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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023115959
(43)【公開日】2023-08-22
(54)【発明の名称】形状測定装置及び形状測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/89 20060101AFI20230815BHJP
   G01S 13/34 20060101ALI20230815BHJP
【FI】
G01S13/89
G01S13/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022018414
(22)【出願日】2022-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木下 貴博
(72)【発明者】
【氏名】室田 康太
(72)【発明者】
【氏名】原田 翼
(72)【発明者】
【氏名】品川 和之
(72)【発明者】
【氏名】中川 洋一
(72)【発明者】
【氏名】中岡 佑生
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AC02
5J070AC13
5J070AD06
5J070AD08
5J070AE07
5J070AF01
5J070AH31
5J070AH35
5J070AK40
5J070BE01
(57)【要約】
【課題】従来よりも簡易な構成で対象物の形状を高い分解能で測定することができる形状測定装置及び形状測定方法を提供する。
【解決手段】形状測定装置1は、複数の混合信号に基づいて、対象物10から受信アンテナ5へのマイクロ波の到来方向の方位角θごとに方位信号をそれぞれ生成し、得られた複数の方位信号をそれぞれヒルベルト変換して、方位角θごとに複素信号をそれぞれ生成する。また、形状測定装置1は、方位角θごとに生成した複数の複素信号に基づいて、方位角θごとに対象物10までの距離Dに対応する距離位相φ(t)をそれぞれ算出し、得られた複数の距離位相φ(t)に基づいて、方位角θごとに対象物10までの距離Dをそれぞれ算出して、方位角θと距離Dとの関係に基づいて対象物10の形状を測定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波を用いて対象物の形状を測定する形状測定装置であって、
前記対象物に向けて周波数を変化させながらマイクロ波を送信する送信アンテナと、前記対象物で反射したマイクロ波を受信する複数の受信アンテナと、が設けられたアンテナアレイと、
前記送信アンテナから送信したマイクロ波の送信信号と、前記受信アンテナで受信したマイクロ波の受信信号とを乗算した混合信号を、前記受信アンテナごとに生成する複数のミキサと、
前記混合信号に基づいて、前記対象物の形状を測定する、演算処理部と、
を有し、
前記演算処理部は、
前記混合信号に基づいて、前記対象物から前記受信アンテナへの前記マイクロ波の到来方向の方位角ごとに方位信号を生成し、
前記方位信号をヒルベルト変換して、前記方位角ごとに複素信号を生成し、
前記複素信号に基づいて、前記方位角ごとに前記対象物までの距離に対応する距離位相を算出し、
前記距離位相に基づいて、前記方位角ごとに前記対象物までの距離を算出し、
前記方位角と前記距離との関係に基づいて前記対象物の形状を測定する、形状測定装置。
【請求項2】
前記演算処理部は、
前記混合信号に、前記方位角に対応する位相差を与え、前記受信アンテナの前記方位角ごとに個別方位信号を生成し、
前記個別方位信号を、時間軸に沿って前記方位角ごとに加算して、前記方位角ごとに前記方位信号をそれぞれ生成する、請求項1に記載の形状測定装置。
【請求項3】
前記演算処理部は、
前記複数の方位信号に対してヒルベルト変換を行い、前記方位信号ごとに、実数成分Iと、前記実数成分Iから90°位相がずれた虚数成分Qと、を有する前記複素信号を生成する、請求項1又は2に記載の形状測定装置。
【請求項4】
前記演算処理部は、
前記距離位相の前記周波数に対する傾きに基づいて、前記方位角ごとに前記対象物までの粗距離を算出し、
前記粗距離と前記距離位相とを用いて、前記方位角ごとに位相特性である2πの不定性を解消する整数nを算出し、
前記整数nを規定して2πの不定性を解消した所定の演算式により、前記距離位相を用いて前記方位角ごとに前記対象物までの前記距離を算出する、請求項1~3のいずれか1項に記載の形状測定装置。
【請求項5】
マイクロ波を用いて対象物の形状を測定する形状測定方法であって、
前記対象物に向けて周波数を変化させながらマイクロ波を送信する送信アンテナと、前記対象物で反射したマイクロ波を受信する複数の受信アンテナと、が設けられたアンテナアレイを用いて、前記マイクロ波を送受信する送受信ステップと、
前記送信アンテナから送信したマイクロ波の送信信号と、前記受信アンテナで受信したマイクロ波の受信信号とを乗算した混合信号を、ミキサによって前記受信アンテナごとに生成する混合信号生成ステップと、
演算処理部によって、前記混合信号に基づいて、前記対象物の形状を測定する、演算処理ステップと、
を有し、
前記演算処理ステップは、
前記混合信号に基づいて、前記対象物から前記受信アンテナへの前記マイクロ波の到来方向の方位角ごとに方位信号を生成し、
前記方位信号をヒルベルト変換して、前記方位角ごとに複素信号を生成し、
前記複素信号に基づいて、前記方位角ごとに前記対象物までの距離に対応する距離位相を算出し、
前記距離位相に基づいて、前記方位角ごとに前記対象物までの距離を算出し、
前記方位角と前記距離との関係に基づいて前記対象物の形状を測定する、形状測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、形状測定装置及び形状測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ波は、粉塵やミスト等の粒子の透過性に優れるという特徴をもち、高温粉塵環境である製鉄プロセスにおける距離計測等に用いられているが、対象物までの距離と方向の計測結果を利用して、対象物の形状を測定することも検討されている。マイクロ波を用いた距離計測方式としては、FMCW(Frequency Modulated Continuous Wave:周波数連続変調)やパルスを用いる方法が知られているが、これらの方法では距離分解能が周波数帯域幅によって制限される。
【0003】
例えば、周波数帯域幅が1GHzの場合、距離分解能は150mmとなる。mm以下の高い距離分解能を実現するためには、非常に広い周波数帯域幅を使用する必要がある。しかしながら、広い周波数帯域幅を有するマイクロ波を用いた場合、他の電波を使用する装置と干渉する等の問題が発生する可能性があるため、実現が困難である。
【0004】
そこで、特許文献1,2に示すように、送信信号と、対象物からの受信信号との間に生じる位相差の変化(以下、距離位相とも称する)から対象物の変位(対象物までの距離)を求める方法が考えられている。特許文献1,2では、2つの入力ポートと4つの出力ポートを備えた6ポート回路を用いて、対象物からの受信信号を複素信号として観測し、当該複素信号から振幅と位相とを同時に求めて距離位相を測定することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-316066号公報
【特許文献2】特開2019-184565号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1,2に示すように、1つの受信アンテナに対して1つの6ポート回路を用いる場合には、1つの受信アンテナにつき、6ポート回路の4つの出力ポートに合わせてAD変換回路のチャネルも4つ必要になる。そのため、複数の受信アンテナを用いて対象物の形状について測定しようとした場合には、AD変換回路のチャネルが受信アンテナの数の4倍必要となり、その分、ハードウェアが複雑になるという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、従来よりも簡易な構成で対象物の形状を高い分解能で測定することができる形状測定装置及び形状測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の形状測定装置は、マイクロ波を用いて対象物の形状を測定する形状測定装置であって、前記対象物に向けて周波数を変化させながらマイクロ波を送信する送信アンテナと、前記対象物で反射したマイクロ波を受信する複数の受信アンテナと、が設けられたアンテナアレイと、前記送信アンテナから送信したマイクロ波の送信信号と、前記受信アンテナで受信したマイクロ波の受信信号とを乗算した混合信号を、前記受信アンテナごとに生成する複数のミキサと、前記混合信号に基づいて、前記対象物の形状を測定する、演算処理部と、を有し、前記演算処理部は、前記混合信号に基づいて、前記対象物から前記受信アンテナへの前記マイクロ波の到来方向の方位角ごとに方位信号を生成し、前記方位信号をヒルベルト変換して、前記方位角ごとに複素信号を生成し、前記複素信号に基づいて、前記方位角ごとに前記対象物までの距離に対応する距離位相を算出し、前記距離位相に基づいて、前記方位角ごとに前記対象物までの距離を算出し、前記方位角と前記距離との関係に基づいて前記対象物の形状を測定する。
【0009】
本発明の形状測定方法は、マイクロ波を用いて対象物の形状を測定する形状測定方法であって、前記対象物に向けて周波数を変化させながらマイクロ波を送信する送信アンテナと、前記対象物で反射したマイクロ波を受信する複数の受信アンテナと、が設けられたアンテナアレイを用いて、前記マイクロ波を送受信する送受信ステップと、前記送信アンテナから送信したマイクロ波の送信信号と、前記受信アンテナで受信したマイクロ波の受信信号とを乗算した混合信号を、ミキサによって前記受信アンテナごとに生成する混合信号生成ステップと、演算処理部によって、前記混合信号に基づいて、前記対象物の形状を測定する、演算処理ステップと、を有し、前記演算処理ステップは、前記混合信号に基づいて、前記対象物から前記受信アンテナへの前記マイクロ波の到来方向の方位角ごとに方位信号を生成し、前記方位信号をヒルベルト変換して、前記方位角ごとに複素信号を生成し、前記複素信号に基づいて、前記方位角ごとに前記対象物までの距離に対応する距離位相を算出し、前記距離位相に基づいて、前記方位角ごとに前記対象物までの距離を算出し、前記方位角と前記距離との関係に基づいて前記対象物の形状を測定する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、6ポート回路を用いることなく、演算処理によって方位角ごとに距離を正確に測定できるので、従来の6ポート回路を用いた構成に比して出力ポートの数が減り、その分、簡易な構成を実現でき、また、対象物の形状を高い分解能で測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態に係る形状測定装置の構成を示す概略図である。
図2】演算処理部の回路構成を示すブロック図である。
図3】3Aは、受信アンテナごとに得られた混合信号を示すグラフであり、3Bは、方位角ごとに得られた方位信号を示すグラフであり、3Cは、方位角ごとに得られた複素信号の実部信号を示すグラフであり、3Dは、方位角ごとに得られた複素信号の虚部信号を示すグラフである。
図4】4Aは、方位角ごとに得られた距離位相データを示すグラフであり、4Bは、距離位相データに対して位相アンラッピング処理と傾き算出処理とを行った結果を示すグラフであり、4Cは、方位角と距離との関係を示したグラフである。
図5】形状測定処理手順を示すフローチャートである。
図6】検証試験を行った際の、対象物に対するアンテナアレイの設置位置を示した概略図である。
図7】7Aは、検証試験により得られた比較例1の形状測定結果を示すグラフであり、7Bは、検証試験により得られた実施例1の形状測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(1)<本実施形態に係る形状測定装置の構成>
図1は、本実施形態に係る形状測定装置1の構成を示した概略図である。形状測定装置1は、マイクロ波を用いて対象物10の形状を測定するものであり、形状測定装置1は、発振器2と、送信アンテナ4及び複数の受信アンテナ5a,5b,5c,…,5nでなるアンテナアレイ3と、受信アンテナ5a,5b,5c,…,5nごとに設けられた複数のミキサ6a,6b,6c,…,6nと、演算処理部11と、記憶部12と、表示部13とを備えている。
形状測定装置1は、アンテナアレイ3から対象物10までの距離Dを方位角θごとに測定し、これら距離Dと方位角θとの関係から対象物10の形状を測定する。なお、受信アンテナ5a,5b,5c,…,5n及びミキサ6a,6b,6c,…,6nについては、特に区別する必要がない場合には、単に受信アンテナ5及びミキサ6として説明する。
【0013】
本実施形態では、例えば、焼結機内における鉄鉱石などの原料層を対象物10とし、形状測定装置1によって原料層の表面形状を測定する場合を一例に以下説明する。ただし、本発明はこれに限らず、対象物として、例えば、高炉内におけるコークスや鉄鉱石などの原料面や、転炉内におけるスラグや溶鋼などの浴面や、軌条レールや、形鋼など、その他種々の対象を用いることができる。また、本実施形態の形状測定装置1では、距離Dを測定する際に基準となる基準位置Oを、アンテナアレイ3のマイクロ波を受信する受信面に設定し、当該アンテナアレイ3(具体的には、受信アンテナ5)から対象物10までの距離Dを測定する場合について以下説明する。
【0014】
本実施形態に係るアンテナアレイ3は、対象物10に向けて周波数を変化させながらマイクロ波を送信する送信アンテナ4と、対象物10で反射したマイクロ波を受信する複数の受信アンテナ5a,5b,5c,…,5nとが設けられた送受信可能なアンテナである。ここでは、アンテナアレイ3として、送信アンテナ4と複数の受信アンテナ5a,5b,5c,…,5nとが一列に並んで配置されている例を示す。これら送信アンテナ4及び受信アンテナ5は、例えば、円錐型のホーンアンテナや平板型のパッチアンテナなどでなり、送信アンテナ4及び受信アンテナ5の開口した拡径の先端面が平面上に沿って配置されている。この場合、受信アンテナ5の先端面が、対象物10からのマイクロ波を受信する受信面となる。
【0015】
形状測定装置1は、発振器2から送出された送信信号を送信アンテナ4に送出し、当該送信アンテナ4から対象物10に向けて周波数を変化させながらマイクロ波を照射する。また、形状測定装置1は、発振器2から送出された送信信号をミキサ6a,6b,6c,…,6nにも送出する。対象物10に照射するマイクロ波(以下、送信波とも称する)の周波数変調の幅と、当該マイクロ波の掃引周期は、予め所定の値に設定されている。送信アンテナ4から対象物10に向けて照射されるマイクロ波の周波数は、時間の経過とともに連続的かつ直線的に変化する。
【0016】
形状測定装置1は、対象物10からのマイクロ波(以下、受信波とも称する)を複数の受信アンテナ5a,5b,5c,…,5nで受信すると、各受信波を受信信号として、対応するミキサ6a,6b,6c,…,6nに送出する。ミキサ6a,6b,6c,…,6nは、送信波の送信信号と受信波の受信信号とを乗算して混合した混合信号を受信アンテナ5a,5b,5c,…,5nごとに生成し、得られた複数の混合信号を演算処理部11に送出する。
【0017】
ここで、対象物10で反射して各受信アンテナ5a,5b,5c,…,5nで受信する反射マイクロ波(受信波)は、受信アンテナ5a,5b,5c,…,5nから対象物10までの距離Dに比例した遅れΔt[秒]を生じることとなる。その結果、ある同時刻における送信波と受信波との間には、距離Dに対応した周波数の差Δf[Hz]が生じる。このような送信波と受信波とがミキサ6a,6b,6c,…,6nによって混合されると、Δfに相当する周波数成分を有した正弦波の差周波信号(混合信号)となる。
【0018】
演算処理部11は、混合信号に基づいて対象物10の形状を測定するものである。演算処理部11は、記憶部12に予め格納している形状測定処理プログラムなどを適宜読み出して展開し、当該形状測定処理プログラムに従って後述する形状測定処理を実行し、受信アンテナ5a,5b,5c,…,5nごとに生成された複数の混合信号に基づいて、基準位置Oから対象物10までの距離Dを方位角θごとに算出する。そして、演算処理部11は、得られた距離Dと方位角θとの関係を基に、対象物10の形状を測定する。
【0019】
記憶部12には、受信アンテナ5a,5b,5c,…,5nごとに生成された混合信号や、演算処理部11で得られた各種演算結果、各種プログラムなどが記憶される。演算処理部11は、記憶部12に記憶された各種演算結果などを適宜読み出して、これを新たな演算処理に用いることができる。また、表示部13は、演算処理部11の各種演算結果や、対象物10までの距離D及び方位角、対象物10の形状測定結果などを表示し、作業者に対して各種情報を提示する。
【0020】
(2)<本実施形態に係る距離Dの測定原理>
本実施形態では、上述したように、形状測定装置1によって対象物10までの距離Dを方位角θごとに測定可能であるが、始めに、距離Dの測定原理について以下説明する。
【0021】
本実施形態では、図1に示すように、隣接する受信アンテナ5a,5b,5c,…,5n間の位相差Δφθを基に、対象物10からのマイクロ波の到来方向の方位角θを特定する。演算処理部11に設けたAD変換部(後述する)には、これら複数の受信アンテナ5a,5b,5c,…,5nに対応した数のチャネルが設けられている。
【0022】
一般的には、このような場合、マイクロ波の受信信号に対応する複素信号の虚数成分Q(以下、単に、虚部又はQ成分と称する)の算出は省略してAD変換部のチャネル数を削減することが行われていることから、距離位相を取得することはできない。そこで、本実施形態では、受信アンテナ5a,5b,5c,…,5nごとに得られた混合信号に対してヒルベルト変換を行い、信号処理により位相を90°遅らせた信号を作り出し、これを虚数成分Qとする。
【0023】
ここで、混合信号を実信号x(t)とすると、虚数成分QのQ(t)は、下記の式(1)で求めることができる。なお、下記の*は畳み込みを示す。
【0024】
【数1】
…(1)
【0025】
実用上は計算量を削減するため、フーリエ変換及び逆フーリエ変換を用いて解析信号として複素信号z(t)を求める。実信号x(t)のフーリエ変換をX(f)とし、複素信号z(t)のフーリエ変換をZ(f)とすると、下記の式(2)のように表すことができる。fは送信信号(マイクロ波)の周波数[Hz]である。
【0026】
【数2】
…(2)
【0027】
以上より、実信号x(t)をフーリエ変換し、得られた実信号のフーリエ変換X(f)を基に、上記の式(2)より解析信号のフーリエ変換Z(f)を求め、解析信号のフーリエ変換Z(f)の逆フーリエ変換により、解析信号として、下記の式(3)に示す複素信号z(t)を求めることができる。
【0028】
z(t)=I(t)+jQ(t) …(3)
【0029】
なお、jは虚数単位を示す。また、上記の式(3)を基に、下記の式(4)から距離位相φ(t)を求めることができる。
【0030】
【数3】
…(4)
【0031】
このようにして、対象物10に向けて送信されるマイクロ波の周波数を変えながら、上述したフーリエ変換や逆フーリエ変換を行うことで複素信号z(t)が得られ、従来のような6ポート回路を用いることなく、周波数に依存する距離位相φ(t)を算出することができる。
【0032】
ここで、特許文献2では、6ポート回路内で与えられる位相遅延量が周波数によって変化するという特性があるため、周波数掃引を利用して距離位相の不定性を取り除き、変位測定のダイナミックレンジを拡大する方法が提案されているが、周波数掃引を利用して距離位相の不定性を取り除くためには、6ポート回路内で与えられる、周波数毎の位相遅延量を事前に測定(校正)しておく校正作業が必要となる。
【0033】
これに対して、本実施形態では、回路的に位相遅延を与える必要が無く、周波数により位相遅延量が変わることがないため、特許文献2に示すような事前の校正作業が不要になるという利点がある。
【0034】
ただし、実信号x(t)のフーリエ変換の過程で信号波形の両端が歪み、有効な周波数帯域幅が減少することから、周波数掃引幅は、例えば、1GHz以上と広くすることが望ましい。
【0035】
(3)<演算処理部における形状測定処理>
次に、上述した距離Dの測定原理を利用して対象物10の形状を測定する形状測定処理について説明する。図2は、形状測定処理を実行する演算処理部11の回路構成を示すブロック図である。演算処理部11は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)などを有するコンピュータ装置として構成されており、AD変換部19と、到来方向推定部21と、ヒルベルト変換部22と、位相演算部23と、位相アンラッピング処理部24と、傾き算出部25と、粗距離算出部26と、位相不定性解消部27と、形状測定部28とを備える。
【0036】
ここで、図3の3Aは、受信アンテナ5a,5b,5c,…,5nごとにミキサ6a,6b,6c,…,6nでそれぞれ生成される混合信号の波形の一例を示すグラフであり、受信アンテナ5a,5b,5c,…,5nを横軸に示し、時間(∝周波数)を縦軸に示している。なお、横軸では、受信アンテナ5a,5b,5c,…,5nごとにそれぞれ混合信号の信号強度も示しており、例えば、1つ目の受信アンテナ5aを示す「1」では混合信号が正弦的に振動する波形となっている。
【0037】
演算処理部11は、各ミキサ6a,6b,6c,…,6nからそれぞれ混合信号を受け取ると、各混合信号をAD変換部19でアナログデジタル変換処理し、アナログデジタル変換処理された混合信号を到来方向推定部21に送出する。
【0038】
ここで、図1に示すように、対象物10から受信アンテナ5への受信波の到来方向について、受信波を受信する受信アンテナ5の先端面の面法線yを基準として当該到来方向の方位角θを規定した場合、例えば、隣接する受信アンテナ5a,5b間には位相差Δφθが存在する。よって、受信アンテナ5a,5b,5c,…,5nへの受信波の各到来方向の方位角θは、それぞれ隣接する受信アンテナ5a,5b,5c,…,5n間の位相差Δφθによってそれぞれ規定することができる。
【0039】
この場合、到来方向推定部21は、例えば、受信アンテナ5の面法線yを基準にして±90°の角度範囲内において、所定間隔の角度(例えば、1°間隔)で傾けた方位角θごとにそれぞれ対応する位相差Δφθを予め規定している。
【0040】
到来方向推定部21は、受信アンテナ5a,5b,5c,…,5nごとに得られた混合信号をAD変換部19から受け取ると、これら混合信号の各々に対して、受信アンテナ5a,5b,5c,…,5nでの受信波の到来方向の各方位角θにそれぞれ対応する位相差Δφθをそれぞれ与え、受信アンテナ5a,5b,5c,…,5nごとに、面法線yを基準にして±90°の角度範囲内で、例えば1°間隔で各方位角θそれぞれについて混合信号から個別方位信号を生成する。
【0041】
そして、到来方向推定部21は、受信アンテナ5a,5b,5c,…,5nごとに得られた各方位角θそれぞれの個別方位信号について、時間軸に沿って同一時刻の個別方位信号を方位角θごとに足し合わせてゆき、図3の3Bに示すように、方位角θごとにそれぞれ方位信号を生成する。到来方向推定部21は、到来方向の方位角θごとにそれぞれ方位信号を生成すると、これら方位信号をヒルベルト変換部22に送出する。
【0042】
図3の3Bは、受信アンテナ5の面法線yを基準にして±90°の角度範囲内において1°間隔の方位角θで生成した方位信号の波形の一例を示すグラフであり、到来方向の方位角θを横軸に示し、時間(∝周波数)を縦軸に示している。なお、横軸では、方位角θごとにそれぞれ方位信号の信号強度も示しており、例えば、方位角θが-90°の方位信号は、正弦的に振動する波形となっている。
【0043】
ヒルベルト変換部22は、各方位信号を実信号x(t)として、各方位信号に対して時間軸方向にヒルベルト変換をそれぞれ行い、解析信号として、実数成分Iと実数成分Iから90°位相がずれた虚数成分Qとからなる上記式(3)に示す複素信号z(t)を方位角θごとに生成する。ヒルベルト変換部22は、方位角θごとにそれぞれ生成した複素信号z(t)を位相演算部23に送出する。
【0044】
ここで、図3の3Cは、複素信号z(t)の実数成分I(図中、「実部(I成分)」と表記)の信号波形を示したグラフであり、図3の3Dは、複素信号z(t)の虚数成分Q(図中、「虚部(Q成分)」と表記)の信号波形を示したグラフである。図3の3C及び3Dは、到来方向の方位角θを横軸に示し、時間(∝周波数)を縦軸に示している。なお、横軸では、方位角θごとにそれぞれ信号強度も示しており、例えば、方位角θが-90°の信号は、正弦的に振動する波形となっている。
【0045】
なお、ヒルベルト変換部22は、計算量の削減のため、例えば、実信号x(t)である各方位信号に対してフーリエ変換及び逆フーリエ変換を行うことで複素信号z(t)を生成することが望ましい。この場合、ヒルベルト変換部22は、各方位信号に対してそれぞれフーリエ変換を行い、得られた演算結果に対して上記の式(2)より解析信号のフーリエ変換Z(f)を求め、さらにそれぞれ逆フーリエ変換を行うことで、上記の式(3)に示すような複素信号z(t)を得ることができる。
【0046】
位相演算部23は、方位角θごとにそれぞれ得られた複数の複素信号z(t)から、上記の式(4)に従って方位角θごとにそれぞれ距離位相φ(t)を算出する。ここで、図4の4Aは、方位角θごとに得られた距離位相φ(t)の波形の一例を示すグラフであり、到来方向の方位角θを横軸に示し、時間(∝周波数)を縦軸に示している。なお、横軸では、方位角θごとにそれぞれ距離位相φ(t)の位相変化量も示しており、例えば、方位角θが-90°の距離位相φ(t)は、ノコギリ歯状の波形となっている。
【0047】
位相演算部23は、方位角θごとにそれぞれ距離位相φ(t)を算出すると、距離位相φ(t)を方位角θごとに距離位相データとして位相アンラッピング処理部24に送出する。また、位相演算部23は、位相不定性解消部27によって、2πの不定性を取り除く整数n(後述する)を算出するために、方位角θごとに得らえた距離位相データを、位相不定性解消部27にも送出する。
【0048】
位相アンラッピング処理部24は、方位角θごとに得られた距離位相データに対して、それぞれ位相アンラッピング処理を行い、図4の4Bに示すように、方位角θごとに、距離位相φ(t)の不連続点を周波数fに沿って位相接続させ、距離位相φ(t)を連続的に表した位相アンラッピングデータをそれぞれ生成する。
【0049】
例えば、図4の4Bに示す-90°での位相アンラッピングデータは、図4の4Aに示す-90°でのノコギリ歯状の信号のうち、正に増加する信号を接続してゆき、距離位相φ(t)を連続的に表した位相アンラッピングデータを示している。
【0050】
位相アンラッピング処理部24は、方位角θごとにそれぞれ得られた複数の位相アンラッピングデータを、傾き算出部25に送出する。傾き算出部25は、方位角θごとに、周波数fに沿って距離位相φ(t)を連続的に表した位相アンラッピングデータからそれぞれ近似直線を算出し、この近似直線の傾きdφ(t)/dfを算出する。傾き算出部25は、周波数fに対する距離位相φ(t)の傾きdφ(t)/dfを方位角θごとにそれぞれ算出すると、これらを粗距離算出部26に送出する。
【0051】
ここで、受信アンテナ5から対象物10までの距離D[m]と、距離位相φ(t)[rad]との関係は、下記の式(5)で表すことができる。
【数4】
…(5)
但し、fは送信信号(マイクロ波)の周波数[Hz]、λは送信信号の波長[m]、cは光速[m/s]である。
【0052】
よって、距離Dは下記の式(6)で表すことができる。
【数5】
…(6)
【0053】
しかしながら、対象物10までの距離Dが波長の2分の1以上変化すると、位相特性として、距離位相φ(t)と、距離位相(φ(t)+2πn)(nは整数)との間で区別がつかないという、2πの不定性が生じる。このため、実際の距離Dは下記の式(7)のようになる。
【数6】
…(7)
【0054】
したがって、距離位相φ(t)が2πを超える距離Dを測定する場合には、整数nを一意に決める必要がある。
【0055】
上記の式(7)において、周波数を示すfを両辺に乗じた後、両辺をfで微分する。このとき、周波数fに依存するのは距離位相φ(t)のみであるため、下記の式(8)が求まる。
【数7】
…(8)
【0056】
したがって、周波数fを掃引して、周波数fに対する距離位相φ(t)の傾きdφ(t)/dfを求めれば、式(8)より、2πの不定性がない距離(以下、粗距離D´と称する)を定めることができる。そして、上記の式(8)から粗距離D´を求めた後に、この粗距離D´と、周波数fと、距離位相φ(t)とを利用して、上記の式(7)から整数nを決定する。
【0057】
さらに、中心周波数(掃引周波数幅の中心の周波数fであり、例えば、掃引する周波数範囲が38~42[GHz]であれば中心の40[GHz])における距離位相φ(t)そのものを測定し、整数nを決定した上記の式(7)に代入すれば、波長以下の距離Dを求めることができる。このように、2πの不定性を取り除くことと、距離位相φ(t)の測定することとが両立でき、波長以上のダイナミックレンジで、かつ波長以下の高い分解能により、距離Dの測定が可能となる。
【0058】
このような上記の演算処理を方位角θごとに実行するために、粗距離算出部26は、周波数掃引した際の、方位角θごとの距離位相φ(t)の傾きdφ(t)/dfを利用して、上記の式(8)から粗距離D´を方位角θごとにそれぞれ算出(ここでは、式(8)のDをD´に置き換えた式から算出)し、得られた算出結果を位相不定性解消部27に送出する。
【0059】
位相不定性解消部27は、位相演算部23から受け取った、方位角θごとに算出された各周波数fでの距離位相φ(t)を示す距離位相データを基に、例えば、掃引する周波数範囲の中心周波数における距離位相φ(t)を方位角θごとに求めた後、これら距離位相φ(t)の絶対値を算出する。そして、位相不定性解消部27は、これら中心周波数と、距離位相φ(t)の絶対値と、粗距離D´を利用して、方位角θごとにそれぞれ、上記の式(7)から、2πの不定性を取り除く整数nを算出する。
【0060】
位相不定性解消部27は、方位角θごとに算出した整数nの情報を形状測定部28に送出する。形状測定部28は、位相不定性解消部27から受け取った各整数nを用いて、方位角θごとに上記の式(7)における整数nを規定し、2πの不定性を取り除く。また、形状測定部28は、位相演算部23から受け取った方位角θごとの距離位相データから、掃引する周波数範囲の中心周波数における距離位相φ(t)を方位角θごとにそれぞれ求めた後、これら距離位相φ(t)の絶対値を算出する。
【0061】
形状測定部28は、方位角θごとに得られた各絶対値を、方位角θごとにそれぞれ2πの不定性を取り除いた上記の式(7)の距離位相φ(t)として用い、図4の4Cに示すように、当該式(7)に基づいて、方位角θごとにそれぞれ距離Dを算出する。
【0062】
図4の4Cは、方位角θごとに得られた距離Dを黒丸で示したグラフであり、到来方向の方位角θを横軸に示し、距離Dを縦軸に示している。この場合、形状測定部28は、例えば、-90°から+90°の角度範囲内において1°間隔で各方位角θでの距離Dを算出する。
【0063】
このようにして、形状測定装置1では、方位角θと、方位角θごとにそれぞれ算出した距離Dとの関係を示すデータを得ることができ、これら方位角θと各方位角θでの距離Dとの関係から対象物10の形状を測定することができる。
【0064】
例えば、後述する図7の7Bに示すように、受信アンテナ5から鉛直方向に向けて縦軸を取り、受信アンテナ5から各方位角θの延長線上にある水平方向に横軸を取る。そして、受信アンテナ5から各方位角θでそれぞれ水平方向に向けて延長線を引いたときに水平方向の横軸に当たる位置を水平方向位置として規定し、方位角θから規定した水平方向位置に、それぞれ方位角θごとの距離Dをプロットすることで、対象物10の形状を測定することができる。
【0065】
また、形状測定装置1では、距離位相φ(t)の2πの不定性を取り除き、方位角θごとにそれぞれ距離Dを測定できるので、測定時のダイナミックレンジを拡大できるとともに、波長以下の高い分解能により、方位角θごとに距離Dを測定することが可能となる。
【0066】
次に、図5のフローチャートを用いて、上述した形状測定処理の時系列な流れについて以下簡単に説明する。形状測定装置1は、周波数fを時間に対して変化させたマイクロ波を送信アンテナ4から対象物10に送信する。対象物10からの反射マイクロ波を受信アンテナ5a,5b,5c,…,5nで受信する。これにより、形状測定装置1は、受信アンテナ5a,5b,5c,…,5nごとにそれぞれミキサ6a,6b,6c,…,6nで生成された複数の混合信号を演算処理部11が取得すると、形状測定処理を開始して開始ステップからステップS12に移る。
【0067】
ステップS12において、演算処理部11は、受信アンテナ5a,5b,5c,…,5nごとに得られた複数の混合信号に対して、AD変換部19によってアナログデジタル変換処理を行い、次のステップS13に移る。
【0068】
ステップS13において、演算処理部11は、到来方向推定部21によって到来方向推定処理を行い、受信アンテナ5a,5b,5c,…,5nごとに得られた混合信号の各々に対し、受信アンテナ5で受信波が到来する所定角度範囲内で各方位角θにそれぞれ対応する位相差Δφθをそれぞれ与えて、受信アンテナ5a,5b,5c,…,5nごとにそれぞれ方位角θごとの個別方位信号を生成する。なお、ここでは、-90°から+90°の角度範囲内において、1°間隔で各方位角θを定め、各方位角θに対応する位相差Δφθを混合信号にそれぞれ与え、混合信号ごとに各方位角θの個別方位信号を生成する。
【0069】
また、ステップS13において、到来方向推定部21は、到来方向推定処理として、受信アンテナ5a,5b,5c,…,5nごとに得られた各到来方向それぞれの個別方位信号について、時間軸に沿って同一時刻の個別方位信号を方位角θごとに足し合わせてゆき、図3の3Bに示すように、方位角θごとにそれぞれ方位信号を生成して、次のステップS14に移る。
【0070】
ステップS14において、演算処理部11は、ヒルベルト変換部22によって、各方位信号に対してヒルベルト変換を行い、方位角θごとに上記の式(3)に示すような複素信号をそれぞれ生成して、次のステップS15に移る。
【0071】
ステップS15において、演算処理部11は、位相演算部23によって、方位角θごとに得られた複素信号を用いて、上記の式(4)から、当該周波数fでの距離位相φ(t)を求め、周波数fと距離位相φ(t)との関係を示した距離位相データを方位角θごとに生成して、次にステップS16に移る。
【0072】
ステップS16において、演算処理部11は、位相アンラッピング処理部24によって、図4の4Aに示すような周波数fと距離位相φ(t)との関係を方位角θごとにそれぞれ示した距離位相データに対して、位相アンラッピング処理を行い、図4の4Bに示すように、周波数fに沿って距離位相φ(t)を連続的に接続した位相アンラッピングデータを、方位角θごとにそれぞれ生成し、次のステップS17に移る。
【0073】
ステップS17において、演算処理部11は、傾き算出部25によって、各位相アンラッピングデータから、それぞれ掃引する周波数fに対する距離位相φ(t)の傾きdφ(t)/dfを算出し、次のステップS18に移る。ステップS18において、演算処理部11は、粗距離算出部26によって、方位角θごとにそれぞれ算出した傾きdφ(t)/dfを用いて、方位角θごとに上記の式(8)から粗距離D´をそれぞれ算出し、次のステップS19に移る。
【0074】
ステップS19において、演算処理部11は、位相不定性解消部27によって、粗距離D´と、掃引する周波数範囲における中心周波数と、中心周波数における距離位相φ(t)の絶対値とを用い、方位角θごとに上記の式(7)から、2πの不定性を取り除く整数nを方位角θごとにそれぞれ算出し、次のステップS20に移る。
【0075】
ステップS20において、演算処理部11は、形状測定部28によって、掃引する周波数範囲における中心周波数と、中心周波数における距離位相φ(t)の絶対値とを用い、上記の整数nを規定して2πの不定性を取り除いた上記の式(7)から、方位角θごとにそれぞれ距離Dを算出し、次のステップS21に移る。
【0076】
ステップS21において、演算処理部11は、形状測定部28によって、方位角θと、方位角θごとにそれぞれ得られた距離Dとの関係から対象物10の形状を特定した形状測定結果を出力して、上述した形状測定処理を終了する。
【0077】
(4)<作用及び効果>
以上の構成において、形状測定装置1では、対象物10に向けて周波数を変化させながらマイクロ波を送信アンテナ4から送信するとともに、当該対象物10で反射したマイクロ波を複数の受信アンテナ5で受信する。形状測定装置1は、送信アンテナ4から送信したマイクロ波の送信信号と、各受信アンテナ5で受信したマイクロ波の受信信号とを乗算した混合信号を、受信アンテナ5ごとにミキサ6によって生成し、演算処理部11によって、複数の混合信号に基づいて対象物10の形状を測定する。
【0078】
この場合、演算処理部11は、複数の混合信号に基づいて、対象物10から受信アンテナ5へのマイクロ波の到来方向の方位角θごとに方位信号をそれぞれ生成し、得られた複数の方位信号をそれぞれヒルベルト変換して、方位角θごとに複素信号をそれぞれ生成する。また、演算処理部11は、方位角θごとに生成した複数の複素信号に基づいて、方位角θごとに対象物10までの距離Dに対応する距離位相φ(t)をそれぞれ算出し、得られた複数の距離位相φ(t)に基づいて、方位角θごとに対象物10までの距離Dをそれぞれ算出して、方位角θと距離Dとの関係に基づいて対象物10の形状を測定する。
【0079】
これにより、形状測定装置1は、6ポート回路を用いることなく、演算処理によって方位角θごとに距離Dを測定できるので、従来の6ポート回路を用いた構成に比して出力ポートの数が減り、その分、簡易な構成を実現できるとともに、対象物10の形状を高い分解能で測定することができる。また、この形状測定装置1では、6ポート回路を使用した際の、周波数毎の位相遅延量を事前に測定(校正)しておく校正作業も不要となるため、その分、作業者への作業負担を軽減させることができる。
【0080】
さらに、演算処理部11は、受信アンテナ5ごとに生成した混合信号に、方位角θにそれぞれ対応する位相差Δφθを与え、受信アンテナ5ごとに方位角θそれぞれについて個別方位信号を生成し、得られた複数の個別方位信号を、時間軸に沿って方位角θごとに加算して方位信号をそれぞれ生成する。これにより、形状測定装置1は、複数の受信アンテナ5から得られた複数の個別方位信号から、方位角θごとに方位信号を生成して、当該方位信号を距離Dの算出に用いるため、方位角θごとにそれぞれ一段と正確に距離Dを算出することができる。
【0081】
さらに、形状測定装置1は、位相の2πの不定性を取り除くことができるので、波長を超えた大きさの距離Dを正確に測定でき、対象物10の形状を高い分解能で測定することができる
【0082】
(5)<他の実施形態>
なお、本発明は、本実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。例えば、2πの不定性を取り除く処理を行うことなく、方位角θごとにそれぞれ上記の式(8)から距離Dを直接算出するようにしてもよい。
【0083】
また、上述した実施形態においては、2πの不定性を取り除く整数nや距離Dを、上記の式(7)から算出する際、中心周波数における距離位相φ(t)の絶対値を、式(7)のφ(t)に適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らない。例えば、掃引する周波数範囲内の任意の周波数fと、そのときの距離位相φ(t)を用いて、式(7)から整数nや距離Dを算出してもよい。
【0084】
(6)<検証試験>
次に検証試験について説明する。ここでは、上述した本実施形態に係る形状測定方法が高分解能な測定結果を得られることを確認する検証試験を行った。この検証試験では、後述する比較例1と実施例1とによって、焼結機に装入した原料層の表面形状を測定した。
【0085】
比較例1では、一般的な距離計測方式であるFMCW方式を使用して対象物10までの距離を測定した後に、距離ごとにそれぞれ方位角を特定して距離と方位角とから、焼結機に装入した原料層の表面形状を測定した。実施例1では、上述した本実施形態に係る形状測定装置1を用いて、焼結機に装入した原料層の表面形状を測定した。
【0086】
検証試験では、2個の送信アンテナ4と、16個の受信アンテナ5とが設けられたアンテナアレイ3を準備し、図6に示すように、焼結機に装入した原料層(対象物10)の斜め上方にアンテナアレイ3を配置した。図6では、紙面奥側から紙面手前側が原料層の搬送方向であり、紙面左右方向が機幅方向である。
【0087】
比較例1及び実施例1では、いずれも原料層表面を斜め上方から見下ろすように設置したアンテナアレイ3を用い、当該アンテナアレイ3から対象物10の機幅方向に沿って23~25[GHz]の範囲で周波数掃引を行ったマイクロ波を送信し、これにより対象物10から反射してきたマイクロ波を当該アンテナアレイ3で受信するようにした。なお、図6中、L1は、アンテナアレイ3におけるマイクロ波の送受信領域を示しており、ここでは、±45°の送受信領域の範囲内で検証試験を行った。すなわち、実施例1では、±45°の角度範囲内において0.1°間隔で方位角θごとにそれぞれ方位信号を生成し、方位角θごとに得られた方位信号に対してヒルベルト変換を行った。
【0088】
図7の7Aは、アンテナアレイ3から得られた複数の受信信号に基づいて、一般的な距離計測方式であるFMCW方式を使用して距離を測定した後に、距離ごとにそれぞれ方位角を特定して距離と方位角との関係から対象物10の形状を測定した比較例1の形状測定結果を示す。
【0089】
図7の7Bは、アンテナアレイ3から得られた複数の受信信号に基づいて、形状測定装置1によって、方位角θごとに方位信号を生成した後に、ヒルベルト変換を利用した距離位相φ(t)の算出や、2πの不定性解消などの処理を実行して距離Dを求め、方位角θと距離Dとの関係から対象物10の形状を測定した実施例1の形状測定結果を示す。
【0090】
図7の7A,7Bは、対象物10の水平方向位置を横軸に示し、対象物10に対する鉛直方向位置を縦軸に示す。また、図7の7A,7Bは、アンテナアレイ3の配置位置を横軸の原点としており、対象物10に対して斜めに傾けて上方に配置した、視野が±45°のアンテナアレイ3を基準として、直交座標で対象物10の形状を出力している。このため、図7の7A,7Bでは、対象物10とした原料層の表面が、横軸の原点を中心に右上から左下に傾いてデータがプロットされている。
【0091】
図7の7A,7Bでは、水平方向位置の-1.5~0.5mの範囲にあるプロットが、対象物10(原料層)の表面の形状を表している。図7の7Aから、従来法である比較例1では、アンテナアレイ3から距離が離れるに従ってデータが固まって離散的になっており、階段状になっていることが確認できた。
【0092】
一方、図7の7Bから、本実施形態に係る実施例1では、アンテナアレイ3から距離が離れても概ね連続的にデータがプロットされており、比較的なだらかな形状が現れていることが確認でき、高分解能で形状測定が行えることが確認できた。
【符号の説明】
【0093】
1 形状測定装置
3 アンテナアレイ
4 送信アンテナ
5、5a,5b,5c,…,5n 受信アンテナ
6、6a,6b,6c,…,6n ミキサ
11 演算処理部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7