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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023115793
(43)【公開日】2023-08-21
(54)【発明の名称】ナスのつるおろし栽培方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 9/12 20060101AFI20230814BHJP
   A01G 22/05 20180101ALI20230814BHJP
【FI】
A01G9/12 B
A01G22/05 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022018202
(22)【出願日】2022-02-08
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 開催日:令和3年2月12日 集会名、開催場所:2020年度植物工場人材育成プログラムDコース 愛媛大学植物工場研究センター(愛媛県松山市樽味3-5-7) 開催日:令和3年4月21日 集会名、開催場所:令和3年度資材事業全体会議及び全農ゆめファーム講演 JA福島ビル 1001会議室(福島市飯坂町平野字三枚長1-1) 開催日:令和3年4月28日 集会名、開催場所:ゆめファーム全農こうち普及月例会議 ゆめファーム全農こうち(高知県安芸市僧津20-1) JA高知県安芸地区本部 3F 大会議室(高知県安芸市幸町1-16)
(71)【出願人】
【識別番号】000201641
【氏名又は名称】全国農業協同組合連合会
(74)【代理人】
【識別番号】100128358
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 良彦
(74)【代理人】
【識別番号】100086210
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 一彦
(72)【発明者】
【氏名】石田 裕太郎
(72)【発明者】
【氏名】西村 宙晃
(72)【発明者】
【氏名】吉田 征司
(72)【発明者】
【氏名】知識 秀裕
【テーマコード(参考)】
2B022
2B023
【Fターム(参考)】
2B022AA01
2B022AB15
2B023AA05
2B023AF03
2B023AF05
2B023AH02
2B023BC04
(57)【要約】
【課題】簡便な作業で、樹勢を維持しながら継続的なつるおろし栽培ができ、効率的かつ安定したナスの収穫が可能にするナスのつるおろし栽培方法を提供する。
【解決手段】ナス株15を一列に定植させた畝14と、2本の下部誘引線17(17a、17b)と、2本の上部誘引線19(19a、19b)と、各上部誘引線に吊された誘引部材20とを備えたナス栽培列12において、複数のナス株の各仕立枝(15a、15b、15c)の高さが上限生育長Hを超えた場合に、仕立枝を誘引する誘引部材が、一方の上部誘引線に沿って一定方向に所定幅ずらされ、誘引部材の仕立枝を繋止する高さが上限生育長を下回るように所定幅下ろされ、仕立枝の中途部が、誘引された上部誘引線と同じ側の下部誘引線に沿うように繋止されて、中途部の水平方向の繋止位置が、仕立枝の着果範囲内に収まる部分が垂直方向に誘引されるように調整される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
つるおろしに用いられる仕立枝が伸ばされた複数のナス株を所定の株間距離で一列に定植させた畝が設けられたナス栽培列におけるナスのつるおろし栽培方法において、
前記仕立枝は、主枝と、該主枝から分岐して伸びた分枝とを含み、
前記ナス栽培列は、
前記ナス株の仕立枝を生育させる高さの上限を定める上限生育長と、前記ナス株に着果をさせる高さ範囲である着果範囲の下限を定める刈り上げ高さとが設定されており、
前記畝の両側部に沿って延設された2本の下部誘引線と、
該2本の下部誘引線のそれぞれの上方に位置し、かつ、前記畝の両側部に沿って、前記ナス株を生育する高さの上限を定める上限生育長を超える高さに張架された2本の上部誘引線と、
該2本の上部誘引線のそれぞれに、前記上部誘引線に沿って移動可能に吊されて、吊された位置に前記ナス株の仕立枝を誘引可能な誘引部材とを備えており、
前記誘引部材は、付け外し自在の繋止具によって前記ナス株の仕立枝に繋止可能に構成され、各仕立枝をそれぞれ誘引した状態で前記上部誘引線に所定間隔で吊されており、
隣接しあう前記ナス株の、それぞれの前記主枝は、互いに別の方の前記上部誘引線に誘引され、
前記複数のナス株の各仕立枝の高さが上限生育長を超えた場合に、
前記仕立枝を誘引する前記誘引部材が一定方向に所定幅ずらされるとともに、前記誘引部材に繋止する前記仕立枝の枝先の高さが前記上限生育長を下回るように所定幅下ろされ、
前記仕立枝の、前記刈り上げ高さよりも下方に位置する中途部が、誘引先の前記上部誘引線と同じ側の前記下部誘引線に、付け外し自在の繋止具によって繋止される
誘引・つるおろし作業が行われ、
該誘引・つるおろし作業における前記誘引部材がずらされる方向は、前記2本の上部誘引線の一方と他方とでは逆向きになっている
ことを特徴とするナスのつるおろし栽培方法。
【請求項2】
前記仕立枝が前記誘引・つるおろし作業によりずらされて、一方の前記上部誘引線に沿って所定距離、ナス栽培列の外に出る場合には、前記仕立枝を誘引する前記誘引部材が前記畝の列を境界として反対側に折り返されて他方の前記上部誘引線に吊される折り返し誘引作業が行われることを特徴とする請求項1記載のナスのつるおろし栽培方法。
【請求項3】
前記誘引・つるおろし作業の後に、前記仕立枝の前記刈り上げ高さよりも下方の部分から生ずる前記ナス株の葉及び側枝を刈り上げることを特徴とする請求項1又は2記載のナスのつるおろし栽培方法。
【請求項4】
前記誘引・つるおろし作業では、前記仕立枝の前記中途部を前記下部誘引線に繋止する位置が、前記仕立枝の前記着果範囲内に収まる部分が垂直方向に誘引される位置に調整されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載のナスのつるおろし栽培方法。
【請求項5】
前記誘引・つるおろし作業の後に、一つの前記ナス株の一つの前記仕立枝の高さを基準高さとし、前記複数のナス株の前記仕立枝のそれぞれの高さを前記基準高さに揃える高さ調整作業が行われることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載のナスのつるおろし栽培方法。
【請求項6】
前記誘引・つるおろし作業の、前記誘引部材がずらされる幅よりも前記仕立枝の枝先が下ろされる幅が短く設定されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載のナスのつるおろし栽培方法。
【請求項7】
前記ナス株は、樹勢を強める強勢台木に接ぎ木されて前記畝に定植されており、
前記畝が隔離培地であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載のナスのつるおろし栽培方法。
【請求項8】
前記下部誘引線は、前記畝の両側部に沿って所定間隔で立設された複数の支柱に張力がかかるように緊結されて支持されていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項記載のナスのつるおろし栽培方法。
【請求項9】
隣接しあう前記ナス株は、それぞれの前記主枝の伸長する方向が互いに逆向きとなるように定植されており、
前記仕立枝は、前記ナス株の収穫前の生育段階で、前記上部誘引線のいずれか一方に平面視で斜めに伸長するように向き付けられて誘引されていることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項記載のナスのつるおろし栽培方法。
【請求項10】
同一株の前記主枝と前記分枝とは、いずれも同じ方の前記上部誘引線に誘引されることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項記載のナスのつるおろし栽培方法。
【請求項11】
前記分枝は、第一分枝の1本からなり、
同一株の前記主枝と前記第一分枝とは、いずれも同じ方の前記上部誘引線に誘引されることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項記載のナスのつるおろし栽培方法。
【請求項12】
前記分枝は、第一分枝と、該第一分枝よりも上方の位置で前記主枝から分岐した第二分枝との2本からなり、
同一株の前記主枝と前記第一分枝とは、互いに別の方の前記上部誘引線に誘引され、
同一株の前記主枝と前記第二分枝とは、いずれも同じ方の前記上部誘引線に誘引されることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項記載のナスのつるおろし栽培方法。
【請求項13】
前記下部誘引線は、前記分枝の分岐位置よりも所定距離高い位置に延設されていることを特徴とする請求項12記載のナスのつるおろし栽培方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナスのつるおろし栽培方法に関し、詳しくは、ナスの枝を成長に合わせて継続的に誘引しつつ収穫を行うナスのつるおろし栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トマトやキュウリなどの着果する植物の栽培方法には、各枝の成長点を摘心して成長範囲を限定し整枝を行いながら収穫を行う摘心栽培の他、成長点を維持したまま伸ばした枝を成長に合わせて継続的に誘引しつつ収穫を行う、つるおろし栽培がある(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
つるおろし栽培のメリットとして、摘心栽培よりも作業の負担が小さく熟練を要しないことや、栽培期間の全体を通じて収量が安定していることなどが挙げられる。したがって、ナスの栽培についても、つるおろし栽培を行うことにより作業の省力化や収量の安定化が見込まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4874430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、つるおろし栽培は、もともと蔓性の植物に適した栽培方法であり、ナスについてつるおろし栽培を最適に行う方法は確立されていなかった。
【0006】
特に、ナスは、枝が蔓性のものより固いので強く曲げると折れるおそれがあり、また、無理に曲げることが大きなストレスとなって樹勢を弱める要因になるため、従来の誘引作業やつるおろし作業をそのまま適用することは困難であった。
【0007】
そこで本発明は、簡便な作業で、樹勢を維持しながら継続的なつるおろし栽培ができ、効率的かつ安定したナスの収穫が可能にするナスのつるおろし栽培方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明のナスのつるおろし栽培方法は、つるおろしに用いられる仕立枝が伸ばされた複数のナス株を所定の株間距離で一列に定植させた畝が設けられたナス栽培列におけるナスのつるおろし栽培方法において、前記仕立枝は、主枝と、該主枝から分岐して伸びた分枝とを含み、前記ナス栽培列は、前記ナス株の仕立枝を生育させる高さの上限を定める上限生育長と、前記ナス株に着果をさせる高さ範囲である着果範囲の下限を定める刈り上げ高さとが設定されており、前記畝の両側部に沿って延設された2本の下部誘引線と、該2本の下部誘引線のそれぞれの上方に位置し、かつ、前記畝の両側部に沿って、前記ナス株を生育する高さの上限を定める上限生育長を超える高さに張架された2本の上部誘引線と、該2本の上部誘引線のそれぞれに、前記上部誘引線に沿って移動可能に吊されて、吊された位置に前記ナス株の仕立枝を誘引可能な誘引部材とを備えており、前記誘引部材は、付け外し自在の繋止具によって前記ナス株の仕立枝に繋止可能に構成され、各仕立枝をそれぞれ誘引した状態で前記上部誘引線に所定間隔で吊されており、隣接しあう前記ナス株の、それぞれの前記主枝は、互いに別の方の前記上部誘引線に誘引され、前記複数のナス株の各仕立枝の高さが上限生育長を超えた場合に、前記仕立枝を誘引する前記誘引部材が一定方向に所定幅ずらされるとともに、前記誘引部材に繋止する前記仕立枝の枝先の高さが前記上限生育長を下回るように所定幅下ろされ、前記仕立枝の、前記刈り上げ高さよりも下方に位置する中途部が、誘引先の前記上部誘引線と同じ側の前記下部誘引線に、付け外し自在の繋止具によって繋止される誘引・つるおろし作業が行われ、該誘引・つるおろし作業における前記誘引部材がずらされる方向は、前記2本の上部誘引線の一方と他方とでは逆向きになっていることを特徴としている。
【0009】
また、前記仕立枝が前記誘引・つるおろし作業によりずらされて、一方の前記上部誘引線に沿って所定距離、ナス栽培列の外に出る場合には、前記仕立枝を誘引する前記誘引部材が前記前記畝の列を境界として反対側に折り返されて他方の前記上部誘引線に吊される折り返し誘引作業が行われることも特徴としている。
【0010】
また、前記誘引・つるおろし作業の後に、前記仕立枝の前記刈り上げ高さよりも下方の部分から生ずる前記ナス株の葉及び側枝を刈り上げることも特徴としている。
【0011】
また、前記誘引・つるおろし作業では、前記仕立枝の前記中途部を前記下部誘引線に繋止する位置が、前記仕立枝の前記着果範囲内に収まる部分が垂直方向に誘引される位置に調整されることも特徴としている。
【0012】
また、前記誘引・つるおろし作業の後に、一つの前記ナス株の一つの前記仕立枝の高さを基準高さとし、前記複数のナス株の前記仕立枝のそれぞれの高さを前記基準高さに揃える高さ調整作業が行われることも特徴としている。
【0013】
また、前記誘引・つるおろし作業の、前記誘引部材がずらされる幅よりも前記仕立枝の枝先が下ろされる幅が短く設定されていることも特徴としている。
【0014】
また、前記ナス株は、樹勢を強める強勢台木に接ぎ木されて前記畝に定植されており、前記畝が隔離培地であることも特徴としている。
【0015】
また、前記下部誘引線は、前記畝の両側部に沿って所定間隔で立設された複数の支柱に張力がかかるように緊結されて支持されていることも特徴としている。
【0016】
また、隣接しあう前記ナス株は、それぞれの前記主枝の伸長する方向が互いに逆向きとなるように定植されており、前記仕立枝は、前記ナス株の収穫前の生育段階で、前記上部誘引線のいずれか一方に平面視で斜めに伸長するように向き付けられて誘引されていることも特徴としている。
【0017】
また、同一株の前記主枝と前記分枝とは、いずれも同じ方の前記上部誘引線に誘引されることも特徴としている。
【0018】
また、前記分枝は、第一分枝の1本からなり、同一株の前記主枝と前記第一分枝とは、いずれも同じ方の前記上部誘引線に誘引されることも特徴としている。
【0019】
あるいは、前記分枝は、第一分枝と、該第一分枝よりも上方の位置で前記主枝から分岐した第二分枝との2本からなり、同一株の前記主枝と前記第一分枝とは、互いに別の方の前記上部誘引線に誘引され、同一株の前記主枝と前記第二分枝とは、いずれも同じ方の前記上部誘引線に誘引されることも特徴としている。
【0020】
また、前記下部誘引線は、前記分枝の分岐位置よりも所定距離高い位置に延設されていることも特徴としている。
【発明の効果】
【0021】
本発明のナスのつるおろし栽培方法によれば、ナス栽培列において一列に設置された畝に、複数のナス株を定植し、定植したナス株の各仕立枝を、畝の両側に沿って上限生育長よりも高い位置に延設した上部誘引線に吊した誘引部材に繋止具で繋止して誘引しつつ、下部誘引線に繋止具により繋止し、枝先が上限生育長を超えるたびに誘引位置をずらし、繋止位置を変えて枝先を下ろすことで、ナス株の各仕立枝の成長点を維持したまま生育と収穫とを繰り返すことができるので、簡便な作業で、樹勢を維持しながら継続的なつるおろし栽培が可能になる。
【0022】
また、誘引・つるおろし作業により、ナス株の各仕立枝が一定の高さを超えたら下ろすようにし、各仕立枝の着果範囲を垂直な状態に維持しながら生育し続けることで、常にナスが着果可能な状態を維持できるので、栽培期間中、ナスの収穫を継続的に行うことができ、かつ、一定の収量が見込めることから、効率的かつ安定したナスの収穫が可能になる。
【0023】
また、誘引・つるおろし作業により、同一の上部誘引線に吊した誘引部材に繋止された各仕立枝を、枝先が互いに等間隔になるように誘引することで、作業が画一に行えるので、ナス株の生育管理がしやすく、また、作業に高度な技能を必要としないので、作業者の確保が容易になる。
【0024】
また、隣接しあうナス株の、それぞれの主枝が互いに別の方の上部誘引線に誘引されることで、密植を避けつつ栽培スペースの偏りを無くせるので、ナス栽培列内の栽培スペースを有効活用でき、効率的な栽培が可能になる。
【0025】
また、ナス株の各仕立枝は、誘引・つるおろし作業を継続することにより上部誘引線に沿ってナス栽培列の端に寄っていくので、ナス栽培列の片側側面において、列の一端側の栽培スペースが詰まり、他端側の栽培スペースに空きができる。
【0026】
これに対し、誘引・つるおろし作業で誘引部材がずらされる方向が2本の上部誘引線の一方と他方とで逆向きになっていることと、ナス株の各仕立枝がナス栽培列の端部に達する場合に、折り返し誘引作業が行われることにより、ナス栽培列の片側側面において、列の端に達するまで誘引された枝を、畝の列を境界として反対側の上部誘引線に回し、反対側での誘引により空いた栽培スペースに移すことが出来るので、ナス株の各仕立枝を伸び具合によらずナス栽培列の栽培スペースの範囲に収めることができ、省スペースで、かつ、時間的な制約無く継続的なつるおろし作業が可能になる。
【0027】
しかも、ナス株の仕立枝について、折り返し誘引作業を、上部誘引線に沿って所定距離、ナス栽培列の外に出てから行うことで、急な折り返しで仕立枝に無理な曲がりが生ずることを防止でき、折り返しによってナス株が受けるストレスを減らし、樹勢の弱化を抑止できる。
【0028】
また、誘引・つるおろし作業の後に、刈り上げ高さよりも低い位置になったナス株の葉や側枝を刈り上げることで、誘引・つるおろし作業及び高さ調整作業により、各仕立枝の着果範囲が一定の範囲内に収められることで、収穫作業時の作業範囲が限定されるので、収穫作業の省力化ができる。
【0029】
しかも、過繁茂を避けつつ風通しの良い状態を保てるので、黒枯病等の病害を抑止でき、より効率的かつ安定したナスの収穫が可能になる。
【0030】
また、誘引した仕立枝の中途部の下部誘引線に繋止する位置を、その仕立枝の着果範囲に収まる部分が垂直方向に伸びるように調整することで、その着果範囲に収まる部分が過度に傾斜することがなく、誘引する各仕立枝の間隔を、密植を避けつつ狭めることができ、栽培スペースを有効活用した効率的なナスの栽培が可能になる。
【0031】
また、誘引・つるおろし作業により、各仕立枝の着果範囲に位置する部分が垂直方向に伸びるよう癖付けされることで、密植による日当たりや風通しの悪化を避けつつ空き空間が出来ないようにできるので、限られた区画でも十分に栽培スペースを確保できる。
【0032】
また、高さ調整作業により、誘引・つるおろし作業後に、各ナス株の各仕立枝の成長点の高さを一定に揃えられることから、ナス株の受光量を均一化させてナス株ごとの生育差を抑えることができるので、場所毎の偏りをなくし、ナス栽培列全体での収量の安定化を図ることができる。
【0033】
また、誘引・つるおろし作業において、ナス株の仕立枝の枝先をずらす幅よりも下ろす幅を短くすることで、誘引した枝を無理なく垂直方向に伸ばす程度の余裕を持たせつつ、枝が通行経路にせり出すほど余らせず、かつ、つるおろし後に枝先の高低差が出にくくすることができるので、適切につるおろし作業ができ、より効率的かつ安定したナスの収穫が可能になる。
【0034】
さらに、ナス株の台木に強勢台木を用いることで、ナス株自体の樹勢を保つ力を強めることができ、畝を隔離培地とすることにより、台木への土壌病害による悪影響を抑えることができる上に、灌水や施肥などの土壌管理がしやすくなるので、樹勢の維持がより容易になる。
【0035】
また、下部誘引線が、各支柱に張力がかかるように緊結されていることで、下部誘引線のテンションが強く保たれるので、ナス株の枝の中途部を下部誘引線に繋止具で繋止したときに、繋止した箇所がたるみにくく、誘引・つるおろし作業がしやすくなる。
【0036】
また、あらかじめ、隣接しあうナス株がそれぞれの主枝の伸長する方向が互いに逆向きとなるように定植されていることから、隣接しあうナス株の主枝を互いに別の方の前記上部誘引線に誘引することが容易になり、誘引によってナス株が受けるストレスを減らし、樹勢の弱化を抑止できる。
【0037】
また、収穫前の生育段階で誘引部材により前記上部誘引線に誘引されることで、ナス株の仕立枝が伸長する前に誘引紐が繋止されるので、繋止した枝を上方に伸長させることができ、繋止された枝が伸長しても自重で倒れることがなくなる。
【0038】
また、このとき、各仕立枝を上部誘引線に対して平面視で斜めに伸長するように向き付けて誘引しておくことで、誘引・つるおろし作業の際に、仕立枝を誘引した誘引部材を上部誘引線に沿ってずらしやすくなるので、誘引によってナス株が受けるストレスを減らし、樹勢の弱化を抑止できる。
【0039】
また、同一株の主枝と分枝とを同じ方の上部誘引線に誘引する場合、ナス株ごとに仕立枝をまとめて誘引できるのでナス株ごとの作業が簡便になる。
【0040】
特に、2本仕立てのナス株の場合には、主枝と第一分枝とを同じ方の上部誘引線に誘引することで、主枝と第一分枝との間の曲がりが少なくて済むので、ナス株にかかるストレスを減らし、樹勢の維持がより容易になる。
【0041】
あるいは、3本仕立てのナス株の場合に、主枝と第二分枝とを同じ上部誘引線に誘引し、第一分枝を逆の上部誘引線に誘引することで、各仕立枝の間隔が密になりすぎて日当たりや風通しが悪化することを避けることを防止できる。
【0042】
また、ナス株の分枝として、複数本を伸ばすことで、少ない株数で多くの仕立枝を栽培できるので、より効率的なナスの栽培が可能になる。
【0043】
また、下部誘引線が、支柱に支持されて、ナス株の分枝の分岐位置より所定の距離高い位置に保たれているので、ナス株の分枝を無理に曲げることなく下部誘引線に沿わせることができるので、誘引によってナス株が受けるストレスを減らし、樹勢の弱化を抑止できる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】本発明のナスのつるおろし栽培方法の一形態例が行われる栽培施設におけるナス栽培列の外観斜視図である。
図2図1のナス栽培列の一区画を示す拡大斜視図である。
図3】ナスのつるおろし栽培に用いられる誘引部材の構造を示す側面図である。
図4】畝に定植された直後のナス株の状態を示す正面図である。
図5】定植から約2週間後のナス株の状態を示す正面図である。
図6】定植から約4週間後のナス株の状態を示す正面図である。
図7図6の生育段階において、一列に定植された各ナス株の各仕立枝の誘引方向を模式的に示す平面図である。
図8】ナス株の主枝の初回の誘引・つるおろし作業の工程を示す側面図である。
図9】ナス株の主枝の2回目以降の誘引・つるおろし作業の工程を示す側面図である。
図10】ナス株の第二分枝に誘引・つるおろし作業が行われた状態を示す側面図である。
図11】ナス株の第一分枝に誘引・つるおろし作業が行われた状態を示す側面図である。
図12】誘引・つるおろし作業後のナス株の高さ調整作業の工程を示す側面図である。
図13】一列に定植されたナス株が誘引・つるおろし作業によりずらされる様子を模式的に示す平面図である。
図14】栽培床の列の端におけるナス株の枝の誘引状態の一例を示す外観斜視図である。
図15】本発明のナスのつるおろし栽培方法における各工程の組み立てを示すフローチャートである。
図16】本発明のナスのつるおろし栽培方法の他の形態例におけるナス株の各仕立枝の誘引方向を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
図1は、本発明のナスのつるおろし栽培方法の一形態例が行われる栽培施設11におけるナス栽培列12の外観斜視図である。図2は、図1のナス栽培列12の一区画を示す拡大斜視図である。図3は、ナスのつるおろし栽培に用いられる誘引部材20の構造を示す側面図である。
【0046】
栽培施設11において、ナス栽培列12の両側部は、図示していないが、人が通行及び作業可能な通行経路になっている。また、実際には、通行経路を挟むようにして同様のナス栽培列12が複数列設けられているが、見やすさのために省略している。
【0047】
図1乃至図3に示されるように、栽培施設11内のナス栽培列12には、複数の栽培床13が、一列に並ぶように敷かれている。それぞれの栽培床13の上には、シートに包まれてブロック状に形成された隔離培地である畝14が設置されている。隔離培地には、例えば、ロックウールやヤシガラ、隔離土耕などが用いられる。
【0048】
畝14の上面には、矩形に土面を盛り上げて露出させた複数の定植口14a(図では6カ所)が、等間隔で一列に設けられている。定植口14aのそれぞれには、ナス株15が定植されている。定植口14aの間隔は、ナス株15が所定の株間距離Dとなるように設定され、本形態例では、株間距離Dは約33cmに設定されている。
【0049】
ナス株15は、仕立枝、つまり、つるおろしに用いる枝が、あらかじめ設定された本数分、選別されて伸ばされている。本形態例では、3本仕立てとしており、主枝15aと、第一分枝15bと、第二分枝15cとの3本の仕立枝が伸ばされている。
【0050】
主枝15aは、定植前に一番花がついた枝であり、第一分枝15bは、主枝15aから分岐して伸び、二番花がついた枝である。第二分枝15cは、第一分枝15bの分岐位置よりも枝先の位置で主枝15aから分岐して伸びた枝である。
【0051】
また、ナス株15は、穂木の樹勢を強めて生育可能な台木16に接ぎ木された状態で定植されている。本形態例では、台木16としてトマトの強勢台木、例えば、エンペラドールが用いられている。
【0052】
また、ナス栽培列12には、誘引用の線材からなる2本の下部誘引線17(17a、17b)が、栽培床13及び畝14の列の両側部に沿って所定の幅Wで延設されている。下部誘引線17(17a、17b)は、それぞれ、栽培床13及び畝14の列の両側部に沿って、所定間隔(例えば、約3m程度)で立設された複数の支柱18(18a、18b)に張力がかかるように緊結され、一定の幅W及び高さHを保つように支持されている。
【0053】
ここで、2本の下部誘引線17a、17b間の幅Wは、つるおろしのしやすさや枝折れのしにくさを考慮した長さに設定されており、本形態例では、約45cmに設定されている。
【0054】
また、下部誘引線17(17a、17b)の高さHは、後述する誘引・つるおろし作業が可能な程度に十分に生育した段階のナス株15の分枝(第一分枝15b又は第二分枝15c)の分岐位置よりも所定の距離高い位置、例えば、第一分枝15bの分岐位置から距離L(=約10cm程度)高い位置になるように設定されており、本形態例では、地面から約70cmの高さに設定されている。
【0055】
また、ナス栽培列12には、ナスのつるおろし栽培において、ナス株15の各仕立枝(主枝15a、第一分枝15b、第二分枝15c)を生育させる高さの上限を定める上限生育長Hが設定されている。
【0056】
各ナス株15の各仕立枝(主枝15a、第一分枝15b、第二分枝15c)の高さが上限生育長Hを超えた場合は、後述の誘引・つるおろし作業が行われ、ナス株15の各仕立枝(主枝15a、第一分枝15b、第二分枝15c)の高さが上限生育長Hを下回るように維持される。本形態例では、上限生育長Hは地面から約280cmの高さに設定されている。
【0057】
ナス栽培列12の上方には、2本の下部誘引線17(17a、17b)のそれぞれの直上に位置するように、2本の上部誘引線19(19a、19b)が、下部誘引線17と平行に張架されている。上部誘引線19が張架される高さHは、ナス株15の上限生育長Hを超える高さに設定される。本形態例では、地面から約380cmの高さに設定されている。
【0058】
2本の上部誘引線19(19a、19b)のそれぞれには、ナス株15の各仕立枝(主枝15a、第一分枝15b、第二分枝15c)を上部誘引線19(19a、19b)に誘引するための誘引部材20が、上部誘引線19(19a、19b)に沿って移動可能に吊されている。
【0059】
誘引部材20は、各ナス株15の各仕立枝(主枝15a、第一分枝15b、第二分枝15c)の数に対応した数が設けられており、各枝をそれぞれ誘引した状態で上部誘引線19(19a、19b)に所定間隔で吊されている。
【0060】
誘引部材20は、上部誘引線19に掛けられるフックを有する吊下フック20aと、吊下フック20aに取り付けられて所定長さ垂下された誘引紐20bと、誘引紐20bをナス株15の枝とともに挟持可能な付け外し自在の繋止具であるクリップ21とによって構成されている。
【0061】
吊下フック20aは、金属製の軸材を屈曲して形成されたものであり、軸材の端部が鉤状に形成されている。また、軸材の中途部には、軸材を二重に折り返してなる凸部を対向するように2カ所設けて紐を掛けられるようにした巻付部20cが形成されている。巻付部20cには、誘引紐20bの一部が巻き付けるように取り付けられており、誘引紐20bの余った部分は吊下フック20aから延ばされて垂下される。
【0062】
巻付部20cから引き出されて垂下された誘引紐20bは、対応するナス株15の枝に沿わされて、根元近くまで下ろされている。ナス株15の枝に沿わされた誘引紐20bは、複数のクリップ21によって、複数の箇所でナス株15の枝とともに挟持されている。
【0063】
上部誘引線19から吊した誘引部材20とナス株15の枝とを繋止することにより、ナス株15の枝を上部誘引線19の誘引部材20を吊り下げた位置に向けて伸びるように誘引することが可能になる。また、この状態で誘引部材20を動かすことで、誘引部材20と繋止されたナス株15の枝を、動かした位置に誘引することが可能になる。
【0064】
ここで、誘引部材20は、吊下フック20aの巻付部20cに巻き付ける誘引紐20bの巻き数を増減させることで、垂下される誘引紐20bの長さ調節を自在に行うことができる。また、クリップ21を付け外しすることで、ナス株15の枝と誘引紐20bとを挟持する位置を任意に変えることができる。
【0065】
したがって、誘引部材20は、ナス株15の枝が誘引される位置を、上部誘引線19に沿って任意に変えることができる。
【0066】
また、クリップ21は、下部誘引線17にも取り付けられており、下部誘引線17に寄せられたナス株15の枝がクリップ21により下部誘引線17とともに挟持されて、ナス株15の枝の中途部が下部誘引線17に沿うように繋止されている。
【0067】
ナス栽培列12の列端部には、向かい合うように傾斜させた2本の管材又は棒材の上部を紐で繋げて形成された三角支柱22が設けられている。三角支柱22は、少なくとも支柱18よりも高くなるように形成されている。
【0068】
また、三角支柱22の下部には、ナス栽培列12の列端部付近の支柱18a、18bからそれぞれ延ばされた下部誘引線17a、17bが緊結されるとともに、三角支柱22の2本の管材又は棒材の下部を繋ぐ下部誘引線17cが高さHで張られている。
【0069】
また、ナス栽培列12には、ナス株15に着果をさせる高さ範囲である着果範囲23の下限を定める刈り上げ高さHがあらかじめ設定されている。ナス株15の着果位置を制限するため、また、過繁茂を防ぐため、刈り上げ高さHよりもの下方の部分から生ずる花(又は蕾)、葉及び側枝を刈り上げている。本形態例では、刈り上げ高さHは、地面から約160cmの高さに設定されている。
【0070】
図4は、畝14に定植された直後のナス株15の状態を示す正面図である。図5は、定植から約2週間後のナス株15の状態を示す正面図である。図6は、定植から約4週間後のナス株15の状態を示す正面図である。
【0071】
図4乃至図6に示されるように、つるおろし作業の準備段階として、ナス株15の苗を畝14に定植する定植作業と、定植した苗を一定程度生育させて、収穫前の生育段階で各仕立枝(主枝15a、第一分枝15b、第二分枝15c)と誘引部材20とを繋いで誘引可能にする繋止作業とが行われる。
【0072】
畝14に定植する時点でのナス株15は、主枝15aから第一分枝15bが分岐して生じ、主枝15aに花芽が生じたものが用いられる。このときの主枝15aの高さの目安は、根元から約25cmである。
【0073】
ナス株15は、定植からおよそ2週間経つと、二番花が咲き始め、主枝15aの高さが根元から約30cm、第一分枝15bの分岐位置までの高さが約25cmに達する。ナス株15がこの程度生育した段階で、主枝15a及び第一分枝15bについて繋止作業が行われ、主枝15a及び第一分枝15bがクリップ21により誘引紐20bに繋止される。
【0074】
また、定植からおよそ4週間経つと、第二分枝15cからも花が咲き始めるので、その段階で第二分枝15cについても繋止作業が行われ、第二分枝15cがクリップ21により誘引紐20bに繋止される。
【0075】
いずれの誘引部材20も、吊下フック20aから誘引紐20bが引き出されてナス株15の根元近くまで伸ばされ、クリップ21によって各仕立枝(主枝15a、第一分枝15b、第二分枝15c)に複数箇所で繋止される。
【0076】
主枝15a及び第一分枝15bでは、誘引紐20bのクリップ21繋止位置は、主枝15a又は第一分枝15bの枝先付近から第一分枝15bの分岐位置付近までの範囲になっている。
【0077】
第二分枝15cでは、誘引紐20bのクリップ21繋止位置は、第二分枝15cの枝先付近から第二分枝15cの分岐位置付近までの範囲になっている。
【0078】
なお、ナス株15の生育により枝が伸長するので、生育に合わせてクリップ21を増やして、あるいはクリップ21で繋止する位置を変えて、誘引紐20bが各仕立枝に沿って適切に繋止されるようにする。
【0079】
ここで、ナス株15の各仕立枝を2本の上部誘引線19(19a、19b)のいずれの側に誘引するかは、相対的に定められている。すなわち、主枝15aを一方の上部誘引線19aに吊された誘引部材20により誘引した場合、第一分枝15bは、他方の上部誘引線19b吊された誘引部材20により誘引され、第二分枝15cは、主枝15aと同じ側の上部誘引線19aに吊された誘引部材20により誘引される。
【0080】
なお、第一分枝15bの分岐位置より低い位置に生えたナス株15の葉は、過繁茂を防ぐために、図4乃至図6の各生育段階において適宜剪定処理される。
【0081】
図7は、図6の生育段階において、一列に定植された各ナス株15の各仕立枝(主枝15a、第一分枝15b、第二分枝15c)の誘引方向を模式的に示す平面図である。
【0082】
図7に示されるように、定植作業において、株間距離D(=約33cm)で一列に定植された各ナス株15は、主枝15aが、2本の上部誘引線19(19a、19b)のいずれかに向かうように定植されている。
【0083】
また、隣接するナス株15に対して、各仕立枝(主枝15a、第一分枝15b、第二分枝15c)の位置関係が互い違いになるように、特に、主枝15aの伸長する方向が畝14の列を境界として互いに逆向きとなるように定植されている。
【0084】
さらに、図5及び図6の繋止作業において、各ナス株15の各仕立枝(主枝15a、第一分枝15b、第二分枝15c)は、各枝に繋止された誘引部材20(吊下フック20a及び誘引紐20b)が、2本の上部誘引線19(19a、19b)のいずれかに吊されることで、吊された位置に向けて伸びるように誘引される。
【0085】
このときの各仕立枝(主枝15a、第一分枝15b、第二分枝15c)の平面的な向きは、各仕立枝(主枝15a、第一分枝15b、第二分枝15c)が伸長した場合に上部誘引線19(19a又は19b)に対して斜めに交わる方向に向けられている。
【0086】
また、各ナス株15について、主枝15aを一方の上部誘引線19a(又は19b)に誘引した場合、同じ株の第一分枝15bは、畝14の列を境界として反対側の上部誘引線19b(又は19a)に向けて、主枝15aと逆方向に誘引される。第二分枝15cは、主枝15a同じ側の上部誘引線19a(又は19b)に誘引されるが、主枝15aと重ならないように、上部誘引線19a(又は19b)上で、主枝15aから2/3株ほど(2D/3=約22cm)離れた位置に達するように誘引される。
【0087】
さらに、各ナス株15の主枝15aを一方の上部誘引線19a(又は19b)に誘引した場合、そのナス株15に隣接するナス株15の主枝15aは、他方の上部誘引線19b(又は19a)に誘引される。
【0088】
同様に、各ナス株15の第一分枝15bを一方の上部誘引線19a(又は19b)に誘引した場合、そのナス株15に隣接するナス株15の第一分枝15bは、他方の上部誘引線19b(又は19a)に誘引され、各ナス株15の第二分枝15cを一方の上部誘引線19a(又は19b)に誘引した場合、そのナス株15に隣接するナス株15の第二分枝15cは、他方の上部誘引線19b(又は19a)に誘引される。
【0089】
図8は、ナス株15の初回の誘引・つるおろし作業の工程を示す側面図であり、図9は、ナス株15の2回目以降の誘引・つるおろし作業の工程を示す側面図である。
【0090】
図8及び図9では、分かりやすさのためナス株15を一株のみ描写し、他の株の描写を省略している。また、描写しているナス株15においても、上部誘引線19aに誘引される主枝15aのみを描写し、第一分枝15b及び第二分枝15cの描写を省略している。
【0091】
図8に示されるように、図6のナス株15の主枝15aは、上限生育長Hを超えるまでは、上部誘引線19aに吊された誘引部材20に誘引されて上方に伸ばされ、伸びた枝先が倒れないように、生育に応じて都度、誘引部材20の誘引紐20bにクリップ21で繋止される。
【0092】
初回の誘引・つるおろし作業は、図6のナス株15が上限生育長Hを超えるまでに生育すると次のように行われる。
【0093】
まず、株間距離D(=約33cm)を基準として、主枝15aと繋がれている誘引部材20の吊下フック20aの位置を、上部誘引線19に沿って、定植位置から水平方向に4/3株ほど(4D/3=約44cm)離れた位置にずらす。
【0094】
次に、主枝15aに誘引紐20bを繋止しているクリップ21を一旦外して主枝15aを動かせる状態にする。そうしたら、主枝15aの枝先をずらす幅の2/3ほど(8D/9=約30cm)低い位置に下ろし、再度、誘引紐20bを下ろしたナス株15の主枝15aに沿ってクリップ21により繋止する。
【0095】
このとき、主枝15aは、枝先がずらされ、下ろされることで傾斜し、上部誘引線19に向けて斜めに誘引される状態になる。そうしたら、主枝15aの刈り上げ高さHより下方の中途部を下部誘引線17aに引き寄せ、複数個(図では2個)のクリップ21で誘引紐20bごと下部誘引線17aに沿うように繋止する。
【0096】
ここで、主枝15aの中途部を下部誘引線17aに沿って繋止するクリップ21の少なくとも一つは、水平方向の位置を主枝15aの誘引先に近づけて、下ろされた主枝15aの着果範囲23内に収まる部分が垂直方向に誘引されるように、中途部の水平方向の繋止位置を調整する。このときの水平方向の近さは、主枝15aが折れない程度の曲がり具合になる距離である。
【0097】
図9に示されるように、2回目以降の誘引・つるおろし作業は、初回の誘引・つるおろし作業から所定期間経過し、ナス株15が再び上限生育長Hを超えるまでに生育すると次のように行われる。なお、作業内容自体は初回と同様であり、ずらし幅と下ろし幅とが初回と異なる。
【0098】
まず、主枝15aと繋がれている誘引部材20の吊下フック20aの位置を、株間距離Dを基準として、上部誘引線19に沿って水平方向に2/3株ほど(2D/3=約22cm)ずらす。
【0099】
次に、主枝15aに誘引紐20bを繋止しているクリップ21を一旦外して主枝15aを動かせる状態にする。そうしたら、主枝15aの枝先をずらす幅の2/3ほど(4D/9=約15cm)低い位置に下ろし、再度、誘引紐20bを下ろしたナス株15の主枝15aに沿ってクリップ21により繋止する。
【0100】
このとき、主枝15aは、枝先がずらされ、下ろされることで傾斜し、上部誘引線19に向けて斜めに誘引される状態になる。そうしたら、主枝15aの刈り上げ高さHより下方の中途部を下部誘引線17aに引き寄せ、複数個(図では2個)のクリップ21で誘引紐20bごと下部誘引線17aに沿うように繋止する。
【0101】
ここで、主枝15aの中途部を下部誘引線17aに沿って繋止するクリップ21の少なくとも一つは、水平方向の位置を主枝15aの誘引先に近づけて、下ろされた主枝15aの着果範囲23内に収まる部分が垂直方向に誘引されるように、中途部の水平方向の繋止位置を調整する。このときの水平方向の近さは、主枝15aが折れない程度の曲がり具合になる距離である。
【0102】
また、各誘引・つるおろし作業の後は、主枝15aから生えた葉、側枝、花(又は蕾)のうち、着果範囲23にあるものは残され、刈り上げ高さHよりも下方の部分から生ずるものが刈り上げられる。
【0103】
図10は、ナス株15の第二分枝15cに誘引・つるおろし作業が行われた状態を示す側面図であり、図11は、ナス株15の第一分枝15bに誘引・つるおろし作業が行われた状態を示す側面図である。
【0104】
図10では、分かりやすさのため一のナス株15の主枝15a及び第二分枝15cのみ描写し、他の株及び枝の描写を省略している。また、図11では、分かりやすさのため一のナス株15の第一分枝15bと隣接するナス株15の主枝15aのみ描写し、他の株及び枝の描写を省略している。
【0105】
図10に示されるように、第二分枝15cについても、図8及び図9の主枝15aと同様に誘引・つるおろし作業が行われる。この場合、第二分枝15cは、主枝15aと同じ側の上部誘引線19で誘引されており、主枝15aの誘引方向と同じ方向にずらされている。
【0106】
すなわち、上限生育長Hを超えるまでに生育した第二分枝15cの枝先を所定幅下ろし、上部誘引線19aに沿って水平方向に所定幅ずらした上で、ずらした枝の刈り上げ高さHより下方の中途部を下部誘引線17に沿うようにクリップ21で繋止することにより行われる。
【0107】
第二分枝15cのずらされる位置は、初回も2回目以降の誘引・つるおろし作業でも、主枝15aと重ならないように、主枝15aから2/3株ほど(2D/3=約22cm)離された位置に設定されている。
【0108】
また、初回、2回目以降、いずれの誘引・つるおろし作業でも、第二分枝15cの枝の中途部が、主枝15aと同じ側の下部誘引線17aにクリップ21で繋止される。
【0109】
ここで、第二分枝15cの中途部を下部誘引線17aに沿って繋止するクリップ21の少なくとも一つは、水平方向の位置を第二分枝15cの誘引先に近づけて、下ろされた第二分枝15cの着果範囲23内に収まる部分が垂直方向に誘引されるように、中途部の水平方向の繋止位置を調整する。このときの水平方向の近さは、第二分枝15cが折れない程度の曲がり具合になる距離である。
【0110】
図11に示されるように、第一分枝15bについても、図8及び図9の主枝15aと同様に誘引・つるおろし作業が行われる。この場合、第一分枝15bは、主枝15aの位置に対し畝14の列を境界として反対側の上部誘引線19bに吊された誘引部材20により誘引されており、主枝15aの誘引方向と逆方向にずらされている。
【0111】
すなわち、上限生育長Hを超えるまでに生育した第二分枝15cの枝先を上限生育長Hよりも低い位置に下ろし、上部誘引線19bに沿って水平方向に所定幅ずらした上で、ずらした枝の刈り上げ高さHより下方の中途部を下部誘引線17bに沿うようにクリップ21で繋止することにより行われる。
【0112】
第一分枝15bのずらされる位置は、同一のナス株15の主枝15aとは逆方向であって、初回も2回目以降の誘引・つるおろし作業でも、隣接するナス株15の主枝15aと重ならないように、隣接するナス株15の主枝15aから2/3株ほど(2D/3=約22cm)離された位置に設定されている。
【0113】
また、初回、2回目以降、いずれの誘引・つるおろし作業でも、第一分枝15bの中途部は、畝14の列を境界として、同一のナス株15の主枝15aが繋止された下部誘引線17とは反対側の下部誘引線17にクリップ21で繋止される。
【0114】
ここで、第一分枝15bの中途部を下部誘引線17aに沿って繋止するクリップ21の少なくとも一つは、水平方向の位置を第一分枝15bの誘引先に近づけて、下ろされた第一分枝15bの着果範囲23内に収まる部分が垂直方向に誘引されるように、中途部の水平方向の繋止位置を調整する。このときの水平方向の近さは、第一分枝15bが折れない程度の曲がり具合になる距離である。
【0115】
また、各誘引・つるおろし作業の後は、第一分枝15b及び第二分枝15cから生えた葉、側枝、花(又は蕾)のうち、着果範囲23にあるものは残され、刈り上げ高さHよりも下方の部分から生ずるものが刈り上げられる。
【0116】
図12は、誘引・つるおろし作業後のナス株15の高さ調整作業の工程を示す側面図である。図12では、分かりやすさのために、隣接するナス株15において、同一の上部誘引線19aに誘引される各仕立枝(主枝15a、第一分枝15b、第二分枝15c)以外の描写を省略している。また、クリップ21の描写も一部省略している。
【0117】
図12に示されるように、ナス株15は、株ごとに生育差があるため、成長点の高さ、つまり、枝先の高さが不揃いとなることがある。この場合、つるおろし作業では下ろし幅が一定なので、枝先の高さも不揃いのままである。
【0118】
そこで、図8乃至図11の初回又は2回目以降の誘引・つるおろし作業が行われた後は、つるおろしをしたナス株15の各仕立枝(主枝15a、第一分枝15b、第二分枝15c)の高さを一定に揃える高さ調整作業が行われる。
【0119】
具体的には、複数のナス株15から一つの株を選び、さらに、選んだナス株15からの高さの基準となる仕立枝(主枝15a、第一分枝15b、第二分枝15cのいずれか)から一つ選ぶ。選んだ仕立枝(図では、主枝15a)の高さを基準高さとする。
【0120】
同じナス株15の他の仕立枝(第一分枝15b、第二分枝15c)、及び、他のナス株15の各仕立枝(主枝15a、第一分枝15b、第二分枝15c)のそれぞれについて、クリップ21を一旦取り外し、基準高さに合わせて上げ下ろしをして、枝先を基準高さに揃えた後、クリップ21により誘引紐20bに繋ぎ直す。
【0121】
また、このとき、必要に応じて隣接する各仕立枝(主枝15a、第一分枝15b、第二分枝15c)の葉の重なりや誘引紐20bのたるみの解消などの微調整も行う。
【0122】
図13は、一列に定植されたナス株15の各仕立枝(主枝15a、第一分枝15b、第二分枝15c)が誘引・つるおろし作業によりずらされる様子を模式的に示す平面図である。
【0123】
図13に示されるように、それぞれの主枝15aに繋がれて上部誘引線19から吊されている誘引部材20は、畝14の両側に延びる上部誘引線19(19a、19b)のうち、伸長する先にある上部誘引線19(19a又は19b)側に寄せられて誘引されるとともに、誘引・つるおろし作業のたびに、一定の方向にずらされる。
【0124】
ここで、一方の上部誘引線19aに吊されている誘引部材20のずらされる方向Aは、他方の上部誘引線19bに吊されている誘引部材20のずらされる方向Bとは逆になっている。
【0125】
すなわち、あるナス株15の主枝15aが一方の上部誘引線19aに吊された誘引部材20により誘引されて方向Aにずらされる場合、そのナス株15に隣接するナス株15の主枝15aは、他方の上部誘引線19bに吊された誘引部材20により誘引されて方向Bにずらされる。
【0126】
また、同一のナス株15において、第二分枝15cは、主枝15aが誘引される一方の上部誘引線19(19a又は19b)と同じ側に寄せられて誘引される。これに対し、第一分枝15bは、主枝15aが誘引されている側とは逆の、他方の上部誘引線19(19b又は19a)に寄せられて誘引される。
【0127】
例えば、主枝15aが誘引・つるおろし作業により一方の上部誘引線19aで定植位置から2株ほど(2D=約66cm)方向Aにずらされている場合に、第二分枝15cが誘引される位置は、図10で示したように、主枝15aと同じ上部誘引線19aで、主枝15aと同じ方向Aに、主枝15aがずらされる距離の2/3株ほど(2D/3=約22cm)短い位置である。
【0128】
また、この場合に、第一分枝15bが誘引される位置は、図11で示したように、隣接したナス株15の主枝15a主枝15aがずらされる距離の2/3株ほど(2D/3=約22cm)短い位置である。つまり、同じナス株15の主枝15aとは畝14の列を境界として反対の上部誘引線19bで、逆の方向Bに、定植位置から4/3株ほど(4D/3=約44cm)離れた位置である。
【0129】
したがって、ナス株15の各仕立枝を誘引する誘引部材20の間隔は、両側の上部誘引線19a、19bのいずれにおいても、等間隔で2/3株ほど(2D/3=約22cm)となっている。
【0130】
また、2回目以降の誘引・つるおろし作業を行った場合、同一の上部誘引線19(19a又は19b)において、あるナス株15の主枝15a及び第二分枝15cと、そのナス株15と隣接するナス株15の第一分枝15bとが、同じ方向Aに2/3株ずつ(2D/3=約22cm)ずらされるので、各仕立枝(主枝15a、第一分枝15b、第二分枝15c)の上部誘引線19(19a又は19b)上における間隔は維持される。
【0131】
図14は、ナス栽培列12の端におけるナス株15の主枝15aの誘引状態の一例を示す外観斜視図である。図14では、分かりやすさのためナス株15を一株のみ描写し、他の株の描写を省略している。また、描写しているナス株15においても、上部誘引線19aに吊された誘引部材20に繋止されている主枝15aのみを描写し、第一分枝15b及び第二分枝15cの描写を省略している。
【0132】
図14に示されるように、生育を続けて伸長したナス株15の主枝15aに繋止されている誘引部材20が、誘引・つるおろし作業により上部誘引線19aに沿ってずらされてナス栽培列12の端に達し、上部誘引線19aに沿って所定距離(例えば、1m以上)、ナス栽培列12の外に出る場合には、主枝15aを折り返すようにして上部誘引線19bに誘引する折り返し誘引作業が行われる。
【0133】
折り返し誘引作業では、主枝15aに繋止されている誘引部材20が、ナス栽培列12の端で折り返されて、畝14の列を境界として反対側の上部誘引線19bに吊されて、主枝15aの枝先の位置も反対側の上部誘引線19bに沿う位置に移される。このとき、主枝15aに繋止されている誘引部材20が反対側の上部誘引線19bに吊される位置は、三角支柱22から1mほど離れた位置になっている。
【0134】
また、主枝15aの中途部で、下部誘引線17aに沿ってナス栽培列12の列の端から外に出た部分は、三角支柱22に張られた下部誘引線17cに沿って、三角支柱22に巻き付くように当接しながら緩い角度で曲げられて、畝14の列を境界として反対側に巻き回された状態になる。巻き回された先の枝の中途部は、下部誘引線17bにクリップ21で繋止される。
【0135】
主枝15aに対し折り返し誘引作業が行われると、以後のつるおろし作業において、巻き回された主枝15aは、当初に誘引されていた上部誘引線19aの反対側の上部誘引線19bに沿って、当初とは逆方向にずらされるようになる。
【0136】
なお、図示していないが、第一分枝15b又は第二分枝15cについても、ナス栽培列12の端に達し、上部誘引線19に沿って所定距離、ナス栽培列12の外に出る場合には、主枝15aと同様に、折り返し誘引作業が行われる。
【0137】
また、同じく図示していないが、ナス栽培列12の逆の端でも同様の折り返し誘引作業が行われる。その場合は、ナス株15の各仕立枝(主枝15a、第一分枝15b、第二分枝15c)に繋止されている誘引部材20が、誘引・つるおろし作業により上部誘引線19bに沿ってずらされてナス栽培列12の端に達し、上部誘引線19bに沿って所定距離(例えば、1m以上)、ナス栽培列12の外に出る場合には、主枝15aを折り返すようにして上部誘引線19aに誘引する折り返し誘引作業が行われる。
【0138】
図15は、本発明のナスのつるおろし栽培方法における各工程の組み立てを示すフローチャートである。
【0139】
図15に示されるように、ナスのつるおろし栽培方法では、畝14にナス株15を植え付ける定植作業が行われた後(ステップS1)、ナス株15の各仕立枝(主枝15a、第一分枝15b、第二分枝15c)の生育を待って、主枝15a、第一分枝15b、第二分枝15cのそれぞれに誘引部材20を繋止する繋止作業が行われる(ステップS2)。
【0140】
ナス株15の各仕立枝(主枝15a、第一分枝15b、第二分枝15c)が上限生育長Hを超えると初回の誘引・つるおろし作業が行われる(ステップS3)。その後、高さ調整作業が行われてナス株15の各仕立枝の高さが揃えられる(ステップS4)。
【0141】
高さ調整作業が済むとナスを収穫する収穫作業が複数回(N回)行われる(ステップS5)。収穫作業が済むとナス株15の各仕立枝(主枝15a、第一分枝15b、第二分枝15c)の花(又は蕾)や側枝などの着果する部位を必要に応じて摘心・切り戻しすることにより次の収穫作業における着果数を調整する摘心・切り戻し作業が行われる(ステップS6)。
【0142】
その後、ナス株15の各仕立枝が上限生育長Hを超えると2回目以降の誘引・つるおろし作業が行われる(ステップS7)。あらかじめ設定された栽培期間が終了していなければ(ステップS8)、再び、高さ調整作業、収穫作業、摘心・切り戻し作業が繰り返し行われる。
【0143】
ここで、摘心・切り戻し作業及び2回目以降の誘引・つるおろし作業は、例えば、7~10日に1回の間隔で行われ、収穫作業は、例えば、2日に1回の間隔で行われる。この場合、ステップS5ではN=3~5である。
【0144】
本発明のナスのつるおろし栽培方法では、次の式により単位面積当たりの収量を計算することができる。それは、[収量/単位面積]=[栽培期間x主枝15aの開花速度x節当たりの収穫果数x収穫期待値x収穫果の荷重x単位面積当たりの栽植本数]である。
【0145】
例えば、栽培期間を48週とし、主枝15aの開花速度が週に0.7節であって、節当たりの収穫果数を側枝の摘心・切り戻しにより3果に調整し、その収穫期待値が70%で、収穫果の荷重を100gとし、単位面積当たりの栽植本数を4.95本/mとすると、48週x0.7節/週x3果x70%x100gx4.95本/m=34927.2g/mとなり、約35t/10aの反収が見込まれる。
【0146】
図16は、本発明のナスのつるおろし栽培方法の他の形態例における、ナス株25を2本仕立てとした場合の各仕立枝の誘引方向を示す平面図である。本形態例では、ナス株25は、仕立枝として、主枝25aと、第一分枝25bとの2本が伸ばされている。また、ナス株25以外の構成要素は、3本仕立ての場合の形態例と同じであり、同一の符号が振られている。
【0147】
また、ナス株25の各仕立枝(主枝25a、第一分枝25b)についても、図15に示した各作業(定植作業、繋止作業、初回の誘引・つるおろし作業、高さ調整作業、収穫作業、摘心・切り戻し作業、2回目以降の誘引・つるおろし作業、高さ調整作業、…)が、3本仕立ての場合と同様に栽培期間の終了時まで行われる。
【0148】
図16に示されるように、ナス株25の定植作業では、株間距離D(=約33cm)で一列に定植された各ナス株25は、隣接するナス株25に対して、各仕立枝(主枝25a、第一分枝25b)の位置関係が互い違いになるように、特に、主枝25aの伸長する方向が畝14の列を境界として互いに逆向きとなるように定植されている。
【0149】
ナス株25に対する繋止作業では、各ナス株25の各仕立枝(主枝25a、第一分枝25b)は、各枝に繋止された誘引部材20(吊下フック20a及び誘引紐20b)が、2本の上部誘引線19(19a、19b)のいずれかに吊されることで、吊された位置に向けて伸びるように誘引される。
【0150】
このときの各仕立枝(主枝25a、第一分枝25b)の平面的な向きは、各仕立枝(主枝25a、第一分枝25b)が伸長した場合に上部誘引線19(19a又は19b)に対して斜めに交わる方向に向けられている。
【0151】
また、各ナス株25について、主枝25aを一方の上部誘引線19a(又は19b)に誘引した場合、同じ株の第一分枝25bは、主枝25a同じ側の上部誘引線19a(又は19b)に誘引されるが、主枝25aと重ならないように、上部誘引線19a(又は19b)上で、主枝15aから1株ほど(D=約33cm)離れた位置に達するように誘引される。
【0152】
さらに、各ナス株25の主枝25a及び第一分枝25bを一方の上部誘引線19a(又は19b)に誘引した場合、そのナス株25に隣接するナス株25の主枝25a及び第一分枝25bは、他方の上部誘引線19b(又は19a)に誘引される。
【0153】
このように、本発明のナスのつるおろし栽培方法によれば、ナス栽培列12において一列に設置された畝14に、複数のナス株15を定植し、定植したナス株15の各仕立枝(主枝15a、第一分枝15b、第二分枝15c)を、畝14の両側に沿って上限生育長Hよりも高い位置に延設した上部誘引線19(19a又は19b)に吊した誘引部材20から引き出した誘引紐20bにクリップ21で繋止して誘引しつつ、誘引した枝の中途部を、畝14の両側に沿って第一分枝15bの分岐位置を超える高さHに延設された下部誘引線17(17a又は17b)にクリップ21により繋止し、枝先が上限生育長Hを超えるたびに誘引位置をずらし、繋止位置を変えて枝先を下ろすことで、ナス株15の各仕立枝の成長点を維持したまま生育と収穫とを繰り返すことができるので、簡便な作業で、樹勢を維持しながら継続的なつるおろし栽培が可能になる。
【0154】
また、誘引した仕立枝(主枝15a、第一分枝15b又は第二分枝15c)の中途部の下部誘引線17(17a又は17b)に繋止する位置を、その仕立枝(主枝15a、第一分枝15b又は第二分枝15c)の着果範囲23に収まる部分が垂直方向に伸びるように調整することで、その着果範囲23に収まる部分が過度に傾斜することがなく、誘引する各仕立枝(主枝15a、第一分枝15b、第二分枝15c)の間隔を、密植を避けつつ狭めることができ、栽培スペースを有効活用した効率的なナスの栽培が可能になる。
【0155】
また、一列に定植された各ナス株15が、隣接するナス株15に対して、互い違いに植えられていることから、密植を避けつつ栽培スペースを有効活用でき、仕立枝を奇数本にしても、各仕立枝の誘引先を2本の上部誘引線19(19a、19b)に対して均等に割り振ることができるので、栽培スペースの偏りを無くし効率的な栽培が可能になる。
【0156】
また、誘引・つるおろし作業により、ナス株15の各仕立枝が一定の高さを超えたら下ろすようにし、各仕立枝の着果範囲を垂直な状態に維持しながら生育し続けることで、常にナスが着果可能な状態を維持できるので、栽培期間中、ナスの収穫を継続的に行うことができ、かつ、一定の収量が見込めることから、効率的かつ安定したナスの収穫が可能になる。
【0157】
また、誘引・つるおろし作業により、同一の上部誘引線19に吊した誘引部材20に繋止された各仕立枝(主枝15a、第一分枝15b、第二分枝15c)を、枝先が互いに株間距離D(=33cm)の2/3の幅(=22cm)を保って等間隔になるように誘引することで、作業が画一に行えるので、ナス株15の生育管理がしやすく、また、作業に高度な技能を必要としないので、作業者の確保が容易になる。
【0158】
また、誘引・つるおろし作業により、各仕立枝(主枝15a、第一分枝15b、第二分枝15c)の着果範囲23に位置する部分が垂直方向に伸びるよう癖付けされることで、密植による日当たりや風通しの悪化を避けつつ空き空間が出来ないようにできるので、限られた区画でも十分に栽培スペースを確保できる。
【0159】
また、隣接しあうナス株15の各仕立枝(主枝15a、第一分枝15b、第二分枝15c)が、同種の仕立枝で、互いに別の方の上部誘引線19(19a、19b)に誘引されることで、密植を避けつつ栽培スペースの偏りを無くせるので、ナス栽培列12内の栽培スペースを有効活用でき、効率的な栽培が可能になる。
【0160】
また、誘引・つるおろし作業において、枝先をずらす幅及び下ろす幅を株間距離D(=33cm)よりも短く設定し、2D/3(=22cm)以下とすることで、誘引・つるおろし作業のたびにナス株15にかかるストレスを減じ、ナス株15の樹勢の弱化や落花を抑制できるので、樹勢を維持しながらの継続的なつるおろし栽培が容易になる。
【0161】
また、誘引・つるおろし作業において、ナス株15の各仕立枝(主枝15a、第一分枝15b、第二分枝15c)の枝先をずらす幅の長さの2/3を下ろす幅の長さとし、ずらす幅よりも下ろす幅を短くすることで、誘引した枝を無理なく垂直方向に伸ばす程度の余裕を持たせつつ、枝が通行経路にせり出すほど余らせず、かつ、つるおろし後に枝先の高低差が出にくくすることができるので、適切につるおろし作業ができ、より効率的かつ安定したナスの収穫が可能になる。
【0162】
また、高さ調整作業により、誘引・つるおろし作業後に、各ナス株15の各仕立枝(主枝15a、第一分枝15b、第二分枝15c)の成長点の高さを一定に揃えられることから、ナス株15の受光量を均一化させてナス株15ごとの生育差を抑えることができるので、場所毎の偏りをなくし、ナス栽培列12全体での収量の安定化を図ることができる。
【0163】
また、誘引・つるおろし作業の後に、刈り上げ高さHよりも低い位置になったナス株15の葉や側枝を刈り上げることで、誘引・つるおろし作業及び高さ調整作業により、各仕立枝の着果範囲が一定の範囲内に収められることで、収穫作業時の作業範囲が限定されるので、収穫作業の省力化ができる。
【0164】
しかも、過繁茂を避けつつ風通しの良い状態を保てるので、黒枯病等の病害を抑止でき、より効率的かつ安定したナスの収穫が可能になる。
【0165】
また、ナス株15の各仕立枝(主枝15a、第一分枝15b、第二分枝15c)は、誘引・つるおろし作業を継続することにより上部誘引線19に沿ってナス栽培列12の端に寄っていくので、ナス栽培列12の片側側面において、列の一端側の栽培スペースが詰まり、他端側の栽培スペースに空きができる。
【0166】
これに対し、誘引・つるおろし作業で誘引部材20がずらされる方向が2本の上部誘引線19(19a、19b)の一方と他方とで逆向きになっていることと、ナス株15の各仕立枝がナス栽培列12の端部に達する場合に、折り返し誘引作業が行われることにより、ナス栽培列12の片側側面において、列の端に達するまで誘引された枝を、畝14の列を境界として反対側の上部誘引線19に回し、反対側での誘引により空いた栽培スペースに移すことが出来るので、ナス株15の各仕立枝を伸び具合によらずナス栽培列12の栽培スペースの範囲に収めることができ、省スペースで、かつ、時間的な制約無く継続的なつるおろし作業が可能になる。
【0167】
しかも、ナス株15の各仕立枝(主枝15a、第一分枝15b、第二分枝15c)について、折り返し誘引作業を、上部誘引線19(19a、19b)に沿って所定距離(例えば、1m以上)、ナス栽培列12の外に出てから行うことで、急な折り返しで仕立枝に無理な曲がりが生ずることを防止でき、折り返しによってナス株15が受けるストレスを減らし、樹勢の弱化を抑止できる。
【0168】
また、下部誘引線17が、支柱18に支持されて、ナス株15の第一分枝15bの分岐位置より所定の距離L高い下部誘引高さHに保たれているので、ナス株15の各仕立枝(主枝15a、第一分枝15b、第二分枝15c)を無理に曲げることなく下部誘引線17に沿わせることができるので、誘引によってナス株15が受けるストレスを減らし、樹勢の弱化を抑止できる。
【0169】
また、下部誘引線17が、各支柱18に張力がかかるように緊結されていることで、下部誘引線17のテンションが強く保たれるので、ナス株15の枝の中途部を下部誘引線17にクリップ21で繋止したときに、繋止した箇所がたるみにくく、誘引・つるおろし作業がしやすくなる。
【0170】
また、ナス株15の台木16に強勢台木を用いることで、ナス株15自体の樹勢を保つ力を強めることができ、畝14を隔離培地とすることにより、台木16への土壌病害による悪影響を抑えることができる上に、灌水や施肥などの土壌管理がしやすくなるので、樹勢の維持がより容易になる。
【0171】
また、あらかじめ、隣接しあうナス株15がそれぞれの主枝15aの伸長する方向が互いに逆向きとなるように定植されていることから、隣接しあうナス株15の主枝を15a互いに別の方の前記上部誘引線19(19a、19b)に誘引することが容易になり、誘引によってナス株15が受けるストレスを減らし、樹勢の弱化を抑止できる。
【0172】
また、収穫前の生育段階で繋止作業を行うことにより、ナス株15の各仕立枝(主枝15a、第一分枝15b、第二分枝15c)が伸長する前に誘引紐20bが繋止されるので、繋止した枝を上方に伸長させることができ、繋がれた枝が伸長しても自重で倒れることがなくなる。
【0173】
また、このとき、各仕立枝(主枝15a、第一分枝15b、第二分枝15c)を上部誘引線19(19a又は19b)に対して平面視で斜めに伸長するように向き付けて誘引しておくことで、誘引・つるおろし作業の際に、仕立枝(主枝15a、第一分枝15b、第二分枝15c)を誘引した誘引部材20を、上部誘引線19(19a又は19b)に沿ってずらしやすくなるので、誘引によってナス株15が受けるストレスを減らし、樹勢の弱化を抑止できる。
【0174】
また、3本仕立てのナス株15の場合に、主枝15aと第二分枝15cとを同じ上部誘引線19(19a又は19b)に誘引し、第一分枝15bを逆の上部誘引線19(19b又は19a)に誘引することで、各仕立枝の間隔が密になりすぎて日当たりや風通しが悪化することを防止できる。
【0175】
また、ナス株15の分枝として、第一分枝15b、第二分枝15cと複数本を伸ばすことで、少ない株数で多くの仕立枝を栽培できるので、より効率的なナスの栽培が可能になる。
【0176】
また、2本仕立てのナス株25の場合には、主枝25aと第一分枝25cとを同じ上部誘引線19(19a又は19b)に誘引することで、主枝25aと第一分枝25cとの間の曲がりが少なくて済むので、ナス株25にかかるストレスを減らし、樹勢の維持がより容易になる。
【0177】
また、同一株の各仕立枝(主枝25a、第一分枝25c)を同じ方の上部誘引線に誘引する場合は、ナス株ごとに仕立枝(主枝25a、第一分枝25c)をまとめて誘引できるのでナス株25ごとの作業が簡便になる。
【0178】
なお、本発明は、以上の形態例に限定されることなく、発明の範囲内において種々の変更が可能である。例えば、本形態例では、誘引部材を、巻付部を有する吊下フックと巻付部に巻き付けられた誘引紐と付け外し自在のクリップとにより構成しているが、必ずしもこのように構成する必要はなく、ナス株の仕立枝を上部誘引線に誘引でき、誘引した状態で上部誘引線に沿って移動可能で、かつ、誘引する仕立枝の高さを調節可能な構成であればよい。
【0179】
具体例としては、誘引部材を、直線状に延ばされて一方の端部がフック状に曲げられた針金材からなるガイドワイヤーと、植物の枝を挟持した状態で、ガイドワイヤーにスライド可能に取り付けられる小型のクリップとによって構成してもよい。
【0180】
また、本形態例では、誘引・つるおろし作業において、仕立枝の中途部を下部誘引線に沿うように繋止する繋止具に、誘引部材のクリップを用いているが、この繋止具は仕立枝の中途部を下部誘引線に沿うように繋止可能であればよく。誘引部材のクリップ以外の繋止具を用いてもよい。
【0181】
また、本形態例では、誘引・つるおろし作業において、株間距離D(=約33cm)を基準に、初回にずらす幅を4D/3(=44cm)、下ろす幅を8D/9(=約30cm)、2回目以降にずらす幅を2D/3(=約22cm)、下ろす幅を4D/9(=約15cm)としているが、各誘引・つるおろし作業におけるずらす幅及び下ろす幅は、この数値に限定されず、下ろす幅がずらす幅よりも短くなるようすればよい。
【0182】
また、ナス株を定植する間隔を、必ずしも約33cmにしなくともよく、栽培施設の区画面積や、ナス栽培列でのナス株の栽植本数に応じて変更してもよい。
【0183】
また、本形態例では、上限生育長を地面から約280cmの高さに設定し、刈り上げ高さを地面から約160cmの高さに設定しているが、必ずしも上限生育長と刈り上げ高さとをこの数値にする必要は無く、求める作業性や着果数に応じて変更してよい。
【0184】
特に、上限生育長は、人の身長を大きく上回る高さにしなくてもよく、低身長(例えば、150cm程度)の作業員の手の届く高さを上限生育長とし、刈り上げ高さもこれに応じて低くするようにしてもよい。
【0185】
また、本形態例では、ナス株の仕立枝として、主枝、第一分枝、第二分枝の3本仕立ての場合と、主枝、第一分枝の2本仕立ての場合とを挙げているが、仕立枝の本数はこれらに限られず、ナス株の栽植本数や株間距離に応じて変更してもよく、4本以上の仕立枝について、誘引・つるおろし作業をするようにしてもよい。
【0186】
また、本形態例では、3本仕立ての場合、第一分枝の誘引先を、同一株の主枝と別の方の上部誘引線に誘引するようにしているが、必ずしもこのように誘引しなくてもよく、第一分枝の誘引先を、主枝と同じ方の上部誘引線に誘引するようにしてもよい。
【0187】
さらに、仕立枝を4本以上にする場合も同様に、奇数番目の分枝(第一分枝、第三分枝、……)の誘引先を、同一株の主枝と別の方の上部誘引線に誘引するようにしてもよく、主枝と同じ方の上部誘引線に誘引するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0188】
11…栽培施設、12…ナス栽培列、13…栽培床、14…畝、14a…定植口、15…ナス株、15a…主枝、15b…第一分枝、15c…第二分枝、16…台木、17(17a、17b)…下部誘引線、18(18a、18b)…支柱、19(19a、19b)…上部誘引線、20…誘引部材、20a…吊下フック、20b…誘引紐、20c…巻付部、21…クリップ、22…三角支柱、23…着果範囲、25…ナス株、25a…主枝、25b…第一分枝
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16