(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023114867
(43)【公開日】2023-08-18
(54)【発明の名称】フッ素樹脂組成物、フッ素樹脂フィルム、積層フィルム、及び金属積層板
(51)【国際特許分類】
C08L 27/12 20060101AFI20230810BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20230810BHJP
C08L 79/08 20060101ALI20230810BHJP
C08L 101/12 20060101ALI20230810BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20230810BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20230810BHJP
【FI】
C08L27/12
B32B27/30 D
C08L79/08
C08L101/12
C08K3/013
H05K1/03 610N
H05K1/03 610H
H05K1/03 630H
H05K1/03 630D
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022017427
(22)【出願日】2022-02-07
(71)【出願人】
【識別番号】000155698
【氏名又は名称】株式会社有沢製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】藤田 祥
(72)【発明者】
【氏名】中村 健二
(72)【発明者】
【氏名】松山 浩幸
【テーマコード(参考)】
4F100
4J002
【Fターム(参考)】
4F100AA01A
4F100AA14A
4F100AA20A
4F100AA21A
4F100AB04C
4F100AB10C
4F100AB17C
4F100AB31C
4F100AB33C
4F100AK17A
4F100AK41A
4F100AK49A
4F100AK49B
4F100AL05A
4F100AS00A
4F100BA01
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100BA10C
4F100CA23A
4F100DD07C
4F100GB43
4F100JA02
4F100JA02B
4F100JD15A
4F100JG05
4F100JK06
4F100JK14C
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4F100JL01
4F100JL11
4F100YY00A
4F100YY00C
4J002BD132
4J002BD151
4J002CM042
4J002CM043
4J002DJ016
4J002FD016
4J002GQ01
(57)【要約】
【課題】誘電正接、接着性、線膨張係数、及びUVレーザー加工性に優れる金属積層板に用いることができるフッ素樹脂組成物、フッ素樹脂フィルム、及び積層フィルム、並びに金属積層板を提供すること。
【解決手段】フッ素樹脂と、液晶ポリマー樹脂と、ポリイミド樹脂と、無機フィラーと、を含むフッ素樹脂組成物であって、上記ポリイミド樹脂の吸水率が1.0質量%以下であり、上記フッ素樹脂の含有量が、上記フッ素樹脂組成物の総量に対して55質量%以上であり、上記ポリイミド樹脂の含有量が、上記フッ素樹脂組成物の総量に対して0.5~5.0質量%であり、上記無機フィラーの含有量が、上記フッ素樹脂の含有量に対して18~67質量%である、フッ素樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂と、
液晶ポリマー樹脂と、
ポリイミド樹脂と、
無機フィラーと、を含むフッ素樹脂組成物であって、
前記ポリイミド樹脂の吸水率が1.0質量%以下であり、
前記フッ素樹脂の含有量が、前記フッ素樹脂組成物の総量に対して55質量%以上であり、
前記ポリイミド樹脂の含有量が、前記フッ素樹脂組成物の総量に対して0.5~5.0質量%であり、
前記無機フィラーの含有量が、前記フッ素樹脂の含有量に対して18~67質量%である、
フッ素樹脂組成物。
【請求項2】
前記液晶ポリマー樹脂の含有量が、前記液晶ポリマー樹脂と前記ポリイミド樹脂の総量に対して35質量%以上である、
請求項1に記載のフッ素樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリイミド樹脂が、ジアミン成分と酸二無水物成分とを反応させて得られるポリイミド樹脂前駆体樹脂からなり、
前記ジアミン成分は、p-フェニレンジアミン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、2-(4-アミノフェニル)ベンゾオキサゾール-5-アミン及び1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼンのうち少なくともいずれかを含み、
前記酸二無水物成分は、p-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)及び3,3‘,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物のうち少なくともいずれかを含む、
請求項1又は2に記載のフッ素樹脂組成物。
【請求項4】
前記無機フィラーが、シリカを含む、
請求項1~3のいずれか一項に記載のフッ素樹脂組成物。
【請求項5】
前記無機フィラーが、窒化ホウ素、及び酸化チタンからなる群から選択される1つ以上をさらに含む、
請求項4に記載のフッ素樹脂組成物。
【請求項6】
前記フッ素樹脂が、パーフルオロアルコキシアルカン及びポリテトラフルオロエチレンのうち少なくとも1つ以上から選択される、
請求項1~5のいずれか一項に記載のフッ素樹脂組成物。
【請求項7】
前記フッ素樹脂が、パーフルオロアルコキシアルカンとポリテトラフルオロエチレンとを含み、
前記パーフルオロアルコキシアルカンの含有量が、前記フッ素樹脂の含有量に対して、90質量%以上である、
請求項6に記載のフッ素樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載のフッ素樹脂組成物を用いてなるフッ素樹脂フィルム。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか一項に記載のフッ素樹脂組成物を用いてなる層と、
非熱可塑性樹脂を用いてなる層と、を備え、
最外層のうち少なくとも一方が前記フッ素樹脂組成物を用いてなる層である、
積層フィルム。
【請求項10】
前記非熱可塑性樹脂の線膨張係数が前記フッ素樹脂組成物の線膨張係数よりも小さい、
請求項9に記載の積層フィルム。
【請求項11】
前記非熱可塑性樹脂がポリイミド樹脂である、
請求項9又は10に記載の積層フィルム。
【請求項12】
請求項8~11のいずれか一項に記載のフッ素樹脂フィルム又は積層フィルムと、
金属箔と、を備える、
金属積層板。
【請求項13】
前記金属箔が銅箔、銅合金箔、ステンレス箔、アルミ箔からなる群より選ばれるいずれか1つである、
請求項12に記載の金属積層板。
【請求項14】
前記フッ素樹脂組成物を用いてなる層又は前記非熱可塑性樹脂を用いてなる層と接する面における前記金属箔の表面粗度(Rz)が1.5μm以下である、
請求項12又は13に記載の金属積層板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素樹脂組成物、フッ素樹脂フィルム、積層フィルム、及び金属積層板に関する。
【背景技術】
【0002】
フレキシブルプリント基板(FPC)の絶縁材料としてポリイミド樹脂が広く用いられているが、電子機器の高速通信、自動車へのミリ波レーダー搭載等の安全機能向上に伴う高速伝送(低伝送損失)の要求にはポリイミド樹脂のみではこの要求への対応が困難になっている。この高速伝送には絶縁材料の誘電率、誘電正接が影響することが知られている。
【0003】
そのため、誘電特性に優れる絶縁材料としてPTFE等のフッ素樹脂や液晶ポリマー(LCP)が注目されているが、金属箔等の異種材料との接着性が低く、さらにフッ素樹脂はフィルム化した際に無色透明であるため回路形成時のUVレーザー加工性が悪くCO2レーザーによる加工しかできないという問題がある。
【0004】
また、フッ素樹脂は線膨張係数(CTE)が大きく寸法安定性に問題があるため、FPC材料の絶縁層に単体で使用することは困難であり、ガラスクロスにフッ素樹脂を含浸させることで寸法安定性を付与させたリジッド材料が広く用いられている。しかし、ガラスクロスを用いると製品厚さが厚くなり、ガラス起因で絶縁材料の誘電率が悪化するという問題がある。
【0005】
このような問題を解決する手段として、FPC材料の絶縁層にポリイミド樹脂とフッ素樹脂の積層フィルムを用いる検討がされており、CTEを改善することが可能であることが確認されている。また、UVレーザー加工性についてはフッ素樹脂フィルムへの着色成分添加で改善可能だが、着色成分起因で絶縁材料の誘電特性が悪化するためUVレーザー加工性と誘電特性の両立には至っているとはいえない。
【0006】
例えば、特許文献1には、熱圧着性積層ポリイミドフィルムとフッ素樹脂フィルムを用いた低誘電ポリイミド基板が開示されている。
【0007】
また、特許文献2には、テトラフルオロエチレン系ポリマー粒子と、ポリイミド樹脂の前駆体、ポリイミド樹脂、シアネートエステル樹脂又はエポキシ樹脂である熱硬化性ポリマーを含むフッ素樹脂膜が開示されている。
【0008】
さらに、特許文献3には、テトラフルオロエチレン系ポリマーに熱硬化性ポリイミドを添加することでCTEを低減できることが開示されており、またチタン、ケイ素、マグネシウム、アルミニウム、セリウムおよび窒素からなる特定原子を含有する機能性化合物の添加でUVレーザー加工性が改善することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4029732号
【特許文献2】特開2020-37661号
【特許文献3】特開2020-37662号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1の低誘電ポリイミド基板では、フッ素樹脂フィルムを用いているためUV領域の光吸収がなく、UVレーザー加工が難しいという問題がある。
【0011】
また、特許文献2の熱硬化性ポリマーで使用しているポリイミド樹脂の前駆体やポリイミド樹脂は耐熱性に優れているが、吸水率が高く誘電特性(特に誘電正接)が高いため高速伝送が悪化すると考えられる。一方、シアネートエステル樹脂やエポキシ樹脂は、吸水率は低いが、樹脂自体の耐熱性が低いという問題がある。
【0012】
さらに、特許文献3の熱硬化性ポリイミド樹脂は吸水率が高く誘電特性(特に誘電正接)を悪化させる。また、液晶性ポリエステルについても効果を損なわない範囲で添加できるとの記載はあるが、具体的な添加例の記載はない。
【0013】
すなわち、これらのフィルム及び該フィルムを用いた金属積層板に対しては、高速通信、ミリ波レーダー用途への適用、回路信頼性の更なる向上を図るため、絶縁材料の誘電正接(以下、単に誘電正接、ともいう。)、金属箔等の異種材料との接着性(以下、単に接着性、ともいう。)、及び線膨張係数に優れ、並びに微細スルーホール形成を可能にする優れたUVレーザー加工性が求められる。
【0014】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、誘電正接、接着性、線膨張係数、及びUVレーザー加工性に優れる金属積層板を得ることのできるフッ素樹脂組成物、およびそれを用いたフッ素樹脂フィルム、積層フィルム、並びに金属積層板の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、フッ素樹脂と、液晶ポリマー樹脂と、ポリイミド樹脂と、無機フィラーと、を含むフッ素樹脂組成物であって、上記ポリイミド樹脂の吸水率が1.0質量%以下であり、上記フッ素樹脂の含有量が、上記フッ素樹脂組成物の総量に対して55質量%以上であり、上記ポリイミド樹脂の含有量が、上記フッ素樹脂組成物の総量に対して0.5~5.0質量%であり、上記無機フィラーの含有量が、上記フッ素樹脂の含有量に対して18~67質量%である、フッ素樹脂組成物を用いることにより、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0016】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)
フッ素樹脂と、
液晶ポリマー樹脂と、
ポリイミド樹脂と、
無機フィラーと、を含むフッ素樹脂組成物であって、
前記ポリイミド樹脂の吸水率が1.0質量%以下であり、
前記フッ素樹脂の含有量が、前記フッ素樹脂組成物の総量に対して55質量%以上であり、
前記ポリイミド樹脂の含有量が、前記フッ素樹脂組成物の総量に対して0.5~5.0質量%であり、
前記無機フィラーの含有量が、前記フッ素樹脂の含有量に対して18~67質量%である、
フッ素樹脂組成物。
(2)
前記液晶ポリマー樹脂の含有量が、前記液晶ポリマー樹脂と前記ポリイミド樹脂の総量に対して35質量%以上である、
(1)に記載のフッ素樹脂組成物。
(3)
前記ポリイミド樹脂が、ジアミン成分と酸二無水物成分とを反応させて得られるポリイミド樹脂前駆体樹脂からなり、
前記ジアミン成分は、p-フェニレンジアミン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、2-(4-アミノフェニル)ベンゾオキサゾール-5-アミン及び1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼンのうち少なくともいずれかを含み、
前記酸二無水物成分は、p-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)及び3,3‘,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物のうち少なくともいずれかを含む、
(1)又は(2)に記載のフッ素樹脂組成物。
(4)
前記無機フィラーがシリカフィラーを含む、
(1)~(3)のいずれかに記載のフッ素樹脂組成物。
(5)
前記無機フィラーが、窒化ホウ素、及び酸化チタンからなる群から選択される1つ以上をさらに含む、
(4)に記載のフッ素樹脂組成物。
(6)
前記フッ素樹脂が、パーフルオロアルコキシアルカン及びポリテトラフルオロエチレンのうち少なくとも1つ以上から選択される、
(1)~(5)のいずれかに記載のフッ素樹脂組成物。
(7)
前記フッ素樹脂が、パーフルオロアルコキシアルカンとポリテトラフルオロエチレンとを含み、
前記パーフルオロアルコキシアルカンの含有量が、前記フッ素樹脂の総量に対して、90質量%以上である、
(6)に記載のフッ素樹脂組成物。
(8)
(1)~(7)のいずれかに記載のフッ素樹脂組成物を用いてなるフッ素樹脂フィルム。
(9)
(1)~(7)のいずれかに記載のフッ素樹脂組成物を用いてなる層と、
非熱可塑性樹脂を用いてなる層と、を備え、
最外層のうち少なくとも一方が前記フッ素樹脂組成物を用いてなる層である、
積層フィルム。
(10)
前記非熱可塑性樹脂の線膨張係数が前記フッ素樹脂組成物の線膨張係数よりも小さい、
(9)に記載の積層フィルム。
(11)
前記非熱可塑性樹脂がポリイミド樹脂である、
(9)又は(10)に記載の積層フィルム。
(12)
(8)~(11)のいずれかに記載のフッ素樹脂フィルム又は積層フィルムと、
金属箔と、を備える、
金属積層板。
(13)
前記金属箔が銅箔、銅合金箔、ステンレス箔、アルミ箔からなる群より選ばれるいずれか1つである、
(12)に記載の金属積層板。
(14)
前記フッ素樹脂組成物を用いてなる層又は前記非熱可塑性樹脂を用いてなる層と接する面における前記金属箔の表面粗度(Rz)が1.5μm以下である、
(12)又は(13)に記載の金属積層板。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、誘電正接、接着性、線膨張係数、及びUVレーザー加工性に優れる金属積層板を得ることのできるフッ素樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に記載する。なお、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することが可能である。
【0019】
1.フッ素樹脂組成物
本発明に係るフッ素樹脂組成物は、フッ素樹脂と、液晶ポリマー樹脂と、ポリイミド樹脂と、無機フィラーと、を含むフッ素樹脂組成物であって、上記ポリイミド樹脂の吸水率が1.0質量%以下であり、上記フッ素樹脂の含有量が、上記フッ素樹脂組成物の総量に対して55質量%以上であり、上記ポリイミド樹脂の含有量が、上記フッ素樹脂組成物の総量に対して0.5~5.0質量%であり、上記無機フィラーの含有量が、上記フッ素樹脂の含有量に対して18~67質量%である、フッ素樹脂組成物である。また、必要に応じてその他の成分を含んでいてもよい。
【0020】
フッ素樹脂組成物が特定量のフッ素樹脂を含むことにより、それを用いて得られる金属積層板の誘電正接を低下させることができ、特定量の液晶ポリマーを含むことにより、それを用いて得られる金属積層板の誘電正接を低下させることができ、かつ、接着性を向上させることができる。また、特定量のポリイミド樹脂を含むことにより、それを用いて得られる金属積層板の接着性を比較的損なうことなくUVレーザー加工性を向上させることができ、特定量の無機フィラーを含むことにより、それを用いて得られる金属積層板の接着性を比較的損なうことなく、線膨張係数を低下させることができる。ただし、各成分の含有量と効果との関係は上記に限定されることはない。以下、各成分についてそれぞれ詳説する。
【0021】
1.1.フッ素樹脂
本実施形態のフッ素樹脂は、フッ素を含有する樹脂であれば特に限定されないが、例えば、フッ素原子を有するモノマー(以下、「フッ素含有モノマー」という。)を重合成分として含有する重合体が挙げられる。フッ素樹脂は、1種類の重合成分から構成される単独重合体であってもよく、2種類以上の重合成分から構成される共重合体であってもよい。
【0022】
フッ素含有モノマーとしては、例えば、不飽和フッ化炭化水素(例えば、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレンなどのフルオロオレフィン類)、及びエーテル基含有不飽和フッ化炭化水素(例えば、フッ化アルキルビニルエーテル)が挙げられる。これらのフッ素含有モノマーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
フッ素樹脂としては、特に限定されないが、例えば、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、クロロトリフルオロエチレン-エチレン共重合体(ECTFE)、及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)が挙げられる。これらのフッ素樹脂は、1種を単独で用いてよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
これらの中でも、誘電正接に一層優れる傾向にあるため、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のうち少なくとも1つ以上から選択されることが好ましい。また、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)とポリテトラフルオロエチレン(PTFE)とを含み、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)の含有量が、フッ素樹脂の総量に対して、90質量%以上であることがより好ましく、該含有量が95質量%以上であることがさらに好ましい。
【0025】
フッ素樹脂としては、公知の方法により調製した調製品を用いてもよく、又は市販品を用いてもよい。
【0026】
フッ素樹脂の含有量は、上記フッ素樹脂組成物の総量に対して55質量%以上であり、55質量%以上80質量%以下であることが好ましく、65質量%以上80質量%以下であることがより好ましく、70質量%以上80質量%以下であることがさらに好ましい。フッ素樹脂の含有量が、上記フッ素樹脂組成物の総量に対して55質量%以上であることにより、誘電正接を低下させることができる傾向にあり、フッ素樹脂の含有量が、上記フッ素樹脂組成物の総量に対して80質量%以下であることにより、本発明の効果を損なわない範囲で上記効果を奏することができる傾向にある。
【0027】
1.2.液晶ポリマー樹脂
本実施形態の液晶ポリマー(LCP)は、異方性溶融相を形成する熱可塑性ポリマーであり、一般的にサーモトロピック液晶ポリマーと呼ばれるものを意味する。このような液晶ポリマー樹脂としては、特に限定されないが、例えば、熱可塑性液晶ポリエステル(サーモトロピック液晶ポリエステル、ともいう。)及び熱可塑性液晶ポリエステルアミド(サーモトロピック液晶ポリエステルアミド、ともいう。)が挙げられる。その中でも、特に、誘電正接及び接着性の観点から熱可塑性液晶ポリエステルを含むことが好ましい。
【0028】
このような液晶ポリマー(LCP)としては、公知の方法により調製した調製品を用いてもよく、又は市販品を用いてもよい。
【0029】
本実施形態において用いることができる液晶ポリマーの具体的な例としては、特に限定されないが、例えば、ポリプラスチックス社製「ラペロス」、セラニーズ社製「ベクトラ」、上野製薬社製「UENOLCP」、住友化学社製「スミカスーパーLCP」「SOLVAY SPECIALTY POLYMERS製「XYDAR」、ENEOS社製「ザイダー」、東レ社製「シベラス」等が挙げられる。
【0030】
液晶ポリマー樹脂の含有量は、上記液晶ポリマー樹脂と上記ポリイミド樹脂の総量に対して35質量%以上であることが好ましく、35質量%以上85質量%以下であることがより好ましく、45質量%以上75質量%以下であることがさらに好ましく、55質量%以上65質量%以下であることがよりさらに好ましい。液晶ポリマー樹脂の含有量が、上記液晶ポリマー樹脂と上記ポリイミド樹脂の総量に対して35質量%以上であることにより、誘電正接を低下させることができる傾向にあり、かつ、接着性を向上させることができる傾向にある。また、液晶ポリマー樹脂の含有量が、上記液晶ポリマー樹脂と上記ポリイミド樹脂の総量に対して85質量%以下であることにより、本発明の効果を損なわない範囲で上記効果を奏することができる傾向にある。
【0031】
1.3.ポリイミド樹脂
本実施形態のポリイミド樹脂としては、吸水率が1.0質量%以下であれば、特に限定されないが、例えば、熱可塑性ポリイミド樹脂及び熱硬化性ポリイミド樹脂が挙げられ、線膨張係数の観点から、特に、熱硬化性ポリイミド樹脂であることが好ましい。このような熱硬化性ポリイミド樹脂としては、特に限定されないが、例えば、酸二無水物とジアミンを共重合することによって得られる縮合型ポリイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂、及びマレイミド樹脂が挙げられ、その中でも、入手性、耐熱性、及び接着性の観点から、縮合型ポリイミド樹脂であることが好ましい。
【0032】
なお、本実施形態において、「吸水率」は以下の手順で測定した吸水率を意味する。
銅箔とポリイミド樹脂からなる2層フレキシブル金属積層板の銅箔全てをエッチングで除去したサンプルを105℃、0.5時間の条件により乾燥させ、続いて室温まで冷却した後のサンプルの質量を初期値(m0)とし、該サンプルを23℃の純水に24時間、浸漬させた後の質量(md)を測定し、初期値と浸漬後の質量の変化から下記式(1)を用いて処理条件D-24/23(23℃の純水で24時間処理)による吸水率を測定した。
吸水率(%)=(md―m0)×100/m0・・・(1)
【0033】
上記の2層フレキシブル金属積層板としては、特に限定されないが、例えば、後述する合成例1で得られたポリイミド樹脂前駆体を低粗度銅箔の粗化処理面にイミド化後の樹脂層厚さが12.5μmになるようにバーコーターを用いて塗布し、130℃で10分間乾燥させ、ポリイミド樹脂前駆体を塗布し乾燥した銅箔を、室温まで冷却後、段階的に360℃(物温)まで加熱し、360℃ で2時間保持後、室温まで自然冷却することにより、作製してもよい。
【0034】
また、吸水率が1.0質量%以下であるポリイミド樹脂の製造方法としては、特に限定されないが、例えば、後述する実施例に記載の方法が挙げられる。
【0035】
また、ポリイミド樹脂は、ポリイミド樹脂前駆体樹脂を経て硬化、脱水反応で得られる樹脂であり、ポリイミド樹脂前駆体樹脂とは、酸二無水物成分とジアミン成分とを反応させて得られる樹脂をいう。ポリイミド樹脂を含むことにより、異種材料との接着性を損なうことなくフッ素樹脂組成物のUV領域の光吸収が向上しUVレーザー加工が可能になる。さらに、フッ素樹脂組成物においてポリイミド樹脂とLCP樹脂が相互作用することにより該2成分の接着性が向上する傾向にある。
【0036】
上記において、ポリイミド樹脂前駆体樹脂を硬化・脱水させてポリイミド樹脂を得る乾燥・硬化条件としては、特に限定されないが、例えば、加熱温度を80~360℃、加熱時間を1~30分とすることが挙げられる。
【0037】
酸二無水物としては、特に限定されないが、例えば、ピロメリット酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、p-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、エチレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、及びビスフェノールAビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、2,2ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2-ビス(4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物が挙げられる。その中でも、酸二無水物成分は、p-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)及び3,3‘,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物のうち少なくともいずれかを含むことが好ましい。それにより、ポリイミド樹脂の吸水率が低くなり、フッ素樹脂組成物の誘電正接がより低下する傾向にある。
【0038】
これらの酸二無水物は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0039】
ジアミンとしては、特に限定されないが、例えば、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、2,4-ジアミノトルエン、2,5-ジアミノトルエン、2,4-ジアミノキシレン、2,4-ジアミノデュレン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-メチレンビス(2-メチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(2-エチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(2,6-ジメチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(2,6-ジエチルアニリン)、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、2,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノベンズアニリド、ベンジジン、3,3’-ジヒドロキシベンジジン、3,3’-ジメトキシベンジジン、o-トリジン、m-トリジン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス(4-(3-アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、2,2-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、p-ターフェニレンジアミン、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、イソホロンジアミン、トランス-1,4-ジアミノシクロヘキサン、シス-1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,4-シクロヘキサンビス(メチルアミン)、2,5-ビス(アミノメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,6-ビス(アミノメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、3,8-ビス(アミノメチル)トリシクロ[5.2.1.0]デカン、1,3-ジアミノアダマンタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパン、1,3-プロパンジアミン、1,4-テトラメチレンジアミン、1,5-ペンタメチレンジアミン、1,6-ヘキサメチレンジアミン、1,7-ヘプタメチレンジアミン、1,8-オクタメチレンジアミン、1,9-ノナメチレンジアミン、2-(4-アミノフェニル)ベンゾオキサゾール-5-アミンが挙げられる。その中でも、ジアミン成分は、p-フェニレンジアミン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、2-(4-アミノフェニル)ベンゾオキサゾール-5-アミン及び1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼンのうち少なくともいずれかを含むことが好ましい。それにより、ポリイミド樹脂の吸水率が低くなり、フッ素樹脂組成物の誘電正接がより低下する傾向にある。
【0040】
これらのジアミンは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0041】
ポリイミド樹脂の含有量は、フッ素樹脂組成物の総量に対して0.5~5.0質量%であり、1.0~4.0質量%であることが好ましく、2.0~3.0質量%であることがより好ましい。ポリイミド樹脂の含有量が、フッ素樹脂組成物の総量に対して0.5質量%以上であることにより、UVレーザー加工性を向上させることができる傾向にあり、また、ポリイミド樹脂の含有量が、フッ素樹脂組成物の総量に対して5.0質量%以下であることにより、特に接着性を高く維持することができる傾向にある。
【0042】
1.4.無機フィラー
本実施形態の無機フィラーとしては、特に限定されないが、例えば、シリカ、クレー、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、珪藻土、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化錫、酸化アンチモン、酸化チタン、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸バリウム、ドーソナイト、ハイドロタルサイト、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、珪酸カルシウム、モンモリロナイト、ベントナイト、活性白土、セピオライト、イモゴライト、セリサイト、ガラス繊維、ガラスビーズ、シリカ系バルーン、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、グラファイト、炭素繊維、ガラスバルーン、炭素バルーン、木粉、ホウ酸亜鉛、窒化ホウ素等が挙げられる。この中でも、無機フィラーは、シリカ、窒化ホウ素、及び酸化チタンからなる群から選択される1つ以上を含むことが好ましく、シリカを含むことがより好ましく、シリカを含み、かつ、窒化ホウ素、及び酸化チタンからなる群から選択される1つ以上をさらに含むことがさらに好ましい。
【0043】
無機フィラーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、無機フィラーとしては中空状のフィラーを用いても良い。
【0044】
無機フィラーの含有量は、上記フッ素樹脂の含有量に対して18~67質量%であり、20~50質量%であることが好ましく、20~40質量%であることがより好ましい。20~33質量%であることがさらに好ましい。無機フィラーの含有量が上記フッ素樹脂の含有量に対して18質量%以上であることにより線膨張係数を低下させることができる傾向にあり、また、無機フィラーの含有量が上記フッ素樹脂の含有量に対して67質量%以下であることにより、接着性を高く維持することができる傾向にある。
【0045】
1.5.界面活性剤
本実施形態のフッ素樹脂組成物は、その他の成分として、特に限定されないが、例えばフッ素樹脂組成物に含まれる液晶ポリマー樹脂、無機フィラーを良好に分散させるため、界面活性剤を添加しても良い。界面活性剤は特に限定されないが、アニオン系、カチオン系、ノニオン系、及びフッ素系の界面活性剤が挙げられる。特に分散性と相溶性の観点から、フッ素系の界面活性剤が好ましい。これらの界面活性剤は、1種を単独で用いてよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。界面活性剤は、フッ素樹脂に対して3~10質量%が好ましく、3~8質量%がより好ましい。
【0046】
2.フッ素樹脂フィルム
本実施形態におけるフッ素樹脂フィルムは、本実施形態のフッ素樹脂組成物を用いてなるフィルムである。このようなフッ素樹脂フィルムは、特に限定されないが、例えば、銅箔等の金属箔からなる回路と重ねることにより、誘電正接に優れる金属積層板を得ることができる。
【0047】
3.積層フィルム
本実施形態の積層フィルムは、フッ素樹脂組成物を用いてなる層(以下、フッ素樹脂層、ともいう。)と、非熱可塑性樹脂を用いてなる層(以下、非熱可塑性樹脂層、ともいう。)と、を備え、最外層のうち少なくとも一方が上記フッ素樹脂層である。上記構成を備えることにより、誘電正接に優れるフッ素樹脂層と回路が接することができ、高速伝送特性に優れる傾向にある。
【0048】
また、積層フィルムの両面に回路が形成される場合には、誘電正接及び高速伝送特性の観点から、積層フィルムの最外層の双方がフッ素樹脂層であることが好ましい。
【0049】
なお、本実施形態の積層フィルムにおいて、フッ素樹脂層及び非熱可塑性樹脂層の各樹脂層の種類の数は、1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。
【0050】
非熱可塑性樹脂層に用いられる樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、フェノール樹脂、及びエポキシ樹脂が挙げられる。その中でも非熱可塑性樹脂は、ポリイミド樹脂を含むことが好ましく、ポリイミド樹脂からなることがより好ましい。それにより、回路材料等に用いる際のレーザー加工性に優れ、また、レーザー加工後のめっき処理による導通信頼性に優れる傾向にある。非熱可塑性樹脂層に用いられる樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併せて用いてもよい。
【0051】
非熱可塑性樹脂層に用いることができるポリイミド樹脂としては、上述したフッ素樹脂組成物に含まれ得るポリイミド樹脂の他、公知の方法により調製した調製品、又は市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、東レ・デュポン株式会社製品の「カプトンENシリーズ」、「カプトンHシリーズ」、「カプトンVシリーズ」、カネカ株式会社製品の「アピカルHPシリーズ」、「アピカルNPIシリーズ」、SKCコーロン社製の「FSシリーズ」、及び宇部興産株式会社製品の「ユーピレックスS」が挙げられる。
【0052】
非熱可塑性樹脂の線膨張係数は、本実施形態のフッ素樹脂組成物の線膨張係数よりも小さいことが好ましい。それにより、フッ素樹脂の比率を高くした場合であっても、積層体の線膨張係数を低く抑えることが出来る。このため積層体は、線膨張係数の小さい非熱可塑性樹脂の作用により寸法安定性が向上し、かつ、誘電特性に優れるフッ素樹脂の作用により伝送損失を小さく抑えることが出来る傾向にある。
【0053】
非熱可塑性樹脂は、10GHzでの誘電率が4.0以下であることが好ましく、3.8以下であることがより好ましく、3.6以下であることがさらに好ましい。また、10GHzでの誘電正接が0.0050以下であることが好ましく、0.0045以下であることがより好ましく、0.0040以下であることがさらに好ましい。特に誘電正接が小さい非熱可塑性樹脂を用いることで、伝送損失を小さくすることができる傾向にある。
【0054】
4.金属積層板
本実施形態の金属積層板(金属積層体)は、本実施形態のフッ素樹脂フィルム又は積層フィルムと、金属箔と、を備える。金属積層板は、積層フィルムの両面にそれぞれ金属箔が配置された形態を有してもよく、積層フィルムの片面のみに金属箔が配置された形態を有してもよい。
【0055】
金属箔としては、特に限定されないが、例えば、銅箔、銅合金箔、ステンレス箔、及びアルミ箔からなる群より選ばれるいずれか1つ又は2以上であることが好ましく、銅箔であることがより好ましい。
【0056】
金属箔の厚さは、特に限定されないが、回路材料としての金属積層板の場合、例えば、6~70μm程度であってもよい。
【0057】
金属箔は表面が処理されていてもよい。例えば酸化を防ぐため、防錆処理がされていてもよい。また、積層体の接着性を高めるため、粗化処理若しくはシランカップリング剤による処理が施されていてもよい。
【0058】
また、上記フッ素樹脂組成物を用いてなる層又は上記非熱可塑性樹脂を用いてなる層と接する面における金属箔の表面粗度(Rz)は、1.5μm以下であることが好ましく、1.3μm以下であることがより好ましい。表面粗度が1.5μm以下であることにより、金属積層板は、回路材料として用いる際に回路材料の導体の表皮効果を小さくでき、その結果、低伝送損失性を向上できる傾向にある。
【0059】
5.金属積層板の製造方法
本実施形態の金属積層板の製造方法としては、公知の方法を用いることができ、特に限定されないが、例えば、本実施形態の積層フィルムの両面の少なくとも一方に金属箔を重ね合わせた状態でプレス積層する方法(以下、プレス積層法、ともいう。)が挙げられる。プレス積層法において、加圧温度は、特に限定されず、250~350℃程度であってもよく、圧力は、特に限定されず、例えば、3~5MPa程度であってもよい。
【0060】
上述した各物性の評価及び測定方法については、本明細書において特に明記しない限り、以下の実施例に記載された方法に従って評価及び測定することができる。
【実施例0061】
以下、本発明を実施例及び比較例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに何ら限定されるものではない。
【0062】
1.材料
各実施例及び比較例で用いた材料は、以下のとおりである。
(フッ素樹脂)
・パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)(パウダー形態):
AGC株式会社製「Fulon+ EA-2000」(パウダー形態)
・パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)(フィルム形態):
AGC株式会社製「Fulon+ EA-2000」(フィルム形態)厚さ25μm
・ポリテトラフルオロエチレン(PTFE):
三菱鉛筆株式会社製「PTFE分散体」
(ポリイミド樹脂)
後述の方法により作製した。
(LCP)
ENEOS株式会社製「ザイダー」
(無機フィラー)
デンカ株式会社製「FB-3SDC」
(界面活性剤)
株式会社ネオス製「フタージェント710FL」
(金属箔)
銅箔(福田金属箔粉工業株式会社製品「CF-T49A-DS-HD2―12μm」。以下では、「低粗度銅箔」とも記載する。)
(非熱可塑性樹脂層[ポリイミドフィルム])
SKCコーロン社製 FSシリーズ、厚さ12.5μm
(フッ素樹脂フィルム)
AGC株式会社製「Fulon+ EA-2000」(フィルム形態)厚さ25μm
【0063】
2.ポリイミド樹脂の調製
[合成例1] PI-1(低吸水タイプ:吸水率1.0質量%以下)
反応容器の中に、N-メチルー2-ピロリドン(NMP)を68gと、p-フェニレンジアミン(p-PDA)を1.9563g(0.01809mol)および1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-R)を0.8609g(0.00295g)を添加後、室温で攪拌して、NMPにp-PDAとTPE-Rを溶解させた。得られた溶液にp-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)(TAHQ)を8.5710g(0.01870mol)と3,3‘,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)を0.6114g(0.00208mol)を徐々に添加した。その後、室温下で3時間撹拌することによりポリイミド樹脂前駆体PI-1を得た。
【0064】
PI-1を低粗度銅箔の粗化処理面にイミド化後の樹脂層厚さが12.5μmになるようにバーコーターを用いて塗布し、130℃で10分間乾燥させた。PI-1を塗布し乾燥した銅箔を、室温まで冷却後、段階的に360℃(物温)まで加熱した。360℃ で2時間保持後、室温まで自然冷却し、銅箔とポリイミド層から構成される2層フレキシブル金属積層板を得た。
【0065】
この2層フレキシブル金属積層板の銅箔全てをエッチングで除去したサンプルを105℃、0.5時間の条件により乾燥させ、続いて室温まで冷却した後のサンプルの質量を初期値(m0)とし、該サンプルを23℃の純水に24時間、浸漬させた後の質量(md)を測定し、初期値と浸漬後の質量の変化から下記式(1)を用いて処理条件D-24/23による吸水率を測定した。その結果、吸水率は0.76%であった。
吸水率(%)=(md―m0)×100/m0・・・(1)
【0066】
[合成例2] PI-2(通常タイプ:吸水率1.0質量%より大)
反応容器の中に、NMPを68gと、p-PDAを2.7991g(0.02588mol)およびTPE-Rを0.8408g(0.00288mol)を添加後、室温で攪拌して、NMPにp-PDAとTPE-Rを溶解させた。得られた溶液にBPDAを8.3602g(0.02841mol)を徐々に添加した。その後、室温下で3時間撹拌することによりポリイミド樹脂前駆体PI-2を得た。
【0067】
PI-2を低粗度銅箔の粗化処理面にイミド化後の樹脂層厚さが12.5μmになるようにバーコーターを用いて塗布し、130℃で10分間乾燥させた。PI-2を塗布し乾燥した銅箔を、室温まで冷却後、段階的に360℃(物温)まで加熱した。360℃ で2時間保持後、室温まで自然冷却し、銅箔とポリイミド層から構成される2層フレキシブル金属積層板を得た。
【0068】
この2層フレキシブル金属積層板の銅箔全てをエッチングで除去したサンプルを105℃、0.5時間の条件により乾燥させ、続いて室温まで冷却した後のサンプルの質量を初期値(m0)とし、該サンプルを23℃の純水に24時間、浸漬させた後の質量(md)を測定し、初期値と浸漬後の質量の変化から上記式(1)を用いて処理条件D-24/23による吸水率を測定した。その結果、吸水率は1.39%であった。
【0069】
3.金属積層板及びフッ素樹脂フィルムの作製
[実施例1]
上記PFA(パウダー形態)を100質量部、上記LCPを2.5質量部、合成例1にて作製したポリイミド樹脂前駆体(PI-1)を20質量部、上記無機フィラーを33質量部、上記界面活性剤を5質量部、を混合用タンクに投入し、各成分が溶融可能な温度にて混合攪拌することによりフッ素樹脂組成物を得た。
【0070】
その後、12.5μmの厚さを有する上記ポリイミドフィルムの両面にそれぞれ乾燥後の厚さが25μmになるようにフッ素樹脂組成物を塗布し、130℃で10分間乾燥後、300℃で10分間加熱することで両面にフッ素樹脂層を有する積層フィルムを得た。その積層フィルムの両面と、低粗度銅箔の処理面とが対向するように重ねて、温度320℃及び圧力4MPaの条件にて10分間プレス積層することにより、積層フィルムの両面に低粗度銅箔が配置した金属積層板を作製した。
【0071】
続いて、上記低粗度銅箔に乾燥後の厚さ25μmになるように上記にて作製したフッ素樹脂組成物を塗布し、130℃で10分間乾燥後、300℃で10分間加熱することで片面にフッ素樹脂層を有するフッ素樹脂付き銅箔を得た。その後、全ての銅箔をエッチングで除去することでフッ素樹脂フィルムを作製した。
【0072】
[実施例2~9、及び比較例1~7]
各成分の質量部を表1~表2に従い変更した以外は、実施例1と同様の操作により、実施例2~9、及び比較例1~7の金属積層板及びフッ素樹脂フィルムを得た。
【0073】
[実施例10]
実施例1で得られたフッ素樹脂組成物を、12.5μmの厚さを有する上記ポリイミドフィルムの両面にそれぞれ厚さ12.5μmになるように塗布し、130℃で10分間乾燥後、300℃で10分間加熱することで両面にフッ素樹脂層を有する積層フィルムを得た。更に、低粗度銅箔の処理面に実施例1で得られたフッ素樹脂組成物を、乾燥後の厚さが12.5μmになるように塗布し、130℃で10分間乾燥後、300℃で10分間加熱することでフッ素樹脂層付き低粗度銅箔を得た。同様の方法により、フッ素樹脂層付き低粗度銅箔を計2枚作製した。この積層フィルムの両面とフッ素樹脂層付き低粗度銅箔のフッ素樹脂層が対向するように重ねて、温度320℃及び圧力4MPaの条件にて10分間プレス積層することにより、積層フィルムの両面に低粗度銅箔が配置した金属積層板を作製した。
【0074】
[比較例8]
低粗度銅箔、25μm厚さのフッ素樹脂フィルム(フィルム形態)、12.5μmの厚さを有するポリイミドフィルム、25μm厚さのフッ素樹脂フィルム(フィルム形態)、低粗度銅箔をこの順序に重ねて温度320℃及び圧力4MPaの条件にて10分間プレス積層することにより、積層フィルムの両面に銅箔が配置した金属積層板を作製した。
【0075】
3.評価方法
実施例2~10、及び比較例1~8で得られた金属積層板の各物性の測定及び評価は、以下の方法により行った。
【0076】
<誘電正接>
金属積層板の銅箔全てをエッチングで除去し、23℃、50%RHの雰囲気下に24時間以上静置した後、23℃の雰囲気下、「Agilent Technologies社製 Network Analyzer N5230A」を用いて、JPCA-DG03 SPDR法に準拠して周波数10GHzの条件にて誘電正接の測定を行い、以下の評価基準で判定した。
[評価基準]
◎:誘電正接が0.002未満である。
○:誘電正接が0.002以上、0.003未満である。
×:誘電正接が0.003以上である。
【0077】
<接着性>
金属積層板の銅箔を3mm幅になるようにエッチングで回路パターン形成し、JIS C6471の8.1項に準じて、引きはがし方向は90゜、引張速度50mm/分として23℃、50%RHの雰囲気下に24時間以上静置したサンプルの引き剥がし強さを測定し、接着性を以下の評価基準で判定した。
[評価基準]
◎:接着性が10N/cm以上である。
○:接着性が7.0N/cm以上10N/cm未満である。
×:接着性が7.0N/cm未満である。
【0078】
<線膨張係数>
金属積層板の銅箔全てをエッチングで除去したサンプル並びに実施例1~10、比較例1~7においてそれぞれ得られたフッ素樹脂フィルム、及び比較例8で用いたフッ素樹脂フィルム(フィルム形態)を、23℃、50%RHの雰囲気下に24時間以上静置した後、サンプルサイズ幅5mm、長さ15mmとし、島津製作所製の熱機械分析装置TMA-60を用い、荷重5g、10℃/分の昇温速度で加熱した際の100℃から200℃までの寸法変化から、MD方向の線膨張係数(CTE)を算出し、以下の評価基準で判定した。
[評価基準]
○:金属積層板の銅箔全てをエッチングで除去したサンプルのCTEが30[ppm/K]未満、かつ、フッ素樹脂フィルムのCTEが130[ppm/K]未満である。
×:金属積層板の銅箔全てをエッチングで除去したサンプルのCTEが30[ppm/K]以上、又は、フッ素樹脂フィルムのCTEが130[ppm/K]以上である。
【0079】
<UVレーザー加工性>
金属積層板の銅箔を直径100μmφの形状になるようにエッチングで除去し、ビアメカニクス株式会社製レーザー加工機LC-2K212を用い、周波数2000Hz、出力11.5W、パルス幅18μsの条件で穴開け加工を実施した。その後、株式会社日立ハイテクノロジーズ製走査型顕微鏡(以下では、「SEM」とも記載する)S-4800を用い、加速電圧20kV、倍率700倍、観察傾斜角度10°の条件で穴の底部を観察し、目視を以て、UVレーザー加工性を以下の評価基準で判定した。
[評価基準]
○:穴の底部に樹脂残渣がない。
×:穴の底部に樹脂残渣がある。
【0080】
各実施例及び比較例で得られた積層フィルムの各物性の測定及び評価結果を表1及び表2に示す。
【表1】
【0081】
【0082】
表1及び表2に示すように、実施例1~10と比較例1~8との対比によれば、本実施形態に係るフッ素樹脂組成物は、該フッ素樹脂組成物の構成要件を満たさない比較例1~8に係るフッ素樹脂組成物と比較して、誘電正接、接着性、線膨張係数、及びUVレーザー加工性において優れることがわかった。