(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023115956
(43)【公開日】2023-08-22
(54)【発明の名称】いじめ発生を予測する予測装置、予測方法および予測プログラム
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/10 20120101AFI20230815BHJP
【FI】
G06Q50/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022018408
(22)【出願日】2022-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】515132021
【氏名又は名称】株式会社ユーザーローカル
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 将雄
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049CC11
(57)【要約】 (修正有)
【課題】いじめの判別対象をあらかじめ特定することなく、いじめの発生を予測するいじめ発生を予測する予測装置、予測方法および予測プログラムを提供する。
【解決手段】検知システム1において、いじめ発生を予測する予測装置3であって、人の位置を演算する位置演算部32と、位置に基づいて、人によって集団が形成されているかを判別する集団判別部33と、集団において、複数人に取り囲まれている人が存在する取り囲み状態が発生しているかを判別する取り囲み状態判別部34と、取り囲み状態が継続または反復しているか否かに基づいて、いじめの発生を予測するいじめ発生予測部35と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
いじめ発生を予測する予測装置であって、
人の位置を演算する位置演算部と、
前記位置に基づいて、前記人によって集団が形成されているかを判別する集団判別部と、
前記集団において、複数人に取り囲まれている人が存在する取り囲み状態が発生しているかを判別する取り囲み状態判別部と、
前記取り囲み状態が継続または反復しているか否かに基づいて、いじめの発生を予測するいじめ発生予測部と、
を備える、予測装置。
【請求項2】
前記取り囲み状態判別部は、機械学習によって生成された状態判別モデルを用いて、前記取り囲み状態が発生しているかを判別する、請求項1に記載の予測装置。
【請求項3】
前記人を含む画像を取得する画像取得部をさらに備え、
前記位置演算部は、前記画像に基づいて前記人の位置を演算する、請求項1または2に記載の予測装置。
【請求項4】
いじめ発生を予測する予測方法であって、
人の位置を演算する位置演算ステップと、
前記位置に基づいて、前記人によって集団が形成されているかを判別する集団判別ステップと、
前記集団において、複数人に取り囲まれている人が存在する取り囲み状態が発生しているかを判別する取り囲み状態判別ステップと、
前記取り囲み状態が継続または反復しているか否かに基づいて、いじめの発生を予測するいじめ発生予測ステップと、
を備える、予測方法。
【請求項5】
請求項1~3のいずれかに記載の予測装置の各部としてコンピュータを動作させる予測プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、いじめの発生を予測する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、学校でのいじめの認知件数が非常に増加しており、2021年のいじめ認知件数は、小学校が約42万件、中学校約8万件、高校が約1万件であった。いじめの被害者は、いじめを受けていることを保護者や教師に打ち明けない傾向があるため、上述の認知件数は氷山の一角であると推測される。そのため、保護者や教師によるいじめの検知だけでは、被害者を適切に保護することが難しい。
【0003】
これに対し、特許文献1では、人工知能による補助を得ることで、人手に頼ることなく、学校内における生徒間のいじめの兆候を自動的に判別する技術が提案されている。具体的には、特許文献1では、
・判別対象の生徒の画像情報
・判別対象の生徒の、顔又は手足の傷、腫れ、痣の状態、或いは衣服の汚れ、鞄類の状態
・判別対象の生徒の行動パターン情報
・判別対象の生徒の家庭環境に関する家庭環境情報
・判別対象の生徒の通信簿の内容に関する通信簿情報
・判別対象の生徒の出欠記録の内容に関する出欠情報
・判別対象の生徒から聴取したいじめ内容に関する聴取情報
等の情報に基づいて、生徒へのいじめの兆候を判別している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の発明では、判別対象となる生徒をあらかじめ特定しておく必要がある。そのため、判別対象とならなかった生徒が実際にはいじめを受けていたとしても、そのいじめを検知できないことになる。
【0006】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであって、いじめの判別対象をあらかじめ特定することなく、いじめの発生を予測することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意検討した結果、学校等におけるいじめでは、1人に対して1人がからかうといった形態から、複数人が1人を標的にするという形態に変化し、その結果、1人に対して複数人が取り囲むという状態が特徴的に発生しやすいということに着目し、この状態を検知することでいじめの発生を予測できることを見出した。
【0008】
具体的には、本発明は以下の態様を含む。
項1.
いじめ発生を予測する予測装置であって、
人の位置を演算する位置演算部と、
前記位置に基づいて、前記人によって集団が形成されているかを判別する集団判別部と、
前記集団において、複数人に取り囲まれている人が存在する取り囲み状態が発生しているかを判別する取り囲み状態判別部と、
前記取り囲み状態が継続または反復しているか否かに基づいて、いじめの発生を予測するいじめ発生予測部と、
を備える、予測装置。
項2.
前記取り囲み状態判別部は、機械学習によって生成された状態判別モデルを用いて、前記取り囲み状態が発生しているかを判別する、項1に記載の予測装置。
項3.
前記人を含む画像を取得する画像取得部をさらに備え、
前記位置演算部は、前記画像に基づいて前記人の位置を演算する、項1または2に記載の予測装置。
項4.
いじめ発生を予測する予測方法であって、
人の位置を演算する位置演算ステップと、
前記位置に基づいて、前記人によって集団が形成されているかを判別する集団判別ステップと、
前記集団において、複数人に取り囲まれている人が存在する取り囲み状態が発生しているかを判別する取り囲み状態判別ステップと、
前記取り囲み状態が継続または反復しているか否かに基づいて、いじめの発生を予測するいじめ発生予測ステップと、
を備える、予測方法。
項5.
項1~3のいずれかに記載の予測装置の各部としてコンピュータを動作させる予測プログラム。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、いじめの判別対象をあらかじめ特定することなく、いじめの発生を予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係るいじめ検知システムの概略構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る予測方法の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。なお、本発明は、下記の実施形態に限定されるものではない。
【0012】
(システム構成)
図1は、本発明の一実施形態に係るいじめ検知システム1の概略構成を示すブロック図である。いじめ検知システム1は、学校内のいじめの検知を支援するためのシステムであり、カメラ2および予測装置3を備えている。
【0013】
カメラ2は、学校における各教室や廊下など、生徒が滞在する場所に設置されている。カメラ2の設置台数は特に限定されない。本実施形態において、カメラ2は、可視光線カメラであるが、3次元カメラや赤外線カメラであってもよい。また、カメラ2の代わりに、ライダー(LIDAR)やミリ波レーダーを用いてもよい。
【0014】
予測装置3は、例えば学校内の職員室や、学校以外の機関(いじめ防止の委託機関等)に設置されており、カメラ2に無線または有線で接続されている。予測装置3は、汎用のコンピュータで構成することができ、ハードウェア構成として、CPUやGPUなどのプロセッサ(図示省略)、DRAMやSRAMなどの主記憶装置(図示省略)、および、HDDやSSDなどの補助記憶装置30を備えている。
【0015】
補助記憶装置30には、機械学習によって生成された状態判別モデルM、および予測装置3を動作させるための各種プログラムが格納されている。状態判別モデルMは、後述するように、機械学習によって生成されたものである。
【0016】
予測装置3は、機能ブロックとして、画像取得部31と、位置演算部32と、集団判別部33と、取り囲み状態判別部34と、いじめ発生予測部35と、画像保存部36と、通知部37とを備えている。これら各部は、予測装置3のプロセッサが本発明に係る予測プログラムを主記憶装置に読み出して実行することによってソフトウェア的に実現される。すなわち、予測プログラムは、予測装置3の各部としてコンピュータを動作させるものである。予測プログラムは、インターネットなどの通信ネットワークを介して予測装置3にダウンロードしてもよいし、予測プログラムを記録したCD-ROM等のコンピュータ読み取り可能な非一時的な記録媒体を介して予測装置3にインストールしてもよい。
【0017】
なお、予測装置3をクラウド上に設けてもよい。また、予測装置3を複数のコンピュータで構成してもよい。
【0018】
(予測処理)
予測装置3の各部の機能について、
図2~
図4を参照して説明する。
図2は、本実施形態に係る予測方法の処理手順を示すフローチャートである。
【0019】
ステップS1(画像取得ステップ)では、カメラ2によって撮影された画像が予測装置3に送信され、画像取得部31が画像を取得する。なお、カメラ2の代わりに、ライダーやミリ波レーダーを用いた場合は、ステップS1は省略される。
【0020】
ステップS2(位置演算ステップ)では、位置演算部32が、画像に含まれる人(生徒)の位置を演算する。具体的には、出願人が開発した姿勢推定AI(https://humanpose-ai.userlocal.jp/)等の人の場所を検知するアルゴリズムを用いて、人の位置を読み取ることができる。
【0021】
なお、カメラ2が床面等に対して斜め上方向から撮影している場合、位置演算部32は、角度の補正をすることで演算精度を上げることができる。また、カメラ2の代わりに、ライダーやミリ波レーダーを用いた場合は、位置演算部32は、ライダーやミリ波レーダーによって検知された情報(距離、方向等)に基づいて、人の位置を演算する。
【0022】
ステップS3(集団判別ステップ)では、集団判別部33が、演算された位置に基づいて、人によって集団が形成されているかを判別する。例えば、人の密度(所定面積当たりの人数)が所定以上の領域が存在する場合に、集団判別部33は集団が形成されていると判定する。この場合(ステップS3においてYES)、ステップS4に移行する。
【0023】
ステップS4(取り囲み状態判別ステップ)では、取り囲み状態判別部34が、集団において、複数人に取り囲まれている人が存在する取り囲み状態が発生しているかを判別する。本発明において、「取り囲み状態」とは、ある人が複数人に取り囲まれ、その場から容易に逃げられなくなっている状態を意味する。
【0024】
例えば、
図3および
図4に示す状態が取り囲み状態に該当する。
図3では、生徒Aが複数の生徒に取り囲まれ、どの方向に移動しようとしても、取り囲んでいる生徒によって移動が容易に阻止され得る。
図4では、生徒Aの左側には人は存在しないが、壁Wが存在することにより、生徒Aがどの方向に移動しようとしても、取り囲んでいる生徒または壁Wによって移動が容易に阻止され得る。
【0025】
本実施形態では、取り囲み状態判別部34は、状態判別モデルMを用いて、取り囲み状態が発生しているかを判別する。状態判別モデルMは、人の集団を含む画像と、当該集団において複数人に取り囲まれている人が存在するか否かを示す情報(正解データ)とを学習データセットとして機械学習することにより生成されたものである。機械学習法は特に限定されないが、例えばディープラーニング等を用いることができる。取り囲み状態判別部34は、画像の少なくとも集団が含まれている部分を状態判別モデルMに入力することで、状態判別モデルMから取り囲み状態が発生しているかを判別することができる。
【0026】
なお、取り囲み状態判別部34は、状態判別モデルMの代わりに、物理シミュレーション等の非AIアルゴリズムによって、取り囲み状態が発生しているかを判別してもよい。また、取り囲まれている人が誰であるかを顔認証のアルゴリズム等によって識別してもよい。取り囲み状態が発生していると判別された場合(ステップS4においてYES)、ステップS5に移行する。
【0027】
ステップS5(いじめ発生予測ステップ)では、いじめ発生予測部35が、取り囲み状態が継続または反復しているか否かに基づいて、いじめの発生を予測する。取り囲み状態が発生しても、それが一時的なものであれば、取り囲まれた人がいじめられている可能性は低い。一方、取り囲み状態が長時間継続したり、短期間に同一人が何度も取り囲まれた場合は、取り囲まれた人がいじめを受けている可能性が高い。そのため、いじめ発生予測部35は、取り囲み状態が所定時間(例えば、1分~数分)以上継続する、または、同一人について取り囲み状態が所定回数(例えば、1日に3回)以上反復された場合(ステップS5においてYES)、ステップS6に移行し、いじめが発生していると予測する。取り囲み状態の継続時間や反復回数の閾値は、適宜設定される。
【0028】
ステップS7(画像保存ステップ)では、画像保存部36が、いじめが発生していると予測された画像を補助記憶装置30に保存する。これにより、教師等が保存された画像を参照して、いじめの当事者、暴力行為の有無などを確認することができる。また、いじめの発生と関係のない画像は保存されないため、プライバシーの保護が担保される。
【0029】
ステップS8(通知ステップ)では、通知部37が、いじめが発生していると予測されたことを、メール等の手段によって、予測装置3のユーザ(教師等)に通知する。
【0030】
(総括)
学校等におけるいじめでは、複数人に取り囲まれている人が存在する取り囲み状態が生じやすく、取り囲み状態が継続または反復している場合は、いじめが発生している可能性が高い。そこで、本実施形態では、取り囲み状態が発生しているかを判別し、取り囲み状態が継続または反復している場合に、いじめが発生していると予測する。よって、いじめによる暴力行為が発生する前に、いじめの発生を検知することができる。また、いじめの判別対象をあらかじめ特定しておく必要はないため、教師等が全く予想し得なかった生徒がいじめを受けていた場合においても、当該生徒を保護ことが可能となる。
【0031】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。例えば、音声感情認識アルゴリズムや顔感情認識アルゴリズムをさらに用いることによって、いじめ発生の予測精度をより向上させることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、学校等の教育機関におけるいじめだけでなく、あらゆる団体におけるいじめの検知に適用できる。例えば、警察や軍隊の訓練施設や研修施設、スポーツ団体の練習施設におけるいじめの検知にも好適である。
【符号の説明】
【0033】
1 検知システム
2 カメラ
3 予測装置
30 補助記憶装置
31 画像取得部
32 位置演算部
33 集団判別部
34 取り囲み状態判別部
35 発生予測部
36 画像保存部
37 通知部
A 生徒(人)
M 状態判別モデル