IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本製紙株式会社の特許一覧

特開2023-115611繊維強化樹脂マスターバッチ、樹脂組成物、繊維強化樹脂マスターバッチの製造方法、及び樹脂組成物の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023115611
(43)【公開日】2023-08-21
(54)【発明の名称】繊維強化樹脂マスターバッチ、樹脂組成物、繊維強化樹脂マスターバッチの製造方法、及び樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/22 20060101AFI20230814BHJP
   C08L 101/02 20060101ALI20230814BHJP
   C08K 9/04 20060101ALI20230814BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20230814BHJP
【FI】
C08J3/22 CER
C08J3/22 CEZ
C08L101/02
C08K9/04
C08L101/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022017929
(22)【出願日】2022-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130812
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100164161
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 彩
(72)【発明者】
【氏名】角田 惟緒
(72)【発明者】
【氏名】福田 雄二郎
(72)【発明者】
【氏名】中田 咲子
【テーマコード(参考)】
4F070
4J002
【Fターム(参考)】
4F070AA02
4F070AA15
4F070AB03
4F070AB09
4F070AB11
4F070AC49
4F070AC72
4F070AD02
4F070AE01
4F070FA03
4F070FA05
4F070FA17
4F070FB04
4F070FC06
4J002AA01W
4J002AA03X
4J002AB01W
4J002AB01Y
4J002AH00Y
4J002BB01W
4J002BB21X
4J002BC03W
4J002BD04W
4J002BD10W
4J002BD12W
4J002BG02W
4J002BN15W
4J002CB00W
4J002CD20W
4J002CF03W
4J002CF19W
4J002CH07W
4J002CK02W
4J002CL00W
4J002CN03W
4J002FA04Y
4J002FB087
4J002GC00
4J002GL00
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】本発明は、エネルギー効率に優れ、高い補強効果を有する繊維強化樹脂マスターバッチ、及びこれを用いた樹脂組成物を提供する。
【解決手段】少なくともパルプ繊維および熱可塑性樹脂が混練された繊維強化樹脂マスターバッチであって、
前記パルプ繊維が、酵素処理されたパルプ繊維(A)であり、
前記熱可塑性樹脂が、親水性官能基で変性されており、融点が母材の熱可塑性樹脂(M)の融点以下である熱可塑性樹脂(B)であることを特徴とする、
熱可塑性樹脂用の繊維強化樹脂マスターバッチ。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともパルプ繊維および熱可塑性樹脂が混練された繊維強化樹脂マスターバッチであって、
前記パルプ繊維が、酵素で処理されたパルプ繊維(A)であり、
前記熱可塑性樹脂が、親水性官能基で変性されており、融点が、母材となる熱可塑性樹脂(M)の融点以下である熱可塑性樹脂(B)であることを特徴とする、
熱可塑性樹脂用の繊維強化樹脂マスターバッチ。
【請求項2】
請求項1に記載の繊維強化樹脂マスターバッチと、熱可塑性樹脂(M)とが混練された熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
(i)パルプ繊維を酵素で処理する工程、および
(ii)酵素で処理されたパルプ繊維(A)と、親水性官能基で変性されており、融点が、母材となる熱可塑性樹脂(M)の融点以下である熱可塑性樹脂(B)を乾燥および攪拌し、混合物を得る工程、および
(iii)前記工程(ii)で得られた前記混合物を、前記パルプ繊維(A)の分解温度以下の設定温度で混練する工程
とを備える、熱可塑性樹脂用の繊維強化樹脂マスターバッチの製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の製造方法により製造される繊維強化樹脂マスターバッチと、前記熱可塑性樹脂(M)とを混練する工程を含む、熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化樹脂マスターバッチ、樹脂組成物、繊維強化樹脂マスターバッチの製造方法、及び樹脂組成物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
植物繊維を細かく解すことで得られる微細繊維状セルロースは、ミクロフィブリルセルロース及びセルロースナノファイバーを包含するものであり、約1nm~数10μm程度の繊維径の微細繊維である。微細繊維状セルロースは、軽量で、且つ、高い強度および高い弾性率を有し、低い線熱膨張係数を有することから、樹脂組成物の補強材料として好適に使用されている。
【0003】
しかし、微細繊維状セルロースの原料であるパルプ繊維が親水性であるのに対し、樹脂は疎水性であるため、パルプ繊維を樹脂中で混練してパルプを微細繊維状セルロースに解繊する際に解繊しにくいという課題があった。これに対し、微細繊維状セルロースに解繊した後で樹脂と混合混練するという手法がとられている。
【0004】
特許文献1では、パルプ繊維を叩解処理及び酵素処理した後に、水流で解繊してセルロースナノファイバーを得て、該セルロースナノファイバーの分散液を乾燥後に熱可塑性樹脂と混練して熱可塑性樹脂組成物を得ている。この方法で得られた熱可塑性樹脂組成物は、比較的安価で、かつサーマルリサイクルの問題や溶媒処理の問題等が生じず、しかも強度が強い。
【0005】
しかし、特許文献1の方法で得られた樹脂組成物は、高圧水流による解繊処理によって製造したセルロースナノファイバーの分散液をポリプロピレン粉末と混合攪拌しながら乾燥させ、その後に熱可塑性樹脂と混練するため、微細化の程度が高いセルロースナノファイバーがその比表面積の大きさから乾燥時に凝集して分散性に問題が生じ、補強効果が十分でなかった。また、高圧水流による解繊処理を実施するため、セルロースナノファイバーを製造する際の固形分濃度が低く、そのため乾燥に多大なエネルギーがかかるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-19976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、乾燥負荷が小さくエネルギー効率に優れた、また高い補強効果を有する繊維強化樹脂マスターバッチ、及びこれを用いた樹脂組成物を提供することを目的とする。また本発明は、この繊維強化樹脂マスターバッチの製造方法、及び樹脂組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下を提供する。
〔1〕少なくともパルプ繊維および熱可塑性樹脂が混練された繊維強化樹脂マスターバッチであって、
前記パルプ繊維が、酵素で処理されたパルプ繊維(A)であり、
前記熱可塑性樹脂が、親水性官能基で変性されており、融点が、母材となる熱可塑性樹脂(M)の融点以下である熱可塑性樹脂(B)であることを特徴とする、
熱可塑性樹脂用の繊維強化樹脂マスターバッチ。
〔2〕 前記〔1〕に記載の繊維強化樹脂マスターバッチと、熱可塑性樹脂(M)とが混練された熱可塑性樹脂組成物。
〔3〕(i)パルプ繊維を酵素で処理する工程、および
(ii)酵素で処理されたパルプ繊維(A)と、親水性官能基で変性されており、融点が、母材となる熱可塑性樹脂(M)の融点以下である熱可塑性樹脂(B)を乾燥および攪拌し、混合物を得る工程、および
(iii)前記工程(ii)で得られた前記混合物を、前記パルプ繊維(A)の分解温度以下の設定温度で混練する工程
とを備える、熱可塑性樹脂用の繊維強化樹脂マスターバッチの製造方法。
〔4〕前記〔3〕に記載の製造方法により製造される繊維強化樹脂マスターバッチと、前記熱可塑性樹脂(M)とを混練する工程を含む、熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、酵素処理したパルプ繊維の解繊と樹脂との混練を同時に行うことで樹脂中における繊維の分散性が向上し、破断伸びに優れた熱可塑性樹脂組成物を得ることができ、かつ機械処理の工程が少なく済むことで、エネルギー不可および環境負荷の小さい樹脂組成物の製造方法を提供することができる。
【0010】
(パルプ繊維(A))
本発明で用いる酵素で処理されたパルプ繊維(A)の原料となるパルプは、パルプ原料をパルプ化することにより得ることができる。パルプ原料としては、木材及び非木材のいずれであってもよい。木材パルプを製造するために用いられる木材原料としては、針葉樹、広葉樹等が挙げられる。非木材パルプを製造するために用いられる非木材原料としては、綿、ヘンプ、サイザル麻、マニラ麻、亜麻、藁、竹、バガス、ケナフ等が挙げられる。パルプ原料(木材原料、非木材原料)は、未晒(漂白前)の状態であってもよいし、晒(漂白後)の状態であってもよい。
【0011】
木材原料をパルプ化する方法は、特に限定されず、製紙業界で一般に用いられるパルプ化法が例示される。木材パルプはパルプ化法により分類でき、例えば、クラフト法、サルファイト法、ソーダ法、ポリサルファイド法等の方法により蒸解した化学パルプ;リファイナー、グラインダー等の機械力によってパルプ化して得られる機械パルプ(TMP);薬品による前処理の後、機械力によるパルプ化を行って得られるセミケミカルパルプ;古紙パルプ;脱墨パルプ等が挙げられる。
【0012】
また、酵素で処理されたパルプ繊維(A)は、リグニン含有量が1質量%以上30質量%以下であり、3質量%以上25質量%以下が好ましく、5質量%以上20質量%以下がより好ましい。リグニン含有量が上記上限値よりも多すぎると、相対的に強化繊維の割合が低下するため補強効果が低下し、上記下限値よりも少なすぎると繊維の凝集が起こりやすくなったり、樹脂との親和性が低下し繊維と樹脂間の界面強度が低下する。リグニンの含有量は、酵素で処理されたパルプ繊維(A)の原料となるパルプ原料に対して、脱リグニン、又は漂白を行うことにより、調整することができる。また、リグニン含有量の測定は、例えばクラーソン法を用いて行うことができる。
【0013】
なお、本発明で用いる酵素で処理されたパルプ繊維(A)は、未変性の状態で使用してもよいが、後述する酵素処理の前に、アセチル化、酸化、エステル化、エーテル化等の化学変性がされていても良い。
【0014】

(酵素処理)
パルプ繊維に酵素処理を施すことで、本発明で用いる酵素で処理されたパルプ繊維(A)を得ることができる。酵素がパルプ繊維表面のアクセス可能な部位と反応し、繊維表面がフィブリル化されることで、パルプ繊維が解繊されやすくなる。パルプ繊維が解繊されやすくなることで樹脂中における繊維の分散性が向上し、結果として破断伸びに優れた熱可塑性樹脂組成物が得られると考えられる。酵素としては、セルラーゼ系酵素及びヘミセルラーゼ系酵素の少なくともいずれか一方を使用するのが好ましい。
【0015】
(セルラーゼ系酵素)
セルラーゼ系酵素とはセルロースを分解できる酵素であり、例えば分子内部からセルロースを分解するエンドグルカナーゼ、分子末端からセルロースを分解するエクソグルカナーゼ、グリコシド結合を加水分解しセロビオースをグルコースに分解するようなβ-グルコシダーゼまたはこれらの混合物が挙げられる。セルラーゼ処理によってパルプの繊維長を過度に短くすることなくパルプ繊維の解繊性を向上させることができる。この機構は明らかでないが、セルラーゼによって分子鎖間の水素結合が弱められ、分子鎖の切断よりも繊維のフィブリル化が優位に進むためと推察される。この観点から、セルラーゼとしては、エンドグルカナーゼ、エクソグルカナーゼ、β-グルコシダーゼ、またはこれらの混合物が好ましい。
【0016】
本発明に用いるセルラーゼの起源は特に限定されず、Trichoderma属、Aspergillus属、Irpex属、Aeromonas属、Clostridium属、Bacillus属、Pseudomonas属、Penicillium属、Humicola属などの各種の起源のもの、または遺伝子組み換えにより製造したものを単独もしくは二種以上を混合して用いることができ、さらには糸状菌、担子菌、細菌類等のセルラーゼを用いることができる。また、セルラーゼの形態についても限定されず、一般に市販されているセルラーゼ製剤や上記菌の培養物やその濾過液を直接使用してもよい。中でも、Trichoderma(トリコデルマ)属、Aspergillus(アスペルギルス)属由来のセルラーゼなどのようなセルロース分解力が高いセルラーゼが好ましい。
【0017】
一般的にセルラーゼは複数のセルラーゼおよび緩衝剤などの種々の薬品を含有するセルラーゼ系薬品として市販されている。本発明においては当該セルラーゼ系薬品を使用してもよく、その例としては、エイチピィアイ社製「セルロイシンT2」、Meiji Seikaファルマ社製「メイセラーゼ(登録商標)」、理研グリーン社製「ハーコボンド(登録商標)8922」、ノボザイム社製「ノボザイム(登録商標)188」「セルクラスト」「FiberCare R」、ジェネンコア社製「マルティフェクトCX10L、B、GCc、GC、ペクチナーゼ(ヘミセルラーゼ)」「Spezyme CP」「GC220」などが挙げられる。
【0018】
(ヘミセルラーゼ系酵素)
ヘミセルラーゼ系酵素とは、水共存下でヘミセルロースの分解を引き起こす酵素である。ヘミセルラーゼ系酵素としては、キシランを分解する酵素であるキシラナーゼ(xylanase)、マンナンを分解する酵素であるマンナーゼ(mannase)、アラバンを分解する酵素であるアラバナーゼ(arabanase)等を例示することができる。
【0019】
また、ペクチンを分解する酵素であるペクチナーゼもヘミセルラ-ゼ系酵素として使用することができる。ヘミセルラーゼ系酵素を産生する微生物は、セルラーゼ系酵素も産生する場合が多い。
【0020】
ヘミセルロースは、植物細胞壁のセルロースミクロフィブリル間にあるペクチン類を除いた多糖類である。ヘミセルロースは多種多様で木材の種類や細胞壁の壁層間でも異なる。針葉樹の2次壁では、グルコマンナンが主成分であり、広葉樹2次壁では4-O-メチルグルクロノキシランが主成分である。そのため、針葉樹の漂白クラフトパルプ(NBKP)から微細繊維状セルロースを得るためにはマンナーゼを使用するのが好ましく、広葉樹の漂白クラフトパルプ(LBKP)の場合はキシラナーゼを使用するのが好ましい。
【0021】
(酵素処理条件)
酵素処理はパルプ繊維のスラリーを酵素と接触させることで実施できる。当該スラリーにおける媒体は水であることが好ましい。スラリー中のパルプ繊維の濃度は限定されないが、好ましくは0.01~10重量%、さらに好ましくは0.1~7.5重量%である。また、酵素のパルプ繊維に対する添加量は、0.1~3重量%が好ましく、0.3~2.5重量%がより好ましく、0.5~2重量%がさらに好ましい。添加量が0.1質量%未満では、酵素による効果が低下するおそれがある。他方、添加量が3質量%を超えるとセルロースやヘミセルロースが糖化され、微細繊維の収率が低下するおそれがあり、また、過剰に添加しても、添加量の増大に見合う効果の向上が認められない。
【0022】
(酵素処理のタイミング)
酵素処理は、その処理前に後述する叩解などの機械的処理を経たものでもよいが、製造効率の観点と機械的処理の摩擦熱によって酵素が失活する観点からは、機械的処理の前に酵素処理を実施することが好ましい。
【0023】
スラリーのpHは使用する酵素によって変動しうるが、セルラーゼ系酵素の場合はpH4~8であることが好ましい。その温度はセルラーゼの活性の観点から、15℃以上であり、好ましくは20℃以上、より好ましくは25℃以上である。また、当該温度の条件はセルラーゼが失活しない条件であれば限定されないが、好ましくは80℃未満、より好ましくは65℃以下である。ヘミセルラーゼ系酵素の場合はpH4~8であることが好ましい。その温度はヘミセルラーゼの活性の観点から、15℃以上であり、好ましくは20℃以上、より好ましくは25℃以上である。また、当該温度の条件はヘミセルラーゼが失活しない条件であれば限定されないが、好ましくは80℃未満、より好ましくは60℃以下である。
【0024】
(失活処理)
酵素処理後に失活処理を行うことが好ましいが、樹脂混練時の熱で失活するため、失活処理の有無はどちらでもよい。失活処理は、酵素の立体構造を変化させる処理を行えばよく、例えば加熱処理、pHの調整、塩濃度の調整、酸化剤の添加、溶媒の添加などが挙げられるが、本発明においては前記スラリーを80℃以上に加熱する方法、またはpHが12程度になるように水酸化ナトリウムなどのアルカリ性物質を添加する方法で酵素を失活させることが好ましい。
【0025】
(濾水度)
酵素処理に用いるパルプは、そのカナダ標準濾水度については特に限定されない。酵素がパルプ繊維中のセルロースに対して均一に浸透し反応する観点から、機械的処理を行って濾水度が600mLより低い場合は、パルプの比表面積が増加し酵素との反応効率が上がることが期待できる。濾水度が600mLを超える場合は、機械的処理工程を省略できるためコスト削減に寄与する観点から好ましい。濾水度の上限値は特に限定されないが、現実的には800mL以下である。なお、パルプ繊維(A)のカナダ標準濾水度は、JIS P 8121-2:2012に従い測定することができる。
【0026】
(機械的処理)
本発明で用いる酵素で処理されたパルプ繊維(A)は、機械的処理をされたものでもよい。本発明において機械的処理とは、一般には水に代表される分散媒中の繊維を混合しさらにフィブリル化することをいい、叩解、分散等を含む。機械的処理に用いる装置は限定されないが、例えば、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などのタイプの装置が挙げられ、高圧または超高圧ホモジナイザー、リファイナー、ビーター、PFIミル、ニーダー、ディスパーザー、高速離解機、トップファイナーなど回転軸を中心として、含水するパルプを金属または刃物とパルプ繊維を作用させるもの、あるいはパルプ繊維同士の摩擦によるものを使用することができる。本発明においては、繊維のフィブリル化を効率的に進めることができるため、機械的処理はリファイナーやニーダーを用いた叩解であることが好ましく、後工程における乾燥負荷を考慮すると、高濃度処理が可能なディスクリファイナーやコニカルリファイナーを用いた叩解処理であることがさらに好ましい。
【0027】
機械的処理は上記酵素で処理されたパルプ繊維(A)と分散媒を含む混合物を用いて実施されるが、その際の固形分濃度は1質量%以上であってもよいが、10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、18質量%以上であるとさらに好ましい。(当該濃度での機械的処理を「高濃度機械的処理」ともいう。)分散媒は限定されず、有機溶媒や水を用いることができるが、好ましくは水である。固形分濃度とは、機械的処理に供される前記混合物における固形分の濃度である。固形分濃度が10質量%以上と高い条件にてパルプに対して叩解等の機械的処理を行うことで、処理効率の向上、ハンドリング性の向上などのメリットが得られる。ハンドリング性としては、例えば、高濃度機械的処理を行った後に希釈処理せずに高濃度のまま輸送することができる点や、高濃度機械的処理を経たパルプ分散液の粘度が高くなくポンプでの輸送効率が良好であること、さらには当該分散液の保存容器内への張り付きなどが少ない等の点が挙げられる。さらに、高濃度機械的処理の後に乾燥工程を実施する場合、揮発する分散媒量が少なく乾燥効率が良好である点も挙げられる。
【0028】
機械的処理時の固形分濃度が50質量%を超えると、処理に伴い装置内で乾燥が進み、材料の焦げ付きが発生しやすくなるため、50質量%以下の条件で処理することが好ましく、40質量%以下の条件がさらに好ましい。
【0029】
また、本発明に用いる酵素で処理されたパルプ繊維(A)は、樹脂中での凝集防止およびハンドリングの観点から、含水率が好ましくは1~90%であり、より好ましくは10~85%であり、さらに好ましくは20~80%である。含水率の測定は、例えば加熱減
量を測定する水分計等を用いて行うことができる。
【0030】
(機械的処理後の濾水度)
本発明で用いる酵素で処理されたパルプ繊維(A)を機械的処理した後のカナダ標準濾水度は、0mL~600mLであることが好ましい。
【0031】
(熱可塑性樹脂(B))
本発明で用いる熱可塑性樹脂(B)は、親水性官能基で変性、好ましくは酸変性されていることが必要である。ここでいう親水性とは、水やセルロース表面との親和性が良好であることを意味する。親水性官能基としては、水酸基,カルボキシ基,カルボニル基,アミノ基,アミド基,スルホ基等が挙げられる。このような熱可塑性樹脂(B1)として、例えば、塩基変性ポリオレフィン、酸変性ポリオレフィン等が挙げられ、中でも、無水マレイン酸変性ポリプロピレン(MAPP)や無水マレイン酸変性ポリエチレン(MAPE)が挙げられる。
【0032】
本発明で用いる熱可塑性樹脂(B)の融点は、易分散性の観点から、後述する熱可塑性樹脂(M)の融点以下である。ここで、例えば、無水マレイン酸変性ポリプロピレン(MAPP)の融点は、150℃であり、無水マレイン酸変性ポリエチレン(MAPE)の融点は、120℃である。
【0033】
熱可塑性樹脂(B)は、相溶化樹脂としての機能を有する。相溶化樹脂とは、疎水性の異なるセルロース繊維と、後述する熱可塑性樹脂(M)との均一混合や密着性を高める働きをするものである。相溶化樹脂としての特徴を決める要素として、例えば、無水マレイン酸変性ポリオレフィンの場合は、ジカルボン酸の付加量と母材となるポリオレフィン樹脂の重量平均分子量があげられる。ジカルボン酸の付加量が多いポリオレフィン樹脂はセルロースのような親水性高分子との相溶性を高めるが、付加の過程で樹脂としての分子量が小さくなってしまい成形物の強度が低下する。最適なバランスとしてジカルボン酸の付加量は、20~100mgKOH/gであり、さらに好ましくは45~65mgKOH/gである。付加量が少ない場合、樹脂中でセルロースの水酸基や変性セルロースに含まれる水酸基や変性官能基との相互作用をする点が少なくなる。また付加量が多い場合、樹脂中のカルボキシル基同士の水素結合などによる自己凝集や、過大な付加反応による母材となるオレフィン樹脂の分子量の減少により強化樹脂としての強度が未達となる。ポリオレフィン樹脂の分子量としては35,000~250,000が好ましく、50,000~100,000がさらに好ましい。分子量がこの範囲から小さい場合は樹脂として強度が低下し、この範囲から大きい場合は溶融時の粘度上昇が大きく、混練時の作業性が低下するとともに成形不良の原因となる。
【0034】
熱可塑性樹脂(B)の配合量は、リグニンを除いたパルプ繊維(A)の質量(100質量%)に対して、10~70質量%が好ましく、20~50質量%がさらに好ましい。添加量が70質量%を超えると、セルロースと樹脂の界面形成に必要な量を超えるため、複合体とした際に強度が低下すると考えられる。
【0035】
また熱可塑性樹脂(B)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上の混合樹脂として用いてもよい。また1種または2種以上のポリマーとポリオレフィンとのグラフト体として使用の場合、グラフト体を構成するポリオレフィン樹脂は特に限定されないが、グラフト体を製造しやすいという観点で、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン等を使用することができる。
【0036】
(繊維強化樹脂マスターバッチ)
本発明の繊維強化樹脂マスターバッチは、少なくとも、酵素で処理されたパルプ繊維(A)と、親水性官能基で変性されており、融点が、母材となる熱可塑性樹脂(M)の融点以下である熱可塑性樹脂(B)とが混練された繊維強化樹脂マスターバッチである。
【0037】
(熱可塑性樹脂(M))
本発明に用いる熱可塑性樹脂(M)としては、溶融温度が250℃以下の、以下の一般的な熱可塑性樹脂を挙げることができる。熱可塑性樹脂(M)は、1種類を単独で使用してもよく、2種以上の樹脂を混合して使用してもよい。熱可塑性樹脂(M)は、本発明において希釈用樹脂と表記することもある。
【0038】
一般的な熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニリデン、フッ素樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリエステル、ポリ乳酸、乳酸とエステルとの共重合樹脂、ポリグリコール酸、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリフェニレンオキシド、ポリウレタン、ポリアセタール、ビニルエーテル樹脂、ポリスルホン系樹脂、セルロース系樹脂(トリアセチル化セルロース、ジアセチル化セルロースなど)等を使用することができる。
【0039】
ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン(以下「PP」とも記す)、エチレン-プロピレン共重合体、ポリイソブチレン、ポリイソプレン、ポリブタジエンなどを使用することが可能である。
【0040】
またポリアミド樹脂(PA)は、尿素の作用を受けていないセルロースの水酸基との相互作用も期待され、好適に使用することができる。PAとしては、ポリアミド6(ナイロン6、PA6)、ポリアミド11(ナイロン11、PA11)、ポリアミド12(ナイロン12、PA12)、ポリアミド66(ナイロン66、PA66)、ポリアミド46(ナイロン46、PA46)、ポリアミド610(ナイロン610、PA610)、ポリアミド612(ナイロン612、PA612))等の脂肪族PA、フェニレンジアミン等の芳香族ジアミンと塩化テレフタロイルや塩化イソフタロイル等の芳香族ジカルボン酸又はその誘導体からなる芳香族PA等を挙げることができる。セルロース繊維、セルロースナノファイバーとの親和性が高い観点から、脂肪族PAを用いることが好ましく、PA6、PA11、PA12を用いることがより好ましく、PA6を用いることが特に好ましい。また、ポリアミド樹脂は、1種類を単独で使用してもよく、2種以上のポリアミド樹脂を混合して使用してもよい。
【0041】
上記で例示した樹脂は、ホモポリマーとしての使用の他に、各種公知の機能を有する樹脂を半量以下含むコポリマーとしたブロック共重合体として使用することも可能である。
【0042】
本発明においては、得られる樹脂組成物の強度が向上する観点から、一級アミンを付与する低分子量の助剤として、尿素を用いてもよい。
【0043】
尿素は、熱分解温度が135℃であり、この135℃を超える状態でアンモニアとイソシアン酸に分解されるが、尿素をセルロース繊維と同時に混練することにより、混練によって新たにパルプ繊維内部から現れた未変性水酸基と発生したイソシアン酸とが反応しウレタン結合の生成を促すと考えられ、尿素処理を行わないパルプ繊維と比較して疎水性が高まることが推測される。さらに酸無水物を有する熱可塑性樹脂(B)と同時に溶融混練することで、パルプ繊維の表面に尿素処理によって新たに導入されたアミノ基と熱可塑性樹脂(B)が有するカルボン酸が親水性相互作用することで、より強固にパルプ繊維と熱可塑性樹脂(B)との複合体を形成することが可能となっていると考えられる。尿素を添加するタイミングは、その熱分解温度から、後述する工程(ii)のタイミングで添加することが好ましい。
【0044】
尿素の配合量は、特に限定されないが、尿素の配合量が多すぎるために繊維が凝集し、強度が低下することを抑制する観点から、リグニンを除いた酵素で処理されたパルプ繊維(A)の質量に対する尿素の質量の割合が、0.8未満が好ましく、0.05以上0.75未満がより好ましく、0.1以上0.7未満がさらに好ましい。
【0045】
(繊維強化樹脂マスターバッチの製造方法)
本発明の繊維強化樹脂マスターバッチの製造方法は、特に限定されないが、例えば、下
記工程(i)、工程(ii)及び工程(iii)を行うことにより製造することができる。
【0046】
(工程(i))
工程(i)では、パルプ繊維を酵素で処理する。
工程(i)において、酵素処理する装置としては、分散液の温度を一定範囲に保ちながら攪拌できる装置であればなんでもよい。
【0047】
(工程(ii))
工程(ii)では、酵素で処理されたパルプ繊維(A)と熱可塑性樹脂(B)を乾燥および攪拌し、混合物を得る。工程(ii)において尿素を添加してもよい。
【0048】
工程(ii)において、原料組成物を撹拌しながら所定温度で加熱して乾燥させる(分散媒を揮発させる)装置としては、一軸または多軸混練機(押出機)を挙げることができる。汎用性の観点から二軸混練機を用いることが好ましい。 工程(ii)で乾燥及び攪拌を行う際の、混練機のバレルの設定温度は特に限定されないが、最高温度は、酵素で処理されたパルプ繊維(A)の分解温度以下とすることが好ましく、最低温度は、溶媒を揮発させることができる温度以上とすることが好ましい。また、尿素を同時に添加する場合は、尿素の分解温度以下である135度以下とすることが好ましい。
【0049】
工程(ii)において、混練機に投入する酵素で処理されたパルプ繊維(A)の固形分濃度が10~50質量%となる量が好ましく、20~40質量%となる量がより好ましい。混練開始時のセルロース繊維の固形分濃度が上記下限値より低すぎると、乾燥負荷が上がり、乾燥が不十分となる結果、後述する工程(iii)(マスターバッチ混練工程)で混練する混合物に分散媒が持ち込まれ、最終的に得られる樹脂組成物の強度が低下するおそれがある。混練開始時のセルロース繊維の固形分濃度が上記上限値より高すぎると、分散媒のセルロース繊維への浸透が悪くなり、不均一となる。
【0050】
工程(ii)においては、得られる混合物の固形分濃度が90質量%以上100質量%以下となるまで分散媒の除去を行うことが好ましく、95質量%以上100質量%以下がより好ましい。
【0051】
(工程(iii))
工程(iii)では、前記工程(ii)で得られた前記混合物を、工程(ii)で使用した混練機と同一又は異なる混練機で溶融混練して繊維強化マスターバッチを得る。酵素で処理されたパルプ繊維(A)の分解温度以下の設定温度で混練する。
【0052】
本発明の工程(iii)で混練を行う装置としては、一軸または多軸混練機(押出機)を用いることが好ましい。酵素で処理されたパルプ繊維(A)と熱可塑性樹脂(B)とを溶融混練可能であることに加え、パルプのナノ化を促す強い混練力を有する観点から、二軸混練機(押出機)、四軸混練機(押出機)等の多軸混練機(押出機)を、スクリューを構成するパーツにニーディングやローターなどを複数含む構成であることが望ましい。
【0053】
工程(iii)でマスターバッチ混練を行う際の、混練機のバレルの設定温度は特に限定されないが、最高温度は、酵素で処理されたパルプ繊維(A)の分解温度以下とすることが好ましく、最低温度は、熱可塑性樹脂(B)の溶融温度以上とすることが好ましい。例えば、熱可塑性樹脂(B)として無水マレイン酸変性ポリプロピレンを用いる場合は、最高温度は135℃以上、200℃以下が好ましく、150℃以上、180℃以下がより好ましい。なお、最低温度については、安定運転ができる限り限定されないが、好ましくは60℃以上である。
【0054】
(希釈混練工程)
希釈混練工程では、工程(iii)で得られた繊維強化樹脂マスターバッチと、熱可塑性樹脂(M)とを混練する。言い換えれば、工程(iii)で得られたマスターバッチと希釈用樹脂とを混練する。
【0055】
熱可塑性樹脂(M)を加えて溶融混練する際には、マスターバッチと熱可塑性樹脂(M)とを室温下で加熱せずに混合してから溶融混練しても、加熱しながら混合して溶融混練しても良い。
【0056】
熱可塑性樹脂(M)を加えて溶融混練を行う場合の装置としては、上記の工程(iii)(マスターバッチ混練工程)で用いる装置と同様のものを使用することができる。また、溶融混練時の加熱設定温度は、熱可塑性樹脂(M)について熱可塑性樹脂供給業者が推奨する最低加工温度±10℃程度が好ましい。温度をこの温度範囲に設定することにより、パルプと樹脂を均一に混合することができる。
【0057】
本発明の製造方法により製造される樹脂組成物は、更に、例えば、界面活性剤;でんぷん類、アルギン酸等の多糖類;ゼラチン、ニカワ、カゼイン等の天然たんぱく質;タンニン、ゼオライト、セラミックス、金属粉末等の無機化合物;着色剤;可塑剤;香料;顔料;流動調整剤;レベリング剤;導電剤;帯電防止剤;紫外線吸収剤;紫外線分散剤;消臭剤、酸化防止剤等の添加剤を配合してもよい。任意の添加剤の含有割合としては、本発明の効果が損なわれない範囲で適宜含有されてもよい。
【0058】
本発明によれば、酵素処理したパルプ繊維の解繊と樹脂との混練を同時に行うことで樹脂中における繊維の分散性が向上し、破断伸びに優れた熱可塑性樹脂組成物を得ることができ、低コストな樹脂組成物の製造方法を提供することができる。
【0059】
(用途)
本発明の製造方法により製造される樹脂組成物を用いて、成形材料及び成形体(成型材料及び成型体)を製造することができる。成形体の形状としては、フィルム状、シート状、板状、ペレット状、粉末状、立体構造など各種形状等の各種形状の成形体が挙げられる。成形方法として、金型成形、射出成形、押出成形、中空成形、発泡成形等を用いることができる。
【0060】
成形体(成型体)は、セルロース繊維を含むマトリックス成形物(成形物)が使用される繊維強化プラスチック分野に加え、熱可塑性及び機械強度(引張り強度等)が要求される分野にも使用できる。
【0061】
自動車、電車、船舶、飛行機等の輸送機器の内装材、外装材、構造材等;パソコン、テレビ、電話、時計等の電化製品等の筺体、構造材、内部部品等;携帯電話等の移動通信機器等の筺体、構造材、内部部品等;携帯音楽再生機器、映像再生機器、印刷機器、複写機器、スポーツ用品等の筺体、構造材、内部部品等;建築材;文具等の事務機器等、容器、コンテナー等として有効に使用することができる。
【実施例0062】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0063】
(カナダ標準濾水度(CSF)の測定)
実施例および比較例で用いたパルプ繊維のカナダ標準濾水度は、JIS P 8121-2:2012に従い測定した。
【0064】
(リグニン含有量の測定)
実施例および比較例で用いたパルプ繊維のリグニン含有量は、定量法として通常用いられるクラーソン法に基づき測定した(クラーソンリグニン)。また、リグニン含有量は、JIS P 8211:2011に従い測定したカッパー価をもとに導出することもできる。一般的にパルプの種類ごとにリグニン含有量とカッパー価の関係は変化するため、上記クラーソンリグニンとの相関を導出する必要があり、例えば針葉樹クラフトパルプの場合はリグニン含有量=カッパー価×0.15で導出することもできる。なお、本明細書においては、リグニン含有量が10質量%の場合は、リグニン量10とした。
【0065】
(引張弾性率の測定)
実施例および比較例で得られたペレット状の樹脂成型体150gを小型成形機(Xplore Instruments社製「MC15」)に投入し、加熱筒(シリンダー)の温度200℃、金型温度40℃の条件で、ダンベル型試験片(タイプA12、JIS K 7139)を成形した。得られた試験片について、精密万能試験機(島津製作所(株)製「オートグラフAG-Xplus」)を用いて、試験速度1mm/分、初期標線間距離30mmで引張弾性率を測定した。希釈用樹脂(hPP)のみを用いて上記と同様にダンベル型試験片を成形し、得られた試験片について上記と同様に引張弾性率を測定し、hPPニート樹脂の引張弾性率を100としたときの、各サンプルの測定値の比率を補強率とし、その結果を表1に示す。
【0066】
(曲げ強度の測定)
実施例および比較例で得られたペレット状の樹脂成型体150gを小型成形機(Xplore Instruments社製「MC15」)に投入し、加熱筒(シリンダー)の温度250℃、金型温度は40℃の条件で、バー試験片を成形した(厚さ4mm、並行部長さ80mm)。得られた試験片について、精密万能試験機(島津製作所(株)製「オートグラフAG-Xplus」を用いて、試験速度10mm/分、支点間距離は64mmで弾性率、最大応力、及び破断変位を測定した。測定値を表1及び表2に示す。
【0067】
(マスターバッチ及び樹脂組成物の製造に使用した材料)
(A)酵素で処理されたパルプ繊維(分解温度:299℃)
(B)熱可塑性樹脂
・無水マレイン酸変性ポリプロピレン(MAPP):(東洋紡(株)製 トーヨータックPMA-H1000P:ジカルボン酸の付加量 57mgKOH/g、融点:150℃)
(M)希釈用樹脂
・ホモポリプロピレン(hPP):(日本ポリプロ(株)製PP MA04A、融点:165℃)
・セルラーゼ(和光純薬、アスペルギルス属由来)
【0068】
(製造例1)
(パルプ繊維1の製造)
リグニン含有量が7.9質量%である針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)分散液10L(固形分濃度2.5質量%)に対して,対パルプ固形分0.5質量%のセルラーゼ(和光純薬)を添加し、45℃で90分間撹拌してセルラーゼ処理を行った。次いで、当該分散液を80℃で30分間加熱し、失活処理を行った。失活処理後の分散液を、カナダ標準濾水度(CSF)が0mLになるまでシングルディスクリファイナー(熊谷理機工業社製、プレートの刃幅:4mm、溝幅:5mm)を用い、クリアランス:0.25mmの条件で3回叩解処理を行い、含水率20%のパルプ繊維1を得た。
【0069】
(製造例2)
(パルプ繊維2の製造)
固形分濃度18質量%でリグニン含有量が7.9質量%である針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)をカナダ標準濾水度(CSF)が0mLになるまでシングルディスクリファイナー(熊谷理機工業社製、プレートの刃幅:4mm、溝幅:5mm)を用い、クリアランス:0.25mmの条件で4回叩解処理を行い、含水率20%のパルプ繊維2を得た。
【0070】
(実施例1)
(マスターバッチの製造)
製造例1で製造したパルプ繊維1を固形分で391gと、MAPP108gと、尿素(顆粒状:三井化学製)252gを、二軸押出機を用いて130℃以下の条件で乾燥及び撹拌し、混合物を得た。この混合物の全量を、二軸押出機を用いて180℃以下の条件で混練し、マスターバッチを得た。
【0071】
(樹脂組成物の製造)
得られたマスターバッチ41.8gと希釈用樹脂(hPP)158.2gとを混合し、二軸押出機を用いて180℃以下の加熱条件下で混練した。次いで溶融混練物を、ペレタイザーを用いてペレット化し、パルプ繊維1、MAPP、尿素由来化合物、希釈用樹脂(hPP)を含むペレット状の樹脂組成物(成形体)を得た。
【0072】
(比較例1)
パルプ繊維1にパルプ繊維2を用いたこと以外は実施例1と同様にして、マスターバッチおよび樹脂組成物(成型体)を製造した。
【0073】
【表1】
【0074】
表1からわかるように、少なくとも酵素で処理されたパルプ繊維(A)と親水性官能基で変性された熱可塑性樹脂(B)が混練された繊維強化樹脂マスターバッチと、希釈用樹脂である熱可塑性樹脂(M)とが混練された実施例1の樹脂組成物は、酵素で処理されたパルプ繊維(A)の代わりに、酵素で処理されていないパルプ繊維を用いた比較例1の樹脂組成物よりも、破断変位が大きく、破断伸びに優れるものであった。