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特開2023-115952薄肉鋳片用ピンチロールユニット、および、薄肉鋳片の製造装置、薄肉鋳片の製造方法
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  • 特開-薄肉鋳片用ピンチロールユニット、および、薄肉鋳片の製造装置、薄肉鋳片の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023115952
(43)【公開日】2023-08-22
(54)【発明の名称】薄肉鋳片用ピンチロールユニット、および、薄肉鋳片の製造装置、薄肉鋳片の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/06 20060101AFI20230815BHJP
   B22D 11/16 20060101ALI20230815BHJP
【FI】
B22D11/06 330B
B22D11/16 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022018399
(22)【出願日】2022-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】宮嵜 雅文
(72)【発明者】
【氏名】河西 大輔
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 浩太
(72)【発明者】
【氏名】吉田 直嗣
【テーマコード(参考)】
4E004
【Fターム(参考)】
4E004DA13
4E004MC30
4E004SB09
4E004SC01
4E004SC07
(57)【要約】
【課題】鋳造中に薄肉鋳片の鋳片クラウンが変化したとしても、ピンチロールによる蛇行制御性を確保しつつ、薄肉鋳片の形状を一定に保ち、鋳造を安定化させることが可能な薄肉鋳片用ピンチロールユニットを提供する。
【解決手段】連続鋳造によって形成される薄肉鋳片1を厚さ方向に挟持して搬送する薄肉鋳片用ピンチロールユニット40であって、薄肉鋳片1を挟持するピンチロール41と、ピンチロール41よりも薄肉鋳片1の搬送方向F上流側に配置され、ピンチロール41に挟持される薄肉鋳片1の形状を測定する形状測定手段43と、ピンチロール41を変形させるピンチロール変形手段42と、を備えており、形状測定手段43によって測定された薄肉鋳片1の形状に応じてピンチロール41を変形させ、変形させたピンチロール41によって薄肉鋳片1を挟持する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続鋳造によって形成される薄肉鋳片を厚さ方向に挟持して搬送する薄肉鋳片用ピンチロールユニットであって、
前記薄肉鋳片を挟持するピンチロールと、
前記ピンチロールよりも前記薄肉鋳片の搬送方向上流側に配置され、前記ピンチロールに挟持される前記薄肉鋳片の形状を測定する形状測定手段と、
前記ピンチロールを変形させるピンチロール変形手段と、を備えており、
前記形状測定手段で測定された前記薄肉鋳片の形状に応じて前記ピンチロールを変形させ、変形させた前記ピンチロールによって前記薄肉鋳片を挟持することを特徴とする薄肉鋳片用ピンチロールユニット。
【請求項2】
前記ピンチロールよりも前記薄肉鋳片の搬送方向上流側に配置され、前記ピンチロールに挟持される前記薄肉鋳片の温度を測定する温度測定手段を備えていることを特徴とする請求項1に記載の薄肉鋳片用ピンチロールユニット。
【請求項3】
前記ピンチロール変形手段は、前記ピンチロールの背面側に配置されたバックアップロールであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の薄肉鋳片用ピンチロールユニット。
【請求項4】
前記ピンチロール変形手段は、前記ピンチロールの内部に配設された外径調整手段であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の薄肉鋳片用ピンチロールユニット。
【請求項5】
前記ピンチロールよりも前記薄肉鋳片の搬送方向下流側に、前記ピンチロールに挟持された前記薄肉鋳片の形状を測定する第2形状測定手段が配設されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の薄肉鋳片用ピンチロールユニット。
【請求項6】
前記ピンチロールよりも前記薄肉鋳片の搬送方向上流側に、前記薄肉鋳片の蛇行量を検知する蛇行検知手段が配設されていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の薄肉鋳片用ピンチロールユニット。
【請求項7】
薄肉鋳片を連続鋳造する連続鋳造機と、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の薄肉鋳片用ピンチロールユニットと、を備え、
前記薄肉鋳片用ピンチロールユニットによって、前記連続鋳造機で形成された前記薄肉鋳片を厚さ方向に挟持して搬送することを特徴とする薄肉鋳片の製造装置。
【請求項8】
前記連続鋳造機は、回転する一対の冷却ロールと一対のサイド堰によって形成された溶融金属プール部に溶融金属を供給し、前記冷却ロールの周面に凝固シェルを形成・成長させて薄肉鋳片を製造する双ロール式連続鋳造機であることを特徴とする請求項7に記載の薄肉鋳片の製造装置。
【請求項9】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の薄肉鋳片用ピンチロールユニットによって、連続鋳造機で形成された薄肉鋳片を厚さ方向挟持して搬送することを特徴とする薄肉鋳片の製造方法。
【請求項10】
前記連続鋳造機は、回転する一対の冷却ロールと一対のサイド堰によって形成された溶融金属プール部に溶融金属を供給し、前記冷却ロールの周面に凝固シェルを形成・成長させて薄肉鋳片を製造する双ロール式連続鋳造機であることを特徴とする請求項9に記載の薄肉鋳片の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続鋳造によって形成される薄肉鋳片を厚さ方向に挟持して搬送する薄肉鋳片用ピンチロールユニット、および、この薄肉鋳片用ピンチロールユニットによって薄肉鋳片を搬送する薄肉鋳片の製造装置、薄肉鋳片の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属の薄肉鋳片を製造する装置として、例えば特許文献1,2に示すように、内部に水冷構造を有するとともに互いに逆方向に回転する一対の冷却ロールを備え、一対の冷却ロールと一対のサイド堰によって形成された溶融金属プール部に溶融金属を供給し、前記冷却ロールの周面に凝固シェルを形成・成長させ、一対の冷却ロールの外周面にそれぞれ形成された凝固シェル同士をロールキス点で圧着して所定の厚さの薄肉鋳片を製造する双ロール式連続鋳造装置が提供されている。このような双ロール式連続鋳造装置は、各種金属において適用されている。
【0003】
上述の双ロール式連続鋳造装置においては、冷却ロールの上方に配置されたタンディッシュから浸漬ノズルを介して溶融金属プール部に溶融金属が連続的に供給され、回転する冷却ロールの外周面上で溶鋼が凝固成長して凝固シェルが形成され、各冷却ロールの外周面に形成された凝固シェルがロールキス点で圧着され、薄肉鋳片が製出される。
【0004】
また、特許文献3には、タンディッシュの上部位置に磁界発生装置を配置し、タンディッシュの湯面中央部近傍に配置された一対の冷却ロールの方向に湯面を流動保持し、一対の冷却ロールの外周面に溶融金属を接触させて凝固シェルを成長させ、凝固シェル同士をロールキス点で圧着し、得られた薄肉鋳片を上方に引き抜く構成とした薄肉鋳片の製造方法及び製造装置が開示されている。
【0005】
上述のように連続鋳造された薄肉鋳片は、ピンチロールによって厚さ方向に挟持されて搬送される。
ここで、薄肉鋳片の搬送時に蛇行が生じた場合には、薄肉鋳片を安定して搬送することができず、鋳造を中止することがあった。また、巻き取り装置で薄肉鋳片を形状良く巻き取ることができず、薄肉鋳片の再巻き取りを実施することがあった。
このため、例えば以下の特許文献4-7に示すように、搬送される薄肉鋳片の蛇行を制御する様々な手段が提案されている。
【0006】
特許文献4-6においては、薄肉鋳片の蛇行量(薄肉鋳片の搬送方向からのオフセット量)に応じて、ピンチロールの両端の荷重に差を与えてレベリングを行うことで、薄肉鋳片の蛇行を抑制する手段が提案されている。
特許文献7においては、ピンチロールの回転軸の平行をずらすことによって、薄肉鋳片の蛇行を抑制する手段が提案されている。
これらの蛇行制御技術は、薄肉鋳片に対するピンチロールの押圧の幅方向分布を変化させることで、薄肉鋳片にスラスト方向の力を与え、蛇行方向と反対側へ鋳片を誘導して蛇行を解消させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平02-092438号公報
【特許文献2】特開2017-087259号公報
【特許文献3】特開昭62-130750号公報
【特許文献4】特開平11-156504号公報
【特許文献5】特開平08-206790号公報
【特許文献6】特表2003-522024号公報
【特許文献7】特開平08-215814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、薄肉鋳片の鋳造方向に直交する断面形状は、通常、幅中央部が厚く幅端部に近づくにつれて薄くなって、凸形を呈している。幅中央部から幅端部に至る板厚のカーブ(以後、これを鋳片クラウンと称する)や板厚の差は、薄肉鋳片の幅や厚み、あるいは薄肉鋳片の成分などによって様々な値を取り得る。そこで、鋳片クラウンの形を予め想定した上でピンチロールのバレルの形状を設定すると、押圧の幅方向分布の制御を精緻に設計することができ、蛇行をより安定、確実に制御することが可能となる。
【0009】
ここで、連続鋳造によって形成される薄肉鋳片においては、鋳造中に鋳片クラウンが変化する場合がある。
例えば、鋳造の初期においては、鋳型(双ロール連続鋳造機においては冷却ロール)が十分に温まっておらず、鋳造が進展して徐々に鋳型が温まるにつれて、鋳型の熱膨張によって形が変化して、それに応じて鋳片クラウンが変化することがある。
また、鋳造の途中で鋳造板厚を変化させた場合、鋳型熱流束が変化し、それによって鋳型の熱膨張量が変化し、鋳片クラウンが変化することがある。
【0010】
このように、鋳造中に薄肉鋳片の鋳片クラウン形状が変化した場合には、ピンチロールで蛇行制御する際に、押圧の幅方向分布が刻々と変化してしまい、蛇行制御が乱されてしまうおそれがあった。
以下に、鋳片クラウンの変化に対するピンチロールの影響について、以下に、より具体的に課題を説明する。
【0011】
鋳型に最も近い位置に配置されたピンチロールにおいては、薄肉鋳片の温度がより高く、薄肉鋳片が脆弱で変形しやすいため、以下の事象がより顕著に発生する。
まず、鋳片クラウンの最小値を想定してピンチロールのバレル形状を設定した場合、鋳片クラウンが最大値を取ったときに、薄肉鋳片の幅中央部の押圧が過剰となり、薄肉鋳片へスラスト方向の力を加えにくくなって蛇行制御性が悪化する。さらに、蛇行制御するために過剰に押圧力を高くすると、薄肉鋳片の幅中央部が圧延されて中伸びになり、形状が悪化してしまう。
逆に、鋳片クラウンの最大値を想定してピンチロールのバレル形状を設定すると、鋳片クラウンが最小値のときに、薄肉鋳片の幅端部の押圧が過剰となり、薄肉鋳片が端伸びとなって耳波が発生して、薄肉鋳片の形状が悪化するとともに、ピンチロール以降の搬送性、蛇行制御性、コイル巻き取り性に悪影響を与えてしまう。
【0012】
本発明は、前述した状況に鑑みてなされたものであって、鋳造中に薄肉鋳片の鋳片クラウンが変化したとしても、ピンチロールによる蛇行制御性を確保しつつ、薄肉鋳片の形状を一定に保ち、鋳造を安定化させることが可能な薄肉鋳片用ピンチロールユニット、および、薄肉鋳片の製造装置、薄肉鋳片の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述の課題を解決するために、本発明に係る薄肉鋳片用ピンチロールユニットは、連続鋳造によって形成される薄肉鋳片を厚さ方向に挟持して搬送する薄肉鋳片用ピンチロールユニットであって、前記薄肉鋳片を挟持するピンチロールと、前記ピンチロールよりも前記薄肉鋳片の搬送方向上流側に配置され、前記ピンチロールに挟持される前記薄肉鋳片の形状を測定する形状測定手段と、前記ピンチロールを変形させるピンチロール変形手段と、を備えており、前記形状測定手段で測定された前記薄肉鋳片の形状に応じて前記ピンチロールを変形させ、変形させた前記ピンチロールによって前記薄肉鋳片を挟持することを特徴としている。
【0014】
上述の構成の薄肉鋳片用ピンチロールユニットによれば、前記ピンチロールよりも前記薄肉鋳片の搬送方向上流側に配置された形状測定手段によって、ピンチロールに挟持する薄肉鋳片の形状を測定し、ピンチロール変形手段によって、測定された薄肉鋳片の形状に応じてピンチロールを変形させる構成とされているので、鋳造中に薄肉鋳片の鋳片クラウンが変化した場合であっても、変化した鋳片クラウン形状に応じてピンチロールを変形させることができる。
よって、薄肉鋳片の幅方向の一部が局所的に強く押圧されることがなく、薄肉鋳片の形状を一定に保つことができるとともに、ピンチロールによって蛇行制御を安定して実施することができ、薄肉鋳片を安定して搬送することが可能となる。
【0015】
ここで、本発明の薄肉鋳片用ピンチロールユニットにおいては、前記ピンチロールよりも前記薄肉鋳片の搬送方向上流側に配置され、前記ピンチロールに挟持される前記薄肉鋳片の温度を測定する温度測定手段を備えていることが好ましい。
この場合、ピンチロールに挟持される薄肉鋳片の温度を測定することができ、薄肉鋳片の強度を考慮してピンチロールの変形量や押圧力を調整することが可能となり、薄肉鋳片の変形を抑制することができる。
【0016】
また、本発明の薄肉鋳片用ピンチロールユニットにおいては、前記ピンチロール変形手段は、前記ピンチロールの背面側に配置されたバックアップロールであってもよい。
この場合、バックアップロールによってピンチロールをベンディングすることにより、ピンチロールを薄肉鋳片の鋳片クラウンに応じた形状に変形することが可能となり、薄肉鋳片を安定して搬送することが可能となる。
【0017】
また、本発明の薄肉鋳片用ピンチロールユニットにおいては、前記ピンチロール変形手段は、前記ピンチロールの内部に配設された外径調整手段であってもよい。
この場合、外径調整手段によってピンチロールの一部の外径を調整することにより、ピンチロールを薄肉鋳片の鋳片クラウンに応じた形状に変形することが可能となり、薄肉鋳片を安定して搬送することが可能となる。
【0018】
また、本発明の薄肉鋳片用ピンチロールユニットにおいては、前記ピンチロールよりも前記薄肉鋳片の搬送方向下流側に、前記ピンチロールに挟持された前記薄肉鋳片の形状を測定する第2形状測定手段が配設されていてもよい。
この場合、第2形状測定手段によって前記ピンチロールに挟持された前記薄肉鋳片の形状を測定し、この測定結果に応じてピンチロールの変形量や押圧力を調整することにより、薄肉鋳片の変形をさらに抑制することができる。
【0019】
また、本発明の薄肉鋳片用ピンチロールユニットにおいては、前記ピンチロールよりも前記薄肉鋳片の搬送方向上流側に、前記薄肉鋳片の蛇行量を検知する蛇行検知手段が配設されていてもよい。
この場合、蛇行検知手段によって薄肉鋳片の蛇行量を検知することができ、ピンチロールによる蛇行制御をさらに安定して実施することができる。
【0020】
本発明の薄肉鋳片の製造装置は、薄肉鋳片を連続鋳造する連続鋳造機と、前述の薄肉鋳片用ピンチロールユニットと、を備え、前記薄肉鋳片用ピンチロールユニットによって、前記連続鋳造機で形成された前記薄肉鋳片を厚さ方向に挟持して搬送することを特徴としている。
この構成の薄肉鋳片の製造装置においては、前述の薄肉鋳片用ピンチロールユニットによって、前記連続鋳造機で形成された前記薄肉鋳片を厚さ方向に挟持して搬送する構成とされているので、薄肉鋳片の蛇行を抑制できるとともに薄肉鋳片の変形を抑制でき、形状の安定した高品質な薄肉鋳片を製造することができる。
【0021】
ここで、本発明の薄肉鋳片の製造装置においては、前記連続鋳造機は、回転する一対の冷却ロールと一対のサイド堰によって形成された溶融金属プール部に溶融金属を供給し、前記冷却ロールの周面に凝固シェルを形成・成長させて薄肉鋳片を製造する双ロール式連続鋳造機であることが好ましい。
この場合、薄肉鋳片を安定して連続鋳造することが可能となる。
【0022】
本発明の薄肉鋳片の製造方法は、前述の薄肉鋳片用ピンチロールユニットによって、連続鋳造機で形成された薄肉鋳片を厚さ方向挟持して搬送することを特徴としている。
この構成の薄肉鋳片の製造方法においては、前述の薄肉鋳片用ピンチロールユニットによって、前記連続鋳造機で形成された前記薄肉鋳片を厚さ方向に挟持して搬送する構成とされているので、薄肉鋳片の蛇行を抑制できるとともに薄肉鋳片の変形を抑制でき、形状の安定した高品質な薄肉鋳片を製造することができる。
【0023】
ここで、本発明の薄肉鋳片の製造方法においては、前記連続鋳造機は、回転する一対の冷却ロールと一対のサイド堰によって形成された溶融金属プール部に溶融金属を供給し、前記冷却ロールの周面に凝固シェルを形成・成長させて薄肉鋳片を製造する双ロール式連続鋳造機であることが好ましい。
この場合、薄肉鋳片を安定して連続鋳造することが可能となる。
【発明の効果】
【0024】
上述のように、本発明によれば、鋳造中に薄肉鋳片の鋳片クラウンが変化したとしても、ピンチロールによる蛇行制御性を確保しつつ、薄肉鋳片の形状を一定に保ち、鋳造を安定化させることが可能な薄肉鋳片用ピンチロールユニット、および、薄肉鋳片の製造装置、薄肉鋳片の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の実施形態である薄肉鋳片の製造装置の概略説明図である。
図2図1に示す薄肉鋳片の製造装置の斜視説明図である。
図3図1に示す薄肉鋳片の製造装置の冷却ロール周辺の拡大説明図である。
図4】本発明の実施形態である薄肉鋳片の断面形状の説明図である。
図5】本発明の実施形態である薄肉鋳片用ピンチロールユニットの説明図である。
図6図5に示す薄肉鋳片用ピンチロールユニットに備えられたピンチロール変形手段の説明図である。(新日本製鉄(株)編著、「鉄と鉄鋼がわかる本」、2004年11月10日、日本実業出版社、p.96)
図7】ピンチロールのベンディング量の説明図である。
図8】本発明の他の実施形態である薄肉鋳片用ピンチロールユニットに備えられたピンチロール変形手段の説明図である。
図9】実施例における平坦度の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明の実施形態である薄肉鋳片用ピンチロールユニット、および、薄肉鋳片の製造装置、薄肉鋳片の製造方法について、添付した図面を参照して説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
ここで、本実施形態では、溶融金属として溶鋼を用いており、鋼材からなる薄肉鋳片1を製造するものとされている。また、本実施形態では、製造される薄肉鋳片1の幅が500mm以上1500mm以下の範囲内、厚さが1mm以上5mm以下の範囲内とされている。
【0027】
本実施形態である薄肉鋳片の製造装置10は、図1および図2に示すように、薄肉鋳片1を連続鋳造する連続鋳造機20と、連続鋳造機20で形成された薄肉鋳片1を、搬送方向Fに向けて搬送する搬送部30と、を備えている。
搬送部30は、薄肉鋳片1を厚さ方向に挟持して搬送する薄肉鋳片用ピンチロールユニット40と、インライン圧延機31と、ルーパー32と、コイラー33と、複数のガイドロール34と、を備えている。
【0028】
連続鋳造機20は、図3に示すように、一対の冷却ロール21,21と、一対の冷却ロール21,21の幅方向端部に配設されたサイド堰25と、これら一対の冷却ロール21,21とサイド堰25とによって画成された溶鋼プール部26に供給される溶鋼3を保持するタンディッシュ28と、このタンディッシュ28から溶鋼プール部26へと溶鋼3を供給する浸漬ノズル29と、を備えた双ロール式連続鋳造機とされている。
【0029】
この連続鋳造機20においては、溶鋼3が回転方向Rに向けて回転する冷却ロール21,21に接触して冷却されることにより、冷却ロール21,21の周面の上で凝固シェル5,5が成長し、一対の冷却ロール21,21にそれぞれ形成された凝固シェル5,5同士がロールキス点で圧着されることによって、所定厚みの薄肉鋳片1が鋳造される。
そして、搬送部30においては、形成された薄肉鋳片1が、薄肉鋳片用ピンチロールユニット40によって水平方向に搬送され、インライン圧延機31で所定の厚さに圧延され、コイラー33によって巻き取られる。
【0030】
連続鋳造機20によって鋳造される薄肉鋳片1においては、図4に示すように、通常、幅中央部が厚く、幅端部に近づくにつれて薄くなり、凸形を呈している。幅中央部から幅端部に至る板厚のカーブ(鋳片クラウン)や板厚の差は、薄肉鋳片1の幅や厚み、あるいは薄肉鋳片の成分などによって様々な値を取り得る。
また、この薄肉鋳片1の断面形状(鋳片クラウン)は、鋳造状況等に応じて、鋳造中に変化することがある。
【0031】
そこで、搬送部30に配設された本実施形態である薄肉鋳片用ピンチロールユニット40においては、図2および図5に示すように、薄肉鋳片1を挟持するピンチロール41,41と、ピンチロール41,41よりも薄肉鋳片1の搬送方向F上流側に配置され、薄肉鋳片1の形状を測定する形状測定手段43と、ピンチロール41,41を変形させるピンチロール変形手段42,42と、を備えており、形状測定手段43によって測定された薄肉鋳片1の形状(鋳片クラウン)に応じて、ピンチロール41,41を変形させ、変形させたピンチロール41,41によって薄肉鋳片1を厚さ方向に挟持する構成とされている。
【0032】
なお、本実施形態においては、図2および図5に示すように、ピンチロール41,41よりも薄肉鋳片1の搬送方向F上流側に、ピンチロール41,41に挟持される薄肉鋳片1の温度を測定する温度測定手段44が配設されている。
また、本実施形態においては、図2および図5に示すように、ピンチロール41,41よりも薄肉鋳片1の搬送方向F上流側に、薄肉鋳片1の蛇行量を検知する蛇行検知手段45が配設されている。
さらに、本実施形態においては、図5に示すように、ピンチロール41,41よりも薄肉鋳片1の搬送方向F下流側に、ピンチロール41,41に挟持された薄肉鋳片1の形状を測定する第2形状測定手段46が配設されている。
【0033】
ここで、形状測定手段43においては、搬送される薄肉鋳片1の形状を測定するものであり、本実施形態では、搬送される薄肉鋳片1の幅方向に延在するX線透過型板厚計とされている。
薄肉鋳片1の幅方向で板厚を測定することによって、薄肉鋳片1の断面形状(鋳片クラウン)を測定することができる。また、薄肉鋳片1の幅方向端部よりも外側にまでX線透過型板厚計を延在して配置することにより、薄肉鋳片1の蛇行を検知することが可能となる。すなわち、本実施形態においては、形状測定手段43が蛇行検知手段45の機能を兼ね備えている。
【0034】
本実施形態において、ピンチロール変形手段42は、ピンチロール41の背面側に配置されたバックアップロールとされている。
ピンチロール変形手段42においては、図6に示すように、バックアップロールによってピンチロール41をベンディングすることによってピンチロール41を変形させる構成とされている。
すなわち、本実施形態においては、薄肉鋳片1の形状(鋳片クラウン)に応じて、ピンチロール変形手段42であるバックアップロールによってピンチロール41,41のベンディング量を調整する構成とされている。
ここで、ベンディング量とは、図7に示すとおり、ベンディング前の状態とベンディングさせた後との、薄肉鋳片1のエッジにおけるピンチロール41,41の変形量で定義される。
【0035】
なお、本実施形態においては、ピンチロール41は、薄肉鋳片1の鋳片クラウンに完全一致するように変形させる必要はない。
ここで、ピンチロール41のベンディング量は、薄肉鋳片1の幅が500mm以上1500mm以下の範囲内、厚さが1mm以上5mm以下の範囲内の場合には、10μm以上150μm以下の範囲内とすることが好ましい。
【0036】
また、本実施形態においては、図2および図5に示すように、ピンチロール41,41よりも薄肉鋳片1の搬送方向F上流側に、ピンチロール41,41に挟持される薄肉鋳片1の温度を測定する温度測定手段44が配設されており、ピンチロール41,41に挟持される薄肉鋳片1の強度を考慮して、ピンチロール41の変形量、および、ピンチロール41,41の押圧力を調整する構成とされている。
【0037】
また、本実施形態においては、図2および図5に示すように、ピンチロール41,41よりも薄肉鋳片1の搬送方向F上流側に、薄肉鋳片1の蛇行量を検知する蛇行検知手段45が配設されており、薄肉鋳片1の蛇行量に応じてピンチロール41,41の動作制御することにより、薄肉鋳片1の蛇行を制御する構成とされている。
なお、蛇行制御方法としては、例えば、ピンチロール41,41のレベリング制御、又は、ピンチロールのクロス角の制御が挙げられる。
【0038】
さらに、本実施形態においては、図5に示すように、ピンチロール41,41よりも薄肉鋳片1の搬送方向F下流側に、ピンチロール41,41に挟持された薄肉鋳片1の形状を測定する第2形状測定手段46が配設されていることから、この第2形状測定手段46によってピンチロール41,41に挟持された薄肉鋳片1の形状を測定し、この測定結果をフィードバックしてピンチロール41,41の変形量や押圧力を調整する構成とされている。
【0039】
以上のような構成とされた本実施形態である薄肉鋳片用ピンチロールユニット40においては、ピンチロール41,41よりも薄肉鋳片1の搬送方向F上流側に配置された形状測定手段43によって、ピンチロール41,41に挟持する薄肉鋳片1の形状(鋳片クラウン)を測定し、ピンチロール変形手段42によって、測定された薄肉鋳片1の形状に応じてピンチロール41,41を変形させる構成とされているので、鋳造中に薄肉鋳片1の鋳片クラウンが変化した場合であっても、変化した鋳片クラウン形状に応じてピンチロール41を変形させることができる。
よって、薄肉鋳片1の幅方向の一部が局所的に強く押圧されることがなく、薄肉鋳片1の形状を一定に保つことができるとともに、ピンチロール41によって蛇行制御を安定して実施することができ、薄肉鋳片1を安定して搬送することが可能となる。
【0040】
本実施形態においては、ピンチロール41よりも薄肉鋳片1の搬送方向F上流側に、ピンチロール41,41に挟持される薄肉鋳片1の温度を測定する温度測定手段44を備えているので、ピンチロール41,41に挟持される薄肉鋳片1の温度を測定することができ、薄肉鋳片1の強度を考慮してピンチロール41の変形量や押圧力を調整することが可能となり、薄肉鋳片1の変形を抑制することができる。
【0041】
また、本実施形態においては、ピンチロール変形手段42がピンチロール41の背面側に配置されたバックアップロールとされているので、バックアップロールによってピンチロール41をベンディングすることにより、ピンチロール41を薄肉鋳片1の鋳片クラウンに応じた形状に変形することが可能となり、薄肉鋳片1を安定して搬送することが可能となる。
【0042】
また、本実施形態においては、ピンチロール41よりも薄肉鋳片1の搬送方向F下流側に、ピンチロール41,41に挟持された薄肉鋳片1の形状を測定する第2形状測定手段46が配設されているので、第2形状測定手段46によって測定された薄肉鋳片1の形状に応じて、ピンチロール41の変形量や押圧力を調整することにより、薄肉鋳片1の変形をさらに抑制することができる。
【0043】
また、本実施形態においては、ピンチロール41よりも薄肉鋳片1の搬送方向F上流側に配設された形状測定手段43が、薄肉鋳片1の蛇行量を検知する蛇行検知手段45の機能を兼ね備えているので、蛇行検知手段45によって薄肉鋳片1の蛇行量を検知し、ピンチロール41によって蛇行制御を行うことができ、薄肉鋳片1をさらに安定して搬送することが可能となる。
【0044】
本実施形態の薄肉鋳片の製造装置10、および、本実施形態の薄肉鋳片の製造方法においては、連続鋳造機20と、本実施形態である薄肉鋳片用ピンチロールユニット40と、を備えており、薄肉鋳片用ピンチロールユニット40によって、連続鋳造機20で形成された薄肉鋳片1を厚さ方向に挟持して搬送する構成とされているので、薄肉鋳片1の蛇行を抑制できるとともに薄肉鋳片1の変形を抑制でき、形状の安定した高品質な薄肉鋳片1を製造することができる。
【0045】
ここで、本実施形態においては、連続鋳造機20が、回転する一対の冷却ロール21,21と一対のサイド堰25によって形成された溶鋼プール部26に溶鋼3を供給し、冷却ロール21,21の周面に凝固シェル5,5を形成・成長させて薄肉鋳片1を製造する双ロール式連続鋳造機とされているので、薄肉鋳片1を安定して連続鋳造することが可能となる。
【0046】
以上、本発明の実施形態である本実施形態である薄肉鋳片用ピンチロールユニット40、薄肉鋳片の製造装置10、および、薄肉鋳片の製造方法について具体的に説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
本実施形態では、連続鋳造機として、図3に示す双ロール式連続鋳造機を例に挙げて説明したが、これに限定されることはなく、薄肉鋳片を連続鋳造するものであればよい。
【0047】
また、本実施形態では、ピンチロール変形手段として、ピンチロールの背面側に配置されたバックアップロールを例に挙げて説明したが、これに限定されることはない。例えば、図8に示すように、ピンチロール変形手段42は、ピンチロール41の内部に配設された外径調整手段50であってもよい。この外径調整手段50は、幅端部から幅中央部に向けて漸次径方向内方に向けて傾斜するテーパー面を備えたガイド孔51と、このガイド孔51に挿入され、前記テーパー面に沿ってそれぞれ移動する中子52、52とを備えている。また、ガイド孔51の幅中央部(中子52と中子52との間)に中央油圧室53が形成され、ガイド孔51の幅端部に端部油圧室54,54が形成されている。
中央油圧室53と端部油圧室54,54の油圧を調整することで、中子52を幅方向に移動させることにより、ピンチロール41の幅中央部の外径を調整することが可能な構成とされている。
【実施例0048】
以下に、本発明の効果を確認すべく、実施した実験結果について説明する。図1から図7に示す薄肉鋳片の製造装置を用いて、薄肉鋳片の製造を実施した。
【0049】
冷却ロールは、幅1000mm、直径1200mm、内部Cuスリーブ水冷式とした。
ピンチロールユニットは、4基配設し、ワークロール径200mm(内部水冷)、バックアップロール径400mmとした。ワークロールおよびバックアップロールはいずれもフラット形状とした。なお、連続鋳造機に最も近接するピンチロールユニットは、本実施形態に記載した薄肉鋳片用ピンチロールユニット40を用いた。
【0050】
また、鋳造条件は以下のように設定した。
鋼種:低炭アルミキルド鋼(0.05質量%C―0.03質量%Al)
鋳造速度:50m毎分
鋳造板厚:3.5mm
1キャスト溶鋼量:20t
鋳造開始から定常状態までの時間:3分
鋳造開始から鋳造終了までの時間(完鋳時):15分
蛇行制御方式:ピンチロール、レベリング制御。
【0051】
本発明例では、薄肉鋳片の形状測定を行い、薄肉鋳片の鋳片クラウンに応じてピンチロールを変形させた。比較例では、ピンチロールの変形を実施しなかった。
得られた薄肉鋳片について、全量巻取り後にリコイルし、全長を2次元平坦度計によって、図9に示すように最大平坦度を評価した。評価結果を表1に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
比較例においては、薄肉鋳片の形状に応じてピンチロールを変形させなかったため、薄肉鋳片の蛇行を十分に制御することができなかった。このため、10t鋳造時点で蛇行量が70mmを超えてインライン圧延機のハウジングに薄肉鋳片のエッジが接触し、鋳造を停止した。また、薄肉鋳片は中伸び(幅中央が波打つ状態)となり、その最大平坦度が4.8%となった。
本発明例においては、薄肉鋳片の形状に応じてピンチロールを変形させたことから、薄肉鋳片の蛇行を十分に制御することができ、蛇行量は最大でも27mmであった。また、薄肉鋳片は若干の側伸び(両端が波打つ状態)となり、その最大平坦度が1.2%となった。
【0054】
以上の実験結果から、本発明によれば、鋳造中に薄肉鋳片の鋳片クラウンが変化したとしても、ピンチロールによる蛇行制御性を確保しつつ、薄肉鋳片の形状を一定に保ち、鋳造を安定化させることが可能な薄肉鋳片用ピンチロールユニット、および、薄肉鋳片の製造装置、薄肉鋳片の製造方法を提供可能であることが確認された。
【符号の説明】
【0055】
1 薄肉鋳片
3 溶鋼(溶融金属)
5 凝固シェル
10 薄肉鋳片の製造装置
20 連続鋳造機
21 冷却ロール
25 サイド堰
26 溶鋼プール部(溶融金属プール部)
40 薄肉鋳片用ピンチロールユニット
41 ピンチロール
42 ピンチロール変形手段
43 形状測定手段
44 温度測定手段
45 蛇行検知手段
46 第2形状測定手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9