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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023115128
(43)【公開日】2023-08-18
(54)【発明の名称】血管塞栓システム
(51)【国際特許分類】
   A61L 31/14 20060101AFI20230810BHJP
   A61L 31/18 20060101ALI20230810BHJP
   A61L 31/12 20060101ALI20230810BHJP
   A61L 31/06 20060101ALI20230810BHJP
   A61K 49/04 20060101ALI20230810BHJP
   C07K 7/08 20060101ALN20230810BHJP
【FI】
A61L31/14 300
A61L31/18
A61L31/12
A61L31/06
A61K49/04
A61K49/04 210
C07K7/08 ZNA
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023103314
(22)【出願日】2023-06-23
(62)【分割の表示】P 2021114234の分割
【原出願日】2013-11-14
(31)【優先権主張番号】61/726,250
(32)【優先日】2012-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】505043041
【氏名又は名称】株式会社スリー・ディー・マトリックス
(74)【代理人】
【識別番号】100107489
【弁理士】
【氏名又は名称】大塩 竹志
(72)【発明者】
【氏名】小林 智
(72)【発明者】
【氏名】高村 健太郎
(57)【要約】
【課題】血管塞栓システムの提供。
【解決手段】生物学的脈管を遮断するためのシステムおよび方法が提供される。上記システムおよび方法は、上記脈管に両親媒性ペプチドを導入する工程を包含し得る。上記ペプチドは、疎水性アミノ酸と親水性アミノ酸とが交互になり得る少なくとも13個のアミノ酸を含み得る。上記ペプチドは、カチオンの存在下で、水性溶液中で自然にβシートを形成し得る。一つの実施形態において、上記方法は、生物学的脈管にカテーテルを導入する工程および上記カテーテルの末端を、少なくとも部分的閉塞が所望される生物学的脈管の標的領域に配置する工程を包含する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
図面に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(配列表)
本願は、ASCII形式で電子的に提出された配列表を含み、この配列表は、その全体が本明細書中に援用される。上記ASCIIの写しは、2013年11月14日に作製され、T2071-7000WO_SL.txtという名前であり、サイズが23,527バイトである。
【背景技術】
【0002】
(開示の分野)
本開示は、医療、研究、および産業用途において使用され得る肉眼で見える膜(macroscopic membrane)に関する。より具体的には、本開示は、血管塞栓システムおよび塞栓形成手順において使用され得る膜、ヒドロゲル、組成物および溶液に関する。血管塞栓システムは、脈管、静脈、門脈、動脈、および、血液および他の流体(例えば、リンパ液)を輸送し得る管を含む生物学的経路もしくはチャネルを少なくとも部分的に遮断するアプローチを提供し得る。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
(要旨)
被験体における生物学的脈管を遮断するための方法が提供される。上記方法は、生物学的脈管にカテーテルを導入する工程および上記カテーテルの末端を、少なくとも部分的閉塞が所望される生物学的脈管の標的領域に配置する工程を包含する。上記方法は、上記カテーテルを介して、生理学的条件下でヒドロゲルを形成して上記生物学的脈管の少なくとも部分的遮断を可能にするために有効な量で、および有効な濃度で、疎水性アミノ酸と親水性アミノ酸とが交互になっている少なくとも12個のアミノ酸を含む両親媒性ペプチドを含む溶液を投与する工程をさらに包含する。上記方法は、上記カテーテルを、少なくとも部分的閉塞を適所に有する上記生物学的脈管から取り除く工程をさらに包含する。
【0004】
被験体において生物学的脈管を遮断するためのキットが提供される。上記キットは、生理学的条件下でヒドロゲルを形成して上記生物学的脈管の少なくとも部分的遮断を可能にするために有効な量で、および有効な濃度で、疎水性アミノ酸と親水性アミノ酸とが交互になっている少なくとも12個のアミノ酸を含む両親媒性ペプチドを含む溶液を含む。上記キットは、上記被験体における生物学的脈管に上記溶液を投与するための指示をさらに含む。
【0005】
被験体において生物学的脈管を遮断するのを促進するための方法が提供される。上記方法は、生理学的条件下でヒドロゲルを形成して上記生物学的脈管の少なくとも部分的遮断を可能にするために有効な量で、および有効な濃度で、疎水性アミノ酸と親水性アミノ酸とが交互になっている少なくとも12個のアミノ酸を含む両親媒性ペプチドを含む溶液を提供する工程を包含する。上記方法は、上記溶液を上記生物学的脈管に配置されたカテーテルに導入することによって、上記生物学的脈管の標的領域に上記溶液を投与するための指示を提供する工程をさらに包含する。
本発明の実施形態において、例えば以下の項目が提供される。
(項目1)
被験体において生物学的脈管を遮断するための方法であって、該方法は、
カテーテルを生物学的脈管に導入する工程;
該カテーテルの末端を、少なくとも部分的閉塞が所望される該生物学的脈管の標的領域に配置する工程;
該カテーテルを介して、生理学的条件下でヒドロゲルを形成して、該生物学的脈管の少なくとも部分的遮断を可能にするために有効な量で、および有効な濃度で、疎水性アミノ酸と親水性アミノ酸とが交互になっている少なくとも12個のアミノ酸を含む両親媒性ペプチドを含む溶液を投与する工程;
該カテーテルを、該少なくとも部分的閉塞を適所に有する該生物学的脈管から取り除く工程;
を包含する、方法。
(項目2)
前記ペプチド溶液は、造影剤を含む、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記生物学的脈管の少なくとも一部を含む局部を可視化する工程をさらに包含する、項目2に記載の方法。
(項目4)
前記生物学的脈管の少なくとも一部を含む前記局部を可視化する工程は、以下:
該生物学的脈管の前記標的領域を同定する工程;
該カテーテルを導入する工程;
該カテーテルの前記末端を該標的領域に配置する工程;
前記溶液を投与する工程;
該カテーテルを取り除く工程;および
該カテーテルを取り除いた後に、該生物学的脈管を可視化する工程
のうちの少なくとも1つの間に該局部を可視化する工程を包含する、項目3に記載の方法。
(項目5)
前記局部を可視化する工程は、X線撮影法を使用して画像化する工程を包含する、項目4に記載の方法。
(項目6)
前記局部を可視化する工程は、前記生物学的脈管への前記溶液の選択的投与を提供する、項目3に記載の方法。
(項目7)
前記投与の約2週間後の期間に前記局部を可視化する工程をさらに包含する、項目3に記載の方法。
(項目8)
前記有効な量および前記有効な濃度のうちの少なくとも一方は、前記生物学的脈管の標的領域の直径に一部基づく、項目1に記載の方法。
(項目9)
前記有効な量および前記有効な濃度のうちの少なくとも一方は、前記生物学的脈管中の血液の流速に一部基づく、項目1に記載の方法。
(項目10)
前記有効な量および前記有効な濃度のうちの少なくとも一方は、前記被験体の赤血球の平均直径より小さな平均孔サイズを有する前記ヒドロゲルのナノ線維を提供する工程に一部基づく、項目1に記載の方法。
(項目11)
前記生物学的脈管の少なくとも部分的遮断を可能にするために有効な前記濃度は、約0.1重量/体積(w/v)%~約3w/v% ペプチドの範囲の濃度を含む、項目1に記載の方法。
(項目12)
前記生物学的脈管の少なくとも部分的遮断を可能にするために有効な前記量は、約0.1mL~約5mLの範囲の体積を含む、項目1に記載の方法。
(項目13)
前記少なくとも部分的遮断の周りの前記領域をモニターして、前記少なくとも部分的閉塞の有効性を決定する工程をさらに包含する、項目1に記載の方法。
(項目14)
形成される前記遮断は、生物学的脈管における障害、奇形、もしくは先天的病気の処置において使用される、項目1に記載の方法。
(項目15)
形成される前記遮断は、動脈管開存症(PDA)および主要大動脈肺動脈側副動脈(MAPCA)のうちの一方の処置において使用される、項目14に記載の方法。
(項目16)
形成される前記遮断は、再発性の喀血、動静脈奇形、脳動脈瘤、消化管出血、鼻出血、分娩後出血、術中出血、および子宮類線維腫からなる群より選択される障害、奇形、もしくは先天的病気の処置において使用される、項目14に記載の方法。
(項目17)
形成される前記遮断は、がん細胞の低減において使用される、項目1に記載の方法。
(項目18)
前記ペプチド溶液は、細胞を実質的に含まない、項目1に記載の方法。
(項目19)
前記ペプチド溶液は、薬物を実質的に含まない、項目1に記載の方法。
(項目20)
前記被験体は、哺乳動物である、項目1に記載の方法。
(項目21)
前記被験体は、ヒトである、項目20に記載の方法。
(項目22)
前記溶液を投与する工程は、該溶液を単一用量で投与する工程を包含する、項目1に記載の方法。
(項目23)
前記溶液を投与する工程は、該溶液を少なくとも2用量で投与する工程を包含する、項目1に記載の方法。
(項目24)
前記ペプチドは、RADARADARADARADA(配列番号7)、IEIKIEIKIEIKI(配列番号8)、およびIEIKIEIKIEIKIEIKI(配列番号9)のうちの1つのアミノ酸配列を有する、項目1に記載の方法。
(項目25)
前記被験体を評価して、生物学的脈管を遮断する工程および前記ペプチド溶液を調製する工程についての必要性を決定する工程をさらに包含する、項目1に記載の方法。
(項目26)
前記ペプチド溶液を調製する工程は、造影剤を、ペプチドを含む予備溶液に添加する工程を包含する、項目25に記載の方法。
(項目27)
前記溶液は、前記生物学的脈管の完全な遮断を可能にするために投与される、項目1に記載の方法。
(項目28)
前記カテーテルを導入する前に、前記生物学的脈管にガイドワイヤを導入する工程をさらに包含する、項目1に記載の方法。
(項目29)
被験体において生物学的脈管を遮断するためのキットであって、該キットは、
生理学的条件下でヒドロゲルを形成して、該生物学的脈管の少なくとも部分的遮断を可能にするために有効な量で、および有効な濃度で、疎水性アミノ酸と親水性アミノ酸とが交互になっている少なくとも12個のアミノ酸を含む両親媒性ペプチドを含む溶液;ならびに
該被験体における該生物学的脈管への該溶液の投与のための指示、
を含む、キット。
(項目30)
前記溶液を前記被験体の前記生物学的脈管へと導入するためのカテーテルをさらに含む、項目29に記載のキット。
(項目31)
前記溶液を投与する工程を可視化するために適した量で造影剤を該溶液に添加するための指示をさらに含む、項目29に記載のキット。
(項目32)
造影剤およびスクロース溶液のうちの少なくとも一方をさらに含む、項目31に記載のキット。
(項目33)
前記溶液の有効な濃度を前記被験体において前記生物学的脈管に投与するために、該溶液を希釈するための指示をさらに含む、項目29に記載のキット。
(項目34)
標的領域にある前記生物学的脈管の直径に基づいて、前記被験体における該生物学的脈管への前記溶液の前記有効な濃度を決定するための指示をさらに含む、項目33に記載のキット。
(項目35)
被験体において生物学的脈管を遮断するのを促進するための方法であって、該方法は、
生理学的条件下でヒドロゲルを形成して、該生物学的脈管の少なくとも部分的遮断を可能にするために有効な量で、および有効な濃度で、疎水性アミノ酸と親水性アミノ酸とが交互になっている少なくとも12個のアミノ酸を含む両親媒性ペプチドを含む溶液を提供する工程;および
該生物学的脈管に配置されたカテーテルへの該溶液の導入を介して、該溶液を該生物学的脈管の標的領域に投与するための指示を提供する工程、
を包含する、方法。
(項目36)
造影剤を前記溶液に添加するための指示を提供する工程をさらに包含する、項目35に記載の方法。
(項目37)
前記生物学的脈管の少なくとも一部を含む局部を可視化するための指示を提供する工程をさらに包含する、項目36に記載の方法。
(項目38)
前記生物学的脈管の少なくとも一部を含む局部を可視化するための指示を提供する工程は、以下:
該生物学的脈管の標的領域を同定する工程;
カテーテルを導入する工程;
該標的領域に該カテーテルの末端を配置する工程;
前記溶液を投与する工程;
該カテーテルを、前記少なくとも部分的遮断を適所に有する該生物学的脈管から取り除く工程;および
該カテーテルを取り除いた後に、該生物学的脈管を可視化する工程、
のうちの少なくとも1つの間に該局部を可視化するための指示を提供する工程を包含する、項目37に記載の方法。
(項目39)
前記局部を可視化するための指示を提供する工程は、X線撮影法を使用して画像化する工程を包含する、項目38に記載の方法。
(項目40)
前記投与の約2週間後の期間に、前記局部を可視化するための指示を提供する工程をさら
に包含する、項目37に記載の方法。
(項目41)
前記有効な量および前記有効な濃度のうちの少なくとも一方を、前記生物学的脈管の前記標的領域の直径に一部基づいて調製するための指示を提供する工程を包含する、項目35に記載の方法。
(項目42)
前記有効な量および前記有効な濃度のうちの少なくとも一方は、前記生物学的脈管中の血液の流速に一部基づく、項目35に記載の方法。
(項目43)
前記有効な量および前記有効な濃度のうちの少なくとも一方は、前記被験体の赤血球の平均直径より小さい平均孔サイズを有するヒドロゲルを提供することに一部基づく、項目35に記載の方法。
(項目44)
前記生物学的脈管の少なくとも部分的遮断を可能にするために有効な前記濃度は、約0.1重量%~約3重量% ペプチドの範囲の濃度を含む、項目35に記載の方法。
(項目45)
前記生物学的脈管の少なくとも部分的遮断を可能にするために有効な前記量は、約0.1mL~約5mLの範囲の体積を含む、項目35に記載の方法。
(項目46)
前記少なくとも部分的遮断の周りの前記局部をモニターして、細胞壊死を決定するための指示を提供する工程をさらに包含する、項目35に記載の方法。
(項目47)
形成される前記遮断は、生物学的脈管における障害、奇形、もしくは先天的病気の処置において使用される、項目35に記載の方法。
(項目48)
形成される前記遮断は、がん細胞の低減において使用される、項目35に記載の方法。
(項目49)
前記ペプチド溶液は、細胞を実質的に含まない、項目35に記載の方法。
(項目50)
前記ペプチド溶液は、薬物を実質的に含まない、項目35に記載の方法。
(項目51)
前記被験体は、哺乳動物である、項目35に記載の方法。
(項目52)
前記被験体は、ヒトである、項目51に記載の方法。
(項目53)
前記ペプチドは、RADARADARADARADA(配列番号7)、IEIKIEIKIEIKI(配列番号8)、およびIEIKIEIKIEIKIEIKI(配列番号9)のうちの1つのアミノ酸配列を有する、項目35に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0006】
添付の図面は、縮尺に合わせて描くことを意図していない。明瞭にする目的で、全ての構成要素が表示されなくてもよい。
図1図1は、本開示のペプチド溶液を使用した、門脈塞栓の断面の画像である。
図2図2は、正常な肝動脈の造影像である。
図3図3は、本開示の物質の注射の造影像である。
図4図4は、本開示の物質を注射した後の肝動脈の造影像である。
図5図5は、本開示の物質を注射して2週間後の肝動脈の造影像である。
図6A図6Aは、肝動脈に位置するペプチドヒドロゲルの病理組織像である。
図6B図6Bは、肝動脈に位置するペプチドヒドロゲルの病理組織像である。
図6C図6Cは、肝動脈に位置するペプチドヒドロゲルの病理組織像である。
図7図7は、ペプチドヒドロゲル塞栓位置の肝細胞壊死像である。
図8図8は、塞栓形成前の動脈の像である。
図9図9は、塞栓形成後の動脈の像である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
(詳細な説明)
塞栓形成は、1つ以上の生物学的経路もしくはチャネルにおいて遮断、滞留(lodging)、閉塞、もしくは塞栓を作る手順である。上記生物学的経路もしくはチャネルは、脈管、静脈、門脈、動脈、および、血液および他の流体(例えば、リンパ液)を輸送し得る管を含み得る。塞栓形成は、被験体の身体(ヒトの身体が挙げられる)の種々の器官に影響を及ぼす種々様々な状態を処置するために使用される。1つ以上の上記脈管は、所望の標的への血液循環を意図的に防止するもしくは低減するために標的化され得る。上記塞栓形成手順は、腫瘍もしくは他の病理過程からそれらの血液供給を取り除く(灌流)ために、このような遮断、滞留もしくは閉塞を意図的に作るために使用され得る。塞栓形成は、生物学的脈管における障害、奇形、もしくは先天的病気を処置するために使用され得る。例えば、塞栓形成は、動脈管開存症(PDA)を処置するために使用され得る。上記塞栓形成処置は、主要大動脈肺動脈側副動脈(MAPCA)、再発性の喀血(recurrent hemotysis)、動静脈奇形、脳動脈瘤、消化管出血、鼻出血、分娩後出血、術中出血、および子宮類線維腫を処置するために使用され得る。
【0008】
塞栓形成は、いくつかの異なる技術によって達成され得る。塞栓形成は、ある物質、例えば、液体を、所望のもしくは所定の位置(例えば、標的領域)へ投与することによって達成され得る。投与は、ある物質(例えば、液体)を、所望のもしくは所定の位置(例えば、標的領域)に適用または注射することを含み得る。
【0009】
塞栓形成は、動脈瘤が破裂しないようにするために、該動脈瘤を形成する脈管の全てもしくは一部を閉鎖または遮断するために使用され得る。塞栓形成はまた、手術されている最中の、例えば、脳動静脈奇形(AVM)の手術中の被験体の部位の周りの特定の血管の全てもしくは一部を閉鎖または遮断するために使用され得る。
【0010】
塞栓物質(obstructing material)は、生物学的脈管において遮断もしくは閉塞を作り出して、塞栓形成を達成するために使用され得る。塞栓物質としては、金属コイル、コラーゲン、シアノアクリレート、および他の物質を挙げることができる。上記物質は、所望の手術部位にカテーテルを使用して、挿入もしくは配置され得る。バルーンはまた、標的脈管に埋め込まれ得、食塩水で満たされ得る。
【0011】
金属コイルは、インビボで永久的に留まり得るが、これらのコイルを長期間適用することの安全性は未知である。上記金属コイルはまた、磁性デバイスとの不適合性を生じ得る。コラーゲンは、生物学的不適合性を有し得、シアノアクリレートは、インビボでは毒性となり得る。
【0012】
具体的な液体塞栓形成薬剤としては、オニックス(onyx)、n-ブチル-2-シアノアクリレート(nbca)およびエチオドール(ヨウ素、ケシ油から作られる)が挙げられ得る。硬化剤(schlerosing agent)(これは血管の内皮層を硬くする)もまた、使用され得る。このような薬剤の例としては、エタノール、オレイン酸エタノールアミン、およびソトラデコールが挙げられる。粒状の塞栓形成薬剤としては、ポリビニルアルコールおよびアクリルゼラチンミクロスフェア(acrylic gelatin microsphere)が挙げられる。
【0013】
本開示は、生物学的脈管に塞栓形成するか、もしくはそれを遮断するための方法、生物学的脈管を遮断するのを促進するための方法、および生物学的脈管を遮断することに使用するためのキットを提供する。生物学的脈管としては、血管およびリンパ管が挙げられ得る。血管としては、動脈、静脈、門脈および毛細管が挙げられ得る。脈管の(vascular)という用語は、生物学的脈管(動脈、静脈、門脈、毛細管、および管が挙げられる)を指し得る。
【0014】
上記方法は、被験体において生物学的脈管を遮断するかもしくは閉塞する工程、または被験体において生物学的脈管を遮断するかもしくは閉塞するのを促進するための方法を包含し得る。本明細書で使用される場合、用語「被験体」とは、ヒトおよび非ヒト動物(例えば、脊椎動物、大動物、および霊長類)を含むことが意図される。ある種の実施形態において、上記被験体は、哺乳動物被験体であり、および特定の実施形態において、上記被験体は、ヒト被験体である。ヒトでの適用が明らかに予見されているものの、脊椎動物での適用(例えば、非ヒト動物での適用)はまた、本明細書で想定される。本発明の用語「非ヒト動物」としては、全ての脊椎動物、例えば、非哺乳動物(例えば、鳥類、例えば、ニワトリ;両生類;爬虫類)および哺乳動物(例えば、非ヒト霊長類、家畜化された動物、および農業上有用な動物、例えば、とりわけ、ヒツジ、イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、ラット)が挙げられる。
【0015】
塞栓、遮断もしくは閉塞は、部分的であってもよいし、完全であってもよい。完全とは、上記塞栓、遮断もしくは閉塞が、塞栓、遮断もしくは閉塞の後に、実質的に全ての血流を妨げることを意味する。上記システムおよび方法は、所定のもしくは所望の標的領域への自己集合ペプチド、もしくは自己集合ペプチドを含む溶液の投与、適用、もしくは注射を包含し得る。上記自己集合ペプチドは、自己集合ペプチド溶液、ヒドロゲル、膜もしくは他の形態で、生物学的脈管に適用もしくは導入され得る。
【0016】
上記自己集合ペプチド溶液は、水性の自己集合ペプチド溶液であり得る。上記自己集合ペプチド(「ペプチド」もしくは「両親媒性ペプチド」とも本明細書でいわれる)は、細胞を実質的に含まない溶液で投与、適用、もしくは注射され得る。ある種の実施形態において、上記自己集合ペプチドは、細胞を含まない溶液で投与、適用、もしくは注射され得る。
【0017】
上記自己集合ペプチドはまた、薬物を実質的に含まない溶液で投与、適用、もしくは注射され得る。ある種の実施形態において、上記自己集合ペプチドは、薬物を含まない溶液で投与、適用、もしくは注射され得る。ある種の他の実施形態において、上記自己集合ペプチドは、細胞を実質的に含まずかつ薬物を実質的に含まない溶液で投与、適用、もしくは注射され得る。さらになおある種の他の実施形態において、上記自己集合ペプチドは、細胞を含まずかつ薬物を含まない溶液で投与、適用、もしくは注射され得る。
【0018】
溶液の投与は、疎水性アミノ酸と親水性アミノ酸とが交互になっている少なくとも12個のアミノ酸を含むか、これらからなるか、もしくはこれらから本質的になる両親媒性ペプチドを含むか、これからなるか、もしくはこれから本質的になる溶液の投与を含み得るか、その投与からなり得るかもしくはこの投与から本質的になり得る。
【0019】
上記システムおよび方法は、自己集合ペプチドを、所定のもしくは所望の標的にヒドロゲルとして投与する工程を包含し得る。ヒドロゲルは、水中で分散されるコロイド性ゲルに言及し得る用語である。上記システムおよび方法はまた、自己集合ペプチドを所定のもしくは所望の標的に溶液(例えば、水性ペプチド溶液)として適用する工程を包含し得る。
【0020】
用語「投与する」を使用する場合、それは、上記自己集合ペプチドを、1つ以上の種々の形態(単独で、溶液(例えば、水性溶液)によって、またはヒドロゲルによって、が挙げられるが、これらに限定されない)で、さらなる構成要素ありもしくはなしで適用する、導入するもしくは注射することを包含するが、これらに限定されないことが意図される。
【0021】
被験体において生物学的脈管を遮断するための方法は、シリンジ、ピペット、カテーテル、もしくは他のニードルベースのデバイスを、上記生物学的脈管へと導入する工程を包含し得る。上記自己集合ペプチドは、シリンジ、ピペット、カテーテル、もしくは他のニードルベースのデバイスによって、上記生物学的脈管へと投与され得る。上記シリンジ用ニードルのゲージは、上記シリンジから上記標的領域へと液体の適切な流れを提供するように選択され得る。これは、いくつかの実施形態において、投与される自己集合ペプチドもしくはペプチド溶液の量、上記ペプチドの溶液中の濃度、および上記ペプチド溶液の粘度のうちの少なくとも1つに基づき得る。
【0022】
上記被験体において上記生物学的脈管を遮断するための方法は、カテーテルを上記生物学的脈管へと導入する工程、および上記カテーテルの末端を、少なくとも部分的な閉塞が所望される上記生物学的脈管の標的領域に配置する工程を包含し得る。上記自己集合ペプチドは、少なくとも部分的閉塞が所望される生物学的脈管の標的領域にカテーテルによって投与され得る。カテーテルの使用は、上記ペプチドのより選択的な投与を提供して、上記標的領域へのより正確な送達を提供し得る。上記ペプチドの選択的投与は、上記生物学的脈管の遮断が成功し、正確な様式で所望の位置に配置されるように、上記ペプチド溶液の増強された、かつ、より標的化された送達を可能にし得る。上記選択的投与は、上記生物学的脈管における遮断の配置および有効性を、シリンジもしくは他の手段の使用を通して顕著に改善する、増強され、標的化された送達を提供し得る。
【0023】
カテーテルの使用は、付随のデバイス(例えば、その位置へとカテーテルを導くために使用されるガイドワイヤ)の使用を含み得る。ガイドワイヤは、上記カテーテルを導入する前に、上記生物学的脈管へと導入され得る。上記ペプチド溶液の投与がいったん完了すると、あるいは少なくとも部分的閉塞もしくは遮断が一旦適所に存在すると、上記カテーテルは、上記生物学的脈管から取り除かれ得る。
【0024】
シリンジ、ニードル、ピペット、他のニードルベースのデバイス、またはカテーテルの使用には、標的化される生物学的脈管の直径を決定することを必要とし得、それにより、上記シリンジ、ニードル、ピペット、他のニードルタイプのデバイス、もしくはカテーテルの少なくとも一部が上記生物学的脈管に入って上記ペプチド、ペプチド溶液、もしくはヒドロゲルを上記標的領域に投与し得る。
【0025】
ある種の実施形態において、上記ヒドロゲルは、インビトロで形成され得、インビボで所望の位置に投与され得る。ある種の例において、この位置は、塞栓を作り出すことが所望される領域であり得る。他の例において、この位置は、塞栓を形成することが所望される領域の上流もしくは下流であり得る。この場合、塞栓を形成することが所望される領域への上記ヒドロゲルの独力での移動(movement)もしくは移動(migration)を可能にすることが、所望され得る。あるいは、別の手順が、上記ヒドロゲルを、塞栓を形成することが所望される領域に配置し得る。所望の位置もしくは標的領域は、生物学的脈管の一部であり得る。所望の位置もしくは標的領域は、生物学的脈管内の一部であり得る。
【0026】
本開示のある種の局面において、上記ヒドロゲルは、インビボで形成され得る。上記自己集合ペプチドを含む溶液(例えば、水性溶液)は、被験体のインビボでの位置もしくは領域に挿入されて、塞栓がその位置で作り出されることを可能にし得る。ある種の例において、上記ヒドロゲルは、インビボの1つの位置で形成され得、塞栓を形成することが所望される領域へと該ヒドロゲルが独力で移動するようにされ得る。あるいは、別の手順は、上記ヒドロゲルを、塞栓を形成することが所望される領域に配置し得る。本開示のペプチドは、粉末、溶液、ゲルなどの形態であってよい。上記自己集合ペプチドは溶液pHおよび塩濃度の変化に応じてゲル化するので、それは、適用もしくは投与の間に被験体と接触したときにゲル化する液体として流通することができる。
【0027】
本開示の特定の自己集合ペプチドは、生物学的脈管の塞栓形成に使用され得る他の薬剤より改善された組織への接着を提供し得る。改善された接着は、上記ペプチドの組成(例えば、上記ペプチドの特定のアミノ酸)、いったん自己集合した該ペプチドの構造に起因し得るか、または自己集合プロセス自体に起因し得る。ある種の実施形態において、それは、過剰な体液(例えば、血液もしくは胆汁)を、閉塞のためにヒドロゲルを提供することが所望される標的部位もしくは領域から除去する手順に役立ち得る。
【0028】
いくつかの実施形態において、上記ペプチドもしくはヒドロゲルは、上記組織もしくは生物学的脈管に接着しい場合がある。上記ペプチドもしくはペプチド溶液は投与されると、それは、上記生物学的脈管中の血液もしくは他の流体と接触し、これにより、上記脈管内部でゲル化を引き起こす。上記ペプチド溶液は、上記脈管内で移動し得るが、それがゲル化し始めると、その流動性を失って、上記生物学的脈管における位置もしくは標的領域での所定の場所に留まる。ヒドロゲルの形態にある上記ペプチドは、上記組織もしくは生物学的脈管への接着なしに適所に留まり得る。
【0029】
本開示は、自己集合ペプチド(ときおり、自己集合オリゴペプチド、もしくは両親媒性ペプチドといわれる)を含む水性溶液、ヒドロゲル、および膜に関する。上記ペプチドは、親水性アミノ酸と疎水性アミノ酸とが交互に結合した約6~約200アミノ酸残基を有する両親媒性ペプチドから構成され得る。上記自己集合ペプチドは、生理学的pHおよび/もしくはカチオン(例えば、一価カチオン)の存在下で、水性溶液中でβ構造を示し得る。
【0030】
上記一価カチオンの有効性の順序は、Li>Na>K>Csのようである。Csは、最低量の膜を生成し得、さらに、非膜性沈殿物を生じる。上記一価カチオンの有効性は、上記イオンの結晶半径と逆相関し得る: Li(0.6Å)、Na(0.95Å)、K(1.33Å)、およびCs(1.69Å)(Pauling, 1960)。相関はまた、上記イオンの水和半径:Li(3.4Å)、Na(2.76Å)、K(2.32Å)、およびCs(2.28Å)で、および上記一価カチオンのエンタルピーの順序でも認められ得る(Pauling, 1960)。上記一価金属カチオンの存在は、触媒として作用し得るか、または膜に組みこまれ得る。形成されるいくつかの膜におけるフィラメントのサイズ(10~20nm)およびフィラメント間の距離(50~80nm)は、水和したイオンが分子間相互作用を安定化し得ることを示唆し得る。いくつかのアニオン(二価アニオン、酢酸イオン、Cl、SO -2、およびPO -2が挙げられる)ならびに有機イオン、NH およびTris-Clは、膜形成を誘導しない可能性がある。
【0031】
5mM程度の低さおよび5M程度の高さの一価金属カチオン(NaCl)の濃度は、ある種の実施形態において数分以内に膜形成を誘導することが見出された。従って、膜形成は、この広い範囲にわたって塩濃度とは無関係であり得る。5mM未満の塩濃度はまた、膜形成を誘導し得るが、その速度はより遅い。
【0032】
上記ペプチドは、一般に、水性溶液中で安定であり得、生理学的条件もしくは塩レベルに曝された場合、大きな、極めて安定な肉眼で見える構造もしくはマトリクスへと自己集合し得る。一価アルカリ金属イオン(例えば、生理学的レベルで存在するナトリウムイオンおよびカリウムイオン)の存在は、上記ペプチド溶液からのヒドロゲルの形成を促進する。上記ヒドロゲルがいったん形成されると、それは、一般的なタンパク質変性条件(例えば、高温)下でも、変性剤(例えば、酸、アルカリ、プロテアーゼ、尿素、グアニジン塩酸塩など)でも、分解しない可能性がある。自己集合したペプチドは、色素、コンゴレッドで染色される場合に、肉眼で見ることができ、高い引っ張り強度を有するシート様もしくはフィブリル構造を形成し得る。これらの物質は、pH、熱、および酵素によるタンパク質分解における変化に実質的に耐性である。上記自己集合したペプチドは、電子顕微鏡法によって明らかにされるように、小さな孔を有する線維状の微小構造を有する。
【0033】
生理学的条件は、本質的に、特定の器官もしくは細胞系のために存在し得、それは、人工的な実験室の条件とは対照的であり得る。上記条件は、1つ以上の特性(例えば、1つ以上の特定の特性もしくは1つ以上の特性範囲)を含み得る。例えば、上記生理学的条件は、ある温度もしくは温度範囲、あるpHもしくはpH範囲、ある圧力もしくは圧力範囲、ならびに特定の化合物、塩および他の構成要素の1つ以上の濃度を含み得る。例えば、いくつかの例において、上記生理学的条件は、約20℃~約40℃の範囲の温度を含み得る。いくつかの例において、気圧は、約1atmであり得る。pHは、約6~約8の範囲にあり得る。上記生理学的条件は、膜形成を誘導し得る一価金属カチオンなどのカチオンを含み得る。これらは、塩化ナトリウム(NaCl)を含み得る。上記生理学的条件はまた、約1mM~約20mMの間の、グルコース濃度、スクロース濃度、もしくは他の糖濃度を含み得る。
【0034】
本開示の自己集合ペプチドは、少なくとも8個のアミノ酸、少なくとも12個のアミノ酸、もしくは少なくとも16個のアミノ酸を有し得る。上記ペプチドはまた、相補的かつ構造的に適合性であり得る。相補的とは、上記ペプチドがそれらの親水性側鎖との間で形成するイオン化した対および/もしくは水素結合により相互作用する能力を指し、構造的に適合性とは、相補的ペプチドがそれらのペプチド骨格間で一定の距離を維持する能力を指す。これらの特性を有するペプチドは、二次構造レベルでのβシートの形成および安定化ならびに三次構造レベルでの絡み合ったフィラメントを生じる分子間相互作用に関与する。
【0035】
上述の特性によって特徴付けられるペプチドの均一なおよび不均一な混合物の両方が、安定な肉眼で見える膜、フィラメント、およびヒドロゲルを形成し得る。自己相補的および自己適合性であるペプチドは、均一な混合物中で膜を形成し得る。不均一なペプチド(均一な溶液中で膜を形成できず、互いに相補的および/もしくは構造的に適合性であるものを含む)はまた、肉眼で見える膜、フィラメント、およびヒドロゲルへと自己集合し得る。
【0036】
上記自己集合ペプチドから形成される肉眼で見える膜、フィラメント、およびヒドロゲルは、水性溶液中で、血清中で、およびエタノール中で安定であり得、熱、アルカリおよび酸性のpH(pH1.5~11で安定である)、化学変性剤(例えば、グアニジン-HCl、尿素およびドデシル硫酸ナトリウム)、ならびにインビトロでのプロテアーゼ(例えば、トリプシン、α-キモトリプシン、パパイン、プロテアーゼK、およびプロナーゼ)による分解に非常に抵抗性であり得る。それらは、非細胞傷害性であり得る。
【0037】
上記方法および本開示を促進するための方法は、生理学的条件下でヒドロゲルを形成して生物学的脈管の少なくとも部分的遮断を可能にするために有効な量で、および有効な濃度で、疎水性アミノ酸と親水性アミノ酸とが交互になっている少なくとも12個のアミノ酸を含む両親媒性ペプチドを含む溶液を、カテーテルを介して投与する工程およびその工程ための指示を提供する工程を包含し得る。
【0038】
上記促進するための方法は、生理学的条件下でヒドロゲルを形成して生物学的脈管の少なくとも部分的遮断を可能にするために有効な量で、および有効な濃度で、疎水性アミノ酸と親水性アミノ酸とが交互になっている少なくとも12個のアミノ酸を含む両親媒性ペプチドを含む溶液を提供する工程を包含し得る。
【0039】
上記方法および促進するための方法は、造影剤を上記ペプチド溶液に添加する工程、または造影剤を上記溶液に添加するための指示を提供する工程を包含し得る。あるいは、上記ペプチド溶液は、造影剤とともに製造され得る。上記造影剤は、X線技術(例えば、蛍光透視法もしくは血管造影法)の使用の間に、視覚像を提供し得る。非イオン性放射線不透過性造影媒体は、例えば、水溶性ヨウ素ベースの溶液などを含み得る。上記水溶性ヨウ素ベースの溶液は、イオパミドールであり得る。
【0040】
上記方法および本開示を促進するための方法は、上記生物学的脈管の少なくとも一部を含む局部を可視化する工程、または上記生物学的脈管の少なくとも一部を含む局部を可視化するための指示を提供する工程を包含し得る。上記可視化は、上記標的領域を同定する工程、上記カテーテルを導入する工程、上記カテーテルの末端を上記標的領域に配置する工程、上記溶液を投与する工程、および上記カテーテルを取り除いた後に上記生物学的脈管を観察する工程のうちの少なくとも1つの間に生じ得る。
【0041】
上記可視化する工程は、X線撮影法を使用する画像化により達成され得る。方法および促進するための方法は、X線撮影法を使用して上記局部を可視化する工程、またはそれを可視化するための指示を提供する工程を包含し得る。可視化する工程は、上記ペプチドを投与する工程もしくは上記カテーテルを取り除く工程の後に一定期間にわたって生じ得る。例えば、それは、上記ペプチドを投与する工程もしくは上記カテーテルを取り除く工程の後、最大で5分間もしくは1時間にわたって生じ得る。可視化はまた、1つ以上の所定の間隔の後に生じ得る。例えば、可視化は、上記ペプチドを投与する工程もしくは上記カテーテルを取り除く工程の約24時間後、約1週間後、約2週間後、もしくは約4週間後に生じ得る。可視化は、約3ヶ月後に生じ得る。可視化はまた、約6ヶ月後に生じ得る。指示は、本明細書で開示される期間のうちのいずれか1つ以上で、および任意の期間にわたって、上記局部を可視化するために提供され得る。例えば、1週間で、上記可視化は、1分間もしくは5分間にわたって生じ得る。4週間では、上記可視化は、10分間もしくは3分間にわたって生じ得る。
【0042】
上記形成された遮断の周りの領域を可視化する工程もしくはモニターする工程はまた、上記ペプチドを投与する工程もしくは上記カテーテルを取り除く工程の後の一定の期間にわたって、または1つ以上の所定の間隔で生じ得る。これは、上記遮断の有効性、上記遮断の任意の効率低下(degradation)、および任意の細胞壊死もしくは組織壊死のうちのいずれか1つ以上を決定するために生じ得る。
【0043】
本開示の方法は、上記被験体を評価して、生物学的脈管の遮断の必要性を決定する工程、および上記ペプチド溶液を調製する工程をさらに包含し得る。上記ペプチド溶液を調製する工程は、造影剤を、ペプチドを含む予備溶液に添加する工程を包含し得る。
【0044】
促進するための方法は、造影剤を上記溶液に添加するための指示を提供する工程をさらに包含し得る。促進するための方法は、上記標的領域を同定する、カテーテルもしくは他の投与デバイスを導入する、上記カテーテルの末端を上記標的領域に配置する、上記ペプチド溶液を投与する、上記カテーテルもしくは他の投与デバイスを取り除く、および上記カテーテルを取り除いた後に上記生物学的脈管を観察する、のうちの少なくとも1つを適切に行うために、上記造影剤の十分な量もしくは十分な体積を組み合わせるための指示を提供する工程を包含し得る。上記造影剤の使用は、上記ペプチド、ペプチド溶液もしくはヒドロゲルが投与される領域の可視化を可能にし得る。
【0045】
上記自己集合ペプチドもしくは両親媒性ペプチドのアミノ酸は、d-アミノ酸、l-アミノ酸、もしくはこれらの組み合わせから選択され得る。上記疎水性アミノ酸としては、Ala、Val、Ile、Met、Phe、Tyr、Trp、Ser、ThrおよびGlyが挙げられる。上記親水性アミノ酸は、塩基性アミノ酸(例えば、Lys、Arg、His、Orn);酸性アミノ酸(例えば、Glu、Asp);もしくは水素結合を形成するアミノ酸(例えば、Asn、Gln)であり得る。酸性アミノ酸および塩基性アミノ酸は、ペプチド上でクラスター形成し得る。末端残基のカルボキシル基およびアミノ基は、保護されてもよいし、保護されなくてもよい。膜は、自己相補的ペプチドおよび自己適合性ペプチドの均一な混合物中で、または、互いに相補的および構造的に適合性であるペプチドの不均一な混合物中で形成され得る。上記基準に適合するペプチドは、本明細書で記載される適切な条件下で、肉眼で見える膜へと自己集合し得る。
【0046】
本開示のペプチドは、アルギニン、アラニン、アスパラギン酸およびアラニン(Arg-Ala-Asp-Ala(RADA)の繰り返し配列(配列番号1))を有するペプチドを含み得、このようなペプチド配列は、(RADA)(ここでp=2~50)(配列番号2)によって表され得る。他のペプチド配列は、イソロイシン、グルタミン酸、イソロイシンおよびリジン(Ile-Glu-Ile-Lys(IEIK)(配列番号3))の反復配列を有する自己集合ペプチドによって表され得、このようなペプチド配列は、(IEIK)(ここでp=2~50)(配列番号4)によって表され得る。他のペプチド配列は、リジン、ロイシン、アスパラギン酸、およびロイシン(Lys-Leu-Asp-Leu(KLDL)(配列番号5))の反復配列を有する自己集合ペプチドによって表され得、このようなペプチド配列は、(KLDL)(ここでp=2~50)(配列番号6)によって表される。上記自己集合ペプチドは、約8~約200個のアミノ酸残基から構成され得る。ある種の実施形態において、約8~約32個の残基が、上記自己集合ペプチドにおいて使用され得る一方で、他の実施形態では、自己集合ペプチドは、約12~約17個の残基を有し得る。上記ペプチドは、約5nmの長さを有し得る。
【0047】
本発明に従う自己集合ペプチドの具体例としては、配列Arg-Ala-Asp-Ala-Arg-Ala-Asp-Ala-Arg-Ala-Asp-Ala-Arg-Ala-Asp-Ala(RADA)(配列番号7)を有する自己集合ペプチドRADA16、配列Ile-Glu-Ile-Lys-Ile-Glu-Ile-Lys-Ile-Glu-Ile-Lys-Ile(IEIK)I(配列番号8)を有する自己集合ペプチドIEIK13、配列Ile-Glu-Ile-Lys-Ile-Glu-Ile-Lys-Ile-Glu-Ile-Lys-Ile-Glu-Ile-Lys-Ile(IEIK)I(配列番号9)を有する自己集合ペプチドIEIK17、または配列Lys-Leu-Asp-Leu-Lys-Leu-Asp-Leu-Lys-Leu-Asp-Leu(KLDL)(配列番号10)を有する自己集合ペプチドKLDL12があり得る。(RADA)(配列番号7)の1% 水性溶液は、3D-Matrix Co., Ltdによる製品PuraMatrixTMとして入手可能である。PuraMatrixTMは、水中に配列(RADA)(配列番号7)を有する1% ペプチドを含む。
【0048】
ある種のペプチドは、細胞接着リガンドRGD(アルギニン-グリシン-アスパラギン酸)に類似の配列を含み得る。これらのペプチドがインビトロでの細胞増殖を支持するのに適切であるかを、種々の培養した初代細胞および形質転換細胞を、ホモポリマーシートAla-Glu-Ala-Glu-Ala-Lys-Ala-Lys-Ala-Glu-Ala-Glu-Ala-Lys-Ala-Lys(AEAEAKAKAEAEAKAK(EAK16)(配列番号11)、RAD16(配列番号22)、RADA16(配列番号7)、およびRAD16(配列番号22)とEAK16(配列番号11)とのヘテロポリマーに導入することによって試験した。上記RADベースのペプチドは、この配列がRGDに類似であることから、特に重要であり得る。上記RAD配列は、細胞外マトリクスタンパク質テネイシンに存在する高親和性リガンドであり、インテグリンレセプターによって認識される。上記EAK16ペプチド(配列番号11)および本明細書で開示される他のペプチドは、酵母タンパク質zuotinの部分に由来した。
【0049】
上記ペプチドの自己集合は、上記ペプチドを構成するアミノ酸によるペプチド分子の間の水素結合および疎水性結合に起因し得る。
【0050】
本開示の自己集合ペプチドは、約10nm~約20nmの範囲のナノファイバー直径を有し得、平均孔サイズは、約5nm~約200nmの範囲にある。ある種の実施形態において、上記ナノファイバー直径、孔サイズ、およびナノファイバー密度は、使用されるペプチド溶液の濃度および使用されるペプチド溶液の量(例えば、ペプチド溶液の体積)のうちの少なくとも一方によって制御され得る。よって、所望のナノファイバー直径、孔サイズ、および密度のうちの少なくとも1つを提供して、生物学的脈管へ投与した際に適切に送達し塞栓を形成するために、溶液中のペプチドの具体的濃度およびペプチド溶液の具体的量のうちの少なくとも一方は、選択され得る。
【0051】
本明細書で使用される場合、少なくとも部分的閉塞、遮断、もしくは閉塞を提供するか、または障害を処置するために有効な、ペプチド、ペプチド溶液もしくはヒドロゲルの量、「有効な量」もしくは「治療上有効な量」は、被験体への単回のもしくは複数回の投与(適用もしくは注射)の際に、このような処置の非存在下で予測されるものより、障害を有する被験体を処置することにおいて、または治癒させること、緩和させること、軽減することもしくは改善することにおいて有効である、上記ペプチド、ペプチド溶液もしくはヒドロゲルの量を指す。これは、上記ペプチド溶液もしくはヒドロゲル中のペプチドの特定の濃度もしくは濃度範囲を、さらには、もしくは代わりに、上記ペプチド溶液もしくはヒドロゲルの特定の体積もしくは体積の範囲を含み得る。促進するための方法は、上記有効な量および有効な濃度のうちの少なくとも一方を調製するための指示を提供する工程を包含し得る。
【0052】
投与される(例えば、適用されるかもしくは注射される)投与量、例えば、体積もしくは濃度は、上記ペプチドの形態(例えば、ペプチド溶液における、ヒドロゲルにおける、または乾燥形態(例えば、凍結乾燥形態)における)および利用される投与経路に依存して、変動し得る。的確な製剤化、投与経路、体積および濃度は、被験体の状態に鑑みて、および上記ペプチド溶液、ヒドロゲル、もしくはペプチドの他の形態が投与される特定の標的領域または位置に鑑みて、選択され得る。本明細書に列挙される用量より低いかもしくは高い用量が使用され得るかまたは必要とされ得る。任意の特定の被験体に関する具体的な投与量および処置レジメンは、種々の要因(これらとしては、使用される具体的なペプチド(単数もしくは複数)、処置されようとしているかもしくは閉塞されようとしている生物学的脈管の寸法、所望の標的領域に配置され得る、得られるヒドロゲルの所望の厚み、および処置の時間の長さが挙げられ得る)に依存し得る。上記具体的投与量および処置レジメンに影響を及ぼし得る他の要因としては、年齢、体重、全身の健康状態、性別、投与時間、分解速度、疾患の重症度および経過、状態もしくは症状、ならびに処置する医師の判断が挙げられる。ある種の実施形態において、上記ペプチド溶液は、単一用量で投与され得る。他の実施形態において、上記ペプチド溶液は、1より多い用量、もしくは複数用量で投与され得る。
【0053】
上記ペプチド溶液の有効な量および有効な濃度は、生物学的脈管を少なくとも部分的に閉塞するかもしくは遮断するために選択され得る。いくつかの実施形態において、上記有効な量および上記有効な濃度のうちの少なくとも一方は、上記生物学的脈管の標的領域の直径に一部基づき得る。他の実施形態において、上記有効な量および上記有効な濃度のうちの少なくとも一方は、上記生物学的脈管中の血液の流速に一部基づく。他の実施形態において、上記有効な量および上記有効な濃度のうちの少なくとも一方は、上記生物学的脈管における血液の血圧に一部基づき得る。さらに他の実施形態において、上記有効な量および上記有効な濃度のうちの少なくとも一方は、上記被験体の赤血球の平均直径に一部基づき得る。
【0054】
なお他の実施形態において、上記有効な量および上記有効な濃度のうちの少なくとも一方は、上記生物学的脈管の標的領域の直径、上記生物学的脈管中の血液の流速、上記生物学的脈管における血液の血圧、および上記被験体の赤血球の平均直径のうちの少なくとも1つに一部基づき得る。
【0055】
上記有効な量および上記有効な濃度のうちの少なくとも一方は、上記被験体の赤血球の平均直径より小さい平均孔サイズを有するヒドロゲルのナノファイバーを提供することに一部基づき得る。これは、平均赤血球直径を決定して、上記有効な量および上記有効な濃度のうちの少なくとも一方を提供するために上記被験体から血液サンプルを集める工程を包含し得る。
【0056】
上記有効な量は、本明細書で記載されるように、生物学的脈管において所望の遮断を提供し得る量であり得る。上記生物学的脈管の種々の特性は、上記生物学的脈管の標的領域の直径、上記生物学的脈管における血液の流速、上記生物学的脈管における血液の血圧、および上記被験体の赤血球の平均直径のうちの少なくとも1つを含め、上記有効な量の選択もしくは決定に寄与し得る。
【0057】
上記有効な量は、ペプチド溶液の約0.1ミリリットル(mL)~約100mLの体積を含み得る。上記有効な量は、ペプチド溶液の約0.1mL~約10mLの体積を含み得る。ある種の実施形態において、上記有効な量は、約0.5mLであり得る。他の実施形態において、上記有効な量は、約1.0mLであり得る。なお他の実施形態において、上記有効な量は、約1.5mLであり得る。さらになお他の実施形態において、上記有効な量は、約2.0mLであり得る。いくつかの他の実施形態において、上記有効な量は、約3.0mLであり得る。
【0058】
いくつかの実施形態において、より有効な遮断は、投与されるペプチド溶液のより大きな体積で達成され得る。これは、より長いもしくはより厚みのあるヒドロゲルが上記生物学的脈管内で形成することを可能にし得、上記標的領域におけるヒドロゲルのより確実な位置を可能にし得る。十分に高い体積が選択されない場合、上記ヒドロゲルは、所望の期間にわたって上記標的領域において遮断を維持するのに有効でない可能性があることは、考えられることである。これは、上記脈管における血液の流速もしくは血圧によって影響を受け得る。
【0059】
上記有効な濃度は、本明細書で記載されるように、生物学的脈管において所望の遮断を提供し得る量であり得る。上記生物学的脈管の種々の特性は、上記生物学的脈管の標的領域の直径、上記生物学的脈管における血液の流速、上記生物学的脈管における血液の血圧、および上記被験体の赤血球の平均直径のうちの少なくとも1つを含め、上記有効な濃度の選択もしくは決定に寄与し得る。
【0060】
上記有効な濃度は、約0.1重量/体積(w/v)%~約10w/v %の範囲の上記溶液中のペプチド濃度を含み得る。上記有効な濃度は、約0.1w/v %~約3.5w/v %の範囲の上記溶液中のペプチド濃度を含み得る。ある種の実施形態において、上記有効な濃度は、約1w/v %であり得る。他の実施形態において、上記有効な濃度は、約2.5w/v %であり得る。なお他の実施形態において、上記有効な濃度は、約3.0w/v %であり得る。
【0061】
ある種の実施形態において、より高濃度のペプチドを有するペプチド溶液は、適所に留まりかつ上記生物学的脈管の有効な遮断を提供する能力を有するより有効なヒドロゲルを提供し得る。上記ペプチド溶液を送達する目的のためには、より高濃度のペプチド溶液は、粘度が高くなりすぎて、上記溶液の有効なかつ選択的投与を可能にしない可能性がある。十分に高濃度が選択されない場合、上記ヒドロゲルは、所望の期間にわたって上記標的領域における遮断を維持するのに有効でない可能性があることは、考えられることである。これはまた、上記脈管における血液の流速もしくは血圧によって影響を受け得る。
【0062】
上記有効な濃度は、特定の直径もしくはゲージのカテーテルもしくはニードルを使用して、注射もしくは他の手段によって投与され得る溶液を提供するために、選択され得る。
【0063】
本開示の方法は、本明細書で記載されるとおりのペプチド、ペプチド溶液およびヒドロゲルの治療上有効な量の単回および複数回の投与を企図する。本明細書で記載されるとおりのペプチドは、上記被験体の状態の性質、重症度および程度に依存して、規則的な間隔で投与され得る。いくつかの実施形態において、ペプチド、ペプチド溶液、もしくはヒドロゲルは、単回投与で投与され得る。いくつかの実施形態において、本明細書で記載されるペプチド、ペプチド溶液、もしくはヒドロゲルは、複数回投与で投与される。いくつかの実施形態において、治療上有効な量のペプチド、ペプチド溶液、もしくはヒドロゲルは、規則的な間隔で周期的に投与され得る。選択される上記規則的な間隔は、投与される上記溶液の初期ペプチド濃度、投与される量、および形成される上記ヒドロゲルの分解速度のうちのいずれか1つ以上に基づき得る。例えば、最初の投与後に、次の投与(follow-on administration)が、例えば、2週間、4週間、6週間、もしくは8週間後に行われ得る。上記次の投与は、最初の投与と同じペプチド濃度および体積を有する溶液の投与を含んでもよいし、ペプチドのより低いもしくはより大きな濃度および体積の溶液の投与を含んでもよい。ペプチド溶液の適切な次の投与の選択は、上記標的領域および上記標的領域の周りの領域を画像化し、上記被験体の状態に基づいて必要なことを確認することに基づき得る。所定の間隔は、各次の投与に関して同じであってもよいし、異なっていてもよい。いくつかの実施形態において、ペプチド、ペプチド溶液、もしくはヒドロゲルは、所定の間隔で長期的に投与されて、被験体の生涯にわたって、該被験体において生物学的脈管の少なくとも部分的遮断を維持し得る。上記所定の間隔は、各次の投与について同じであってもよいし、異なっていてもよい。これは、前回の投与から形成されたヒドロゲルが、部分的にもしくは完全に崩壊したかもしくは分解したかどうかに依存し得る。上記次の投与は、最初の投与と同じ濃度のペプチドおよび体積を有する溶液の投与を含んでいてもよいし、またはペプチドのより低いもしくはより高い濃度および体積の溶液の投与を含んでいてもよい。ペプチド溶液の適切な次の投与の選択は、上記標的領域および上記標的領域の周りの領域を画像化し、上記被験体の状態に基づいて必要なことを確認することに基づき得る。
【0064】
本開示の自己集合ペプチド(例えば、RADA16(配列番号7))は、明確な生理学的にもしくは生物学的に活性なモチーフもしくは配列を欠き、従って、本質的な細胞機能を損なっていない可能性があるペプチド配列であり得る。生理学的に活性なモチーフは、多くの細胞内現象(例えば、転写)を制御し得、上記生理学的に活性なモチーフの存在は、上記モチーフを認識する酵素によって細胞質内タンパク質もしくは細胞表面タンパク質のリン酸化をもたらし得る。生理学的に活性なモチーフがペプチド組織閉塞薬剤に存在する場合、種々の機能を有するタンパク質の転写が活性化され得るかもしくは抑制され得る。本開示の自己集合ペプチドは、このような生理学的に活性なモチーフを欠き得るので、このリスクを有しない。
【0065】
糖は、組織閉塞効果を低減することなく低張性から等張性までの上記溶液の浸透圧を改善し、それによって、生物学的安全性が増大することを可能にするように、上記自己集合ペプチド溶液に添加され得る。ある種の例において、上記糖は、スクロースもしくはグルコースであり得る。
【0066】
ある種の実施形態において、上記ペプチドの長さは、12個のアミノ酸より長く、好ましくは、少なくとも16個の残基であり得る。非常に長いペプチド、例えば、約200個のアミノ酸のペプチドは、不溶性および膜形成を不安定化する分子内相互作用に起因する問題に遭遇し得るが、同様に本明細書で企図され得る。さらに、多量の疎水性残基を有するペプチドは、不溶性の問題を有し得る。膜形成に最適な長さは、アミノ酸組成により変動し得る。
【0067】
さらなる安定化因子は、相補的ペプチドが、ペプチド骨格間の一定の距離を維持していることである。対合の際に一定の距離を維持し得るペプチドは、構造的に適合性であると本明細書でいわれる。ペプチド間距離は、対の中の各アミノ酸の側鎖上の非分枝の原子の数の合計することによって、各イオン化した対もしくは水素結合対について計算され得る。例えば、リジンは、5つ、グルタミン酸は、4つの非分枝の原子をその側鎖上にそれぞれ有する。
【0068】
均一な混合物中で膜を形成し得るペプチドの例は、表1に示される。これらの例は、種々のアミノ酸配置および膜形成ペプチドの組成のうちのいくつかを例証する。
【0069】
【表1-1】
【0070】
【表1-2】
【0071】
両親媒性配列、長さ、相補性および構造的適合性の基準は、ペプチドの不均一混合物に当てはまる。例えば、2つの異なるペプチドが膜を形成するために使用され得る:ペプチドA、 Val-Arg-Val-Arg-Val-Asp-Val-Asp-Val-Arg-Val-Arg-Val-Asp-Val-Asp(VRVRVDVDVRVRVDVD)(配列番号54)は、添付の配列表に示されるように、親水性残基としてArgおよびAspを有し、ペプチドB、 Ala-Asp-Ala-Asp-Ala-Lys-Ala-Lys-Ala-Asp-Ala-Asp-Ala-Lys-Ala-Lys(ADADAKAKADADAKAK)(配列番号55)は、LysおよびAspを有する。ペプチドAおよびBは、相補的である;A上のArgは、B上のAspとイオン化した対を形成し得、そしてA上のAspは、B上のLysとイオン化した対を形成し得る。しかし、このような対におけるペプチド間の距離の計算は、上記2つのペプチドが構造的に適合性でないことを示す。1原子あたり3Åの換算係数を使用すると、2つの対の間のペプチド間の距離における差異は、3Åである。3~4Åを超えるペプチド間の距離のバリエーションは、分子間相互作用を不安定化して膜形成をもたらすと予測される。従って、ペプチドAおよびBの不均一混合物中では、膜は形成するようであるが、それらは、ペプチドAもしくはBのいずれかから均一に構成される。
【0072】
膜およびヒドロゲルはまた、ペプチドが互いに相補的かつ構造的に適合性であれば、ペプチドの不均一な混合物(それらの各々のみでは膜を形成しない)から形成され得る。例えば、(Lys-Ala-Lys-Ala) (KAKA)(配列番号12)および(Glu-Ala-Glu-Ala) (EAEA)(配列番号56)の、または(Lys-Ala-Lys-Ala) (KAKA)(配列番号12)および(Ala-Asp-Ala-Asp) (ADAD)(配列番号57)の混合物は、膜を形成すると予測されるが、相補性の欠如に起因して、これらのペプチドのうちのいずれかのみでは形成されない。
【0073】
ペプチドは、完全に相補的でも構造的に適合性でもなく、核酸のハイブリダイゼーションにおいてミスマッチ塩基対に類似のミスマッチを含むと考えられ得る。ミスマッチを含むペプチドは、そのミスマッチ対の破壊力がペプチド間相互作用の全体的な安定性によって優位を占められる場合に、膜を形成し得る。機能的には、このようなペプチドはまた、相補的もしくは構造的に適合性であるとみなされ得る。例えば、ミスマッチのアミノ酸対は、これが各側面のいくつかの完全にマッチした対によって囲まれる場合には、許容され得る。ミスマッチペプチドは、本明細書で記載される方法を使用して、肉眼で見える膜へと自己集合する能力について試験され得る。
【0074】
上記ペプチドは、化学的に合成されてもよいし、天然供給源および組換え供給源から精製されてもよい。化学合成されたペプチドを使用することは、上記ペプチド溶液が、未同定の構成要素(例えば、別の動物の細胞外マトリクスに由来する未同定の構成要素)が欠乏しているようにすることができる。この特性は、従って、従来の組織由来生体材料と比較して、感染の懸念事項(ウイルス感染のリスクが挙げられる)を排除し得る。これは、ウシ海綿状脳症(BSE)などの感染症を含む感染症といった懸念事項を排除し得、上記ペプチドを医療用途に関して非常に安全にする。
【0075】
上記ペプチドの初期濃度は、形成される膜もしくはヒドロゲルのサイズおよび厚みにおける要因であり得る。一般に、上記ペプチド濃度が高くなるほど、膜形成の程度も高くなる場合であり得る。膜もしくはヒドロゲルは、約0.5mMもしくは約1mg/ml(約0.1w/v %)程度の低さの初期ペプチド濃度から形成し得る。しかし、より高い初期ペプチド濃度(約10mg/ml(約1w/v %))で形成される膜もしくはヒドロゲルは、より厚みがあり得るので、おそらくより強い。上記膜もしくはヒドロゲルを生成する場合に、ペプチド溶液に塩を添加するのではなく、塩溶液もしくは生理学的条件にペプチドを添加することは、好ましいことであり得る。
【0076】
上記膜もしくはヒドロゲルの形成は、数分程度の非常に速いものであり得る。上記膜もしくはヒドロゲルの形成は、所望の領域への適用もしくは注射した際に即座に形成し得る。上記膜もしくはヒドロゲルの形成は、適用もしくは注射の1~2分以内に起こり得る。他の例では、上記膜もしくはヒドロゲルの形成は、適用もしくは注射の4分以内に起こり得る。ある種の実施形態において、上記膜もしくはヒドロゲルを形成するのにかかる時間は、上記ペプチド溶液の濃度、適用されるペプチド溶液の体積、および適用もしくは注射の領域での条件(例えば、適用領域での一価金属カチオンの濃度、血液の流速、血圧、および上記生物学的脈管の直径)のうちの1つ以上に少なくとも一部基づき得る。
【0077】
上記膜もしくはヒドロゲルの形成は、不可逆的であり得る。上記プロセスは、12以下のpHによって(上記ペプチドは、12を超えるpHで沈殿する傾向にある)および温度によって影響を受け得ない。上記膜もしくはヒドロゲルは、4~90℃の範囲の温度で形成し得る。
【0078】
上記膜もしくはヒドロゲルは、本開示の方法およびキットを使用して所望の効果を提供するために十分な期間にわたって、上記標的領域の所定の場所に留まり得る。所望の効果は、生物学的経路もしくはチャネルを介して流体の流れを低減もしくは妨げることであり得る。所望の効果は、1つ以上の生物学的経路もしくはチャネルにおける遮断、滞留、閉塞、もしくは塞栓であり得る。所望の効果は、腫瘍もしくは他の病理過程からそれらの血液供給を取り除く(灌流)ために、このような遮断、滞留もしくは閉塞を意図的に作り出すことであり得る。
【0079】
本開示の方法およびキットを使用する所望の効果は、生物学的脈管における障害、奇形、もしくは先天的病気を処置することであり得る。所望の効果は、動脈管開存症(PDA)、主要大動脈肺動脈側副動脈(MAPCA)、再発性の喀血、動静脈奇形、脳動脈瘤、消化管出血、鼻出血、分娩後出血、術中出血、および子宮類線維腫のうちの1つ以上を処置することであり得る。所望の効果は、細胞壊死を生じるかまたはがん細胞を低減もしくは排除するように、少なくとも部分的遮断を提供することを含み得る。
【0080】
上記膜もしくはヒドロゲルが所望の領域に留まり得る期間は、約10分間であり得る。ある種の例において、それは、所望の領域で約35分間留まり得る。ある種のさらなる例において、それは、所望の領域で数日間、最大2週間留まり得る。他の例において、それは、所望の領域で無期限に留まり得る。他の例において、それは、所望の領域で、それが自然に分解されるかもしくは意図的に除去されるまでより長期間にわたって留まり得る。上記ヒドロゲルがある期間にわたって自然に分解される場合、上記生物学的脈管における同じもしくは異なる位置、または別の生物学的脈管への上記ヒドロゲルへのその後の適用もしくは注射が、行われ得る。
【0081】
ある種の実施形態において、上記自己集合ペプチドは、上記自己集合ペプチドの増強された有効性を提供し得る1種以上の構成要素とともに調製されてもよいし、別の作用、処置、治療を提供してもよいし、または、主題の1つ以上の構成要素と別の方法で相互作用してもよい。例えば、1つ以上の生物学的にもしくは生理学的に活性なアミノ酸配列もしくはモチーフを含むさらなるペプチドは、上記自己集合ペプチドとともに、上記構成要素のうちの1つとして含まれ得る。他の構成要素としては、生物学的に活性な化合物(例えば、上記被験体にいくらかの利益を提供し得る薬物もしくは他の処置)を挙げることができる。例えば、がんを処置する薬物もしくは抗がん薬が、上記自己集合ペプチドとともに投与されてもよいし、別個に投与されてもよい。
【0082】
上記ペプチド、ペプチド溶液、もしくはヒドロゲルは、上記被験体を処置するための、または溶血、炎症、および感染を防止するための、低分子薬物を含み得る。上記低分子薬物は、グルコース、サッカロース、精製サッカロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、デキストラン(destran)、ヨウ素、塩化リゾチーム、ジメチルイソプロピルアズレン(dimethylisoprpylazulene)、トレチノイントコフェリル、ポビドンヨード、アルプロスタジルアルファデクス、アニスアルコール、サリチル酸イソアミル、α,α-ジメチルフェニルエチルアルコール、バクダノール(bacdanol)、ヘリオナール、スルファジアジン銀(sulfazin silver)、ブクラデシンナトリウム、アルプロスタジルアルファデクス、硫酸ゲンタマイシン、テトラサイクリン塩酸塩、フシジン酸ナトリウム、ムピロシンカルシウム水和物、および安息香酸イソアミルからなる群より選択され得る。他の低分子薬物も企図され得る。タンパク質ベースの薬物は、投与される構成要素として含まれ得、これらとしては、エリスロポイエチン、組織プラスミノゲンアクチベーター、合成ヘモグロビンおよびインスリンが挙げられ得る。
【0083】
構成要素は、ヒドロゲルへの急激なもしくは即時の形成から上記ペプチド溶液を保護するために、含まれ得る。これは、被包化送達システムであって、経時的に分解して、上記ペプチド溶液を標的領域へ時間制御放出して、所望の、所定の期間、経時的に上記ヒドロゲルを形成することを可能にし得る被包化送達システムを含み得る。生分解性、生体適合性のポリマーが使用され得る(例えば、エチレンビニルアセテート、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、およびポリ乳酸)。
【0084】
本明細書で記載される構成要素のうちのいずれかは、上記ペプチド溶液中に含まれてもよいし、上記ペプチド溶液とは別個に投与されてもよい。さらに、本明細書で提供される方法もしくは促進するための方法のうちのいずれかは、1以上の関係者によって行われ得る。
【0085】
本開示のペプチド、ペプチド溶液、もしくはヒドロゲルは、キットで提供され得る。被験体において生物学的脈管に上記溶液を投与するための指示もまた、上記キットで提供され得る。上記ペプチド溶液は、生理学的条件下でヒドロゲルを形成して、生物学的脈管の少なくとも部分的遮断を可能にするために有効な量で、および有効な濃度で、疎水性アミノ酸と親水性アミノ酸とが交互になっている少なくとも12個のアミノ酸を含む両親媒性ペプチドを含み得る。上記溶液を投与するための指示は、本明細書で提供されるペプチド、ペプチド溶液、もしくはヒドロゲルを、例えば、本明細書で記載される投与経路によって、ある用量、体積もしくは濃度、または投与スケジュールで投与するための方法を含み得る。
【0086】
上記キットはまた、情報を提供する資料を含み得る。情報を提供する資料は、本明細書で記載される方法に関する説明の、指示の、マーケティングのまたはその他の資料であり得る。一実施形態において、上記情報を提供する資料としては、本明細書で開示されるペプチド、ペプチド溶液、もしくはヒドロゲルの製造に関する情報、上記ペプチド、ペプチド溶液もしくはヒドロゲルの物理的特性、濃度、体積、サイズ、寸法、有効期限、およびバッチもしくは製造地が挙げられ得る。
【0087】
上記キットはまた、上記ペプチドもしくはペプチド溶液の所望の領域への投与を可能にするために、デバイスもしくは材料を必要に応じて含み得る。例えば、シリンジ、ピペット、カテーテル、もしくは他のニードルベースのデバイスが、上記キットに含まれ得る。さらに、もしくは代わりに、上記キットは、上記ペプチド溶液の標的領域への選択的投与を提供するために、ガイドワイヤもしくは他の付随の器材を含み得る。
【0088】
上記キットは、さらにもしくは代わりに、他の構成要素もしくは成分(例えば、造影画像化を補助し得る構成要素)を含み得る。例えば、上記キットは、造影剤を含み得る。上記造影剤は、X線技術(例えば、蛍光透視法もしくは血管造影法)の使用の間に視覚像を提供し得る。非イオン性放射性不透過性造影媒体が含まれ得る(例えば、水溶性ヨウ素ベースの溶液など)。上記水溶性ヨウ素ベースの溶液は、イオパミドールであり得る。上記標的領域を同定する、カテーテルもしくは他の投与デバイスを導入する、上記カテーテルの末端を上記標的領域に配置する、上記ペプチド溶液を投与する、上記カテーテルもしくは他の投与デバイスを取り除く、および上記カテーテルを取り除いた後に上記生物学的脈管を観察する、のうちの少なくとも1つを適切に行うために、上記造影剤の十分な量もしくは体積を合わせるために、指示が上記キットにおいて提供され得る。上記造影剤の使用は、上記ペプチド、ペプチド溶液もしくはヒドロゲルが投与される領域の可視化を可能にし得る。上記ペプチド溶液を希釈して、上記生物学的脈管への該溶液の有効な濃度を投与するために、指示が提供され得る。上記生物学的脈管に対する上記溶液の有効な濃度および上記溶液の有効な量のうちの少なくとも一方を決定するために、指示がさらに提供され得る。これは、本明細書で考察される種々のパラメーターに基づき得、上記標的領域における上記生物学的脈管の直径を含み得る。
【0089】
他の構成要素もしくは成分は、上記キットにおいて、上記ペプチド、ペプチド溶液、もしくはヒドロゲル以外の、同じもしくは異なる組成物もしくは容器に含まれ得る。上記1種以上の構成要素は、上記自己集合ペプチドの増強された有効性を提供し得る構成要素を含んでいてもよいし、別の作用、処置、治療を提供してもよいし、上記主題の1つ以上の構成要素と別の方法で相互作用してもよい。例えば、1種以上の生物学的にもしくは生理学的に活性な配列もしくはモチーフを含むさらなるペプチドは、上記自己集合ペプチドとともに、上記構成要素のうちの1つとして含まれ得る。他の構成要素は、生物学的に活性な化合物(例えば、上記被験体にいくらかの利益を提供し得る薬物もしくは他の処置)を含み得る。例えば、がん処置薬物もしくは抗がん薬は、上記自己集合ペプチドとともに投与されてもよいし、別個に投与されてもよい。上記ペプチド、ペプチド溶液、もしくはヒドロゲルは、上記被験体を処置するか、または本明細書で開示されるように、溶血、炎症、および感染を防止するために、低分子薬物を含み得る。糖の溶液(例えば、スクロース溶液)は、上記キットで提供され得る。上記スクロース溶液は、20% スクロース溶液であり得る。
【0090】
本明細書で開示される他の構成要素はまた、上記キットに含まれ得る。
【0091】
いくつかの実施形態において、上記キットの構成要素は、シールしたバイアル(例えば、ゴムもしくはシリコーンのクロージャー(例えば、ポリブタジエンもしくはポリイソプレンのクロージャー)が付いている)中で貯蔵される。いくつかの実施形態において、上記キットの構成要素は、不活性条件下(例えば、窒素もしくは別の不活性ガス(例えば、アルゴン)の下で)貯蔵される。いくつかの実施形態において、上記キットの構成要素は、無水条件下で(例えば、乾燥剤とともに)貯蔵される。いくつかの実施形態において、上記キットの構成要素は、遮光容器(例えば、琥珀色のバイアル)中で貯蔵される。
【0092】
上記キットの一部として、もしくはキットとは別個に、シリンジもしくはピペットは、本明細書で開示されるとおりのペプチド、ペプチド溶液、もしくはヒドロゲルが予め充填されたものであり得る。ユーザーに、自己集合ペプチド溶液を他のデバイスを使用してもしくは使用せずに、シリンジもしくはピペットに供給すること、および上記溶液を、上記シリンジもしくはピペットを介して、他のデバイスを使用してもしくは使用せずに、標的領域に投与することを指示するための方法が、提供される。他のデバイスとしては、例えば、ガイドワイヤありもしくはなしのカテーテルが挙げられ得る。
【0093】
本開示のいくつかの実施形態において、上記自己集合ペプチドは、ステントもしくはカテーテルなどのデバイスもしくは器具にコーティングとして使用して、体液漏出を抑制することができる。上記自己集合ペプチドはまた、治療効果を被験体に提供し得るか、または生物学的脈管内に適用され得る支持物(例えば、ガーゼもしくは包帯)、または内層(lining)に組みこまれ得るか、またはこれに固定され得る。上記自己集合ペプチドはまた、使用するためにスポンジに浸漬させられ得る。
【0094】
代替の実施形態において、上記自己集合ペプチドの粉末もしくは溶液が充填された噴霧器(atomizing sprayer)が調製され得る。このようなスプレーが罹患領域に噴霧するために使用される場合、そのpHおよび塩濃度は、身体と接触した際に増加し、ゲル化を引き起こす。
【0095】
上記膜の改変は、膜にさらなる特性を与え得る。例えば、上記膜は、標準的な方法によって膜形成後に、上記ペプチドを架橋することによってさらに強化され得る。コラーゲンは、人工皮膚を使用するのにより適した膜を生成するために、上記ペプチドと組み合わされ得る;上記コラーゲンは、上記膜内でのタンパク質分解から安定化され得る。さらに、リン脂質と上記ペプチドとを組み合わせると、小胞が生じ得る。
【0096】
上記膜はまた、細胞単層を培養するためにも有用であり得る。細胞は、不均一な荷電した表面に接着するのを好む。上記タンパク質性の膜の荷電した残基およびコンホメーションは、細胞接着および移動を促進する。上記ペプチド膜への増殖因子(例えば、線維芽細胞増殖因子)の添加は、接着、細胞増殖および神経突起成長をさらに改善し得る。
【0097】
本明細書で開示される方法およびキットのこれらおよび他の実施形態の機能および利点は、以下の実施例からより完全に理解される。以下の実施例は、開示される処置アプローチの利益を例証することが意図されるが、その完全な範囲を例示するのではない。
【実施例0098】
(実施例1)
3%(重量/体積(w/v)) PuraMatrixTM溶液、Ac-RADARADARADARADA-NH(Ac-Arg-Ala-Asp-Ala-Arg-Ala-Asp-Ala-Arg-Ala-Asp-Ala-Arg-Ala-Asp-Ala-NH)(配列番号58)を水中に含むペプチド溶液を使用して、ラットで試験を行った。18ゲージニードルを使用して、1ミリリットル(mL)をラットの門脈に注射した。
【0099】
ヘマトキシリン-エオシン(HE)色素を使用して、組織病理学的評価を行った。上記ペプチド溶液を使用して門脈に塞栓が発生したことが確認された。図1に示されるように、上記ペプチド溶液は、ヒドロゲル2へと発達したようであり、ラットの門脈の中に存在している。赤血球4もまた、示される。
【0100】
(実施例2)
2.5% PuraMatrixTM溶液、Ac-RADARADARADARADA-NH(Ac-Arg-Ala-Asp-Ala-Arg-Ala-Asp-Ala-Arg-Ala-Asp-Ala-Arg-Ala-Asp-Ala-NH)(配列番号58)を水中に含むペプチド溶液を使用して、2匹のビーグル犬で試験を行った。これらの試験を行ったところ、上記2.5% ペプチド溶液を使用するビーグル犬の肝動脈塞栓の有効性および肝細胞壊死が確認された。上記ペプチド溶液は、濃度612.4mg/mLのイオパミドールを含んだ。イオパミドールは、非イオン性放射線不透過性造影剤である。
【0101】
全身麻酔(full anesthesia)下でのビーグル犬をX線画像化しながら、マイクロカテーテル(Terumo, 最小内径0.50mm)を、頚動脈を経由して肝動脈へと挿入した。肝動脈造影画像化を使用して、肝動脈が機能していることを確認した。2mL体積の上記2.5% ペプチド溶液(イオパミドールを含む)を注射した。
【0102】
肝動脈造影画像化を使用して、肝動脈のペプチド溶液による塞栓が手術の間にもたらされることを確認した。図2は、ビーグル犬の正常な肝動脈の造影像を示す一方で、図3は、上記ペプチド溶液注射を示す。図4は、ペプチド溶液注射後の肝動脈造影像を示す。ここでは、上記造影像の逆流(back flow of the contrast image)が確認された。上記ペプチド溶液の存在は、上記画像のより暗い部分によって明らかにされる。
【0103】
2週間のモニタリングが経過した後、肝動脈造影画像化を使用して、塞栓効果を確認した。図5は、ペプチド溶液注射の2週間後の肝動脈造影像を示す。
【0104】
その後、肝臓を摘出した。ヘマトキシリン-エオシン(HE)色素を使用して、上記ペプチド溶液塞栓および肝障害を組織病理学的に確認した。図6A~6Cに示されるように、上記ペプチド溶液は、上記肝動脈のこれらの画像の各々において、該画像の暗い領域として認められ得る。図7は、塞栓位置(ここでは、全ての細胞が、壊死の少なくともあるレベルを有するようである)での肝細胞壊死画像を示す。
【0105】
上記結果は、マイクロカテーテルを使用する上記ペプチド溶液の注射が達成され得ることを示す。上記ペプチドゲルは、X線画像化を使用して明らかにし得る。肝動脈塞栓効果は、手術中および手術の2週間後に認められ得る。さらに、上記ペプチド溶液を使用するする肝動脈塞栓効果および肝細胞壊死効果が起こり、組織病理学的に確認された。
【0106】
(実施例3)
PuraMatrixTM、Ac-RADARADARADARADA-NH(Ac-Arg-Ala-Asp-Ala-Arg-Ala-Asp-Ala-Arg-Ala-Asp-Ala-Arg-Ala-Asp-Ala-NH)(配列番号58)を水中に含むペプチド溶液を、血管造影法、全般的剖検評価(gross necropsy assessment)、および組織病理学評価を通じて、ブタモデルにおいて塞栓系製剤として使用した。1頭の雌性ヨークシャー交配種ブタ(Yorkshire cross swine)を試験した。試験時の上記ブタの体重は、46.5kgであった。飼料および水を、標準的な作業手順に従って提供した。上記研究の管理もしくは結果に干渉すると予測される飼料もしくは水の汚染は無かった。上記ブタを、試験施設承認の動物供給業者から獲得した。上記ブタには到着時身体検査を行い、順応期間後、再び検査した。上記ブタを、上記手順の前に最低12時間絶食させた。上記動物を鎮静させ、テラゾール(2~10mg/kg)およびキシラジン(0.5~5.0mg/kg)の筋肉内もしくは皮下注射によって麻酔した。プロポフォール(効くまで)を鎮静の補助に与えた。気管内チューブを使用して適切な換気を確保し、上記動物を、吸入用イソフルラン(inhalant isofluorante)(0.1~5.0%)で、全身麻酔下で維持した。ヘパリン(50~300単位/kg, IV)を、上記手順の間中、投与した。
【0107】
上記ペプチド溶液の2.5% 試験溶液を使用した。約800μlの上記ペプチド溶液を、エッペンドルフチューブに入れた。約200μlのIsovue-370(イオパミドール)造影剤を添加した。その液体を、気泡が生じないようにゆっくりと混合した。
【0108】
試験日に、ブタは、2ヶ月と25日齢であった。上記ブタを鎮静させ、手術の準備をした。大腿動脈を利用し、導入器を配置した。ガイドワイヤを選択した腎動脈へと進めた。カテーテルを、上記選択された腎動脈へと進めた。血管造影法を使用して、その動脈内での位置を視覚化した。上記ペプチド溶液を、その動脈が閉塞されるまで所望の位置に注射した。この手順を、肝動脈および脾動脈で反復した。血管造影法を上記手順の間にわたって使用して、試験の間中、上記血管およびデバイスを視覚化した。図8および図9は、塞栓形成前の血管(図6)および塞栓形成後の血管(図9)の代表例である。上記試験の間中、報告された有害事象はなかった。
【0109】
データのまとめは、以下の表2に見出され得る。
【0110】
【表2】
【0111】
表2に示されるように、左腎の腎動脈への注射は注射直後に成功した。右腎の腎動脈の成功裡の塞栓形成は、注射直後に成功したが、最初の注射の6分後に僅かな流れが再確立された。さらなる注射を最初の注射の15分後に行ったところ、完全な閉塞が得られた。
【0112】
肝動脈の成功裡の塞栓形成はまた、注射直後に得られた。残った動脈は、10分後および34分後に閉塞された。
【0113】
脾動脈の成功裡の塞栓形成はまた、4分後に得られた。
【0114】
提供される説明および図面は、例示に過ぎず、限定するとは解釈されない。本開示の例示的実施形態が開示されている一方で、多くの改変、追加、および削除は、以下の特許請求の範囲に示されるように、本開示およびその均等物の趣旨および範囲から逸脱することなくそこで行われ得る。
【0115】
当業者は、本明細書で記載される種々の構成が例示であると意味され、実際の構成が本開示のシステムおよび方法が使用される具体的適用に依存することを、容易に認識する。当業者は、単なる慣用的な実験を使用して、本明細書で記載される具体的実施形態に対する多くの均等物を認識するかもしくは確認し得る。
【0116】
さらに、種々の変更、改変、および改善が当業者に容易に想起されることは、認識されるべきである。このような変更、改変、および改善は、本開示の一部であると解釈され、本開示の趣旨および範囲内であると解釈される。よって、前述の説明および図面は、例示目的に過ぎない。さらに、図面中の描画は、本開示を具体的に図示される代表に限定しない。
【0117】
本明細書で使用される場合、用語「comprising(含む、包含する)」、「including(含む、包含する)」、「carrying(有する)」、「having(有する)」、「containing(含む、包含する)」および「involving(含む、包含する)」は、書面による明細書本文中にあろうが、特許請求の範囲などにあろうが、非限定的な用語である、すなわち、「を含むが、これらに限定されない」を意味する。従って、このような用語の使用は、その後に列挙された項目、およびその均等物、ならびにさらなる項目を包含することを意味する。伝統的な語句「からなる(consisting of)」および「から本質的になる(consisting essentially of)」のみが、特許請求の範囲に関しては、それぞれ、閉鎖系もしくは半閉鎖系の伝統的な語句である。請求項の要素を修飾するために、特許請求の範囲における通常の用語、例えば、「first(第1の)」、「second(第2の)」、「third(第3の)」などの使用は、それだけで、ある請求項の要素の別の要素に対する任意の優先性、先行性、もしくは順序、または方法の行為が行われる時間的順序を内包しないが、ある名称を有する1つの請求項の要素を、同じ名称(通常の用語の使用がなければ)を有する別の要素から区別して、請求項の要素を区別するための表示として使用されるに過ぎない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図7
図8
図9
【配列表】
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【外国語明細書】