IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ サトーホールディングス株式会社の特許一覧

特開2023-115681アンテナパターン、RFIDインレイ
<>
  • 特開-アンテナパターン、RFIDインレイ 図1
  • 特開-アンテナパターン、RFIDインレイ 図2
  • 特開-アンテナパターン、RFIDインレイ 図3
  • 特開-アンテナパターン、RFIDインレイ 図4
  • 特開-アンテナパターン、RFIDインレイ 図5
  • 特開-アンテナパターン、RFIDインレイ 図6
  • 特開-アンテナパターン、RFIDインレイ 図7
  • 特開-アンテナパターン、RFIDインレイ 図8
  • 特開-アンテナパターン、RFIDインレイ 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023115681
(43)【公開日】2023-08-21
(54)【発明の名称】アンテナパターン、RFIDインレイ
(51)【国際特許分類】
   H01Q 9/16 20060101AFI20230814BHJP
   H01Q 5/378 20150101ALI20230814BHJP
   G06K 19/077 20060101ALI20230814BHJP
【FI】
H01Q9/16
H01Q5/378
G06K19/077 280
G06K19/077 248
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022018039
(22)【出願日】2022-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】000130581
【氏名又は名称】サトーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル・アイピー東京
(72)【発明者】
【氏名】荒尾 裕一
(57)【要約】
【課題】様々な比誘電率の被着体に取り付けた場合であっても交信距離の低下を抑制することができるRFIDインレイのアンテナパターンを提供する。
【解決手段】本発明のある態様は、UHF帯RFIDインレイに用いられるアンテナパターンであって、一対の給電部を有するループ部と、ループ部に接続され、ループ部から線対称に延び、ダイポールアンテナとして動作して電波を放射する放射部と、を有し、電波の半波長が第1の長さとなるように形成された第1エレメントと、第1エレメントと離間して設けられ、第1エレメントとの電磁結合によりダイポールアンテナとして動作して電波を放射し、電波の半波長が第1の長さとは異なる第2の長さとなるように形成された第2エレメントと、を備えたアンテナパターンである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
UHF帯RFIDインレイに用いられるアンテナパターンであって、
一対の給電部を有するループ部と、前記ループ部に接続され、前記ループ部から線対称に延び、ダイポールアンテナとして動作して電波を放射する放射部と、を有し、前記電波の半波長が第1の長さとなるように形成された第1エレメントと、
前記第1エレメントと離間して設けられ、前記第1エレメントとの電磁結合によりダイポールアンテナとして動作して電波を放射し、前記電波の半波長が前記第1の長さとは異なる第2の長さとなるように形成された第2エレメントと、
を備えたアンテナパターン。
【請求項2】
前記第2エレメントの一部は、前記第1エレメントの前記ループ部に対して所定の距離だけ離間しながら前記ループ部の外縁に沿って形成されている、
請求項1に記載されたアンテナパターン。
【請求項3】
前記所定の距離は、50μm~5mmの範囲内である、
請求項2に記載されたアンテナパターン。
【請求項4】
前記第1エレメントと前記第2エレメントの一方の長さを1としたときに他方の長さが0.9以下となるように、前記第1エレメントと前記第2エレメントの長さの比率が設定されている、
請求項1から3のいずれか一項に記載されたアンテナパターン。
【請求項5】
前記第2エレメントは、蛇行形状部を有する、
請求項1から4のいずれか一項に記載されたアンテナパターン。
【請求項6】
前記第2エレメントは、
前記アンテナパターンの長手方向の中央位置から線対称に、かつ前記長手方向に沿って直線状に延びる直線部と、
前記直線部の両端から線対称に延び、前記直線部よりも幅が広い拡幅部と、を有する、
請求項1から5のいずれか一項に記載されたアンテナパターン。
【請求項7】
前記第2エレメントは、
前記アンテナパターンの長手方向の中央位置から線対称に、かつ前記長手方向に沿って直線状に延びる直線部と、
前記直線部の両端から線対称に延び、前記中央位置に向かって折り返すように延びる折り返し部と、を有する、
請求項1から6のいずれか一項に記載されたアンテナパターン。
【請求項8】
基材と、
前記基材に形成され、請求項1から7のいずれか一項に記載されたアンテナパターンと、
前記アンテナパターンの前記一対の給電部に接続されたICチップと、
を備えたRFIDインレイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンテナパターン、及び、RFIDインレイに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、製品の製造、管理、流通等の分野において、RFID(Radio Frequency Identification)技術に対応したRFID媒体が普及している。特にUHF帯(860MHz~960MHzの周波数帯)のRFID媒体は通信距離が比較的長く、一括読み取りに適しているため、在庫管理や検品などに多く利用されている。
RFID媒体としては、例えばタグ、ラベル、リストバンド等があり、RFIDインレイ(RFIDインレットともいう。)が組み込まれている。RFIDインレイとは、紙や樹脂フィルム等の基材上にICチップとアンテナパターンを配置したものである。ICチップには、RFID媒体が取り付けられる対象物(以下、適宜「被着体」という。)に関する情報(例えば識別情報)を記憶させることができる。また、RFIDインレイの基材がRFID媒体の基材を兼ねる場合もある。
【0003】
特許文献1には、RFIDインレイのアンテナパターン一例として、給電部を中心として給電部の両側に伸びる1対の蛇行した線状の導体である蛇行部と、導体により構成され、蛇行部のそれぞれの外側の端部に接続された1対の放射部とを具備したものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-228325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、例えばRFIDインレイを組み込んだRFIDラベルを被着体に貼付する場合、RFIDインレイは目立たないようにラベルの貼付面(裏面)側に取り付けられることから、RFIDインレイが直接被着体に接触あるいは近接する。ここで、被着体としては、段ボール、樹脂、ガラス等、様々な材料が考えられ、材料に応じて比誘電率も様々である(例えば1~80)。そのため、貼付対象の被着体によっては、RFIDインレイとリーダライタとの交信距離が設計値よりも低下することが生じる。
すなわち、ある特定の比誘電率の材料の被着体にRFIDラベルを貼付することを前提としてアンテナパターンを設計したとしても、当該材料よりも比誘電率が高い材料にRFIDインレイを貼付した場合には、波長短縮効果により、アンテナインピーダンスの周波数特性は全体的に低域側へシフトする。それによって、アンテナインピーダンスとICインピーダンスとの整合がずれることから、ICチップへ供給される電力が減少し、結果として交信距離が短くなる。また、液体入りボトル等の被着体にRFIDインレイを貼付した場合には、内部の液体の増減に伴って被着体の比誘電率が変化することで当初の交信距離が確保できなくなることもある。
【0006】
そこで、本発明は、様々な比誘電率の被着体に取り付けた場合であっても交信距離の低下を抑制することができるRFIDインレイのアンテナパターンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様は、UHF帯RFIDインレイに用いられるアンテナパターンであって、
一対の給電部を有するループ部と、前記ループ部に接続され、前記ループ部から線対称に延び、ダイポールアンテナとして動作して電波を放射する放射部と、を有し、前記電波の半波長が第1の長さとなるように形成された第1エレメントと、
前記第1エレメントと離間して設けられ、前記第1エレメントとの電磁結合によりダイポールアンテナとして動作して電波を放射し、前記電波の半波長が前記第1の長さとは異なる第2の長さとなるように形成された第2エレメントと、
を備えたアンテナパターンである。
【発明の効果】
【0008】
本発明のある態様によれば、様々な比誘電率の被着体に取り付けた場合であっても交信距離の低下を抑制することができるRFIDインレイのアンテナパターンを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】一実施形態のRFIDインレイの平面図である。
図2図1に示すRFIDインレイのICチップ付近の拡大図である。
図3】RFIDインレイの周波数と交信距離の電磁界シミュレーション結果を示す図である。
図4】RFIDインレイの周波数と交信距離の電磁界シミュレーション結果を示す図である。
図5】RFIDインレイの周波数と交信距離の電磁界シミュレーション結果を示す図である。
図6】一実施形態のアンテナパターンの平面図である。
図7】一実施形態のアンテナパターンの平面図である。
図8】一実施形態のRFIDインレイの斜視図と矢視Aから見た図である。
図9】一実施形態のアンテナパターンについてループ部の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態に係るアンテナパターンと、当該アンテナパターンを組み込んだRFIDインレイについて説明する。
【0011】
一実施形態に係るアンテナパターンは、ICチップとの電気的接続部分、すなわち給電部を備えた第1エレメントと、第1エレメントと離間して設けられる第2エレメントと、を備える。2つのエレメントによってアンテナパターンを構成するのは、広範囲の比誘電率の被着体にRFIDインレイを取り付けたときの交信性能を確保するためである。
より具体的には、第1エレメントは、一対の給電部を有するループ部と、ループ部に接続され、ループ部から線対称に延び、ダイポールアンテナとして動作して電波を放射する放射部と、を有する。ループ部は、ICチップと放射部とのインピーダンス整合のために、給電部と放射部の間に設けられる。
第2エレメントは給電部を持たないが、第1エレメントのループ部との間の電磁結合によりダイポールアンテナとして動作する。第2エレメントとループ部の間の距離は、第2エレメントがループ部との間で電磁結合を生じさせて第2エレメントに電流を励起可能とする程度に近い距離であればよい。
【0012】
上述したように、第1エレメントと第2エレメントは共にダイポールアンテナとして動作して電波を放射する。このとき、第1エレメントは、第1エレメントから放射される電波の半波長が第1の長さとなるように形成されており、第2エレメントは、第2エレメントから放射される電波の半波長が第1の長さとは異なる第2の長さとなるように形成されている。第1エレメントと第2エレメントのうちいずれのエレメントを他のエレメントより大きくするかについては問わないが、第1の長さと第2の長さが異なるように第1エレメントと第2エレメントを構成することで、ダイポールアンテナとして動作するときの共振周波数を異ならせることができる。そのため、広範囲の比誘電率の被着体にRFIDインレイを取り付けたときの交信性能を確保することができる。
【0013】
例えば、第1エレメントの第1の長さを、比較的低い比誘電率の被着体にRFIDインレイが取り付けられたときにUHF帯で電波を放射するように設定する。このとき、当該比誘電率よりも大きい比誘電率の被着体にRFIDインレイを取り付けた場合、波長短縮効果により、第1エレメントが最も良好に動作するときの周波数(ピーク周波数)が低域側にシフトしてUHF帯から外れる場合がある。ここで、第2エレメントの第2の長さを第1の長さよりも短くすることで、第2エレメントが最も良好に動作するときの周波数(ピーク周波数)が上記波長短縮効果により低域側にシフトした場合に、当該ピーク周波数をUHF帯とする、あるいはUHF帯に近付けるように設定することができる。
そのため、比較的小さい比誘電率の被着体にRFIDインレイを取り付けたときには主として第1エレメントがUHF帯で動作し、比較的大きい比誘電率の被着体にRFIDインレイを取り付けたときには主として第2エレメントがUHF帯で動作する。結果として、広範囲の比誘電率の被着体にRFIDインレイを取り付けたときの交信性能を確保することができる。
【0014】
なお、第2エレメントの第2の長さを第1の長さよりも長くした場合でも、同様に、広範囲の比誘電率の被着体にRFIDインレイを取り付けたときの交信性能を確保することができる。この場合、比較的小さい比誘電率の被着体にRFIDインレイを取り付けたときには主として第2エレメントがUHF帯で動作し、比較的大きい比誘電率の被着体にRFIDインレイを取り付けたときには主として第1エレメントがUHF帯で動作するようにアンテナパターンを構成することができる。
第1エレメントと第2エレメントの長さは、30mmより大きく175mm未満であることが好ましい。エレメントの長さを175mm未満とするのは、ダイポールアンテナとしての共振周波数が860MHz以上(UHF帯)となるようにするためである。エレメントの長さを30mmより大きくするのは、比誘電率が80(水の場合)に近い被着体を含む広い範囲(1~80)の比誘電率の被着体にRFIDインレイが取り付けられたときにUHF帯で動作させるためである。
【0015】
第1エレメントの放射部とループ部の形状、及び、第2エレメントの形状は、限定するものではないが、例えば、アンテナパターンが組み込まれるRFIDインレイの基材の大きさに適合するようにして設定される。アンテナパターンの形状の具体例については後述するが、第1エレメントの放射部や第2エレメントは、メアンダ形状(蛇行形状)、折り曲げ形状、折り返し形状等とすることができる。
【0016】
以下、より具体的に、一実施形態のアンテナパターン及びRFIDインレイについて説明する。
図1に、一実施形態のRFIDインレイ1の平面図を示す。図2は、図1に示すICチップ3付近の拡大図である。なお、図2では、ICチップ3は仮想線で示される。
【0017】
図1に示すように、RFIDインレイ1では、基材2上にアンテナパターン5が形成されている。基材2は、上質紙、中質紙、又はこれらを用いて形成された塗工紙等の紙基材であってもよいし、樹脂フィルムの単体、若しくは単体の樹脂フィルムを複数積層してなる多層フィルムであってもよい。基材2の厚さは、基材2上にアンテナパターン5を形成してICチップ3をマウントするための強度の観点、及び、製造上の取り扱い性の観点から、20μm以上50μm以下であることが好ましい。
【0018】
アンテナパターン5は、金属箔で形成されている。アンテナパターン5に適用可能な金属としては、例えば、銅、アルミニウムが挙げられる。製造コストを抑える観点から、アルミニウム箔を用いることが好ましい。金属箔の厚さは、例えば8μm以上30μm以下である。
アンテナパターン5は、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ゴム系粘着剤等の粘着剤(図示せず)により、基材2に接着されている。
ICチップ3は、UHF帯に対応して、ICチップ3の読取装置であるリーダ(図示せず)との間で通信可能に設計された半導体パッケージである。
【0019】
図2に示すように、ループ部12は、ICチップ3と接続する部分において一対の給電部121を備える。各給電部121は隙間gを挟んで対向しており、給電部121とその付近に塗布された異方導電性接着剤EによりICチップ3の接点(図示せず)にそれぞれ接続される。異方導電性接着剤Eは、接着成分であるバインダ樹脂中に、導電性フィラーや所定粒径に調製された導電性粒子が混合された熱硬化型または紫外線硬化型の異方導電性接着剤である。異方導電性材料Eが熱または紫外線を受けて圧着処理されることにより、アンテナパターン5とICチップ3、及び基材2とICチップ3とを電気的及び/又は機械的に接続させることができる。
【0020】
図1に示すように、アンテナパターン5は、比較的簡易的な形状で構成されており、第1エレメント10と第2エレメント20を有する。
第1エレメント10は、放射部11とループ部12を有する。放射部11は、ループ部12に接続されてループ部12から線対称に延び、ダイポールアンテナとして動作して電波を放射する部分である。放射部11は直線状であり、その長さがL1(第1の長さの一例)である。ループ部12は、ICチップ3と放射部11のインピーダンス整合のために設けられており、図2に示したように、一対の給電部121から放射部11に向けてループ状に延びている。
【0021】
第2エレメント20は直線状であり、その長さがL2(第2の長さの一例;但し、L2≠L1)である。第2エレメント20には給電部が設けられないが、第1エレメントのループ部12と近接して配置されることで第1エレメントのループ部12との電磁結合により電流が励起され、ダイポールアンテナとして動作可能に構成される。
具体的には、図1に示すように、第2エレメント20は、第1エレメント10のループ部12と隙間Gだけ離間して設けられている。隙間Gは、第2エレメント20が第1エレメント10との間で電磁結合を生じさせて第2エレメント20に電流を励起可能とする程度に近い距離であり、例えば50μm~5mmの範囲内である。隙間Gが5mmより大きい場合には、第2エレメント20に電流を励起させることが困難となる。また、インピーダンス整合の観点から、隙間Gは50μm以上であることが好ましい。
【0022】
次に、図3図5を参照して、被着体にRFIDインレイ1を取り付けないとき、及び、RFIDインレイ1を様々な比誘電率の被着体に取り付けたときの放射される電波の周波数と交信距離の関係を示す電磁界シミュレーション結果について説明する。
【0023】
このシミュレーションは、アンテナパターン5の形状に関して、L1=130mm,L2=80mm,G=1.7mmとし、放射部11の幅を2.7mmとし、第2エレメント20の幅を2.5mmとし、アンテナパターン5の縦幅Wbを18.3mmとして行った。
なお、各図には、第2エレメント20の効果を示すために、第2エレメント20が有る場合(つまり、RFIDインレイ1(実施例)を被着体に取り付けた場合)と、第2エレメント20が無い場合(つまり、RFIDインレイ1から第2エレメント20を取り除いたインレイ(比較例)を被着体に取り付けた場合)とを示す。また、各図の交信距離については、RFIDインレイ1を被着体に取り付けないときの交信距離の最大値が1となるように正規化した値で表示してある。
【0024】
図3に、被着体なしの場合と、被着体の比誘電率が3(Er=3)の場合のシミュレーション結果を示す。図4に、被着体の比誘電率が5(Er=5)の場合と、被着体の比誘電率が7(Er=7)の場合のシミュレーション結果を示す。図5に、被着体の比誘電率が12(Er=12)の場合と、被着体の比誘電率が20(Er=20)の場合のシミュレーション結果を示す。
【0025】
先ず、比較例のRFIDインレイでは、第1エレメント10とICチップ3のインピーダンスが整合するときの周波数が概ね2箇所となるため、交信距離がピーク(極大値)となるときの周波数が2つとなる。比較例のRFIDインレイでは、取り付け対象の被着体の比誘電率を増加させていくと、図3図5に示すように、波長短縮効果により交信距離を示すカーブが低域側へシフトしていくことがわかる。つまり、交信距離がピークとなるときの周波数が低域側へシフトする。
【0026】
他方、実施例のRFIDインレイ1では、取り付け対象の被着体の比誘電率を増加させていくと、第1エレメント10と長さが異なる第2エレメント20の共振により、交信距離がピークとなるときの周波数をさらに1箇所増やすことができる。具体的には、Er=7,12,20の場合のシミュレーション結果(図4図5)に矢印で示すように、交信距離に3つ目のピークが現れるため、交信距離の低下を抑制できている。例えば、Er=12(図5)の場合、950MHz前後の周波数帯において、比較例のRFIDインレイによる交信距離が0.2以下に低下するのに対し、実施例のRFIDインレイ1による交信距離は0.5以上確保できている。これは、第1エレメント10よりも長さを短くした第2エレメント20が最も良好に動作するときの周波数(ピーク周波数)が波長短縮効果により低域側にシフトすることで、当該ピーク周波数をUHF帯とする、あるいはUHF帯に近付けることができたためである。
【0027】
以上説明したように、一実施形態のRFIDインレイ1によれば、第1エレメント10と長さが異なる第2エレメント20を第1エレメントのループ部12に近接して配置させることで、第1エレメントのループ部12との電磁結合により第2エレメント20に電流を励起させる。それによって、第2エレメント20は、第1エレメント10とは異なる周波数で共振するダイポールアンテナとして機能させる。その結果、交信距離がピークとなる周波数を従来よりも増やすことができ、広範囲の比誘電率の被着体にRFIDインレイ1を取り付けた場合でも交信距離の低下を抑制することができる。
【0028】
第1エレメントと第2エレメントの一方の長さを1としたときに他方の長さが0.9以下となるように、第1エレメントと第2エレメントの長さの比率が設定されていることが好ましい。このように比率を設定することで、比誘電率が異なる被着体にRFIDインレイ1を取り付けたときにUHF帯における交信距離の低下を抑制できる周波数帯域を拡大させることができる。
【0029】
なお、図1に例示したRFIDインレイ1では、第1エレメント10の放射部11と第2エレメント20がRFIDインレイ1の長手方向に直線状に形成されているため、RFIDインレイ1が全体として横長の形態となっている。そのため、RFIDインレイ1を組み込んだRFIDラベルの表面にプリンタにより印字を行う場合に、横幅が汎用的なラベルサイズに適合しないことがある。そこで、RFIDインレイの横幅を小さくするように、第1エレメント10の放射部11と第2エレメント20の形態を改変してもよい。
図6及び図7にそれぞれ、図1のRFIDインレイ1よりも横幅が小さいインレイに適合するアンテナパターンの一例を示す。これらのアンテナパターンについて以下で説明する。
【0030】
図6に示すアンテナパターン5Aは、第1エレメント10Aと第2エレメント20Aを備える。
第1エレメント10Aは、放射部11Aとループ部12Aを有し、ループ部12Aは図2に示したのと同様にICチップ3に接続されている。
第1エレメント10Aの放射部11Aは、直線部111Aと拡幅部112Aを備える。直線部111Aは、アンテナパターン5Aの長手方向の中央位置から線対称に、かつ長手方向に沿って直線状に延びている。拡幅部112Aは、直線部111Aの両端から線対称に延び、直線部111Aよりも幅が広く形成されている。拡幅部112Aを設けることで容量成分を付加できることから(つまり、容量装荷により)、アンテナを小型化、つまり横幅Waの短縮化ができる。
図6に示すように、拡幅部112Aは、その両端が直角に折り曲げられて折曲部112Aeとして形成してあるため、アンテナパターン5Aの横幅Waを短縮することができる。
【0031】
第2エレメント20Aは、直線部21Aと拡幅部22Aを備える。直線部21Aは、アンテナパターン5Aの長手方向の中央位置から線対称に、かつ長手方向に沿って直線状に延びている。直線部21Aとループ部12Aの間は、所定の隙間Gで離間している。
拡幅部22Aは、直線部21Aの両端から線対称に延び、直線部21Aよりも幅が広く形成されている。拡幅部22Aを設けることで容量成分を付加できることから、アンテナを小型化、つまり横幅の短縮化ができる。
図6に示すように、拡幅部22Aは、その両端が直角に折り曲げられているため、第2エレメント20Aを、第1エレメント10Aの両端にある折曲部112Ae同士の間に収めることができる。
【0032】
アンテナパターン5Aは、その横幅をWaとし、縦幅をWbとした場合に、Wa=94mmとし、Wb(=拡幅部112Aの縦幅)=24mmとすることで、図3図5のシミュレーション結果を取得したアンテナパターン5と同様に第2エレメントを機能させることができる。なお、上記Wa,Wbの寸法では、例えば、ループ部12Aの横幅を18mmとし、第2エレメント20Aの横幅を60mmとし、拡幅部22Aの縦幅を10mmとし、隙間Gを1.7mmとすることができる。
図3図5のシミュレーション結果を取得したときのアンテナパターン5の横幅が130mmであるのに対して、図6のアンテナパターン5Aの形状では94mmとなり、アンテナパターンの横幅を大幅に短縮できている。
【0033】
図7に示すアンテナパターン5Bは、第1エレメント10Bと第2エレメント20Bを備える。
第1エレメント10Bは、放射部11Bとループ部12Bを有し、ループ部12Bは図2に示したのと同様にICチップ3に接続されている。
第1エレメント10Bの放射部11Bは、直線部111Bと、拡幅部112Bと、メアンダ部113B(蛇行形状部の一例)とを備える。直線部111Bは、アンテナパターン5Bの長手方向の中央位置から線対称に、かつ長手方向に沿って直線状に延びている。拡幅部112Bは、直線部111Bやメアンダ部113Bよりも幅が広く形成され、アンテナパターン5Bの横方向の両端に設けられている。メアンダ部113Bは、直線部111Bと拡幅部112Bの間に介在する。メアンダ部113Bを設けることで、第1エレメント10Bから放射される電波の半波長の長さを確保するのに横幅を拡げなくて済む。
【0034】
第2エレメント20Bは、直線部21Bと折り返し部23Bを備える。直線部21Bは、アンテナパターン5Bの長手方向の中央位置から線対称に、かつ長手方向に沿って直線状に延びている。直線部21Bとループ部12Bの間は、所定の隙間Gで離間している。
図7に示すように、折り返し部23Bは、直線部21Bの両端から線対称に設けられている。折り返し部23Bは、直線部21Bの両端から2回の折り返しを経て、その終端は、第1エレメント10Bの拡幅部112Bよりも概ね内側に位置している。折り返し部23Bを設けることで、第2エレメント20Bから放射される電波の半波長の長さを確保するのに横幅を拡げなくて済む。折り返し部23Bに代えて、あるいは折り返し部23Bとともにメアンダ部を第2エレメント20Bに設けてもよい。
【0035】
アンテナパターン5Bの横幅をWaとし、縦幅をWbとした場合に、Wa=50mmとし、Wb=30mmとすることで、図3図5のシミュレーション結果を取得したアンテナパターン5と同様に第2エレメントを機能させることができる。なお、上記Wa,Wbの寸法では、例えば、図7中の寸法L11,L12,L13,Gをそれぞれ、14mm,15mm,29mm,1mmとすることができる。この場合、アンテナパターン5Bの横幅(50mm)は、図6に示したアンテナパターン5Aの例示的な横幅(94mm)よりもさらに短縮できている。
【0036】
一実施形態のRFIDインレイでは、第1エレメントと第2エレメントは、基材の同一平面上になくてもよい。図8では、図1に示した第1エレメント10と第2エレメント20が基材2の表面と裏面にそれぞれ配置される例が示される。基材2の厚みが数10μm~数100μm程度である場合、第1エレメント10と第2エレメント20を異なる面に配置した場合であっても、基材2の厚みを介して両エレメントを所定の距離だけ離間させることができる。
【0037】
一実施形態のRFIDインレイでは、第1エレメントのループ部の形状は、図1図6、及び図7に示したような全体として矩形である場合に限られず、円形又は楕円形であってもよい。図9には、図1と同様の矩形のループ部12を有するアンテナパターン5と、楕円形のループ部12Cを有するアンテナパターン5Cとを示す。
図9に示すように、アンテナパターン5では、ループ部12の最も第2エレメント20寄りの直線形状に沿って所定の隙間Gだけ離間しながら第2エレメント20の一部(幅w12で示す範囲)が形成されている。アンテナパターン5Cでは、ループ部12Cの湾曲形状に沿って所定の隙間Gだけ離間しながら第2エレメント20Cの一部(幅w12cで示す範囲)が湾曲して形成されている。このように第2エレメント20の一部を形成することで、第2エレメントが第1エレメントとの間でより強い電磁結合を生じさせることができる。
【0038】
以上、本発明のアンテナパターン、及び、RFIDインレイの実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されない。また、上記の実施形態は、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更が可能である。例えば、上述した各実施形態及び各変形例に記載した個々の技術的特徴は、技術的矛盾がない限り、他の実施形態及び他の変形例の一部又は全部と適宜組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0039】
1…RFIDインレイ
2…基材
3…ICチップ
5,5A,5B,5C…アンテナパターン
10,10A…第1エレメント
11,11A,11B…放射部
111A,111B…直線部
112A,112B…拡幅部
112Ae…折曲部
113B…メアンダ部
12,12A,12B,12C…ループ部
121…給電部
20,20A,20B,20C…第2エレメント
21A,21B…直線部
22A…拡幅部
23B…折り返し部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9