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特開2023-115975インバータの制御装置および制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023115975
(43)【公開日】2023-08-22
(54)【発明の名称】インバータの制御装置および制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 27/08 20060101AFI20230815BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20230815BHJP
【FI】
H02P27/08
H02M7/48 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022018443
(22)【出願日】2022-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】滝口 昌司
【テーマコード(参考)】
5H505
5H770
【Fターム(参考)】
5H505AA19
5H505BB02
5H505CC01
5H505CC09
5H505DD08
5H505EE41
5H505EE49
5H505GG04
5H505HA08
5H505HB02
5H505HB05
5H505JJ04
5H505JJ24
5H505JJ29
5H770BA01
5H770DA05
5H770DA41
5H770EA01
5H770EA19
(57)【要約】
【課題】簡単な三角波比較によるPWM制御により零相電圧の発生を防止する。
【解決手段】直列接続した上、下アームの半導体スイッチング素子から成るハーフブリッジ回路を、直流電源の正、負極端間に4個並列接続したインバータと、直列接続した3巻線の各端部を前記4個のハーフブリッジ回路の各中点に接続した3相の直列巻線モータとを備えた装置において、αβ座標での電圧指令Vα*、Vβ*をπ/6位相進めて2相電圧指令Vα’*、Vβ’*を求める2相電圧指令演算部61と、Vα’*、Vβ’*を3相電圧指令VL1,VL2,VL3に変換する3相電圧指令演算部62と、前記第4のハーブブリッジ回路の相電圧指令VL4を、零相電圧を出力しない条件であるVL4=VL1とし、VL1~VL4とキャリア発生器64のキャリア信号との比較により、前記インバータの各半導体スイッチング素子のゲート指令を生成するゲート指令生成部63とを備えた。
【選択図】 図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直列接続した上アーム半導体スイッチング素子および下アーム半導体スイッチング素子から成る1個のハーフブリッジ回路を、直流電源の正、負極端間に4個並列接続して構成したインバータと、
直列接続された第1~第3の巻線を有し、該第1~第3の巻線の各端部が前記インバータの4個のハーフブリッジ回路の各中点に接続された3相の直列巻線モータとを備えた装置において、
前記3相の直列巻線モータに印加するαβ座標での電圧指令Vα,Vβを、下記(4)式
【数4】
によってπ/6位相を進める方向に変換して2相電圧指令Vα’,Vβ’を求める2相電圧指令演算部と、
前記2相電圧指令演算部で求められた2相電圧指令Vα’,Vβ’を、下記(5)式
【数5】
(VL1*は前記4個のハーフブリッジ回路のうちの第1のハーフブリッジ回路側の相電圧指令、VL2*は前記4個のハーフブリッジ回路のうちの第2のハーフブリッジ回路側の相電圧指令、VL3*は前記4個のハーフブリッジ回路のうちの第3のハーフブリッジ回路側の相電圧指令)
によって3相電圧指令VL1,VL2,VL3に変換する3相電圧指令演算部と、
前記4個のハーフブリッジ回路のうちの第4のハーフブリッジ回路の相電圧指令VL4を、零相電圧を出力しない条件であるVL4=VL1とし、前記各相電圧指令VL1~VL4とキャリア信号との比較を行って、前記第1~第4のハーフブリッジ回路の各上アーム半導体スイッチング素子および下アーム半導体スイッチング素子のゲート指令を生成するゲート指令生成部と、を備えたことを特徴とするインバータの制御装置。
【請求項2】
前記第1のハーフブリッジ回路の中点と前記第1の巻線の一端を結ぶ接続線に流れる電流iL1、前記第2のハーフブリッジ回路の中点と前記第1の巻線および第2の巻線の共通接続点とを結ぶ接続線に流れる電流iL2、前記第3のハーフブリッジ回路の中点と前記第2の巻線および第3の巻線の一端の共通接続点とを結ぶ接続線に流れる電流iL3、前記第4のハーフブリッジ回路の中点と前記第3の巻線の他端を結ぶ接続線に流れる電流iL4から、第1の巻線に流れるモータ電流iu、第2の巻線に流れるモータ電流iv、第3の巻線に流れるモータ電流iwを下記(7)式、(8)式によって求め、(7)式、(8)式で求められたモータ電流iu,iv,iwを下記(9)式によってdqz軸に変換して電流id,iq,izを求め、
【数7】
【数8】
【数9】
前記求められたz軸電流izが零となる零相電圧指令Vz*を出力する零相電流制御部と、
前記4個のハーフブリッジ回路のうちの第4のハーフブリッジ回路の相電圧指令VL4を、零相電圧を出力しない条件であるVL4=VL1とし、前記各相電圧指令VL1~VL4に対して下記(10)式、又は(11)式、又は(12)式に示す加算を行って、
【数10】
【数11】
【数12】
各相電圧指令VL1’~VL4’を求める零相電圧指令加算部と、を備え、
前記ゲート指令生成部は、前記零相電圧指令加算部により求められた各相電圧指令VL1’~VL4’とキャリア信号との比較を行って、前記第1~第4のハーフブリッジ回路の各上アーム半導体スイッチング素子および下アーム半導体スイッチング素子のゲート指令を生成することを特徴とする請求項1に記載のインバータの制御装置。
【請求項3】
前記3相電圧指令演算部で変換された3相電圧指令VL1,VL2,VL3に三次高調波を重畳する零相変調部を備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載のインバータの制御装置。
【請求項4】
直列接続した上アーム半導体スイッチング素子および下アーム半導体スイッチング素子から成る1個のハーフブリッジ回路を、直流電源の正、負極端間に4個並列接続して構成したインバータと、
直列接続された第1~第3の巻線を有し、該第1~第3の巻線の各端部が前記インバータの4個のハーフブリッジ回路の各中点に接続された3相の直列巻線モータとを備えた装置の制御方法であって、
2相電圧指令演算部が、前記3相の直列巻線モータに印加するαβ座標での電圧指令Vα,Vβを、下記(4)式
【数4】
によってπ/6位相を進める方向に変換して2相電圧指令Vα’,Vβ’を求める2相電圧指令演算ステップと、
3相電圧指令演算部が、前記2相電圧指令演算ステップで求められた2相電圧指令Vα’,Vβ’を、下記(5)式
【数5】
(VL1*は前記4個のハーフブリッジ回路のうちの第1のハーフブリッジ回路側の相電圧指令、VL2*は前記4個のハーフブリッジ回路のうちの第2のハーフブリッジ回路側の相電圧指令、VL3*は前記4個のハーフブリッジ回路のうちの第3のハーフブリッジ回路側の相電圧指令)
によって3相電圧指令VL1,VL2,VL3に変換する3相電圧指令演算ステップと、
ゲート指令生成部が、前記4個のハーフブリッジ回路のうちの第4のハーフブリッジ回路の相電圧指令VL4を、零相電圧を出力しない条件であるVL4=VL1とし、前記各相電圧指令VL1~VL4とキャリア信号との比較を行って、前記第1~第4のハーフブリッジ回路の各上アーム半導体スイッチング素子および下アーム半導体スイッチング素子のゲート指令を生成するゲート指令生成ステップと、を備えたことを特徴とするインバータの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータの制御装置、制御方法に係り、直列巻線モータを駆動するインバータのPWM方式と零相電流の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
PM(Permnent Magnet)モータが電気自動車など様々な分野で用いられている。EV用のモータに求められる要求として、低速から高速、低トルクから高トルクの広範囲で高効率で駆動することが求められる。PMモータは回転子に磁石があるため、モータの回転により誘起電圧が発生する。誘起電圧はモータの速度に比例するため高速になるほど高電圧となり、モータに印加する電圧も大きくする必要がある。
【0003】
しかし、PMモータを駆動するインバータの出力電圧はインバータの直流電圧により制限されるため、印加できる電圧には限界がある。PMモータを広範囲で駆動するための方法の1つに、弱め磁束制御による方法がある。この方法は永久磁石の磁束を打ち消すような磁束を固定子巻線により発生させ、モータの端子電圧を下げることができるが、弱め磁束電流を流す必要があるため、モータの銅損やインバータの損失増加につながる。
【0004】
他の方法として、モータの固定子巻線の中性点を開放して、2台目のインバータを接続した、図1図2のようなオープン巻線モータドライブシステムがある。
【0005】
図1は電源絶縁型オープン巻線モータドライブ構成を示し、11は、半導体スイッチング素子SU,SV,SW,SX,SY,SZを三相ブリッジ接続したインバータであり、直流側は直流電源1に接続されている。
【0006】
インバータ11の交流側は、モータの固定子巻線の中性点を開放し、互いに独立した三相のオープン巻線3U,3V,3Wを有するオープン巻線モータ(PMモータ)3の1次側三相端子に接続されている。
【0007】
12は、半導体スイッチング素子SU,SV,SW,SX,SY,SZを三相ブリッジ接続したインバータであり、直流側は直流電源2に接続されている。
【0008】
インバータ12の交流側は、前記オープン巻線モータ3の2次側三相端子に接続されている。
【0009】
図中のVdc1はインバータ11の直流電圧、Vdc2はインバータ12の直流電圧を示している。
【0010】
図2は、図1の直流電源2を除去した電源共通型オープン巻線モータドライブ構成であり、図1と同一部分は同一符号をもって示している。これら図1図2のオープン巻線モータの構成はモータの印加電圧を向上させることが可能になるが、3相インバータ2台分のパワーモジュール(半導体スイッチング素子)が必要になる。
【0011】
そこで非特許文献1でSeries-Winding PMモータドライブシステムが提案されている。このドライブシステムは図3のような構成となっており、N相モータの場合はN+1レグ(上アームの半導体スイッチング素子と下アームの半導体スイッチング素子の組)を構成するパワーモジュールの数で良く、3相モータの場合は4レグ、つまり8つのパワーモジュールで構成することができ、オープン巻線モータドライブシステムよりもパワーモジュールの使用数を減らすことができる。
【0012】
図3は3相の直列巻線モータのドライブ構成を示し、1は直流電源である。
【0013】
直流電源1の正、負極端間には、上アーム半導体スイッチング素子S1aおよび下アーム半導体スイッチング素子S1bを直列接続した第1のハーフブリッジ回路(以下レグSL1と称することもある)と、上アーム半導体スイッチング素子S2aおよび下アーム半導体スイッチング素子S2bを直列接続した第2のハーフブリッジ回路(以下レグSL2と称することもある)と、上アーム半導体スイッチング素子S3aおよび下アーム半導体スイッチング素子S3bを直列接続した第3のハーフブリッジ回路(以下レグSL3と称することもある)と、上アーム半導体スイッチング素子S4aおよび下アーム半導体スイッチング素子S4bを直列接続した第4のハーフブリッジ回路(以下レグSL4と称することもある)とが並列に接続されている。
【0014】
これら直流電源1および4つのレグSL1~SL4によってインバータを構成している。
【0015】
30は、直列接続されたU相巻線30U(第1の巻線)、V相巻線30V(第2の巻線)、W相巻線30W(第3の巻線)を有し、該巻線30U,30V,30Wの各端部が前記4個のハーフブリッジ回路(レグSL1~SL4)の各中点に接続された3相の直列巻線モータ(PMSM)である。
【0016】
図中のVdcは直流電源1の直流電圧、iL1はレグSL1の中点とU相巻線30Uの一端を結ぶ接続線に流れる電流(レグ電流)、iL2はレグSL2の中点とU相巻線30UおよびV相巻線30Vの共通接続点を結ぶ接続線に流れる電流(レグ電流)、iL3はレグSL3の中点とV相巻線30VおよびW相巻線30Wの一端の共通接続点を結ぶ接続線に流れる電流(レグ電流)、iL4はレグSL4の中点とW相巻線30Wの他端を結ぶ接続線に流れる電流(レグ電流)である。
【0017】
iuはU相巻線30Uに流れるモータ電流、ivはV相巻線30Vに流れるモータ電流、iwはW相巻線30Wに流れるモータ電流である。
【0018】
また、図3の構成は3相の場合、Δ結線の1相を開放したものをインバータを介して結線した構成であり、レグSL1とレグSL4を同じ動作をさせることで、インバータを介してΔ結線したような構成となる。Δ結線のモータはY結線のモータと比べ、巻線に√3倍の電圧を印加できるため、インバータの電圧利用率を向上できる。
【0019】
しかし、Δ結線のモータはモータの誘起電圧や巻線のアンバランス、インバータによる零相電圧の重畳によりモータ内部で循環電流(零相電流)が流れる。この循環電流はモータの損失増加やトルクリプルの要因となり、好ましくない。図3の構成でも同様に、インバータを介して零相電流が流れるが、通常のΔ結線モータはモータ内部で循環電流が流れるため通常計測はできず、制御により抑制をすることができないが、図3の構成ではインバータを介して零相電流が流れるため、零相電流成分を検出でき、零相電流のフィードバック制御が可能となる。
【0020】
さらに通常の3相2レベルインバータはその構成上、電圧を出力する際に零相電圧を出力してしまうが、この零相電圧はモータの軸電圧やノイズ源となる漏れ電流の要因となる。
【0021】
図2図3の構成では零相電圧を出力しないスイッチングパターンを選択することにより、零相電圧の出力を抑制可能である。これにより、軸電圧やノイズの低減効果が期待できる。
【0022】
また、3相インバータの場合、特許文献1に記載のように零相変調方式を適用することで、インバータの出力電圧を1.15倍にすることが可能となるが、図2図3の構成では零相電流が流れる経路があるため、零相変調を適用すると循環電流が大きく流れてしまうため、零相変調を適用できない。
【0023】
しかし、零相電圧を出力しないスイッチングをさせることにより、零相変調を適用しても零相変調による零相電流の増加を抑制可能となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0024】
【非特許文献1】Dong,Z.;Liu,C.;Liu,S.;Song,Z.“Deadbeat Predictive Current Control for Series-Winding PMSM Drive with Half-Bridge Power Module-Based Inverter”、Energies 2021,14,4620.https://doi.org/10.3390/en14154620
【特許文献】
【0025】
【特許文献1】特開平3-107373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
図3に示す直列巻線モータの駆動方法として、非特許文献1ではデッドビート制御と空間ベクトル変調を適用した制御構成を提案している(非特許文献1にはキャリアベースのパルス幅変調の概念を用いて実現できるという一文はあるが、具体的な方法は記載されていない)。しかし、この空間ベクトル変調は実装が複雑化するという課題がある。
【0027】
本発明は、上記課題を解決するものであり、その目的は、直列巻線モータ駆動用のインバータに対して簡単な三角波比較によるPWM制御方式の適用を可能とし、循環電流(零相電流)を低減することができるインバータの制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0028】
上記課題を解決するための請求項1に記載のインバータの制御装置は、
直列接続した上アーム半導体スイッチング素子および下アーム半導体スイッチング素子から成る1個のハーフブリッジ回路を、直流電源の正、負極端間に4個並列接続して構成したインバータと、
直列接続された第1~第3の巻線を有し、該第1~第3の巻線の各端部が前記インバータの4個のハーフブリッジ回路の各中点に接続された3相の直列巻線モータとを備えた装置において、
前記3相の直列巻線モータに印加するαβ座標での電圧指令Vα,Vβを、下記(4)式
【0029】
【数4】
【0030】
によってπ/6位相を進める方向に変換して2相電圧指令Vα’,Vβ’を求める2相電圧指令演算部と、
前記2相電圧指令演算部で求められた2相電圧指令Vα’,Vβ’を、下記(5)式
【0031】
【数5】
【0032】
(VL1*は前記4個のハーフブリッジ回路のうちの第1のハーフブリッジ回路側の相電圧指令、VL2*は前記4個のハーフブリッジ回路のうちの第2のハーフブリッジ回路側の相電圧指令、VL3*は前記4個のハーフブリッジ回路のうちの第3のハーフブリッジ回路側の相電圧指令)
によって3相電圧指令VL1,VL2,VL3に変換する3相電圧指令演算部と、
前記4個のハーフブリッジ回路のうちの第4のハーフブリッジ回路の相電圧指令VL4を、零相電圧を出力しない条件であるVL4=VL1とし、前記各相電圧指令VL1~VL4とキャリア信号との比較を行って、前記第1~第4のハーフブリッジ回路の各上アーム半導体スイッチング素子および下アーム半導体スイッチング素子のゲート指令を生成するゲート指令生成部と、を備えたことを特徴とする。
【0033】
請求項2に記載のインバータの制御装置は、請求項1において、
前記第1のハーフブリッジ回路の中点と前記第1の巻線の一端を結ぶ接続線に流れる電流iL1、前記第2のハーフブリッジ回路の中点と前記第1の巻線および第2の巻線の共通接続点とを結ぶ接続線に流れる電流iL2、前記第3のハーフブリッジ回路の中点と前記第2の巻線および第3の巻線の一端の共通接続点とを結ぶ接続線に流れる電流iL3、前記第4のハーフブリッジ回路の中点と前記第3の巻線の他端を結ぶ接続線に流れる電流iL4から、第1の巻線に流れるモータ電流iu、第2の巻線に流れるモータ電流iv、第3の巻線に流れるモータ電流iwを下記(7)式、(8)式によって求め、(7)式、(8)式で求められたモータ電流iu,iv,iwを下記(9)式によってdqz軸に変換して電流id,iq,izを求め、
【0034】
【数7】
【0035】
【数8】
【0036】
【数9】
【0037】
前記求められたz軸電流izが零となる零相電圧指令Vz*を出力する零相電流制御部と、
前記4個のハーフブリッジ回路のうちの第4のハーフブリッジ回路の相電圧指令VL4を、零相電圧を出力しない条件であるVL4=VL1とし、前記各相電圧指令VL1~VL4に対して下記(10)式、又は(11)式、又は(12)式に示す加算を行って、
【0038】
【数10】
【0039】
【数11】
【0040】
【数12】
【0041】
各相電圧指令VL1’~VL4’を求める零相電圧指令加算部と、を備え、
前記ゲート指令生成部は、前記零相電圧指令加算部により求められた各相電圧指令VL1’~VL4’とキャリア信号との比較を行って、前記第1~第4のハーフブリッジ回路の各上アーム半導体スイッチング素子および下アーム半導体スイッチング素子のゲート指令を生成することを特徴としている。
【0042】
請求項3に記載のインバータの制御装置は、請求項1又は2において、
前記3相電圧指令演算部で変換された3相電圧指令VL1,VL2,VL3に三次高調波を重畳する零相変調部を備えたことを特徴とする。
【0043】
請求項4に記載のインバータの制御方法は、
直列接続した上アーム半導体スイッチング素子および下アーム半導体スイッチング素子から成る1個のハーフブリッジ回路を、直流電源の正、負極端間に4個並列接続して構成したインバータと、
直列接続された第1~第3の巻線を有し、該第1~第3の巻線の各端部が前記インバータの4個のハーフブリッジ回路の各中点に接続された3相の直列巻線モータとを備えた装置の制御方法であって、
2相電圧指令演算部が、前記3相の直列巻線モータに印加するαβ座標での電圧指令Vα,Vβを、下記(4)式
【0044】
【数4】
【0045】
によってπ/6位相を進める方向に変換して2相電圧指令Vα’,Vβ’を求める2相電圧指令演算ステップと、
3相電圧指令演算部が、前記2相電圧指令演算ステップで求められた2相電圧指令Vα’,Vβ’を、下記(5)式
【0046】
【数5】
【0047】
(VL1*は前記4個のハーフブリッジ回路のうちの第1のハーフブリッジ回路側の相電圧指令、VL2*は前記4個のハーフブリッジ回路のうちの第2のハーフブリッジ回路側の相電圧指令、VL3*は前記4個のハーフブリッジ回路のうちの第3のハーフブリッジ回路側の相電圧指令)
によって3相電圧指令VL1,VL2,VL3に変換する3相電圧指令演算ステップと、
ゲート指令生成部が、前記4個のハーフブリッジ回路のうちの第4のハーフブリッジ回路の相電圧指令VL4を、零相電圧を出力しない条件であるVL4=VL1とし、前記各相電圧指令VL1~VL4とキャリア信号との比較を行って、前記第1~第4のハーフブリッジ回路の各上アーム半導体スイッチング素子および下アーム半導体スイッチング素子のゲート指令を生成するゲート指令生成ステップと、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0048】
(1)請求項1~4に記載の発明によれば、簡単な三角波比較によるPWM制御方式を採用して、スイッチングによる零相電圧の発生を防止することができる。
(2)請求項2に記載の発明によれば、モータ起因により発生する零相電流を抑制することができる。
(3)請求項3に記載の発明によれば、零相変調によって電圧利用率を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1】電源絶縁型オープン巻線モータドライブ構成の一例を示す回路図。
図2】電源共通型オープン巻線モータドライブ構成の一例を示す回路図。
図3】本発明が適用される直列巻線モータドライブ構成の回路図。
図4図3の直列巻線モータの空間電圧ベクトル図。
図5図4における外側破線の六角形を形成する6つの電圧ベクトルの位相をπ/6進めた空間電圧ベクトル図。
図6】本発明の実施例1のPWM構成を示すブロック図。
図7】本発明の実施例2における零相電流制御構成のブロック図。
図8】本発明の実施例2における零相電圧の印加構成のブロック図。
図9】本発明の実施例2における各相電圧指令VL1’~VL4’とゲート指令信号SL1~SL4の信号波形図。
図10】本発明の実施例3における零相電圧の印加構成のブロック図。
図11】シミュレーションにより本発明の動作確認を行った結果のモータ印加電圧波形図。
図12】本発明の実施例2による零相電流抑制制御を行った場合と行わない場合のモータ三相電流と零相電流の波形図。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明するが、本発明は下記の実施形態例に限定されるものではない。
【実施例0051】
図3に示すような直列巻線PMモータをインバータで駆動する構成において、モータに印加される相電圧はインバータのスイッチング状態を用いて次の(1)式のように表される。
【0052】
【数1】
【0053】
ここで(1)式中のvu、vv、vwはモータの相電圧であり、Vdcはインバータの直流電圧、SL1、SL2、SL3、SL4はインバータの4レグのスイッチング状態であり、1であれば、上アームの半導体スイッチング素子(S1a,S2a,S3a,S4a)がオン、下アームの半導体スイッチング素子(S1b,S2b,S3b,S4b)がオフの状態を示している。逆に0であれば上アームの半導体スイッチング素子がオフ、下アームの半導体スイッチング素子がオンの状態を示す。
【0054】
このインバータが出力する電圧を空間ベクトルで示すと図4のようになる。図4において、電圧ベクトルの番号はインバータのスイッチング状態を表し、例えば、V9はスイッチング状態SL1、SL2、SL3、SL4=1001の状態を2進数と考え、これを10進数に変換したときの数字である。
【0055】
図4では、V1、V3、V7、V8、V12、14で形成する内側破線の六角形が通常の2レベルインバータで出力可能な電圧ベクトル相当であり、V2、V4、V6、V9、V11、V13で形成する外側破線の六角形では、内側破線の六角形の√3倍の電圧を出力可能となる。ここで、インバータが出力する零相電圧を考える。まず三相電圧vu、vv、vwを次の(2)式を用いてdqz軸に変換する。
【0056】
【数2】
【0057】
ただし、vdはd軸電圧、vqはq軸電圧、vzはz軸電圧。
【0058】
(2)式のvzに関して、(1)式を代入するとVzは次の(3)式で表される。
【0059】
【数3】
【0060】
(3)式からわかるように、図3のレグSL1とレグSL4のスイッチング状態が同一、すなわちSL1=SL4であればインバータは零相電圧を出力しない。この条件となる電圧ベクトルは、V2、V4、V6、V9、V11、V13であり、図4で示した空間電圧ベクトルの外側破線の六角形である。インバータのスイッチングにより出力される零相電圧による零相電流を抑制するために、この外側破線の六角形を形成する6つの電圧ベクトルを用いてPWMを行うことを考える。
【0061】
図5に3相の2レベルインバータの空間ベクトルを示す。SL1=SL4なので、SL4の状態を無視する(図4のベクトルV9,V13,V4,V6,V2,V11の各々のカッコ内の4桁目の番号を除去する)と、図4のV9→図5のV4、図4のV13→図5のV6、図4のV4→図5のV2、図4のV6→図5のV3、図4のV2→図5のV1、図4のV11→図5のV5となる。
【0062】
図5図4を見比べると図5の空間ベクトルをπ/6の反時計回りに回転させたものが図4のベクトルと一致することがわかる。そこで、モータに印加するαβ座標での電圧指令Vα*、Vβ*を次の(4)式によりπ/6位相進める方向に変換して2相電圧指令Vα’、Vβ’を求める。
【0063】
【数4】
【0064】
次に(4)式により求めたVα’、Vβ’を、(5)式によって3相電圧指令VL1*、VL2*、VL3*に変換する。
【0065】
【数5】
【0066】
(5)式中のVL1*はレグSL1の相電圧指令、VL2*はレグSL2の相電圧指令、VL3*はレグSL3の相電圧指令である。
【0067】
この求めた3相電圧指令を用いて、通常の3相2レベルインバータと同様に、3相電圧指令と三角波キャリアの大小比較によりインバータのゲート指令を生成する。レグSL1~SL3までは3相電圧指令と三角波キャリアの比較によりゲート指令が生成できるが、レグSL4のゲート指令は生成できない。しかし、SL1=SL4であるため、レグSL1と同じくレグSL4の電圧指令VL4=VL1として、三角波キャリアの大小比較結果を用いればよい。このPWM構成を図6に示す。
【0068】
図6において、61は、図3の直列巻線モータ30に印加するαβ座標での電圧指令Vα*、Vβ*を前記(4)式によってπ/6位相を進める方向に変換して2相電圧指令Vα’*、Vβ’*を求める2相電圧指令演算部である。
【0069】
62は、2相電圧指令Vα’*、Vβ’*を前記(5)式によって3相電圧指令VL1,VL2,VL3に変換する3相電圧指令演算部である。
【0070】
63は、図3のレグSL4の相電圧指令VL4を、零相電圧を出力しない条件であるVL4=VL1とし、前記各相電圧指令VL1~VL4と、キャリア発生器64から出力されたキャリア信号(例えば三角波信号)の大小比較を行って、各レグSL1~SL4の上アーム半導体スイッチング素子および下アーム半導体スイッチング素子のゲート指令を生成するゲート指令生成部である。
【0071】
以上により直列巻線モータを駆動するインバータの三角波比較PWMが可能となる。
【0072】
ここで、本発明の効果を確認するためにシミュレーションによる動作確認を行った結果を示す。図11はモータに印加されるU相電圧波形を示しており、インバータの直流電圧は365Vで、出力周波数は50Hzとした。図11によれば、実施例1のPWMを適用することで、適切に電圧が出力され、相電圧で3レベルの電圧を印加できていることが確認できる。
【実施例0073】
実施例1によりインバータのスイッチングによる零相電圧の発生を防止したが、モータ起因により発生する零相電流は抑制できない。そこでモータ起因により発生する零相電流の抑制方法を考える。
【0074】
直列巻線のPMモータのdqz座標での電圧方程式は次の(6)式で表される。
【0075】
【数6】
【0076】
(6)式において、vd、vq、vz:dqz軸電圧、id、iq、iz:dqz軸電流、R:巻線抵抗、Ld、Lq、Lz:dqz軸インダクタンス、Lc:dq軸とz軸の干渉インダクタンス、Φ:磁石磁束、Φ3:磁石磁束の3次成分、θ:モータの回転子位置(電気角)、ω:モータの回転角速度(電気角)、p:微分演算子である。
【0077】
(6)式で示したようにモータのdq軸とz軸との相互干渉やモータの構造により生じる3次の電圧成分により零相電流が流れることが分かる。
【0078】
また、図3におけるモータの電流iu、iv、iwはインバータのレグ電流iL1~iL4とは一致しない。通常、インバータのレグ電流を検出するため、インバータのレグ電流iL1、iL2、iL3、iL4からキルヒホッフの第一法則を用いて、モータの電流iu、iv、iwを求めると(7)式または(8)式となる。
【0079】
【数7】
【0080】
【数8】
【0081】
次に(7)式または(8)式から求めたモータ電流iu、iv、iwを(9)式によってdqz変換する。
【0082】
【数9】
【0083】
(9)式によりz軸電流izが求められるので、このizがゼロになるようにフィードバック制御を行い零相電流の抑制を行う。フィードバック制御の構成は、例えば図7のようなPI制御による制御があるが、このフィードバック制御はizをゼロとするような零相電圧指令(Vz*)を出力する構成のものであれば、他の制御構成を用いても良い。
【0084】
図7において71は、前記(7)式~(9)式によって求めたz軸電流izとz軸設定電流iz*(=0)の偏差を求める減算器である。
【0085】
72は、減算器71の偏差出力を入力とし、z軸電流izを零とする零相電圧指令Vz*を出力するPI制御器である。
【0086】
図7の減算器71およびPI制御器72により、本発明の零相電流制御部を構成している。
【0087】
次にフィードバック制御により出力される零相電圧指令の出力方法を考える。零相電圧は図4で示す電圧空間ベクトルの内側破線の六角形を形成するベクトルV1、V3、V7、V8、V12、V14を用いることで出力できる。このうち正のVzを出力する電圧ベクトルはV8、V12、V14であり、負のVzを出力する電圧ベクトルはV1、V3、V7である。
【0088】
しかし、これらの電圧ベクトルは零相電圧以外の成分も含んでいる。正の零相電圧ベクトルを出力する3つのV8、V12、V14は互いに2π/3ズレた位置に存在するので、これらを同じ時間出力すれば零相電圧以外の成分は打ち消しあう。そしてこれは、負の零相電圧ベクトルを出力するV1、V3、V7も同様である。したがって、零相電圧指令Vz*に応じて(10)式または(11)式、(12)式のように電圧指令VL1~VL4に加算することで、3つの電圧ベクトルに3等分して出力する。(12)式がVz成分を0を中心に印加する形になるので、電圧飽和しづらい構成となる。
【0089】
【数10】
【0090】
【数11】
【0091】
【数12】
【0092】
図8に(10)式を適用した場合の零相電圧の印加構成を示す。図8において図6と同一部分は同一符号をもって示している。81a~81dは、例えば図7により求めた零相電圧指令Vz*に、1、2/3、1/3、0を各々乗算して、前記(10)式の右辺第1項を演算する乗算器である。
【0093】
82a~82dは、3相電圧指令演算部62から出力される電圧指令VL1~VL3およびVL1=VL4としたVL4に、乗算器81a~81dの乗算出力を各々加算して、(10)式の左辺である各相電圧指令VL1’~VL4’を出力する加算器である。
【0094】
83は、加算器82a~82dから出力される各相電圧指令VL1’~VL4’とキャリア発生器64から出力されたキャリア信号(例えば三角波信号)の大小比較を行って、各レグSL1~SL4の上アーム半導体スイッチング素子および下アーム半導体スイッチング素子のゲート指令を生成するゲート指令生成部である。
【0095】
前記乗算器81a~81dおよび加算器82a~82dによって本発明の零相電圧指令加算部を構成している。
【0096】
また、前記(10)式に代えて(11)式を適用する場合、乗算器81a~81dは、前記零相電圧指令Vz*に、0、-1/3、-2/3、-1を各々乗算して前記(11)式の右辺第1項を演算し、(12)式を適用する場合、乗算器81a~81dは、前記零相電圧指令Vz*に、1/2、1/6、-1/6、-1/2を各々乗算して前記(12)式の右辺第1項を演算するものである。
【0097】
ここで、図8の構成((10)式を適用した場合)における動作説明を図9に示す。図9は簡単のため三相電圧指令は0とし、図9(a)は正のVzを出力するとき、図9(b)は負のVzを出力するときのSL1~SL4の動作とその時出力される電圧ベクトルを示している。図9からわかるように、図8の構成でVz*をVu’、Vv’、Vw’に加算することで、3つのベクトルにVzを等分配して印加でき、零相電圧以外の成分を打ち消すことが可能となる。
【0098】
図12に、実施例2による零相電流抑制制御を行った場合と行わない場合の効果を確認するためにシミュレーションによる動作確認を行った結果を示す。
【0099】
図12(a),(b)は、零相電流抑制制御無効時の三相電流波形、零相電流波形、図12(c),(d)零相電流抑制制御有効時の三相電流波形、零相電流波形を各々示し、インバータの直流電圧は365Vで出力周波数は50Hzとした。
【0100】
図12によれば、実施例2を適用することにより(図12(c),(d))、零相電流を抑制できていることが確認できる。
【実施例0101】
実施例1に示したように三角波比較PWMを適用することが可能となったので、例えば、特許文献1のように各インバータの電圧指令に三次高調波を重畳し、電圧利用率を向上することが可能となる。これは零相変調と呼ばれる方式である。この三次高調波の重畳は零相電圧に加算されるため、零相電圧を出力しないPWMを行わない場合には零相電流が大きく流れてしまうため利用できない。しかし実施例1により零相電圧を出力しないPWMが可能となるため、この零相変調が適用できる。
【0102】
実施例3による零相電圧の印加構成を図10に示す。図10において図8と同一部分は同一符号をもって示している。図10において図8と異なる点は、3相電圧指令演算部62で変換された3相電圧指令VL1,VL2,VL3に三次高調波を重畳する零相変調部100を設けた点にあり、その他の部分は図8と同一に構成されている。
【0103】
尚、零相変調部100は、図6の構成において3相電圧指令演算部62の出力側に設けるように構成してもよい。
【0104】
ここで、実施例2のようにモータ起因により流れる零相電流を抑制するために零相電圧を加算する場合には零相変調を追加しない方がよい場合がある。例えば(6)式で示したモータの場合、モータ起因で発生する零相電流を抑制するために零相電圧を印加するが、もともと三次成分をもつ零相電圧を加算することになるため、この零相電圧の加算量によっては零相変調を追加すると過剰に三次成分を重畳してしまい、電圧利用率を逆に低下させてしまう場合がある。このため、零相変調の追加は、前記を踏まえて選択的に実施してもよい。
【符号の説明】
【0105】
1、2…直流電源
3…オープン巻線モータ
11、12…インバータ
30…直列巻線モータ
30U…U相巻線
30V…V相巻線
30W…W相巻線
61…2相電圧指令演算部
62…3相電圧指令演算部
63、83…ゲート指令生成部
64…キャリア発生器
71…減算器
72…PI制御器
81a~81d…乗算器
82a~82d…加算器
100…零相変調部
S1a~S4a、S1b~S4b…半導体スイッチング素子
SL1~SL4…レグ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12