(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023115979
(43)【公開日】2023-08-22
(54)【発明の名称】熱接着性複合繊維
(51)【国際特許分類】
D01F 8/14 20060101AFI20230815BHJP
D01F 8/06 20060101ALI20230815BHJP
【FI】
D01F8/14 Z
D01F8/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022018452
(22)【出願日】2022-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】芦刈 政亮
(72)【発明者】
【氏名】吉田 哲弘
(72)【発明者】
【氏名】忽那 稜聖
【テーマコード(参考)】
4L041
【Fターム(参考)】
4L041BA21
4L041BA59
4L041BC05
4L041BC20
4L041BD04
4L041CA06
4L041CA37
4L041DD01
4L041DD05
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、化石資源の消費および焼却廃棄による二酸化炭素の増大を抑制し、かつ繊維の細繊度化により、高い柔軟性を有する不織布が得られる熱接着性複合繊維を提供することにある。
【解決手段】芯部成分と鞘部成分からなる同心円型芯鞘複合繊維であって、前記芯成分はバイオマス資源由来の成分を原料とする固有粘度が0.50~0.63のポリアルキレンテレフタレート樹脂からなり、前記鞘成分はメルトマスフローレイト(MFR)が20~40g/10分のポリオレフィン系樹脂からなり、熱接着性複合繊維全体におけるバイオ化率が10%以上、単繊維繊度が0.4~1.6dtexであることを特徴とする熱接着性複合繊維。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯部成分と鞘部成分からなる同心円型芯鞘複合繊維であって、前記芯成分はバイオマス資源由来の成分を原料とする固有粘度が0.50~0.63のポリアルキレンテレフタレート樹脂からなり、前記鞘成分はメルトマスフローレイト(MFR)が20~40g/10分のポリオレフィン系樹脂からなり、熱接着性複合繊維全体におけるバイオ化率が10%以上、単繊維繊度が0.4~1.6dtexであることを特徴とする熱接着性複合繊維。
【請求項2】
捲縮数が10~20山/25mm、捲縮率が10~25%、乾熱収縮率が0.1~3.0%であることを特徴とする請求項1に記載の熱接着性複合繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマス由来の熱接着性複合繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
熱風や加熱ロール等の熱エネルギーを利用して、熱融着による成形ができる熱接着性複合繊維は、嵩高性や柔軟性等に優れた不織布を得ることが容易であることから、紙おむつ、ナプキン、パッド等の衛生材料、或いは生活用品やフィルター等の産業資材等に広く用いられている。
【0003】
近年、環境問題等の国際社会の諸課題への関心の高まりから、持続可能な社会への転換に向けた取り組みが企業には求められているが、特に衛生材料に用いる熱接着性複合繊維は、人体に直接触れ、排泄物等が付着するため、衛生面の観点から再資源化が難しく、現実的な手法としてはサーマルリサイクルが好ましいのが現状である。しかし、サーマルリサイクルは二酸化炭素を排出するという問題点がある。そのため、カーボンニュートラルなバイオマス資源由来の成分を原料とした熱接着性複合繊維が種々提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1では、バイオマス資源由来の成分を原料としたポリオレフィン系樹脂と芳香族ポリエステル樹脂からなる熱接着性複合繊維が提案されている。
【0005】
特許文献2ではバイオマス由来の成分を原料とするポリオレフィン系樹脂とポリ乳酸樹脂からなる熱接着性複合繊維が提案されている。
【0006】
一方、特に衛生材料に用いる不織布等には高い柔軟性が求められるが、上記の特許文献1,2では高い柔軟性を有する不織布を提供するための繊維の具体的な手段は記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011-038207号公報
【特許文献2】特開2010-065342号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、化石資源の消費および焼却廃棄による二酸化炭素の増大を抑制し、かつ高い柔軟性を有する不織布が得られる熱接着性複合繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決するために検討した結果、本発明に到達した。すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)芯部成分と鞘部成分からなる同心円型芯鞘複合繊維であって、前記芯成分はバイオマス資源由来の成分を原料とする固有粘度が0.50~0.63のポリアルキレンテレフタレート樹脂からなり、前記鞘成分はメルトマスフローレイト(MFR)が20~40g/10分のポリオレフィン系樹脂からなり、熱接着性複合繊維全体におけるバイオ化率が10%以上、単繊維繊度が0.4~1.6dtexであることを特徴とする熱接着性複合繊維。
(2)捲縮数が10~20山/25mm、捲縮率が10~25%、乾熱収縮率が0.1~3.0%であることを特徴とする前記の熱接着性複合繊維。
【発明の効果】
【0010】
本発明の熱接着性複合繊維は、化石資源の使用量を低減し、また、焼却廃棄に際しても、地球温暖化の原因物質である二酸化炭素の大気中での増加を抑制することができる。また、本発明の熱接着性複合繊維は、高い柔軟性を有する不織布が得られる熱接着性複合繊維である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の熱接着性複合繊維の実施態様について、具体的に説明する。
【0012】
本発明の熱接着性複合繊維は、芯成分と鞘成分からなる同心円型芯鞘複合繊維であって、前記の芯成分はバイオマス資源由来の成分を原料とするポリアルキレンテレフタレート樹脂からなり、前記の鞘成分はポリオレフィン系樹脂で構成されている。
【0013】
本発明の熱接着性複合繊維の芯部を構成する成分としては、バイオマス資源由来の成分を原料とするポリアルキレンテレフタレート樹脂を用いることが必要である。ポリアルキレンテレフタレート樹脂とはグリコールとテレフタル酸および/またはそのエステル形成性誘導体とを原料として製造したものであるが、本発明におけるポリアルキレンテレフタレート樹脂としては、バイオマス資源由来のグリコールと化石資源由来のテレフタル酸および/またはそのエステル形成性誘導体を原料として用いてなる、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリプロピレンテレフタレート(PPT)樹脂、および融点が240℃以上であるポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂から選ばれる少なくとも1種のポリアルキレンテレフタレート樹脂が挙げられ、基本的には、従来の全て化石資源由来の原料のものと同等な物性を有するものである。
【0014】
本発明においてバイオマス資源由来のグリコールとしては、バイオマス資源から得られるものであれば特に限定されないが、得られるポリアルキレンテレフタレート樹脂の物性が良好である観点から、エチレングリコール、1,3-プロパンジオールおよび1,4-ブタンジオールから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。特にエチレングリコールであると得られる樹脂の融点が高くなり好ましい。
【0015】
バイオマス資源からこれらグリコールを得る方法は特に限定されず、どのような方法が用いられてもよいが、例としてそれぞれ以下の方法が挙げられる。
【0016】
エチレングリコールを得る方法としては、例えば、トウモロコシ、サトウキビ、小麦または農作物の茎などのバイオマス資源から得る方法がある。これらバイオマス資源はまずデンプンに転化され、デンプンは水と酵素でグルコースに転化され、続いて水素添加反応にてソルビトールに転化され、ソルビトールは引続き一定の温度と圧力で触媒存在下、水素添加反応にて各種のグリコールの混合物となり、これを精製してエチレングルコールを得る方法がある。別の方法として、サトウキビ等の炭水化物系作物などから生物学的処理方法によりバイオエタノールを得た後、エチレンへ変換し、さらにエチレンオキサイドを経てエチレングリコールを得る方法がある。さらに別の方法として、バイオマス資源からグリセリンを得た後、エチレンオキサイドを経由してエチレングリコールを得る方法がある。このようにして得られるエチレングリコールは種々の不純物を含んでいるが、不純物として1,2-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオールのそれぞれが1重量%以下であることが好ましく、得られるポリエステル樹脂の物性面から0.5重量%以下であることが更に好ましく、得られるポリエステル樹脂の色調の観点から0.1重量%以下であることがより好ましい。
【0017】
バイオマス資源から1,3-プロパンジオールを得る方法としては特に限定されないが、例えばグルコース等の糖から発酵、それに続く精製により得ることが出来る。
【0018】
バイオマス資源から1,4-ブタンジオールを得る方法としては特に限定されないが、例えば発酵法により得られたコハク酸、コハク酸無水物、コハク酸エステル、マレイン酸、マレイン酸無水物、マレイン酸エステル、テトラヒドロフラン、γ-ブチロラクトン等から還元等の化学合成により1,4-ブタンジオールを得ることが出来る。
【0019】
もう一方の原料であるジカルボン酸成分としては、従来から使用されている化石資源由来のテレフタル酸および/またはそのエステル形成性誘導体を使用することができる。
【0020】
また、本発明の効果が実質的に損なわれない範囲内で共重合成分として、例えばイソフタル酸、イソフタル酸-5-スルホン酸塩、フタル酸、ナフタレン-2,6-ジカルボン酸、ビスフェノールジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸及びそのエステル形成性誘導体、琥珀酸、アジピン酸、ピメリン酸、スべリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,9-ノナンジカルボン酸、1,12-ドデカンジカルボン酸などの脂肪族ジカルボン酸及びそのエステル形成性誘導体などのようなジカルボン酸成分や、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、分子量が500~20000のポリエチレングリコール、ジエチレングリコール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ポリオキシテトラメチレングリコール、ポリオキシトリメチレングリコール、ビスフェノールA-エチレンオキサイド付加物のようなジオール成分を含有していてもよい。これら共重合成分は単独あるいは2種類以上を組み合わせて使用することも可能である。
【0021】
本発明で用いられるバイオマス資源由来のポリアルキレンテレフタレート樹脂の最も好ましい態様は、原料のグリコール成分としてはバイオマス資源由来のエチレングリコールのみからなり、ジカルボン酸成分としては化石資源由来のテレフタル酸のみからなる、融点が240℃以上であるバイオマス資源由来のポリエチレンテレフタレートである。バイオマス資源由来のポリエチレンテレフタレートの固有粘度は、0.50~0.63であることが好ましく、より好ましくは、0.53~0.60である。固有粘度が0.50未満では、溶融粘度が低くなり、紡糸糸切れが悪化し、安定した製造が困難となる。一方、固有粘度が0.63を超えると、得られた未延伸糸の伸度が低くなり、規定された延伸倍率で細繊度化することが困難である。
【0022】
本発明で用いられるバイオマス資源由来のポリアルキレンテレフタレート樹脂はバイオ化率が一定以上であることが好ましいが、本発明でいうバイオ化率とは、「樹脂中の全炭素原子に対して、1950年代の循環炭素中の放射性炭素(炭素14)の濃度を基準として求まるバイオマス資源由来の炭素の存在割合」をいい、以下詳細に説明する。
【0023】
本発明におけるバイオマス資源由来の炭素としては、大気中に二酸化炭素として存在していた炭素が、植物中に炭酸同化することで取り込まれ、これを原料として合成された樹脂中に存在する炭素を示すものであり、放射性炭素(すなわち、炭素14)の濃度測定により同定することができる。
【0024】
炭素14の濃度は以下の放射性炭素濃度測定法により測定することが出来る。放射性炭素濃度測定法とは、加速器質量分析法(AMS:Accelerator Mass Spectrometry)により、分析する試料に含まれる炭素の同位体(炭素12,炭素13,炭素14)を加速器により原子の重量差を利用して物理的に分離し、同位体原子それぞれの存在量を計測する方法である。炭素原子は通常炭素12であり、同位体である炭素13は約1.1%存在している。炭素14は放射性同位体と呼ばれ、その半減期は約5370年で規則的に減少している。これらが全て崩壊するには22.6万年を要する。地球の高層大気中では宇宙線が継続的に照射されつづけており、微量ではあるが、絶えず炭素14が生成され放射壊変とバランスし、大気中では炭素14の濃度はほぼ一定値(炭素原子の約一兆分の一)となっている。この炭素14は直ちに二酸化炭素の炭素12と交換反応をおこし、炭素14を含んだ二酸化炭素が生成する。植物は大気中の二酸化炭素を取り込み光合成により成長するため、炭素14が常に一定濃度で含まれることになる。これに対して化石資源である石油、石炭、天然ガスにおいては当初は含まれていた炭素14が長い年月をかけて既に崩壊しており、ほとんど含まれていない。そこで炭素14の濃度を測定することにより、バイオマス資源由来の炭素をどの程度含んでいるのか、化石資源由来炭素をどの程度含んでいるのかを判別することが出来る。中でも特に1950年代の自然界における循環炭素中の炭素14濃度を100%とする基準を用いることが通常おこなわれ、標準物質としてシュウ酸(米国基準・科学技術協会NIST供給)が用いられ、下式のように表される値が求められる。この割合の単位としてはpMC(percent Modern Carbon)が用いられる。
pMC=(14Csa/14C50)×100
14C50:標準物質の炭素14濃度(1950年代の自然界における循環炭素中の炭素14濃度)
14Csa:測定サンプルの炭素14濃度。
【0025】
現在このようにして測定される大気中の炭素14濃度は約110pMC(percent Modern Carbon)であることが測定されており、仮に100%バイオマス資源由来の物質であれば、ほぼ同じ110pMC程度の値を示すことが知られている。この値を100%の基準として求まる対象物質のpMCの割合(%)を本発明でいう「樹脂中の全炭素原子に対して、1950年代の循環炭素中の放射性炭素(炭素14)の濃度を基準として求まるバイオマス資源由来の炭素の存在割合(バイオ化率)」と言う。一方、化石資源由来の物質を測定して求められる炭素14濃度(pMC)はほぼ0pMCであることが知られており、この場合バイオ化率は0%となる。
【0026】
本発明で用いられるバイオマス資源由来のポリアルキレンテレフタレート樹脂のバイオ化率は、化石資源の消費および焼却廃棄による二酸化炭素の増大を抑制するためには、30%以上であることが好ましい。
【0027】
また、放射性炭素(炭素14)の濃度測定では、リサイクルされた樹脂に対してもバイオマス資源由来の炭素の含有割合を分析することもできるため、バイオマス資源由来成分のリサイクル用途への循環利用の促進を図る上でも効果的な手法である。したがって、本発明の熱接着性複合繊維に用いるポリアルキレンテレフタレート樹脂としては、バイオマス資源由来成分を重合して新たに得られたポリアルキレンテレフタレート樹脂のみならず、バイオマス資源由来のポリアルキレンテレフタレート樹脂が含有されてなるリサイクルされたポリアルキレンテレフタレート樹脂も含有するものである。
【0028】
本発明で用いられるバイオマス資源由来のポリアルキレンテレフタレート樹脂は通常、次のいずれかのプロセスで製造される。
【0029】
すなわち、(a)テレフタル酸とアルキレングリコールを原料とし、直接エステル化反応によって低重合体を得、さらにその後の重縮合反応によって高分子量ポリマーを得るプロセス、(b)ジメチルテレフタレートとアルキレングリコールを原料とし、エステル交換反応によって低重合体を得、さらにその後の重縮合反応によって高分子量ポリマーを得るプロセスである。ここでエステル化反応は無触媒でも反応は進行するが、エステル交換触媒と同様にマグネシウム、マンガン、カルシウム、コバルト、亜鉛、リチウム、チタン等の化合物を触媒として用いてもよい。また重縮合の際に用いられる触媒としては、チタン化合物、アルミニウム化合物、スズ化合物、アンチモン化合物、ゲルマニウム化合物などが用いられる。バイオマス資源由来の原料には不純物が多く含まれ、紡糸時に口金まわりの堆積物が増え、口金洗浄や糸切れの回数が増えて操業性を低下させるが、触媒として高活性なチタン化合物やアルミニウム化合物を用いると触媒の添加量を減らすことができ、結果として口金まわりの堆積物も減らすことが出来るため好ましい。一方、固相重合においてはバイオマス資源由来の原料中の不純物により触媒が失活されて重合時間が延びることがあるため、失活しにくいアンチモン化合物、ゲルマニウム化合物を用いることが好ましい。
【0030】
チタン化合物としては、チタン錯体、テトラ-i-プロピルチタネート、テトラ-n-ブチルチタネート、テトラ-n-ブチルチタネートテトラマーなどのチタンアルコキシド、チタンアルコキシドの加水分解により得られるチタン酸化物、チタンアセチルアセトナートなどが挙げられる。中でも多価カルボン酸および/またはヒドロキシカルボン酸および/または多価アルコールをキレート剤とするチタン錯体であることが、ポリマーの熱安定性、色調および口金まわりの堆積物の少なさの観点から好ましい。チタン化合物のキレート剤としては、乳酸、クエン酸、マンニトール、トリペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0031】
アルミニウム化合物としては、カルボン酸アルミニウム、アルミニウムアルコキシド、アルミニウムキレート化合物、塩基性アルミニウム化合物などが挙げられ、具体的には酢酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、炭酸アルミニウム、アルミニウムエトキシド、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムアセチルアセトナート、塩基性酢酸アルミニウムなどが挙げられる。
【0032】
スズ化合物としてはモノブチルスズオキシド、アンチモン化合物としてはアンチモンアルコキシドや三酸化アンチモンが挙げられる。
【0033】
本発明で用いられるバイオマス資源由来のポリアルキレンテレフタレート樹脂は、色調調整剤を含有していることが好ましい。バイオマス資源由来の原料を使用すると樹脂が着色する場合があり、その際には色調調整剤を用いると、化石資源由来の樹脂と同等の色調となるため好ましい。色調調整剤としては、樹脂等に用いられる染料を用いるのが好ましい。中でも、SOLVENT BLUE 104やSOLVENT BLUE 45等の青系の色調調整剤、SOLVENT VIOLET 36等の紫系色調調整剤は装置腐食の要因となりやすいハロゲンを含有せず、高温での熱安定性が比較的良好で発色性に優れ、化石資源由来の樹脂と同等の色調となるため好ましい。これらは単独で用いても2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0034】
本発明で用いられるバイオマス資源由来のポリアルキレンテレフタレート樹脂中に含有される色調調整剤の量は特に限定されないが、バイオマス資源由来のポリアルキレンテレフタレート樹脂に対して合計して0.1~100ppmの範囲であること、明度が高いポリアルキレンテレフタレート樹脂となるため好ましい。より好ましくは、0.5~20ppmの範囲であり、特に好ましくは、1~5ppmの範囲である。
【0035】
また、本発明で用いられるバイオマス資源由来のポリアルキレンテレフタレート樹脂には、必要に応じて酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、蛍光増白剤、艶消剤、可塑剤もしくは消泡剤又はその他の添加剤等を配合してもよい。
【0036】
また、本発明で用いられるバイオマス資源由来のポリアルキレンテレフタレート樹脂はケミカルリサイクルによって製造された樹脂であっても良い。バイオマス資源由来の原料を用いケミカルリサイクルによって製造されたポリアルキレンテレフタレート樹脂を得る方法としては特に限定されず、どのような方法が用いられてもよいが、例えば、バイオマス資源由来のポリアルキレンテレフタレート樹脂の廃棄物を原料に用い、バイオマス資源由来または化石資源由来のグリコール成分により解重合反応をおこない、まずビス(ヒドロキシアルキル)テレフタレートを得て、これを再度重合してもよいが、好ましくは、メタノールやエタノールでさらにエステル交換をおこない、テレフタル酸ジメチルまたはテレフタル酸ジエチルとし、これらテレフタル酸ジアルキルエステルは蒸留により高純度に精製することが可能であるため好ましい。このようにして得られたバイオマス資源由来のテレフタル酸ジアルキルエステルを用いて再度重合することで製造することが出来る。
【0037】
本発明で用いられるバイオマス資源由来のポリアルキレンテレフタレート樹脂は、バッチ重合、半連続重合、連続重合で製造することができる。
【0038】
本発明の熱接着性複合繊維の鞘部を構成する成分のポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン(低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン)、ポリプロピレン、ポリブテン-1、ポリヘキセン-1、ポリオクテン-1、ポリ4-メチルペンテン-1、ポリメチルペンテン、1,2-ポリブタジエン、および1,4-ポリブタジエンなどの重合体が挙げられる。
【0039】
また、ポリオレフィン系樹脂として、これらの重合体に、エチレン、プロピレン、ブテン-1、ヘキセン-1、オクテン-1、および4-メチルペンテン-1等のα-オレフィンが、共重合成分として少量共重合され含有されていている共重合体を用いることができる。
【0040】
本発明で使用するポリオレフィン系樹脂としては、メルトマスフローレイト(MFR)は、JIS K 6922-2(2018年)に準じた測定法で、20~40g/10分であることが好ましく、より好ましくは、25~35g/10分である。MFRが20g/10分未満の場合、得られた未延伸糸の伸度が低くなり、その後の延伸で細繊度化することが困難な場合がある。一方、MFRが40g/10分より大きい場合、溶融粘度が低くなり、紡糸糸切れが悪化し、安定した製造が困難となる。
【0041】
本発明で使用するポリオレフィン系樹脂としては、入手の容易性や原料コスト、得られる繊維の熱接着特性、および不織布の風合いや強度特性などを考慮すると、高密度ポリエチレンが好ましく用いられる。
【0042】
本発明で使用するポリオレフィン系樹脂には、本発明の効果を損なわない範囲で、通常用いられる酸化防止剤、耐候安定剤、耐光安定剤、帯電防止剤、紡曇剤、ブロッキング防止剤、滑剤、核剤、および顔料等の添加物、あるいは他の重合体を必要に応じて添加することができる。
【0043】
本発明における熱接着性複合繊維の芯部がバイオマス資源由来の成分を原料とするポリアルキレンテレフタレート樹脂(その質量を(A)とする)、鞘部がポリオレフィン系樹脂(その質量を(B)とする)である熱接着繊維の複合比率は、質量比で(A)/(B)=65/35~35/65の範囲であることが好ましい。より好ましくは質量比で(A)/(B)=55/45~45/55の範囲である。
【0044】
芯成分が65質量%を超えると、熱接着性成分である鞘成分の質量%が低下するため、不織布の接着強力が低下する。逆に鞘成分が65質量%を超えると、芯成分の質量%か低下するため、不織布の機械的強度に問題が生じてくる。
【0045】
本発明における熱接着性複合繊維の断面形状としては、繊維の熱接着性の点から、低融点成分であるポリオレフィン樹脂が外周に配置されている同心円型芯鞘が好ましい。
【0046】
本発明の熱接着性複合繊維全体のバイオ化率は、化石資源の消費および焼却廃棄による二酸化炭素の増大を抑制するためには、10%以上であることが好ましく、より好ましくは、15%以上である。なお、繊維全体のバイオ化率は、芯成分のバイオ化率に鞘成分の複合比率を掛けた数値と鞘成分のバイオ化率に鞘成分の複合比率を掛けた数値との合計をいう。
【0047】
本発明の熱接着性複合繊維の単繊維繊度は、0.4~1.6dtexが好ましく、さらに好ましくは、0.6~1.2dtexである。単繊維繊度が0.4dtex未満になると、繊度が小さいため、不織布製造工程でのカード加工性が低下し、得られた不織布の地合いが悪くなる。また、単繊維繊度が1.6dtexを超えると、繊度が高くなるため、繊維の剛性が高くなり、得られた不織布の柔軟性に劣る。
【0048】
本発明における熱接着性複合繊維の捲縮数は、10~20山/25mmが好ましく、さらに好ましくは、12~18山/25mmである。捲縮数が10山/25mm未満になると、繊維の絡合性が低下することで、カードでの加工性が低下し、得られた不織布の地合いが悪くなる。20山/25mmを超えると、繊維の絡合性が強く、繊維の開繊性が悪くなることでカードでの加工性が低下し、得られた不織布の地合いが悪くなる。
【0049】
本発明における熱接着性複合繊維の捲縮率は、10~25%が好ましく、さらに好ましくは、14~20%である。捲縮率が10%未満になると、繊維の絡合性が低下することで、カードでの加工性が低下し、得られた不織布の地合いが悪くなる。25%を超えると、繊維の絡合性が強く、繊維の開繊性が悪くなることでカードでの加工性が低下し、得られた不織布の地合いが悪くなる。
【0050】
本発明の熱接着性複合繊維の120℃処理における乾熱収縮率は、0.1~3.0%が好ましく、さらに好ましくは、0.5~2.5%である。乾熱収縮率が0.1%未満の繊維を得るためには、乾燥温度条件を高くすることになり、その結果ポリエチレンが溶融接着しやすくなるため安定的に繊維を得ることが難しい。乾熱収縮率が3.0%を超える繊維は、熱接着工程において不織布の寸法安定性が劣り、安定した製品を得ることが困難である。
【0051】
次に、本発明で用いられる熱接着性複合繊維の製造方法について、具体的に一態様を例示して説明する。
【0052】
本発明の熱接着性複合繊維は、芯成分をバイオマス資源由来の成分を原料とするポリアルキレンテレフタレート樹脂とし、鞘成分をポリオレフィン系樹脂とし、芯鞘形状となるようにして溶融紡出し、未延伸糸を得て熱延伸後、スタッファボックス式捲縮機などの捲縮機を用いて捲縮付与をすることにより製造することができる。以下、これらについてさらに詳述する。
【0053】
まず、バイオマス資源由来の成分を原料とするポリアルキレンテレフタレート樹脂およびポリオレフィン系樹脂をそれぞれ溶融し、紡糸パックを経由して、芯鞘構造とする口金よりポリマーを吐出する。吐出孔を好ましくは400~1000孔有する紡糸口金を通して、バイオマス資源由来の成分を原料とするポリアルキレンテレフタレート樹脂の融点よりも10~30℃程度高い紡糸温度で紡出し、直後に好ましくは10~25℃の温度の空気を好ましくは50~100m/分の風量で冷却させ、紡糸油剤を付与し、好ましくは引き取り速度1000~1500m/分で一旦、缶に納めることにより未延伸糸トウを得る。
【0054】
次いで、得られた未延伸糸トウを、好ましくは温度80~100℃の液浴を用いて、2.5~4.5倍の延伸倍率で延伸し、スタッファボックス式捲縮機などの捲縮機を用いて捲縮を付与し、100~115℃の温度の熱風雰囲気下で加熱処理を行う。加熱処理温度が100℃未満であれば、3%以下とする乾熱収縮率を得ることが難しい。また、加熱処理温度が115℃を超えると、鞘成分に用いたポリオレフィン系樹脂がポリエチレン系樹脂である場合、溶融接着するため安定的に繊維を得ることが難しい。
【0055】
熱風雰囲気下で加熱処理された繊維は冷却され、繊維を短繊維にカットされる。繊維長は、用途に応じて選択することができ特に限定されないが、カーディング処理を行う場合には30~76mmであることが好ましく、より好ましくは32~51mmである。
【0056】
なお、繊維に親水性能や撥水性能を付与するために、捲縮付与前後や乾燥後など任意の工程で油剤を付与することができる。以上のようにして、本発明で用いられる熱接着性複合繊維が製造される。
【0057】
本発明によれば、化石資源の使用量を低減し、また、焼却廃棄に際しても、地球温暖化の原因物質である二酸化炭素の大気中での増加を抑制しうる熱接着性複合繊維が得られる。本発明で得られる熱可塑性繊維は、柔軟性に優れた不織布用途に好適に用いられる熱接着性複合繊維である。本発明の熱接着性複合繊維を用いた不織布は、紙おむつや生理用ナプキンなどの各種衛生材料、医療用材料、衣料用材料、および包装用材料として好適に利用することができる。
【実施例0058】
次に、本発明の熱接着性複合繊維について、実施例を用いて詳細に説明する。繊維物性等の測定方法は、次のとおりである。
【0059】
(1)固有粘度(IV)
試料2gを精秤し、オルトクロロフェノールを25ml加え102℃で加熱しながら70分間攪拌溶解し、冷却後、15mlをオストワルド改良型粘度計に入れ、落下秒数から固有粘度(IV)を算出した。
【0060】
(2)バイオ化率測定方法
サンプルをサンドペーパー及び粉砕機にて粉砕した後、酸化銅とともに加熱し、完全に二酸化炭素まで酸化し、これを鉄粉でグラファイトまで還元することにより、炭素単一化合物に変換する。得られたグラファイトをAMS装置に導入し、測定した。なお、標準物質であるシュウ酸(米国基準・科学技術協会NIST供給)を同時に測定し、標準物質の14C濃度を基準として14C濃度(pMC)を求めた。一方、100%バイオ由来のポリ乳酸の14C濃度(pMC)を同様の方法で求めた。このポリ乳酸の14C濃度(pMC)を100%の基準としてサンプルのバイオ化率を求めた。少数第1位以下は四捨五入した。100%を超えた場合は100%とした。
【0061】
(3)メルトマスフローレイト(MFR)
JIS K 6922-2(2018年)に準じて、メルトマスフローレイト(MFR)を測定した。
【0062】
(4)繊維全体のバイオ化率
芯成分のバイオ化率aに芯成分の複合比率Aを掛けた数値と鞘成分のバイオ化率bに鞘成分の複合比率Bを掛けた数値を求め、下記式
繊維全体のバイオ化率(%)=a×(A/100)+b×(B/100)
で示すように、得た各数値の合計値を繊維全体のバイオ化率とした。
【0063】
(5)単繊維繊度、捲縮数、捲縮率および乾熱収縮率
JIS L1015(2010年)に準じて、繊維物性(単繊維繊度、捲縮数、捲縮率および乾熱収縮率)を測定した。
【0064】
(6)紡糸糸切れ(紡糸性)
溶融紡糸において、1t(生産量)あたりの糸切れが発生する回数により判断した。下記の2段階で評価した。
・合格(良好):5回/t未満
・不合格:5回/t以上。
【0065】
(7)延伸巻付き(延伸性)
延伸において、1t(生産量)あたりの糸切れによる巻付きが発生する回数により判断した。下記の2段階で評価した。
・合格(良好):1回/t未満
・不合格:1回/t以上。
【0066】
[実施例1]
熱接着性複合繊維を、次の方法で製造した。固有粘度(IV)が0.54、バイオ化率32%とするポリエチレンテレフタレート(芯成分)と、メルトマスフローレイト(MFR)が34g/10分とする高密度ポリエチレン樹脂(鞘成分)とを、質量比で(芯成分)/(鞘成分)=50/50となるように溶融し、同心円型芯鞘複合繊維の未延伸糸を得た。
【0067】
次いで、得られた未延伸糸を、85℃の温度の液浴を用いて、4.0倍の延伸倍率で1段延伸を施し、スタフィングボックス式捲縮機を用いて捲縮を付与し、110℃の温度で乾燥・切断し、熱接着性複合繊維を得た。結果を表1に示すとおり、紡糸性、延伸性ともに問題なく、繊維全体におけるバイオ化率が16%、単繊維繊度が0.6dtex、捲縮数が16山/25mm、捲縮率が18%、乾熱収縮率が1.2%とする熱接着性複合繊維を得た。
【0068】
[実施例2]
熱接着性複合繊維を、次の方法で製造した。固有粘度(IV)が0.58とするポリエチレンテレフタレート(芯成分)、メルトマスフローレイト(MFR)が28g/10分とする高密度ポリエチレン樹脂(鞘成分)にし、延伸倍率を3.7倍にした以外は、実施例1と同様な方法で熱接着性複合繊維を得た。結果を表1に示すとおり、紡糸性、延伸性ともに問題なく、繊維全体におけるバイオ化率が16%、単繊維繊度が1.0dtex、捲縮数が16山/25mm、捲縮率が18%、乾熱収縮率が1.2%とする熱接着性複合繊維を得た。
【0069】
[実施例3]
熱接着性複合繊維を、次の方法で製造した。固有粘度(IV)が0.62とするポリエチレンテレフタレート(芯成分)、メルトマスフローレイト(MFR)が22g/10分とする高密度ポリエチレン樹脂(鞘成分)にし、延伸倍率を3.5倍にした以外は、実施例1と同様な方法で熱接着性複合繊維を得た。結果を表1に示すとおり、紡糸性、延伸性ともに問題なく、繊維全体におけるバイオ化率が16%、単繊維繊度が1.4dtex、捲縮数が15山/25mm、捲縮率が17%、乾熱収縮率が0.9%とする熱接着性複合繊維を得た。
【0070】
[比較例1]
固有粘度(IV)が0.45とするポリエチレンテレフタレート(芯成分)にした以外は、実施例1と同様な方法で製造した。結果を表1に示すとおり、ポリエチレンテレフタレートのIVが低いため、紡糸糸切れが多発し、紡糸性が悪かったため、繊維化にはいたらなかった。
【0071】
[比較例2]
固有粘度(IV)が0.56とするポリエチレンテレフタレート(芯成分)、メルトマスフローレイト(MFR)が15g/10分とする高密度ポリエチレン樹脂(鞘成分)にし、延伸倍率を3.5倍にした以外は、実施例1と同様な方法で製造した。結果を表1に示すとおり、高密度ポリエチレン樹脂のMFRが低いため、延伸での糸切れによる巻付きが多発し、繊維化にはいたらなかった。
【0072】
[比較例3]
固有粘度(IV)が0.70とするポリエチレンテレフタレート(芯成分)、メルトマスフローレイト(MFR)が38g/10分とする高密度ポリエチレン樹脂(鞘成分)にした以外は、実施例1と同様な方法で製造した。結果を表1に示すとおり、ポリエチレンテレフタレートのIVが高いため、延伸での糸切れによる巻付きが多発し、繊維化にはいたらなかった。
【0073】
[比較例4]
固有粘度(IV)が0.58とするポリエチレンテレフタレート(芯成分)、メルトマスフローレイト(MFR)が45g/10分とする高密度ポリエチレン樹脂(鞘成分)にした以外は、実施例1と同様な方法で製造した。結果を表1に示すとおり、高密度ポリエチレン樹脂のMFRが高いため、紡糸糸切れが多発し、紡糸性が悪かったため、繊維化にはいたらなかった。
【0074】
[比較例5]
熱接着性複合繊維を、次の方法で製造した。バイオ化率0%とするポリエチレンテレフタレート(芯成分)にした以外は、実施例1と同様な方法で熱接着性複合繊維を得た。結果を表1に示すとおり、紡糸性、延伸性ともに問題なく、単繊維繊度が0.7dtex、捲縮数が17山/25mm、捲縮率が19%、乾熱収縮率が0.8%、ポリエチレンテレフタレートのバイオ化率が0%であるため、繊維全体におけるバイオ化率が0%とする熱接着性複合繊維となった。
【0075】