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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023011492
(43)【公開日】2023-01-24
(54)【発明の名称】拡底工具
(51)【国際特許分類】
   B28D 1/14 20060101AFI20230117BHJP
   B23B 41/00 20060101ALI20230117BHJP
   B28D 7/00 20060101ALI20230117BHJP
【FI】
B28D1/14
B23B41/00 B
B28D7/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022042687
(22)【出願日】2022-03-17
(31)【優先権主張番号】P 2021115041
(32)【優先日】2021-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021184142
(32)【優先日】2021-11-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】391007518
【氏名又は名称】株式会社ハウスビーエム
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100109058
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】安心院 國雄
【テーマコード(参考)】
3C036
3C069
【Fターム(参考)】
3C036AA00
3C069AA04
3C069BA09
3C069BB01
3C069CA10
3C069DA01
3C069EA02
(57)【要約】
【課題】拡径部分の最終加工径及び底端からの軸方向位置を安定させることが可能な拡底工具を提供する。
【解決手段】拡底工具TE1は、回転駆動装置に装着される装着部10と、工具本体20と、拡径操作部材30,40と、拡径操作部材30,40を工具本体20に対して先端側に付勢する圧縮ばね50と、を備える。工具本体20は、それぞれが拡径加工刃28を有する複数の撓み片24を含む。拡径操作部材30,40は、工具本体20に対する相対変位によって複数の撓み片24を撓ませて拡径加工刃28を外側に変位させる拡径操作部44と、ストッパ部48と、を含む。ストッパ部48は、工具本体20または装着部10と軸方向に突き当たることにより、その突き当たる位置を超えて工具本体20が拡径操作部材30,40に対して先端側に相対変位することを阻む。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物に形成されている有底孔の底端近傍部分を拡径するように当該被加工物を加工することが可能な拡底工具であって、
回転駆動装置に装着されて回転駆動されることが可能な装着部と、
前記装着部と一体に回転するように当該装着部に連結される中空筒状の工具本体と、
前記工具本体の径方向内側に配置されて当該工具本体に対し軸方向に相対変位可能となるように当該工具本体に保持される部分及び当該工具本体の先端から突出する部分を含む拡径操作部材と、
前記装着部と前記拡径操作部材との間に介在して圧縮方向に弾性変形することが可能であり、その弾性変形による弾発力によって前記拡径操作部材を前記工具本体に対して先端側に付勢する圧縮ばねと、を備え、
前記工具本体は、前記装着部よりも先端側の位置で周方向に並ぶ複数の撓み片を含み、前記複数の撓み片のそれぞれの先端部は、前記被加工物を切削して前記有底孔の径を拡大することが可能な拡径加工刃を有し、前記複数の撓み片のそれぞれは前記拡径加工刃を径方向の外側に変位させるように撓み変形することが可能であり、
前記拡径操作部材は、前記複数の撓み片のそれぞれの内側面と圧接することが可能な外周面を有し、当該外周面には先端に向かうに従って直径が大きくなる向きのテーパーが与えられている拡径操作部と、前記有底孔の底端または当該底端の近傍部位に突き当たることが可能な工具先端部と、ストッパ部と、を含み、前記ストッパ部は、前記工具本体または前記装着部と前記軸方向に突き当たることによりその突き当たった位置を超えて前記工具本体と前記拡径操作部材とが前記軸方向に相対変位することを阻止する、拡底工具。
【請求項2】
請求項1に記載の拡底工具であって、前記ストッパ部は、前記拡径操作部と前記工具先端部との間に位置して前記拡径操作部の最大径よりも大きな外径を有し、前記複数の撓み片のそれぞれの先端と突き当たることによりその突き当たった位置を超えて前記工具本体と前記拡径操作部材とが前記軸方向に相対変位することを阻止する、拡底工具。
【請求項3】
請求項2に記載の拡底工具であって、前記拡径操作部材は、前記工具本体内に配置されて前記圧縮ばねと当接するばね受け部材と、前記拡径操作部、前記ストッパ部及び前記工具先端部を含み、前記ばね受け部材の先端側に配置される先端側部材と、を含み、前記ばね受け部材及び前記先端側部材は前記圧縮ばねによる付勢力が前記ばね受け部材を介して前記先端側部材に伝達されるように互いに前記軸方向に当接することが可能であり、かつ、前記ばね受け部材から前記先端側部材を先端側に分離することが可能である、拡底工具。
【請求項4】
請求項3記載の拡底工具であって、前記拡径操作部材は、前記先端側部材として、互いに交換されることが可能な第1先端側部材及び第2先端側部材を具備し、当該第1先端側部材及び当該第2先端側部材は、前記拡径操作部の最大径及び前記工具先端部から前記ストッパ部の突き当たり面までの前記軸方向の距離の少なくとも一方において互いに相違する形状を有する、拡底工具。
【請求項5】
請求項1に記載の拡底工具であって、前記装着部及び前記工具本体の少なくとも一方がストッパ受け部材を構成し、前記ストッパ部は、前記ストッパ受け部材と前記軸方向に突き当たることによりその突き当たった位置を超えて前記工具本体と前記拡径操作部材とが前記軸方向に相対変位することを阻止する、拡底工具。
【請求項6】
請求項5に記載の拡底工具であって、前記ストッパ受け部材は、前記複数の撓み片と一体に前記軸方向に移動するストッパ受け本体と、当該ストッパ受け本体に対する前記軸方向の相対位置が調節可能となるように当該ストッパ受け本体と連結される突き当たり部材と、を含み、前記ストッパ部は、前記突き当たり部材と前記軸方向に突き当たることによりその突き当たった位置を超えて前記工具本体と前記拡径操作部材とが前記軸方向に相対変位することを阻止する、拡底工具。
【請求項7】
請求項6に記載の拡底工具であって、前記ストッパ受け本体及び前記突き当たり部材のそれぞれは、前記軸方向に相対変位するように互いに螺合することが可能なねじを含み、前記ストッパ受け本体に対する前記突き当たり部材の相対回転によって前記ストッパ受け本体に対する前記突き当たり部材の前記軸方向の相対位置が調節される、拡底工具。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の拡底工具であって、前記拡径操作部材は、内側部材と、外側部材と、連結ピンと、を含み、前記内側部材は、前記拡径操作部から前記複数の撓み片の径方向内側を通って前記装着部の前記径方向の内側まで延び、前記拡径操作部と一体に前記軸方向に動くように当該拡径操作部とつながり、前記外側部材は、前記装着部の外周面に沿って前記軸方向に摺動可能となるように当該装着部に外嵌され、前記連結ピンは、前記内側部材と前記外側部材とが前記軸方向に一体に動くように当該内側部材と当該外側部材とを前記径方向に相互に連結し、前記装着部は、当該装着部を前記径方向に貫通するピン挿通孔を有し、当該ピン挿通孔は、当該ピン挿通孔への前記連結ピンの前記径方向の挿通を許容するように前記装着部を前記径方向に貫通するとともに、前記装着部に対する前記連結ピンの前記軸方向の相対変位を許容するように当該軸方向に延びる形状を有する、拡底工具。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載の拡底工具であって、前記複数の撓み片のそれぞれの先端部は、前記拡径加工刃として、第1拡径加工刃と第2拡径加工刃とを有し、前記第1拡径加工刃は、工具回転方向について前記第2拡径加工刃に先行する位置に設けられ、前記第2拡径加工刃は、少なくとも前記複数の撓み片が径方向外側に変位するときに前記第1拡径加工刃の加工径よりも大きな加工径を有する、拡底工具。
【請求項10】
請求項9記載の拡底工具であって、前記複数の撓み片が径方向外側に変位するのに伴う前記第2拡径加工刃の加工径の増大が前記第1拡径加工刃の加工径の増大よりも大きくなるように、前記複数の撓み片のそれぞれにおける前記第1及び第2拡径加工刃の位置が設定されている、拡底工具。
【請求項11】
請求項10記載の拡底工具であって、前記第1拡径加工刃及び第2拡径加工刃は互いに同一の形状を有する、拡底工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有底孔の底端の近傍部分の径を拡大するための加工を行うことが可能な拡底工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有底孔の底端の近傍を拡径するための拡底工具が知られている。例えば、特許文献1は、シャンクと、カッタと、シャフトと、圧縮ばねと、を備えた穿孔装置を開示する。前記シャンクは、回転電動機に接続されて回転駆動されることが可能である。前記カッタは、前記シャンクと一体に回転駆動されるようにシャンクに連結される。前記カッタの先端側部分は径方向に撓み変形可能な2つの脚片により構成され、当該2つの脚片のそれぞれの前端に切削刃が設けられている。前記シャフトは、前記カッタに対して軸方向に相対移動可能となるように当該カッタの径方向内側に配置され、かつ、前記圧縮ばねによって先端側に付勢されている。前記シャフトには前記切削刃をそれぞれ案内するための2つの凹溝が形成され、当該凹溝には先端に向かうに従って径方向外側に変位する向きのテーパーが与えられている。
【0003】
前記穿孔装置では、前記シャンク及び前記カッタが前記回転電動機によって回転駆動された状態で、被加工物に既に形成されている有底孔に挿入され、当該有底孔の底部に前記シャフトの先端が突き当たった状態からさらに前記カッタが前記有底孔内に押し込まれることにより、当該カッタの先端の前記切削刃がそれぞれ前記シャフトの前記凹溝に案内されて拡径方向に変位する。従って、当該切削刃は、前記有底孔の底部近傍の部分の径を拡大するように前記被加工物の切削を行うことが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-1690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記の穿孔装置では、最終的に形成される拡径部の径(最大径)や当該拡径部の深さ方向の位置が必ずしも安定しないという課題がある。前記特許文献1には、前記カッタの後端に大径のストッパを設けて当該ストッパが被加工物の表面に当接するまで当該カッタを挿入することが記載されているが、当該ストッパは前記被加工は物に対する前記カッタの挿入深さを規定するのみであるため、前記拡径部分の径や底部からの相対位置は前記有底孔の深さによって変わってしまう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、被加工物に形成されている有底孔の底端近傍部分を拡径するように当該被加工物を加工することが可能な拡底工具であって、その拡径される部分の径及び底端からの位置を安定させることが可能な拡底工具を提供することを目的とする。
【0007】
提供される拡底工具は、回転駆動装置に装着されて回転駆動されることが可能な装着部と、当該装着部と一体に回転するように当該装着部に連結される中空筒状の工具本体と、前記工具本体の径方向内側に配置されて当該工具本体に対し軸方向に相対変位可能となるように当該工具本体に保持される部分及び当該工具本体の先端から突出する部分を含む拡径操作部材と、前記装着部と前記拡径操作部材との間に介在して圧縮方向に弾性変形することが可能であり、その弾発力によって前記拡径操作部材を前記工具本体に対して先端側
に付勢する圧縮ばねと、を備える。前記工具本体は、前記装着部よりも先端側の位置で周方向に並ぶ複数の撓み片を含む。前記複数の撓み片のそれぞれの先端部は、前記被加工物を切削して前記有底孔の径を拡大することが可能な拡径加工刃を有する。前記複数の撓み片のそれぞれは前記拡径加工刃を径方向の外側に変位させるように撓み変形することが可能である。前記拡径操作部材は、前記複数の撓み片のそれぞれの内側面と圧接することが可能な外周面を有し、当該外周面には先端に向かうに従って直径が大きくなる向きのテーパーが与えられている拡径操作部と、前記有底孔の底端または当該底端の近傍部位に突き当たることが可能な工具先端部と、ストッパ部と、を含む。前記ストッパ部は、前記工具本体または前記装着部と前記軸方向に突き当たることによりその突き当たった位置を超えて前記工具本体と前記拡径操作部材とが前記軸方向に相対変位することを阻止する。
【0008】
この拡底工具は、前記回転駆動装置により回転駆動された状態で前記有底孔に挿入されることにより、当該有底孔の底端近傍部位を拡径するように前記被加工物を加工することが可能であり、かつ、拡径された部分の最終径及び前記有底孔の底端に対する相対位置を安定させることができる。具体的に、前記拡底工具が回転駆動された状態で前記有底孔に挿入されると、まず、当該有底孔の底端に前記拡径操作部材の前記工具先端部が突き当たる。その位置からさらに前記拡底工具が挿入されると、前記圧縮ばねの圧縮変形の進行を伴いながら前記拡径操作部材に対して前記工具本体が先端側に相対変位し、これに伴い、当該工具本体の複数の撓み片のそれぞれは、前記拡径操作部材の前記拡径操作部のテーパー状外周面に圧接しながら当該拡径操作部によって径方向の外側に押し広げられるように撓み変形し、これにより、当該複数の撓み片のそれぞれの先端に位置する拡径加工刃を径方向の外側に変位させる。これにより、前記有底孔の前記底端近傍部位を拡径する加工が進められる。そして、前記工具本体または前記装着部と前記拡径操作部材のストッパ部とが前記軸方向に突き当たった時点で、その突き当たった位置を超えて前記工具本体が前記拡径操作部材に対して先端側に相対変位することが阻止され、これにより拡底加工が終了する。このことは、拡径加工された部分の前記底端(つまり前記工具先端部が突き当たっている部分)に対する軸方向の位置を安定させ、これにより、その最終加工径を安定させる。
【0009】
前記ストッパ部は、例えば、前記拡径操作部と前記工具先端部との間に位置して前記拡径操作部の最大径よりも大きな外径を有し、前記複数の撓み片のそれぞれの先端と突き当たることによりその突き当たった位置を超えて前記工具本体と前記拡径操作部材とが前記軸方向に相対変位することを阻止するものが、好適である。当該ストッパ部は、前記複数の撓み片のそれぞれの先端と突き当たることによって当該複数の撓み片の深さ位置及びこれに対応する最終加工径を直接的に定めることができる。
【0010】
この場合、前記拡径操作部材は、前記工具本体内に配置されて前記圧縮ばねと当接するばね受け部材と、前記拡径操作部、前記ストッパ部及び前記工具先端部を含み、前記ばね受け部材の先端側に配置される先端側部材と、を含み、前記ばね受け部材及び前記先端側部材は前記圧縮ばねによる付勢力が前記ばね受け部材を介して前記先端側部材に伝達されるように互いに軸方向に当接することが可能であり、かつ、前記ばね受け部材から前記先端側部材を先端側に分離することが可能であることが、好ましい。このことは、前記拡径操作部材のうち前記工具本体内に配置された前記ばね受け部材を残して前記拡径操作部、前記ストッパ部及び前記工具先端部を含む前記先端側部材のみが容易に交換されることを可能にする。
【0011】
さらに、この場合、前記拡径操作部材は、前記先端側部材として、互いに交換されることが可能な第1先端側部材及び第2先端側部材を具備し、当該第1先端側部材及び当該第2先端側部材は、前記拡径操作部の最大径及び前記工具先端部から前記ストッパ部の突き当たり面までの軸方向の距離の少なくとも一方において互いに相違する形状を有することが、好ましい。このことは、前記先端側部材を前記第1先端側部材及び前記第2先端側部材との間で交換することにより、加工される拡径部分の径及び底端に対する相対位置の少なくとも一方を変更することを、可能にする。
【0012】
前記ストッパ部は、前記装着部及び前記工具本体のうち前記複数の撓み片の先端以外の部位に対して軸方向に突き当たるものであってもよい。例えば、前記装着部及び前記工具本体の少なくとも一方がストッパ受け部材を構成し、前記ストッパ部は、前記ストッパ受け部材と前記軸方向に突き当たることによりその突き当たった位置を超えて前記工具本体と前記拡径操作部材とが前記軸方向に相対変位することを阻止するものでもよい。
【0013】
前記ストッパ受け部材は、例えば、前記複数の撓み片と一体に前記軸方向に移動するストッパ受け本体と、当該ストッパ受け本体に対する前記軸方向の相対位置が調節可能となるように当該ストッパ受け本体と連結される突き当たり部材と、を含み、前記ストッパ部は、前記突き当たり部材と前記軸方向に突き当たることによりその突き当たった位置を超えて前記工具本体と前記拡径操作部材とが前記軸方向に相対変位することを阻止するものが、好適である。前記ストッパ受け本体に対する前記突き当たり部材の前記軸方向の相対位置を変えることにより、当該突き当たり部材と前記ストッパ部とが軸方向に突き当たるときの前記拡径操作部材に対する前記複数の撓み片のそれぞれの先端の前記軸方向の相対位置を調節することが可能であり、これにより、前記複数の撓み片の深さ位置及びこれに対応する最終加工径を調節することが可能である。
【0014】
具体的には、前記ストッパ受け本体及び前記突き当たり部材のそれぞれは、前記軸方向に相対変位するように互いに螺合することが可能なねじを含み、前記ストッパ受け本体に対する前記突き当たり部材の相対回転によって前記ストッパ受け本体に対する前記突き当たり部材の前記軸方向の相対位置が調節されるものが、好適である。前記ねじどうしの螺合は、前記ストッパ受け本体に対して前記突き当たり部材を相対回転させるだけの簡単な操作で両者の相対位置関係を調節して所望の最終加工径を得ることを可能にする。
【0015】
前記拡径操作部材が、内側部材と、外側部材と、連結ピンと、を含み、前記装着部がピン挿通孔を有するものも、好適である。前記内側部材は、前記拡径操作部から前記複数の撓み片の径方向内側を通って前記装着部の前記径方向の内側まで延び、前記拡径操作部と一体に前記軸方向に動くように当該拡径操作部とつながる。前記外側部材は、前記装着部の外周面に沿って前記軸方向に摺動可能となるように当該装着部に外嵌される。前記連結ピンは、前記内側部材と前記外側部材とが前記軸方向に一体に動くように当該内側部材と当該外側部材とを前記径方向に相互に連結する。前記ピン挿通孔は、当該ピン挿通孔への前記連結ピンの前記径方向の挿通を許容するように前記装着部を前記径方向に貫通するとともに、前記装着部に対する前記連結ピンの前記軸方向の相対変位を許容するように当該軸方向に延びる形状を有する。前記連結ピン及び前記ピン挿通孔は、前記拡径操作部及び前記内側部材と一体に前記外側部材が前記装着部の外周面に対して前記軸方向に摺動すなわち相対変位することを可能にし、これにより、作業者が前記装着部の外周面に対する前記外側部材の前記軸方向についての相対位置に基づいて拡径加工の進行度合い、特に加工終了時点、を容易に把握することを可能にする。
【0016】
なお、前記装着部は、前記ピン挿通孔の後端において前記連結ピンが前記装着部と前記軸方向に突き当たることによりその突き当たった位置を超えて前記工具本体と前記拡径操作部材とが前記軸方向に相対変位することを阻止するように構成されることも可能である。つまり、前記連結ピンが前記ストッパ部として機能することも、可能である。
【0017】
前記複数の撓み片のそれぞれの先端部は、前記拡径加工刃として、第1拡径加工刃と第2拡径加工刃とを有することが、好ましい。前記第1拡径加工刃は、工具回転方向について前記第2拡径加工刃に先行する位置に設けられ、前記第2拡径加工刃は、少なくとも前記複数の撓み片が径方向外側に変位するときに前記第1拡径加工刃の加工径よりも大きな加工径を有する。前記第1拡径加工刃は、前記第2拡径加工刃に先行して当該第2拡径加工刃による加工径よりも小さい加工径で被加工物を加工することにより、前記複数の撓み片の拡径に伴う加工径の急増を緩和し、これにより、当該加工径の急増に起因する振動等の発生を抑えてより円滑な拡底加工が実現されることを可能にする。
【0018】
具体的には、前記複数の撓み片が径方向外側に変位するのに伴う前記第2拡径加工刃の加工径の増大が前記第1拡径加工刃の加工径の増大よりも大きくなるように、前記複数の撓み片のそれぞれにおける前記第1及び第2拡径加工刃の位置が設定されていることが、好ましい。このことは、前記第1及び第2拡径加工刃の径方向外側の変位の差を利用して前記第2拡径加工刃の加工径を前記第1拡径加工刃の加工径よりも大きくすることを可能にする。例えば、前記第1拡径加工刃及び前記第2拡径加工刃が互いに同一の形状を有するようにして製作の容易化及びコストの削減を図りながら、両拡径加工刃の加工径に差を与えることも可能である。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、被加工物に形成されている有底孔の底端近傍部分を拡径するように当該被加工物を加工することが可能な拡底工具であって、その拡径される部分の径及び底端からの位置を安定させることが可能な拡底工具が、提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の第1の実施の形態に係る拡底工具の断面正面図である。
図2A図1に示される前記拡底工具を先端側から視た図である。
図2B】前記拡底工具の加工径が最大加工径まで拡大された状態を当該拡底工具の先端側から視た図である。
図3】前記拡底工具により加工される被加工物に形成された有底孔を示す断面正面図である。
図4】前記有底孔の底端に前記拡底工具の拡径操作部材の工具先端部が突き当たる位置まで当該拡底工具が挿入された状態を示す断面正面図である。
図5図4に示される状態における要部を拡大して示した断面正面図である。
図6図4に示される位置からさらに前記拡底工具の工具本体が挿入された状態を示す断面正面図である。
図7図6に示される状態における前記要部を拡大して示した断面正面図である。
図8】前記拡底工具の工具本体が拡底終了位置まで挿入された状態を示す断面正面図である。
図9図8に示される状態における要部を拡大して示した断面正面図である。
図10】前記拡底工具により加工された後の有底孔を示す断面正面図である。
図11】本発明の第2の実施の形態に係る拡底工具の断面正面図である。
図12図11のXII-XII線に沿った断面を示す底面図である。
図13図11に示される拡底工具のアダプタ及びこれに形成された窓を通じて視認される突き当たり部材を示す正面図である。
図14】前記突き当たり部材の位置が図11及び図12に示される最小加工径位置に調節された状態で前記拡底工具の工具本体が拡底終了位置まで挿入された状態を示す断面正面図である。
図15】前記突き当たり部材の位置が最大加工径位置に調節された状態で前記拡底工具の工具本体が拡底終了位置まで挿入された状態を示す断面正面図である。
図16】前記第2の実施の形態にロックナットが付加された例において前記突き当たり位置が最小加工径位置に調節された状態を示す断面正面図である。
図17】前記第2の実施の形態にロックナットが付加された例において前記突き当たり位置が最大加工径位置に調節された状態を示す断面正面図である。
図18】ストッパ受け部材及びストッパ部についての第1の変形例を示す断面正面図である。
図19】ストッパ受け部材及びストッパ部についての第2の変形例を示す断面正面図である。
図20】第1及び第2拡径加工刃を併有する複数の撓み片の例を拡底工具の先端側から視た図であって前記複数の撓み片が径方向外側に変位する前の状態を示す図である。
図21図20に示される例を拡底工具の先端側から視た図であって前記複数の撓み片が径方向外側に変位した状態を示す図である。
図22】本発明の第3の実施の形態に係る拡底工具の平面図である。
図23図22に示される前記拡底工具の一部断面正面図である。
図24図22に示される前記拡底工具の加工径が最大加工径まで拡大された状態を示す平面図である。
図25図24に示される状態を示す一部断面正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好ましい実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0022】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る拡底工具TE1を示す。前記拡底工具TE1は、図示されない回転駆動装置に装着されて回転駆動されることにより、例えば図3に示されるような被加工物60の加工を行うことが可能である。具体的に、当該被加工物60には底端64を有する有底孔62が形成されており、前記拡底工具TE1は前記底端64の近傍において前記有底孔62の孔径を拡大するように前記被加工物60を加工することが可能である。
【0023】
図3に示される前記被加工物60は、例えばコンクリートにより形成された建物の天井部分であり、前記有底孔62は下向きに開口し、当該有底孔62に対して前記拡底工具TE1が上向きに挿入される。しかし、本発明において加工対象となる被加工物は天井に限定されない。例えば、本発明に係る拡底工具は、被加工物である壁において横向きに開口
する有底孔の拡底加工や、被加工物である床において上向きに開口する有底孔の拡底加工にも、適用されることが可能である。
【0024】
前記回転駆動装置は、例えば電動工具の本体部分であり、出力軸及びこれを回転させる駆動源、例えば電動機、を有する。当該回転駆動装置は、少なくとも前記拡底工具TE1を回転させることが可能なものであればよいが、当該拡底工具TE1に軸方向先端側への打撃力を与えるものがより好ましい。このようないわゆるハンマー機能をもった回転駆動装置の使用は、前記拡底工具TE1がより容易に前記有底孔62内に挿入されることを可能にする。
【0025】
前記拡底工具TE1は、装着部10と、工具本体20と、ばね受け部材30と、先端側部材40と、圧縮ばね50と、を備え、前記ばね受け部材30及び前記先端側部材40は拡径操作部材を構成する。
【0026】
前記装着部10は、前記回転駆動装置に装着されて回転駆動されることが可能な部分である。この実施の形態に係る前記装着部10は、被保持軸12と、アダプタ14と、を含む。
【0027】
前記被保持軸12は、前記回転駆動装置の前記出力軸に保持される部材である。前記被保持軸12は、軸方向(図1では上下方向)の両端部を有し、当該両端部は被保持部15及びアダプタ連結部16を構成する。前記被保持部15は、他の工具と同様に前記回転駆動装置の前記出力軸に保持されることが可能な基端側部分である。前記アダプタ連結部16は、前記アダプタ14に連結されることが可能な先端側部分である。
【0028】
前記アダプタ14は、前記被保持軸12と前記工具本体20との間に介在して両者が連結されることを可能にする部材である。前記アダプタ14は、前記軸方向の両端部を有し、当該両端部はそれぞれ軸連結部17及び工具本体連結部18を構成する。前記軸連結部17は、前記被保持軸12と前記軸方向に一体に移動するように当該被保持軸12に連結されることが可能な基端側部分であり、前記工具本体連結部18は前記工具本体20と前記軸方向に一体に移動するように当該工具本体20に連結されることが可能な先端側部分である。
【0029】
この実施の形態では、前記アダプタ連結部16と前記軸連結部17とは着脱可能に連結される。具体的に、前記アダプタ連結部16は雄ねじが形成された外周面をもつねじ軸であり、前記軸連結部17は当該雄ねじと螺合可能な雌ねじが形成された内周面をもつ円筒状をなす。しかし、前記被保持軸12と前記アダプタ14とは一体に形成されてもよい。すなわち、前記装着部10は単一の部材により構成されてもよい。
【0030】
前記工具本体20は、中空筒状をなし、前記装着部10と一体に回転するように当該装着部10に連結される。当該工具本体20は、アダプタ連結部22と、複数の撓み片24と、を一体に有する。
【0031】
前記アダプタ連結部22は、前記アダプタ14の前記工具本体連結部18に着脱可能に連結される部分である。この実施の形態では、前記工具本体連結部18は雄ねじが形成された外周面をもつねじ軸であり、前記アダプタ連結部22は前記雄ねじと螺合可能な雌ねじが形成された内周面をもつ円筒状をなす。しかし、前記アダプタ14と前記工具本体20とは一体に形成されてもよい。例えば、前記装着部10と前記工具本体20とが単一の部材で構成されてもよい。
【0032】
前記複数の撓み片24は、前記アダプタ14の前記工具本体連結部18よりも先端側の
位置で前記工具本体20が周方向に分割された部分である。前記複数の撓み片24は、互いに周方向に並ぶように配置されている。この実施の形態では、図2A及び図2Bに示されるように、前記複数の撓み片24は2つ、すなわち一対の撓み片24、であり、互いに径方向に対向するように配置されている。しかし、本発明に係る複数の撓み片の具体的な数は限定されない。例えば、3以上の撓み片が周方向に配列されてもよい。
【0033】
図2A及び図2Bに示されるように、前記複数の撓み片24どうしの間にはスリット23が介在する。当該スリット23は、前記工具本体20の先端から適当な位置(図1に示される例では前記アダプタ14の近傍の位置)まで軸方向に延び、当該複数の撓み片24が互いに独立して弾性変形、特に、以下に述べる径方向の撓み変形、をすることを許容している。
【0034】
前記複数の撓み片24のそれぞれは、撓み片本体25と被操作部26とを一体に有する。前記撓み片本体25は、前記径方向の撓み変形(弾性変形)が可能となる程度まで十分に大きな軸方向寸法(長さ)及び小さな径方向寸法(厚み)を有する。前記被操作部26は、前記撓み片本体25の内径よりも小さな内径を有し、かつ、前記撓み片本体25の厚みよりも大きな厚みを有する。従って、前記撓み片本体25の内周面と前記被操作部26の内周面との間には段差27が与えられている。一方、この実施の形態に係る前記撓み片本体25及び被操作部26の外径は互いに略同等である。
【0035】
前記複数の撓み片24のそれぞれの先端部は拡径加工刃28を含む。当該拡径加工刃28は、前記被加工物60を切削して前記有底孔62の径を拡大することが可能な部分である。前記拡径加工刃28は、例えば、高い硬度をもつ合金からなるチップを前記複数の撓み片24のそれぞれの先端の適当な位置に固着することによって、当該複数の撓み片24のそれぞれに与えられることが可能である。図2A及び図2Bに示される例では、同図のように軸方向に視て円弧状をなす撓み片24の当該円弧の中央部分にそれぞれ前記拡径加工刃28が与えられている。
【0036】
前記複数の撓み片24のそれぞれは、前記拡径加工刃28を径方向の外側に変位させるように弾性変形(撓み変形)することが可能である。具体的に、この実施の形態では、前記複数の撓み片24において十分長尺な撓み片本体25が前記径方向に撓み変形(弾性変形)することにより、前記拡径加工刃28を径方向外側に変位させる、つまり、当該拡径加工刃28による加工径を拡大させる、ことが可能である。前記加工径は、前記拡径加工刃28の径方向外側端を通る円、すなわち回転軌跡、の直径に相当する。
【0037】
この実施の形態において、図1及び図2Aに示されるように前記複数の撓み片24が撓み変形していない状態での前記加工径、つまり、前記非使用状態において拡大されていない加工径は、前記有底孔62の直径と同等またはこれよりもわずかに小さい径に設定されている。従って、前記拡径加工刃28のそれぞれが前記有底孔62の内周面と接触することなく、あるいは軽く接触する程度で、前記拡底工具TE1が前記有底孔62に挿入されることが可能である。
【0038】
前記拡径操作部材、すなわち前記ばね受け部材30と前記先端側部材40とによって構成される部材、は、前記工具本体20の径方向内側に配置されて当該工具本体に対し軸方向に相対変位可能となるように当該工具本体に保持される被保持部分と、当該工具本体20の先端から突出する突出部分と、を含むように配置される。この実施の形態では、前記ばね受け部材30の全体及び前記先端側部材40の一部が前記被保持部分を構成し、前記先端側部材40の他の部分が前記突出部分を構成する。
【0039】
前記圧縮ばね50は、前記装着部10(この実施の形態では前記アダプタ14の先端面
であって図1では下端面)と前記拡径操作部材(この実施の形態では前記ばね受け部材30)との間に介在し、前記拡底工具TE1の軸方向に沿った圧縮方向に弾性変形することが可能である。前記圧縮ばね50は、前記弾性変形による弾発力によって前記拡径操作部材を前記工具本体20に対して先端側(図1では下側、図4図9では上側)に付勢する。
【0040】
前記ばね受け部材30は、前記圧縮ばね50と前記先端側部材40との間に介在し、かつ、当該先端側部材40と軸方向に当接することにより、前記圧縮ばね50による付勢力(前記弾発力)を前記先端側部材40に伝達することが可能である。具体的に、前記ばね受け部材30は、本体軸32とばね座部34とを一体に有する。前記本体軸32は、前記複数の撓み片24における前記被操作部26の内径よりもわずかに大きい外径を有し、これにより、当該複数の撓み片24によって外側から保持されることが可能である。前記ばね座部34は、前記本体軸32の外径よりも大きな外径を有し、前記圧縮ばね50の前端(図1では下端)と当接して当該圧縮ばね50から付勢力を受ける。前記ばね座部34は、さらに、前記段差27に対して後端側から突き当たることにより、前記ばね受け部材30が前記工具本体20から先端側に抜け出ることを防ぐ。前記圧縮ばね50は、前記拡底工具TE1が使用されていない非使用状態で前記ばね座部34を前記段差27に押し付けることにより、前記ばね受け部材30を前記工具本体20に対して最先端側位置(図1では最も下側の位置)に保持する。
【0041】
前記先端側部材40は、前記ばね受け部材30の前記本体軸32の先端面(図1では下端面、図4図9では上端面)に突き当たるように前記工具本体20の先端部分に装着され、その装着状態で当該工具本体20の先端面(前記複数の撓み片24のそれぞれの先端面よりもさらに先端側に突出する。
【0042】
前記先端側部材40は、被保持部42と、拡径操作部44と、工具先端部46と、ストッパ部48と、を一体に有する。
【0043】
前記被保持部42は、前記非使用状態で前記本体軸32と同じく前記複数の撓み片24により外側から保持される部分である。具体的に、当該被保持部42は、前記本体軸32の外径と略同等の外径を有するとともに、前記非使用状態において前記本体軸32の先端面から前記工具本体20の先端面に至るまでの距離と同等の軸方向寸法を有する。
【0044】
前記拡径操作部44は、拡径操作用の外周面を有する。当該外周面は、前記複数の撓み片24のそれぞれの内側面(この実施の形態では前記被操作部26の内側面)と径方向に圧接することにより当該複数の撓み片24を径方向の内側から押し広げて前記拡径加工刃28を径方向外側に変位させる。前記外周面には前記被保持部42から先端に向かうに従って直径が大きくなる向きのテーパーが与えられている。従って、前記拡径操作部44は、前記工具本体20に対して先端側に相対変位するに従って前記被操作部26及びこれに与えられた前記拡径加工刃28を径方向外側に変位させることが可能である。
【0045】
前記工具先端部46は、前記先端側部材40の最も先端側の部位であり、前記有底孔62の前記底端64に突き当たることが可能である。当該工具先端部46は、前記有底孔62の前記底端64またはその近傍部位と突き当たることが可能な形状を有すればよいが、好ましくは、前記底端64との当接により当該底端64に対する径方向の相対位置を決めることが可能な形状、つまり前記有底孔62に対して位置決めされることが可能な形状、を有する。この実施の形態では、前記有底孔62の底部が前記底端64に向かうに従って縮径する円錐状をなし、前記工具先端部46は前記底部と嵌合可能な形状、つまり最先端部(頂部)に向かうに従って縮径する円錐状、をなしている。
【0046】
前記ストッパ部48は、前記拡径操作部44と前記工具先端部46との間に位置する。前記ストッパ部48は、前記拡径操作部44の最大径よりも大きな外径を有する突き当たり面47を有し、当該突き当たり面47が前記複数の撓み片24のそれぞれの先端と突き当たることにより、その突き当たった位置を超えて前記工具本体20が前記先端側部材40に対して先端側(図1では下側)に相対変位することを阻止する。
【0047】
この拡底工具TE1は、前記回転駆動装置により回転駆動された状態で前記有底孔62に挿入されることにより、当該有底孔62の底端64の近傍部位を拡径するように前記被加工物60を加工することが可能であり、かつ、その拡径部分の最終径及び前記有底孔の底端に対する相対位置を安定させることができる。具体的には、例えば次の要領で好適に使用されることが可能である。
【0048】
まず、図1に示されるような非使用状態では、前記圧縮ばね50の弾発力により前記ばね受け部材30が図1に示される最先端側位置、つまり当該ばね受け部材30のばね座部34が工具本体20の段差27に突き当たる位置、に保持され、かつ、当該ばね受け部材30はその径方向外側に位置する複数の撓み片24の被操作部26によって径方向に保持される。さらに、前記複数の撓み片24の前記被操作部26の内側に先端側から先端側部材40の被保持部42が挿入されることにより、当該被保持部42も前記被操作部26によって径方向外側から保持される。
【0049】
一方、装着部10の被保持軸12の被保持部15が図示されない回転駆動装置の出力軸に保持されることにより、当該回転駆動装置によって拡底工具TE1全体がその中心軸回りに回転駆動されることが可能である。具体的には、前記回転駆動装置から前記被保持軸12に与えられたトルクがアダプタ14を介して前記工具本体20に伝達され、さらに、当該工具本体20に保持されている拡径操作部材すなわち前記ばね受け部材30及び前記先端側部材40も前記工具本体20とともに回転する。
【0050】
このように回転駆動された前記拡底工具TE1が前記有底孔62に挿入されると、まず、図4及び図5に示されるように当該有底孔62の底端64に前記先端側部材40の工具先端部46が軸方向に突き当たる。この突き当たりは、図4及び図5に示される位置からさらにばね受け部材30及び先端側部材40が被加工物60に対して挿入方向に変位することを阻む。
【0051】
従って、この位置からさらに前記装着部10が前記挿入方向に押し込まれると、図6及び図7に示されるように、前記装着部10におけるアダプタ14と前記ばね受け部材30のばね座部34との間に介在する圧縮ばね50の圧縮変形のさらなる進行と、その弾発力に相当する反力であって前記先端側部材40が前記底端64から受ける反力Frの増大と、を伴いながら、当該ばね受け部材30及び先端側部材40に対して前記工具本体20が前記軸方向の先端側(前記挿入方向)に相対変位する。この相対変位は、テーパーが与えられた前記先端側部材40の拡径操作部44の外周面が前記工具本体20の複数の撓み片24の内側面と摺接しながらそれぞれの撓み片24に撓み変形を生じさせるようにして当該複数の撓み片24をその径方向の外側に押し広げる力Foを当該複数の撓み片24に与えることを可能にする。これにより、当該複数の撓み片24のそれぞれの先端に位置する拡径加工刃28が径方向の外側に変位する。これらの拡径加工刃28の径方向外側への変位は当該拡径加工刃28による加工径を拡大する。このようにして、前記有底孔62の前記底端64の近傍部位を拡径する拡底加工が進められる。
【0052】
さらに、前記工具本体20の挿入が進められ、図8及び図9に示されるように前記複数の撓み片24のそれぞれの先端が前記先端側部材40のストッパ部48の突き当たり面47に前記軸方向に突き当たった時点で、その突き当たった位置を超えて前記工具本体20
が前記先端側部材40及びこれと前記軸方向に当接するばね受け部材30に対して前記軸方向に先端側に相対変位することが阻止され、これにより拡底加工が終了する。つまり、この位置が拡底加工終了位置となり、当該位置において図2Bに示されるように前記加工径は最大となる。この拡底加工終了位置は前記先端側部材40の形状、具体的には当該先端側部材40の工具先端部46の頂部(最先端部)から前記ストッパ部48における前記突き当たり面47までの軸方向の距離、によって一義的に決まる。このことは、図10に示されるように拡底加工された前記有底孔62における前記底端64(つまり前記先端が突き当たっている部分)に対する拡径部66の軸方向の位置及び当該拡径部66の最終加工径を安定させる。
【0053】
もし仮に、前記ストッパ部48が存在せず、当該ストッパ部48と前記複数の撓み片24の先端との突き当たりによる拡底加工終了位置の決定がないとすると、拡底加工が終了した時点での先端側部材40に対する前記複数の撓み片24の軸方向の相対位置関係が一義的に定まらないため、当該相対位置関係に対応する最終加工径、さらには前記底端64に対する拡径部66の軸方向の相対位置も定まらない。また、仮に前記工具本体20の外周面に特許文献1に記載されるようなストッパ、つまり前記被加工物60の表面68と当接することにより工具挿入深さを規定するストッパ、が設けられているとすると、前記底端64に対する前記拡径部66の軸方向の相対位置関係は前記有底孔62の深さによって変わることになり、やはり安定した最終加工径及び拡径部66の位置を得ることはできない。換言すれば、前記先端側部材40に含まれている前記ストッパ部48による前記複数の撓み片24の位置決め、すなわち、前記拡径操作部材と前記工具本体20との軸方向についての相対位置の位置決めは、前記有底孔62の深さにかかわらず当該有底孔62の底端64に対する拡径部66の軸方向の相対位置及び当該拡径部66の最終加工径を安定させることを可能にする。
【0054】
前記ばね受け部材30及び前記先端側部材40は、互いに一体となるようにつながっていてもよい。換言すれば、本発明に係る拡径操作部材は単一の部材によって構成されていてもよい。しかし、前記拡径操作部材が前記のように軸方向に互いに分離可能なばね受け部材30及び先端側部材40により構成されることは、当該拡径操作部材のうち前記工具本体20の内側に配置される前記ばね受け部材30を残して前記拡径操作部44、前記ストッパ部48及び前記工具先端部46を含む前記先端側部材40のみを容易に交換することを可能にする。
【0055】
このことは、前記拡径操作部材が、前記先端側部材40として互いに交換されることが可能な複数の部材、例えば第1先端側部材及び第2先端側部材を具備することを可能にする。さらに、当該第1先端側部材及び当該第2先端側部材に、前記拡径操作部44の最大径及び前記工具先端部46から前記突き当たり面47までの軸方向の距離の少なくとも一方において互いに相違する形状を与えることにより、前記先端側部材40を前記第1先端側部材及び前記第2先端側部材との間で交換することで、加工される拡径部66の径及び底端64に対する当該拡径部66の軸方向の相対位置の少なくとも一方を変更することが、可能になる。例えば、前記第1先端側部材における拡径操作部44の外周面のテーパー角に比べて前記第2先端側部材における拡径操作部44の外周面のテーパー角を大きくすることにより、前記第1及び第2先端側部材の拡径操作部44の軸方向の寸法は同等にしながら前記第2先端側部材が実現する最終加工径を前記第1先端側部材が実現する最終加工径よりも大きくすることが可能である。また、前記第1先端側部材における前記ストッパ部48の突き当たり面47から最先端部までの軸方向の距離と前記第2先端側部材における当該距離とを異ならせることにより、前記底端64から前記拡径部66までの軸方向の距離を異ならせることが可能である。
【0056】
前記効果は、前記複数の部材の個数を増やすこと、つまり、前記第1及び第2先端側部
材に加えて第3、第4の先端側部材を具備すること、によりさらに顕著となる。
【0057】
次に、本発明の第2の実施の形態について図11図15を参照しながら説明する。
【0058】
図11は、前記第2の実施の形態に係る拡底工具TE2を示す。当該拡底工具TE2は、前記第1の実施の形態に係る前記拡底工具TE1と下記の点においてのみ相違し、その他は共通する。このように共通する構成要素については前記第1の実施の形態に係る参照符と同一の参照符が付され、その説明が省略される。
【0059】
前記第1の実施の形態では、拡径操作部材のストッパ部(前記ストッパ部48)が前記工具本体20における前記複数の撓み片24のそれぞれの先端と前記軸方向に突き当たることにより最終加工径を特定するのに対し、第2の実施の形態に係る拡底工具TE2では、装着部10及び工具本体20の中から選ばれるストッパ受け部材と前記拡径操作部材のストッパ部とが軸方向に突き当たることにより最終加工径が特定されるように構成されている。
【0060】
具体的に、第2の実施の形態に係る拡径操作部材は、前記第1の実施の形態と同様にばね受け部材30及び先端側部材40を含むが、これらに加えてストッパ軸52を含む。当該ストッパ軸52は、前記ばね受け部材30の後端(図11では上端)から圧縮ばね50の内側を通って装着部10のアダプタ14に至るまで後方(図11では上方)に延びる。具体的に、前記ストッパ軸52は、ねじ軸54を構成する前端部と、突き当たり面56を有する後端部と、を有する。前記ねじ軸54は、前記ばね受け部材30の後端に形成されたねじ孔にねじ込まれ、これにより、前記ストッパ軸52が前記ばね受け部材30と一体に前記軸方向に移動するように当該ばね受け部材30に連結される。前記突き当たり面56を含む前記後端部は、この第2の実施の形態に係るストッパ部を構成する。
【0061】
一方、この第2の実施の形態では、前記装着部10及び前記工具本体20の中から前記装着部10が前記ストッパ受け部材として選ばれ、当該ストッパ受け部材は、ストッパ受け本体と突き当たり部材とを含んで当該突き当たり部材が前記ストッパ部と突き当たる。より具体的に、前記装着部10は、前記第1の実施の形態に係る拡底工具TE1の装着部10と同様に被保持軸12及びアダプタ14を含むが、これらに加えて突き当たり部材70を含み、前記アダプタ14は、前記突き当たり部材70と連結される前記ストッパ受け本体を構成する。
【0062】
前記突き当たり部材70は、前記アダプタ14に内蔵され、前記ストッパ軸52の前記突き当たり面56と突き当たることにより、当該ストッパ軸52を含む前記拡径操作部材に対する前記装着部10及び工具本体20の前記軸方向前側への相対変位を規制する。具体的に、前記突き当たり部材70は、ねじ軸部72と、突き当たり部74と、を含み、これらが前記軸方向に一体につながっている。前記突き当たり部74は、前記ねじ軸部72の外径よりも大きな外径を有し、当該ねじ軸部72と反対の側に突き当たり面76を有する。前記突き当たり部74の外周面には、周方向に並ぶ複数の治具挿入孔75が形成されている。当該複数の治具挿入孔75のそれぞれには、前記突き当たり部材70を回転操作するための図示されない治具の先端が挿入されることが可能である。
【0063】
一方、前記アダプタ14は、前記第1の実施の形態のアダプタ14と同様に軸連結部17及び工具本体連結部18を含むのに加え、これらの間に位置する中空の収容部11を含む。前記収容部11は、前記突き当たり部材70が前記アダプタ14に対して前記軸方向に相対変位可能となるように当該突き当たり部材70を収容する。なお、前記ストッパ受け本体として前記工具本体20が選ばれた場合には、例えば、当該工具本体20の前記アダプタ連結部22が前記突き当たり部材70を収容する収容部を構成してもよい。
【0064】
前記収容部11は、ねじ孔11aと収容孔11bとを囲む筒状をなす。前記収容孔11bは、前記突き当たり部材70の前記突き当たり部74を収容するのに十分な可能な孔径を有するとともに、当該収容孔11b内で前記突き当たり部74が前記アダプタ14に対して前記軸方向に相対変位することを許容する軸方向寸法を有する。前記ねじ孔11aは、当該ねじ孔11aに対して前記突き当たり部材70の前記ねじ軸部72が前記軸方向の前側から後側に向かってねじ込まれる、つまり当該ねじ孔11aと当該ねじ軸部72とが互いに螺合される、ことを許容する。この螺合は、前記ねじ孔11aに対する前記ねじ軸部72の前記軸方向の相対変位を生じさせ、これにより、前記ねじ孔11aを含む前記アダプタ14に対する前記突き当たり部材70の相対回転によって当該アダプタ14(ストッパ受け本体)に対する前記突き当たり面76の前記軸方向の相対位置が調節されることを可能にする。
【0065】
前記収容部11の適所には径方向のねじ孔11cが形成され、当該ねじ孔11cに止めねじ78がねじ込まれる。当該止めねじ78は、前記ねじ軸部72の外周面に対して圧接可能な径方向内側端を有する。当該圧接により、前記拡底工具TE2の振動等による前記突き当たり部材70の前記アダプタ14に対する意図しない変位が抑制される。
【0066】
前記変位を抑制するための手段は、前記止めねじ78に限られない。例えば、前記止めねじ78に加え、あるいはこれに代えて、図16及び図17に示されるようなロックナット77が付加されてもよい。当該ロックナット77は、前記ねじ軸部72の適当な位置に螺合装着され、この状態で(前記ねじ軸部72を含む)前記突き当たり部材70の前記アダプタ14に対する相対回転によって前記収容部11における前記収容孔11bの後端面に押付けられることにより、前記突き当たり部材70の意図しない変位を抑制する。
【0067】
前記アダプタ14の前記工具本体連結部18には、ストッパ軸挿通孔18aが形成されている。当該ストッパ軸挿通孔18aは、前記工具本体連結部18の中心軸に沿って当該工具本体連結部18を前記軸方向に貫通して前記収容孔11bにつながり、これにより、前記ストッパ軸52が前記ストッパ軸挿通孔18aに挿通されて当該ストッパ軸52の前記突き当たり面56が前記突き当たり部74の前記突き当たり面76に前記軸方向に突き当たることを可能にする。
【0068】
前記アダプタ14の前記収容部11には、さらに、図13に示される窓11w及び複数の目盛り11sが形成されている。
【0069】
前記窓11wは、図12にも示されるように前記収容孔11bと前記収容部11の外部とを径方向に連通するように形成されている。当該窓11wは、前記収容孔11b内における前記突き当たり面76の前記収容部11に対する前記軸方向の相対位置が当該収容部11の外部から前記窓11wを通じて視認されることを可能にするとともに、前記収容部11の外部から前記窓11wを通じて前記収容孔11b内の前記突き当たり部74の任意の治具挿入孔75に図示されない前記治具が挿入されることを可能にする。前記周方向についての前記窓11wの両周縁には、径方向の外側に向かうに従って広がる向きのテーパー面11tがそれぞれ形成されている。当該テーパー面11tは、前記治具の回転操作可能範囲を広げるためのものであり、図12に示される例では前記アダプタ14の径方向に沿う向きに形成されている。
【0070】
前記複数の目盛り11sは、前記収容部11の外周面において前記窓11wの周縁の位置に設けられ、前記軸方向に等間隔で刻まれている。さらに、好ましくは、前記複数の目盛り11sの少なくとも一部に、当該目盛り11sの軸方向位置と前記突き当たり面76の軸方向位置とが合致したときに実現され得る最終加工径の表示が付与される。これは、
後述のように前記アダプタ14に対する前記突き当たり面76の軸方向相対位置と前記最終加工径との間に相関関係があることによる。図13に示される例では、前記複数の目盛り11sのうち前記軸方向について最も後側及び最も前側の目盛り11sに最小の最終加工径の表示11d及び最大の最終加工径の表示11eがそれぞれ付されている。
【0071】
この第2の実施の形態に係る拡底工具TE2によれば、前記ストッパ軸52の後端の突き当たり面56と前記突き当たり部材70の突き当たり面76との軸方向の突き当たりにより、前記第1の実施の形態に係る前記拡底工具TE1と同様に最終加工径を安定させることができる。具体的には、次の通りである。
【0072】
まず、前記止めねじ78を緩めた状態で前記窓11wを通じて図示されない治具により前記突き当たり部材70を回転操作することにより、当該突き当たり部材70の突き当たり面76の軸方向の位置を複数の目盛り11sのうち所望の最終加工径に対応する目盛り11sの位置に合わせる調整が行われる。その後、前記止めねじ78が締め方向に回転操作されてその先端が前記突き当たり部材70の前記ねじ軸部72に圧接することにより、前記突き当たり面76の位置が固定される。
【0073】
この状態で、前記第1の実施の形態に係る拡底工具TE1と同様、圧縮ばね50の弾発力により図11に示されるように拡径操作部材の先端側部材40が工具本体20の先端(複数の撓み片24のそれぞれの先端)から前方に突出した状態で図14または図15に示されるような既存の有底孔62内に前記拡底工具TE2が挿入されると、まず前記先端側部材40の工具先端部46が前記有底孔62の底端64に突き当たり、その後は前記圧縮ばね50の圧縮変形を伴いながら前記拡径操作部材に対して前記複数の撓み片24を含む工具本体20及び装着部10が前記軸方向の前側に相対変位する。当該相対変位に伴い、前記先端側部材40の拡径操作部44が前記複数の撓み片24の内側面に圧接しながら当該複数の撓み片24を拡径方向に弾性変位させ、これにより、当該複数の撓み片24のそれぞれの先端の拡径加工刃28による前記有底孔62内での加工径を拡大する。
【0074】
その後、前記拡径操作部材に含まれる前記ストッパ軸52の後端面である前記突き当たり面56が前記装着部10における前記突き当たり部材70の前記突き当たり面76に前記軸方向に突き当たった時点で、その位置を超えて前記拡径操作部材に対して前記装着部10及びこれに連結される前記工具本体20が前記軸方向の前側に相対変位することが規制され、このときの前記拡径加工刃28による加工径が最終加工径となる。この最終加工径は、前記アダプタ14に対して前記突き当たり面76が前記軸方向の前側に位置するほど、つまり、前記拡径操作部材に対する前記装着部10及び前記工具本体20の前記相対変位がより早い段階で規制されるほど、小さくなる。例えば、図14に示されるように前記突き当たり面76の軸方向位置が前記複数の目盛り11sのうち最も前側(図14では上側)の目盛りに一致しているときは、最終加工径は最小となり、逆に、図15に示されるように前記突き当たり面76の軸方向位置が前記複数の目盛り11sのうち最も後側(図14では下側)の目盛りに一致しているときは、最終加工径は最大となる。従って、前記作業者は、前記突き当たり面76の軸方向位置を事前に調節することによって、所望の最終加工径を得ることが可能である。
【0075】
この実施の形態では、前記最大の最終加工径を超えて前記複数の撓み片24が拡径操作されることを防ぐため、前記第1の実施の形態に係るストッパ部48(前記先端側部材40の外周面に形成されたストッパ部)が併用され、前記最終加工径に対応した相対位置で前記第1の実施の形態と同様に前記複数の撓み片24の先端が前記ストッパ部48の突き当たり面47に突き当たることによっても、それ以上の前記拡径操作部材に対する前記装着部10及び前記工具本体20の相対変位が規制される。
【0076】
ただし、本発明に係るストッパ部及びこれに突き当たるストッパ受け部の数及び具体的な位置は問わない。例えば、前記装着部10及び前記工具本体20の中から選ばれるストッパ受け部材に内向きに突出するストッパ受け突起が形成されてこれに拡径操作部材の後端またはそれよりも前側の部位が軸方向に突き当たることにより最終加工径が特定されてもよい。
【0077】
例えば、第1の変形例として図18に示されるように、前記ストッパ受け部材のストッパ受け本体80(例えば前記装着部10のアダプタ14または前記工具本体20のアダプタ連結部22)の周壁にこれを径方向に貫通する複数のねじ孔82が軸方向に配列され、当該複数のねじ孔82のうち所望の最終加工径に該当する軸方向に位置にあるねじ孔82に突き当たり部材であるボルト84が外側から螺合挿入されて当該ボルト84と拡径操作部材のストッパ部(図18ではストッパ軸52の後端の突き当たり面56)とが突き当たるように構成されてもよい。
【0078】
あるいは、第2の変形例として図19に示されるように、ストッパ受け本体80の周壁に軸方向の長孔86が形成され、拡径操作部材の適当な部位(図19の例ではストッパ軸52の後端)から径方向の外向きにストッパ部58が延びて前記長孔86を通じて前記ストッパ受け本体80の外側に突出し、当該ストッパ部58の先端部が前記ストッパ受け本体80に取付けられた突き当たり部材88と突き当たることにより最終加工径が特定されてもよい。詳しくは、前記ストッパ受け本体80の外周面に雄ねじが刻まれていてこれに螺合するように前記突き当たり部材88(いわゆるナット)が装着されるのがよい。このことは、前記突き当たり部材88が回転操作を受けて前記ストッパ受け本体80に対して軸方向に相対変位することにより、当該突き当たり部材88と前記ストッパ部58とが軸方向に突き当たる位置が調節されることを可能にし、これにより所望の最終加工径が選定されることを可能にする。当該最終加工径の変更が不要な場合には、前記ストッパ部58が前記長孔86の終端(図19では上端)と突き当たることにより前記最終加工径の特定が行われてもよい。
【0079】
また、本発明において、複数の撓み片の先端部分、つまり拡底加工に直接寄与する部分、の具体的構造は限定されない。好ましくは、図20及び図21に示されるように、複数の撓み片(同図の例では一対の撓み片)24のそれぞれの先端に第1拡径加工刃28A及び第2拡径加工刃28Bが与えられるのがよい。前記第1拡径加工刃28Aは、図20及び図21に矢印ARで示される工具回転方向(これらの図では反時計回り方向)について前記第2拡径加工刃28Bに先行する位置に設けられ、前記第2拡径加工刃28Bは、少なくとも前記複数の撓み片24が径方向外側に変位するときに前記第2拡径加工刃28Bの加工径よりも大きな加工径を有するように構成されている。
【0080】
具体的に、図20及び図21に示される前記第1及び第2拡径加工刃28A,28Bは互いに同一の形状を有しており、図20に示されるように前記複数の撓み片24が径方向外側に変位する(拡径する)前の状態では互いに同一の加工径Dcを有するが、図21に示されるように前記複数の撓み片24が径方向外側に変位するのに伴って前記第2拡径加工刃28Bの加工径Dbが前記第1拡径加工刃28Aの加工径Daよりも大きくなるように、つまり前記複数の撓み片24の径方向外側の変位に伴う第2拡径加工刃28Bの加工径の増大が第1拡径加工刃28Aの加工径の増大よりも大きくなるように、前記第1及び第2拡径加工刃28A,28Bの位置が設定されている。より具体的に、図20及び図21に示される例では、前記第2拡径加工刃28Bは、前記複数の撓み片24のそれぞれにおいて径方向の変位が最も大きくなる位置、つまり周方向中央の位置、に設けられ、前記第1拡径加工刃28Aは前記第2拡径加工刃28Bの位置から前記工具回転方向の先行側に外れた位置に設けられている。
【0081】
前記第1拡径加工刃28Aは、前記複数の撓み片24が径方向外側に変位する拡底加工時に前記第2拡径加工刃28Bに先行して当該第2拡径加工刃28Bよりも小さい加工径で被加工物を加工することにより、前記複数の撓み片24の拡径に伴う加工径の急増を緩和し、これにより、当該加工径の急増に起因する振動等の発生を抑えてより円滑な拡底加工が実現されることを可能にする。すなわち、前記第1拡径加工刃28A及びこれに後続する第2拡径加工刃28Bはそれぞれ粗加工用刃及び仕上げ加工用刃として機能する。
【0082】
前記第1及び第2拡径加工刃28A,28Bは、必ずしも同一の形状を有していなくてもよく、例えば、前記第2拡径加工刃28Bは図20に示されるように前記複数の撓み片24が径方向外側に変位する前の段階から前記第1拡径加工刃28Aの加工径よりも大きな加工径を有する形状のものであってもよい。ただし、この場合でも、前記第1拡径加工刃28Aの加工径に対して前記第2拡径加工刃28Bの加工径が相対的に過大となって前記第1拡径加工刃28Aによる加工が実質上不能とならないように、両者の加工径の差が小さく抑えられることが好ましい。
【0083】
一方、図20及び図21に示される例のように、前記第1及び第2拡径加工刃28A,28Bの径方向外側への変位の増大分の差を利用して前者の加工径よりも後者の加工径を大きくすることは、例えば、同例に示されるように前記第1及び第2拡径加工刃28A,28Bの形状を互いに同一にすることを可能にし、これにより、拡底工具全体の製作を容易にしてコストを削減することを可能にする。
【0084】
図22図25は、本発明の第3の実施の形態に係る拡底工具TE3を示す。この拡底工具TE3は、拡径加工刃28による加工径が最終加工径に達したことを作業者がより容易に把握することができるように構成されたものである。
【0085】
具体的に、前記拡底工具TE3は、前記第2の実施の形態に係る前記拡底工具TE2と同様に拡径操作部材を備えるが、当該拡径操作部材は、第2の実施の形態に係る前記ストッパ軸52に代えて内側軸152、外側リング156及び連結ピン158を含む。
【0086】
前記内側軸152は、前記ストッパ軸52と同様、ばね受け部材30の後端(図23及び図25では上端)から圧縮ばね50の内側を通って装着部10のアダプタ14に至るまで後方(同図上方)に延びる。具体的に、前記内側軸152は、ねじ軸154を構成する前端部と、その反対側の後端部と、を有し、前記ねじ軸154が前記ばね受け部材30の後端に形成されたねじ孔にねじ込まれることにより、前記内側軸152が前記ばね受け部材30と一体に前記軸方向に移動するように当該ばね受け部材30に連結される。これにより、前記ばね受け部材30及び前記内側軸152は、拡径操作部44から複数の撓み片24の径方向内側を通って前記アダプタ14の前記径方向の内側まで延びる内側部材を構成し、当該内側部材は前記拡径操作部44と一体に前記軸方向に動くことが可能である。
【0087】
前記外側リング156は、前記装着部10の径方向外側に配置される外側部材を構成する。具体的に、前記外側リング156は、前記アダプタ14の外周面14aに沿って前記軸方向に摺動可能となるように当該外周面14aに外嵌される。
【0088】
前記連結ピン158は、前記内側軸152と前記外側リング156とが前記軸方向に一体に動くように当該内側軸152と当該外側リング156とを前記径方向に相互に連結する。具体的に、前記連結ピン158は、前記径方向に延びるように配置され、その一方の端部である内側端部が前記内側軸152の適当な部位、図例では前記後端部に近い部位、に固定され、他方の端部である外側端部が前記外側リング156の適当な部位、図例では前端部に近い部位、に固定されている。
【0089】
一方、前記アダプタ14は、ピン挿通孔148を有する。前記ピン挿通孔148は、前記連結ピン158の前記径方向の挿通を許容するように当該アダプタ14を前記径方向に貫通する。さらに、前記ピン挿通孔148は、前記アダプタ14を含む前記装着部10に対する前記連結ピン158の前記軸方向の相対変位を許容するように当該軸方向に延びる形状を有する。すなわち、前記ピン挿通孔148は前記連結ピン158の直径よりもわずかに大きな幅をもつ前記軸方向の長孔である。
【0090】
この拡底工具TE3では、前記拡径操作部44と一体に前記外側リング156が前記アダプタ14の外周面14aに対して前記軸方向に相対変位するため、作業者は、前記外周面14aに対する前記外側リング156の前記軸方向についての相対位置に基づいて拡径加工の進行度合いを容易に把握することが可能である。特に、図22図25に示される例では、前記外周面14aに周溝が形成されるなどして当該外周面14aに目印線147が設けられ、図24及び図25に示されるように前記拡径加工刃28の加工径が最終加工径まで拡大された状態、すなわち前記内側軸152、前記外側リング156及び前記連結ピン158が最も後方(同図では上方)に位置した状態、において前記外側リング156の後端(同図では上端)と合致する位置に前記目印線147の位置が設定されているため、作業者は前記外側リング156の前記後端と前記目印線147との合致を目視で確認することにより、作業中でも前記加工径が前記最終加工径まで拡大されたことを容易に把握することができる。
【0091】
なお、前記拡底工具TE3におけるストッパ部は第1の実施の形態に係る前記拡底工具TE1と同様に前記拡径操作部44と前記工具先端部46との間に与えられているが、前記連結ピン158を前記ストッパ部として機能させることも可能である。具体的には、前記ピン挿通孔148の後端149において前記連結ピン158が前記アダプタ14と前記軸方向に突き当たることによりその突き当たった位置を超えて前記工具本体20と前記拡径操作部材とが前記軸方向に相対変位することを阻止するように構成される、つまり前記アダプタ14が前記ストッパ受け部材として構成される、ことも可能である。
【符号の説明】
【0092】
TE1,TE2,TE3 拡底工具
10 装着部
20 工具本体
24 撓み片
28 拡径加工刃
28A 第1拡径加工刃
28B 第2拡径加工刃
30 ばね受け部材
40 先端側部材
44 拡径操作部
46 工具先端部
48 ストッパ部
50 圧縮ばね
52 ストッパ軸
56 突き当たり面
60 被加工物
62 有底孔
64 底端
66 拡径部
70 突き当たり部材
76 突き当たり面
80 ストッパ受け本体
84 ボルト(突き当たり部材)
88 突き当たり部材
148 ピン挿通孔
152 内側軸(内側部材)
156 外側リング(外側部材)
158 連結ピン
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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