(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023115585
(43)【公開日】2023-08-21
(54)【発明の名称】ボールネジおよび直動アクチェータ
(51)【国際特許分類】
F16H 25/24 20060101AFI20230814BHJP
F16H 25/22 20060101ALI20230814BHJP
F16B 3/00 20060101ALI20230814BHJP
F16B 4/00 20060101ALI20230814BHJP
【FI】
F16H25/24 A
F16H25/22 Z
F16B3/00 Z
F16B4/00 J
F16B4/00 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022017885
(22)【出願日】2022-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】徐 慧
(72)【発明者】
【氏名】阿部 泰明
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 寛太
【テーマコード(参考)】
3J062
【Fターム(参考)】
3J062AB22
3J062AC07
3J062BA12
3J062BA16
3J062CD04
3J062CD23
3J062CD45
3J062CD64
(57)【要約】
【課題】ネジ軸の変形と回転阻止手段のネジ軸からの脱落を抑制することができるボールネジを提供する。
【解決手段】ネジ軸20と、ナット15と、ネジ軸20の先端側の先端円周部24に装着される回転阻止リング30と、回転阻止リング30の軸方向への移動を規制する移動規制手段40とを備え、ナット15の回転運動がネジ軸20の直線運動に変換される直動アクチェータ1に用いられるボールネジ4であって、回転阻止リング30は、リング部材31と、リング部材31の外周面から突出する外側突起部32と、リング部材31の内周面から突出する内側突起部33を備え、外側突起部32は、リング部材31の外周面26から突出する互いに平行な二つのガイド面34を有し、ガイド面34の軸方向の両端部には面取り部35が形成されているボールネジ。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に螺旋状のネジ溝が形成されたネジ軸と、内周面に前記ネジ軸のネジ溝に対応する螺旋状のネジ溝が形成されたナットと、前記ネジ軸の先端側に形成され外周が円周状の先端円周部と、前記先端円周部に装着される回転阻止手段と、前記回転阻止手段の前記ネジ軸の軸方向への移動を規制する移動規制手段とを備え、前記ナットの回転運動が前記ネジ軸の直線運動に変換される直動アクチェータに用いられるボールネジであって、
前記回転阻止手段は、前記先端円周部の外周面に装着されるリング状のリング部材と、前記リング部材の外周面から径方向外側に突出する外側突起部と、前記リング部材の内周面から径方向内側に突出する内側突起部を備え、
前記先端円周部には、先端側端面から外周面に亘って挿入溝が形成され、
前記回転阻止手段は、前記内側突起部が前記挿入溝に挿入されて前記先端円周部に対して回転不能に装着されており、
前記外側突起部は、前記リング部材の外周面から径方向に突出して前記リング部材の軸に平行であって互いに平行な二つの平面を有し、
互いに平行な二つの前記平面の前記軸方向の両端部には面取りが形成されていることを特徴とするボールネジ。
【請求項2】
前記先端円周部は中空部を備えた円筒状であることを特徴とする請求項1に記載のボールネジ。
【請求項3】
前記外側突起部は、前記リング部材の周方向に180度異なる位置に2箇所設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載のボールネジ。
【請求項4】
前記内側突起部は、前記リング部材の周方向に180度異なる位置に2箇所設けられ、前記先端円周部には、前記挿入溝が前記先端円周部の周方向に180度異なる位置に2箇所設けられていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のボールネジ。
【請求項5】
前記外側突起部と前記内側突起部は、前記リング部材の周方向に同位相の位置に設けられていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のボールネジ。
【請求項6】
前記先端円周部は、外径が前記ネジ溝の谷径よりも小径で外周面に前記ネジ溝が形成されておらず、
前記ネジ軸は、外周面に螺旋状の前記ネジ溝が形成されたネジ部と外周面に前記ネジ溝が形成されていない当該先端円周部とを有し、前記ネジ部の端面と当該先端円周部の外周面とが軸方向の断面において、90度の角度で形成された2段軸であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のボールネジ。
【請求項7】
前記挿入溝は前記ネジ部まで入り込んで形成されていることを特徴とする請求項6に記載のボールネジ。
【請求項8】
前記回転阻止手段は樹脂系材料で形成されていることを特徴とする請求項1項から7のいずれか1項に記載のボールネジ。
【請求項9】
前記外側突起部の軸方向の幅は、前記リング部材の径方向の幅より小さいことを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載のボールネジ。
【請求項10】
前記移動規制手段は、前記先端円周部における回転阻止手段よりも先端側に形成されるカシメ部である請求項1から9のいずれか1項に記載のボールネジ。
【請求項11】
前記カシメ部は、前記先端円周部の先端側端面を押圧することによって、前記先端円周部の外周面から盛り上がって形成されるカシメであることを特徴とする請求項10に記載のボールネジ。
【請求項12】
前記カシメ部は、前記先端円周部の先端側端面と前記挿入溝の互いに対向する内側面とで形成される角部を前記先端側端面の側から押圧することによって、前記挿入溝の互いに対向する前記内側面から盛り上がって形成されるカシメであることを特徴とする請求項10に記載のボールネジ。
【請求項13】
前記カシメ部は、前記挿入溝における前記先端円周部の外周面および先端側端面によって形成される角部を前記先端側端面の側から押圧することによって、前記挿入溝の互いに対向する内側面および前記先端円周部の外周面から盛り上がって形成されるカシメであることを特徴とする請求項10に記載のボールネジ。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか1項に記載のボールネジを備えた直動アクチェータであって、
ハウジングと、
前記ハウジングに支持されて、前記ハウジングに対して前記ナットを回転可能に、かつ軸方向移動不可に支持する軸受と、
前記ハウジングに取り付けられて、前記ナットに回転運動を伝達するモータと、
前記ハウジング内に形成されて、前記ネジ軸の軸方向に伸びて前記回転阻止手段の前記外側突起部を摺動支持するガイド溝と、を備え、
前記ナットの回転運動により、前記ネジ軸は前記ハウジングに対して回転不可にかつ軸方向に移動することを特徴とする直動アクチェータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本発明は、回転運動要素に伝達された回転運動を直線運動に変換するボールネジおよびボールネジを備えた直動アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の直動アクチュエータは、ボールネジ軸とこれに多数のボールを介して螺合するボールネジナットとを有するボールネジ機構を有し、ボールネジ軸及びボールネジナットの一方を回転駆動する回転運動要素とし、他方を直線移動させる直線運動要素としている。このとき、直線運動要素が直線移動するには回転運動要素と供回りすることを防ぐ必要があり、通常、固定部に軸方向に形成した案内溝に直線運動要素に形成した案内突起を係合させて回り止めを行うようにしている。
【0003】
例えば、特許文献1に開示された電動アクチェータでは、ハウジングに回転可能に、かつ軸方向移動不可に装着されたナットと、ナットに螺合するネジ軸を備えて、ネジ軸の端部にはネジ軸の回転阻止手段として径方向に突出する係止ピンが設けられ、ハウジングには軸方向に伸びる凹溝が形成され、係止ピンが凹溝に係合して、ネジ軸はハウジングに対して回転不可にかつ軸方向に移動する。
【0004】
特許文献1に示すネジ軸の端部に設けられた係止ピンは、ネジ軸にピン孔を設け、そのピン孔に対し係止ピンが圧入で固定されて、抜け止めが図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に示すような圧入により係止ピンをネジ軸に固定する構造においては、ネジ軸が中空の場合、係止ピンとネジ軸のかかり代が小さく、ピンが摺動を繰り返すことでピン孔が拡がったり、または、楕円になり、係止ピンが抜けてしまうことが懸念される。また、係止ピンをネジ軸に圧入する際にネジ軸の径方向に荷重がかかりネジ軸の断面が楕円に変形する可能性がある。
【0007】
また、電動アクチェータが自動車の電動ブレーキなどに用いられる場合、タイヤホイール内に設置するためコンパクト化が望まれるが、圧入により係止ピンをネジ軸に固定する構造は、係止ピンとネジ軸の先端面からのかかり代がある程度必要であるため、軸方向を小さくするのに限界がありコンパクト化が難しいという問題もある。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑み、コンパクトであって、ネジ軸の変形と回転阻止手段のネジ軸からの脱落を抑制することができるボールネジおよび直動アクチェータを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、外周面に螺旋状のネジ溝が形成されたネジ軸と、内周面にネジ軸のネジ溝に対応する螺旋状のネジ溝が形成されたナットと、ネジ軸の先端側に形成され外周が円周状の先端円周部と、先端円周部に装着される回転阻止手段と、回転阻止手段のネジ軸の軸方向への移動を規制する移動規制手段とを備え、ナットの回転運動がネジ軸の直線運動に変換される直動アクチェータに用いられるボールネジであって、回転阻止手段は、先端円周部の外周面に装着されるリング状のリング部材と、リング部材の外周面から径方向外側に突出する外側突起部と、リング部材の内周面から径方向内側に突出する内側突起部を備え、先端円周部には、先端側端面から外周面に亘って挿入溝が形成され、回転阻止手段は、内側突起部が挿入溝に挿入されて先端円周部に対して回転不能に装着されており、外側突起部は、リング部材の外周面から径方向に突出してリング部材の軸に平行であって互いに平行な二つの平面を有し、互いに平行な二つの平面の軸方向の両端部には面取りが形成されているボールネジである。
【0010】
本発明の他の態様は、一態様のボールネジを備えた直動アクチェータであって、ハウジングと、ハウジングに支持されて、ハウジングに対してナットを回転可能に、かつ軸方向移動不可に支持する軸受と、ハウジングに取り付けられて、ナットに回転運動を伝達するモータと、ハウジング内に形成されて、ネジ軸の軸方向に伸びて回転阻止手段の外側突起部を摺動支持するガイド溝と、を備え、ナットの回転運動により、ネジ軸はハウジングに対して回転不可にかつ軸方向に移動する直動アクチェータである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、コンパクトであって、ネジ軸の変形と回転阻止手段のネジ軸からの脱落を抑制することができるボールネジおよび直動アクチェータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態に係る直動アクチェータのネジ軸がナットに対して左方側に移動した状態の縦断面図である。
【
図2】実施形態に係る直動アクチェータのネジ軸がナットに対して右方側に移動した状態の縦断面図である。
【
図3】実施形態に係る直動アクチェータのハウジングが除かれた状態を示す斜視図である。
【
図4】実施形態に係る直動アクチェータのハウジングが無い状態で回転阻止リングを外した状態を示す斜視図である。
【
図5】実施形態に係るボールネジの回転阻止リングの正面、側面、平面を表す図である。
【
図6】実施形態に係るボールネジのネジ軸の正面、側面を表す図である。
【
図7】実施形態に係るボールネジの第1実施形態としての移動阻止手段を示す縦断面図である。
【
図8】実施形態に係るボールネジの第2実施形態としての移動阻止手段を示す縦断面図である。
【
図9】実施形態に係るボールネジの第3実施形態としての移動阻止手段を示す縦断面図である。
【
図10】実施形態に係るボールネジの第4実施形態としての移動阻止手段を示す縦断面図である。
【
図11】実施形態に係るボールネジの第5実施形態としての移動阻止手段を示す縦断面図である。
【
図12】実施形態に係るボールネジの第6実施形態としての移動阻止手段を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下に示す本発明の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の構成、配置等を下記のものに特定するものではない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【実施例0014】
図1(a)は、本実施形態に係る直動アクチェータ1の縦断面図であり、
図1(b)は、本実施形態に係る直動アクチェータ1の正面図である。尚、
図1(a)の縦断面図は、
図1(b)に示すB-B矢視における縦断面図である。また、
図1(a)は、ネジ軸20がナット15に対して左方側に移動した状態の縦断面図である。また、
図2は、本実施形態に係る直動アクチェータ1のネジ軸20がナット15に対して右方側に移動した状態の縦断面図である。尚、本実施形態で説明する縦断面図とは、軸方向に沿った面の断面図をいう。
【0015】
本発明の実施形態を示す直動アクチェータ1は、一端面が開口し他端が閉じられている円筒状のハウジング2と、ハウジング2の内部側でハウジング2に取り付けられるボールネジ4と、ボールネジ4をハウジング2に対して支持するラジアル型の軸受3を備えている。ハウジング2はアルミ合金製であって、一端面側の大円筒部10と大円筒部10の端面に接合する小円筒部11を備えている。大円筒部10は内部に大径穴部12が形成され、小円筒部11は内部に大径穴部12より小径である小径穴部13が形成されている。
【0016】
大径穴部12の内周面に軸受3の外輪が保持されており、軸受3の外輪はハウジング2に対して回転不能で、かつ、ハウジング2の軸方向への移動ができないように保持されている。
【0017】
ボールネジ4は、外周面に螺旋状のネジ溝22が形成されたネジ軸20と、ネジ軸20に外嵌され、内周面にネジ軸20のネジ溝22に対応する螺旋状のネジ溝16が形成されたナット15と、ネジ軸20のネジ溝22とナット15のネジ溝16の間に形成される転動路18に収容された複数のボール17と、を備えている。従って、ボールネジ4は、ネジ軸20が回転不能に支持されている場合は、ナット15の回転運動がネジ軸20の直線運動に変換される。また、ナット15が回転不能に支持されている場合は、ネジ軸20の回転運動がナット15の直線運動に変換される。本実施形態でのボールネジ4は、ネジ軸20が回転不能に支持されて、ナット15の回転運動がネジ軸20の直線運動に変換される形態である。
【0018】
ナット15の外周面に軸受3の内輪が保持されており、軸受3の内輪はナット15に対して回転不能で、かつ、ナット15の軸方向への移動ができないように保持されている。従って、ナット15は、軸受3を介してハウジング2に対し、回転可能であるが、ハウジング2の軸方向に対しては移動できないようにハウジング2に支持されている。ボールネジ4は軸受3を介してハウジング2に取り付けられ、ボールネジ4が軸受3を介してハウジング2に取り付けられた状態で、ネジ軸20、ナット15、軸受3の軸は一致しており、また、ネジ軸20、ナット15、軸受3の軸は、ハウジング2の大径穴部12および小径穴部13の軸(以下、ハウジング2の軸心という。)とも一致する。
【0019】
ハウジング2には図示されない電動モータが取り付けられ、ナット15は電動モータの駆動により図示されない減速機構を介して回転運動する。
【0020】
ハウジング2の小径穴部13の内周面には、ハウジング2の軸方向に伸びて、ネジ軸20の先端に装着される後述する回転阻止リング30を摺動支持するガイド溝14が形成されている。回転阻止リング30は本発明における回転阻止手段である。ガイド溝14は、ハウジング2の軸に垂直な断面において、小径穴部13の内周面に凹状に形成されており、回転阻止リング30を摺動支持する平面状であって互いに平行なガイド溝面19を有している。詳細は後述するが、回転阻止リング30は、ネジ軸20に対して回転不能かつネジ軸20の軸方向に対して移動不能に装着されている。従って、ガイド溝14に対してネジ軸20に装着された回転阻止リング30が摺動支持されることにより、ネジ軸20は回転せずに軸方向への移動が可能となる。尚、
図1において、詳細は後述するが、回転阻止リング30よりもネジ軸20の先端側の位置には、回転阻止リング30のネジ軸20に対する軸方向への移動を規制する移動規制手段としてのカシメ部40が設けられている。
【0021】
直動アクチェータ1は、電動モータが駆動することによりナット15が回転運動する。ナット15の回転運動により、ハウジング2に形成されたガイド溝14に対して回転不能に支持されたネジ軸20は、軸方向へ直線移動することができる。
図1(a)は、直動アクチェータ1のネジ軸20がナット15に対して左方側に移動した状態を示す。
図2は、ナット15の回転によって、直動アクチェータ1のネジ軸20がナット15に対して右方側に移動した状態を示す。
【0022】
次に、
図3、4を用いて、ボールネジ4の詳細について説明する。
図3は、直動アクチェータ1のハウジング2が無い状態で、回転阻止リング30が外された状態を示す斜視図である。
図4は、直動アクチェータ1のハウジング2が除かれた状態で、回転阻止リング30が装着された状態を示す斜視図である。
図3、
図4はいずれもボールネジ4のナット15に軸受3が取り付けられている状態を示している。
【0023】
上述したように、ボールネジ4は、ナット15とネジ軸20を備えている。
図3、
図4において、ナット15の外周には軸受3が取り付けられている。ネジ軸20は、中心側が中空であって中空部28を備えている。ネジ軸20は外周にネジ溝22が形成されたネジ部21と、ネジ軸20の先端側であって外周にネジ溝22が形成されていない先端円周部24を備えている。先端円周部24の外径はネジ溝22の谷径よりも小径である。先端円周部24には、先端側端面25から外周面26に亘って挿入溝27が形成されている。回転阻止リング30は、先端円周部24の外周面26に装着されるリング状のリング部材31と、リング部材31の外周面から径方向外側に突出する外側突起部32と、リング部材31の内周面から径方向内側に突出する内側突起部33を備えている。挿入溝27に回転阻止リング30の内側突起部33が挿入される。挿入溝27に内側突起部33が挿入されて回転阻止リング30が先端円周部24の外周面26に装着されることにより、回転阻止リング30は先端円周部24に対して回転しない。
図4は、挿入溝27に回転阻止リング30の内側突起部33が挿入されて回転阻止リング30が先端円周部24の外周面26に装着された状態を示す。
【0024】
次に、
図5を用いて、回転阻止手段としての回転阻止リング30について説明する。
図5において、(a)は回転阻止リング30の正面図、(b)は回転阻止リング30の側面図、(c)は回転阻止リング30の平面図である。回転阻止リング30は樹脂製であって、先端円周部24の外周面26に装着されるリング状のリング部材31と、リング部材31の外周面から径方向外側に突出する外側突起部32と、リング部材31の内周面から径方向内側に突出する内側突起部33を備えている。
【0025】
外側突起部32は、リング部材31の周方向において180度異なる位置に2か所設けられている。また、内側突起部33も、リング部材31の周方向において180度異なる位置に2か所設けられている。外側突起部32と内側突起部33は、リング部材31の周方向において同位相の位置に配置されている。従って、回転阻止リング30は左右対称であり、上下対称であり、また、表裏同一の構造である。これにより、回転阻止リング30を先端円周部24の外周面26に装着する場合、誤組付けを防止できる。外側突起部32の軸方向の幅aは、リング部材31の径方向の幅bより小さい。また、外側突起部32と内側突起部33は、リング部材31の周方向において同位相の位置に配置されていると、トルク伝達の時間にタイムラグが小さくて済む。外側突起部32と内側突起部33とが、リング部材31の周方向において異なる位相の位置に配置されていると、回転阻止リング30は樹脂製であるため弾性変形を起こし、その弾性変形分だけネジ軸20が回転してしまうからである。
【0026】
外側突起部32は、リング部材31の外周面から径方向に突出してリング部材31の軸に平行であって互いに平行な二つの平面であるガイド面34を有している。ガイド面34は、ハウジング2の内周面に形成されたガイド溝14のガイド溝面19に摺動支持される。互いに平行な二つのガイド面34の軸方向における両端部には面取りとしての面取り部35が形成されている。ガイド面34はガイド溝14のガイド溝面19に摺動支持されるが、ガイド面34は平面であるため、ガイド面34の面圧を低減することができる。また、ガイド面34の軸方向における両端部には面取り部35が形成されているため、ガイド面34ガイド溝面19に摺動支持される場合の摺動抵抗を抑制することができる。尚、本実施形態では、ガイド面34の軸方向における両端部に形成される面取り部35は、R面取りであっても構わない。尚、本実施形態では、回転阻止リング30は樹脂製であるが、樹脂製である必要はなく、プレス成型のばね鋼などの金属でも構わない。
【0027】
次に
図6を用いて、ネジ軸20ついて説明する。
図6において、(a)は、ネジ軸20の側面図、(b)は、ネジ軸20の正面図である。ネジ軸20は、中心側が中空であって中空部28を備えている。ネジ軸20は外周にネジ溝22が形成されたネジ部21と、ネジ軸20の先端側であって外周にネジ溝22が形成されていない先端円周部24を備えている。先端円周部24の外径はネジ溝22の谷径よりも小径である。ネジ軸20は、ネジ部21の端面であるネジ部端面23と先端円周部24の外周面26とが軸方向の断面において90度の角度で形成される、2段軸である。先端円周部24には、先端側端面25から外周面26および中空部28の内周面に亘って挿入溝27が形成されている。挿入溝27は、先端円周部24の周方向において180度異なる位置に2か所設けられている。2か所の挿入溝27が先端円周部24の周方向において180度異なる位置に設けられているため、挿入溝27を形成する場合、1回のエンドミル加工で形成することができる。
【0028】
2個の挿入溝27に回転阻止リング30に備えられた2個の内側突起部33が挿入される。2個の挿入溝27に2個の内側突起部33が挿入されて回転阻止リング30が先端円周部24の外周面26に装着されることにより、回転阻止リング30は先端円周部24に対して回転しない。
【0029】
また、2個の挿入溝27はネジ部21まで入り込んで形成されている。すなわち、2個の挿入溝27のネジ部21側の端部は、ネジ部21まで入り込んでいる。2個の挿入溝27がネジ部21まで入り込んで形成されているため、挿入溝27のネジ部21側の端部に形成される隅部にRが形成されていても、回転阻止リング30の軸方向側端面をネジ部端面23に密着させることができる。ネジ部端面23は、回転阻止リング30のネジ軸20の軸方向であってネジ部21側への移動を規制する移動規制手段となる。
【0030】
次に、
図7~12を用いて、回転阻止リング30のネジ軸20の軸方向であって先端円周部24の先端側端面25側への移動を規制する移動規制手段について、説明する。
【0031】
図7は、本実施形態に係るボールネジ4の第1実施形態としての移動阻止手段を示す縦断面図である。ボールネジ4における先端円周部24の外周面26であって、先端側端面25に隣接する位置には、外周面26から径方向に盛り上がって形成されるカシメ部40が設けられている。カシメ部40は、先端円周部24に装着された回転阻止リング30よりも先端側端面25側に位置する。カシメ部40が、本発明における回転阻止リング30の軸方向への移動を規制する移動規制手段である。第1実施形態としての移動阻止手段である。カシメ部40は、
図7の白抜き矢印が示す方向から先端側端面25を押圧することによって形成される。
【0032】
図8は、本実施形態に係るボールネジ4の第2実施形態としての移動阻止手段を示す縦断面図である。先端円周部24に形成された挿入溝27の互いに対向する内側面であって先端側端面25に隣接する位置には、当該内側面から盛り上がって形成されカシメ部40が設けられている。カシメ部40は、先端円周部24に装着された回転阻止リング30よりも先端側端面25側に位置する。カシメ部40が、本発明における回転阻止リング30の軸方向への移動を規制する移動規制手段である。第2実施形態としての移動阻止手段であるカシメ部40は、挿入溝27に入り込む治具が、
図8の白抜き矢印が示す方向から、先端側端面25と挿入溝27の内周面とで形成される角部を押圧することによって形成される。
【0033】
図9は、本実施形態に係るボールネジ4の第3実施形態としての移動阻止手段を示す縦断面図である。挿入溝27の互いに対向する内側面、先端円周部24の先端側端面25および外周面26によって形成される角部には、挿入溝27の互いに対向する内側面および外周面26から盛り上がるカシメ部40が形成されている。また、挿入溝27の互いに対向する内側面、先端円周部24の先端側端面25および中空部28の内周面によって形成される隅部には、挿入溝27の互いに対向する内側面および中空部28の内周面から盛り上がるカシメ部40が形成されている。カシメ部40は、先端円周部24に装着された回転阻止リング30よりも先端側端面25側に位置する。カシメ部40が、本発明における回転阻止リング30の軸方向への移動を規制する移動規制手段である。尚、挿入溝27の互いに対向する内側面、先端円周部24の先端側端面25および中空部28の内周面によって形成される隅部には、カシメ部40を必ずしも設けなくても構わない。
【0034】
図10は、本実施形態に係るボールネジ4の第4実施形態としての移動阻止手段を示す縦断面図である。ボールネジ4における先端円周部24の外周面26であって、先端側端面25に隣接する位置には、外周面26から盛り上がるカシメ部40が形成されている。カシメ部40は、先端円周部24に装着された回転阻止リング30よりも先端側端面25側に位置する。カシメ部40が、本発明における回転阻止リング30の軸方向への移動を規制する移動規制手段である。第4実施形態としての移動阻止手段であるカシメ部40は、
図10の白抜き矢印が示す方向から治具によって先端側端面25の外周縁部を押圧することによって形成される。
【0035】
図11は、本実施形態に係るボールネジ4の第5実施形態としての移動阻止手段を示す縦断面図である。ボールネジ4における先端円周部24に装着された回転阻止リング30は、先端円周部24の外周面26に取り付けられる固定用ナット41によって軸方向への移動が規制される。先端円周部24の外周面26には固定用ナット41を取り付けるためのネジ溝が形成されている。固定用ナット41が、本発明における回転阻止リング30の軸方向への移動を規制する移動規制手段である。
【0036】
図12は、本実施形態に係るボールネジ4の第6実施形態としての移動阻止手段を示す縦断面図である。ボールネジ4における先端円周部24に装着された回転阻止リング30は、先端円周部24の外周面26に取り付けられる固定用止め輪42によって軸方向への移動が規制される。先端円周部24の外周面26には固定用止め輪42を取り付けるための溝が形成されている。固定用止め輪42が、本発明における回転阻止リング30の軸方向への移動を規制する移動規制手段である。
【0037】
上記した、先端円周部24に形成される挿入溝27、および、第1実施形態から第4実施形態で示したカシメ部40の製作方法について説明する。第1の製作方法は、ネジ軸20の外径研削加工と挿入溝27の切削加工を行い、ネジ溝22の転造もしくは切削加工を行う。その後、ネジ溝22の高周波焼き入れなどの熱処理を行う。そして、ネジ軸20に回転阻止リング30を挿入し、治具を用いてカシメ部40を形成する。
【0038】
第2の製作方法は、ネジ軸20の外径研削加工を行い、ネジ溝22の転造もしくは切削加工を行う。その後、ネジ溝22の高周波焼き入れなどの熱処理を行う。熱処理後に、先端円周部24の外径研削加工と挿入溝27の切削加工を行う。そして、ネジ軸20に回転阻止リング30を挿入し、治具を用いてカシメ部40を形成する。
【0039】
本実施形態では、外側突起部32は、リング部材31の周方向において180度異なる位置に2か所設けられているが、必ずしもこれに限定されない。外側突起部32は1か所でもよく、あるいは、3か所以上でも良い。また、2か所設けられている場合は、リング部材31の周方向において180度異なる位置に設けられていなくてもよい。ただし、その場合は、外側突起部32の周方向の配置に、ハウジング2の小径穴部13の内周面に形成されるガイド溝14の配置を合わせる必要がある。また、本実施形態では、内側突起部33は、リング部材31の周方向において180度異なる位置に2か所設けられているが、必ずしもこれに限定されない。内側突起部33は1か所でもよく、あるいは、3か所以上でも良い。また、2か所設けられている場合は、リング部材31の周方向において180度異なる位置に設けられていなくてもよい。また、本実施形態では、外側突起部32と内側突起部33は、リング部材31の周方向において同位相の位置に配置されているが、必ずしもこれに限定されない。外側突起部32と内側突起部33は、リング部材31の周方向において同位相の位置に配置されていなくても構わない。挿入溝27および回転阻止リング30に備えられた内側突起部33が複数設けられている場合は、挿入溝27の周方向における位置と、回転阻止リング30に備えられた内側突起部33の周方向の位置が同位相であればよい。また、内側突起部33は、リング部材31の周方向において180度異なる位置に2か所設けられているが、この2か所に設けられた内側突起部33は、互いに中心側に向かって伸びて繋がっていてもよい。
【0040】
本実施形態では、ネジ軸20は中空部28を備えているが、必ずしもこれに限定されない。中空部28を備えていない中実のネジ軸であっても構わない。
【0041】
また、本実施形態では、挿入溝27はネジ部21まで入り込んで形成されているが、挿入溝27はネジ部21まで入り込まずに形成されていても構わない。
【0042】
本実施形態では、ネジ軸20は、外周面26に螺旋状のネジ溝22が形成されたネジ部21と、外径がネジ溝22の谷径よりも小径で外周面にネジ溝22が形成されていない先端円周部24を備えた2段軸であったが、必ずしもこれに限定されず、ネジ軸20は2段軸でなくても構わない。
【0043】
以上、限られた数の実施形態を参照しながら説明したが、権利範囲はそれらに限定されるものではなく、上記の開示に基づく実施形態の改変は、当業者にとって自明のことである。
1…直動アクチェータ、2…ハウジング、3…軸受、4…ボールネジ、10a…軸、10…大円筒部、11…小円筒部、12…大径穴部、13…小径穴部、14…ガイド溝、15…ナット、16…ネジ溝、17…ボール、18…転動路、19…ガイド溝面、20…ネジ軸、21…ネジ部、22…ネジ溝、23…ネジ部端面、24…先端円周部、25…先端側端面、26…外周面、27…挿入溝、28…中空部、30…回転阻止リング、31…リング部材、32…外側突起部、33…内側突起部、34…ガイド面、35…面取り部、40…カシメ部、41…固定用ナット、42…固定用止め輪