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特開2023-115492生体情報推定方法および生体情報推定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023115492
(43)【公開日】2023-08-21
(54)【発明の名称】生体情報推定方法および生体情報推定装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/02 20060101AFI20230814BHJP
   A61B 5/0245 20060101ALI20230814BHJP
   A61B 5/022 20060101ALI20230814BHJP
【FI】
A61B5/02 310Z
A61B5/0245 C
A61B5/022 400H
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022017728
(22)【出願日】2022-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】000004765
【氏名又は名称】マレリ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100148301
【弁理士】
【氏名又は名称】竹原 尚彦
(74)【代理人】
【識別番号】100176991
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 由布子
(74)【代理人】
【識別番号】100217696
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 英行
(72)【発明者】
【氏名】江美 綾子
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 晴彦
【テーマコード(参考)】
4C017
【Fターム(参考)】
4C017AA08
4C017AA09
4C017AB07
4C017AC27
4C017BC08
4C017BC16
4C017FF15
(57)【要約】
【課題】ノイズが含まれる画像から脈波を特定する。
【解決手段】生体情報推定方法は、運転者Dを撮影した画像IMに複数の領域を設定する設定ステップと、連続して入力される画像IMに対して、領域ごとに平均輝度値を算出し、平均輝度値の時系列データを得る算出ステップと、時系列データに対して周波数解析を行う解析ステップと、周波数解析の結果から、領域ごとにピーク周波数を検出する検出ステップと、複数の領域におけるピーク周波数から共通する周波数を探索して、運転者Dの脈波の周波数を特定する特定ステップと、を備える。
【選択図】図13
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザを撮影した画像に複数の領域を設定する設定ステップと、
連続して入力される前記画像に対して、前記領域ごとに輝度値を算出し、前記輝度値の時系列データを得る算出ステップと、
前記時系列データに対して周波数解析を行う解析ステップと、
前記周波数解析の結果から、前記領域ごとにピーク周波数を検出する検出ステップと、
前記複数の領域における前記ピーク周波数から共通する周波数を探索して、前記ユーザの脈波の周波数を特定する特定ステップと、を備える生体情報推定方法。
【請求項2】
前記脈波の周波数が検出された2つの領域を選択する選択ステップと、
前記2つの領域の前記時系列データに、前記脈波の周波数に基づいて設定された周波数帯のバンドパスフィルタをかけて、前記ユーザの脈波データを取得するフィルタリングステップと、
前記2つの領域の脈波データにおける脈波のピーク時間差を求め、前記ピーク時間差に基づいて前記ユーザの血圧を推定する推定ステップと、を備える、請求項1記載の生体情報推定方法。
【請求項3】
前記設定ステップは、
前記画像から前記ユーザの顔の2つの特徴点を抽出し、前記2つの特徴点の距離に基づいて、前記ユーザを包含する全体領域のサイズを設定することと、
前記2つの特徴点のいずれかを中心として、前記画像における前記全体領域の端点の位置を設定することと、
前記全体領域を分割して、前記複数の領域を設定することと、を含む、請求項1記載の生体情報推定方法。
【請求項4】
前記画像は、車両に設けられた撮像装置により、前記車両の運転者である前記ユーザを撮影したものであり、
前記設定ステップは、
前記画像から前記ユーザの顔を抽出し、前記ユーザの顔を包含する第1全体領域を設定することと、
前記画像から車両のステアリングホイールを抽出し、前記ステアリングホイールを包含する第2全体領域の位置を設定することと、
前記第1全体領域および前記第2全体領域を分割して、前記複数の領域を設定することと、を含む、請求項1記載の生体情報推定方法。
【請求項5】
前記検出ステップは、前記周波数解析の結果から、前記領域ごとに、所定値以上のパワーを有する複数のピーク周波数を検出することを含む、請求項2記載の生体情報推定方法。
【請求項6】
前記選択ステップは、
前記脈波の周波数が検出された領域間の距離が最も大きい2つの領域を選択することを含む、請求項2記載の生体情報推定方法。
【請求項7】
ユーザを撮影した画像に複数の領域を設定する領域設定部と、
連続して入力される前記画像に対して、前記領域ごとに輝度値を算出し、前記輝度値の時系列データを得る輝度算出部と、
前記領域ごとに輝度値を算出し、前記輝度値の時系列データに対して周波数解析を行い、前記周波数解析の結果から前記領域ごとにピーク周波数を検出し、前記複数の領域における前記ピーク周波数から共通する周波数を探索して、前記ユーザの脈波の周波数を特定する脈波特定部と、を備える生体情報推定装置。
【請求項8】
前記複数の領域から、前記脈波の周波数が検出された2つの領域を選択し、前記2つの領域の前記時系列データに、前記脈波の周波数に基づいて設定された周波数帯のバンドパスフィルタをかけて、前記ユーザの脈波データを取得し、前記2つの領域の脈波データにおける脈波のピーク時間差を求め、前記ピーク時間差に基づいて前記ユーザの血圧を推定する血圧推定部を備える、請求項7記載の生体情報推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体情報推定方法および生体情報推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の運転者の体調が運転中に悪化すると、事故の発生に繋がることがある。事故発生のリスクを低減するために、運転者の体調を示す血圧等の生体情報を推定することが提案されている。
特許文献1は、被験者を撮像した画像の輝度の変化から被験者の脈波を特定し、脈波から血圧の変化を推定する方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2016/158624号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、車両の運転者を撮影した画像には、車両の振動、太陽光の移動、トンネルへの出入り等の様々な要因によって、多くのノイズが含まれている。このような画像から運転者の脈波を精度よく特定することが難しい。
【0005】
生体情報推定方法および生体情報推定装置において、ノイズが含まれる画像から脈波を特定する精度を向上させることが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る生体情報推定方法は、
ユーザを撮影した画像に複数の領域を設定する設定ステップと、
連続して入力される前記画像に対して、前記領域ごとに輝度値を算出し、前記輝度値の時系列データを得る算出ステップと、
前記時系列データに対して周波数解析を行う解析ステップと、
前記周波数解析の結果から、前記領域ごとにピーク周波数を検出する検出ステップと、
前記複数の領域における前記ピーク周波数から共通する周波数を探索して、前記ユーザの脈波の周波数を特定する特定ステップと、を備える。
【0007】
本発明に係る生体情報推定装置は、
ユーザを撮影した画像に複数の領域を設定する領域設定部と、
連続して入力される前記画像に対して、前記領域ごとに輝度値を算出し、前記輝度値の時系列データを得る輝度算出部と、
前記領域ごとに輝度値を算出し、前記輝度値の時系列データに対して周波数解析を行い、前記周波数解析の結果から前記領域ごとにピーク周波数を検出し、前記複数の領域における前記ピーク周波数から共通する周波数を探索して、前記ユーザの脈波の周波数を特定する脈波特定部と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ノイズが含まれる画像から脈波を特定する精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】(a)は、生体情報推定装置が搭載された車両を示す図であり、(b)は、赤外線カメラで撮影される画像の一例を示す図である。
図2】生体情報推定装置の概略的な構成を示すブロック図である。
図3】画像における全体領域を説明する図である。
図4】全体領域に設定される複数の領域を説明する図である。
図5】周波数解析の結果の一例を示すグラフである。
図6】(a)は、各領域から検出されたピーク周波数を示す表であり、図6の(b)は、四捨五入したピーク周波数を示す表である。
図7】共通するピーク周波数の探索結果を示す表である。
図8】脈波検出領域を示す図である。
図9】距離テーブルの一例を示す図である。
図10】バンドパスフィルタをかけられた領域A20、A63の周波数解析の結果を示す図である。
図11】領域A20、A63の脈波データを示す図である。
図12】ピーク時間差と血圧の関係を示すグラフである。
図13】血圧推定処理を説明するフローチャートである。
図14】領域設定処理の詳細を説明するフローチャートである。
図15】脈波特定処理の詳細を説明するフローチャートである。
図16】変形例1に係る複数の領域の設定例を説明する図である。
図17】変形例1に係る領域設定処理を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を説明する。
実施形態では、生体情報推定方法を実施する装置(生体情報推定装置)を、車両に搭載する例を説明する。生体情報推定装置は、生体情報として、車両の運転者(ユーザ)の血圧を推定する。
図1の(a)は、生体情報推定装置1が搭載された車両を示す図であり、図1の(b)は、赤外線カメラ2で撮影される画像IMの一例を示す図である。
図2は、生体情報推定装置1の概略的な構成を示すブロック図である。
【0011】
図1の(a)に示すように、生体情報推定装置1は、車両Vに搭載されている。生体情報推定装置1には、赤外線カメラ2(撮像装置)が撮影する画像IMが連続して入力される。生体情報推定装置1は、この画像IMを用いて、運転者Dの脈波を推定し、脈波から血圧を推定する。
生体情報推定装置1は、車室内に設けられたディスプレイ3またはスピーカ4等に、推定結果に基づいた情報を出力することができる。
【0012】
赤外線カメラ2は、近赤外領域の波長を検出可能な公知の赤外線カメラ2を用いることができる。赤外線カメラ2は、運転者Dのモニタリングに用いられる赤外線カメラ2を流用することができる。赤外線カメラ2は、近赤外線を連続的に照射することにより、グレースケール画像である画像IMを撮影する。赤外線カメラ2は、昼夜を問わず、近赤外線を照射することにより撮影が可能である。これにより、RGBカメラによるカラー画像(RGB画像)と比べて、画像に対する環境光の影響を抑制できる。
【0013】
車室内において赤外線カメラ2は、インストルメントパネルIP等の運転席DSの正面側に位置する部位に設置されている。赤外線カメラ2は、運転席DSを向いて設置されている。赤外線カメラ2は、運転席DSを含む車室内を撮影する。赤外線カメラ2の撮影範囲には、図1の(b)に示すように、運転席DSを含む車室の一部と、運転席DSに座る運転者Dの上半身と、運転者Dが把持するステアリングホイールSWが含まれる。
【0014】
図2に示すように、生体情報推定装置1は、記憶部10と、制御部11と、を有している。図示は省略するが、記憶部10は、ROMおよびRAM等のメモリから構成される。メモリには、生体情報推定装置1で実行される各種プログラムが格納されている。制御部11は、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサから構成される。プロセッサがメモリに格納されたプログラムを実行することで、図2に示す制御部11の機能的な構成が実現される。
記憶部10には、また、制御部11の処理の過程で算出された値や、制御部11の処理で用いられる参照値、テーブル等が記憶される。記憶部10には、一例として、距離テーブル101と血圧テーブル102が記憶される。
【0015】
制御部11は、領域設定部12、輝度算出部13、脈波特定部14、血圧推定部15および通知部16を有している。
【0016】
<領域設定部:設定ステップ>
図3は、画像IMにおける全体領域WAを説明する図である。
図4は、全体領域WAに設定される複数の領域A1~A64を説明する図である。
図3に示すように、領域設定部12は、赤外線カメラ2から入力される画像IMにおける全体領域WAを設定する。図4に示すように、領域設定部12は、全体領域WAを分割して複数の領域Aを設定する。
【0017】
図3に示すように、全体領域WAは、画像IMの中の、運転者Dを包含する領域を意味する。全体領域WAは、例えば、矩形の領域として設定される。全体領域WAは、少なくとも、運転者Dの顔と、ステアリングホイールSWを把持する運転者Dの手を含むように設定される。
なお、画像IM上の位置は、画像IMを構成する画素の位置を示すXY座標系により特定することができる。X座標は、図3に示す画像IMの左右方向の位置を示し、Y座標は、図3に示す画像IMの上下方向の位置を示す。
【0018】
領域設定部12は、公知の顔認識処理により、画像IMに写っている運転者Dの顔を抽出し、運転者Dの顔を基準として全体領域WAを設定する。
領域設定部12は、たとえば、公知の顔認識処理により、画像IMから、運転者Dの顔の2箇所の特徴点を抽出する。顔の特徴点とは、例えば目、眉毛、鼻、唇等の顔を構成する部位のそれぞれにおける、特徴的な位置にある点である。領域設定部12は、2箇所の特徴点の間の距離を算出する。
領域設定部12は、たとえば、図3に示すように、画像IMから運転者Dの目と鼻の特徴点を抽出して、鼻の特徴点と、左右の目のいずれか一つの特徴点との距離D1を算出する。
【0019】
領域設定部12は、距離D1に基づいて、全体領域WAのサイズを決定する。画像IMに写る運転者Dの目と鼻の距離D1は一定ではなく、運転者Dの体格や座る位置等によって変化する。距離D1が大きくなるほど、画像IMに写る運転者Dのサイズも大きくなると考えられる。すなわち、距離D1が大きくなるほど、全体領域WAのサイズも大きく設定される。
【0020】
全体領域WAを矩形とする場合、全体領域WAのサイズは、図3に示すように、横幅L(Length)と、縦幅W(Width)により表すことができる。横幅Lは、画像IM上のX座標系の長さを意味する。縦幅Wは、画像IM上のY座標系の長さを意味する。
【0021】
記憶部10には、たとえば、目と鼻の距離D1から全体領域WAのサイズを決定するためのアルゴリズムが記憶されている。領域設定部12は、そのアルゴリズムを用いて、目と鼻の距離D1から全体領域WAのサイズを算出することができる。あるいは、目と鼻の距離D1に対応する全体領域WAのサイズを示すテーブルを予め作成し、記憶部10に記憶させておいても良い。領域設定部12は、テーブルを参照して、算出した距離D1に対応する全体領域WAのサイズを取得することができる。
【0022】
領域設定部12は、さらに、画像IMにおける全体領域WAの位置を設定する。全体領域WAを矩形とした場合、全体領域WAの位置は、4つの角部P1、P2、P3、P4の座標(端点座標)で定義することができる。領域設定部12は、たとえば、顔認識処理で検出した運転者Dの鼻の位置を全体領域WAの中心として、端点座標を設定することができる。
【0023】
図3では、鼻の中心点の座標を(x,y)とした場合の4つの端点座標の設定例を示している。
右上の角部P1の端点座標は(x+L/2,y-W/2)、左上の角部P2の端点座標は(x-L/2,y-W/2)、右下の角部P3の端点座標は(x+L/2,y+W/2)、左下の角部P4の端点座標は(x-L/2,y+W/2)として設定される。
端点座標の設定例はこれに限定されず、例えば、全体領域WAの中心を鼻の中心点以外の位置に設定しても良い。
【0024】
図4に示すように、領域設定部12は、全体領域WAを複数の領域に分割する。領域設定部12は、たとえば、矩形の全体領域WAを格子状に分割する。全体領域WAの分割数は、予め設定されている。分割数は限定されないが、図4では、全体領域WAを64個(横幅8×縦幅8)の領域A1~A64に分割した例を示している。各領域A1~A64は同じサイズを有する。
【0025】
領域設定部12は、領域A1~A64の情報を記憶部10に記憶させる。領域設定部12は、領域A1~A64の情報として、たとえば、各領域A1~A64の識別子と端点座標を記憶部10に記憶させる。
【0026】
<輝度算出部:算出ステップ>
輝度算出部13は、領域設定部12が設定した領域A1~A64ごとに、輝度値の時系列データを算出する。
輝度算出部13は、各領域を構成する画素の輝度を合算した値を、各領域の画素の総数で除算して、平均輝度値を算出する。輝度算出部13は、算出した各領域A1~A64の平均輝度値を記憶部10に記憶させる。輝度算出部13は、赤外線カメラ2から画像IMが入力される度に、各領域A1~A64の平均輝度値を算出し、順次記憶部10に記憶させる。記憶部10に平均輝度値のデータが蓄積されることで、各領域A1~A64の平均輝度値の時系列データが得られる。
【0027】
<脈波特定部:解析ステップ、検出ステップ、特定ステップ>
脈波特定部14は、平均輝度値の時系列データから運転者Dの脈波を特定し、さらに複数の領域A1~A64の中から、脈波が検出される領域(脈波検出領域)を特定する。
脈波特定部14は、各領域A1~A64について、記憶部10に蓄積された一定時間T1分の平均輝度値の時系列データを取得する。脈波特定部14は、時系列データに対して、高速フーリエ変換(FFT、fast Fourier transform)により周波数解析を行う。
【0028】
図5は、周波数解析の結果の一例を示すグラフである。図5に示すように、周波数解析によって、各領域の輝度の変化が、周波数の振幅スペクトルとして示される。図5の(a)は、図4に示す領域A18の周波数解析の結果であり、図5の(b)は、領域A20の周波数解析の結果であり、図5の(c)は領域A63の周波数解析の結果である。いずれの領域においても、振幅が高い周波数であるピーク周波数を見出すことができる。
【0029】
ここで、運転者Dの皮膚を写した画像IMは、運転者Dの脈波に応じて輝度が変化する。
脈波は、心臓が血液を送り出すことに伴い発生する血管の容積変化を波形として捉えたものである。血管の容積変化は、心拍数に応じて決まる周期で変動する。そのため、運転者Dの血管を流れる血流量は、血管の容積変化に連動して増減する。
【0030】
血液に含まれるヘモグロビンは、近赤外線を吸収する。そのため、運転者Dの皮膚を写した画像IMは、血流量が多いときには輝度が低くなり、血流量が少ないときには輝度が高くなる傾向がある。すなわち、周期的に変化する運転者Dの脈波に応じて、輝度も周期的に変化する。環境の変化が少ない状態で撮影が行われた場合、平均輝度値の時系列データの周波数解析の結果からは、一般的には0.7~2.0Hzの範囲に、脈波の周波数として推定可能なピーク周波数が検出される。
【0031】
しかしながら、車両Vの運転中は、車両Vの振動、太陽光の移動、トンネルへの出入り等の様々な環境の変化が生じる。赤外線カメラ2で撮影を行うことにより、環境光の影響を低減することはできるが、画像IMには依然として多くのノイズが生じる。そのため、図5に示すように、画像IMの周波数解析の結果からは、ノイズが要因と見られる多くのピーク周波数が検出される。これらのピーク周波数の中に、脈波の周波数も含まれていると考えられる。しかしながら、一般的な脈波の周波数の範囲である0.7~2.0Hzにも複数のピーク周波数が検出されているため、どのピーク周波数が脈波の周波数か特定しにくい。
【0032】
ここで、実施形態では、図4に示すように、全体領域WAが格子状に分割され、運転者Dを含む領域と含まない領域に切り分けられている。さらに、運転者Dを含む領域も細かく切り分けられ、運転者の露出した皮膚が写る領域と、写らない領域に細かく切り分けられている。
例えば、領域A18は運転者Dを含まない領域である。一方、領域A20には運転者Dの額の皮膚が写り、領域A63には運転者Dの左手の皮膚が写っている。
図5の(a)に示すように、運転者Dを含まない領域A18の周波数解析の結果には、0.7~2.0Hz以外の範囲にも多くのピーク周波数が含まれており、ノイズの影響を大きく受けていると考えられる。
一方、図5の(b)および図5の(c)に示すように、運転者の皮膚を写す領域A20、A63の周波数解析の結果には、複数のピーク周波数が見受けられるものの、大部分は0.7~2.0Hzの範囲に収まっている。これらの領域は、比較的ノイズの影響が少なく、かつ脈波の周波数が含まれていると考えられる。
【0033】
このように、ノイズの多い画像IMであっても、運転者Dが含まれる全体領域WAを設定し、さらに複数の領域A1~A64に細かく分割することで、ノイズの影響が少なく、かつ脈波の周波数が検出されやすい領域を切り分けることができる。
【0034】
脈波特定部14は、領域A1~A64の周波数の解析結果から共通するピーク周波数を探索する。ノイズによって生じたピーク周波数は、ランダムな要因で発生するため、同じものになりにくい。そのため、領域A1~A64の複数のピーク周波数の中から共通する周波数を探索することで、脈波の周波数を特定することができる。
【0035】
図6の(a)は、各領域で検出されたピーク周波数を示す表であり、図6の(b)は、四捨五入したピーク周波数を示す表である。図6の(a)および図6の(b)は、領域A1~A64の中の、一部の領域のピーク周波数を示している。
図7は、共通するピーク周波数の探索結果を示す表である。
図6の(a)に示すように、脈波特定部14は、各領域A1~A64の周波数解析の結果から、領域ごとに、ピーク周波数を検出する。脈波特定部14は、各領域において、パワー(振幅)が大きい順に、複数の周波数を、ピーク周波数として検出する。脈波特定部14は、たとえば、3つの周波数をピーク周波数として検出することができる。なお、図6の(a)の第1ピーク、第2ピーク、第3ピークは、パワーが大きい順を示すものではなく、ランダムに検出された順序を示している。
ピーク周波数には、下限値(所定値)を設定しても良い。脈波特定部14は、領域の中で上位3位に入る周波数であっても、その周波数が下限値を下回る場合は、ピーク周波数として検出しない。
【0036】
脈波特定部14は、さらに、各領域A1~A64で検出されたピーク周波数の中から、共通するピーク周波数を探索する。
ここで、周波数解析の結果には誤差が生じることもあるため、共通するピーク周波数は、完全一致した周波数だけではなく、近似した周波数を含めても良い。脈波特定部14は、たとえば、誤差が±0.05の範囲であれば、共通するピーク周波数として抽出しても良い。あるいは、図6の(b)に示すように、脈波特定部14は、検出したピーク周波数の値の分解能が0.1になるように四捨五入して、近似した周波数が同じ値になるようにしても良い。
【0037】
脈波特定部14は、複数の共通するピーク周波数が探索された場合は、図7に示すように、それぞれの探索個数をカウントする。脈波特定部14は、最も探索された個数が多いピーク周波数を、脈波の周波数として特定する。図7の例では、最も探索された個数が多い1.3Hzが、脈波の周波数として特定される。脈波特定部14は、特定した脈波の周波数を記憶部10に記憶させる。
【0038】
図8は、脈波検出領域を示す図である。
脈波特定部14は、脈波の周波数が検出された領域を、脈波検出領域として選択する。図8では、脈波検出領域として選択された領域にハッチングを付している。図8の例では、運転者Dの顔を含む領域A20、A21、A28、A29、A36、A37と、運転者の首を含む領域A44、A45と、運転者Dの手を写す領域A58、A59、A62、A63が選択される。
【0039】
脈波特定部14は、脈波検出領域のそれぞれについて、他の脈波検出領域との距離D2を算出する。図8に示すように、脈波特定部14は、たとえば、脈波検出領域の端点座標間の距離を、距離D2として算出する。
【0040】
脈波特定部14は、算出した距離D2を記録した距離テーブル101を作成し、記憶部10に記憶させる。
図9は、距離テーブル101の一例を示す図である。
図9に示すように、距離テーブル101は、距離D2が大きい順に、2つの脈波検出領域の組み合わせと、算出された距離D2の数値が記録されている。
図9の例では、図8に示す運転者Dの顔を写す領域A20と、運転者Dの左手を写す領域A63との距離D2が最も大きい。運転者Dの顔を写す領域A21と、運転者Dの右手を写す領域A58との距離D2が、2番目に大きい。この距離D2の算出は、脈波検出領域の中から、後記する血圧の推定に適した2つの領域を選択するために行われる。
【0041】
<血圧推定部:選択ステップ、フィルタリングステップ、推定ステップ>
血圧推定部15は、距離テーブル101を参照して、距離D2が最も大きい2つの脈波検出領域の組み合わせを選択する。血圧推定部15は、2つの脈波推定領域の脈波に生じる時間差を用いて、血圧の推定を行う。
【0042】
前記したように、脈波は、心臓から送り出された血液による血管の容積変化を示すものである。ここで、心臓から送り出された血液が到達する時間は、心臓からの距離によって変化する。言い換えると、心臓からの距離に差がある領域では、脈波に生じる時間差も大きくなると考えられる。
【0043】
ここで、画像IM上における距離D2が大きい脈波推定領域は、心臓からの距離の差が大きいと考えられる。そのため、血圧推定部15は、距離D2が最も大きい2つの脈波検出領域の組み合わせを選択して、血圧を推定する。
【0044】
血圧推定部15は、記憶部10から、距離D2が最も大きい領域A20、A63の平均輝度値の時系列データを取得し、高速フーリエ変換による周波数解析を行う。
血圧推定部15は、領域A20、A63の平均輝度値の時系列データに対して、周波数解析を行う際に、バンドパスフィルタをかける。血圧推定部15は、脈波特定部14で特定された脈波の周波数に基づいて、バンドパスフィルタの周波数帯を設定する。バンドパスフィルタの周波数帯は、たとえば、脈波の周波数の±10%に設定することができる。
【0045】
図10は、バンドパスフィルタをかけられた領域A20、A63の周波数解析の結果を示す図である。図10の(a)が領域A20の周波数解析の結果であり、図10の(b)が領域A63の周波数解析の結果である。
図11は、バンドパスフィルタをかけられた領域A20、A63の時系列データを示す図である。
図12は、ピーク時間差と血圧の関係を示すグラフである。
【0046】
図10では、バンドパスフィルタをかけられた領域A20、A63の周波数解析の結果を、図5と同様に、振幅スペクトルとして表示している。
図5の(b)および図5の(c)に示すように、領域A20、A63の周波数解析の結果は、比較的ノイズの影響が少ないものの、ノイズの影響による複数のピーク周波数が見受けられた。
一方、図10(a)および図10の(b)に示すように、バンドパスフィルタをかけられることによって、領域A20、A63の周波数解析の結果から、脈波の周波数1.3Hzの±10%を範囲とする周波数帯以外のピーク周波数が取り除かれる。すなわち、領域A20、A63の周波数解析の結果から、ノイズの影響によるピーク周波数が取り除かれる。
これによって、図11に示すように、バンドパスフィルタをかけられた領域A20、A63の輝度値の時系列データは、周波数のピークが周期的に現れており、運転者Dの脈波の波形を反映している。すなわち、領域A20、A63の輝度値の時系列データに対して、脈波の周波数に基づいたバンドパスフィルタをかけることで、運転者Dの脈波データが得られる。さらに、バンドパスフィルタは脈波の周波数の±10%という狭い周波数帯で設定されるため、ノイズの影響によるピーク周波数が取り除かれやすい。これによって、精度の高い脈波データが得られる。
【0047】
図11に示すように、領域A20と領域A63の波形は、概ね同様の周期を示しているが、ピークが出現するタイミングに時間差(ピーク時間差PTD)がある。前記したように、領域A20に写る顔と、領域A63に写る手とでは、心臓からの距離が異なるため、心臓から送り出された血液が到達するまでの時間が異なる。そのため、このようなピーク時間差PTDが生じる。
図12に示すように、ピーク時間差PTDは血圧によって変化する。血圧が高ければピーク時間差PTDは小さくなり、血圧が低ければピーク時間差PTDは大きくなる。
【0048】
血圧推定部15は、領域A20、A63のそれぞれのピークを検出する。血圧推定部15は、領域A20の各ピークについて、領域A63の最も近接するピークとの時間差を算出する。血圧推定部15は、算出した各ピーク時間差PTDの合計をピークの検出数で除して、ピーク時間差PTDの平均値を算出する。
【0049】
記憶部10には、ピーク時間差PTDと血圧値の対応を示す血圧テーブル102(図2参照)が記憶されている。血圧推定部15は、血圧テーブル102を参照して、算出したピーク時間差PTDの平均値に対応する血圧値を取得する。血圧推定部15は、取得した血圧値を、運転者Dの血圧の推定値として記憶部10に記憶させる。
【0050】
血圧推定部15は、一定時間T2ごとに記憶部10に蓄積された領域A20、A63の時系列データを取得して、前記した血圧推定処理を行い、推定した血圧値を順次記憶部10に記憶させる。これによって、運転者Dの血圧の変化を示すデータが得られる。血圧推定部15は、車両Vの走行中は、血圧推定処理を継続する。
【0051】
なお、血圧推定部15の処理を継続している間に、領域A20、A63から脈波が検出できなくなる可能性がある。たとえば、運転者Dが左手の位置を動かして領域A63に左手が写らなくなった場合、領域A63から脈波が検出できなくなる。あるいは、領域A20に局所的に太陽光が差し込んだ場合、領域A20から、脈波によるものではないピークが検出される。このような場合、領域A20、A63の組み合わせから、適切なピーク時間差PTDが算出されない。
【0052】
血圧推定部15は、適切なピーク時間差PTDが算出されなかった場合、血圧の推定に用いる脈波検出領域の組み合わせを変更することができる。
適切なピーク時間差PTDの判定となる基準値を予め設定して、記憶部10に記憶させても良い。基準値は、ピーク時間差PTDが、血圧によって生じるものと推定できる許容値とすることができる。血圧推定部15は、算出したピーク時間差PTDの平均値が基準値を超えた場合、脈波検出領域の組み合わせを変更することができる。
【0053】
血圧推定部15は、距離テーブル101を参照し、2番目に距離D2が大きい脈波検出領域の組み合わせを選択する。図9の例では、運転者Dの顔を写す領域A21(図8参照)と、運転者Dの右手を写す領域A58(図8参照)が選択される。血圧推定部15は、領域A21、A58のピーク時間差PTDを算出して、血圧の推定を行う。
なお、領域A21、A58からも適切なピーク時間差PTDが算出されない場合は、血圧推定部15は、さらに次に距離D2が大きい脈波検出領域の組み合わせを選択して、適切なピーク時間差PTDが算出されるまで、ピーク時間差PTDの算出を行っても良い。
【0054】
<通知部>
通知部16は、たとえば、推定した血圧値を、車室内に設置されたディスプレイ3(図2参照)に表示させても良い。血圧値は、たとえば、数字で表示しても良く、グラフで表示しても良い。
通知部16は、また、血圧値の変化をモニタリングして、血圧値に急激な上昇または下降が生じた場合に、アラームを出力しても良い。通知部16は、アラームとして、たとえば運転中止等を勧告する文字をディスプレイ3に表示させても良い。通知部16は、アラームとして、運転中止を勧告する音声またはブザー音を、車室内のスピーカ4(図2参照)から出力させても良い。
その場合は、血圧値の急激な上昇または下降を示す閾値を記憶部10に記憶させておく。通知部16は、閾値を参照して、アラームの出力の要否を判定することができる。
通知部16は、あるいは、推定した血圧値を、運転者Dのスマートフォン等に送信しても良い。
【0055】
以下、制御部11が実施する処理を説明する。
図13は、血圧推定処理を説明するフローチャートである。
図14は、領域設定処理の詳細を説明するフローチャートである。
図15は、脈波特定処理の詳細を説明するフローチャートである。
【0056】
図13に示すように、制御部11は、血圧推定処理を行うために、領域設定処理(ステップS01)および脈波特定処理(ステップS02)を行う。領域設定処理は、たとえば、車両Vのイグニッションスイッチが操作され、赤外線カメラ2が撮影を開始したタイミングで行っても良い。あるいは、運転席DSに着座センサまたはシートベルトセンサ等が設けられている場合は、センサの検出タイミングで領域設定処理を行っても良い。
【0057】
図14に示すように、制御部11の領域設定部12は、赤外線カメラ2から画像IMが入力されると(ステップS101:Yes)、顔認識処理を行い(ステップS102)、画像IMから運転者Dの目と鼻を抽出する。
領域設定部12は、画像IMから運転者Dの目と鼻が抽出できない場合は(ステップS103:No)、ステップS101に戻り、次のフレームの画像IMに対して顔認識処理を行う。
領域設定部12は、画像IMから目と鼻が抽出された場合は(ステップS103:Yes)、目と鼻の距離D1を算出する(ステップS104)。
【0058】
領域設定部12は、目と鼻の距離D1に基づいて、全体領域WAのサイズを決定する(ステップS105)。領域設定部12は、たとえば、記憶部10に記憶されたアルゴリズムを用いて、距離D1から全体領域WAの横幅Lおよび縦幅Wを算出する。
【0059】
領域設定部12は、画像IMにおける全体領域WAの位置を設定する(ステップS106)。領域設定部12は、たとえば、全体領域WAを矩形とした場合、運転者Dの鼻の位置を中心として、4つの角部P1~P4の端点座標を設定する。
【0060】
領域設定部12は、全体領域WAを分割し、複数の領域A1~A64を設定する(ステップS107)。領域設定部12は、たとえば、矩形の全体領域WAを、予め設定した分割数で格子状に分割する。領域設定部12は、各領域A1~A64の端点座標を記憶部10に記憶させる。
【0061】
図15に示すように、領域設定処理が完了すると、輝度算出部13は、赤外線カメラ2から入力される画像IMに対して、領域A1~A64ごとに平均輝度値の算出を行う(ステップS201)。輝度算出部13は、赤外線カメラ2から連続して入力される画像IMに対して、順次領域A1~A64ごとに平均輝度値を算出し、算出結果を記憶部10に記憶させる。輝度算出部13は継続して行われる。すなわち、輝度算出部13は、赤外線カメラ2から画像IMが入力される度に、平均輝度値の算出を行い、記憶部10に記憶させる。これによって、記憶部10には、領域A1~A64ごとの平均輝度値の時系列データが蓄積される。
【0062】
脈波特定部14は、制御部11が備えるタイマの計測により一定時間T1が経過すると(ステップS202:Yes)、記憶部10に蓄積された一定時間T1分の、平均輝度値の時系列データを取得する。脈波特定部14は、時系列データに対して、高速フーリエ変換による周波数解析を行う(ステップS203)。
【0063】
脈波特定部14は、各領域A1~A64の周波数解析の結果から、ピーク周波数を検出する(ステップS204)。脈波特定部14は、たとえば、各領域A1~A64において、パワーが大きい順に、上位3つのピーク周波数(第1ピーク、第2ピーク、第3ピーク)を抽出する。
【0064】
脈波特定部14は、各領域A1~A64のピーク周波数の中から、共通するピーク周波数を探索する(ステップS205)。脈波特定部14は、共通するピーク周波数を、脈波の周波数として特定する(ステップS206)。脈波特定部14は、たとえば、複数の共通するピーク周波数が探索された場合は、最も探索された個数が多い、共通するピーク周波数を、脈波の周波数として特定する(図7参照)。脈波特定部14は、特定した脈波の周波数を記憶部10に記憶させる。
【0065】
図15に示すように、脈波特定部14は、脈波の周波数が抽出された領域(脈波検出領域)間の距離D2を算出する(ステップS207)。脈波検出領域は、距離D2が大きい順に、2つの脈波検出領域の組み合わせと、算出された距離D2の数値を記録した距離テーブル101を、記憶部10に記憶させる。
【0066】
図13に戻り、血圧推定部15は、タイマの計測により一定時間T2が経過すると(ステップS03:Yes)、距離テーブル101を参照する。血圧推定部15は、脈波検出領域として記録された領域の中から、距離D2が最も大きい2つの領域A20、A63の組み合わせを選択する(ステップS04)。
なお、わかりやすくするために、図8の例に沿って「2つの領域A20、A63」と表記しているが、「2つの領域」として選択されるのは、領域A20、A63に限定されないことは言うまでもない。
【0067】
血圧推定部15は、記憶部10に蓄積された、一定時間T2分の、2つの領域A20、A63の平均輝度値の時系列データを取得する(ステップS05)。
血圧推定部15は、記憶部10に記憶された脈波の周波数を取得する。血圧推定部15は、脈波の周波数に基づいて設定したバンドパスフィルタをかけて、2つの領域A20、A63の時系列データの周波数解析を行い(ステップS06)、脈波データを取得する。血圧推定部15は、たとえば、脈波の周波数の±10%に設定したバンドパスフィルタをかけることができる。
【0068】
血圧推定部15は、領域A20、A63の脈波データにおける周波数のピークを検出する。血圧推定部15は、領域A20、A63の各ピークの時間差を算出し、時系列データにおけるピーク時間差PTDの平均値を算出する(ステップS07)。
【0069】
血圧推定部15は、適切なピーク時間差PTDの平均値が算出された場合(ステップS08:Yes)、ピーク時間差PTDの平均値に基づいて、血圧を推定する(ステップS09)。血圧推定部15は、たとえば、算出したピーク時間差PTDの平均値を予め設定した基準値と比較し、基準値を以下であれば、ピーク時間差PTDが適切であると判定することができる。また、血圧推定部15は、たとえば、記憶部10の血圧テーブル102を参照し、ピーク時間差PTDの平均値に対応する血圧値を取得することができる。
【0070】
血圧推定部15は、適切なピーク時間差PTDの平均値が算出されない場合(ステップS08:No)、距離テーブル101を参照して、距離D2が次に大きい2つの領域A21、A58の組み合わせを選択し(ステップS10)、ステップS05に戻る。
【0071】
血圧推定部15は、ステップS09で推定した血圧値を記憶部10に記憶させると、ステップS03に戻り、以降、一定時間T2が経過するごとに蓄積された平均輝度値の時系列データを取得して、血圧の推定を行う。
【0072】
以上の通り、生体情報推定方法は、以下の処理を有している。
(1)生体情報推定方法は、
運転者D(ユーザ)を撮影した画像IMに複数の領域A1~A64を設定する設定ステップ(ステップS101~S107)と、
連続して入力される画像IMに対して、領域A1~A64ごとに平均輝度値(輝度値)を算出し、平均輝度値の時系列データを得る算出ステップ(ステップS201)と、
時系列データに対して周波数解析を行う解析ステップ(ステップS203)と、
周波数解析の結果から、領域A1~A64ごとにピーク周波数を検出する検出ステップ(ステップS204)と、
複数の領域A1~A64におけるピーク周波数から共通する周波数を探索して、運転者Dの脈波の周波数を特定する特定ステップ(ステップS205~S206)と、を備える。
【0073】
生体情報推定方法により、ノイズが含まれる画像IMから脈波を特定する精度を向上させることができる。
具体的には、画像IMを複数の領域A1~A64に分割することで、画像IMから、運転者Dの皮膚を写した、脈波の周波数が検出されやすい領域を切り分けることができる。運転者Dの皮膚を含まれる領域には、脈波の周波数が共通して含まれる。一方、ノイズによるピーク周波数は、ランダムな要因で発生するため、同じ周波数とはなりにくい。そのため、複数の領域A1~A64から共通のピーク周波数を探索することで、ノイズが含まれる画像IMを用いた場合でも、脈波の周波数を特定する精度を高めることができる。
【0074】
(2)生体情報推定方法は、
脈波の周波数が検出された2つの領域A20、A63を選択する選択ステップ(ステップS04)と、
2つの領域A20、A63の時系列データに、脈波の周波数に基づいて設定された周波数帯のバンドパスフィルタをかけて、運転者Dの脈波データを取得するフィルタリングステップ(ステップS05~S06)と、
2つの領域A20、A63の脈波データにおける脈波のピーク時間差PTDを求め、ピーク時間差PTDに基づいて運転者Dの血圧を推定する推定ステップ(ステップS07~S08)と、を備える。
【0075】
生体情報推定装置1において、2つの異なる領域A20、A63の脈波データに生じる脈波のピーク時間差PTDから、血圧が推定される。ここで、ピーク時間差PTDは大きい数値ではないため、2つの領域A20、A63で得られる脈波データの精度が低いと、血圧の推定精度に影響を与える可能性がある。
ノイズの少ない画像IMが取得できる場合は、平均輝度値の時系列データに対して周波数解析をする際に0.7~2.0Hzの周波数帯でバンドパスフィルタをかけることで、脈波データが得られる。しかしながら、ノイズが多く含まれる画像IMの場合は、0.7~2.0Hzの周波数帯にも、脈波以外の要因によるピーク周波数が含まれるため、一般的な範囲でバンドパスフィルタをかけても精度の高い脈波データが得られない。
【0076】
実施形態では、脈波特定部14が特定した脈波の周波数に基づいてバンドパスフィルタの周波数帯を設定している。周波数帯を、たとえば、脈波の周波数の±10%という狭い範囲に設定することで、脈波以外の要因によるピーク周波数を取り除くことができ、精度の高い脈波データを得ることができる。
これにより2つの領域A20、A63のピーク時間差PTDの算出精度を高め、血圧の推定精度を高めることができる。
【0077】
(3)設定ステップは、
画像IMから運転者Dの顔から2つの特徴点を抽出し、2つの特徴点の距離D1に基づいて、運転者Dを包含する全体領域WAのサイズを設定すること(ステップS102~S105)と、
前記2つの特徴点のいずれかを中心として、画像IMにおける全体領域WAの端点の位置を設定すること(ステップS106)と、
全体領域WAを分割して、複数の領域A1~A64を設定すること(ステップS107)と、を含む。
【0078】
運転者Dを包含する全体領域WAを設定し、全体領域WAの中で複数の領域A1~A64を設定することで、領域A1~A64の中で運転者Dの皮膚を含む領域の割合が多くなり、脈波の周波数を示す共通のピーク周波数が検出されやすくなる。これによって、脈波の周波数を特定する精度を高めることができる。
また、運転者Dの顔から2つの特徴点、たとえば目と鼻の特徴点を抽出し、それらの距離D1に基づいて全体領域WAのサイズを決定し、運転者Dの鼻の特徴点を中心として全体領域WAの端点座標を決定することで、画像IMにおいて運転者Dが写る場所に全体領域WAを設定されやすくなる。
【0079】
(4)検出ステップは、周波数解析の結果から、領域A1~A64ごとに所定値(下限値)以上のパワーを有する複数のピーク周波数を検出すること(ステップS204)を含む。
【0080】
脈波の周波数を含む領域であっても、脈波の周波数よりも高いノイズによるピーク周波数が検出されることがある。検出ステップにおいて、複数のピーク周波数を検出することで、脈波の周波数が含まれやすくなる。実施形態では、パワー(振幅)が大きい順に3つのピーク周波数を検出する例を説明したが、検出するピーク周波数は3つに限定されず、例えば2つとしても良い。
【0081】
(5)選択ステップは、
脈波検出領域(脈波の周波数が検出された領域)間の距離D2が最も大きい2つの領域A20、A63を選択すること(ステップS04)を含む。
【0082】
前記したように、ピーク時間差PTDは大きな値で無いためノイズの影響を受けやすい。ここで、2つの領域のそれぞれの心臓からの距離の差が大きいほど、ピーク時間差PTDが大きくなりやすい。たとえば、運転者Dの顔と手は、心臓からの距離の差が大きくなりやすい。選択ステップにおいて、画像IM上の距離D2が大きい2つの領域A20、A63を選択した場合、運転者Dの顔を含む領域と手を含む領域との組み合わせが選択されやすい。すなわち、心臓からの距離の差が大きい2つの領域A20、A63が選択されるため、ピーク時間差PTDが大きくなり、ノイズの影響を低減することができる。これによって、血圧の推定精度を高めることができる。
【0083】
前記した処理を実施する生体情報推定装置1も、同様の効果を得ることができる。
【0084】
[変形例1]
図16は、変形例1に係る複数の領域の設定例を説明する図である。
前記した実施形態では、領域設定部12は、画像IMにおいて運転者D全体を包含する全体領域WAを設定した。変形例1では、領域設定部12は、運転者Dの顔を包含する第1全体領域WA1と、ステアリングホイールSWを含む第2全体領域WA2を設定する。
【0085】
領域設定部12は、公知の顔認識処理により、画像IMに写っている運転者Dの顔を抽出する。図16に示すように、領域設定部12は、抽出した運転者Dの顔を包含する領域を、第1全体領域WA1として設定する。領域設定部12は、さらに、公知の画像処理により、画像IMに写っているステアリングホイールSWを抽出する。領域設定部12は、抽出したステアリングホイールSWを包含する領域を、第2全体領域WA2として設定する。運転者Dは車両Vの運転中はステアリングホイールSWを把持している時間が長い。そのため、ステアリングホイールSWを包含する領域を設定することで、運転者Dの手が含まれる可能性が高い領域を設定することができる。
【0086】
実施形態の例で説明したように、画像IMにおいて運転者Dの顔と手が含まれる領域からは、脈波の周波数が検出されやすい。さらに、顔と手は、心臓からの距離が異なるためピーク時間差PTDが生じやすく、血圧推定に用いる領域に適している。
すなわち、第1全体領域WA1と第2全体領域WA2を設定することで、脈波の周波数が検出されやすい領域を予め絞り込むことができる。これによって、脈波特定部14が共通するピーク周波数を探索する際の処理量を低減することができる。
【0087】
第1全体領域WA1および第2全体領域WA2は、たとえば、矩形の領域とすることができる。領域設定部12は、運転者Dの顔が包含されるように第1全体領域WA1のサイズを設定し、端点座標を設定する。領域設定部12は、ステアリングホイールSWが包含されるように第2全体領域WA2のサイズを設定し、端点座標を設定する。
【0088】
領域設定部12は、第1全体領域WA1と第2全体領域WA2のそれぞれを分割して、複数の領域を設定する。領域設定部12は、たとえば、矩形の第1全体領域WA1および第2全体領域WA2を、予め設定した分割数で格子状に分割する。領域設定部12は、複数の領域の端点座標を記憶部10に記憶させる。
【0089】
図17は、変形例1に係る領域設定処理を説明するフローチャートである。変形例1の領域設定処理以外の処理は実施形態と同様であるため、詳細な説明は省略する。
図17に示すように、制御部11の領域設定部12は、赤外線カメラ2から画像IMが入力されると(ステップS111:Yes)、公知の顔認識処理、画像処理を行う(ステップS112)。領域設定部12は、画像IMから運転者Dの顔を抽出し、運転者Dの顔を含む第1全体領域WA1の位置を設定する(ステップS113)。領域設定部12は、画像処理により、画像IMからステアリングホイールSWを含む第2全体領域WA2の位置を設定する(ステップS114)。
【0090】
領域設定部12は、第1全体領域WA1および第2全体領域WA2のそれぞれを分割して、複数の領域を設定する(ステップS115)。領域設定部12は、各領域の識別子と端点座標を記憶部10に記憶させる。
【0091】
以上の通り、変形例1の生体情報推定方法は、以下の処理を含む。
(3)画像IMは、車両Vに設けられた赤外線カメラ2(撮像装置)により、車両Vの運転者Dであるユーザを撮影したものである。
生体情報推定方法において、
設定ステップは、
画像IMからユーザの顔を抽出し、ユーザの顔を包含する第1全体領域WA1を設定すること(ステップS112、S113)と、
画像IMから車両VのステアリングホイールSWを抽出し、ステアリングホイールSWを包含する第2全体領域WA2の位置を設定すること(ステップS114)と、
第1全体領域WA1および第2全体領域WA2を分割して、複数の領域を設定すること(ステップS115)と、を含む。
【0092】
画像IMに写る運転者Dの中で、顔と手は皮膚が露出している可能性が高く、脈波が検出されやすい領域である。運転者Dの顔を包含する第1全体領域WA1と、手を包含する第2全体領域WA2を設定することで、脈波が検出されやすい領域を絞り込むことができるため、脈波の特定精度を高めることができる。
【0093】
また、運転者Dは、運転中はステアリングホイールSWを把持している時間が長い。また、位置が固定された輪状のステアリングホイールSWは、画像処理によって抽出しやすい。そのため画像処理によって抽出したステアリングホイールSWを包含する領域を第2全体領域WA2とすることで、手を包含する全体領域WAを設定することができる。
【0094】
さらに、運転者Dの顔と手は心臓からの距離が異なるため、ピーク時間差PTDを算出しやすい。第1全体領域WA1と第2全体領域WA2を設定した場合、第1全体領域WA1に含まれる領域と、第2全体領域WA2に含まれる領域との組み合わせが、領域間の距離D2が大きくなりやすい。すなわち、血圧推定部15によって、ピーク時間差PTDが生じやすい2つの領域が選択されやすくなるため、血圧の推定精度を高めることができる。
【0095】
[その他の変形例]
前記した実施形態では、生体情報推定装置1が運転者Dの血圧を推定する態様を説明したが、車両Vの他の乗員の血圧を推定しても良い。その場合は、他の乗員を撮影できるように、赤外線カメラ2の位置または撮影範囲を変更する。生体情報推定装置1は、他の乗員を撮影した画像IMから、他の乗員の血圧を推定することができる。
【0096】
生体情報推定装置1を設置する場所は、車両Vに限定されない。生体情報推定装置1は、車両V以外の、画像IMにノイズが多く含まれる撮影環境下でも、ユーザの血圧の推定精度を高めることができる。生体情報推定装置1は、たとえば、電車、船舶、自動二輪車、自転車等に設置しても良い。
【0097】
前記した実施形態では、生体情報推定装置1が生体情報として血圧を推定する例を説明したが、この態様に限定されない。生体情報推定装置1は、脈波を生体情報として出力しても良く、脈波から血圧以外の生体情報を推定して出力しても良い。
【0098】
前記した実施形態では、生体情報推定装置1が、運転者Dの顔の特徴点として、目と鼻の特徴点を抽出し、それらの距離D1から、全体領域WAのサイズを決定する例を説明したが、これに限定されない。
生体情報推定装置1は、たとえば、運転者Dの右目と左目の特徴点の距離を算出し、その距離から全体領域WAのサイズを決定しても良い。あるいは、生体情報推定装置1は、運転者Dの顔の輪郭を特徴点として抽出し、顔の輪郭のサイズから全体領域WAのサイズを決定しても良い。
生体情報推定装置1は、目と鼻の距離D1が算出できなかった場合に、これらの他の方法により全体領域WAのサイズを決定しても良い。さらに、運転者Dがマスク、サングラス、帽子等を着用していて、いずれの方法でも全体領域WAのサイズを決定できなかった場合は、予め設定しておいた全体領域WAのサイズに決定しても良い。
【0099】
以上の通り、本発明の実施形態および変形例を説明した。本件発明は、上記した実施形態及び変形例に示した態様にのみ限定されない。本件発明の技術的思想の範囲内で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0100】
1 生体情報推定装置
2 赤外線カメラ
3 ディスプレイ
4 スピーカ
10 記憶部
11 制御部
12 領域設定部
13 輝度算出部
14 脈波特定部
15 血圧推定部
16 通知部
V 車両
IM 画像
WA 全体領域
WA1 第1全体領域
WA2 第2全体領域
A1~A64 領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17