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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023115278
(43)【公開日】2023-08-18
(54)【発明の名称】RNAウイルス検出方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6851 20180101AFI20230810BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20230810BHJP
   C12Q 1/6888 20180101ALI20230810BHJP
【FI】
C12Q1/6851 Z
C12Q1/686 Z
C12Q1/6888 Z
【審査請求】有
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023106376
(22)【出願日】2023-06-28
(62)【分割の表示】P 2021532996の分割
【原出願日】2020-07-08
(31)【優先権主張番号】P 2019133045
(32)【優先日】2019-07-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】四方 正光
(72)【発明者】
【氏名】高岡 直子
(72)【発明者】
【氏名】二宮 健二
(57)【要約】
【課題】1種以上の界面活性剤を用いて、ノロウイルスなどのRNAウイルス粒子からのRNA抽出を熱処理することなく行い、それに続く遊離したRNAのRT-PCR反応によるウイルス検出操作を簡便に行う方法を提供する。また、RNAウイルス粒子からのRNA抽出と、RT-PCRを、同一容器内で、容器の蓋を開閉することなく行うことにより、より簡便なRNAウイルスの検出方法を提供する。
【解決手段】本発明は、逆転写-ポリメラーゼ連鎖反応(reverse transcription-polymerase chain reaction、RT-PCR)によるRNAウイルスを検出する方法、および該方法を実行するためのキットに関する。より具体的には、検体を、水酸化物の存在下、界面活性剤と混合し、さらにRT-PCR反応液を添加することによりRNAウイルスを検出する方法、および該方法を実行するためのキットに関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体中のRNAウイルスを検出する方法であって、
(1)検体を蒸留水、生理食塩水または緩衝液に懸濁する行程、
(2)工程(1)で生成した懸濁液の遠心上清を抽出する行程、
(3)工程(2)で抽出した遠心上清と、1種以上の界面活性剤を含む検体処理液とを混合する工程、
(4)工程(3)で得られた混合液と、逆転写酵素およびDNAポリメラーゼを含む1ステップRT-PCR反応液を混合し、RT-PCRを行う工程、および、
(5)前記RT-PCR産物を検出する工程、
を含む方法。
【請求項2】
前記RNAウイルスが、ノロウイルス、ロタウイルス、ライノウイルス、コロナウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、C型肝炎ウイルス、日本脳炎ウイルスおよびデングウイルスからなる群より選ばれる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記RNAウイルスが、ノロウイルスである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ノロウイルス遺伝子型が、ジェノグループI(GI)またはジェノグループII(GII)である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記検体が、生物試料、生物由来試料、環境試料および環境由来試料からなる群より選ばれる試料に由来する、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記検体が、排泄物試料、排泄物由来試料、嘔吐物および嘔吐物由来試料からなる群より選ばれる試料に由来する、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記界面活性剤が、陰イオン界面活性剤である、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記陰イオン界面活性剤が、アルキルサルフェート、アルキルエーテルサルフェート、ドキュセート、スルホネートフルオロ界面活性剤、アルキルベンゼンスルホネート、アルキルアリールエーテルホスフェート、アルキルエーテルホスフェート、アルキルカルボキシレート、ラウロイルサルコシンナトリウム、カルボキシレートフルオロ界面活性剤、コール酸ナトリウムおよびデオキシコール酸ナトリウムからなる群より選ばれる1種以上の陰イオン界面活性剤である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記陰イオン界面活性剤が、アルキルサルフェートである、請求項7に記載の方法。
請求項1に記載の。
【請求項10】
前記アルキルサルフェートが、ドデシル硫酸ナトリウムまたはドデシル硫酸アンモニウムである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記界面活性剤の濃度が、0.02~0.5%(w/v)である、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記検体処理液が、水酸化物を含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記水酸化物が、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記水酸化物の濃度が、10~100mMである、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
前記工程(3)における検体と検体処理液との混合比が、体積比として1:3~6である、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記逆転写酵素が、AMV逆転写酵素、MMLV逆転写酵素、HIV逆転写酵素およびこれらの変異体からなる群より選ばれる、請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記DNAポリメラーゼが、Taq DNAポリメラーゼ、Tth DNAポリメラーゼ、KOD DNAポリメラーゼ、Pfu DNAポリメラーゼおよびこれらの変異体からなる群より選ばれる、請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記工程(5)が、リアルタイム測定によって行われる、請求項1~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記工程(3)が、1~60℃の温度下で行われる、請求項1~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記工程(3)~(5)が、同一容器内で行われる、請求項1~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記工程(5)において、蛍光フィルターを用いてRT-PCR産物の増幅曲線を測定し、検体におけるRNAウイルスの存在が陽性であること、または陰性であることを判定する、請求項1~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
1種以上の界面活性剤を含む検体処理液、ならびに逆転写酵素およびDNAポリメラーゼを含む1ステップRT-PCR反応液を含む、RNAウイルスの検出キット。
【請求項23】
前記RNAウイルスが、ノロウイルス、ロタウイルス、ライノウイルス、コロナウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、C型肝炎ウイルス、日本脳炎ウイルスおよびデングウイルスからなる群より選ばれる、請求項22に記載のキット。
【請求項24】
前記RNAウイルスが、ノロウイルスである、請求項22に記載のキット。
【請求項25】
ノロウイルス遺伝子型が、ジェノグループI(GI)であること、またはジェノグループII(GII)であることを判定する、請求項24に記載のキット。
【請求項26】
前記界面活性剤が、陰イオン界面活性剤である、請求項22~25のいずれか1項に記載のキット。
【請求項27】
前記陰イオン界面活性剤が、アルキルサルフェート、アルキルエーテルサルフェート、ドキュセート、スルホネートフルオロ界面活性剤、アルキルベンゼンスルホネート、アルキルアリールエーテルホスフェート、アルキルエーテルホスフェート、アルキルカルボキシレート、ラウロイルサルコシンナトリウム、カルボキシレートフルオロ界面活性剤、コール酸ナトリウムおよびデオキシコール酸ナトリウムからなる群より選ばれる1種以上の陰イオン界面活性剤である、請求項26に記載のキット。
【請求項28】
前記陰イオン界面活性剤が、アルキルサルフェートである、請求項26に記載のキット。
【請求項29】
前記アルキルサルフェートが、ドデシル硫酸ナトリウムまたはドデシル硫酸アンモニウムである、請求項28に記載のキット。
【請求項30】
さらにキットの操作手順書を含む、請求項22~29のいずれか1項に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、逆転写-ポリメラーゼ連鎖反応(reverse transcription-polymerase chain reaction、RT-PCR)によるRNAウイルスを検出する方法、および該方法を実行するためのキットに関する。より具体的には、検体を、水酸化物の存在下、界面活性剤と混合し、さらにRT-PCR反応液を添加することによりRNAウイルスを検出する方法、および該方法を実行するためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
RNAウイルスは、ゲノムとしてRNAを持つウイルスであり、脂質二重層からなる膜であるエンベロープを持つコロナウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、C型肝炎ウイルス、日本脳炎ウイルス、デングウイルスなど、またエンベロープを持たないノロウイルス、ロタウイルス、ライノウイルスなどに分類され、病原性のものも多い。
【0003】
ノロウイルスはヒトカリシウイルス科に属するウイルスで、約7000塩基の1本鎖RNAをゲノムにもつ。このウイルスは、電子顕微鏡で観察される形態学的分類により小型球形ウイルス(Small Round Structured Virus, SRSV)とも呼ばれ、またノーウォーク様ウイルス(Norwalk-like virus)という属名で呼ばれてきたウイルスである。ノロウイルスに属するウイルスは、ジェノグループ(Genogroup)(GI)およびジェノグループII(GII)の2種の遺伝子群に分類され、さらにそれぞれ14および17またはそれ以上の遺伝子型(genotype)に分類される。
【0004】
ノロウイルスがヒトに感染すると、嘔吐、下痢などの急性胃腸炎症状を起こす。本邦における年間の食中毒患者の約半数はノロウイルスに起因し、このうち約7割は11月~2月に発生しており、ノロウイルスは冬型の胃腸炎および食中毒の原因ウイルスとして知られている。ノロウイルスによる食中毒は、主に、調理者を通じた食品の汚染により発生する。ノロウイルスは感染力が強く、大規模な食中毒など集団発生を起こしやすい。ヒトへの感染経路は、主に経口感染である。感染者の糞便または吐物およびこれらに直接的または間接的に汚染された物品類、また、ノロウイルスにより汚染されたカキまたはその他の二枚貝類などの食品類が感染源の代表的なものとして挙げられる。このため、ノロウイルス感染患者や該ウイルスによる汚染物を特定することは、ウイルス感染の拡大を防止するために重要である。
【0005】
ウイルスによる感染や汚染を検出するためのウイルス検査としては、ウイルス抗原を検出する免疫学的測定法やウイルス遺伝子増幅法が用いられる(特許文献1~3、非特許文献1)。ノロウイルスを高感度に測定する手段としては、ノロウイルスのRNAをRT-PCRで増幅し、増幅産物量を測定する方法があげられる。例えば、厚生労働省医薬食品局食品安全部監視安全課による通知(非特許文献2および3)に準拠して、RT-PCR法によるノロウイルスの検出およびリアルタイムPCR法によるノロウイルスの定量的検出が広く行われている。
【0006】
RNAウイルス粒子は、RNAゲノムとタンパク質からなるコアが、カプシドと呼ばれるタンパク質の殻に封入された基本構造を持つ。このため、遺伝子増幅法によりウイルスRNAを検出するためには、ウイルス粒子よりRNAを抽出する必要がある。検体として糞便中のノロウイルスを検出するには、例えば、糞便検体を蒸留水または生理食塩水に5~10%(w/v)の濃度で懸濁し、その遠心上清から、市販のウイルスRNA抽出キット(例えば、QIAamp(登録商標) Viral RNA Mini、QIAGEN社)を用いてRNAを抽出・精製する(非特許文献2)。しかしながら、多段階のRNAの抽出・精製操作の後にRT-PCRを行う検出過程は煩雑である。このため、糞便懸濁液を検体処理液と混合し、短時間熱処理することにより殻タンパク質を除去し、内部のRNAを遊離させて、遊離させたRNAを直接RT-PCRに供する簡易な検出法が提案されている(非特許文献4)。一方、糞便懸濁液と検体処理液との混合物を熱処理するためには、該混合物の突沸や蒸散を防ぐために反応容器を蓋により密閉し、熱処理後に蓋を外してRT-PCR反応液を添加する手間を要する。この点を改善するため、検体をグアニジン塩などのカオトロピック剤と混合することにより、熱処理を行うことなくRT-PCRによりウイルスを検出する方法が提案されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開WO2002/029119号
【特許文献2】国際公開WO2002/029120号
【特許文献3】特開2004-301684号公報
【特許文献4】特開2017-209036号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Kageyama T, et al. Broadly reactive and highly sensitive assay for Norwalk-like viruses based on real-time quantitative reverse transcription-PCR. J Clin Microbiol. 2003 Apr;41(4):1548-57.
【非特許文献2】厚生労働省医薬食品局食品安全部監視安全課 食安監発第1105001号(平成15年11月5日)別添「ノロウイルスの検出法について」、最終改正:食安監発0514004号(平成19年5月14日)
【非特許文献3】厚生労働省医薬食品局食品安全部監視安全課 食安監発第1105001号(平成15年11月5日)別添「ノロウイルスの検出法について」、最終改正:食安監発1022第1号(平成25年10月22日)
【非特許文献4】Nishimura N, et al. Detection of noroviruses in fecal specimens by direct RT-PCR without RNA purification. J Virol Methods. 2010 Feb;163(2):282-286.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、簡便なRNAウイルスの検出方法を提供することにある。具体的には、1種以上の界面活性剤を用いて、ノロウイルスなどのRNAウイルス粒子からのRNA抽出を熱処理することなく行い、それに続く遊離したRNAのRT-PCR反応によるウイルス検出操作を簡便に行う方法を提供することにある。また、RNAウイルス粒子からのRNA抽出と、RT-PCRを、同一容器内で、容器の蓋を開閉することなく行うことにより、より簡便なRNAウイルスの検出方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の目的は、以下の発明により達成される。
〔1〕
検体中のRNAウイルスを検出する方法であって、
(1)検体を蒸留水、生理食塩水または緩衝液に懸濁する行程、
(2)工程(1)で生成した懸濁液の遠心上清を抽出する行程、
(3)工程(2)で抽出した遠心上清と、1種以上の界面活性剤を含む検体処理液とを混合する工程、
(4)工程(3)で得られた混合液と、逆転写酵素およびDNAポリメラーゼを含む1ステップRT-PCR反応液とを混合し、RT-PCRを行う工程、および、
(5)前記RT-PCR産物を検出する工程、
を含む方法。
【0011】
〔2〕
前記RNAウイルスが、ノロウイルス、ロタウイルス、ライノウイルス、コロナウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、C型肝炎ウイルス、日本脳炎ウイルスおよびデングウイルスからなる群より選ばれる、〔1〕に記載の方法。
【0012】
〔3〕
前記RNAウイルスが、ノロウイルスである、〔1〕に記載の方法。
〔4〕
前記ノロウイルス遺伝子型が、ジェノグループI(GI)またはジェノグループII(GII)である、〔3〕に記載の方法。
【0013】
〔5〕
前記検体が、生物試料、生物由来試料、環境試料および環境由来試料からなる群より選ばれる試料に由来する、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の方法。
〔6〕
前記検体が、排泄物試料、排泄物由来試料、嘔吐物および嘔吐物由来試料からなる群より選ばれる試料に由来する、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の方法。
〔7〕
前記界面活性剤が、陰イオン界面活性剤である、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の方法。
【0014】
〔8〕
前記陰イオン界面活性剤が、アルキルサルフェート、アルキルエーテルサルフェート、ドキュセート、スルホネートフルオロ界面活性剤、アルキルベンゼンスルホネート、アルキルアリールエーテルホスフェート、アルキルエーテルホスフェート、アルキルカルボキシレート、ラウロイルサルコシンナトリウム、カルボキシレートフルオロ界面活性剤、コール酸ナトリウムおよびデオキシコール酸ナトリウムからなる群より選ばれる1種以上の陰イオン界面活性剤である、〔7〕に記載の方法。
〔9〕
前記陰イオン界面活性剤が、アルキルサルフェートである、〔7〕に記載の方法。
〔10〕
前記アルキルサルフェートが、ドデシル硫酸ナトリウムまたはドデシル硫酸アンモニウムである、〔9〕に記載の方法。
【0015】
〔11〕
前記界面活性剤の濃度が、0.02~0.5%(w/v)である、〔1〕~〔10〕のいずれかに記載の方法。
〔12〕
前記検体処理液が、水酸化物を含む、〔1〕~〔11〕のいずれかに記載の方法。
〔13〕
前記水酸化物が、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムである、〔12〕に記載の方法。
〔14〕
前記水酸化物の濃度が、10~100mMである、〔12〕または〔13〕に記載の方法。
【0016】
〔15〕
前記工程(3)における遠心上清と検体処理液との混合比が、体積比として1:3~6である、〔1〕~〔14〕のいずれかに記載の方法。
〔16〕
前記逆転写酵素が、AMV逆転写酵素、MMLV逆転写酵素、HIV逆転写酵素およびこれらの変異体からなる群より選ばれる、〔1〕~〔15〕のいずれかに記載の方法。
〔17〕
前記DNAポリメラーゼが、Taq DNAポリメラーゼ、Tth DNAポリメラーゼ、KOD DNAポリメラーゼ、Pfu DNAポリメラーゼおよびこれらの変異体からなる群より選ばれる、〔1〕~〔16〕のいずれかに記載の方法。
〔18〕
前記工程(5)が、リアルタイム測定によって行われる、〔1〕~〔17〕のいずれかに記載の方法。
〔19〕
前記工程(3)が、1~60℃の温度下で行われる、〔1〕~〔18〕のいずれかに記載の方法。
〔20〕
前記工程(3)~(5)が、同一容器内で行われる、〔1〕~〔19〕のいずれかに記載の方法。
〔21〕
前記工程(5)において、蛍光フィルターを用いてRT-PCR産物の増幅曲線を測定し、検体におけるRNAウイルスの存在が陽性であること、または陰性であることを判定する、〔1〕~〔20〕のいずれかに記載の方法。
【0017】
〔22〕
1種以上の界面活性剤を含む検体処理液、ならびに逆転写酵素およびDNAポリメラーゼを含む1ステップRT-PCR反応液を含む、RNAウイルスの検出キット。
〔23〕
前記RNAウイルスが、ノロウイルス、ロタウイルス、ライノウイルス、コロナウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、C型肝炎ウイルス、日本脳炎ウイルスおよびデングウイルスからなる群より選ばれる、〔22〕に記載のキット。
〔24〕
前記RNAウイルスが、ノロウイルスである、〔22〕に記載のキット。
〔25〕
ノロウイルス遺伝子型が、ジェノグループI(GI)であること、またはジェノグループII(GII)であることを判定する、〔24〕に記載のキット。
【0018】
〔26〕
前記界面活性剤が、陰イオン界面活性剤である、〔22〕~〔25〕のいずれかに記載のキット。
〔27〕
前記陰イオン界面活性剤が、アルキルサルフェート、アルキルエーテルサルフェート、ドキュセート、スルホネートフルオロ界面活性剤、アルキルベンゼンスルホネート、アルキルアリールエーテルホスフェート、アルキルエーテルホスフェート、アルキルカルボキシレート、ラウロイルサルコシンナトリウム、カルボキシレートフルオロ界面活性剤、コール酸ナトリウムおよびデオキシコール酸ナトリウムからなる群より選ばれる1種以上の陰イオン界面活性剤である、〔26〕に記載のキット。
〔28〕
前記陰イオン界面活性剤が、アルキルサルフェートである、〔26〕に記載のキット。
〔29〕
前記アルキルサルフェートが、ドデシル硫酸ナトリウムまたはドデシル硫酸アンモニウムである、〔28〕に記載のキット。
〔30〕
さらにキットの操作手順書を含む、〔22〕~〔29〕のいずれかに記載のキット。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ノロウイルスなどのRNAウイルス粒子を含む検体懸濁液の遠心上清と、1種以上の界面活性剤を含む検体処理液とを混合することによって、熱処理することなく、ウイルス粒子から効率よくRNAを遊離させることができる。このため、RNAを遊離させる処理と、その後に、ウイルスの存在を検出するためのRT-PCR反応液を添加する一連の操作とを、同一容器内で連続的に行うことができ、簡便にRNAウイルスを検出することができる。さらに、本発明では、ウイルス粒子からのRNAの遊離効率が高いためウイルス検出感度が高く、ウイルス排出期間を精度よく検出することができる。そのため、不顕性感染の検出、特に感染後の回復期にある感染患者の特定に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、検体中のRNAウイルスを検出する方法を提供する。該方法は、(1)検体を蒸留水、生理食塩水または緩衝液に懸濁する行程、(2)工程(1)で生成した懸濁液の遠心上清を抽出する行程、(3)工程(2)で抽出した遠心上清と、1種以上の界面活性剤を含む検体処理液とを混合する工程、(4)工程(3)で得られた混合液と、逆転写酵素およびDNAポリメラーゼを含む1ステップRT-PCR反応液を混合し、RT-PCRを行う工程、および、(5)前記RT-PCR産物を検出する工程を含む。
【0021】
本発明において、検体中の検出対象となるRNAウイルスは、ゲノムとしてRNAを持つウイルスであり、脂質二重層からなる膜であるエンベロープを持つコロナウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、C型肝炎ウイルス、日本脳炎ウイルス、デングウイルスなど、またエンベロープを持たないノロウイルス、ロタウイルス、ライノウイルスなどが挙げられるが、これらに限定されない。エンベロープは主成分が脂質であるため、アルコールなどの有機溶媒や界面活性剤により容易に破壊されるが、このようなエンベロープを持たないノロウイルスなどのRNAウイルスは、一般的に有機溶媒や界面活性剤に対して抵抗性を示す。
【0022】
本発明における検体としては、生物試料、生物由来試料、環境試料および環境由来試料などが挙げられる。生物試料としては、貝類の中腸腺などを含む動植物組織および血液、唾液、鼻汁、組織分泌液などの体液が含まれる。特に貝類は、ノロウイルスによる食中毒の原因食品として最も重要視されている。生物由来試料としては、前記生体試料に対して、例えばソニケーションなどの処理をしたものが含まれる。環境試料としては、大気、土壌、塵埃、水などを含むあらゆる試料が挙げられる。環境由来試料としては、前記環境試料に対して、例えばソニケーションなどの処理をしたものが含まれる。
【0023】
本発明の別の実施態様として、検体としては、排泄物試料、排泄物由来試料、嘔吐物および嘔吐物由来試料などが挙げられる。排泄物試料および嘔吐物試料は、そのまま使用してもよいが、工程(1)として、蒸留水、生理食塩水または緩衝液に、例えば10%(w/v)で懸濁して乳剤としてもよい。前記緩衝液としては、特に限定されないが、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、ホウ酸緩衝液、HEPESなどのグッド(Good)緩衝液が挙げられる。前記試料の乳剤は、腸内細菌などの混在物を除去するため、工程(2)として、例えば10000~12000 rpmで2~20分間遠心分離し、遠心上清を検体として使用してもよい。排泄物由来試料および嘔吐物由来試料には、拭き取り試料が含まれる。拭き取り試料とは、ウイルス汚染の確認を目的として、手指、食器、まな板、包丁、調理設備、トイレ設備、住宅設備などを綿棒、カット綿などで拭き取ったものをリン酸緩衝液などに溶出させたものである。得られた溶出液は超遠心分離し、遠心沈渣を懸濁または溶解したものを検体として使用することができる(宗村佳子ら、食品衛生学雑誌、2017 年 58 巻 4 号 p.201-204)。
【0024】
本発明の工程(3)は、検体を1種以上の界面活性剤を含む検体処理液と混合する工程である。本明細書において「界面活性剤」とは、物質の境界面に作用し、性質を変化させる物質の総称である。界面活性剤は、分子内に親水性部分と疎水性部分の両方を持つ構造を有するである。界面活性剤は、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤および非イオン界面活性剤に分類される。陰イオン界面活性剤としては、アルキルサルフェート、アルキルエーテルサルフェート、ドキュセート、スルホネートフルオロ界面活性剤、アルキルベンゼンスルホネート、アルキルアリールエーテルホスフェート、アルキルエーテルホスフェート、アルキルカルボキシレート、ラウロイルサルコシンナトリウム、カルボキシレートフルオロ界面活性剤、コール酸ナトリウムおよびデオキシコール酸ナトリウムなどが挙げられるが、これらに限定されない。アルキルサルフェートとしては、ドデシル硫酸ナトリウム(Sodium Dodecyl Sulfate、SDS)およびドデシル硫酸アンモニウムが好ましく、ドデシル硫酸ナトリウムがより好ましい。ドデシル硫酸ナトリウムは、ラウリル硫酸ナトリウム(Sodium Lauryl Sulfate、SLS)とも称される。陽イオン界面活性剤としては、エチルトリメチルアンモニウムブロマイド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミドおよびテトラデシルトリメチルアンモニウムブロミドなどが挙げられるが、これらに限定されない。両性界面活性剤としては、例えば、ベタインおよびアルキルアミノ脂肪酸塩が挙げられるが、これらに限定されない。非イオン界面活性剤としては、ノニルフェノキシポリエトキシエタノール(NP-40)、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(Tween(登録商標)80)、ポリオキシエチレンp-t-オクチルフェノール(Triton X-100(登録商標))などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0025】
界面活性剤は、水溶液中で一定濃度以上を添加すると、界面活性剤モノマーが集合してミセルを形成する。界面活性剤がミセルを形成するようになる濃度は、臨界ミセル濃度と呼ばれる。水溶液中で、界面活性剤ミセル内部の疎水性領域に、タンパク質や脂質の疎水性領域が取り込まれ、タンパク質や脂質は可溶化される。RNAウイルス粒子において、タンパク質の殻であるカプシドや脂質からなるエンベロープは、臨界ミセル濃度以上の界面活性化剤の存在下で可溶化され、変性され、または破壊される。その結果、カプシドに封入されたRNAが、水溶液中で露出した状態になりやすくなる。界面活性剤の臨界ミセル濃度は界面活性剤の種類によって異なるが、ウイルスRNAを効率よく露出させるためには、検体処理液中での界面活性剤の濃度が0.02~0.5%(w/v)であることが好ましく、0.05~0.2%(w/v)がより好ましく、0.1%(w/v)がさらに好ましい。
【0026】
検体と検体処理液との混合比は、好ましくは体積比として1:3~6であり、より好ましくは1:4である。検体と界面活性化剤を含む検体処理液とを混合することにより、混合液中の界面活性剤の濃度が低下するが、界面活性剤の上記濃度は、臨界ミセル濃度を維持するものである。
【0027】
本発明の一実施態様において、前記検体処理液は水酸化物を含む。本明細書において「水酸化物」とは、陽イオンとして金属イオンと、陰イオンとして水酸化物イオン(OH)とがイオン結合した物質を指す。金属は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属である。水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムおよび水酸化バリウムが例示されるが、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムが好ましい。水酸化物は強塩基性を示し、水に溶解すると水酸化物イオンを生じるため、アルカリとも呼ばれる。水酸化物は、水溶液中でタンパク質分子中の、アスパラギン酸、グルタミン酸などの解離性アミノ酸の荷電状況を変化させ、タンパク質を変性させる。この作用により、RNAウイルス粒子をアルカリ処理するとカプシドの破壊が生じる。その結果、カプシドに封入されたRNAが、水溶液中で露出した状態になりやすくなる。ウイルスRNAを効率よく露出させるためには、検体処理液中での水酸化物濃度は、好ましくは10~100mMであり、より好ましくは40~60mMであり、50mMがさらに好ましい。
【0028】
カプシドや脂質からなるエンベロープを可溶化させ、変性させ、または破壊し、ウイルスRNAを効率よく露出させるためには、前記検体処理液において界面活性剤と水酸化物とが共存することが好ましい。
【0029】
カプシドよりウイルスRNAを効率よく露出させるための本発明の工程(3)は、1~60℃の温度下で行うことが好ましく、1~50℃で行うことがより好ましく、1~40℃で行うことがさらに好ましく、1~30℃の室温で行うことが最も好ましい。検体と検体処理液とを混合した後は、3分間以上放置することが好ましい。本発明の工程(3)は、熱処理が不要であるため、反応容器内の検体と検体処理液との混合液の突沸や蒸散の危険性が低く、反応容器を蓋等により密閉せず、開放して行うことができる。
【0030】
本発明の工程(4)は、工程(3)で得られた混合液と、逆転写酵素およびDNAポリメラーゼを含む1ステップRT-PCR反応液を混合し、RT-PCRを行う工程である。本発明の一実施態様において、工程(3)が蓋を使用しない非密閉容器内で行われるため、工程(3)で得られた混合液を含む容器に対して、前記1ステップRT-PCR反応液をそのまま直接添加することにより、工程(3)および(4)を同一容器内で行うことができる。工程(3)で得られる混合液に含まれる界面活性剤の中で、特にSDSはタンパク質に対する変性効果が強い。このため、工程(4)にSDSが高い濃度で持ち込まれると、前記1ステップRT-PCR反応液に含まれる逆転写酵素およびDNAポリメラーゼの酵素活性を阻害し、RT-PCRが進行しない可能性がある。同様に、工程(3)で得られる混合液に含まれる水酸化物も、工程(4)に持ち込まれる濃度が高いと、高pHによる前記酵素活性の低下を招く。このため、工程(3)で得られる混合液と前記1ステップRT-PCR反応液との混合比は、好ましくは体積比として1:2~6であり、より好ましくは1:4である。
【0031】
本発明の工程(4)では、多検体を短時間で分析するため、1ステップRT-PCRを
採用する。1ステップRT-PCR反応液には、逆転写酵素とDNAポリメラーゼがあら
かじめ混合されており、逆転写反応(1本鎖cDNA合成)およびPCRを同一容器内で
行うことができる。
【0032】
前記1ステップRT-PCR反応液に含まれる逆転写酵素は、ウイルスRNAを鋳型として、1本鎖の相補的DNA(cDNA)を生成する酵素であり、逆転写反応を触媒する限り特に限定されないが、トリ骨髄芽球症ウイルス(Avian Myeloblastosis Virus、AMV)、モロニーマウス白血病ウイルス(Moloney Murine Leukemia Virus、M-MLV)およびヒト免疫不全ウイルス(Human Immunodeficiency Virus、HIV)などのRNAウイルス由来のRNA依存性DNAポリメラーゼならびにこれらの変異体を使用することができる。
【0033】
前記1ステップRT-PCR反応液に含まれるDNAポリメラーゼは、好熱性細菌由来の耐熱性DNAポリメラーゼであり、Taq、Tth、KOD、Pfuおよびこれらの変異体を使用することができるが、これらに限定されない。DNAポリメラーゼによる非特異的増幅を避けるため、ホットスタートDNAポリメラーゼを使用してもよい。ホットスタートDNAポリメラーゼは、例えば抗DNAポリメラーゼ抗体が結合したDNAポリメラーゼまたは酵素活性部位を熱感受性化学修飾したDNAポリメラーゼであり、PCRにおいて、最初の変性ステップ(90℃以上)を経た後にDNAポリメラーゼが活性化される酵素である。
【0034】
前記1ステップRT-PCR反応液には、逆転写反応およびPCRが適切な条件で遂行されるためのすべての成分が含まれる。該成分として、少なくとも前記逆転写酵素、逆転写反応プライマー、前記耐熱性DNAポリメラーゼ、PCRプライマー、dNTPミックス(deoxyribonucleotide 5’-triphosphate;dATP、dGTP、dCTPおよびdTTPからなる混合物)および緩衝液が含まれる。本発明の一実施態様において、前記反応液はトリスおよびマグネシウムを含む。前記反応液には、RNA分解酵素阻害剤を添加することもできる。逆転写反応プライマーとしては、標的RNAの配列に特異的なプライマー、オリゴ(dT)プライマーまたはランダムプライマーを使用することができる。PCRプライマーとしては、逆転写反応により生成したcDNAの配列に特異的なプライマー対(フォワードおよびリバース)が使用される。PCRプライマーは、標的RNAの配列に特異的な前記逆転写反応プライマーと同一であってもよい。また、前記1ステップRT-PCR反応液には、増幅するDNA領域、すなわち標的配列の数に応じて2種類以上のPCRプライマーを添加してもよい。前記成分を含んだ組成物として、ノロウイルス検出試薬キット(プローブ法)(島津製作所)に含まれる試薬を、キット取扱説明書にしたがって混合したRT-PCR反応液を使用することができる。
【0035】
ノロウイルスRNAを検出する場合、例えば、特許文献1および2、非特許文献3ならびに特開2018-78806に記載のPCRプライマーを使用することにより、ノロウイルス遺伝子型におけるジェノグループI(GI)およびジェノグループII(GII)を検出することができるが、これらに限定されない。前記ノロウイルス検出試薬キット(プローブ法)には、非特許文献3に記載のPCRプライマーが含まれる。
【0036】
RT-PCRにおける逆転写反応の反応温度条件、およびPCR条件(温度、時間およびサイクル数)の設定は、当業者であれば容易に行うことができる。
【0037】
本発明の工程(5)は、工程(4)で行われるRT-PCRからの産物を検出する工程である。本発明の一実施態様において、PCR産物をリアルタイム測定により検出する。該リアルタイム測定を行う場合、工程(4)のRT-PCRおよび工程(5)の該RT-PCR産物を検出する工程は同一容器内で行われる。本発明の一実施態様において、工程(3)が蓋を使用しない非密閉容器内で行われるため、工程(3)で得られた混合液を含む容器に対して、1ステップRT-PCR反応液をそのまま直接添加することにより、工程(3)および(4)を同一容器内で行うことができる。したがって、本発明の一実施態様において、工程(3)~(5)を、同一容器内で行うことができる。
【0038】
PCR産物のリアルタイム測定は、リアルタイムPCRとも呼ばれる。リアルタイムPCRでは、通常PCR増幅産物を蛍光により検出する。蛍光検出方法には、インターカレーター性蛍光色素を用いる方法および蛍光標識プローブを用いる方法がある。インターカレーター性蛍光色素としては、SYBR(登録商標)Green Iが使用されるが、これに限定されるわけではない。インターカレーター性蛍光色素は、PCRによって合成された二本鎖DNAに結合し、励起光の照射により蛍光を発する。この蛍光強度を測定することにより、PCR増幅産物の生成量を測定することができる。
【0039】
蛍光標識プローブとしては、TaqManプローブ、Molecular Beacon、サイクリングプローブなどが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。TaqManプローブは、5’末端が蛍光色素で、また3’末端がクエンチャー物質で修飾されたオリゴヌクレオチドである。TaqManプローブは、PCRのアニーリングステップで鋳型DNAに特異的にハイブリダイズするが、プローブ上にクエンチャーが存在するため、励起光を照射しても蛍光の発生は抑制される。その後の伸長反応ステップで、Taq DNAポリメラーゼのもつ5‘→3’エキソヌクレアーゼ活性により、鋳型DNAにハイブリダイズしたTaqManプローブが分解されると、蛍光色素がプローブから遊離し、クエンチャーによる蛍光の発生の抑制が解除されて蛍光を発する。この蛍光強度を測定することにより、増幅産物の生成量を測定することができる。前記蛍光色素としては、FAM、ROX、Cy5が挙げられるが、これらに限定されない。前記クエンチャーとしては、TAMRA(登録商標)およびMGBが挙げられるが、これらに限定されない。2種類以上のDNA標的配列を区別して検出するためには、それぞれ異なる蛍光色素を結合させた2種類以上のオリゴヌクレオチドプローブ(例えばTaqManプローブ)を用いてPCRを行う。
【0040】
工程(5)において、使用する蛍光色素に対応した蛍光フィルターを用いてRT-PCR産物の増幅曲線を測定する。PCRサイクル数に応じて蛍光強度が増加する場合には、検体における分析対象のRNAウイルスの存在が陽性であると判定され、一方、PCRにおいて蛍光強度が増加しない場合は陰性であると判定される。
【0041】
本発明の一実施態様において、1種以上の界面活性剤を含む検体処理液、ならびに逆転写酵素およびDNAポリメラーゼを含む1ステップRT-PCR反応液を含む、RNAウイルスの検出キットが提供される。
【実施例0042】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【実施例0043】
〔検体中のウイルスRNA露出に及ぼす界面活性化剤および水酸化物の効果〕
(1)検体
ノロウイルスを含むヒト糞便(10例)をそれぞれ100mg採取し、1mLの蒸留水に懸濁して、約10%(w/v)の糞便乳剤とした。該糞便乳剤を、10000rpmで5分間、室温で遠心分離し、遠心上清を検体とした。
【0044】
(2)検体処理液
下記の成分を含む検体処理液を調製した。
50mM 水酸化ナトリウム(NaOH)、
0.1%(w/v)ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、および
625μM dNTP(dATP、dGTP、dCTPおよびdTTP)
【0045】
(3-1)検体処理
蓋なしPCR反応チューブに上記検体処理液4μLを取り、そこへ上記検体1μLを加えた後、室温で3分間放置した。
(3-2)熱処理を伴う検体処理
比較として、15mM NaOHを含むが、SDSを含まない検体処理液を用いて検体を処理した。該検体処理液として、ノロウイルス検出試薬キット(プローブ法)(島津製作所、製品番号241-09325-91)に含まれる検体処理液(Sample Treatment Reagent)を使用した。PCR反応チューブに前記検体処理液9μLを取り、そこへ上記検体1μLを入れて撹拌混合し、小型遠心分離器によりスピンダウンした後、90℃の恒温装置内に置き、5分間加熱処理した。この熱処理後、PCR反応チューブを小型遠心分離器によりスピンダウンし、そのまま氷冷した。
【0046】
(4)1ステップRT-PCR反応
上記3-1で得られた処理液5μLを含むPCR反応チューブに、1ステップRT-PCR反応液20μLを添加し、または、上記3-2で得られた処理液10μLを含むPCR反応チューブに、1ステップRT-PCR反応液15μLを添加し、撹拌混合した後、小型遠心分離器によりスピンダウンした。この後、リアルタイムPCR装置(GVP-9600、島津製作所)を用いて直ちに反応を開始した。
【0047】
(5)1ステップRT-PCR反応液の組成
上記3-1で得られた処理液5μLには、下記反応液組成になるように1ステップRT-PCR反応液を添加した。上記3-2で得られた処理液10μLには、ノロウイルス検出試薬キット(プローブ法)(島津製作所、製品番号241-09325-91)に含まれる試薬(NoV Reagent A、B及びC)を混合して調製した1ステップRT-PCR反応液を添加した。
反応中の組成は以下の通りとした。
40mM トリス
0.025ユニット/μL Taqポリメラーゼ
1ユニット/μL 逆転写酵素
3.75mM 塩化マグネシウム
400nM PCRプライマーセット(COG1F/COG1RおよびCOG2F/COG2R)(非特許文献3、表11を参照)
200nM 蛍光標識プローブ(TaqManプローブ:G1A、G1BおよびG2)
【0048】
(6)RT-PCRの設定条件
「45℃/5分」の逆転写反応後、「95℃/3分」の初期変性を行い、次いで「95℃/1秒 - 56℃/10秒」のPCRを45サイクル行った。測光は、56℃/10秒のステップで行った。
【0049】
(7)結果と考察
測光結果を表1に示した。表1は、検体を、本発明に係る検体処理液により処理した場合と、従来法である熱処理した場合を比較したものであり、Ct値を示している。Ct値は、リアルタイムPCRにおいて、増幅曲線と閾値(Threshold)が交差するサイクル数のことである。表1より、従来法である熱処理した場合と本発明に係る検体処理液により処理した場合との間で、すべての検体についてCt値は、ほぼ同じであることが示された。この結果は、いずれの処理においても初期鋳型量がほぼ同じであることを示す。すなわち、界面活性化剤および水酸化物を用いることにより熱処理を省くことができる本発明に係る検体処理により、熱処理を行う従来法と同等のウイルスRNA露出効果があることが分かる。
【0050】
【表1】
【手続補正書】
【提出日】2023-07-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体中のRNAウイルスを検出する方法であって、
(1)検体を蒸留水、生理食塩水または緩衝液に懸濁する程、
(2)工程(1)で生成した懸濁液の遠心上清を抽出する程、
(3)工程(2)で抽出した遠心上清と、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの一方又は両方から成る水酸化物と、1種以上の界面活性剤を含む検体処理液とを混合し、混合液を得る工程、
(4)工程(3)で得られた混合液と、逆転写酵素およびDNAポリメラーゼを含む1ステップRT-PCR反応液を混合し、RT-PCRを行う工程、および、
(5)前記RT-PCR産物を検出する工程、
を含み、
前記1ステップRT-PCR反応液が、少なくともトリスを含むことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記RNAウイルスが、ノロウイルス、ロタウイルス、ライノウイルス、コロナウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、C型肝炎ウイルス、日本脳炎ウイルスおよびデングウイルスからなる群より選ばれる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記RNAウイルスが、ノロウイルスである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ノロウイルス遺伝子型が、ジェノグループI(GI)またはジェノグループII(GII)である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記検体が、生物試料、生物由来試料、環境試料および環境由来試料からなる群より選ばれる試料に由来する、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記検体が、排泄物試料、排泄物由来試料、嘔吐物および嘔吐物由来試料からなる群より選ばれる試料に由来する、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記界面活性剤が、陰イオン界面活性剤である、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記陰イオン界面活性剤が、アルキルサルフェート、アルキルエーテルサルフェート、ドキュセート、スルホネートフルオロ界面活性剤、アルキルベンゼンスルホネート、アルキルアリールエーテルホスフェート、アルキルエーテルホスフェート、アルキルカルボキシレート、ラウロイルサルコシンナトリウム、カルボキシレートフルオロ界面活性剤、コール酸ナトリウムおよびデオキシコール酸ナトリウムからなる群より選ばれる1種以上の陰イオン界面活性剤である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記陰イオン界面活性剤が、アルキルサルフェートである、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記アルキルサルフェートが、ドデシル硫酸ナトリウムまたはドデシル硫酸アンモニウムである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記工程(3)における検体と検体処理液との混合比が、体積比として1:3~6である、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記逆転写酵素が、AMV逆転写酵素、MMLV逆転写酵素、HIV逆転写酵素およびこれらの変異体からなる群より選ばれる、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記DNAポリメラーゼが、Taq DNAポリメラーゼ、Tth DNAポリメラーゼ、KOD DNAポリメラーゼ、Pfu DNAポリメラーゼおよびこれらの変異体からなる群より選ばれる、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記水酸化物の濃度が10~100mMであり、
前記界面活性剤の濃度が、0.02~0.5%(w/v)である、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記混合液と、前記1ステップRT-PCR反応液とを混合した溶液がアルカリ性を示す、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記工程(3)が、1~60℃の温度下で行われる、請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記工程(3)~(5)が、同一容器内で行われる、請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記工程(5)において、蛍光フィルターを用いてRT-PCR産物の増幅曲線を測定し、検体におけるRNAウイルスの存在が陽性であること、または陰性であることを判定する、請求項1~17のいずれか1項に記載の方法。