(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023115801
(43)【公開日】2023-08-21
(54)【発明の名称】エンジンの失火検出装置及び失火検出方法
(51)【国際特許分類】
F02D 45/00 20060101AFI20230814BHJP
F02D 41/22 20060101ALI20230814BHJP
【FI】
F02D45/00 345
F02D45/00 368Z
F02D41/22
F02D45/00 368F
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022018214
(22)【出願日】2022-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】316015888
【氏名又は名称】三菱重工エンジン&ターボチャージャ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】安藤 純之介
(72)【発明者】
【氏名】吉栖 博史
(72)【発明者】
【氏名】河合 一寛
(72)【発明者】
【氏名】小圷 孝弘
【テーマコード(参考)】
3G301
3G384
【Fターム(参考)】
3G301JA23
3G301KA28
3G301MA24
3G301PD02B
3G384CA23
3G384CA25
3G384DA54
3G384FA40B
(57)【要約】
【課題】排気煙道内での燃焼に繋がる失火を監視してエンジンを停止させることによって、安全性を確保しつつ、運転を継続できるエンジンの失火検出装置及び失火検出方法を提供することを目的とする。
【解決手段】エンジンの失火検出装置は、エンジンの少なくとも一つのシリンダ内における失火状態を検出する失火検出部と、前記失火検出部において前記失火状態を検出した場合に、排気煙道内の未燃燃料濃度の指標である未燃パラメータに基づいて、前記排気煙道内の未燃燃料が燃焼する危険性を判定する有効失火判定部と、前記有効失火判定部での判定結果に基づいて前記エンジンの停止処理を行うエンジン停止処理制御部と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの失火検出装置であって、
エンジンの少なくとも一つのシリンダ内における失火状態を検出する失火検出部と、
前記失火検出部において前記失火状態を検出した場合に、排気煙道内の未燃燃料濃度の指標である未燃パラメータに基づいて、前記排気煙道内の未燃燃料が燃焼する危険性を判定する有効失火判定部と、
前記有効失火判定部での判定結果に基づいて前記エンジンの停止処理を行うエンジン停止処理制御部と、を備える、
エンジンの失火検出装置。
【請求項2】
前記未燃パラメータは、前記少なくとも一つのシリンダ内における空燃比の指標である空燃比パラメータであり、
前記有効失火判定部は、前記空燃比パラメータに基づいて有効失火を判定する、
請求項1に記載のエンジンの失火検出装置。
【請求項3】
前記空燃比パラメータは、前記少なくとも一つのシリンダ内への燃料供給量の指標であり、
前記有効失火判定部は、前記燃料供給量が所定の閾値を超えるか否かによって有効失火を判定する、
請求項2に記載のエンジンの失火検出装置。
【請求項4】
前記未燃パラメータは、前記排気煙道内を流れる排気ガスの性状に基づく排ガス性状パラメータであり、
前記有効失火判定部は、前記排ガス性状パラメータに基づいて有効失火を判定する、
請求項1に記載のエンジンの失火検出装置。
【請求項5】
前記排ガス性状パラメータは、前記排気ガス中の未燃燃料濃度および酸素濃度を含み、
前記有効失火判定部は、前記未燃燃料濃度および前記酸素濃度に基づいて有効失火を判定する、
請求項4に記載のエンジンの失火検出装置。
【請求項6】
前記エンジン停止処理制御部は、過去一定時間又は過去一定サイクルにおける前記有効失火判定部からの有効失火の判定回数の積算値を算出し、該積算値が、所定の積算閾値を超える場合にエンジンの停止処理を行う、
請求項1乃至5の何れか1項に記載のエンジンの失火検出装置。
【請求項7】
前記有効失火判定部は、前記未燃パラメータと有効失火判定閾値との比較により、前記排気煙道内の未燃燃料が燃焼する危険性を判定するように構成され、
前記エンジン停止処理制御部は、前記積算値の算出において、前記未燃パラメータの大きさに応じて、前記有効失火の判定回数の積算値に重み付けを行う有効失火数補正部をさらに有する、
請求項6に記載のエンジンの失火検出装置。
【請求項8】
前記過去一定時間又は前記過去一定サイクルおよび前記積算閾値は、始動から低負荷時の方が高負荷時よりも大きな値に設定される、
請求項6又は7に記載のエンジンの失火検出装置。
【請求項9】
エンジンの失火検出方法であって、
エンジンの少なくとも一つのシリンダ内における失火状態を検出する失火検出ステップと、
前記失火検出ステップにおいて前記失火状態を検出した場合に、排気煙道内の未燃燃料濃度の指標である未燃パラメータに基づいて、前記排気煙道内の未燃燃料が燃焼する危険性を判定する有効失火判定ステップと、
前記有効失火判定ステップでの判定結果に基づいて前記エンジンの停止処理を行うエンジン停止処理ステップと、を備える、
エンジンの失火検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エンジンの失火検出装置及び失火検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンにおいて、燃料が供給された状態で失火(燃焼しない状態)が発生すると、未燃の燃料が排気系統に流出し、最悪の場合は排気煙道にて未燃燃料が燃焼して機器の破損や事故に至る場合がある。これを防止する為、種々の方法でエンジンの失火を検出し、失火の頻度や回数が一定以上となった場合には保護動作としてエンジンを停止させる制御が用いられている(特許文献1)。
【0003】
一方、負荷遮断時などの急激な負荷変動や回転数変動を伴う過渡状態では、ガバナ制御により燃料供給が一時的に絞られる場合があり、この間も燃料供給量減少により失火が発生しうるため、上記制御が適用されている場合にはエンジン停止に至ることがある。しかし、このケースでは失火中の燃料供給量自体が少ないことから排気中の未燃ガス濃度はきわめて低く、排気煙道内で燃焼に至る危険性はほとんど無い場合も多い。この結果、実際は安全性に問題ないにも関わらずエンジンが停止してしまい、運用に支障を来す場合がある。
【0004】
例えば、自家発電用エンジンにおいて落雷等で系統停電が発生した場合にエンジンを系統から切り離し、一旦無負荷もしくは最小限の負荷で生き残らせてから自家設備内への電力供給を再開する運用を行う場合があるが、上記制御が入っていると系統から切り離して負荷が急変した時点でエンジンが停止してしまい、自家設備の電力復旧に時間がかかる。最悪の場合、停電によりエンジン再起動もできなくなり電力が復旧できなくなる虞がある。
【0005】
これを解決する手段として、特許文献2には、制御による意図的な失火とそれ以外の故障等による失火とを切り分け、前者では警報を発報しないことが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6441291号公報
【特許文献2】特開2009-121453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述のように、特許文献2には、制御による失火(意図的な失火)の場合には、制御以外の故障等による失火と切り分けて、警報の発報を行わないことが示されている。しかし、制御によらない故障等による失火であっても排気煙道内で燃焼に至らないケースもあり(例えば、一時的な燃料供給不良や空気量過大等)、このようなケースにおいて警報を発すると過検出になる可能性がある。また、特許文献2は、あくまで警報発報有無の判定であり、エンジンの停止等の保護動作までは言及されていない。
【0008】
本開示は、上述の課題に鑑みてなされたものであって、排気煙道内での燃焼に繋がる失火を監視してエンジンを停止させることによって、安全性を確保しつつ、運転を継続できるエンジンの失火検出装置及び失火検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本開示に係るエンジンの失火検出装置は、エンジンの少なくとも一つのシリンダ内における失火状態を検出する失火検出部と、前記失火検出部において前記失火状態を検出した場合に、排気煙道内の未燃燃料濃度の指標である未燃パラメータに基づいて、前記排気煙道内の未燃燃料が燃焼する危険性を判定する有効失火判定部と、前記有効失火判定部での判定結果に基づいて前記エンジンの停止処理を行うエンジン停止処理制御部と、を備える
【0010】
また、本開示に係るエンジンの失火検出方法は、エンジンの少なくとも一つのシリンダ内における失火状態を検出する失火検出ステップと、前記失火検出ステップにおいて前記失火状態を検出した場合に、排気煙道内の未燃燃料濃度の指標である未燃パラメータに基づいて、前記排気煙道内の未燃燃料が燃焼する危険性を判定する有効失火判定ステップと、前記有効失火判定ステップでの判定結果に基づいて前記エンジンの停止処理を行うエンジン停止処理ステップと、を備える。
【発明の効果】
【0011】
本開示のエンジンの失火検出装置によれば、失火検出部によって、失火状態を検出した場合、有効失火判定部によって、その失火が排気煙道内で未燃燃料が燃焼に繋がる危険性のある失火(有効失火)か否かを、煙道内の未燃燃料濃度の指標である未燃パラメータに基づいて判定するので、制御によらない故障等による失火でも排気煙道内で未燃燃料が燃焼に至らないケースでは、エンジン停止の保護動作の対象外として運転の継続性を向上させることができる。すなわち、排気煙道内で未燃燃料が燃焼に繋がる危険性のある有効失火のみを監視してエンジンを停止させることによって、安全性を確保しつつ、運転の継続性を向上できる。
【0012】
また、本開示のエンジンの失火検出方法によれば、失火検出ステップによって、失火状態を検出した場合、有効失火判定ステップによって、その失火が排気煙道内で未燃燃料が燃焼に繋がる危険性のある失火(有効失火)か否かを、煙道内の未燃燃料濃度の指標である未燃パラメータに基づいて判定するので、制御によらない故障等による失火でも排気煙道内で未燃燃料が燃焼に至らないケースでは、エンジン停止の保護動作の対象外として運転の継続性を向上させることができる。すなわち、排気煙道内で未燃燃料が燃焼に繋がる危険性のある有効失火のみを監視してエンジンを停止させることによって、安全性を確保しつつ、運転の継続性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本開示の第1実施形態に係るエンジンの失火検出装置及び失火検出方法をガスエンジンに適用した場合の全体概略構成図、及び失火検出方法の制御ブロック図である。
【
図2】
図1の第1実施形態におけるエンジン停止処理制御部13の変形例を示す概略構成図、及び制御ブロック図である。
【
図3】第2実施形態に係るエンジンの失火検出装置及び失火検出方法をガスエンジンに適用した場合の全体概略構成図、及び失火検出方法の制御ブロック図である。
図1に対応する図である。
【
図4】第3実施形態に係るエンジンの失火検出装置及び失火検出方法をガスエンジンに適用した場合の全体概略構成図、及び失火検出方法の制御ブロック図である。
図1に対応する図である。
【
図5A】
図3の第2実施形態において、エンジンの負荷遮断時のエンジン出力の挙動を示す。
【
図5B】エンジンの負荷遮断時のエンジン回転数の挙動を示す。
【
図5C】エンジンの負荷遮断時のガバナ開度(燃料量)の挙動を示す。
【
図5D】エンジンの負荷遮断時の混合気(空気過剰率)の挙動を示す。
【
図5E】エンジンの負荷遮断時の失火有無の変化を示す。
【
図5F】エンジンの負荷遮断時の失火数、有効失火数の変化を示す。
【
図6】比較例を示し、従来のエンジンの失火検出装置における制御ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の実施の形態によるエンジンの失火検出装置及び失火検出方法について、構成図及び制御ブロック図に基づいて説明する。かかる実施の形態は、本開示の一態様を示すものであり、この開示に限定するものではなく、本開示の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。
【0015】
<第1実施形態>
(構成)
図1は、第1実施形態に係るエンジンの失火検出装置1及び失火検出方法を示し、失火検出装置1をガスエンジン3に適用した場合の全体概略構成図、及び失火検出装置1において実行される失火検出方法の制御の制御ブロック図を示す。なお、エンジンについてはガスエンジン3に限定されるものではなく一例として示すものである。
【0016】
ガスエンジン3は、燃料ガスを燃料とする4サイクルの往復動エンジンであり、少なくとも一つのシリンダを有している。また、ガスエンジン3の各シリンダ内にガス燃料を供給する図示しない燃料供給手段、及び、各シリンダ内に燃焼空気を供給する図示しない空気供給手段が備えられるとともに、これら供給手段からシリンダ内へのガス燃料及び燃焼空気の供給量を制御して、ガスエンジン3の運転状態を制御する運転制御装置5が備えられている。
【0017】
また、各シリンダには、燃焼室のシリンダ内圧力を検出するシリンダ内圧センサ7が設置され、シリンダ内圧センサ7からの検出信号は失火検出装置1に入力されるようになっている。
【0018】
失火検出装置1は、
図1に示すように、ガスエンジン3の少なくとも一つのシリンダ内における失火状態を検出する失火検出部9と、失火検出部9において失火状態を検出した場合に、排気煙道内の未燃燃料濃度の指標である未燃パラメータに基づいて、排気煙道内の未燃燃料が燃焼する危険性を判定する有効失火判定部11と、有効失火判定部11での判定結果に基づいてガスエンジン3の停止処理を行うエンジン停止処理制御部13と、を備えている。
【0019】
失火検出装置1の失火検出部9では、例えば、シリンダ内圧センサ7からの各シリンダの燃焼圧力が、正常な燃焼時の圧力範囲より小さい場合に失火と判断する。
【0020】
有効失火判定部11では、失火検出部9において失火状態を検出した場合に、失火中におけるガスエンジン3からの排ガスが流通する排気煙道内で、シリンダ内から排出された排ガス中の未燃燃料が燃焼する危険性を有する有効失火か否かを、排気煙道内の未燃燃料濃度の指標である未燃パラメータP1に基づいて判定する。この有効失火の判定は、未燃パラメータ取得部17で取得された未燃パラメータP1の値と未燃パラメータの有効失火判定閾値との比較により行うように構成されている。
【0021】
未燃パラメータP1は、有効失火判定部11に備えられた未燃パラメータ取得部17によって、ガスエンジン3からの運転状態信号及び排気ガスからの排ガス状態信号に基づいて、算出又は推定される。
【0022】
また、未燃パラメータP1は、例えば、後述する第2実施形態のように、少なくとも一つのシリンダ内における空燃比の指標である空燃比パラメータP2であり、また、後述する第3実施形態のように、排気煙道内を流れる排気ガスの性状に基づく排ガス性状パラメータP3である。そして、有効失火判定閾値は、これらパラメータも考慮の上、予め試験又はシミュレーション等によって排気煙道内で未燃燃料の燃焼が発生するおそれがある値に基づいて設定される。
【0023】
エンジン停止処理制御部13では、過去一定時間又は過去一定サイクルにおける有効失火判定部11からの有効失火の判定回数をカウントして積算値を算出し、該積算値が、所定の積算閾値を超えるか否かを判定して、超える場合にエンジンの停止処理を行う。
【0024】
このようにエンジン停止処理制御部13は、過去一定時間又は過去一定サイクルにおける有効失火判定部11からの有効失火の判定回数の積算値を算出し、該積算値が、所定の積算閾値を超える場合にエンジンの停止処理を行うので、時間の経過とともに古い失火は消えていく。従って、最新の失火状態において排気煙道燃焼の危険性を判定することができ、その判定結果に基づいてエンジンの停止処理を実行することができる。
【0025】
エンジンの停止処理は、エンジン停止処理制御部13から運転制御装置5に対して、停止指令を行うことで、運転制御装置5がガスエンジン3に対してガス燃料の供給停止及び着火停止、又はガス燃料の供給停止若しくは着火停止の一方を行う。
【0026】
なお、エンジン停止処理制御部13での、エンジンの停止処理は、有効失火の判定回数の積算値が積算閾値以上になる判定結果が、制御周期における一回の制御で発生している場合としても、また、連続する複数回の制御で連続して発生し続ける場合としてもよい。
【0027】
幾つかの実施形態では、エンジン停止処理制御部13における、積算値の算出範囲である過去一定時間又は過去一定サイクル、および積算閾値は、始動から低負荷時の方が高負荷時よりも大きな値に設定されている。
【0028】
なぜならば、始動時や低負荷領域では、燃焼が不安定となり散発的な失火が発生しやすいため、高負荷域に比べて積算値が大きくなりやすく、同一閾値ではエンジン停止処置に至りやすい。一方で、この領域では供給される燃料ガスの絶対量は少なく、排気煙道での燃焼が発生したとしてもそれによるダメージが小さいためである。
【0029】
過去一定サイクルの例として、例えば、20シリンダのガスエンジン3の場合(1サイクル中に20シリンダが燃焼する)、始動から低負荷時においては、5~20サイクル、高負荷時においては、1~3サイクルに設定される。より好ましくは、始動から低負荷時においては、10サイクル(200シリンダ)、高負荷時においては、2サイクル(40シリンダ)に設定される。
【0030】
そして、設定された過去一定サイクル内において、監視シリンダ数N中(制御周期毎に監視する過去一定サイクルにおけるシリンダ数中)に有効失火のシリンダ数の積算値が、積算閾値シリンダ数C以上の場合に、排気煙道内で燃焼の危険性があると判定してガスエンジン3を停止する。具体例を表1に示す。
【0031】
【0032】
表1の例では、始動から低負荷時と高負荷時とにおいて、監視シリンダ数に対する積算閾値シリンダ数の比率は同じでも、始動から低負荷時では、監視シリンダ数を大きくしている。これにより、始動時や低負荷領域では、燃焼が不安定となり散発的な失火が発生しやすいことによる一過性の事象での無用なエンジン停止を抑制している。
【0033】
また、幾つかの実施形態では、
図2のようにエンジン停止処理制御部13の変形例を示し、エンジン停止処理制御部13には、有効失火数補正部23が設けられている。この有効失火数補正部23では、有効失火判定部11からの有効失火の判定回数の積算値の算出において積算値に重み付けを行う。
【0034】
すなわち、有効失火判定部11では、未燃パラメータP1と有効失火判定閾値との比較により、排気煙道内の未燃燃料が燃焼する危険性を判定するように構成されており、この未燃パラメータP1の大きさに応じて、エンジン停止処理制御部13における有効失火の判定回数の積算値の算出において積算値に重み付けをする。
【0035】
例えば、未燃パラメータP1が閾値を大きく超過している等、煙道内燃焼に至る可能性が特に高い状態や燃焼時のダメージが大きくなる状態において有効失火と判定された場合には、有効失火の判定回数は1回ではなく、1.5回のように重み付けした回数で積算値を算出する。なお、1回ごとの補正ではなく積算値として有効失火の判定回数が10回あった場合に、結果としての積算値を10回ではなく15回のように補正してもよい。
【0036】
このように、エンジン停止処理制御部13は積算値の算出において、未燃パラメータP1の大きさに応じて、有効失火の判定回数の積算値の算出において重み付けを行う有効失火数補正部23を有することによって、エンジン停止処理の信頼性が向上し、安全性を確保しつつ、運転の継続性を向上できる。
【0037】
次に、
図1に示した失火検出方法の制御ブロック図を参照して、失火検出方法の制御フローを説明する。
【0038】
まず、ステップS1では、シリンダ内圧センサ7からシリンダ内圧信号を取得する。次のステップS2では、シリンダ内圧が、正常な燃焼時の圧力範囲より小さいか否かを判定して小さい場合には失火と判定する。
【0039】
次のステップS3では、失火中におけるガスエンジン3からの排ガスが流通する排気煙道内で、シリンダ内から排出された排ガス中の未燃燃料が燃焼する危険性を有する有効失火か否かを判定する。
【0040】
このステップS3の判定は、ステップS4で未燃パラメータ取得部17によって算出又は推定された未燃パラメータP1の値を取り込み、この未燃パラメータP1の値と有効失火判定閾値との比較により、未燃パラメータP1値が有効失火判定閾値より大きい場合には、有効失火と判定する。
【0041】
ステップS3の判定結果が有効失火と判定された場合にはYesとなり、ステップS7に進み、ステップS7では、有効失火の判定回数をカウントする。すなわち、積算値を算出する。なお、積算値の算出は、過去一定時間又は過去一定サイクルにおける有効失火の判定回数の積算値を算出する。
【0042】
また、
図2に示す有効失火数補正部23を有する場合には、有効失火数補正部23によって補正された判定回数の積算値が算出される。
【0043】
そして、次のステップS8では、ステップS7で算出した有効失火数の積算値が、積算閾値以上か否かを判定して、以上の場合にはYesとなり、ステップS9に進み、ステップS9では、エンジントリップ(エンジン停止)を行う。
【0044】
一方、ステップS3の判定結果がNoの場合には、ステップS5で有効失火の判定回数にはカウントせずに、ステップS6で次のシリンダに移って、ステップS1からの処理を繰り返す。
【0045】
なお、ステップS1、S2によって、失火検出ステップを構成し、ステップS3、S4によって、有効失火判定ステップを構成し、ステップS7~S9によって、エンジン停止処理ステップを構成している。
【0046】
(作用・効果)
以上説明した第1実施形態に係るエンジンの失火検出装置1によれば、失火検出部9によって失火状態を検出した場合、有効失火判定部11によって、排気煙道内で未燃燃料が燃焼に繋がる危険性のある有効失火か否かを、煙道内の未燃燃料濃度の指標である未燃パラメータP1に基づいて判定するので、制御によらない故障等による失火でも、排気煙道内で未燃燃料が燃焼に至らないケースでは、ガスエンジン3の停止の保護動作の対象外として運転の継続性を向上させることができる。すなわち、排気煙道内で未燃燃料が燃焼に繋がる危険性のある有効失火のみを監視してガスエンジン3を停止させることによって、安全性を確保しつつ、運転の継続性を向上できる。
【0047】
図6は、本実施形態の比較例となる従来のエンジンの失火検出装置における制御ブロック図である。この例においては、ステップS101でシリンダ内圧信号を取得し、次のステップS102でシリンダ内圧が、正常な燃焼時の圧力範囲より小さいか否かを判定し、次のステップS103で正常な燃焼時の圧力範囲より小さい失火数をカウントし、次のステップS104で、所定時間のカウント数が閾値以上か否かを判定し、閾値以上の場合にはステップS105に進み、エンジントリップ(エンジン停止)処理を行い、閾値未満の場合にはステップS106に進み次のシリンダへ移り、ステップS101からを繰り返す。
【0048】
図6に示す比較例においては、シリンダ内圧が、正常な燃焼時の圧力範囲より小さいか否かだけによって、失火と判定してしまうため、排気煙道内で未燃燃料が燃焼に繋がる危険性のない失火であっても、エンジンが停止してしまい、運用に支障が出る虞がある。
【0049】
図6の比較例に対して本実施形態においては、排気煙道内で未燃燃料が燃焼に繋がる危険性のある有効失火を有効失火判定部11によって監視してガスエンジン3を停止させることによって、安全性を確保しつつ、運転の継続性を向上できる。
【0050】
<第2実施形態>
図3を参照して第2実施形態を説明する。第2実施形態は、第1実施形態に対して有効失火判定部27が異なる。第2実施形態においては、第1実施形態の未燃パラメータP1が、少なくとも一つのシリンダ内における空燃比の指標である空燃比パラメータP2であり、有効失火判定部27は、空燃比パラメータP2に基づいて有効失火を判定する。第2実施形態において、第1実施形態の構成要件と同じものは同じ符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0051】
(構成)
図3に示すように、有効失火判定部27は、少なくとも一つのシリンダ内における空燃比の指標である空燃比パラメータP2を、ガスエンジン3からの運転状態信号及び排気ガスからの排ガス状態信号に基づいて算出又は推定する、空燃比パラメータ取得部29を備えている。
【0052】
そして、有効失火判定部27では、失火検出部9において失火状態を検出した場合に、その失火が排気煙道内で未燃燃料が燃焼する危険性を有する有効失火か否かを、空燃比パラメータP2の値と空燃比パラメータP2の有効失火判定閾値との比較により行う。
【0053】
図3の失火検出方法の制御フローに示すように、ステップS3の判定は、ステップS11で空燃比パラメータ取得部29によって算出又は推定された空燃比パラメータP2の値を取り込み、この空燃比パラメータP2の値と有効失火判定閾値との比較により、空燃比パラメータP2の値が有効失火判定閾値より大きい場合には、有効失火と判定する。
【0054】
なお、空燃比パラメータP2の定義によっては、有効失火判定閾値より小さい場合、もしくは一定の範囲内の場合を、有効失火と判定する場合もある。例えば、空気過剰率λを空燃比パラメータP2として用いる場合は、有効失火判定閾値(可燃範囲の上限に相当)を超えると可燃範囲外となって燃焼しないことになるので、有効失火判定閾値より小さい場合を有効失火と判定する。
【0055】
シリンダ内における空燃比の指標である空燃比パラメータP2としては、例えば、以下の(A)~(E)の手法によって、算出、推定して用いる。また、これら(A)~(E)の各項目の組み合わせによって、算出、推定してもよい。
【0056】
(A)実測の燃料供給量及び空気量から算出した空燃比である。この実測値から算出する空燃比は、実測結果に基づくため計測器の設置位置や計測の作動精度によっては精度や応答性に問題を有するが、実測値であるため正確性において優れる。
【0057】
(B)実測の排ガス組成及び燃料性状から算出し推定した空燃比である。例えば、排ガス組成の炭化水素(HC)濃度と、炭化水素系燃料ガスの燃料性状のHC濃度とから、シリンダ内における燃焼状態を推定して空燃比を推定する。正確性に優れるが、排ガス組成の検出結果が出るまでに時間的な遅れが生じやすい。
【0058】
(C)運転データ(時々刻々の回転数、給気温度、給気圧力、燃料供給量等)から推定した空燃比である。これら運転データからシリンダ内へ現在どれだけの燃料供給量及び空気量が供給されているかを推定して算出する。応答性に優れるが、データ処理量が多くなるため制御装置の大型化や高コスト化に繋がる場合がある。
【0059】
(D)燃料供給量の指標値(ガバナ(調速機)開度等)に基づく値である。データ容量の大型化を伴わないため応答性に優れ、実用的である。
【0060】
例えば、ガバナ開度(燃料量の指標)が所定の閾値を超えるか否かによって有効失火が生ずる危険性があるか否かを判定する。すなわち、空気量の大小にかかわらず、燃料量が所定値より少ない場合には排気煙道内で燃焼に繋がらないことを予め試験等によって確認しておくことで、燃料量の指標であるガバナ開度を用いることによって、簡単な構成で空燃比に関するパラメータを取得できる。
【0061】
(E)運転設定値から推定した空燃比である。正確性には劣るが、十分な実測データが検出できない場合に有効である。例えば、エンジン出力から燃料量及び空気量を推定して空燃比を算出する。
【0062】
ここで、第2実施形態において、空燃比パラメータP2として空気過剰率λを用いて、制御により又は故障等により、負荷遮断時の有効失火の判定に至るガスエンジン3の挙動について
図5A~
図5Fを参照して説明する。
【0063】
図5Aは、ガスエンジン3のエンジン出力の挙動を示す。横軸の数字は時間(秒)を示し(以下
図5Fまで横軸の時間軸は同一)、縦軸にエンジン出力を示す。負荷遮断時を0(ゼロ)秒としている。
【0064】
図5Bは、縦軸に負荷遮断後の回転数を示し、負荷遮断時には負荷が抜けるため一時的に回転数が上昇する。
【0065】
図5Cは、縦軸にガバナ開度(燃料量の目安)を示し、負荷遮断時には回転数過上昇を抑えるため一時的に燃料をカットする。
【0066】
図5Dは、縦軸に混合気の空気過剰率λを示し、負荷遮断直後は燃料カットにより混合気は一時的に希薄化し、燃焼限界Aを超えて燃焼範囲外となる。この燃焼限界Aを超える範囲では、煙道燃焼の懸念は無い。
【0067】
図5Eは、縦軸に失火の有無を示す。この失火の有無は、失火検出部9によって、シリンダ内圧センサ7からの各シリンダの圧力が、正常な燃焼時の圧力範囲より小さいか否かを基に判定されて示される。
図5Cに示す燃料カット中においては、何れのシリンダにおいても失火し、燃料カットから回復して燃料が増加するに従って、着火状態のシリンダが増加するが、低負荷域では燃焼が不安定のため失火のシリンダが散在している状態が示される。
【0068】
図5Fは、縦軸に、失火数(点線で示す)、有効失火数(実線で示す)の積算値を示し、過去一定時間内(t秒内)の積算値を示す。失火数を全数カウントすると積算閾値以上となりエンジン停止となる。一方、
図5Dに示すように燃料カットにより空気過剰率λが燃焼限界Aのラインを超えると、シリンダ内においては燃焼範囲外となり、排気煙道内で未燃燃料が燃焼に至る危険性がない。この状態での失火をカウントから除外することで、有効失火の積算値は積算閾値以上にはならず、エンジンの運転は継続される。
【0069】
(作用・効果)
第2実施形態によれば、有効失火判定部27は、有効失火であるか否かを、少なくとも一つのシリンダ内における空燃比の指標である空燃比パラメータP2によって判定する。エンジンの運転制御に用いられる運転制御信号を利用できるため、失火検出装置1のシステム構成の簡素化が期待できる。
【0070】
また、空燃比パラメータP2として、空燃比でなく、空燃比に関するパラメータとして、前述の(D)で説明したような燃料供給量の指標値(ガバナ開度等)を用いる場合には、失火検出装置1のシステム構成を一層簡素化できる。すなわち、空気量の大小にかかわらず、燃料量が所定値より少ない場合には排気煙道内で燃焼に繋がらないことを予め試験等によって確認しておくことで、有効失火判定部27による有効失火の判定をより簡単な構成で判定できるようになるからである。
【0071】
また、前述の(A)~(E)で説明した手法を組み合わせてもよく、必ずしも空燃比推定に必要な全てのデータ計測や演算を行わないことで、制御演算の負荷を下げることができ、処理高速化や制御不良の防止に繋げることができる。
【0072】
<第3実施形態>
図4を参照して第3実施形態を説明する。第3実施形態は、第1実施形態に対して有効失火判定部33が異なる。第3実施形態においては、第1実施形態の未燃パラメータP1が、排気煙道内を流れる排気ガスの性状に基づく排ガス性状パラメータP3であり、特に、排ガス性状パラメータP3には、排気ガス中の未燃燃料分濃度および/または酸素濃度を用い、有効失火判定部33は、排ガス性状パラメータP3に基づいて有効失火を判定する。第3実施形態において、第1実施形態の構成要件と同じものは同じ符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0073】
(構成)
図4に示すように、有効失火判定部33は、ガスエンジン3からの排気ガスの排ガス性状を実測し、未燃パラメータP1として用いる排ガス性状パラメータP3を取得する排ガス性状取得部35を備えている。
【0074】
そして、有効失火判定部33では、失火検出部9において失火状態を検出した場合に、失火中におけるガスエンジン3からの排ガスが流通する排気煙道内で、シリンダ内から排出された排ガス中の未燃燃料の濃度が燃焼する危険性を有するか否かを、実測した排気ガスの性状に基づく排ガス性状パラメータP3の濃度と排ガス性状パラメータP3の有効失火判定閾値との比較により行う。
【0075】
図4の失火検出方法の制御フローに示すように、ステップS3の判定は、ステップS12で排ガス性状取得部35によって算出又は推定された排ガス性状パラメータP3の値を取り込み、この排ガス性状の値と有効失火判定閾値との比較により、排ガス性状パラメータP3の値が有効失火判定閾値より大きい場合には、有効失火と判定する。
【0076】
排ガス性状パラメータP3としては、特に、未燃分濃度を用いる。未燃分ガスとしては、炭化水素(THC)濃度、一酸化炭素(CO)濃度を用いる。なお、燃料ガスが水素ガスのエンジンの場合には、水素(H2)濃度を用いる。
【0077】
炭化水素系の燃料ガスを使用している場合には、シリンダ内での不完全燃焼によって燃焼しきれていない炭化水素(THC)が多く排出され、また、シリンダ内での不完全燃焼によって一酸化炭素(CO)が多く排出される。また、水素エンジンの場合には、シリンダ内で不完全燃焼になると、そのまま水素(H2)が排出される。
【0078】
排ガス性状パラメータP3としては、計測された排気ガス性状をそのまま使う以外に、排気ガス性状やその他のデータに基づいて算出される指標値(排気ガスの空燃比など)を用いても良い。
【0079】
排気煙道内で、排ガス中の未燃燃料の濃度が燃焼する危険性があるかの有効失火判定閾値は、各未燃分濃度それぞれに対して設定してもよく、また、各未燃分の割合によって設定してもよい。
【0080】
また、他の成分(酸素濃度や二酸化炭素濃度等)に基づいて、有効失火判定閾値を補正してもよい。例えば、酸素濃度が高い場合には、燃焼しやすくなるので、各未燃分ガスそれぞれに対する有効失火判定閾値の濃度を低い側に補正して、未燃分ガスが低濃度でも有効失火と判定するように補正する。また、二酸化炭素濃度が高い場合には、燃焼しにくくなるので、各未燃分ガスそれぞれに対する有効失火判定閾値の濃度を高い側に補正して、未燃分ガスが高濃度まで有効失火と判定しないように補正する。このように補正することで、排ガス性状パラメータP3による有効失火の判定の信頼性を向上できる。
【0081】
(作用・効果)
第3実施形態によれば、有効失火判定部33は、有効失火であるか否かを、排気煙道内における排ガス性状パラメータP3を指標として判定するので、排ガスの実測データに基づくため、有効失火の判定が正確となり、安全性の確保と運転の継続性の向上との両立を確実に行うことが可能になる。
【0082】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0083】
[1]本開示に係るエンジン(3)の失火検出装置(1)は、エンジンの少なくとも一つのシリンダ内における失火状態を検出する失火検出部(9)と、前記失火検出部において前記失火状態を検出した場合に、排気煙道内の未燃燃料濃度の指標である未燃パラメータ(P1)に基づいて、前記排気煙道内の未燃燃料が燃焼する危険性を判定する有効失火判定部(11、27、33)と、前記有効失火判定部での判定結果に基づいて前記エンジンの停止処理を行うエンジン停止処理制御部(13)と、を備える。
【0084】
前記[1]に記載の構成によれば、エンジン(3)の失火検出装置(1)は、失火検出部(9)によって、失火状態を検出した場合、有効失火判定部(11、27、33)によって、排気煙道内で未燃燃料が燃焼に繋がる危険性のある有効失火を、煙道内の未燃燃料濃度の指標である未燃パラメータ(P1)に基づいて判定するので、制御によらない故障等による失火でも排気煙道内で未燃燃料が燃焼に至らないケースでは、エンジン停止の保護動作の対象外として運転の継続性を向上させることができる。すなわち、排気煙道内で未燃燃料が燃焼に繋がる危険性のある有効失火のみを監視してエンジンを停止させることによって、安全性を確保しつつ、運転の継続性を向上できる。
【0085】
[2]幾つかの実施形態では、前記[1]に記載の構成において、前記未燃パラメータは、前記少なくとも一つのシリンダ内における空燃比の指標である空燃比パラメータであり、前記有効失火判定部(27)は、前記空燃比パラメータに基づいて有効失火を判定する。
【0086】
前記[2]に記載の構成によれば、有効失火判定部(27)は、有効失火であるか否かを、少なくとも一つのシリンダ内における空燃比の指標である空燃比パラメータ(P2)によって判定するので、エンジンの運転制御に用いられる運転制御信号を利用できるため、失火検出装置(1)のシステム構成を簡素化できる。
【0087】
[3]幾つかの実施形態では、前記[2]に記載の構成において、前記空燃比パラメータ(P2)は、前記少なくとも一つのシリンダ内への燃料供給量の指標値であり、前記有効失火判定部(27)は、前記燃料供給量の指標値が所定の閾値を超えるか否かによって有効失火を判定する。
【0088】
前記[3]に記載の構成によれば、失火検出装置(1)のシステム構成を一層簡素化できる。すなわち、空気量の大小にかかわらず、燃料量が所定値より少ない場合には排気煙道内で燃焼に繋がらないことを予め試験等によって確認しておくことで、有効失火判定部(27)による有効失火の判定をより簡単な構成で判定できるようになるからである。
【0089】
[4]幾つかの実施形態では、前記[1]に記載の構成において、前記未燃パラメータ(P1)は、前記排気煙道内を流れる排気ガスの性状に基づく排ガス性状パラメータ(P3)であり、前記有効失火判定部(33)は、前記排ガス性状パラメータに基づいて有効失火を判定する。
【0090】
前記[4]に記載の構成によれば、有効失火判定部(33)は、有効失火であるか否かを、排気煙道内における排気ガスの実測データに基づく排ガス性状パラメータ(P3)を指標として判定するため、有効失火の判定精度の向上が図れる。
【0091】
[5]幾つかの実施形態では、前記[4]に記載の構成において、前記排ガス性状パラメータ(P3)は、前記排気ガス中の未燃燃料濃度および酸素濃度を含み、前記有効失火判定部(33)は、前記未燃燃料濃度および前記酸素濃度に基づいて有効失火を判定する。
【0092】
前記[5]に記載の構成によれば、排気煙道内での未燃燃料による燃焼に大きく影響する未燃分濃度および酸素濃度を用いて有効失火を判定するので、判定精度がより向上する。
【0093】
[6]幾つかの実施形態では、前記[1]乃至[5]に記載の構成において、前記エンジン停止処理制御部(13)は、過去一定時間又は過去一定サイクルにおける前記有効失火判定部(11、27、33)からの有効失火の判定回数の積算値を算出し、該積算値が、所定の積算閾値を超える場合にエンジンの停止処理を行う。
【0094】
前記[6]に記載の構成によれば、前記エンジン停止処理制御部(13)は、過去一定時間又は過去一定サイクルにおける前記有効失火判定部(11、27、33)からの有効失火の判定回数の積算値を算出し、該積算値が、所定の積算閾値を超える場合にエンジンの停止処理を行うので、時間の経過とともに古い失火は消えていく。従って、最新の失火状態において排気煙道燃焼の危険性を判定することができ、その判定結果に基づいてエンジンの停止処理を実行することができる。
【0095】
[7]幾つかの実施形態では、前記[6]に記載の構成において、前記有効失火判定部(11、27、33)は、前記未燃パラメータと有効失火判定閾値との比較により、前記排気煙道内の未燃燃料が燃焼する危険性を判定するように構成され、前記エンジン停止処理制御部(13)は、前記積算値の算出において、前記未燃パラメータの大きさに応じて、前記有効失火の判定回数の積算値に重み付けを行う有効失火数補正部(23)をさらに有する。
【0096】
前記[7]に記載の構成によれば、エンジン停止処理制御部(13)は、積算値の算出において、未燃パラメータの大きさに応じて、有効失火の判定回数の積算値に重み付けを行う有効失火数補正部(23)をさらに有するので、エンジン停止処理の信頼性が向上し、安全性を確保しつつ、運転の継続性を向上できる。
【0097】
[8]幾つかの実施形態では、前記[6又は7]に記載の構成において、前記過去一定時間又は前記過去一定サイクルおよび前記積算閾値は、始動から低負荷時の方が高負荷時よりも大きな値に設定される。
【0098】
前記[8]に記載の構成によれば、過去一定時間又は過去一定サイクルおよび積算閾値が、始動から低負荷時の方が高負荷時よりも大きな値に設定されることで、始動時や低負荷領域には燃焼が不安定となり散発的な失火が発生しやすいことによる一過性の事象での無用なエンジン停止を抑制できる。
【0099】
[9]本開示に係るエンジンの失火検出方法は、エンジンの少なくとも一つのシリンダ内における失火状態を検出する失火検出ステップ(第1実施形態のステップS1~S2)と、前記失火検出ステップにおいて前記失火状態を検出した場合に、排気煙道内の未燃燃料濃度の指標である未燃パラメータに基づいて、前記排気煙道内の未燃燃料が燃焼する危険性を判定する有効失火判定ステップ(第1実施形態のステップS3~S4)と、前記有効失火判定ステップでの判定結果に基づいて前記エンジンの停止処理を行うエンジン停止処理ステップ(第1実施形態のS7~S9)と、を備える。
【0100】
前記[9]に記載の構成によれば、エンジンの失火検出方法は、失火検出ステップによって、失火状態を検出した場合、有効失火判定ステップによって、排気煙道内で未燃燃料が燃焼に繋がる危険性のある有効失火を、煙道内の未燃燃料濃度の指標である未燃パラメータに基づいて判定するので、故障等による制御によらない失火でも、排気煙道内で未燃燃料が燃焼に至らないケースでは、エンジン停止の保護動作の対象外として運転の継続性を向上させることができる。すなわち、排気煙道内で未燃燃料が燃焼に繋がる危険性のある有効失火のみを監視してエンジンを停止させることによって、安全性を確保しつつ、運転の継続性を向上できる。
【符号の説明】
【0101】
1 失火検出装置
3 ガスエンジン(エンジン)
5 運転制御装置
7 シリンダ内圧センサ
9 失火検出部
11、27、33 有効失火判定部
13 エンジン停止処理制御部
17 未燃パラメータ取得部
23 有効失火数補正部
29 空燃比パラメータ取得部
35 排ガス性状取得部
P1 未燃パラメータ
P2 空燃比パラメータ
P3 排ガス性状パラメータ