IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 有限会社ラヴィアンサンテの特許一覧

<>
  • 特開-蜂蜜発酵物の製造方法 図1
  • 特開-蜂蜜発酵物の製造方法 図2
  • 特開-蜂蜜発酵物の製造方法 図3
  • 特開-蜂蜜発酵物の製造方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023000116
(43)【公開日】2023-01-04
(54)【発明の名称】蜂蜜発酵物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 21/25 20160101AFI20221222BHJP
【FI】
A23L21/25
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021100748
(22)【出願日】2021-06-17
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】510004169
【氏名又は名称】有限会社ラヴィアンサンテ
(74)【代理人】
【識別番号】100205914
【弁理士】
【氏名又は名称】堀越 総明
(74)【代理人】
【識別番号】100162189
【弁理士】
【氏名又は名称】堀越 真弓
(72)【発明者】
【氏名】小林 文男
【テーマコード(参考)】
4B041
【Fターム(参考)】
4B041LD07
4B041LK42
4B041LP01
4B041LP15
(57)【要約】
【課題】30重量%を超える高濃度の蜂蜜を含有する発酵原料を、乳酸菌で発酵させて蜂蜜発酵食品等の蜂蜜発酵物を得る方法を提供すること。
【解決手段】蜂蜜発酵物の製造方法は、蜂蜜の配合量が30重量%超であり、Brix値30%以上の蜂蜜含有発酵原料に、乳酸菌を接種する接種工程と、乳酸菌で蜂蜜含有発酵原料を乳酸発酵させる発酵工程と、を有し、蜂蜜含有発酵原料には、麹汁又は米麹が配合されている。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蜂蜜の配合量が30重量%超であり、Brix値30%以上の蜂蜜含有発酵原料に、乳酸菌を接種する接種工程と、
前記乳酸菌で前記蜂蜜含有発酵原料を乳酸発酵させる発酵工程と、を有し、
前記蜂蜜含有発酵原料には、麹汁又は米麹が配合されていることを特徴とする蜂蜜発酵物の製造方法。
【請求項2】
前記蜂蜜含有発酵原料には米麹が配合されており、
前記接種工程の前に、前記蜂蜜含有発酵原料を50~65℃で30分~12時間加温する糖化工程を有することを特徴とする請求項1に記載の蜂蜜発酵物の製造方法。
【請求項3】
前記乳酸菌がラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)、ラクトバチルス・サケイ(Lactobacillus sakei)、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)及びラクトバチルス・デルブリッキー・亜種ブルガリクス(Lactobacillus delbrueckii subsp.bulgaricus)からなる群から選択される少なくとも1種の乳酸菌であることを特徴とする請求項1又は2に記載の蜂蜜発酵物の製造方法。
【請求項4】
前記ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)が、受託番号:NITE P-01958で特定されるLactobacillus paracasei YK130220株であることを特徴とする請求項3に記載の蜂蜜発酵物の製造方法。
【請求項5】
前記蜂蜜含有発酵原料は加熱殺菌処理が行われておらず、
前記接種工程における前記乳酸菌の接種は、前記蜂蜜含有発酵原料中の前記乳酸菌の生菌数が5×10CFU/mL以上となるように接種することを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の蜂蜜発酵物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は蜂蜜発酵物の製造方法に関し、具体的には、乳酸菌で蜂蜜を乳酸発酵して得られる蜂蜜発酵物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乳酸菌は腸内環境を改善することによって健康維持に役立つ機能を有することが知られている。それゆえ、乳酸菌発酵飲料はもちろん、乳酸菌発酵食品等のさまざまな発酵原料を乳酸菌で発酵させた乳酸菌発酵物が研究されてきた。例えば、特許文献1では、澱粉由来の乳酸菌発酵飲料が提案されている。
【0003】
他方、蜂蜜とは、ミツバチによって採集された花の蜜が、ミツバチの分泌酵素等によって変化し、蜂の巣内に貯蔵されて熟成された天然の甘味料である。蜂蜜は主に約8割の糖分と約2割の水分から構成され、他の栄養素として、ビタミン、ミネラル、アミノ酸、酵素及び有機酸等が含まれている。約8割含まれている糖分のうち、50%はフルクトース、42%はグルコースである。蜂蜜には多くの効能があり、古くから食用、医薬用として利用されてきた(非特許文献1)。
【0004】
近年、健康への意識の高まりから、この蜂蜜を利用した新たなジャンルの食品が期待されている。そこで、蜂蜜を発酵原料とし、乳酸菌で発酵させることによって新たな乳酸菌発酵食品を得ることが考えられるが、非特許文献1に記載されているように、蜂蜜は「細菌生育抑制作用」を有しており、蜂蜜中で乳酸菌は増殖できない。蜂蜜の細菌生育抑制作用は、蜂蜜の高糖濃度と、蜂蜜に含まれている有機酸による低pHとが主な要因とされている。
【0005】
そこで、特許文献2には、フルクトフィリック乳酸菌(FLAB)であるラクトバチルス・クンキーを用いることにより、蜂蜜濃度が25%超の蜂蜜含有物を発酵させることができることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-093151号公報
【特許文献2】国際公開第2018/123827号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】越後多嘉志、「蜂蜜の特性とその利用」、日本醸造協会誌、1977年、第72巻、第4号、p.244-249
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2において、発酵原料として用いられている蜂蜜含有物の蜂蜜濃度は最大で30%(w/w)であり、30重量%を超える蜂蜜濃度の蜂蜜含有物中で乳酸菌を増殖させ、蜂蜜を発酵させることができる方法は示されていない。
【0009】
従って、本発明は上述した点に鑑みてなされたもので、その目的は、30重量%を超える高濃度の蜂蜜を含有する発酵原料を、乳酸菌で発酵させて蜂蜜発酵食品等の蜂蜜発酵物を得る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、驚くべきことに、高濃度の蜂蜜を含有する発酵原料に麹汁を配合することにより、乳酸菌が発酵原料中で生存かつ増殖し、乳酸発酵できることを見出した。この知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の蜂蜜発酵物の製造方法は、蜂蜜の配合量が30重量%超であり、Brix値30%以上の蜂蜜含有発酵原料に、乳酸菌を接種する接種工程と、摂取した乳酸菌で蜂蜜含有発酵原料を乳酸発酵させる発酵工程と、を有し、蜂蜜含有発酵原料には、麹汁又は米麹が配合されている。蜂蜜の配合比率が30重量%超と高く、Brix値が30%以上と高糖度の蜂蜜含有発酵原料の乳酸発酵は困難であるところ、この発酵原料に麹汁又は米麹を配合することによって、乳酸菌の活動及び増殖が可能となる。それゆえ、この蜂蜜含有発酵原料の乳酸発酵が行われ、高濃度に蜂蜜を含む発酵原料の発酵物が得られる。
【0012】
また、本発明の蜂蜜発酵物の製造方法は、蜂蜜含有発酵原料には米麹が配合されており、乳酸菌の接種工程の前に、蜂蜜含有発酵原料を50~65℃で30分~12時間加温する糖化工程を有することも好ましい。これにより、蜂蜜含有発酵原料中に含まれる米麹の糖化及び消化が充分に行われるため、乳酸菌の活動及び増殖を促進する麹汁が発酵原料中に生成し、乳酸菌の活動及び増殖が可能となる。また、発酵原料に配合する麹汁を別途準備する必要がなく、米麹を添加した蜂蜜含有発酵原料を所定時間加温することで発酵原料中に麹汁が生成するため、製造にかかる手間が少なくなり、簡易に蜂蜜発酵物を製造することができる。
【0013】
また、本発明の蜂蜜発酵物の製造方法は、乳酸菌がラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)、ラクトバチルス・サケイ(Lactobacillus sakei)、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)及びラクトバチルス・デルブリッキー・亜種ブルガリクス(Lactobacillus delbrueckii subsp.bulgaricus)からなる群から選択される少なくとも1種の乳酸菌であることも好ましい。これにより、本発明の蜂蜜発酵物の製造に好適な乳酸菌の菌種が選択される。
【0014】
また、本発明の蜂蜜発酵物の製造方法は、発酵に用いるラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)が、受託番号:NITE P-01958で特定されるLactobacillus paracasei YK130220株であることも好ましい。これにより、これにより、本発明の蜂蜜発酵物の製造に特に好適な乳酸菌の菌株が選択される。
【0015】
また、本発明の蜂蜜発酵物の製造方法は、上述した蜂蜜含有発酵原料は加熱殺菌処理が行われておらず、接種工程における乳酸菌の接種が、蜂蜜含有発酵原料中の乳酸菌の生菌数が5×10CFU/mL以上となるように接種することも好ましい。蜂蜜含有発酵原料の加熱殺菌処理を行わず、乳酸菌の接種量を5×10CFU/mL以上とすることにより、蜂蜜が元来有する風味を維持しつつ、さらに乳酸発酵による豊かな香味を付加した蜂蜜発酵物が得られる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、以下のような優れた効果を有する蜂蜜発酵物の製造方法を提供することができる。
(1)高濃度に蜂蜜を含む発酵原料を乳酸発酵させた蜂蜜発酵物が得られる。
(2)乳酸菌の活動及び増殖のために配合される成分が麹汁または米麹であるため、人体に対する安全性が高いことはもちろん、さらなる健康促進効果、風味増強効果が得られる。
(3)蜂蜜含有発酵原料の加熱殺菌処理を行わない場合であっても、発酵原料中で乳酸菌が優占種として活動及び増殖するため、蜂蜜が元来有する風味を維持しつつ、さらに乳酸発酵による豊かな香味を付加した蜂蜜発酵物が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第一の実施形態に係る蜂蜜発酵物の製造方法を概略的に示すフローチャートである。
図2】本発明の第二の実施形態に係る蜂蜜発酵物の製造方法を概略的に示すフローチャートである。
図3】本発明の第三の実施形態に係る蜂蜜発酵物の製造方法を概略的に示すフローチャートである。
図4】本発明の第四の実施形態に係る蜂蜜発酵物の製造方法を概略的に示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
まず、図1を参照し、本発明の第一の実施形態に係る蜂蜜発酵物の製造方法について説明する。図1に示すように、本実施形態に係る蜂蜜発酵物Pの製造方法は、蜂蜜を高濃度に含有する発酵原料を準備する工程S1、この蜂蜜含有発酵原料を殺菌する工程S2、殺菌された発酵原料に乳酸菌を接種する工程S3及び培養を行って発酵原料の乳酸発酵を行う工程S4から概略構成されている。
【0019】
[蜂蜜含有発酵原料の準備]
まず、図1に示す蜂蜜含有発酵原料を準備する工程S1について説明する。本発明における発酵原料には、蜂蜜が30重量%超配合されている。詳細には、蜂蜜の配合量は30重量%超65重量%未満であることが好ましく、35重量%超60重量%未満であることがより好ましく、35重量%超50重量%未満であることがさらに好ましい。なお、上述した蜂蜜の配合量は、蜂蜜の水分含量が20~23重量%の場合の量である。
【0020】
発酵原料に配合される蜂蜜としては、あらゆる蜂蜜を用いることができ、植物の花の種類、ミツバチの種類及び蜂蜜の産地等には限定されない。また、1種類の蜂蜜を用いることも、複数種類の蜂蜜を混合して用いることも可能である。
【0021】
本実施形態及び後述する第二の実施形態においては、蜂蜜含有発酵原料には麹汁が配合されている。麹汁とは、蒸米に種麹菌を接種して繁殖させ、製麹操作によって得られた米麹に対し、水を加えて糖化処理して得られるものである。この糖化処理は、米麹と水の混合物を50~65℃、好ましくは55~60℃で、1~24時間程度、好ましくは3~24時間程度加温させることにより行われる。米麹とこれに添加する水の配合比率は、米麹1重量部に対して水1~5重量部を配合することが好ましく、米麹1重量部に対して水2~4重量部を配合することがより好ましい。糖化処理後、漉し布やろ紙等でろ過処理を行ってろ液を回収し、これを麹汁として得る。なお、本実施形態においては、後述する工程S2において蜂蜜含有発酵原料の殺菌処理が行われるため、蜂蜜含有発酵原料に配合される麹汁自体の殺菌処理は不要であるが、殺菌処理されていてもよい。得られた麹汁には、麹菌による米の糖化によって生じたグルコース等の糖分が含まれており、米麹と水の配合比率にもよるが、麹汁のBrix値はおよそ15~40%である。麹汁には、麹菌が産生するアミラーゼ、プロテアーゼ等の酵素による米の糖化・消化によって生成したグルコース等の糖分のほか、各種アミノ酸、ミネラル、リン脂質等が含まれており、これらの成分が高濃度の蜂蜜含有発酵原料中における乳酸菌の活動及び増殖を促進するものと推測される。
【0022】
麹汁の原料となる米麹は、主に麹発酵食品を製造する際に使用される麹菌が米に繁殖されたものが用いられ、その麹菌とは、具体的には黄麹菌、白麹菌及び黒麹菌又はこれらの組み合わせが挙げられる。このうち、黄麹菌とは、黄色又は黄緑色の分生子(無性胞子の一種)を形成するアスペルギルス属のカビの一群のことをいい、主に清酒や味噌、醤油等の製造に用いられている微生物である。具体的には、特に限定されないが、アスペルギルス・オリゼ、アスペルギルス・ソーヤ等が挙げられる。また、白麹菌とは、白黄土色の分生子を形成するアスペルギルス属のカビの一群のことをいい、具体的には、例えば、アスペルギルス・カワチが挙げられる。さらに、黒麹菌とは、沖縄での泡盛や鹿児島での芋焼酎等の蒸留酒の製造に用いられている黒色又は黒褐色の分生子を形成するアスペルギルス属のカビの一群のことをいい、具体的には、特に限定されないが、アスペルギルス・アワモリ・ヴァル・カワチ(河内黒麹菌)、アスペルギルス・リュウキュウエンシス、アスペルギルス・アワモリ、アスペルギルス・サイトイ、アスペルギルス・イヌイ、アスペルギルス・ウサミ、アスペルギルス・アウレス等が挙げられる。
【0023】
本発明においては、得られる蜂蜜発酵物の風味及び香りが向上する観点から、黄麹菌又は白麹菌が繁殖された米麹が好適に用いられる。具体的には、黄麹菌であるアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、白麹菌であるアスペルギルス・カワチ(Aspergillus kawachii)及びこれらの組み合わせからなる麹菌が繁殖された米麹が好適に選択される。このうち、白麹菌による米麹は麹菌自体がクエン酸を産生するため、爽やかな酸味が蜂蜜発酵物に加わり、独特の風味を呈する蜂蜜発酵物を得ることができる。
【0024】
蜂蜜含有発酵原料における麹汁の配合量は、蜂蜜含有発酵原料中の蜂蜜の割合を高く維持しつつ、乳酸菌の活動及び増殖を活発化し、乳酸発酵を促進させる観点から、10~30重量%であり、15~25重量%とすることがより好ましい。
【0025】
本実施形態では、蜂蜜含有発酵原料には、蜂蜜と麹汁のほかに水が含まれるが、乳酸菌の乳酸発酵に影響を与えない範囲において、他の栄養成分、風味や香りを付加する成分等の他の成分を配合させることも可能である。また、後述する第三及び第四の実施形態のように米麹を配合させてもよい。
【0026】
本発明の蜂蜜含有発酵原料の糖度を示すBrix値は30%以上である。詳細には、発酵原料全体として、Brix値が30%~60%であることが好ましく、30%~55%であることがより好ましく、30%~50%であることがさらに好ましい。このように糖度が高い発酵原料では通常の乳酸発酵は困難であるが、上述したように発酵原料中に麹汁を配合することによって乳酸発酵が可能となり、これまでになかった蜂蜜発酵物を得ることができる。
【0027】
[殺菌]
次に、殺菌工程S2について説明する。本工程では、上述のようにして準備された蜂蜜含有発酵原料の殺菌処理が行われる。殺菌処理は公知の方法で行うことができ、例えば、120~150℃で短時間加圧加熱殺菌処理する方法や60~100℃で所定時間常圧加熱殺菌処理する方法等が挙げられる。本発明においては、原料中の蜂蜜の風味の劣化を防ぐため、100℃未満の比較的低温での加熱殺菌処理を行うことが好ましく、具体的には、65~85℃で10~40分加熱処理することが好ましい。これにより、発酵原料中の蜂蜜及び水に含まれる雑菌や麹汁に含まれていた麹菌が殺菌されるため、後の工程において添加される乳酸菌を効率よく優占的に増殖させることができる。
【0028】
[乳酸菌の接種]
次に、乳酸菌を蜂蜜含有発酵原料に接種する工程S3について説明する。本工程では、上述の殺菌工程を経て冷却された蜂蜜含有発酵原料に対し、乳酸菌を接種する。乳酸菌の接種にあたっては、事前に液体種菌を準備しておき、スターターとして用いることが好ましい。液体種菌は、公知の液体培地及び培養方法で調製することができ、特に限定されないが、例えば、蜂蜜含有発酵原料に配合した麹汁(Brix値:15~40%)を殺菌処理して液体培地とし、この麹汁で乳酸菌の培養を行うことで、本発明に好適な液体種菌を得ることができる。
【0029】
接種される乳酸菌としては、上述した蜂蜜含有発酵原料中で増殖し、乳酸発酵できるものであれば特に限定されないが、高糖度及び低pH条件下で生育し得る乳酸菌として、植物性乳酸菌が好適に選択される。植物性乳酸菌としては、ラクトバチルス・パラカゼイ、ラクトバチルス・サケイ、ラクトバチルス・ブレビス、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・プランタルム又はラクトバチルス・アシドフィルス等のラクトバチルス属乳酸菌及びこれらの組み合わせが挙げられ、このうち、ラクトバチルス・パラカゼイ、ラクトバチルス・サケイ、ラクトバチルス・ブレビス又はラクトバチルス・カゼイ及びこれらの組み合わせが好適に用いられる。なお、動物性乳酸菌も用いることができ、一例として、ストレプトコッカス・サーモフィラス、ラクトバチルス・デルブリッキー・亜種ブルガリクス等のヨーグルト製造の際に使用される乳酸菌及びこれらの組み合わせが挙げられ、上述した植物性乳酸菌と組み合わせて用いることも可能である。
【0030】
さらに、本発明においては、乳酸菌として、Lactobacillus paracasei YK130220株(受託番号:NITE P-01958)を用いることが特に好ましい。YK130220株は高濃度に蜂蜜が含まれる培養液中での増殖能に優れており、それゆえ、高濃度に蜂蜜を含む発酵原料の乳酸発酵を行うことができ、その蜂蜜発酵物を得ることができる。Lactobacillus paracasei YK130220株は、米発酵物より純粋分離同定された植物由来乳酸菌であり、上述した液体種菌培地のほか、清酒5質量%、グルコース1質量%、酵母エキス1.25質量%、硫酸マグネシウム0.02質量%及び酢酸ナトリウム0.1質量%(pH=7.0、殺菌:121℃/20分)からなる液体培地等でも培養温度24~28℃、培養期間1~3日間の培養条件にて好適に培養される。
【0031】
乳酸菌の接種にあたっては、乳酸菌の液体種菌を蜂蜜含有発酵原料に添加して接種したのち、よく撹拌し混合する。接種する乳酸菌の生菌数としては、蜂蜜含有発酵原料中の乳酸菌の生菌数が1×10CFU/mL以上となるように乳酸菌を添加することが好ましく、1×10CFU/mL以上となるように乳酸菌を添加することがより好ましく、5×10CFU/mL以上となるように乳酸菌を添加することが特に好ましい。
【0032】
また、本工程S3における乳酸菌の接種にあたっては、上述した液体種菌による接種に限定されず、如何なる状態の乳酸菌を接種してもよい。一例として、微生物固定化担持体に固定化された状態の乳酸菌を接種することもでき、乳酸菌担持体による流下発酵や回分発酵を行うことができる。微生物固定化担持体としては、寒天ゲル、アルギン酸ゲルやカラギーナンゲル等のゲル材料による包括担持体、多孔性材料や繊維状材料等の付着担持体といった、公知のあらゆる固定化担持体を用いることができる。
【0033】
[培養]
次に、発酵原料に接種した乳酸菌の培養を行う工程S4について説明する。本工程では、乳酸菌を接種した蜂蜜含有発酵原料中で乳酸菌を繁殖させ、発酵原料を乳酸発酵させる。培養温度及び培養条件は、接種した乳酸菌に適した温度及び条件下とする。培養期間は1~7日間程度とすることが好ましく、2~4日間程度とすることがより好ましい。培養期間の経過に伴い、乳酸発酵が進んでpHが低下し、独特の香味を呈するようになる。所望の状態にまで蜂蜜含有発酵原料が乳酸発酵された時点を培養の終了とし、蜂蜜発酵物Pを得る。
【0034】
[蜂蜜発酵物]
得られた蜂蜜発酵物Pは、乳酸菌の発酵によって独特の豊かな香味を呈している。蜂蜜発酵物Pはそのまま用いることも、殺菌処理したものを用いることも可能である。蜂蜜発酵物P中には乳酸菌の菌体が含まれているので、乳酸菌の有する整腸作用や免疫賦活作用等のプロバイオティクス機能も有する。さらに、蜂蜜発酵物Pは濃縮処理や凍結乾燥処理等を施して用いることができるほか、遠心分離法、濾布によるろ過法又は透析膜等による膜分離法によって菌体部とその上清部とに分離し、個々に濃縮処理や凍結乾燥処理等を施して、菌体部と上清部とを個別に用いることも可能である。
【0035】
次に、図2を参照し、本発明の第二の実施形態に係る蜂蜜発酵物の製造方法について説明する。図2に示すように、本実施形態に係る蜂蜜発酵物Pの製造方法は、蜂蜜を高濃度に含有する発酵原料を準備する工程S10、この蜂蜜含有発酵原料に乳酸菌を接種する工程S30、培養を行って発酵原料の乳酸発酵を行う工程S40から概略構成されている。本実施形態は、第一の実施形態における「殺菌工程S2」を設けない点が上述した第一の実施形態と異なっている。よって、上述した第一の実施形態と同じ構成に関する説明は省略し、異なる構成について以下説明する。
【0036】
本実施形態においては、蜂蜜含有発酵原料の殺菌処理時の加熱により、蜂蜜固有の風味が失われたり、褐変現象が生じることを防ぐため、蜂蜜含有発酵原料の殺菌を行わず、工程S10において混合調製された発酵原料に直接乳酸菌の接種を行う。本発明における蜂蜜含有発酵原料は、蜂蜜が30重量%超配合され、かつ、Brix値30%以上に調整されていることから、蜂蜜の細菌抑制作用や高糖濃度によって、他の微生物が生存及び繁殖し難い環境となっている。それゆえ、蜂蜜含有発酵原料の殺菌を行わずに、乳酸菌を接種しても乳酸菌が優占種となることができ、乳酸発酵が行われ得る。
【0037】
蜂蜜含有発酵原料の準備に係る工程S10においては、乳酸菌の増殖や乳酸発酵の速度に影響を及ぼさないよう、麹汁は殺菌処理されたものを用いることができる。他方、殺菌処理されていない麹汁を用いて発酵原料を調製することも可能であり、この場合には、できるだけ麹菌以外の雑菌が麹汁中に含まれないよう麹汁の調製を行う。加熱殺菌処理を行わないことにより、麹汁中に含まれる有用成分が分解や変質等して失われることがないため、乳酸菌の発酵促進作用を向上させる。
【0038】
次に、乳酸菌の接種工程S30においては、第一の実施形態よりも接種する乳酸菌の生菌数を多くすることが好ましい。具体的には、蜂蜜含有発酵原料中の乳酸菌の生菌数が5×10CFU/mL以上となるように乳酸菌を添加することが好ましく、5×10CFU/mL以上となるように乳酸菌を添加することがより好ましく、1×10CFU/mL以上となるように乳酸菌を添加することが特に好ましい。
【0039】
次に、培養工程S40においては、培養期間は1~5日間程度とすることが好ましく、1~3日間程度とすることがより好ましい。得られた蜂蜜発酵物Pは、発酵原料に配合された蜂蜜を加熱殺菌していないため、蜂蜜固有の香りや味が失われず、風味豊かな乳酸発酵物が得られる。
【0040】
発酵原料を準備する工程S10、乳酸菌を発酵原料に接種する工程S30、培養(発酵)工程S40及び蜂蜜発酵物Pについてのその他の説明は、上述した第一の実施形態での説明と各々同様であり、その作用効果も同様である。
【0041】
次に、図3を参照し、本発明の第三の実施形態に係る蜂蜜発酵物の製造方法について説明する。図3に示すように、本実施形態に係る蜂蜜発酵物Pの製造方法は、蜂蜜を高濃度に含有する発酵原料を準備する工程S11、この蜂蜜含有発酵原料の糖化処理を行う工程S111、糖化処理後の発酵原料を殺菌する工程S21、殺菌された発酵原料に乳酸菌を接種する工程S31及び培養を行って発酵原料の乳酸発酵を行う工程S41から概略構成されている。本実施形態は、上述した第一の実施形態と比較すると、発酵原料中に「米麹」を配合した点及び工程中に「糖化処理S111」を設けた点が異なっている。よって、上述した第一の実施形態と同じ構成に関する説明は省略し、異なる構成について以下説明する。
【0042】
[蜂蜜含有発酵原料の準備]
蜂蜜含有発酵原料を準備する工程S11について、本実施形態及び後述する第四の実施形態では、蜂蜜含有発酵原料には「麹汁」のかわりに「米麹」が配合されている。米麹とは、蒸米に種麹菌を接種して繁殖させ、製麹操作によって得られるものである。米麹は、主に麹発酵食品を製造する際に使用される麹菌が繁殖されたものが用いられ、上述した第一の実施形態において、麹汁を得る際に使用されるものと同様の米麹が用いられる。本発明においては、得られる蜂蜜発酵物の風味及び香りが向上する観点から、黄麹菌又は白麹菌が繁殖された米麹が好適に用いられる。具体的には、黄麹菌であるアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、白麹菌であるアスペルギルス・カワチ(Aspergillus kawachii)及びこれらの組み合わせからなる麹菌が繁殖された米麹が好適に選択される。このうち、白麹菌による米麹は麹菌自体がクエン酸を産生するため、爽やかな酸味が蜂蜜発酵物に加わり、独特の風味を呈する蜂蜜発酵物を得ることができる。
【0043】
蜂蜜含有発酵原料における米麹の配合量は、蜂蜜含有発酵原料中の蜂蜜の割合を高く維持しつつ、乳酸菌の活動及び増殖を活発化し、乳酸発酵を促進させる観点から、米麹の配合量は1~15重量%であり、3~10重量%とすることがより好ましい。
【0044】
[糖化処理]
次に、糖化処理工程S111について説明する。本工程では、上述のようにして準備された蜂蜜含有発酵原料の糖化処理が行われる。本実施形態及び後述する第四の実施形態では、蜂蜜含有発酵原料には米麹が配合されているので、この米麹を発酵原料中で糖化させ、発酵原料中に麹汁を生成させる。糖化処理は、米麹が配合されている蜂蜜含有発酵原料を50~65℃、好ましくは55~60℃で、30分~12時間程度、好ましくは1~6時間程度加温させることにより行われる。糖化処理後は、発酵原料中の米麹の残渣を漉し布やろ紙等でろ過することによって除去してもよいが、米麹の残渣を含んだまま次の工程に係る処理を行ってもよい。本工程によって糖化処理された発酵原料中には麹汁が含まれ、麹菌が産生するアミラーゼ、プロテアーゼ等の酵素による米の糖化・消化によって生成したグルコース等の糖分のほか、各種アミノ酸、ミネラル、リン脂質等が生じており、これらの成分が高濃度の蜂蜜含有発酵原料中における乳酸菌の活動及び増殖を促進する。
【0045】
糖化処理工程S111以降の工程である、糖化処理後の発酵原料を殺菌する工程S21、殺菌された発酵原料に乳酸菌を接種する工程S31、培養を行って発酵原料の乳酸発酵を行う工程S41及び蜂蜜発酵物Pについての説明は、上述した第一の実施形態での説明と各々同様であり、その作用効果も同様である。また、発酵原料を準備する工程S11に関るその他の説明も上述した第一の実施形態での説明と同様であり、その作用効果も同様である。
【0046】
次に、図4を参照し、本発明の第四の実施形態に係る蜂蜜発酵物の製造方法について説明する。図4に示すように、本実施形態に係る蜂蜜発酵物Pの製造方法は、蜂蜜を高濃度に含有する発酵原料を準備する工程S12、この蜂蜜含有発酵原料の糖化処理を行う工程S121、糖化処理後のこの蜂蜜含有発酵原料に乳酸菌を接種する工程S32、培養を行って発酵原料の乳酸発酵を行う工程S42から概略構成されている。本実施形態は、上述した第三の実施形態における「殺菌工程S21」を設けていない点が異なっている。よって、上述した第三の実施形態と同じ構成に係る説明は省略し、異なる構成について以下説明する。
【0047】
本実施形態においては、蜂蜜含有発酵原料の殺菌処理時の加熱により、蜂蜜固有の風味が劣化したり、褐変現象が生じることを防ぐため、糖化処理後の蜂蜜含有発酵原料の殺菌は行わず、糖化処理された発酵原料を冷却したものに直接乳酸菌の接種を行う。本発明における蜂蜜含有発酵原料には一定量の麹菌が含まれている状態であるが、発酵原料には蜂蜜が30重量%超配合され、かつ、Brix値30%以上に調整されていることから、蜂蜜の細菌抑制作用や高糖濃度によって、麹菌をはじめとした他の微生物が生存及び繁殖し難い環境となっている。それゆえ、蜂蜜含有発酵原料の殺菌を行わずに、乳酸菌を接種しても乳酸菌が優占種となることができ、乳酸発酵が行われ得る。
【0048】
次に、乳酸菌の接種工程S32においては、接種する乳酸菌の生菌数を第三の実施形態よりも多く接種することが好ましい。具体的には、蜂蜜含有発酵原料中の乳酸菌の生菌数が5×10CFU/mL以上となるように乳酸菌を添加することが好ましく、5×10CFU/mL以上となるように乳酸菌を添加することがより好ましく、1×10CFU/mL以上となるように乳酸菌を添加することが特に好ましい。
【0049】
次に、培養工程S42においては、培養期間は1~5日間程度とすることが好ましく、1~3日間程度とすることがより好ましい。得られた蜂蜜発酵物Pは、発酵原料に配合された蜂蜜を加熱殺菌していないため、蜂蜜固有の香りや味が失われず、風味豊かな乳酸発酵物が得られる。
【0050】
発酵原料を準備する工程S12、蜂蜜含有発酵原料の糖化処理工程S121、乳酸菌を発酵原料に接種する工程S32、培養(発酵)工程S42及び蜂蜜発酵物Pについてのその他の説明は、上述した第三の実施形態での説明と各々同様であり、その作用効果も同様である。
【0051】
上述した各実施形態において得られた蜂蜜発酵物Pは、高濃度の蜂蜜を乳酸発酵させたものであって、乳酸菌による発酵産生物が含まれる。それゆえ、発酵原料である蜂蜜の滋養及び効能に加え、乳酸発酵により産生した乳酸や多糖、アミノ酸等及び乳酸菌の菌体そのものによる健康の改善又は向上効果が期待される。さらに、発酵原料には麹汁又は米麹が配合されているところ、いずれも麹発酵食品の製造に用いられるものであり、安全性が高いうえに、麹菌による発酵産生物であるグルコース、アミノ酸や酵素そのもの等も含まれ、健康の改善又は向上効果が期待される。
【0052】
蜂蜜発酵物Pは、従来慣用されている方法により、液状、ゼリー状、粉末状又は固形状等の種々の形態に調製することができ、錠剤やカプセル剤、顆粒剤、シロップ剤などのサプリメント形態、飲料、アメやガム、チョコレート等の菓子、パン、粥、シリアル、麺類、ゼリー、スープ、乳製品、調味料等のあらゆる形態にて食品組成物や食品として用いることもできる。このように食品組成物として用いる際には、本発明の有効成分の効能に影響を与えない範囲において、他の有効成分や、ビタミン、ミネラル若しくはアミノ酸等の栄養素等を種々組み合わせることも可能である。本発明の食品組成物から展開される食品には、サプリメント、健康食品、機能性食品、特定保健用食品等が含まれる。また、蜂蜜発酵物Pはその用途に応じて、医薬組成物や医薬品としても用いられ得る。
【0053】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【実施例0054】
実施例及び比較例において、発酵原料に用いた蜂蜜及びその物性は以下のとおりである。
・品名:国産純粋 百花はちみつ、製造販売:株式会社FULL(福岡県八女市立花町北山4760)
・栄養成分表示100g当たり/たんぱく質:0.2g、脂質:0g、炭水化物:79.9g、食塩:0g、エネルギー:294kcal
・pH:3.6(純水で2倍希釈して得た50w/w%蜂蜜水溶液のpH値)
・糖度(簡易計測糖度として測定)/Brix値:82.2%(株式会社アタゴ製品、品番:PAL-J、ポケット糖度計・濃度計)
【0055】
[実施例1]
1.高濃度の蜂蜜を含有する発酵原料の麹汁配合による乳酸菌発酵
(ア)麹汁の調製
麹汁は次のようにして調製した。黄麹菌(アスペルギルス・オリゼ:Aspergillus oryzae)の米麹(胞子数10億個/米麹1g、株式会社河内源一郎商店製品)300gに対し純水700mLを加え、58℃で5時間糖化処理を行った。糖化処理後、ろ過補助剤としてセライトを用い、ろ紙(No.2)でろ過を行った。得られたろ液を麹汁として得た。麹汁のBrix値は30%であった。
【0056】
(イ)高濃度蜂蜜含有発酵原料の調製
蜂蜜100gに純水100gを加え、Brix値:40.7、pH3.66の蜂蜜水溶液を得た。これに、(ア)で調製したBrix値30%の麹汁を50g添加し、高濃度蜂蜜含有発酵原料とした。この発酵原料のBrix値は38.7%、pHは4.2であった。なお、この高濃度蜂蜜含有発酵原料中に含まれる蜂蜜の濃度は40重量%である。
【0057】
(ウ)発酵試験
(イ)で調製した高濃度蜂蜜含有発酵原料を、18mmφのネジ口試験管に20mLずつ分注し、70℃で30分間処理して殺菌した。冷却後、クリーンベンチ内で下記表1に示す乳酸菌をそれぞれ発酵原料に接種した。なお、No.1~4の乳酸菌は(ア)で調製したBrix値30%の麹汁で事前に24時間培養して得た液体種菌を接種し、No.5のヨーグルト用スターターカルチャー DELVO(登録商標)YOG FVV-231(DSM株式会社製品)の乳酸菌(Streptococcus thermophilusと、Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricusの混合乳酸菌)については、Brix値10%に希釈した麹汁で事前に培養して得た液体種菌を接種した。各乳酸菌の生菌数及び接種量は下記表1に示すとおりである。
【0058】
【表1】
【0059】
接種後、30℃で5日間培養して乳酸菌の増殖による菌液の濁度をマクファーランド比濁法で求めた。また、5日後の各乳酸菌の生菌数をBCP加プレートカウント寒天培地(品名:乳酸菌数測定用「BCP加プレートカウントアガール」、日水製薬株式会社製品)を用いて測定した。結果を以下表2に示す。
【0060】
【表2】
【0061】
表2の結果によれば、ラクトバチルス属(Lactobacillus)乳酸菌であるL.paracasei YK130220株(受託番号:NITE P-01958)、L.sakei HS-1、L.brevis及びL.caseiについて、麹汁を添加することにより、これまで増殖が不可能とされていた高濃度の蜂蜜を含有する発酵原料中で増殖することができ、高濃度蜂蜜含有発酵原料の発酵が可能であることが示された。特にL.paracasei YK130220株は増殖能が著しく高く、生菌数が9×1010CFU/mLにまで達した。このLactobacillus paracasei YK130220株は米発酵物より純粋分離同定された植物由来乳酸菌株であり、受託番号:NITE P-01958として、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託されている。
【0062】
[比較例]
2.高濃度の蜂蜜を含有する発酵原料のpH調整による乳酸菌発酵
本比較例では、乳酸菌として、実施例1において最も優れた増殖能を示したLactobacillus paracasei YK130220株(受託番号:NITE P-01958)を用い、麹汁を配合していない高濃度蜂蜜含有発酵原料における乳酸菌の増殖能を確認した。また、蜂蜜の低pHが乳酸菌の増殖を抑制している可能性を考慮し、アルカリ性溶液を加えてpHを調整した高濃度蜂蜜含有発酵原料についても乳酸菌の増殖能を確認した。
【0063】
蜂蜜400gに純水240gを加え、Brix値:51.1、pH3.60の高濃度蜂蜜含有発酵原料を得た。この高濃度蜂蜜含有発酵原料中に含まれる蜂蜜の濃度は62.5重量%である。これを100mLずつ容器に分け、pH調整を行わない試験区以外は、10%水酸化ナトリウム水溶液を用いて、pH4.5、pH5.5及びpH6.5にそれぞれ調整し、70℃で30分間処理して殺菌した。冷却後、クリーンベンチ内でL.paracasei YK130220株を各容器内に1mLずつ接種した。なお、L.paracasei YK130220株は、実施例1と同様にBrix値30%の麹汁で事前に24時間培養したものを接種した(生菌数:3~5×10CFU/mL)。
【0064】
接種後、30℃の恒温槽で培養を行い、培養3日後及び培養5日後の発酵原料中のpH、Brix値及び生菌数を測定した。生菌数の測定は、計測希釈倍数を10以上とした。結果を以下表3に示す。
【0065】
【表3】
【0066】
表3の結果によれば、pH調整を行わなかった試験区では、5日後においても発酵原料の物性には全く変化がなく、乳酸菌の増殖は認められなかった。他方、pH調整を行った試験区では発酵原料のpHの低下がみられることから、接種した乳酸菌による乳酸発酵が行われ、pHの低下が生じたものと推測された。しかしながら、pH調整を行ったいずれの試験区においても、希釈倍数が10以上では生菌数が検出されなかった。このことは、発酵原料のpHの低下は接種当初の乳酸菌の働きによるものであって、乳酸菌の増殖に伴うものではなく、pH調整された発酵原料中では乳酸菌は増殖できていないことを示している。よって、高濃度蜂蜜含有発酵原料中で乳酸菌を増殖させ、発酵を行うためには、実施例1のように麹汁の添加が必要であることがわかった。
【0067】
[実施例2]
3.高濃度の蜂蜜を含有する発酵原料の米麹(黄麹菌)配合による乳酸菌発酵(1)
本実施例では、乳酸菌として、実施例1において最も優れた増殖能を示したLactobacillus paracasei YK130220株(受託番号:NITE P-01958)を用い、麹汁に替えて黄麹菌の米麹を配合した高濃度蜂蜜含有発酵原料における乳酸菌の増殖能を確認した。
【0068】
下記表4に示す配合で各試験区の高濃度蜂蜜含有発酵原料を調整した。米麹粉末として、黄麹菌(アスペルギルス・オリゼ:Aspergillus oryzae)が繁殖した米麹(胞子数10億個/米麹1g、株式会社河内源一郎商店製品)を用い、蜂蜜の配合量の10重量%量を蜂蜜水溶液に混合した。米麹粉末を混合した後、58℃で3時間加温して糖化処理を行い、その後、70℃で30分間処理して殺菌した。冷却後、クリーンベンチ内でL.paracasei YK130220株を0.1mLずつ接種した。なお、L. paracasei YK130220株は、実施例1と同様にBrix値30%の麹汁で事前に24時間培養したものを接種した(生菌数:3~5×10CFU/mL)。なお、この高濃度蜂蜜含有発酵原料中に含まれる蜂蜜の濃度は、各試験区について、Brix50:58.8重量%、Brix40:47.6重量%及びBrix30:36.1重量%、といずれも高濃度である。
【0069】
【表4】
【0070】
接種後、30℃の恒温槽で培養を行い、培養3日後の発酵原料中のpH、Brix値、酸度及び生菌数を測定した。結果を以下表5に示す。酸度(滴定酸度)は、発酵原料10gに対する1/10N-NaOH溶液による中和滴定に要したNaOH溶液の量mLで表示している。また、生菌数は上記比較例と同様に計測希釈倍数を10以上とした平板培養による出現コロニーを計数し、1mL当たりの菌数を示した。また、発酵生成酸度は、培養3日後の酸度の値から培養開始時の酸度の値を減じた値である。
【0071】
【表5】
【0072】
表5の結果によれば、培養開始時と比べて酸度の値が増加すると共に、希釈倍数が10以上での生菌数も検出されたことから、米麹を配合して糖化処理することによっても、高濃度蜂蜜含有発酵原料中で乳酸菌(L.paracasei YK130220株)が増殖し、乳酸発酵が行われることが認められた。また、培養3日後の蜂蜜発酵物を試食したところ、いずれの試験区も乳酸菌の発酵による良い香味が感じられた。
【0073】
[実施例3]
4.高濃度の蜂蜜を含有する発酵原料の米麹(黄麹菌)配合による乳酸菌発酵(2)
高濃度蜂蜜含有発酵原料の殺菌処理時等の加熱により、蜂蜜固有の風味が劣化したり、褐変現象が生じる可能性がある。それゆえ、本実施例では、高濃度蜂蜜含有発酵原料の殺菌処理を行わず、糖化処理の際の加熱時間もできるだけ少なくして、乳酸菌による発酵が可能であるかどうか試験を行った。
【0074】
実施例2の上記表4に示す配合で各試験区の高濃度蜂蜜含有発酵原料を調整した。米麹粉末として、黄麹菌(アスペルギルス・オリゼ:Aspergillus oryzae)が繁殖した米麹(胞子数10億個/米麹1g、株式会社河内源一郎商店製品)を用い、蜂蜜の配合量の10重量%量を蜂蜜水溶液に混合した。米麹粉末を混合した後、58℃で1時間のみ加温して糖化処理を行い、その後、35℃まで冷却し、クリーンベンチ内でL.paracasei YK130220株を1.6mLずつ接種した。なお、L.paracasei YK130220株は、実施例1、2と同様にBrix値30%の麹汁で事前に24時間前培養したものを接種した(生菌数:3~5×10CFU/mL)。
【0075】
接種後、30℃の恒温槽で培養を行い、培養3日後の発酵原料中のpH、Brix値、酸度及び生菌数を測定した。結果を以下表6に示す。酸度(滴定酸度)は、発酵原料10gに対する1/10N-NaOH溶液による中和滴定に要したNaOH溶液の量mLで表示している。また、発酵生成酸度は、培養3日後の酸度の値から培養開始時の酸度の値を減じた値である。
【0076】
【表6】
【0077】
表6の結果によれば、米麹を配合して糖化処理を行った後、発酵原料の殺菌処理を行わない場合であっても、高濃度蜂蜜含有発酵原料中で乳酸菌(L.paracasei YK130220株)が増殖し、発酵が行われることが認められた。実施例2の結果と比較すると発酵生成酸度の値は若干低いが、培養3日後の発酵物を試食したところ、加熱殺菌したものよりも、蜂蜜本来の香りが感じられると共に乳酸菌発酵による芳醇な良い香味が感じられた。
【0078】
[実施例4]
5.高濃度の蜂蜜を含有する発酵原料の米麹(白麹菌)配合による乳酸菌発酵
本実施例では、実施例3において用いられた米麹を白麹菌が繁殖したものに替えたほかは、実施例3と同様の材料及び方法にて乳酸菌発酵試験を行った。
【0079】
下記表7に示す配合で各試験区の高濃度蜂蜜含有発酵原料を調整した。米麹粉末として、白麹菌(アスペルギルス・カワチ:Aspergillus kawachii)が繁殖した米麹(胞子数10億個/米麹1g、株式会社河内源一郎商店製品)を用い、蜂蜜の配合量の10重量%量を蜂蜜水溶液に混合した。米麹粉末を混合した後、58℃で1時間加温して糖化処理を行い、その後、35℃まで冷却し、クリーンベンチ内でL.paracasei YK130220株を1.6mLずつ接種した。なお、L.paracasei YK130220株は、実施例1~3と同様にBrix値30%の麹汁で事前に24時間培養したものを接種した(生菌数:3~5×10CFU/mL)。
【0080】
【表7】
【0081】
接種後、30℃の恒温槽で培養を行い、培養2日後(46時間後)の発酵原料中のpH、Brix値、酸度及び生菌数を測定した。結果を以下表8に示す。
【0082】
【表8】
【0083】
実施例3の結果から、殺菌処理を行わないことにより、麹菌が産生する栄養素や酵素等の加熱による影響が少なく、乳酸菌による発酵も早く進行すると考え、本実施例では培養から2日後(46時間後)の発酵期間での測定を行った。表8の結果によると、白麹菌はクエン酸を産生する性質を有するため、白麹菌が産生したクエン酸により培養開始時の発酵原料のpHが低く、滴定酸度の数値も高くなっている。それゆえ、この低pHの影響を受け、乳酸発酵が阻害されるかとも考えられた。しかしながら、培養2日後には各試験区における酸度はいずれも高くなって発酵生成酸度は増加し、生菌数も充分に確認された。このことから、各試験区において乳酸発酵が行われたことが認められた。また、培養2日後の蜂蜜発酵物の試食の結果では、クエン酸の存在による爽やかさも感じられ、実施例3の黄麹菌米麹を配合した発酵原料の蜂蜜発酵物とは異なる魅力を有する蜂蜜発酵物が得られた。
【0084】
[実施例5]
6.高濃度の蜂蜜を含有する発酵原料の米麹(黄麹菌)配合による乳酸菌発酵(3)
本実施例では、実施例1の試験で用いた5種の乳酸菌について、黄麹菌の米麹を配合した高濃度蜂蜜含有発酵原料における増殖能及び発酵状態を確認した。
【0085】
上記表4に示す3つの試験区のうち、Brix50とBrix40の2つの試験区について、実施例1で用いた5種の乳酸菌の増殖能及び発酵能を調べた。表4に示す配合で各試験区の高濃度蜂蜜含有発酵原料を調整した。米麹粉末として、黄麹菌(アスペルギルス・オリゼ:Aspergillus oryzae)が繁殖した米麹(胞子数10億個/米麹1g、株式会社河内源一郎商店製品)を用い、蜂蜜の配合量の10重量%量を蜂蜜水溶液に混合した。米麹粉末を混合した後、58℃で1時間加温して糖化処理を行い、その後、70℃で30分間処理して殺菌した。冷却後、クリーンベンチ内で各種乳酸菌を高濃度蜂蜜含有発酵原料にそれぞれ接種した。接種量は発酵原料の1v/v%量とした。なお、5種の乳酸菌は実施例1と同様の方法にて事前に24時間培養して得た液体種菌を接種した(ヨーグルト用スターターカルチャー DELVO YOG FVV-231の乳酸菌の生菌数:2×10CFU/mL、他の乳酸菌の生菌数:3~5×10CFU/mL)。
【0086】
接種後、30℃の恒温槽で培養を行い、培養2日後の発酵原料中のpH、Brix値、酸度及び生菌数を測定した。Brix50の試験区の結果を以下表9に、Brix40の試験区の結果を以下表10に示す。酸度(滴定酸度)は、発酵原料10gに対する1/10N-NaOH溶液による中和滴定に要したNaOH溶液の量mLで表示している。また、発酵生成酸度は、培養2日後の酸度の値から培養開始時の酸度の値を減じた値である。
【0087】
【表9】
【0088】
【表10】
【0089】
表9及び表10の結果によれば、培養開始時と比べて酸度の値が増加すると共に、希釈倍数が10以上での生菌数も検出されたことから、高濃度蜂蜜含有発酵原料に配合された米麹を糖化処理することによって、各種乳酸菌が増殖でき、乳酸発酵が行われることが示された。これら5種の乳酸菌のうち、これまでの試験結果通りに、Lactobacillus paracasei YK130220株(受託番号:NITE P-01958)の増殖能及び発酵能が高いことが本試験でも示されたが、植物性乳酸菌であるLactobacillus sakei HS-1、Lactobacillus brevis及びLactobacillus caseiの3種の乳酸菌についても、十分な増殖能及び発酵能があることが認められた。また、ヨーグルト製造に用いられる動物性乳酸菌2種の組み合わせ(Streptococcus thermophilus及びLactobacillus delbrueckii subsp.bulgaricus)からなるDELVO YOG FVV-231を接種した試験区についても、乳酸発酵が行われることが示された。
【0090】
本発明は、上記の実施形態又は実施例に限定されるものでなく、特許請求の範囲に記載された発明の要旨を逸脱しない範囲内での種々、設計変更した形態も技術的範囲に含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の蜂蜜発酵物の製造方法は、高濃度の蜂蜜を乳酸発酵可能とすることにより、新たな蜂蜜発酵食品を提供するものであり、食品や医療の分野において幅広く役立つものである。
【受託番号】
【0092】
NITE P-01958、ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)YK130220株、受託日:2014年10月30日(通知年月日:2014年11月6日)、寄託機関:独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)
図1
図2
図3
図4