(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023115422
(43)【公開日】2023-08-21
(54)【発明の名称】衝撃試験機
(51)【国際特許分類】
G01M 7/08 20060101AFI20230814BHJP
G01N 3/303 20060101ALI20230814BHJP
【FI】
G01M7/08 A
G01N3/303 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022017613
(22)【出願日】2022-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】000219314
【氏名又は名称】東レエンジニアリング株式会社
(72)【発明者】
【氏名】藤井 裕崇
【テーマコード(参考)】
2G061
【Fターム(参考)】
2G061AA13
2G061AB04
2G061DA01
(57)【要約】
【課題】 比較的コンパクトな構成にも関わらず、衝突速度の繰り返し精度を高めた衝撃試験機を提供すること。
【解決手段】 衝撃試験対象物にかかる衝撃を評価する衝撃試験機であって、
衝撃試験対象物を乗せるスレッドと、スレッドを所定の衝突速度に駆動するスレッド駆動部とを備え、
スレッド駆動部は、
重力の作用により落下移動するウエイトと、
ウエイトの落下移動による位置エネルギーを、スレッドを駆動する運動エネルギーに変換し伝達する、駆動力伝達部とを備え、
駆動力伝達部に生じたエネルギー伝達のロスにより生じた衝突速度の減少を補うように、スレッドの駆動を補助する補助駆動部とを備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
衝撃試験対象物にかかる衝撃を評価する衝撃試験機であって、
前記衝撃試験対象物を乗せるスレッドと、
前記スレッドを所定の衝突速度に駆動するスレッド駆動部とを備え、
前記スレッド駆動部は、
重力の作用により落下移動するウエイトと、
前記ウエイトの落下移動による位置エネルギーを、前記スレッドを駆動する運動エネルギーに変換し伝達する、駆動力伝達部とを備え、
前記駆動力伝達部に生じたエネルギー伝達のロスにより生じた前記衝突速度の減少を補うように、前記スレッドの駆動を補助する補助駆動部とを備えた
ことを特徴とする、衝撃試験機。
【請求項2】
前記ウエイトは、前記衝撃試験対象物および前記スレッドの合計重量よりも重く、
前記駆動力伝達部は、前記スレッドの前記駆動速度を前記ウエイトの落下移動する速度よりも速い速度に変換することを特徴とする、請求項1に記載の衝撃試験機。
【請求項3】
前記駆動力伝達部は、
前記ウエイトが落下移動する力を回転しながら入力する一次側回転体と、
前記スレッドに伝達する力を回転しながら出力する二次側回転体と、
前記一次側回転体が回転する周速よりも速い周速で前記二次側回転体が回転するように回転比率が設定された回転速度変換部を備え、
前記補助駆動部は、
前記駆動力伝達部に備えられた回転体に回転駆動力を付与するサーボモータを備え、
当該サーボモータの回転速度及び/又は回転トルクを制御して前記スレッドの駆動を補助することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の衝撃試験機。
【請求項4】
前記補助駆動部は、
重力の作用により落下移動する補助ウエイトを備え、
前記補助ウエイトの落下移動による位置エネルギーを運動エネルギーに変換して前記スレッドに伝達させ、当該スレッドの駆動を補助する
ことを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の衝撃試験機。
【請求項5】
前記ウエイトの落下方向を案内するガイドレールを備え、
前記ガイドレールの角度を変更する落下角度変更部を備えた
ことを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載の衝撃試験機。
【請求項6】
前記ウエイトの落下方向を案内するガイドレールを備え、
前記ガイドレールが、湾曲した形状である
ことを特徴とする、請求項1~5のいずれかに記載の衝撃試験機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝撃試験対象物にかかる衝撃を評価する衝撃試験機に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、落錘と呼ばれる重量物を所定の高さから落下させて、自動車本体や構造部材、部品等(衝撃試験対象物)にかかる衝撃等を評価する試験機がある(例えば、特許文献1)。
一方、自動車本体や構造部材、部品等(衝撃試験対象物)の乗せたスレッドと呼ばれる台車を、所定の高さから落下させた落錘により引っ張り、所定の衝突速度に加速させて衝撃試験を行う方式もある(例えば、特許文献2,3)。
一方、アキュムレータに蓄積・蓄圧された作動油により、油圧アクチュエータのピストンを打ち出し、衝撃試験対象物にかかる衝撃等を評価する試験機が提案されている(例えば、特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-322161号公報
【特許文献2】特開2015-10864号公報
【特許文献3】特開2016-114384号公報
【特許文献4】特開2002-162313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、特許文献1のように落錘を自由落下させる方式では、重力加速度(1G)以上の加速度を得ることができないため、衝突速度を上げるにはより高い位置から落錘を落下させる必要がある。また、特許文献2のように落錘によりスレッドを引っ張り加速させる方式では、重力加速度(1G)以上の加速度を得ることができず、所定の衝突速度までの加速に必要な距離(いわゆる、助走距離)が長くなる。また、特許文献3のように動滑車を用いて1G以上の加速度が得ようとする構成もあるが、動滑車の揺動やワイヤーの伸縮等によるエネルギー伝達のロスが大きいため、所望の加速度を得ることや衝突速度の繰り返し精度を高めることが困難であった。
【0005】
一方、特許文献4のような油圧アクチュエータ方式では、重力加速度以上の加速度を得ることができるが、アキュムレータやカタパルトと呼ばれる大がかりな設備の建設が必要となる。また、電動アクチュエータ方式で重力加速度以上の加速度を得ようとすると、瞬間的に大きな電力が必要となるため、受電設備等の増強が必要であり、装置導入の妨げとなっていった。
【0006】
そこで、本発明は、比較的コンパクトな構成にも関わらず、衝突速度の繰り返し精度を高めた衝撃試験機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の課題を解決するために、本発明に係る一態様は、
衝撃試験対象物にかかる衝撃を評価する衝撃試験機であって、
衝撃試験対象物を乗せるスレッドと、
スレッドを所定の衝突速度に駆動するスレッド駆動部とを備え、
スレッド駆動部は、
重力の作用により落下移動するウエイトと、
ウエイトの落下移動による位置エネルギーを、スレッドを駆動する運動エネルギーに変換し伝達する、駆動力伝達部とを備え、
駆動力伝達部に生じたエネルギー伝達のロスにより生じた衝突速度の減少を補うように、スレッドの駆動を補助する補助駆動部とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
比較的コンパクトな構成で、衝突速度の繰り返し精度を高めた衝撃試験を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明を具現化する形態の一例の全体構成を示す概略図である。
【
図2】本発明を具現化する形態の一例の要部を示す概略図である。
【
図3】本発明を具現化する形態の別の一例の全体構成を示す概略図である。
【
図4】本発明を具現化する形態の別の一例の全体構成を示す概略図である。
【
図5】本発明を具現化する形態の別の一例の全体構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明を実施するための形態について、図を用いながら説明する。
なお、以下の説明では、直交座標系の3軸をX、Y、Zとし、水平方向をX方向、Y方向と表現し、XY平面に垂直な方向(つまり、重力方向)をZ方向と表現する。また、Z方向は、重力に逆らう方向を上、重力がはたらく方向を下と表現する。また、Y方向を中心軸として回転する方向をθ方向と呼ぶ。また、X方向またはY方向を横と表現することがある。
【0011】
図1は、本発明を具現化する形態の一例の全体構成を示す概略図である。
図1には、本発明に係る衝撃試験機1の概略図が示されている。
【0012】
衝撃試験機1は、衝撃試験対象物Wにかかる衝撃を評価するものである。
衝撃試験機1の具体例として、自動車等の本体や構造部材、ドアやバンパー等の部品、座席に座った人等の衝撃試験対象物Wを壁1wに衝突させ、衝撃試験対象物Wにかかる衝撃等を評価する構成を以下に示す。
より具体的には、衝撃試験機1は、スレッド2、スレッド駆動部3、装置フレーム1f等を備えている。
【0013】
装置フレーム1fは、衝撃試験機1を構成する各部を所定の位置や間隔で支持するものである。具体的には、装置フレーム1fは、破線で示す様に、X方向およびZ方向に延びるL字状の部材が2つ1組で備えられており、これらL字状の部材をY方向に所定の間隔で配置しつつ固定する棒状の連結部材を備えている。
【0014】
スレッド2は、衝撃試験対象物Wを乗せるものである。
具体的には、スレッド2は、衝撃試験対象物Wを所定の速度(衝突速度)に加速・減速させる際に、所定の姿勢が保たれる様に固定して乗せるものである。
より具体的には、スレッド2は、衝撃試験対象物Wを固定する載置台21を備えている。
【0015】
スレッド駆動部3は、スレッド2を所定の衝突速度Vに駆動するものである。
具体的には、スレッド駆動部3は、衝撃試験対象物Wに所定の衝撃が加えられる様に、壁1wに向けて所定の衝突速度Vに達するまで、スレッド2の載置台21をX方向に加速させるものである。
より具体的には、スレッド駆動部3は、ウエイト4、駆動力伝達部5、補助駆動部6を備えている。
【0016】
ウエイト4は、重力の作用により落下移動するものである。
具体的には、ウエイト4は、落錘とも呼ばれ、高い位置から下方に落下させてスレッド2を駆動するためのエネルギー源とするものである。
より具体的には、ウエイト4は、衝撃試験対象物Wとスレッド2の載置台21の合計重量よりも重い鋼鉄のブロックで構成されている。
そして、ウエイト4を落下させる高さH1(つまり、落下高さ)の下方には、ストッパ1sが備えられている。ストッパ1sは、ウエイト4の落下移動を止めるものである。具体的には、ストッパ1sは、ダンパーやショックアブソーバなどの所定の静定距離で運動エネルギーを吸収して静止させる機構で構成されており、装置フレーム1fと縁切りされた構造物や基礎部材等に、或いは衝撃を吸収する機構や部材等を介して装置フレーム1f等に取り付けられている。
【0017】
駆動力伝達部5は、ウエイト4の落下移動による位置エネルギーUを、スレッド2を駆動するX方向の運動エネルギーKxに変換し伝達するものである。
具体的には、駆動力伝達部5は、ウエイト4の落下移動に伴い位置エネルギーUが重力方向の運動エネルギーKzに変換されるので、その運動エネルギーKzをX方向の運動エネルギーKxに変換してスレッド2に伝達し、衝撃試験対象物Wを乗せたスレッド2をX方向に駆動して所定の衝突速度Vに到達するように加速させるものである。
より具体的には、駆動力伝達部5は、一次側回転体5R、二次側回転体5S、回転速度変換部5Tを備えている。詳しくは、駆動力伝達部5は、第1回転部5A、第2回転部5B、第3回転部5C、第4回転部5D、ベルト5J,5K,5L、ガイドレール57等を備えている。
【0018】
第1回転部5Aは、第2回転部5Bと共に回転し、ウエイト4が落下移動する際に生じる運動エネルギーKzが、第2回転部5Bに伝達されるように補助するものである。
具体的には、第1回転部5Aは、第2回転部5Bの上方で、ウエイト4の移動区間の上方横側に配置されている。
より具体的には、第1回転部5Aは、回転軸50a、回転体51a、軸受54aを備えている。
【0019】
回転軸50aは、回転体51aをθ方向に回転させるものである。
具体的には、回転軸50aは、Y方向に所定の長さを有するシャフトで構成されており、その両端が回転軸受54aにより回転可能な状態で支持されて、装置フレーム1fに取り付けられている。さらに、回転軸50aには、回転体51aが取り付けられており、共に矢印Raで示す方向に回転する構成をしている。
【0020】
回転体51aは、ウエイト4が落下移動する際に生じる運動エネルギーKzが、第2回転部5Bに入力されるように補助するものである。
具体的には、回転体51aは、外周が歯車状で外径D1のプーリーにて構成されており、ベルト5Jが掛け渡されている。
【0021】
ベルト5Jは、ウエイト4が落下移動する力を第2回転部5Bに伝達するものである。
具体的には、ベルト5Jの直線移動区間にウエイト4が取り付けられており、ウエイト4が落下移動により位置エネルギーUから変換された運動エネルギーKzにより回動する。このとき、ウエイト4が落下移動すると共に、速度V1でベルト5Jが回動する。
【0022】
第2回転部5Bは、ウエイト4が落下移動する際に生じる運動エネルギーKzを入力し、スレッド2を駆動する力として第3回転部5Cに伝達するものである。
具体的には、第2回転部5Bは、第1回転部5Aの下方で、ウエイト4の移動区間の下方横側に配置されている。
より具体的には、第2回転部5Bは、回転軸50b、回転体51b、回転体52b、軸受54bを備えている。
【0023】
回転軸50bは、回転体51b,52bをθ方向に回転させるものである。
具体的には、回転軸50bは、回転軸50aの下方に配置されており、回転軸50aの回転に連動して回転するものである。
より具体的には、回転軸50bは、Y方向に所定の長さを有するシャフトで構成されており、その両端が回転軸受54bにより回転可能な状態で支持されて、装置フレーム1fに取り付けられている。さらに、回転軸50bには、回転体51bと回転体52bが取り付けられており、これらが共に矢印Rbで示す方向に回転する構成をしている。
【0024】
回転体51bは、ウエイト4が落下移動する力を回転しながら入力するものであり、本発明に係る一次側回転体5Rを構成する。
具体的には、回転体51bは、外周が歯車状で外径D1のプーリーにて構成されており、ベルト5Jが掛け渡されて、回転体52aの回転と連動して回転する構成をしている。
【0025】
回転体52bは、回転体51bに入力された回転力を第3回転部5Cに伝達するものである。
具体的には、回転体52bは、外周が歯車状で外径D2のプーリーにて構成されており、ベルト5Kが掛け渡されている。なお、回転体52bの外径D2は、回転体51bの外径D1よりも大きく設定されている。
【0026】
ベルト5Kは、第2回転部5Bから出力された回転力を第3回転部5Cに伝達するものである。このとき、速度V2でベルト5Kが回動する。
【0027】
第3回転部5Cは、第2回転部5Bから入力された力をスレッド2に伝達するものである。
具体的には、第3回転部5Cは、回転軸50c、回転体51a、回転体52c、軸受54cを備えている。
【0028】
回転軸50cは、回転体51c,52cをθ方向に回転させるものである。
具体的には、回転軸50cは、回転軸50bの側方に配置されており、回転軸50bの回転に連動して回転するものである。
より具体的には、回転軸50cは、その両端が回転軸受54cにより回転可能な状態で支持されて、装置フレーム1fに取り付けられている。さらに、回転軸50cには、回転体51cと回転体52cが取り付けられており、これらが共に矢印Rcで示す方向に回転する構成をしている。
【0029】
回転体51cは、第2回転部5Bから出力された力を入力するものである。
具体的には、回転体51cは、外周が歯車状で外径D3のプーリーにて構成されており、ベルト5Kが掛け渡されている。
【0030】
回転体52cは、スレッド2に伝達する力を回転しながら出力するものであり、本発明に係る二次側回転体5Sを構成する。
具体的には、回転体52cは、外周が歯車状で外径D4のプーリーにて構成されており、ベルト5Lが掛け渡されて、回転体52bの回転と連動して回転する構成をしている。なお、回転体52cの外径D4は、回転体51cの外径D3よりも大きく設定されている。
【0031】
第4回転部5Dは、第3回転部5Cから出力される力が、ベルト5Lを介してスレッド2を駆動する力として伝達されるように、ベルト5Lの回動を補助するものである。
具体的には、第4回転部5Dは、回転軸50d、回転体51d、軸受54dを備えている。
【0032】
回転軸50dは、回転体51dをθ方向に回転させるものである。
具体的には、回転軸50dは、回転軸50cの側方に配置されており、回転軸50cの回転に連動して回転するものである。
より具体的には、回転軸50dは、その両端が回転軸受54dにより回転可能な状態で支持されて、装置フレーム1fに取り付けられている。さらに、回転軸50dには、回転体51dが取り付けられており、共に矢印Rdで示す方向に回転する構成をしている。
【0033】
回転体51dは、第3回転部5Cの回転体52cから出力される力がスレッド2に伝達されるように、補助するものである。
具体的には、回転体51dは、外周が歯車状で外径D4のプーリーにて構成されており、ベルト5Lが掛け渡されて、回転体52cの回転と連動して回転する構成をしている。
【0034】
ベルト5Lは、回転軸50cから出力される回転力を、スレッド2を駆動する力として伝達するものである。このとき、速度V3でベルト5Lが回動する。
具体的には、ベルト5Lの直線移動区間に射出ガイド58が取り付けられており、ベルト5Lの回動により射出ガイド58がX方向に移動することでスレッド2が駆動される。そして、スレッド2が所定の衝突速度Vまでの加速に必要な助走距離S1を移動すると、射出ガイド58が回転体51dの外周に沿って下方に移動し、射出ガイド58はスレッド2から離れ、スレッド2は加速運動から慣性による等速運動に移行し、壁1wに衝突する。
なお、上述した第2回転部5Bの回転体51b,52bと回転軸50b、第3回転部5Cの回転体51c,52cと回転軸50c、ベルト5Kが、本発明に係る回転速度変換部5Tを構成する。
【0035】
ガイドレール57は、スレッド2の載置台21の移動を案内するものである。具体的には、ガイドレール57は、X方向に延びる棒状部材で構成されており、載置台21がX方向にスムーズに移動できるような可動部材が取り付けられている。
【0036】
図2は、本発明を具現化する形態の一例の要部を示す概略図である。
図2には、本発明に係るスレッド駆動部3、駆動力伝達部5を横ないし上から見た様子が示されており、ウエイト4の落下移動をスレッド2の駆動に変換し伝達する様子が示されている。なお、
図2において区間A-BはZ方向(紙面右が重力下方)、区間B-C-DはX方向が示されている。
【0037】
回転速度変換部5Tは、一次側回転体5R(つまり、回転体51b)と二次側回転体5S(つまり、回転体52c)とが異なる回転比率Rtで回転するように回転速度を変換するものであり、一次側回転体5Rが回転する周速よりも速い周速で二次側回転体5Sが回転するように回転比率Rtが設定されている。
【0038】
上述の構成の場合、ウエイト4の落下移動により、直径D1の回転体51b、直径D2の回転体52b、直径D3の回転体51c、直径D4の回転体52cがそれぞれ連動して回転する。そして、回転体51bが1回転すると、回転体52cは、
(D2・D4)/(D1・D3) だけ回転する。
つまり、回転比率Rtは、
Rt=(D2・D4)/(D1・D3) で定義できる。
そのため、ウエイト4が落下高さH1を移動すると、スレッド2の助走距離S1は、
S1= H1・Rt = H1・(D2・D4)/(D1・D3) より算出できる。
【0039】
補助駆動部6は、駆動力伝達部5に生じたエネルギー伝達のロスにより生じた衝突速度の減少を補うように、スレッド2の駆動を補助するものである。
具体的には、補助駆動部6は、プーリーとベルトとの摩擦、軸受けの摺動抵抗、ウエイト4が落下する際の空気抵抗、ガイドレールの摺動抵抗などにより、エネルギー伝達のロスが生じ、スレッド2の衝突速度Vが減少するので、スレッド2の衝突速度Vを補うように、スレッド2の駆動を補助する。
より具体的には、補助駆動部6は、駆動力伝達部5に備えられた回転体に回転駆動力を付与するサーボモータ61を備え、サーボモータ61の回転速度及び/又は回転トルクを制御してスレッド2の駆動を補助する構成をしている。
【0040】
サーボモータ61は、カップリング62を介して、第3回転部5Cの回転軸50cと連結されており、瞬間的に回転速度が増減できるよう、制御部63(サーボコントローラとも呼ばれる)により回転速度及び/又は回転トルクが制御される。
制御部63は、サーボモータ61の回転速度及び/又は回転トルクを制御するものである。具体的には、制御部63は、予め設定された運転レシピに基づいて、ウエイト4の落下(つまり、スレッド2の駆動)が始まってから、所定時間が経過するまで或いは所定回転数に達するまで(つまり、スレッド2が助走距離S1を移動するまで)に、回転軸50cが所定の回転速度で回転(つまり、スレッド2が所定の衝突速度Vで移動)するように、サーボモータ61の回転速度及び/又は回転トルクを制御する。
【0041】
[エネルギー変換および伝達について]
スレッド2及び衝撃試験対象物Wの合計重量をm1(kg)とし、ウエイト4の重量をm2(kg)とする。このとき、m2は、m1に対する重量比Mに設定する。つまり、m2は、m1のM倍の重量で、式 m2=M・m1 で表される。
そして、ウエイト4が加速度aで落下し、衝撃試験対象物Wを乗せたスレッド2が
加速度a’=Rt・aで加速するとき、重力加速度Gのもと、以下のような関係が成り立つ。
スレッド2を駆動する力Tは、T=m1・a’ で、
ウエイト4にはたらく力は、m2・a=m2・G-T のため、
m2・a=m2・G-m1・a’ より、
M・m1・a=M・m1・G-m1・Rt・a
M・a=M・G-Rt・a
a=M・G/(M+Rt) となる。
例えば、重量比M=4、回転比率Rt=4 に設定しておくと、
a=G/2 、a’=2G となる。
つまり、ウエイト4の落下時の空気抵抗や、スレッド駆動部3の各部に摩擦や抵抗によるエネルギー伝達のロスが生じなければ、ウエイト4は0.5Gで落下し、スレッド2と衝撃試験対象物Wは2Gで加速する。
【0042】
そして、スレッド2が所望の衝突速度Vに到達するように、助走距離S1およびウエイト4の落下高さH1を設定する。
一方、実際にはエネルギー伝達のロスが生じて衝突速度Vが減少するため、衝突速度Vの減少を補うように、補助駆動部6にてスレッド2の駆動を補助する。
より具体的には、補助駆動部6は、ウエイト4の位置エネルギーUが、落下高さH1で運動エネルギーKxにすべて変換されるものとして、衝突速度Vと、衝突速度Vでスレッド2を駆動するための二次側回転体である回転体52cの回転速度を算出し、スレッド2が距離S1移動した時に二次側回転体である回転体52cが所定の回転速度で回転するよう、サーボモータ61で補助する。そうすることで、スレッド2が衝突速度Vで壁1wに向けて射出される。
【0043】
この様な構成をしているため、本発明に係る衝撃試験機1は、ウエイト4の落下移動によって、スレッド2がX方向に駆動される際、所定の衝突速度までの加速に必要な距離が長くならず、比較的コンパクトな構成で、衝突速度Vの繰り返し精度を高めることができる。また、スレッド2の駆動は、ウエイト4の落下移動を主なエネルギー源としているため、受電設備等を増強することなく装置導入することができる。
【0044】
[変形例]
本発明は、上述した衝撃試験機1の構成に限定されず、種々変形した構成で具現化できる。
【0045】
図3~5は、本発明を具現化する形態の別の一例の要部を示す概略図である。
図3には、本発明に係る衝撃試験機1Bの概略図が示されている。
図4には、本発明に係る衝撃試験機1Cの概略図が示されている。
図5には、本発明に係る衝撃試験機1Dの概略図が示されている。
なお、衝撃試験機1B,1C,1Dは、それぞれ上述した衝撃試験機1と基本構成が同様のため、同様ないし類似の構成は説明を省略し、相違する構成について下述する。
【0046】
衝撃試験機1Bは、駆動力伝達部5として、ベルト5Jに代えてワイヤー5wを備え、一次側回転体5R(つまり、回転体51b)に巻き付けたワイヤー5wをウエイト4に連結しておき、ウエイト4の落下移動により一次側回転体5Rを回転させる構成をしている。この構成において、第一回転部5Aは、ワイヤー5Wの移動を補助するものとして機能する。また、衝撃試験機1Bは、ガイドレール7を備えている。
【0047】
ガイドレール7は、ウエイト4の落下方向を案内するものである。
具体的には、ガイドレール7は、Z方向に延びる棒状部材で構成されており、装置フレーム1fに取り付けられている。
なお、ガイドレール7は、本発明を具現化する上で必須の構成要素ではないが、ウエイト4が落下移動する際の姿勢変化や落下停止時の脱落等を防止できるために、備えられていることが好ましい。
【0048】
衝撃試験機1Cは、衝撃試験機1Bと同様に駆動力伝達部5として、ベルト5Jに代えてワイヤー5wを備えつつ、補助駆動部6として、サーボモータ61に代えて、又はサーボモータ61に加えて、補助ウエイト65を備えている。さらに、衝撃試験機1Cは、ガイドレール7に加え、落下角度変更部8を備えている。
【0049】
補助ウエイト65は、ウエイト4の落下開始時(つまり、初動)の加速度を増すためのものである。
具体的には、補助ウエイト65は、重力の作用による落下移動により、位置エネルギーUsを運動エネルギーKsに変換してスレッド2に伝達させ、スレッド2の初期駆動を補助するものである。より具体的には、補助ウエイト65は、補助落錘とも呼ばれ、高い位置から下方に落下させてスレッド2の駆動するための補助的なエネルギー源とするものである。より具体的には、補助ウエイト65は、ウエイト4よりも軽い鋼鉄のブロックで構成されている。
そして、補助ウエイト65を落下させる高さH2(つまり、落下高さ)の下方には、ストッパ6sが備えられている。ストッパ6sは、補助ウエイト65の落下移動を止めるものである。具体的には、ストッパ6sは、ダンパーやショックアブソーバなどの所定の静定距離で運動エネルギーを吸収して静止させる機構で構成されており、装置フレーム1fと縁切りされた構造物や基礎部材等に、或いは衝撃を吸収する機構や部材等を介して、装置フレーム1f等に取り付けられている。
補助ウエイト65が無い状態では、ウエイト4の落下開始時(スレッド2の初期駆動時)は、ウエイト2の落下速度V1やスレッド2の駆動速度V3が遅いため、助走距離S1が長くなる要因となっていた。しかし、補助ウエイト65を用いることで、ウエイト4の落下開始時の加速度を増すことができるので、到達速度Vに達するまでの助走距離S1を短縮することができる。
【0050】
ガイドレール7は、ウエイト4の落下方向を案内するものである。具体的には、ガイドレール7は、Z方向に延びる棒状部材で構成されており、サブフレーム1hに取り付けられている。
【0051】
[落下角度変更部8について]
落下角度変更部8は、ウエイト4の落下移動を案内するガイドレール7の角度を変更するものである。
具体的には、落下角度変更部8は、サブフレーム1h、回転支持部(不図示)、油圧シリンダー81を備えている。
【0052】
サブフレーム1hは、ガイドレール7を所定の姿勢で保持するものである。
具体的には、サブフレーム1hは、破線で示す様に、ガイドレール7の延びる方向に所定の長さを有する板状またははしご状の部材で構成されている。
【0053】
回転支持部は、サブフレーム1hの傾斜角度を変更する際に、サブフレーム1hの上端部を支持するものである。
具体的には、回転支持部は、回転軸50aを回転中心としてサブフレーム1hを回転できるように構成されている。
【0054】
アクチュエータ81は、ガイドレール7が取り付けられたサブフレーム1hを、装置フレーム1fに対して傾斜させ、所定の角度で静止させるものである。
具体的には、アクチュエータ81は、サブフレーム1hの下端部と、装置フレーム1fに跨がるように取り付けられており、全長を伸縮させ、所定の位置で静止させることで、サブフレーム1h(ひいては、ガイドレール7)の傾斜角度を変更することができる。
【0055】
つまり、衝撃試験機1Cは、補助ウエイト65を備えているため、助走距離を短縮することができる。また、落下角度変更部8を備えているため、同じ重量のウエイト4のまま、ウエイト4を落下移動させる加速度(ひいては、スレッド2の衝突速度V)を変更することができる。品種切り替えの自由度を増すことができる。
【0056】
衝撃試験機1Dは、衝撃試験機1Cと同様に補助ウエイト65を備えつつ、ガイドレール7が湾曲した形状をしている。
具体的には、ガイドレール7は、直線区間と湾曲した区間とを含み、サブフレーム1hに取り付けられている。
より具体的には、スレッド2の駆動初期は、ガイドレール7の直線区間でウエイト4を落下させて加速運動を行い、スレッド2を射出する直前にウエイト4が落下移動する方向が水平方向や上向きに変わる様に、湾曲した区間を設定しても良い。つまり、ウエイト4を等速移動させることで、スレッド2が等速移動する区間を設けることができ、射出ポイントの前後を許容しやすくなるため、ウエイト4の落下高さH1(ひいては、スレッドSの助走距離S1)の調節がしやすくなり、好ましい。一方、ウエイト4の移動経路の最後を上向きにすることで、ウエイト4の移動を減速させることができ、静止させるときに生じる衝撃を緩和することができるので、好ましい。
上述の構成に代えて、或いは上述の構成に加えて、スレッド2の加速中にウエイト4が落下移動する方向が変わる様(例えば、鉛直真下から斜め下等)に、湾曲した区間を設定しても良い。
【0057】
サブフレーム1hは、湾曲したガイドレール7の形状が維持されるように、複数の板状またははしご状の部材で構成されている。
なお、サブフレーム1hは、所定の姿勢で装置フレーム1fと連結しても良いし、上述の衝撃試験機1Cと同様にガイドレール7の傾斜角度を変更できるような構成(つまり、落下角度変更部8を備えた構成)としても良い。
【0058】
そのため、衝撃試験機1Dは、助走距離を短縮しつつ、同じ重量のウエイト4のまま、ウエイト4を落下移動させる加速度(ひいては、スレッド2の衝突速度V)の増減カーブを自在に設定することができる。
【0059】
[ウエイト4について]
なお上述では、ウエイト4の重量m2が、衝撃試験対象物Wおよびスレッド2の合計重量m1よりも重く設定し、駆動力伝達部5は、スレッド2の駆動速度V3をウエイト4の落下移動する速度V1よりも速い速度に変換する構成を例示した。
このとき、重量比Mと回転比率Rtとは、
M・Rt/(M+Rt)>1 の関係が成り立つように設定することが好ましい。
この様な関係が成り立つ条件に設定しておけば、助走距離S1を短縮しつつ、1G以上の加速度でスレッド2を加速させることができる。
【0060】
一方、スレッド2を1G以上で加速させる必要が無い場合、上記の関係が成り立つように設定する必要は無く、衝撃試験対象物Wおよびスレッド2の合計重量と同じか、それよりも軽く設定しても良い。その場合でも、回転比率Rtを1より大きくしておくことで、スレッド2の助走距離S1を短くすることができる。さらに、補助駆動部6によりスレッド2の衝突速度Vの繰り返し精度を高めることができる。
【0061】
[回転速度変換部5Tについて]
なお上述では、回転速度変換部5Tとして、第2回転部5Bの回転体51b,52bと回転軸50b、第3回転部5Cの回転体51c,52cと回転軸50c、ベルト5Kにより2段階で回転速度を変換する構成を例示した。しかし、本発明を具現化する上で、回転速度変換部5Tはこの様な構成に限定されず、1段階で回転速度を変換しても良いし、3段階以上で回転速度を変換しても良い。
【0062】
[駆動力伝達部5、補助駆動部6について]
なお上述では、駆動力伝達部5の具体例として、ベルト5Lの取り付けた射出ガイド58によりスレッド2をX方向に駆動し、壁1wに向けて射出させる構成を例示した。
しかし、駆動力伝達部5は、この様な構成に限定されず、二次側回転体5Sに取り付けたワイヤーを巻き取ることでスレッド2を駆動する構成であっても良い。
【0063】
なお上述では、駆動力伝達部5の具体例として、回転体にベルトを掛け渡した構成を例示した。具体的には、回転体とベルトとして、平プーリーと平ベルト、VプーリーとVベルト、歯付プーリーと歯付ベルトが例示できる。また、回転体にベルトを掛け渡す構成に代えて、スプロケットにローラチェーンを掛け渡す構成でも良いし、複数の歯車を噛み合わせた構成でも良い。
【0064】
なお上述では、補助駆動部6として、第3回転部5Cの回転軸50cにカップリング62を介して連結されたサーボモータ61を例示した。
サーボモータ61は、第3回転部5Cに限らず、第4回転部5Dや第2回転部5B、第1回転部5Aにカップリング62を介して連結された構成であっても良い。
【0065】
[衝撃試験対象物W/発明の適用分野について]
なお上述では、衝撃試験機1として、自動車等の本体や構造部材、ドアやバンパー等の部品、座席に座った人等の衝撃試験対象物Wにかかる衝撃等を評価するものを例示した。
しかし、本発明に係る衝撃試験機1は、この様な自動車関連の衝撃評価に限定されず、航空機や建築資材、家具、電気製品やその内部部品等の衝撃試験対象物Wにかかる衝撃を評価するものであっても良い。
なお上述では、本発明の適用例として、スレッド2を乗せた衝撃試験対象物Wを壁1wに衝突させる、接触式の衝撃試験機を例示した。しかし本発明は、この様な態様に限定されず、スレッド2をストッパ等により急減速または急静止させて、衝撃試験対象物Wにかかる衝撃や加速度等を計測したり、構造物の変形の様子を計測・撮像等する、非接触方式の衝撃試験機にも適用できる。また、本発明は、スレッド2の加速直後や加速中に、衝撃試験対象物Wにかかる衝撃や加速度を計測したり、構造物の変形の様子を計測・撮像等する形態にも適用できる。
【符号の説明】
【0066】
1 衝撃試験機
2 スレッド
3 スレッド駆動部
4 ウエイト
5 駆動力伝達部
6 補助駆動部
7 ガイドレール
8 落下角度変更部
W 衝撃試験対象物
1f 装置フレーム
1h サブフレーム
1s ストッパ
1w 壁
21 載置台
5R 一次側回転体
5S 二次側回転体
5T 回転速度変換部
5A 第1回転部
5B 第2回転部
5C 第3回転部
5D 第4回転部
5J~L ベルト
50a~d 回転軸
51a~d 回転体
52b~c 回転体
54a~d 回転軸受
57 ガイドレール
58 射出ガイド
61 サーボモータ
62 カップリング
63 制御部
65 補助ウエイト
H1 落下高さ
H2 落下高さ
S1 助走距離
Rt 回転比率
M 重量比
G 重力加速度
U 位置エネルギー
Kz 運動エネルギー
Kx 運動エネルギー
V 衝突速度
V1~V3 速度