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特開2023-115930熱量調整装置の後流配管内壁面に、微粒化されたLPGが付着するか否かの判定方法
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  • 特開-熱量調整装置の後流配管内壁面に、微粒化されたLPGが付着するか否かの判定方法 図1
  • 特開-熱量調整装置の後流配管内壁面に、微粒化されたLPGが付着するか否かの判定方法 図2
  • 特開-熱量調整装置の後流配管内壁面に、微粒化されたLPGが付着するか否かの判定方法 図3
  • 特開-熱量調整装置の後流配管内壁面に、微粒化されたLPGが付着するか否かの判定方法 図4
  • 特開-熱量調整装置の後流配管内壁面に、微粒化されたLPGが付着するか否かの判定方法 図5
  • 特開-熱量調整装置の後流配管内壁面に、微粒化されたLPGが付着するか否かの判定方法 図6
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023115930
(43)【公開日】2023-08-22
(54)【発明の名称】熱量調整装置の後流配管内壁面に、微粒化されたLPGが付着するか否かの判定方法
(51)【国際特許分類】
   C10L 3/00 20060101AFI20230815BHJP
【FI】
C10L3/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022018344
(22)【出願日】2022-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】000004123
【氏名又は名称】JFEエンジニアリング株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000221834
【氏名又は名称】東邦瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】養田 信
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健也
(72)【発明者】
【氏名】浦部 治貴
(72)【発明者】
【氏名】榎本 隼
(72)【発明者】
【氏名】清水 陽介
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 和男
(57)【要約】
【課題】熱量調整装置の後流側において、微粒化されたLPGが配管内壁面に付着するか否かの判定方法を提供する。
【解決手段】本発明は、NGが流れる主流管3に設けられて基端側から前記NGの供給を受けて先端側に噴出する外筒5と、外筒5内に外筒5と同軸方向でかつ外筒内壁と空間を介して配置され主流管3から分岐した分岐管7から前記NGの供給を受ける内筒9と、内筒9と同軸上に配置されて内筒9内にLPGを吐出する液体ノズル13とを備え、主流管3を流れる前記NGに液体ノズル13からLPGを添加することで前記NGの熱量を調整する熱量調整装置1の後流配管内壁面に、微粒化されたLPGが付着するか否かの判定方法であって、
Sm×t×(Psat,LPG-PLPG)が1.5×1010以上であれば、LPGが配管内壁面へ付着しないと判定し、Sm×t×(Psat,LPG-PLPG)が1.5×1010未満であれば、LPGが配管内壁面へ付着すると判定するものである。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
NGが流れる主流管に設けられて基端側から前記NGの供給を受けて先端側に噴出する外筒と、該外筒内に該外筒と同軸方向でかつ外筒内壁と空間を介して配置され前記主流管から分岐した分岐管から前記NGの供給を受ける内筒と、該内筒と同軸上に配置されて該内筒内にLPGを吐出する液体ノズルとを備え、前記主流管を流れる前記NGに前記液体ノズルからLPGを添加することで前記NGの熱量を調整する熱量調整装置の後流配管内壁面に、微粒化されたLPGが付着するか否かの判定方法であって、
Sm×t×(Psat,LPG-PLPG)が1.5×1010以上であれば、LPGが配管内壁面へ付着しないと判定し、Sm×t×(Psat,LPG-PLPG)が1.5×1010未満であれば、LPGが配管内壁面へ付着すると判定することを特徴とする熱量調整装置の後流配管内壁面に微粒化されたLPGが付着するか否かの判定方法。
ここで、Sm:LPGの比表面積[m2/m3]
t:LPG液滴の滞留時間[s]
Psat,LPG:製造ガス温度におけるLPGの飽和蒸気圧[Pa]
PLPG:製造ガス中のLPGの分圧[Pa]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液化天然ガス(LNG)を気化させた天然ガス(NG)に液化石油ガス(LPG)を気化・混合することにより熱量調整する熱量調整装置の後流配管内壁面に、微粒化されたLPGが付着するか否かの判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
都市ガスの熱量調整は液化天然ガス(LNG)を気化させた天然ガス(NG)に液化石油ガス(LPG)を気化・混合することにより行う。近年はシェールガスなどメタン成分の多いLNGの輸入が増加しており、LPGによる増熱幅が増加する傾向にある。
【0003】
このような熱量調整方法としては、例えば特許文献1に開示された「流体微粒化ノズル装置」を用いて行うことができる。
特許文献1においては流体微粒化ノズル装置の実施形態として、NG(気体)にLPG(液体)を添加して都市ガスを製造する熱量調整装置が開示されている。
【0004】
この熱量調整装置1は、図6に示すように、NGが流れる主流管3に設けられたベンチュリ管からなる外筒5と、主流管3から分岐した分岐管7と、外筒5内に配置されて分岐管7からNGの供給を受ける内筒9と、内筒9内に設けられて液体供給管11からLPGの供給を受ける液体ノズル13とを備え、主流管3を流れるNGに液体ノズル13からLPGを添加することでNGの熱量を調整するものである。(特許文献1の段落[0042]参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-206071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された流体微粒化ノズル装置が組み込まれた熱量調整装置は、ベンチュリ管を水平に設置する、すなわち横置きすることが前提とされており、縦置きとした場合に正常に熱量調整が機能するかについては言及されていない。
【0007】
熱量調整装置の据付姿勢を縦置き(鉛直上向き又は鉛直下向き)とする場合、高さ方向に所定のスペースが必要となる。そこで、設備の高さをできるだけ抑えるため、熱量調整装置の後流に設ける直管部を短くしてエルボを設ける必要がある。
【0008】
熱量調整後の製造ガス温度と製造ガスの露点の差(以下、「過熱度」という)が小さい条件においては、流体微粒化ノズル装置によって微粒化されたLPGの気化にある程度の距離を要する。そのため、その気化の最中に前記エルボによって生じる偏流の影響で微粒化されたLPGが熱量調整装置の後流側配管の内壁面に付着して気化が阻害され、想定外の低温となることが明らかになった。
【0009】
このような状態となると、熱量調整が正常に機能しないのみならず、想定外の低温による設備への悪影響が懸念される。
そのため、かかる事態が生ずるか否かを判定する定量的な判定基準が求められていた。
【0010】
本発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、熱量調整装置の後流側において、微粒化されたLPGが後流配管内壁面に付着するか否かの判定方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
熱量調整装置の据付姿勢を縦置きとし、過熱度が小さく、かつ熱量調整装置後流にエルボを設置する場合について実証試験を実施し、微粒化されたLPGが配管内壁面に付着する条件を特定した。
そして、特定した条件から、LPGの気化に影響を及ぼす因子を突き止め、それを用いてLPGが気化せずに配管内壁面に付着するか否かの独自の指標を見出した。具体的には以下に示すものである。
【0012】
本発明は、NGが流れる主流管に設けられて基端側から前記NGの供給を受けて先端側に噴出する外筒と、該外筒内に該外筒と同軸方向でかつ外筒内壁と空間を介して配置され前記主流管から分岐した分岐管から前記NGの供給を受ける内筒と、該内筒と同軸上に配置されて該内筒内にLPGを吐出する液体ノズルとを備え、前記主流管を流れる前記NGに前記液体ノズルからLPGを添加することで前記NGの熱量を調整する熱量調整装置の後流配管内壁面に、微粒化されたLPGが付着するか否かの判定方法であって、
Sm×t×(Psat,LPG-PLPG)が1.5×1010以上であれば、LPGが配管内壁面へ付着しないと判定し、Sm×t×(Psat,LPG-PLPG)が1.5×1010未満であれば、LPGが配管内壁面へ付着すると判定することを特徴とするものである。
ここで、Sm:LPGの比表面積[m2/m3]
t:LPG液滴の滞留時間[s]
Psat,LPG:製造ガス温度におけるLPGの飽和蒸気圧[Pa]
PLPG:製造ガス中のLPGの分圧[Pa]
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、熱量調整装置の据付姿勢を問わず、熱量調整装置の後流配管内壁面に気化前のLPG液滴が付着するか否かを判定することができる。
したがって、熱量調整装置の据付姿勢を縦置きとし、過熱度が小さい、かつ熱量調整装置後流にエルボを設置する場合において、熱量調整装置後流配管が低温とならない指標とすることができる。すなわち、この指標を満たすように装置を製造すれば、熱量調整装置後流配管に低温材を用いなくてもよいため、材料費及び施工費の削減につながる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施の形態に係る熱量調整装置を縦置き・下向きとした状態を説明する図である。
図2】液滴の終端速度の算出過程を説明する図である(その1)。
図3】液滴の終端速度の算出過程を説明する図である(その2)。
図4】LPG付着距離を説明する図である。
図5】実証試験の各条件において、LPGの気化に影響を及ぼす因子を掛け合わせたもの(Sm×t×(Psat,LPG-PLPG))に対するLPGの気化に要する距離の関係を示すグラフである。
図6】従来の熱量調整装置の概要を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本実施の形態は、図1に示すように、NGが流れる主流管3に設けられて基端側から前記NGの供給を受けて先端側に噴出する外筒5と、外筒5内に外筒5と同軸方向でかつ外筒内壁と空間を介して配置され主流管3から分岐した分岐管7から前記NGの供給を受ける内筒9と、内筒9と同軸上に配置されて内筒9内に液体供給管11からLPGの供給を受けLPGを吐出する液体ノズル13とを備え、主流管3を流れる前記NGに液体ノズル13からLPGを添加することで前記NGの熱量を調整する熱量調整装置1の後流配管内壁面に、微粒化されたLPGが付着するか否かの判定方法である。
具体的には、Sm×t×(Psat,LPG-PLPG)が1.5×1010以上であれば、LPGが配管内壁面へ付着しないと判定し、Sm×t×(Psat,LPG-PLPG)が1.5×1010未満であれば、LPGが配管内壁面へ付着すると判定する。
ここで、Sm:LPGの比表面積[m2/m3]
t:LPG液滴の滞留時間[s]
Psat,LPG:製造ガス温度におけるLPGの飽和蒸気圧[Pa]
PLPG:製造ガス中のLPGの分圧[Pa]
以下、上記判定基準の導出方法について説明する。
【0016】
LPGの気化に影響を及ぼす因子は、Sm(=LPGの比表面積)、t(=LPG液滴の滞留時間)及び(Psat,LPG-PLPG)(製造ガス温度におけるLPGの飽和蒸気圧Psat,LPGと、製造ガス中のLPGの分圧PLPGの差[Pa])であり、Smとtは以下の式によって求められる。
Sm=(πD2)×n/FLPG ・・・(1)
t=L/ut,LPG ・・・・・・・・(2)
ここで、D:微粒化されたLPGの液滴径[m/個](既往の式により推定することができる)
n:液滴数[個]
FLPG:LPG量[m3]
L:ベンチュリ部分の長さ[m]
ut,LPG:LPG液滴の終端速度[m/s]
【0017】
ここで、LPG液滴の終端速度ut,LPGの求め方について説明する。
液体ノズル13から流出したLPG液滴が周囲のガスの流れによって減速されるような状況を考えると、次のLPG液滴に関する運動方程式が成り立つ。
ρLPGVD(du/dt)=(ρLPGGas)VDa-CDS(ρGasu2/2) ・・・・(3)
ここで、ρLPG:LPGの密度[kg/m3]
VD:LPG液滴1 個当たりの体積(=πD3/6)[m3]
ρGas:製造ガスの密度[kg/m3]
CD:抗力係数(=24/Re,Re:レイノルズ数(=DutρGasGas))[-]
ut:LPG液滴の終端速度ut,LPGとu2の差(u2は後述)
μGas:製造ガスの粘度[Pa s]
S:LPG液滴1個当たりの運動方向への投影面積(=πD2/4)[m2]
u:LPG液滴の速度[m/s]
a:ガスの減速加速度[m/s2]
なお、抗力係数CDは、Reの範囲によって式が異なるが、LPG液滴径Dがμmオーダーと非常に小さく、総じてRe=DutρGasGas<2なので、CD=24/Reとなる。
【0018】
ここで、ガスの減速加速度aの求め方を、図2図3に基づいて説明する。
図2は、ノズル出口~ベンチュリ出口におけるNGとLPG液滴の典型的な流速変化を示したものである。ここで、uGはノズル流出時のNG流速、u1はベンチュリのど部のNG流速、u2はベンチュリ出口部のNG流速、Lはベンチュリ長さである。
図2に示すように、NG流速は流路が拡大していくに従って減少し、また、LPG液滴はuGまたはu1のうち、大きい方の速度(=MAX(uG,u1))でベンチュリのど部を通過し、LPG液滴は周囲のガスによって終端速度ut,LPGまで減速される。そして、ガス流速が時間に対して1次で減少すると仮定すると、ベンチュリ長さLは、図3のグラフにおけるグレーの部分の面積となり、下式が成立する。
【数1】
【0019】
また、ガスの減速加速度aは下式によって求まる。
【数2】
【0020】
式(4)(5)より、ガスの減速加速度aは、下記の通り求められる。
【数3】
【0021】
LPG液滴の終端速度ut,LPGとu2の差utは、加速度がゼロとなったときの速度である。これは、(3)式の左辺がゼロとなるときであり、このとき(3)式においてu=utとすればutについて以下の式が得られる。
ut=D2LPGGas)a/(18μGas)
上式において、さらに液滴の変形による終端速度の低下を考慮した補正((3μLPG+3μGas)/(3μLPG+2μGas))をかけると次式のHadamard-Rybczinskiの式が求められる。
ut=D2LPGGas)a/(18μGas)×(3μLPG+3μGas)/(3μLPG+2μGas) ・・・・(7)
ここで、μLPG:LPGの粘度[Pa s]
このutの絶対値|ut|にu2を加えたものがLPG液滴の終端速度ut,LPGとなる。
【0022】
図1に示す試験装置を用いて各条件におけるLPG付着距離を求める実証試験を行った。ここで、LPG付着距離とは、図4に示すように、熱量調整装置1の後流側において、配管表面温度が-5℃以下となる距離である。
想定される運転範囲において、主流管NG流量、分岐管NG流量、熱量調整装置入口NG温度、LPG流量を組み合わせた条件で熱量調整装置及び後流配管の表面温度を測定する試験を行った。
ここで、主流管NG流量はベンチュリ内のNG流速ひいてはLPG液滴の終端速度ut,LPGに、分岐管NG流量はLPGの液滴径Dに、熱量調整装置入口NG温度は過熱度及び製造ガス温度におけるLPGの飽和蒸気圧Psat,LPGに、LPG流量はLPG液滴の比表面積Sm、LPGの液滴径D及び製造ガス中のLPG分圧PLPGにそれぞれ影響する因子である。
【0023】
実証試験の各条件において、(Sm×t×(Psat,LPG-PLPG))に対するLPGの気化に要する距離(LPG付着距離)の関係を求めたものを図5に示す。図5の縦軸はLPG付着距離、横軸は(Sm×t×(Psat,LPG-PLPG))である。
横軸を(Sm×t×(Psat,LPG-PLPG))としたのは、LPG液滴の気化、すなわちLPGの物質移動に寄与する要因として考えられるもので整理したからである。
つまり、上記要因としては、(i)気液界面積(界面積が大きいほど気化しやすい)(Sm)、(ii)液体ノズルから流出したLPG液滴がどれくらいの時間ベンチュリ内に存在しているか(滞留時間t)、(iii)LPGがどれくらい気化できるか(理論的には飽和蒸気圧まで気化できる)(飽和蒸気圧と分圧の差Psat,LPG-PLPG)が考えられる。
【0024】
図5から、Sm×t×(Psat,LPG-PLPG)の値が1.5×1010以上であれば、LPG付着距離が0となり、LPGが配管内壁面に付着しないことが分かる。
【0025】
例えば、熱量調整装置入口NG温度40℃、主流管NG流量2100m3N/h、分岐管NG流量700m3N/h,LPG流量200kg/hの条件では、Sm×t×(Psat,LPG-PLPG)=1.6×1010となり、しきい値である1.5×1010以上となるため、LPGが配管内壁面へ付着せず、配管が低温となることはないと判定できる。
【0026】
以上のように、本実施の形態の判定方法によれば、熱量調整装置1の据付姿勢を問わず、LPGが配管内壁面に付着するか否かを判定することができる。
したがって、熱量調整装置1の据付姿勢を、図1に示すように、縦置きとし、過熱度が小さい、かつ熱量調整装置後流にエルボ15を設置する場合において、熱量調整装置後流配管が低温とならない指標とすることができる。すなわち、この指標を満たすように装置を製造すれば、図1のエルボ15による屈曲部分(図中の破線の四角で囲んだ部分)に液滴が付着することがなく、熱量調整装置後流配管に低温材を用いなくてもよいため、材料費及び施工費の削減につながる。
【符号の説明】
【0027】
1 熱量調整装置
3 主流管
5 外筒
7 分岐管
9 内筒
11 液体供給管
13 液体ノズル
15 エルボ
図1
図2
図3
図4
図5
図6