(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023114913
(43)【公開日】2023-08-18
(54)【発明の名称】バックパッドおよびシートパッド
(51)【国際特許分類】
A47C 27/14 20060101AFI20230810BHJP
B60N 2/90 20180101ALI20230810BHJP
【FI】
A47C27/14
B60N2/90
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022017502
(22)【出願日】2022-02-07
(71)【出願人】
【識別番号】522345803
【氏名又は名称】株式会社アーケム
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(72)【発明者】
【氏名】江部 一成
【テーマコード(参考)】
3B087
3B096
【Fターム(参考)】
3B087DE10
3B096AB07
(57)【要約】
【課題】バックパッドに体を預けた状態での快適性が向上するバックパッドおよびシートパッドを提供する。
【解決手段】バックパッド3は、発泡材料によって形成されたシートパッド1のバックパッド3である。バックパッド3は、車両装着時に上側に位置する上部3aと、車両装着時に上部3aよりも下側に位置する下側部分とを含んでいる。上部3aは、前記下側部分よりも硬く、上部3aの硬さは、140N以上である。シートパッド1は、バックパッド3を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡材料によって形成されたシートパッドのバックパッドであって、
前記バックパッドは、車両装着時に上側に位置する上部と、車両装着時に前記上部よりも下側に位置する下側部分とを含んでおり、
前記上部は、前記下側部分よりも硬く、
前記上部の硬さは、140(N)以上である、バックパッド。
【請求項2】
前記上部は、前記下側部分に対して車両装着時前側に向かって折り曲げ可能である、請求項1に記載されたバックパッド。
【請求項3】
前記上部の硬さは、150(N)以上である、請求項1または2に記載されたバックパッド。
【請求項4】
前記下側部分の硬さは、100~120(N)である、請求項1~3のいずれか1項に記載されたバックパッド。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載されたバックパッドを含む、シートパッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バックパッドおよびシートパッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のシートパッドには、運転時の緊張状態では無くシートに体の全体を預けてリラックスした状態の着座者の快適性を向上させるため、当該シートパッドに含まれるバックパッドにおいて、当該バックパッドの上部の硬さを下部の硬さよりも小さく設定したものがある(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のシートパッドには、着座者がバックパッドに体を預けた状態で、肩を通して伝わる振動によって、当該着座者が不快感を覚えることがある。したがって、従来のシートパッドには、バックパッドに体を預けた状態での快適性に改善の余地があった。
【0005】
本発明の目的は、バックパッドに体を預けた状態での快適性が向上する、バックパッドおよびシートパッドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る、バックパッドは、発泡材料によって形成されたシートパッドのバックパッドであって、前記バックパッドは、車両装着時に上側に位置する上部と、車両装着時に前記上部よりも下側に位置する下側部分とを含んでおり、前記上部は、前記下側部分よりも硬く、前記上部の硬さは、140(N)以上である。本発明に係る、バックパッドによれば、バックパッドに体を預けた状態での快適性が向上する。
【0007】
本発明に係る、バックパッドにおいて、前記上部は、前記下側部分に対して車両装着時前側に向かって折り曲げ可能であることが好ましい。この場合、バックパッドに体を預けた状態での快適性の向上に有効である。
【0008】
本発明に係る、バックパッドにおいて、前記上部の硬さは、150(N)以上であることが好ましい。この場合、バックパッドに体を預けた状態での快適性がより向上する。
【0009】
本発明に係る、バックパッドにおいて、前記下側部分の硬さは、100~120(N)であることが好ましい。この場合、前記下側部分を、一般的なバックパッドによって構成することができる。
【0010】
本発明に係る、シートパッドは、上記のいずれかに記載されたバックパッドを含む。本発明に係る、シートパッドによれば、バックパッドに体を預けた状態での快適性が向上する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、バックパッドに体を預けた状態での快適性が向上する、バックパッドおよびシートパッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る、バックパッド、および、当該バックパッドを含む、本発明の一実施形態に係る、シートパッドを概略的に示す斜視図である。
【
図2】
図1のシートパッドのリクライニング状態を概略的に示すスケルトン図である。
【
図3A】上部の硬さが異なる、複数の高減衰バックパッドを、その背もたれ角度(バックレスト角度)αを変えながら、当該バックパッドの上部3aについて、ランダム振動解析を行った結果である。
【
図3B】上部の硬さが異なる、複数の高減衰バックパッドを、その背もたれ角度(バックレスト角度)αを変えながら、当該バックパッドの中央部3cについて、ランダム振動解析を行った結果である。
【
図3C】上部の硬さが異なる、複数の高減衰バックパッドを、その背もたれ角度(バックレスト角度)αを変えながら、当該バックパッドの下部3bについて、ランダム振動解析を行った結果である。
【
図4A】上部の硬さが異なる、複数の高弾性バックパッドを、その背もたれ角度(バックレスト角度)αを変えながら、当該バックパッドの上部3aについて、ランダム振動解析を行った結果である。
【
図4B】上部の硬さが異なる、複数の高弾性バックパッドを、その背もたれ角度(バックレスト角度)αを変えながら、当該バックパッドの中央部3cについて、ランダム振動解析を行った結果である。
【
図4C】上部の硬さが異なる、複数の高弾性バックパッドを、その背もたれ角度(バックレスト角度)αを変えながら、当該バックパッドの下部3bについて、ランダム振動解析を行った結果である。
【
図5A】バックパッドをクッションパッドに対してリクライニング状態にさせたときの、当該バックパッドの上部に伝わる振動をランダム振動解析した結果である。
【
図5B】バックパッドをクッションパッドに対してリクライニング状態にさせたときの、当該バックパッドの中央部に伝わる振動をランダム振動解析した結果である。
【
図5C】バックパッドをクッションパッドに対してリクライニング状態にさせたときの、当該バックパッドの下部に伝わる振動をランダム振動解析した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態に係る、バックパッド、および、当該バックパッドを含む、本発明の一実施形態に係る、シートパッドについて説明をする。以下の説明において、前後、左右および上下は、シートパッドを車両に装着したときを基準とする。
【0014】
図1を参照すれば、符号1は、本発明の一実施形態に係る、シートパッドである。シートパッド1は、本発明の一実施形態に係る、バックパッド(「シートバック」ともいう。)3を含む。バックパッド3は、着座者の背中を支持するためのバックパッドであり、発泡材料によって形成されている。バックパッド3は、車両装着時に上側に位置する上部3aと、車両装着時に上部3aよりも下側に位置する下側部分とを含んでいる。バックパッド3の上部3aは、当該バックパッド3の前記下側部分よりも硬い。上部3aの硬さは、140(N)以上である。ここで、硬さの単位(N:ニュートン)は、JIS(日本産業規格) K6400‐B/JASО B 408に準拠している。
【0015】
本実施形態に係る、シートパッド1は、自動車用の座席シートの一部を構成するクッション材である。本実施形態に係る、シートパッド1は、バックパッド3の他に、着座者の臀部および太股部を支持するためのクッションパッド(「シートクッション」ともいう。)2と、前記着座者の頭部を支持するためのヘッドレスト4とを備えている。
【0016】
本実施形態に係る、バックパッド3は、上部3aと、下部3bと、上部3aおよび下部3bの間に介在する中央部3cとを備えている。バックパッド3の上部3aは、少なくとも着座者の背中側の肩部(例えば、肩甲骨)を支持するように構成されている。また、バックパッド3の下部3bは、少なくとも前記着座者の背中側の腰部を支持するように構成されている。バックパッド3の中央部3cは、前記着座者の肩部および腰部の間を支持するように構成されている。
【0017】
また、本実施形態に係る、バックパッド3は、センターパッド部31と、当該センターパッド部31の左右両側に配置されている、2つのサイドパッド部32とを有している。センターパッド部31は、着座者の背中および腰部を後側から支持するように構成されている。2つのサイドパッド部32は、着座者の背中および腰部を左右両側から支持するように構成されている。
【0018】
さらに、本実施形態において、センターパッド部31は、上側センターパッド部31a、下側センターパッド部31bおよび中央センターパッド部31cの、3つの領域に区画されている。上側センターパッド部31aは、車両装着時に上側に位置し、例えば、着座者の後側から、当該着座者の背中側の肩部を支持するように構成されている。下側センターパッド部31bは、車両装着時に下側に位置し、例えば、着座者の後側から、当該着座者の背中側の腰部を支持するように構成されている。中央センターパッド部31cは、車両装着時に上下間に位置し、例えば、着座者の後側から、当該着座者の背中側の肩部と腰部との間の部分を支持するように構成されている。
【0019】
また、本実施形態において、2つのサイドパッド部32は、それぞれ、上側サイドパッド部32a、下側サイドパッド部32bおよび中央サイドパッド部32cの、3つの領域に区画されている。上側サイドパッド部32aは、上側センターパッド部31aの左右に位置し、例えば、着座者の左側または右側から、当該着座者の背中側の肩部を支持するように構成されている。下側サイドパッド部32bは、下側センターパッド部31bの左右に位置し、例えば、着座者の左側または右側から、当該着座者の背中側の腰部を支持するように構成されている。中央サイドパッド部32cは、中央センターパッド部31cの左右に位置し、例えば、着座者の左側または右側から、当該着座者の背中側の肩部と腰部との間の部分を支持するように構成されている。
【0020】
図1を参照すれば、本実施形態に係るバックパッド3において、上側センターパッド部31aと中央センターパッド部31cとの境界線L1は、バックパッド3の上部3aと当該上部3aを除いたバックパッド3の部分との境界線である。すなわち、本実施形態に係るバックパッド3において、バックパッド3の上部3aは、境界線L1よりも上側の、上側センターパッド部31aと、上側サイドパッド部32aと、によって構成されている。また、本実施形態に係るバックパッド3において、下側センターパッド部31bと中央センターパッド部31cとの境界線L2は、バックパッド3の下部3bと当該下部3bを除いたバックパッド3の部分との境界線である。すなわち、本実施形態に係るバックパッド3において、バックパッド3の下部3bは、境界線L2よりも下側の、下側センターパッド部31bと、下側サイドパッド部32bと、によって構成されている。さらに、本実施形態に係るバックパッド3において、上側の境界線L1と下側の境界線L2との間の部分は、バックパッド3の中央部3cを構成している。すなわち、本実施形態において、バックパッド3の中央部3cは、上側の境界線L1と下側の境界線L2との間の、中央センターパッド部31cと、中央サイドパッド部32cと、によって構成されている。
【0021】
上述のとおり、本実施形態に係るバックパッド3において、バックパッド3の上部3aは、上側センターパッド部31aおよび上側サイドパッド部32aである。また、本実施形態に係るバックパッド3において、バックパッド3の下部3bは、下側センターパッド部31bおよび下側サイドパッド部32bである。また、本実施形態に係るバックパッド3において、バックパッド3の中央部3cは、中央センターパッド部31cおよび中央サイドパッド部32cである。したがって、本実施形態に係るバックパッド3において、バックパッド3の前記下側部分は、中央センターパッド部31cおよび中央サイドパッド部32c並びに下側センターパッド部31bおよび下側サイドパッド部32bである。即ち、本実施形態において、上側センターパッド部31aおよび上側サイドパッド部32aは、中央センターパッド部31cおよび中央サイドパッド部32c並びに下側センターパッド部31bおよび下側サイドパッド部32bよりも硬く、その硬さは、140(N)以上である。
【0022】
着座者は、座席シートの着座時に、バックパッド3に体を預けることになる。しかしながら、着座者は、バックパッド3に体を預けた状態で肩部に振動が伝わると、当該振動を不快に感じる傾向にある。こうした不快感は、例えば、座席シートのバックレスト(バックパッド3)を後側に倒した状態のときに、特に、頭部を前側に傾けたときに、背中側の肩部を通して感じる傾向にある。これは、着座者がバックパッド3にもたれかかった状態で頭部を上げたとき、バックパッド3の上部3aから背中側の肩部に大きな圧力が加わるためと思われる。こうした不快感を与える振動周波数は、主として、10~30(Hz)、より不快感を与える振動周波数は、20~30(Hz)の範囲である。
【0023】
特に、自動運転対応車においては運転操作から解放されるため、読書やパソコン操作など作業が可能となる他、飛行機や電車と同様に、快適性を高めるためにリクライニングを倒した姿勢で着座することが予想される。しかしながら、自動車においては飛行機・電車と異なり、自動運転と言えども、着座者は前方(進行方向)からの情報を得ようとするため、リクライニングを倒すと頭を持ち上げようとし、その結果、首や肩への負担が大きくなって必ずしも快適性の向上にはつながらない場合がある。
【0024】
この対策として、リクライニング時の前方視認性を高めるために、ヘッドレストを前方に出したり、バックパッドに中折れ機構を設けることが考えられる。
【0025】
リクライニング時におけるヘッドレスト、ネックレストは、振動の無い静的な条件下では快適性を高める。しかしながら、ヘッドレスト、ネックレストには、実走行時において、背もたれからの振動に加え、頭部もしくは頭部に近いネックレストからも直接振動が頭に伝わってくる。このため、読書やパソコン操作などの作業が著しくやり難くなるうえ、快適性の点からも向上にはつながらない。
【0026】
一方、中折れ機構付きのバックパッドは、中折れ上部が肩部周辺を支えるため、頭部を直接支えるヘッドレスト/ネックレストよりは有効である。しかしながら、中折れ機構付きのバックパッドは、リクライニング時に背もたれから入ってくる振動のことまでは考慮されておらず、走行状態での作業性・快適性の最適化がなされていない。
【0027】
また、従来の、走行時における座席シートの快適性は、尻下のクッション特性に着目したものが多く、背もたれから入ってくる振動についてはあまり考慮されていない。とりわけ、背もたれの上部、中央部、下部に分けて入力振動の最適化に着目したものではなかった。
【0028】
図5A~5Cは、バックパッドをクッションパッドに対してリクライニング状態にさせたときの、当該バックパッドの上部(背中上部:肩部)、下部(背中下部:腰部)および中央部(背中中央部:肩部および腰部の間)に伝わる振動をランダム振動解析した結果である。この解析結果は、クッションパッドに対するバックパッドの背もたれ角度(リクライニング角度)を、28°から58°まで、10°刻み(28°、38°、48°、58°)で倒したときの、背中上部、背中中央部および背中下部において計測した入力振動となっている。
図5A~5C中、縦軸は、パワースペクトル密度を示し、横軸は、振動周波数を示す。
【0029】
上記解析において、バックパッドには、高減衰タイプ(ボールリバウンド値:63%)のウレタンを使用し、25%硬度は標準的な硬さの92.2Nを使用している。これらの解析結果より、バックパッド(バックレスト)の角度を変えると、入ってくる振動が変わることが分かる。また、これらの解析結果から、背中の上部、中央部、下部の場所によっても、振動の大きさが変わることが分かる。
【0030】
そして、上記の解析結果によれば、作業性・快適性の観点から、走行時にリクライニングを倒した時には以下の2点を考慮する必要がある。
【0031】
(ア)前方に対する視認性の確保や種々の作業性向上のために、着座者は、リクライニング状態にあっても、頭部を起こす必要があり、そのための頭部、首、肩部などを支持
(イ)背もたれから入ってくる振動の低減
とりわけ、作業性や快適性に影響の大きい頭部に近い部位からの振動低減が重要である。
【0032】
これに対し、本実施形態に係る、バックパッド3は、当該バックパッド3の上部3a(境界線L1よりも上側の部分)が当該バックパッド3の上部3aよりも下側の下側部分(境界線L1よりも下側の部分:バックパッド3の中央部3cおよび下部3b)よりも硬く、上部3aの硬さは、140(N)以上である。この場合、着座者がバックパッド3に体を預けた状態でバックパッド3の上部3aから肩部を通して伝わる振動のうち、着座者に不快感を与え得る振動周波数(10~30(Hz))の振動が軽減される。すなわち、本実施形態のバックパッド3によれば、背中側の肩部を通して伝わる振動が軽減される。したがって、本実施形態のバックパッド3によれば、着座者がバックパッド3に体を預けた状態での当該着座者の快適さを向上させることができる。
【0033】
また、バックパッド3の上部3aの硬さは、150(N)以上であることが好ましい。この場合、バックパッド3の上部3aの硬さがより高められることから、背中側の肩部を通して伝わる振動がより軽減される。したがって、本実施形態のバックパッド3によれば、着座者がバックパッド3に体を預けた状態での当該着座者の快適さをより向上させることができる。
【0034】
また、本実施形態において、バックパッド3の上部3aは、当該バックパッド3の上部3aよりも下側の前記下側部分に対して車両装着時前側に向かって折り曲げ可能である。すなわち、本実施形態において、バックパッド3は、いわゆる中折れ構造を有するバックパッドである。本実施形態に係る、バックパッド3において、バックパッド3の上部3aは、境界線L1を基点に、バックパッドの中央部3cに対して前後方向に折り曲げ可能である。
【0035】
本実施形態のバックパッド3は、クッションパッド2に対して後側に倒すことができる。加えて、本実施形態に係る、バックパッド3において、バックパッド3の上部3aは、境界線L1を基点に、バックパッドの中央部3cに対して前側に折り曲げることができる。すなわち、バックパッド3によれば、バックパッド3全体を後側に倒しつつ当該バックパッド3の上部3aのみを前側に起こすことができる。この場合、着座者は、バックパッド3によって、背中を後側に大きく倒しつつ肩部を起こした状態に支持される。これによって、着座者は、例えば、助手席に着座する場合や、自動運転によって運転操作を要することない場合など、バックパッド3に体を預けた状態となるように、バックパッド3を後側に倒すことで仰向けになるときも、前側に起こされたバックパッド3の上部3aが頭部を支えることになる。これにより、着座者は、首に力をかけずに、即ち、快適に、前向きの状態を維持することができる。こうした機能を有した中折れ構造のバックパッド3は、自動運転技術が発展している現在、同乗者の座席シートだけでなく、運転者の座席シートにも適用されることが考えられる。
【0036】
また、着座者は、仰向けに寝そべったままでも、車両前方の情報を得ようと、頭部を持ち上げようとする場合がある。この場合、着座者の首部または肩部への負担が大きくなる。これに対し、中折れ構造の座席シートは、着座者が頭部を持ち上げることなく、当該着座者の肩部よりも上側(頭部側)を持ち上げることができるため、こうした負担を軽減する対策として有効である。また、こうした負担を軽減する対策としては、ヘッドレスト4をバックパッド3に対して前側に移動させる方法もある。この対策は、シートパッド1に振動が入力されない状態(例えば、停車状態)では有効である。
【0037】
しかしながら、従来の中折れ構造のバックパッドは、振動が入力される状態(例えば、アイドリング状態、走行状態)では、肩部を通して伝達される振動を軽減することができない。確かに中折れ構造のバックパッドは、バックパッド3の上部3aが肩部の周辺を支えるため、頭部に近いヘッドレスト4の対策に比べて、頭部に振動が伝わり難い分だけ有効であるが、走行状態などにおいて、肩部を通して伝達される振動を抑制する対策としては依然として改善の余地がある。
【0038】
一方、本実施形態に係る、バックパッド3によれば、バックパッド3の上部3aから肩部を通して伝わる振動そのものを抑制する。このため、本実施形態のバックパッド3によれば、当該バックパッド3を、境界線L1を基点に中折れさせた状態で、着座者が頭部をさらに車両前側に持ち上げても、肩部を通して伝達される振動は軽減される。したがって、本実施形態のバックパッド3によれば、当該バックパッド3に体を預けた状態での快適性の向上に有効である。
【0039】
また、
図2には、シートパッド1のリクライニング状態を概略的に示す。このリクライニング状態では、バックパッド3は、クッションパッド2に対して後側に倒されており、バックパッド3の上部3aは、境界線L1を基点に前側に起こされている。
図2に示すように、バックパッド3の上部3aが上下方向に対してなす鋭角側の傾きを背もたれ角度αとすると、バックパッド3の上部3aから肩部を通して伝達される振動は、背もたれ角度αが大きくなるにしたがって大きくなる。特に背もたれ角度αが、48度以上となると、前記振動は顕著に大きくなる。このため、背もたれ角度αが48度以上、好ましくは50度以上、より好ましくは58度以上となるように構成されているバックパッドとして、バックパッド3を使用する場合は、バックパッドに体を預けた状態での快適性の向上にさらに有効である。
【0040】
ところで、バックパッド3の上部3aの硬さは、当該バックパッド3の上部3aよりも下側の前記下側部分(即ち、中央部3cおよび下部3b)よりも硬いため、当該バックパッド3の下部3bの硬さは、140(N)未満である。本実施形態では、バックパッド3の中央部3cおよび下部3bの硬さは、100~120(N)である。この場合、バックパッド3の前記下側部分を、一般的なバックパッドによって構成することができる。
【0041】
シートパッド1を形成する発泡材料は、発泡樹脂である。バックパッド3もまた、発泡材料によって形成されている。前記発泡樹脂としては、例えば、ポリウレタンが挙げられる。前記ポリウレタンとしては、軟質ポリウレタンが好ましい。前記軟質ポリウレタンとしては、例えば、軟質ポリウレタン樹脂に発泡剤を混合させることにより製造される軟質発泡ポリウレタンが挙げられる。ただし、本発明によれば、発泡材料として、様々な発泡樹脂を使用することができる。
【0042】
バックパッド3の上部3aの硬さは、例えば、バックパッド3の密度を変えることによって高めることができる。一般には、バックパッド3の上部3aの密度を高めれば、当該密度が高まるにしたがって、当該バックパッド3の上部3aもまた硬くなる。密度を変える方法としては、例えば、3Dプリンタを用いた三次元造形法(付加製造法)によって、バックパッド3の内部構造を変更する方法が挙げられる。具体例としては、三次元造形法によって、(ア)バックパッド3の上部3aの内部セルの骨格を当該バックパッド3の下部3bよりも太く形成すること、(イ)バックパッド3の上部3aの内部セルの骨格の形状を当該バックパッド3の下部3bよりも剛性の高い形状に形成することが挙げられる。また、バックパッド3の上部3aの硬さは、発泡材料の材質を変えることによっても高めることができる。具体例としては、バックパッド3の上部3aを構成する発泡材料の材質として、当該バックパッド3の下部3bよりも硬い材料を用いる。
【0043】
また、本実施形態に係る、バックパッド3において、バックパッド3の上部3aおよび下部3bはともに、ボールリバウンド率60以上、より好ましくは、75以上の高反発材料によって形成されていることが好ましい。ここで、ボールリバウンド値(反発弾性)は、JIS K 6400に準拠して測定した値である。
【0044】
なお、本実施形態に係る、バックパッド3において、バックパッド3の上部3aは、サイドパッド部32を含めたバックパッド3の境界線L1よりも上側の部分としたが、本発明によれば、硬さを140(N)とするバックパッド3の上部3aは、上側センターパッド部31aのみとすることができる。また、本実施形態に係る、バックパッド3において、バックパッド3の上部3aよりも下側の部分もまた、サイドパッド部32を含めたバックパッド3の境界線L1よりも下側の部分としたが、本発明によれば、バックパッド3の上部3aよりも下側の部分は、中央センターパッド部31cおよび下側センターパッド部31bのみとすることができる。また、バックパッド3の上部3aが当該バックパッド3の上部3aよりも下側の部分よりも硬ければ、バックパッド3の中央部3cおよび下部3bの硬さは同一であっても、異なっていてもよい。さらに、バックパッド3の中央部3cおよび下部3bは、一体的に構成することができる。
【0045】
さらに、本実施形態において、クッションパッド2、バックパッド3およびヘッドレスト4は、それぞれ別体に構成されている。ただし、本発明によれば、クッションパッド2およびバックパッド3、バックパッド3およびヘッドレスト4、または、クッションパッド2、バックパッド3およびヘッドレスト4は、一体に形成することができる。また、本発明によれば、シートパッド1は、クッションパッド2およびヘッドレスト4の少なくともいずれか一方を省略することによって形成することができる。すなわち、本発明によれば、シートパッド1は、クッションパッド2およびヘッドレスト4の少なくともいずれか一方を別体として組み付けることを想定し、少なくともバックパッド3を含むものであればよい。
【0046】
上述のとおり、本実施形態に係る、シートパッド1は、本実施形態に係る、バックパッド3を含む。したがって、本実施形態のシートパッド1によれば、バックパッド3に体を預けた状態での快適性が向上する。
【0047】
したがって、本発明によれば、バックパッド3に体を預けた状態での快適性が向上する、バックパッド3およびシートパッド1を提供することができる。
【実施例0048】
図3A~3Cは、それぞれ、バックパッド3の上部3aの硬さが異なる、複数のバックパッド3をサンプルとして準備し、各サンプルの背もたれ角度(バックレスト角度)αを変えながら、当該バックパッド3の上部3a、中央部3cおよび下部3bについて、ランダム振動解析を行った結果である。
図3A~3C中、縦軸は、パワースペクトル密度の総和を示し、横軸は、バックパッド3の中央部3cに対する上部3aの背もたれ角度(バックレスト角度)αを示す。
【0049】
図3A~3C中、○は、本発明の実施例1としての、第1サンプルの解析結果である。実施例1では、バックパッド3の上部3aの硬さは、217.5(N)である。□は、本発明の実施例2としての第2サンプルの解析結果である。実施例2では、バックパッド3の上部3aの硬さは、157.9(N)である。△は、比較例としての第3サンプルの解析結果である。比較例1では、バックパッド3の上部3aの硬さは、92.2(N)である。
【0050】
図3A~3Cの、各解析結果は、硬さの異なる高減衰ウレタンフォームにおいて、背もたれ角度αを変えた時に、背中の、上部3a、中央部3c、下部3bから入ってくる振動の大きさ(=1~30Hzの入力振動総和)を示したものである。
【0051】
(1)
図3A~3Cを参照すれば、バックパッド3を倒す(=角度大きい)につれ、背中の、中央部3c、下部3bから入ってくる振動は若干増える程度であるが、上部3aにおいては48°を超えると急激に増える。
【0052】
(2)また、中央部3c、下部3bにおいては、ウレタンフォームの硬さを変えても振動の大きさはほとんど変わらないが、上部3aにおいては、通常背もたれで用いられている、25%硬度が100N程度のウレタンフォームの場合、急激に振動が大きくなる。
【0053】
これに対し、25%硬度を140N、より好ましくは、150N以上に上げると、振動の増加が抑えられている。
【0054】
また、上記(1)、(2)の結果より、シートリクライニング時に快適性を保ちつつ、頭を支え、かつ背もたれ(とりわけ上部3aから)入ってくる振動を低下させるためには、シートの中折れ機構が有効である。また、この場合、バックパッド3の上部3aが50°、より好ましくは、48°よりも小さいとき、入力振動の増加を抑えることができている。即ち、中折れ機構付きシートの場合、当該中折れ機構付きシートは、背もたれを倒しても、上部3aのみは常に50°、より好ましくは、48°以下を維持できるものとすることが好ましい。
【0055】
また、上述のとおり、バックパッド3の上部3aのウレタンフォームの25%硬さを150N以上にすると、リクライニングによる振動増加を抑制できる。
【0056】
バックパッド3の硬さは静的な触感・快適性や適切なたわみ特性を得るために、全体の硬さを大きく変えることは難しい。とりわけ、荷重分担の大きい、中央部3c、下部3bにおいては制約がある。これらの制約とリクライニング時の快適性とを両立させるためには、バックパッド3の硬さを上部3aと、中央部3cおよび下部3bとを境に変えることが望ましい。
【0057】
具体的には、本実施形態のように、バックパッド3の上部3aの25%硬度を、140N、より好ましくは、150N以上にすると、入力振動の低減が図れる。加えて、本実施形態のように、バックパッド3に中折れ機構を設けた場合、バックパッド3の上部3aの背もたれ角度αを48°以下に維持することができれば、背もたれ角度αが58°の時の半分以下の入力振動に抑えることができ、さらに、25%硬度を140N、より好ましくは、150N以上に上げれば、入力振動を更に半減させることができる。
【0058】
なお、
図4A~4Cは、より反発の大きい高弾性ウレタンフォーム(ボールリバウンド値:75%)を用いたランダム振動解析の結果である。
図4A~4Cに示すように、より反発の大きい高弾性ウレタンフォームにおいても、同様の傾向を示している。
【0059】
上述したところは、本発明の例示的な実施形態を説明したものであり、特許請求の範囲を逸脱しない範囲で様々な変更を行うことができる。
1:シートパッド, 2:クッションパッド, 3:バックパッド, 3a:バックパッドの上部, 3b:バックパッドの下部, 3c:バックパッドの中央部, 31:センターパッド部, 31a:上側センターパッド部, 31b:下側センターパッド部, 31c:中間センターパッド部, 32:サイドパッド部, 4:ヘッドレスト, L1:(上側の)境界線, L2:(下側の)境界線