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特開2023-115635プラズマ処理装置用部材、および、スパッタリングターゲット、スパッタリングターゲット接合体
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  • 特開-プラズマ処理装置用部材、および、スパッタリングターゲット、スパッタリングターゲット接合体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023115635
(43)【公開日】2023-08-21
(54)【発明の名称】プラズマ処理装置用部材、および、スパッタリングターゲット、スパッタリングターゲット接合体
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20230814BHJP
   C04B 35/563 20060101ALI20230814BHJP
   C04B 37/02 20060101ALI20230814BHJP
   G03F 1/24 20120101ALI20230814BHJP
【FI】
C23C14/34 A
C04B35/563
C04B37/02 B
G03F1/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022017974
(22)【出願日】2022-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】林 雄二郎
(72)【発明者】
【氏名】梅本 啓太
【テーマコード(参考)】
2H195
4G026
4K029
【Fターム(参考)】
2H195BA10
2H195BB25
2H195CA16
2H195CA22
4G026BA13
4G026BB22
4G026BF12
4G026BG02
4G026BH13
4K029BA55
4K029BC07
4K029BD09
4K029CA05
4K029DC05
4K029DC09
4K029DC24
4K029DC34
(57)【要約】
【課題】密度が十分に高く耐プラズマ性に優れたプラズマ処理装置用部材、および、異常放電およびパーティクルの発生を抑制でき、安定して高品質な膜を成膜することが可能なスパッタリングターゲット、スパッタリングターゲット接合体を提供する。
【解決手段】プラズマ処理装置の内部で用いられるプラズマ処理装置用部材であって、炭化ホウ素相を母相とし、炭素含有量が17原子%以上21原子%以下の範囲内とされており、前記炭化ホウ素相の平均粒径が10μm以下であり、密度比が97%以上であることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ処理装置の内部で用いられるプラズマ処理装置用部材であって、
炭化ホウ素相を母相とし、炭素量が17原子%以上21原子%以下の範囲内とされており、
前記炭化ホウ素相の平均粒径が10μm以下であり、密度比が97%以上であることを特徴とするプラズマ処理装置用部材。
【請求項2】
母相中に炭素単体相が分散しており、前記炭素単体相の平均粒径が1μm以下とされ、前記炭素単体相の面積率が1%以下であることを特徴とする請求項1に記載のプラズマ処理装置用部材。
【請求項3】
酸素含有量が1000massppm以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のプラズマ処理装置用部材。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のプラズマ処理装置用部材からなることを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項5】
請求項4に記載のスパッタリングターゲットと、このスパッタリングターゲットと接合されたバッキング部材と、を備えたスパッタリングターゲット接合体であって、
前記スパッタリングターゲットと前記バッキング部材とは、Inを含む接合材を用いて接合されており、
前記スパッタリングターゲットと前記バッキング部材の接合界面には、B-C-In複合酸化物が形成されていることを特徴とするスパッタリングターゲット接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ処理装置の内部で用いられるプラズマ処理装置用部材、および、スパッタリングターゲット、スパッタリングターゲット接合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば10nm程度の微細な配線パターンを形成する際に用いられるEUV(極端紫外線)マスクブランクスのEUV反射膜として、特許文献1に示すように、低屈折率相と高屈折率層とを積層した多層膜が提案されている。
高屈折率膜として、Si含有膜が用いられている。また、低屈折率膜として、MoやNbの窒化物膜、炭化物膜、ホウ化物膜、が用いられている。
【0003】
最近では、さらに短波長のBeyond EUVが提案されており、この場合のマスクブランクスのEUV反射膜としては、例えばLa/B4C(炭化ホウ素)の積層膜が用いられている。
ここで、B4C(炭化ホウ素)膜を成膜するスパッタリングターゲットとしては、例えば特許文献2に開示されたものが提案されている。
この特許文献2においては、炭化ホウ素を主成分としたターゲットにアルカリ金属又はアルカリ金属の化合物を1種又は2種以上を添加したものとされている。
【0004】
また、例えば、半導体デバイス製造プロセスに使用されるプラズマエッチング装置やプラズマ成膜装置等のプラズマ処理装置の内部で用いられるプラズマ処理装置用部材としては、Si製の部材(例えば、Si電極、Siリング等)が広く使用されている。
ここで、プラズマ処理装置においては、その内部でプラズマの発生させることから、プラズマ処理装置用部材においては、耐プラズマ性の向上が求められている。そこで、プラズマ処理装置用部材を炭化ホウ素で構成することも考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-160354号公報
【特許文献2】特開2006-249553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献2のスパッタリングターゲットにおいては、アルカリ金属を添加していることから純度が低く、光学特性に優れた膜を安定して成膜することができないおそれがあった。
また、炭化ホウ素の焼結体で構成されたプラズマ処理装置用部材においては、炭化ホウ素の焼結性が低いために空隙が生じ易く、密度が十分に向上せず、耐プラズマ性が低下するおそれがあった。
また、スパッタリングターゲットの場合には、密度が低いと、空隙に起因した異常放電が発生し、パーティクルの原因となる。EUVマスクブランクスは微細な配線パターンを形成する際に用いられるため、スパッタ成膜時にパーティクルが発生すると、成膜した膜を、EUV反射膜として利用することができないおそれがあった。
【0007】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、密度が十分に高く耐プラズマ性に優れたプラズマ処理装置用部材、および、異常放電およびパーティクルの発生を抑制でき、安定して高品質な膜を成膜することが可能なスパッタリングターゲット、スパッタリングターゲット接合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のプラズマ処理装置用部材は、プラズマ処理装置の内部で用いられるプラズマ処理装置用部材であって、炭化ホウ素相を母相とし、炭素含有量が17原子%以上21原子%以下の範囲内とされており、前記炭化ホウ素相の平均粒径が10μm以下であり、密度比が97%以上であることを特徴としている。
【0009】
この構成のプラズマ処理装置用部材によれば、炭化ホウ素相を母相とし、炭素含有量が17原子%以上21原子%以下とされているので、C(炭素)の欠損のないB4Cが十分に形成されており、耐プラズマ性に優れている。また、余剰のCが炭化ホウ素相の間に存在し、密度を十分に向上させることができる。
また、前記炭化ホウ素相の平均粒径が10μm以下とされているので、密度比を97%以上と高くすることができ、耐プラズマ性に優れている。
【0010】
本発明のプラズマ処理装置用部材においては、母相中に炭素単体相が分散しており、前記炭素単体相の平均粒径が1μm以下とされ、前記炭素単体相の面積率が1%以下であることが好ましい。
この場合、炭化ホウ素相からなる母相中に炭素単体相が分散しているので、密度を十分に向上させることができる。また、炭素単体相によって酸化物を還元することが可能となる。
さらに、前記炭素単体相の平均粒径が1μm以下とされ、前記炭素単体相の面積率が1%以下とされているので、この炭素単体相を起因とした異常放電やパーティクルの発生を抑制することができる。
【0011】
また、本発明のプラズマ処理装置用部材においては、酸素含有量が1000massppm以下であることが好ましい。
この場合、酸素含有量が1000massppm以下に制限されているので、耐プラズマ性にさらに優れている。また、酸化物を起因とした異常放電やパーティクルの発生を抑制することができる。
【0012】
本発明のスパッタリングターゲットは、上述のプラズマ処理装置用部材からなることを特徴としている。
この構成のスパッタリングターゲットによれば、上述のプラズマ処理装置用部材で構成されているので、密度が十分に高く、異常放電やパーティクルの発生を抑制でき、安定して成膜を行うことができる。
【0013】
本発明のスパッタリングターゲット接合体は、上述のスパッタリングターゲットと、このスパッタリングターゲットと接合されたバッキング部材と、を備えたスパッタリングターゲット接合体であって、前記スパッタリングターゲットと前記バッキング部材とは、Inを含む接合材を用いて接合されており、前記スパッタリングターゲットと前記バッキング部材の接合界面には、B-C-In複合酸化物が形成されていることを特徴としている。
【0014】
この構成のスパッタリングターゲット接合体によれば、上述のスパッタリングターゲットを備えているので、密度が十分に高く、異常放電やパーティクルの発生を抑制でき、安定して成膜を行うことができる。
そして、前記スパッタリングターゲットと前記バッキング部材とがInを含む接合材を用いて接合され、前記スパッタリングターゲットと前記バッキング部材の接合界面にB-C-In複合酸化物が形成されているので、スパッタリングターゲットとバッキング部材との接合信頼性に優れており、安定して成膜することが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、密度が十分に高く耐プラズマ性に優れたプラズマ処理装置用部材、および、異常放電およびパーティクルの発生を抑制でき、安定して高品質な膜を成膜することが可能なスパッタリングターゲット、スパッタリングターゲット接合体を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係るプラズマ処理装置用部材の組織の観察写真である。
図2】本発明の一実施形態に係るスパッタリングターゲット接合体の概略説明図である。
図3】本発明の一実施形態に係るスパッタリングターゲット接合体の接合界面の観察写真である。
図4】本発明の一実施形態に係るプラズマ処理装置用部材の製造方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の実施形態であるプラズマ処理装置用部材、および、スパッタリングターゲット、スパッタリングターゲット接合体について説明する。なお、本実施形態におけるプラズマ処理装置用部材10は、スパッタリングターゲット、シリコン製の部材(例えば、Si電極、Siリング等)を含む。
【0018】
<プラズマ処理装置用部材(スパッタリングターゲット)>
本実施形態に係るプラズマ処理装置用部材10は、プラズマエッチング装置やプラズマ成膜装置等のプラズマ処理装置の内部で使用される部材であり、使用時にプラズマが照射される部材である。本実施形態では、プラズマ処理装置用部材10はスパッタリングターゲットとされている。
そして、本実施形態であるプラズマ処理装置用部材10(スパッタリングターゲット)は、例えば、EUV(極端紫外線)マスクブランクスのEUV反射膜として使用される膜を成膜する際に用いられる。
【0019】
なお、本実施形態であるプラズマ処理装置用部材10(スパッタリングターゲット)においては、その形状に特に限定はなく、スパッタ面が矩形状をなす矩形平板型スパッタリングターゲットであってもよいし、スパッタ面が円形をなす円板型スパッタリングターゲットとしてもよい。あるいは、スパッタ面が円筒面とされた円筒型スパッタリングターゲットであってもよい。
【0020】
本実施形態に係るプラズマ処理装置用部材10(スパッタリングターゲット)においては、炭化ホウ素相11を母相としており、炭素含有量が17原子%以上21原子%以下の範囲内とされている。なお、本実施形態においては、アルカリ金属を添加しておらず、プラズマ処理装置用部材10におけるアルカリ金属の含有量は0.1原子%以下である。
そして、本実施形態においては、母相となる炭化ホウ素相11の平均粒径が10μm以下とされている。
また、本実施形態においては、密度比が97%以上とされている。
【0021】
さらに、本実施形態に係るプラズマ処理装置用部材10(スパッタリングターゲット)においては、図1に示すように、炭化ホウ素相11の母相中に炭素単体相12が分散しており、この炭素単体相12の平均粒径が1μm以下とされ、炭素単体相12の面積率が1%以下とされていることが好ましい。
また、本実施形態においては、プラズマ処理装置用部材10における酸素含有量が1000massppm以下であることが好ましい。
さらに、本実施形態においては、プラズマ処理装置用部材10における窒素含有量が3000massppm以下であることが好ましい。また、プラズマ処理装置用部材10における水素含有量が3000massppm以下であることが好ましい。
【0022】
以下に、本実施形態のプラズマ処理装置用部材10(スパッタリングターゲット)において、炭素含有量、炭化ホウ素相11の平均粒径、密度比、炭素単体相12の平均粒径、炭素単体相12の面積率、酸素含有量について、上述のように規定した理由を示す。
【0023】
(炭素含有量)
本実施形態に係るプラズマ処理装置用部材10(スパッタリングターゲット)においては、炭素含有量が17原子%以上とされていることから、炭化ホウ素相11は、Cの欠損が少なくほとんどがB4Cで構成されることになる。また、本実施形態では、炭素含有量が21原子%以下とされていることから、余剰の炭素量が抑えられており、余剰の炭素単体を起因とした異常放電の発生を抑制することが可能となる。また、本実施形態では、炭素含有量は17.5原子%以上21原子%以下としてもよい。
なお、本実施形態に係るプラズマ処理装置用部材10(スパッタリングターゲット)において、炭素含有量の下限は18.0原子%以上とすることが好ましく、18.5原子%以上とすることがより好ましい。一方、炭素含有量の上限は20.7原子%以下とすることが好ましく、20.5原子%以下とすることがより好ましい。
ここで、本実施形態において、プラズマ処理装置用部材10(スパッタリングターゲット)における炭素含有量は、炭化ホウ素相11および炭素単体相12における炭素含有量の合計であり、プラズマ処理装置用部材10(スパッタリングターゲット)全体に含まれる炭素量である。
【0024】
(炭化ホウ素相の平均粒径)
本実施形態においては、母相となる炭化ホウ素相11の平均粒径が10μm以下に制限されていることから、比較的小径の炭化ホウ素の粉末を用いて焼結されており、焼結性が向上し、密度を向上させることができる。
なお、本実施形態に係るプラズマ処理装置用部材10(スパッタリングターゲット)において、炭化ホウ素相11の平均粒径は7μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましい。また、炭化ホウ素相11の平均粒径の下限に特に制限はないが、実質的には0.1μm以上となる。
【0025】
(密度比)
本実施形態においては、密度比が97%以上とされているので、密度が十分に高く空隙が少ないため、空隙を起因とした異常放電の発生やパーティクルの発生を抑制することが可能となる。
なお、本実施形態に係るプラズマ処理装置用部材10(スパッタリングターゲット)において、密度比は98%以上であることが好ましく、99%以上であることがより好ましい。
【0026】
(炭素単体相の平均粒径)
本実施形態に係るプラズマ処理装置用部材10(スパッタリングターゲット)において、炭化ホウ素相11からなる母相中に分散した炭素単体相12の平均粒径が1μm以下とされている場合には、炭素単体相12を起因とした異常放電の発生やパーティクルの発生を抑制することが可能となる。
なお、炭素単体相12の平均粒径は0.7μm以下とされていることがより好ましく、0.5μm以下とされていることがさらに好ましい。また、炭素単体相12の平均粒径の下限に特に制限はないが、実質的に0.01μm以上となる。
【0027】
(炭素単体相の面積率)
本実施形態に係るプラズマ処理装置用部材10(スパッタリングターゲット)において、炭化ホウ素相11からなる母相中に分散した炭素単体相12の面積率が1%以下とされている場合には、炭素単体相12が必要以上に存在せず、炭素単体相12を起因とした異常放電の発生やパーティクルの発生を抑制することが可能となる。
なお、炭素単体相12の面積率は0.7%以下とされていることがより好ましく、0.5%以下とされていることがさらに好ましい。また、炭素単体相12の面積率の下限に特に制限はないが0.1%以上であることが好ましい。
【0028】
(酸素含有量)
本実施形態に係るプラズマ処理装置用部材10(スパッタリングターゲット)において、酸素含有量を1000massppm以下に制限した場合には、酸素を含む介在物の発生を抑制でき、介在物を起因とした異常放電の発生を抑制でき、パーティクルの発生を抑制することができる。
なお、酸素含有量は800massppm以下とすることがより好ましく、500massppm以下とすることがさらに好ましい。なお、酸素含有量の下限に特に制限はないが、実質的には、10massppm以上となる。
【0029】
<スパッタリングターゲット接合体>
また、本実施形態に係るスパッタリングターゲット接合体20は、図2に示すように、上述のプラズマ処理装置用部材10(スパッタリングターゲット)と、このプラズマ処理装置用部材10(スパッタリングターゲット)と接合されたバッキング部材21とを備えている。
本実施形態では、図2に示すように、平板状のプラズマ処理装置用部材10(スパッタリングターゲット)とバッキング部材21(バッキングプレート)とが接合されたものとされている。
【0030】
プラズマ処理装置用部材10(スパッタリングターゲット)とバッキング部材21は、Inを含むはんだ材で接合されており、プラズマ処理装置用部材10(スパッタリングターゲット)とバッキング部材21との間にはんだ層23が形成されている。
そして、図3に示すように、プラズマ処理装置用部材10(スパッタリングターゲット)とバッキング部材21との界面には、B-C-In複合酸化物25が形成されている。
【0031】
<プラズマ処理装置用部材(スパッタリングターゲット)の製造方法>
次に、上述した本実施形態に係るプラズマ処理装置用部材10(スパッタリングターゲット)の製造方法の一例について、図4のフロー図を参照して説明する。
【0032】
(焼結原料粉形成工程S01)
原料粉として、粒子径(D50)が0.1μm以上0.8μm以下の範囲内とされた第1炭化ホウ素粉と、粒子径(D50)が0.8μm超え20.0μm以下の範囲内とされた第2炭化ホウ素粉と、必要に応じて炭素粉と、を準備する。
そして、第1炭化ホウ素粉と第2炭化ホウ素粉と炭素粉とを、不活性ガス雰囲気で乾式混合し、焼結原料粉を得る。
ここで、第1炭化ホウ素粉と第2炭化ホウ素粉の混合比は体積比で20:80~80:20の範囲内とした。
【0033】
(還元処理工程S02)
次に、上述のように混合した焼結原料粉を、15Pa以下の真空雰囲気下で加熱保持する。
なお、還元処理工程S02における加熱温度は、1000℃以上1500℃以下の範囲内とすることが好ましい。また、加熱温度での保持時間は2時間以上4時間以下の範囲内とすることが好ましい。
【0034】
(焼結工程S03)
還元処理した焼結原料粉を、成形容器内に充填し、これを加熱および加圧して焼結し、焼結体を得る。なお、本実施形態では、ホットプレス(HP)によって焼結を行う。
この焼結工程S03における焼結温度は、1800℃以上2300℃以下の範囲内、焼結温度での保持時間を120分以上240分以下の範囲内とする。また、焼結工程S05における加圧圧力は15MPa以上とする。
【0035】
ここで、本実施形態において、焼結温度は1850℃以上とすることが好ましく、1900℃以上とすることがより好ましい。また、焼結温度は2150℃以下とすることが好ましく、2000℃以下とすることがより好ましい。
また、焼結温度での保持時間は180分以上とすることがより好ましい。また、焼結温度での保持時間は210分以下とすることがより好ましく、195分とすることがさらに好ましい。
さらに、加圧圧力は20MPa以上とすることが好ましく、30MPa以上とすることがより好ましい。
【0036】
(加工工程S04)
次に、得られた焼結体に対して、機械加工を行い、所定サイズのプラズマ処理装置用部材10(スパッタリングターゲット)を得る。
以上のようにして、本実施形態に係るプラズマ処理装置用部材10(スパッタリングターゲット)が製造される。
【0037】
(ボンディング工程S05)
次に、得られたプラズマ処理装置用部材10(スパッタリングターゲット)を、バッキング部材21にボンディングする。なお、平板形状のプラズマ処理装置用部材10(スパッタリングターゲット)の場合にはバッキングプレートにボンディングし、円筒形状のプラズマ処理装置用部材10(スパッタリングターゲット)の場合にはバッキングチューブにボンディングすることになる。
本実施形態では、Inはんだを用いてプラズマ処理装置用部材10(スパッタリングターゲット)とバッキング部材21とを接合している。
なお、ボンディング工程における加熱温度は170℃以上230℃以下の範囲内、加熱温度での保持時間を15分以上60分以下の範囲内とすることが好ましい。
【0038】
上述の工程により、本実施形態であるスパッタリングターゲット接合体20が製造されることになる。
【0039】
以上のような構成とされた本実施形態であるプラズマ処理装置用部材10(スパッタリングターゲット)によれば、炭化ホウ素相11を母相としており、炭素含有量が17原子%以上21原子%以下の範囲内とされているので、Cの欠損のないB4Cが十分に形成されており、耐プラズマ性に優れている。また、余剰のCが炭化ホウ素相11の間に存在し、密度を十分に向上させることができる。
さらに、炭化ホウ素相11の平均粒径が10μm以下とされているので、密度比を97%以上と高くすることができ、耐プラズマ性に優れている。
【0040】
本実施形態であるプラズマ処理装置用部材10(スパッタリングターゲット)において、炭化ホウ素相11の母相中に炭素単体相12が分散している場合には、密度を十分に向上させることができるとともに、炭素単体相12によって酸化物を還元することが可能となる。
そして、炭素単体相12の平均粒径が1μm以下とされ、炭素単体相12の面積率が1%以下とされている場合には、炭素単体相12を起因とした異常放電やパーティクルの発生を抑制することができる。
【0041】
また、本実施形態であるプラズマ処理装置用部材10(スパッタリングターゲット)において、酸素含有量が1000massppm以下である場合には、耐プラズマ性にさらに優れている。また、酸化物を起因とした異常放電やパーティクルの発生を抑制することができる。
【0042】
本発明のスパッタリングターゲットは、上述のプラズマ処理装置用部材からなることを特徴としている。
この構成のスパッタリングターゲットによれば、上述のプラズマ処理装置用部材で構成されているので、密度が十分に高く、異常放電やパーティクルの発生を抑制でき、安定して成膜を行うことができる。
【0043】
本実施形態であるスパッタリングターゲット接合体20においては、上述のプラズマ処理装置用部材10(スパッタリングターゲット)とバッキング部材21とがInを含む接合材を用いて接合されており、プラズマ処理装置用部材10(スパッタリングターゲット)とバッキング部材21の接合界面には、B-C-In複合酸化物25が形成されているので、プラズマ処理装置用部材10(スパッタリングターゲット)とバッキング部材21との接合信頼性に優れており、安定して成膜することが可能となる。
また、プラズマ処理装置用部材10(スパッタリングターゲット)の密度が十分に高いため、異常放電やパーティクルの発生を抑制でき、安定して成膜を行うことができる。
【0044】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
本実施形態では、プラズマ処理装置用部材10としてスパッタリングターゲットを例に挙げて説明したが、これに限定されることはなく、プラズマ処理装置内に配置されるプラズマ処理装置用部材であれば、特に制限はない。
【実施例0045】
以下に、本発明の有効性を確認するために行った確認実験の結果について表1および表2を参照して説明する。
【0046】
炭化ホウ素のインゴットをハンマーミルによって粉砕し、分級機によって分級し、表1に示すように、粒子径(D50)の小さな第1炭化ホウ素粉と、粒子径(D50)が大きな第2炭化ホウ素粉を得た。また、表1に示す粒子径(D50)の炭素粉を準備した。
これらの原料粉を、表1に示す体積比となるように秤量し、Ar充填した乾式ボールミル装置によって混合し、焼結原料粉を得た。
【0047】
この焼結原料粉に対して、15Pa以下の真空雰囲気で、1200℃で3時間保持の還元処理を実施した。なお、本発明例5においては、還元処理を実施しなかった。
次に、焼結原料粉をカーボン製の成形型に充填し、真空雰囲気のホットプレス装置(HP)を用いて、焼結温度2000℃、加圧荷重35MPaの条件で、180分保持の加圧焼結を行った。
【0048】
得られた焼結体を機械加工し、152.4mmφ×6mmの円板状のスパッタリングターゲットを得た。
このスパッタリングターゲットをCu製のバッキングプレートに、表1に示すはんだを用いてボンディングした。
【0049】
得られたスパッタリングターゲット、および、スパッタリングターゲット接合体について、以下の項目について評価した。
【0050】
(原料粉の粒子径)
原料粉(第1炭化ホウ素粉、第2炭化ホウ素粉、炭素粉)について、粒度分布計で粒度分布を測定しD50を粒子径として規定した。評価結果を表1に示す。
【0051】
(炭素含有量)
得られた焼結体から測定試料を採取し、不活性ガス溶融-赤外線吸収法によって炭素含有量を分析した。評価結果を表2に示す。
【0052】
(炭化ホウ素相の平均粒径)
得られたスパッタリングターゲットの表面について、走査電子顕微鏡で加速電圧5.0kVの条件の下、8000倍の倍率で反射電子像を観察した。そして、観察された炭化ホウ素相の平均粒径を、切断法にて測定した。
【0053】
(密度比)
得られたスパッタリングターゲットの重量を電子天秤で測定し、寸法をノギスで測定した。得られた重量と体積から密度を算出した。算出した密度をBCの理論密度(2.50g/cm)で割ることで密度比を算出した。なお、炭素粉を添加している場合にも、同様に密度比を算出した。評価結果を表2に示す。
【0054】
(炭素単体相の平均粒径および面積率)
得られたスパッタリングターゲットの表面についてEPMAを用いて3000倍の倍率で観察する。同倍率でC元素マッピング分析を行い、得られたマッピング像について、画像処理ソフトImageJを用いて、Thershold colorによる二値化を行い、得られた画像についてParticle測定機能を用いて、0.5μm以上の単体炭素粒子の面積をそれぞれ算出し、全体の面積で割った割合(面積率)を計算した。また、面積の平均値から円相当径を算出し、単体炭素の粒径サイズとした。評価結果を表2に示す。
【0055】
(酸素含有量)
得られた焼結体から測定試料を採取し、不活性ガス溶融-赤外線吸収法によって分析した。評価結果を表2に示す。
【0056】
(窒素含有量)
得られた焼結体から測定試料を採取し、不活性ガス溶融-赤外線吸収法によって分析した。その結果、本発明例1-8においては、窒素含有量がいずれも100masssppm以上3000massppm以下の範囲内であった。
【0057】
(水素含有量)
得られた焼結体から測定試料を採取し、不活性ガス溶融-熱伝導度法によって分析した。その結果、本発明例1-8においては、水素含有量がいずれも100masssppm以上3000massppm以下の範囲内であった。
【0058】
(異常放電)
電力DC1.5W/cm、ガス圧0.4Paにて11hスパッタした際の異常放電数をカウントした。評価結果を表2に示す。
【0059】
(ボンディング率)
ボンディング後のスパッタリングターゲット接合体を超音波検査することにより、ボンディング率を算出した。評価結果を表2に示す。
【0060】
(B-C-In複合酸化物)
スパッタリングターゲット接合体から観察試料を採取し、スパッタリングターゲットとバッキングプレートの積層方向に沿った断面を、EPMAを用いて5000倍の倍率で観察した。炭化ホウ素相とはんだとの界面を半定量分析することにより、B-C-In複合酸化物の生成の有無を確認した。
その結果、本発明例1-9においては、いずれも接合界面にB-C-In複合酸化物が確認された。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
比較例1においては、炭素含有量が21.2原子%とされており、異常放電発生回数が54回となった。
比較例2においては、炭化ホウ素相の平均粒径が10.3μmとされ、密度比が91.2%とされており、異常放電発生回数が47回となった。
【0064】
これに対して、本発明例1-9においては、炭素含有量が17原子%以上21原子%以下の範囲内とされ、炭化ホウ素相の平均粒径が10μm以下、密度比が97%以上とされており、異常放電回数を12回以下と少なくなった。また、スパッタリングターゲットとバッキングプレートとのボンディング率が十分に高くなっている。
【0065】
以上のことから、本発明例によれば、密度が十分に高く耐プラズマ性に優れたプラズマ処理装置用部材、および、異常放電およびパーティクルの発生を抑制でき、安定して高品質な膜を成膜することが可能なスパッタリングターゲット、スパッタリングターゲット接合体を提供できることが確認された。
図1
図2
図3
図4