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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023115558
(43)【公開日】2023-08-21
(54)【発明の名称】感温塗料、及び複合塗料
(51)【国際特許分類】
   G01K 11/20 20060101AFI20230814BHJP
   G01L 1/00 20060101ALI20230814BHJP
   C09D 7/41 20180101ALI20230814BHJP
   C09D 153/00 20060101ALI20230814BHJP
【FI】
G01K11/20
G01L1/00 E
C09D7/41
C09D153/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022017837
(22)【出願日】2022-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】304023994
【氏名又は名称】国立大学法人山梨大学
(71)【出願人】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】小幡 誠
(72)【発明者】
【氏名】中北 和之
(72)【発明者】
【氏名】飯島 由美
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CQ001
4J038JC38
4J038KA06
4J038KA08
4J038KA12
4J038NA01
4J038PB14
(57)【要約】
【課題】感温色素の経時劣化が抑制された感温塗料、及び圧力場と温度場の同時計測を可能とする感圧色素及び感温色素を含む複合塗料の提供。
【解決手段】イオン性の感温色素と、イオン性ブロック及び疎水性ブロックを含むブロックコポリマーと、有機溶剤と、を含む感温塗料を提供する。また、前記感温塗料と、感圧色素と、を含む複合塗料を提供する。
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン性の感温色素と、
イオン性ブロック及び疎水性ブロックを含むブロックコポリマーと、
有機溶剤と、
を含むことを特徴とする感温塗料。
【請求項2】
前記感温色素が、カチオン性の感温色素であり、
前記イオン性ブロックが、アニオン性ブロックである請求項1に記載の感温塗料。
【請求項3】
前記カチオン性の感温色素が、ルテニウム錯体化合物、及びローダミンの少なくともいずれかである請求項2に記載の感温塗料。
【請求項4】
前記アニオン性ブロックが、ポリメタクリル酸であり、
前記疎水性ブロックが、ポリメタクリル酸メチル、及びポリメタクリル酸イソブチルの少なくともいずれかである請求項2から3のいずれかに記載の感温塗料。
【請求項5】
前記ブロックコポリマーにおける、前記イオン性ブロックの繰り返し単位数が20以上30以下であり、前記疎水性ブロックの繰り返し単位数が200以上400以下である請求項1から4のいずれかに記載の感温塗料。
【請求項6】
前記ブロックコポリマーが前記感温色素を内包するミセルを含有し、
前記感温塗料における前記ミセルの動的光散乱測定による平均粒径が、20nm以上100nm以下である請求項1から5のいずれかに記載の感温塗料。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の感温塗料と、
感圧色素と、
を含むことを特徴とする複合塗料。
【請求項8】
前記感圧色素が、ポルフィリン化合物、ポルホラクトン化合物、ピレン、及びペリレンの少なくともいずれかである請求項7に記載の複合塗料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感温塗料、及び複合塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
物体表面の圧力場を計測する方法として、感圧塗料(Pressure-Sensitive Paint:PSP)が知られている。この計測法は、感圧塗料に含まれる感圧色素の酸素消光により求められる酸素濃度と空気圧との比例関係を利用する方法である。
【0003】
しかしながら、感圧色素の発光強度は、圧力のみでなく温度にも依存するため、高精度の圧力場計測には温度補正が必要である。感圧塗料による圧力場計測は、CCDカメラより得られる2次元データであるため、これを最大限に活かすためには温度場計測も2次元データであることが求められる。
温度場を計測する方法として、赤外線カメラの利用が考えられるが、背景温度の映り込みや、光学ガラス材質の制限、マーカー検出の難しさから実用的ではないという問題がある。
【0004】
温度場を計測する他の方法として、感温色素の温度消光を利用する感温塗料(Temperature-Sensitive Paint:TSP)が知られている(例えば、特許文献1~3、及び非特許文献1~2参照)。感圧塗料と感温塗料とを同一面に塗布する方法が、同一表面の2次元データを得る点で望ましい方法ではあるが、色素間の干渉が生じ、特に、感温色素が急激に劣化するという問題がある。
現在は、その折衝案として、流れ場の対称性を利用した塗分け法が主に使われているが、これは厳密には同一面ではなく、例えば、横滑り角をとる形態の計測ができないという問題がある。したがって、依然として感圧塗料と感温塗料とを同一面に塗布する実用的な方法が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-071714号公報
【特許文献2】特開2007-231212号公報
【特許文献3】特開2005-029767号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】満尾 和徳ら、「感圧・感温複合塗料によるPSP温度補正」 可視化情報、Vol37、No.147(2017)
【非特許文献2】Tianshu Liu,John P. Sullivan,Pressure and Temperature Sensitive Paints、 Springer Berlin Heidelberg New York(2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、感温色素の経時劣化が抑制された感温塗料を提供すること、及び圧力場と温度場の同時計測を可能とする感圧色素及び感温色素を含む複合塗料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> イオン性の感温色素と、
イオン性ブロック及び疎水性ブロックを含むブロックコポリマーと、
有機溶剤と、
を含むことを特徴とする感温塗料である。
<2> 前記感温色素が、カチオン性の感温色素であり、
前記イオン性ブロックが、アニオン性ブロックである前記<1>に記載の感温塗料である。
<3> 前記カチオン性の感温色素が、ルテニウム錯体化合物、及びローダミンの少なくともいずれかである前記<2>に記載の感温塗料である。
<4> 前記アニオン性ブロックが、ポリメタクリル酸であり、
前記疎水性ブロックが、ポリメタクリル酸メチル、及びポリメタクリル酸イソブチルの少なくともいずれかである前記<2>から<3>のいずれかに記載の感温塗料である。
<5> 前記ブロックコポリマーにおける、前記イオン性ブロックの繰り返し単位数が20以上30以下であり、前記疎水性ブロックの繰り返し単位数が200以上400以下である前記<1>から<4>のいずれかに記載の感温塗料である。
<6> 前記ブロックコポリマーが前記感温色素を内包するミセルを含有し、
前記感温塗料における前記ミセルの動的光散乱測定による平均粒径が、20nm以上100nm以下である前記<1>から<5>のいずれかに記載の感温塗料である。
<7> 前記<1>から<6>のいずれかに記載の感温塗料と、
感圧色素と、
を含むことを特徴とする複合塗料である。
<8> 前記感圧色素が、ポルフィリン化合物、ポルホラクトン化合物、ピレン、及びペリレンの少なくともいずれかである前記<7>に記載の複合塗料である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、感温色素の経時劣化が抑制された感温塗料を提供すること、及び圧力場と温度場の同時計測を可能とする感圧色素及び感温色素を含む複合塗料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施例1-1~1-4、及び比較例1-1の感温塗料の外観を示す写真である。
図2図2は、実施例1-1~1-4、及び比較例1-2の感温塗料の粒径分布を動的光散乱測定により評価した結果を示すグラフである。
図3図3は、本発明の感温塗料において、ブロックコポリマーが感温色素を封じ込めてミセルを形成する場合を模式的に示す図である。
図4図4は、Ru(phen)の構造及び発光スペクトルを示す図である。
図5図5は、PtTFPPの構造及び発光スペクトルを示す図である。
図6図6は、発光量の経時変化試験に用いた装置の概略図である。
図7図7は、実施例2の感温塗料の蛍光スペクトルの強度の経時変化を示すグラフである。
図8図8は、実施例3の感温塗料の蛍光スペクトルの強度の経時変化を示すグラフである。
図9図9は、実施例4の感温塗料の蛍光スペクトルの強度の経時変化を示すグラフである。
図10図10は、比較例5の感温塗料の蛍光スペクトルの強度の経時変化を示すグラフである。
図11図11は、実施例2の複合塗料の蛍光スペクトルの強度の経時変化を示すグラフである。
図12図12は、実施例3の複合塗料の蛍光スペクトルの強度の経時変化を示すグラフである。
図13図13は、実施例4の複合塗料の蛍光スペクトルの強度の経時変化を示すグラフである。
図14図14は、比較例6の複合塗料の蛍光スペクトルの強度の経時変化を示すグラフである。
図15図15は、圧力特性試験に用いた装置の概略図である。
図16図16は、実施例5の複合塗料を各種素材に塗布した場合の圧力特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(感温塗料)
本発明の感温塗料は、イオン性の感温色素と、イオン性ブロック及び疎水性ブロックを含むブロックコポリマーと、有機溶剤と、を含み、更に必要に応じてその他の成分を含む。
【0012】
感圧塗料による圧力場計測の高精度化には、温度補正が必須である。最も望ましい方法は、感圧塗料と感温塗料を同一面に塗布し、圧力場と温度場を同時に画像データとして取得するものである。
感圧塗料は、その原理上、一重項酸素などの活性酸素を生成する。この活性酸素は、反応性が非常に高く、周囲の色素やポリマーを破壊する。また、感温色素と感圧色素が数nm程度(フェルスター機構の臨界距離)まで接近すると、エネルギー移動など計測には望ましくない相互作用を起こすことがある。以上のような相互作用により、従来技術においては、感温塗料と感圧塗料を混合したときの色素間の干渉が生じ、特に、感温色素が急激に劣化するという問題があることを本発明者らは知見した。
すなわち、(1)感圧塗料が圧力センシングの結果生成する一重項酸素などの活性酸素が感温色素を破壊する、(2)感温色素と感圧色素が接近するとエネルギー移動など望ましくない相互作用が生じる、などの理由により、従来技術の感圧塗料と感温塗料を同一面に塗布する測定方法は、実現困難であるという問題があることを本発明者らは知見した。
【0013】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、本発明者らは、前記目的を解決すべく、鋭意検討した結果、イオン性の感温色素と、イオン性ブロック及び疎水性ブロックを含むブロックコポリマーと、有機溶剤と、を含む本発明の感温塗料が、、感温色素の経時劣化が抑制された感温塗料を提供できること、及びイオン性ブロック及び疎水性ブロックを含むブロックコポリマーがイオン性の感温色素を封じ込めたミセル(以下、「高分子逆ミセル」、「逆ミセル」と称することがある)を形成できることを見出した。また、本発明の感温塗料と感圧色素とを含む本発明の複合塗料が、感圧塗料による前記望ましくない相互作用を低減でき、感圧色素と感温色素を同一溶媒に溶かした複合塗料を実現し、圧力場と温度場の同時計測を可能とすることを見出した。以上により、本発明の完成に至ったものである。
【0014】
<感温色素>
前記感温色素は、温度変化に応じて発光強度が大きく変化する色素を意味する。
本発明においては、前記感温色素は、イオン性の感温色素である。
前記イオン性の感温色素としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができ、カチオン性の感温色素、及びアニオン性の感温色素が挙げられる。これらの中でも、カチオン性の感温色素が好ましい。
これらは、1種単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0015】
<<カチオン性の感温色素>>
前記カチオン性の感温色素としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ルテニウム錯体化合物、ローダミンなどが挙げられる。
これらは、1種単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0016】
前記ルテニウム錯体化合物(以下、「ルテニウム錯体」、「Ru錯体」と称することがある)としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができ、例えば、トリス(1,10-フェナンスロリン)ルテニウム錯体、トリス(2,2’-ビピリジン)ルテニウム錯体、ビス(ターピリジン)ルテニウム錯体などが挙げられる。
これらの中でも、ジクロロトリス(1,10-フェナンスロリン)ルテニウム([Ru(phen)]Cl)、ジクロロトリス(2,2’-ビピリジン)ルテニウム([Ru(bpy)]Cl)、ジクロロビス(ターピリジン)ルテニウム錯体([Ru(trpy)]Cl)が好ましく、ジクロロトリス(1,10-フェナンスロリン)ルテニウム([Ru(phen)]Cl)がより好ましい。
前記ルテニウム錯体化合物の対アニオンとしては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができ、例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、テトラフェニルボレート、ヘキサフルオロフォスファートなどが挙げられる。
【0017】
前記ローダミンとしては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ローダミンB、ローダミン6G、ローダミン6GP、ローダミン3GO、ローダミン123などが挙げられる。これらの中でも、光化学的に安定であり、安価かつ一般的である点で、ローダミンBが好ましい。
【0018】
<<アニオン性の感温色素>>
前記アニオン性の感温色素としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ACID RED 52(食用赤色52)、FOOD RED 106(食用赤色106)などが挙げられる。
これらは、1種単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0019】
前記イオン性の感温色素の含有量としては、特に制限はなく、用いる感温色素に応じて適宜選択することができるがが、前記感温塗料の総量に対して、0.05mM以上20mM以下が好ましく、0.1mM以上10mM以下がより好ましい。なお、単位「M」(モル)は、SI単位表記で[mol/L]である。
【0020】
<ブロックコポリマー>
前記ブロックコポリマーは、イオン性ブロック及び疎水性ブロックを含むブロックコポリマー(「ブロック共重合体」と称することもある。)であり、更に、重合起点部分などのその他の部分を含んでもよい。また、前記ブロックコポリマーは、直鎖状ブロックコポリマーであってもよく、分岐状ブロックコポリマー(デンドリマー)であってもよい。
これらは、1種単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
前記イオン性ブロックとしては、アニオン性ブロック及びカチオン性ブロックが挙げられ、前記感温色素がカチオン性の感温色素である場合には、アニオン性ブロックが好ましく、前記感温色素がアニオン性の感温色素である場合には、カチオン性ブロックが好ましい。
【0021】
<<アニオン性ブロック>>
前記アニオン性ブロックとしては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリメタクリル酸(PMAA)、ポリアクリル酸(PAA)、アニオン性官能基を有するビニル重合体などが挙げられる。
前記アニオン性官能基としては、例えば、カルボキシル基、スルホ基などが挙げられる。
前記カルボキシル基を有するビニル重合体としては、例えば、ポリ(ビニル安息香酸)、スチレン無水マレイン酸交互共重合体などが挙げられる。
前記スルホ基を有するビニル重合体としては、例えば、ポリ(スチレンスルホン酸)(PPS)、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)(PAMPS)などが挙げられる。
これらの中でも、汎用性が高い点で、ポリメタクリル酸(PMAA)、ポリ(ビニル安息香酸)が好ましい。
これらは、1種単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
ここで、例えば、アニオン性ブロックであるポリメタクリル酸(PMAA)の繰り返し単位、乃至アニオン性ブロックを構成するモノマーは、メタクリル酸である。
「繰り返し単位数」とは、前記モノマーの重合度を意味し、例えば、NMR測定などにより同定できる。
【0022】
<<カチオン性ブロック>>
前記カチオン性ブロックとしては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリ(メタクリル酸2-トリメチルアンモニオエチル)等の第3級アンモニウムを有するポリマーなどが挙げられる。
【0023】
<<疎水性ブロック>>
前記疎水性ブロックとしては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリメタクリル酸イソブチル(PIBM)、ポリ(4-tert-ブチルスチレン)、ポリ(メタクリル酸イソブチル-co-メタクリル酸2,2,2-トリフルオロエチル)(FEM)、ポリ(メタクリル酸1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)(PHFIPM)などが挙げられる。
これらの中でも、有効に感温色素を内包してミセルを形成でき、有機溶剤中に分散可能である点で、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸イソブチルが好ましい。
これらは、1種単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0024】
前記ブロックコポリマーとしては、前記アニオン性ブロックが、ポリメタクリル酸であり、前記疎水性ブロックが、ポリメタクリル酸メチル、及びポリメタクリル酸イソブチルの少なくともいずれかであるブロックコポリマーが好ましい。
ポリメタクリル酸メチル(PMMA)は酸素透過性が低く、ミセル内部への酸素の浸透を防ぎ、感温色素の保護に優れている点で有利である。一方、ポリメタクリル酸イソブチル(PIBM)は酸素透過性が高いため塗装膜全体の酸素透過性が高く良好な圧力感度を与える点で有利である。
前記ブロックコポリマーとしては、前記アニオン性ブロック側(ミセル中のコア付近)にポリメタクリル酸メチル(PMMA)を配置し、さらにその外側(ミセル中のシェル部分)にポリメタクリル酸イソブチル(PIBM)を配置した、ブロックコポリマー(PMAA-b-PMMA-b-PIBM)が好ましい。これにより、ミセル内部への酸素の浸透を防ぎ感温色素の保護に優れ、かつ酸素透過性が高いシェル層を有し、良好な圧力感度を与えることができる点で有利である。
【0025】
前記ブロックコポリマーにおける、前記イオン性ブロックの繰り返し単位数としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができるが、15以上45以下が好ましく、20以上30以下がより好ましい。
前記ブロックコポリマーにおける、前記疎水性ブロックの繰り返し単位数としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができるが、100以上500以下が好ましく、200以上400以下がより好ましい。
前記ブロックコポリマーにおける、前記イオン性ブロックの繰り返し単位数が20以上30以下であり、前記疎水性ブロックの繰り返し単位数が200以上400以下であると、有効に感温色素を内包して逆ミセルを形成でき、有機溶剤中に分散である点で、有利である。
【0026】
前記ブロックコポリマーの含有量としては、特に制限はなく、用いるブロックコポリマーに応じて適宜選択することができるが、前記感温塗料の総量に対して、0.04mM以上4mM以下が好ましく、0.1mM以上1mM以下がより好ましい。
前記感温塗料における、前記ブロックコポリマーの分子数(B)に対する前記感温色素の分子数(A)の比(A/B)としては、1/20~1/2が好ましく、1/10~1/5がより好ましい。
【0027】
[ブロックコポリマーの合成方法]
前記ブロックコポリマーの合成方法としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができ、例えば、必要であれば重合起点となる化合物に、イオン性ブロックを構成するモノマーを重合させた後、疎水性ブロックを構成するモノマーを重合させる方法、必要であれば重合起点となる化合物に、疎水性ブロックを構成するモノマーを重合させた後、イオン性ブロックを構成するモノマーを重合させる方法などが挙げられる。
前記イオン性ブロックを構成するモノマーとしては、反応性官能基を有する前駆体モノマーや保護基を有する前駆体モノマーであってもよく、重合後、選択的に反応性官能基にイオン性基を有する低分子を反応させたり、保護基を分解することによりイオン性ブロックを得てもよい。
【0028】
<有機溶剤>
前記有機溶剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、トルエン、メタノール、エタノール、ヘキサン、酢酸エチル、酢酸プロピルなどが挙げられる。
これらは、1種単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0029】
<その他の成分>
前記その他の成分としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ヒンダードアミン系光安定剤(HALS)等の光安定化剤などが挙げられる。
【0030】
[感温塗料の製造方法]
前記感温塗料の製造方法は、前記ブロックコポリマーと前記イオン性の感温色素と前記有機溶剤とを混合する工程を含み、更に必要に応じて、ブロックコポリマーの合成工程などのその他の工程を含む。
前記混合する工程としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができるが、予め前記有機溶剤に溶解した前記ブロックコポリマーと、予め前記有機溶剤に溶解した前記イオン性の感温色素とを混合することが好ましく、例えば、以下の手順により、混合して感温塗料を製造することができる。
所定量のブロックコポリマーをジクロロメタンに溶かし、所定量のトルエンを加えた後、所定濃度の感温色素のメタノール溶液を添加する。この混合物を暗所室温下でゆっくりジクロロメタンを揮発させる。初めに加えたジクロロメタンの揮発を重量測定により確認後、全体積をトルエンで調整して、感温塗料を調製する。
【0031】
[感温塗料の平均粒径]
前記感温塗料は、前記ブロックコポリマーが前記感温色素を内包するミセルを含有することが好ましい。
前記感温塗料における前記ミセルの動的光散乱測定による平均粒径としては、用いる前記ブロックコポリマー及び前記感温色素に応じて適宜選択することができ、一概に規定することはできないが、20nm以上100nm以下が好ましく、20nm以上50nm以下がより好ましく、25nm以上35nm以下が更に好ましい。
前記平均粒径の測定方法としては、例えば、動的光散乱測定装置(装置名:Zetasizer Nano ZSP、Malvern社製)を用い、前記感温塗料における粒度分布を測定することにより求めることができる。
ここで、前記ミセルとして、イオン性の前記感温色素と、反対の電荷を有する前記ブロックコポリマーのイオン性ブロックとが相互作用して、有機溶媒中の疎水性環境において、前記イオン性ブロックが内側、前記疎水性ブロックが外側に位置する、高分子である前記ブロックコポリマーによる逆ミセルが形成されることが推測される(後述する図3参照)。
前記ブロックコポリマーのみの場合に比べ、イオン性の前記感温色素を更に含有する場合には、前記感温塗料における動的光散乱測定による平均粒径が小さくなることが実験的に確認できた。このことは、イオン性の前記感温色素を内包することにより静電相互作用によりブロックコポリマーが密にパッキングしたためであると考えられる。
【0032】
(複合塗料)
本発明の複合塗料は、本発明の感温塗料と、感圧色素とを含み、更に必要に応じてその他の成分を含む。言い換えると、本発明の複合塗料は、感圧色素と、感温色素と、ブロックコポリマーと、有機溶剤と、を含み、更に必要に応じてその他の成分を含む。
前記感温色素、ブロックコポリマー、及び有機溶剤としては、本発明の感温塗料において説明した事項を適宜選択することができる。
【0033】
<感圧色素>
前記感圧色素は、周囲の圧力に応じて発光強度が変化する蛍光色素である。
前記感圧色素としては、ノニオン性の感圧色素が好ましい。
前記感圧色素としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポルフィリン化合物、ポルホラクトン化合物、ピレン、ピレン誘導体、ペリレン、ペリレン誘導体などが挙げられる。これらの中でも、光安定性に優れている点で、ポルフィリン化合物が好ましい。
これらは、1種単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0034】
前記ポルフィリン化合物としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができ、例えば、テトラキスペンタフルオロフェニルポルフィリン白金錯体(PtTFPP)、テトラキスペンタフルオロフェニルポルフィリンパラジウム錯体(PdTFPP)、テトラフェニルポルフィリン白金錯体(PtTPP)、テトラフェニルポルフィリンパラジウム錯体(PdTPP)、オクタエチルポルフィリン白金錯体(PtOEP)などが挙げられる。これらの中でも、テトラキスペンタフルオロフェニルポルフィリン白金錯体(PtTFPP)が好ましい。
前記ポルホラクトン化合物としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができ、例えば、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ポルホラクトン白金錯体などが挙げられる。
その他の感圧色素としては、縮合芳香族炭化水素であるピレン、ピレン誘導体、ペリレン、ペリレン誘導体などが挙げられる。
【0035】
前記感圧色素の含有量としては、特に制限はなく、用いる感圧色素や、感温色素との組み合わせ、圧力温度試験範囲、及び励起波長の諸条件に応じて適宜選択することができるが、前記複合塗料の総量に対して、0.003mM以上1.2mM以下が好ましく、0.006mM以上0.6mM以下がより好ましい。
【0036】
[複合塗料の製造方法]
前記複合塗料の製造方法は、前記感温塗料と前記感圧色素とを混合する工程を含み、更に必要に応じて、その他の工程を含む。
前記混合する工程としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができるが、予め前記有機溶剤に溶解した前記感圧色素を、前記感温塗料に加えて混合することが好ましい。
【実施例0037】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。
【0038】
<ブロックコポリマー1の合成例>
アニオン性ブロック及び疎水性ブロックを含むブロックコポリマー1の合成を、以下に示す可逆的付加開裂型連鎖移動重合(RAFT重合)により行った。
【化1】
【0039】
<<アニオン性ブロック前駆体の合成>>
まず始めに、以下の手順により、メタクリル酸tert-ブチル(BMA)をトリチオカーボネート誘導体に対して重合し、アニオン性ブロックの前駆体であるPBMAを合成した。
【0040】
ポリ(メタクリル酸tert-ブチル)高分子連鎖移動剤(P BMA 24 )の合成
【化2】
【0041】
100mLナスフラスコにトリチオカーボネート誘導体(335mg,0.60mmol)、1,4-ビス(トリメチルシリル)ベンゼン(134mg,0.60mmol)、アゾイソブチロニトリル(20.5mg,0.12mmol)、メタクリル酸tert-ブチル(17.0g,120mmol)と酢酸エチル(18mL)を加えて均一溶液とした。ナスフラスコに撹拌子を入れ、ラバーセプタムで密封し、氷浴中で30分間、窒素をバブリングした。重合前に重合溶液の一部をサンプリングした。60℃のオイルバス中で2.4時間撹拌した。氷水浴で冷却して重合を停止し、重合溶液の一部をサンプリングした。溶液を別の100mLナスフラスコに移し、エバポレーターを用いて溶媒と未反応のモノマーを除去した。得られた残渣からゲル浸透クロマトグラフ装置で目的物を分離し、真空乾燥後に黄色固体(1.68g,収率9.7%)を得た。
核磁気共鳴分光法(NMR)より得られたポリマーの数平均重合度(DP)は24であり、絶対数平均分子量(Mn,NMR)は3,974であった。標準ポリスチレンを用いて較正されたサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)により得られたポリマーの見掛けの数平均分子量(M)は3,890、分散度(M/M)は1.34であった。
【0042】
<<ブロックコポリマー1前駆体の合成>>
次いで、以下の手順により、アニオン性ブロック前駆体に、メタクリル酸メチル(MMA)を重合することによりブロックコポリマーの前駆体であるPBMA-b-PMMAを合成した。
【0043】
ポリ(メタクリル酸tert-ブチル)とポリメタクリル酸メチルのブロックコポリマー(P BMA 24 -b-PMMA 327 )の合成
【化3】
【0044】
試験管にPBMA24(Mn,NMR=3,974;199mg,0.05mmol)、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN、1.64mg、0.01mmol)、メタクリル酸メチル(2.03g,20mmol)とトルエン(2mL)を加えて均一溶液とした。試験管に撹拌子を入れ、ラバーセプタムで密封して-15℃で10分間冷却し、その窒素を15分間バブリングした。この溶液を60℃のオイルバス中で30時間撹拌した。この溶液を氷水浴で冷却して重合を停止した。この溶液を100mLナスフラスコに移し、エバポレーターを用いて溶媒と未反応モノマーを除去して、黄色固体(2.00g,収率90%)を得た。
NMR測定によりPBMAとPMMAの重合度(DP)はそれぞれ24と327であり、絶対数平均分子量(Mn,NMR)は36,713であった。SEC測定により得られたポリマーの見掛けの数平均分子量(M)は26,740、分散度(M/M)は1.14であった。
【0045】
<<ブロックコポリマー1の合成>>
次いで、以下の手順により、ブロックコポリマー前駆体をトリフルオロ酢酸でtert-ブチルエステルを選択的に分解することにより、アニオン性ブロックとしてポリメタクリル酸(PMAA)、及び疎水性ブロックとしてポリメタクリル酸メチル(PMMA)を有するブロックコポリマー1(PMAA-b-PMMA)を合成した。
【0046】
ポリメタクリル酸とポリメタクリル酸メチルのブロックコポリマー(PMAA 24 -b-PMMA 327 )の合成
【化4】
【0047】
試験管にPBMA24-b-PMMA327(1.92g)を入れ、乾燥ジクロロメタン(6mL)を加えて溶かした。この溶液にトリフルオロ酢酸(1.92mL,tert-ブチルエステルに対して20当量)を加え、ラバーセプタムで密封して24時間撹拌した。この溶液を100mLナスフラスコに移し、エバポレーターを用いて溶媒とトリフルオロ酢酸を除去した。さらに残渣に乾燥ジクロロメタンを加えて溶かし、トルエンを加えてエバポレーターで濃縮することを繰り返してトリフルオロ酢酸を除去した。残渣を真空乾燥して黄色固体(1.83g)を得た。
【0048】
<ブロックコポリマー2の合成例>
前記ブロックコポリマー1の合成例において、ポリメタクリル酸の重合度を24から30に変更し、ポリメタクリル酸メチルの重合度を213に変更したこと以外は、同様にして、ポリメタクリル酸とポリメタクリル酸メチルのブロックコポリマー(PMAA30-b-PMMA213)であるブロックコポリマー2を合成した。
【0049】
<ブロックコポリマー3の合成例>
以下の手順により、アニオン性ブロックとしてポリメタクリル酸(PMAA)、及び疎水性ブロックとしてポリメタクリル酸イソブチル(PIBM)を有するブロックコポリマー3(PMAA-b-PIBM)を合成した。
【0050】
<<ブロックコポリマー3前駆体の合成>>
ポリ(メタクリル酸tert-ブチル)とポリメタクリル酸イソブチルのブロックコポリマー(P BMA 29 -b-PIBM 362 )の合成
【化5】
【0051】
試験管にPBMA24(Mn,NMR=3,974;199mg,0.05mmol)、アゾビスイソブチロニトリル(1.64mg、0.01mmol)、メタクリル酸イソブチル(2.85g,20mmol)とトルエン(2.8mL)を加えて均一溶液とした。試験管に撹拌子を入れ、ラバーセプタムで密封して-15℃で10分間冷却し、その窒素を15分間バブリングした。この溶液を60℃のオイルバス中で30時間撹拌した。この溶液を氷水浴で冷却して重合を停止した。この溶液を100mLナスフラスコに移し、エバポレーターを用いて溶媒と未反応モノマーを除去して、黄色固体(2.37g,収率78%)を得た。
NMR測定によりPBMAとPIBMの重合度(DP)はそれぞれ29と362であり、絶対数平均分子量(Mn,NMR)は56,161であった。SEC測定により得られたポリマーの見掛けの数平均分子量(M)は37,500、分散度(M/M)は1.13であった。
【0052】
<<ブロックコポリマー3の合成>>
ポリメタクリル酸とポリメタクリル酸イソブチルのブロックコポリマー(PMAA 29 -b-PIBM 362 )の合成
【化6】
【0053】
試験管にPBMA29-b-PIBM362(2.26g)を入れ、乾燥ジクロロメタン(6mL)を加えて溶かした。この溶液にトリフルオロ酢酸(1.44mL,tert-ブチルエステルに対して20当量)を加え、ラバーセプタムで密封して24時間撹拌した。この溶液を100mLナスフラスコに移し、エバポレーターを用いて溶媒とトリフルオロ酢酸を除去した。さらに残渣に乾燥ジクロロメタンを加えて溶かし、トルエンを加えてエバポレーターで濃縮することを繰り返してトリフルオロ酢酸を除去した。残渣を真空乾燥して黄色固体(2.28g)を得た。
【0054】
<ブロックコポリマー4の合成例>
以下の手順により、アニオン性ブロックとしてポリメタクリル酸(PMAA)、及び疎水性ブロックとしてアニオン性ブロック側に、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、続いてポリメタクリル酸イソブチル(PIBM)を有するブロックコポリマー4(PMAA-b-PMMA-b-PIBM)を合成した。
【0055】
<<ブロックコポリマー4前駆体の合成>>
ポリ(メタクリル酸tert-ブチル)とポリメタクリル酸メチルのジブロックコポリマー(P BMA 26 -b-PMMA 163 )の合成
試験管にPBMA25(Mn,NMR=4,116;206mg,0.05mmol)、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN、1.64mg、0.01mmol)、メタクリル酸メチル(1.01g,10mmol)とトルエン(1mL)を加えて均一溶液とした。試験管に撹拌子を入れ、ラバーセプタムで密封して-15℃で10分間冷却し、その後、窒素ガスを15分間バブリングした。この溶液を60℃のオイルバス中で22時間撹拌した。この溶液を氷水浴で冷却して重合を停止した。この溶液を100mLナスフラスコに移し、エバポレーターを用いて溶媒と未反応モノマーを除去して、黄色固体(1.06g,収率87%)を得た。
NMR測定によりPBMAとPMMAの重合度(DP)はそれぞれ26と163であり、絶対数平均分子量(Mn,NMR)は20,578であった。SEC測定により得られたポリマーの見掛けの数平均分子量(M)は15,300、分散度(M/M)は1.16であった。
【0056】
ポリ(メタクリル酸tert-ブチル)とポリメタクリル酸メチルとポリメタクリル酸イソブチルのトリブロックコポリマー(P BMA 26 -b-PMMA 163 -b-PIBM 503 )の合成
【化7】
試験管にPBMA26-b-PMMA163(Mn,NMR=20,578;513mg,0.025mmol)、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN、0.82mg、0.005mmol)、メタクリル酸イソブチル(1.43g,10mmol)と酢酸エチル(1.5mL)を加えて均一溶液とした。試験管に撹拌子を入れ、ラバーセプタムで密封して-15℃で10分間冷却し、その後、窒素を15分間バブリングした。この溶液を60℃のオイルバス中で30時間撹拌した。この溶液を氷水浴で冷却して重合を停止した。この溶液を100mLナスフラスコに移し、エバポレーターを用いて溶媒と未反応モノマーを除去して、黄色固体(1.59g,収率82%)を得た。
NMR測定によりPBMA、PMMAとPIBMの重合度(DP)はそれぞれ26、163、及び503であり、絶対数平均分子量(Mn,NMR)は92,104であった。SEC測定により得られたポリマーの見掛けの数平均分子量(M)は57,350、分散度(M/M)は1.27であった。
【0057】
<<ブロックコポリマー4の合成>>
ポリメタクリル酸とポリメタクリル酸メチルとポリメタクリル酸イソブチルのトリブロックコポリマー(PMAA 26 -b-PMMA 163 -b-PIBM 503 )の合成
【化8】
試験管にPBMA26-b-PMMA163-b-PIBM503(1.44g)を入れ、乾燥ジクロロメタン(5.5mL)を加えて溶かした。この溶液にトリフルオロ酢酸(1.16mL,tert-ブチルエステルに対して20当量)を加え、ラバーセプタムで密封して24時間撹拌した。この溶液を100mLナスフラスコに移し、エバポレーターを用いて溶媒とトリフルオロ酢酸を除去した。さらに残渣に乾燥ジクロロメタンを加えて溶かし、トルエンを加えてエバポレーターで濃縮することを繰り返してトリフルオロ酢酸を除去した。残渣を真空乾燥して黄色固体(1.48g)を得た。
【0058】
(実施例1-1:感温塗料の製造)
以下の手順により、カチオン性感温色素を内包した高分子逆ミセルを含む感温塗料を作製した。
【0059】
<[Ru(phen)]Cl/メタノール溶液の調製>
カチオン性感温色素としてRu錯体([Ru(phen)]Cl)(商品名:Dichlorotris(1,10-phenanthroline) ruthenium(II) hydrate、SIGMA-ALDRICH社製)を用いた。この錯体の発光成分は、2価のカチオンRu(phen) 2+である。
サンプル瓶に[Ru(phen)]Cl(30mg)を入れ、メタノール(320μL)を加えてRu錯体メタノール溶液の均一溶液とした。
【0060】
<感温塗料の調整>
ブロックコポリマーとして、アニオン性ブロックとしてポリメタクリル酸(PMAA)、及び疎水性ブロックとしてポリメタクリル酸メチル(PMMA)を有するブロックコポリマー2(PMAA30-b-PMMA213)を用いた。
具体的には、重量をはかったサンプル瓶にブロックコポリマー(PMAA-b-PMMA、20mg)を入れ、ジクロロメタン(0.5mL)を加えて完全に溶かした(24時間以上)。この溶液の重量をはかり、加えたジクロロメタンの重量を記録した。この溶液にトルエン(1mL)を加えて良く混合した。この溶液の重量をはかり、加えたトルエンの重量を記録した。この溶液にRu錯体メタノール溶液をRu錯体の最終濃度3.4mMとなるように加え、よく混合した。添加にはマイクロピペットを使い、ピペットの先を溶液内に入れて添加した。このサンプル瓶をアルミホイルで覆い、小さな穴をあけて暗所(ドラフター内遮光)室温で静置してジクロロメタンを揮発させた(約2日以上)。ジクロロメタンの揮発はジクロロメタン重量以上の重量減少をもって確認した。最後に溶液のトルエン量が1mLになるようにトルエンを追加し、よく混合して、実施例1-1の感温塗料を作製した。
【0061】
(実施例1-2~1-4)
実施例1-1において、Ru錯体の最終濃度3.4mMを、2.3mM、1.2mM、及び0.66mMにそれぞれ変更したこと以外は、実施例1-1と同様にして、実施例1-2~1-4の感温塗料を作製した。
【0062】
(比較例1-1)
実施例1-1において、ブロックコポリマーを加えなかったこと以外は、実施例1-1と同様にして、比較例1-1の感温塗料を作製した。
【0063】
(比較例1-2)
実施例1-1において、Ru錯体を加えなかったこと以外は、実施例1-1と同様にして、比較例1-2の感温塗料を作製した。
【0064】
<評価>
<<感温塗料の外観観察>>
図1に、作製した実施例1-1~1-4、及び比較例1-1の感温塗料の外観を示す。
図1のNo.1~4は、それぞれ実施例1-1~1-4であり、No.5はブロックコポリマーを含有しない比較例1-1である。比較例1-1から明らかなように本来、Ru錯体はトルエンには全く溶けない。一方、ブロックコポリマーが存在する実施例1-1~1-4では、溶液が着色していることが分かる。
【0065】
<<ミセルの粒径分布測定>>
作製した実施例1-1~1-4、及び比較例1-2の感温塗料の溶液中に含まれる高分子逆ミセルの粒径分布を動的光散乱測定により評価した結果を図2に示す。
具体的には、動的光散乱測定装置(装置名:Zetasizer Nano ZSP、Malvern社製)を用い、前記感温塗料における粒度分布を測定した。
実施例1-1~1-4におけるRu錯体を内包する高分子逆ミセルの平均粒径Dは、約30nmであった。一方、Ru錯体を加えずに同じブロックコポリマーを調製した比較例2における逆ミセルの平均粒径Dは、約33nmであった。実施例1-1~1-4の前記平均粒径が比較例2よりも小さいことは、カチオン性Ru錯体を内包したことで静電相互作用によりブロックコポリマーが密にパッキングしたためであると考えられる。
この高分子逆ミセルの大きさは、典型的なエネルギー移動の機構であるフェルスター機構の臨界距離(1nm~10nm程度)よりも十分に大きく、この逆ミセルのコア領域にある感温色素は、逆ミセルの外にある感温色素と干渉し得る化合物(例えば、感圧色素)とのエネルギー移動が遮蔽されることが期待できる。
【0066】
図2の結果などから推測されるモデル図を図3に示す。
図3に、本発明の感温塗料及び複合塗料において、ブロックコポリマーが感温色素を封じ込めて高分子逆ミセルを形成する場合を模式的に示す図を示す。
イオン性の感温色素1と反対の電荷を有するブロックコポリマー2のイオン性ブロック3とが相互作用して、有機溶媒中の疎水性環境において、イオン性ブロック3が内側、疎水性ブロック4が外側に位置する、ブロックコポリマー2による高分子逆ミセル(ミセル5)が形成されることが推測される。
更に、疎水性の感圧色素6を含む複合塗料の場合には、ミセル5の外側の有機溶媒中に感圧色素6が存在する。
そのため、感温色素1と感圧色素6との距離がフェルスター機構の臨界距離よりも十分に大きく、感温色素1と感圧色素6間のエネルギー移動などの望ましくない相互作用が遮蔽されるため、感温色素1の劣化が防止されると考えられる。
【0067】
(実施例2)
以下の手順により、感圧色素を含む感温塗料、及び感圧色素及び感温色素を含む複合塗料を作製した。
<感温塗料の作製>
ブロックコポリマーとして、アニオン性ブロックとしてポリメタクリル酸(PMAA)、及び疎水性ブロックとしてポリメタクリル酸メチル(PMMA)を有するブロックコポリマー1(PMAA-b-PMMA)を用いた。
具体的には、重量をはかったサンプル瓶にブロックコポリマー1(PMAA-b-PMMA、80mg)を入れ、ジクロロメタン(2mL)を加えて完全に溶かした(24時間以上)。この溶液の重量をはかり、加えたジクロロメタンの重量を記録した。この溶液にトルエン(4mL)を加えて良く混合した。この溶液の重量をはかり、加えたトルエンの重量を記録した。この溶液にRu錯体メタノール溶液をRu錯体の総量3mg(最終濃度1.04mM)となるように加え、よく混合した。添加にはマイクロピペットを使い、ピペットの先を溶液内に入れて添加した。このサンプル瓶をアルミホイルで覆い、小さな穴をあけて暗所(ドラフター内遮光)室温で静置してジクロロメタンを揮発させた(約2日以上)。ジクロロメタンの揮発はジクロロメタン重量以上の重量減少をもって確認した。最後に溶液のトルエン量が4mLになるようにトルエンを追加し、よく混合して、実施例2の感温塗料を作製した。
【0068】
<複合塗料の作製>
感圧色素として、テトラキスペンタフルオロフェニルポルフィリン白金錯体(PtTFPP:Pt(II)meso-TETRA(PENTAFLUOROPHENYL)PORPHINE、商品名:Pt(II) meso-Tetra(Pentafluorophenyl)Porphine、Frontier Scientific Chemicals Inc.社製)を用いた。
サンプル瓶にPtTFPP(9mg)を入れ、トルエン(960μL)を加えて溶かした。得られたPtTFPPトルエン溶液をPtTFPPの総量0.3mg(最終濃度0.06mM)となるように実施例2の感温塗料(4mL)に加えて混合し、感温色素と感圧色素の2色素が複合した実施例2の複合塗料を作製した。
【0069】
(実施例3)
実施例2において、ブロックコポリマー1をブロックコポリマー3に変更したこと以外は、実施例2と同様にして実施例3の感温塗料、及び複合塗料を作製した。
【0070】
(実施例4)
実施例2において、ブロックコポリマー1をブロックコポリマー4に変更したこと以外は、実施例2と同様にして実施例4の感温塗料、及び複合塗料を作製した。
【0071】
(比較例2~4)
実施例2~4の複合塗料において、感圧色素を添加しなかったこと以外は、実施例2~3と同様にして、比較例2~4の複合塗料を作製した。
なお、比較例2~4の複合塗料は、実施例2~4の感温塗料に相当する。
【0072】
(比較例5)
実施例2の感温塗料、及び複合塗料において、ブロックコポリマー1を従来の感温塗料のポリマーとして用いられ、下記構造を有するポリメタクリル酸イソブチル(PIBM、Poly(isobutyl methacrylate))に変更し、複合塗料については、感圧色素を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして比較例5の感温塗料、及び複合塗料を作製した。
【化9】
【0073】
(比較例6)
実施例2の複合塗料において、ブロックコポリマー1をポリメタクリル酸イソブチル(PIBM、Poly(isobutyl methacrylate))に変更したこと以外は、実施例1と同様にして比較例6の複合塗料を作製した。
【0074】
【表1】
【0075】
<評価>
<<感温塗料、及び複合塗料の発光量の経時変化試験>>
サンプルに塗布された感温塗料、及び複合塗料の蛍光スペクトルの強度の経時変化を計測することにより経時変化試験を行った。
-サンプルの作製-
実施例2の複合塗料を小片の金属板(アルミニウム板 A5052、サイズ:25mm×25mm、厚み:1mm)にエアブラシ(ARTGUN AG-885、オリンポス社製)を用いて塗布して試験用のサンプルを作製した。
【0076】
図4に、Ru(phen)の構造と発光スペクトルを示し、図5に、PtTFPPの構造と発光スペクトルを示す。
図4~5から分かるように、感温色素及び感圧色素の発光スペクトルのピークが互いに異なる組み合わせとすることにより、同一の蛍光スペクトル強度の測定において同時に感温色素及び感圧色素の蛍光スペクトル強度を測定することができる。
【0077】
図6に、発光量の経時変化試験に用いた装置100の概略図を示す。
蛍光スペクトルの計測に用いた分光器11として、Ocean Optics社のファイバマルチチャネル分光器USB4000を用い、制御コンピューター12に接続して解析を行った。励起光源13には、浜松ホトニクス社のキセノンランプLC8を用いた。励起光源13から光ファイバー13aで接続された照射器14と、分光器11に接続した光ファイバー11aとを上部に設置した。分光器11の光学ファイバー11aの先端の光学フィルター11bとして550nmのロングパスフィルターを取付けた。照射器14の光学フィルター14bとして400nm-550nmバンドパスフィルターを取付けた。サンプル15を真空チャンバー16内に設置し、暗室17内での遮光環境下、温度は24℃に固定し、圧力は大気圧で測定した。
【0078】
蛍光スペクトルの強度の経時変化の計測は、塗布後に速やかに計測し、以降は基本的に24時間後おきに1週間程度まで毎日、以降5日毎又は7日毎に約1か月間追跡した。なお、照明や日光での光によるサンプルの劣化の影響を避けるため、暗室内に保管して遮光したサンプルを試験した。
【0079】
<<感温塗料の発光量の経時変化>>
結果を、図7~10に示す。
図7に、実施例2の感温塗料の蛍光スペクトルの強度の経時変化を示し、図8に、実施例3の感温塗料の蛍光スペクトルの強度の経時変化を示し、図9に、実施例4の感温塗料の蛍光スペクトルの強度の経時変化を示し、図10に、比較例5の感温塗料の蛍光スペクトルの強度の経時変化を示す。
図7~10中、左側のグラフは、発光波長(nm、横軸)及び蛍光スペクトルの相対的な強度(縦軸)の関係を示すグラフである。右側のグラフは、感温色素(TSP)の発光(波長580±10nm)における感温塗料塗布後の経過日数(日、横軸)、及び塗布直後の発光強度を100%とした場合の強度(%、縦軸)の関係を示すグラフである。
【0080】
その結果、比較用の従来のバインダーであるPIBMを用いた比較例5の感温塗料では、感温色素が経時的に発光劣化しており、具体的には、1日で約30%減少し、最終的に約70%まで劣化しているのに対し、ブロックコポリマー1(PMAA-b-PMMA)を用いた実施例2の感温塗料、及びブロックコポリマー3(PMAA-b-PIBM)を用いた実施例3の感温塗料では、感温色素である[Ru(phen)]Clの経時的な劣化が30%前後の劣化に大幅に抑制されることが分かった。
また、3種類のブロックを有するブロックコポリマー4(PMAA-b-PMMA-b-PIBM)を用いた実施例4の感温塗料では、感温色素の経時的な劣化がより一層抑制されることが分かった。
【0081】
<<複合塗料の発光量の経時変化>>
結果を、図11~15に示す。
図11に、実施例2の複合塗料の蛍光スペクトルの強度の経時変化を示し、図12に、実施例3の複合塗料の蛍光スペクトルの強度の経時変化を示し、図13に、実施例4の複合塗料の蛍光スペクトルの強度の経時変化を示し、図14に、比較例6の複合塗料の蛍光スペクトルの強度の経時変化を示す。
図11~14中、左側のグラフは、発光波長(nm、横軸)及び蛍光スペクトルの相対的な強度(縦軸)の関係を示すグラフである。右側のグラフは、感温色素(TSP)の発光(波長580±10nm)及び感圧色素(PSP)の発光(波長650±10nm)における複合塗料塗布後の経過日数(日、横軸)、及び塗布直後の発光強度を100%とした場合の強度(%、縦軸)の関係を示すグラフである。
【0082】
その結果、比較用の従来のバインダーであるPIBMを用いた従来型2色素混合PSP/TSP複合塗料である比較例6の複合塗料では、感温色素が経時的に発光劣化しており、具体的には、1日で約60%減少し、最終的に約70%まで劣化しているのに対し、ブロックコポリマー(PMAA-b-PMMA)を用いた実施例2の複合塗料、及びブロックコポリマー(PMAA-b-PIBM)を用いた実施例3の複合塗料では、感温色素である[Ru(phen)]Clの経時的な劣化が30%前後の劣化に大幅に抑制されることが分かった。
また、3種類のブロックを有するブロックコポリマー3(PMAA-b-PMMA-b-PIBM)を用いた実施例4の複合塗料では、感温色素の経時的な劣化がより一層抑制されることが分かった。
なお、従来型2色素混合PSP/TSP複合塗料である比較例6では、感温色素の発光の経時変化が大きく、かつ発光強度が大幅に低下しているため、圧力場計測の温度補正を行うことができない。
【0083】
(実施例5)
以下の手順により、感圧色素及び感温色素を含む複合塗料を作製した。
<感温塗料の作製>
ブロックコポリマーとして、アニオン性ブロックとしてポリメタクリル酸(PMAA)、及び疎水性ブロックとしてポリメタクリル酸イソブチル(PIBM)を有するブロックコポリマー3(PMAA-b-PIBM)を用いた。
具体的には、重量をはかったサンプル瓶にブロックコポリマー3(PMAA-b-PIBM、80mg)を入れ、ジクロロメタン(2mL)を加えて完全に溶かした(24時間以上)。この溶液の重量をはかり、加えたジクロロメタンの重量を記録した。この溶液にトルエン(4mL)を加えて良く混合した。この溶液の重量をはかり、加えたトルエンの重量を記録した。この溶液にRu錯体メタノール溶液をRu錯体の総量1.5mg(最終濃度0.52mM)となるように加え、よく混合した。添加にはマイクロピペットを使い、ピペットの先を溶液内に入れて添加した。
このサンプル瓶をアルミホイルで覆い、小さな穴をあけて暗所(ドラフター内遮光)室温で静置してジクロロメタンを揮発させた(約2日以上)。ジクロロメタンの揮発はジクロロメタン重量以上の重量減少をもって確認した。
最後に溶液のトルエン量が4mLになるようにトルエンを追加し、よく混合して、実施例5の感温塗料を作製した。
【0084】
<複合塗料の作製>
感圧色素として、テトラキスペンタフルオロフェニルポルフィリン白金錯体(PtTFPP:Pt(II)meso-TETR(PENTAFLUOROPHENYL)PORPHINE、商品名:Pt(II) meso-Tetra(Pentafluorophenyl)Porphine、Frontier Scientific Chemicals Inc.社製)を用いた。
前記PtTFPPトルエン溶液をPtTFPPの総量0.15mg(最終濃度0.03mM)となるように実施例5の感温塗料(4mL)に加えて混合し、感温色素と感圧色素の2色素が複合した実施例5の複合塗料を作製した。
【0085】
<評価>
<<複合塗料の圧力温度特性試験>>
以下の手順により、各種素材上に複合塗料を塗布したサンプルを作製し、複合塗料の圧力特性を評価した。
なお、素材が白色の場合は、白色塗料の塗装の必要はないのでそのまま表面に複合塗料を塗装できる。白色ではない場合は、複合塗料の発光強度を増加させるため白色塗料を塗装することが望ましい。複合塗料が塗装できない素材でも白色塗料が塗装できればその上に複合塗料が塗装できる。
【0086】
-サンプルの作製-
素材として、アルミニウム板(A5052、サイズ:25mm×25mm)、ステンレス板(SUS304、サイズ:25mm×25mm)、デカールシート(商品名:VS7706、3M社製)、セラミック板(材質:マコール)、ゴムシート(材質:ネオプレン)、プラスチックシート(材質:アクリル)(いずれもサイズ:35mm×35mm)を用いた。
各素材の表面上にウレタン系の白色の航空機用塗料(スカイハロー#400、日本特殊塗料株式会社製)を塗装して、サンプルを作製した。いずれの素材にも白色塗料を塗装できることが確認できた。
白色の航空機用塗料を塗装した上に、複合塗料と同じポリマーから作製した下記中間層用塗料を塗装して中間層を形成した。中間層は、複合塗料と白色塗料が干渉すると特性が悪化するためそれを防止するのが目的である。中間層を十分に乾燥させてから、その上に複合塗料を塗装した。
また、アルミニウム板(A5052)及びステンレス板(SUS304)については、複合塗料を直接表面に塗装したサンプルも作製し評価を行った。
何れの乾燥工程でも、室温(24℃)での3日間以上の自然乾燥を行った。
【0087】
-中間層用塗料-
サンプル瓶にブロックコポリマー3(PMAA-b-PIBM、80mg)を入れ、ジクロロメタン(2mL)を加えて完全に溶かした(24時間以上)。この溶液にトルエン(4mL)を加えて良く混合し、このサンプル瓶をアルミホイルで覆い、小さな穴をあけて暗所(ドラフター内遮光)室温で静置してジクロロメタンを揮発させた(約2日以上)。ジクロロメタンの揮発はジクロロメタン重量以上の重量減少をもって確認した。以上の手順により、中間層用塗料を作製した。
【0088】
-圧力温度特性の測定-
圧力温度特性は、図15に示す感圧塗料自動較正装置200を用いて測定した。
この装置200には、CCDカメラ18として浜松ホトニクス社のC4880が設置され、励起光源13として浜松ホトニクス社の高安定キセノンアークランプ L2480-06が設置されている。サンプルの励起及び発光に合わせて、CCDカメラ18のレンズと励起光の照射器14に光学フィルター(18b及び14b)を設置することで各種のサンプル試験が可能である。今回の試験では、CCDカメラのレンズの光学フィルター18bとして590nm-710nmのバンドパスフィルター+IRカットフィルタを取付けた。励起光の照射器14の光学フィルター14bとして400nm-550nmバンドパスフィルターを取付けた。
サンプル15を真空チャンバー16の中に設置し、暗室17内での遮光環境下、上方からCCDカメラ18で計測した。サンプル15の圧力は、圧力コントローラ19で制御され、温度はチャンバー内に内蔵されたペルチェ素子20及び温度コントローラ21で制御される。試験可能な圧力は、真空~1,000kPa、温度は、-40℃~60℃である。これらの機能は全て自動で制御される。
なお、図15中、図6と共通する構成については同じ符号を付した。
【0089】
圧力特性試験は、温度20℃一定で、圧力を100kPa、80kPa、60kPa、40kPa、20kPa、10kPa、及び5kPaに可変させて測定した。
塗布の均一性については、各種サンプルについて4点のエリアの圧力感度を比較し、圧力特性にばらつきがないか確認した。
【0090】
図16に、圧力特性試験の結果を示す。
図16は、白色塗料及び中間層用塗料を塗布した各素材、及び何も塗布していないアルミニウム板及びステンレス板に、実施例5の複合塗料を塗布した場合の圧力特性を示す。
図16中、縦軸Iref/Iは、参照とした発光強度(Iref)に対する測定した発光強度(I、Intensity)の比を示し、横軸P/Prefは、参照とした圧力100kPa(Pref)に対する測定した圧力(P)の比を示す。
また、図16中、「白塗」は、白色塗料及び中間層用塗料を塗布した各素材をそれぞれ示す。
【0091】
その結果、白色塗料及び中間層用塗料を塗布せず複合塗料単独を塗布した場合に比べて、白色塗料及び中間層用塗料を塗布した場合、圧力特性の低下が見られたものの、評価した全ての素材に対して圧力感度があることが確認された。
したがって、本発明の複合塗料は、評価した各種素材に対して、均一に塗布することができ、圧力特性を示すことが分かった。
【符号の説明】
【0092】
1 感温色素
2 ブロックコポリマー
3 イオン性ブロック
4 疎水性ブロック
5 ミセル
6 感圧色素
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16