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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023115495
(43)【公開日】2023-08-21
(54)【発明の名称】竪型鋳造装置
(51)【国際特許分類】
   B22D 17/12 20060101AFI20230814BHJP
   B22D 18/02 20060101ALI20230814BHJP
【FI】
B22D17/12 B
B22D18/02 V
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022017733
(22)【出願日】2022-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】300041192
【氏名又は名称】UBEマシナリー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】三吉 博晃
(72)【発明者】
【氏名】岩本 利和
(57)【要約】
【課題】ゲートの開閉手段とゲートの位置合わせを簡単に行い、ゲートの開閉と金型キャビティ内の溶湯加圧を確実に行い、高品質な鋳造品の安定生産を可能とする竪型鋳造装置を提供することを目的とする。
【解決手段】ゲートに対して進退動作する摺動ピンと、摺動ピンの先端に配置され小径部と大径部と軸部とが一体化した摺動ピン先端部と、摺動軸調整部と、摺動ピンを動作させる摺動ピン駆動部と、で構成されるゲート開閉加圧装置を備え、小径部とゲートの勘合によりゲートが閉鎖され、大径部により金型キャビティ内に充填された溶湯を加圧し、ゲートの閉鎖の際に摺動軸調整部によりゲートと小径部の位置合わせを行う。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶湯保持炉内の溶湯を、給湯管およびゲートを経由して、前記溶湯保持炉の上方に配置された鋳造金型の金型キャビティ内に充填し加圧する竪型鋳造装置において、
前記ゲートに対して進退動作する摺動ピンと、前記摺動ピンの先端に配置され小径部と大径部と軸部とが一体化した摺動ピン先端部と、摺動軸調整部と、前記摺動ピンを動作させる摺動ピン駆動部と、で構成されるゲート開閉加圧装置を備え、
前記小径部と前記ゲートの勘合により前記ゲートが閉鎖され、前記大径部により前記金型キャビティ内に充填された溶湯を加圧し、前記ゲートの閉鎖の際に前記摺動軸調整部により前記ゲートと前記小径部の位置合わせを行う、ことを特徴とする竪型鋳造装置。
【請求項2】
前記摺動軸調整部は、調整リングと固定ナットとで構成され、前記軸部に前記調整リングを勘合させて、前記固定ナットで前記調整リングと前記軸部を締結した状態で、前記摺動ピンと前記摺動ピン先端部を締結する、請求項1記載の竪型鋳造装置。
【請求項3】
前記調整リングの内周面と前記軸部の外周面とは、前記位置合わせに必要な隙間を設ける、請求項1または2に記載の竪型鋳造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶湯保持炉内の溶湯を、給湯管およびゲートを経由して、溶湯保持炉の上方に配置された鋳造金型の金型キャビティ内に充填し加圧する竪型鋳造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金等の溶湯を金型キャビティ内に充填する鋳造成形に使用される鋳造装置は、横型鋳造装置と竪型鋳造装置に分類される。横型鋳造装置は、給湯ロボット等を用いて溶解炉から所定量の溶湯を射出スリーブに給湯し、プランジャを高速高圧で前進させて充填と加圧を行う。余剰な溶湯は射出スリーブ内で冷却固化させ、鋳造品から切断後に溶解炉に回収され、再溶解して鋳造成形に再利用される。
【0003】
これに対して、竪型鋳造装置は、例えば、加圧ガス等で溶湯保持炉内の溶湯を押圧して、押圧された溶湯が給湯管内を流動し、金型キャビティ内に充填し加圧する。余剰な溶湯は、給湯管内を流動して、冷却固化することなく溶湯保持炉に回収され、溶湯保持炉内の溶湯と混ざって、次ショットの鋳造成形に用いる。そのため、溶湯の回収効率は、横型鋳造装置と比べて高い。また、充填時の溶湯流動の乱れも少なく、空気やガスの巻き込み、ボイドやブリスター、湯ジワ、湯境、鋳バリ等の溶湯流動の乱れに起因する鋳造不良を抑えることができ、気密性や製品強度を要する部品の鋳造成形に適しているとされている。本発明においては、この竪型鋳造装置を対象とする。
【0004】
なお、竪型鋳造装置において、金型キャビティ内に充填した溶湯の密度を高める増圧工程を、溶湯保持炉内の溶湯の押圧制御で行う場合、溶湯保持炉から給湯管およびゲートを経由して金型キャビティまでの距離が長く、効率的でない。そのために、金型キャビティ内の溶湯を直接押圧する加圧ピン等を鋳造金型に配置して、増圧工程を行うことが多い。その場合、金型キャビティから給湯管側に溶湯が逆流することを防止するために、金型キャビティと給湯管を遮断するゲート閉鎖手段を必ず必要とする。例えば、特許文献1に示すような、溶湯流入ゲートを上方から塞ぐことができるプランジャを備えた竪型鋳造装置が提案されている。これによると、プランジャ先端の凸起部で溶湯流入ゲートを閉鎖し、さらにプランジャを前進させることで、凸起部の周囲部で金型キャビティ内に充填された溶湯を加圧するように構成されている。
【0005】
また、特許文献2に示すような、溶湯流入口を閉鎖用と、金型キャビティ内に充填された溶湯の加圧用の入れ子金型を備えた鋳造金型を用いた加圧鋳造方法が提案されている。これによると、溶湯流入口の閉鎖とは別に、加圧用の入れ子金型の位置を調整することで、加圧する溶湯量を調整できるとしている。また、特許文献3に示すような、シリンダロッドの下端部に、湯口の閉鎖と溶湯の加圧を兼用する脱着式の加圧ピン(鋳造装置用アタッチメント)を設けた鋳造装置が提案されている。これによると、適正な寸法の加圧ピンに適宜交換することで、湯口の閉鎖タイミングと、金型キャビティ内の溶湯の加圧量が適正に調整できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-125401号公報
【特許文献2】特開2011-597号公報
【特許文献3】特開2016-87677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、特許文献1から特許文献3のいずれにおいても、ゲート(溶湯流入ゲート、溶湯流入口、湯口)の閉鎖と、金型キャビティ内に充填された溶湯の加圧(増圧工程)を同時に行うとしている。そのため、ゲートに対して前後進に摺動する摺動ピン(プランジャやシリンダロッド等)の先端形状に特徴を持たせている。その先端形状は、勘合してゲートを閉鎖する小径の凸部と、溶湯を押圧する大きな平面部を有した大径部とを有する。特に凸部は、溶湯が漏出しないようにゲートとの勘合隙間が正確に調整される。摺動ピンの駆動装置は、鋳造金型あるいは鋳造金型を支持する型締装置の外に配置される。つまり、駆動装置とゲートまでは距離があるために、摺動ピンも必然的に長くなる。その結果、摺動ピンとゲートの位置合わせが難しく、位置ずれが生じることが十分に考えられる。
【0008】
摺動ピンとゲートの位置ずれは、例えば、鋳造金型の固定金型と可動金型の勘合を調整する金型ガイドピンの隙間、鋳造金型の加工精度および組立精度、鋳造金型と型締装置の取付け精度、型締装置の摺動隙間、鋳造金型の温度膨張、鋳造金型および型締装置の摩耗損傷等により生じることがある。その結果、摺動ピンの凸部とゲートが上手く勘合できず、ゲートが閉鎖されずに、金型キャビティ内の溶湯が給湯管側に逆流する不具合が生じ、増圧工程に必要な溶湯量や溶湯圧力が不足して、鋳巣、ボイド、鋳造品の変形や寸法変化および強度低下等の鋳造不良の原因となる。また、摺動ピンの凸部とゲートが無理矢理に勘合する状態が繰り返されて、ゲートや摺動ピンの凸部の摩耗損傷、摺動ピンの大径部の摩耗損傷により、摺動部に溶湯が差し込みかじりやすくなり、設定した鋳造圧力の負荷ができなくなり、鋳造品質の低下等の多くの不具合を誘発する。さらに、摺動ピンの戻り動作時間が長くなり工程異常が発生することも心配される。
【0009】
そこで本発明は、ゲートの開閉手段とゲートの位置合わせを簡単に行い、ゲートの開閉と金型キャビティ内の溶湯加圧を確実に行い、高品質な鋳造品の安定生産を可能とする竪型鋳造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の竪型鋳造装置は、
溶湯保持炉内の溶湯を、給湯管およびゲートを経由して、前記溶湯保持炉の上方に配置された鋳造金型の金型キャビティ内に充填し加圧する竪型鋳造装置において、
前記ゲートに対して進退動作する摺動ピンと、前記摺動ピンの先端に配置され小径部と大径部と軸部とが一体化した摺動ピン先端部と、摺動軸調整部と、前記摺動ピンを動作させる摺動ピン駆動部と、で構成されるゲート開閉加圧装置を備え、
前記小径部と前記ゲートの勘合により前記ゲートが閉鎖され、前記大径部により前記金型キャビティ内に充填された溶湯を加圧し、前記ゲートの閉鎖の際に前記摺動軸調整部により前記ゲートと前記小径部の位置合わせを行う、ことを特徴とする。
【0011】
本発明の竪型鋳造装置において、
前記摺動軸調整部は、調整リングと固定ナットで構成され、前記軸部に前記調整リングを勘合させて、前記固定ナットで前記調整リングと前記軸部を締結した状態で、前記摺動ピンと前記摺動ピン先端部を締結する、ことが好ましい。
【0012】
また、本発明の竪型鋳造装置において、
前記調整リングの内周面と前記軸部の外周面とは、前記位置合わせに必要な隙間を設ける、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ゲートの開閉手段とゲートの位置合わせを簡単に行い、ゲートの開閉と金型キャビティ内の溶湯加圧を確実に行い、高品質な鋳造品の安定生産を可能とする竪型鋳造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係る竪型鋳造装置を示す概念図である。
図2図1に示す竪型鋳造装置のゲート開閉加圧装置の詳細図である。
図3図2に示す摺動ピン調整リングの実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組合せの全てが、各請求項に係る発明の解決手段に必須であるとは限らない。また、本実施形態においては、各構成要素の尺度や寸法が誇張されて示されている場合や、一部の構成要素が省略されている場合がある。
【0016】
(竪型鋳造装置)
先ず、本発明の実施形態に係る竪型鋳造装置について、図1を用いて説明する。図1に示す竪型鋳造装置100は、鋳造金型10と、加圧装置20と、型締装置30と、制御装置40と、ゲート開閉加圧装置50と、を備える。
【0017】
鋳造金型10は、固定金型11と、可動金型12と、を備える。固定金型11の上方に可動金型12が配置され、型締装置30を操作して、固定金型11と可動金型12を型締することで金型キャビティ13が形成される。また、固定金型11には、金型キャビティ13に溶湯を充填するゲート13Gを設ける。固定金型11と可動金型12は、図示しない加熱手段等により、金型キャビティ13に充填される溶湯の流動と冷却に適切な温度に加熱制御される。また、必要に応じて、溶湯の充填前に、金型キャビティ13に離型剤が塗布される。
【0018】
加圧装置20は、鋳造金型10の下方に配置され、内部に溶湯Mを貯蔵する溶湯保持炉22と、溶湯保持炉22を収納する密閉室21と、溶湯保持炉22内の溶湯Mを鋳造金型10のゲート13Gを経由して金型キャビティ13内に充填するための給湯管23と、を備える。溶湯Mは、鋳造品の用途等に応じて適宜選択され所定の組成に調整された、例えば、アルミニウム合金等の金属材料を用い、所定の温度に溶解保持させる。そのため、溶湯保持炉22には、図示しない温度調整手段を備える。また、溶解炉等の溶湯Mを製造する手段を別に設け、溶湯保持炉22内に溶湯Mを定期的に補充するようにしても良い。ここで、例えば、密閉された密閉室21内に加圧ガスを供給して、密閉室21内を加圧することで、溶湯保持炉22内の溶湯Mを押圧して、給湯管23内を溶湯Mが上昇し、ゲート13Gを経由して金型キャビティ13に向けて溶湯Mを充填し加圧する。給湯管23は、例えば、断熱性を有し溶湯Mとの濡れ性の少ないセラミックス素材とする。さらに、内部の溶湯Mが固化しないように、給湯管23およびゲート13Gを所定の温度に加熱保持されることが好ましい。
【0019】
型締装置30は、加圧装置20の上方に配置され、下方から順に、固定金型11を支持する固定盤31と、可動金型12を支持する可動盤32と、型締駆動部35を支持する型締盤33と、を備える。固定盤31と型締盤33は、複数のタイバー34で連結される。固定盤31と型締盤33の間に配置される可動盤32は、複数のタイバー34が貫通しており、タイバー34をガイドとして型開閉動作する。ここで、可動盤32の動作について、固定盤31に近づく下降動作を型閉動作、固定盤31から離れる上昇動作を型開動作、型閉動作の完了位置を型締限、型開動作の完了位置を型開限と定義する。また、固定金型11と可動金型12が当接した状態を金型タッチ点、金型タッチ点から型締限までの型閉動作を昇圧動作(または型締動作)、型締限から金型タッチ点までの型開動作を降圧動作と定義する。型締限で金型キャビティ13が形成され、固定金型11と可動金型12の押付力(型締力)は最大値(最大型締力)を示す。
【0020】
型締駆動部35は、油圧シリンダ等の油圧駆動手段を用いる。型締駆動部35と可動盤32がシリンダロッド35Rで接続され、型締駆動部35を操作することで、可動盤32および可動金型12の型開閉動作と昇圧動作及び降圧動作を行う。なお、油圧シリンダ等の油圧駆動手段に限定されることなく、例えば、回転動作を直線動作に変換するボールネジ機構と電動モータを組み合わせた電動駆動手段であっても良く、油圧駆動手段と電動駆動手段を組み合わせたものでも良い。また、複数のトグルリンク機構を組み合わせたトグル式型締手段であっても良く、あるいは、型開閉動作は油圧駆動手段や電動駆動手段を用い、昇圧動作及び降圧動作は、例えば、タイバー34の先端部に油圧シリンダ等の油圧駆動手段を配置したハイブリット式型締手段であっても良い。型開閉動作と昇圧動作及び降圧動作において、可動金型12の型開閉位置や型開閉速度および型締力を正確に制御できる型締装置30であれば限定されない。
【0021】
制御装置40は、加圧装置20を操作して向けて溶湯Mの充填等の動作を制御する加圧制御部41と、型締駆動部35を操作して型締装置30の動作を制御する型締制御部45と、ゲート開閉加圧装置50を操作する開閉加圧制御部46と、予め設定された制御パターンに基づいて、加圧制御部41と型締制御部45および開閉加圧制御部46に対して操作指令を発信して、鋳造成形を制御する鋳造制御部47と、を備える。
【0022】
ここで、加圧制御部41は、流路切換機能を有する流量調整手段42と、圧力調整機能を有する加圧ガス供給源43と、密閉室21内の加圧ガスの圧力を計測する圧力計測手段44と、を備える。加圧ガス供給源43に貯蔵され、所定の圧力に調整された加圧ガスを、流量調整手段42で所定の流量に調整して密閉室21内に供給し、加圧制御部41に設定された目標圧力と圧力計測手段44の計測圧力が一致するように、密閉室21内の圧力制御が行われる。その結果、溶湯保持炉22内の溶湯Mが押圧されて、給湯管23およびゲート13Gを経由して、金型キャビティ13内の溶湯Mの充填と加圧が制御される。充填あるいは加圧後の任意のタイミングで、流量調整手段42を操作して、密閉室21内の加圧ガスを排出して、密閉室21内の圧力を低減させ、給湯管23内に残った溶湯Mを溶湯保持炉22に戻す溶湯回収作業を行う。
【0023】
また、加圧ガスは、安価な圧縮空気を用いても良いが、溶湯Mの酸化防止による品質安定化の観点からは、アルゴンや窒素等の不活性ガスを用いることが好ましい。その際に、密閉室21および給湯管23内は不活性ガスで充満状態を維持することが好ましい。また、窒素ガスにおいては、分離膜や吸着膜等を用いて空気中から窒素ガスのみを分離収集する窒素ガス発生装置を、加圧ガス供給源43に用いても良い。
【0024】
なお、図1に示す加圧装置20は、密閉室21に加圧ガスを供給して、溶湯保持炉22内の溶湯を押圧して、給湯管23を経由して金型キャビティ13内に溶湯の充填と加圧を行うとしたが、これに限定されることなく、例えば、溶湯保持炉22内の溶湯Mの中で、ピストン式の加圧手段と給湯管23を連結し、ピストン操作により溶湯Mを押圧して、給湯管23を経由して充填と加圧する構成であっても良い。あるいは、電磁ポンプを用いて溶湯保持炉22から溶湯Mを押圧して、給湯管23を経由して充填と加圧する構成であっても良い。また、例えば、型締装置30の下方部に、射出スリーブ(給湯管23に相当)とプランジャを備えた射出装置を竪型に配置し、溶湯保持炉22から溶湯を搬送して射出スリーブ内に溶湯を供給し、プランジャの前進動作によって射出スリーブ内の溶湯Mを押圧して、金型キャビティ13内に充填と加圧する構成であっても良い。
【0025】
(ゲート開閉加圧装置)
ゲート開閉加圧装置50は、図1に示すように、ゲート13Gと対向する上方に配置され、ゲート13Gの開閉と、金型キャビティ13内に充填された溶湯Mの加圧を行う。ゲート13Gに対して進退自在に摺動する摺動ピン54と、可動金型12内に配置され、摺動ピン54を収納するガイドブッシュ53と、摺動ピン54の進退動作を行う摺動ピン駆動部55と、を備える。摺動ピン54の先端は、脱着可能な摺動ピン先端部51および摺動軸調整部52が配置される。この摺動ピン先端部51および摺動軸調整部52は、ガイドブッシュ53内で摺動する。摺動ピン54の後端部は、摺動ピン駆動部55に連結される。ここで、摺動ピン54の動作に関して、ゲート13Gに近接する方向の動作を前進動作、ゲート13Gから離間する方向の動作を後退動作と定義する。
【0026】
なお、図1において、摺動ピン駆動部55は、可動盤32の上方に配置したが、これに限定されることなく、例えば、型締盤33の上方に配置しても良く、あるいは、寸法的に余裕があれば、可動金型12内に配置しても良い。また、油圧シリンダ等の油圧駆動装置としても良く、電動モータとボールネジ機構を組み合わせた電動駆動装置であっても良い。また、加工精度を優先して、摺動ピン先端部51と摺動軸調整部52は円柱形状、ガイドブッシュ53は円筒形状とすることが好ましいが、同芯上の多角形状であっても良い。また、摺動ピン54および摺動ピン先端部51は、内部に冷却回路を設けて、適切な状態に温度管理することが好ましい。
【0027】
次に、ゲート開閉加圧装置50の摺動ピン先端部51と摺動軸調整部52について、図2を用いて説明する。図2(a)は、ゲート開閉加圧装置50が後退動作して、ゲート13Gが開放された状態を示し、図2(b)は、ゲート開閉加圧装置50が前進動作して、ゲート13Gが閉鎖された状態を示す。図2(c)は、ゲート13Gが開放された状態の摺動ピン先端部51と摺動軸調整部52の配置を示し、図2(d)は、ゲート13Gが閉鎖された状態の摺動ピン先端部51と摺動軸調整部52の配置を示す。
【0028】
ここで、鋳造成形時のゲート開閉加圧装置50の動作について簡単に説明する。先ず、図2(a)に示すように、可動金型12と固定金型11の型締動作によって、金型キャビティ13が形成される(型締工程)。この時、摺動ピン先端部51と摺動軸調整部52は、ガイドブッシュ53内に収納されており、ゲート13Gは開放状態である。加圧装置20の溶湯保持炉22からゲート13Gを経由して、金型キャビティ13内に溶湯Mが充填される(充填工程)。溶湯Mの充填後は、図2(b)に示すように、摺動ピン先端部51と摺動軸調整部52の前進動作により、ゲート13Gが閉鎖され、金型キャビティ13は密閉状態となる。さらに、摺動ピン先端部51と摺動軸調整部52の前進動作により、密閉された金型キャビティ13内の溶湯Mの加圧が行われる(増圧工程および保圧工程)。溶湯Mの加圧を保持した状態で冷却保持し(冷却工程)、その後、可動金型12を型開動作させて(型開工程)、金型キャビティ13内から冷却固化した鋳造品を取り出す(製品取出し工程)。ゲート13Gの閉鎖後は、給湯管23内に残った溶湯Mを加圧装置20の溶湯保持炉22に戻す(溶湯回収工程)。この鋳造成形動作を、設定された鋳造品の個数を得るまで繰り返す。
【0029】
次に、摺動ピン先端部51と摺動軸調整部52の構成について、図2(c)を用いて詳しく説明する。摺動ピン先端部51は、下方から順に、小径部51Sと大径部51Dと軸部51Zとで構成される。ゲート13Gの閉鎖は、小径部51Sとゲート13Gの勘合により行われ、給湯管23と金型キャビティ13とを遮断する。増圧工程および保圧工程において、溶湯Mの漏出を完全に止めるために、図2(d)に示すように、例えば、高温の溶湯Mによる小径部51Sおよびゲート13Gの熱膨張等を考慮して、0.05mm程度の隙間S0に調整されることが好ましい。同様に、大径部51Dとガイドブッシュ53との隙間S1から溶湯Mが漏出しないように調整される。なお、ゲート13Gの閉鎖を確実に行うために、隙間S0<隙間S1とすることが好ましい。
【0030】
摺動軸調整部52は、円筒状の調整リング52Rと固定ナット52Nとで構成される。調整リング52Rは、摺動ピン先端部51の軸部51Zに嵌め込み、固定ナット52Nで上方から押さえつけるように固定する。固定ナット52Nと軸部51Zは、ネジ結合等の手段を用いて脱着可能に締結される。摺動ピン先端部51に摺動軸調整部52を取付けた状態で、ネジ結合等の手段を用いて摺動ピン54と脱着可能に締結する。この状態で、摺動ピン先端部51と摺動軸調整部52は、ガイドブッシュ53内を前後進動作する。そのために、調整リング52Rとガイドブッシュ53との隙間S2からも溶湯Mが漏出しないように、好ましくは、隙間S1=隙間S2に調整される。つまり、2つの隙間(S1、S2)の二重構造により、溶湯Mの漏出防止を確実なものとする。
【0031】
ここで、摺動軸調整部52の役割は、摺動ピン先端部51の小径部51Sの軸心Z1と、ゲート13Gの軸心Z2を合わせて、ゲート13Gの開閉を無理なく行わせ、ゲート13Gの閉鎖を確実なものとすることにある。この2つの軸心(Z1、Z2)は、摺動ピン54が長いほど、図2(c)に示すように、誤差ZGを生じやすい。また、摺動ピン54と摺動ピン駆動部55および摺動ピン先端部51との締結の状態により、誤差ZGが生じることがある。また、鋳造金型10の固定金型11と可動金型12の位置決めを調整する金型ガイドピンの寸法公差、鋳造金型10の加工精度および組立精度、鋳造金型10と型締装置30の取付け精度、型締装置30の組立公差、鋳造金型10の温度膨張、鋳造金型10および型締装置30の摩耗損傷等により誤差ZGが生じることがある。このように、多くの要因により、2つの軸心(Z1、Z2)に誤差ZGが生じるものと考えられる。
【0032】
2つの軸心(Z1、Z2)に誤差ZGが生じた状態で鋳造成形を行うと、摺動ピン先端部51の小径部51Sとゲート13Gが上手く勘合できず、ゲート13Gの閉鎖状態が不安定となって、金型キャビティ13内の溶湯Mが、ゲート13Gから漏出して給湯管23側に逆流するという不具合が生じる。その結果、増圧工程および保圧工程に必要な溶湯Mの溶湯量(溶湯補充量)や溶湯圧力(鋳造圧力)が不足して、鋳巣、ボイド、鋳造品の変形や寸法変化および強度低下等の鋳造不良の原因となる。また、2つの軸心(Z1、Z2)に誤差ZGが生じた状態で鋳造成形を継続すると、摺動ピン先端部51の小径部51Sとゲート13Gとが無理矢理に勘合する状態が繰り返されて、ゲート13Gや小径部51Sの摩耗損傷、あるいは大径部51Dの摩耗損傷により、小径部51Sとゲート13Gとの摺動面、あるいは、大径部51Dとガイドブッシュ53との摺動面に溶湯が差し込んでカジリを発生し、または、摺動面から溶湯が漏出して、増圧工程および保圧工程で必要な鋳造圧力を負荷することができなくなり、高品質な鋳造品を得ることが困難となる。
【0033】
さらに、ゲート13Gの開閉時間や摺動ピン54の前後進時間が変動して、鋳造成形のサイクルが安定しなくなるといった工程異常が発生することも心配される。また、摩耗損傷した部品の交換や、2つの軸心(Z1、Z2)の誤差ZGの修正等のメンテナンス作業を必要とし、鋳造成形が中断されて、生産性が大きく低下することにもなる。
【0034】
そこで、調整リング52Rの内周面と摺動ピン先端部51の軸部51Zとの間に、軸心調整隙間S3を設ける。この軸心調整隙間S3の範囲内で、2つの軸心(Z1、Z2)の誤差ZGを解消する。具体的には、図2(d)に示すように、摺動ピン先端部51の前進動作により、小径部51Sの先端がゲート13Gに勘合する際に、軸心調整隙間S3の範囲内で、摺動ピン先端部51が動いて、2つの軸心(Z1、Z2)が一致して、1つの軸心Z3となる。そのために、軸心調整隙間S3と誤差ZGの関係は、S3>ZGとする。また、小径部51Sの先端部は、誤差ZGを修正しやすいように、小径部51Sとゲート13Gの勘合の開始時のガイド的な役割として、円錐形状とすることが好ましい。なお、ゲート13Gの上方を円錐状に広げるとしても良い。
【0035】
このように、調整リング52Rと軸部51Zとの間に軸心調整隙間S3を設けることによって、ゲート13Gの開閉動作に合わせて、2つの軸心(Z1、Z2)が自動調心される。その結果、2つの軸心(Z1、Z2)に誤差ZGが生じたままでの鋳造成形時に生じていた不具合が解消され、高品質な鋳造品の安定生産を確保することができる。また、ゲート13Gおよび摺動ピン先端部51あるいはガイドブッシュ53等の摺動面のカジリ損傷を抑制することができ、これらの部品の寿命延長により鋳造成形の生産性が改善される。さらに、摺動ピン54と摺動ピン先端部51および摺動軸調整部52を脱着可能としたことにより、部品交換等のメンテナンスを簡便化でき、鋳造成形の中断時間を大きく削減できて、鋳造成形の生産性を大きく向上することができる。
【0036】
次に、調整リング52Rの外周面の形状の実施形態について、図3を用いて説明する。先ず、図3(a)に示すように、調整リング52Rの外周面の全域に隙間S2を形成するストレート形状を基本とする。摺動ピン先端部51の小径部51Sの軸心Z1の調整は、軸心調整隙間S3の範囲内で行う。なお、軸心調整隙間S3の範囲内で軸心Z1の調整ができない場合は、例えば、図3(b)または図3(c)に示す形状の調整リング52Rとすることが好ましい。図3(b)は、調整リング52Rの外周面の一部に隙間S2を設け、その他の外周面はテーパ形状に面取りとする。軸心調整隙間S3での軸心Z1の調整範囲を超えたものは、このテーパ形状を利用して、調整リング52Rを傾けて調整を行うものとする。図3(c)は、調整リング52Rの外周面をR面形状として、調整リング52Rの傾きを容易としたものである。さらに、調整リング52Rが傾いたとしても、R面形状により隙間S2は確保でき、溶湯Mの漏出の抑制効果を発揮する。
【0037】
また、図3(a)のストレート形状に、微小な環状の凹溝を複数列配置した外周面の形状を図3(d)に示す。この複数の環状の凹溝は、ラビリンス効果を示す溝形状RBとも呼ばれ、液状物や気体物に対して高いシール性を示す。例えば、1つの隙間S2から隣の凹溝に液状部が漏出すると、容積の急激な拡張により凹溝内の液状物の圧力は大きく低下する。この繰り返しにより、液状物の圧力は大きく低下し、漏出が止まる(シールされる)。この原理を溶湯量出の抑制に展開したものである。なお、図3(b)または図3(c)に、このラビリンス溝形状を展開しても良い。また、調整リング52Rは、1つの円筒形状としたが、複数の円筒形状を重ねて配置しても良い。さらに、図3(b)または図3(c)の形状を、調整リング52Rの内周面に展開しても良い。
【0038】
ここで、摺動ピン先端部51またはゲート13Gあるいはガイドブッシュ53の鋼材は、使用環境や目的等に応じて適宜選択とする。例えば、摩耗損傷の低減による部品の寿命アップを主目的とする場合では、高硬度の耐摩耗合金鋼を選定する。また、高温の溶湯Mによる温度脆性が心配される場合は、高温強度に優れている耐熱合金鋼を選定することが好ましい。摺動時または勘合時に発生する応力を受けて鋼材の表面硬度が上昇する硬化型合金鋼を用いても良い。また、摺動または勘合する部品の鋼材に硬度差を設けて、部品交換の容易な片方を消耗部品としても良い。窒化処理や浸炭処理を施して表面硬度を高めた熱処理鋼材としても良く、金属蒸着処理や金属照射処理等を用いて、窒化クロウムあるいは窒化チタン等の硬質皮膜層を形成して、耐摩耗性や滑り性を適切に調整した表面処理鋼材としても良い。また、鋼材の熱膨張係数を利用して、摺動または勘合する寸法公差等を微調整するとしても良い。また、例えば、調整リング52Rを弾性体素材で形成し、軸心Z1の調整範囲を広げるとしても良く、耐摩耗合金鋼の外層と弾性素材の内層を組み合わせたハイブリット構造としても良い。
【0039】
(効果)
このように、ゲート13Gから金型キャビティ13に溶湯Mを充填し加圧する、竪型鋳造装置100のゲート開閉加圧装置50において、ゲート13Gとゲート開閉加圧装置50の位置ずれを自動的に修正できる、脱着可能な摺動軸調整部52を設けた。これにより、両者の位置合わせが正確にでき、位置合わせ不良に起因する不具合の発生を確実に回避することができる。例えば、ゲート13Gの閉鎖不具合によって、増圧工程および保圧工程において、金型キャビティ13内の溶湯Mが給湯管23側に逆流して、増圧工程および保圧工程に必要な溶湯量や溶湯圧力が不足して、溶湯補充量や鋳造圧力が不足する。また、無理矢理なゲート13Gの開閉動作の繰り返しによって、摺動面や勘合面に摩耗損傷が生じ、損傷部分に溶湯Mが差し込んでカジリを発生し、あるいは、損傷部分から溶湯Mが漏出して、増圧工程および保圧工程に必要な鋳造圧力を正確に負荷することができなくなる。このような不具合が確実に解消される。その結果、鋳巣、ボイド、鋳造品の変形や寸法変化および強度低下、異物混入等の鋳造不良を回避でき、また、部品交換による鋳造成形の中断等の発生を回避することができ、高品質な鋳造品の安定生産を提供することができる。
【0040】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明の技術範囲は、上述した実施形態に記載された範囲には限定されない。上記の実施形態には多様な変更または改良を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0041】
100 竪型鋳造装置
10 鋳造金型
11 固定金型
12 可動金型
13 金型キャビティ
13G ゲート
20 加圧装置
21 密閉室
22 溶湯保持炉
23 給湯管
30 型締装置
31 固定盤
32 可動盤
33 型締盤
34 タイバー
35 型締駆動部
35R シリンダロッド
40 制御装置
41 加圧制御部
42 流量調整手段
43 加圧ガス供給源
44 圧力計測手段
45 型締制御部
46 開閉加圧制御部
47 鋳造制御部
50 ゲート開閉加圧装置
51 摺動ピン先端部
51S 小径部
51D 大径部
51Z 軸部
S0~S2 隙間
S3 軸心調整隙間
52 摺動軸調整部
52R 調整リング
52N 固定ナット
53 ガイドブッシュ
54 摺動ピン
55 摺動ピン駆動部
Z1~Z3 軸心
ZG 誤差
M 溶湯
RB 溝形状
図1
図2
図3