(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023115477
(43)【公開日】2023-08-21
(54)【発明の名称】肉盛り加工装置および肉盛り加工方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/342 20140101AFI20230814BHJP
【FI】
B23K26/342
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022017703
(22)【出願日】2022-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】000121202
【氏名又は名称】エンシュウ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136674
【弁理士】
【氏名又は名称】居藤 洋之
(72)【発明者】
【氏名】原田 裕文
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 利夫
(72)【発明者】
【氏名】藤田 泰裕
(72)【発明者】
【氏名】河井 皓太
(72)【発明者】
【氏名】▲浜▼川 和希
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168BA32
4E168CB07
4E168FA00
4E168FB03
(57)【要約】
【課題】レーザスポットの進行方向を任意に定めた場合でも肉盛り層に欠陥が生じることを防止できる、肉盛り加工装置および肉盛り加工方法を提供する。
【解決手段】肉盛り加工装置10は、レーザ照射部38と、4つ(少なくとも3つ)の粉体吐出口34a,34b,34c,34dを有する金属粉体吐出部36と、粉体吐出口から吐出される金属粉体の吐出量を個別に調整する吐出量調整手段92a,92b,92c,92dを有する金属粉体供給手段24と、レーザスポットPを加工部位に沿って進行させるテーブル変位機構(レーザスポット進行手段)14と、制御装置26とを備える。平面視で粉体吐出口のそれぞれに重なる頂点を有する仮想多角形Kを想定したとき、レーザスポットPは、仮想多角形Kの内側に位置する。制御装置26は、レーザスポットPの進行方向前方に位置する粉体吐出口から金属粉体を吐出させるように吐出量調整手段の動作を制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの加工部位にレーザ光を照射してレーザスポットを形成するレーザ照射部と、
前記レーザスポットに金属粉体を吐出させるための少なくとも3つの粉体吐出口を有する金属粉体吐出部と、
前記粉体吐出口のそれぞれから吐出される前記金属粉体の吐出量を個別に調整する吐出量調整手段を有し、前記金属粉体吐出部に前記金属粉体を供給する金属粉体供給手段と、
制御装置とを備え、
前記レーザ照射部は、前記レーザ光を発生させるレーザ発振器と、前記レーザ光を出射させるためのレーザ出射孔が設けられた肉盛りノズルとを有し、
前記粉体吐出口のそれぞれは、前記レーザ出射孔の周囲に前記レーザスポットへ向くように設けられ、
平面視で前記粉体吐出口のそれぞれに重なる頂点を有する仮想多角形を想定したとき、前記レーザ照射部は、前記レーザスポットを前記仮想多角形の内側に形成するように構成され、
前記制御装置は、前記レーザスポットの進行方向前方に位置する前記粉体吐出口から前記金属粉体を吐出させるように前記吐出量調整手段の動作を制御する、肉盛り加工装置。
【請求項2】
前記レーザスポットを前記加工部位に沿って進行させるレーザスポット進行手段を備え、
前記制御装置は、前記レーザスポット進行手段の動作を制御する、請求項1に記載の肉盛り加工装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記金属粉体が前記レーザスポットの進行方向前方に位置する少なくとも2つの前記粉体吐出口から個別に定められた吐出量で吐出されるように前記吐出量調整手段の動作を制御する、請求項2に記載の肉盛り加工装置。
【請求項4】
前記吐出量調整手段は、前記粉体吐出口のそれぞれに対応して設けられ、前記金属粉体の吐出量を調整可能に構成された吐出量調整弁であり、
前記制御装置は、前記吐出量調整弁の動作を制御する、請求項2または3に記載の肉盛り加工装置。
【請求項5】
平面視で前記レーザスポットの中心を通って、前記レーザスポットの進行方向に対して平行に延びる仮想直線を想定し、平面視で前記仮想直線と前記レーザ出射孔の周囲の部分とが重なる位置を基準位置としたとき、
前記レーザスポットの進行方向前方に位置する前記粉体吐出口は、前記基準位置から±45°の角度範囲内に配置される、請求項2ないし4のいずれか1項に記載の肉盛り加工装置。
【請求項6】
前記金属粉体吐出部は、前記レーザ出射孔の周囲に平面視で90°の角度間隔で設けられた4つの前記粉体吐出口を有する、請求項2ないし5のいずれか1項に記載の肉盛り加工装置。
【請求項7】
平面視で前記レーザスポットの中心を通って、前記レーザスポットの進行方向に対して平行に延びる仮想直線を想定し、平面視で前記仮想直線と前記レーザ出射孔の周囲の部分とが重なる位置を基準位置としたとき、
前記レーザスポットの進行方向前方において互いに隣接する2つの前記粉体吐出口は、前記基準位置を挟んだ両側に位置する、請求項2ないし6のいずれか1項に記載の肉盛り加工装置。
【請求項8】
前記粉体吐出口のそれぞれは、四角形に形成される、請求項2ないし7のいずれか1項に記載の肉盛り加工装置。
【請求項9】
前記制御装置が前記粉体吐出口から前記金属粉体を吐出させるように前記金属粉体供給手段の動作を開始させた時点から、前記金属粉体が前記レーザスポットに到達する時点までの経過時間を粉体到達時間としたとき、
前記制御装置は、現時点から前記粉体到達時間とほぼ同じ時間を経過した時点における前記レーザスポットに前記金属粉体を供給するように前記金属粉体供給手段の動作を制御する、請求項2ないし8のいずれか1項に記載の肉盛り加工装置。
【請求項10】
前記制御装置は、前記粉体吐出口から前記金属粉体を吐出させるように前記金属粉体供給手段の動作を開始させた時点から、前記粉体到達時間とほぼ同じ時間を経過した時点で、前記レーザスポットを形成するように前記レーザ照射部の動作を制御するとともに、前記レーザスポットの進行を開始するように前記レーザスポット進行手段の動作を制御する、請求項9に記載の肉盛り加工装置。
【請求項11】
前記レーザスポット進行手段が前記レーザスポットの進行方向を平面視で90°または90°以下の角度で切り替えるとき、
前記制御装置は、前記レーザスポットの方向転換位置において、全ての前記粉体吐出口から前記金属粉体を吐出させるように前記吐出量調整手段の動作を制御する、請求項2ないし10のいずれか1項に記載の肉盛り加工装置。
【請求項12】
レーザ出射孔と、前記レーザ出射孔の周囲に設けられた少なくとも3つの粉体吐出口とを有し、前記粉体吐出口のそれぞれに対して金属粉体が個別に供給される肉盛りノズルを用いた肉盛り加工方法であって、
前記レーザ出射孔からワークの加工部位にレーザ光を照射して、平面視で前記粉体吐出口のそれぞれに重なる頂点を有する仮想多角形の内側にレーザスポットを形成するレーザスポット形成工程と、
前記レーザスポットを予め定められた方向へ進行させるレーザスポット進行工程と、
前記レーザスポットの進行方向前方に位置する前記粉体吐出口から前記レーザスポットへ前記金属粉体を吐出させる金属粉体吐出工程とを備える、肉盛り加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークの加工部位へ金属粉体を供給すると同時にレーザ光を照射することによって、金属粉体を溶融固化させて肉盛り加工を行う肉盛り加工装置および肉盛り加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1に開示された従来のレーザ肉盛り装置(肉盛り加工装置)は、レーザ加工ヘッド(肉盛り加工ヘッド)と、粉末材料供給装置と、切り替え弁とを備えている。レーザ加工ヘッドは、レーザビーム(レーザ光)を発生させるレーザビーム発生部と、レーザビームをザグリ溝(加工部位)に集光させてレーザスポットを形成する集光レンズと、集光レンズと同軸に設けられた筒状の同軸ノズル(肉盛りノズル)とを有している。同軸ノズルには、レーザビームを出射させるためのレーザ出射孔が設けられており、レーザ出射孔の周囲には、金属粉末を吐出させるための複数の吐出領域に仕切られた円環状の吐出孔が設けられている。
【0003】
粉末材料供給装置は、金属粉末を同軸ノズルへ供給する粉末供給部と、キャリアガスを同軸ノズルへ供給する圧力供給装置とを有している。切り替え弁は、上記の各吐出領域へ向かう金属粉末およびキャリアガスの流路を切り替え可能なように構成されている。同軸ノズルへ供給された金属粉末およびキャリアガスは、切り替え弁で選択された流路を通して、その流路に対応する円弧状の吐出領域からレーザスポットへ吐出される。
【0004】
レーザスポットの進行方向後方の吐出領域から金属粉末およびキャリアガスが吐出されると、レーザスポットの進行方向前方に金属粉末が堆積して肉盛り層に欠陥が発生する。そのため、切り替え弁は、レーザスポットの進行方向前方の吐出領域のみから金属粉末およびキャリアガスを吐出するように流路を切り替える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【0006】
しかしながら、特許文献1のレーザ肉盛り装置(肉盛り加工装置)では、レーザスポットの進行方向が、ザグリ溝の周方向に対する正転方向および逆転方向のいずれかに限られていたため、レーザスポットを他の方向へ進行させることができないという問題があった。また、仮に、レーザスポットを任意の方向へ進行させることができたとしても、切り替え弁で選択される吐出領域(または吐出領域群)の数が2つだけであるため、進行方向前方の吐出領域(または吐出領域群)から金属粉末を吐出させることができない場合が生じるという問題があった。さらに、この問題を解決するために、同軸ノズルを回動可能に構成することが考えられるが、この場合には、肉盛り加工装置の構成が複雑になるという問題があった。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、上記問題に対処するためになされたものであり、肉盛り加工装置の構成が複雑になることなく、レーザスポットの進行方向を任意に定めた場合でも肉盛り層に欠陥が生じることを防止できる、肉盛り加工装置および肉盛り加工方法を提供することを目的とする。
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る肉盛り加工装置の特徴は、ワークの加工部位にレーザ光を照射してレーザスポットを形成するレーザ照射部と、前記レーザスポットに金属粉体を吐出させるための少なくとも3つの粉体吐出口を有する金属粉体吐出部と、前記粉体吐出口のそれぞれから吐出される前記金属粉体の吐出量を個別に調整する吐出量調整手段を有し、前記金属粉体吐出部に前記金属粉体を供給する金属粉体供給手段と、制御装置とを備え、前記レーザ照射部は、前記レーザ光を発生させるレーザ発振器と、前記レーザ光を出射させるためのレーザ出射孔が設けられた肉盛りノズルとを有し、前記粉体吐出口のそれぞれは、前記レーザ出射孔の周囲に前記レーザスポットへ向くように設けられ、平面視で前記粉体吐出口のそれぞれに重なる頂点を有する仮想多角形を想定したとき、前記レーザ照射部は、前記レーザスポットを前記仮想多角形の内側に形成するように構成され、前記制御装置は、前記レーザスポットの進行方向前方に位置する前記粉体吐出口から前記金属粉体を吐出させるように前記吐出量調整手段の動作を制御することにある。
【0009】
この構成によれば、レーザスポットは、仮想多角形の内側に位置するので、レーザスポットを平面視で把握できるいずれの方向に進行させる場合でも、レーザスポットの進行方向前方に粉体吐出口を配置でき、その粉体吐出口から金属粉体を吐出させることができる。したがって、レーザスポットの進行方向後方に位置する粉体吐出口から金属粉体を吐出させる必要がなく、溶融不良などで肉盛り層に欠陥が生じることを防止できる。また、金属粉体を効率よく溶融させることができるので、金属粉体の歩留まりを向上させることができる。さらに、レーザスポットの進行方向に応じて肉盛り加工ヘッドを回動させる必要がないので、構成は複雑にならない。
【0010】
なお、「レーザスポットの進行方向前方」とは、平面視でレーザスポットの進行方向に対して直交してレーザスポットの中心を通る仮想直線を想定したとき、その仮想直線よりも進行方向の前方を意味し、「レーザスポットの進行方向後方」とは、上記仮想直線よりも進行方向の後方を意味する。
【0011】
本発明に係る肉盛り加工装置の他の特徴は、前記レーザスポットを前記加工部位に沿って進行させるレーザスポット進行手段を備え、前記制御装置は、前記レーザスポット進行手段の動作を制御することにある。
【0012】
この構成によれば、制御装置は、レーザスポット進行手段の動作を制御するので、レーザスポットの進行経路を予め把握できる。したがって、制御装置は、レーザスポットの将来の位置情報を先取りして吐出量調整手段の動作を制御することができる。
【0013】
本発明に係る肉盛り加工装置の他の特徴は、前記制御装置は、前記金属粉体が前記レーザスポットの進行方向前方に位置する少なくとも2つの前記粉体吐出口から個別に定められた吐出量で吐出されるように前記吐出量調整手段の動作を制御することにある。
【0014】
この構成によれば、少なくとも2つの粉体吐出口から吐出される金属粉体の吐出量を個別に調整できるので、レーザスポットにおいて金属粉体を適切に溶融でき、肉盛り加工を高精度で行うことができる。例えば、レーザスポットの進行経路に近接して位置する粉体吐出口については、進行経路から離れて位置する粉体吐出口よりも金属粉体の吐出量を多くすることによって、必要量の金属粉体を効率よく溶融できる。また、2つの粉体吐出口が進行経路から同程度に離れて位置する場合には、これらの間で金属粉体の吐出量を均一にすることによって、必要量の金属粉体を均質に溶融できる。
【0015】
本発明に係る肉盛り加工装置の他の特徴は、前記吐出量調整手段は、前記粉体吐出口のそれぞれに対応して設けられ、前記金属粉体の吐出量を調整可能に構成された吐出量調整弁であり、前記制御装置は、前記吐出量調整弁の動作を制御することにある。
【0016】
この構成によれば、制御装置で吐出量調整弁の動作を制御することによって、予め定められた吐出量を正確に確保できる。
【0017】
本発明に係る肉盛り加工装置の他の特徴は、平面視で前記レーザスポットの中心を通って、前記レーザスポットの進行方向に対して平行に延びる仮想直線を想定し、平面視で前記仮想直線と前記レーザ出射孔の周囲の部分とが重なる位置を基準位置としたとき、前記レーザスポットの進行方向前方に位置する前記粉体吐出口は、前記基準位置から±45°の角度範囲内に配置されることにある。
【0018】
この構成によれば、粉体吐出口が基準位置から±45°の角度範囲内に配置されるので、粉体吐出口からレーザスポットの前部に金属粉体を供給し易く、精度の高い肉盛り加工を行うことができる。
【0019】
本発明に係る肉盛り加工装置の他の特徴は、前記金属粉体吐出部は、前記レーザ出射孔の周囲に平面視で90°の角度間隔で設けられた4つの前記粉体吐出口を有することにある。
【0020】
この構成によれば、製造工程において4つの粉体吐出口を相互に位置決めすることが容易であり、肉盛り加工ヘッドを製造し易い。また、4つの粉体吐出口のそれぞれから吐出される金属粉体の吐出量を吐出量調整手段および制御装置で細かく調整することによって、精度の高い肉盛り加工を行うことができる。
【0021】
本発明に係る肉盛り加工装置の他の特徴は、平面視で前記レーザスポットの中心を通って、前記レーザスポットの進行方向に対して平行に延びる仮想直線を想定し、平面視で前記仮想直線と前記レーザ出射孔の周囲の部分とが重なる位置を基準位置としたとき、前記レーザスポットの進行方向前方において互いに隣接する2つの前記粉体吐出口は、前記基準位置を挟んだ両側に位置することにある。
【0022】
この構成によれば、2つの粉体吐出口が基準位置を挟んだ両側に位置するので、レーザスポットを直線状の進行経路に沿って進行させる場合には、互いに隣接する2つの粉体吐出口からレーザスポットの前部に金属粉体を供給し易く、精度の高い肉盛り加工を行うことができる。
【0023】
本発明に係る肉盛り加工装置の他の特徴は、前記粉体吐出口のそれぞれは、四角形に形成されることにある。
【0024】
この構成によれば、粉体吐出口の内側面を平坦面で構成できるので、粉体吐出口を成形し易い。
【0025】
本発明に係る肉盛り加工装置の他の特徴は、前記制御装置が前記粉体吐出口から前記金属粉体を吐出させるように前記金属粉体供給手段の動作を開始させた時点から、前記金属粉体が前記レーザスポットに到達する時点までの経過時間を粉体到達時間としたとき、前記制御装置は、現時点から前記粉体到達時間とほぼ同じ時間を経過した時点における前記レーザスポットに前記金属粉体を供給するように前記金属粉体供給手段の動作を制御することにある。
【0026】
仮に、粉体到達時間を考慮することなく、レーザスポットの現在位置に金属粉体を供給しようとすると、レーザスポットの進行方向を切り替える方向転換位置においては、金属粉体の到達が間に合わず、肉盛り加工を高精度で行うことが困難である。上記構成では、粉体到達時間とほぼ同じ時間(例えば0.5~3秒)だけ先取りしたレーザスポット(将来位置)に金属粉体を供給するように吐出量調整手段の動作が制御されるので、方向転換位置においても、肉盛り加工を高精度で行うことができる。
【0027】
本発明に係る肉盛り加工装置の他の特徴は、前記制御装置は、前記粉体吐出口から前記金属粉体を吐出させるように前記金属粉体供給手段の動作を開始させた時点から、前記粉体到達時間とほぼ同じ時間を経過した時点で、前記レーザスポットを形成するように前記レーザ照射部の動作を制御するとともに、前記レーザスポットの進行を開始するように前記レーザスポット進行手段の動作を制御することにある。
【0028】
先取りしたレーザスポット(将来位置)に金属粉体を供給する場合でも、金属粉体供給手段の動作が開始する時点とレーザスポットの進行が開始する時点が同じであれば、レーザスポットの始動位置においては、金属粉体の到達が間に合わず、肉盛り加工を高精度で行うことが困難である。上記構成では、金属粉体供給手段の動作が開始する時点から粉体到達時間とほぼ同じ時間だけ遅れた時点でレーザスポットの進行が開始するので、レーザスポットの始動位置にも金属粉体を供給でき、肉盛り加工を高精度で行うことができる。
【0029】
本発明に係る肉盛り加工装置の他の特徴は、前記レーザスポット進行手段が前記レーザスポットの進行方向を平面視で90°または90°以下の角度で切り替えるとき、前記制御装置は、前記レーザスポットの方向転換位置において、全ての前記粉体吐出口から前記金属粉体を吐出させるように前記吐出量調整手段の動作を制御することにある。
【0030】
レーザスポットの90°または90°以下の角度での方向転換位置においては、レーザスポットの進行経路が大きく屈曲するため、レーザスポットの進行方向の後方および側方においても、金属粉体を溶融させる能力が大きくなる。上記構成では、レーザスポットの方向転換位置において、全ての粉体吐出口から金属粉体を吐出させるので、金属粉体をむらなく供給させることができ肉盛り不良を生じさせることなく精度の良い肉盛り加工を行うことができる。
【0031】
上記目的を達成するため、本発明に係る肉盛り加工方法の特徴は、レーザ出射孔と、前記レーザ出射孔の周囲に設けられた少なくとも3つの粉体吐出口とを有し、前記粉体吐出口のそれぞれに対して金属粉体が個別に供給される肉盛りノズルを用いた肉盛り加工方法であって、前記レーザ出射孔からワークの加工部位にレーザ光を照射して、平面視で前記粉体吐出口のそれぞれに重なる頂点を有する仮想多角形の内側にレーザスポットを形成するレーザスポット形成工程と、前記レーザスポットを予め定められた方向へ進行させるレーザスポット進行工程と、前記レーザスポットの進行方向前方に位置する前記粉体吐出口から前記レーザスポットへ前記金属粉体を吐出させる金属粉体吐出工程とを備えることにある。
【0032】
この構成によれば、レーザスポットは、仮想多角形の内側に形成されるので、レーザスポットを平面視で把握できるいずれの方向に進行させる場合でも、レーザスポットの進行方向前方に粉体吐出口を配置でき、その粉体吐出口に個別に供給された金属粉体をレーザスポットへ向けて吐出させることができる。したがって、レーザスポットの進行方向後方に位置する粉体吐出口から金属粉体を吐出させる必要がなく、溶融不良などで肉盛り層に欠陥が生じることを防止できる。また、レーザスポットの進行方向に応じて肉盛りノズルを回動させる必要がないので、肉盛りノズルが組み込まれる肉盛り加工装置の構成は複雑にならない。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】第1実施形態に係る肉盛り加工装置の構成を示す正面図である。
【
図2】レーザ照射部および金属粉体吐出部の構成を示す一部を断面にした正面図である。
【
図3】(A)は、肉盛り加工ヘッドの構成(トーチを除く。)を示す斜視図、(B)は、肉盛り加工ヘッドの構成(トーチを除く。)を示す底面図である。
【
図4】肉盛り加工ヘッドの構成を示す部分拡大底面図である。
【
図5】(A)は、インナーノズルの構成を示す斜視図、(B)は、インナーノズルの構成を示す正面図である。
【
図6】(A)は、アウターノズルの構成を示す外側から見た斜視図、(B)は、アウターノズルの構成を示す内側から見た斜視図、(C)は、アウターノズルの構成を示す正面図、(D)は、アウターノズルの構成を示す背面図である。
【
図7】第1実施形態に係る肉盛り加工装置の電気的構成を示すブロック図である。
【
図8】第1実施形態に係る肉盛り加工装置の制御動作を示すフローチャートである。
【
図9】(A)は、レーザスポットの第1進行状態を模式的に示す平面図、(B)は、レーザスポットの第2進行状態を模式的に示す平面図、(C)は、レーザスポットの第3進行状態を模式的に示す平面図である。
【
図10】(A)は、第2実施形態に係る肉盛り加工装置におけるレーザスポットの進行状態を模式的に示す平面図、(B)は、第3実施形態に係る肉盛り加工装置におけるレーザスポットの進行状態を模式的に示す平面図である。
【
図11】(A)は、第4実施形態に係る肉盛り加工装置におけるレーザスポット進行手段の構成を示す正面図、(B)は、第5実施形態に係る肉盛り加工装置におけるレーザスポット進行手段の構成を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明に係る肉盛り加工装置および肉盛り加工方法の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0035】
(肉盛り加工装置10の構成)
図1は、第1実施形態に係る肉盛り加工装置10の構成を示す正面図である。
図1に示す肉盛り加工装置10は、ワークWの加工部位に肉盛り加工を施すものであり、ワークWを支持する板状のテーブル12と、テーブル12を互いに直交するX軸、Y軸およびZ軸の方向へ変位させるためのテーブル変位機構14とを備えている。テーブル変位機構14は、上記3つの方向においてテーブル12を変位させるための3つの送りねじ機構(図示省略)を有している。各送りねじ機構は、ボールねじとリニアガイドとで構成されており、各ボールねじには、X方向駆動モータ16、Y方向駆動モータ18およびZ方向駆動モータ20のそれぞれの回転軸が接続されている。したがって、各駆動モータ16,18,20の動作を制御装置26で制御することによって、テーブル12およびワークWを任意の方向へ変位させることができる。
【0036】
後述するように、ワークWの加工部位には、レーザ照射部38によってレーザスポットP(
図9)が形成されるため、
図1に示すテーブル変位機構14でテーブル12およびワークWを変位させると、ワークWの加工部位に対するレーザスポットP(
図9)の相対的な位置が変位する。つまり、本実施形態では、テーブル変位機構14が、レーザスポットP(
図9)をワークWの加工部位に沿って進行させる「レーザスポット進行手段」として機能する。言い換えると、「レーザスポット進行手段」は、テーブル変位機構14で構成されている。
【0037】
図1に示すように、肉盛り加工装置10は、さらに、肉盛り加工ヘッド22を構成するレーザ照射部38および金属粉体吐出部36と、金属粉体供給手段24と、制御装置26と、入力部28と、表示部30とを備えている。
【0038】
図2は、レーザ照射部38および金属粉体吐出部36の構成を示す一部を断面にした正面図である。
図3(A)は、肉盛り加工ヘッド22の構成(トーチ40を除く。)を示す斜視図であり、
図3(B)は、肉盛り加工ヘッド22の構成(トーチ40を除く。)を示す底面図である。
図4は、肉盛り加工ヘッド22の構成を示す部分拡大底面図である。
【0039】
図2に示すレーザ照射部38は、ワークW(
図1)の加工部位にレーザ光を照射してレーザスポットP(
図9)を形成するものであり、レーザ発振器32と、トーチ40と、円筒状のレーザ透過部42と、肉盛りノズル46と、肉盛りノズル46を保持する筒状のノズル本体48とを有している。
【0040】
トーチ40の内部には、レーザ光を集光させる集光レンズ40aなどの光学部品が組み込まれており、トーチ40とレーザ発振器32とは、光ファイバケーブル38aを介して接続されている。肉盛りノズル46の先端部46aには、レーザ光を出射させるためのレーザ出射孔44が設けられている。円筒状のレーザ透過部42は、集光レンズ40aからレーザ出射孔44までの距離を適切に定めるためのスペーサとして機能する。
【0041】
図2に示すノズル本体48には、粉体吐出口34a,34b,34c,34d(
図4)のそれぞれに連通する4つの粉体流路50a,50b,50c,50d(
図4)の一部が設けられており、粉体流路50a,50b,50c,50dのそれぞれの入口部(上端部)は、ノズル本体48の上部の外周部に開かれている。これらの入口部には、
図1に示す金属粉体供給手段24から延びる4本のホース52a,52b,52c,52dのそれぞれの下流側端部が接続される4つの接続部54a,54b,54c,54d(
図3(B))が設けられている。そして、
図2に示すように、ノズル本体48が、レーザ透過部42の下端部に同軸となるように接合されている。
【0042】
図3(A),(B)に示すように、肉盛りノズル46は、4つの粉体吐出口34a,34b,34c,34dのそれぞれを有する4つのノズル片56a,56b,56c,56dを組み合わせることによって、全体として中空の錐状に構成されている。
図2に示すように、肉盛りノズル46の内部空間が、レーザ光を透過させる光路Mとなっている。
図3(A),(B)に示す4つのノズル片56a,56b,56c,56dのそれぞれは、同一形状・同一サイズに構成されているため、以下では、ノズル片56aを例に挙げて説明する。
【0043】
図2に示すように、ノズル片56aは、インナーノズル58と、アウターノズル60とを組み合わせることによって構成されている。なお、インナーノズル58は、全てのノズル片56a,56b,56c,56dに共通の部品である。
【0044】
図5(A)は、インナーノズル58の構成を示す斜視図であり、
図5(B)は、インナーノズル58の構成を示す正面図である。
図6(A)は、アウターノズル60の構成を示す外側から見た斜視図であり、
図6(B)は、アウターノズル60の構成を示す内側から見た斜視図である。
図6(C)は、アウターノズル60の構成を示す正面図であり、
図6(D)は、アウターノズル60の構成を示す背面図である。
【0045】
図5(A),(B)に示すように、インナーノズル58は、ノズル本体48(
図2)の内側に嵌め合わされる円筒状の第1篏合部62と、ノズル本体48(
図2)の内側に嵌め合わされる角筒状の第2篏合部64と、粉体流路50a(
図2)の一部の内面を構成する中空角錐状の第1流路構成部66とを有している。第1篏合部62の外周面には、2つの環状の溝68が形成されており、第1流路構成部66の外側面66aは、4つの三角形の平坦面で構成されている。
図2に示すように、インナーノズル58をノズル本体48の内側に嵌め合わせる際には、溝68(
図5(A),(B))にOリングなどの封止部材70が装着される。
【0046】
図6(A),(B),(C),(D)に示すように、アウターノズル60は、ノズル本体48(
図2)の下部に接合される接合部72と、インナーノズル58に接合される第2流路構成部74とを有している。
図6(B),(D)に示すように、第2流路構成部74におけるインナーノズル58の第1流路構成部66(
図5(A),(B))と対向する内側面74aの下部には、粉体流路50a(
図2)の一部を構成する長方形の断面を有する溝76が形成されている。
【0047】
図6(B),(D)に示すように、接合部72および第2流路構成部74のそれぞれの幅方向中央部には、粉体流路50a(
図2)の一部を構成する貫通孔78が、上下方向へ延びて形成されている。また、接合部72における貫通孔78を挟んだ幅方向の両側の部分には、アウターノズル60をノズル本体48に接合するためのボルト80(
図3(B))が挿通される貫通孔82が、上下方向へ延びて形成されている。さらに、第2流路構成部74における貫通孔78を挟んだ幅方向の両側の部分には、アウターノズル60をインナーノズル58(
図5(A),(B))に接合するためのボルト84(
図3(B))が挿通される貫通孔86が、上下方向に対して直交する方向(厚さ方向)へ延びて形成されている。
【0048】
図2に示すように、アウターノズル60とインナーノズル58とが互いに接合されてノズル片56aが構成されると、第1流路構成部66の外側面66a(
図5(A),(B))と第2流路構成部74の溝76(
図6(B),(D))とが協働して、粉体流路50a(
図2)の一部が構成されるとともに、ノズル片56aの下端部(先端部)に長方形の粉体吐出口34aが構成される。ノズル片56aの全体がノズル本体48に接合されると、ノズル本体48の上部の外周部から粉体吐出口34aに向かって傾斜する粉体流路50aが構成される。
【0049】
図4に示すように、4つのノズル片56a,56b,56c,56dが互いに組み合わされて肉盛りノズル46が構成されると、肉盛りノズル46の先端部に四角形のレーザ出射孔44が構成されるとともに、肉盛りノズル46の先端部におけるレーザ出射孔44の周囲に平面視で90°の角度間隔で4つの長方形の粉体吐出口34a,34b,34c,34dが構成される。
【0050】
図2に示すように、粉体流路50aは、ノズル本体48の上部の外周部から粉体吐出口34aに向かって傾斜するように構成されるため、
図4に示す粉体吐出口34a,34b,34c,34dのそれぞれは、平面視でレーザ出射孔44の中央部へ向くことになる。
図4に示すように、平面視でレーザ出射孔44の中央部には、使用時にレーザスポットPが形成されるため、粉体吐出口34a,34b,34c,34dのそれぞれは、使用時のレーザスポットPへ向くことになる。
【0051】
また、
図4に示すように、平面視で粉体吐出口34a,34b,34c,34dのそれぞれに重なる頂点を有する仮想多角形Kを想定したとき、レーザスポットPは、仮想多角形Kの内側に位置している。つまり、
図2に示すレーザ照射部38は、レーザスポットPを仮想多角形Kの内側に形成するように構成されている。仮想多角形Kの各頂点は、平面視で粉体吐出口34a,34b,34c,34dのそれぞれの幅方向中央部に位置決めされている。したがって、仮想多角形Kは、平面視で粉体吐出口34a,34b,34c,34dのそれぞれの幅方向中央部を直線で順につなぐことによって描くことができる。本実施形態の仮想多角形Kは、4つの頂点を有する四角形である。
【0052】
図4に示すように、金属粉体吐出部36は、レーザスポットP(
図9)に金属粉体(図示省略)を吐出させるための4つの粉体吐出口34a,34b,34c,34dと、これらに対応する上記の4つの粉体流路50a,50b,50c,50dと、上記の4つの接続部54a,54b,54c,54d(
図3(B))とを有している。そして、
図2に示すように、金属粉体吐出部36と上記のレーザ照射部38(レーザ発振器32を除く。)とが一体的に組み合わされることによって、肉盛り加工ヘッド22が構成されている。
【0053】
図1に示す金属粉体供給手段24は、肉盛り加工ヘッド22の金属粉体吐出部36に金属粉体を供給するものであり、粉体吐出口34a,34b,34c,34d(
図4)のそれぞれに金属粉体を供給する粉体供給部88a,88b,88c,88dを有している。粉体供給部88a,88b,88c,88dのそれぞれには、粉体吐出口34a,34b,34c,34d(
図4)のそれぞれに対応する上記ホース52a,52b,52c,52dの上流側端部が接続されている。
【0054】
また、粉体供給部88a,88b,88c,88dのそれぞれは、金属粉体にキャリアガス(窒素ガスなどの不活性ガス)を混合して、この混合体をキャリアガスの圧力で上記のホース52a,52b,52c,52dに向けて圧送する圧送装置90a,90b,90c,90dを有している。さらに、粉体供給部88a,88b,88c,88dのそれぞれは、粉体吐出口34a,34b,34c,34dのそれぞれに対応して設けられ、金属粉体の吐出量を個別に調整可能に構成された吐出量調整手段92a,92b,92c,92dを有している。本実施形態の吐出量調整手段92a,92b,92c,92dは、「吐出量調整弁」であり、粉体供給部88a,88b,88c,88dの出口付近に組み込まれている。
【0055】
図1に示す制御装置26は、CPU、ROM、RAM等からなるマイクロコンピュータ(図示省略)によって構成されており、肉盛り加工プログラムは、予めROMに記憶されている。また、制御装置26は、CPUに組み込まれたタイマー94を有している。
【0056】
図7は、肉盛り加工装置10の電気的構成を示すブロック図である。
図7に示すように、制御装置26には、X方向駆動モータ16、Y方向駆動モータ18、Z方向駆動モータ20、入力部28、表示部30、レーザ発振器32および粉体供給部88a,88b,88c,88dが電気的に接続されている。なお、
図1に示す圧送装置90a,90b,90c,90dおよび吐出量調整手段92a,92b,92c,92dは、粉体供給部88a,88b,88c,88dの一部であり、これらの動作も制御装置26で制御される。
【0057】
本実施形態の入力部28は、肉盛り加工プログラムに関する各種の条件などを入力するための操作パネルであり、本実施形態の表示部30は、肉盛り加工プログラムに関する各種の情報などを表示するための液晶表示パネルである。
【0058】
(肉盛り加工装置10の作動)
図8は、肉盛り加工装置10(
図1)の制御動作を示すフローチャートである。
図9(A)は、レーザスポットPの第1進行状態を模式的に示す平面図であり、
図9(B)は、レーザスポットPの第2進行状態を模式的に示す平面図である。
図9(C)は、レーザスポットPの第3進行状態を模式的に示す平面図である。
【0059】
作業者が制御装置26に肉盛り加工プログラムを実行させるとき、作業者は、まず、「粉体到達時間」を予め測定し、この「粉体到達時間」を、
図7に示す入力部28から入力して制御装置26のRAMに記憶させる。ここで、「粉体到達時間」とは、制御装置26が粉体吐出口34a,34b,34c,34dから金属粉体を吐出させるように金属粉体供給手段24の動作を開始させた時点から、金属粉体がレーザスポットPに到達する時点までの経過時間であり、本実施形態では、0.5~3秒程度になる。
【0060】
また、作業者は、ワークWの加工部位に対するレーザスポットPの進行状態を考慮して、
図1に示すテーブル12にワークWを固定する。レーザスポットPの進行状態は、進行経路におけるレーザスポットPと粉体吐出口34a,34b,34c,34dのそれぞれとの位置関係で決まる。
図9(A)に示すように、平面視でレーザスポットPの中心を通って、レーザスポットPの進行方向(矢印方向)に対して平行に延びる仮想直線(進行経路と一致)Lを想定し、平面視で仮想直線Lとレーザ出射孔44の周囲の部分44aとが重なる位置を基準位置Qとする。この基準位置Qを用いて、3種類の進行状態を以下に説明する。
【0061】
図9(A)に示す第1進行状態は、レーザスポットPの進行方向前方において、基準位置Qが、2つの粉体吐出口34b,34cの中間に位置する状態である。第1進行状態を採用する場合には、作業者は、レーザスポットPの進行方向前方において互いに隣接する2つの粉体吐出口34b,34cを、基準位置Qを挟んだ両側に位置決めする。このとき、2つの粉体吐出口34b,34cを、基準位置Qから±45°の角度範囲内に位置決めする。さらに詳しくは、2つの粉体吐出口34b,34cを、基準位置Qから同じ角度間隔(本実施形態では45°)だけ離して位置決めする。
【0062】
なお、「レーザスポットPの進行方向前方」とは、平面視でレーザスポットPの進行方向に対して直交してレーザスポットPの中心を通る仮想直線Nを想定したとき、その仮想直線Nよりも進行方向の前方を意味する。「レーザスポットの進行方向後方」とは、その仮想直線Nよりも進行方向の後方を意味する。上記の通り、レーザスポットPは、仮想多角形Kの内側に位置しているので、進行方向にかかわらず、粉体吐出口34a,34b,34c,34dの少なくとも1つは、必ず、レーザスポットPの進行方向前方に位置している。
【0063】
図9(B)に示す第2進行状態は、レーザスポットPの進行方向前方において、基準位置Qが、2つの粉体吐出口34b,34cの一方に偏って位置する状態である。第2進行状態を採用する場合には、作業者は、基準位置Qを挟んだ両側に、基準位置Qから異なる角度だけ離して2つの粉体吐出口34b,34cを位置決めする。つまり、一方の粉体吐出口34bを基準位置Qから70°離して位置決めし、他方の粉体吐出口34cを基準位置Qから20°離して位置決めする。
【0064】
図9(C)に示す第3進行状態は、レーザスポットPの進行方向前方において、基準位置Qが、1つの粉体吐出口34cに重なる状態である。第3進行状態を採用する場合には、作業者は、平面視で基準位置Qと重なる位置に1つの粉体吐出口34cを位置決めする。なお、上記の3種類の進行状態は、想定される様々な進行状態のうちの一例であり、これらの進行状態は、肉盛り加工プログラムの全体において変更されなくてもよいし、適宜変更されてもよい。
【0065】
テーブル12に対するワークWの固定が完了すると、作業者は、
図7に示す入力部28の操作ボタンを操作して、制御装置26に肉盛り加工プログラムを実行させる。
【0066】
肉盛り加工プログラムが開始すると、制御装置26は、まず、
図8に示すステップS1において、粉体吐出口34a,34b,34c,34dから金属粉体を選択的に吐出させるように金属粉体供給手段24の動作を開始させる。つまり、制御装置26は、金属粉体とキャリアガスとの混合体を金属粉体吐出部36に圧送するように、粉体供給部88a,88b,88c,88dの圧送装置90a,90b,90c,90dを選択的に駆動させる。また、制御装置26は、4つの粉体吐出口34a,34b,34c,34dのうち、レーザスポットPの進行方向前方に位置する粉体吐出口から金属粉体を吐出させるように吐出量調整手段92a,92b,92c,92dの動作を制御する。例えば、
図9(A)に示す第1進行状態を採用した場合には、レーザスポットPの進行方向前方において互いに隣接する2つの粉体吐出口34b,34cから金属粉体を吐出させるように吐出量調整手段92a,92b,92c,92dの動作を制御する。
【0067】
仮に、上記の「粉体到達時間」を考慮することなく、レーザスポットPの現在位置に金属粉体を供給しようとすると、レーザスポットPの進行方向を切り替える方向転換位置においては、金属粉体の到達が間に合わず、肉盛り加工を高精度で行うことが困難である。そこで、制御装置26は、現時点から「粉体到達時間」とほぼ同じ時間(例えば0.5~3秒)を経過した時点におけるレーザスポットP(将来位置)に金属粉体を供給するように金属粉体供給手段24の動作を制御する。つまり、「粉体到達時間」とほぼ同じ時間を先取りして金属粉体供給手段24の動作を制御する。したがって、方向転換位置においても、肉盛り加工を高精度で行うことができる。
【0068】
図8に示すステップS3において、制御装置26は、金属粉体供給手段24の動作が開始してから「粉体到達時間」が経過したか否かを判断し、「NO」と判断すると、「粉体到達時間」が経過するまで待機し、「YES」と判断すると、ステップS5に進んで、レーザ照射を開始するとともに、レーザスポットPの進行を開始する。
【0069】
ステップS1において、「粉体到達時間」とほぼ同じ時間を先取りしてレーザスポットP(将来位置)に金属粉体を供給しても、金属粉体供給手段24の動作が開始する時点とレーザスポットPの進行が開始する時点が同じであれば、レーザスポットPの始動位置においては、金属粉体の到達が間に合わず、肉盛り加工を高精度で行うことが困難である。そこで、制御装置26は、上記のステップS3,S5を実行する。
【0070】
つまり、制御装置26は、粉体吐出口34a,34b,34c,34dから金属粉体を選択的に吐出させるように金属粉体供給手段24の動作を開始させた時点から、「粉体到達時間」とほぼ同じ時間を経過した時点で、レーザスポットPを形成するようにレーザ発振器32の動作を制御するとともに、レーザスポットPの進行を開始するようにテーブル変位機構(レーザスポット進行手段)14の動作を制御する。したがって、レーザスポットPの始動位置にも金属粉体を供給でき、肉盛り加工を高精度で行うことができる。
【0071】
ステップS7において、制御装置26は、肉盛り加工プログラムを終了するか否かを判断し、「YES」と判断すると、そのまま終了し、「NO」と判断すると、ステップS9に進む。
【0072】
ステップS9において、制御装置26は、レーザスポットPの進行方向を変更するか否かを判断し、「NO」と判断すると、その動作状態を保持し、「YES」と判断すると、ステップS11に進んで、変更後の進行方向に対応した粉体供給を開始する。テーブル変位機構(レーザスポット進行手段)14がレーザスポットPの進行方向を平面視で90°または90°以下の角度で切り替えるとき、制御装置26は、レーザスポットPの方向転換位置において、全ての粉体吐出口34a,34b,34c,34dから金属粉体を吐出させるように吐出量調整手段(吐出量調整弁)92a,92b,92c,92dの動作を制御する。
【0073】
レーザスポットPの90°または90°以下の角度での方向転換位置においては、レーザスポットPの進行経路が大きく屈曲するため、レーザスポットPの進行方向の後方および側方においても、金属粉体を溶融させる能力が大きくなる。制御装置26は、この方向転換位置において、全ての粉体吐出口34a,34b,34c,34dから金属粉体を吐出させるので、金属粉体をむらなく供給することが可能であり、肉盛り層が偏って形成されることを抑制できる。つまり、肉盛り不良を生じさせることなく精度の良い肉盛り加工を行うことができる。
【0074】
次のステップS13において、制御装置26は、変更後の進行方向に対応した粉体供給を開始した時点、すなわち、進行方向を変更した後のレーザスポットPに金属粉体を吐出させるように金属粉体供給手段24の動作を開始させた時点から、「粉体到達時間」が経過したか否かを判断し、「NO」と判断すると、「粉体到達時間」が経過するまで待機する。「YES」と判断すると、ステップS15に進んで、レーザスポットPの進行方向を変更するように、テーブル変位機構(レーザスポット進行手段)14の動作を制御し、その後、ステップS7に戻る。
【0075】
(肉盛り加工方法)
上記の通り、本実施形態では、「レーザスポット形成工程」、「レーザスポット進行工程」および「金属粉体吐出工程」を備える「肉盛り加工方法」が、制御装置26によって自動的に実行される。ここで、「レーザスポット形成工程」は、レーザ出射孔44からワークWの加工部位にレーザ光を照射して、平面視で粉体吐出口34a,34b,34c,34dのそれぞれに重なる頂点を有する仮想多角形(本実施形態では四角形)Kの内側にレーザスポットPを形成する工程である(ステップS5)。「レーザスポット進行工程」は、レーザスポットPを予め定められた方向へ進行させる工程である(ステップS5)。「金属粉体吐出工程」は、レーザスポットPの進行方向前方に位置する粉体吐出口34b,34cからレーザスポットPへ金属粉体を吐出させる工程である。
【0076】
(実施形態の効果)
本実施形態によれば、上記構成により以下の各効果を奏することができる。すなわち、
図4に示すように、レーザスポットPは、仮想多角形Kの内側に位置するので、レーザスポットPを平面視で把握できるいずれの方向に進行させる場合でも、レーザスポットPの進行方向前方に粉体吐出口34a,34b,34c,34dの少なくとも1つを配置でき、その粉体吐出口から金属粉体を吐出させることができる。したがって、レーザスポットPの進行方向後方に位置する粉体吐出口から金属粉体を吐出させる必要がなく、溶融不良などで肉盛り層に欠陥が生じることを防止できる。また、金属粉体を効率よく溶融させることができるので、金属粉体の歩留まりを向上させることができる。さらに、レーザスポットPの進行方向に応じて肉盛り加工ヘッド22を回動させる必要がないので、肉盛り加工装置10の構成は複雑にならない。
【0077】
また、4つの粉体吐出口34a,34b,34c,34dのうちの少なくとも2つから吐出される金属粉体の吐出量を、4つの吐出量調整手段92a,92b,92c,92dのうちの少なくとも2つで個別に調整できるので、レーザスポットPにおいて金属粉体を適切に溶融でき、肉盛り加工を高精度で行うことができる。例えば、
図9(B)に示すレーザスポットPの進行経路に近接して位置する粉体吐出口34cについては、進行経路から離れて位置する粉体吐出口34bよりも金属粉体の吐出量を多くすることによって、必要量の金属粉体を効率よく溶融できる。また、
図9(A)に示すレーザスポットPの進行経路から同程度に離れて位置する2つの粉体吐出口34b,34cについては、金属粉体の吐出量を均一にすることによって、必要量の金属粉体を均質に溶融できる。
【0078】
図1に示す吐出量調整手段92a,92b,92c,92dとして、吐出量調整弁が用いられているため、制御装置26で吐出量調整弁の動作を制御することによって、予め定められた吐出量を正確に確保できる。
【0079】
図4に示すように、金属粉体吐出部36は、レーザ出射孔44の周囲に平面視で90°の角度間隔で設けられた4つの粉体吐出口34a,34b,34c,34dを有しているので、製造工程において4つの粉体吐出口34a,34b,34c,34dを相互に位置決めすることが容易であり、肉盛り加工ヘッド22を製造し易い。また、4つの粉体吐出口34a,34b,34c,34dのそれぞれから吐出される金属粉体の吐出量を、吐出量調整手段92a,92b,92c,92dおよび制御装置26で細かく調整することによって、精度の高い肉盛り加工を行うことができる。
【0080】
図4に示すように、粉体吐出口34a,34b,34c,34dのそれぞれが、四角形に形成されるので、粉体吐出口の内側面を平坦面で構成でき、粉体吐出口を成形し易い。
【0081】
(変形例)
本発明の実施にあたっては、上記の実施形態に限定されず、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。例えば、上記実施形態では、金属粉体が、キャリアガスの圧力によって粉体吐出口34a,34b,34c,34dから吐出されるが、金属粉体は、重力を用いた自由落下によって粉体吐出口34a,34b,34c,34dから吐出されてもよい。
【0082】
上記実施形態では、レーザスポットPがテーブル変位機構14を用いて進行されるが、レーザスポットPは、予め定められた進行経路に沿うように作業者の手動で進行されてもよい。
【0083】
上記実施形態では、吐出量調整手段92a,92b,92c,92dとして吐出量調整弁を用いているが、吐出量調整手段の種類は、特に限定されるものではなく、吐出量調整弁に代えて、キャリアガスの送風量を調整可能に構成された送風機が用いられてもよい。
【0084】
上記実施形態では、4つの粉体吐出口34a,34b,34c,34dのうち、2つ(
図9(A),(B))または1つ(
図9(C))が用いられているが、3つまたは4つが用いられてもよい。なお、使用される粉体吐出口の数が変更される場合でも、使用される全ての粉体吐出口から吐出される金属粉体の総量は、原則として一定に定められる。例えば、金属粉体の総量を100としたとき、1つの粉体吐出口が使用されるときの吐出量は「100」となり、2つの粉体吐出口が使用されるときの吐出量の比率は「50:50」、「70:30」および「90:10」などとなる。
【0085】
上記実施形態では、レーザスポットPの90°または90°以下の角度での方向転換位置において、制御装置26は、全ての粉体吐出口34a,34b,34c,34dから金属粉体を吐出させるが、この方向転換位置において、制御装置26は、レーザスポットPの進行方向前方に位置する粉体吐出口のみから金属粉体を吐出させてもよい。
【0086】
また、この方向転換位置、或いは、予め定められた他の位置において、制御装置26は、金属粉体の総量を増加させるように吐出量調整手段92a,92b,92c,92dを制御してもよい。この場合には、ワークWの加工部位へ十分な量の金属粉体を供給できるので、制御装置26は、肉盛り不足を生じることなく肉盛り加工を行うことができる。特に、90°または90°以下の角度での方向転換位置では、肉盛り層にむらが生じて部分的な肉盛り不足が生じ易いが、金属粉体の総量を増加させることによって、肉盛り不足を解消できる。
【0087】
上記実施形態では、粉体吐出口34a,34b,34c,34dのそれぞれが長方形に形成されているが、粉体吐出口の形状は、長方形に限定されるものではなく、正方形などの他の四角形でもよいし、三角形、円形および楕円形などでもよい。
【0088】
図10(A)は、第2実施形態に係る肉盛り加工装置100におけるレーザスポットPの進行状態を模式的に示す平面図、
図10(B)は、第3実施形態に係る肉盛り加工装置102におけるレーザスポットPの進行状態を模式的に示す平面図である。
【0089】
上記実施形態では、金属粉体吐出部36が、4つの粉体吐出口34a,34b,34c,34dを有しているが、金属粉体吐出部36は、少なくとも3つの粉体吐出口を有していればよい。例えば、
図10(A)に示す第2実施形態に係る肉盛り加工装置100のように、金属粉体吐出部36は、3つの粉体吐出口34a,34b,34cを有していてもよいし、
図10(B)に示す第3実施形態に係る肉盛り加工装置102のように、金属粉体吐出部36は、6つの粉体吐出口34a,34b,34c,34d,34e,34fを有していてもよい。
【0090】
図11(A)は、第4実施形態に係る肉盛り加工装置104における「レーザスポット進行手段」の構成を示す正面図、
図11(B)は、第5実施形態に係る肉盛り加工装置106における「レーザスポット進行手段」の構成を示す正面図である。
【0091】
上記実施形態では、「レーザスポット進行手段」が、テーブル変位機構14で構成されているが、「レーザスポット進行手段」の種類は、特に限定されるものではなく、他の種類の機構が用いられてもよい。例えば、
図11(A)に示す第4実施形態に係る肉盛り加工装置104のように、「レーザスポット進行手段」は、肉盛り加工ヘッド22をX方向、Y方向およびZ方向へ変位させるヘッド変位機構108で構成されてもよい。また、
図11(B)に示す第5実施形態に係る肉盛り加工装置106のように、「レーザスポット進行手段」は、テーブル変位機構14およびヘッド変位機構108の両方で構成されてもよい。
【0092】
さらに、
図11(B)に示す第5実施形態に係る肉盛り加工装置106のように、テーブル変位機構14は、テーブル12を回転させる機構や、傾斜させる機構を有していてもよいし、ヘッド変位機構108は、肉盛り加工ヘッド22を傾斜させる機構を有していてもよい。
【符号の説明】
【0093】
K…仮想多角形、M…光路、P…レーザスポット、W…ワーク、10…肉盛り加工装置、12…テーブル、14…テーブル変位機構(レーザスポット進行手段)、16…X方向駆動モータ、18…Y方向駆動モータ、20…Z方向駆動モータ、22…肉盛り加工ヘッド、24…金属粉体供給手段、26…制御装置、28…入力部、30…表示部、32…レーザ発振器、34a,34b,34c,34d…粉体吐出口、36…金属粉体吐出部、38…レーザ照射部、40…トーチ、40a…集光レンズ、42…レーザ透過部(スペーサ)、44…レーザ出射孔、46…肉盛りノズル、48…ノズル本体、50a,50b,50c,50d…粉体流路、52a,52b,52c,52d…ホース、56a,56b,56c,56d…ノズル片、58…インナーノズル、60…アウターノズル、88a,88b,88c,88d…粉体供給部、90a,90b,90c,90d…圧送装置、92a,92b,92c,92d…吐出量調整手段(吐出量調整弁)、94…タイマー。