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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023115658
(43)【公開日】2023-08-21
(54)【発明の名称】半ネジボルト用ナット
(51)【国際特許分類】
   F16B 39/32 20060101AFI20230814BHJP
   F16B 37/00 20060101ALI20230814BHJP
   F16D 41/06 20060101ALI20230814BHJP
【FI】
F16B39/32 Z
F16B37/00 Z
F16D41/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022018007
(22)【出願日】2022-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】522032280
【氏名又は名称】藤原 良
(74)【代理人】
【識別番号】240000268
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人英明法律事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100155804
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 健氏
(72)【発明者】
【氏名】藤原 良
(57)【要約】
【課題】ネジ山を潰してしまう恐れがなく、容易に且つ適度に締結状態を生じせしめ、緩み止め効果の高い半ネジボルト用ナットの提供。
【解決手段】ボルト軸が円筒部と雄ネジ部とからなる半ネジボルト用のナットであって、該ナットのナット孔の内周面には、前記雄ネジが螺合する雌ネジが該内周面の一部に形成され、且つ該ナットが該雄ネジに螺合して締結される時に、一方向回転機構が前記円筒部の一部に相対する位置に嵌装固定される。また、前記ナット孔には、環状凸壁を形成したパッドを設ける。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボルト軸が円筒部と雄ネジ部とからなる半ネジボルト用のナットであって、
該ナットのナット孔の内周面には、
前記雄ネジが螺合する雌ネジが該内周面の一部に形成され、且つ
該ナットが該雄ネジに螺合して締結される時に、一方向回転機構が前記円筒部の一部に相対する位置に嵌装固定された半ネジボルト用ナット。
【請求項2】
前記ナット孔には、環状凸壁を形成したパッドを設けたことを特徴とする請求項1に記載の半ネジボルト用ナット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半ネジボルトと結合して、複数の物体相互を固定するのに使用されるナットに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ボルトとナットを用いて締め付け固定すると、ボルトの軸部に発生した軸力(引張力)と、被締結部材に発生した圧縮力(締付力)によって一体化され、両者が釣り合うことでその締結状態が維持される。
【0003】
しかし、ボルトとナットを単純に螺合し、締め付けただけでは、ネジ締結体の接触部のあらさ等による初期緩み、軸力の静的又は動的変動に起因するナットの戻り回転により、締結に緩みが生じる。
【0004】
そこで、過去様々な取り組みが行われている。例えば、溝付き六角ナットやナイロンナット、くさび止め効果を利用したナット、フリクションリングを組み込んだゆるみ止めナットなどが公知である。
【0005】
また、ボルトを螺合した時に該ボルトのねじ部に接する断面形状がほぼ楕円形の柱状体をなすクラッチ片を上記ボルトのねじ部に接する位置に配置したことを特徴とする技術が開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭58-156712号公報
【特許文献2】特開平11-117954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載の発明によれば、クラッチ片の先端がボルトの雄ネジ部分に圧着され噛み込む構造によれば、該クラッチ片とネジとの接触面積が限定的であることから緩み回転の阻止効果は限定的である。さらにはネジ山を潰してしまう恐れもある。
よって、ネジ山を潰すことなく、適度な締結状態を生じせしめ、高い緩み止め効果を得るために更なる改良が望まれてきた。
【0008】
そこで、本願発明者は、かかる課題を解決すべく鋭意研究の結果、新規な着想を得て本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、ボルト軸が円筒部と雄ネジ部とからなる半ネジボルト用のナットであって、該ナットのナット孔の内周面には、前記雄ネジが螺合する雌ネジが該内周面の一部に形成され、且つ該ナットが該雄ネジに螺合して締結される時に、一方向回転機構が前記円筒部の一部に相対する位置に嵌装固定されたことを特徴とする。
【0010】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の構成において、前記ナット孔には、環状凸壁を形成したパッドを設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、雄ネジのネジ山を潰すことなく、また、作業者の熟練度合いに関わらず適度なボルト・ナットの締結状態を生じせしめ、且つ高い緩み止め効果を得ることができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施例に係る半ネジボルト用ナットの斜視図である。
図2】本発明の一実施例に係る半ネジボルト用ナットの構造を示す説明図である。
図3】本発明の一実施例に係る半ネジボルト用ナットの側面図である。
図4】本発明の一実施例に係る半ネジボルト用ナットの使用状態を示すA-A線部分断面図である。
図5】本発明の一実施例に係る半ネジボルト用ナットのB-B線断面図である。
図6】本発明の一実施例に係る半ネジボルト用ナットの分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
なお、本発明を構成する各部の大きさや形状、位置関係は本発明の理解を促すことを目的として概略的に記した。また、各構成要素の材料や材質などは好適な組み合わせとして開示するものであり、本発明の主旨を逸脱することなく、この効果を達成可能な変更を妨げるものでない。
【0014】
ナット1は、ナット孔の内周面102の一部に雌ネジ部101を設けたナット体10と、複数のローラー110を配した一方向回転機構11とで構成される。また、本実施の形態ではナット孔開口部(ボルトとの締結時に対象物に接する側)に樹脂製のパッドPを設けてなる(図1図2図6)。
【0015】
ボルト2は、ボルト軸が円筒部21と雄ネジ部22とからなる半ネジボルトである。該円筒部21の該ボルト軸先端側の領域において、一方向回転機構11のローラー110が相対して位置する構造である。(図4
【0016】
ここで、一方向回転機構の代表的な構造と原理は、例えば、前掲の特許文献2に開示されているように、互いに同心に組み合わされた2個の部材のうち、一方の部材が両方向回転運動をした場合に、このうちの一方向の回転運動のみを他方の部材に伝達する場合に利用される機構である。この機構は「ワンウェイクラッチ」とも称され、具体的には、例えば、日本精工株式会社から発売されている「シェル型ローラクラッチ」を利用することができる。
【0017】
被固定物Aを、対象物B(ここでいう対象物とは、機械や建造物など、被固定物Aを固定する対象を指す。)へ取り付ける際の手順について説明する。なお、予め被固定物A及び対象物Bには、半ネジボルト2の円筒部21が挿通する径の孔を設けているものとする。
【0018】
被固定物Aを対象物Bの所定位置へ合わせ、半ネジボルト2のボルト軸を挿通した後、該該ボルト軸の先端部に設けた雄ネジ部22へナット1の雌ネジ部101を螺合させ、ナット体10を締め付けることで、ボルト頭、被固定物A、対象物Bそしてナット1とで一体的な締結状態が得られる。(図4
【0019】
このとき、パッドPを介在させたことで該パッドPの弾性により付勢された状態で固定されることとなり、より安定した締結状態を維持することができる。さらに、図1、2、3、6に示すように該パッドPには対象物B側に向けて環状凸壁P1を設けており、締結時に生じる弾性形状によりナット孔への防水効果を担っている。なお、該パッドPはタイプAのデュロメーターで測定した硬度が65乃至75が好適である。
【0020】
一方向回転機構11は、ボルト軸の円筒部21に相対し、該円筒部21の一方向の回転時(図5(A))にはローラー110へは該回転トルクは伝わらないが、他方向の回転時(図5(B))には該回転トルクは伝わる。
つまり、ナット体10を締め付ける方向(右回転)へと回転させたときには、該回転トルクは該ローラー110へは伝わらずナット体10は空転し、雄ネジ部22との螺合が進むが、該ナット体10を緩める方向(左回転)へと回転させようとすると、該回転トルクは該ローラー110へ伝わり、クラッチ機構が働くことから左回転しない構造である。
【0021】
ナット1よる締結が完了し、ボルト頭、被固定物A、対象物Bそしてナット1とで一体的な締結状態が形成された後、これを緩めるためにはナット体10を左回転させなければならないところ、同回転方向のトルクは、上述の仕組みにより一方向回転機構11が働くことから、該機構を破壊するほどの力が加わらない限り、ナット体10が左回転することはない。
即ち、通常の使用状態において、本発明の半ネジボルト用ナットが緩むことはない。
【0022】
本実施の形態によれば、ナットの締め付け作業が容易であるうえ、適度に締結状態を生じせしめるとともに、高い緩み止め効果を得ることができる。
【比較例】
【0023】
本発明と、通常のボルト・ナットを比較試験体として対比試験(NAS3350準拠ねじの緩み評価試験/JFEテクノリサーチ株式会社)を行った。
・試験装置:動電式振動試験装置(IMV社製i230)
・試験規格:米国航空企画NAS3350加速振動試験
<試験方法>
ねじの締結体を治具本体に空けた長穴内で自由に上下振動させて、ねじ締結体に衝撃力を繰り返し加える。NAS3350では振動数、振動幅、衝撃幅、振動回数は以下の値に規定されている。
・規定振動数:30Hz
・規定振動幅:11.4±0.4mmp-p
・規定衝撃幅:19mm
・規定振動回数:30,000回(約17分)
【0024】
<試験手順>
(1)試験体であるボルト、ナット類を試験治具に取り付ける。M8スロットの中央長穴を使用する。
(2)締付トルク12.6N.m(ニュートンメートル)にて試験体を締め付ける。範囲12.6~13.0N.m
(3)ボルトとナットにマーキングを施す。
(4)NAS3350規格の家臣条件にて振動試験を行う(30,000回)。
(5)試験途中にゆるみが生じた供試品は、加振を止めて試験終了とする。試験開始からの緩みが生じるまでのおよその時間を記録する。
(6)試験後、合いマーク箇所の写真を撮影する。
(7)合いマークにずれが無い検体に関して、緩みトルクを測定する。
【0025】
<試験結果>
NASねじ緩み試験結果を以下に示す。ボルト&ナット構成品は、試験体は試験時間1分48秒でねじが緩んで締結体が脱落したのに対し、本発明品は3万回の振動試験後の合マークのずれ量が360度以下であり、NAS3350試験の合格判定基準を満足した。
さらに、締付トルクが12.6N・mに対して、緩みトルクは31.3N・mという高い数値を得た。締付トルクと緩みトルクの関係は素材や使用状況など様々要因で左右されるものの、締め付け直後であれば締め付け時の70~80%程度のトルクで緩むとも言われている。このことから、本発明によれば極めて高い緩み止め効果が得られることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、従来のボルト・ナットのように強い締め付け力を頼りに締結状態を維持せんとするものでなく、一定の締結状態を得た後は、一方向回転機構により緩み止め効果を得る構造であることから、例えば、被固定物A又は対象物Bがガラスやレンガ、また陶器や磁器その他物理的な力に対して脆い素材である場合に特に有効である。
また、一旦締め付け施工が完了した後に定期点検が困難な場所に幅広く利用が期待されるものである。
【符号の説明】
【0027】
1 ナット
10 ナット体
101 雌ネジ部
102 内周面
11 一方向回転機構
110 ローラー
2 半ネジボルト
21 円筒部
22 雄ネジ部
A 被固定物
B 対象物
P パッド
P1 環状凸壁
図1
図2
図3
図4
図5
図6