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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023115497
(43)【公開日】2023-08-21
(54)【発明の名称】ポリマー電解質
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/06 20060101AFI20230814BHJP
   C08L 81/02 20060101ALI20230814BHJP
   C08K 3/24 20060101ALI20230814BHJP
   C08K 3/00 20180101ALI20230814BHJP
   H01M 10/0565 20100101ALI20230814BHJP
【FI】
H01B1/06 A
C08L81/02
C08K3/24
C08K3/00
H01M10/0565
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022017738
(22)【出願日】2022-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石田 真淳
(72)【発明者】
【氏名】仲村 博門
(72)【発明者】
【氏名】森 健太郎
【テーマコード(参考)】
4J002
5G301
5H029
【Fターム(参考)】
4J002CN011
4J002DE056
4J002DE098
4J002DE138
4J002DE148
4J002ED037
4J002EH007
4J002EL067
4J002EU027
4J002EV286
4J002FB078
4J002FD018
4J002FD116
4J002FD117
4J002FD118
4J002FD206
4J002FD207
4J002FD208
4J002GN00
4J002GQ00
4J002GQ02
4J002GT00
5G301CA30
5G301CD01
5G301CE01
5H029AJ02
5H029AJ14
5H029AM16
5H029CJ08
5H029HJ00
5H029HJ01
5H029HJ02
(57)【要約】
【課題】少量の電離助剤量においてもイオン伝導度に優れ、界面抵抗が小さく、さらに、生産性に優れるポリマー電解質を提供することを課題とする。
【解決手段】アルカリ金属塩、電離助剤、無機粒子およびポリマーを含有するポリマー電解質であり、前記無機粒子が表面に極性基を有し、少なくとも一部の極性基の一部がアルカリ金属のカチオンで置換されており、前記ポリマーがポリアリーレンスルフィドであることを特徴とする、ポリマー電解質。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属塩、電離助剤、無機粒子およびポリマーを含有するポリマー電解質であり、
前記電離助剤の含有量が、前記ポリマー電解質の全体の質量に対し30質量%以下であり、
前記無機粒子が表面に極性基を有し、前記極性基の一部がアルカリ金属のカチオンで置換されており、
前記ポリマーが、ポリアリーレンスルフィドであり、
前記ポリアリーレンスルフィドが式-(Ar-S)-を構成単位とするポリアリーレンスルフィド共重合体であって、Arが化学式(1)の(A)で表される構成単位および、化学式(1)の(B)~(G)からなる群より選ばれる少なくとも1つの構成単位を有する、ポリマー電解質。
【化1】
(R1,R2はアルキル基、アルコキシ基、アミノ基、カルボキシル基、および水酸基から選ばれた置換基であり、R1とR2は同一でも異なっていてもよい。R3、R4は、水素、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、カルボキシル基、および水酸基から選ばれた置換基であり、R3とR4は同一でも異なっていてもよい。Yはアルキレン基、O、CO、SO、SOから選ばれる。)
【請求項2】
前記極性基が、-S-M、-O-M、-SO-M、-SO-M、-CO-M、または、-CO-Mの構造であることを特徴とする、請求項1に記載のポリマー電解質。
(ここで、Mがアルカリ金属のカチオンを表す。)
【請求項3】
前記電離助剤が、30℃における式(1)で得られたイオン解離度(1-ξ)が0.10以上であり、かつ、式(2)で得られる溶媒拡散係数(Dsolvent)が16.0以下である、請求項1または2に記載のポリマー電解質。
【数1】
【数2】
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載のポリマー電解質を含む、電池。
【請求項5】
請求項1から3のいずれかに記載のポリマー電解質の製造方法であり、
前記アルカリ金属塩、前記無機粒子、および前記ポリアリーレンスルフィドを含有する混合物を得る工程と、
前記混合物に前記電離助剤を加える工程とを、この順に有する、ポリマー電解質の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー電解質に関する
【背景技術】
【0002】
近年、リチウム二次電池をはじめとするアルカリ二次電池はスマートフォン、携帯電話などの携帯機器、ハイブリッド自動車、電気自動車、及び家庭用蓄電器などといった様々な用途に用いられつつあり、それらに関する研究開発が盛んに行われている。
【0003】
リチウム二次電池は、特に電気自動車などの用途において、安全性の向上が強く求められている。従来の電解液電池は、可燃性の電解液を使用するため、電池の燃焼や爆発が起きることがあった。そのため、安全性向上に寄与できる固体電解質の研究が活発となっている。
【0004】
固体電解質はイオンを容易に伝導する固体であり、一般的に酸化物系、硫化物系及びポリマー系に分けられる。ポリマー系固体電解質は、生産性、柔軟性などの利点があり注目されているが、室温でのイオン伝導度が低く、その解決が求められている。
【0005】
イオン伝導度の向上方法の一つとして、ポリマーまたはそのモノマーをアニオン性とし、前記アニオン性部分にアルカリ金属のカチオンを配位させる、所謂シングルイオンポリマー(特許文献1~3)などが知られている。
【0006】
また逆に、イオン伝導度は酸化物や硫化物などの無機固体電解質を利用し、主に柔軟性や粒子間結合のバインダー用途としてポリマーを利用することで、イオン伝導度と生産性を両立する方法(特許文献4~6)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9-263637号公報
【特許文献2】特開2006-318674号公報
【特許文献3】特表2020-511742号公報
【特許文献4】特開平2001-229976号公報
【特許文献5】特開2007-149648号公報
【特許文献6】特表2018-521173号公報
【特許文献7】WO2021/132308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1~3には、ポリマーまたはそのモノマーをアニオン性とし、前記アニオン性部分にアルカリ金属のカチオンを配位させる、所謂シングルイオンポリマーが開示されている。しかし、このようなシングルイオンポリマーは、ポリマーにアニオン性を付与するため、生産性が低いことや、熱的安定性に欠けることが多く、生産性や耐熱性に課題がある。
【0009】
また、特許文献4~6には、無機系の固体電解質を使用することで高いイオン伝導度を確保し、前記無機系固体電解質のバインダー用途や、柔軟性付与の用途などを目的にポリマーを使用する構成の固体電解質が開示されている。しかし、このような構成では、イオン伝導度を維持するため無機固体電解質の比率が高いことが好ましく、生産性は無機固体電解質に大きく依存する。無機固体電解質には酸化物系・硫化物系などが存在するが、それぞれ高温での焼成や、過酷なドライ環境が必要となるため、生産性に課題がある。また、無機固体電解質間の粒界抵抗が大きいことが課題であり、バインダーの使用により低くなるものの依然として存在する。
【0010】
さらに、特許7には、ポリフェニレンスルフィド(PPS)をベースポリマーとしたポリマー電解質が開示されている。本電解質はPPSによる高い耐熱性と高いイオン伝導度を有する。しかし、高いイオン伝導度の発現には、ポリマー電解質が多量の電離助剤を含有する必要があり、その量を減らすことで、イオン伝導度は低下する。一方で、ポリマー電解質が含有する電離助剤の量が多いと、PPSが膨潤し、ポリマー電解質を膜状に成型して得られる電解質層の厚みが増加してしまう。
【0011】
そこで、本発明はかかる課題に鑑み、ポリマー電解質を膜状に成型して得られる電解質層の厚みの増大を抑制でき、イオン伝導度に優れ、界面抵抗が小さく、さらに、生産性にも優れるポリマー電解質を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、かかる課題を解決すべく鋭意検討した結果、ポリマー電解質を膜状に成型して得られる電解質層の厚みの増大を抑制でき、イオン伝導度に優れ、界面抵抗が小さく、さらに、生産性にも優れるポリマー電解質を見出し、本発明に至った。
【0013】
すなわち、上記課題を解決するため、本発明は以下の構成からなる。
【0014】
(1)アルカリ金属塩、電離助剤、無機粒子およびポリマーを含有するポリマー電解質であり、前記電離助剤の含有量が、前記ポリマー電解質の全体の質量に対し30質量%以下であり、前記無機粒子が表面に極性基を有し、前記極性基の一部がアルカリ金属のカチオンで置換されており、前記ポリマーが、ポリアリーレンスルフィドであり、前記ポリアリーレンスルフィドが式-(Ar-S)-を構成単位とするポリアリーレンスルフィド共重合体であって、Arが化学式(1)の(A)で表される構成単位および、化学式(1)の(B)~(G)からなる群より選ばれる少なくとも1つの構成単位を有する、ポリマー電解質。
【0015】
【化1】
【0016】
(R1,R2はアルキル基、アルコキシ基、アミノ基、カルボキシル基、および水酸基から選ばれた置換基であり、R1とR2は同一でも異なっていてもよい。R3、R4は、水素、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、カルボキシル基、および水酸基から選ばれた置換基であり、R3とR4は同一でも異なっていてもよい。Yはアルキレン基、O、CO、SO、SOから選ばれる。)
(2)前記極性基が、-S-M、-O-M、-SO-M、-SO-M、-CO-M、または、-CO-Mの構造であることを特徴とする、(1)に記載のポリマー電解質。(ここで、Mがアルカリ金属のカチオンを表す。)
(3)前記電離助剤が、30℃における式(1)で得られたイオン解離度(1-ξ)が0.10以上であり、かつ、式(2)で得られる溶媒拡散係数(Dsolvent)が16.0以下である、(1)または(2)のポリマー電解質。
【0017】
【数1】
【0018】
【数2】
【0019】
(4)(1)~(3)のいずれかに記載のポリマー電解質を含む、電池であり、
また、(5)(1)から(3)のいずれかのポリマー電解質の製造方法であり、前記アルカリ金属塩、前記無機粒子、および前記ポリアリーレンスルフィドを含有する混合物を得る工程と、前記混合物に前記電離助剤を加える工程とを、この順に有する、ポリマー電解質の製造方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ポリマー電解質を膜状に成型して得られる電解質層の厚みの増大を抑制でき、イオン伝導度に優れ、界面抵抗が小さく、さらに、生産性にも優れるポリマー電解質を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明は以下記載の実施形態に限定されるものではない。また、本明細書における数値及びその範囲は、本発明を制限するものではない。
【0022】
(ポリマー電解質の定義)
本発明におけるポリマー電解質とは、室温において固体状態であり、外部から電場をかけることで容易にイオンを移動させる物質のことをいう。本発明において固体とは、容器の形とは無関係にその形状を保持するもの、をいう。本発明のポリマー電解質は、アルカリ金属塩、電離助剤、無機粒子およびポリマーを含有する。なお、本発明のポリマー電解質は、後述するように溶媒が含浸されていてもよい。ここで、本発明のポリマー電解質と、特開2005―129480号公報に開示される有機電解液二次電池のセパレータ用フィルムと電解液、アルカリ金属塩から構成されるものとは、無機粒子の含有の有無や固体部分のイオン伝導度などの点で大きく異なる。このことにより、例えば、本発明のポリマー電解質の固体部分のイオン伝導度は10-6S/cm以上であるのに対し、上記のセパレータ用フィルムを構成する固体部分のイオン伝導度は10-8S/cm未満であり、大きく異なる。この差は、ポリマー内部へのアルカリ金属塩の分散の程度の違いにより生じているものと推測する。
【0023】
(アルカリ金属塩)
本発明のポリマー電解質はイオン伝導度の観点からアルカリ金属塩を含むことが重要である。本発明におけるアルカリ金属塩は、アルカリ金属イオンと対アニオンとがイオン結合し、構成される塩をいう。アルカリ金属イオンには、リチウム金属イオン、ナトリウム金属イオン、カリウム金属イオンなどが挙げられる。イオン拡散性の観点から、アルカリ金属イオンは、イオン径が小さい金属イオンであることが好ましい。即ち、アルカリ金属イオンは、リチウム金属イオンまたはナトリウム金属イオンであることが好ましい。
【0024】
アルカリ金属イオンの対アニオンには、イオンへの解離性の高さからHSAB則に基づくやわらかい塩基であることが好ましく、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンや、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオンなどが挙げられる。
【0025】
なお、HSAB則(Principle of Hard and Soft Acids and Bases)は、R.G.Pearsonが提唱した酸塩基の強さに関して、かたい、やわらかいという観点で分類したものである。かたい酸はかたい塩基に対して親和性が大きく、やわらかい酸はやわらかい塩基に対して親和性が大きい。かたい酸とは、電子受容体になる原子が小さく、容易に変形する軌道に入った価電子を持たず、大きな正電荷をもつものである。やわらかい酸とは、電子受容体になる原子が大きく、容易に変形する軌道に入った価電子を持ち、電荷がないかあっても小さいものである。かたい塩基とは、価電子が原子に強く結合している塩基であり、やわらかい塩基とは、価電子が容易に分極する塩基である。HSAB則およびHSABの酸塩基の分類は、R.B.HeslopとK.Jones著「Inorganic Chemistry -A Guide to Advanced Study」の9章の酸塩基の15節に記載されている。
【0026】
具体的には、アルカリ金属塩として、リチウム塩類、ナトリウム塩類を含むことが好ましく、水酸化リチウム(LiOH)、炭酸リチウム(LiCO)、過塩素酸リチウム(LiClO)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、リチウムビス(オキサレート)ボレート(LiBOB)、六フッ化リン酸ナトリウム(NaPF)、四フッ化ホウ酸ナトリウム(NaBF)、過塩素酸ナトリウム(NaClO)、ナトリウムビス(フルオロスルホニル)イミド(NaFSI)、及びナトリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(NaTFSI)より選ばれる1種以上を含むことがより好ましく、イオンの解離性の高さの観点から、LiTFSI、及びLiFSIより得られる1種以上を含むことがさらに好ましい。
【0027】
なお、前述したアルカリ金属塩は、複数種のアルカリ金属塩を任意の割合で混合して用いてもよい。
【0028】
イオンの解離度及びイオン伝導度の観点から、ポリマーにおける全構成単位及びアルカリ金属塩のモル比が、100:2~100:400であることが好ましく、100:2~100:100がより好ましく、100:2~100:50がさらに好ましい。
【0029】
(電離助剤)
本発明のポリマー電解質に含まれる電離助剤は、以下に説明する。ポリマー電解質のイオン伝導度の向上の観点、特に、アルカリ金属塩の電離の観点から、上記の電離助剤は、30℃における式(1)で得られるイオン解離度(1-ξ)が0.10以上であり、かつ、式(2)で得られる溶媒拡散係数(Dsolvent)が16.0以下であることが好ましい。
【0030】
【数3】
【0031】
【数4】
【0032】
式(1)で得られるイオン解離度(1-ξ)は電離助剤、温度、アルカリ金属塩濃度、イオン種類によって変わることがある。ここでイオン解離度(1-ξ)は、温度が30℃、アルカリ金属塩の濃度がアルカリ金属塩:電離助剤のモル比で1:20、且つカチオンがリチウムイオン、アニオンがN(SOCF である場合のイオン解離度をいう。
【0033】
なお、式(1)及び式(2)の表記は下記通りの数値を表す。σimp:イオン伝導率、e:電子電量、N:アボガドロ定数、k:ボルツマン定数、T:温度、DLithium:リチウムイオンの拡散係数、DAnion:TFSI-の拡散係数、(1-ξ):イオン解離度、Dsolvent:溶媒拡散係数、c:境界条件定数、η:粘度、ra:拡散半径。
【0034】
上記電離助剤は、ポリマー電解質の界面、または非結晶部分でリチウムイオンと結合し、ポリマーマトリクスよりもイオン伝導度に優れた第三の相を形成することができる。前記第三の相により、イオン伝導通路が形成され、ポリマー電解質のイオン伝導度を向上させることができる。
【0035】
電離助剤は主にポリマーの非晶部分に含まれており、ポリマー電解質における電離助剤の含有量が多くなることに伴い、ポリマー(PAS)を膨潤させる傾向がみられる。逆に、ポリマー電解質における電離助剤の含有量が少量であることで、PASの膨潤が抑制され、結果として、ポリマー電解質を膜状に成型して得られる電解質層の厚みの増大を抑制できる。ここで、上記の電解質層の厚みは、イオン伝導や電池のエネルギー密度の観点から、薄いことが好ましい。また、電離助剤による電解質層の厚みの変化率は、以下のとおりであることが好ましい。すなわち、電離助剤を含む電解質層の厚みを電離助剤を含む前の電解質層の厚みで除し、100を乗して得られる膨潤度(%)は、190%以下が好ましく、140%以下がさらに好ましい。
【0036】
式(1)で得られたイオン解離度(1-ξ)は、イオン解離(以後電離と表記する)の割合を示す。アルカリ金属塩の電離を促進させる観点から、上記電離助剤の式(1)で得られたイオン解離度(1-ξ)は、0.10以上であることが好ましい。また、式(2)で得られる溶媒拡散係数(Dsolvent)は、電離助剤の粘性を示しており、この数値が低いほどアルカリ金属イオンの伝導度が高くなる傾向にある。上記観点から、上記電離助剤の式(2)で得られる溶媒拡散係数(Dsolvent)は、16.0以下であることが好ましい。
【0037】
溶媒拡散係数およびイオン解離度は、J. Phys. Chem. B 1999, 103, 519-524.に記載の手順にて測定し、算出した。
【0038】
電離助剤は、水、γブチロラクトン(GBL)、n-メチルピロリドン(NMP)、ブチレンカーボネート(BC)、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンピレンカーボネート(PC)、メチル-γ-ブチロラクトン(GVL)、トリグリム(TG)、ダイグリム(DG)、炭酸エチルメチル(EMC)、および炭酸ジメチル(DMC)からなる群より選ばれる1つ以上から構成されることが好ましい。なかでも、電解質の電位窓の観点から、上記の電離助剤は、γブチロラクトン(GBL)およびn-メチルピロリドン(NMP)の少なくとも何れか一方から構成されるものであることがより好ましく、前述のポリマーとの親和性の観点から、上記の電離助剤は、γブチロラクトン(GBL)であることが最も好ましい。
【0039】
イオンの解離度及びイオン伝導度の観点から、アルカリ金属塩に対する電離助剤のモル比が、16以下が好ましく、12以下がより好ましい。下限は特に制約されるものではないが、0.01以上が好ましく、0.1以上がより好ましい。また、ポリマー電解質の全体の質量に対する電離助剤の含有量は、PASの膨潤を大きく抑制する観点から、30質量%以下であり、25質量%以下であることがより好ましい。下限は特に制約されるものではないが、0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましい。
【0040】
(無機粒子)
本発明のポリマー電解質に含まれる無機粒子は、固体の無機物のことをいう。無機粒子の例としては、無機酸化物の粒子、無機硫化物の粒子、無機窒化物の粒子等が挙げられるが、安全性および安定性がより向上するとの観点から、上記無機粒子は、無機酸化物の粒子であることが好ましい。無機粒子を添加する効果は種々報告されているが、イオン伝導度の向上に寄与するという観点で、無機粒子の酸塩基性に着目することが重要である。無機粒子の表面の固体酸点は正の電荷を有し、無機粒子の表面の固体塩基点は負の電荷を有するため、固体酸点はアルカリ金属塩のアニオンと相互作用し、固体塩基点はアルカリ金属塩のカチオンと相互作用し、結果として、アルカリ金属塩の電離を促す。このことにより、電離助剤を無機粒子が代替することができ、ポリマー電解質に含まれる電離助剤の含有量が少ない場合であっても、本発明のポリマー電解質は高いイオン伝導度を示す。さらに、無機粒子表面の固体酸点または固体塩基点は極性基であり、さらに、極性基の一部がアルカリ金属のカチオンで置換されている必要がある。極性基の一部がアルカリ金属のカチオンで置換されていることで、対のアニオンとなる極性基は無機粒子表面に存在するため、移動が抑制される。一方で、アルカリ金属のカチオンの無機粒子からの移動は抑制されない。その結果、アルカリ金属のカチオンの量の単純な増加によるイオン伝導度向上だけでなく、輸率やイオン移動度の向上にも寄与する。その結果として、イオン伝導度が向上し、電池性能が向上する。この際、アルカリ金属塩の電離の促進やイオン移動度の向上の観点から、前記極性基は、Xを前記極性基が結合する無機粒子表面とし、Mをアルカリ金属のカチオンとして、X-S-M、X-O-M、X-SO-M、X-SO-M、X-CO-M、または、X-CO-M、の構造であることが好ましい。より好ましくは、X-SO-MまたはX-SO-Mの構造である。反応性の高い極性基を有する無機粒子を添加するため、高分子としては、PASのように高い安定性を有する高分子である必要があり、PASと前記の無機粒子を併用しなければ高いイオン伝導度向上効果は得られない。また、前記極性基は解離性のプロトンを有することがより好ましく、極性基が有するプロトンの一部または全てがアルカリ金属のカチオンで置換されていることが好ましい。
【0041】
極性基を有する限りベースとなる無機粒子は特に限定されないが、Al、Si、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、In、Sn、Ba、La、Ta、W、Pb、Biなどの酸化物や複合酸化物やそれらの混合物などが例示され、前記酸化物や前記複合酸化物は表面処理がなされていてもよい。例として、親水化した酸化物、親水化した複合酸化物、硫酸化した酸化物、硫酸化した複合酸化物、ゼオライト等やこれらの混合物が挙げられる。
【0042】
無機粒子に極性基を導入する目的で、表面改質処理などを行ってよい。極性基を導入出来る場合、その手段は問わないが、平易な表面改質処理の一例として、硫酸を用いた硫酸化処理や、ピラニア溶液などを用いた表面の親水化処理などが挙げられる。また、シランカップリング剤などを用いても良い。
【0043】
無機粒子が硫酸化されている場合に、無機粒子に対する硫酸化の比率(以下、硫酸化率と称することがある)は、イオン伝導度および製膜性の観点から、0.01~500質量%が好ましく、0.1~300質量%がより好ましく、1~200質量%がさらに好ましい。
【0044】
無機粒子に対するアルカリ金属のカチオンの置換比率は、無機粒子に対する、アルカリ金属のカチオンの前駆体となる水酸化物種の質量比にて、1:0.001~1:1が好ましく、1:0.01~1:0.5がより好ましく、1:0.05~1:0.3がさらに好ましい。なお、この置換比率は、「無機粒子の表面極性基同定および定量法」の項に記載の方法により測定可能である。
【0045】
無機粒子の粒径は、ポリマー電解質を膜状とする際の製膜性の観点から、10μm以下が好ましく、1μm以下がより好ましく、500nm以下がさらに好ましい。粒径の下限は特に限定しないが、1nm以上であることが好ましい。なお、無機粒子の粒径は、走査電子顕微鏡(日立SU8010)を用い、加速電圧10kVで観察することにより測定した。粒子の長辺と短辺の平均値を前記粒子の粒子径とし、さらに最低20粒子の平均をとることにより算出した。なお、この粒径は、ポリマー電解質中に分散している無機粒子のクラスターの径である。
【0046】
無機粒子のポリマー電解質の全量に対する混合比率は、イオン伝導度および、ポリマー電解質を膜状とする際の製膜性の観点から、1~25質量%が好ましく、3~20質量%がより好ましい。
【0047】
(ポリアリーレンスルフィド)
本発明のポリマー電解質に含まれるポリマーは、イオン伝導度および耐熱性、さらに、無機粒子との相性の面から、ポリアリーレンスルフィド(以下、PASと表記する)である必要がある。また、本発明のポリマー電解質が、表面に極性基を有し、極性基の一部がアルカリ金属のカチオンで置換されている無機粒子とPASとを組み合わせることで、従来のポリマーなどでは加水分解などの反応を促進するため使用不可能であった極性基を利用することが可能となる。その結果として、本ポリマー電解質は幅広い電離助剤量の範囲で高いイオン伝導度を示し、また耐熱性が高いものとなる。また、シングルイオンポリマーやアニオン性ポリマーを使用する場合に比べて、工程制約が少なく、安定性が高い。
【0048】
PAS(以下、アリーレン基を「Ar」と略す)は、式-(Ar-S)-を構成単位とするポリマーであり、-(Ar-S)-の構成単位に含まれるArは、下記の化学式(1)の(A)で表される構成単位のみで構成されるものであるか、下記の化学式(1)の(A)で表される構成単位および化学式(1)の(B)~(G)からなる群より選ばれる少なくとも1つの構成単位を有するものであることが好ましい。
【0049】
【化2】
【0050】
(R1,R2はアルキル基、アルコキシ基、アミノ基、カルボキシル基、および水酸基から選ばれた置換基であり、R1とR2は同一でも異なっていてもよい。R3、R4は、水素、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、カルボキシル基、および水酸基から選ばれた置換基であり、R3とR4は同一でも異なっていてもよい。Yはアルキレン基、O、CO、SO、SOから選ばる。)
また、-(Ar-S)-で表される構成単位1モルに対し、共重合単位(-(Ar-S)-のArが化学式(1)の(B)~(G)からなる群より選ばれる少なくとも1つの構成単位を有するものは、1モル%以上50モル%以下であることが好ましく。3モル%以上30モル%以下がより好ましく、5モル%以上25モル%以下がいっそう好ましい。共重合単位が1モル%以上であることで、PASの融点が大きく低下し、ポリマー電解質を作製する際の加工温度を低くすることができ、ポリマー電解質のイオン伝導率や品質安定性の向上につながる。一方、50モル%以下であることで、PAS共重合体の重合反応終了後の反応液からPAS共重合体を回収する際に、回収を効率的に行えるようになる傾向にある。なお、PAS共重合体中の共重合単位の含有比率は、重合時に添加する式(A’)~(G’)で表されるジハロゲン化芳香族化合物全量に対する、共重合成分として添加する(B’)~(G’)の化合物の添加量の比率、と同じである。
【0051】
上記-(Ar-S)-で表される単位を主要構成単位とする限り、下記式(H)~(J)で表される分岐単位または架橋単位を含むことができる。これら分岐単位または架橋単位の共重合量は、-(Ar-S)-で表される構成単位1モルに対して0~1モル%の範囲であることが好ましい。
【0052】
【化3】
【0053】
また、本発明におけるPAS共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物のいずれかであってもよい。
【0054】
本発明のポリマー電解質用PAS共重合体の合成方法は特に限定されるものではなく、有機極性溶媒中でスルフィド化剤とジハロゲン化芳香族化合物を反応させて得る方法や、ジヨード芳香族化合物と硫黄を無溶媒下で溶融反応させて得る方法などが挙げられるが、工業的に生産されている前者の重合方法を採用するのが汎用性の観点で好ましい。
【0055】
また、PASは、融点が300℃以下であることが好ましい。製膜時の加工温度を低温化できるためである。また、アルカリ金属塩の分解温度より低い温度域での製膜が可能になるという観点からも、PAS共重合体の融点は低いことが好ましく、270℃以下が好ましく、250℃以下がより好ましい。融点の下限は特に限定されるものではないが、低融点化のためにPASの共重合成分量が多くなると、PAS重合後の反応液からポリアリーレンスルフィド共重合体の回収性が低下する傾向にあることから、融点は150℃以上が好ましく、200℃以上がより好ましい範囲として例示できる。
【0056】
PASの結晶化度は、低いほど好ましい。電離助剤が、PASの非晶領域に含浸されることにより、イオン伝導経路を形成し、高いイオン伝導度を得ることができるためである。具体的な結晶化度としては、30%以下であることが好ましい。より好ましくは、15%以下が好ましい。結晶化度の下限は特に限定されるものではなく、結晶化度が0%、すなわち、非晶領域のみから構成されるものであってもよい。なお、結晶化度は、示差走査型熱量計(DSC)で検出される融解ピーク面積より求められる融解熱量(J/g)を、PPSの完全結晶時の融解熱量146.2(J/g)で除した値である。
【0057】
(イオン伝導度)
本発明のポリマー電解質は電池用途の電解質としてのイオン伝導度や電池の充放電性能の観点から、本発明のポリマー電解質のイオン伝導度は10-6S/cm以上であることが好ましい。また、同様の観点から、10-5S/cm以上であることがより好ましく、10-4S/cm以上であることがさらに好ましい。なお、上記のポリマー電解質のイオン伝導度は、25℃におけるものをいう。
【0058】
(製造方法)
本発明のポリマー電解質は、製造方法によらず、本発明の構成であれば性能を発揮する。しかしながら、生産性の観点から、アルカリ金属塩、無機粒子、およびポリアリーレンスルフィドを含む混合物を得た後に、この混合物に電離助剤を加えることで、本発明のポリマー電解質を得ることが好ましい。より好ましくは、アルカリ金属塩、無機粒子、およびポリアリーレンスルフィドを一括で溶融混練してから、膜状物を得て、その後に電離助剤を含浸することが好ましい。溶融混練温度はポリアリーレンスルフィドの融点に依存して異なるが、概ね240℃~300℃である。この際、後述の電離助剤の含浸を効率的に行う目的で、膜状物は結晶化を可能な限り抑制することが好ましい。その理由は、電離助剤がポリアリーレンスルフィドの非晶部分に含浸されるためであり、非晶部分を多く残すことで所望の電離助剤含有量に調整することが可能となる。具体的には、後述の相対結晶化度を50%以下とすることが好ましく、より好ましくは35%以下、さらに好ましくは20%以下とすることが好ましい。膜状物の相対結晶化度を係る範囲に調整する方法は、ポリアリーレンスルフィドを溶融状態から急冷して膜状物を得る方法が有効である。ポリアリーレンスルフィドを溶融状態から急冷して膜状物を得る方法は、公知の方法を用いることができる。例えば、アルカリ金属塩とポリアリーレンスルフィドを、先端にTダイを取りつけた二軸押出機で溶融押出して、チラーで冷却されたキャストドラムにキャストして連続的に膜状物を得る方法(以下、連続製膜)、また、アルカリ金属塩とポリアリーレンスルフィドを二軸押出機で溶融混合し、ストランドにして、回転刃でペレット状にしたものを、凍結粉砕機で粉砕し、粉状物にした後、加熱圧着装置などでプレスし、水浴で急冷して膜状物を得る方法、などが挙げられる。なかでも、生産性の観点から、前者の連続製膜による方式が好ましい。本発明における連続製膜においては、長手方向や幅方向への延伸を含まない点が重要である。延伸を行うと、分子鎖の配向により結晶化が促進される。そのため、前述したような、所謂、無延伸の状態であることが好ましい。
【0059】
以上によって得られた膜状物の厚みは、後述の電離助剤の含浸を効率的に行う目的や実抵抗値の観点から、100μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましく、従来の電解液系リチウムイオン二次電池で使用されているセパレーターフィルム並である20μm以下がさらに好ましい。無延伸による連続製膜で膜厚を薄くしたい場合、アルカリ金属塩とポリアリーレンスルフィドのみで薄膜化するとハンドリングが低下する場合があるため、一般的に知られる押出ラミネートや複合製膜により製膜する方法が有効である。押出ラミネートとは、キャスト時に接着剤を塗布した支持フィルムを圧着して二層の膜を製膜する方法である。本来の押出ラミネートは、押出した樹脂と支持フィルムとが接着されることを目的とするが、支持フィルムに接着剤を塗布せずに供給すると、製膜後に支持フィルムを剥離することができる。このようにすることで、膜厚の薄い膜状物を得やすくなる。複合製膜とは、二つの押出機(押出機A、押出機B)を用いて、AB積層フィルムやABA積層フィルムを得る製膜方法である。例えば、アルカリ金属とポリアリーレンスルフィドを押出機Bに供給し、PETなどポリアリーレンスルフィドと剥離性の良い樹脂を押出機Aに供給して、ABA積層フィルムを得たのち、A層を剥離して薄膜のB層を得る方法が挙げられる。
【0060】
次に、アルカリ金属塩、無機粒子、およびポリマーを含有し、ポリマーがポリアリーレンスルフィドである前記膜状物に対し、電離助剤を含浸することが好ましい。含浸法は、ポリマー電解質の各成分、つまり、アルカリ金属塩、無機粒子、ポリアリーレンスルフィド、および電離助剤の物性に依存し、条件を適宜選択してもよい。含浸手段および条件については、電離助剤の含有量が制御できる限り、どのような手段を用いてもよい。しかし、生産性の観点から、短時間で含浸されることが好ましく、その観点では、含浸時の温度、圧力等の条件を変更することが好ましい。また、含浸する電離助剤は単一または2種類以上でも良く、複数の電離助剤を含浸する場合、同時、または、逐次に含浸しても良い。また、含浸を補助する目的で膨潤溶媒を加えても良い。膨潤溶媒としては、ポリアリーレンスルフィドへの膨潤性が良く、かつ、得られた電解質フィルム中に残存させないためにも、融点が低く、揮発性の高い溶媒が好ましい。具体的には、トルエン、エタノール、アセトン、などが挙げられる。膨潤溶媒を用いて含浸する場合は、電離助剤と膨潤溶媒で特定の濃度に調整した溶液を作製しておき、膨潤溶媒が揮発する温度まで加温しながら含浸する方法が好ましい。膨潤溶媒を用いた含浸は、最終的に得られる電解質フィルム中に存在する電離助剤量を正確に制御することが可能である。
【0061】
また、溶融混練し膜状物を得る工程と電離助剤の含浸工程は、インライン方式であっても、オフライン方式であってもよい。インライン方式とは、前記の2つの工程が同一の製造ラインで実施することを指す。具体的には、押出機から冷却ロールにキャストし、そのまま電離助剤を有したバスに膜状物を連続的に浸漬させる方式、などが挙げられる。オフライン方式とは、前記2つの工程が別の製造ラインで実施することを指す。具体的には、押出機から冷却ロールにキャストして得た膜状物をロール状に巻き取っておき、ロールごと、もしくは、ロールから巻き出しながら、電離助剤を有したバスに浸漬させる方式、などが挙げられる。インライン方式は、同一処方による連続生産には好適だが、ロット毎に電離助剤を変更する必要がある場合には、不向きである。オフライン方式は、同一処方による連続生産には不向きだが、ロット毎に電離助剤を変更する必要がある場合には、好適である。
【0062】
(無機粒子の表面極性基同定および定量法)
無機粒子の表面の極性基同定法は、極性基の同定と、アルカリ金属のカチオン種の同定の2段階により実施してよい。分析方法は限定されないが、以下の方法により可能である。
【0063】
極性基の同定は、その簡便さから、赤外吸収分光法により実施することが好ましい。
【0064】
極性基表面に置換されたアルカリ金属のカチオンの同定法は、X線光電子分光法(XPS)、核磁気共鳴分光(NMR)、イオンクロマトグラフィー(IC)、電位差滴定、ICP(誘導結合プラズマ発光分光分析法)、TOF-SIMS(飛行時間型2次イオン質量分析)などが例示されるが、いずれを用いても良い。試料は、固体のまま測定しても良く、また、極性基から溶液に遊離させて測定してもよい。
【0065】
また、アルカリ金属のカチオンは、以下の手段で無機粒子を抽出し、定量してもよい。ポリマー電解質から、プロトン性の溶媒を使用せずに、無機粒子を回収する。この手段としては、溶融し目の細かいフィルターを用いて回収する方法や、ポリマーが溶媒に溶解するなどの場合には、無機粒子表面のアルカリ金属のカチオンをイオン交換しない観点から、無水グレードの非プロトン性の溶媒を用いて回収することが好ましい。前記で抽出した無機粒子を前記同定法により元素分析することで、無機粒子表面の極性基に置換されたアルカリ金属のカチオンを同定可能である。アルカリ金属のカチオンを定量する際には、抽出した無機粒子からプロトン性の溶媒、水など、を用いてアルカリ金属のカチオンを遊離してから定量してもよい。
【実施例0066】
以下、本発明について実施例を挙げて説明するが、本発明は必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0067】
(測定方法)
(融点)
測定試料2.5mgを示差走査熱量計(DSC)にセットし、窒素雰囲気下10℃/分の速度で25℃から120℃に昇温し、120℃で2時間保持した。その後350℃まで10℃/分の速度で昇温し、得られた吸熱ピークのうち、最も面積の広いピーク温度を融点とした。
【0068】
(結晶化度)
上記DSCで得られた、最も面積の広いピークの面積より求められる融解熱量(J/g)をPPS完全結晶時の融解熱量146.2(J/g)で除した値を結晶化度(%)とした。なお、PPS完全結晶時の融解熱量はInternational Polymer Processing, 1988, Vol.3, No.2, p.79-85の記載値を用いた。
【0069】
(相対結晶化度)
測定試料2.5mgを示差走査熱量計(DSC)のアルミ製サンプルホルダーに充填し、サンプル台に設置し、窒素雰囲気下10℃/分の速度で25℃から350℃に昇温して得られる、吸熱ピークを結晶融解熱量(ΔHm)、発熱ピークを結晶化熱量(ΔHc)とし、下式で算出した。
相対結晶化度(%)=(|ΔHm|-ΔHc)/|ΔHm|
(厚みおよび膨潤度)
厚みはJISK6250(2019)に従って、定圧厚さ測定器で測定した。膨潤度は、電離助剤を含む前の電解質層の厚みDiと、電離助剤を含む電解質層の厚みDfを用い、下記式で算出した。また、評価は、膨潤度が190%を越える場合をC評価とし、膨潤度が190%以下140%を越える場合をB評価、膨潤度が140%以下の場合をA評価とした。
膨潤度(%)= Df/Di×100
(溶媒拡散係数)
溶媒拡散係数は、J. Phys. Chem. B 1999, 103, 519-524.に記載の手順にて測定し、算出した。
【0070】
(イオン解離度)
イオン解離度は、J. Phys. Chem. B 1999, 103, 519-524.に記載の手順にて測定し、算出した。
【0071】
(無機粒子の粒径)
無機粒子の粒径は、走査電子顕微鏡(日立SU8010)を用い、加速電圧10kVで観察することにより測定した。測定の対象は無機粒子のクラスターであり、無作為に選定した20個の無機粒子のクラスターの長辺と短辺の長さを測定し、得られた40個の測定値の平均値を無機粒子の粒子径とした。
【0072】
(イオン伝導度)
得られた電解質フィルムを直径10mmのトムソン刃で打抜き、厚みを測定したあと、加圧ホルダー(東陽テクニカ社製LN-Z2-HF―PHシリーズ)にセットしたのち、インピーダンス測定装置(東陽テクニカ社製4990EDMS-120K)を用いて、25℃で100Hz~100MHzの交流電圧を印加し、複素インピーダンス法によるインピーダンスを測定し、ナイキストプロットを得た。得られたナイキストプロットから、抵抗値(R)を読み、測定した厚み(D)、および、測定電極と接している試料面積(S)と合わせて、下記の式(3)でイオン伝導度(σ)を算出した。尚、試料面積は、直径10mmに打ち抜いていることから、78.5mmで算出し、3サンプルの平均値として算出した。
そして、表1における評価では、イオン伝導度が1.0×10-4S/cm以上のものをA、1.0×10-4S/cm未満1.0×10-5S/cm以上のものをB、1.0×10-5S/cm未満1.0×10-6S/cm以上のものをC、1.0×10-6S/cm未満のものをDとした。
【0073】
【数5】
【0074】
(硫酸化率)
硫酸化率は0.1gの硫酸化酸化物を純水中に懸濁し、メチルレッドを指示薬として濃度既知の水酸化ナトリウム水溶液を用いて滴定することにより算出した。
【0075】
(無機粒子の表面極性基同定)
無機粒子の表面極性基同定を以下の方法にて実施した。
【0076】
赤外吸収分光法の全反射吸収測定(ATR-IR)により、無機粒子の固体表面に存在する極性基を同定した。ATR-IR測定は、IRSolution-21(島津)により、ZnSeプリズム(MIRacleA)を用い測定した。下記の公知の文献に従い帰属し、水酸基や硫酸基が存在することを確認した。すなわち、水酸基はVibrational Spectroscopy 43 (2007) 140-151のFig.3を参考に帰属し、硫酸基はApplied Catalysis A: General 502 (2015) 380-387のFig.2を参考に帰属した。
【0077】
極性基の一部に置換されたアルカリ金属のカチオンの同定は、露点-40℃以下のドライ環境下で以下の手段により行った。ポリマー電解質を溶融し、目の細かいメッシュフィルターに通すことで、無機粒子を回収した。回収した無機粒子を120℃で2時間の真空乾燥に処した後、無機粒子100mgに対し、1mLの無水NMPで洗浄を行い、さらに濾過を行った。濾過後の無機粒子を140℃で12時間の真空乾燥に処し、アルカリ金属塩を取り除いた無機粒子を得た。本無機粒子をNMR測定することにより、無機粒子表面の極性基にアルカリ金属のカチオンが置換されていることを確認した。
【0078】
(ポリアリーレンスルフィド)
全-(Ar-S)-の繰り返し単位100モル%に対して、Arが、下記の化学式(1)の(A)で表されるパラフェニレンスルファイド構成単位を90モル%と、下記の化学式(1)の(C)で表されるメタフェニレンスルファイド構成単位を10モル%とからなる共重合ポリマーであり、且つ、上記のメタフェニレンスルファイド構成単位のR3,R4がともに水素である共重合ポリマーをポリマー1とした。
【0079】
【化4】
【0080】
(アルカリ金属塩1)
リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(東京化成工業社製)をアルカリ金属塩1とした。
【0081】
(アルカリ金属塩2)
水酸化リチウム(東京化成工業社製)をアルカリ金属塩2とした。
【0082】
(樹脂組成物1)
ポリマー1およびアルカリ金属塩1を質量比7:3の割合で秤量し、ラボプラストミル(株式会社東洋精機製作所製)にて、300℃、5分、60rpmで溶融混練し、室温で放冷することで混合物を得た。得られた混合物を、フリーザーミル6775(SPEX社製)を用いて、液体窒素条件下で冷却しながら、15cycle/secで1.5分間粉砕後、1分間粉砕を休止するというサイクルを5セット行い凍結粉砕した。上記により得られた粉末を樹脂組成物1とした。
【0083】
(電離助剤1)
γ-ブチロラクトン(GBL)(キシダ化学社製)を電離助剤1とした。このGBLのイオン解離度(1-ξ)は0.64であり、溶媒拡散係数(Dsolvent)は5.3×10-10-1であった。
(膨潤溶媒1)
エタノール(超脱水)(富士フイルム和光純薬社製)を膨潤溶媒1とした。
【0084】
(表面改質溶液1)
硫酸(富士フイルム和光純薬社製)を表面改質溶液1とした。
【0085】
(表面改質溶液2)
過酸化水素水(富士フイルム和光純薬社製)と表面改質溶液1を質量比1:3で混合して調製しピラニア溶液を得た。このピラニア溶液は強い酸化剤であり、以下の手順で上記の調製を実施した。有機物の付着物がない調製用器具を用い、有機物を混合させずに、氷冷しながら硫酸に少しずつ過酸化水素水を滴下して調製した。
【0086】
(無機粒子1)
酸化アルミニウム(住友化学社製)を無機粒子1とした。粒径は300nmであった。
【0087】
(無機粒子2)
酸化チタン(IV)(富士フイルム和光純薬社製)を無機粒子2とした。粒径は100nmであった。
【0088】
(無機粒子3)
酸化ジルコニウム(富士フイルム和光純薬社製)を無機粒子3とした。粒径は200nmであった。
【0089】
(無機粒子4)
無機粒子1の1.00gに対し、表面改質溶液1を0.10g混合撹拌し、加熱乾燥の後、400℃で2時間焼成して得られた硫酸化酸化物を無機粒子4とした。粒径は300nmであった。
【0090】
(無機粒子5)
無機粒子2の1.00gに対し、表面改質溶液1を0.10g混合撹拌し、加熱乾燥の後、400℃で2時間焼成して得られた硫酸化酸化物を無機粒子5とした。粒径は100nmであった。
【0091】
(無機粒子6)
無機粒子3の1.00gに対し、表面改質溶液1を0.10g混合撹拌し、加熱乾燥の後、400℃で2時間焼成して得られた硫酸化酸化物を無機粒子6とした。粒径は200nmであった。
【0092】
(無機粒子7)
無機粒子4の1.00gに対し、アルカリ金属塩2を24.4mg混合し、極微量の水を加え撹拌、加熱乾燥の後、400℃で2時間焼成して得られたリチウム置換した硫酸化酸化物を無機粒子7とした。粒径は300nmであった。
【0093】
(無機粒子8)
無機粒子5の1.00gに対し、アルカリ金属塩2を24.4mg混合し、極微量の水を加え撹拌、加熱乾燥の後、400℃で2時間焼成して得られたリチウム置換した硫酸化酸化物を無機粒子8とした。粒径は100nmであった。
【0094】
(無機粒子9)
無機粒子6の1.00gに対し、アルカリ金属塩2を24.4mg混合し、極微量の水を加え撹拌、加熱乾燥の後、400℃で2時間焼成して得られたリチウム置換した硫酸化酸化物を無機粒子9とした。粒径は200nmであった。
【0095】
(無機粒子10)
無機粒子5の1.00gに対し、アルカリ金属塩2を5.1mg混合し、極微量の水を加え撹拌、加熱乾燥の後、400℃で2時間焼成して得られたリチウム置換した硫酸化酸化物を無機粒子10とした。粒径は100nmであった。
【0096】
(無機粒子11)
無機粒子2の1.00gを、30mLの表面改質溶液2に浸漬し撹拌後、洗浄の上、濾過、回収し、80℃で真空乾燥して得られた表面親水化酸化チタンを無機粒子11とした。粒径は100nmであった。
【0097】
(無機粒子12)
無機粒子11の1.00gに対し、アルカリ金属塩2を24.4mg混合し、極微量の水を加え撹拌、80℃で真空乾燥して得られたリチウム置換した表面親水化酸化チタンを無機粒子12とした。粒径は100nmであった。
【0098】
(実施例1~5、比較例1~8)
樹脂組成物1と無機粒子を、表1に記載の組み合わせ、および、表1に記載の質量比で混合し、混合粉末を得た。得られた混合粉末を5MPa、300℃、10秒で熱プレスしたのち、直ちに水冷することによりプレスフィルムを得た。得られたプレスフィルムを露点-40℃以下のドライルーム内で80℃、24時間、真空乾燥することで乾燥フィルムを得た。
【0099】
得られた乾燥フィルムと、電離助剤1および膨潤溶媒1をガラス製容器に入れ、80℃で溶液成分が揮発するまで加熱することでポリマー電解質を得た。なお、電離助剤の含有量は、電離助剤を含有する前の乾燥フィルムと含有後のポリマー電解質の質量を秤量することにより算出し、電離助剤の含有量は表1に記載の量となるように仕込み量によって制御した。得られたポリマー電解質のイオン伝導度を25℃で測定した。測定結果および評価結果を表1に示す。実施例1~5のポリマー電解質は、幅広い電離助剤量において優れたイオン伝導度を示した。また、ナイキストプロットから界面抵抗に由来する円弧は確認されないため、界面抵抗は非常に小さいと考えられる。そして、これらのポリマー電解質は、酸化物系固体電解質のような1000℃近い焼成が必要なく、硫化物系固体電解質のように過酷なドライ環境がなくとも分解や有害物が発生することはなく、生産性に優れたものであった。また、ポリマー電解質における電離助剤の含有量が少ないことから、電離助剤の含浸時間が短く済むため生産性がより向上し、また、膨潤しにくいものであった。比較例1は電離助剤の含有量が多く、イオン伝導度は良好である一方で、膨潤が大きく、また、生産性に劣るものであった。比較例2~8は、膨潤は抑制されているものの、添加している無機粒子が表面上にアルカリ金属のカチオンで置換された極性基を有さないため、イオン伝導度に劣るものであった。
【0100】
(比較例9)
無機粒子の混合を行わないこと以外は実施例1~5のポリマー電解質と同様にして、樹脂組成物1、および電離助剤1を含有するポリマー電解質のフィルムを得て、評価を行った。評価結果を表1に示す。比較例9は無機粒子を有しないため、イオン伝導度に劣るものであった。
【0101】
(比較例10)
電離助剤1の含浸を行わないこと以外は実施例1~5のポリマー電解質と同様にして、樹脂組成物1、および無機粒子7を含有するポリマー電解質のフィルムを得て、評価を行った。評価結果を表1に示す。比較例10は電離助剤を含まないため、イオン伝導度に劣るものであった。
【0102】
【表1】