(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023115583
(43)【公開日】2023-08-21
(54)【発明の名称】沸騰水型原子炉、及び燃料集合体
(51)【国際特許分類】
G21C 1/08 20060101AFI20230814BHJP
G21C 3/62 20060101ALI20230814BHJP
G21C 3/30 20060101ALI20230814BHJP
G21C 3/322 20060101ALI20230814BHJP
【FI】
G21C1/08
G21C3/62 700
G21C3/30 100
G21C3/322
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022017882
(22)【出願日】2022-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】三輪 順一
(72)【発明者】
【氏名】日野 哲士
(57)【要約】
【課題】プルトニウムの含有率を増やしつつ、ボイド係数を負にすることができる燃料集合体と、この燃料集合体を装荷した沸騰水型原子炉を提供する。
【解決手段】本発明による沸騰水型原子炉は、原子炉圧力容器2と、原子炉圧力容器2の内部の炉心5に装荷された複数の燃料集合体3を備える。燃料集合体3は、複数の燃料棒23と、燃料棒23の周囲を取り囲むチャンネルボックス21とを備え、チャンネルボックス21の外部と内部に冷却水が流れる。炉心5が定格出力で運転されているときには、チャンネルボックス21の外部では、冷却水が非沸騰状態であり、燃料棒23が放出する中性子に対する減速効果が大きく、チャンネルボックス21の内部では、冷却水が沸騰状態であり、燃料棒23が放出する中性子に対する減速効果が小さい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉圧力容器と、
前記原子炉圧力容器の内部の炉心に装荷された複数の燃料集合体と、
を備え、
前記燃料集合体は、複数の燃料棒と、前記燃料棒の周囲を取り囲むチャンネルボックスとを備え、前記チャンネルボックスの外部と内部に冷却水が流れ、
前記炉心が定格出力で運転されているときには、
前記チャンネルボックスの外部では、前記冷却水が非沸騰状態であり、前記燃料棒が放出する中性子に対する減速効果が大きく、
前記チャンネルボックスの内部では、前記冷却水が沸騰状態であり、前記燃料棒が放出する中性子に対する減速効果が小さい、
ことを特徴とする沸騰水型原子炉。
【請求項2】
前記燃料棒のうち前記燃料集合体の最外層に位置する前記燃料棒が最外層燃料棒であり、
前記最外層燃料棒は、前記チャンネルボックスの外部の前記冷却水に、前記チャンネルボックスを挟んで隣接し、
前記炉心が定格出力で運転されているときには、
前記最外層燃料棒は、非沸騰状態である前記チャンネルボックスの外部の前記冷却水により、放出する中性子に対する減速効果が大きく、
前記燃料集合体の前記最外層燃料棒以外の前記燃料棒は、沸騰状態である前記チャンネルボックスの内部の前記冷却水により、放出する中性子に対する減速効果が小さい、
請求項1に記載の沸騰水型原子炉。
【請求項3】
複数の制御棒を備え、
前記燃料集合体の横断面において、隣り合う4本の前記制御棒の中心点を頂点とする正方形の領域を4つに等分割した領域を燃料集合体格子とし、
前記燃料集合体格子における前記チャンネルボックスの外部の前記冷却水の流路の、前記横断面における面積を、前記チャンネルボックスの外部流路面積とし、
前記燃料集合体格子における前記チャンネルボックスの内部の前記冷却水の流路の、前記横断面における面積を、前記チャンネルボックスの内部流路面積とし、
前記炉心が定格出力で運転されているときには、
前記燃料集合体格子の内部で前記チャンネルボックスの外部では、前記冷却水が非沸騰状態であり、
前記チャンネルボックスの内部では、前記冷却水が沸騰状態であり、
前記チャンネルボックスの前記外部流路面積に対する前記チャンネルボックスの前記内部流路面積の比は、ボイド係数が負となるような予め定めた値以下である、
請求項1または請求項2に記載の沸騰水型原子炉。
【請求項4】
前記燃料集合体は、平均のプルトニウム含有率が15重量%以下である、
請求項3に記載の沸騰水型原子炉。
【請求項5】
前記炉心が定格出力で運転されているときに、前記燃料棒の核燃料物質の充填領域の軸方向の中央部での横断面において、前記チャンネルボックスの内部の前記冷却水は、沸騰状態である、
請求項3に記載の沸騰水型原子炉。
【請求項6】
前記チャンネルボックスは、横断面が正方形である、
請求項3に記載の沸騰水型原子炉。
【請求項7】
複数の燃料棒と、
前記燃料棒の周囲を取り囲むチャンネルボックスと、
を備え、
沸騰水型原子炉の原子炉圧力容器の内部の炉心に装荷可能であり、
前記炉心に装荷されて前記炉心が定格出力で運転されているときには、
前記チャンネルボックスの外部と内部に冷却水が流れ、
前記チャンネルボックスの外部では、前記冷却水が非沸騰状態であり、前記燃料棒が放出する中性子に対する減速効果が大きく、
前記チャンネルボックスの内部では、前記冷却水が沸騰状態であり、前記燃料棒が放出する中性子に対する減速効果が小さい、
ことを特徴とする燃料集合体。
【請求項8】
前記燃料棒のうち前記燃料集合体の最外層に位置する前記燃料棒が最外層燃料棒であり、
前記最外層燃料棒は、前記チャンネルボックスの外部の前記冷却水に、前記チャンネルボックスを挟んで隣接し、
前記炉心が定格出力で運転されているときには、
前記最外層燃料棒は、非沸騰状態である前記チャンネルボックスの外部の前記冷却水により、放出する中性子に対する減速効果が大きく、
前記燃料集合体の前記最外層燃料棒以外の前記燃料棒は、沸騰状態である前記チャンネルボックスの内部の前記冷却水により、放出する中性子に対する減速効果が小さい、
請求項7に記載の燃料集合体。
【請求項9】
4本の制御棒で囲まれた領域に配置され、
前記燃料集合体の横断面において、隣り合う4本の前記制御棒の中心点を頂点とする正方形の領域を4つに等分割した領域を燃料集合体格子とし、
前記燃料集合体格子における前記チャンネルボックスの外部の前記冷却水の流路の、前記横断面における面積を、前記チャンネルボックスの外部流路面積とし、
前記燃料集合体格子における前記チャンネルボックスの内部の前記冷却水の流路の、前記横断面における面積を、前記チャンネルボックスの内部流路面積とし、
前記炉心が定格出力で運転されているときには、
前記燃料集合体格子の内部で前記チャンネルボックスの外部では、前記冷却水が非沸騰状態であり、
前記チャンネルボックスの内部では、前記冷却水が沸騰状態であり、
前記チャンネルボックスの前記外部流路面積に対する前記チャンネルボックスの前記内部流路面積の比は、ボイド係数が負となるような予め定めた値以下である、
請求項7または請求項8に記載の燃料集合体。
【請求項10】
平均のプルトニウム含有率が15重量%以下である、
請求項9に記載の燃料集合体。
【請求項11】
前記炉心が定格出力で運転されているときに、前記燃料棒の核燃料物質の充填領域の軸方向の中央部での横断面において、前記チャンネルボックスの内部の前記冷却水は、沸騰状態である、
請求項9に記載の燃料集合体。
【請求項12】
前記チャンネルボックスは、横断面が正方形である、
請求項9に記載の燃料集合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、沸騰水型原子炉と、沸騰水型原子炉に装荷される燃料集合体に関する。
【背景技術】
【0002】
使用済み燃料の再処理で発生したプルトニウムは、ウランと混合された燃料(以下、「混合酸化物燃料」と称する)として原子炉に装荷される。より多くのプルトニウムを利用するためには、燃料中のウラン重量とプルトニウム重量の合計に対するプルトニウム重量の割合(以下、「プルトニウム含有率」と称する)を増やす必要がある。
【0003】
燃料のプルトニウム含有率を増やすと、プルトニウム中の核分裂性プルトニウムの割合が増加し、核分裂反応が増大して原子炉の臨界を維持できなくなる。燃料のプルトニウム含有率を増やしても、中性子エネルギーを高めることで核分裂を減らすことができ、臨界を維持することができる。沸騰水型原子炉においては、複数の燃料棒を燃料集合体のチャンネルボックス内に稠密に配置すると共に、運転中にチャンネルボックス内でボイドを発生させることによって中性子エネルギーを高めた沸騰水型原子炉(以下、「低減速スペクトル沸騰水型原子炉」と称する)が、提案されている。低減速スペクトル沸騰水型原子炉の例は、特許文献1と特許文献2に記載されている。
【0004】
従来の低減速スペクトル沸騰水型原子炉では、減速材である冷却水を減らして中性子エネルギーを高めることで核分裂を減らし、臨界を維持することができる。しかし、中性子エネルギーを高めると、沸騰状態である冷却水の気泡体積割合(以下、「ボイド率」と称する)が増えたときの反応度の変化率(以下、「ボイド係数」と称する)が正となり、原子炉の安全性が確保できなくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11-94972号公報
【特許文献2】特開2000-19280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
低減速スペクトル沸騰水型原子炉においてボイド係数を負とするための構成は、例えば特許文献2に記載されている。特許文献2に記載された技術では、燃料長さが通常燃料集合体の燃料長さの50%以下である短尺燃料集合体と通常燃料集合体の二種類の燃料を炉心に装荷する構成により、ボイド率の増加時に、燃料棒がない短尺燃料の上部で中性子の漏洩量が増加することを利用してボイド係数を負にする。しかし、特許文献2の技術では、燃料有効長が通常燃料集合体の燃料長さの半分以下である短尺燃料集合体を用いているので、プルトニウムの利用量を増やすことができない。
【0007】
このように、従来の技術では、より多くのプルトニウムを利用するために混合酸化物燃料のプルトニウム含有率を増やすことと、ボイド係数を負にすることの両立が困難であるという課題がある。
【0008】
本発明の目的は、プルトニウムの含有率を増やしつつ、ボイド係数を負にすることができる燃料集合体と、この燃料集合体を装荷した沸騰水型原子炉を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による沸騰水型原子炉は、原子炉圧力容器と、前記原子炉圧力容器の内部の炉心に装荷された複数の燃料集合体とを備える。前記燃料集合体は、複数の燃料棒と、前記燃料棒の周囲を取り囲むチャンネルボックスとを備え、前記チャンネルボックスの外部と内部に冷却水が流れる。前記炉心が定格出力で運転されているときには、前記チャンネルボックスの外部では、前記冷却水が非沸騰状態であり、前記燃料棒が放出する中性子に対する減速効果が大きく、前記チャンネルボックスの内部では、前記冷却水が沸騰状態であり、前記燃料棒が放出する中性子に対する減速効果が小さい。
【0010】
本発明による燃料集合体は、複数の燃料棒と、前記燃料棒の周囲を取り囲むチャンネルボックスとを備え、沸騰水型原子炉の原子炉圧力容器の内部の炉心に装荷可能である。前記炉心に装荷されて前記炉心が定格出力で運転されているときには、前記チャンネルボックスの外部と内部に冷却水が流れ、前記チャンネルボックスの外部では、前記冷却水が非沸騰状態であり、前記燃料棒が放出する中性子に対する減速効果が大きく、前記チャンネルボックスの内部では、前記冷却水が沸騰状態であり、前記燃料棒が放出する中性子に対する減速効果が小さい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、プルトニウムの含有率を増やしつつ、ボイド係数を負にすることができる燃料集合体と、この燃料集合体を装荷した沸騰水型原子炉を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施例1による燃料集合体の横断面を示す図であり、
図3の矢印A-Aに沿って見た横断面図である。
【
図2】実施例1による沸騰水型原子炉の構成を示す概略図である。
【
図3】炉心の縦断面図であり、実施例1による燃料集合体を示す図である。
【
図4】4体の燃料集合体の横断面を示す図であり、
図3の矢印B-Bに沿って見た横断面図である。
【
図5】燃料集合体において、チャンネルボックス内外流路面積比に対するボイド係数の変化の例を示す図である。
【
図6】本発明の実施例2による燃料集合体の横断面を示す図である。
【
図7】本発明の実施例3による燃料集合体の横断面を示す図である。
【
図8】本発明の実施例4による燃料集合体の横断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明による燃料集合体は、プルトニウムとウランとが混合された混合酸化物燃料を有する。本発明による沸騰水型原子炉は、この燃料集合体を装荷することができる。
【0014】
本発明による燃料集合体は、プルトニウムの含有率が多くても、チャンネルボックスの内部では、冷却水を沸騰状態として水の密度を減らすとともに冷却水の流路面積を減らし、チャンネルボックスの外部では、冷却水を非沸騰状態として水の密度を増やすとともに冷却水の流路面積を増やすことで(すなわち、後述するチャンネルボックス内外流路面積比を小さくすることで)、チャンネルボックスの内部では中性子の減速の程度を低くし、チャンネルボックスの外部では中性子の減速の程度を高くして(すなわち、中性子を、チャンネルボックスの内部では低減速状態とし、チャンネルボックスの外部では高減速状態として)、ボイド係数を負にすることができる。
【0015】
従来の熱中性子炉では、チャンネルボックスの内部と外部で中性子を高減速状態として効率よく核分裂を起こしているので、燃料のプルトニウム含有率が増えると原子炉の臨界を維持できなくなる。また、従来の低減速スペクトル沸騰水型原子炉では、チャンネルボックスの内部と外部で減速材である冷却水を減らして中性子を低減速状態としているので、臨界を維持することができるが、ボイド係数が正となる。
【0016】
本発明による燃料集合体は、上記の構成を備え、プルトニウムの含有率を増やしつつ、ボイド係数を負にすることができる
以下、本発明の実施例による沸騰水型原子炉と燃料集合体を、図面を用いて説明する。なお、本明細書で用いる図面において、同一のまたは対応する構成要素には同一の符号を付け、これらの構成要素については繰り返しの説明を省略する場合がある。
【実施例0017】
図2は、本発明の実施例1による沸騰水型原子炉の構成を示す概略図である。本実施例による沸騰水型原子炉1は、原子炉圧力容器2、本実施例による燃料集合体3、炉心シュラウド4、炉心5、炉心支持板6、上部格子板7、複数の制御棒12、及び複数のインターナルポンプ13を備える。沸騰水型原子炉1は、炉心5への冷却水の供給を原子炉圧力容器2の底部である下鏡2Aに設けられたインターナルポンプ13で行う改良型沸騰水型原子炉(Advanced Boiling Water Reactor、以下「ABWR」と称する)である。
【0018】
原子炉圧力容器2は、炉心5と、炉心5を取り囲む炉心シュラウド4を内部に備える。炉心5は、本実施例による燃料集合体3を複数体、装荷可能である。炉心5の下部に配置された炉心支持板6と炉心5の上部に配置された上部格子板7は、炉心シュラウド4の内面に取り付けられている。炉心シュラウド4の上端部には、炉心5を覆うシュラウドヘッド8が取り付けられている。原子炉圧力容器2の内部では、複数の気水分離器9がシュラウドヘッド8に取り付けられ、上方に向かって伸びている。気水分離器9の上方には、蒸気乾燥器10が、原子炉圧力容器2の内面に取り付けられて配置されている。
【0019】
炉心シュラウド4の内面と原子炉圧力容器2の内面との間には、炉心シュラウド4を取り囲む環状のダウンカマ14が形成されている。複数のインターナルポンプ13は、ダウンカマ14の位置で、原子炉圧力容器2の下鏡2Aに取り付けられている。各インターナルポンプ13のインペラ13Aは、ダウンカマ14の内部に配置されている。
【0020】
原子炉圧力容器2には、インターナルポンプ13よりも内側に、複数の制御棒駆動機構ハウジング16が取り付けられている。各制御棒駆動機構ハウジング16は、下鏡2Aを貫通し、下鏡2Aよりも下方に向かって伸びている。各制御棒駆動機構ハウジング16の内部には、制御棒駆動機構(図示せず)が設置されている。
【0021】
原子炉圧力容器2の内部で炉心5よりも下方には、複数の制御棒案内管15が配置されている。制御棒案内管15は、それぞれが制御棒駆動機構ハウジング16の上端に設置され、上方に向かって伸びている。制御棒案内管15の上端は、炉心支持板6に設置された燃料支持金具11の下端部の位置まで達している。制御棒12は、制御棒案内管15の内部に配置され、制御棒駆動機構ハウジング16の内部の制御棒駆動機構に連結され、制御棒駆動機構によって上下に移動する。
【0022】
原子炉圧力容器2の内部には、中性子検出器を収納した中性子計装管17が設置されている。
【0023】
図3は、炉心5の縦断面図であり、本実施例による燃料集合体3を示す図である。燃料集合体3は、チャンネルボックス21、複数の燃料棒23、下部タイプレート22、上部タイプレート24、及び複数の燃料スペーサ25を備え、炉心5に配置可能である。
【0024】
各燃料棒23は、下端部が下部タイプレート22に支持され、上端部が上部タイプレート24に支持されている。
【0025】
燃料スペーサ25は、燃料集合体3の軸方向(長さ方向)の複数箇所に配置されており、燃料棒23の相互間に所定の幅の間隔が形成されるように複数の燃料棒23を囲んで束ねる。燃料棒23の相互間に形成された間隙は、冷却水の流路となる。
【0026】
チャンネルボックス21は、横断面が四角形状(例えば、正方形状)の筒状体であり、燃料スペーサ25によって束ねられた燃料棒23の束の周囲を取り囲んでいる。チャンネルボックス21の上端部は、チャンネルファスナ(図示せず)によって上部タイプレート24に取り付けられている。チャンネルボックス21の外部と内部には、冷却水が流れる。なお、チャンネルボックス21の横断面は、任意の形状とすることができ、例えば、正方形や六角形でもよい。チャンネルボックス21の横断面が正方形であると、本実施例による燃料集合体3を現行の沸騰水型原子炉1に容易に適用できるので好ましい。
【0027】
チャンネルボックス21の外側の領域、すなわち隣り合うチャンネルボックス21の間の領域は、飽和水が存在する領域であり、ギャップ水領域42と呼ぶ。
【0028】
次に、本実施例による燃料集合体3について説明する。本実施例による燃料集合体3は、炉心5に装荷される。
【0029】
図1は、本実施例による燃料集合体3の横断面(水平断面)を示す図であり、
図3の矢印A-Aに沿って見た横断面図である。
【0030】
燃料集合体3は、横断面が正方形のチャンネルボックス21の内部に、165本の燃料棒23が稠密に配置されて構成されている。本実施例では、燃料棒23は、外径が8.0mmであり、互いの間隙が2.0mmである。チャンネルボックス21は、内幅が134.1mmであり、肉厚が2.5mmである。チャンネルボックス21の内部の角部には、ジルカロイ-2で構成されたタイロッド30が配置されている。
【0031】
燃料集合体3は、燃料棒23のうち燃料集合体3の最外層(燃料集合体の横断面内において最外部)に位置する燃料棒23として、最外層燃料棒23aを備える。最外層燃料棒23aは、燃料集合体3の最外層に位置するので、チャンネルボックス21の外部の冷却水に、チャンネルボックス21を挟んで隣接する。
【0032】
なお、燃料棒23とタイロッド30は、
図3に示したように、上下の両端部が上部タイプレート24と下部タイプレート22によって保持されており、軸方向(長さ方向)の複数の箇所が燃料スペーサ25によって保持されている。燃料スペーサ25は、軸方向に一定の間隔で配置されている。
【0033】
上述したように、チャンネルボックス21の外側の領域、すなわち隣り合うチャンネルボックス21の間の領域は、飽和水が存在するギャップ水領域42である(
図1)。
【0034】
燃料集合体3のそれぞれには、燃料集合体格子43が定義されている。燃料集合体格子43は、燃料集合体3とギャップ水領域42を含む領域である。燃料集合体格子43の境界(外周)は、チャンネルボックス21の外部から距離aだけ離れている。以下では、
図4を用いて、燃料集合体格子43について説明する。
【0035】
図4は、4体の燃料集合体3の横断面を示す図であり、
図3の矢印B-Bに沿って見た横断面図である。
図4には、隣り合う4本の制御棒12と、この4本の制御棒12で囲まれた領域に配置された4体の燃料集合体3を示している。隣り合う燃料集合体3の間の領域は、ギャップ水領域42である。
【0036】
燃料集合体格子43は、燃料集合体3と制御棒12を備える炉心5の燃料集合体3の横断面において、隣り合う4本の制御棒12の中心点を頂点とする正方形の領域(
図4の破線で示された領域)を4つに等分割した領域である。本実施例では、燃料集合体格子43の幅である燃料集合体格子幅は、154.9mmである。燃料集合体格子43の境界とチャンネルボックス21との間隔(
図1に示した距離a)は、7.9mmである。
【0037】
本実施例による燃料集合体3は、以上の構成を備え、従来の燃料集合体が備える水ロッドを内部に備えないので、燃料集合体3の内部を流れる冷却水の流路面積が小さく、燃料集合体3の内部の水の量が少ない。燃料集合体3は、非沸騰状態の水が流れる水ロッドを備えないので、炉心5の定格出力の運転時に、燃料棒23の核燃料物質の充填領域の軸方向の中央部での横断面において、チャンネルボックス21の内部の冷却水を沸騰状態、すなわちボイドが発生した状態にすることができる。このため、本実施例による沸騰水型原子炉1は、運転時に、燃料棒23の核燃料物質の充填領域の軸方向の中央部(すなわち、燃料有効長の1/2の位置)での横断面において、チャンネルボックス21の内部の冷却水をボイドが発生した状態とすることで、燃料集合体3の内部の中性子エネルギーを高くした低減速スペクトル沸騰水型原子炉を実現している。
【0038】
燃料棒23は、核燃料物質として、酸化ウランと酸化プルトニウムを混合して生成された混合酸化物燃料(MOX燃料)を用いており、このMOX燃料で製造された複数の燃料ペレットが被覆管内に充填されて密封された構成を備える。燃料棒23の、核燃料物質の充填領域の軸方向における長さ、すなわち燃料有効長は、既存の沸騰水型原子炉に装荷される燃料と同じ約370cmである。燃料棒23の被覆管内の、核燃料物質の充填領域の上端よりも上方には、ガスプレナムが形成されている。
【0039】
図5は、燃料集合体3において、チャンネルボックス内外流路面積比に対するボイド係数の変化の例を示す図である。
図5を用いて、本実施例による燃料集合体3の作用について説明する。
【0040】
まず、
図1を参照して、チャンネルボックス内外流路面積比について説明する。以下の説明では、燃料集合体格子43におけるチャンネルボックス21の外部の冷却水の流路を「チャンネルボックス21の外部流路」と呼び、燃料集合体格子43におけるチャンネルボックス21の内部の冷却水の流路を「チャンネルボックス21の内部流路」と呼ぶ。また、チャンネルボックス21の外部流路の流路面積を「チャンネルボックス21の外部流路面積」と呼び、チャンネルボックス21の内部流路の流路面積を「チャンネルボックス21の内部流路面積」と呼ぶ。
【0041】
チャンネルボックス内外流路面積比とは、チャンネルボックス21の外部流路面積に対するチャンネルボックス21の内部流路面積の比(チャンネルボックス21の内部流路面積/チャンネルボックス21の外部流路面積)である。なお、流路面積は、燃料集合体3の横断面における、冷却水の流路面積(
図1に示した面での面積)である。チャンネルボックス21の外部流路面積は、チャンネルボックス21の外部と燃料集合体格子43の境界との間の領域の、冷却水の流路面積である。チャンネルボックス21の内部流路面積は、チャンネルボックス21の内部で燃料棒23とタイロッド30が存在しない領域の、冷却水の流路面積である。
【0042】
本実施例による沸騰水型原子炉1では、燃料集合体3は、非沸騰状態の水が流れる水ロッドを内部に備えず、炉心5が定格出力で運転されているときには、チャンネルボックス21の外部流路には非沸騰状態の冷却水(ギャップ水)が流れ、チャンネルボックス21の内部流路には燃料棒23からの発熱により沸騰状態となった冷却水が流れる。このため、チャンネルボックス21の外部は、燃料棒23が放出する中性子に対する減速効果が、チャンネルボックス21の内部よりも大きく、チャンネルボックス21の内部は、燃料棒23が放出する中性子に対する減速効果が、チャンネルボックス21の外部よりも小さい。すなわち、本実施例による燃料集合体3は、チャンネルボックス21の内部では中性子を低減速状態にし、チャンネルボックス21の外部では中性子を高減速状態にする。
【0043】
図5には、平均のプルトニウム含有率(プルトニウムの質量とウランの質量の合計に対するプルトニウムの質量の割合)が15重量%である燃料集合体3について、チャンネルボックス内外流路面積比に対するボイド係数の変化の例を示している。
図5に示すように、チャンネルボックス内外流路面積比が2.1以下であると、ボイド係数が負である。なお、沸騰水型原子炉1で臨界を維持するためには、プルトニウム含有率は、設計上、15重量%が上限値であると一般に考えられている。
【0044】
図5に示したボイド係数は、以下のようにして、沸騰水型原子炉1の平均的な運転条件を模擬して行った解析で求めた。すなわち、チャンネルボックス21の外部流路の冷却水をボイド率が0%の非沸騰状態としつつ、チャンネルボックス21の内部のボイド率が定格運転時に相当する40%のときの中性子の無限増倍率と、チャンネルボックス21の内部のボイド率が70%に上昇したときの中性子の無限増倍率を解析で求め、ボイド率の変化に対する中性子の無限増倍率の変化率を、ボイド係数として求めた。
【0045】
なお、
図5に示した例では、ボイド係数が負となるチャンネルボックス内外流路面積比が2.1以下であるが、この2.1という数値は、沸騰水型原子炉1の運転条件により異なる場合がある。このため、一般的には、チャンネルボックス内外流路面積比は、チャンネルボックス内外流路面積比とボイド係数との関係から求めた、ボイド係数が負となるような予め定めた値以下とすることができる。このような値は、上述したような解析で求めることができる。
【0046】
発明者は、チャンネルボックス21の内部を沸騰状態として水の密度を減らすことに加えて、チャンネルボックス21の内部の冷却水の流路面積を減らしつつ、チャンネルボックス21外部の冷却水を非沸騰状態として水の密度を増やすことに加えて、チャンネルボックス21の外部の冷却水の流路面積を増やす、すなわち、チャンネルボックス内外流路面積比を小さくすることで、チャンネルボックス21の内部の中性子を低減速状態としつつ、チャンネルボックス21の外部の中性子を高減速状態とすることで、ボイド係数を負にすることができることを見出した。
【0047】
以上説明したように、本実施例による燃料集合体3は、チャンネルボックス内外流路面積比を、ボイド係数が負となるような予め定めた値以下(
図5に示した例では、2.1以下)とすることで、炉心5が定格出力で運転されているときに、最外層燃料棒23aが放出する中性子を高減速状態とし、最外層燃料棒23a以外の燃料棒23が放出する中性子を低減速状態とすることができる。最外層燃料棒23aは、非沸騰状態であるチャンネルボックス21の外部の冷却水に隣接してこの冷却水の影響を受け、放出する中性子に対する減速効果が大きく、ボイド係数が負となるエネルギー領域まで中性子エネルギーを低くすることができる。一方、燃料集合体3の最外層燃料棒23a以外の燃料棒23は、沸騰状態であるチャンネルボックス21の内部の冷却水により、放出する中性子に対する減速効果が小さく、中性子エネルギーを高い状態に維持することができる。中性子エネルギーが高いと、プルトニウム含有率が多くても臨界を維持することができる。このため、本実施例による燃料集合体3は、プルトニウム含有率を増やしつつ、燃料集合体3の全体としてボイド係数を負にすることができる。
【0048】
なお、燃料棒23として通常の燃料棒よりも長さが短い部分長燃料棒を採用した場合には、燃料集合体格子43(燃料集合体3の横断面)には、部分長燃料棒が存在する領域と、部分長燃料棒が存在しない領域が存在する。部分長燃料棒が存在する領域では、部分長燃料棒が存在しない領域よりもチャンネルボックス21の内部流路面積が小さいので、中性子エネルギーが高くなり、ボイド係数が正になる傾向を示す。このため、燃料棒23に部分長燃料棒が含まれる場合には、チャンネルボックス内外流路面積比の計算には、チャンネルボックス21の内部流路面積が最小となる断面でのチャンネルボックス21の内部流路面積を用いるのが好ましい。すなわち、燃料棒23に部分長燃料棒が含まれる場合には、チャンネルボックス内外流路面積比の計算に用いるチャンネルボックス21の内部流路面積は、部分長燃料棒が存在する横断面での流路面積を用いるのが好ましい。
【0049】
本実施例による燃料集合体3では、チャンネルボックス内外流路面積比は1.97である。このため、本実施例による燃料集合体3は、
図5より、平均のプルトニウム含有率が15重量%であっても、ボイド係数を負にすることができ、原子炉の安全性を向上させることができる。本実施例による沸騰水型原子炉1は、本実施例による燃料集合体3が炉心5に装荷されているので、燃料のプルトニウム含有率を増やしても、平均のプルトニウム含有率が15重量%以下であるとボイド係数を負にでき、原子炉の安全性を向上させることができる。
【0050】
本実施例によれば、低減速スペクトル沸騰水型原子炉において、燃料のプルトニウム含有率を増やしつつ、ボイド係数を負にすることができる。このため、本実施例では、原子炉の安全性を向上し得る燃料集合体と沸騰水型原子炉を実現することができる。
【0051】
なお、例えば、チャンネルボックス21と燃料棒23を変えずに炉心5を小型化した場合などで、燃料集合体格子43(
図1)を小さくし、燃料集合体格子43の境界とチャンネルボックス21との間隔(
図1に示した距離a)を5.4mmに小さくすると、チャンネルボックス内外流路面積比は2.89となり、ボイド係数が正となった(
図5)。
本実施例による燃料集合体3は、実施例1による燃料集合体3よりも燃料棒23の外径が大きい。本実施例による燃料集合体3は、横断面(水平断面)が正方形のチャンネルボックス21の内部に、140本の燃料棒23が稠密に配置されて構成されている。本実施例では、燃料棒23は、外径が8.8mmであり、互いの間隙が2.0mmである。チャンネルボックス21は、内幅が134.1mmであり、肉厚が2.5mmである。チャンネルボックス21の内部の角部には、ジルカロイ-2で構成されたタイロッド30が配置されている。燃料集合体格子43の幅(燃料集合体格子幅)は、154.9mmである。
本実施例による沸騰水型原子炉1は、本実施例による燃料集合体3が炉心5に装荷されているので、低減速スペクトル沸騰水型原子炉において、燃料のプルトニウム含有率を増やしてもボイド係数を負にでき、原子炉の安全性を向上させることができる。