(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023115806
(43)【公開日】2023-08-21
(54)【発明の名称】ラクトフェリン、コンカナバリンA、リゾチーム及び/またはヘモグロビンを介して抗体等が固定されたニトロセルロース膜の製造方法及び抗原結合性等の増強方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/544 20060101AFI20230814BHJP
【FI】
G01N33/544 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022018219
(22)【出願日】2022-02-08
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】504255685
【氏名又は名称】国立大学法人京都工芸繊維大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】熊田 陽一
(72)【発明者】
【氏名】向井 良介
(57)【要約】
【課題】抗体、酵素、レセプター、レクチンに基づく活性が増強したニトロセルロース膜を提供すること、ニトロセルロース膜における該活性の増強方法を提供することを目的とする。
【解決手段】以下の工程を含有する、第1タンパク質固定ニトロセルロース膜の製造方法:
(1)第1タンパク質と第2タンパク質との連結物を含有する溶液を、ニトロセルロース膜に接触させる工程、及び(2)前記工程(1)において連結物を接触させたニトロセルロース膜を乾燥させる工程、ここで、第1タンパク質は、抗体、レセプター、レクチン(コンカナバリンAを除く)及び酵素からなる群より選択される少なくとも1種であり、第2タンパク質は、ラクトフェリン、コンカナバリンA、リゾチーム及びヘモグロビンからなる群より選択される少なくとも1種である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含有する、第1タンパク質固定ニトロセルロース膜の製造方法:
(1)第1タンパク質と第2タンパク質との連結物を含有する溶液を、ニトロセルロース膜に接触させる工程、及び
(2)前記工程(1)において連結物を接触させたニトロセルロース膜を乾燥させる工程、
ここで、第1タンパク質は、抗体、レセプター、レクチン(コンカナバリンAを除く)及び酵素からなる群より選択される少なくとも1種であり、
第2タンパク質は、ラクトフェリン、コンカナバリンA、リゾチーム及びヘモグロビンからなる群より選択される少なくとも1種である。
【請求項2】
前記第1タンパク質が、完全長抗体(Whole抗体)、scFv、VHH、Fab、F(ab’)2及び二重特異性抗体からなる群より選択される少なくとも一種である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
第1タンパク質に起因する活性が増強された、第1タンパク質固定ニトロセルロース膜を製造するための方法である、請求項1または2に記載の製造方法、
ここで、第1タンパク質が抗体である場合、該活性の増強は抗原結合性の増強であり、
第1タンパク質がレセプターである場合、該活性の増強はアゴニスト及び/またはアンタゴニストへの結合性の増強であり、
第1タンパク質がレクチンである場合、該活性の増強は糖鎖結合性の増強であり、
第1タンパク質が酵素である場合、該活性の増強は酵素活性の増強である。
【請求項4】
以下の工程を含有する、第1タンパク質固定ニトロセルロース膜の活性増強方法:
(ア)第1タンパク質と第2タンパク質との連結物を含有する溶液を、ニトロセルロース膜に接触させる工程、及び
(イ)前記工程(ア)において連結物を接触させたニトロセルロース膜を乾燥させて、第1タンパク質固定ニトロセルロース膜を得る工程、
ここで、第1タンパク質は、抗体、レセプター、レクチン(コンカナバリンAを除く)及び酵素からなる群より選択される少なくとも1種であり、
第2タンパク質は、ラクトフェリン、コンカナバリンA、リゾチーム及びヘモグロビンからなる群より選択される少なくとも1種であり、
ここで、第1タンパク質が抗体である場合、該活性の増強は抗原結合性の増強であり、
第1タンパク質がレセプターである場合、該活性の増強はアゴニスト及び/またはアンタゴニストへの結合性の増強であり、
第1タンパク質がレクチンである場合、該活性の増強は糖鎖結合性の増強であり、
第1タンパク質が酵素である場合、該活性の増強は酵素活性の増強である。
【請求項5】
第2タンパク質と連結した第1タンパク質が、該第2タンパク質を介して、ニトロセルロース膜に固定されている、第1タンパク質固定ニトロセルロース膜、
ここで、第1タンパク質は、抗体、レセプター、レクチン(コンカナバリンAを除く)及び酵素からなる群より選択される少なくとも1種であり、
第2タンパク質は、ラクトフェリン、コンカナバリンA、リゾチーム及びヘモグロビンからなる群より選択される少なくとも1種である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ラクトフェリン、コンカナバリンA、リゾチーム及び/またはヘモグロビンを介して抗体等が固定されたニトロセルロース膜の製造方法及び抗原結合性等の増強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニトロセルロース(nitrocellulose; NC)膜は、イムノクロマトグラフィ、ELISA(Enzyme-Linked Immunosorbent Assay)法、ウエスタンブロッティング等の様々な免疫学的手法において抗体や酵素等の固定化用担体として従来知られている。例えば、イムノクロマトグラフィは、比較的迅速、簡便に抗原抗体反応の結果が得られる点で、インフルエンザ検査等のPOCT検査(Point of Care Testing;臨床現場即時検査)でも利用されている。
【0003】
しかし、POCT検査等のイムノクロマトグラフィを利用した抗原抗体反応検査においては、NC膜に抗体が固定されているものの、その抗体は一部の種類の完全長抗体(whole抗体)に限られており、単鎖抗体(scFv)や単ドメイン抗体(VHH)等の組み換え抗体を利用した例はほとんどない。更に、抗体はその立体構造が失われやすく、また、NC膜上では抗体の活性が失われやすいことが知られており、従って、NC膜に抗体を固定させる際には高濃度の抗体含有溶液をNC膜に適用する必要があった。また、このことが検査コストの増大の一因になることも問題であった(非特許文献1)。
【0004】
また、分子免疫学分野においては、抗体だけでなく、酵素、レセプター、レクチンも、目的物質やその活性の特異的検出に利用されている。しかし、NC膜を利用した手法においてこれらを用いる場合も、抗体と同様に、NC膜上ではその活性が失われやすく、従って、酵素、レセプター、レクチンに基づく検出感度が非常に低いといった問題があった。
【0005】
このように、NC膜におけるタンパク質吸着メカニズムは未だ不明な点も多く、より良い吸着手段の開発が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】〆谷直人、POCT(point of care testing)の現状と今後の課題、医機学 Vol. 80, No. 4, p. 37-44 (2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
抗体、酵素、レセプター、レクチンに基づく活性が増強したニトロセルロース膜を提供することを目的とする。また、ニトロセルロース膜における該活性の増強方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは長期にわたりニトロセリロース(NC)膜を用いた免疫学的手法に関して鋭意検を重ねた結果、驚くべきことに、ラクトフェリン、コンカナバリンA、リゾチーム及びヘモグロビンからなる群より選択される少なくとも1種のタンパク質を、予め抗体に連結させて、得られた連結物をNC膜と接触させることにより、NC膜において抗原の検出感度を高められることを見出した。また、同様に、該タンパク質を、予め酵素に連結させて、得られた連結物をNC膜と接触させることにより、NC膜において酵素活性の検出感度を高められることを見出した。本発明は該知見に基づき更に検討を重ねて完成されたものであり、本開示は例えば下記に代表される発明を包含する。
項1.以下の工程を含有する、第1タンパク質固定ニトロセルロース膜の製造方法:
(1)第1タンパク質と第2タンパク質との連結物を含有する溶液を、ニトロセルロース膜に接触させる工程、及び
(2)前記工程(1)において連結物を接触させたニトロセルロース膜を乾燥させる工程、
ここで、第1タンパク質は、抗体、レセプター、レクチン(コンカナバリンAを除く)及び酵素からなる群より選択される少なくとも1種であり、
第2タンパク質は、ラクトフェリン、コンカナバリンA、リゾチーム及びヘモグロビンからなる群より選択される少なくとも1種である。
項2.前記第1タンパク質が、完全長抗体(Whole抗体)、scFv、VHH、Fab、F(ab)’2及び二重特異性抗体からなる群より選択される少なくとも一種である、項1に記載の製造方法。
項3.第1タンパク質に起因する活性が増強された、第1タンパク質固定ニトロセルロース膜を製造するための方法である、項1または2に記載の製造方法、
ここで、第1タンパク質が抗体である場合、該活性の増強は抗原結合性の増強であり、
第1タンパク質がレセプターである場合、該活性の増強はアゴニスト及び/またはアンタゴニストへの結合性の増強であり、
第1タンパク質がレクチンである場合、該活性の増強は糖鎖結合性の増強であり、
第1タンパク質が酵素である場合、該活性の増強は酵素活性の増強である。
項4.以下の工程を含有する、第1タンパク質固定ニトロセルロース膜の活性増強方法:
(ア)第1タンパク質と第2タンパク質との連結物を含有する溶液を、ニトロセルロース膜に接触させる工程、及び
(イ)前記工程(ア)において連結物を接触させたニトロセルロース膜を乾燥させて、第1タンパク質固定ニトロセルロース膜を得る工程、
ここで、第1タンパク質は、抗体、レセプター、レクチン(コンカナバリンAを除く)及び酵素からなる群より選択される少なくとも1種であり、
第2タンパク質は、ラクトフェリン、コンカナバリンA、リゾチーム及びヘモグロビンからなる群より選択される少なくとも1種であり、
ここで、第1タンパク質が抗体である場合、該活性の増強は抗原結合性の増強であり、
第1タンパク質がレセプターである場合、該活性の増強はアゴニスト及び/またはアンタゴニストへの結合性の増強であり、
第1タンパク質がレクチンである場合、該活性の増強は糖鎖結合性の増強であり、
第1タンパク質が酵素である場合、該活性の増強は酵素活性の増強である。
項5.第2タンパク質と連結した第1タンパク質が、該第2タンパク質を介して、ニトロセルロース膜に固定されている、第1タンパク質固定ニトロセルロース膜、
ここで、第1タンパク質は、抗体、レセプター、レクチン(コンカナバリンAを除く)及び酵素からなる群より選択される少なくとも1種であり、
第2タンパク質は、ラクトフェリン、コンカナバリンA、リゾチーム及びヘモグロビンからなる群より選択される少なくとも1種である。
【発明の効果】
【0009】
ラクトフェリン、コンカナバリンA、リゾチーム及びヘモグロビンからなる群より選択される少なくとも1種のタンパク質(第2タンパク質)と抗体とを予め連結させて、得られた連結物をニトロセルロース膜と接触させることにより、第2タンパク質を介して、抗体をニトロセルロース膜に固定することができる。これにより、抗原結合性が増強された抗体固定ニトロセルロース膜を提供することができる。また、第2タンパク質と酵素とを予め連結させて、得られた連結物をニトロセルロース膜と接触させることにより、第2タンパク質を介して、酵素をニトロセルロース膜に固定することができる。これにより、酵素活性が増強された酵素固定ニトロセルロース膜を提供することができる。また、第2タンパク質とレセプターとを予め連結させて、得られた連結物をニトロセルロース膜と接触させることにより、該第2タンパク質を介して、レセプターをニトロセルロース膜に固定することができる。これにより、レセプターに起因する活性であるアゴニスト及び/またはアンタゴニストへの結合性が増強されたレセプター固定ニトロセルロース膜を提供することができる。また、第2タンパク質とレクチンとを予め連結させて、得られた連結物をニトロセルロース膜と接触させることにより、該第2タンパク質を介して、レクチンをニトロセルロース膜に固定することができる。これにより、レクチンに起因する活性である糖鎖結合性が増強されたレクチン固定ニトロセルロース膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、第2タンパク質と連結させていない抗体をNC膜に固定した場合の、抗原結合性を示す図である。
【
図2】
図2は、第2タンパク質(コンカナバリンA)と連結させて抗体をNC膜に固定した場合の、抗原結合性を示す図である。
【
図3】
図3は、第2タンパク質(ラクトフェリン)と連結させて抗体をNC膜に固定した場合の、抗原結合性を示す図である。
【
図4】
図4は、第2タンパク質と抗体との連結物をNC膜に固定させた場合は、第2タンパク質と連結させることなく抗体(非連結)をNC膜に固定させた場合よりも、抗原結合性が向上したことを示す図である。
【
図5】
図5は、第2タンパク質と抗体との連結物をNC膜に固定させた場合は、抗体(非連結)をNC膜に固定させた場合よりも、抗原結合性が向上したことを示す図である。
【
図6】
図6は、第2タンパク質と抗体との連結物をNC膜に固定させた場合は、抗体(非連結)をNC膜に固定させた場合よりも、抗原結合性が向上したことを示す図である。
【
図7】
図7は、第2タンパク質と抗体との連結物をNC膜に固定させた場合は、抗体(非連結)をNC膜に固定させた場合よりも、抗原結合性が向上したことを示す図である。
【
図8】
図8は、第2タンパク質と酵素との連結物をNC膜に固定させた場合は、酵素(非連結)をNC膜に固定させた場合よりも、酵素活性が向上したことを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示に包含される実施形態について更に詳細に説明する。なお、本開示において「含有する」は、「実質的にからなる」、「からなる」という意味も包含する。
【0012】
第1タンパク質固定ニトロセルロース膜の製造方法
本開示は、以下の工程を含有する、第1タンパク質固定ニトロセルロース(NC)膜の製造方法を提供する:
(1)第1タンパク質と第2タンパク質との連結物を含有する溶液を、NC膜に接触させる工程、及び
(2)前記工程(1)において連結物を接触させたNC膜を乾燥させる工程、
ここで、第1タンパク質は、抗体、レセプター、レクチン(コンカナバリンAを除く)及び酵素からなる群より選択される少なくとも1種であり、
第2タンパク質は、ラクトフェリン、コンカナバリンA、リゾチーム及びヘモグロビンからなる群より選択される少なくとも1種である。
【0013】
工程(1)
本開示の第1タンパク質固定NC膜の製造方法は、(1)第1タンパク質と第2タンパク質との連結物を含有する溶液を、NC膜に接触させる工程を含有する。本願において第1タンパク質固定NC膜は、第1タンパク質が固定されたNC膜を意味する。
【0014】
ニトロセルロース膜は、従来公知のイムノクロマトグラフィ等の免疫学的手法において抗体や酵素等の固定化用担体として使用されているものであれば制限されない。この限りにおいてNC膜の厚みや形状等も制限されない。本開示を制限するものではないが、NC膜の厚みとして、例えば80~500μm程度が挙げられ、好ましくは80~400μm程度等が例示される。また、本開示を制限するものではないが、NC膜の平均孔径として、例えば0.1~5μm程度が挙げられ、好ましくは0.45μm~5μm程度が例示される。本開示において平均孔径は製品カタログに従う値である。NC膜は商業的に入手可能であり、例えばHigh-Flow plus HF180(メルク株式会社製)、Amersham Protran(cytiva社製)等が例示される。
【0015】
本開示において、第1タンパク質は、抗体、レセプター、レクチン及び酵素からなる群より選択される少なくとも1種である。第1タンパク質は、第2タンパク質とは異なる。また、本開示においてレクチンにはコンカナバリンAは含まれない。
【0016】
本開示においてNC膜に固定される抗体(第1タンパク質)は制限されず、単鎖抗体(scFv)、単ドメイン抗体(VHH)、完全長抗体(whole抗体)、Fab、F(ab’)2、二重特異性抗体等のいずれであってもよい。本開示を制限するものではないが、抗体として好ましくは単鎖抗体、単ドメイン抗体等が例示される。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0017】
抗体は、本開示の効果を妨げない範囲で、蛍光標識、酵素標識、金属標識(金属コロイド等)、ビオチン、ストレプトアビジン、二次抗体、ラテックス(有色ラテックス等)等によって修飾されていてもよく、修飾されていなくてよい。インフルエンザ検査などの従来の即時検査手法では、抗体は修飾されずにNC膜に固定されていることが多く、この観点からは、また、簡便である点からは、該抗体は修飾することなくNC膜に固定されてもよい。以下、他の第1タンパク質についても同様である。
【0018】
抗体(第1タンパク質)は、抗インフルエンザ抗体(A型、B型等)、抗ノロウィルス抗体、抗ヒト絨毛性ゴナトロピン抗体)、抗ヘリコバクター・ピロリ抗体、抗SARS抗体(-CoV-2抗体等)、抗大腸菌O-157抗体、抗ロタウィルス抗体、抗アデノウィルス抗体、抗サイトメガロウィルス抗体、抗レジオネラ抗体等のウイルスや細菌等に対する抗体が例示され、また、トロポニンT、トロポニンI、CK-MB(クレアチンキナーゼ-MB)、ミオグロビン、LH(黄体形成ホルモン)、大腸菌ベロ毒素等に対する抗体等のいずれの抗体であってもよい。本開示を制限するものではないが、抗体として好ましくは、抗インフルエンザ抗体(抗インフルエンザA型抗体、抗インフルエンザB型抗体等)等例示される。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0019】
本開示においてNC膜に固定されるレセプター(第1タンパク質)は、分子免疫学分野において使用可能なレセプターである限り制限されない。レセプターは、受容体とも呼ばれ、該レセプターが認識し、特異的に直接結合して複合体を形成し得る被認識物(レセプターが認識する相手物質)は従来公知である。該被認識物は、レセプターに対してアゴニストであってもよく、アンタゴニストであってもよい。
【0020】
本開示を制限するものではないが、レセプターとしてT細胞レセプター、ホルモンレセプター、サイトカインレセプター等が例示される。
【0021】
T細胞レセプター(T細胞受容体)は、T細胞の細胞膜上に発現している抗原受容体分子であり、MHC分子に結合した抗原分子を特異的に認識し結合する受容体として従来知られている。T細胞レセプターは、通常、α鎖ならびにβ鎖の会合により抗原認識を行うヘテロ二量体分子であるが、α鎖及びβ鎖の細胞外ドメインをフレキシブルリンカー(Gly4Ser)3で融合した一本鎖T細胞レセプター(single-chain TCR)も、前記テロ二量体分子と同等の抗原特異性を有することが知られている。T細胞レセプター、また、一本鎖T細胞レセプターは、抗体の可変部(Fv)及び単鎖抗体(scFv)と同じくイムノグロブリンスーパーファミリーに属するタンパク質であり、βシートrichな立体構造を形成している。
【0022】
このことから、本開示において、T細胞レセプターとして、へテロ二量体分子であるT細胞レセプターを用いてもよく、一本鎖T細胞レセプターを用いてもよい。本開示を制限するものではないが、好ましくは一本鎖T細胞レセプターが例示される。
【0023】
T細胞レセプターの被認識物は、T細胞レセプターが認識し特異的に結合できる限り制限されない。T細胞レセプターが特異的に認識し結合する被認識物は多数知られており、がんや感染症を始めとする様々な疾病等のターゲット抗原が例示される。本開示においては、従来公知のT細胞レセプターとその被認識物との組み合わせに従い、被認識物が適宜選択されればよい。このことから、一例として、乳がんにみられるHER2抗原、食道がん、頭頸部がん、卵巣がん、メラノーマ等にみられるMAFE-A4抗原、骨肉腫、食道がん、卵巣がん、メラノーマ、多発性骨髄腫、頭頸部がん等でみられるNY-ESO-1抗原に特異的に結合可能なT細胞レセプターが例示される。
【0024】
また、本開示を制限するものではないが、ホルモンレセプターの被認識物として、甲状腺ホルモン、下垂体ホルモン、副腎皮質ホルモン、膵ホルモン、消化管ホルモン、性腺ホルモン等が例示される。本開示を制限するものではないが、甲状腺ホルモンとして、サイロキシン、トリヨードサイロニン、サイログロブリン等が例示される。下垂体ホルモンとしては、性腺刺激ホルモン(黄体形成ホルモン、卵胞刺激ホルモン)、成長ホルモン、副腎皮質刺激ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、プロラクチン(催乳ホルモン)等が例示される。副腎皮質ホルモンとしては、コルチゾール、アルドステロン等が例示される。膵ホルモン、消化管ホルモンとしては、インスリン、C-ペプチド、グルカゴン、ガストリン等が例示される。性腺ホルモンとしては、hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)、hPL(ヒト胎盤性ラクトゲン)、エストロゲン、テストステロン等が例示される。また、そのほか、ホルモンとして、カルシトニン、副甲状腺ホルモン(PTH)、レニン、アンジオテンシンI、アンジオテンシンII、エンケファリン、エリスロポエチン、ソマトスタチン等が例示される。従って、本開示においてホルモンレセプターとして、これらの各ホルモンに対するレセプターが例示される。
【0025】
本開示を制限するものではないが、サイトカインレセプターの被認識物として、インターフェロン、インターロイキン、腫瘍壊死因子、コロニー刺激因子(エリスロポエチン等)、細胞増殖因子(上皮成長因子、線維芽細胞成長因子、腫瘍増殖因子等が例示される。従って、本開示においてサイトカインレセプターとして、これらの各サイトカインに対するレセプターが例示される。
【0026】
本開示を制限するものではないが、レセプターとして好ましくは、T細胞レセプターが例示され、より好ましくはシングルT細胞レセプター等が例示される。レセプターは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0027】
本開示においてNC膜に固定されるレクチン(第1タンパク質)は、分子免疫学分野において使用可能なレクチンであれば制限されない。レクチンは、凝集素(agglutinin)とも呼ばれ、所定の糖鎖と特異的に結合するタンパク質である。レクチンが認識し、特異的に直接結合して複合体を形成し得る被認識物(レクチンが特異的に結合する糖鎖の配列または構造;糖鎖保持物質)は公知である。
【0028】
本開示を制限するものではないが、レクチンとして、DBA(Dolichos biflorus Agglutinin)、PHA-E(Phaseolus vulgaris Erythroagglutinin)、PHA-L(Phaseolus vulgaris Leucoagglutinin)、PNA(Peanut Agglutinin Arachis hypogaea peanuts)、LCA(Lens culinaris Agglutinin)、PSA(Pisum sativum Agglutinin)、AAL(Aleuria aurantia Lectin)、Lotus(LTL、Lotus tetragolonobus Lectin)、WGA(Wheat Germ Agglutinin Triticum vulgaris)、SSA(Sambucus sieboldiana agglutinin)、MAM(Maackia amurensis)、ABA(Agaricus bisporus)、ECA(ECL、Erythrina cristagalli Lectin)、PHA-E4(Phaseolus vulgaris)、PHA-P(Phaseolus vulgaris Lectin)、SBA(Glycine max Lectin)、UEA-I(Ulex europaeus Lectin)、DSA(Datura stramonium Lectin)、PWM(Phytolacca Americana Lectin)等が例示される。本開示を制限するものではないが、レクチンとしてDBA、PHA-E、 PHA-L、 PNA、LCA、PSA、AAL、Lotus、WGA、SSA、MAM等が好ましく例示される。レクチンは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。レクチンは商業的に 株式会社J-ケミカル等から販売されている。なお、コンカナバリンAはレクチンの一種とされるが、本開示においてレクチンには、コンカナバリンAは含まれない。
【0029】
本開示においてNC膜に固定される酵素(第1タンパク質)は制限されず、分子免疫学分野において使用可能な酵素が例示される。本開示を制限するものではないが、酵素として、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリフォスファターゼ、アミラーゼ、セルラーゼ、トリプシン、キモトリプシン等の分解酵素が好ましく例示される。酵素は1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0030】
このように、第1タンパク質は、いずれも1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0031】
本開示において第2タンパク質は、ラクトフェリン、コンカナバリンA、リゾチーム及びヘモグロビンからなる群より選択される少なくとも1種である。
【0032】
ラクトフェリンは、分子量が約80kDaの鉄結合性の糖タンパク質として従来公知であり、哺乳動物の乳、涙、唾液、血液等に存在することが知られている。本開示においてラクトフェリンは、動物由来のものであっても、遺伝子工学的手法を用いて製造されたものであってもよい。哺乳動物として、ヒト、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、マウス、水牛、ラクダ、ヤク、ウマ、ロバ、ラマ等が例示される。本開示においてラクトフェリンはいずれの由来であってもよい。本開示においてラクトフェリンは、天然型ラクトフェリン、ラクトフェリンから常法により鉄を除去することにより得られる遊離型(アポ型)ラクトフェリン、アポラクトフェリンに鉄、銅、亜鉛、マンガン等の金属を一部キレートさせた金属結合ラクトフェリン、このような金属を完全にキレートさせた金属飽和(ホロ型)ラクトフェリン、これらの断片等が例示される。ラクトフェリンはこの限りにおいて制限されないが、例えば、ウシ由来天然型ラクトフェリン等が好ましく例示される。ラクトフェリンのPDB番号は1BLFである。このように、本開示の効果が得られる限り制限されないが、ラクトフェリンの分子量として20~80kDa程度、30~80kDa程度、40~80kDa程度、50~80kDa程度、60~80kDa程度、70~80kDa程度等が例示される。ラクトフェリンは、商業的に入手可能であり、例えば、ウシ由来天然型ラクトフェリンとして、商品名129-04121, Lactoferrin from Bovine Milk(CAS番号:146897-68-9、ラクトフェリン、牛乳由来、和光純薬株式会社)等が挙げられる。ラクトフェリンは、1種単独で使用いてもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0033】
コンカナバリンAは、ナタマメ由来のタンパク質として従来知られている。コンカナバリンAは、二量体タンパク質であり、その分子量(二量体)は約52kDaである。コンカナバリンAは、天然型であっても、前述と同様に遺伝子工学的手法を用いて製造されたもの(断片を含む)であってもよい。コンカナバリンAのPDB番号は1JBCである。コンカナバリンAも本開示の効果が得られる限り、その分子量として15~52kDa程度、25~52kDa程度、30~52kDa程度、35~52kDa程度、40~52kDa程度、45~52kDa程度等が例示される。コンカナバリンAは、商業的に入手可能であり、例えば商品名L7647-250G, Concanavalin A Canavalia ensiformis (タチナタマメ由来)TypeVI, lyophilized powder(CAS番号: 11028-71-0、EC 番号:234-258-2、シグマアルドリッチ)等が挙げられる。コンカナバリンAは、1種単独で使用いてもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0034】
リゾチームは、分子量約15kDaの糖質加水分解酵素(EC番号3.2.1.17)であり、ペプチドグリカンを構成するN-アセチルムラミン酸とN-アセチルグルコサミンとの間に形成されるβ-(1→4)グリコシド結合を加水分解することが知られている公知のタンパク質である。リゾチームのPDB番号は1DPXである。リゾチームは、天然型であっても、前述と同様に遺伝子工学的手法を用いて製造されたもの(断片を含む)であってもよい。リゾチームも本開示の効果が得られる限り、その分子量として8~15kDa程度、10~15kDa程度、12~15kDa程度、13~15kDa程度、14~15kDa程度等が例示される。リゾチームは商業的に入手可能であり、例えば商品名122-02673, Lysozyme, from Egg White(CAS番号:12650-88-3、リゾチーム、卵白由来、和光純薬株式会社)等が挙げられる。リゾチームは、1種単独で使用いてもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0035】
ヘモグロビンは、赤血球に含まれる赤色素たんぱく質であり、その分子量は約65kDaである。ヘモグロビンのPDB番号は2QSPである。ヘモグロビンは、天然型であっても、前述と同様に遺伝子工学的手法を用いて製造されたもの(断片を含む)であってもよい。ヘモグロビンも本開示の効果が得られる限り、その分子量として20~65kDa程度、30~65kDa程度、40~65kDa程度、50~65kDa程度、60~65kDa程度等が例示される。ヘモグロビンは商業的に入手可能であり、例えば商品名081-03492, Hemoglobin, from Bovine(CAS番号: 9008-02-0、ヘモグロビン、ウシ、和光純薬株式会社)等が知られている。ヘモグロビンは、1種単独で使用いてもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0036】
本開示を制限するものではないが、第2タンパク質として、好ましくはラクトフェリン、コンカナバリンAが例示される。第2タンパク質は、1種単独で使用してもよく2種上を組み合わせて使用してもよい。
【0037】
第1タンパク質と第2タンパク質との連結物は、第1タンパク質と第2タンパク質とを連結させて得られるものであり、この限りにおいて制限されない。
【0038】
第1タンパク質として抗体を用いる場合、第2タンパク質は、抗体の抗原結合性に影響を与えない部分に連結される。また、第1タンパク質としてレセプターを用いる場合、第2タンパク質は、レセプターのアゴニスト及び/またはアンタゴニストへの結合性に影響を与えない部分に連結される。また、第1タンパク質としてレクチンを用いる場合、第2タンパク質は、レクチンの糖鎖結合性に影響を与えない部分に連結される。また、第1タンパク質として酵素用いる場合、第2タンパク質は、酵素活性に影響を与えない部分に連結される。これらの部位は従来公知である。
【0039】
該活性に影響を与えない連結として、例えば、アミンカップリング法、チオールカップリング法、遺伝子融合法、ストレプトアビジン-ビオチン相互作用、荷電性ポリマー法、DNAハイブリダイゼーション法等の従来公知の方法が挙げられる。本開示はこの限りにおいて制限されないが、好ましくはアミンカップリング法、チオールカップリング法、遺伝子融合法等が例示される。これによって、第1タンパク質と第2タンパク質とが連結される。第1タンパク質と第2タンパク質とは、連結している限り、直接連結されていてもよく間接的に連結されていてもよく、NC膜への接触時に第1タンパク質と第2タンパク質とが一体となって連結物を構成するものであればよい。
【0040】
本開示を制限するものではないが、一例を説明すると、アミンカップリング法やチオールカップリング法により、第一アミン基(-NH2)、チオール基、ジスルフィド結合等を介して連結させればよく、従来公知の架橋剤を適宜使用すればよい。例えば、アミンカップリン剤として、EDC(エチルジメチルアミノプロピルカルボジイミド)/NHS(Nヒドロキシスクシンイミド)混合物、グルタルアルデヒド、DSP(Dithiobis(succinimidyl propionate))等が例示される。例えば、チオールカップリング剤としては、SMCC(succinimidyl 4-[N-maleimidomethyl]cyclohexane-1-carboxylate)/イミノチオラン(塩酸塩)、SPDP(N-Succinimidyl 3-(2-pyridyldithio)propionate)/イミノチオラン(塩酸塩)、SMCC/イミノチオラン(塩酸塩)等の組み合わせが例示される。SMCCに代えて、EMCS(N-(6-Maleimidocaproyloxy)succinimide)、GMCS(N-(4-Maleimidobutyryloxy)succinimide)等を用いてもよい。
【0041】
また、本開示を制限するものではないが、遺伝子融合法について一例を説明すると、第1タンパク質と第2タンパク質の遺伝子を融合した形で合成する手法、ライゲーションによって連結し、これを細胞にトランスフェクトして、第1タンパク質と第2タンパク質とが1つのポリペプチドとして繋がった融合タンパク質を作出する手法等が例示される。
【0042】
第1タンパク質と第2タンパク質との連結物における第1タンパク質と第2タンパク質の含有量は、特に制限されない。本開示を制限するものではないが、例えば、連結物における第1タンパク質(合計量)と第2タンパク質の含有量(合計量)として、質量比で、連結物中の第1タンパク質量(合計量)1に対して、第2タンパク質(合計量)が好ましくは1~3、より好ましくは1~2、更に好ましくは1~1.5等が例示される。
【0043】
本開示において、第2タンパク質に、抗体、レセプター、レクチン及び酵素からなる群より選択される1種のみを連結させてもよく、2種以上を連結させてもよく、3種以上を連結させてもよく、4種全てを連結させてもよい。好ましくは、第2タンパク質に、抗体、レセプター、レクチン及び酵素からなる群より選択される1種または2種のみが連結される。また、抗体が連結した第2タンパク質、レセプターが連結した第2タンパク質、レクチンが連結した第2タンパク質、酵素が連結した第2タンパク質を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0044】
該連結物とNC膜との接触は、該連結物を含有する溶液を、ニトロセルロース膜に接触させることにより行われる。
【0045】
該連結物を含有する溶液(以下、NC膜接触用溶液と記載する場合がある)は、連結物をNC膜に接触させる際に用いる溶液であって、本開示の効果を妨げない限り、接触、乾燥後に連結物がNC膜に固定される限り制限されない。
【0046】
NC膜接触用溶液のpHは、本開示の効果が得られる限り制限されないが、好ましくはpH1~14が例示され、より好ましくはpH5~13.5が例示される。また、該pHとして更に好ましくは1~7、2~6、7~13、10~13、11~13等のいずれであってもよい。このようにpHは、pH1~14の範囲において適宜決定すればよい。pHは、25℃でpHメータ(商品名LAQUA、堀場製作所製)を用いて測定した値であり、連結物との混合後の溶液のpHであって、NC膜と接触させる際のpHを意味する。
【0047】
また、NC膜接触用溶液として、本開示を制限するものではないが、従来公知の緩衝液等を用いてもよく、緩衝液の一例として、従来公知の各種グッドバッファー(Good’s buffer)を用いて常法に従い調製した緩衝液が例示される。本開示を制限するものではないが、緩衝剤としてMES(2-(N-morpholino)ethanesulfonic acid)、Bis-Tris(Bis(2-hydroxyethyl)iminotris(hydroxymethyl)methane)、ADA(N-(2-Acetamido)iminodiacetic acid)、PIPES(piperazine-1,4-bis(2-ethanesulfonic acid))、ACES(N-(2-Acetamido)-2-aminoethanesulfonic acid)、MOPSO(2-Hydroxy-3-morpholinopropanesulfonic acid)コラミン酸塩、BES(N,N-Bis(2-hydroxyethyl)-2-aminoethanesulfonic acid)、MOPS(3-(N-morpholino)propanesulfonic acid)、TES(N-Tris(hydroxymethyl)methyl-2-aminoethanesulfonic acid)、HEPES(4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethanesulfonic acid)、DlPSO(3-[N,N-Bis(2-hydroxyethyl)amino]-2-hydroxypropanesulfonic acid)、TAPSO(2-Hydroxy-N-Tris(hydroxymethyl)methyl-3-aminopropanesulfonic acid)、POPSO(Piperazine-1,4-bis(2-hydroxy-3-propanesulfonic acid),dihydrate)、HEPPSO(2-Hydroxy-3-[4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazinyl]propanesulfonic acid,monohydrate)、EPPS(3-[4-(2-Hydroxyethyl)-1-piperazinyl]propanesulfonic acid)、アセトアミドグリシン、トリシン、グリシンアミド、ピジン、TAPS(N-Tris(hydroxymethyl)methyl-3-aminopropanesulfonic acid)、CHES(N-Cyclohexyl-2-aminoethanesulfonic acid)、CAPSO(3-(Cyclohexylamino)-2-hydroxy-1-propanesulfonic acid)、CAPS(N-Cyclohexyl-3-aminopropanesulfonic acid)等が例示される。
【0048】
本開示を制限するものではないが、一般的な例を挙げると、緩衝剤としてADA、PIPES、POPSOのいずれかを用いる緩衝剤は、該緩衝剤と水と水酸化ナトリウムとを混合して溶解し、水酸化ナトリウムでpH調整を行って調製される緩衝液である。緩衝剤としてBis-Trisを用いる緩衝剤は、該緩衝剤を水に溶解し、塩酸でpH調整を行って調製される緩衝液である。前述の具体的に列挙したその他の緩衝剤は、各緩衝剤を水に溶解し、水酸化ナトリウムでpH調整を行って調製される緩衝液である。
【0049】
また、これら以外にも、NC膜接触用溶液として、グリシン-塩酸緩衝液(Gly-HCl buffer、目安pH1~3)、酢酸緩衝液(Acetate buffer、目安pH4)、MES-水酸化ナトリウム緩衝液(Mes-NaOH buffer、目安pH5~6)、トリス-塩酸緩衝液(Tris(tris(hydroxymethyl)aminomethane)-HCl buffer、目安pH7~8)、グリシン-水酸化ナトリウム緩衝液(Gly-NaOH buffer、目安pH9~12)、塩化カリウム-水酸化ナトリウム緩衝液(KCl-NaOH buffer、目安pH13)、その他、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、従来公知のリン酸緩衝生理食塩水等の公知の溶液が例示される。
【0050】
本開示を制限するものではないが、一般的な例を挙げると、グリシン-塩酸緩衝液は、グリシンを水に溶解し、塩酸でpH調整を行って調製される緩衝液である。酢酸緩衝液は、酢酸ナトリウムと酢酸で調製される緩衝液である。MES-水酸化ナトリウム緩衝液は、MESを水に溶解し、水酸化ナトリウムでpH調整を行って調製される緩衝液である。トリス-塩酸緩衝液は、トリスを水に溶解し、塩酸でpH調整を行って調製される緩衝液である。グリシン-水酸化ナトリウム緩衝液は、グリシンを水に溶解し、水酸化ナトリウムでpH調整を行って調製される緩衝液である。塩化カリウム-水酸化ナトリウム緩衝液は、水に塩酸と水酸化ナトリウムを混合することにより調製される緩衝液である。水酸化ナトリウム水溶液は、水酸化ナトリウムと水とを混合することにより調製される緩衝液である。水酸化カリウム水溶液は、水酸化カリウムと水とを混合することにより調製される緩衝液である。リン酸緩衝水溶液(PBS)は、一般的に公知の組成に従い適宜pHを変更して使用すればよい。
【0051】
これらに代表されるように、本開示においてNC膜接触用溶液は、従来公知の手順に従い、水と緩衝剤等を混合し、pHを所望の値に調整することにより作製される。本開示を制限するものではないが、NC膜接触用溶液における緩衝成分の濃度として、通常、10~200mM、好ましくは10~100mM、より好ましくは10~50mM等が例示される。
【0052】
該溶液は1単独で使用してもよく2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0053】
また、本開示を制限するものではないが、NC膜接触用溶液には、本開示の効果を損なわない範囲で、トレハロース、マンニトール、ソルビトール等の単糖類、二糖類等の糖類;イオン性界面活性剤(デオキシコール酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)等)、両性界面活性剤(CHAPS(3-(3-cholamidepropyl)dimethylammonio-1-propanesulpHonate)等)、非イオン性界面活性剤(Triton X-100、Tween 20等)といった界面活性剤等の従来のタンパク質の固定化に用いられる添加剤を配合してもよく、配合しなくてもよい。配合する場合、これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、その配合量も、添加剤の種類に応じて例えば0~5w/v%、0.0001~3w/v%、0.01~1w/v%、0.01~0.5w/v%等の範囲など、従来の手順に従い適宜決定すればよい。本開示を制限するものではないが、NC膜接触用溶液には、本開示の効果を損なわない範囲で、塩化ナトリウム、塩化カリウムなどに代表される電解質を含んでもよく、その含有量は制限されないが、例えば0~500mM、0~300mMの範囲が例示される。
【0054】
連結物を含有するNC膜接触用溶液中の連結物の量は制限されず、本開示の効果が得られる限り制限されない。例えば、該溶液中の第1タンパク質(合計量)の含有量は5μg/ml以上が例示され、より好ましくは10μg/ml~10mg/ml、更に好ましくは100μg/ml~5mg/ml、特に好ましくは500μg/ml~5mg/ml等が例示される。
【0055】
本開示では、抗体を固定したNC膜を用いることにより効率よく抗原を結合できることから、該溶液中の抗体の含有量が10μg/ml以下など、抗体は比較的低濃度であってもよい。また、同様に、本開示では、レセプターを固定したNC膜を用いることにより効率よく、その活性を検出できることから、該溶液中のレセプターの含有量が10μg/ml以下など、レセプターは比較的低濃度であってもよい。また、同様に、本開示では、レクチンを固定したNC膜を用いることにより効率よく、その活性を検出できることから、該溶液中のレクチンの含有量が10μg/ml以下など、レクチンは比較的低濃度であってもよい。また、同様に、本開示では、酵素を固定したNC膜を用いることにより効率よく酵素活性を検出できることから、該溶液中の酵素の含有量が10μg/ml以下など、酵素は比較的低濃度であってもよい。
【0056】
連結物を含有するNC膜接触用溶液とNC膜との接触は、これらが接触する限り如何なる手段で行っても制限されない。該接触は、例えば、該溶液をNC膜に滴下する、該溶液にNC膜を浸漬する、インクジェット塗布、キャピラリー塗布供給(塗布等)、キャピラリー供給(塗布等)等のいずれであってもよい。また、接触はNC膜の全体に対して行ってもよく、一部分に対してのみ行ってもよく、NC膜上において第1タンパク質に起因する活性を表示させたい場所等に応じて適宜決定すればよい。
【0057】
接触の温度も制限されず、簡便である点から、室温(25℃)で行うことができる。また、連結物を含有するNC膜接触用溶液のNC膜への接触量も適宜設定すればよい。本開示を制限するものではなく、該溶液中の第1タンパク質の量にもよるが、例えば第1タンパク質を含む該溶液のNC膜への接触量は、後述の実施例に示すようなクロマトグラフィ用ストリップに使用されるNC膜に、キャピラリー塗布により長さ5mmの直線を引くことでNC膜接触用溶液が適用される場合、該NC膜接触用溶液のNC膜への接触量は、該5mmの直線あたり0.2~2μLが好ましく例示され、より好ましくは0.3~1μLが例示される。
【0058】
工程(2)
本開示の第1タンパク質固定ニトロセルロース膜の製造方法は、(2)前記工程(1)において連結物を接触させたニトロセルロース膜を乾燥させる工程を含有する。
【0059】
乾燥は、自然乾燥であってもよく、恒温槽等の温度や風速等が調製可能な装置を用いてもよい。乾燥温度も制限されず、25~80℃で行うことができ、好ましくは25~70℃、更に好ましくは30~50が例示される。このようにして、第1タンパク質が固定されたNC膜(第1タンパク質固定NC膜)が得られる。また、本開示の製造方法によれば、第2タンパク質と連結した第1タンパク質が、該第2タンパク質を介して、NC膜に固定されている。第1タンパク質固定NC膜はこのようにして得られる。このことから、本開示において第2タンパク質は、吸着によってNC膜と実質的に直接固定化されている(吸着固定)といえる。また、このことから、本開示は、第2タンパク質と連結した第1タンパク質が、該第2タンパク質を介して、NC膜に固定されている、第1タンパク質固定NC膜を提供するといえる。
【0060】
なお、後述の実施例において説明する通り、本発明者らは、NC膜を用いながらも抗体の抗原結合性等を向上できる手段を鋭意検討し、その一例として様々なタンパク質についても検討を行った。そうしたところ、前記第2タンパク質を用いた場合において該活性が向上することを見出した。これは、前記第2タンパク質が、抗体や酵素といった前記第1タンパク質よりも優先してNC膜に吸着することに起因しており、その結果、前記第1タンパク質のNC膜への吸着が妨げられ、その活性が効率良く維持されると考えられた。
【0061】
本開示において第2タンパク質と連結した第1タンパク質が、該第2タンパク質を介して、NC膜に固定されていることの確認は、第1タンパク質と第2タンパク質との連結部を還元剤やエンドプロテアーゼによって切断し、膜内から抽出したタンパク質をウェスタンブロットなどの免疫学的手法によって取得し、その種類(第2タンパク質)を確認することにより行うことができる。
【0062】
なお、本開示の第1タンパク質固定NC膜では、前述の通り、第2タンパク質と連結した第1タンパク質が、該第2タンパク質を介して、NC膜に固定されるが、これは、第2タンパク質を介さずにNC膜に固定された第1タンパク質が一切存在しないことを意味するものではなく、第2タンパク質を介さずにNC膜に固定された第1タンパク質が存在してもよい。本開示は、第2タンパク質を介してNC膜に固定された第1タンパク質を配置することにより、て第1タンパク質の活性を増強するものであるといえる。
【0063】
本開示の第1タンパク質固定NC膜は、NC膜に固定された第1タンパク質の特性に応じて適宜使用することができる。
【0064】
なお、このようにして得られた第1タンパク質固定NC膜に対して、ブロッキング処理を行ってもよく、行わなくてもよい。ブロッキングは、従来公知の手順に従えばよく、例えばBSA(Bovine Serum Albumin;ウシ血清アルブミン)またはカゼインを0.1~5%程度含有する中性緩衝液等を用いたブロッキングが例示される。
【0065】
第1タンパク質が抗体の場合、本開示の抗体固定NC膜は、抗原と接触させることにより使用される。抗原との接触は、NC膜に固定された抗体と抗原とが接触する限り制限されない。抗原として好ましくは、前記抗体に対応する抗原が例示される。
【0066】
第1タンパク質がレセプターの場合、本開示の抗体固定NC膜は、アゴニスト及びアンタゴニストから選択される少なくとも1種と接触させることにより使用される。該接触は、NC膜に固定されたレセプターと抗原とアゴニスト及びアンタゴニストから選択される少なくとも1種とが接触する限り制限されない。
【0067】
第1タンパク質がレクチンの場合、本開示の抗体固定NC膜は、糖鎖保持物質と接触させることにより使用される。該接触は、NC膜に固定されたレクチンと糖鎖保持物質とが接触する限り制限されない。
【0068】
第1タンパク質が酵素の場合、本開示の抗体固定NC膜は、基質と接触させることにより使用される。該接触は、NC膜に固定された酵素と基質とが接触する限り制限されない。
【0069】
なお、このように本開示においては通常、抗原、アゴニスト、アンタゴニスト、糖鎖保持物質及び基質からなる群より選択される少なくとも1種の物質(以下、被認識物と記載する場合がある)と接触させて使用されるが、被認識物の存在が疑わしい試料をNC膜に適用して、該試料と、NC膜に固定された第1タンパク質とを接触させてもよい。このような場合、一般的には、該試料に被認識物が存在するか否かを確かめるために行われる点から、該試料には、必ずしも被認識物が存在している必要なない。
【0070】
該接触は、第1タンパク質と被認識物とを接触できる限りいずれの手順で行ってもよい。該接触として、例えば、被認識物を含む溶液(被認識物の存在が疑わしい試料を含む、以下同じ)を第1タンパク質固定NC膜に滴下する;被認識物を含む溶液に第1タンパク質固定NC膜を浸漬する;被認識物を含む溶液を第1タンパク質固定NC膜の一部に接触させ、接触部からの被認識物の浸透によってNC膜に固定した第1タンパク質と接触させる:インクジェット供給(塗布等):キャピラリー供給(塗布等)等のいずれであってもよく、従来の免疫学的手法に従い行えばよい。また、該接触は第1タンパク質固定NC膜の全体に対して行ってもよく、一部分に対してのみ行ってもよく、NC膜上の第1タンパク質と反応させたい場所に応じて適宜決定すればよい。
【0071】
該接触は、簡単であることから室温(25℃)で行うことができる。また、本開示の効果が得られる限り、被認識物を含む溶液のNC膜への接触量は制限されない。本開示を制限するものではないが、例えば後述の実施例に示すイムノクロマトグラフィ用ストリップを用いる場合は、該NC膜への接触量として0.1~10μL、0.2~5μL、0.3~2μL、0.5~1μL等が挙げられる。ストリップ以外を用いる場合は、該値を参考にして適宜決定すればよい。このように接触させることにより、NC膜に固定された第1タンパク質と被認識物を結合させることができる。該接触後、乾燥は行ってもよく、行わなくてもよい。
【0072】
本開示を制限するものではないが、被認識物量を調整してもよく、その場合、例えば第1タンパク質が抗体である場合、溶液中の抗原量は1pfu/mL以上、10pfu/mL以上、20~500pfu/mL、80~300pfu/mL、80~200pfu/mL等が例示される。溶液中の抗原量は、必要であれば該値に基づいて適宜設定すればよい。他の第1タンパク質を用いる場合も、該値、また、従来の手順を考慮して、被認識物量を適宜決定すればよい。
【0073】
NC膜における被認識物の検出、すなわち、前記活性の検出は、従来公知の手順に従い行えばよい。第1タンパク質が抗原の場合、本開示を制限するものではないが、抗原(抗原結合性)の検出は、例えば、蛍光物質、酵素、金属(金コロイド等)、ビオチン、アビジン、ストレプトアビジン、PEG(ポリエチレングリコール)標識、ポリマー(カラー(有色)ラッテクス等)標識等の標識物質、二次抗体等の物質を利用した従来公知の抗原抗体反応検出手順に従い行えばよい。前記物質は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0074】
第1タンパク質がレセプターの場合も同様に、アゴニスト及び/またはアンタゴニスト(結合性)の検出は、必要に応じて前述の各種物質を用いて、従来公知の検出手順に従い行うことが例示される。
【0075】
第1タンパク質がレクチンの場合も同様に、糖鎖保持物質(糖鎖結合性)の検出は、必要に応じて前述の各種物質を用いて、従来公知の検出手順に従い行うことが例示される。
【0076】
第1タンパク質が酵素の場合も同様に、酵素活性の検出は、従来公知の手法に従い行えばよい。例えば、本開示を制限するものではないが、酵素に応じた基質を作用させることにより酵素活性を検出することができる。本開示を制限するものではないが、酵素としてHRPを用いる場合、基質としてTMB(3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン)、ルミノール、DAB(3,3’‐ジアミノベンジジン四塩酸塩)等が例示される。また、酵素としてアミラーゼ、セルラーゼ、トリプシン、キモトリプシン等を用いる場合も、各酵素に特異的に反応する基質は公知である。また、商業的に入手可能な酵素活性キット等を用いて、その酵素活性を検出してもよい。本開示を制限するものではないが、該キットして、例えばアミラーゼについては、「α-アミラーゼ分析キット(Ceralpha法)」(アミラーゼHR試薬(ブロック型p-ニトロフェニル-マルトヘプタオシド(BPNPG7)))、「α-アミラーゼSD分析キット(高感度法)」(4,6-O-エチリデン-α-4-ニトロフェニル-マルトヘプタオシド(EtPNPG7)等)、「β-アミラーゼ分析キット(Betamyl-3法)」(いずれも日本バイオコン株式会社)、セルラーゼについては「セルラーゼ分析キット(CellG5 法)」(CellG5 試薬(4,6-O-(3-ケトブチリデン)-4-ニトロフェニル-β-セロペンタオシド(BPNPG5))等)、「セルラーゼ分析キット(CellG3 法) 」(CellG3試薬(ベンジリデン基ブロック2-クロロ-4-ニトロフェニル-β-D-セロトリオシド(BCNPG3))等)(いずれも日本バイオコン株式会社)、トリプシンについては「Trypsin Activity Assay Kit」(BioVision社)、キモトリプシンについては「Chymotrypsin Activity Assay Kit」(シグマアルドリッチ)等が例示される。
【0077】
本開示において、前記活性の検出は測定の意味を包含し、必要であれば、従来の方法に従い活性を測定してもよい。検出(測定)は、前述の各種物質を必要に応じて用いることにより、目視観察、蛍光顕微鏡観察、分光光度計、イムノクロマトリーダー、蛍光スキャナー、ルミノメーター等の検出(測定)可能な装置等を用いて行うことができる。
【0078】
また、本開示の方法によって得られる第1タンパク質固定NC膜は、イムノクロマトグラフィ、ELISA法(酵素免疫測定法(直接法、間接法、サンドイッチ法、競合法))、蛍光免疫測定、ラジオイムノアッセイ等のNC膜を用いる手法において利用できる。
【0079】
特に、第1タンパク質が抗体である場合、イムノクロマトグラフィにおける高感度化は、POCT検査等の発展にも有用である。また、第1タンパク質がレクチンやレセプターの場合、抗体では元来分離回収が困難な多様な生体分子を膜上に濃縮可能となり、プロテインチップやアフィニティ分離膜への利用が期待できる。また、第1タンパク質が酵素の場合、本開示の標識酵素固定NC膜は、例えば、バイオマスや食品加工用の固定化酵素分離膜としても有用である。
【0080】
後述の実施例から理解できる通り、第2タンパク質を連結させた抗体をNC膜に接触させることにより得た抗体固定NC膜を用いた場合、第2タンパク質を連結させていない(以下、無連結の)抗体をNC膜に接触させることにより得た抗体固定NC膜を用いた場合よりも、抗原を高感度で検出することができた。このように、驚くべきことに本発明者らは、第2タンパク質を用いることにより、抗体固定NC膜において抗原結合性が高まることを見出した。抗原結合性は、抗体に起因する活性である。
【0081】
また、第1タンパク質として酵素を用いた場合も同様に、第2タンパク質を連結させた酵素をNC膜に接触させることにより得た酵素固定NC膜を用いた場合、無連結の酵素をNC膜に接触させることにより得た酵素固定NC膜を用いた場合よりも、酵素活性を高感度で検出することができた。酵素活性は固定化された酵素に起因する活性である。
【0082】
また、このように第2タンパク質と連結させた抗体や酵素を用いた場合、NC膜における検出感度が向上したことから、第1タンパク質として、抗体や酵素に代えて、レセプターやレクチンを用いた場合であっても、同様に、無連結のレセプターやレクチンを用いた場合と比較して、NC膜においてレセプターやレクチンに起因する活性の検出感度が向上すると理解できる。
【0083】
これらのことから、本開示はまた、前記工程(1)及び(2)を含有する、第1タンパク質に起因する活性が増強された、第1タンパク質固定NC膜を製造するための方法を提供するといえる。第1タンパク質に起因する各活性は前述の通りである。
【0084】
本開示において、活性が増強されたとは、より少量の被認識物であっても検出できることを意味し、すなわち活性検出の高感度化を意味する。
【0085】
また、従来、イムノクロマトグラフィを利用したPOCT検査等の迅速(簡易)検査等をはじめとする免疫学的手法においては、血液、唾液、尿、鼻汁、喀痰、便、粘膜(鼻腔粘膜、口腔粘膜等)等からの採取物、水道水、食品(飲料含む)等(綿棒ぬぐい検体等を含む)が試料として使用されており、該試料に含まれる抗原等の前記第1タンパク質の検出に用いられてきた。該試料が液状でない場合は、通常、適宜溶媒に懸濁等されて試料として用いられている。本開示においても従来と同様に様々な試料を対象とできる。
【0086】
前述の通り、本開示によれば、NC膜を用いながらも第1タンパク質に由来する活性を高感度で検出できる。免疫学的分野では従来、ELISA、ドットブロットアッセイ、イムノクロマトグラフィなど様々な検出法が知られているものの、NC膜上ではタンパク質の活性が失われやすい傾向にあり、第1タンパク質はNC膜における利用が制限されていた。本開示の第1タンパク質固定NC膜は、抗体チップ、プロテインチップ、メンブレンリアクター、アフィニティ分離膜等の様々な手段においても有用であといえる。
【0087】
第1タンパク質固定ニトロセルロース膜の活性増強方法
前述の通り、本開示の第1タンパク質固定NC膜は、第1タンパク質に起因する活性が増強されている。このことから、本開示はまた、以下の工程を含有する、第1タンパク質固定NC膜の活性増強方法を包含するといえる:
(ア)第1タンパク質と第2タンパク質との連結物を含有する溶液を、ニトロセルロース膜に接触させる工程、及び
(イ)前記工程(ア)において連結物を接触させたニトロセルロース膜を乾燥させて、第1タンパク質固定ニトロセルロース膜を得る工程、
ここで、第1タンパク質は、抗体、レセプター、レクチン及び酵素からなる群より選択される少なくとも1種であり、
第2タンパク質は、ラクトフェリン、コンカナバリンA、リゾチーム及びヘモグロビンからなる群より選択される少なくとも1種であり、
ここで、第1タンパク質が抗体である場合、該活性の増強は抗原結合性の増強であり、
第1タンパク質がレセプターである場合、該活性の増強はアゴニスト及び/またはアンタゴニストへの結合性の増強であり、
第1タンパク質がレクチンである場合、該活性の増強は糖鎖結合性の増強であり、
第1タンパク質が酵素である場合、該活性の増強は酵素活性の増強である。
【0088】
第1タンパク質、第2タンパク質、連結物、接触、乾燥、第1タンパク質固定NC膜、活性、増強等はいずれも、前述と同様に説明される。
【0089】
このことから、工程(ア)は、前記工程(1)と同様に説明される。
【0090】
工程(イ)は、前記工程(2)と同様にして、連結物を接触させたNC膜を乾燥させることにより、第1タンパク質固定NC膜を得る工程である。このことから、該乾燥は、前記工程(2)と同様に説明され、また、これにより第1タンパク質固定NC膜を得ることについても前記「第1タンパク質固定ニトロセルロース膜の製造方法」と同様に説明される。また、必要に応じて前述の通りブロッキング処理を行ってもよい。
【0091】
活性の増強も前記「第1タンパク質固定ニトロセルロース膜の製造方法」と同様に説明される。すなわち、第1タンパク質が抗体である場合、該活性増強は抗原結合性の増強であり、第1タンパク質がレセプターである場合、該活性増強はアゴニスト及びアンタゴニストからなる群より選択される少なくとも1種への結合性の増強であり、第1タンパク質がレクチンである場合、該活性増強は糖鎖結合性の増強であり、第1タンパク質が酵素である場合、該活性増強は酵素活性の増強である。
【0092】
該増強は、本開示の方法により従い製造した第1タンパク質固定NC膜を用いた場合に得られる前記活性が、第2タンパク質を連結させていない(無連体)第1タンパク質をNC膜に接触させることにより得た抗体固定NC膜を用いた場合に得られる活性よりも高いことを意味する。すなわち、前者が、後者よりも高感度に該活性を検出できることを意味する。このように該増強は、該活性を指標とする。
【0093】
該比較は、第1タンパク質固定NC膜において検出される前記活性の有無やその量(強さ)に基づき行えばよく、該活性を検出(測定)できる限り、前述のように第1タンパク質と被認識物とを接触等して、従来公知の免疫学的手法を用いて行えばよく、また、絶対量(絶対値)に基づいても相対量(相対値)に基づいてもよい。該手法として、好ましくは後述の実施例に記載する手法が例示される。第1タンパク質としてレセプターやレクチンを用いる場合は、後述の実施例において抗体や酵素に代えてこれらを用いて行えばよい。また、該比較は、前述の通り比較できる限り制限されないが、通常、第2タンパク質の連結の有無が異なる以外、使用する第1タンパク質の種類、接触、乾燥等の各種条件は実質的に同条件で実施される。
【0094】
本開示によれば、このように第1タンパク質結合NC膜において第1タンパク質に起因する活性を増強できることから、より高感度で被認識物を検出することができる。
【0095】
従来、NC膜においては使用される抗原が一部の完全長抗体に限られており、汎用性が高いとはいえないところがあった。また、メカニズムは不明であるもののNC膜上に抗体が固定されているにもかかわらず、その検出感度(抗体の抗原結合性)が比較的低いという問題があった。このことから、例えば、より多くの抗体をNC膜に固定させることを目的として、抗体固定NC膜の製造時に多量の抗体をNC膜と接触させるなどの対応がなされてきた。しかし、このような対応は、抗体の使用量が多くなることから製造コストの点などに問題があった。また、NC膜に酵素を適用しても活性が失活しやすいことから、NC膜と組み合わせた酵素の利用は汎用性が低かった。本開示の方法は、活性を増強できることから、これらの問題の軽減に有用である。
【0096】
また、従来、抗体を固定させたNC膜はインフルエンザ等の迅速(簡易)検査等にも利用されているところ、前述の通り、使用される抗体は一部の種類の完全長抗体に限られており、実用可能な程度に単鎖抗体、単ドメイン抗体といった抗体を用いることはできなかった。しかし、本開示によれは、単鎖抗体、単ドメイン抗体といった抗体を用いた場合であっても、抗原を高効率で検出でき、これは、NC膜を利用する迅速(簡易)検査において、更には、NC膜を利用する従来の免疫学的手法において、使用可能な抗体の選択肢の増加をもたらす。また、これにより各種免疫検査、例えばPOCT検査等の迅速検査のコストを大幅に削減することができ、POCT検査の普及に大きく貢献する。該普及は、新興国等の医療設備の十分ではない地域における防疫体制の強化にも有用である。
【0097】
また、本開示によれば抗体だけでなく、酵素をNC膜に固定させた場合であっても、その酵素活性を高効率で検出できたことに基づけば、抗体や酵素と同様にタンパク質の一つであるレセプターを第2タンパク質を介してNC膜に固定させた場合であっても、レセプターのアゴニストやアンタゴニストへの結合性をより高められることが理解できた。また、抗体や酵素と同様にタンパク質の一つであるレクチンを第2タンパク質を介してNC膜に固定させた場合であっても、その糖鎖結合性をより高められることが理解できた。このことから、本開示の第1タンパク質固定NC膜は抗体チップ、プロテインチップ、メンブレンリアクター、アフィニティ分離膜等の様々な手段においても有用であといえる。
【実施例0098】
以下、例を示して本開示の実施形態をより具体的に説明するが、本開示の実施形態は下記の例に限定されるものではない。
【0099】
本発明者らは長期にわたりNC膜において抗原や酵素活性を高感度で検出できる技術を検討していたところ、驚くべきことに、ラクトフェリン、コンカナバリンA、リゾチーム、ヘモグロビンを用いたところ、NC膜において検出感度を高められることを見出した。
【0100】
試験例1
1-1)試験手順
1-1-1)抗体scFvとラクトフェリンまたはコンカナバリンAとの連結手順
従来公知の手順に従い、抗体scFv(抗A型インフルエンザウイルス抗体)とラクトフェリンまたはコンカナバリンAとを連結させた。具体的には、次の手順に従い、カップリング反応により、抗体とラクトフェリンまたはコンカナバリンAとを連結させた。
【0101】
(1) 2 mg/mlのラクトフェリン含有溶液、2 mg/mlのコンカナバリンA 含有溶液(いずれも1 mM EDTA(エチレンジアミン四酢酸), 100 mM MES(2-Morpholinoethanesulfonic acid, monohydrate), pH 7.0)を調製した。pHは、25℃でpHメータ(商品名LAQUA、堀場製作所社製)を用いて測定した。
(2) SMCC (succinimidyl 4-[N-maleimidomethyl]cyclohexane-1-carboxylate)をDMF(N,N-dimethylformamide)にて溶解して、SMCC溶液を得た。
(3) SMCCのモル数が溶液中のラクトフェリン、コンカナバリンAのモル数の100倍量になるように、前記 (1)で調製した各溶液 1 mLに対して、前記 (2)で調整した溶液をそれぞれ10μl添加し、室温(25℃)でローテーターにて30分間インキュベーションした。
(4) filtration tube Amicon Ultra Centrifugal Filter (10 K)を用いて限外濾過(4℃, 9,000×g, 10 min)を3回繰り返し、未反応のSMCCを除去した。
(5) 2 mg/mlに調製したAnt-NP-A scFv含有溶液 (2 mM EDTA, 100 mM MES, pH 7.0 )に対して2-イミノチオラン塩酸塩溶液(Traut’s Reagent (2-Iminothiolane・HCl) (2 mM EDTA, 100 mM MES, pH 7.0)を、scFvのモル数の100倍量になるように添加し、1 時間、室温でローテーターにてインキュベーションした。
(6) 前記(4)で得た未反応のSMCCの各除去液に対して、前記(5)で得たscFv含有溶液をそれぞれ添加し、4℃、静置で一晩インキュベーションし反応させた。
(7) SDS-PAGEにて反応を確認した。このようにして、scFvとコンカナバリンAとの連結物、scFvとラクトフェリンとの連結物を作製した。
【0102】
本試験例で用いたラクトフェリン、コンカナバリンAは、次の通り、商業的に入手したものである。
ラクトフェリン:129-04121, Lctoferrin from Bovine Milk ,Wako
コンカナバリンA:L7647-250G, Concanavalin A Canavalia ensiformis (タチナタマメ由来)TypeVI, lyophilized powder ,Sigma
【0103】
1-1-2)イムノクロマト試験
(1) scFv含有濃度が0.5 mg/mlになるように、前述のようにして得た連結物を各pHバッファーにて希釈調製した。各pHバッファは次の手順に従い作成した。
(1-1)100mMの各pH bufferを調製した(表1)。具体的には、Gly-HCl buffer (表中、Gly-HCl)は、Glycineを超純水に溶解し、HClでpH調整を行うことにより調製した。Acetate buffer (表中、Acetate)は、超純水に酢酸ナトリウムと酢酸とを混合することにより調製した。Mes-NaOH buffer(表中、Mes-NaOH)は、Mes(2-Morpholinoethanesulfonic acid, monohydrate)を超純水に溶解し、水酸化ナトリウムpH調整を行うことにより調製した。Tris-HCl buffer(表中、Tris-HCl)は、Tris(Tris(hydroxymethyl)aminomethan)を超純水に溶解し、塩酸でpH調整を行うことにより調製した。Gly-NaOH buffer(表中、Gly-NaOH)は、グリシンを超純水に溶解し、水酸化ナトリウムでpH調整を行うことにより調製した。KCl-NaOH buffer(表中、KCl-NaOH)は、超純水に塩酸と水酸化ナトリウムを混合することにより調製した。pHは、25℃でpHメータ(商品名LAQUA、堀場製作所社製)を用いて測定した。以下、pHの測定は同様に行った。
(1-2)添加剤液 (2 w/v% CHAPS(3-(3-cholamidepropyl)dimethylammonio-1-propanesulpHonate)水溶液)を調製した。
(1-3)前記(1-1)で得たbufferと前記(1-2)で得た添加剤液とを適宜混合し、後述の
図1等に示す通り、各pH1~13域につき2種の溶液(CHAPS 0 w/v%, CHAPS 0.2 w/v%)(ラクトフェリンについてはCHAPS 0 w/v%)を調製した。溶液中の添加剤の濃度は、デンカ株式会社の抗体固相化条件を参照して決定した。
(2) 不活化B型インフルエンザウイルスを分離培地により406.3 pfu/mlに希釈した。
(3) 検体浮遊液89μlに対して、前記(1)で調整した各溶液を7.0μl添加し、ピペッティングにより混合し、これを連結物含有溶液とした。(終濃度28.4 pfu/ml)
(4)市販の抗体固定化青色ラテックス4μlを、前記(3)で得た混合液に対して添加した。(ラッテクス終濃度0.0172 w/v%)
(5) 前記(3)で得た各連結物含有溶液を5 mm幅に裁断したイムノクロマト用ストリップのニトロセルロース膜(NC膜、High-Flow plus HF180(メルク株式会社製)に対して2μlずつスポットし、室温(25℃)で風乾させた。これにより、前記各連結物を固定したNC膜を得た。
(6) 風乾後、前記(4)で得た溶液にストリップを挿し、10分間イムノクロマトテストを行った。
(7) 風乾後、スキャナーGT-X830 (エプソン株式会社製) にて撮影した。
【0104】
【0105】
コンカナバリンAと連結させたscFvを固定したNC膜(以下、「scFv-ConA」と記載する場合がある)を実施例1(CHAPS 0 w/v%)、実施例2(CHAPS 0.2 w/v%)とし、ラクトフェリンと連結させたscFvを固定したNC膜(以下、「scFv-LF」と記載する場合がある)を実施例3(CHAPS 0 w/v%)とした。また、該連結物に代えて、比較例1として、ラクトフェリン、コンカナバリンAのいずれも連結させていないscFvを用い、同様にして調製し、イムノクロマトテストを行った。
【0106】
1-2)結果
結果を
図1~3に示す。
図1は、コンカナバリンA、ラクトフェリンのいずれも連結させていないscFv固定NC膜(比較例1)の結果を示す。
図2は、ConA-scFv(実施例1、実施例2)の結果を示す。各図の写真の縦軸の上段はCHAPS 0 w/v%溶液を用いた結果を示し、下段は CHAPS 0.2 w/v%を用いた結果を示す。また、横軸はpHを示す。また、
図3は、LF-scFv(実施例3)の結果を示す。
図1及び2に示す通り、ラクトフェリン、コンカナバリンAのいずれも連結させていないscFv固定NC膜(
図1、scFv)に対して、コンカナバリンA(ConA)を連結させたscFv固定NC膜(
図2、scFv-ConA)において、スポットが色濃く出現した。また、
図3に示す通り、ラクトフェリン(LF)を連結させたscFv固定NC膜(LF-scFv)においても、スポットが色濃く出現した。各スポットの色の濃さは、抗体の抗原結合性と相関性があり、スポットの色が濃いほど、その部分に抗原が多く存在ことを意味し、抗体の抗原結合性が高いことを意味する。このことから、scFvにConAまたはLFを抗体に連結させることにより、NC膜に固定された抗体の抗原検出性が増強されることが理解できた。
【0107】
試験例2
【0108】
2-1)試験手順
前記試験例1においてscFvをA型インフルエンザウイルス用のscFv(anti-NP A scFV)に変更した以外は、前記試験例1と同様にして、抗原の検出を行った。なお、抗原量は56.9pfu/mLとし、CHAPS無添加にて行った。
【0109】
2-2)結果
結果を
図4に示す。
図4に示す通り、A型インフルエンザウイルス用のscFvを用いた場合であっても、試験例1と同様に、LF、ConAのいずれも連結させていないscFv固定NC膜(図中(A)、比較例2)と比較して、LFを連結させたscFv固定NC膜(図中(B)、実施例4)、ConAを連結させたscFv固定NC膜(図中(C)、実施例5)において、スポットがより一層色濃く出現した。このことから、試験例1とは異なる抗体であっても、scFVにLFまたはConAを抗体に連結させることにより、NC膜に固定された抗体の抗原検出性が増強されることが理解できた。
【0110】
試験例3
3-1)試験手順
前記試験例1においてscFvをA型インフルエンザウイルス用VHH(anti-NP A VHH)に変更した以外は、前記試験例1と同様にして、抗原の検出を行った。なお、抗原量は56.9pfu/mLとし、CHAPS無添加にて行った。
【0111】
3-2)結果
結果を
図5に示す。
図5に示す通り、VHHを用いた場合であっても、試験例1、2と同様に、LF、ConAのいずれも連結させていないVHH固定NC膜(図中(A)、比較例3)と比較して、LFを連結させたVHH固定NC膜(図中(B)VHH-LF、実施例6)、ConAを連結させたVHH固定NC膜(図中(C)VHH-ConA、実施例7)において、スポットがより一層色濃く出現した。このことから、抗体としてscFVを用いた場合だけでなく、VHHを用いた場合も、LFまたはConAを抗体に連結させることにより、NC膜に固定された抗体の抗原検出性が増強されることが理解できた。
【0112】
試験例4
4-1)試験手順
前記試験例1~3において抗体とLFまたはConAとを連結させることにより、抗体の抗原検出性が増強することが確認されたことから、抗原濃度を低減させて更に試験を行った。具体的には、抗原濃度28.4pfu/mL、2.84 pfu/mL、0.28 pfu/mL、0 pfu/mLの4段階で試験を行った。
【0113】
4-2)結果
結果を
図6に示す。
図6中、(B)はLFを連結させたscFv固定NC膜(実施例8)、(C)はConA連結させたscFv固定NC膜(実施例9)の結果である。実施例8及び9のいずれも、抗原濃度28.4pfu/mLにおいて色の濃いスポットが出現した。また、これらにおいては、抗原濃度を2.84 pfu/mL、0.28 pfu/mLへと更に低くした場合であってもスポットが認められた。これに対して、表中(A)に示すLF、ConAのいずれも連結させていないscFv固定NC膜(比較例4)では、抗原濃度28.4pfu/mLの場合、同表中(B)の実施例8において同濃度の抗原を用いた場合よりも、著しく色の薄いスポットがかろうじて出現するにとどまり、抗原濃度2.84 pfu/mL、0.28 pfu/mLへと更に低くした場合、スポットが観察されなかった。このように、LFまたはConAを連結させていない場合と比較して、LFまたはConAを連結させることにより、活性が大きく向上した。このことからも、LFまたはConAを抗体に連結させることにより、NC膜に固定された抗体の抗原結合性を増強できることが理解できた。なお、比較例4、実施例8、実施例9は、至適固定化条件における検出感度の比較結果であり、固定化時のpHが異なるが、
図1にも示すとおり、LFおよびConAを連結した場合、広範囲のpH領域において、scFvの抗原結合シグナルが大幅に向上していることから、本発明の利用可能なpH範囲は比較的広いと考えられる。
【0114】
試験例5
5-1)試験手順
抗体をA型インフルエンザ用scFvとし、抗原濃度56.9pfu/mL、5.69pfu/mL、0.57pfu/mL、0 pfu/mLの4段階とした以外は試験例4と同様にして試験を行った。
【0115】
5-2)結果
結果を
図7に示す。
図7中、(B)はLFを連結させたscFv固定NC膜(実施例10)、(C)はConAを連結させたscFv固定NC膜(実施例11)の結果であり、
図6と同様に、両者において抗原濃度56.9pfu/mL、5.69pfu/mL、0.57pfu/mLのいずれにおいてもスポットが認められた。これに対して、表中(A)に示すLF、ConAのいずれも連結させていないscFv固定NC膜(比較例5)では、抗原濃度56.9pfu/mL、5.69pfu/mLの場合、スポットが認められたが、これらは実施例10、実施例11において認められたスポットよりも色が薄いスポットであった。また、比較例5では、抗原濃度0.57pfu/mLの場合、スポットは認められなかった。このことからも、LFまたはConAを抗体に連結させることにより、NC膜に固定された抗体の抗原検出性が増強されることが理解できた。
【0116】
また、結果には示していないが、該A型インフルエンザ用scFvに代えて、A型インフルエンザ用HVVを用いて試験を行った場合も、抗体にLFまたはConAを連結させた場合は、LFまたはConAを連結させていない場合よりも、色の濃いスポットが得られた。このことから、scFvやHVVといった抗体の種類に関わらず、LFまたはConAを連結させることにより、NC膜に固定された抗体の抗原検出性が増強されることが理解できた。
【0117】
試験例6
抗体に代えて酵素を用いた場合においても、活性を増強できることを以下の試験で確認した。また、ラクトフェリン、コンカナバリンAに代えてリゾチーム、ヘモグロビンを連結させた場合においても、活性を増強できることを以下の試験で確認した。本試験例では、酵素としてHRP(西洋ワサビペルオキシダーゼ)を用いた。
【0118】
6-1)試験手順
6-1-1)酵素(HRP)と第2タンパク質(ラクトフェリン、コンカナバリンA、リゾチーム、ヘモグロビン)との連結物の作製
【0119】
6-1-1-1)ビオチン化第2タンパク質の調製
(1) ラクトフェリン、コンカナバリンA、リゾチーム、ヘモグロビンをそれぞれ0.1 M Carbonate buffer (pH 8.3)に対して、4.0 mg/mlになるように溶解し、これを第2タンパク質溶液とした。
(2) ビオチンアミドカプロン酸 N-ヒドロキシスクシンイミドエステル(Biotin-NHS)をN,N-ジメチルホルムアミド (DMF) に対して10 mg/mlになるように溶解した。
(3) 前記(1)で得た各2タンパク質溶液に対して各タンパク質とビオチン化試薬とのモル比が1:10になるように、前記(2)の溶液を添加し、室温(25℃)、ローテーターにて、1時間インキュベーションした。
(4)このようにして得た反応溶液1 mlに対して、1.5 M Tris-HCl (pH 8.5) を100 μl添加し、25℃で1時間ローテーターにてインキュベーションすることで反応(ビオチン化)を停止させた。
(5) AKTA Purifier (GE healthcare) を起動させた。
(6) ゲル濾過用HiTrap Desaulting (5 ml) (Cytiva)カラムに対してバッファー (1×PBS (pH 8.0))を供給し、カラム内を平衡化した。
(7) 前記(4)で得たビオチン化後の各タンパク質溶液を2 mlのサンプルループに対して1 mlインジェクトし、2 ml/minの流速でゲル濾過した。
(8) フラクションを0.5 mlずつ回収した。
(9) DCプロテインアッセイ(スタンダードアッセイ)によりタンパク質定量を行った。
【0120】
このようにして、ビオチン化されたラクトフェリン、ビオチン化されたコンカナバリンA、ビオチン化されたリゾチーム、ビオチン化されたヘモグロビンを作製した。以下、これらをビオチン化ラクトフェリン、ビオチン化コンカナバリンA、ビオチン化リゾチーム、ビオチン化ヘモグロビンと記載する。
【0121】
なお、本試験例で用いたラクトフェリン、コンカナバリンAは、前記試験例1等で用いたものと同じである。ヘモグロビン、リゾチームは次の通りである。
リゾチーム:122-02673, Lysozyme, from Egg White, Wako
ヘモグロビン:081-03492, Hemoglobin, from Bovine, Wako
【0122】
6-1-1-2)HRPとラクトフェリン、コンカナバリンA、リゾチーム、ヘモグロビンとの連結
(1) HRP標識ストレプトアビジン(SA)とビオチンとを相互作用させた。具体的には、前述のようにして得たビオチン化ラクトフェリンと、市販のSA-HRP(SA50141, (Vector))と、バッファーとをエッペンチューブ内で混合し、100μg/ml ビオチン化ラクトフェリン、0.62 μg/mlのSA-HRPを含有する混合溶液を作製した。これによりエッペンチューブ内で、ストレプトアビジン(SA)とビオチンとを相互作用させることにより、SAとビオチンとを介して、ラクトフェリンとHRPとを連結させた。これにより、ラクトフェリンと酵素(HRP)との連結物を得た。
(2)ビオチン化コンカナバリンA、ビオチン化リゾチーム、ビオチン化ヘモグロビンについても同様にして、SA-HRPと、バッファーとをエッペンチューブ内で混合し、ストレプトアビジン(SA)とビオチンとを相互作用させた。これにより、SAとビオチンとを介して、コンカナバリンAとHRPとの連結物、リゾチームとHRPとの連結物、ヘモグロビンとHRPとの連結物とをそれぞれ得た。
【0123】
6-1-2)NC膜上でのHRP酵素活性評価
(1)前述の通り作製した連結物を含む溶液(1xPBS(137mmol/l NaCl, 10mmol/l Na2HPO4, 2.68mmol/l KCl, 2mmol/l KH2PO4,), pH 8.0, CHAPS濃度0, 0.2, 2.0%)を、2 μlずつ、NC膜(Amersham Protran, (cytiva))に対して塗布し、室温で風乾させた。
(2) 風乾後、2 % BSA-PBS(pH 8.0) にて室温、1時間振盪することでブロッキングした。これにより、各連結物が固定化されたNC膜(実施例12の各i~iv)を作製した。
(3) 0.1 % PBSTにて5回洗浄後、HRP の基質であるTMB (1-Step(商標)Ultra TMB-Blotting Solution)にて発色した。
(4) 乾燥後、スキャナーGT-X830 にて撮影し画像化した。
【0124】
なお、比較例6として、ビオチン化していないラクトフェリンと、SA-HRPと、バッファーとをエッペンチューブ内で混合し、100μg/ml ラクトフェリン、0.62μg/mlのSA-HRPを含有する混合溶液を作製した(比較例1)。コンカナバリンA、リゾチーム、ヘモグロビンのそれぞれについても同様に行った(比較例6の各i~iv)。
【0125】
6-2)結果
結果を
図8に示す。本試験例では、抗体に代えて、標識酵素として知られているタンパク質HRP(西洋ワサビペルオキシダーゼ)に対して、ラクトフェリン(図中(i))、コンカナバリンA(図中(ii))、リゾチーム(図中(iii))、ヘモグロビン(図中(iv))を連結させた。
【0126】
図8に示す通り、酵素を用いた場合であっても、ラクトフェリン(図中の「連結あり」のi(実施例12-i))、コンカナバリンA(図中の「連結あり」のii(実施例12-ii)を連結させた場合、酵素活性に由来するスポットが出現し、酵素活性を検出することができた。一方、ラクトフェリン、コンカナバリンAを連結させていない場合(図中の「連結なし」のi、ii(それぞれ比較例6-i、比較例6-ii))、酵素活性に由来するスポットが出現せず、酵素活性を検出できなかった。
図8においてCHAPS濃度が0w/v%の場合は、酵素をラクトフェリン等と連結した場合であっても薄い色のスポットであったが、ラクトフェリン等と連結させていない酵素ではスポットが全く観察されなかった。このことから、CHAPS濃度が0.2 w/v%や2 w/v%の場合だけでなく、0w/v%の場合であっても酵素活性が向上したことが確認された。
【0127】
このことから、抗体だけでなく、酵素を用いた場合であっても、ラクトフェリン、コンカナバリンAを連結させることにより、酵素活性が増強されることが確認された。また、前記手順はビオチン-ストレプトアビジンによる相互作用により、酵素とラクトフェリン等を連結させた例であるが、図には示していないが、ビオチン-ストレプトアビジンを用いることなく、ラクトフェリンと酵素とをNヒドロキシスクシンイミドによるアミンカップリング法により連結させた場合であっても、同様に、ラクトフェリンを連結させていない場合と比較して、酵素活性の増強が認められた。コンカナバリンAを用いた場合も同様に、コンカナバリンAを連結させることにより酵素活性の増強が認められた。また、これらのことから、NC膜上での抗体の配向性が高められていると推測できた。
【0128】
また、
図8に示す通り、ラクトフェリン、コンカナバリンAに代えて、リゾチーム(図中の「連結あり」のiii(実施例12-iii))、ヘモグロビン(図中の「連結あり」のiv(実施例12-iv))を酵素に連結させた場合も、酵素活性に由来するスポットが出現し、酵素活性を検出することができた。一方、リゾチーム、ヘモグロビンを連結させていない場合(図中の「連結なし」のiii及びiv(比較例6-iii及びiv)、酵素活性に由来するスポットが出現せず、酵素活性を検出できなかった。このことから、ラクトフェリン、コンカナバリンAに代えて、リゾチーム、ヘモグロビンを酵素や抗体に連結させた場合であっても、酵素活性が増強されることが確認された。
【0129】
なお、本発明者らは、抗体や標識酵素に連結させる物質として、公知のタンパク質であるオボアルブミンなど十数種以上の物質を用いて同様に試験を行ったが、ラクトフェリン、コンカナバリンA、リゾチーム、ヘモグロビン以外の物質に、抗原結合性や酵素活性の有意な増強効果は認められなかった。
【0130】
また、これらの結果から、同様にタンパク質であるレセプターやレクチンを酵素や抗体に代えて用いた場合であっても、その検出感度を向上できることが理解できた。より具体的には、レセプターにおいては該レセプターが特異的に認識するアゴニストやアンタゴニストへの結合性をより高められることが理解でき、また、レクチンにおいては該レクチンが特異的に認識する糖鎖結合性をより高められることが理解できた。