(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023115416
(43)【公開日】2023-08-21
(54)【発明の名称】合板/布PSF/紙PSF複合体
(51)【国際特許分類】
B32B 23/10 20060101AFI20230814BHJP
C08G 8/00 20060101ALI20230814BHJP
B32B 5/28 20060101ALI20230814BHJP
B32B 27/42 20060101ALI20230814BHJP
B27D 1/04 20060101ALI20230814BHJP
【FI】
B32B23/10
C08G8/00 C
B32B5/28 A
B32B27/42 101
B27D1/04 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022017596
(22)【出願日】2022-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】000100698
【氏名又は名称】アイカ工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】北村 丞
【テーマコード(参考)】
2B200
4F100
4J033
【Fターム(参考)】
2B200AA01
2B200BA01
2B200BB13
2B200CA20
2B200HA03
4F100AH01C
4F100AJ04B
4F100AK33B
4F100AK33C
4F100AK41B
4F100AP02A
4F100BA03
4F100BA07
4F100DG10C
4F100DG11B
4F100DH01B
4F100EJ17
4F100EJ42
4F100EJ82B
4F100EJ82C
4F100GB07
4F100JB01
4F100JJ03
4F100JJ04
4F100JK09
4F100YY00B
4F100YY00C
4J033CA02
4J033CA11
4J033CB02
4J033CB18
4J033CB21
4J033CC04
4J033CD01
4J033HA03
4J033HA13
4J033HB01
4J033HB02
(57)【要約】
【課題】
コンクリート型枠、他さまざまな使用方法がなされる塗装合板よりも耐久性のある、特に耐摩耗性が高い複合体を得ることである。
【解決手段】
合板、布PSF、紙PSFの順で貼り合わされた複合体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
合板、布PSF、紙PSFの順で貼り合わされた複合体。
【請求項2】
布PSF、紙PSFのフェノール樹脂がレゾール樹脂であって、フェノール樹脂の含侵量が、30~250g/m2である請求項1に記載の複合体。
【請求項3】
請求項1、または請求項2に記載のPSFが、紙にフェノール樹脂を含侵させた後、100~150℃にて半硬化させた紙PSFプリプレグ、布にフェノール樹脂を含侵させた後、100~150℃にて半硬化させた布PSFプリプレグを用いて作製された複合体。
【請求項4】
合板が、針葉樹である請求項1~3いずれかに記載の複合体。
【請求項5】
合板、布PSF、紙PSFの順で重ねた後、100~150℃、0.5~2.0MPa、1~60分熱プレスされることによって得られる請求項1に記載の複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート型枠等に使用される塗装合板よりも耐久性のある複合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
塗装合板の代表的な用途は、コンクリート型枠である。コンクリート型枠として使用される場合、1回使用しただけで廃棄されることは無く、塗装合板は何度も使い回しされる。耐摩耗性が低いと塗装合板の表面が荒れて、コンクリート型枠を外した時に、綺麗なコンクリート表面を得ることができなくなる。
塗装合板のその他の用途としては、仮設住宅の床材、工場の腰壁や敷板、家畜建屋の内装として使用されたり、橋梁塗装工事、高速道路の塗り替え工事の仮囲いに使用されたりもする。
人が直接触れる様な使用方法、何度も組み立て解体を行うような使用方法なので、更なる耐久性、特に耐摩耗性が要求される。
【0003】
一方、PSFとは、Phenolic resin Surface Filmの略で、紙、布等にフェノール樹脂を含浸させて、半硬化させたプリプレグである。何らかの被着体に、PSFを載せて、熱圧成形することで、その被着体にPSFを接着することもできる。尚、本願では、紙にフェノール樹脂を含浸させてプリプレグにしたものを紙PSF、布にフェノール樹脂を含浸させてプリプレグにしたものを布PSFと表現することにする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-053738
【特許文献2】特開2000-327797
【特許文献3】特開2009-091446
【特許文献4】特開2003-127156
【0005】
特許文献1は、接着剤、コーティング剤、バインダー等に有用な硬化性樹脂、並びにそれを用いた硬化性材料及び成形材に関する公報である。基材にフェノール樹脂を塗布し又は含浸させ、熱圧成形してあるが、塗装合板代替検討は行なわれていない。特許文献2は、自動車の内装材や建材等に使用される成形材料、それを用いた内装材、及び該成形材料の製造方法に関する公報である。繊維にフェノール樹脂を含浸させ、熱圧成形してあるが、特許文献1同様、塗装合板代替検討は行なわれていない。
【0006】
特許文献3は、滑り軸受等の摺動部材に用いられる繊維強化樹脂組成物及びこれを使用した積層摺動部材に関する公報である。繊維に、レゾール型フェノール樹脂を含浸させ、プリプレグを作製してあるが、塗装合板代替検討は行なわれていない。特許文献4は、植物繊維に樹脂バインダーを混合した混合物を熱圧成形する繊維系建築板の製造方法に関する公報である。塗装合板代替品として用いるには改善の余地があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
コンクリート型枠、他さまざまな使用方法がなされる塗装合板よりも耐久性のある、特に耐摩耗性が高い複合体を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らが鋭意検討を行った結果、合板、布PSF、紙PSFの順で貼り合わされた複合体を得るに至った。
【発明の効果】
【0009】
コンクリート型枠、他さまざまな使用方法がなされる塗装合板よりも耐久性のある、特に耐摩耗性が高い複合体なので、コンクリート型枠としてはもとより、仮設住宅の床材、工場の腰壁や敷板、家畜建屋の内装として使用されたり、橋梁塗装工事、高速道路の塗り替え工事の仮囲いに使用された場合でも、良好な外観を保つことができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本願発明の合板/布PSF/紙PSF複合体の一例を示す。
【0011】
本願発明の布PSF、紙PSFに用いられるフェノール樹脂は、レゾール樹脂、ノボラック樹脂どちらでも構わない。レゾール樹脂の場合、水系重合を行い、布または紙に含浸させ、100~150℃に加温することでプリプレグを得ることができる。ノボラック樹脂の場合は、ノボラック樹脂を溶剤に溶解させ、テトラメチレンヘキサミンを加え、布または紙に含浸させ、100~150℃に加温することでプリプレグを得ることができる。プリプレグの保存安定性からすると、より好適な樹脂はレゾール樹脂である。
【0012】
レゾール型フェノール樹脂の製造方法としては、フェノール類(P)とアルデヒド類(F)をアルカリ触媒(C)の存在下反応させる事によって得られる。
本発明において使用されるフェノール類(P)としては、例えばフェノール、クレゾール、キシレノール、ノニルフェノール、パラ-ターシャリー-ブチルフェノール、パラ-セカンダリー-ブチルフェノール、ナフトール、カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン、メチルヒドロキノン、ジメチルヒドロキノン等が挙げられる。
アルデヒド類(F)としてはフェノール樹脂の製造に使用可能とされているアルデヒド類(F)であれば使用可能である。
例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキサン(メタホルムアルデヒド)などを単独もしくは2種以上混合して使用することができる。
上記アルデヒド類(F)の使用量はフェノール類(P)の合計量1モルに対して0.5~3.5モル、より好適には1.0~3.0モルの割合で用いるのが望ましい。
【0013】
フェノール類(P)とアルデヒド類(F)とを反応させる際に用いる触媒(C)としては、特に制限はなく、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン等の塩基性触媒を適宜使用することができる。
フェノール類(P)とアルデヒド類(F)とを反応させる方法には、特に制限はなく、例えばフェノール類(P)とアルデヒド類(F)、および触媒(C)を一括で仕込み反応させる方法、またはフェノール類(P)と触媒(C)を仕込んだ後、所定の反応温度にてアルデヒド類(F)を添加する方法が挙げられる。
大量の触媒(C)を使用する場合、かなりの発熱反応とので、熱暴走反応を防ぐ為には、触媒(C)は分割投入することもできる。
【0014】
一次反応におけるアルデヒド類(F)の添加量は、47%-ホルムアルデヒドの場合、フェノール類(P)100質量部に対し100~170質量部、より好適には120~150質量部である。一次反応における触媒(C)の添加量は、48%-水酸化ナトリウム溶液の場合、フェノール類(P)100質量部に対し1~20質量部、より好適には3~15質量部である。一次反応は、アルデヒド類(F)とフェノール類(P)と触媒(C)を規定量添加して、反応温度を30~55℃、より好適には35~50℃の範囲で行うのが好ましい。
【0015】
温度が安定したら、追加の触媒(C)を添加して、二次反応を開始する。触媒(C)の添加量としては48%-水酸化ナトリウムの場合、フェノール類(P)100質量部に対し1~20質量部、より好適には3~15質量部である。48%-水酸化ナトリウムの添加が終わると、二次反応温度は50~90℃、より好適には60~80℃範囲で行うのが好ましい。
【0016】
二次反応が終了すると、未反応のアルデヒド類(F)を取り除くため、未反応のアルデヒド類(F)と反応する尿素を添加することができる。尿素の添加量としては、フェノール類(P)100質量部に対し0.1~20質量部、より好適には1~10質量部である。
【0017】
紙PSFに用いられる紙は、市販のクラフト紙を使用することができる。作製量が多い場合は、ロール品を使用することもできる。市販のクラフト紙を合成済みのレゾール樹脂水溶液に含浸させて、余剰のフェノール樹脂水溶液を2本ロールにて絞り出し、110~150℃の熱炉を通せば、プリプレグは完成する。
【0018】
布PSFに用いられる布は、コットン、麻、絹、等の天然素材の布、ナイロン、ポリアミド、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、ポリウレタン、ポリオレフィン、合成繊維の布、何れも使用することができる。フェノール樹脂水溶液を含浸させるので、より好適な材料としては、コットン、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリウレタンが挙げられる。
複数の材料で織った布を使用することもできる。
布PSFは、紙PSF作製方法と同様の方法で得ることができる。
【0019】
合板/布PSF/紙PSF複合体作製に用いる合板は、市販のものを使用することができ、針葉樹でも広葉樹でも構わない。厚みとしては、2.5~30mm、より好適には5~20mmの合板を用いると良い。針葉樹と広葉樹とでは、針葉樹の方が、ヤニ等が多く、接着し難くなっている。
【0020】
合板/布PSF/紙PSF複合体の作製方法については、この順番で重ねて、熱圧成形作製することができる。
圧締条件としては、0.3~3.0MPa、より好適には0.5~2.0MPa、温度条件としては、100~150℃、より好適には110~140℃、圧締時間については1~60分、より好適には5~50分である。
【実施例0021】
レゾール樹脂の合成
フェノールを10kg、47%-ホルムアルデヒドを14kg、水1.5kg、48%-水酸化ナトリウムを0.5kg反応容器に秤量し、撹拌しながら40~45℃に昇温し、1時間撹拌し、一次反応を終了させた。次に、48%-水酸化ナトリウムを0.5kg添加し、二次反応を開始した。80℃を越えない様に、3.5時間撹拌し、二次反応を終了させた。最後に、尿素を0.5kg添加して、溶解させて反応を終結させた。
このレゾール樹脂の30℃における粘度は、109mPa・s、固形分は53.4%であった。
【0022】
紙PSFの作製
1200mm幅のクラフト紙を、レゾール樹脂の合成で得たレゾール樹脂に含浸させ、2本ロールを通し余剰のフェノール樹脂水溶液を2本ロールにて絞り出し、130℃の熱炉し、紙PSFプリプレグを作製した。尚、炉中のラインスピードは、30m/分であった。
尚、表1~4には、これらを紙PSFと記載している。
【0023】
布PSFの作製
1200mm幅の(コットン/ポリエステル)比が重量基準で、(100/0)、(37/63)、(20/80)、3種類の布を準備した。紙PSFの作製方法と同様の手順で、布PSFプリプレグ3種類を作製した。尚、表1~4にはこの3種類を、布PSF(C/P)=(100/0)、布PSF(C/P)=(37/63)、布PSF(C/P)=(20/80)と記載している。
【0024】
実施例1の合板/布PSF/紙PSF複合体の作製
実施例1~12、比較例1~12を行うにあたり、市販の150mm×150mm×12mm厚の針葉樹合板と広葉樹合板、150mm×150mmの紙PSF、布PSF(C/P)=(100/0)、布PSF(C/P)=(37/63)、布PSF(C/P)=(20/80)を準備した。
実施例1の合板/布PSF/紙PSF複合体は、針葉樹合板の上に布PSF(C/P)=(100/0)、その上に紙PSFを載せて、130℃、1.2MPa、10分間熱圧成形を行った。
【0025】
実施例2~12、比較例1~12の合板/布PSF/紙PSF複合体の作製
表1~4に示した材料を用い、実施例1の合板/布PSF/紙PSF複合体の作製と同様の方法で、実施例2~12、比較例1~12の合板/布PSF/紙PSF複合体を作製した。実施例8~10は広葉樹合板、その他は針葉樹合板を用いた。
尚、実施例2~12、比較例1~12、全て合板を用いているが、その上に載せる材料について、表1~4では、(〇)を付けている。
また、比較例1~12は、必ずしも合板/布PSF/紙PSFの複合体になっているとは限らない。基材重量(紙または布の重量)と、フェノール樹脂含侵量も表1~4に示す。
【0026】
耐摩耗性試験方法
JIS K6902(熱硬化性樹脂高圧化化粧板試験法)に準拠して試験を行った。
試験機 :TABER社製 5155ABRASER
荷重 :500g
サンドペーパー:スリーエム社製 200MP
回転速度 :72
【0027】
耐摩耗性試験結果
実施例1の合板/布PSF/紙PSF複合体と、参考例1として市販の塗装合板(150mm×150mm×12mm厚)を用いた。
合板/布PSF/紙PSF複合体は、紙の下の布が露出した時点の回数を記入した。塗装合板は、合板基材が露出した時点の回数を記入した耐摩耗性試験結果を表5に示す。尚、試験はn=2にて行っている。
合板/布PSF/紙PSF複合体は塗装合板と比較して、格段に耐摩耗性が高いことが示された。
【0028】
JAS寒熱繰返し(クラック)試験
試験片を金属枠に固定し、60±3℃の恒温器中に2時間放置した後、-20±3℃の恒温器中に2時間放置する工程を2回繰り返し、室温に達するまで放置する。室温に戻った試験片の合板でない方の面の外観(クラック)の有無を確認する。判定基準は、クラック、膨れ、剥がれが確認されない場合は合格(:〇)、クラック、膨れ、剥がれが確認される場合は不合格(:×)である。結果を表6~9に示す。
【0029】
JAS耐アルカリ(膨れ)試験
試験片の合板でない方の面に1%水酸化ナトリウム水溶液を約5mL滴下し、時計皿で48時間被覆した後、ただちに水洗いし、室内に24時間放置する。判定基準としては、48時間経過後、水溶液が残っている場合は合格(:〇)、水溶液が残っていない場合は不合格(:×)である。また、24時間放置後、割れ、膨れ、■がれ、著しい変色、つやの変化が無い場合は合格(:〇)、割れ、膨れ、■がれ、著しい変色、つやの変化がある場合は不合格(:×)である。結果を表6~9に示す。
【0030】
JAS耐アルカリ(溶液変色)試験
JAS耐アルカリ(膨れ)試験と同様の操作を行う。判定基準としては、水溶液の変色が無い場合を合格(:○)、水溶液の変色がある場合は不合格(:×)である。結果を表6~9に示す。
【0031】
JAS平面引張試験
試験片の合板でない方の面の中央に一片が20mmの正方形状の接着面を有する金属盤を、シアノアクリレート系接着剤を用いて接着し、金属周囲に合板に達するまでの傷をつけて、接着面と直角の方向に毎分5,880N以下の荷重速度で引張り、離時又は破壊時における最大荷重を測定した。判定基準は、n=2平均で、1.0MPa以上は合格(:〇)、1.0MPa未満は不合格(:×)である。結果を表6~9に示す。
【0032】
合板、布PSF、紙PSFの順で貼り合わされた複合体である実施例1~12は、JAS寒熱繰返し(クラック)試験、JAS耐アルカリ(膨れ)試験、JAS耐アルカリ(溶液変色)試験、JAS平面引張試験、全て合格となった。
【0033】
合板に、紙PSFのみしか貼り合わされていない比較例1~3は、JAS寒熱繰返し(クラック)試験が不合格となった。合板に、布PSFのみしか付けていない比較例4~6は、JAS耐アルカリ(膨れ)試験が不合格となった。
【0034】
合板に紙PSF、更に紙PSFが貼り合わされた比較例7~9は、JAS寒熱繰返し(クラック)試験が不合格となった。合板に布PSF、更に布PSFを付けた比較例10~12は、JAS耐アルカリ(膨れ)試験が不合格となった。
【0035】
【0036】
【0037】
【0038】
【0039】
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】