(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023115435
(43)【公開日】2023-08-21
(54)【発明の名称】光集積回路、及び光送信モジュール
(51)【国際特許分類】
G02F 1/01 20060101AFI20230814BHJP
H04B 10/564 20130101ALI20230814BHJP
【FI】
G02F1/01 C
H04B10/564
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022017636
(22)【出願日】2022-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】309015134
【氏名又は名称】富士通オプティカルコンポーネンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】安田 有輝
(72)【発明者】
【氏名】石坂 哲男
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 知幸
(72)【発明者】
【氏名】野川 謙太
(72)【発明者】
【氏名】石井 俊雄
【テーマコード(参考)】
2K102
5K102
【Fターム(参考)】
2K102BD02
2K102CA00
2K102CA21
2K102DC07
2K102DC08
2K102EA21
2K102EA25
2K102EB01
2K102EB10
2K102EB16
2K102EB20
2K102EB22
2K102EB23
5K102AA13
5K102AA68
5K102AD01
5K102MA01
5K102MB02
5K102MC12
5K102MD01
5K102MD03
5K102MD07
5K102MH02
5K102MH13
5K102MH22
5K102PB01
5K102PB18
5K102PH02
5K102PH31
5K102PH50
5K102RD28
(57)【要約】
【課題】消費電力の増大とチャネル間のパワーばらつきが抑制された光集積回路と、これを用いた光送信モジュールを提供する。
【解決手段】光送信モジュールは、光変調器を含む光集積回路と、前記光集積回路のパワー状態を制御するコントローラと、前記光変調器に入射する光を出力する光源に電流を供給する電流供給回路と、を備え、前記光集積回路は、n段(nは2以上の整数)のツリー構造に接続された複数のマルチプレクサを含む光合波器と、前記光合波器の入力に接続される2^n個の光変調器と、前記複数のマルチプレクサの各々の入力と出力に接続される光検出器とを有し、前記コントローラは、前記複数のマルチプレクサの各々について、前記光検出器で得られたモニタ値に基づいて前記電流供給回路を制御する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
n段(nは2以上の整数)のツリー構造に接続された複数のマルチプレクサを含む光合波器と、前記光合波器の入力に接続される2^n個の光変調器と、前記複数のマルチプレクサの各々の入力と出力に接続される光検出器と、を有する光集積回路と、
前記光集積回路のパワー状態を制御するコントローラと、
前記光変調器に入射する光を出力する光源に電流を供給する電流供給回路と、
を備え、
前記コントローラは、前記複数のマルチプレクサの各々について、前記光検出器で得られたモニタ値に基づいて前記電流供給回路を制御する、
光送信モジュール。
【請求項2】
前記コントローラは、メモリとプロセッサを含み、
前記メモリは、前記複数のマルチプレクサの各々のパワー状態の適正を判定する判定情報を保存し、
前記プロセッサは、前記判定情報を参照して前記モニタ値が適正範囲内にあるか否かを判断し、前記適正範囲を逸脱する場合に、制御対象のマルチプレクサへの入射光に対応する光源への電流供給を調整する、
請求項1に記載の光送信モジュール。
【請求項3】
前記コントローラは、メモリとプロセッサを含み、
前記メモリは、前記複数のマルチプレクサの各々の合波比率を保存し、
前記プロセッサは、制御対象のマルチプレクサの前記合波比率が維持されるように、前記制御対象のマルチプレクサへの入射光に対応する光源への電源供給を調整する、
請求項1に記載の光送信モジュール。
【請求項4】
前記メモリは、前記光変調器の入力に接続される第2光検出器の第2モニタ値の適正を判定するための第2判定情報を保存し、
前記プロセッサは、前記第2判定情報を参照して前記第2モニタ値が適正範囲内にあるかを判断した後に、前記複数のマルチプレクサの各々のパワー状態の適否を判定する、
請求項2または3に記載の光送信モジュール。
【請求項5】
温度測定部、
をさらに備え、
前記メモリは、温度ごとの判定情報を保存し、
前記プロセッサは、前記温度測定部で測定された温度情報と、前記メモリに保存された前記温度ごとの判定情報とを参照して、前記モニタ値が適正範囲内にあるか否かを判断する、
請求項2~4のいずれか1項に記載の光送信モジュール。
【請求項6】
n段(nは2以上の整数)のツリー構造に接続された複数のマルチプレクサを含む光合波器と、
前記光合波器の入力に接続される2^n個の光変調器と、
前記複数のマルチプレクサの各々の入力と出力に接続される光検出器と、を有する光集積回路。
【請求項7】
前記光変調器の入力に接続される2^n個の第2光検出器、
を有する請求項6に記載の光集積回路。
【請求項8】
前記光変調器に入射する光を出力する2^n個の光源、
を有する請求項6または7に記載の光集積回路。
【請求項9】
前記マルチプレクサは、Y型光カプラ、マルチモード干渉カプラ、または方向性結合器である、請求項6~8のいずれか1項に記載の光集積回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光集積回路、及び光送信モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
複数のチャネルで光通信を行う光送受信モジュールでは、異なるチャネルの光信号を合分波するために、アレイ導波路グレーティング(AWG:Arrayed Waveguide Grating)が用いられることが多い(たとえば、特許文献1参照)。アレイ導波路間に波長間隔に応じた光路長差を与えることで、波長の異なる多数のチャネルを合分波することができる。波長の異なる複数のチャネルで通信する場合、波長特性によってチャネル間でパワーのばらつきが生じるため、初期的にチャネルごとのパワー調整が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
AWGは、単一の素子で多数のチャネルを合分波できるが、挿入損失が大きい。大量のデータ通信を扱う光送信モジュールでは、通信距離の拡張とともに、消費電力の低減が求められており、光部品で生じる損失の抑制は技術課題のひとつである。一方、チャネル間のパワーばらつきが初期的に調整されていても、経時劣化により、個々のチャネルでパワーレベルが劣化する。チャネルごとの経時劣化の補償については、これまであまり考慮されてこなかった。一般的には、事前に経時劣化分を推定して、光出力パワーを高く設定することが考えられる。しかし、経時劣化を見越した光出力パワーの設定は、低消費電力の要請と相反する。
【0005】
ひとつの側面では、消費電力の増大とチャネル間のパワーばらつきが抑制された光集積回路と、これを用いた光送信モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施形態では、光送信モジュールは、
n段(nは2以上の整数)のツリー構造に接続された複数のマルチプレクサを含む光合波器と、前記光合波器の入力に接続される2^n個の光変調器と、前記複数のマルチプレクサの各々の入力と出力に接続される光検出器と、を有する光集積回路と、
前記光集積回路のパワー状態を制御するコントローラと、
前記光変調器に入射する光を出力する光源に電流を供給する電流供給回路と、
を備え、
前記コントローラは、前記複数のマルチプレクサの各々について、前記光検出器で得られたモニタ値に基づいて前記電流供給回路を制御する。
【発明の効果】
【0007】
消費電力の増大とチャネル間のパワーばらつきが抑制された光集積回路と、これを用いた光送信モジュールが実現される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態の光集積回路の基本構成を示す模式図である。
【
図3】2段ツリー構造の光合波器を用いた光集積回路の模式図である。
【
図4】3段ツリー構造の光合波器を用いた光集積回路の模式図である。
【
図5】実施形態の光送信モジュールの模式図である。
【
図7A】光送信モジュールにおけるパワー制御のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下で、図面を参照して実施形態の具体的な構成を説明する。以下の記載は、発明の技術思想を具体化する構成例を示すものであり、特段の断りがない限り、技術思想を以下の記載に限定するものではない。同じ構成要素には同じ符号を付けて、重複する説明を省略する場合がある。
【0010】
<光集積回路の構成>
図1は、実施形態の光集積回路10の基本構成を示す模式図である。実施形態の光送信モジュールの構成と動作を示す前に、光送信モジュールで使用される光集積回路について説明する。光集積回路10では、複数のチャネルを合波する光合波器15を、n段(nは2以上の整数)のツリー構造に接続された複数のマルチプレクサMUXで構成する。ツリー構造のマルチプレクサMUXで光合波器15を形成することで、ひとつのAWGを用いる構成よりも損失を低減する。また、ツリー構造に含まれる各マルチプレクサMUXの出力光と入力光のパワーをモニタすることで、チャネルごとにパワーが劣化する位置を特定し、必要最低限のパワー補償を可能にする。
【0011】
光集積回路10は、基板101上に設けられた光合波器15を有する。光合波器15はn段(nは2以上の整数)のトーナメントツリー構造を有する。ツリーの根元を1段目のマルチプレクサMUXとする。以下、ツリーの末端に向かって2段目、3段目、…、(n-1)段目、n段目とする。各段に含まれるマルチプレクサMUXの数は、2^(n-1)である。1段目のマルチプレクサMUXの数は、2^(1-1)=1であり、1つである。このマルチプレクサをMUX(1,1)と表記する。カッコ内の最初の数字がn段のツリーの段数、2番目の数字が、その段に含まれる何個目のマルチプレクサであるかを示す。
【0012】
ツリーの2段目には、2個(2^(2-1)=2)のマルチプレクサが含まれる。2段目のマルチプレクサをMUX(2,1)、及びMUX(2,2)と表記する。以下同様にn段目のマルチプレクサを、MUX(n,1)、MUX(n,2)、…、MUX(n,2^(n-1)-1)、MUX(n,2^(n-1))と表記する。
【0013】
多段ツリーのnの値は、光集積回路10に形成されるチャネルの数で決まる。チャネルの数は、光集積回路10に設けられる光変調器(図中で「MOD」と表記)13の数によって決まる。光変調器13の数が2^n個のときに、n段のマルチプレクサMUXのツリーが形成される。光集積回路10には、光変調器13-1から13-2^nが設けられている。
【0014】
光変調器13-1、13-2、…、13-2^n(以下、適宜「光変調器13」と総称する)に対応して、2^n個の光源11-1、11-2、…、11-2^n(以下、適宜「光源11」と総称する)が設けられてもよい。光源11は必ずしも光集積回路10の内部に設けられる必要はなく、後述するように、外付けの光源アレイを用いてもよい。この例では、光源11にレーザダイオードを用いており、「LD1」、「LD2」、…「LD(2^n)」と表記された2^n個の光源11が、基板101に集積されている。
【0015】
図1で、光変調器13で変調された光信号が通る各段のマルチプレクサMUXを、先頭のMUX(1,1)に向かって横方向に接続するラインを「レーン」と呼んでもよい。光合波器15がn段のツリー構造を有する場合、1番目から2^n番目までのレーンが、ツリーの根元のマルチプレクサMUX(1,1)に向かって延びる。
【0016】
光合波器15を構成する各マルチプレクサMUXの入力と出力に、光検出器PDが接続されている。1段目のMUX(1,1)の出力に接続される光検出器を、PD(1,1)と表記する。PD(1,1)は、マルチプレクサMUX(1,1)の出力光の一部を取り出して、そのパワーをモニタする。2段目のマルチプレクサMUX(2,1)とMUX(2,2)の出力、すなわち、1段目のマルチプレクサMUX(1,1)の2つの入力に、PD(2,1)、PD(2,2)がそれぞれ接続されて、MUX(2,1)とMUX(2,2)の出力光のパワーをモニタする。以下同様に、n段目のマルチプレクサMUX(n,1)、MUX(n,2)、…、MUX(n,2^(n-1)-1)、MUX(n,2^(n-1))の出力に、PD(n,1)、PD(n,2)、…、PD(n,2^(n-1)-1)、PD(n,2^(n-1))がそれぞれ接続されて、対応するマルチプレクサの出力光パワーをモニタする。
【0017】
光合波器15に入力される各チャネルのパワーがモニタされてもよい。n段のツリーで構成される光合波器15の入力段、すなわち、光変調器13の出力段を、(n+1)段目とする。光変調器13-1、13-2、…、13-(2^n-1)、13-(2^n)の出力に、PD(n+1,1)、PD(n+1,2)、…、PD(n+1,2^(n-1)-1)、PD(n+1,2^(n-1))がそれぞれ接続されて、対応する光変調器13の出力光のパワーをモニタする。
【0018】
光変調器13の入力段のパワーをモニタしてもよい。この場合、光変調器13の入力段を(n+2)段目とする。光変調器13-1、13-2、…、13-(2^n-1)、13-(2^n)の入力に、PD(n+2,1)、PD(n+2,2)、…、PD(n+2,2^(n-1)-1)、PD(n+2,2^(n-1))がそれぞれ接続される。光変調器13の入力に接続される光検出器PDを「第2光検出器」と呼んで、光合波器15の各マルチプレクサMUXの入出力に接続される光検出器PDと区別してもよい。
【0019】
光集積回路10は、たとえばシリコンフォトニクス技術で形成することができる。各光変調器13と、光合波器15に含まれる各マルチプレクサMUXを、シリコン細線導波路で形成してもよい。各光変調器13は、用いられる変調方式に応じて、マッハツェンダ干渉計型の光導波路をネスト状に接続した構成を有していてもよい。
【0020】
各マルチプレクサMUXは、Y字光カプラ、マルチモード干渉(MMI:Multi-Mode Interference)カプラ、方向性結合器等であってもよい。Y字光カプラを用いる場合、Y字光カプラの出力導波路にタップ等を設けて、出力光の一部を抽出して光検出器PDでパワーをモニタしてよい。2入力2出力MMIカプラを用いる場合、2つの出力ポートの分岐比を制御して、一方の出力ポートを主信号の出力に用い、他方の出力ポートをモニタ用に用いてもよい。この場合、モニタ用の出力ポートに対応する光検出器PDを接続して出力パワーをモニタしてもよい。方向性結合器を用いる場合も、出力側の結合比を制御して、一方の出力側導波路を主信号の出力に用い、他方の出力側導波路に光検出器PDを接続してもよい。
【0021】
各光検出器PDから出力される電気信号は、光集積回路10に電気的に接続されたプロセッサに入力され、チャネル間の光パワーのばらつきが最小、または許容範囲内におさまるように制御される。プロセッサによる光パワーの制御については、
図5以降を参照して後述する。
【0022】
複数チャネルの合波にAWGを用いるかわりに、多段のツリー構造の光合波器15を用いることで、ひとつのAWGを用いるよりも損失を小さくできる。各マルチプレクサMUXの挿入損失はAWGと比較して非常に小さく、光合波器15全体としても、AWGよりも損失を小さくすることができる。また、各マルチプレクサMUXの出力と入力で光パワーをモニタすることで、どのレーンのどの部分で光パワーが劣化したかを特定して、必要最低限のパワー補償を実施できる。
【0023】
光合波器15で、n段のツリー構造に含まれるマルチプレクサMUXの数は、2^n-1個である。nの値が大きい場合、AWGと比較して基板101の面積が大きくなるように見えるが、AWGも導波路数が増えると、各導波路間に光路長差を与えるための面積が必要であり、合波に必要な面積に大きな違いはない。各マルチプレクサMUXはシリコンフォトニクス技術を用いて形成される微細な構成であり、2^n個の光変調器13または光源11のアレイが設けられる領域の範囲内で、n段のマルチプレクサツリー構造を形成することができる。
【0024】
図2は、
図1の変形例である光集積回路10Aの模式図である。光集積回路10Aは、光源11-1から11-2^nが基板101の外部に設けられることを除いて、光集積回路10と同じ構成である。光合波器15は、n段(nは2以上の整数)のツリー状に接続された複数のマルチプレクサMUXを含み、各マルチプレクサMUXの出力と入力に、光検出器PDが接続されている。
【0025】
複数の光源11-1、11-2、…、11-(2^n-1)、11-(2^n)は、レーザアレイとして形成されてもよい。各光源11から出射された各波長の光は、レンズファイバによって光集積回路10Aの対応する光導波路に入射されてもよい。あるいは、基板101上にスポットサイズコンバータを設けて、光ファイバの端面を基板101の端面に接続し、スポットサイズコンバータを介して基板101上の光導波路と接続してもよい。
【0026】
光集積回路10Aでは、ひとつのAWGを用いる構成と比較して、全体の光損失が低減されている。また各マルチプレクサの出力と入力で光パワーをモニタすることで、光パワーが劣化した箇所を特定することができ、必要最低限のパワー補償で、チャネル間のパワーばらつきを抑制することができる。
【0027】
図3は、2段ツリー構造の光合波器15Bを用いた光集積回路10Bの模式図である。光集積回路10Bは、光合波器15Bと、光変調器13-1、13-2、13-3、及び13-4を有し、4つのチャネルが合波される。この例では、基板101上に、光源11-1、11-2、11-3、11-4が集積されているが、基板101の外部に光源アレイを設けてもよい。
【0028】
2段(n=2)のツリー構造で用いられるマルチプレクサMUXの数は、3個(2^2-1=3)である。1段目のマルチプレクサMUX(1,1)の出力にPD(1,1)が接続され、2段目のマルチプレクサMUX(2,1)とMUX(2,2)の出力に、それぞれPD(2,1)とPD(2,2)が接続されている。
【0029】
光変調器13-1、13-2、13-3、及び13-4の出力に、PD(3,1)、PD(3,2)、PD(3,3)、及びPD(3,4)がそれぞれ接続され、光合波器15Bの入力段で光パワーがモニタされる。光変調器13-1、13-2、13-3、及び13-4の入力に、第2光検出器として、PD(3,1)、PD(3,2)、PD(3,3)、及びPD(3,4)が接続されてもよい。
【0030】
3つのマルチプレクサMUX(1,1)、MUX(2,1)、及びMUX(2,2)のそれぞれの光損失は小さく、光合波器15B全体の光損失も小さい。4つのチャネルのいずれかで光パワーが劣化したときに、どのチャネルのどの部分で光パワーが劣化したかを特定することができ、必要最低限のパワー補償で、チャネル間のパワーばらつきを最小、または許容範囲内に制御することができる。
【0031】
図4は、3段ツリー構造の光合波器15Cを用いた光集積回路10Cの模式図である。光集積回路10Cは、光合波器15Cと、光変調器13-1から13-8を有し、8つのチャネルを合波する。この例では、基板101上に、光源11-1から光源11-8が集積されているが、基板101の外部に光源アレイを設けてもよい。
【0032】
3段(n=2)のツリー構造で用いられるマルチプレクサMUXの数は、7個(2^3-1=7)である。1段目のマルチプレクサMUX(1,1)の出力にPD(1,1)が接続され、2段目のマルチプレクサMUX(2,1)とMUX(2,2)の出力に、PD(2,1)とPD(2,2)がそれぞれ接続されている。3段目のマルチプレクサMUX(3,1)、MUX(3,2)、MUX(3,3)、及びMUX(3,4)の出力に、PD(3,1)、PD(3,2)、PD(3,3)、及びPD(3,4)がそれぞれ接続されている。
【0033】
光変調器13-1、13-2、13-3、13-4、13-5、13-6、13-7、及び13-8の出力に、PD(4,1)、PD(4,2)、PD(4,3)、PD(4,4)、PD(4,5)、PD(4,6)、PD(4,7)、及びPD(4,8)がそれぞれ接続され、光合波器15Cの入力段で光パワーがモニタされる。光変調器13-1、13-2、13-3、13-4、13-5、13-6、13-7、及び13-8の入力に、第2光検出器としてPD(5,1)、PD(5,2)、PD(5,3)、PD(5,4)、PD(5,5)、PD(5,6)、PD(5,7)、及びPD(5,8)がそれぞれ接続されてもよい。
【0034】
7つのマルチプレクサMUXのそれぞれの光損失は小さく、光合波器15C全体の光損失も小さい。8つのチャネルのいずれかで光パワーが劣化したときに、どのチャネルのどの部分で光パワーが劣化したかを特定することができ、必要最低限のパワー補償で、チャネル間のパワーばらつきを最小、または許容範囲内に制御することができる。
【0035】
4段ツリー構造の光合波器も同様に、15個(2^4-1=15)のマルチプレクサMUXをツリー状に接続して形成される。16個の光変調器13が設けられ、16チャネルが合波される。隣接する2つの光変調器の出力が、4段目の対応するマルチプレクサMUXの2つの入力に接続される。段数が多くなっても、各マルチプレクサMUXの損失は小さく、16本のアレイ導波路に光路長差を与えたAWGと比較して、損失を抑制することができる。
【0036】
<光送信モジュールの構成と動作>
図5は、実施形態の光送信モジュール100の模式図である。光送信モジュール100は、光合波器15を備えた光集積回路10と、光集積回路10のパワー状態を制御するコントローラ20と、光源11に電流を供給する電流供給回路28とを有する。光送信モジュール100は、温度測定部24を備えていてもよい。
【0037】
図5では、図示の便宜上、光集積回路10に含まれるk番目のレーンに着目し、その他のレーンの図示を省略しているが、
図1と同じ基本構成を有する。光合波器15においても、光変調器13-kの出力に接続されるn段目のマルチプレクサMUX(n,R(k/2))と、1段目のマルチプレクサMUX(1,1)のみを図示し、途中の段を省略している。ここでR()は、整数への切り上げ関数である。
【0038】
k番目の光源11-kからの出力光は、光変調器13-kで入力データ信号により変調される。光変調器13-kの入力光パワーは、PD(n+2,k)によってモニタされ、光変調器13-kの出力光パワーは、PD(n+1,k)によってモニタされる。光変調器13-kの出力は、n段目のマルチプレクサMUX(n,R(k/2))の一方の入力に接続され、最終的には、1段目のマルチプレクサMUX(1,1)で、他のすべてのチャネルの光信号と合波される。n段目のマルチプレクサMUX(n,R(k/2))の出力光パワーは、PD(n,R(k/2))によってモニタされる。1段目のマルチプレクサMUX(1,1)の出力光パワーは、PD(1,1)によってモニタされる。途中の各段でも、各マルチプレクサMUXの入力と出力が対応のPDによってモニタされる。
【0039】
コントローラ20は、プロセッサ21とメモリ23を含む。メモリ23は、各PDから出力されるモニタ値が規定範囲内にあるかどうかを判定するための判定情報25を保存する。規定範囲は、各PDの検出値が取り得る適正範囲を示し、電圧値で記述されていてもよいし、基準電圧値に対する相対値で記述されていてもよい。温度測定部24を用いる場合は、メモリ23は、各PDのモニタ値の規定範囲を、温度ごとに対応付けて保存してもよい。温度測定部24は必須ではないが、温度情報を用いない場合は、判定情報25のマージンが広く設定されるので、制御の精度が若干下がる場合がある。温度測定部24を用いる場合は、広い温度範囲にわたって精度よくパワーばらつきを抑制することができる。
【0040】
すべてのPDのモニタ値は、プロセッサ21に入力される。入力されたモニタ値は、一時的にメモリ23の一時記憶領域に保存されてもよい。プロセッサ21はメモリ23内の判定情報25を参照して、各PDのモニタ値が規定範囲内にあるか否かを判断する。あるPDのモニタ値が規定範囲を逸脱した場合、プロセッサ21は電流供給回路28を制御して、着目しているPDのモニタ値が規定範囲内になるまで、対応する光源11に供給される電流値を制御する。
【0041】
上述のように、n段のツリー構造の光合波器15の入力段、すなわち光変調器13の出力段を、(n+1)段目とする。また、光変調器13の入力段を(n+2)段目とする。プロセッサ21は、光源11に最も近い(n+2)段目のPD(n+2,k)の出力値から順に調べて、光源11の光量を制御する。(n+2)段目から順にパワーを調整することで、ツリーの上位側でターゲット範囲を逸脱するPDが存在しても、少なくともそのPDよりも下位側での光パワーの劣化は調整されていることになる。
【0042】
(n+1)段目に含まれるすべてのPDについても、モニタ値が規定範囲内にあるかどうかが順次判断され、規定範囲外の場合に、対応する光源11の光量が調整される。(n+1)段目のPDのモニタ値に基づいて、いずれかの光源11に供給する電流値が調整された場合、(n+2)段目のPDのモニタ値、すなわち対応する光変調器13への入力光のパワーが変わる。(n+2)段目のPDのモニタ値の適切な規定範囲が変わるので、メモリ23内の判定情報25に記述されている(n+2)段目の対応するPDの規定範囲の値が更新されることが望ましい。また、(n+1)段目は、光合波器15への入力段なので、同じマルチプレクサMUXに入力される隣接するレーンとの透過特性を考慮して光源11の光量が調整されるのが望ましい。
【0043】
n段目から1段目までは、光合波器15の各マルチプレクサMUXの特性に基づいて、光源11の電流値が制御される。隣接するレーン間で扱う波長が異なるので、透過特性も異なる。各マルチプレクサMUXの合波比率は、レーン間の透過比に応じて設定されている。たとえば、第1レーンと第2レーンの透過比が1:2の場合、プロセッサ21は、対応する光源11-1と光源11-2のパワー比が2:1となるように電流量を制御する。なお各マルチプレクサMUXの特性の経時変動は無視できるものとする。ここで、経時変動とは、経年劣化、温度変化等に起因するパワー等の特性の変動をいう。
【0044】
図6は、判定情報25の一例である判定テーブル26を示す。判定テーブル26は、温度Tと対応付けて、(n+2)段目の各PDのモニタ値の規定範囲と、(n+1)段目の各PDのモニタ値の規定範囲と、各マルチプレクサMUXの合波比率と、各光源11の自動パワー制御(APC:Automatic Power Control)のターゲット値とを保存する。
【0045】
温度T1のときの(n+2)段目の各PDのモニタ値の規定範囲は、V1(n+2,k)と表される。kは1から2^nまでの整数である。この欄には(n+2)段目に含まれる2^n個のPDのそれぞれの規定範囲V1が記述されている。温度T1のときの(n+1)段目の各PDのモニタ値の規定範囲は、V1(n+1,k)と表される。kは1から2^nまでの整数である。この欄には、(n+2)段目に含まれる2^n個のPDのそれぞれの規定範囲V1が記述されている。
【0046】
温度T1のときの各マルチプレクサMUXの合波比率は、R1(m,k)で表される。n段のツリー構造には2^n-1個のマルチプレクサMUXが含まれるので、2^n-1個の合波比率R1が記述されている。mは1からnまでの整数、kの範囲はmの値によって変わる。具体的には、m段目のkは、1から2^(m-1)までの整数である。APCターゲット値P1(k)は、2^n個の光源11-1から11-2^nに対応して設定されている。したがって、2^n個のAPCターゲット値P1が記述されている。
【0047】
温度T2に対応して、(n+2)段目の各PDの規定範囲V2(n+2,k)、(n+1)段目の各PDの規定範囲V2(n+1,k)、各マルチプレクサMUXの合波比率R2(m,k)、及び、APCターゲット値P2が、同様に記述されている。温度T3の時も同様である。温度Tのステップサイズは、光送信モジュール100が使用される環境に応じて適切に設定されており、1℃ごと、2℃ごと、5℃ごと、10℃ごと、のように設定され得る。温度情報を用いない場合は、温度情報のカラムがなくなり、(n+2)段目の各PDの規定範囲V(n+2,k)と(n+1)段目の各PDの規定範囲V(n+1,k)が広く設定される。
【0048】
図7A、
図7B、及び
図7Cは、プロセッサ21で実行されるパワー制御のフローチャートである。この制御フローの前提として、光送信モジュール100は起動状態にある。起動状態というのは、立ち上がり直後を除く運用状態にあることをいう。
図7A~7Cの制御は、運用中に定期的または連続的に、繰り返し行われる。もうひとつの前提は、各光変調器13と各マルチプレクサMUXの温度特性、及び波長特性は、あらかじめ測定され既知であることである。
図6の判定テーブルに記述される合波比率は、事前に取得された温度特性と波長特性に基づいて設定されている。
【0049】
図7Aで、(n+2)段目のPDのモニタ値を調べる。ここで、各PDと光源(LD)11は、kとmという変数を用いて特定される。mは、ツリーの頂上からの段数を表し、1からn+2までの整数である。nは、上述のとおり、マルチプレクサMUXで構成されるツリーの段数であり、2以上の整数である。kは、m段に含まれるPDの番号である。光合波器15の内部では、kの値の範囲はmの値によって変わるが、(n+2)段目と(n+1)段目では、kは1から2^nまでの整数である。
【0050】
まず、kに値「1」を設定し、mに「n+2」を設定する(S11)。すなわち、(n+2)段目の1つ目のPDに着目する。温度測定部24から現在の温度tを取得する(S12)。取得した温度に基づいて、メモリ23からm段目、k個目(初回ループではn+2段目の1個目)のPDの規定範囲を読み取り(S13)、着目しているm段目、k個目のPDのモニタ値が規定範囲内にあるか否かを判断する(S14)。
【0051】
PDのモニタ値が規定範囲内にない場合は(S14でNO)、m段目、k個目のPDに対応する光源(LD)11のAPCターゲット値を変更する(S15)。APCターゲット値の変更のステップサイズは適宜設定されており、モニタ値が規定範囲よりも小さいときは、光源11に供給する電流値を1ステップ上げる。着目しているPDのモニタ値が規定範囲内になるまでS14とS15を繰り返す。
【0052】
着目しているPDのモニタ値が規定範囲内のときは(S14でYES)、kの値を1だけインクリメントし(S16)、インクリメントしたkの値が2^nを超えるかどうかを判断する(S17)。kの値が2^n以下であれば(S17でNO)、ステップS13に戻って、S13からS17を繰り返す。kの値が2^nを超えると(S17でYES)、着目しているn+2段目に含まれるすべてのPDのモニタ値を調べたことになり、
図7Bの処理に進む。
【0053】
図7Bの処理は、
図7AのノードAから続く処理である。
図7Bでは(n+1)段目のPDのモニタ値を調べる。kに値「1」を設定し、mに「n+1」を設定して(S21)、(n+1)段目の1つ目のPDに着目する。メモリ23から現在の温度tでのm段目、k個目(初回ループではn+1段目の1個目)のPDの規定範囲を読み取り(S22)、着目しているm段目、k個目のPDのモニタ値が規定範囲内にあるか否かを判断する(S23)。
【0054】
PDのモニタ値が規定範囲内にない場合は(S23でNO)、m段目、すなわちn+1段目、k個目のPDに対応する光源(LD)11のAPCターゲット値を、対応するマルチプレクサMUXの合波比率に基づいて変更する(S24)。メモリ23内の判定情報25または判定テーブル26に含まれるMUX比率は、各マルチプレクサMUXの波長特性または温度特性に基づいて設定されている。たとえば、着目しているPDのレーンと、同じマルチプレクサMUXの入力に接続される隣接レーンの透過比率が1:2のときは、MUXの合波比率は2:1に設定されている。この合波比率が維持されるように、着目する光源11のAPCターゲット値を変更する。着目しているPDのモニタ値が規定範囲内になるまでS23とS24を繰り返す。
【0055】
着目しているPDのモニタ値が規定範囲内のときは(S23でYES)、APCターゲット値の変更の有無を判断する(S25)。APCターゲット値が変更されている場合は(S25でYES)、m+1段目、すなわち(n+2)段目のk個目のPDの規定範囲を更新する(S26)。(n+1)段目のk個目のPDのモニタ値に基づいて対応する光源11の光量が調整された場合、対応する光変調器13への入力光パワーが変化して、(n+2)段目のPDの規定範囲が変わるからである。その後、kの値を1だけインクリメントする(S27)。
【0056】
APCターゲット値に変更がない場合は(S25でNO)、直接ステップS27に進んで、kの値をインクリメントする。次に、インクリメントされたkの値が2^nを超えるかどうかを判断する(S28)。kの値が2^n以下であれば(S28でNO)、ステップS22に戻って、S22からS28を繰り返す。インクリメント後のkの値が2^nを超えると(S28でYES)、着目しているn+1段目に含まれるすべてのPDのモニタ値を調べたことになり、
図7Cの処理に進む。
【0057】
図7Cの処理は、
図7BのノードBから続く処理である。
図7Cでは、n段目から1段目まで順にPDのモニタ値を調べる。kに値「1」を設定し、mに「n」を設定して(S31)、m段目、k個目のPDに着目する。mの値はnから1までの整数である。現在の温度tでのm段目、k個目(初回ループではn段目の1個目)のPDの規定範囲をメモリ23から読み取り(S32)、着目しているm段目、k個目のPDのモニタ値が規定範囲内にあるか否かを判断する(S33)。
【0058】
PDのモニタ値が規定範囲内にない場合は(S33でNO)、m段目、k個目のマルチプレクサMUX(m,k)への入射光を出力した光源(LD)11のAPCターゲット値を、対応するマルチプレクサMUXの合波比率に基づいて変更する(S34)。着目しているPDのモニタ値が規定範囲内になるまでS33とS34を繰り返す。
【0059】
着目しているPDのモニタ値が規定範囲内のときは(S33でYES)、APCターゲット値の変更の有無を判断する(S35)。APCターゲット値が変更されている場合は(S35でYES)は、光量が調整された光源11の出射光が通るレーンの(n+2)段目から(m+1)段目までのすべてのPDの規定範囲を更新する(S36)。m段目のPDのモニタ値に基づいて対応する光源11の光量が調整された場合、対応する光変調器13への入射光のパワーが変わり、ひとつ前の段のPDまでの適切な規定範囲が変わるからである。その後、kの値を1だけインクリメントする(S37)。
【0060】
APCターゲット値が維持されている場合は(S35でNO)、直接ステップS37に進んで、kの値をインクリメントする。次に、インクリメントしたkの値が、2^(m-1)を超えるか否かを判断する(S38)。kの値が2^(m-1)以下であれば(S38でNO)、ステップS32に戻って、S33からS38を繰り返す。kの値が2^(m-1)を超えると(S38でYES)、着目しているm段目のすべてのPDのモニタ値を調べたことになる。この場合、mの値を1だけデクリメントし(S39)、デクリメントされたmの値がゼロになったか否かを判断する(S40)。mの値がゼロでない場合(S40でNO)、判断すべき段数がまだ残っていることを意味するので、kの値を1に設定し(S42)、ステップS32からS40を繰り返す。デクリメント後のmの値がゼロの場合(S40でYES)、判断すべきツリーの段が他にないことを意味する。この場合、
図7Aの(n+2)段目に戻って処理を繰り返すために、kの値がゼロ以下か否かを判断する(S41)。プロセッサ21が正常に動作する場合、kの値は必ず1以上の整数なので(S41でNO)、処理はノードCから
図7Aに戻って、S11からの処理を繰り返す。kの値がゼロ以下になったときは(S41でYES)、処理を終了する。
【0061】
このパワー制御方法により、パワーが劣化した箇所を特定し、必要最低限のパワー補償を行うので、消費電力の増大を抑制して、チャネル間のパワーばらつきを抑制することができる。また、ツリー構造のマルチプレクサMUXによる挿入損失はAWGよりも小さいので、この点でも消費電力の増大を抑制することができる。実施形態の光集積回路10(または10Aから10C)を用いることで、上述したレーンごとのパワー制御が可能になる。
【0062】
本開示は特定の構成例に基づいて記載されているが、本開示は上述した構成例に限定されない。
図5では、基板101に光源11を集積しているが、外付けの光源アレイに対して、
図7A~
図7Cのパワー制御を行ってもよい。メモリ23に保存される判定情報は、
図6の例に限定されず、温度ごとに各PDの規定範囲がリストされていてもよいし、関数として記述されていてもよい。
【符号の説明】
【0063】
10、10A、10B、10C 光集積回路
11、11-1、11-2、…、11-2^n 光源
13、13-1、13-2、…、13-2^n 光変調器
15 光合波器
20 コントローラ
21 プロセッサ
23 メモリ
24 温度測定部
25 判定情報
26 判定テーブル
28 電流供給回路
100 光送信モジュール
101 基板
MUX マルチプレクサ
PD 光検出器
PD(n+2,1)、PD(n+2,2)、…PD(n+2,2^n) 第2光検出器