠M21~M23内に示される。枠M21には、メインピークP21の中心位置より低エネルギ側に位置する点V21近傍の計数値から算出された予測値が示される。枠M21内の予測値は、11.5~12.9keV辺りに亘って値を有する。枠M22には、メインピークP21の中心位置より低エネルギ側であって点V22より高エネルギ側に位置する点V22近傍の計数値から算出された、予測値が示される。枠M22内の予測値は、11.5~14.1keV辺りに亘って値を有する。枠M23には、メインピークP21の中心位置より高エネルギ側に位置する点V23近傍の計数値から算出された予測値が示される。枠M23内の予測値は、11.5~14.1keV辺りに亘って値を有する。
【0043】
図4を参照して説明されたように、X線分析装置1は、1以上のメインピークのそれぞれについて、当該メインピークに対応する元素に起因して発生することが予測されるサムピークの計数値が予測値が算出される。メインピークP11について算出された予測値は、枠M11,M12に示されている。メインピークP21について算出された予測値は、枠M21~M23に示されている。
【0044】
X線分析装置1は、試料に含まれる1以上の元素のそれぞれについて、上記の予測値を算出する。また、X線分析装置1は、1以上の元素のそれぞれについて算出された予測値を足し合わせることにより、初期スペクトルに含まれるすべてのサムピークの予測値を導出する。そして、X線分析装置1は、すべてのサムピークの予測値を初期スペクトルから差し引くことにより、最終スペクトルを生成する。
【0045】
<予測値の算出方法>
式(3)は、ある元素のm番目のサムピークについての予測値を算出するためにX線分析装置1が利用する式を表す。
【0046】
【数3】
【0047】
式(3)において、I(m+1)は、m番目のサムピークの計数値(予測値)を表す。cは計数率(cps)を表し、rはピーキングタイムとを表す。cとrは、非特許文献1(Ryohei Tanaka, Koretaka Yuge, Jun Kawaia, Hussain Alawadhib、Artificial peaks in energy dispersive X-ray spectra: sum peaks, escape peaks, and diffraction peaks、X-RAY SPECTROMETRY、John Wiley & Sons, Ltd.、2017年、46,p5-p11)に記載されている。Iは、メインピークの計数値(検出値)を表す。
【0048】
式(3)のCoefModeは、次の式(4)で表される。
【0049】
【数4】
【0050】
CoefA,CoefE,Coefは、いずれも予め定められた定数である。eは、予測値の算出の対象となる元素の特性X線のエネルギを表す。
【0051】
CoefEは、X線分析装置1において基準元素の特性X線のエネルギとされてもよい。この場合、式(4)中の項「CoefE-e」は、基準元素と予測値の算出の対象となる元素との、特性X線のエネルギの差を表す。
【0052】
たとえば、基準元素としてFeが採用された例を想定する。FeのKαの特性X線のエネルギは、6.398(約6.40)keVである。この例では、CoefEの値は6.40と設定される。
【0053】
CuのKαの特性X線のエネルギは、約8.04keVである。上記の例において、Cuに起因するサムピークを算出するとき、eとして8.04(keV)が利用されるため、CoefModeは次の式(5)に従って導出される。
【0054】
【数5】
【0055】
一方、上記の例において、Feに起因するサムピークを算出するとき、eとして6.40(keV)が利用されるため、CoefModeは次の式(6)に従って導出される。すなわち、CoefModeは、Coefそのものとして、シンプルに導出される。
【0056】
【数6】
【0057】
式(6)を参照して説明されたように、CoefEとして所与の元素の特性X線のエネルギが採用されると、当該元素に起因するサムピークについての予測値の算出において計算がシンプルにされ得る。
【0058】
式(3)~(6)を参照して説明された予測値の算出において、CoefAは、正の値とされ得る。この場合、eの値が大きくなると、CoefModeの値が小さくなる。CoefModeの値が小さくなると、式(3)に従って算出されるI(m+1)の値も小さくなる。すなわち、式(3)に従って算出されるサムピークの計数値の予測値は、対象となる元素の特性X線のエネルギが高いほど低くなる係数(Coef)を有することになる。これにより、本実施形態におけるサムピーク除去のためのデータ処理方法では、サムピーク率におけるX線のエネルギ依存性が考慮され得る。
【0059】
<オフセット値の設定>
図5は、Feについての初期スペクトルの一例を示す図である。図5には、波高分布図G51と波高分布図G52とが示される。波高分布図G51は、メインピークを含むエネルギ領域に対応する。波高分布図G51に示された線L51は、試料のスペクトルを表し、このスペクトルは2つのピークを含む。2つのうち1つのピークは、FeのKαのメインピークに相当する。波高分布図G52は、サムピークを含むエネルギ領域に対応する。波高分布図G52に示された線L52は、試料のスペクトルを表し、このスペクトルは2つのサムピークを含む。
【0060】
図6は、検出結果とシミュレーション結果との相違の一例を示す図である。図6に示された波高分布図G61において、線L61は、シミュレーション結果として得られたスペクトルを表し、線L62は、X線分析装置1において検出結果として得られたスペクトルを表す。図6において、線L62の2つのピークは、いずれも線61の2つのピークよりも高エネルギ側に位置している。すなわち、X線分析装置1において検出結果として得られるスペクトルは、実際のエネルギに対してズレを含む。このズレの原因として、たとえば、X線分析装置1においてデータが取得されるステップの幅(エネルギの幅)の粗さが想定される。
【0061】
図7は、サムピークを除去された後のスペクトルの一例を示す図である。図7の波高分布図G71の線L71は、X線分析装置1によってサムピークを除去されたスペクトルの一例である。
【0062】
線L71は、円C71,C72に示されたように、隣接するエネルギ領域に対して大きく凹んだ領域を含む。このような領域が生じる要因の一例として、図6を参照して説明されたように、検出結果におけるエネルギが実際のエネルギに対してズレを含んでいることが想定される。すなわち、サムピークとして差し引かれる計数が対応するエネルギが実際のエネルギに対してズレを含むため、検出結果から、サムピークとして計数値を差し引かれるべきエネルギよりもズレた領域のエネルギに対して計数値が差し引かれることが、要因の一例であると想定される。
【0063】
そこで、X線分析装置1は、式(3)に従った予測値の算出において、利用する計測値のエネルギに対するオフセット値を適用してもよい。X線分析装置1は、較正として、このように利用されるオフセット値を設定してもよい。
【0064】
図8は、オフセット値の設定のためにX線分析装置1が実行する処理のフローチャートである。一実現例では、図8の処理は、CPU30が所与のプログラムを実行することによって実現される。
【0065】
図8を参照して、ステップSA1にて、X線分析装置1は、シミュレーション結果を生成する。一実現例では、X線分析装置1は、シミュレーション結果として、専用のソフトウェアを利用して、基準試料に対して想定される蛍光X線スペクトルを生成する。
【0066】
ステップSA2にて、X線分析装置1は、シミュレーション結果において所与の数のピークを選択する。所与の数を特定する情報は、データ格納領域31Bに予め格納されていてもよい。選択されるピークは、シミュレーション結果において最大の計数値を有する1つのピークであってもよい。
【0067】
ステップSA3にて、X線分析装置1は、選択されたピークのそれぞれについて、比較対象のエネルギ領域を特定する。比較対象のエネルギ領域は、ピークの半値幅であってもよい。
【0068】
ステップSA4にて、X線分析装置1は、ステップSA3において特定されたエネルギ領域について、シミュレーション結果と検出結果との計数値の差分を算出する。検出結果は、たとえば、X線分析装置1において得られた上述の基準試料の初期スペクトルである。
【0069】
ステップSA5にて、X線分析装置1は、ステップSA4において利用された検出結果を所与の値ずつ高エネルギ側にシフトさせたNA個の比較用プロファイルを生成する。所与の値は、たとえば1eVである。
【0070】
ステップSA6にて、X線分析装置1は、ステップSA4において利用された検出結果を所与の値ずつ低エネルギ側にシフトさせたNA個の比較用プロファイルを生成する。所与の値は、たとえば1eVである。
【0071】
ステップSA7にて、X線分析装置1は、ステップSA5において生成されたNA個の比較用プロファイルおよびステップSA6において生成されたNA個の比較用プロファイルのそれぞれについて、ステップSA3において特定されたエネルギ領域について、シミュレーション結果との計数値の差分を算出する。NAとして「20」が採用された場合、ステップSA7では、40個の差分が生成される。
【0072】
ステップSA8にて、X線分析装置1は、ステップSA4において算出された差分およびステップS7において算出された差分のうち、最小値を特定する。
【0073】
ステップSA9にて、X線分析装置1は、ステップSA8において特定された最小値に対応するシフトの値(シフトされたエネルギの値)をオフセット値として特定し、特定されたオフセット値データ格納領域31Bに格納する。一実現例では、オフセット値は、図10を参照して後述される「PosOffset」および「PosOffsetEx」として格納される。
【0074】
その後、X線分析装置1は、図8の処理を終了させる。
【0075】
X線分析装置1は、式(3)に従って、サムピーク用の計数値の予測値を算出する際に、オフセット値だけエネルギをシフトさせた初期スペクトルを利用してもよい。
【0076】
図9は、オフセット値の利用によるサムピーク除去後のスペクトルの変化の一例を示す図である。
【0077】
図9には、波高分布図G91および波高分布図G92が示される。波高分布図G91における線L91は、初期スペクトルに対して、オフセット値を利用することなく、式(3)を利用したサムピーク除去がなされたスペクトルを表す。波高分布図G92における線L92は、初期スペクトルに対して、オフセット値を利用して、式(3)を利用したサムピーク除去がなされたスペクトルを表す。オフセット値の利用とは、上述のように、初期スペクトルが、オフセット値だけシフトされた後で、式(3)のサムピーク用の計数値の算出に利用されることを意味する。
【0078】
線L91では、円C91で示された場所は計数値が差し引かれすぎており、円C92で示された場所は計数値の引き残りが発生している。一方、線L92では、円C91および円C92の双方に対応するエネルギ領域で適切に計数値が差し引かれている。すなわち、オフセット値を利用することにより、サムピーク除去がより適切に実現され得る。
【0079】
<設定データ>
図10は、図11を参照して後述するデータ処理に利用される設定データの一例を示す図である。
【0080】
図10において、「Enable」は、サムピークの除去を実施するか否かを規定する。値が「1」であれば、初期スペクトルに対してサムピークの除去が実施され、値が「0」であれば、初期スペクトルに対してサムピークの除去が実施されない。
【0081】
「CoefMode」は、CoefModeの算出方法を規定する。値が「2」であるとき、CoefModeは上記式(4)に従って算出される。
【0082】
図10の設定データは、式(4)で利用される「Coef」「CoefA」および「CoefE」、ならびに、サムピークの予測値において半値幅として利用される「FMHMCoef」の設定値を含む。
【0083】
「TopNum」は、サムピークの生成元として利用されるメインピークの数を規定する。
【0084】
「CheckNum」は、サムピークが生成される対象ピークの数を規定する。対象ピークの数は、上述されたサムピークの予測値に含まれるピークの数を意味する。
【0085】
「MinTopLevel」は、メインピークとして、サムピークの生成に利用されるピークの最大の計数値のしきい値を規定する。すなわち、「MinTopLevel」より大きい値を有するピークは、サムピークの生成には利用されない。これにより、初期スペクトルにおいて検出エラーによって発生したピークがサムピークの生成に利用されることが回避され得る。
【0086】
「MinCheckLevel」は、対象ピークのしきい値(全計数値の和に占めるサムピークの計数値の比率)を規定する。
【0087】
「EnergyL」および「EnergyH」のそれぞれは、メインピークとして、サムピークの生成に利用されるピークのエネルギの範囲(下限および上限)を規定する。
【0088】
「RecalcBG」は、初期スペクトルの生成においてバックグラウンドを再計算するか否かを規定する。
【0089】
「BGRept」は、初期スペクトルの生成におけるバックグラウンドの再計算を繰り返す回数を規定する。
【0090】
「BGPoint」は、初期スペクトルの生成におけるバックグラウンドの再計算時に利用されるエネルギの点数を規定する。
【0091】
「BGMode」は、初期スペクトルの生成におけるバックグラウンドの自動計算の態様を規定する。値が「1」であるとき、バックグラウンドの値が所与の値を下回らない態様が採用される。値が「0」であるとき、通常の態様、すなわち、検出された値をそのまま利用する態様が採用される。
【0092】
「Interpolate」は、サムピーク出現位置のオフセットを有効化するか、すなわち、サムピークの予測値の算出において、上述のオフセット値を利用して初期スペクトルをシフトさせるか否かを規定する。
【0093】
「PosOffset」および「PosOffsetEx」のそれぞれは、上述のオフセット値の小数部分と整数部分とを規定する。
【0094】
<処理の流れ>
図11は、X線分析装置1において、試料の検出結果を利用して波高分布図を出力するために実行される処理のフローチャートである。一実現例では、図11の処理は、CPU30が所与のプログラムを実行することによって実施される。
【0095】
ステップS10にて、X線分析装置1は、ヒストグラムメモリ54から計数値を読み出し、また、データ格納領域31Bから各種の設定を読み出す。設定は、図10を参照して説明された設定データを含む。
【0096】
ステップS12にて、X線分析装置1は、初期波高分布図を生成する。
【0097】
ステップS14にて、X線分析装置1は、初期波高分布図に対してサムピークを除去するようにX線分析装置1が設定されているか否かを判断する。一実現例では、図10の設定データにおける「Enable」の値が「1」であるか否かが判断される。X線分析装置1は、X線分析装置1がサムピークを除去するように設定されていると判断すると(ステップS14にてYES)、ステップS16へ制御を進め、そうでなければ(ステップS14にてNO)、ステップS24へ制御を進める。
【0098】
ステップS16にて、X線分析装置1は、変数Nの値を1にセットする。変数Nは、サムピークの予測値の算出に利用されるメインピークの数を表す。
【0099】
ステップS18にて、X線分析装置1は、N個目のメインピークについて、サムピーク除去用のデータを生成する。N個目のメインピークについて生成されるサムピーク除去用のデータの一例は、図4のメインピークP11について生成される枠M11および枠M12内のデータである。サムピーク除去用のデータの他の例は、図4のメインピークP21について生成される枠M21~M23内のデータである。各メインピークについて生成されたサムピーク除去用のデータは、サムピークの除去における「予測値」の一例を構成する。
【0100】
サムピーク除去用のデータの生成において、X線分析装置1は、初期スペクトルを、オフセット値だけシフトさせる場合がある。より具体的には、X線分析装置1は、図10に示された設定データの中の「Interpolate」の値がオフセットを有効化するものである場合には、初期スペクトルをオフセット値だけシフトさせた後、サムピーク除去用のデータを生成する。X線分析装置1は、図10に示された設定データの中の「Interpolate」の値がオフセットを有効化するものではない場合、初期スペクトルをシフトさせることなく、サムピーク除去用のデータを生成する。
【0101】
ステップS20にて、X線分析装置1は、変数Nの値が予め定められた値Mに到達したか否かを判断する。値Mは、サムピークの除去用のデータの生成に利用されるメインピークの数であり、図10の「TopNum」としてデータ格納領域31Bに格納されている。X線分析装置1は、変数Nの値がMに到達したと判断すると(ステップS20にてYES)、ステップS22へ制御を進め、そうでなければ(ステップS20にてNO)、ステップS26へ制御を進める。
【0102】
ステップS26にて、X線分析装置1は、変数Nの値を1加算更新して、ステップS18へ制御を戻す。
【0103】
ステップS22にて、X線分析装置1は、最終波高分布図を生成する。より具体的には、X線分析装置1は、初期波高分布図に含まれる初期スペクトルから、ステップS18において作成されたM個のピーク除去用のデータのそれぞれに含まれる計数値をすべて削除して最終スペクトルを生成する。そして、X線分析装置1は、最終スペクトルを縦軸および横軸と組み合わせることにより、最終波高分布図を生成する。
【0104】
たとえば、X線分析装置1が、ピーク除去用データとして、図4のメインピークP11からのピーク除去用のデータ(枠M11,M12内に示されたデータ)、および、図4のメインピークP21からのピーク除去用のデータ(枠M21,M22,M23内に示されたデータ)を生成した場合を想定する。この場合、X線分析装置1は、初期スペクトルの各エネルギの計数値から、メインピークP11からのピーク除去用のデータの各エネルギの計数値、および、メインピークP11からのピーク除去用のデータの各エネルギの計数値を差し引くことにより、最終スペクトルを生成する。
【0105】
ステップS24にて、X線分析装置1は、波高分布図を出力する。その後、X線分析装置1は図11の処理を終了させる。X線分析装置1がサムピークを除去するように設定されている場合(ステップS14にてYES)、ステップS24において出力される波高分布図は、ステップS22において生成される最終波高分布図である。X線分析装置1がサムピークを除去しないように設定されている場合(ステップS14にてNO)、ステップS24において出力される波高分布図は、初期波高分布図である。
【0106】
以上説明された実施形態では、サムピークを構成する計数値の予測値として、図4のメインピークP11からのピーク除去用のデータ(枠M11,M12内に示されたデータ)、および、図4のメインピークP21からのピーク除去用のデータ(枠M21,M22,M23内に示されたデータ)が例示された。予測値は、式(3)に基づいて算出される。式(3)のCoefModeは、式(4)で表される。式(4)は、eとして、予測値の算出の対象となる元素の特性X線のエネルギを含む。すなわち、本実施形態では、予測値には、サムピークが起因する元素の特性X線のエネルギが反映される。これにより、予測値には、サムピークが発生する割合におけるX線のエネルギ依存性が反映される。
【0107】
[態様]
上述した複数の例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0108】
(第1項) 一態様にかかる蛍光X線分析装置は、試料のX線を検出するX線検出器と、前記X線検出器の出力を処理することにより、前記試料の初期スペクトルを生成するデータ処理ユニットと、前記初期スペクトルから1以上のサムピークを除去するための除去処理を実行するプロセッサと、を備え、前記除去処理は、前記試料を構成する1以上の元素のそれぞれについて、前記初期スペクトルにおける計数値と特性X線のエネルギの値とを用いて、サムピークを形成する計数値の予測値を算出することと、前記初期スペクトルの計数値から、前記試料を構成する1以上の元素のそれぞれについて算出された前記予測値を差し引くことと、を含んでいてもよい。
【0109】
第1項に記載の蛍光X線分析装置によれば、分析結果においてサムピークが適切に除去される。
【0110】
(第2項) 第1項に係る蛍光X線分析装置において、前記予測値は、用いられる特性X線のエネルギの前記値が高くなると小さくなってもよい。
【0111】
第2項に記載の蛍光X線分析装置によれば、サムピークの出現する割合に、元となる元素の特性X線のエネルギ依存性が反映される。
【0112】
(第3項) 第2項に係る蛍光X線分析装置において、前記予測値を算出することは、前記初期スペクトルにおける計数値、第1係数、および第2係数の積を算出することを含み、前記第2係数は、所与の定数から特性X線のエネルギの前記値を差し引くことによって得られる項を含んでいてもよい。
【0113】
第3項に記載の蛍光X線分析装置によれば、サムピークの出現する割合に、元となる元素の特性X線のエネルギ依存性が、直接的に反映される。
【0114】
(第4項) 第3項に係る蛍光X線分析装置において、前記所与の定数は、所与の元素の特性X線のエネルギの値であってもよい。
【0115】
第4項に記載の蛍光X線分析装置によれば、所与の元素についての予測値の算出が容易になる。
【0116】
(第5項) 第1項~第4項のいずれか1項に係る蛍光X線分析装置において、前記プロセッサは、前記初期スペクトルと前記初期スペクトルに対応するシミュレーションデータとを用いて、エネルギに関するオフセット値を特定し、前記予測値の算出に、前記オフセット値だけシフトされた前記初期スペクトルが利用してもよい。
【0117】
第5項に記載の蛍光X線分析装置によれば、初期スペクトルにおいてエネルギのシフトが発生している場合であっても、予測値の算出において、当該シフトの影響が低減される。
【0118】
(第6項) 第5項に係る蛍光X線分析装置において、前記オフセット値は、前記初期スペクトルと前記初期スペクトルに対応するシミュレーションデータとの差分に基づいて算出されてもよい。
【0119】
第6項に記載の蛍光X線分析装置によれば、オフセット値が容易にかつ適切に算出される。
【0120】
(第7項) 一態様にかかるデータ処理方法は、X線検出器の出力を処理することによって得られた、試料の初期スペクトルを処理する方法であって、前記試料を構成する1以上の元素のそれぞれについて、前記初期スペクトルにおける計数値と特性X線のエネルギの値とを用いて、サムピークを形成する計数値の予測値を算出するステップと、前記初期スペクトルの計数値から、前記試料を構成する1以上の元素のそれぞれについて算出された前記予測値を差し引くステップと、を備えていてもよい。
【0121】
第7項に記載のデータ処理方法によれば、蛍光X線分析装置の分析結果においてサムピークが適切に除去される。
【0122】
(第8項) 第7項に係るデータ処理方法において、前記予測値は、用いられる特性X線のエネルギの前記値が高くなると小さくなってもよい。
【0123】
第8項に記載のデータ処理方法によれば、サムピークの出現する割合に、元となる元素の特性X線のエネルギ依存性が反映される。
【0124】
(第9項) 第8項に係るデータ処理方法において、前記予測値を算出するステップは、前記初期スペクトルにおける計数値、第1係数、および第2係数の積を算出することを含み、前記第2係数は、所与の定数から特性X線のエネルギの前記値を差し引くことによって得られる項を含んでいてもよい。
【0125】
第9項に記載のデータ処理方法によれば、サムピークの出現する割合に、元となる元素の特性X線のエネルギ依存性が、直接的に反映される。
【0126】
(第10項) 第9項に係るデータ処理方法において、前記所与の定数は、所与の元素の特性X線のエネルギの値であってもよい。
【0127】
第10項に記載のデータ処理方法によれば、所与の元素についての予測値の算出が容易になる。
【0128】
(第11項) 第7項~第10項のいずれか1項に係るデータ処理方法は、前記初期スペクトルと前記初期スペクトルに対応するシミュレーションデータとを用いて、エネルギに関するオフセット値を特定するステップをさらに備え、前記予測値の算出には、前記オフセット値だけシフトされた前記初期スペクトルが利用されてもよい。
【0129】
第11項に記載のデータ処理方法によれば、初期スペクトルにおいてエネルギのシフトが発生している場合であっても、予測値の算出において、当該シフトの影響が低減される。
【0130】
(第12項) 第11項に係るデータ処理方法において、前記オフセット値を求めることは、前記初期スペクトルと前記初期スペクトルに対応するシミュレーションデータとの差分を算出することを含んでいてもよい。
【0131】
第12項に記載のデータ処理方法によれば、オフセット値が容易にかつ適切に算出される。
【0132】
(第13項) 一態様にかかるプログラムは、コンピュータによって実行されることにより、前記コンピュータに、第7項~第12項のいずれか1項に係るデータ処理方法を実施させてもよい。
【0133】
第13項に記載のプログラムによれば、蛍光X線分析装置の分析結果においてサムピークが適切に除去される。
【0134】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。また、実施の形態中の各技術は、単独でも、また、必要に応じて実施の形態中の他の技術と可能な限り組み合わされても、実施され得ることが意図される。
【符号の説明】
【0135】
1 X線分析装置、10 X線管球、30 CPU、40 信号処理装置、S 試料。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11