(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023115709
(43)【公開日】2023-08-21
(54)【発明の名称】接着構造体
(51)【国際特許分類】
C09J 5/00 20060101AFI20230814BHJP
F16B 11/00 20060101ALI20230814BHJP
【FI】
C09J5/00
F16B11/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022018075
(22)【出願日】2022-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】前野 洋平
【テーマコード(参考)】
3J023
4J040
【Fターム(参考)】
3J023EA01
3J023FA01
3J023GA01
4J040LA06
4J040MA02
4J040MB04
4J040MB05
4J040MB09
4J040PA17
4J040PA31
4J040PB24
(57)【要約】
【課題】熱による分解や変質が起こりにくく、かつ接着強度が高い接着構造体を提供する。
【解決手段】基体と、前記基体の少なくとも一部の表面に設けられた複数の突起を有する突起部とを含み、無機物からなり、複数の前記突起はそれぞれ、第1方向と、第1方向に対して直交する第2方向とにそれぞれ周期的に配置されていて、前記突起は、先端が尖った尖状部を有し、前記第1方向における前記突起の平均ピッチが100nm以上1500nm以下の範囲内にあって、前記第2方向における前記突起の平均ピッチが100nm以上1500nm以下の範囲内にあり、前記突起の平均高さが100nm以上2000nm以下の範囲内にある接着構造体。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、前記基体の少なくとも一部の表面に設けられた複数の突起を有する突起部とを含み、
前記突起部が無機物からなり、
複数の前記突起はそれぞれ、第1方向と、前記第1方向と交差する第2方向とにそれぞれ周期的に配置されていて、
前記突起は、先端が尖った尖状部を有し、
前記第1方向における前記突起の平均ピッチが100nm以上1500nm以下の範囲内にあって、
前記第2方向における前記突起の平均ピッチが100nm以上1500nm以下の範囲内にある接着構造体。
【請求項2】
前記突起の平均高さが100nm以上である請求項1に記載の接着構造体。
【請求項3】
前記突起の尖状部は、頂部を介して互いに逆方向に傾斜した傾斜面を有する形状もしくは四角錐形状である請求項1又は2に記載の接着構造体。
【請求項4】
前記突起が、前記尖状部と、前記尖状部から前記基体に向かって延びる胴体部とを有する請求項1又は2に記載の接着構造体。
【請求項5】
前記第1方向における前記突起の平均ピッチと前記第2方向における前記突起の平均ピッチのうちの長い方の長さに対する前記突起部の平均高さの比が0.7以上10以下の範囲内にある請求項1から4のいずれか一項に記載の接着構造体。
【請求項6】
前記第1方向における前記突起の平均ピッチが500nm以下であって、
前記第2方向における前記突起の平均ピッチが500nm以下である請求項1から5のいずれか一項に記載の接着構造体。
【請求項7】
前記無機物が金属である請求項1から6のいずれか一項に記載の接着構造体。
【請求項8】
前記金属が銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、NiP合金のいずれかを含むことを特徴とするである請求項7に記載の接着構造体。
【請求項9】
ナノインデンターを用いて、前記突起部に直径40μmの球状圧子を押込み深さが10nmまたは20nmの少なくとも一方となる条件で押込んだときの接着力が35N/cm2以上である請求項1から8のいずれか一項に記載の接着構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
接着構造体として、基体と、この基体の表面に設けられた複数の突起とを有するものが知られている。特許文献1には、先端が半径300nm以下の球面であり、長手方向に対する垂直断面の半径が500nm以下である突起を備えた接着構造体が開示されている。このナノレベルの突起を備えた接着構造体は、突起が、被接着物の表面の凹凸にナノレベルで入り込み、強力な接着力を発揮することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2007/032164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
接着構造体は、種々の環境下で安定して被接着物を接着保持することができ、かつ被接着物を汚染しにくいものであることが好ましい。しかしながら、特許文献1に記載されている接着構造体は、樹脂材料で形成されている。樹脂材料は、熱によって分解あるいは変質することによって、接着強度が低下するおそれがある。また、樹脂材料は、分解生成物によって被接着物を汚染するおそれがある。
【0005】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、熱による分解や変質が起こりにくく、かつ接着強度が高い接着構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の接着構造体は、基体と、前記基体の少なくとも一部の表面に設けられた複数の突起を有する突起部とを含み、前記突起部が無機物からなり、複数の前記突起はそれぞれ、第1方向と、前記第1方向と交差する第2方向とにそれぞれ周期的に配置されていて、前記突起は、先端が尖った尖状部を有し、前記第1方向における前記突起の平均ピッチが100nm以上1500nm以下の範囲内にあって、前記第2方向における前記突起の平均ピッチが100nm以上1500nm以下の範囲内にある。
【0007】
本発明の接着構造体によれば、基体と、前記基体の少なくとも一部の表面に設けられた複数の突起を有する突起部とを含み、突起部が無機物からなるので、熱による分解や変質が起こりにくく、被接着物を汚染しにくい。また、複数の突起はそれぞれ、第1方向と、第1方向と交差する第2方向とにそれぞれ周期的に配置されていて、突起は、先端が尖った尖状部を有し、第1方向における突起の平均ピッチが100nm以上1500nm以下の範囲内にあって、前記第2方向における前記突起の平均ピッチが100nm以上1500nm以下の範囲内にあるので、表面弾性率が高く、被接着物で加圧したときに突起の変形量が大きく、被接着物に対する追従性が高い。このため、上記の接着構造体は、被接着物と突起との接触面積が大きくなる。よって、上記の接着構造体は、接着強度が高く、種々の環境下で安定して被接着物を接着保持することができる。
【0008】
ここで、本発明の接着構造体においては、前記突起の平均高さが100nm以上である構成とされていてもよい。
この場合、突起の平均高さが100nm以上であるので、表面弾性率が確実に高くなる。このため、種々の環境下でより安定して被接着物を接着保持することができる。
【0009】
また、本発明の接着構造体においては、前記突起の尖状部は、頂部を介して互いに逆方向に傾斜した傾斜面を有する形状もしくは四角錐形状である構成とされていてもよい。
この場合、突起の尖状部と被接着物との接触面積を大きくすることができる。このため、接着構造体の接着強度がより高くなる。
【0010】
また、本発明の接着構造体においては、前記突起が、前記尖状部と、前記尖状部から前記基体に向かって延びる胴体部とを有する構成とされていてもよい。
この場合、被接着物で加圧したときの突起の変形量がより大きくなるので、被接着物に対する追従性がより高くなる。
【0011】
また、本発明の接着構造体においては、第1方向における前記突起の平均ピッチと前記第2方向における前記突起の平均ピッチのうちの長い方の長さに対する前記突起部の平均高さの比が0.7以上10以下の範囲内にある構成とされていてもよい。
この場合、被接着物で加圧したときの突起の変形量がより大きくなるので、被接着物に対する追従性がより高くなる。
【0012】
また、本発明の接着構造体においては、前記第1方向における前記突起の平均ピッチが500nm以下であって、前記第2方向における前記突起の平均ピッチが500nm以下である構成とされていてもよい。
この場合、突起部の単位面積当たりの突起の数が多くなるので、被接着物との接触面積をより大きくすることができ、これにより接着構造体の接着強度がより高くなる。
【0013】
また、本発明の接着構造体においては、前記無機物が金属である構成とされていてもよい。
この場合、熱による分解や変質が起こりにくく、突起部の表面弾性率がより高くなるので、変形後の復元力が向上し繰返し性が向上する。
【0014】
また、本発明の接着構造体においては、前記金属が銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、NiP合金のいずれかを含むである構成とされていてもよい。
この場合、突起部の表面弾性率がさらに高くなるので、繰返し性がさらに高くなる。
【0015】
また、本発明の接着構造体においては、ナノインデンターを用いて、前記突起部に直径40μmの球状圧子を押込み深さが10nmまたは20nmの少なくとも一方となる条件で押込んだときの接着力が35N/cm2以上である構成とされていてもよい。
この場合、接着強度が高い接着構造体として好適に利用することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、熱による分解や変質が起こりにくく、かつ接着強度が高い接着構造体を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る接着構造体の斜視図である。
【
図5】
図1に示す接着構造体の突起の斜視図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る接着構造体の突起部のフォーカスカーブである。
【
図7】本発明の一実施形態に係る接着構造体の突起部にナノインデンターの探針を押し込める前の状態(
図6のA)を示す概念図である。
【
図8】本発明の一実施形態に係る接着構造体の突起部にナノインデンターの探針を押し込めた状態(
図6のB)を示す概念図である。
【
図9】本発明の一実施形態に係る接着構造体の突起部に押し込めたナノインデンターの探針を引き上げた状態(
図6のC)を示す概念図である。
【
図10】本発明の一実施形態に係る接着構造体の突起部に押し込めたナノインデンターの探針を接着構造体から離脱させた状態(
図6のD)を示す概念図である。
【
図11】本発明の第2実施形態に係る接着構造体の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の実施形態である接着構造体について、添付した図面を参照して説明する。
【0019】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係る接着構造体の斜視図である。
図2は、
図1のII-II線断面図であり、
図3は、
図1のIII-III線断面図であり、
図4は、
図1に示す接着構造体の平面図である。
図5は、
図1に示す接着構造体の突起部の斜視図である。なお、
図1から
図5において、X方向、Y方向、Z方向は互いに交差している。X方向は第1方向を表し、Y方向は第2方向を表す。Z方向は、突起部の高さ方向を表す。
【0020】
図1~5に示すように、本実施形態に係る接着構造体10は、基体11と、基体11の一方の表面に設けられた突起部12とを含む。突起部12は、複数個の突起13を有する。基体11と突起13とは一体となっている。突起13は、加圧状態で変形し、加圧状態から解放されたときに元の形状に復元する性質を有する。
【0021】
接着構造体10は、無機物からなる。無機物としては、金属、セラミック、ガラスを用いることができる。無機物は、融点が100℃以上、分解温度が100℃以上であることが好ましい。金属は、金属単体であってもよいし、合金であってもよい。合金は、複数の金属元素からなるもの及び金属元素と非金属元素からなるものを含む。金属単体の例としては、アルミニウム、ニッケル、鉄、銅を挙げることができる。合金の例としては、アルミニウム合金、NiP、ステンレス鋼、銅合金を挙げることができる。セラミックとしては、酸化物、窒化物、炭化物を用いることができる。セラミックの例としては、アルミナを挙げることができる。接着構造体10を構成する無機物は、金属であることが好ましく、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、NiP合金のいずれかを含むことがより好ましい。
【0022】
基体11は、板状とされている。基体11のサイズは特に制限はない。基体11の厚さは、例えば、10μm以上10cm以下の範囲内である。
【0023】
突起13は、尖状部14と、尖状部14から基体11に向かって延びる胴体部17とを有する。尖状部14は、先端が尖った形状を有している。尖状部14は、第1方向(X方向)の中央に、第2方向(Y方向)に沿って延びた頂部15と、頂部15を介して互いに第1方向で逆方向に傾斜した傾斜面16a、16bと、頂部15を介して互いに第2方向で逆方向に傾斜した傾斜面16c、16dを有する。突起13の底面18は、四角形とされている。
【0024】
突起13の尖状部14は、
図2及び
図3に示すように、第1方向(X方向)に直交する断面(yz面)が台形状で、第2方向(Y方向)に直交する断面(xz面)が三角形状とされている。尖状部14の三角形状は、二等辺三角形であることが好ましい。二等辺三角形の底角(
図3のθ)は、60度以上であることが好ましい。
【0025】
突起部12において、突起13は、第1方向(X方向)と第2方向(Y方向)とにそれぞれ周期的に配置されている。第1方向における突起13の平均ピッチL11は100nm以上1500nm以下の範囲内にある。第1方向における突起13の平均ピッチL11は、隣り合う突起13の頂部15の間の距離(
図3及び
図4中のP
X)の平均値である。第2方向における突起13の平均ピッチL12は100nm以上1500nm以下の範囲内にある。第2方向における突起13の平均ピッチL12は、隣り合う突起13の頂部15の中心間の距離(
図3及び
図4中のP
Y)の平均値である。第1方向の平均ピッチL11及び第2方向の平均ピッチL12は、例えば、SEM(走査型電子顕微鏡)で撮影された接着構造体10の平面もしくは断面のSEM写真から測定することができる。第1方向および第2方向において、隣接する突起13の間隔は1nm以上50nm以下の範囲内にあることが好ましい。
【0026】
突起13は、
図5に示すように、第1方向(X方向)の平均ピッチをL11、第2方向(Y方向)の平均ピッチをL12、頂部15の長さをL13、尖状部14の平均高さをD11、胴体部17の平均高さをD12、突起13の平均高さ(D11+D12)をD13として、次のような関係を満たすことが好ましい。
L11とL12のうちの長い方の長さに対するD13の比であるD13/(L11又はL12)は0.7以上10以下の範囲内にあることが好ましい。D13/(L11又はL12)は、0.85以上がより好ましく、1.00以上であることが特に好ましい。
D13は、100nm以上2000nm以下の範囲内にあることが好ましい。D13は、1000nm以下がより好ましく、500nm以下が特に好ましい。ただし、D12は0でもよい。すなわち、突起13は、胴体部17を有していなくてもよい。
L12に対するL13の比(L13/L12)は、0.4以上0.9以下の範囲内にあることが好ましい。ただし、L12とL13が同じであってもよい。
【0027】
接着構造体10は、突起部12が被接着物によって加圧され、突起13が被接着物に沿って変形して、突起13と被接着物との接触面積が増加することによって、被接着物に対する接着力が向上する。また、突起13は被接着物から離脱して、加圧状態から解放されたときに元の形状に復元することによって、接着力が回復する。L11、L12、L13、D11、D12、D13が上記の範囲内にあることによって、突起13が被接着物に沿って変形しやすくなり、被接着物に対する形状の追従性が高くなる。また、被接着物が突起部12から離脱して、突起13が加圧状態から解放されたときの復元力が高くなる。
【0028】
接着構造体10の接着力は、ナノインデンターを用いて、フォーカスカーブを作成することによって求めることができる。
図6は、本実施形態の接着構造体10の突起部12のフォーカスカーブである。
図7は、接着構造体10の突起部12にナノインデンターの探針30を押し込める前の状態(
図6のA)を示す概念図である。
図8は、接着構造体10の突起部12にナノインデンターの探針30を押し込めた状態(
図6のB)を示す概念図であり、
図9は、接着構造体10の突起部12に押し込めたナノインデンターの探針30を引き上げた状態(
図6のC)を示す概念図であり、
図10は、接着構造体10の突起部12に押し込めたナノインデンターの探針30を接着構造体から離脱させた状態(
図6のD)を示す概念図である。
【0029】
図7に示すように、接着構造体10と探針30とが離れている状態では、接着構造体10の突起部12と探針30との間に荷重は負荷されない(
図6のA)。なお、本実施形態では、探針30は、直径40μmの球状圧子を用いた。
【0030】
フォーカスカーブの作成では、先ず、探針30を接着構造体10の突起部12に所定の荷重で押込む。探針30の押込みの条件は、探針30の形状によって異なる。探針30が直径40μmの球状圧子である場合は、荷重が20μN以上100μN以下の範囲内で、押込み速度が10nm/秒以上20nm/秒以下の範囲内となる条件で行う。探針30の押込みによって、接着構造体10の突起部12が探針30の形状に沿って変形する。探針30の押込み深さが深くなるに伴って、突起部12の変形量が大きくなる。そして、
図8に示すように、探針30を所定の深さにまで押込んだ状態で、探針30の押込みを停止する(
図6のB)。なお、本実施形態では、探針30の押込み深さは、10nm又は20nmとした。
【0031】
次いで、探針30を突起部12に所定の荷重で押込んだ状態で所定の時間保持した後、突起部12から探針30を引き上げる。探針30の引き上げの条件は、探針30の形状によって異なる。探針30が直径40μmの球状圧子である場合は、引き上げ速度が10nm/秒以上20nm/秒以下の範囲内となる条件で行う。探針30を引き上げることにより、突起部12に負荷される荷重が低下して、突起部12が元の形状に戻っていく。さらに、探針30を引き上げると、荷重を取り除いても探針30と突起部12とが離れず接着力が負の荷重として観測される。さらに、探針30を引き上げると、探針30が突起部12から離脱して突起部12に負荷される荷重がゼロになる。そして、
図9に示すように、探針30と突起部12とが完全に離脱する(
図6のD)。この負の荷重が観測されてから探針30が突起部12から離脱するまでの間の荷重の負の極大値(
図6のC,単位:N)を、探針30を押込んだときの探針30と突起部12との接触面積(cm
2)で除した値が突起部12の接着力である。突起部12の接着力は、探針30の押込み深さに変動する。本実施形態の接着構造体10は、押込み深さが10nmまたは20nmの少なくとも一方において、接着力が35N/cm
2以上であることが好ましい。
【0032】
本実施形態の接着構造体10は、例えば、研磨工程、切削工程、エッチング工程を含む方法によっても製造することができる。
研磨工程では、原料の無機材料基材の表面を研磨する。無機材料基材の研磨は、例えば、グラインダー研磨、耐水紙による研磨、バフ研磨を用いることができる。研磨後の無機材料基材の表面は、例えば、表面粗さRaで0.02μm以下であることが好ましい。
【0033】
切削工程では、研磨工程で研磨した無機材料基材の表面を切削加工して、尖状部を形成する。切削加工方法は、特に制限はなく、種々の方法を選択することができる。切削加工方法としては、例えば、刃具を周期的に上下に移動させながら刃具を刃面に対して直交する方向に移動させて溝を形成する方法(NP法:ナノペッキング法)、刃具を上下に移動させずに直線的に移動させて溝を形成する方法(従来法)を用いる方法を用いることができる。
【0034】
NP法において、加工装置としては、刃具と刃具を超音波振動させる超音波振動装置とを有する加工装置を用いることができる。刃具の刃面の形状は特に制限はなく、例えば、三角形や四角形とすることができる。NP法では、例えば、刃具を超音波振動させながら無機材料基材の表面に斜めに押入し、次いで、刃具を周期的に上下に動かしながら、刃具を刃面に対して直交する方向に移動させる。これによって、無機材料基材の表面に刃具の移動方向と直交する方向に延びる逆三角形状の複数個の溝を有する三角波形状の突起部が形成される。
【0035】
従来法において、加工装置としては、刃具と刃具を超音波振動させる超音波振動装置とを有する加工装置を用いることができる。刃具の刃面の形状は、例えば、三角形や四角形とすることができる。従来法では、例えば、刃具を超音波振動させながら無機材料基材の表面に垂直に押入し、次いで、刃具を上下に移動しないように固定しながら、刃具を刃面に対して直交する方向に移動させる。これによって、無機材料基材の表面に刃具の移動方向と平行に延びる逆三角形状の溝が形成される。
【0036】
切削工程では、NP法と従来法を併用してもよい。例えば、最初に、NP法を用いて三角波形状の突起部を形成し、次いで、三角波形状の突起部に対して直交する方向に、従来法を用いて溝を形成して、三角波形状の突起部の切断することによって、尖状部を形成してもよい。
【0037】
エッチング工程では、切削工程で形成した尖状部を残して、第1の溝と第2の溝をエッチング処理することによって胴体部を形成する。エッチング処理方法としては、無機材料のエッチング処理方法として利用されている各種の方法を用いることができる。無機材料基材の材料がアルミニウムである場合、エッチング処理方法としては電解エッチング法を用いることができる。電解エッチング法によるエッチングは次のようにして行うことができる。まず、尖状部にポリカーボネートフィルム(AGC製、50μm厚)を150℃で加熱した後に貼合せ、尖状部に保護層を設置する。次いで、無機材料基材を1規定のHCl水溶液(関東化学製)に浸漬して、電解エッチングを行うことにより無機材料基材の第1の溝と第2の溝に対してエッチングを行う(100nm/min浸漬)。エッチング終了後、純水にて洗浄し、塩化メチレンによりポリカーボネートフィルムを溶解除去する。無機材料基材の材料がアルミニウム以外である場合、エッチング処理方法としては、塩鉄法を用いることができる。塩鉄法を用いる場合、尖状部にPVAフィルム(ポバール、クラレ製、10μm厚)を貼合せ、尖状部に保護層を設置する。次いで、無機材料基材を濃度40°Be´の塩化第二鉄液(東亜合成製)へ浸漬し、基材の第1の溝と第2の溝に対してエッチングを行う。エッチング終了後、純水にて洗浄し、PVAフィルムを溶解除去する。
【0038】
以上のような構成とされた本実施形態の接着構造体10によれば、基体11と、基体11の少なくとも一部の表面に設けられた複数個の突起13を有する突起部12とを含み、無機物からなるので、熱による分解や変質が起こりにくく、被接着物を汚染しにくい。また、複数の突起13はそれぞれ、第1方向(X方向)と、第1方向に対して直交する第2方向(Y方向)とにそれぞれ周期的に配置されていて、突起13は、先端が尖った尖状部14を有し、第1方向における突起13の平均ピッチが100nm以上1500nm以下の範囲内にあって、第2方向における突起13の平均ピッチが100nm以上1500nm以下の範囲内にあるので、表面弾性率が高く、被接着物で加圧したときに突起13の変形量が大きく、被接着物に対する追従性が高い。このため、本実施形態の接着構造体10は、被接着物と突起13との接触面積が多くなる。よって、本実施形態の接着構造体10は、接着強度が高く、種々の環境下で安定して被接着物を接着保持することができる。また、本実施形態の接着構造体10によれば、突起13の平均高さが100nm以上とすることによって、接触面への追従性を確実に高くすることができる。
【0039】
本実施形態の接着構造体10によれば、突起13の尖状部14は、頂部15を介して互いに逆方向に傾斜した傾斜面16a、16bを有する形状であるので、被接着物との接触面積を大きくすることができる。このため、接着構造体10の接着強度がより高くなる。
【0040】
本実施形態の接着構造体10において、突起13は、尖状部14と、尖状部14から基体11に向かって延びる胴体部17とを有する場合は、被接着物で加圧したときの突起13の変形量がより大きくなるので、被接着物に対する追従性がより高くなる。
【0041】
本実施形態の接着構造体10において、第1方向における突起13の平均ピッチL11と第2方向における突起13の平均ピッチL12のうちの長い方の長さに対する突起13の平均高さD3の比が0.7以上10以下の範囲内にある場合は、被接着物で加圧したときの突起13の変形量がより大きくなるので、被接着物に対する追従性がより高くなる。
【0042】
本実施形態の接着構造体10において、第1方向における突起13の平均ピッチL11が500nm以下であって、第2方向における突起13の平均ピッチL12が500nm以下である場合は、突起部12の単位面積当たりの突起13の数が多くなるので、被接着物との接触面積をより大きくすることができ、これにより接着構造体10の接着強度がより高くなる。
【0043】
本実施形態の接着構造体10において、突起部12を構成する無機物が金属である場合は、突起部12の表面弾性率がより高くなるので、変形後の復元力が向上し繰返し性が向上する。特に、突起部12を構成する無機物が銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、NiP合金のいずれかである場合は、突起部12の表面弾性率がさらに高くなるので、接着力がさらに高くなる。
【0044】
本実施形態の接着構造体10において、探針30として直径40μmの球状圧子を使用したナノインデンターを用いて、突起部12に探針30を押込み深さが10nmまたは20nmの少なくとも一方となる条件で押込んだときの接着力が35N/cm2以上である場合は、接着強度が高いので、熱による分解や変質が起こりにくく、かつ接着強度が高い接着構造体として好適に利用できる。
【0045】
[第2実施形態]
図11は、本発明の第2実施形態に係る接着構造体の斜視図である。
図12は、
図11のXII-XII線断面図であり、
図13は、
図11に示す接着構造体の平面図である。
図14は、
図11に示す接着構造体の突起の斜視図である。なお、
図11から
図14において、X方向、Y方向、Z方向はそれぞれ直交している。X方向は第1方向を表し、Y方向は第2方向を表す。Z方向は、突起部の高さ方向を表す。
【0046】
図11~14に示すように、本実施形態に係る接着構造体20は、基体21と、基体21の一方の表面に設けられた複数個の突起部22とを有する。基体21と突起部22とは一体となっている。基体21は、第1実施形態の接着構造体10の基体11と同じである。
【0047】
接着構造体20は、無機物からなる。無機物としては、金属、セラミック、ガラスを用いることができる。無機物は、融点が100℃以上、分解温度が100℃以上であることが好ましい。金属およびセラミックの例は、第1実施形態の接着構造体10の場合と同じである。
【0048】
突起23の尖状部24は、四角錐形状とされている。四角錐を形成する傾斜面26a、26b、26c、26dは、それぞれ同じ二等辺三角形であることが好ましい。底面28は正方形であることが好ましい。尖状部24の二等辺三角形の底角(
図12のθ)は60度以上であることが好ましい。
【0049】
突起部22は、第1方向(X方向)と第2方向(Y方向)とにそれぞれ周期的に配置されている。第1方向における突起23の平均ピッチは100nm以上1500nm以下の範囲内にある。第1方向における突起23の平均ピッチは、隣り合う突起23の頂点25の間の距離(
図12及び
図13中のP
X)の平均値である。第2方向における突起23の平均ピッチは100nm以上1500nm以下の範囲内にある。第2方向における突起部22の平均ピッチは、隣り合う突起23の頂点25の間の距離(
図13中のP
Y)の平均値である。第1方向及び第2方向における突起23の平均ピッチは、SEM(走査型電子顕微鏡)で撮影された接着構造体10の平面もしくは断面のSEM写真から測定することができる。第1方向および第2方向に隣接する突起23の間隔は、1nm以上50nm以下であることが好ましい。
【0050】
突起23は、
図14に示すように、底面28の第1方向(X方向)の長さをL21、底面18の第2方向(Y方向)の長さをL22、尖状部24の平均高さをD21、胴体部27の平均高さD22、突起部12の平均高さ(D21+D22)をD23として、次のような関係を満たすことが好ましい。
L21に対するD23の比(D23/L21)が0.7以上10以下の範囲内にあることが好ましい。D23/L21は、0.85以上がより好ましく、1.00以上であることが特に好ましい。
D23は、100nm以上2000nm以下の範囲内にあることが好ましい。D23は、1000nm以下がより好ましく、500nm以下が特に好ましい。
【0051】
本実施形態の接着構造体20は、第1実施形態の接着構造体10と同様に製造することができる。ただし、本実施形態の接着構造体20を製造する場合は、切削工程において第2の溝を頂部が残らないように形成する。これによって、四角錐状の尖状部が形成される。また、接着構造体20を、第2方法を用いて製造する場合は、切削工程において、断面が三角形状の突起を形成した後、頂部が残らないように断面が三角形状の突起を切削する。これによって、四角錐状の尖状部が形成される。
【0052】
以上のような構成とされた本実施形態の接着構造体20は、無機物からなり、複数の突起23はそれぞれ先端が尖った尖状部を有し、第1方向における突起23の平均ピッチL21、第2方向における突起23の平均ピッチL22、突起13の平均高さD13が、上述第1実施形態の接着構造体10と同様であるので、接着構造体10と同様の効果を有する。さらに、第2実施形態の接着構造体20は、突起23の尖状部24が四角錐形状であり、尖状部24が変形しても隣り合う突起23の尖状部24同士が接触しにくい。このため、被接着物で加圧したときに突起23の変形量が大きく、被接着物に対する追従性が高くなる。よって、本実施形態の接着構造体20は、接着強度が高く、種々の環境下で安定して被接着物を接着保持することができる。
【0053】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態の接着構造体10、20において、突起部12、22は、基体11、21の一方の表面(上面)の全面に設けられているが、突起部12、22の位置はこれに限定されるものではない。突起部12、22を基体11、21の両面に設けてもよい。また、突起部12、22を基体11、21の表面の一部に設けてもよい。
【実施例0054】
[本発明例1]
基材として金属アルミニウム基材(縦:30mm、横:30mm、板厚:30mm)を用意した。用意した金属アルミニウム基材の表面を表面粗さRaが0.02μm以下となるまで研磨して、平滑面とした。
【0055】
次に、研磨した金属アルミニウム基材の表面に、NP法を用いて三角波形状の突起部を形成した。加工装置としては、刃具と刃具を超音波楕円振動させる超音波振動装置とを有する加工装置を用いた。刃具を超音波振動させながら斜めに押入し、次いで、刃具を超音波楕円振動させながら、刃面に対して直交する方向(第1方向)に1000nm移動させる間に、刃先が上下方向に1000nm移動する周期で動かすことによって、金属アルミニウム基材の表面に刃具の移動方向(第1方向)と直交する方向(第2方向)に延びる逆正三角形状の第1の溝を形成して、正三角波形状の突起部を有する三角波状突起部付き基板を作製した。
【0056】
次に、三角波状突起部付き基板の正三角波形状の突起部を、従来法を用いて切断した。加工装置としては、刃具と刃具を超音波楕円振動させる超音波振動装置とを有する加工装置を用いた。刃具は、刃面の幅が300nmの四角形状とした。刃具を超音波楕円振動させながら三角波形状の突起部に押入し、次いで、刃具を上下に移動しないように固定しながら、刃具を、三角波形状の突起部の溝が延びる方向(第2方向)に対して直交する方向(第1方向)に動かして、幅300nmの第2の溝を1000nmピッチで形成して、
図1~5に示すように、第1方向に直交する断面が台形状で、第2方向に直交する断面が正三角形状の尖状部を形成した。こうして突起部付き基板を得た。得られた突起部付き基板の突起部の第1方向の平均ピッチL11と第2方向の平均ピッチL12、頂部の平均長さL13、尖状部の平均高さD11、胴体部の平均高さD12、突起部の平均高さD13を、下記の表1に示す。
【0057】
[本発明例2~8、比較例1]
基材として、下記の表1に記載された材料からなる金属基材を用いたこと、第1方向の平均ピッチL11、第2方向の平均ピッチL12、頂部の平均長さL13、尖状部の平均高さD11、胴体部の平均高さD12、突起の平均高さD13が、下記の表1に記載された値となるように切削加工したこと以外は、本発明例1と同様にして、突起部付き基板を作製した。
【0058】
[評価]
本発明例1~8及び比較例1で作製した突起部付き基板について、下記の方法により、表面弾性率を測定し、接着性を評価した。その結果を、表1に示す。
【0059】
(表面弾性率の測定方法)
ナノインデンター(株式会社エリオニクス製、ENT-NEXUS)を用いて測定した。探針は直径40μmの球状圧子(チタン製)を使用した。荷重を20μNから100μNまで10μNの間隔で上昇させ、各荷重での表面弾性率を測定した。探針の押込み深さが三角波状突起部の高さの1/10となったときの表面弾性率を、下記の表1に示す。測定は、室温(25℃)で行った。
【0060】
(接着性の評価方法)
ナノインデンター(株式会社エリオニクス製、ENT-NEXUS)を用いて、上記の方法により接着力を測定した。探針は、直径40μmの球状圧子(チタン)を使用した。球状圧子の押込み深さは、上記の表面弾性率の測定方法と同様に表1に記載の深さとした。探針の押込み速度は、押込み深さが10nmのときは10nm/秒に、押込み深さが20nmのときは20nm/秒に設定した。また、探針の引き上げ速度は、押込み深さが10nmのときは10nm/秒に、押込み深さが20nmのときは20nm/秒に設定した。測定は、室温(25℃)で行った。
【0061】
【0062】
表1の結果から、突起の平均ピッチL11、L12と平均高さD3が本発明の範囲内にある本発明例1~8で得られた突起部付き基板は、比較例1で得られた突起部付き基板と比較して接着力が高く、接着構造体として有用であることが確認された。本発明例1~8で得られた突起部付き基板の接着力が高いのは、表面弾性率が低く、被接着物で加圧したときに突起部の変形量が大きいためである。
【0063】
平均ピッチL11、L12と平均高さD13が本発明の範囲よりも小さい比較例1で得られた突起部付き基板は、D13/L11は本発明例1~8と同じであるが、接着しなかった。これは、平均高さD13が小さくなりすぎたことにより、表面弾性率が高くなったためである。
【0064】
[本発明例9]
三角波状突起部付き基板の正三角波形状の突起部を切断する際に用いる刃具として、先端角度が60度の正三角形状のものを用い、刃具を、三角波形状の突起部の溝が延びる方向(第2方向)に対して直交する方向(第1方向)に動かして、断面が逆正三角形状の第2の溝を1000nmピッチで形成して、
図11~14に示すように、正四角錐形状の尖状部を形成したこと以外は、本発明例1と同様にして突起部付き基板を得た。得られた突起部付き基板の突起部の第1方向の平均ピッチL21と第2方向の平均ピッチL22、の平均高さD21、胴体部の平均高さD22、突起部の平均高さD23を、下記の表1に示す。
【0065】
[本発明例10~12、比較例2]
基材として、下記の表1に記載された材料からなる金属基材を用いたこと、第1方向の平均ピッチL21、第2方向の平均ピッチL22、尖状部の平均高さD21、胴体部の平均高さD22、突起の平均高さD23が、下記の表2に記載された値となるように切削加工したこと以外は、本発明例9と同様にして、突起部付き基板を作製した。
【0066】
[本発明例13]
ポリカーボネートフィルム(AGC製、50μm厚)を150℃で加熱し、加熱したポリカーボネートフィルムを、本発明例9で得られた突起部付き基板の尖状部と側面と底面に貼合せて、突起部付き基板に保護層を形成した。次いで、保護層を形成した突起部付き基板を、1規定のHCl水溶液(関東化学製)に浸漬して、電解エッチングを20秒間行うことにより突起部付き基板に保護層の第1の溝と第2の溝に対してエッチングを行った。次いで、突起部付き基板を純水にて洗浄した後、塩化メチレンにより保護層(ポリカーボネートフィルム)を溶解除去した。こうして、突起部に表2に示す平均高さの胴体部を形成した。
【0067】
[本発明例14]
PVAフィルム(ポバール、クラレ製、10μm厚)を、本発明例10で得られた突起部付き基板の尖状部と側面と底面に貼合せて、突起部付き基板に保護層を形成した。次いで、保護層を形成した突起部付き基板を、濃度40°Be´の塩化第二鉄液(東亜合成製)に30秒間浸漬することにより突起部付き基板に保護層の第1の溝と第2の溝に対して塩鉄法によるエッチングを行った。次いで、突起部付き基板を純水にて洗浄して、保護層(PVAフィルム)を溶解除去した。こうして、突起部に表2に示す平均高さの胴体部を形成した。
【0068】
[本発明例15、16]
突起部付き基板として、本発明例11で得られたものを用い、塩化第二鉄液の浸漬時間を10秒間(本発明例15)、20秒間(本発明例16)としたこと以外は、本発明例14と同様にして塩鉄法によるエッチングを行った。こうして、突起部に表2に示す平均高さの胴体部を形成した。
【0069】
[本発明例17]
突起部付き基板として、本発明例12で得られたものを用い、電解エッチングを10秒間行ったこと以外は、本発明例13と同様にしてエッチングを行った。こうして、突起部に表2に示す平均高さの胴体部を形成した。
【0070】
[本発明例18、19]
基材として、NiPからなる基材を用い、第1方向の平均ピッチL21、第2方向の平均ピッチL22、尖状部の平均高さD21、胴体部の平均高さD22、突起の平均高さD23が、下記の表2に記載された値となるように切削加工したこと以外は、本発明例9と同様にして、突起部付き基板を作製した。得られた突起部付き基板を用い、塩化第二鉄液の浸漬時間を10秒間(本発明例18)、10秒間(本発明例19)としたこと以外は、本発明例14と同様にして塩鉄法によるエッチングを行った。こうして、突起部に表2に示す平均高さの胴体部を形成した。
【0071】
[評価]
本発明例9~19及び比較例2で作製した突起部付き基板について、上記の方法により、表面弾性率を測定し、接着性を評価した。その結果を、表2に示す。
【0072】
【0073】
表2の結果から、突起の平均ピッチL21、L22と平均高さD23が本発明の範囲内にある本発明例9~19で得られた突起部付き基板は、比較例2で得られた突起部付き基板と比較して接着力が高く、接着構造体として有用であることが確認された。本発明例9~19で得られた突起部付き基板の接着力が高いのは、表面弾性率が低く、被接着物で加圧したときに突起部の変形量が大きいためである。特に、胴体部を有する本発明例13~19で得られた突起部付き基板は接着力が高くなった。これは、胴体部を有することによって突起が変形しやすくなったためである。
【0074】
平均ピッチL21、L22と平均高さD23が本発明の範囲よりも小さい比較例1で得られた突起部付き基板は、D23/L21は本発明例9~12と同じであるが、接着しなかった。これは、平均高さD23が小さくなりすぎたことにより、表面弾性率が高くなったためである。
本実施形態の接着構造体は、高い耐熱性と、高い接着強度を有するので、接着・仮固定用の構造体として利用できる。本実施形態の接着構造体は、特に航空宇宙、半導体、医療などの環境の変化が大きく、不純物による汚染が少ないことが要求される分野において好適に利用できる。