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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023115685
(43)【公開日】2023-08-21
(54)【発明の名称】ガス検知器
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/18 20060101AFI20230814BHJP
【FI】
G01N27/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022018046
(22)【出願日】2022-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】000250421
【氏名又は名称】理研計器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100153497
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 信男
(72)【発明者】
【氏名】國武 千輝
(72)【発明者】
【氏名】朝田 隆二
(72)【発明者】
【氏名】古舘 優作
(72)【発明者】
【氏名】平尾 啓介
【テーマコード(参考)】
2G060
【Fターム(参考)】
2G060AA02
2G060AB03
2G060AB17
2G060AB18
2G060AE19
2G060AF07
2G060BA05
2G060BB02
2G060HC02
2G060HC04
2G060HC10
2G060KA01
(57)【要約】
【課題】熱伝導式ガスセンサのセンサ出力の補正を精度よく行い、ガス濃度検知を高い精度で行うことのできるガス検知器を提供する。
【解決手段】測定環境雰囲気における被検ガスについて熱伝導式ガスセンサによって取得されるセンサ出力に対し、基準温度と測定環境温度との温度差による変動及び基準湿度と測定環境湿度との湿度差による変動を補正する温湿度補正が行われると共に測定環境雰囲気の酸素濃度に応じた酸素補正が行われ、温湿度補正においては、熱伝導素子により取得されるセンサ出力値が、検知対象ガス種及びベースガス種に応じた温度補正係数を用いた相関関係式により、基準温度と測定環境温度との温度差に基づいて温度補正されると共に、温度補正により得られた温度補正センサ出力値が、検知対象ガス種及びベースガス種に応じた湿度補正係数を用いた相関関係式により、湿度補正される。
【選択図】図4

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱伝導式ガスセンサを備えたガス検知器であって、
前記熱伝導式ガスセンサは、熱伝導素子と、前記熱伝導素子の動作制御を行う熱伝導式ガスセンサ駆動制御部とを有し、
前記熱伝導式ガスセンサ駆動制御部は、測定環境雰囲気における被検ガスについて取得されるセンサ出力に対し、基準温度と測定環境温度との温度差による変動及び基準湿度と測定環境湿度との湿度差による変動を補正する温湿度補正を行うと共に、測定環境雰囲気の酸素濃度に応じた酸素補正を行う機能を有し、
前記温湿度補正においては、前記熱伝導素子により取得されるセンサ出力値が、検知対象ガス種及びベースガス種に応じた温度補正係数を用いた相関関係式により、前記基準温度と前記測定環境温度との温度差に基づいて温度補正されると共に、
前記温度補正により得られた温度補正センサ出力値が、検知対象ガス種及びベースガス種に応じた湿度補正係数を用いた相関関係式により、湿度補正されることを特徴とするガス検知器。
【請求項2】
前記熱伝導式ガスセンサ駆動制御部は、前記温湿度補正及び前記酸素補正を行うことにより取得された1次補正センサ出力値を、前記基準温度及び前記基準湿度での検知対象ガスについての基準検量線データに対照することで、検知対象ガスのガス濃度値を取得するように構成され、
前記熱伝導式ガスセンサ駆動制御部は、前記基準検量線データの、前記基準温度と前記測定環境温度との温度差による変動を補正する検量線データ温度補正を行う機能をさらに有し、
前記検量線データ温度補正においては、前記ガス濃度値が、該ガス濃度値と、検知対象ガスに応じた温度量補正係数と、前記基準温度と前記測定環境温度との温度差とによって定められる温度量補正値で、補正されることを特徴とする請求項1に記載のガス検知器。
【請求項3】
前記熱伝導式ガスセンサ駆動制御部は、前記検量線データ温度補正を行うことにより取得された温度補正ガス濃度値の、測定環境雰囲気の湿度量による変動を補正する湿度量補正を行う機能をさらに有し、
前記湿度量補正においては、前記温度補正ガス濃度値が、該温度補正ガス濃度値と、検知対象ガスに応じた湿度量補正係数と、被検ガスに含まれる水分量とによって定められる湿度量補正値で、補正されることを特徴とする請求項2に記載のガス検知器。
【請求項4】
検知対象ガス種及びベースガス種を選択可能に構成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のガス検知器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導式ガスセンサを備えたガス検知器に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、例えば可燃性ガスなどを検知するガスセンサの一つとして、被検ガスにおける熱伝導率の変化を検知対象ガスの濃度として検知する熱伝導式ガスセンサが知られており、熱伝導式ガスセンサは、例えば100%LELを超える高濃度の可燃性ガスや、酸素濃度が10%以下である可燃性ガスの検知に好適に用いられている。
熱伝導式ガスセンサは、例えば金属コイルよりなる熱伝導素子を有し、この熱伝導素子に通電した状態で検知対象ガスが接触すると、当該検知対象ガス固有の熱伝導率により熱放散の状態が変化し、これにより、熱伝導素子の温度が変化する。そして、熱伝導素子の温度変化に伴い、当該熱伝導素子を構成する金属コイルの抵抗値が変化し、この抵抗値の変化量に基づいて検知対象ガスの濃度が測定される。
【0003】
熱伝導式ガスセンサにおいては、測定環境雰囲気の温度や湿度によってセンサ出力が変動(ドリフト)する。このため、温度検知部及び湿度検知部を設け、測定環境雰囲気の温度及び湿度によるセンサ出力の変動が補正されるように構成された熱伝導式ガスセンサが提案されている(例えば例えば特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-194409号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、熱伝導式ガスセンサにおいては、センサ出力に対し温度補正及び湿度補正を行うだけでは、センサ出力の変動を十分に補償することができず、ガス濃度検知を高い精度で行うことが困難であることが明らかになった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みて完成されたものであって、測定雰囲気の環境条件に応じた熱伝導式ガスセンサのセンサ出力の補正を精度よく行い、ガス濃度検知を高い精度で行うことのできるガス検知器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のガス検知器は、熱伝導式ガスセンサを備えたガス検知器であって、前記熱伝導式ガスセンサは、熱伝導素子と、前記熱伝導素子の動作制御を行う熱伝導式ガスセンサ駆動制御部とを有し、前記熱伝導式ガスセンサ駆動制御部は、測定環境雰囲気における被検ガスについて取得されるセンサ出力に対し、基準温度と測定環境温度との温度差による変動及び基準湿度と測定環境湿度との湿度差による変動を補正する温湿度補正を行うと共に、測定環境雰囲気の酸素濃度に応じた酸素補正を行う機能を有し、前記温湿度補正においては、前記熱伝導素子により取得されるセンサ出力値が、検知対象ガス種及びベースガス種に応じた温度補正係数を用いた相関関係式により、前記基準温度と前記測定環境温度との温度差に基づいて温度補正されると共に、前記温度補正により得られた温度補正センサ出力値が、検知対象ガス種及びベースガス種に応じた湿度補正係数を用いた相関関係式により、湿度補正されるように構成されることにより、上記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0008】
本請求項1に係る発明によれば、熱伝導式ガスセンサのセンサ出力の温度補正及び湿度補正がそれぞれ検知対象ガス種及びベースガス種に応じた相関関係式を用いて行われることで、検知対象ガス種による影響分及びベースガス種による影響分が補償される。しかも、測定環境雰囲気における酸素濃度に応じた酸素補正が行われることで、ベースガスに対するゼロ点の浮きが補正されるので、酸素濃度による影響分が補償される。従って、測定環境雰囲気の環境条件に応じた熱伝導式ガスセンサのセンサ出力の補正を精度よく行うことが可能となり、ガス濃度検知を高い精度で行うことができる。
【0009】
本請求項2に係る発明によれば、基準検量線データに基づいて取得されるガス濃度値による補正量に対する影響の程度が補償された状態において、ガス濃度値の温度補正が行われることとなるので、センサ出力の補正の精度を一層向上させることができる。
【0010】
本請求項3に係る発明によれば、基準検量線データの湿度による影響分が過度に補正されることが回避されるので、センサ出力の補正の精度を一層向上させることができる。
【0011】
本請求項4に係る発明によれば、ベースガスの違いによるセンサ出力の変動が補償されてガス濃度検知の精度を向上させることができることに加え、酸素センサを具備する場合には酸素センサの校正処理も含めて、熱伝導式ガスセンサの校正処理を効率よく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明のガス検知器の一例における構成の概略を示すブロック図である。
図2】熱伝導式ガスセンサの一構成例を示す説明用断面図である。
図3図2に示す熱伝導式ガスセンサにおける熱伝導素子の構成を示す説明図であり、(a)は斜視図、(b)長手方向に垂直な方向に切断した断面図である。
図4】センサ出力の補正処理の一例を示す動作フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のガス検知器の実施の形態について説明する。
図1は、本発明のガス検知器の一例における構成の概略を示すブロック図である。このガス検知器は、熱伝導式ガスセンサ10と、酸素センサ40と、メイン制御部50とを備えてなる。
【0014】
本実施形態における熱伝導式ガスセンサ10は、熱伝導素子21及び温湿度検知素子25を備えた検知部20と、熱伝導素子21及び温湿度検知素子25の動作制御を行う熱伝導式ガスセンサ駆動制御部30とを備える。
【0015】
図2は、熱伝導式ガスセンサの一構成例を示す説明用断面図である。この熱伝導式ガスセンサ10は、円筒状のケーシング11を有する。このケーシング11においては、一端側(図2において上端側)の開口がケーシング11内に被検ガスを導入するガス導入口11aとされている。ケーシング11内には、略円形の基板15が、ケーシング11の軸方向に垂直な面に沿って配置されている。この基板15には、被検ガスの温度および湿度を測定する温湿度検知素子25や、複数のスタッド16が実装されている。
【0016】
基板15上には、熱伝導素子21を収納する、円盤上の熱伝導素子収納部材17が配置されている。この熱伝導素子収納部材17は、絶縁性および耐熱性を有する樹脂材料、例えばガラス繊維等の繊維を含有するポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂によって構成されている。
熱伝導素子収納部材17の表面(図2において上面)には、熱伝導素子21が収納された収納室Sを形成する凹所19が形成されており、この凹所19の開口が収納室Sに被検ガスを導入する通気口19aとされている。熱伝導素子21は、熱伝導素子収納部材17の厚み方向に伸びる2つの導電ピンに電気的に接続されている。
また、熱伝導素子収納部材17には、温湿度検知素子25に被検ガスを導入する通気路18が、当該熱伝導素子収納部材17の表面から裏面に貫通して伸びるよう形成されている。
温湿度検知素子25が、熱伝導素子21の配置される空間(収納室S)と隔離された空間に配置された構成(熱的に遮断された構成)とされることで、熱伝導素子21の影響を受けることなく、被検ガスの温度データ及び湿度データを取得することができる。
【0017】
熱伝導素子収納部材17の表面上には、円形の通気性シート12が、通気口19aおよび通気路18の開口を覆うよう配置されている。この通気性シート12を構成する材料としては、ガラスウールなどを用いることができる。
通気性シート12上には、例えばステンレス(SUS316)よりなる円形の焼結金網13が、その周縁部がケーシング11の内壁面に固定されて配置されており、焼結金網13と熱伝導素子収納部材17とによって、通気性シート12が挟持されている。
また、ケーシング11内における基板15の下方には、例えばエポキシ樹脂接着剤などの接着剤が硬化されてなる封止材14が、ケーシング11の下側の開口を塞ぐよう設けられている。
【0018】
熱伝導素子21は、図3(a)、(b)に示すように、例えば、表面に被覆膜22が設けられた抵抗発熱体23がコイル状に巻回されて構成されている。
抵抗発熱体23は、温度抵抗係数が高く、高温における耐蝕性が良好な金属例えば白金またはその合金などにより構成されている。
被覆膜22は、検知対象ガスに対して不活性な金属例えば金などによって構成されている。被覆膜22の厚みは例えば100nmである。被覆膜22を形成する方法としては、スパッタリングなどの適宜の薄膜形成法を利用することができる。
熱伝導素子21の構成例を示すと、抵抗発熱体23の素線径がφ15~30μm、コイル長が0.3~1.2mm、コイル径が0.2~0.4mm、コイルの巻き数が8~12ターンである。
【0019】
温湿度検知素子25は、例えば、ガス接触により生ずる抵抗変化を測定することで被検ガスの温度及び相対湿度を検知する電気抵抗変化型のものにより構成されている。なお、温湿度検知素子25は、静電容量型のものにより構成されていてもよく、被検ガスの温度及び相対湿度を検知可能であれば特に限定されない。
【0020】
熱伝導式ガスセンサ駆動制御部30は、マイコン31と、熱伝導素子駆動回路部32と、温湿度検知素子駆動回路部35とを備える。
熱伝導素子駆動回路部32は、熱伝導素子21への通電を行う熱伝導素子用電源33と、熱伝導素子21に流れる電流を測定する電流計34とを備える。
温湿度検知素子駆動回路部35は、温湿度検知素子用電源36と、湿度測定用電圧計37と、温度測定用電圧計38とを備える。
マイコン31は、熱伝導素子21により取得されるセンサ出力を、測定環境雰囲気の温度、湿度、ベースガス種及び酸素濃度に応じて補正して検知対象ガスの濃度を算出する機能を有する。本明細書において、特に言及する場合を除いて、「湿度」とは、絶対湿度をいい、従って、センサ出力の補正にあっては、温湿度検知素子25により取得される相対湿度値と温度値とから求められる絶対湿度値が用いられる。
【0021】
また、マイコン31には、基準環境(基準温度T1[℃]、基準湿度H1[mg/L])におけるゼロ校正値及び各種検知対象ガス(濃度100vol%)のフルスケール値、濃度100vol%の各種検知対象ガスの温度特性及び湿度特性、各種ベースガスの温度特性及び湿度特性、ベースガス種及び検知対象ガス種に応じた温度補正係数、ベースガス種及び検知対象ガス種に応じた湿度補正係数、基準環境での各種検知対象ガスのベースガスに応じた基準検量線データ、基準検量線データの温度量補正値及び湿度量補正値などの熱伝導式ガスセンサ10の出力補正に係るデータが記録されている。
このガス検知器は、検知対象ガス種及びベースガス種を選択可能に構成されており、選択された検知対象ガスについての熱伝導式ガスセンサ10の出力補正がベースガス種に応じて行われることでベースガス種の違いによるセンサ出力の変動が補償されるようになっている。
検知対象ガス種は、例えば、メタンガス(CH4)、イソブタンガス(i-C410)、プロパンガスなどのパラフィン系炭化水素ガスや、水素ガス及びその他の可燃性ガスのうちから選択可能となっている。
ベースガス種は、例えば、窒素ガス(N2)、及び、窒素と二酸化炭素と酸素の不活性な混合ガスであるイナートガスのうちから選択可能となっている。
【0022】
酸素センサ40は、例えばガルバニ電池式の酸素センサ素子41と、酸素センサ素子用電源43及び電流計(図示せず)を備えた酸素センサ素子駆動回路部42と、酸素センサ素子41の動作制御を行う酸素センサ駆動制御部45とを備える。
【0023】
メイン制御部50は、熱伝導式ガスセンサ10及び酸素センサ40に動作指令信号を出力するとともにガス検知器の他の構成部材の動作制御を行う機能を有する。
また、測定環境雰囲気における被検ガスに含まれる酸素濃度を酸素センサ40からのセンサ出力に基づいて算出し、熱伝導式ガスセンサ10の熱伝導式ガスセンサ駆動制御部30におけるマイコン31に出力する機能を有する。
【0024】
以下、熱伝導式ガスセンサ駆動制御部30のガス濃度算出機能すなわち熱伝導式ガスセンサ10の出力補正について説明する。
先ず、上記のガス検知器においては、ガス検知を行うにあたって、ゼロ点安定化のための暖機処理が行われる。暖機処理は、所定時間の間、測定時における熱伝導素子21への印加電圧より低い電圧を熱伝導素子21に印加することにより行われる。
【0025】
暖機処理後、メイン制御部50からの動作指令信号により、適正な大きさに制御された電圧が熱伝導式ガスセンサ駆動制御部30によって熱伝導素子21に印加されることで熱伝導素子21の表面温度が所定の温度状態に維持されるように加熱される。この状態において、測定環境雰囲気における被検ガスが熱伝導式ガスセンサ10に供給されて被検ガスが熱伝導素子21に接触することで生ずる熱伝導素子21の熱伝導度変化(抵抗変化)が、電流値として電流計34により測定され、熱伝導式ガスセンサ駆動制御部30のマイコン31にセンサ出力として入力される。センサ出力の補正にあっては、熱伝導素子21により取得されるセンサ出力の、フルスケール値(登録値)に相当するセンサ出力に対する出力割合がセンサ出力値として用いられる。
また、湿度測定用電圧計37及び温度測定用電圧計38により測定される電圧値に基づく温度データ及び湿度データがマイコン31に入力される。
さらにまた、被検ガスが熱伝導式ガスセンサ10と同一のガス流路上に配置された酸素センサ40に供給されることで、不図示の電流計により測定される電流値が酸素センサ出力としてメイン制御部50に入力される。メイン制御部50においては、酸素センサ40からの酸素センサ出力に基づいて被検ガスに含まれる酸素濃度が算出され、これにより得られた酸素濃度データが熱伝導式ガスセンサ10の熱伝導式ガスセンサ駆動制御部30におけるマイコン31に出力される。
【0026】
このガス検知器においては、検知対象ガスのガス濃度が検量線法によって、熱伝導式ガスセンサ10により取得されたセンサ出力値に基づいて算出されるが、図4に示すように、熱伝導式ガスセンサ10のセンサ出力値に対し、
〔S1〕測定環境雰囲気の測定環境温度T2[℃]及び測定環境湿度H2[mg/L]に応じた温湿度補正、
〔S2〕測定環境雰囲気の酸素濃度に応じた酸素補正、
〔S3〕基準温度T1[℃]と測定環境温度T2[℃]との温度差に応じた温度量補正量での基準検量線データの温度補正、
〔S4〕被検ガスに含まれる水分量に応じた湿度量補正量でのガス濃度値の湿度量補正
が行われる。
【0027】
〔S1〕センサ出力値の温湿度補正
センサ出力値の温湿度補正においては、先ず、測定環境温度T2[℃]での温度補正ゼロ出力値Ib(T2)を、下記式(1)により示される選択されたベースガスの温度とセンサ出力値との相関関係を示す温度特性によって、基準温度T1[℃]におけるゼロ校正値Ib(T1)に基づいて算出する。また、測定環境温度T2[℃]での温度補正フルスケール値Is(T2)を、下記式(2)により示される選択された検知対象ガスの温度とセンサ出力値との相関関係を示す温度特性によって、基準温度T1[℃]における選択された検知対象ガスのフルスケール値Is(T1)に基づいて算出する。下記式(1)におけるαb1及びαb2は、選択されたベースガスに応じた温度補正係数であって、下記式(2)におけるαs1及びαs2は、選択された検知対象ガスに応じた温度補正係数である。
式(1)
Ib(T2)=αb1×(T2 2-T1 2)+αb2×(T2-T1)+Ib(T1)
式(2)
Is(T2)=αs1×(T2 2-T1 2)+αs2×(T2-T1)+Is(T1)
【0028】
また、測定環境湿度H1[mg/L]に応じた温湿度補正ゼロ出力値Ib(TH2)を、下記式(3)により示される選択されたベースガスの湿度とセンサ出力値との相関関係を示す湿度特性によって、温度補正ゼロ出力値Ib(T2)に基づいて算出する。さらに、測定環境湿度H2[mg/L]での温湿度補正フルスケール値Is(TH2)を、下記式(4)により示される選択された検知対象ガスの湿度とセンサ出力値との相関関係を示す湿度特性によって、温度補正フルスケール値Is(T2)に基づいて算出する。下記式(3)におけるβb1及びβb2は、選択されたベースガスに応じた湿度度補正係数であって、下記式(4)におけるβs1及びβs2は、選択された検知対象ガスに応じた湿度補正係数である。
そして、下記式(5)より、温湿度補正された基準環境でのフルスケールのスパン値を取得する。
式(3)
Ib(TH2)=-(βb1×(H2 2-H1 2)+βb2×(H2-H1))+Ib(T2)
式(4)
Is(TH2)=-(βb1×(H2 2-H1 2)+βs2×(H2-H1))+Is(T2)
式(5)
(TH2)=Is(TH2)-Ib(TH2)
【0029】
次いで、熱伝導式ガスセンサ10により得られたセンサ出力値Imを、基準温度T1[℃]でのセンサ出力値である温度補正センサ出力値Im(T1)に補正するゼロガス温度補正を行う。ゼロガス温度補正が行われることによりセンサ出力値Imの温度によるドリフト量が補償される。具体的には、温度補正センサ出力値Im(T1)を、上記式(1)を用い、センサ出力値Imに基づいて算出する。
また、このようにして得られた温度補正センサ出力値Im(T1)に対し、基準湿度H1[mg/L]に応じたセンサ出力値である湿度補正出力値Im(TH1)に補正するゼロガス湿度補正が行われ、これによりセンサ出力値の湿度によるドリフト量が補償される。具体的には、湿度補正出力値Im(TH1)を、上記式(3)を用い、温度補正センサ出力値Im(T1)に基づいて算出する。
このようにして得られたゼロガス基準の湿度補正出力値Im(TH1)のスパン値L(TH1)(=Im(TH1)-Ib(T1))を算出する。
【0030】
上述のように、ベースガスの温度特性と検知対象ガスの温度特性が互いに異なると共にベースガスの湿度特性と検知対象ガスの湿度特性とが互いに異なることから、検知対象ガスの温湿度特性を補正したスパン値L(TH3)を得る必要がある。具体的には、温湿度特性を補正したスパン値L(TH3)を下記式(6)により算出する。下記式(6)において、L(TH2)は、基準環境での選択された検知対象ガスの濃度が100vol%であるときのスパン値(=フルスケール値Is(T1)-ゼロ校正値Ib(T1))であり、L(TH2)/L(T2)がベースガスの温度による変動の程度、L(TH2)/L(H2)がベースガスの湿度による変動の程度を示す。
式(6)
(TH3)=L(TH1)×(L(TH2)/L(T2))×(L(TH2)/L(H2)
【0031】
ここで、上記L(T2)とL(H2)は、下記式(7)及び下記式(8)で示される。
式(7)
(T2)=L(TH1)-(αs1-αb1)×(T1-T2)-(αs2-αb2)×(T1-T2
式(8)
(H2)=L(TH1)-(βs1-βb1)×(H1-H2)-(βs2-βb2)×(H1-H2
【0032】
〔S2〕センサ出力値の酸素補正
センサ出力の酸素補正は、窒素ガスやイナートガスなどのベースガスに対するゼロ点の浮きを補正する処理である。
センサ出力の酸素補正においては、酸素センサ40により取得された酸素濃度値に基づいてベースガスに含まれる酸素と窒素との割合を求め、検知対象ガスの温湿度特性を補正したスパン値L(TH3)を測定ガス中の酸素濃度に応じた補正量で補正して1次補正センサ出力値Im(THO)を取得してスパン値L(THO)を得る。酸素補正が行われることで、センサ出力の酸素濃度によるドリフト量が補償される。補正量は、予め取得しておいた熱伝導式ガスセンサ10のセンサ出力値とベースガスに含まれる酸素濃度との間の相関関係に基づいて算出される。
【0033】
(S3)検量線データの温度量補正
以上のようにして得られたスパン値L(THO)を、基準環境における選択された検知対象ガスの、選択されたベースガスに応じた基準検量線データに対照することによりガス濃度値R(TH1)を取得する。
このガス濃度値R(TH1)を測定環境温度T2[℃]と基準温度T1[℃]との温度差に応じた温度量補正値で補正することで温度補正ガス濃度値R(T2)を取得する。具体的には、温度補正ガス濃度値R(T2)は、下記式(9)により求められる温度量補正値CTをガス濃度値R(TH1)から減算することにより算出される。下記式(6)におけるγは、検知対象ガスに応じた温度量補正係数である。
式(9)
T=γ×〔{50/((|R(TH1)-50|)+50)}-0.5〕×(T2-T1
【0034】
検量線データは、温度によってその出力特性が異なり、しかも、例えば2つの温度値間の温度領域における平均濃度変化率がガス濃度値によって異なることから、基準温度における検量線データに基づいて取得されたガス濃度値R(TH1)が、該ガス濃度値R(TH1)と、検知対象ガスに応じた温度量補正係数γと、測定環境温度と基準温度との温度差(T2-T1)とによって定められる温度量補正値CTで、補正されることで、ガス濃度値R(TH1)による補正量に対する影響の程度が補償された状態において、温度補正が行われることとなる。
【0035】
(S4)被検ガスに含まれる水分量に応じた湿度量補正値での湿度量補正
以上のようにして得られた温度補正ガス濃度値R(T2)を、測定環境雰囲気の湿度量に応じた湿度量補正値で補正することで最終的なガス濃度指示値Rを取得する。具体的には、ガス濃度指示値Rは、下記式(10)により求められる湿度量補正値CMを温度補正ガス濃度値R(T2)から減算することにより算出される。下記式(10)におけるδは、検知対象ガスに応じた湿度量補正係数、Mは、測定環境雰囲気の湿度の体積分率[vol%]である。
式(10)
M=δ×(R(T2)/100)×M
【0036】
基準温度における検量線データに基づくガス濃度値R(TH1)を温度補正することで取得された温度補正ガス濃度値R(T2)が、該温度補正ガス濃度値R(T2)と、検知対象ガスに応じた湿度量補正係数δと、被検ガスに含まれる水分量とによって定められる湿度量補正値CMで、補正されることで、湿度による影響分が過度に補正されることを回避している。
【0037】
以上のように、上記のガス検知器においては、熱伝導式ガスセンサ10のセンサ出力の温度補正及び湿度補正がそれぞれ検知対象ガス種及びベースガス種に応じた相関関係式を用いて行われることで、検知対象ガス種による影響分及びベースガス種による影響分が補償される。また、測定環境雰囲気における酸素濃度に応じた酸素補正が行われることで、ベースガスに対するゼロ点の浮きが補正されるので、酸素濃度による影響分が補償される。さらに、基準検量線データの温度補正が行われることで、ガス濃度値による温度補正値に対する影響の程度が補償される。しかも、測定環境雰囲気の湿度量に応じた湿度量補正が行われることで、基準検量線データの湿度による影響分が過度に補正されることが回避される。従って、測定環境雰囲気の環境条件に応じた熱伝導式ガスセンサ10のセンサ出力の補正を精度よく行うことが可能となり、ガス濃度検知を高い精度で行うことができる。
【0038】
以上、本発明のガス検知器の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されず、種々の変更を加えることができる。
例えば、上記の実施形態におけるガス検知器においては、酸素センサを備えた構成とされているが、測定環境雰囲気の酸素濃度がメイン制御部に外部入力されるように構成されていてもよく、従って、ガス検知器自体が酸素センサを具備する構成とされている必要はない。
また、上記の熱伝導式ガスセンサにおいては、熱伝導素子及び温湿度検知素子が共通のケーシング内に設けられた構成とされているが、温湿度検知素子を具備する構成とされている必要はなく、従って、ガス検知器においては、熱伝導式ガスセンサと別個に温湿度センサが設けられた構成とされていてもよい。
上記の実施形態においては、検量線データにより得られたガス濃度値に対し、温度補正及び湿度量補正を行うことにより最終的なガス濃度指示値を取得しているが、予め、基準環境での検量線データに対し、温度補正及び湿度量補正を行った後、補正された検量線データに基づいてガス濃度値を取得するようにしてもよい。
また、基準環境としての基準温度及び基準湿度は適宜設定することが可能であり、複数の基準温度及び基準湿度が設定されていてもよい。
【0039】
以下、本発明の効果を確認するために行った実験例について説明する。
【0040】
<実験例1>
図1乃至図3に示す構成に従って作製したガス検知器により、ベースガスをイナートガス(窒素と二酸化炭素と酸素の混合ガス)とするガス濃度値が既知のイソブタンガスを試験用ガスとし、試験用ガスの温度及び湿度を適宜変更しながら、ガス濃度測定を行った。ガス濃度算出に際しては、熱伝導式ガスセンサにより得られるセンサ出力値に対し、温湿度補正(S1)及び酸素補正(S2)を行い、基準温度20℃、基準湿度0mg/Lの検量線データを用いた。試験用ガスの温度は-20℃~60℃の温度範囲内で調整し、湿度は0.00mg/L~80.00mg/Lの範囲内で調整した。
測定されたガス濃度値の真値に対する誤差を調べたところ、試験用ガスの温度及び湿度に拘わらず、-3.0~+5.0%の誤差範囲内でガス濃度を測定することができることが確認された。
【0041】
<実験例2>
上記実験例1において、ガス濃度算出に際して、さらに検量線データ温度補正(S3)を行ったことの他は、実験例1と同様にしてガス濃度測定を行った。
測定されたガス濃度値の真値に対する誤差を調べたところ、-2.0~+4.0%の誤差範囲内でガス濃度を測定することができ、ガス濃度検知の信頼性を向上させることができることが確認された。
【0042】
<実験例3>
上記実験例1において、ガス濃度算出に際して、さらに検量線データ温度補正(S3)及び湿度量補正(S4)を行ったことの他は、実験例1と同様にしてガス濃度測定を行った。
測定されたガス濃度値の真値に対する誤差を調べたところ、-1.0~+1.0%の誤差範囲内でガス濃度を測定することができ、ガス濃度検知の信頼性を一層向上させることができることが確認された。
【0043】
<比較実験例1>
上記実験例1において、ガス濃度算出に際して、温湿度補正(S1)のみを行い、酸素補正(S2)を行わなかったことの他は実験例1と同様にしてガス濃度測定を行った。
測定されたガス濃度値の真値に対する誤差を調べたところ、誤差が最大で+10%もあり、実用に供するものではないことが確認された。
【符号の説明】
【0044】
10 熱伝導式ガスセンサ
11 ケーシング
11a ガス導入口
12 通気性シート
13 焼結金網
14 封止材
15 基板
16 スタッド
17 熱伝導素子収納部材
18 通気路
19 凹所
19a 通気口
20 検知部
21 熱伝導素子
22 被覆膜
23 抵抗発熱体
25 温湿度検知素子
30 熱伝導式ガスセンサ駆動制御部
31 マイコン
32 熱伝導素子駆動回路部
33 熱伝導素子用電源
34 電流計
35 温湿度検知素子駆動回路部
36 温湿度検知素子用電源
37 湿度測定用電圧計
38 温度測定用電圧計
40 酸素センサ
41 酸素センサ素子
42 酸素センサ素子駆動回路部
43 酸素センサ素子用電源
45 酸素センサ駆動制御部
50 メイン制御部
S 収納室

図1
図2
図3
図4