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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023115891
(43)【公開日】2023-08-21
(54)【発明の名称】延伸試験装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/18 20060101AFI20230814BHJP
【FI】
G01N3/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022124700
(22)【出願日】2022-08-04
(62)【分割の表示】P 2022018329の分割
【原出願日】2022-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】522052831
【氏名又は名称】エバー測機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125265
【弁理士】
【氏名又は名称】貝塚 亮平
(74)【代理人】
【識別番号】100224007
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷 潮
(72)【発明者】
【氏名】江越 顕太郎
【テーマコード(参考)】
2G061
【Fターム(参考)】
2G061AA17
2G061AB01
2G061AC03
2G061BA07
2G061CA10
2G061CB01
2G061DA01
2G061DA05
2G061DA12
2G061EA01
2G061EB05
(57)【要約】
【課題】試験片の交換の際、前記試験片の延伸が行われる試験空間を速やかに試験温度に到達させることができる延伸試験装置および延伸試験方法を提供することである。
【解決手段】延伸試験装置1は、筐体2と、筐体2内に設けられた少なくとも1つの加熱槽5と、筐体2に対して出し入れが可能な引出ユニット3と、引出ユニット3内に設けられて複数のチャック部43及び把持部45に保持された試験片Tを延伸可能な試験片延伸部4と、引出ユニット3が筐体2内の格納位置Pにある状態で試験片延伸部4が位置付けられて試験片Tの延伸が行われる筐体2内の試験空間TSと、を備え、引出ユニット3が筐体2外の取出位置Qにある状態で、加熱空間と試験空間TSとが連通しない状態とすることができる。
【選択図】図1(a)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体と、
前記筐体内に設けられた少なくとも1つの加熱槽と、
前記筐体内の格納位置と前記筐体外の取出位置との間で出し入れが可能な引出ユニットと、
前記引出ユニットに設けられて試験片を保持して延伸することが可能な試験片延伸部と、
前記引出ユニットが前記格納位置にある状態で、前記試験片延伸部が位置付けられて前記試験片の延伸が行われる前記筐体内の試験空間と、
を備え、
前記引出ユニットが前記格納位置にある状態で、前記加熱槽と前記試験空間とが連通して前記加熱槽からの加熱空気が前記試験空間に流入可能となり、
前記引出ユニットが前記取出位置にある状態で、前記加熱槽と前記試験空間とが連通せず前記加熱槽からの加熱空気が前記試験空間に流入不可能となる
ことを特徴とする延伸試験装置。
【請求項2】
前記加熱槽から前記試験空間に連通する連通部と、
前記連通部を開閉するシャッタ手段と、を備える
ことを特徴とする請求項1に記載の延伸試験装置。
【請求項3】
前記引出ユニットは、前記試験空間と前記連通部又は前記加熱槽とを連結するための連結部材を備え、
前記連結部材は、前記引出ユニット側と前記連通部又は前記加熱槽側との間で進退移動が可能であり、
前記連結部材が前記連通部又は前記加熱槽側の突出位置に突出した状態で、前記連結部材によって前記試験空間と前記連通部又は前記加熱槽との隙間が塞がれた状態となり、
前記連結部材が前記引出ユニット側の退避位置に退避した状態で、前記試験空間と前記連通部又は前記加熱槽との隙間が開かれた状態となる
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の延伸試験装置。
【請求項4】
筐体と、
前記筐体内に設けられた少なくとも1つの加熱槽と、
前記筐体内の格納位置と前記筐体外の取出位置との間で出し入れが可能な引出ユニットと、
前記引出ユニットに設けられて前記試験片を保持して延伸することが可能な試験片延伸部と、
前記引出ユニットが前記格納位置にある状態で、前記試験片延伸部が位置付けられて前記試験片の延伸が行われる前記筐体内の試験空間と、を備え、
前記引出ユニットは、前記試験空間と前記加熱槽とを連結するための連結部材を備え、
前記連結部材は、前記引出ユニット側と前記加熱槽側との間で進退移動が可能であり、
前記連結部材が前記加熱槽側の突出位置に突出した状態で、前記連結部材によって前記試験空間と前記加熱槽との隙間が塞がれた状態となり、
前記連結部材が前記引出ユニット側の退避位置に退避した状態で、前記試験空間と前記加熱槽との隙間が開かれた状態となる
ことを特徴とする延伸試験装置。
【請求項5】
前記引出ユニットは、第1軸方向に進退移動が可能であり、
前記加熱槽は、前記筐体内で前記第1軸に直交する第2軸方向に移動可能である
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の延伸試験装置。
【請求項6】
前記加熱槽が、前記筐体内に少なくとも2つ設けられ、
少なくとも2つの前記加熱槽は、前記第2軸方向に並べて配列されており、
少なくとも2つの前記加熱槽のそれぞれが、独立して温度設定可能であって、
前記引出ユニットが前記格納位置にある状態で、少なくともいずれかの前記加熱槽と前記試験片延伸部が位置づけられた前記試験空間とが連通して前記加熱槽からの加熱空気が前記試験空間に流入可能となる
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の延伸試験装置。
【請求項7】
前記加熱槽は、給気ダクトと、還気ダクトと、送気手段と、気体を加熱するための加熱手段と、前記給気ダクトから供給される気体を吹き出すための第1貫通孔を有するパンチング板と、前記給気ダクトから供給される気体が前記還気ダクトを経て再び前記給気ダクトに戻る気体循環流路と、を備え、
前記給気ダクトから供給され、前記パンチング板の第1貫通孔から吹き出した加熱気体が、前記試験片延伸部に保持された前記試験片を加熱した後、前記還気ダクトに流入する
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに1項に記載の延伸試験装置。
【請求項8】
前記パンチング板は、前記還気ダクトに連通する第2貫通孔をさらに有し、
前記給気ダクトから供給され、前記パンチング板の前記第1貫通孔から吹き出した加熱気体が、前記試験片延伸部に保持された前記試験片を加熱した後、前記パンチング板の前記第2貫通孔を経て前記還気ダクトに流入する
ことを特徴とする請求項7に記載の延伸試験装置。
【請求項9】
前記試験片は、板状体またはフィルム状体であり、
前記加熱槽は、前記試験片の上面側を加熱する上面側加熱槽と前記試験片の下面側を加熱する下面側加熱槽と、を有する
ことを特徴とする請求項1乃至8に記載の延伸試験装置。
【請求項10】
前記試験片は、外形が略矩形の板状体またはフィルム状体であり、
前記試験片延伸部は、伸縮可能に構成され、それぞれが多角形の辺をなすように配置された複数のチャック部材と、前記多角形の隣接する辺をなす2つの前記チャック部材の両端を支持し、スライド移動可能な複数のスライダと、を備える
ことを特徴とする請求項1乃至9に記載の延伸試験装置。
【請求項11】
前記試験片延伸部によって延伸されている前記試験片の特性を測定する測定手段をさらに備え、
前記測定手段は、前記試験片から出射する電磁波を検出する検出部を備え、
前記加熱槽は、前記電磁波が通過可能な窓部を備え、
前記検出部は、前記加熱槽よりも前記試験片延伸部から遠位に配置され、前記試験片から出射して前記窓部を通過した前記電磁波を検出する
ことを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに1項に記載の延伸試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、延伸試験装置に関し、より詳しくは、所定の温度で一軸または二軸方向に樹脂フィルム等の試験片を延伸させて当該試験片の特性を評価する延伸試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂フィルムは、包装、雑貨、農業、工業、食品、医療、光学など広範囲の分野に亘って利用されている。樹脂フィルムは、例えば、弾性率向上、脆弱性改善、水蒸気透過率改善、光学的異方性付与など、機能性を持たせることを目的として、二軸延伸を行う場合がある。
【0003】
近年、二軸延伸フィルムは、用途の多様化、軽量化、高機能化に伴い成形性や品質の要求も厳しく、延伸中の破断、偏肉精度の低下、配向の不均一など様々な課題がある。樹脂フィルムの特性は延伸の程度によって変化するため、それらの課題を解決するためには樹脂フィルムの特性の変化と延伸の程度との関係を適切に把握する必要がある。
【0004】
樹脂フィルムの特性の変化と延伸の程度との関係を適切に把握するためには、延伸後の樹脂フィルムの特性のみではなく、延伸過程にある樹脂フィルムにおいてどのような特性の変化がおきているかを適切に把握する必要がある。すなわち、延伸中の樹脂フィルムの特性をその場(in-situ)で適切に評価することが必要である。
【0005】
延伸中の樹脂フィルムの特性をその場(in-situ)で評価できる延伸試験装置として、特許文献1に記載の樹脂フィルム特性評価装置がある。この特許文献1に記載の装置は、温度制御可能な恒温槽と、恒温槽の内部に設けられ、試験片としての樹脂フィルムを2軸以上に同時延伸可能なフィルム延伸手段と、延伸中の樹脂フィルムに対して電磁波を照射する電磁波照射手段と、樹脂フィルムを透過した電磁波を検出する検出手段とを備えており、所定の試験温度に設定された恒温槽内で樹脂フィルムを延伸しつつ、検出手段の検出結果に基づいて樹脂フィルムの特性を評価するものである。そして、恒温槽内には、温風を噴出する吹出ノズルと、恒温槽内の空気を吸込む吸込ノズルとがフィルム延伸手段を挟んで対向して設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011-095252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されている装置は、上面に設けられた蓋部を解放することにより、延伸手段への樹脂フィルムの着脱を行うものである。したがって、樹脂フィルムを交換するために蓋部を解放すると恒温槽内の空気が外気と入れ替わるので、恒温槽内が所定の試験温度に到達するために要する時間が長くなる。また、樹脂フィルムの交換直後に、恒温槽内の温度ムラが生ずる虞もある。また、段階的に温度を変えて複数の温度条件における樹脂フィルムの特性を評価しようとすると、樹脂フィルムは、恒温槽内の温度が遷移する過程を経ることになる。恒温槽内の温度が遷移する過程を経ることを避けるために、複数の温度毎に樹脂フィルムを延伸試験装置から出し入れすると、評価に要する時間が長くなる。
【0008】
本発明は上述の点に鑑みてなされたものであり、その目的は、試験片の交換の際、試験片の延伸が行われる試験空間を速やかに試験温度に到達させることができる延伸試験装置を提供することである。また、さらなる目的は、段階的に温度を変えて複数の温度条件における試験片の特性を評価する場合に、試験片を装置から出し入れすることなく、恒温槽内の温度を速やかに各試験温度に到達させることができる延伸試験装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明に係る延伸試験装置は、筐体(2)と、前記筐体(2)内に設けられた少なくとも1つの加熱槽(5)と、前記筐体(2)内の格納位置(P)と前記筐体(2)外の取出位置(Q)との間で出し入れが可能な引出ユニット(3)と、前記引出ユニット(3)に設けられて試験片(T)を保持して延伸することが可能な試験片延伸部(4)と、前記引出ユニット(3)が前記格納位置(P)にある状態で、前記試験片延伸部(4)が位置付けられて前記試験片(T)の延伸が行われる前記筐体(2)内の試験空間(TS)と、を備え、前記引出ユニット(3)が前記格納位置(P)にある状態で、前記加熱槽(5)と前記試験空間(TS)とが連通して前記加熱槽(5)からの加熱空気が前記試験空間(TS)に流入可能となり、前記引出ユニット(3)が前記取出位置(Q)にある状態で、前記加熱槽(5)と前記試験空間(TS)とが連通せず前記加熱槽(5)からの加熱空気が前記試験空間(TS)に流入不可能となることを特徴とする。
【0010】
本発明にかかる延伸試験装置によれば、引出ユニット(3)が筐体(2)外の取出位置(Q)にある状態で、加熱槽(5)と試験空間(TS)とが連通せず加熱槽(5)からの加熱空気が試験空間(TS)に流入不可能となるので、加熱槽(5)のみを予め加熱することができる。したがって、引出ユニット(3)を格納位置(P)に格納したときの試験空間(TS)の温度を所望の試験温度に迅速に設定できる。
【0011】
また、本発明にかかる延伸試験装置は、筐体(2)と、前記筐体(2)内に設けられた少なくとも1つの加熱槽(5)と、前記筐体(2)内の格納位置(P)と前記筐体(2)外の取出位置(Q)との間で出し入れが可能な引出ユニット(3)と、前記引出ユニット(3)に設けられて前記試験片(T)を保持して延伸することが可能な試験片延伸部(4)と、前記引出ユニット(3)が前記格納位置(P)にある状態で、前記試験片延伸部(4)が位置付けられて前記試験片(T)の延伸が行われる前記筐体(2)内の試験空間(TS)と、を備え、前記引出ユニット(3)は、前記試験空間(TS)と前記加熱槽(5)とを連結するための連結部材(32)を備え、前記連結部材(32)は、前記引出ユニット(3)側と前記加熱槽(5)側との間で進退移動が可能であり、前記連結部材(32)が前記加熱槽(5)側の突出位置に突出した状態で、前記連結部材(32)によって前記試験空間(TS)と前記加熱槽(5)との隙間が塞がれた状態となり、前記連結部材(32)が前記引出ユニット(3)側の退避位置に退避した状態で、前記試験空間(TS)と前記加熱槽(5)との隙間が開かれた状態となることを特徴とする。
【0012】
本発明にかかる延伸試験装置によれば、引出ユニット(3)が筐体(2)内の格納位置(P)にある状態で、加熱空間と試験空間(TS)との隙間が塞がれた状態とすることができる。したがって、加熱空気が隙間から漏れて拡散する場合と比べ、連結部材(32)によってすき間が塞がれた状態の試験空間(TS)は、より迅速に均一な試験温度に設定できる。また、加熱空間で加熱された空気が隙間から漏れて周辺に拡散することを防止できるので、加熱された空気の拡散によって周辺に配置されている制御または測定のための構成要素に悪影響を与えることも回避できる。
【0013】
また、本発明にかかる延伸試験装置は、前記加熱槽(5)が、前記筐体(2)内に少なくとも2つ設けられ、少なくとも2つの前記加熱槽(5a,5b)は、前記第2軸方向に並べて配列されており、少なくとも2つの前記加熱槽(5a,5b)のそれぞれが、独立して温度設定可能であって、前記引出ユニット(3)が前記格納位置(P)にある状態で、少なくともいずれかの前記加熱槽(5a,5b)と前記試験片延伸部(4)が位置づけられた前記試験空間(TS)とが連通して前記加熱槽(5a,5b)からの加熱空気が前記試験空間(TS)に流入可能となるように構成することができる。このように構成することによって、試験片延伸部(4)を筐体(2)内に配置した状態で、2つの加熱槽(5a,5b)の間で延伸試験に用いる加熱槽(5)を切り替えることができる。したがって、1つの試験片(T)に対して2以上の温度で延伸試験を行う場合、試験片(T)を筐体(2)から出すことなく試験を行うことができる。したがって、延伸試験に要する時間を短縮できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明にかかる延伸試験装置によれば、試験片の交換の際、試験片の延伸が行われる試験空間を速やかに試験温度に到達させることができ、また、段階的に温度を変えて複数の温度条件における試験片の特性を評価する場合に、試験片を装置から出し入れすることなく、恒温槽内の温度を速やかに各試験温度に到達させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1(a)】本発明の一実施形態としての延伸試験装置の外観斜視図であり、引出ユニットが筐体内の格納位置に格納された状態を示す図である。
図1(b)】本発明の一実施形態としての延伸試験装置の外観斜視図であり、引出ユニットが筐体外の取出位置に取り出された状態を示す図である。
図2(a)】延伸試験装置が備える引出ユニットの上面図であり、試験片延伸部のチャック部材の相互間距離が最小となっている状態を示す図である。
図2(b)】延伸試験装置が備える引出ユニットの上面図であり、試験片延伸部のチャック部材の相互間距離が最大となっている状態を示す図である。
図3】延伸試験装置の側面図である。
図4】延伸試験装置が備える制御部の構成を示すブロック図である。
図5(a)】図3のA-A断面図であり、第1加熱槽を用いて延伸試験を行っている状態を示す図である。
図5(b)】図3のA-A断面図であり、第2加熱槽を用いて延伸試験を行っている状態を示す図である。
図6図5(a)のB-B断面図である。
図7(a)】図5(b)のC-Cに対応する位置の断面を示す図であり、第2加熱槽を用いて延伸試験を行うために、引出ユニットを引出しているときの加熱気体の流れを示す図である。
図7(b)】図5(b)のC-Cに対応する位置の断面を示す図であり、第2加熱槽を用いて延伸試験を行っているときの加熱気体の流れを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して本発明の一実施形態である延伸試験装置を説明する。図1は、本発明の一実施形態にかかる延伸試験装置の外観斜視図であり、同図(a)は引出ユニットが延伸試験装置の筐体内の格納位置に格納された状態を示す図、同図(b)は引出ユニットが延伸試験装置の筐体外の取出位置に取り出された状態を示す図である。また、図2は、延伸試験装置が備える引出ユニットの上面図であり、同図(a)は、試験片延伸部のチャック部材の相互間距離が最小となっている状態を示す図、同図(b)は、試験片延伸部のチャック部材の相互間距離が最大となっている状態を示す図である。また、図3は、延伸試験装置の側面図である。
【0017】
これらの図に示すように、延伸試験装置1は、外形が矩形の板状またはフィルム状の試験片Tの延伸試験に好適に使用できるように構成されたもので、当該試験片Tを2軸方向に延伸してその特性を評価することができる装置である。延伸試験装置1は、筐体2と、筐体2に対して出し入れが可能な引出ユニット3と、引出ユニット3に設けられた試験片延伸部4と、筐体2内に設けられた試験片を加熱するための加熱槽5と、試験片Tの特性を測定する測定部6と、延伸試験装置1の動作を制御する制御部70(図4を参照)と、を備える。なお、以下の説明では、各図に示すように、延伸試験装置1の正面(後述する筐体2の開口部21が設けられた面)を手前側に向けて該延伸試験装置1を設置した状態での左右方向をX方向といい、その状態での前後方向(手前側及び奥側に向かう方向)をY方向といい、同じくその状態での上下方向をZ方向という。さらに、左右方向における向かって右向きを+X方向、向かって左向きを-X方向といい、前後方向における奥側の向きを+Y方向、手前側の向きを-Y方向といい、上下方向における上向きを+Z方向、下向きを-Z方向という。
【0018】
なお、図3に示す破線は、筐体2内の引出ユニット3および加熱槽5の配置を示す。また、図3中のXおよびY方向に直交するZ方向に伸びる軸線Iは、試験片延伸部4が試験のための位置に位置付けられたときの試験片延伸部4の中心TC(図2を参照。)を通る直線を示している。測定部6は、軸線Iまたは試験片延伸部4の中心TCに基づいて配置されている。
【0019】
〔引出ユニット〕
引出ユニット3は、略矩形の外形を有する平板状の本体部31と、本体部31に設けられた矩形状の貫通孔31cと、貫通孔31cの内部に設けられた試験片延伸部4とを備える。試験片延伸部4が配置された貫通孔31cは、本体部31の上面(第1面)31aから下面(第2面)31bに貫通する貫通領域である。すなわち、引出ユニット3は、Z方向に開口する貫通領域を有する部材であって、当該貫通領域内に試験片延伸部4が設けられている。一方、筐体2の正面には、筐体2に対して引出ユニット3を出し入れするための開口部21と、開口部21からY軸方向に沿って筐体2内(の奥側)に延在する空間からなる格納部22とが設けられている。
【0020】
引出ユニット3は、図1(a)に示す筐体2内の格納部22に格納した格納位置Pと、図1(b)に示す筐体2外に取り出した取出位置Qとの間で筐体2に対してY方向に進退移動させることができる。したがって、引出ユニット3は、+Y方向にスライドさせることによって筐体2内の格納位置Pに格納することができ、-Y方向にスライドさせることによって筐体2外の取出位置Qへ取り出すことができる。引出ユニット3が格納位置Pにある状態で、試験片延伸部4が試験のための位置に位置付けられる。一方、引出ユニット3が取出位置Qにある状態で、試験片延伸部4が試験片Tの交換のための位置に位置付けられる。
【0021】
〔測定部〕
延伸試験装置1は、電磁波により試験片Tの特性を測定するための測定手段である測定部6を備えている。延伸試験装置1は、試験片Tの特性を測定する測定手段として、測定部6の他に張力測定手段47も備えている。張力測定手段47の詳細は、後述する試験片延伸部4の説明において述べる。測定部6は、延伸中の試験片Tから出射する電磁波を検出する検出部を備える。ここでの電磁波は、例えば、紫外線、可視光、赤外線、マイクロ波などがある。また、検出部は、電磁波を検出するための構成として、例えば、受光素子、1次元または2次元のアレイ状の受光素子、カメラなどを備えている。また、測定部6は、延伸中の試験片Tに入射させる電磁波を出射する電磁波源を含むように構成することができる。測定部6は、加熱槽5よりも試験片延伸部4から遠位に配置されている。加熱槽5における電磁波(試験片Tの特性を測定するための電磁波)が通過する部分は、当該電磁波を透過させることができるように構成されている(例えば、貫通孔または窓が設けられている。)。測定部6からの出力は、制御部70のデータ解析部によって解析される。測定部6の具体的構成は、後述する。
【0022】
〔制御部〕
図4は、延伸試験装置が備える制御部の概略構成を示すブロック図である。同図に示す制御部70は、パーソナルコンピュータ(PC)などであってよい。この制御部70は、CPUなどの主制御部71と、ディスプレイなどの表示装置を備えた表示部72と、不揮発性メモリなどからなる記憶装置73と、マウスやキーボードなどの入力デバイス74とから主として構成されている。制御部70がPCの場合、延伸試験装置1が含む被制御要素、具体的には、加熱槽5が備える加熱手段および送気手段、試験片延伸部4等が備えるモータ等の駆動手段、ならびに測定部6が備える光源部および受光部の動作を制御する制御部として当該PCを機能させるための制御用プログラムがインストールされている。制御用プログラムは、入力デバイス74から入力された延伸試験装置1の動作パラメータに基づいて被制御要素を動作させる。また、制御用プログラムは、延伸試験装置1の状態を監視するために設けられている各種センサ(不図示)からの出力を取得し、当該出力の表示部72への表示や、当該出力による被制御要素のフィードバック制御またはフィードフォワード制御を行う。また、PCには、測定部6の出力を取得し、データ解析部としてPCを機能させるための解析用プログラムがインストールされている。解析用プログラムは、測定部6の出力を取得し、この取得した出力や、入力デバイス74から入力された解析パラメータを用いて、測定部6の出力を解析し、解析結果を表示部に表示するとともに、記憶装置73に記憶する。
【0023】
〔試験片延伸部〕
試験片延伸部4は、図2に示すように、引出ユニット3の貫通孔31c内で井桁状に配置された4本のレール41(41XF,41XB,41YL,41YR)と、これら4本のレールにより形成されている矩形の4つの角の部分にそれぞれ設けられたスライダ42(42FL,42FR,42BL,42BR)とを備える。同図において4本のレールにより形成されている矩形の中心は、試験片延伸部4の中心TC(図2(b)を参照。)と一致している。レール41XFおよびレール41XBは、X方向に延在し、互いに平行に配置されている。そして、レール41XFおよびレール41XBの両端は、レール41XFおよびレール41XBのY方向の間隔を拡大または縮小するためのY方向間隔調整機構(不図示)によって支持されている。Y方向間隔調整機構は、レール41XFとレール41XBとを、試験片延伸部4の中心TCから各レールまでの距離が同一になるように移動させるように構成されることが望ましい。また、レール41YLおよびレール41YRは、Y方向に延在し、互いに平行に配置されている。レール41YLおよびレール41YRは、レール41XFおよびレール41XBと立体交差している。そして、レール41YLおよびレール41YRの両端は、レール41YLおよびレール41YRのX方向の間隔を拡大または縮小するためのX方向間隔調整機構(不図示)によって支持されている。X方向間隔調整機構は、レール41YLとレール41YRとを、試験片延伸部4の中心TCから各レール41までの距離が同一になるように移動させるように構成されることが望ましい。X方向間隔調整機構およびY方向間隔調整機構によるレール41の移動速度および移動範囲は、制御部70によって制御される。
【0024】
スライダ42は、レール41XFおよびレール41XBと、レール41YLおよびレール41YRとが立体交差している位置に設けられている。そして、スライダ42は、これが設けられている位置で立体交差する2本のレール(一方がX方向に延在し、他方がY方向に延在する)を摺動できるように構成されている。例えば、レール41XFとレール41YLとが立体交差する位置にはスライダ42FLが設けられている。そして、スライダ42FLは、レール41XFを摺動できるX方向摺動部(例えば、レール41XFが貫通する貫通孔)と、レール41YLを摺動できるY方向摺動部(例えば、レール41YLが貫通する貫通孔)とを備える。したがって、4つのスライダ42FL,42FR,42BL,42BRの相互間距離は、X方向間隔調整機構およびY方向間隔調整機構により4本のレール41を所望の速度および範囲で移動させることによって、所望の速度および範囲で変更することができる。
【0025】
また、スライダ42は試験片Tの角部を保持するためのチャック部43を備える。チャック部43は、矩形の試験片Tの角部を保持する。そして、4つのスライダ42の相互間距離が拡大するように4本のレール41を移動させた場合、チャック部43に保持された矩形の試験片Tの角部は、図2(a),(b)に示す4本のレール41により形成されている矩形の対角線に沿った方向に引っ張られる。チャック部43は、これが延在する方向の引っ張りに対して強固に保持できるように構成されている。例えば、チャック部43は、試験片Tを挟持する挟持面どうしが弾性部材または空気圧によって強力に押圧されるように構成されている。そして、挟持面には、引っ張り方向に滑らないように凹凸等が設けられている。したがって、4本のレール41により形成されている矩形の対角線に沿って延在するように配置されることが望ましい。
【0026】
また、隣接するスライダ42の間には、矩形の試験片Tの各辺を保持するチャック部材44が設けられている。チャック部材44は、2軸方向に延伸できるように、矩形の試験片Tを囲む矩形の各辺に沿って複数(本実施形態では4つ)が設けられる。4つのチャック部材44(44F,44B,44L,44R)のそれぞれの把持部45は、矩形の試験片Tの各辺をできるだけ均等に引っ張ることができるように、X方向またはY方向に等間隔に複数配置される。例えば、各チャック部材44のそれぞれは、等間隔に5つの把持部45(中央の把持部45Cと、45C以外の把持部45S)を備えることができる。
【0027】
各チャック部材44は、パンタグラフまたはマジックハンドのように伸縮動作可能な、複数のリンクを有するリンク部46を備えている。複数のリンクのそれぞれは、隣接する把持部45同士、または把持部45とこれに隣接するスライダ42とを接続している。例えば、チャック部材44Fのリンク部46は、この一方の端部がスライダ42FLに接続され、この他方の端部がスライダ42FRに接続されている。したがって、レール41YLとレール41YRとの間隔が拡大し、スライダ42FLとスライダ42FRの間隔が図2中のX方向に拡大すると、チャック部材44Fのリンク部46は、図2中のX方向に伸長する。そして、チャック部材44Fのリンク部46に接続されて配列されている複数の把持部45は、相互の間隔が図2中のX方向に拡大するように移動する。レール41YLおよびレール41YRの間隔を拡大すると、同時に、スライダ42BLおよびスライダ42BRに接続されたチャック部材44Bの複数の把持部45も、これらの相互の間隔が図2中のX方向に拡大するように移動する。同様に、レール41XFとレール41XBとの間隔が図2中のY方向に拡大すると、スライダ42FLおよびスライダ42BLに接続されたチャック部材44Lの複数の把持部45の相互の間隔、ならびにスライダ42FRおよびスライダ42BRに接続されたチャック部材44Rの複数の把持部45の相互の間隔は、図2中のY方向に拡大する。
【0028】
また、レール41XFとレール41XBとの間隔が拡大すると、チャック部材44Fとチャック部材44Bとの間隔が拡大し、チャック部材44の把持部45に保持された矩形の試験片Tは、図2中のY方向に引っ張られる。また、レール41YLとレール41YRとの間隔が拡大すると、チャック部材44Lとチャック部材44Rとの間隔が拡大し、チャック部材44の把持部45に保持された矩形の試験片Tは、図2中のX方向に引っ張られる。
【0029】
把持部45は、これが延在する方向の引っ張りに対して試験片Tを強固に把持できるように構成されている。例えば、把持部45は、試験片Tを挟持する挟持面どうしが弾性部材または空気圧によって強力に押圧されるように構成されている。そして、把持部45の挟持面には、引っ張り方向に滑らないように凹凸等が設けられている。したがって、チャック部材44Fおよびチャック部材44Bの複数の把持部45は、Y方向に延在するように配置されることが望まく、また、チャック部材44Lおよびチャック部材44Rの複数の把持部45は、X方向に延在するように配置されることが望ましい。
【0030】
図2(b)に示すように、各チャック部材44における中央に位置する把持部45Cは、X方向またはY方向の位置が試験片延伸部4の中心TCと一致している。したがって、チャック部材44Fおよびチャック部材44Bの把持部45Cは、Y方向には移動するもののX方向には移動しない。また、チャック部材44Fおよびチャック部材44Bの把持部45Cは、X方向には移動するもののY方向には移動しない。これにより、試験片延伸部4の中心TC領域に位置付けられる試験片Tの中心領域は、試験片Tの延伸過程で移動しない。したがって、試験片Tの中心領域における特性を評価することによって、試験片Tの共通の位置における延伸による特性の変化を評価することができる。
【0031】
また、ロードセル等の張力測定手段47が把持部45Cに接続されて設けられることが望ましい。張力測定手段47によって、延伸中の試験片Tにかかる張力が測定可能となる。延伸中の試験片Tにかかる張力は、試験片Tを所定量延伸させるために必要な物理量であり、試験片Tの特性値である。ここでのロードセル等の張力測定手段47は、延伸されている試験片Tの特性を測定する測定手段である。
【0032】
〔加熱槽〕
延伸試験装置1は、第1加熱槽5aと第2加熱槽5bとの2つの加熱槽5を備えている。加熱槽5について、図5図7を用いて説明する。図5は、図3のA-A断面図であり、同図(a)は第1加熱槽を用いて延伸試験を行っている状態を示す図、同図(b)は、第2加熱槽を用いて延伸試験を行っている状態を示す図である。なお、図5中の実線矢印は、加熱気体の流れを示す。また、図6は、図5(a)のB-B断面図である。また、図7は、図5(b)のC-Cに対応する位置の断面を示す図であり、図7(a)は、第2加熱槽を用いて延伸試験を行うために、引出ユニットを引出しているときの加熱気体の流れを示す図、図7(b)は、第2加熱槽を用いて延伸試験を行っているときの加熱気体の流れを示す図である。なお、図7中の破線は、給気ダクト53および還気ダクト54を画成する加熱槽5内部の隔壁を示す。また、実線矢印は、C-C断面位置での加熱気体の流れを示す。また、破線矢印は、給気ダクト53および還気ダクト54内の加熱気体の流れを示す。
【0033】
図5図7に示すように、2つの加熱槽5a,5bはそれぞれ、試験片Tをその上面(表面)側から加熱するための上面(表面)側加熱槽51a,51bと、試験片Tをその下面(裏面)側から加熱するための下面(裏面)側加熱槽52a,52bとを備えている。上面側加熱槽51(51a,51b)および下面側加熱槽52(52a,52b)はいずれも、給気ダクト53と、還気ダクト54と、送気手段としての送風機構55と、給気ダクト53から供給される気体を吹き出すための貫通孔を有するパンチング板58と、パンチング板58の貫通孔を開閉可能なシャッタ手段59と、を備えている。
【0034】
上面側加熱槽51と下面側加熱槽52とは、各給気ダクト53と還気ダクト54を介して図6に示す気体加熱領域56(図6を参照)に連通している。気体加熱領域56内には、気体加熱領域56を通過する気体(空気)を加熱するための加熱手段として発熱部57が設けられている。これにより、気体加熱領域56で加熱された加熱空気が上面側加熱槽51と下面側加熱槽52に導かれ、さらに上面側加熱槽51と下面側加熱槽52から試験片Tの上面及び下面に供給される。
【0035】
すなわち、引出ユニット3が格納位置Pにある状態で、試験片延伸部4が位置付けられる筐体2内の試験空間TSが加熱空間と連通し、その状態で試験片Tの延伸が行われる。この際、上面側加熱槽51および下面側加熱槽52から供給される加熱空気によって試験片Tの上面及び下面が加熱されるので、試験片Tがフィルム状よりも厚い板状の場合でも、試験片Tを所望の試験温度に迅速に加熱できる。
【0036】
送風機構55は、給気ダクト53の最上流領域に設けられている。送風機構55は、例えば、送風ファンである。送風機構55は、気体加熱領域56において加熱された空気(加熱空気)を吸引して下流側に送風する。給気ダクト53の最下流領域にパンチング板58およびシャッタ手段59が設けられている。シャッタ手段59は、パンチング板58に隣接して設けられている。
【0037】
図7(a),(b)に示すように、パンチング板58は、中空柱状体60が上流側に向けて立設されている中央の第1領域58aと、当該第1領域の外側を囲む第2領域58bと、当該第2領域の外側を囲む第3領域58cとを備える。また、図6及び図7(a),(b)に示すように、中空柱状体60の側壁には、上流側からの加熱空気が流入する貫通孔61,62が設けられている。したがって、パンチング板58の第1領域58aでは、中空柱状体60によってZ方向に整流された加熱空気が吹き出すようになっている。また、図7(b)に示すように、パンチング板58の第2領域58bには、多数の貫通孔61が配列されて設けられている。これらの貫通孔61も上流側からの加熱空気を吹き出すための貫通孔である。また、パンチング板58の第3領域58cには、貫通孔61よりも径の大きい貫通孔62が配列して設けられている。貫通孔62は、還気ダクト54に連通している。したがって、貫通孔61から吹き出す加熱空気は、貫通孔62により吸引され、還気ダクト54に流入する。
【0038】
シャッタ手段59は、パンチング板58の上側又は下側でY方向に沿って開位置と閉位置との間を進退移動するシャッタ板を備えることで、パンチング板58の第1領域58a、第2領域58bの貫通孔61、および第3領域58cの貫通孔62を開放する解放状態と、パンチング板58の第1領域58a、第2領域58bの貫通孔61、および第3領域58cの貫通孔62を閉鎖する閉鎖状態とに切り替えることができる。これにより、加熱槽5aまたは加熱槽5bが試験位置TPに位置付けられている状態において解放することができる。図7(b)は、加熱槽5bが試験位置TPに位置付けられ、加熱槽5bのシャッタ手段59が解放されている状態を示している。退避位置EP1に位置付けられている加熱槽5aのシャッタ手段59は閉鎖されている。引出ユニット3が筐体2内の格納位置にある状態で、試験片延伸部4が試験空間TSに位置づけられ、当該試験空間TSが加熱空間としての給気ダクト53と連通する状態で試験片Tの延伸が行われる、筐体2内の試験空間TSは、パンチング板58の第1領域58a、第2領域58b、および第3領域58cと対向している。したがって、引出ユニット3が格納位置にある状態でシャッタ手段59が解放されると、試験空間TSは、加熱槽5(図7(b)では加熱槽5b)の加熱空間(給気ダクト53)と連通して加熱空気が流通する空間となる。すなわち、シャッタ手段59は、引出ユニット3が格納位置にある状態において、試験空間TSと加熱空間とを連通する状態にする機能を有する。また、シャッタ手段59は、試験空間TSと加熱空間とを隔てることでこれらが連通しない状態にする機能を有する。
【0039】
また、試験片延伸部4の中心TCは、パンチング板58の第1領域58aの中心と一致する。試験片延伸部4のチャック部材44に保持された試験片Tは、試験空間TSにおいて試験片Tの加熱および延伸が行われる延伸試験中、パンチング板58の第1領域および第2領域に対向する空間内に位置する。延伸試験中、図5~6および図7(b)に図示したように、パンチング板58の第1領域58aおよび第2領域58bから吹き出した加熱空気は、延伸試験中の試験片Tに向けてZ方向に流れる。試験片Tの表面または試験片延伸部4に至った加熱空気は、試験片Tの表面等を中心から周縁に向けて流れる。そして、試験片Tまたは試験片延伸部4の外側に至った加熱空気は、第3領域58cの貫通孔62から回収される。回収された加熱空気は、還気ダクト54を経て、気体加熱領域56に戻る。すなわち、加熱槽5は、延伸試験中、気体加熱領域56で加熱され、給気ダクト53から供給される加熱空気が還気ダクト54を経て再びに気体加熱領域56に戻るための気体循環流路を含んでいる。
【0040】
給気ダクト53から供給される加熱空気は、第3領域58cの貫通孔62から回収されるので、当該加熱空気のうち引出ユニット3の貫通領域の外側に至るものはわずかである。したがって、引出ユニット3の上面31a及び下面31bの温度上昇を抑えることができる。
【0041】
シャッタ手段59が閉鎖されているとき、送風機構55によって下流側に送風された加熱空気は、パンチング板58から吹き出すことなく、不図示の別の流路を経て還気ダクト54に流入する。還気ダクト54に流入した加熱空気は、還気ダクト54を通って給気ダクト53に戻る。すなわち、加熱槽5は、シャッタ手段59が閉鎖されているとき、給気ダクト53から供給される加熱された気体が還気ダクト54を経て再び給気ダクト53に戻る気体循環流路を含んでいる。
【0042】
引出ユニット3を格納位置Pへ格納する前に、シャッタ手段59を閉鎖し、予め気体加熱領域56が所定温度になるように発熱部57によって加熱し、気体循環流路内で空気を循環させておくことができる。すなわち、気体循環流路内の空気を所定温度に予熱させておくことができる。これによって、引出ユニット3が格納位置にある状態での試験空間TSは、所望の試験温度に迅速に設定できる。試験位置TPに位置付けられた加熱槽5aで第1の温度で試験を行っているときに、退避位置EP2に位置付けられている第2加熱槽5bを第2の温度に予熱することができる。加熱槽5bにおいて予熱を行っていても、シャッタ手段59が閉鎖されているので、予熱中の加熱槽5bから加熱空気が漏れない。したがって、予熱中の加熱槽5bから漏れる加熱空気が第1加熱槽5aを用いた試験中に悪影響を及ぼすことがない。また、予熱中のエネルギー消費が抑えられる。
【0043】
また、第1加熱槽5aおよび第2加熱槽5bは、図示しないモータなどの公知の駆動手段によって、筐体2内でレール5R上をX方向に移動可能である。第1加熱槽5aおよび第2加熱槽5bは、図5(a),(b)に示すように、いずれか一方を延伸試験に用いるための試験位置TPに位置付けることができる。第1加熱槽5aを用いて延伸試験が行われる場合、図5(a)に示すように、第2加熱槽5bは退避位置EP2に位置付けられ、第2加熱槽5bを用いて延伸試験が行われる場合、図5(b)に示すように、第1加熱槽5aは退避位置EP1に位置付けられる。加熱槽5を用いずに延伸試験が行われる場合、第1加熱槽5aおよび第2加熱槽5bはそれぞれ、退避位置EP1および退避位置EP2に位置付けられる。したがって、1つの試験片Tに対して2種類以上の温度で延伸試験する場合、試験片Tを筐体2から出すことなく試験を行うことができる。また、延伸試験に要する時間を短縮できる。
【0044】
〔連結蓋〕
図6に示すように、筐体2の開口部21の高さ(Z方向の長さ)は、引出ユニット3の進退に必要十分なものとなっている。具体的には、開口部21の高さH1は、引出ユニット3の本体部31の上面31a及び下面2bの距離H2よりも若干長くなっている(H1>H2)。開口部21から筐体2内に延在する、引出ユニット3の可動空間の一部は、引出ユニット3が格納位置Pに格納された状態において、試験片Tの試験が行われる試験空間TSとなる。試験空間TSが大きいと、当該試験空間TS内を均一な試験温度に設定するために要する時間が長くなる。そこで、引出ユニット3が格納位置Pに配置された状態で、本体部31の上面31aと上面側加熱槽51のパンチング板58との距離ができるだけ小さくなるように上面側加熱槽51のパンチング板58が配置されている。下面側加熱槽52のパンチング板58も同様である。しかしながら、本体部31の上面31aと上面側加熱槽51のパンチング板58との隙間、および本体部31の下面31bと下面側加熱槽52のパンチング板58との隙間は、試験空間TS以外の筐体2内の空間に加熱空気が漏れる流路となり得る。それらの隙間から加熱空気が漏れると、退避位置EP1または退避位置EP2に位置付けられている他の加熱槽(5aまたは5b)や延伸試験装置1の他の構成要素に加熱空気が至ることで悪影響を及ぼす虞がある。
【0045】
このことに対処するための構成として、貫通孔31cの内部に設けられた連結蓋(連結部材)32を備える。連結蓋32は、貫通孔31cの内側壁に沿ってその内側に設けられた矩形の環状の部材であり、引出ユニット3が格納位置Pにある状態において、上記の隙間をできるだけ小さくするか、あるいは封鎖するために設けられている。すなわち、引出ユニット3は、引出ユニット3が格納位置Pにある状態において、本体部31の上面31aから上面側加熱槽51のパンチング板58に向けて突出する上連結蓋32aと、本体部31の下面31bから下面側加熱槽52のパンチング板58に向けて突出する下連結蓋32bとを備える。上連結蓋32a及び下連結蓋32bは、引出ユニット3が格納位置P以外の位置にある状態では、それぞれが退避して貫通孔31c内に没入することで、本体部31の上面31a及び下面31bと面一になるように配置される。上連結蓋32a及び下連結蓋32bは、引出ユニット3が格納位置Pにある状態で、それぞれ上面側加熱槽51および下面側加熱槽52のパンチング板58に近接または当接するように配置される。その結果、連結蓋32が加熱槽5側の突出位置に突出した状態で、連結蓋32によって、加熱槽5から試験空間TSに連通する連通部と試験空間TSとの隙間が塞がれた状態となる。これにより、試験空間TSは、本体部31の貫通孔31cの内壁と、上連結蓋32a及び下連結蓋32bと、上面側加熱槽51のパンチング板58および下面側加熱槽52のパンチング板58とによって囲まれた空間になる。さらに、シャッタ手段59が開放されると、試験空間TSは、加熱空気によって常時換気される上連結蓋32a及び下連結蓋32b等によって囲まれた空間になる(図5~6及び図7(b)を参照)。試験空間TSから漏れる加熱空気は、ほぼないか、僅かである。したがって、退避位置EP1または退避位置EP2に位置付けられている加熱槽5aまたは加熱槽5bや、延伸試験装置1が含む制御または測定のための構成要素に加熱空気が至ることを防止できる。また、加熱空気が漏れる隙間を有する場合に比べ、常時換気される試験空間TSは、均一な試験温度に保たれる。また、加熱空気が隙間から漏れて拡散する試験空間TSに比べ、連結蓋32等によって囲まれた試験空間TSは、迅速に均一な試験温度に設定できる。
【0046】
〔測定手段〕
電磁波を用いた測定部6の具体例を説明する。測定部6は、ダブル光弾性変調法の複屈折位相差測定および光散乱観察の機能を有する。上記のとおり、延伸中の試験片Tは、中心領域の位置が不変である。したがって、様々な延伸設定条件に於ける延伸応力(Stress)-倍率(Strain)曲線を測定できる。そして、複屈折位相差分布の測定と、光散乱観察とによりフィルム偏肉精度の評価可能である。
【0047】
測定部6は、ダブル光弾性変調法の複屈折位相差測定のために、延伸中の試験片Tの中心領域に対する入射角が0°と30°の光学測定系を含む。複屈折位相差測定のための前記各光学測定系は、試験片Tを挟んで、図5及び図6中のZ軸方向の一方側に光源部が配置され、他方側に受光部が配置されている。複屈折位相差測定のための前記光源部は、レーザー光源(例えば、波長が632.8nmのヘリウム・ネオンレーザ)、偏光子、および光弾性変調素子がこの順で試験片Tの遠位側から配置されている。また、複屈折位相差測定のための前記受光部は、検光子および受光器がこの順で試験片Tの近位側から配置されている。入射角0°の複屈折位相差、および入射角30°の複屈折位相差は、不図示の前記制御部が含むデータ解析部に取り込まれる。データ解析部は、入力された前記入射角0°の複屈折位相差、入射角30°の複屈折位相差、平均屈折率、およびフィルム厚みから、延伸中の3軸配向を算出する。
【0048】
また、測定部6は、光散乱観察のために、光散乱観察測定系を含む。光散乱観察測定系は、試験片Tを挟んで、図5及び図6中のZ軸方向の一方側に光源部が配置され、他方側に受光部が配置されている。光散乱観察のため光源部は、レーザー光源(例えば、波長が632.8nmのヘリウム・ネオンレーザ)、1/2波長板、および偏光子がこの順で試験片Tの遠位側から配置されている。また、光散乱観察のための前記受光部は、検光子および撮像素子がこの順で試験片Tの近位側から配置されている。前記偏光子と前記検光子とは、偏光方向が直交するように設置されている。そのため、延伸中の試験片Tの光学異方性によって、試験片Tに入射した光は散乱する。試験片T内の球晶は四葉のクローバー状の散乱像として前記撮像素子により撮像される。光散乱観察測定系によって、延伸中の試験片Tの球晶構造及び球晶径の変化の観察可能である。
【0049】
〔延伸試験方法の具体例〕
次に、上記のとおり構成された延伸試験装置1を用いた延伸試験方法について説明する。以下で説明する延伸試験方法は、2軸方向に試験片Tを延伸して試験片Tの特性を評価する試験方法であって、第1加熱槽5aを用いてT℃で2軸方向に試験片Tを延伸して試験片Tの特性を評価し、次いで第2加熱槽5bを用いてT℃で2軸方向に試験片Tを延伸して試験片Tの特性を評価することを想定している。
【0050】
まず、試験片延伸部4、加熱槽5(第1加熱槽5aおよび第2加熱槽5b)、および測定部6の動作パラメータを入力デバイスにより制御部70に入力する。そして、入力デバイス74により制御部70に試験準備指示を入力する。例えば、表示部72に表示されている「試験準備」ボタンをマウス等の入力デバイス74でクリックする。試験準備指示が入力されると、図7(a)に示すように、第1加熱槽5aおよび第2加熱槽5bのシャッタ手段59が閉鎖される。第1加熱槽5aは、試験位置TPに位置付けられる。一方、第2加熱槽5bは、退避位置EP1に位置付けられる。第1加熱槽5aおよび第2加熱槽5bは、この位置付けのために、必要に応じてレール5R上を+X方向または-X方向に移動される。そして、第1加熱槽5aおよび第2加熱槽5bでは、それぞれ、T℃およびT℃に加熱された加熱空気が、引出ユニット3が筐体2内に格納されていない状態の気体循環流路を循環される。この加熱気体の循環により、第1加熱槽5aおよび第2加熱槽5bの加熱空間(給気ダクト53)が予熱される。第1加熱槽5aおよび第2加熱槽5bの加熱空間の予熱が完了すると、「予熱完了」が表示される。例えば、「予熱完了」は、筐体2の前面(オペレータと対峙する面)に設けた不図示のインジケータに表示されるか、または制御部70の表示部72に表示される。この点は、以下の他の表示についても同様である。
【0051】
次に、図2(a)に図示したチャック部材44の相互間距離が最小状態に対応する寸法の、フィルム状または板状の、矩形の試験片Tを準備する。そして、試験片延伸部4に試験片Tを固定できる状態まで引出ユニット3を筐体2から引き出す。引出した試験片延伸部4のチャック部43および把持部45に準備した試験片Tを固定する。
【0052】
チャック部材の相互間距離が最小状態に対応する寸法よりも大きな試験片Tを試験する場合、あるいは、準備した試験片Tの寸法が前記最小状態に対応する寸法よりも大きい場合、まず引出ユニット3を筐体2から引き出す。そして、試験片Tの寸法を入力デバイス74により制御部70に入力する。試験片Tの寸法が入力されると、試験片Tの寸法に応じた試験片セット状態に試験片延伸部4が設定される。試験片セット状態に設定された試験片延伸部4のチャック部43および把持部45に準備した試験片Tを固定する。
【0053】
次に、第1加熱槽5aが「予熱完了」になっていることを表示により確認する。「予熱完了」の確認後、試験片Tがチャック部43および把持部45に保持された引出ユニット3を筐体2内に格納する。
【0054】
引出ユニット3が格納された状態において入力デバイス74により制御部70に試験開始指示を入力する。例えば、表示部72に表示されている「試験開始」ボタンをマウス等の入力デバイス74でクリックする。試験開始指示が入力されると、第1加熱槽5aのシャッタ手段59が開く。当該シャッタ手段59が解放されると同時に、本体部31の上面31a側の連結蓋32が上面側加熱槽51のパンチング板58(加熱空間)に向けて突出する。また、同時に、本体部31の下面31b側の連結蓋32が下面側加熱槽52のパンチング板58(加熱空間)に向けて突出する。これによって、試験片延伸部4が位置づけられている試験空間TSは、図5(a)に示すように、本体部31の貫通領域を囲む内側壁と、上面側連結蓋32aおよび下面側連結蓋32bと、上面側加熱槽51および下面側加熱槽52のパンチング板58とによって囲まれた、加熱空気によって常時換気される空間になる。
【0055】
予め設定された時間経過した後、第1加熱槽5aを用いた試験片Tの実質的な延伸試験が開始される。試験片延伸部4内の、井桁状に配置された4本のレール41は、試験片延伸部4の4つのスライダ42の、X方向およびY方向の相互間距離が拡大するように移動する。その結果、図2(b)に示すように、矩形の試験片Tは、その4辺の寸法が拡大するように、その4辺および角部が外側に引っ張られ、延伸される。
【0056】
延伸中の試験片Tにかかる張力は、張力測定手段47によって測定される。張力測定手段47の出力は、制御部70のデータ解析部に取り込まれ、制御部70の記憶装置73に記憶される。張力測定手段47の出力は、制御部70の表示部72に表示することもできる。
【0057】
延伸中の試験片Tの中心領域は、ダブル光弾性変調法の複屈折位相差測定および光散乱観察の機能を有する測定部6によって測定される。測定部6の出力は、制御部70のデータ解析部に取り込まれ、制御部70の記憶装置73に記憶される。測定部6の出力は、制御部70の表示部72に表示することもできる。測定部6の出力は、逐次に、または適時に(延伸試験が完了した時点等に)データ解析部によって解析される。解析結果は、制御部70の表示部72に表示されるとともに、記憶装置73に記憶される。
【0058】
第1加熱槽5aでの試験片Tの延伸が終了すると、「第1加熱槽試験完了」が表示される。同時に、パンチング板58に当接していた両連結蓋32は、本体部31の上面31aまたは下面31bと面一になるように貫通孔31c内に没入する。連結蓋32が貫通孔31c内に没入すると、第1加熱槽5aのシャッタ手段59が閉鎖される。そして、第1加熱槽5aは、退避位置EP1に位置付けられる。一方、第2加熱槽5bは、試験位置TPに位置付けられる。第1加熱槽5aおよび第2加熱槽5bは、この位置付けのために、必要に応じてレール5R上を+X方向または-X方向に移動される。
【0059】
次に、第2加熱槽5bが「予熱完了」になっている場合、第2加熱槽5bのシャッタ手段59が開く。当該シャッタ手段59が解放されると同時に、本体部31の上面31a側の連結蓋32が上面側加熱槽51のパンチング板58に向けて突出する。また、同時に、本体部31の下面31b側の連結蓋32が下面側加熱槽52のパンチング板58に向けて突出する。両連結蓋32は、パンチング板58に当接すると、突出動作を停止する。これによって、試験片延伸部4が位置づけられている試験空間TSは、図5(b)および図7(b)に示すように、本体部31の貫通領域を囲む内側壁と、上面側および下面側の連結蓋32と、上面側加熱槽51および下面側加熱槽52のパンチング板58とによって囲まれた、加熱空気によって常時換気される空間になる。
【0060】
予め設定された時間経過した後、第2加熱槽5bを用いた試験片Tの実質的な延伸試験が開始される。第2加熱槽5bを用いた試験片Tの実質的な延伸試験は、第2加熱槽5aを用いた試験片Tの実質的な延伸試験と同様に進むので、ここではその説明を割愛する。
【0061】
第2加熱槽5bでの試験片Tの延伸が終了すると、「第2加熱槽試験完了」が表示される。同時に、パンチング板58に当接していた両連結蓋32が貫通孔31c内に没入する。連結蓋32が貫通孔31c内に没入すると、第2加熱槽5aのシャッタ手段59が閉鎖される。
【0062】
第2加熱槽5aのシャッタ手段59が閉鎖されると、「全試験完了」が表示される。「全試験完了」が表示されると、引出ユニット3を筐体2から取り出して、次の試験片の試験の準備を行うことができる。
【0063】
〔変形例〕
上記実施形態の延伸試験装置および延伸試験方法は、簡素化または高度化の変形が可能である。簡素化または高度化の変形例について、以下で説明する。以下の変形例の説明における括弧書きは、上記実施形態の延伸試験装置における構成要素を示す参考情報であって、これは単に変形例における構成要素が機能的に共通にすることを示すものであり、変形例における構成要素が上記実施形態の延伸試験装置における構成要素と配置的にまたは構造的に同一であることを示すものではない。
【0064】
延伸試験装置は、加熱槽(5)が、加熱空間としての給気ダクト(53)と、筐体(2)内の前記試験空間(TS)とが流体連通する状態と、流体連通しない状態とに切り替えることができること(以下、「構成A」ということがある。)と、引出ユニット(3)が筐体(2)内に押込まれた押込み状態において、前記加熱空間と、前記試験空間(TS)とを連結するために引出ユニット(3)が連結蓋(32)を備えること(以下、「構成B」ということがある。)と、のいずれか一方のみを含むものであり得る。前記構成Aおよび構成Bは、いずれも、「試験片の交換の際、前記試験片の延伸が行われる試験空間を速やかに試験温度に到達させる」という課題を解決する手段である。また、前記構成Aの具体的手段であるシャッタ手段(59)、および前記構成Bにおける連結蓋(32)は、いずれも引出ユニット(3)が筐体(2)内に押込まれた押込み状態において、前記加熱空間と、前記試験空間(TS)とを連結するためのものである。
【0065】
加熱槽(5)は、2つに限らず、1つだけでもよいし、3つ以上でもよい。各加熱槽(5)は、少なくとも前記構成Aを備えていれば、前記加熱空間と流体連通する状態での前記試験片(T)の延伸に先立ち、前記加熱空間と、前記試験空間(TS)とが流体連通しない状態として、前記加熱空間を予め加熱することができ、試験空間(TS)を迅速に均一な試験温度に設定できる。また、各加熱槽(5)は、少なくとも前記構成Bを備えていれば、加熱空気が間隙から漏れて拡散する試験空間(TS)に比べ、連結蓋(32)によって囲まれる試験空間(TS)は、迅速に均一な試験温度に設定できる。
【0066】
加熱槽(5)は、試験片(T)の第1面側から試験片(T)を加熱するための上面側加熱槽(51)と、試験片Tの第2面側から試験片(T)を加熱するための下面側加熱槽(52)と、を有するものが特に望ましいが、これに限定されない。加熱槽(5)は、上面側加熱槽(51)および下面側加熱槽(52)のいずれか一方のみを有するものでもよい。上面側加熱槽(51)および下面側加熱槽(52)は、それぞれが気体加熱領域(56)を有するようにしてもよい。この場合、加熱槽(5)は、上面側加熱槽(51)および下面側加熱槽(52)がレール(5R)上を一体的に移動できるように、上面側加熱槽(51)および下面側加熱槽(52)を相互に接続する接続部を設けることが望ましい。
【0067】
シャッタ手段(59)は、給気ダクト(53)の最下流領域にパンチング板(58)に隣接して設けなくてもよい。例えば、シャッタ手段(59)は、給気ダクト(53)の中間領域に設けてもよい。その場合、シャッタ手段(59)によって前記流体連通しない状態になったときに、給気ダクト(53)と還気ダクト(54)とが流体連通されるように構成される。
【0068】
加熱槽(5)が1つの場合でも前記試験位置(TP)から前記退避位置(EP1/EP2)に移動可能としてもよい。このように構成することで、試験位置(TP)付近を保守するときに、加熱槽5を退避位置(EP1/EP2)に退避させることができる。また、加熱槽5を退避位置(EP1/EP2)に退避させておいて第1の試験温度としての室温での延伸試験を行い、次いで、第2の試験温度に設定した加熱槽5を試験位置(TP)に位置付け第2の試験温度で延伸試験をおこなうこともできる。
【0069】
気体加熱領域(56)は、試験片(T)の特性の評価の妨げとならない限り、給気ダクト(53)の最上流領域に限らず、給気ダクト(53)または還気ダクト(54)の任意の場所に設けることができる。また、気体加熱領域(56)は、1つに限らず、複数設けてもよい。発熱部(57)は、気体加熱領域(56)内に少なくとも1つ設ければよい。発熱部(57)は、抵抗加熱方式、および赤外線加熱方式等の公知のものを採用することができる。
【0070】
送風機構(55)は、試験片(T)の特性の評価の妨げとならない限り、給気ダクト(53)の最上流領域に限らず、給気ダクト(53)または還気ダクト(54)の任意の場所に設けることができる。また、送風機構(55)は、1つに限らず、複数設けてもよい。発熱部(57)は、気体加熱領域(56)内に少なくとも1つ設ければよい。送風機構(55)は、プロペラファン、シロッコファン等の公知のものを採用することができる。
【0071】
パンチング板(58)は、中空柱状体(60)が立設された中央の第1領域(58a)と、当該第1領域の外側を囲み、貫通孔(61)が配列された第2領域(58b)と、当該第2領域(58b)の外側を囲み、貫通孔(62)が配列された第3領域(58c)と、を備えるものが特に望ましいが、これに限定されない。前記第1領域(58a)は、中空柱状体(60)を有さず、貫通孔が配列された領域でもよい。その場合、第1領域(58a)は、前記第2領域(58b)と同様に構成されていても、貫通孔の径または配置が異なるように構成されていてもよい。前記第2領域(58b)は、前記第1領域(58a)の外側に設けられていれば、前記第1領域(58a)を囲んでいなくてもよい。前記第3領域(58c)は、前記第2領域(58b)の外側に設けられていれば、前記第2領域(58b)を囲んでいなくてもよい。例えば、前記第3領域(58c)は、前記第2領域(58b)を挟む両側に設けてもよい。
【0072】
加熱槽(5)は、試験片(T)の第1面側に加熱空気を試験片(T)に供給する給気ダクト(53)を備え、試験片(T)の第2面側に試験片(T)を通過した空気を回収する還気ダクト(54)を備えるものでもよい。このように構成する場合も、加熱空間としての給気ダクト(53)と、筐体2内の前記試験空間(TS)とが流体連通する状態と、流体連通しない状態とに切り替えることができるように構成される。例えば、給気ダクト(53)と還気ダクト(54)とを直接流体連通させるバイパス流路と、給気ダクト(53)から供給される加熱空気が前記試験空間(TS)を経て還気ダクト(54)に回収される試験流路とを切り替えできるように構成される。このような加熱槽において、給気ダクトの最下流領域にパンチング板(58)を設けることが望ましい。
【0073】
引出ユニット(3)が有する枠状の引出ユニット本体(31)は、引出ユニット本体(31)を室温に冷却可能な冷却手段を備えてもよい。前記冷却手段は、引出ユニット(3)を筐体(2)から引出す直前、または引出した直後に、引出ユニット本体(31)の外面(前記第1面、第2面、前記貫通領域を囲む内側壁、外側壁等)を冷却するように配置することができる。このように構成することで、試験片(T)の交換を迅速かつ安全に行うことができる。
【0074】
試験片延伸部(4)を室温に冷却可能な冷却手段が、試験片延伸部(4)自体、引出ユニット本体(31)、その他の筐体(2)内に設けられてもよい。当該冷却手段により、引出ユニット(3)を筐体(2)から引出す直前、または引出した直後に、試験片延伸部(4)を冷却することによって、試験片(T)の交換を迅速かつ安全に行うことができる。試験片延伸部(4)のチャック部材(44)は、上記実施形態のものが好適であるが、これに代えて、公知のものを用いることができる。
【0075】
上記実施形態では、第1加熱槽(5a)および第1加熱槽(5b)を備える延伸試験装置(1)は、上記「延伸試験方法の具体例」のほかに、以下のような延伸試験方法を行うことができる。例えば、連続して2以上の試験片の延伸試験する場合、第1加熱槽(5a)および第2加熱槽(5b)を交互に用い、第1加熱槽(5a)において試験片の延伸試験を行っている間に、第2加熱槽(5b)において次の試験片の延伸試験のための予熱を行うようにすることができる。その場合、延伸試験のためのパラメータは、各試験片の延伸試験のたびに入力するようにしてもよいが、1番目の延伸試験の前に一括して入力するようにしてもよい。
【0076】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、および明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0077】
1 延伸試験装置
2 筐体
3 引出ユニット
4 試験片延伸部
5 加熱槽
5a 第1加熱槽
5b 第2加熱槽
5R レール
6 測定手段
31 引出ユニット本体
32 連結蓋(連結部材)
41,41XF,41XB,41YL,41YR レール
42,42FL,42FR,42BL,42BR スライダ
43 チャック部
44,44F,44B,44L,44R チャック部材
45,45S,45C 把持部
46 リンク部
47 張力測定手段
51,51a,51b 上面(表面)側加熱槽
52,52a,52b 下面(表面)側加熱槽
53 給気ダクト
54 還気ダクト
55 送風機構
56 気体加熱領域
57 発熱部
58 パンチング板
59 シャッタ手段
60 中空柱状体
61,62 貫通孔
I 軸線
EP1,EP2 退避位置
T 試験片
TC 試験片延伸部の中心
TP 試験位置
TS 試験空間
図1(a)】
図1(b)】
図2(a)】
図2(b)】
図3
図4
図5(a)】
図5(b)】
図6
図7(a)】
図7(b)】