(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023011577
(43)【公開日】2023-01-24
(54)【発明の名称】アデノシン誘導体を含む網膜疾患または視神経疾患の予防及び治療用薬学的組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7076 20060101AFI20230117BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20230117BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20230117BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20230117BHJP
A61K 47/20 20060101ALI20230117BHJP
A61K 47/10 20060101ALI20230117BHJP
A61K 9/48 20060101ALI20230117BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20230117BHJP
【FI】
A61K31/7076
A61P27/02
A61P3/10
A61K47/38
A61K47/20
A61K47/10
A61K9/48
A61K48/00
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022160407
(22)【出願日】2022-10-04
(62)【分割の表示】P 2020549534の分割
【原出願日】2018-11-29
(31)【優先権主張番号】10-2017-0161545
(32)【優先日】2017-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】520188684
【氏名又は名称】フューチャー・メディシン・カンパニー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】FUTURE MEDICINE CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 信彦
(74)【代理人】
【識別番号】100138900
【弁理士】
【氏名又は名称】新田 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】ヤン・ジェウク
(72)【発明者】
【氏名】キム・ジヨン
(72)【発明者】
【氏名】イ・ヒョクウ
(72)【発明者】
【氏名】パク・チョンウ
(72)【発明者】
【氏名】ユ・ミラ
(72)【発明者】
【氏名】イ・ジヨン
(72)【発明者】
【氏名】パク・ボミ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】網膜疾患または視神経疾患の予防または治療用薬学組成物を提供する。
【解決手段】下式の化合物を含む組成物である。
(Aは、OまたはSであり、Rは、a)非置換の、もしくは、独立して、または選択的に1または2以上のC
6~C
10のアリールで置換された直鎖状または側鎖状のC
1~C
5のアルキル、b)非置換の、もしくは、独立して、または選択的にフルオロ、クロロ、ブロモまたは直鎖状または側鎖状のC
1~C
4のアルコキシ基が、1または2以上に置換されたベンジル、またはc)ヒドロキシカルボニルで置換されたベンジルであり、Yは、Hまたはハロゲン元素である。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む網膜疾患の予防または治療用薬学組成物:
【化1】
前記化学式1において、Aは、OまたはSであり、
Rは、a)非置換の、もしくは、独立して、または選択的に1または2以上のC
6~C
10のアリールで置換された直鎖状または側鎖状のC
1~C
5のアルキル、b)非置換の、もしくは、独立して、または選択的にフルオロ、クロロ、ブロモまたは直鎖状または側鎖状のC
1~C
4のアルコキシ基が、1または2以上に置換されたベンジル、またはc)ヒドロキシカルボニルで置換されたベンジルであり、
Yは、Hまたはハロゲン元素である。
【請求項2】
前記網膜疾患は、糖尿病性網膜症または加齢黄斑変性であることを特徴とする請求項1に記載の網膜疾患の予防または治療用薬学組成物。
【請求項3】
前記化学式1で表される化合物は、下記化学式2で表される化合物であることを特徴とする請求項1に記載の網膜疾患の予防または治療用薬学組成物。
【化2】
。
【請求項4】
下記化学式1で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩を含む網膜疾患の予防または治療用経口投与剤:
【化3】
前記化学式1において、Aは、OまたはSであり、
Rは、a)非置換の、もしくは、独立して、または選択的に1または2以上のC
6~C
10のアリールで置換された直鎖状または側鎖状のC
1~C
5のアルキル、b)非置換の、もしくは、独立して、または選択的にフルオロ、クロロ、ブロモまたは直鎖状または側鎖状のC
1~C
4のアルコキシ基が、1または2以上に置換されたベンジル、またはc)ヒドロキシカルボニルで置換されたベンジルであり、
Yは、Hまたはハロゲン元素である。
【請求項5】
前記網膜疾患は、糖尿病性網膜症または加齢黄斑変性であることを特徴とする請求項4に記載の網膜疾患の予防または治療用経口投与剤。
【請求項6】
前記経口投与剤は、メチルセルロース(MC)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ポリエチレングリコール(PEG)、及び蒸留水からなる群から選択される1つ以上を含む賦形剤をさらに含むことを特徴とする請求項4に記載の網膜疾患の予防または治療用経口投与剤。
【請求項7】
前記賦形剤は、0.5wt%メチルセルロースを含むことを特徴とする請求項6に記載の網膜疾患の予防または治療用経口投与剤。
【請求項8】
前記化学式1で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩は、粉末状にカプセル内に充填されることを特徴とする請求項4に記載の網膜疾患の予防または治療用経口投与剤。
【請求項9】
前記化学式1で表される化合物は、下記化学式2で表される化合物であることを特徴とする請求項4に記載の網膜疾患の予防または治療用経口投与剤。
【化4】
。
【請求項10】
下記化学式1で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩を含む網膜疾患の予防または治療用点眼剤:
【化5】
前記化学式1において、Aは、OまたはSであり、
Rは、a)非置換の、もしくは、独立して、または選択的に1または2以上のC
6~C
10のアリールで置換された直鎖状または側鎖状のC
1~C
5のアルキル、b)非置換の、もしくは、独立して、または選択的にフルオロ、クロロ、ブロモまたは直鎖状または側鎖状のC
1~C
4のアルコキシ基が、1または2以上に置換されたベンジル、またはc)ヒドロキシカルボニルで置換されたベンジルであり、
Yは、Hまたはハロゲン元素である。
【請求項11】
前記網膜疾患は、糖尿病性網膜症または加齢黄斑変性であることを特徴とする請求項10に記載の網膜疾患の予防または治療用点眼剤。
【請求項12】
下記化学式1で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む視神経疾患の予防または治療用薬学組成物:
【化6】
前記化学式1において、Aは、OまたはSであり、
Rは、a)非置換の、もしくは、独立して、または選択的に1または2以上のC
6~C
10のアリールで置換された直鎖状または側鎖状のC
1~C
5のアルキル、b)非置換の、もしくは、独立して、または選択的にフルオロ、クロロ、ブロモまたは直鎖状または側鎖状のC
1~C
4のアルコキシ基が、1または2以上に置換されたベンジル、またはc)ヒドロキシカルボニルで置換されたベンジルであり、
Yは、Hまたはハロゲン元素である。
【請求項13】
前記視神経疾患は、虚血性視神経症、外傷性視神経症及び圧迫性視神経症からなる群から選択されることを特徴とする請求項12に記載の視神経疾患の予防または治療用薬学組成物。
【請求項14】
前記化学式1で表される化合物は、下記化学式2で表される化合物であることを特徴とする請求項12に記載の視神経疾患の予防または治療用薬学組成物。
【化7】
。
【請求項15】
下記化学式1で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩を含む視神経疾患の予防または治療用経口投与剤:
【化8】
前記化学式1において、Aは、OまたはSであり、
Rは、a)非置換の、もしくは、独立して、または選択的に1または2以上のC
6~C
10のアリールで置換された直鎖状または側鎖状のC
1~C
5のアルキル、b)非置換の、もしくは、独立して、または選択的にフルオロ、クロロ、ブロモまたは直鎖状または側鎖状のC
1~C
4のアルコキシ基が、1または2以上に置換されたベンジル、またはc)ヒドロキシカルボニルで置換されたベンジルであり、
Yは、Hまたはハロゲン元素である。
【請求項16】
前記視神経疾患は、虚血性視神経症、外傷性視神経症及び圧迫性視神経症からなる群から選択されることを特徴とする請求項15に記載の視神経疾患の予防または治療用経口投与剤。
【請求項17】
前記経口投与剤は、メチルセルロース(MC)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ポリエチレングリコール(PEG)、及び蒸留水からなる群から選択される1つ以上を含む賦形剤をさらに含むことを特徴とする請求項15に記載の視神経疾患の予防または治療用経口投与剤。
【請求項18】
前記経口投与剤は、0.5wt%メチルセルロースを含むことを特徴とする請求項17に記載の視神経疾患の予防または治療用経口投与剤。
【請求項19】
前記化学式1で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩は、粉末状にカプセル内に充填されることを特徴とする請求項15に記載の視神経疾患の予防または治療用経口投与剤。
【請求項20】
前記化学式1で表される化合物は、下記化学式2で表される化合物であることを特徴とする請求項15に記載の視神経疾患の予防または治療用経口投与剤。
【化9】
。
【請求項21】
下記化学式1で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩を含む視神経疾患の予防または治療用点眼剤:
【化10】
前記化学式1において、Aは、OまたはSであり、
Rは、a)非置換の、もしくは、独立して、または選択的に1または2以上のC
6~C
10のアリールで置換された直鎖状または側鎖状のC
1~C
5のアルキル、b)非置換の、もしくは、独立して、または選択的にフルオロ、クロロ、ブロモまたは直鎖状または側鎖状のC
1~C
4のアルコキシ基が、1または2以上に置換されたベンジル、またはc)ヒドロキシカルボニルで置換されたベンジルであり、
Yは、Hまたはハロゲン元素である。
【請求項22】
前記視神経疾患は、虚血性視神経症、外傷性視神経症及び圧迫性視神経症からなる群から選択されることを特徴とする請求項21に記載の視神経疾患の予防または治療用点眼剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アデノシン誘導体を含む網膜疾患または視神経疾患の予防または治療用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
アデノシン(adenosine)は、特殊な細胞膜の受容体を通じて多くの生理学的機能を行う物質であって、細胞外に存在するアデノシンは、多くの生理学的体系で神経伝達物質として作用するが、一般的に、与えられた器官の過多活動を補償し、ストレスの有害な効果から保護する作用を行う(Jacobson,K.A.et al.,J.Med.Chem.,35,407-422,1992)。このような作用は、細胞内または細胞外のATP(adenosine triphosphate)が分解されて生成されたアデノシンによる細胞のエネルギー要求を減らし、酸素の供給を増加させようとする、部分的に生成された陰性フィードバックループ(negative feedback loop)によるものである。アデノシンは、脳、心臓、腎臓のような必須的な器官の恒常性保持のために重要であり、例えば、脳に外部からアデノシンアゴニスト(agonist)を投与することで、神経保護作用があることが証明されており、疼痛、認知、運動または睡眠にもかかわっていることが知られている。
【0003】
アデノシン受容体(adenosine receptor)は、現在まで薬理学的研究及び分子クローニングを通じて、それぞれP1とP2受容体とに分類される。P1受容体は、アデノシンが基質として作用し、P2受容体は、ATP、ADP、UTP及びUDPが基質として作用して、生理活性を発現する。そのうちから、P1受容体は、4個の互いに異なるサブタイプのアデノシン受容体が確認され、リガンド(ligand)に対する親和力、体内分布、作用経路などによって、A1、A2またはA3に分類され、A2は、再びA2AとA2Bとに分類される。これらアデノシン受容体は、Gタンパク質共役受容体(G-protein-coupled receptor)群の一部類であって、アデノシンA1、A2A及びA2B受容体は、多くの選択的なリガンドを使用して薬理学的に確認されているが、アデノシンA3受容体は、1992年に最初に明らかになった受容体(Zhou,Q.Y,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,89,7432-7436,1992)であって、この受容体の病態生理学的な機能を確認するために多くの研究がなされている。
【0004】
アデノシンA1及びA2受容体アゴニストは、主にアデノシンの誘導体であって、血圧降下剤、精神病治療剤、不整脈治療剤、脂肪代謝抑制剤(糖尿病治療剤)、脳保護剤として多く研究され、その拮抗剤(antagonist)は、キサンチン(xanthine)誘導体であるか、多様な二環式が接合されたものであって、喘息治療剤、抗うつ剤、不整脈治療剤、腎臓保護剤、パーキンソン病治療剤、知能開発剤などとして開発されている。それにも拘らず、現在商品化されたものは、上室性頻拍(supraventricular tachycardia)の治療目的として使用中であるアデノシン自体と心臓手術後に来る血液凝固を防止するために、ワーファリン(warfarin)の補助制として使用中であるアデノシン輸送阻害剤であるジピリダモール(dipyridamole)だけである。このように商品化が円滑ではない理由は、アデノシン受容体が全身に広がっており、受容体の活性化時に伴われる多様な薬理作用のためであり、すなわち、所望の組織のアデノシン受容体のみを活性化することができる化合物がないためである。
【0005】
アデノシン受容体のうち、アデノシンA3受容体は、広く知られたアデノシンA1及びA2の受容体とは異なって、最も最近に明らかになった受容体であって、その役割が多く明らかになっておらず、選択的な受容体調節剤の開発のために多くの研究が進行中である。アデノシンA3受容体を薬理学的に研究するために、[125I]ABA(N6-(4-アミノ-3-[125I]ヨードベンジル)-アデノシン、N6-(4-amino-3-[125I]iodobenzyl)-adenosine)、[125I]APNEA(N6-2-(4-アミノ-3-[125I]ヨードフェニル)-エチルアデノシン、N6-2-(4-amino-3-[125I]iodophenyl)-ethyladenosine)または[125I]AB-MECA((N6-(4-アミノ-3-[125I]ヨードベンジル)-アデノシン-5’-N-メチルカルボキサミド、N6-(4-amino-3-[125I]iodobenzyl)-adenosine-5’-N-methylcarboxamide)である3個の放射性標識されたリガンドが用いられている。前記放射性標識されたリガンドを利用した薬理学的に研究を通じて、アデノシンA3受容体をチャイニーズハムスター卵巣(Chinese Hamster Ovary、CHO)細胞に発現させた時、A3受容体は、ATPからcAMPを生成させる酵素であるアデニル酸シクラーゼ(adenylyl cyclase)の抑制作用があり、A3受容体は、アゴニストによって活性化される時、脳でホスファチジルイノシトール(phosphatidyl inositol)を分解して、イノシトールリン酸(inositol phosphate)とDAGとを生成させる酵素であるGTP-依存性ホスホリパーゼC(Guanosine triphosphate-dependent phospholipase C)を活性化するという事実が証明されている(Ramkumar,V.et al.,J.Biol.Chem.,268,168871-168890,1993;Abbracchio,M.P.et al.,Mol.Pharmacol.,48,1038-1045,1995)。このような発見は、脳虚血(brain ischemia)でのA3受容体活性化作用による反応経路の可能性を説明可能にするが、このような2次伝達物質体系が脳虚血での神経傷害の反応経路を意味するためである。また、A3受容体のアゴニストは、炎症媒介体である腫瘍壊死因子TNF-α(tumor necrosis factor)の放出を抑制し、やはり炎症媒介体であるMIP-1α、インターロイキン-12(interleukin-12)及びインターフェロン-γ(interferon-γ)の生成を抑制し、癲癇のような脳疾患に対する保護効果だけではなく、心臓に対しても保護効果があると知られている。アデノシンA3受容体の不活性化は、肥満細胞(mast cell)からヒスタミンのような炎症誘発因子の放出を引き起こせ、気管支を収縮する作用を行い、免疫細胞で細胞死(apoptosis)を引き起こせる。したがって、アデノシンA3受容体拮抗剤は、消炎剤及び喘息治療剤としての開発可能性があるので、薬物学的選択性を有した化合物を開発することができるならば、喘息、炎症、脳虚血、心臓疾患、癌など多様な疾病に対する新たな治療薬物の開発が可能であると考えられる。
【0006】
現在まで研究開発された物質のうち、代表的なヒトアデノシンA3受容体アゴニストは、ヌクレオシド系であるN6-(3-ヨードベンジル)-5’-(N-メチルカルバモイル)-アデノシン(N6-(3-iodobenzyl)-5’-(N-methylcarbamoyl)-adenosine;IB-MECA)及びN6-(3-ヨードベンジル)-2-クロロ-5’-(N-メチルカルバモイル)-アデノシン(N6-(3-iodobenzyl)-2-chloro-5’-(N-methylcarbamoyl)-adenosine;CI-IB-MECA)であって、アデノシンA1及びA2受容体に比較して、A3受容体に対して高い親和力及び選択性を有する物質である。一方、高い親和力及び選択性を示すアデノシンA3受容体拮抗剤は、ほとんどヌクレオシド骨格ではない非プリン(nonpurine)系の二環式化合物であって、ヒトの受容体では高い活性を示しているが、ラットのA3受容体に対しては活性が弱いか、ほとんどないので、臨床適用が可能な薬物の開発のために必須的な動物実験が不可能であるという短所が指摘されている(Baraldi,P.G.et al.,Curr.Med.Chem.,12,1319-1329,2005)。しかし、非プリン系の二環式化合物に比べて、ヌクレオシド系の化合物は、種間に関係なく、高い親和力と選択性とを示すために、動物実験が容易な長所があるので、新薬としての開発可能性が非常に大きいと考えられ、したがって、この系列の選択的アデノシンA3受容体拮抗剤の導出が至急な課題であると言える。
【0007】
一方、網膜は、眼球壁の最も内側に位置して、眼球内硝子体(vitreous body)と接している透明であり、薄い膜であって、モノの光学的情報を電気的信号に変換して、視神経を通じて脳の中枢視覚領域に映像を伝達する一次視覚情報器官の役割を果たす。網膜には、1億個を超える光感知細胞(光受容体細胞、light-sensitive photoreceptor cells)と1百万個を超える視神経細胞である神経節細胞(ganglion cells)、そして、これらを連結する電線役割を行う多様な神経細胞からなっており、我が身で最も精巧な組織である。色とモノとを区別し、視力を示す網膜の中心部分である黄斑部(macula lutea)は、円錐細胞で構成された光受容体細胞層と神経節細胞層とからなっており、網膜の厚さが薄く、明るい光状態で映像の電気的信号が化学的信号に転換されて、神経節細胞の軸索である視神経(optic nerve)に乗って脳に伝達され、黄斑部以外の網膜は、周辺部を調べ、暗い時に、主な役割を担当する。一方、老化または外部的な要因によって網膜に異常が発生すれば、徐々に視力と視野とに問題が生じる視覚障害と共に失明に至る。
【0008】
網膜疾患は、網膜周辺組織に異常が誘発されて、神経網膜が色素上皮細胞層から離れれば、網膜が眼球後面に分離されて、視力障害を誘発する網膜剥離(retinal detachment)、網膜周辺組織に異常を起こす周辺部網膜変性及び黄斑部に異常が生じる黄斑変性(macular degeneration)の3種類に大きく分類されるが、一旦、網膜が色素上皮層と分離されれば、映像に対する光学的情報を伝達されることができず、また、脈絡膜から来る栄養供給がなされないので、神経細胞が機能できなくなり、このような状態を放置すれば、永久的な網膜萎縮が発生して失明に至る。失明(blindness)の主な原因である視覚障害は、網膜疾患がその原因であって、主に年を取るにつれて表われる疾患であって、遺伝的あるいは高度近眼、外傷などの原因で引き起こされ、白内障の次に平凡な眼科疾患である。網膜疾患は、死亡に至る致命的な疾患ではないが、老人人口の増加と共に産業化及び食生活の変化によって、その発病が最近急増しているので、手術的な方法の以外に、人為的な方法で合成された治療剤の形態ではない従来に我々が摂取している生薬材などの形態で供給することができる網膜疾患治療用組成物が開発される必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、効果的に網膜疾患を予防または治療することができる薬学組成物、経口投与剤または点眼剤を提供することである。
【0010】
本発明の他の目的は、効果的に視神経疾患を予防または治療することができる薬学組成物、経口投与剤または点眼剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を果たすために、本発明は、下記化学式1で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む網膜疾患の予防または治療用薬学組成物を提供する。
【0012】
また、本発明は、下記化学式1で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩を含む網膜疾患の予防または治療用経口投与剤を提供する。
【0013】
しかも、本発明は、下記化学式1で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩を含む網膜疾患の予防または治療用点眼剤を提供する。
【0014】
前記他の目的を果たすために、本発明は、下記化学式1で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む視神経疾患の予防または治療用薬学組成物を提供する。
【0015】
また、本発明は、下記化学式1で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩を含む視神経疾患の予防または治療用経口投与剤を提供する。
【0016】
しかも、本発明は、下記化学式1で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩を含む視神経疾患の予防または治療用点眼剤を提供する:
【0017】
【0018】
前記化学式1において、Aは、OまたはSであり、Rは、a)非置換の、もしくは、独立して、または選択的に1または2以上のC6~C10のアリールで置換された直鎖状または側鎖状のC1~C5のアルキル、b)非置換の、もしくは、独立して、または選択的にフルオロ、クロロ、ブロモまたは直鎖状または側鎖状のC1~C4のアルコキシ基が、1または2以上に置換されたベンジル、またはc)ヒドロキシカルボニルで置換されたベンジルであり、Yは、Hまたはハロゲン元素である。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、特定のアデノシン誘導体を有効成分として含む網膜疾患または視神経疾患の予防または治療用組成物に関するものであって、前記アデノシン誘導体は、マウス網膜由来の光受容体細胞で炎症関連タンパク質、VEGF及び炎症性サイトカインの発現を抑制することにより、炎症反応を抑制し、グルタミン酸で誘導された細胞死を抑制することができ、それを含んで製造された点眼剤は、マウスを対象とした実験で効果的に網膜神経節細胞を保護する効果を示したので、網膜疾患または視神経疾患を効果的に予防ないし治療することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施例において、化合物A処理時に、新生血管及び炎症反応関連タンパク質の発現変化を確認した結果である。
【0021】
【
図2】
図1の実施例において、化合物A処理時に、VEGF及び炎症性サイトカインの発現変化を確認した結果である。
【0022】
【
図3】
図1の実施例において、化合物A処理時に、新生血管及び炎症反応関連mRNAの発現変化を確認した結果である。
【0023】
【
図4】本発明の他の一実施例において、化合物A処理時に、マウス網膜由来の光受容体細胞に対する細胞毒性を確認した結果である。
【0024】
【
図5】
図4の実施例において、グルタミン酸で誘導された細胞死に対する化合物Aの細胞保護効果を確認したものである((n=6)、(ア)化合物Aの30分前処理、(イ)化合物Aの1時間前処理)。
【0025】
【
図6】
図4の実施例において、化合物Aの細胞死の抑制効果をTUNELアッセイとDAPI染色とを通じて顕微鏡で観察した結果である。
【0026】
【
図7】
図4の実施例において、化合物Aのミトコンドリア保護効果を確認した結果である((ア)JC-1凝集体、(イ)正常群細胞の分布、(ウ)グルタミン酸のみ処理された実験群細胞の分布、(エ)化合物Aを前処理した後、グルタミン酸が処理された実験群細胞の分布、(オ)CCCPのみ処理された対照群細胞の分布)。
【0027】
【
図8】
図4の実施例において、化合物Aのカスパーゼ活性の抑制効果を確認した結果である((ア)カスパーゼ3/7の活性、(イ)カスパーゼ8の活性)。
【0028】
【
図9-10C】(
図9及び
図10Aないし
図10C)
図4の実施例において、化合物Aによる細胞死と関連したタンパク質の発現変化を確認した結果である(
図9の(ア)タンパク質の発現変化、(イ)細胞核のAIFタンパク質の発現変化、(ウ)細胞質のサイトコロームcタンパク質の発現変化、(エ)ミトコンドリアのAIFタンパク質の発現変化、(オ)ミトコンドリアのサイトコロームcタンパク質の発現変化;
図10Aの(ア)タンパク質の発現変化、(イ)RIPタンパク質の発現変化、(ウ)RIP3タンパク質の発現変化;
図10Bの(エ)pBcl2タンパク質の発現変化、(オ)Bcl2タンパク質の発現変化、(カ)pBadタンパク質の発現変化、(キ)Badタンパク質の発現変化;
図10Cの(ク)BIDタンパク質の発現変化、(ケ)カスパーゼ8タンパク質の発現変化、(コ)切断されたカスパーゼ(Cleaved caspase)9タンパク質の発現変化、(サ)切断されたカスパーゼ3タンパク質の発現変化)。
【0029】
【
図11】本発明のさらに他の一実施例によるマウスの眼球で網膜神経節細胞数を測定した結果を示すグラフである。
【0030】
【
図12】
図11の実施例によるマウス網膜の組織学的変化を観察した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明をより詳しく説明する。
【0032】
本発明は、下記化学式1で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む網膜疾患の予防または治療用薬学組成物を提供する:
【0033】
【0034】
前記化学式1において、Aは、OまたはSであり、Rは、a)非置換の、もしくは、独立して、または選択的に1または2以上のC6~C10のアリールで置換された直鎖状または側鎖状のC1~C5のアルキル、b)非置換の、もしくは、独立して、または選択的にフルオロ、クロロ、ブロモまたは直鎖状または側鎖状のC1~C4のアルコキシ基が、1または2以上に置換されたベンジル、またはc)ヒドロキシカルボニルで置換されたベンジルであり、Yは、Hまたはハロゲン元素である。
【0035】
この際、前記網膜疾患は、糖尿病性網膜症(Diabetic retinopathy)または加齢黄斑変性(Age-related macular disease)であるが、これらに制限されるものではない。
【0036】
望ましくは、前記化学式1において、Aは、OまたはSであり、前記Rは、メチル、エチル、プロピル、ナフチルメチル、ベンジル、独立して、または選択的にフルオロ、クロロ、ブロモまたはC1~C3のアルコキシ基からなる群から選択される1または2以上の置換基で置換されたベンジル、またはトルイル酸(toluic acid)であり、前記Yは、HまたはClである。
【0037】
より望ましくは、前記Aは、OまたはSであり、前記Rは、メチル、エチル、1-ナフチルメチル、ベンジル、2-クロロベンジル、3-フルオロベンジル、3-クロロベンジル、3-ブロモベンジル、2-メトキシ-5-クロロベンジル、2-メトキシベンジルまたは3-トルイル酸であり、前記Yは、HまたはClである。
【0038】
本発明による前記化学式1で表されるアデノシン誘導体の望ましい例は、次の通りである。
【0039】
1)(2R,3R,4S)-2-(2-クロロ-6-(3-フルオロベンジルアミノ)-9H-プリン-9-イル)テトラヒドロチオフェン-3,4-ジオール;
【0040】
2)(2R,3R,4S)-2-(2-クロロ-6-(3-クロロベンジルアミノ)-9H-プリン-9-イル)テトラヒドロチオフェン-3,4-ジオール;
【0041】
3)(2R,3R,4S)-2-(6-(3-ブロモベンジルアミノ)-2-クロロ-9H-プリン-9-イル)テトラヒドロチオフェン-3,4-ジオール;
【0042】
4)(2R,3R,4S)-2-(2-クロロ-6-(2-クロロベンジルアミノ)-9H-プリン-9-イル)テトラヒドロチオフェン-3,4-ジオール;
【0043】
5)(2R,3R,4S)-2-(2-クロロ-6-(5-クロロ-2-メトキシベンジルアミノ)-9H-プリン-9-イル)テトラヒドロチオフェン-3,4-ジオール;
【0044】
6)(2R,3R,4S)-2-(2-クロロ-6-(2-メトキシベンジルアミノ)-9H-プリン-9-イル)テトラヒドロチオフェン-3,4-ジオール;
【0045】
7)(2R,3R,4S)-2-(2-クロロ-6-(ナフタレン-1-イルメチルアミノ)-9H-プリン-9-イル)テトラヒドロチオフェン-3,4-ジオール;
【0046】
8)3-((2-クロロ-9-((2R,3R,4S)-3,4-ジヒドロキシテトラヒドロチオフェン-2-イル)-9H-プリン-6-イルアミノ)メチル)安息香酸;
【0047】
9)2-(2-クロロ-6-メチルアミノ-プリン-9-イル)テトラヒドロチオフェン-3,4-ジオール;
【0048】
10)(2R,3R,4S)-2-(6-(3-フルオロベンジルアミノ)-9H-プリン-9-イル)テトラヒドロチオフェン-3,4-ジオール;
【0049】
11)(2R,3R,4S)-2-(6-(3-クロロベンジルアミノ)-9H-プリン-9-イル)テトラヒドロチオフェン-3,4-ジオール;
【0050】
12)(2R,3R,4S)-2-(6-(3-ブロモベンジルアミノ)-9H-プリン-9-イル)テトラヒドロチオフェン-3,4-ジオール;及び
【0051】
13)(2R,3R,4R)-2-(6-(3-ブロモベンジルアミノ)-2-クロロ-9H-プリン-9-イル)テトラヒドロフラン-3,4-ジオール。
【0052】
最も望ましくは、前記化学式1で表される化合物は、下記化学式2で表される化合物である:
【0053】
【0054】
また、本発明は、下記化学式1で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩を含む網膜疾患の予防または治療用経口投与剤を提供する:
【0055】
【0056】
前記化学式1において、Aは、OまたはSであり、Rは、a)非置換の、もしくは、独立して、または選択的に1または2以上のC6~C10のアリールで置換された直鎖状または側鎖状のC1~C5のアルキル、b)非置換の、もしくは、独立して、または選択的にフルオロ、クロロ、ブロモまたは直鎖状または側鎖状のC1~C4のアルコキシ基が、1または2以上に置換されたベンジル、またはc)ヒドロキシカルボニルで置換されたベンジルであり、Yは、Hまたはハロゲン元素である。
【0057】
この際、前記網膜疾患は、糖尿病性網膜症または加齢黄斑変性であるが、これらに制限されるものではない。
【0058】
望ましくは、前記化学式1において、Aは、OまたはSであり、前記Rは、メチル、エチル、プロピル、ナフチルメチル、ベンジル、独立して、または選択的にフルオロ、クロロ、ブロモまたはC1~C3のアルコキシ基からなる群から選択される1または2以上の置換基で置換されたベンジル、またはトルイル酸であり、前記Yは、HまたはClである。
【0059】
より望ましくは、前記Aは、OまたはSであり、前記Rは、メチル、エチル、1-ナフチルメチル、ベンジル、2-クロロベンジル、3-フルオロベンジル、3-クロロベンジル、3-ブロモベンジル、2-メトキシ-5-クロロベンジル、2-メトキシベンジルまたは3-トルイル酸であり、前記Yは、HまたはClである。
【0060】
最も望ましくは、前記化学式1で表される化合物は、下記化学式2で表される化合物である:
【0061】
【0062】
また、本発明は、下記化学式1で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩を含む網膜疾患の予防または治療用点眼剤を提供する:
【0063】
【0064】
前記化学式1において、Aは、OまたはSであり、Rは、a)非置換の、もしくは、独立して、または選択的に1または2以上のC6~C10のアリールで置換された直鎖状または側鎖状のC1~C5のアルキル、b)非置換の、もしくは、独立して、または選択的にフルオロ、クロロ、ブロモまたは直鎖状または側鎖状のC1~C4のアルコキシ基が、1または2以上に置換されたベンジル、またはc)ヒドロキシカルボニルで置換されたベンジルであり、Yは、Hまたはハロゲン元素である。
【0065】
この際、前記網膜疾患は、糖尿病性網膜症または加齢黄斑変性であるが、これらに制限されるものではない。
【0066】
望ましくは、前記化学式1において、Aは、OまたはSであり、前記Rは、メチル、エチル、プロピル、ナフチルメチル、ベンジル、独立して、または選択的にフルオロ、クロロ、ブロモまたはC1~C3のアルコキシ基からなる群から選択される1または2以上の置換基で置換されたベンジル、またはトルイル酸であり、前記Yは、HまたはClである。
【0067】
より望ましくは、前記Aは、OまたはSであり、前記Rは、メチル、エチル、1-ナフチルメチル、ベンジル、2-クロロベンジル、3-フルオロベンジル、3-クロロベンジル、3-ブロモベンジル、2-メトキシ-5-クロロベンジル、2-メトキシベンジルまたは3-トルイル酸であり、前記Yは、HまたはClである。
【0068】
最も望ましくは、前記化学式1で表される化合物は、下記化学式2で表される化合物である:
【0069】
【0070】
本発明は、下記化学式1で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む視神経疾患の予防または治療用薬学組成物を提供する:
【0071】
【0072】
前記化学式1において、Aは、OまたはSであり、Rは、a)非置換の、もしくは、独立して、または選択的に1または2以上のC6~C10のアリールで置換された直鎖状または側鎖状のC1~C5のアルキル、b)非置換の、もしくは、独立して、または選択的にフルオロ、クロロ、ブロモまたは直鎖状または側鎖状のC1~C4のアルコキシ基が、1または2以上に置換されたベンジル、またはc)ヒドロキシカルボニルで置換されたベンジルであり、Yは、Hまたはハロゲン元素である。
【0073】
この際、前記視神経疾患は、虚血性視神経症、外傷性視神経症及び圧迫性視神経症からなる群から選択されうるが、これらに制限されるものではない。
【0074】
望ましくは、前記化学式1において、Aは、OまたはSであり、前記Rは、メチル、エチル、プロピル、ナフチルメチル、ベンジル、独立して、または選択的にフルオロ、クロロ、ブロモまたはC1~C3のアルコキシ基からなる群から選択される1または2以上の置換基で置換されたベンジル、またはトルイル酸であり、前記Yは、HまたはClである。
【0075】
より望ましくは、前記Aは、OまたはSであり、前記Rは、メチル、エチル、1-ナフチルメチル、ベンジル、2-クロロベンジル、3-フルオロベンジル、3-クロロベンジル、3-ブロモベンジル、2-メトキシ-5-クロロベンジル、2-メトキシベンジルまたは3-トルイル酸であり、前記Yは、HまたはClである。
【0076】
最も望ましくは、前記化学式1で表される化合物は、下記化学式2で表される化合物である:
【0077】
【0078】
本発明による前記化学式1で表されるアデノシン誘導体は、薬学的に許容可能な塩の形態で使用することができる。前記塩としては、薬学的に許容される多様な有機酸または無機酸によって形成された酸付加塩が有用である。適した有機酸としては、例えば、カルボン酸、ホスホン酸、スルホン酸、酢酸、プロピオン酸、オクタン酸、デカン酸、グリコール酸、乳酸、フマル酸、コハク酸、アジピン酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、グルタミン酸、アスパラギン酸、マイレン酸、安息香酸、サリチル酸、フタル酸、フェニル酢酸、ベンゼンスルホン酸、2-ナフタレンスルホン酸、メチル硫酸、エチル硫酸、ドデシル硫酸などを使用し、適した無機酸としては、例えば、塩酸、硫酸などのハロゲン酸またはリン酸などを使用することができる。
【0079】
本発明による前記化学式1で表されるアデノシン誘導体は、薬学的に許容可能な塩だけではなく、通常の方法によって製造可能なあらゆる塩、水化物及び溶媒化物をいずれも含みうる。
【0080】
また、本発明による網膜疾患または視神経疾患の予防または治療用薬学組成物は、投与のために、前記記載した有効成分の以外に、薬学的に許容可能な担体、賦形剤または希釈剤を含みうる。前記担体、賦形剤及び希釈剤としては、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、澱粉、アカシアゴム、アルギン酸、ゼラチン、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、セルロース、メチルセルロース、非晶質セルロース、ポリビニルピロリドン、水、ヒドロキシ安息香酸メチル、ヒドロキシ安息香酸プロピル、タルク、ステアリン酸マグネシウム及び鉱物油が挙げられる。
【0081】
本発明の薬学組成物は、それぞれ通常の方法によって、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン、シロップ、エアロゾルなどの経口型剤型、外用剤、坐剤または滅菌注射溶液の形態で剤形化して使用することができる。詳細には、剤形化する場合、通常使う充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤などの希釈剤または賦形剤を使用して調剤される。経口投与のための固形製剤としては、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤などを含むが、これらに限定されるものではない。このような固形製剤は、前記化学式1で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩に少なくとも1つ以上の賦形剤、例えば、澱粉、炭酸カルシウム、スクロース、ラクトース、ゼラチンなどを混ぜて調剤される。また、単純な賦形剤の以外に、ステアリン酸マグネシウム、タルクのような潤滑剤も使われる。経口のための液状物、流動パラフィンの以外に、さまざまな賦形剤、例えば、湿潤剤、甘味剤、芳香剤、保存剤などを添加して調剤される。非経口投与のための製剤は、滅菌された水溶液、非水性溶剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥製剤及び坐剤を含む。非水性溶剤及び懸濁剤としては、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブオイルのような植物性オイル、オレイン酸エチルのような注射可能なエステルなどが使われる。坐剤の基剤としては、ウイテプゾール、マクロゴール、トウイーン61、カカオ脂、ラウリン脂、グリセロゼラチンなどが使われる。
【0082】
本発明の組成物の適した投与量は、患者の状態及び体重、疾病の程度、薬物形態、時間によって異なるが、当業者によって適切に選択されうる。
【0083】
また、本発明は、下記化学式1で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩を含む視神経疾患の予防または治療用経口投与剤を提供する:
【0084】
【0085】
前記化学式1において、Aは、OまたはSであり、Rは、a)非置換の、もしくは、独立して、または選択的に1または2以上のC6~C10のアリールで置換された直鎖状または側鎖状のC1~C5のアルキル、b)非置換の、もしくは、独立して、または選択的にフルオロ、クロロ、ブロモまたは直鎖状または側鎖状のC1~C4のアルコキシ基が、1または2以上に置換されたベンジル、またはc)ヒドロキシカルボニルで置換されたベンジルであり、Yは、Hまたはハロゲン元素である。
【0086】
この際、前記視神経疾患は、虚血性視神経症、外傷性視神経症及び圧迫性視神経症からなる群から選択されうるが、これらに制限されるものではない。
【0087】
望ましくは、前記化学式1において、Aは、OまたはSであり、前記Rは、メチル、エチル、プロピル、ナフチルメチル、ベンジル、独立して、または選択的にフルオロ、クロロ、ブロモまたはC1~C3のアルコキシ基からなる群から選択される1または2以上の置換基で置換されたベンジル、またはトルイル酸であり、前記Yは、HまたはClである。
【0088】
より望ましくは、前記Aは、OまたはSであり、前記Rは、メチル、エチル、1-ナフチルメチル、ベンジル、2-クロロベンジル、3-フルオロベンジル、3-クロロベンジル、3-ブロモベンジル、2-メトキシ-5-クロロベンジル、2-メトキシベンジルまたは3-トルイル酸であり、前記Yは、HまたはClである。
【0089】
最も望ましくは、前記化学式1で表される化合物は、下記化学式2で表される化合物である:
【0090】
【0091】
前記網膜疾患または視神経疾患の予防または治療用経口投与剤は、前記化学式1で表される化合物及び/またはその薬学的に許容可能な塩が固形製剤または液状製剤で剤形化されたものである。
【0092】
固形製剤は、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤などであり、液状製剤は、懸濁剤、内用液剤、乳剤、シロップ剤などであるが、これらに限定されるものではない。
【0093】
前記網膜疾患または視神経疾患の予防または治療用経口投与剤は、賦形剤をさらに含み、すなわち、メチルセルロース(Methyl Cellulose、MC)、スクロース(Sucrose)、ラクトース(lactose)、ジメチルスルホキシド(Dimethyl sulfoxide、DMSO)、ポリエチレングリコール(Polyethylene glycol、PEG)、ステアリン酸マグネシウム(Magnesium Stearate)、炭酸カルシウム、ゼラチン、タルク(talc)、蒸留水(Distilled water、DW)、流動パラフィンなどからなる群から選択される1つ以上の賦形剤をさらに含み、さらに望ましくは、メチルセルロース(MC)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ポリエチレングリコール(PEG)、及び蒸留水からなる群から選択される1つ以上を含み、より望ましくは、0.5wt%メチルセルロースを含みうる。
【0094】
本発明の一実施例の前記網膜疾患または視神経疾患の予防または治療用経口投与剤で、前記化学式1で表される化合物またはそれの薬学的に許容可能な塩は、粉末状または前述した賦形剤に溶解された溶液状にカプセルなどに充填されたものであるが、これらに制限されるものではない。
【0095】
また、本発明は、下記化学式1で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩を含む視神経疾患の予防または治療用点眼剤を提供する:
【0096】
【0097】
前記化学式1において、Aは、OまたはSであり、Rは、a)非置換の、もしくは、独立して、または選択的に1または2以上のC6~C10のアリールで置換された直鎖状または側鎖状のC1~C5のアルキル、b)非置換の、もしくは、独立して、または選択的にフルオロ、クロロ、ブロモまたは直鎖状または側鎖状のC1~C4のアルコキシ基が、1または2以上に置換されたベンジル、またはc)ヒドロキシカルボニルで置換されたベンジルであり、Yは、Hまたはハロゲン元素である。
【0098】
この際、前記視神経疾患は、虚血性視神経症、外傷性視神経症及び圧迫性視神経症からなる群から選択されうるが、これらに制限されるものではない。
【0099】
望ましくは、前記化学式1において、Aは、OまたはSであり、前記Rは、メチル、エチル、プロピル、ナフチルメチル、ベンジル、独立して、または選択的にフルオロ、クロロ、ブロモまたはC1~C3のアルコキシ基からなる群から選択される1または2以上の置換基で置換されたベンジル、またはトルイル酸であり、前記Yは、HまたはClである。
【0100】
より望ましくは、前記Aは、OまたはSであり、前記Rは、メチル、エチル、1-ナフチルメチル、ベンジル、2-クロロベンジル、3-フルオロベンジル、3-クロロベンジル、3-ブロモベンジル、2-メトキシ-5-クロロベンジル、2-メトキシベンジルまたは3-トルイル酸であり、前記Yは、HまたはClである。
【0101】
最も望ましくは、前記化学式1で表される化合物は、下記化学式2で表される化合物である:
【0102】
【0103】
前記網膜疾患または視神経疾患の予防または治療用点眼剤は、前記化学式1で表される化合物及び/またはその薬学的に許容可能な塩と点眼液とを含みうる。点眼液は、溶解剤(solubilizer)、粘度向上剤(viscosity enhancer)、抗酸化剤(antioxidant)、保存剤(preservative)、及びバッファ溶液(buffer solution)からなる群から選択される1つ以上を含みうる。
【0104】
本発明の一実施例において、点眼液は、クレモフォール(Cremophor)EL、グリセリン(Glycerin)、クエン酸(Citric acid)及びメチルパラベン(Methylparaben)が溶解または混合されたpH6.8のバッファ溶液であるが、これらに制限されるものではない。
【0105】
以下、本発明の理解を助けるために、実施例を挙げて詳細に説明する。但し、下記の実施例は、当業者に本発明をより完全に説明するために提供されるものであり、本発明の内容を例示するものであり、本発明の範囲が、下記の実施例に限定されるものではない。
【0106】
<準備例1>アデノシン誘導体化合物の合成及び点眼剤の製造
【0107】
大韓民国登録特許第10-1396092号に開示されている方法通りに、アデノシン誘導体を合成した。この際、合成されたアデノシン誘導体は、次の通りである:(2R,3R,4S)-2-(2-クロロ-6-(3-フルオロベンジルアミノ)-9H-プリン-9-イル)テトラヒドロチオフェン-3,4-ジオール、(2R,3R,4S)-2-(2-クロロ-6-(3-クロロベンジルアミノ)-9H-プリン-9-イル)テトラヒドロチオフェン-3,4-ジオール、(2R,3R,4S)-2-(2-クロロ-6-(3-ブロモベンジルアミノ)-9H-プリン-9-イル)テトラヒドロチオフェン-3,4-ジオール、(2R,3R,4S)-2-(2-クロロ-6-(2-クロロベンジルアミノ)-9H-プリン-9-イル)テトラヒドロチオフェン-3,4-ジオール、(2R,3R,4S)-2-(2-クロロ-6-(5-クロロ-2-メトキシベンジルアミノ)-9H-プリン-9-イル)テトラヒドロチオフェン-3,4-ジオール、(2R,3R,4S)-2-(2-クロロ-6-(2-メトキシベンジルアミノ)-9H-プリン-9-イル)テトラヒドロチオフェン-3,4-ジオール、(2R,3R,4S)-2-(2-クロロ-6-(ナフタレン-1-イルメチルベンジルアミノ)-9H-プリン-9-イル)テトラヒドロチオフェン-3,4-ジオール、3-((2-クロロ-9-((2R,3S,4R)-3,4-ジヒドロキシテトラヒドロチオフェン-2-イル)-9H-プリン-6-イルアミノ)メチル)安息香酸、2-(2-クロロ-6-メチルアミノ-プリン-9-イル)(2R,3S,4R)-テトラヒドロチオフェン-3,4-ジオール、(2R,3R,4S)-2-(6-(3-フルオロベンジルアミノ)-9H-プリン-9-イル)テトラヒドロチオフェン-3,4-ジオール、(2R,3R,4S)-2-(6-(3-クロロベンジルアミノ)-9H-プリン-9-イル)テトラヒドロチオフェン-3,4-ジオール、(2R,3R,4S)-2-(6-(3-ブロモベンジルアミノ)-9H-プリン-9-イル)テトラヒドロチオフェン-3,4-ジオール、及び(2R,3R,4R)-2-(6-(3-ブロモベンジルアミノ)-2-クロロ-9H-プリン-9-イル)テトラヒドロフラン-3,4-ジオール。
【0108】
以後の実験には、(2R,3R,4S)-2-(2-クロロ-6-(3-クロロベンジルアミノ)-9H-プリン-9-イル)テトラヒドロチオフェン-3,4-ジオール(以後、「化合物A」とも称する)を使用し、動物実験のために、クレモフォールEL、グリセリン、クエン酸及びメチルパラベンが溶解されたpH6.8のバッファ溶液に前記化合物Aを混合して、前記化合物がそれぞれ250μM、500μM及び750μMの濃度で含まれるように点眼剤を製造した。
【0109】
<実施例1>アデノシン誘導体化合物の新生血管及び炎症反応抑制効果の確認
【0110】
1.実験方法
【0111】
1)試験物質の製造及び処理
【0112】
試験物質として使用する化合物Aは、DMSOに溶解して製造した。製造溶液は、使用時まで-20℃に保管した。試験物質の処理は、血清が含まれていない細胞培養培地に1:1000(v/v)で希釈して処理した。対照群には、DMSOを1:1000(v/v)で希釈して処理した。
【0113】
2)試験物質処理時に、細胞内タンパク質発現量の分析
【0114】
マウス網膜由来の光受容体細胞の新生血管形成関連反応及び炎症反応に対する試験物質の効能を確認するために、多様な条件で24時間培養された細胞を回収し、PRO-PREPタンパク質抽出キット(Protein extraction kit)を使用して細胞内タンパク質を抽出した。該抽出されたタンパク質の定量は、BCAタンパク質アッセイキット(protein assay kit)を使用して測定した。40μgのタンパク質を10% SDS-PAGEで分離した後、PVDFメンブレンに付着させた。タンパク質が付着されたメンブレンは、5%脱脂乳が含まれたTBST(Tris-buffered saline with 0.1% Tween-20)に30分間反応させた後、1次抗体及び2次抗体を順に反応させた。タンパク質発現量の確認は、Fusion Fximage acquisition systemを用いて撮影した。タンパク質発現量の分析は、ImageJを使用して相対的な値で示した。一方、免疫ブロッティングに使われた抗体及び実験条件を下記表1にまとめて示した。
【0115】
【0116】
3)試験物質処理時に、細胞内炎症性サイトカインの定量分析
【0117】
マウス網膜由来の光受容体細胞の新生血管形成関連反応及び炎症反応に対する試験物質の効能を確認するために、多様な条件で24時間培養された細胞を回収し、PRO-PREPタンパク質抽出キットを用いて細胞内タンパク質を抽出した。該抽出されたタンパク質の定量は、BCAタンパク質アッセイキットを使用して測定した。細胞内存在する炎症性サイトカイン(TNFα、IL-1β、IL-6)の定量分析は、それぞれのELISAキットで分析した。
【0118】
4)試験物質処理時に、培地内VEGF定量分析
【0119】
マウス網膜由来の光受容体細胞の新生血管形成関連反応に対する試験物質の効能を確認するために、多様な条件で24時間培養された細胞の培地を遠心分離した後、回収した。培地内存在するVEGFの定量分析は、Mouse VEGF Quantikine ELISA Kitで分析した。
【0120】
5)試験物質処理時に、細胞内mRNA発現量の分析
【0121】
マウス網膜由来の光受容体細胞の新生血管形成関連反応及び炎症反応に対する試験物質の効能確認のために、多様な条件で6時間培養された細胞をTRIzol溶液を処理して、細胞内総RNAを分離した。該分離された総RNAにターゲット遺伝子に対する特異的プライマー(表2)と逆転写酵素とを使用してcDNAを合成した後、関連因子の発現を確認した。mRNA発現量の分析は、ImageJソフトウェアを使用して相対的な値で示した。
【0122】
この際、PCR分析に使われたプライマー及び実験条件は、下記表2にまとめて示した。
【0123】
【0124】
6)統計分析
【0125】
各実験群の測定値をMicrosoft社のExcel(2007)を通じて統計分析した。各実験群の結果値の異常値(Outlier)を四分位数を求めて確認し、各データの一元配置法による分散分析を行い、結果を平均と標準偏差とで示した。また、F検定及びt検定(等分散及び異分散)を通じて有意レベル0.05以下で有効性を分析した。
【0126】
2.実験の結果
【0127】
1)新生血管及び炎症反応関連タンパク質の発現変化
【0128】
HMGB-1(High mobility group box 1)と関連して、マウス網膜由来の光受容体細胞に圧力を加える時に、HMGB-1の発現が増加し、HMGB-1を光受容体細胞に処理する時には、新生血管関連因子及び炎症反応が増加すると報告されている(Bohm M.R.et al.,Lab Invest,96,409-427,2016)。これにより、本発明では、前記参考文献に基づいて光受容体細胞の損傷による新生血管反応及び炎症反応に対するアデノシン誘導体の効能を検証した。
【0129】
アデノシン誘導体である化合物AとHMGB-1処理後、新生血管反応関連因子であるVEGF、VEGF受容体1、VEGF受容体2、アンジオポエチン1(angiopoietin1)及びアンジオポエチン2(angiopoietin2)酵素と炎症反応関連因子であるCOX2、MMP2、MMP9、ICAM1及びVCAM1酵素とのタンパク質の発現変化を分析した結果を
図1A及び
図1Bに示した。
【0130】
すなわち、
図1A及び
図1Bは、HMGB-1(5μg/mL)によって新生血管関連因子であるVEGF、VEGFR1、VEGFR2及びANG2の発現が有意的に増加することを示し、化合物Aの処理によって濃度依存的に増加した新生血管関連因子のタンパク質発現が減少することを示す。VEGFとVEGFR2、COX2及びMMP2タンパク質の発現は、化合物A 0.5μM以上の濃度で有意的に減少し、VEGFR1、ANG2及びMMP9の発現は、0.1μM以上の濃度で有意的に減少した。ANG1タンパク質発現は、2μMの濃度で有意的に増加し、ICAM1及びVCAM1タンパク質発現は、2μMの濃度で有意的に減少した。
【0131】
2)VEGF及び炎症性サイトカインの発現変化
【0132】
HMGB-1によるマウス網膜光受容体細胞の新生血管形成関連反応及び炎症反応に対する化合物Aの効能を確認するために、ELISA分析方法を通じた定量的分析を行った結果、
図2に示されたように、HMGB-1によって増加したVEGF量は、0.1μM以上の化合物Aによって有意的に減少した。細胞内炎症性サイトカイン(TNFα、IL-1β及びIL-6)の量は、いずれもHMGB-1によって増加したが、TNFαは、0.1μMの濃度以上の化合物Aの処理によって、IL-1β及びIL-6は、1μMの濃度以上の化合物Aの処理によって、有意的に減少した。
【0133】
3)新生血管及び炎症反応関連mRNA発現変化
【0134】
化合物A処理後、新生血管形成関連因子であるVEGF、VEGF受容体1、VEGF受容体2酵素と炎症反応関連因子であるTNFα、IL-6、COX2、MMP2、MMP9、ICAM1及びVCAM1酵素とのmRNA発現変化を分析した結果、
図3A及び
図3Bに示されたように、HMGB-1によって新生血管関連因子であるVEGF、VEGFR1、VEGFR2のmRNA発現が有意的に増加した。しかし、化合物Aの処理によって増加した新生血管関連因子のmRNA発現が濃度依存的に減少した。VEGF及びVEGFR1の発現は、0.1μMの濃度以上の化合物Aを処理した時、有意な減少を示し、VEGFR2の発現は、0.5μM以上の濃度で有意的に減少した。また、炎症反応関連因子であるTNFα、IL-6、COX2、MMP2、MMP9、ICAM1、及びVCAM1のmRNA発現も、対照群でHMGB-1によって有意的に増加したが、化合物Aの処理によって濃度依存的に減少した。COX2とIL-6の発現は、0.1μM以上の化合物Aの処理によって有意的に抑制され、TNFα及びMMP9の発現は、0.5μM以上の濃度で有意的に減少した。MMP2、ICAM1及びVCAM1の発現は、1μM以上の化合物Aの処理によって有意的に減少した。
【0135】
<実施例2>アデノシン誘導体の網膜光受容体細胞の保護効果
【0136】
1.実験方法
【0137】
1)試験物質の製造及び処理
【0138】
試験物質として使用する化合物Aは、DMSOに溶解させて製造した。製造溶液は、使用時まで-20℃に保管した。また、10mgのCCCPを1mLのDMSOに溶解させて、50mMのCCCP溶液を製造した。製造溶液は、使用時まで-20℃に保管した。試験物質の処理は、血清が含まれていない細胞培養培地に1:1000(v/v)で希釈して処理した。対照群には、DMSOを1:1000(v/v)で希釈して処理した。
【0139】
2)TUNEL分析
【0140】
細胞死(Apoptosis)細胞の定量的分析は、DeadEndTM Fluorometric TUNEL Systemで分析した。細胞を1μMの化合物Aで1時間前処理した後、5mMのグルタミン酸が含まれた培地で8時間培養した。細胞をPBSで2回洗浄した後、10%ホルマリンで15分間固定した。該固定された細胞は、0.1% Triton X-100に10分間露出させた。細胞を蛍光が含まれたdUTPで反応させて、切断されたDNA部分を染色した後、DAPIが含まれたマウンティング溶液と共にスライドに固定した。染色された細胞は、蛍光顕微鏡を通じて観察した。
【0141】
3)カスパーゼ(caspase)3/7の活性分析
【0142】
細胞内カスパーゼ3/7の活性は、Caspase-Glo 3/7アッセイシステムで分析した。細胞を1μMの化合物Aで一時間前処理した後、5mMのグルタミン酸が含まれた培地で24時間培養した。細胞培養培地と同量のキット溶液を入れ、1時間反応させた後、発生する発光量(luminescence)をマイクロプレートリーダー機(microplate reader)を通じて測定して、相対的な活性を分析した。
【0143】
4)カスパーゼ8の活性分析
【0144】
細胞内カスパーゼ8の活性は、Caspase-Glo 8アッセイシステムで分析した。細胞を1μMの化合物Aで一時間前処理した後、5mMのグルタミン酸が含まれた培地で24時間培養した。細胞培養培地と同量のキット溶液を入れ、1時間反応させた後、発生する発光量をマイクロプレートリーダー機を通じて測定して、相対的な活性を分析した。
【0145】
5)ミトコンドリア細胞膜電位の分析
【0146】
細胞内ミトコンドリア細胞膜電位をJC-1試薬を用いて分析した。細胞を1μMの化合物Aで一時間前処理した後、5mMのグルタミン酸が含まれた培地で6時間培養した。その後、5mMのJC-1を処理して30分間培養した。JC-1凝集体(aggregate)とJC-1単量体(monomer)は、Attune Acoustic Focusing Cytometerを使用して、励起波長(exitation wavelength)485±11nm及び535±17.5nmと放出波長(emission wavelength)530±15及び590±17.5nmとで分析した。
【0147】
6)細胞内タンパク質発現量の分析
【0148】
マウス網膜由来の光受容体細胞の新生血管形成関連反応及び炎症反応に対する試験物質の効能を確認するために、多様な条件で24時間培養された細胞を回収して、PRO-PREPタンパク質抽出キットを使用して細胞内タンパク質を抽出した。該抽出されたタンパク質の定量は、BCAタンパク質アッセイキットを使用して測定した。40μgのタンパク質を10% SDS-PAGEで分離した後、PVDFメンブレンに付着させた。タンパク質が付着されたメンブレンは、5%脱脂乳が含まれたTBST(Tris-buffered saline with 0.1% Tween-20)に30分間反応させた後、1次抗体及び2次抗体を順に反応させた。タンパク質発現量の確認は、Fusion Fximage acquisition systemを用いて撮影した。タンパク質発現量の分析は、ImageJを使用して相対的な値で示した。一方、免疫ブロッ分析に使われた抗体及び実験条件を下記表3にまとめて示した。
【0149】
【0150】
7)統計分析
【0151】
各実験群の測定値をIBM社のSPSS 23.0を通じて統計分析した。各実験群の等分散如何を、等分散である場合、一元変量分析(one-way analysis of variance)とTukeys testとを通じて分析し、異分散である場合、一元変量分析とWelchs t-testとを通じて分析した。正常群との有意な統計差を示す実験群は、*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001に示し、グルタメートのみ処理された対照群との有意な統計差を示す実験群は、#P<0.05、##P<0.01、###P<0.001に示した。
【0152】
2.実験の結果
【0153】
1)グルタミン酸の細胞毒性
【0154】
培養された細胞にグルタミン酸を培地に希釈して、0~9mMの濃度で細胞に処理した後、24時間培養した後、細胞増殖分析用試薬(CellTiter96 AQ
ueous One Solution Cell Proliferation Assay Kit)を処理し、1時間後に細胞生存率を比較分析して、マウス網膜由来の光受容体細胞に対するグルタミン酸の細胞毒性を分析した結果、
図4に示されたように、3mM以上の濃度で濃度依存的に有意な細胞生存率の減少を誘導すると表われた。グルタミン酸のIC
50数値は、5.1±0.5mMと確認された。
【0155】
2)アデノシン誘導体の細胞保護効果
【0156】
グルタミン酸で誘導される細胞死から化合物Aの細胞保護効果を確認した結果、
図5(n=6)に示されたように、化合物Aの前処理は、1μMの濃度まで濃度依存的にグルタミン酸による細胞生存率の阻害を抑制すると確認された。このような実験の結果は、化合物Aがグルタミン酸で誘導される細胞死に対する保護効果を有することを意味する。化合物AのEC
50(50%効果濃度)数値は、30分及び1時間前処理でそれぞれ0.31±0.08μMと0.35±0.06μMとに類似しているように表われた。
【0157】
3)アデノシン誘導体の細胞死の抑制効果
【0158】
グルタミン酸による細胞死誘導と化合物Aの抑制効果とを確認するために、TUNELアッセイとDAPI染色とを通じて細胞死が起こっている細胞を顕微鏡で観察した結果、
図6に示されたように、グルタミン酸のみ処理された細胞では、多数の核でTUNEL-陽性反応が確認されたが、化合物Aが前処理された細胞では、その数が確実に減っていることを確認することができた。このような結果は、化合物Aがグルタミン酸による細胞死を抑制していることを示す。
【0159】
4)アデノシン誘導体のミトコンドリア保護効果
【0160】
グルタミン酸による細胞死は、ミトコンドリアの損傷と関連があると報告されている。これにより、化合物Aがグルタミン酸によるミトコンドリアの損傷に対して如何なる効果を示すかを確認するために、流動細胞計数器(Flow cytometer)を通じてミトコンドリア膜電位差を分析した結果、
図7及び下記表4に示されたように、グルタミン酸のみ処理された細胞では、JC-1凝集体が減少することを確認することができた。ミトコンドリアの損傷を誘発するCCCPの処理によっても、類似している細胞の分布を確認することができた。しかし、化合物Aの前処理を行った実験群では、細胞の分布が正常群と類似していると表われた。このような結果は、グルタミン酸による細胞内ミトコンドリアの損傷を化合物Aが抑制していることを示す。
【0161】
【0162】
5)カスパーゼ活性の確認
【0163】
カスパーゼは、細胞の細胞死を調節すると知られている。これにより、グルタミン酸による細胞損傷と、これに対する化合物Aの細胞保護効果でカスパーゼの作用を確認した結果、
図8に示されたように、グルタミン酸のみ処理された細胞のカスパーゼ3/7(
図8の(ア))及びカスパーゼ8(
図8の(イ))の活性が有意的に増加し、化合物Aの前処理結果、カスパーゼ3/7及びカスパーゼ8の活性が濃度依存的に抑制されることを確認することができた。本結果は、化合物Aがカスパーゼの活性化による細胞の細胞死を抑制しているということを示す。
【0164】
6)細胞死関連タンパク質の発現変化
【0165】
グルタミン酸による細胞の死滅に対する化合物Aの効能を確認するために、細胞死関連タンパク質であるAIF及びサイトコロームcの変化を分析した結果、
図9に示されたように、グルタミン酸のみ処理された細胞では、ミトコンドリアに存在するAIFとサイトコロームcがそれぞれ核と細胞質とに移動したことを確認することができ、化合物Aの前処理結果、核と細胞質とのAIFとサイトコロームcの発現が有意的に減少したことを確認することができた。すなわち、化合物Aは、このようなタンパク質の移動変化を有意的に抑制していることを確認することができる。このような結果は、化合物Aがミトコンドリアの損傷を抑制することにより、細胞の損傷を抑制させることを示す。
【0166】
また、グルタミン酸による細胞死機転と、これに対する化合物Aの効能を確認するために、細胞死関連タンパク質の変化を分析した結果、
図10Aないし
図10Cに示されたように、細胞死と関連したRIPの発現がグルタミン酸によって有意的に減少したが、化合物Aを前処理した実験群では、濃度依存的に再び増加することを確認することができた。また、ミトコンドリア損傷と関連したpBcl2、Bcl2、pBad、Bad及びBIDタンパク質の発現がグルタミン酸によって有意的に変化したが、化合物Aを前処理した実験群では、正常群のような発現量で回復されていることを確認することができた。カスパーゼ8及び切断されたカスパーゼ9、切断されたカスパーゼ3も、グルタミン酸によって有意的に増加したが、化合物Aを前処理した実験群では、有意的に減少することを確認することができた。このような結果は、化合物Aがグルタミン酸による細胞死を抑制することにより、細胞を保護することを示す。
【0167】
<実施例3>アデノシン誘導体を含む点眼剤の視神経保護効能の実験
【0168】
本発明の誘導体の点眼投与による点眼剤の視神経保護効能を調べるために、下記のようなインビボ(in vivo)動物実験を行った。3ヶ月齢正常DAB 2Jマウスに前記準備例1で製造した点眼剤を点眼投与した。陽性対照群として緑内障治療剤として用いられる点眼剤であるXalatanを同じ方法で投与し、陰性対照群として実験動物に別途の処理を行っていない。
【0169】
引き続き、4ヶ月後に実験動物の網膜神経節細胞(Retinal Ganglion Cell、RGC)の数を測定し、その断面を観察し、その結果をそれぞれ
図11及び
図12に示した。
図11及び12において、Controlは、陰性対照群を、Drug 250、500及び750は、前記誘導体化合物(化合物A)をそれぞれ250μM、500μM及び750μMの濃度で含む点眼剤を、Xalatanは、陽性対照群を示す。
【0170】
図11及び
図12を参照すれば、本発明のアデノシン誘導体を含む点眼剤を投与したマウスで、前記点眼剤の投与量に依存的な視神経保護効果があったことを確認することができた。
【0171】
以上、本発明の内容の特定の部分を詳しく記述したところ、当業者において、このような具体的な記述は、単に望ましい実施形態であり、これにより、本発明の範囲が制限されるものではないという点は明白である。すなわち、本発明の実質的な範囲は、下記の特許請求の範囲とそれらの等価物とによって定義される。
【手続補正書】
【提出日】2022-11-02
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1で表される化合物:
【化1】
(前記化学式1において、Aは、OまたはSであり、
Rは、
a)非置換、または、1または2以上のC
6~C
10のアリールで置換された直鎖状または分枝鎖状のC
1~C
5のアルキル、
b)非置換、または、1または2以上のハロゲンまたは直鎖状もしくは分枝鎖状のC
1~C
4のアルコキシ基が置換したベンジル、または
c)ヒドロキシカルボニルで置換されたベンジルであり、
Yは、Hまたはハロゲン元素である。)
またはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む、網膜疾患の予防または治療用薬学組成物。
【請求項2】
前記網膜疾患は、糖尿病性網膜症または加齢黄斑変性であることを特徴とする請求項1に記載の網膜疾患の予防または治療用薬学組成物。
【請求項3】
前記化学式1の化合物において、Rが、メチル、エチル、プロピル、ナフチルメチル、ベンジル、(F、Cl、Br、IおよびC1~C3のアルコキシ基からなる群から選択される1または2以上の置換基で置換された)ベンジル、またはトルイル酸である、請求項1に記載の網膜疾患の予防または治療用薬学組成物。
【請求項4】
経口投与剤である、請求項1に記載の網膜疾患の予防または治療用薬学組成物。
【請求項5】
下記化学式2で表される化合物:
【化2】
(前記化学式2において、Aは、OまたはSであり、
Rは、
a)非置換、または、1または2以上のC
6~C
10のアリールで置換された直鎖状または分枝鎖状のC
1~C
5のアルキル、
b)非置換、または、1または2以上のハロゲンまたは直鎖状もしくは分枝鎖状のC
1~C
4のアルコキシ基が置換したベンジル、または
c)ヒドロキシカルボニルで置換されたベンジルであり、
Yは、Hまたはハロゲン元素である。)
またはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む、視神経疾患の予防または治療用薬学組成物。
【請求項6】
前記視神経疾患が、虚血性視神経症、外傷性視神経症及び圧迫性視神経症からなる群から選択される、請求項5に記載の視神経疾患の予防または治療用薬学組成物。
【請求項7】
前記化学式1の化合物において、Rが、メチル、エチル、プロピル、ナフチルメチル、ベンジル、(F、Cl、Br、IおよびC1~C3のアルコキシ基からなる群から選択される1または2以上の置換基で置換された)ベンジル、またはトルイル酸である、請求項6に記載の薬学組成物。
【請求項8】
経口投与剤である、請求項7に記載の視神経疾患の予防または治療用薬学組成物。
【外国語明細書】