(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023115777
(43)【公開日】2023-08-21
(54)【発明の名称】濃度算出装置及び血液処理システム並びに濃度算出方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/64 20060101AFI20230814BHJP
A61M 1/16 20060101ALI20230814BHJP
【FI】
G01N21/64 Z
A61M1/16 117
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022018177
(22)【出願日】2022-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】507365204
【氏名又は名称】旭化成メディカル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】598041566
【氏名又は名称】学校法人北里研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】細矢 範行
(72)【発明者】
【氏名】久保田 勝
(72)【発明者】
【氏名】小久保 謙一
(72)【発明者】
【氏名】小林 こず恵
【テーマコード(参考)】
2G043
4C077
【Fターム(参考)】
2G043AA01
2G043BA16
2G043CA04
2G043DA05
2G043EA01
2G043FA06
2G043KA02
2G043KA03
2G043NA01
2G043NA11
4C077AA05
4C077BB01
4C077EE03
4C077HH02
4C077HH12
4C077KK25
4C077KK27
(57)【要約】
【課題】分類するグループの数を徒に増やすことなく、アルブミン等の物質の濃度を高い精度で測定することができる濃度算出装置を提供する。
【解決手段】濃度算出装置16は、濃度算出対象物に励起光を照射する照射部80と、照射部80によって照射された濃度算出対象物から発する蛍光を検出する検出部81と、検出部81で検出された蛍光の蛍光スペクトルから抽出した第一及び第二の特徴量に基づいて蛍光スペクトルを補正が不要な第一のグループと補正が必要な第二のグループとに分類する分類部71と、第二のグループに分類された蛍光スペクトルを補正する補正部94と、第一のグループに分類された蛍光スペクトルの所定波長範囲における複数波長の蛍光強度と補正部94による補正後の蛍光スペクトルの所定波長範囲における複数波長の蛍光強度と特定の検量モデルとに基づいて濃度算出対象物に含まれる物質の濃度を算出する濃度算出部72と、を備える。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
濃度算出対象物に励起光を照射する照射部と、
前記照射部によって照射された前記濃度算出対象物から発する蛍光を検出する検出部と、
前記検出部で検出された蛍光の蛍光スペクトルから抽出した第一の特徴量及び第二の特徴量に基づいて、蛍光スペクトルを補正が不要な第一のグループと補正が必要な第二のグループとに分類する分類部と、
前記第二のグループに分類された蛍光スペクトルを補正する補正部と、
前記第一のグループに分類された蛍光スペクトルの所定波長範囲における複数波長の蛍光強度と、前記補正部による補正後の蛍光スペクトルの所定波長範囲における複数波長の蛍光強度と、特定の検量モデルと、に基づいて前記濃度算出対象物に含まれる物質の濃度を算出する濃度算出部と、
を備える、濃度算出装置。
【請求項2】
前記検出部で検出された蛍光スペクトルの最大蛍光強度値で各波長における蛍光強度を除した値を標準化強度とし、
各波長の前記標準化強度からなるスペクトルを標準化スペクトルとし、
複数回取得した前記標準化スペクトルにおいて、前記各標準化スペクトル間の標準化強度変化が最も大きい波長付近における標準化強度を前記第一の特徴量とし、
前記最大蛍光強度値、その逆数、又は、前記最大蛍光強度値を特定の式によって変換した値を前記第二の特徴量とし、
前記分類部は、前記第一の特徴量を縦軸に前記第二の特徴量を横軸にとってプロットされた各データから直線相関式を算出し、前記直線相関式から所定範囲を超えて外れたデータを前記第二のグループに分類する、請求項1に記載の濃度算出装置。
【請求項3】
前記最大蛍光強度値をFMAXとし、前記検出部に含まれる分光器が最大で検出できる上限強度値をFDULとした場合に、
前記第二の特徴量I2は、以下の式(1)
I2=(FDUL-FMAX)/FDUL … (1)
によって算出される、請求項2に記載の濃度算出装置。
【請求項4】
前記直線相関式から所定範囲を超えて外れたデータとは、前記直線相関式から±3%超え~±15%超えとなるデータである、請求項2又は3に記載の濃度算出装置。
【請求項5】
前記第一の特徴量及び前記第二の特徴量を各々I1及びI2とし、補正前の蛍光強度をFとし、前記最大蛍光強度値をFMAXとし、前記検出部に含まれる分光器が最大で検出できる上限強度値をFDULとし、前記直線相関式の傾き及び切片を各々a及びbとし、xを-0.15以上0.15以下の定数とした場合に、
前記補正部による補正後の蛍光スペクトルにおける蛍光強度FCは、以下の式(2)
FC=F×{FDUL-(I2-|[I1―{(I2×a+b)×(1+x)}]|/a)×FDUL}/FMAX … (2)
によって算出される、請求項2から4の何れか一項に記載の濃度算出装置。
【請求項6】
前記第一の特徴量及び前記第二の特徴量を各々I1及びI2とし、補正前の蛍光強度をFとし、前記最大蛍光強度値をFMAXとし、前記検出部に含まれる分光器が最大で検出できる上限強度値をFDULとし、前記直線相関式の傾き及び切片を各々a及びbとし、xを-0.15以上0.15以下の定数とした場合に、
前記補正部による補正後の蛍光スペクトルにおける蛍光強度FCは、以下の式(3)
FC=F×{FDUL-(I2-[I1―{(I2×a+b)×(1+x)}]/a)×FDUL}/FMAX … (3)
によって算出される、請求項2から4の何れか一項に記載の濃度算出装置。
【請求項7】
請求項1から6の何れか一項に記載の濃度算出装置を備えた、血液処理システム。
【請求項8】
濃度算出対象物に励起光を照射する照射工程と、
前記照射工程で照射された前記濃度算出対象物から発する蛍光を検出する検出工程と、
前記検出工程で検出された蛍光の蛍光スペクトルから抽出した第一の特徴量及び第二の特徴量に基づいて、蛍光スペクトルを補正が不要な第一のグループと補正が必要な第二のグループとに分類する分類工程と、
前記第二のグループに分類された蛍光スペクトルを補正する補正工程と、
前記第一のグループに分類された蛍光スペクトルの所定波長範囲における複数波長の蛍光強度と、前記補正工程による補正後の蛍光スペクトルの所定波長範囲における複数波長の蛍光強度と、特定の検量モデルと、に基づいて濃度算出対象物に含まれる物質の濃度を算出する算出工程と、
を含む、濃度算出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、濃度算出装置及び血液処理システム並びに濃度算出方法に関し、さらに詳しくは、血液透析療法及び血液透析濾過療法における多成分系溶液である透析排液中の対象物質の濃度(例えばタンパク質濃度やアルブミン濃度)を算出する濃度算出装置及びこれを備えた血液処理システム並びに濃度算出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
腎不全患者の治療法である血液透析及び血液透析濾過は、現在広く普及している治療法である。この治療法では、ダイアライザの中空糸膜の内部に流入させた血液の不要成分を、ダイアライザの中空糸膜の外部に流入させた新鮮な透析液に、中空糸膜を介して流出させ、透析液とともに排出している。
【0003】
ところで、腎不全患者の中には、掻痒症、イライラ感、骨関節痛等の諸症状を訴えるケースが少なくない。そのような症状を改善する指標物質として、α1-ミクログロブリン(MG)の積極的な除去が行われている。しかし、生体に必要なアルブミンも、α1-MGとの大きさが近いためにα1-MGの積極的な除去によって透析排液中に漏出することが避けられない。アルブミンを管理するための現段階における方法として、患者の血清アルブミン濃度を月1~2回測定してアルブミンレベルを把握するのが一般的に行われているが、週3回の透析治療に対して充分とはいえない。また、治療効果を知る上でも、α1-MG等の低分子量タンパク質の検査は欠かせないものとなっているが、検査には高額な費用がかかり、頻繁に測定をすることはできない。
【0004】
以上のような状況から、透析排液中のアルブミンやタンパク質の濃度を、透析排液が流れる管に接続されたオンライン状態にてリアルタイムで把握する手段が透析治療現場で求められている。そこで、近年においては、透析排液中のタンパク質やアルブミン濃度をオンライン・リアルタイムで算出するために、濃度算出のための検量モデルに影響を与える所定の要素を予め定められた複数のグループのうちのいずれかに分類し、その分類した所定の要素のグループに対応する検量モデルを用いて物質の濃度を算出する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された従来の方法を採用して測定濃度の精度を向上させるためには、分類するグループの数を増やさざるを得なかった。そのため、症例が増えるごとに、グループの数が増えるという現象に直面し、実用化にあたり不都合を生じることが明らかとなった。
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、分類するグループの数を徒に増やすことなく、アルブミン等の物質の濃度を高い精度で測定(算出)することができる濃度算出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、本発明者らは、鋭意検討した結果、あらかじめ得られた各症例の蛍光スペクトルから2つの特徴量を抽出し、その特徴量を各々第一指標及び第二指標とし、第一指標を縦軸に第二指標を横軸にとって各データをプロットし、プロットされたデータから直線相関を得てその直線相関からの乖離の程度で蛍光スペクトルの分類・補正を行い、補正しない場合は補正を施さない蛍光スペクトルを、補正する場合は補正を施した蛍光スペクトルを、検量モデルとともに用いて物質の濃度を算出することで上記問題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の態様を含む。
[1]濃度算出対象物に励起光を照射する照射部と、
照射部によって照射された濃度算出対象物から発する蛍光を検出する検出部と、
検出部で検出された蛍光の蛍光スペクトルから抽出した第一の特徴量及び第二の特徴量に基づいて、蛍光スペクトルを補正が不要な第一のグループと補正が必要な第二のグループとに分類する分類部と、
第二のグループに分類された蛍光スペクトルを補正する補正部と、
第一のグループに分類された蛍光スペクトルの所定波長範囲における複数波長の蛍光強度と、補正部による補正後の蛍光スペクトルの所定波長範囲における複数波長の蛍光強度と、特定の検量モデルと、に基づいて濃度算出対象物に含まれる物質の濃度を算出する濃度算出部と、
を備える、濃度算出装置。
[2]検出部で検出された蛍光スペクトルの最大蛍光強度値で各波長における蛍光強度を除した値を標準化強度とし、
各波長の標準化強度からなるスペクトルを標準化スペクトルとし、
複数回取得した標準化スペクトルにおいて、各標準化スペクトル間の標準化強度変化が最も大きい波長付近における標準化強度を第一の特徴量とし、
最大蛍光強度値、その逆数、又は、最大蛍光強度値を特定の式によって変換した値を第二の特徴量とし、
分類部は、第一の特徴量を縦軸に第二の特徴量を横軸にとってプロットされた各データから直線相関式を算出し、直線相関式から所定範囲を超えて外れたデータを第二のグループに分類する、[1]に記載の濃度算出装置。
[3]最大蛍光強度値をFMAXとし、検出部に含まれる分光器が最大で検出できる上限強度値をFDULとした場合に、
第二の特徴量I2は、以下の式(1)
I2=(FDUL-FMAX)/FDUL … (1)
によって算出される、[2]に記載の濃度算出装置。
[4]直線相関式から所定範囲を超えて外れたデータとは、直線相関式から±3%超え~±15%超えとなるデータである、[2]又は[3]に記載の濃度算出装置。
[5]第一の特徴量及び第二の特徴量を各々I1及びI2とし、補正前の蛍光強度をFとし、最大蛍光強度値をFMAXとし、検出部に含まれる分光器が最大で検出できる上限強度値をFDULとし、直線相関式の傾き及び切片を各々a及びbとし、xを-0.15以上0.15以下の定数とした場合に、
補正部による補正後の蛍光スペクトルにおける蛍光強度FCは、以下の式(2)
FC=F×{FDUL-(I2-|[I1―{(I2×a+b)×(1+x)}]|/a)×FDUL}/FMAX … (2)
によって算出される、[2]から[4]の何れかに記載の濃度算出装置。
[6]第一の特徴量及び第二の特徴量を各々I1及びI2とし、補正前の蛍光強度をFとし、最大蛍光強度値をFMAXとし、検出部に含まれる分光器が最大で検出できる上限強度値をFDULとし、直線相関式の傾き及び切片を各々a及びbとし、xを-0.15以上0.15以下の定数とした場合に、
補正部による補正後の蛍光スペクトルにおける蛍光強度FCは、以下の式(3)
FC=F×{FDUL-(I2-[I1―{(I2×a+b)×(1+x)}]/a)×FDUL}/FMAX … (3)
によって算出される、[2]から[4]の何れかに記載の濃度算出装置。
[7][1]から[6]の何れかに記載の濃度算出装置を備える、血液処理システム。
[8]濃度算出対象物に励起光を照射する照射工程と、
照射工程で照射された濃度算出対象物から発する蛍光を検出する検出工程と、
検出工程で検出された蛍光の蛍光スペクトルから抽出した第一の特徴量及び第二の特徴量に基づいて、蛍光スペクトルを補正が不要な第一のグループと補正が必要な第二のグループとに分類する分類工程と、
第二のグループに分類された蛍光スペクトルを補正する補正工程と、
第一のグループに分類された蛍光スペクトルの所定波長範囲における複数波長の蛍光強度と、補正工程による補正後の蛍光スペクトルの所定波長範囲における複数波長の蛍光強度と、特定の検量モデルと、に基づいて濃度算出対象物に含まれる物質の濃度を算出する算出工程と、
を含む、濃度算出方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、分類するグループの数を徒に増やすことなく、アルブミン等の物質の濃度を高い精度で測定(算出)することができる濃度算出装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係る透析システムの構成の概略を示す図である。
【
図2】光学モニタの構成の一例を示す説明図である。
【
図3】アルブミンの蛍光特性がサブピークを示す励起波長を示す図である。
【
図6】第一指標と第二指標の相関関係を示す一例の図である。
【
図7】直線相関からの乖離±10%超えと±10%以内とに分類した一例の図である。
【
図8】本発明の実施形態に係る濃度算出装置の機能的構成を示すブロック図である。
【
図10】本発明の実施形態に係る濃度算出方法を説明するためのフローチャートである。
【
図13】補正前スペクトルと補正後スペクトルを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。なお、図面の上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。図面の寸法比率は、図示の比率に限定されるものではない。さらに、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をその実施の形態のみに限定する趣旨ではない。また、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな変形が可能である。
【0013】
<透析システム>
図1は、本実施の形態に係る濃度算出装置が搭載された血液処理システムとしての透析システム1の構成の概略を示す構成図である。本実施形態に係る透析システム1は、
図1に示すように、透析器10、血液回路11、透析液回路12、排液回路13、補液回路14、制御装置15、濃度算出装置16、等を備えている。
【0014】
透析器10は、例えば中空糸膜を内蔵した中空糸モジュールであり、血液から不要成分を分離できる。透析器10は、筒状容器20を有し、筒状容器20の内部には、その長手方向に沿って多数本の中空糸膜21が配置されている。中空糸膜21は、血液から不要成分を分離することができる。筒状容器20の上部及び下部には、中空糸膜21の管内空間(血液側)に通じる入口22及び出口23が設けられ、筒状容器20の側面部には、中空糸膜21の管外空間(透析液側)に通じる2つの出入口24・25が設けられている。
【0015】
血液回路11は、例えば脱血部30と透析器10とを接続する脱血ライン31と、透析器10と返血部32とを接続する返血ライン33と、を備えている。脱血ライン31及び返血ライン33は、主に軟質チューブにより構成されている。脱血ライン31は、透析器10の入口22に接続され、返血ライン33は、透析器10の出口23に接続されている。
【0016】
脱血ライン31には、例えば血液ポンプ40が設けられている。また、脱血ライン31には、ドリップチャンバー41が接続されている。ドリップチャンバー41がない場合もある。
【0017】
透析液回路12は、透析液の供給源(図示せず)から透析器10の出入口25に接続されている。排液回路13は、透析器10の出入口24から排液部(図示せず)に接続されている。透析液回路12や排液回路13には、透析液回路12を通じた透析器10への透析液の供給や排液回路13を通じた透析器10からの透析液の排液を行う図示しない給排液ポンプが設けられている。
【0018】
補液回路14は、例えば透析液回路12からドリップチャンバー41(血液回路11)に接続されている。ドリップチャンバー41がない場合には、補液回路14は、脱血ライン31に直接接続される。補液回路14には、補液ポンプ50が設けられている。
【0019】
制御装置15は、例えば、各種プログラムやデータを記憶する記憶部(メモリ)や各種プログラムを実行するCPUを備えるコンピュータであり、記憶部に記憶されたプログラムをCPUで実行することによって、血液ポンプ40や補液ポンプ50の動作を制御して、透析治療のための透析処理を実行することができる。なお、制御装置15と各種機器(血液ポンプ40や補液ポンプ50)との間の通信は、通信ケーブル等の有線で行われてもよいし、Bluetooth(登録商標)等の無線でも行われてもよい。
【0020】
透析治療では、血液回路11において、患者の血液が脱血部30から透析器10の中空糸膜21の管内空間に送られ、透析器10を通過後、返血部32から患者に戻される。このとき、透析液が透析液回路12を通じて透析器10の中空糸膜21の管外空間に送られ、その後、排液回路13を通じて排液される。透析器10では、中空糸膜21の管内空間を流れる血液中の主に不要成分が中空糸膜21を通って管外空間(透析液側)に流出し、透析液とともに排出される。透析液回路12の補液(透析液)が補液回路14を通じて血液回路11に供給され、血液中に所定の成分が補充される。なお、補液の補充が行われる血液透析濾過と、補液の補充が行われない血液透析と、がある。
【0021】
<濃度算出装置>
本実施形態に係る濃度算出装置16は、
図1に示すように、濃度算出対象物としての多成分系溶液である透析排液に励起光を照射し、その透析排液から発生する蛍光を検出する光学モニタ70と、光学モニタ70により取得した蛍光のスペクトルを複数のグループに分類する分類部71と、二つのグループの蛍光スペクトルのうち補正が必要なものを補正する(
図1には示していない)補正部94と、補正が不要な場合は補正を施さない蛍光のスペクトルの、補正が必要な場合は補正を施した蛍光スペクトルの、所定波長範囲における複数波長の蛍光強度に基づいて、透析排液に含まれる物質としてのアルブミンの濃度を特定の検量モデルから算出する濃度算出部72と、表示部73と、入力部74と、を備えている。補正部94は、
図8に示すように濃度算出部72の内部に搭載されている。
【0022】
なお、光学モニタ70、分類部71、濃度算出部72、表示部73及び入力部74の間の通信は、通信ケーブル等の有線で行われてもよいし、Bluetooth(登録商標)等の無線でも行われてもよい。
【0023】
光学モニタ70は、例えば
図2に示すように、排液回路13の配管中の透析排液に対し励起光を照射する照射部80と、その透析排液から発生する蛍光を検出する分光器を含む検出部81と、を備えている。
【0024】
照射部80は、
図3に示すアルブミンのサブピークとなる蛍光を励起する300nm以上400nm以下の間の波長の光を照射することができる。照射部80の光源は、特に限定されるものではないが、例えばハロゲンランプ、キセノンランプ、重水素ランプ、LED等である。
【0025】
検出部81は、透析排液から発生する蛍光を分光器で検出して蛍光スペクトルを得るものである。検出部81は、310nm以上850nm以下の波長範囲の蛍光を検出できるものであればよい。また、照射部80と検出部81は、例えば排液回路13の配管に対し互いに直角方向に配置され、励起光と直角の角度で蛍光を取得している。なお、照射部80及び検出部81の配置や排液回路13の形状は、これに限られるものではない。
【0026】
分類部71は、例えば、各種プログラムやデータを記憶する記憶部(メモリ)や各種プログラムを実行するCPUを備えるコンピュータであり、検出部81が検出した蛍光のスペクトルを複数のグループに分類する。本実施形態における分類部71は、複数のグループを以下のように分類する。
【0027】
まず、
図4(左側)に示すように、得られた蛍光スペクトルの最大蛍光強度値で各波長における蛍光強度を除した値を標準化強度とし、各波長の標準化強度からなるスペクトルを
図4(右側)に示すような標準化スペクトルとし、
図5に示すように複数回取得した標準化スペクトルにおいて、各標準化スペクトル間の標準化強度変化の最も大きい波長付近(一例として460nm)における標準化強度を第一指標(第一の特徴量)とする。また、最大蛍光強度値、もしくは最大蛍光強度値を特定の変換式により変換した値を第二指標(第二の特徴量)とする。第二指標としては、蛍光スペクトルの最大蛍光強度の逆数を用いてもよい。
【0028】
次に、
図6に示すように第一指標I1を縦軸に、第二指標I2(一例として下記(1)式の変換値を使用)を横軸にとり、直線相関式を得る。
I2=(F
DUL-F
MAX)/F
DUL … (1)
ここで、F
MAXは最大蛍光強度値である。また、F
DULは、検出部81に含まれる分光器が最大で検出できる上限強度値(分光器検出上限強度値)であり、定数で与えられる。
【0029】
さらに、
図7に示すように、直線相関式から、例えば±x%以内のデータのグループ(第一のグループ)と、±x%超えて外れたデータのグループ(第二のグループ)と、に分類する。xの範囲は、3~15が望ましい。なお、第一指標と第二指標の相関から得られる直線相関式は、相関関係から±y%超えて外れた点を除いて求めた直線相関式を用いることができる。yの範囲は-0.2~0.2が望ましく、さらには-0.15~0.15がより望ましい。補正部94(
図8参照)においては、直線相関式から±x%%超えて外れた第二のグループのデータを補正する。
【0030】
なお、分類部71は、濃度算出装置16の本体内に組み込まれていなくてもよい。検出部81が検出した蛍光スペクトルデータを通信し、クラウド上で分類して、濃度算出部72に通信することもできる。
【0031】
図8は、濃度算出部72等の機能的構成を示すブロック図である。濃度算出部72は、例えば、各種プログラムやデータを記憶する記憶部(メモリ)や各種プログラムを実行するCPUを備えるコンピュータである。濃度算出部72は、濃度計算部90と、記憶部91と、数値計算部92と、検量モデル作成部93と、直線相関式から分類された補正が必要な第二グループのデータの蛍光スペクトルを補正する補正部94と、を有している。
【0032】
濃度計算部90は、透析治療中にリアルタイムで光学モニタ70から透析排液の蛍光スペクトルを取得し分類部71で分類された複数のグループのうち補正が不要な第一グループの蛍光スペクトルの所定波長範囲における複数波長の蛍光強度に基づいて、透析排液に含まれる物質としてのアルブミンの濃度を検量モデルから算出する。また、濃度計算部90は、補正が必要な第二グループの蛍光スペクトルを補正部94で補正した補正後の蛍光スペクトルの所定波長範囲における複数波長の蛍光強度に基づいて、透析排液に含まれる物質としてのアルブミンの濃度を検量モデルから算出する。すなわち、濃度計算部90は、補正が不要な蛍光スペクトルについては、補正を施さない蛍光スペクトルの蛍光強度と検量モデルとに基づいてアルブミン濃度を算出する一方、補正が必要な蛍光スペクトルについては、補正を施した蛍光スペクトルの蛍光強度と検量モデルとに基づいてアルブミン濃度を算出する。
【0033】
記憶部91は、濃度計算部90で得られたアルブミン濃度を記憶する。数値計算部92は、記憶部91に記憶されたアルブミン濃度の値を取り込んで透析治療のリアルタイムで各種数値を計算する。数値計算部92は、
図9に示すように例えばアルブミン濃度と透析排液流量との積の透析治療開始以来の積分値を算出する積分値算出部100と、アルブミン濃度の変化率を算出する変化率算出部101と、アルブミン濃度と予め定められた値との差を算出する差算出部102と、透析治療開始から透析治療終了までの透析排液のアルブミンの総量の推定値を算出する推定値算出部103と、を有している。
【0034】
検量モデル作成部93は、補正を必要としない蛍光スペクトルと補正した蛍光スペクトルとを合わせて多変量解析を実施することで検量モデルを作成する。検量モデルを作成するための多変量解析は、部分最小二乗(PLS)回帰分析、主成分回帰分析、重回帰分析、サポートベクターマシーン回帰分析、又は機械学習解析のいずれかであってもよい。検量モデルの一例を以下に示す。検量モデルは、得られた蛍光スペクトルの各波長の蛍光強度毎に係数を掛け合わせ、それらの和をとることで、算出濃度Cを求める式として表すことができる。検量モデルは、例えば(4)式のように表される。
C=a1×F1+a2×F2+……+an×Fn+K …(4)
ここで、anは係数であり、Fnは蛍光強度であり、Kは定数である。また、添え字nは、蛍光スペクトルにおいて取得した各波長を短い方から番号付けした自然数である(例えば波長300nm、310nm、320nm、……400nmならば、n=1、2、3、……、11となる)。
【0035】
検量モデル作成部93において作成された検量モデルは、例えば記憶部91に記憶され、濃度計算部90や数値計算部92における計算プロセスにおいてパラメータとして用いられる。なお、検量モデル作成部93で検量モデルを作成することなく、予め設定した検量モデルを記憶部91に記憶させておき、それを濃度計算部90や数値計算部92における計算プロセスに用いることもできる。
【0036】
図8に示す表示部73は、例えばパネルディスプレイであり、濃度計算部90で算出されたアルブミン濃度や、数値計算部92で得られた各種数値を表示したり、各種警告を表示したりする。警告は、例えば濃度計算部90によって算出されたアルブミン濃度が所定の範囲を超えた場合、積分値算出部100によって算出されたアルブミン漏出量の積分値が所定の範囲を超えた場合、変化率算出部101により算出されたアルブミン濃度の変化率が所定の範囲を超えた場合、差算出部102により算出されたアルブミン濃度とその閾値との差が所定の範囲を超えた場合、推定値算出部103により算出された一治療あたりのアルブミンの総量の推定値が所定の範囲を超えた場合、等に行われる。
【0037】
図8に示す入力部74は、分類部71による分類に必要な情報に加え、濃度算出部72によるアルブミン濃度の計算、検量モデルの作成、各種数値計算に必要な情報を、外部から入力する機能を有する。なお、制御装置15、分類部71、濃度算出部72、表示部73及び入力部74は、同じコンピュータで実現される手段、機能であってもよい。
【0038】
<濃度算出装置の動作>
次に、本実施形態に係る濃度算出装置16の動作を説明する。なお、本動作により、
図10のフローチャートで示される濃度算出方法が実施される。
【0039】
濃度算出装置16は、透析治療中の排液回路13の透析排液中のアルブミン濃度をリアルタイムで連続的或いは断続的に算出する。透析排液は、流量が10mL/min以上1000mL/min以下の連続流となっている。
【0040】
具体的には、まず、光学モニタ70の照射部80が、排液回路13に対し励起光を照射し(照射工程:S1)、検出部81が、その透析排液から発生する蛍光を分光器で検出する(検出工程:S2)。照射部80から照射される励起光は、アルブミンのサブピークとなる蛍光を励起する300nm以上400nm以下の間の波長の光を含んでいる。
【0041】
図11に示すように検出部81で検出される蛍光スペクトルは、例えば310nm以上850nm以下の波長範囲である。検出部81では、得られた蛍光スペクトルの波長範囲の380nm以上480nm以下にある強度最大値の数値に基づいて計測に関わるパラメータを調節し、検出部81の分光器の計測上限内で計測されるようにする。
【0042】
次いで、分類部71において、蛍光スペクトルを以下の手順で分類する(分類工程:S3)。
【0043】
検出部81が検出した蛍光のスペクトル(
図4(左側)参照)を、スペクトルの最大蛍光強度値で各波長における蛍光強度を除した値を標準化強度とし、各波長の標準化強度からなるスペクトルを標準化スペクトルとする(
図4(右側)参照)。そして、複数回取得した標準化スペクトルにおいて、各標準化スペクトル間の標準化強度変化の最も大きい波長付近(ここでは460nm)における標準化強度を第一指標(第一の特徴量)とする(
図5参照)。また、最大蛍光強度値、もしくは最大蛍光強度値を特定の変換式により変換した値を第二指標(第二の特徴量)とする。
【0044】
その後、第一指標I1を縦軸に、第二指標I2を横軸にとり、直線相関式を得る(
図6参照)。なお、第二指標I2は、既に説明した(1)式の変換値を使用する。そして、直線相関式から±x%以内のデータのグループ(第一のグループ)と、直線相関式から±x%超えて外れたデータのグループ(第二のグループ)と、に分類する。補正部94(
図8参照)においては、直線相関式から±x%%超えて外れた第二のグループのデータを補正する。
【0045】
濃度算出部72の濃度計算部90は、透析治療中にリアルタイムで光学モニタ70から透析排液の蛍光スペクトルを取得し分類部71で分類された複数のグループのうち、補正が不要な蛍光スペクトルについては、補正を施さない蛍光スペクトルの蛍光強度と検量モデルとに基づいてアルブミン濃度を算出する一方、補正が必要な蛍光スペクトルについては、補正を施した蛍光スペクトルの蛍光強度と検量モデルとに基づいてアルブミン濃度を算出する。
【0046】
例えば、検出部81で検出された蛍光スペクトルが補正を必要とする第二グループに分類された場合には、補正部94において蛍光スペクトルを補正し(補正工程:S4)、濃度計算部90において、記憶部91に記憶された検量モデルを用いて、補正された蛍光スペクトルからアルブミンの濃度を算出する。検出部81で検出された蛍光スペクトルが補正を必要としない第一グループに分類された場合には、濃度計算部90において、記憶部91に記憶された検量モデルを用いて、補正されていないそのままの蛍光スペクトルからアルブミンの濃度を算出する(算出工程:S5)。
【0047】
濃度計算部90は、透析治療のリアルタイムで連続的或いは断続的に透析排液中のアルブミン濃度を算出する。濃度計算部90で算出されたアルブミン濃度は、その都度記憶部91に記憶される。このアルブミン濃度は、例えばリアルタイムで表示部73に表示される。
【0048】
ここで、第一指標及び第二指標を各々I1及びI2とし、補正前の蛍光強度をFとし、最大蛍光強度値をFMAXとし、検出部81に含まれる分光器が最大で検出できる上限強度値をFDULとし、直線相関式の傾き及び切片を各々a及びbとし、xを-0.15以上0.15以下の定数とした場合に、補正部94による補正後の蛍光スペクトルにおける蛍光強度FCは、以下の(2)式又は(3)式によって算出される
FC=F×{FDUL-(I2-|[I1―{(I2×a+b)×(1+x)}]|/a)×FDUL}/FMAX … (2)
FC=F×{FDUL-(I2-[I1―{(I2×a+b)×(1+x)}]/a)×FDUL}/FMAX … (3)
【0049】
上記の補正式((2)式及び(3)式)の意義について説明する。
図12に示すように、データ1を補正する場合、その座標は以下のようになる。
(データ1の座標)=(データ1第二指標,データ1第一指標)・・・(5)
次に、データ1と同じ第二指標の直線相関式上の点Pの座標を以下のように表す。
(点Pの座標)=(データ1第二指標,補正データ1第一指標)・・・(6)
【0050】
直線相関式より乖離したデータ1第一指標の値は、アルブミン等のタンパク質が直線相関式上の第一指標(=補正データ1第一指標)より余計に酸化されたと考え、データ1第一指標が直線相関式から乖離した分、アルブミンが酸化されず尿酸等の小分子量物質が酸化されたと仮定した場合、“y=補正データ1第一指標”で表される直線と、データ1の点を通る直線相関式と同じ傾きの直線(
図12では点線)と、の交点の第二指標が、補正されたデータ1第二指標となる。
【0051】
第二指標に(1)式を用いている場合、補正された第二指標から補正された最大蛍光強度値を得て、
図13に示すように、補正された最大蛍光強度値と透析治療の初期に得られた補正前の最大蛍光強度値との比=補正比R(=補正された最大蛍光強度値/補正前の最大蛍光強度値)を、透析経過時間毎に得られる各波長の蛍光強度(左)に乗じることで、補正蛍光強度が得られ、補正スペクトル(右)が得られる。
【0052】
(2)式と(3)式との二つの補正式があるのは、直線相関式からの乖離を絶対値とするか、絶対値とせずに差分(マイナスを含む)とするか、の違いである。ここでは、透析治療の初期に求めた補正比Rで残りの透析時間に得られる蛍光スペクトルを補正したが、蛍光スペクトルを得るたびに、補正比Rを求めても構わない。
【0053】
なお、検量モデルは、検量モデル作成部93において対象物質の濃度算出症例の透析治療開始前に事前に作成され、記憶部91に記憶されている。
【0054】
数値計算部92は、濃度計算部90で算出された各時刻の複数のアルブミン濃度を記憶部91から取り込んで各種数値を計算する。積分値算出部100は、アルブミン濃度と透析排液流量との積の透析治療開始以来の時間の積分値を計算し、変化率算出部101は、アルブミン濃度の変化率を計算し、差算出部102は、アルブミン濃度と予め定められた値との差を計算し、推定値算出部103は、透析治療開始から透析治療終了までの透析排液のアルブミンの総量の推定値を計算する。これらの値は、例えば表示部73に表示される。また、アルブミン濃度、アルブミン漏出量の積分値、アルブミン濃度の変化率、アルブミン濃度と閾値との差、一治療のアルブミン漏出量の推定量が適正範囲にない場合等には、表示部73に警告が表示される。
【0055】
<作用効果>
以上説明した実施形態に係る濃度算出装置16においては、濃度算出対象物から発する蛍光の蛍光スペクトルを、特定の特徴量に基づいて、補正が不要な第一のグループと補正が必要な第二のグループとに分類し、第一のグループについては、その蛍光スペクトルの所定波長範囲における複数波長の蛍光強度と特定の検量モデルとに基づいて濃度算出対象物に含まれる物質の濃度を算出する一方、第二のグループについては、補正後の蛍光スペクトルの所定波長範囲における複数波長の蛍光強度と当該検量モデルとに基づいて濃度算出対象物に含まれる物質の濃度を算出することができる。すなわち、本装置によれば、濃度算出対象物から発する蛍光の蛍光スペクトルを、補正の要否に応じて二つのグループに分類するだけで済み、補正が必要なグループについては補正後の蛍光スペクトルを用いて濃度算出対象物に含まれる物質の濃度を精度良く算出することができる。従って、分類するグループの数を徒に増やすことなく、アルブミン等の物質の濃度を高い精度で測定(算出)することが可能となる。
【0056】
また、以上説明した実施形態に係る濃度算出装置16におけるグループの分類は、蛍光スペクトルの蛍光の原因となる特徴量に基づいて分けられているので、精度の高いアルブミンの濃度を算出することができる。つまり、第一指標(第一の特徴量)は主にタンパク質に関連する特徴量であり、第二指標(第二の特徴量)は主にタンパク質以外の尿酸などの小分子量物質に関連する特徴量であることに基づいている。
【0057】
また、以上説明した実施形態に係る濃度算出装置16においては、補正を必要としない蛍光スペクトルと補正した蛍光スペクトルとを合わせて多変量解析を実施することで検量モデルを作成する検量モデル作成部93を備えているため、信頼性の高い検量モデルを簡単に作成することができる。多変量解析は、部分最小二乗(PLS)回帰分析、主成分回帰分析、重回帰分析、サポートベクターマシーン回帰分析、及び機械学習解析のいずれかであるので、検量モデルを簡単かつ精度よく作成することができる。
【0058】
また、以上説明した実施形態に係る濃度算出装置16においては、透析治療開始以降の複数の時刻において算出された複数のアルブミン濃度を記憶する記憶部91を備えているため、例えば算出したアルブミン濃度を用いて各種数値計算を行い、透析治療の状況を分析等行うことができる。
【0059】
また、以上説明した実施形態に係る濃度算出装置16においては、濃度算出部72で算出したアルブミンの濃度に関する情報を表示する表示部73を備えているので、ユーザは透析治療中にアルブミンの濃度をリアルタイムで把握することができる。
【0060】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0061】
例えば以上の実施の形態では、励起光を照射する濃度算出対象物が、アルブミンを含む透析排液(タンパク質溶液)であり、濃度算出装置16が透析排液に含まれるアルブミンの濃度を算出するものであったが、本発明は、透析排液のアルブミン以外の物質(例えばタンパク質)の濃度を算出するものにも適用できる。また、本発明は、透析排液以外の他の濃度算出対象物に励起光を照射し、その濃度算出対象物に含まれる物質を算出するものであってもよい。
【0062】
また、透析システム1の構成は、上記実施の形態のような血液透析濾過を行うものに限られない。例えば透析システム1において血液透析を行う場合に、補液ポンプ50や補液回路14は使用しなくてもよい。補液回路14は、脱血ライン31でなく返血ライン33に接続されていてもよい。また、透析システムに限られず他の血液処理を行う血液処理システムにも本発明は適用できる。例えば血漿交換療法、白血球除去療法、持続緩徐式血液濾過療法などを行う血液処理システムにも本発明は適用できる。
【0063】
次に、本発明の実施例について説明する。
【0064】
<実施例1>
透析歴13年の透析患者AにABH-22PA(旭化成メディカル社製)のフィルタを用いて、前置換液量60Lのオンライン透析濾過療法を行った。
図14には、アルブミンの濃度を算出する際に用いられたグループ分類を示す。このグループの分類は、あらかじめ得られた透析開始3分における蛍光スペクトルから第一指標(第一の特徴量)及び第二指標(第二の特徴量)を求め、第一指標を縦軸に、第二指標を横軸に、各々とってプロットして得たものである。
【0065】
直線相関は、相関から大きく外れたデータを除いて仮の直線相関式を求め、さらに、その仮の直線相関式から±10%超えのデータは除き、±10%以内のデータを含めて、最終的な直線相関式を得た。この直線相関式からの乖離±10%以内(第一のグループ)と乖離±10%超え(第二のグループ)とで分類を行い、
図14を得た。
【0066】
そして、直線相関式からの乖離±10%超えのグループ(第二のグループ)を補正し、直線相関式からの乖離±10%以内のグループ(第一のグループ)と合わせてグループ数を1つとし、これに対応する検量モデルを、PLS回帰分析を行うことにより求めた。すなわち、本実施例では、グループ数及び検量モデルは各々1つである。
【0067】
図14中の四角プロットのデータが、透析患者Aの3分値の蛍光スペクトルから得られた第一指標及び第二指標のデータである。直線相関式からの乖離が±10%以内のため、補正なしスペクトルと検量モデルから、各透析時間のアルブミン濃度を算出し、濃度と透析排液流量の積を透析治療時間で積分した値を総量として漏出量を予測し、実測値と比較した。
【0068】
検量モデルを作成するデータに含まれない同じ症例のデータ(=検量モデルを作成したデータと同じ症例の検証データ)で検証したアルブミン漏出量と実測値との比較結果と、透析患者Aの予測アルブミン漏出量と実測値との比較結果と、を表1に示す。
【0069】
<実施例2>
本実施例では、直線相関式からの乖離±5%超えのグループ(第二のグループ)を補正し、直線相関式からの乖離±5%以内のグループ(第一のグループ)と合わせてグループ数を1つとし、これに対応する検量モデルを1つ採用し、その他は実施例1と同様にして漏出量と実測値との比較結果を得た。比較結果を表1に示す。
【0070】
<実施例3>
本実施例では、直線相関式からの乖離±3%超えのグループ(第二のグループ)を補正し、直線相関式からの乖離±3%以内のグループ(第一のグループ)と合わせてグループ数を1つとし、これに対応する検量モデルを1つ採用し、その他は実施例1と同様にして漏出量と実測値との比較結果を得た。比較結果を表1に示す。
【0071】
<実施例4>
本実施例では、直線相関式からの乖離±0%超えのグループ(第二のグループ)を補正し、直線相関式からの乖離±0%以内のグループ(第一のグループ)と合わせてグループ数を1つとし、これに対応する検量モデルを1つ採用し、その他は実施例1と同様にして漏出量と実測値との比較結果を得た(本実施例では、実質的に全てのデータが「第二のグループ」に属することとなる)。比較結果を表1に示す。
【0072】
<比較例1>
直線相関式からの乖離±10%以内(第一のグループ)と、直線相関式からの乖離±10%超え(第二のグループ)と、の双方について、PLS回帰分析を行うことにより、検量モデルを予め求めた。この比較例では、第一及び第二のグループに対応する検量モデルを各々採用し(すなわち、グループ数及び検量モデルは何れも2つであり)、第二のグループについて補正を行わなかった。その他は実施例1と同様にして漏出量と実測値との比較結果を得た。比較結果を表1に示す。
【0073】
<比較例2>
上記実施例のような特徴量を用いた補正要否の分類を行うことなく、透析システム1の透析器10のフィルタ(中空糸モジュール)の種類によってデータを5種類に分類し、それに対応する検量モデルを作成した上で、漏出量と実測値との比較結果を得た。すなわちこの比較例においては、グループ数及び検量モデルが何れも5つとなる。
【0074】
【0075】
補正を行っていない比較例1では、予測漏出量の最大誤差が比較的大きくなった。比較例2では予測漏出量の最大誤差が比較的小さいが、24の症例数の蛍光スペクトルに対して、グループ数が5つとなり、グループ数がきわめて多い。実施例1、実施例2及び実施例3のように補正を行うことにより、比較例1及び比較例2と比べてグループ数は減少し、予測漏出量の最大誤差が小さくなり、精度の向上がみられた。実施例4では、予測漏出量の最大誤差が大きくなったものの、グループ数は減少した。補正を行うことにより、グループ数が減少して、直線相関からの乖離のパーセント3~15%超えの補正処理で予測精度の向上がみられた。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、分類するグループの数を徒に増やすことなく、アルブミン等の物質の濃度を高い精度で測定(算出)することができる濃度算出装置を提供する際に有用である。
【符号の説明】
【0077】
1…透析システム(血液処理システム)
16…濃度算出装置
71…分類部
72…濃度算出部
80…照射部
81…検出部
94…補正部
S1…照射工程
S2…検出工程
S3…分類工程
S4…補正工程
S5…算出工程