(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023115782
(43)【公開日】2023-08-21
(54)【発明の名称】検出装置及び血液処理システム
(51)【国際特許分類】
A61M 1/16 20060101AFI20230814BHJP
A61M 60/113 20210101ALI20230814BHJP
A61M 60/37 20210101ALI20230814BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20230814BHJP
【FI】
A61M1/16 117
A61M1/16 111
A61M60/113
A61M60/37
G01N21/64 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022018183
(22)【出願日】2022-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】507365204
【氏名又は名称】旭化成メディカル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】598041566
【氏名又は名称】学校法人北里研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】下出 浩治
(72)【発明者】
【氏名】細矢 範行
(72)【発明者】
【氏名】久保田 勝
(72)【発明者】
【氏名】小久保 謙一
(72)【発明者】
【氏名】小林 こず恵
【テーマコード(参考)】
2G043
4C077
【Fターム(参考)】
2G043AA03
2G043AA06
2G043BA16
2G043CA03
2G043EA01
2G043JA01
2G043KA02
2G043KA03
2G043LA01
4C077AA05
4C077BB01
4C077EE01
4C077EE03
4C077EE04
4C077HH02
4C077HH03
4C077HH06
4C077HH12
4C077KK27
(57)【要約】
【課題】装置が煩雑化することなく、チューブ内の透析排液に励起光を照射して発生する蛍光を高い精度で検出することができる検出装置を提供する。
【解決手段】検出装置16は、チューブ60内にある、アルブミンを含む透析排液に励起光を照射する照射部80と、チューブ60内にある透析排液から発生する蛍光を検出する検出部81と、を備える。チューブ60は、断面が円形になる形状を有する。照射部80と検出部81は、照射部80が照射する励起光の光軸L1と検出部81が検出する蛍光の光軸L2が互いに直角になるように配置されている。照射部80は、励起光の光軸L1がチューブ60の表面に接触する位置P1が、チューブ60の中心Oに対し、検出部81が配置された検出側S1と反対の非検出側S2にずれるように配置されている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チューブ内にある、被検出物質を含む照射対象物に励起光を照射する照射部と、
前記チューブ内にある前記照射対象物から発生する蛍光を検出する検出部と、を備え、
前記チューブは、断面が円形になる形状を有し、
前記照射部と前記検出部は、前記照射部が照射する励起光の光軸と前記検出部が検出する蛍光の光軸が互いに直角になるように配置され、
前記照射部は、前記励起光の光軸が前記チューブの表面に接触する位置が、前記チューブにおける前記蛍光の光軸の方向の中心に対し、前記検出部が配置された第1の側と反対の第2の側にずれるように配置されている、検出装置。
【請求項2】
前記励起光の光軸が前記チューブの表面に接触する位置は、前記チューブの内部に形成される前記励起光の光路の長さと前記チューブの内径の比が0.90≦L/D<1となるように設定されている、請求項1に記載の検出装置。
【請求項3】
前記検出部は、前記蛍光の光軸がチューブの中心を通過するように配置されている、請求項1及び2のいずれかに記載の検出装置。
【請求項4】
前記照射部は、前記励起光を前記チューブの下方から前記照射対象物に照射するように構成されている、請求項1から3のいずれか一項に記載の検出装置。
【請求項5】
前記検出部は分光器である、請求項1から4のいずれか一項に記載の検出装置。
【請求項6】
前記照射部はLEDである、請求項1から5のいずれか一項に記載の検出装置。
【請求項7】
前記検出部による蛍光の検出に基づいて前記被検出物質の濃度を算出する濃度算出部を備え、
前記濃度算出部は、検量モデルを用いて前記被検出物質の濃度を算出し、
前記検量モデルは、前記蛍光が有するスペクトルを用いて多変量解析によって作成されたものである、請求項1から6のいずれか一項に記載の検出装置。
【請求項8】
前記照射対象物は、前記チューブ内を連続的に流れるものである、請求項1から7のいずれか一項に記載の検出装置。
【請求項9】
前記被検出物質は、透析排液に含まれるアルブミンである、請求項1から8のいずれか一項に記載の検出装置。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載の検出装置を備えた、血液処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検出装置及び血液処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
腎不全患者の治療法である血液透析、および血液透析濾過は、現在広く普及している治療法である。この治療法では、ダイアライザ(フィルタ)に流入した血液から、老廃物が透析膜を介して、同じくダイアライザに流入した新鮮な透析液に拡散し濾過されることにより排出される。
【0003】
腎不全患者の中には、掻痒症、イライラ感、骨関節痛などの諸症状を訴えるケースが少なくない。そのような症状を改善するため、指標物質としてのα1-ミクログロブリン(MG)の積極的な除去が行われている。しかし、α1-MGの積極的な除去により、生体に必要なアルブミンも、α1-MGとの大きさが近いため、透析排液中に漏出することが避けられない。週3回透析治療を行うのに対して、アルブミンを管理する方法は、患者の血清アルブミン濃度を月1~2回測定して、アルブミンレベルを把握するのが現状の一般的な方法である。
【0004】
上記のような状況から、透析排液中のアルブミンの濃度を実時間で把握する手段が透析治療の現場で求められている。
【0005】
透析排液中のアルブミンなどの対象物質の濃度を測定する方法として、特許文献1、2、3では、紫外線を照射して、蛍光強度から、対象物質の濃度を測定する方法が開示されている。
【0006】
特許文献4には、透析排液中の対象物質の濃度を算出する方法として、紫外線を照射して、蛍光強度から、夾雑物(インドキシル硫酸など)の影響を除外して、対象物質の濃度を算出する方法が開示されている。
【0007】
また、対象物質の濃度を算出する方法として、特許文献5には、直線偏光された光を照射し、放出される蛍光の第一偏光面における強度の検出を行ない、第一偏光面とは異なる第二偏光面における強度の検出を行ない、これらの蛍光の異方性を特定し、異方性と強度の双方に基づいて、濃度を算出する方法が開示されている。
【0008】
さらに、アルブミンの濃度を算出する方法として、特許文献6には、透析排液の吸光度を測定後、透析排液をアルブミン分離部であるフィルタでアルブミンを分離し、さらに透析排液の吸光度を測定して、フィルタ通過前後の吸光度の変化から、アルブミンの濃度を算出する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】欧州特許第2579910号明細書
【特許文献2】欧州特許第2579911号明細書
【特許文献3】WO2020/262534明細書
【特許文献4】特表2014-518517号公報
【特許文献5】特表2015-521492号公報
【特許文献6】特開2015-146837号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、励起光を照射して得られる蛍光の強度を計測する蛍光分光光度計などの検出装置は、蛍光に比べて強度が高い励起光の影響を避けるため、照射部が照射する励起光の光軸と、検出部が検出する蛍光の光軸が互いに直角になるように照射部と検出部を配置するとよい。
【0011】
また、チューブ内の流れる透析排液中のアルブミン濃度を計測するような場合は、仮に、計測部位における流路の断面が四角いと、流路の断面が円形の場合に比べて、断面が円形の他の透析用チューブとの接続部位の構造が複雑化する。また、流路の断面が四角いと、透析排液のように様々な物質が含まれる液体が長期にわたり流れてくる環境下では、液体の速度が遅い隅領域が汚れ易く、計測結果に影響を与える可能性がある。さらに、流路の断面が四角いと、何らかの理由で内部の圧力が上昇した場合に、強度の弱い隅部分が破壊し易く、透析排液のような医療廃棄物が漏れ出すことは感染防止の観点でも好ましくない。
【0012】
よって、透析排液中のアルブミン濃度を計測するような場合には、断面が円形のチューブを用いることが望ましい。しかしながら、上述のように照射部の励起光の光軸と検出部の蛍光の光軸を互いに直角させ、さらに断面が円形のチューブを用いると、励起光がチューブの表面や内面等で反射し、励起光が、検出部で検出する蛍光に入り込む可能性がある。蛍光に比べて強度が高い励起光が蛍光に入り込むと、検出部において蛍光を高い精度で検出することは難しくなる。
【0013】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、装置が煩雑化することなく、チューブ内の透析排液などの照射対象物に励起光を照射して発生する蛍光を高い精度で検出することができる検出装置及び血液処理システムを提供することをその目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、鋭意検討した結果、断面が円形のチューブを用いて、照射部の励起光の光軸をチューブの中心から所定方向にずらすことで、上記問題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明は以下の態様を含む。
(1)チューブ内にある、被検出物質を含む照射対象物に励起光を照射する照射部と、前記チューブ内にある前記照射対象物から発生する蛍光を検出する検出部と、を備え、前記チューブは、断面が円形になる形状を有し、前記照射部と前記検出部は、前記照射部が照射する励起光の光軸と前記検出部が検出する蛍光の光軸が互いに直角になるように配置され、前記照射部は、前記励起光の光軸が前記チューブの表面に接触する位置が、前記チューブにおける前記蛍光の光軸の方向の中心に対し、前記検出部が配置された第1の側と反対の第2の側にずれるように配置されている、検出装置。
(2)前記励起光の光軸が前記チューブの表面に接触する位置は、前記チューブの内部に形成される前記励起光の光路の長さと前記チューブの内径の比が0.90≦L/D<1となるように設定されている、(1)に記載の検出装置。
(3)前記検出部は、前記蛍光の光軸がチューブの中心を通過するように配置されている、(1)及び(2)のいずれかに記載の検出装置。
(4)前記照射部は、前記励起光を前記チューブの下方から前記照射対象物に照射するように構成されている、(1)から(3)のいずれか一項に記載の検出装置。
(5)前記検出部は分光器である、(1)から(4)のいずれか一項に記載の検出装置。
(6)前記照射部はLEDである、(1)から(5)のいずれか一項に記載の検出装置。
(7)前記検出部による蛍光の検出に基づいて前記被検出物質の濃度を算出する濃度算出部を備え、前記濃度算出部は、検量モデルを用いて前記被検出物質の濃度を算出し、前記検量モデルは、前記蛍光が有するスペクトルを用いて多変量解析によって作成されたものである、(1)から(6)のいずれか一項に記載の検出装置。
(8)前記照射対象物は、前記チューブ内を連続的に流れるものである、(1)から(7)のいずれか一項に記載の検出装置
(9)前記被検出物質は、透析排液に含まれるアルブミンである、(1)から(8)のいずれか一項に記載の検出装置。
(10)(1)から(9)のいずれかに記載の検出装置を備えた、血液処理システム。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、装置が煩雑化することなく、チューブ内の照射対象物に励起光を照射して発生する蛍光を高い精度で検出することができる検出装置及び血液処理システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】透析システムの構成の一例を示す説明図である。
【
図2】光学モニタのチューブの流路方向に垂直な面で切断した断面を示す模式図である。
【
図3】光学モニタのチューブの中心を通り流路方向に沿った面で切断した断面を示す模式図である。
【
図4】照射部の励起光の光軸、チューブ及び検出部の蛍光の光軸の位置関係を示す説明図である。
【
図7】実施例の実験に用いた実験機を示す説明図である。
【
図8】励起光照射位置を検出部に近づく方向にずらした時の検出部による検出結果である。
【
図9】励起光照射位置を検出部から遠ざかる方向にずらした時の検出部による検出結果である。
【
図10】励起光照射位置をチューブの頂点と一致させた時のアルブミンの実濃度と推定濃度の結果を示すグラフである。
【
図11】励起光照射位置を検出部に近づく方向にずらした時のアルブミンの実濃度と推定濃度の結果を示すグラフである。
【
図12】励起光照射位置を+1mm、検出部から遠ざかる方向にずらした時のアルブミンの実濃度と推定濃度の結果を示すグラフである。
【
図13】励起光照射位置を+2mm、検出部から遠ざかる方向にずらした時のアルブミンの実濃度と推定濃度の結果を示すグラフである。
【
図14】実験でのチューブに対する励起光照射位置のずれ量、検出部の位置のずれ量を説明する図である。
【
図15】実験結果から作成された、励起光照射位置のずれ量とRMSEとの関係を示すグラフである。
【
図16】実験結果から作成された、検出部の位置のずれ量とRMSEとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の好ましい実施の形態の一例について説明する。なお、図面の上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。図面の寸法比率は、図示の比率に限定されるものではない。さらに、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をその実施の形態のみに限定する趣旨ではない。また、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな変形が可能である。
【0019】
<透析システム>
図1は、本実施の形態に係る検出装置が搭載された血液処理システムとしての透析システム1の構成の概略を示す説明図である。
【0020】
透析システム1は、例えば透析器10と、血液回路11と、透析液回路12と、排液回路13と、補液回路14と、制御装置15及び検出装置16等を備えている。
【0021】
透析器10は、例えば中空糸膜を内蔵した中空糸モジュールであり、血液から不要成分を分離できる。透析器10は、筒状容器20を有し、筒状容器20の内部には、その長手方向に沿って多数本の中空糸膜21が配置されている。中空糸膜21は、血液から不要成分を分離することができる。筒状容器20の上部及び下部には、中空糸膜21の管内空間(血液側)に通じる入口22、出口23が設けられ、筒状容器20の側面部には、中空糸膜21の管外空間(透析液側)に通じる2つの出入口24、25が設けられている。
【0022】
血液回路11は、例えば脱血部30と透析器10とを接続する脱血ライン31と、透析器10と返血部32とを接続する返血ライン33を備えている。脱血ライン31と返血ライン33は、主に軟質チューブにより構成されている。脱血ライン31は、透析器10の入口22に接続され、返血ライン33は、透析器10の出口23に接続されている。
【0023】
脱血ライン31には、例えば血液ポンプ40が設けられている。また、脱血ライン31には、ドリップチャンバー41が接続されている。ドリップチャンバー41がない場合もある。
【0024】
透析液回路12は、透析液の供給源(図示せず)から透析器10の出入口25に接続されている。排液回路13は、透析器10の出入口24から排液部(図示せず)に接続されている。透析液回路12や排液回路13には、透析液回路12を通じた透析器10への透析液の供給や排液回路13を通じた透析器10からの透析液の排液を行う図示しない給排液ポンプが設けられている。
【0025】
補液回路14は、例えば透析液回路12からドリップチャンバー41(血液回路11)に接続されている。ドリップチャンバー41がない場合には、補液回路14は、脱血ライン31に直接接続されている。補液回路14には、補液ポンプ50が設けられている。
【0026】
血液回路11、透析液回路12及び補液回路14の流路は、主に、断面が円形のチューブにより構成されている。
【0027】
制御装置15は、例えばコンピュータであり、例えば記憶部に記憶されたプログラムをCPUで実行することによって、血液ポンプ40や補液ポンプ50の動作を制御して、透析治療のための透析処理を実行することができる。なお、制御装置15と各種機器(血液ポンプ40や補液ポンプ50、検出装置16)との間の通信は、通信ケーブルなどの有線で行われてもよいし、Bluetooth(登録商標)などの無線でも行われてもよい。
【0028】
透析治療では、血液回路11において、患者の血液が脱血部30から透析器10の中空糸膜21の管内空間に送られ、透析器10を通過後、返血部32から患者に戻される。このとき、透析液が透析液回路12を通じて透析器10の中空糸膜21の管外空間に送られ、その後排液回路13を通じて排液される。透析器10では、中空糸膜21の管内空間を流れる血液中の主に不要成分が中空糸膜21を通って管外空間(透析液側)に流出し、透析液とともに排出される。透析液回路12の補液(透析液)が補液回路14を通じて血液回路11に供給され、血液中に所定の成分が補充される。なお、補液の補充が行われる血液透析濾過と、補液の補充が行われない血液透析がある。
【0029】
<検出装置>
検出装置16は、被検出物質としてのアルブミンを含む照射対象物(タンパク質溶液)としての透析排液に励起光を照射し、その透析排液から発生する蛍光を検出する光学モニタ70と、光学モニタ70により取得した蛍光のスペクトルの予め定められた波長範囲における複数波長の蛍光強度と予め設けられた検量モデルとに基づいて、透析排液に含まれるアルブミンの濃度を算出する濃度算出部71と、表示部72を備えている。なお、光学モニタ70、濃度算出部71及び表示部72の間の通信は、通信ケーブルなどの有線で行われてもよいし、Bluetooth(登録商標)などの無線でも行われてもよい。検出装置16は、制御装置15を含むものであってもよい。
【0030】
光学モニタ70は、排液回路13に設けられている。
図2は、光学モニタ70のチューブ60の流路方向Xに垂直な面で切断した断面を示す模式図であり、
図3は、光学モニタ70のチューブ60の中心を通り流路方向Xに沿った面で切断した断面を示す模式図である。
【0031】
光学モニタ70は、例えば
図2及び
図3に示すように排液回路13のチューブ60内を流れる透析排液に対し励起光を照射する照射部80と、チューブ60内の透析排液から発生する蛍光を検出する検出部81と、モニタ本体部82を備えている。透析排液は、照射対象物の一例であり、透析排液中のアルブミンが被検出物質の一例である。
【0032】
チューブ60は、流路方向Xに垂直の断面が円形となる円筒形状を有する。チューブ60は、例えば10mm~40mm程度の外径を有し、5mm~35mm程度の内径を有する。チューブ60は、例えば透光性のある石英で形成されている。チューブ60は、排液回路13の上流側及び下流側の別体のチューブに接続されたものであってもよい。この場合、チューブ60は、別体のチューブよりも硬質のものであってもよい。また、チューブ60は、排液回路13の上流側及び下流側のチューブと一体化したものであってもよい。チューブ60は、光学モニタ70に含まれるものであってもよいし、光学モニタ70に含まれないものであってもよい。
【0033】
照射部80は、チューブ60内の透析排液に対し、アルブミンの蛍光を励起する波長の光を照射することができる。照射部80の光源は、特に限定されるものではないが、例えばハロゲンランプ、キセノンランプ、重水素ランプ、LEDなどであり、LEDが好ましい。なお、照射部80から照射される励起光は、連続する波長を有するものであってもよいし、ある一つの値(例えば340nm)の波長を有するものであってもよい。
【0034】
検出部81は、例えば分光器である。検出部81は、チューブ60内の透析排液から発生する蛍光を検出して蛍光スペクトルを得る。照射部80と検出部81は、例えば排液回路13のチューブ60に対し互いに直角をなす方向に配置され、検出部81は、励起光と直角の角度で蛍光を取得している。
【0035】
例えばモニタ本体部82は、チューブ60を保持する第1の保持部85と、照射部80を保持する第2の保持部86と、チューブ60の透析排液から生じる蛍光を集光し検出部81に誘導する導管部87等を備えている。
【0036】
第1の保持部85は、円形のチューブ60を複数個所、例えば3か所で保持する。例えば第1の保持部85は、チューブ60の一カ所を保持する第1の部分85aと、チューブ60の二カ所を保持する第2の部分85bを有している。第1の部分85aは、チューブ60の検出部81の反対側の下部を保持する。第2の部分85bは、チューブ60の検出部81側の下部と上部を保持する。第1の部分85aと第2の部分85bとの間には、チューブ60が外部に露出する開口部85cが形成されている。第2の保持部86は、第1の保持部85上で照射部80を保持し固定している。照射部80は、チューブ60の上方に位置し、励起光の光軸L1が鉛直方向の下に向くように固定されている。なお、励起光(照射部80)とチューブ60との上下関係等は任意に選択が可能である。一方、チューブ60内を泡が通過する場合、励起光が散乱され検出に悪影響を及ぼす可能性があるが、照射部80が励起光をチューブ60の下方から照射する構成とすることで泡が励起光(照射部80)と反対側のチューブ60の壁面付近を移動することとなり、この影響を抑制することができる。
【0037】
導管部87は、例えば円筒形状を有する。導管部87の先端には、第1の保持部85が固定されている。導管部87の中心軸は、励起光の光軸L1に直角であり、チューブ60の中心Oを通りチューブ60の流路方向Xに対し直角の水平方向Yの外方に向けられている。導管部87の内部には、チューブ60内の透析排液から生じた蛍光を集光する集光レンズ88が配置されている。導管部87の後端の中心軸上には、検出部81が固定されている。検出部81は、検出する蛍光の光軸L2が導管部87の中心軸と一致するように固定されている。
【0038】
図2に示すように照射部80と検出部81は、照射部80が照射する励起光の光軸L1と検出部81が検出する蛍光の光軸L2が互いに直角になるように配置されている。励起光の光軸L1と蛍光の光軸L2は、チューブ60の流路方向Xに対して直角となる。
【0039】
図4は、照射部80の励起光の光軸L1、チューブ60及び検出部81の蛍光の光軸L2の位置関係を示す説明図である。
図4に示すようにチューブ60を流路方向Xから見た断面(チューブ60を流路方向Xに垂直な面で切断した縦断面)において、照射部80は、励起光を鉛直方向の下方向に向けて照射する。照射部80は、励起光の光軸L1がチューブ60の表面に接触する位置(励起光照射位置)P1が、チューブ60の水平方向Yの中心O(中心Oを通り光軸L1に平行な中心軸C)に対し、検出部81が配置された第1の側(
図4の検出側S1)と反対の第2の側(
図4の非検出側S2)にずれるように配置されている。例えば励起光照射位置P1は、チューブ60の中心Oから非検出側S2に所定の距離Y1ずれている。所定のずれ量Y1は、例えば、チューブ外径が14mm、内径が11mmとした場合、0.5mm以上3mm以下が好ましく、1mm以上2mm以下がさらに好ましい。
【0040】
また、励起光照射位置P1は、チューブ60の内部に形成される励起光の光路Eの長さLとチューブ60の内径Dの比が0.90≦L/D<1となるように設定されている。チューブ60の内部の励起光の光路Eの長さLとチューブ60の内径Dとの比は、好ましくは0.950≦L/D≦0.995である。チューブ60に入射する励起光は、チューブ60の表面と内面等で屈折する。このため、チューブ60内の励起光の光路Eは、励起光の光軸L1に対し傾斜していてもよい。
【0041】
検出部81は、チューブ60に対し水平方向Yで励起光の光軸L1と直角をなす方向から蛍光を受光する。検出部81は、蛍光の光軸L2が励起光の光軸L1と直角をなしチューブ60の中心Oを通るように配置されている。
【0042】
濃度算出部71は、コンピュータである。
図5に示すように濃度算出部71は、光学モニタ70で取得された蛍光スペクトルの予め定められた波長範囲における複数波長の蛍光強度の情報と、多変量解析により得られた検量モデルとを用いて、透析排液中のアルブミンの濃度を算出する濃度計算部90と、濃度計算部90で得られたアルブミン濃度を記憶する記憶部91と、予め検量モデルを作成する検量モデル作成部92を有している。
【0043】
検量モデル作成部92は、例えば光学モニタ70から、アルブミン濃度が既知でアルブミン濃度の異なる疑似透析排液の蛍光スペクトルを取得し、多変量解析により検量モデルMを事前に作成する。検量モデルMを作成するための多変量解析は、部分最小二乗(PLS)回帰分析、主成分回帰分析、重回帰分析、サポートベクターマシーン回帰分析、又は機械学習解析のいずれかであってもよい。作成された検量モデルMは、例えば記憶部91に記憶され、濃度計算部90における計算プロセスにおいてパラメータとして用いられる。なお、あらかじめ求められた検量モデルMを記憶部91に記憶させておき、それを用いても構わない。
【0044】
検量モデルMの一例を以下に示す。検量モデルMは、得られた蛍光スペクトルの各波長の蛍光強度ごとに係数を掛け合わせ、それらの和をとることで、アルブミンの算出濃度Cを求める式として表すことができる。検量モデルMは、具体的には(1)式のように表される。
C=a1×I1+a2×I2+・・・+an×In+K・・・(1)
C:アルブミンの算出濃度、an:係数、In:蛍光強度、K:定数、添え字n:蛍光のスペクトルを取得した各波長を短い方から番号付けした自然数(例:波長300nm、310nm、320nm、・・・、400nmならば、添え字は1、2、3、・・・、11となる)
【0045】
濃度計算部90は、透析治療の実時間で光学モニタ70から透析排液の蛍光スペクトルを取得し、当該蛍光スペクトルの予め定められた波長範囲における複数波長の蛍光強度と事前に作成された検量モデルMからアルブミン濃度を計算する。
【0046】
表示部72は、例えばパネルディスプレイであり、濃度計算部90で算出されたアルブミン濃度等を表示する。なお、以上の制御装置15、濃度算出部71及び表示部72は、同じコンピュータで実現される手段、機能であってもよい。
【0047】
次に、以上のように構成された検出装置16の動作の一例を説明する。
【0048】
検出装置16は、透析治療中に排液回路13の透析排液中のアルブミン濃度を実時間で連続的或いは断続的に算出する。透析排液は、流量が10mL/min以上1000mL/min以下の連続流となっている。
【0049】
具体的には、光学モニタ70の照射部80が、励起光を発光し、チューブ60内の透析排液に照射される。検出部81が、チューブ60内の透析排液から発生する蛍光を検出する。
【0050】
このとき、照射部80のチューブ60に対する励起光照射位置P1は、チューブ60の中心Oに対し、検出部81と反対の非検出側S2に所定のずれ量Y1だけずれている。検出部81は、励起光の光軸L1と直角をなす方向から蛍光を受光する。
【0051】
照射部80から照射される励起光は、アルブミンのサブピークとなる蛍光を励起する300nm以上400nm以下の間の波長の光を含んでいる。なお、励起光は、310nm以上380nm以下の間の波長の光、320nm以上350nm以下の間の波長の光、330nm以上350nm以下の間の波長の光、340nm以上350nm以下の間の波長の光を含んでいてもよい。
【0052】
検出部81は、
図6に示すような蛍光スペクトルを検出する。検出部81で検出される蛍光スペクトルは、励起光の波長下限に10nmを加算した波長以上、励起光の波長上限に450nmを加算した波長以下の範囲であってもよいし、また、励起光の波長下限に10nmを加算した波長以上、励起光の波長上限に400nmを加算した波長以下の範囲であってもよい。検出部81で検出される蛍光の波長範囲は、例えば310nm以上850nm以下である。検出部81では、得られた蛍光スペクトルの波長範囲の380nm以上480nm以下にある強度最大値の数値に基づいて計測に関わるパラメータを調節し、検出部81のセンサの計測上限内で計測されるようにする。
【0053】
濃度算出部71の濃度計算部90は、検出部81で検出された蛍光スペクトルの予め定められた波長範囲における複数波長の蛍光強度と検量モデルMに基づいて透析排液に含まれるアルブミン濃度を算出する。濃度計算部90は、透析治療の実時間で連続的或いは断続的に透析排液中のアルブミン濃度を算出する。濃度計算部90で算出されたアルブミン濃度は、その都度記憶部91に記憶される。このアルブミン濃度は、例えばリアルタイムで表示部72に表示される。
【0054】
なお、検量モデルMは、検量モデル作成部92において透析治療開始前に予め作成され、記憶部91に記憶されている。検量モデルMは、例えば光学モニタ70からアルブミン濃度の異なる疑似透析排液の蛍光スペクトルを取得し、多変量解析により作成される。多変量解析には、例えば部分最小二乗(PLS)回帰分析、主成分回帰分析、重回帰分析、サポートベクターマシーン回帰分析、又は機械学習解析が用いられる。
【0055】
本実施の形態によれば、検出装置16が、チューブ60内にある、アルブミンを含む透析排液に励起光を照射する照射部80と、チューブ60内にある透析排液から発生する蛍光を検出する検出部81と、を備え、チューブ60は、断面が円形になる形状を有し、照射部80と検出部81は、励起光の光軸L1と蛍光の光軸L2が互いに直角になるように配置され、照射部80は、励起光の光軸L1がチューブ60の表面に接触する位置P1が、チューブ60における蛍光の光軸L2の方向の中心Oに対し、検出部81が配置された第1の側と反対の第2の側にずれるように配置されている。かかる検出装置16によれば、断面が円形のチューブ60を用いて、例えば他のチューブとの接続が簡単になるので、装置の構造を簡略化することができる。そして、励起光の光軸L1がチューブ60の表面に接触する位置P1が、チューブ60の中心Oに対し、検出部81と反対の非検出側S2にずれているので、励起光がチューブ60の表面や内面等で反射して蛍光に漏れ込み検出部81で検出されることが抑制される。この結果、蛍光を高い精度で検出することができる。
【0056】
励起光の光軸L1がチューブ60の表面に接触する位置P1は、チューブ60の内部に形成される励起光の光路Eの長さLとチューブ60の内径Dとの比が0.90≦L/D<1となるように設定されている。これにより、チューブ60の内部の励起光の光路Eが十分に確保され、透析排液に対する励起光の照射領域が十分に確保される。この結果、透析排液から生じる蛍光の強度が確保され、検出部81が強度の高い蛍光を検出することができる。
【0057】
検出部81は、蛍光の光軸L2がチューブ60の中心Oを通過するように配置されている。これにより、検出部81が強度の高い蛍光を検出することができる。なお、蛍光の光軸L2は、チューブ60の中心Oからずれていてもよい。
【0058】
透析システム1は、検出部81による蛍光の検出に基づいて被検出物質の濃度を算出する濃度算出部71を備え、濃度算出部71は、検量モデルMを用いてアルブミンの濃度を算出している。これにより、精度の高いアルブミンの濃度を算出することができる。
【0059】
照射対象物は、透析排液であり、チューブ60内を連続的に流れるものである。この場合、蛍光の強度が透析排液の流動により影響を受けるが、励起光の蛍光への漏れ込みを抑制することで、蛍光を高い精度で検出することができる。この結果、例えばアルブミンの濃度の算出も高い精度で行うことができる。
【0060】
医療現場で使用される場合、透析システム1に搭載される検出装置16は小型であることが望まれる。このため、照射部80の光源としてLEDを用いることは望ましい。しかし、その一方で、LEDが発する光の波長は単一では無く、ピーク波長の周辺波長も含む。そのため、励起光の波長に近い波長域を含むことになり得る蛍光を検出部81で検出する場合、蛍光に比べて光強度が高い励起光の蛍光への漏れ込みは、検出部81の検出精度を悪化させ得る。本実施の形態によれば、励起光の蛍光への漏れ込みが抑制されるため、照射部80の光源にLEDを使用して検出装置16の小型化を図りつつ、蛍光を高い精度で検出することができる。
【0061】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0062】
例えば以上の実施の形態では、励起光を照射する照射対象物が、排液回路13の透析排液であったが、透析システム1の他の回路を流れる液体であってもよい。被検出物質がアルブミンであったが、他の物質であってもよい。検出装置16は、透析排液に含まれるアルブミンの濃度を算出するものであったが、本発明に係る検出装置は、透析排液に含まれるアルブミン以外の他の物質の濃度を算出するものであってもよいし、透析排液以外の照射対象物に含まれるアルブミンや、その他の物質の濃度を算出するものであってもよい。なお、物質によっては好適な励起光の波長が異なる場合もあるので適宜選択するのが望ましい。
【0063】
また透析システム1の構成は上記実施の形態のように血液透析濾過を行うものに限られない。例えば透析システム1において血液透析を行う場合に、補液ポンプ50や補液回路14は使用しなくてもよい。補液回路14は、脱血ライン31でなく返血ライン33に接続されていてもよい。また、透析システムに限らず他の血液処理を行う血液処理システムにも本発明は適用できる。例えば血漿交換療法、白血球除去療法、持続緩徐式血液濾過療法などを行う血液処理システムにも本発明は適用できる。血液処理システム以外で蛍光の検出が必要なシステムにも本発明は適用できる。
【実施例0064】
(実験1)
チューブに照射される励起光の光軸の位置による、励起光の検出部への漏れ込み量の違いを計測した。
【0065】
図7は、本実験に用いた光学モニタ(蛍光分光光度計)の実験機である。
図7の実験機は、上記光学モニタ70と基本構造は同じであるが、さらに、照射部80の励起光の光軸L1を、チューブ60の流路方向Xに直角の水平方向Yに移動させることができる。照射部80の励起光の光源には、LEDを用いた。蛍光を取得する検出部81には、CA12880MA(浜松ホトニクス社製)を用いた。ここで、照射部80の励起光の光軸L1の位置、すなわち励起光の光軸L1がチューブ60に当たる位置(励起光照射位置P1)が、チューブ60の頂点(中心O)に対し検出部81から遠ざかる方向をプラス方向、逆に検出部81に近づく方向をマイナス方向とする。
【0066】
また、
図7の実験機は、検出部81の蛍光の光軸L2に絞り130を着脱自在である。絞り130は、検出部81への励起光の漏れ込みを抑制するものである。この絞り130が有る場合の受光量と、絞り130が無い場合の受光量との差が、検出部81への励起光の漏れ込み量に相当する。チューブ内の照射対象物となる試料は励起光の漏れ込みを計測するために蛍光をほとんど発しないリン酸緩衝液を用いた。380nm~480nmの蛍光スペクトルの極大値が検出部のセンサの計測上限内になるように、LEDの駆動電流を200mA、検出器の積分時間を0.5sとした。
【0067】
図8は、励起光照射位置P1を-2mm、すなわち検出部81に近づく方向にずらした時の検出部81による検出結果である。絞り130の有無で大きく受光量が変化しており励起光由来の光が多く検出部81で検出されていることがわかる。
【0068】
図9は、励起光照射位置P1を+2mm、すなわち検出部81から遠ざかる方向にずらした時の検出部81による検出結果である。絞り130の有無で受光量は変化せず励起光由来の光はほとんど検出部81で検出されていないことがわかる。
【0069】
蛍光は励起光に比べて微弱であるため、励起光が多く漏れ込むことは蛍光の検出に影響を与えることになる。特に励起光の光源にLEDを用いる場合、LED光はその性質上発光波長に幅を持ち、励起光と蛍光の波長差が大きくないため、その検出部への漏れ込みは、蛍光の検出に大きく影響する。これらの結果より励起光の検出部への影響を抑制するためには、励起光の励起光照射位置を検出部側から遠ざかる側にずらして設定することが有効である。
【0070】
(実験2)
検出装置を用いて、複数の励起光照射位置P1でアルブミン濃度を算出した例を示す。光学モニタには
図7に示した実験機を用いた。
【0071】
実験に用いた疑似透析液の成分を以下の表1に示す。溶媒はリン酸緩衝液(pH7.4)を使用した。
【0072】
【0073】
作製した疑似透析排液を流量600mL/minでチューブに流し、光学モニタにおいてピーク波長340nm(半値幅10nm)の励起光としてのLED光を疑似透析排液に照射して、蛍光スペクトルを取得した。380nm~480nmの蛍光スペクトルの極大値が検出部のセンサの計測上限内になるように、LEDの駆動電流を200mA、検出器の積分時間を0.5sとした。得られた蛍光スペクトルから検量モデルを多変量解析を用いて事前に作成した。検量モデルから、既知の複数のアルブミン濃度の疑似透析排液を用いて、本発明の検出装置によりアルブミン濃度を算出し、その推定濃度と実濃度の適合性を検証するとともに、検量モデルの精度を検証した。
【0074】
検出部に用いたチューブは、内径が11mm、外径が14mmの石英チューブである。
【0075】
推定濃度と実濃度の適合性及び検量モデルの精度の指標として実濃度と推定濃度の差から得られる二乗平均平方根誤差(RMSE)を以下の式(2)から求め使用した。
RMSE ={[Σ((Cei-Cki)^2)]/n}^0.5 ・・・(2)
RMSE:二乗平均平方根誤差、Ce:推定濃度、Ck:実濃度、添え字i:i番目のサンプル、n:サンプル数。
【0076】
図10は、励起光照射位置P1を0mm、すなわちチューブの頂点(中心O)と一致させた時のアルブミンの実濃度と推定濃度の結果を示すグラフである。
図11は、励起光照射位置P1を-2mm、すなわち検出部に近づく方向にずらした時のアルブミンの実濃度と推定濃度の結果を示すグラフである。
図10、
図11から、励起光照射位置P1が0mmの場合と励起光照射位置P1が-2mmの場合はほぼ同等の結果であったが、両者のRMSEの値は1mg/dlより大きな値となった。
図10乃至
図13において、グラフ中の実線は、実濃度と、モデルから計算で得た推定濃度とが完全に一致する線である。グラフ中のプロットは、実験に用いられた種々のアルブミンにおける、実濃度と、モデルから計算で得た推定濃度との関係を示すものである。なお、アルブミンの濃度が同じでも他に含まれる物質の濃度が違う影響で推定濃度が若干変化する。
【0077】
図12、13は、励起光照射位置P1をそれぞれ+1mm、+2mm、すなわち検出部から遠ざかる方向にずらした時のアルブミンの実濃度と推定濃度の結果を示すグラフである。RMSEの値は1mg/dlより小さい値となり、励起光照射位置P1がゼロあるいはマイナスの値の場合に比べて、優れた値が得られた。相関係数Rについても励起光照射位置P1がプラスの値の場合、すなわち検出部から遠ざかる方向にずらした場合の方が、励起光照射位置P1がゼロあるいはマイナスの値の場合よりも良い数値を示した。
【0078】
(実験3)
励起光照射位置P1による影響をより詳しく調べるため、精密に光学部品の位置を定めることができる光学ステージを用いて、実験2と同様に励起光照射位置P1がアルブミンの検出精度に与える影響を調べた。また同時に検出部81のチューブ60に対する位置がアルブミンの検出精度に与える影響も調べた。使用した疑似透析排液は表1のものであるが、アルブミン濃度の算出に用いられる検量モデルの作成にあたり、用いる疑似透析排液のアルブミン濃度の組合せの影響を考慮し、表2に示すA,Bの2つの濃度の組合せを用いた。
【0079】
【0080】
実験でのチューブ60に対する励起光照射位置P1、検出部81の位置を示す正負の関係は
図14に示す通りである。励起光照射位置P1のチューブ60の中心(O)に対するずれ量は、Y1で表し、検出部81のチューブ60の中心(O)に対するずれ量は、Z1で表す。
【0081】
図15は、実験結果から作成された、励起光照射位置P1のずれ量Y1とRMSEとの関係を示すグラフである。このときの検出部81の位置のずれ量Z1は、0mmに設定した。この結果、励起光照射位置P1が+1mmの場合にRMSEが最も小さいことがわかった。
図10~
図13に示した上記実験2の結果によれば、励起光照射位置P1が+2mmの場合にRMSEが最も小さくなっており、多変量解析に当たり検量モデル作成の際に選択される試料の違いなどを考慮すると、励起光照射位置P1が+1mm~+2mm付近がRMSEが最も小さくなり好ましいことが分かった。
図16は、実験結果から作成された、検出部81の位置のずれ量Z1とRMSEとの関係を示すグラフである。このときの励起光照射位置P1のずれ量Y1は、+1mmに設定した。検出部81の位置が0mm、すなわち検出部81の受光の光軸L2がチューブ60の中心を通るように位置した場合にRMSEが最も小さくなることがわかった。
【0082】
励起光照射位置P1を変化させたときの、励起光がチューブの内部に形成する光路の長さ(チューブ内光路長)を求めた。チューブ内光路長は、チューブの内径及び外径、空気の屈折率、チューブの屈折率及びチューブ内の液体の屈折率により求めた。
【0083】
表3は、励起光照射位置P1のずれ量Y1を変化させたときのチューブ内光路長Lとチューブ内径Dの比をまとめた表である。
【0084】
【0085】
表3の数値と、実験3で得た結果、さらに被検出物質の屈折率等のばらつき、組立由来の誤差などを考慮すると、励起光照射位置P1は、チューブ内光路長Lとチューブ内径Dの比が0.90≦L/D<1となるように設定されているとよく、さらに0.950≦L/D≦0.995が望ましい。
本発明は、装置が煩雑化することなく、チューブ内の照射対象物に励起光を照射して発生する蛍光を高い精度で検出することができる検出装置及び血液処理システムを提供する際に有用である。