(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023116021
(43)【公開日】2023-08-22
(54)【発明の名称】ナノ粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 3/05 20060101AFI20230815BHJP
【FI】
C08J3/05 CEY
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022018538
(22)【出願日】2022-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】507365204
【氏名又は名称】旭化成メディカル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】大家 明子
(72)【発明者】
【氏名】田中 賢
(72)【発明者】
【氏名】小林 慎吾
【テーマコード(参考)】
4F070
【Fターム(参考)】
4F070AA32
4F070CA02
4F070CA16
4F070CB01
(57)【要約】
【課題】ナノ粒子の簡便な製造方法の提供。
【解決手段】下記一般式(1):
【化1】
[式中、
Xは、炭化水素基であり、
Yは、酸素原子を有する置換基である]
で表される構成単位を含む化合物を準備する工程と、
前記化合物と水媒体とを混合して、前記化合物を含むナノ粒子を含む水系混合物を得る工程と、
を含み、
ゲル浸透クロマトグラフィーによって得られる前記化合物の微分分子量分布曲線において、1,000以上5,000以下の分子量の領域のピークの面積が、全領域のピークの面積を基準として、5%以上である、ナノ粒子の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1):
【化1】
[式中、
Xは、炭化水素基であり、
Yは、酸素原子を有する置換基である]
で表される構成単位を含む化合物を準備する工程と、
前記化合物と水媒体とを混合して、前記化合物を含むナノ粒子を含む水系混合物を得る工程と、
を含み、
ゲル浸透クロマトグラフィーによって得られる前記化合物の微分分子量分布曲線において、1,000以上5,000以下の分子量の領域のピークの面積が、全領域のピークの面積を基準として、5%以上である、ナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
ゲル浸透クロマトグラフィーによって得られる前記化合物の微分分子量分布曲線において、1,000以上5,000以下の分子量の領域のピークの面積が、全領域のピークの面積を基準として、10%以上である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
Yが、エステル結合及び/又はエーテル結合を含む炭化水素基である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記一般式(1)が、下記一般式(2):
【化2】
[式中、
R
1は、水素原子又はメチル基であり、
R
2は、メチル基又はエチル基であり、
nは、1~12の整数であり、
mは、2~6の整数であり、
pは、0又は1であり、
qは、0~2の整数であり、
rは、0~3の整数である]
で表される、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記混合が、10℃以上50℃未満で実施される、請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記混合が、0℃以上10℃未満で実施された後に10℃以上50℃未満で更に実施される、請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記水系混合物を遠心分離し、上澄み液を得る工程を更に含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記水系混合物をろ過し、ろ液を得る工程を更に含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記ナノ粒子の平均粒子径が、30nm以上1,000nm以下である、請求項1~8のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記ナノ粒子の平均粒子径が、100nm以上500nm以下である、請求項1~9のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記水媒体のpHが、5以上9以下である、請求項1~10のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項12】
前記水媒体が、純水、注射用水、生理食塩水、細胞培養液、血漿、又は血清である、請求項1~11のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノ粒子、特に生体適合性ポリマーのナノ粒子は、様々な用途で使用することができ、例えば、所定の生理活性物質に対する吸着材、又は薬剤を送達するための担体として使用することができる。
【0003】
ナノ粒子の製造方法としては、様々な方法が報告されている。例えば、特許文献1は、アクリル酸メトキシエチルと水とを混合し、モノマー水溶液を製造する工程と、前記モノマー水溶液を攪拌しながら加熱する工程と、重合開始剤を添加する工程と、を備えることを特徴とする、ナノ粒子の製造方法について開示している。
また、特許文献2は、所定の構造を有するビニル単量体を一定量使用して乳化重合することによる、ナノ粒子の製造方法について開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-30917号公報
【特許文献2】特開2003-231648号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1は、生体内部での利用のために、有機溶媒を使用せずに水を使用してナノ粒子を製造することを開示している。具体的には、特許文献1は、モノマー水溶液に加熱条件下で重合開始剤を添加するソープフリー重合によってナノ粒子を製造することを開示している。同様に、特許文献2も、水を溶媒として使用しており、モノマー及び乳化剤を含む水溶液に加熱条件下で重合開始剤を添加する乳化重合によってナノ粒子を製造することを開示している。
【0006】
特許文献1及び2に記載の方法でナノ粒子を製造した場合、不純物(例えば、未反応のモノマー)を透析等によって除去する必要があり、後処理が煩雑となる。また、目的とするナノ粒子を形成するためには、重合条件(例えば、反応温度及び撹拌速度)を厳密に制御することが必要とされる。
【0007】
そのため、本発明は、ナノ粒子の簡便な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等が鋭意検討した結果、所定の分子量を有する化合物を水と混合するだけで、ナノ粒子を形成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は以下の実施形態を含む。
[1]
下記一般式(1):
【化1】
[式中、
Xは、炭化水素基であり、
Yは、酸素原子を有する置換基である]
で表される構成単位を含む化合物を準備する工程と、
前記化合物と水媒体とを混合して、前記化合物を含むナノ粒子を含む水系混合物を得る工程と、
を含み、
ゲル浸透クロマトグラフィーによって得られる前記化合物の微分分子量分布曲線において、1,000以上5,000以下の分子量の領域のピークの面積が、全領域のピークの面積を基準として、5%以上である、ナノ粒子の製造方法。
[2]
ゲル浸透クロマトグラフィーによって得られる前記化合物の微分分子量分布曲線において、1,000以上5,000以下の分子量の領域のピークの面積が、全領域のピークの面積を基準として、10%以上である、[1]に記載の製造方法。
[3]
Yが、エステル結合及び/又はエーテル結合を含む炭化水素基である、[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4]
前記一般式(1)が、下記一般式(2):
【化2】
[式中、
R
1は、水素原子又はメチル基であり、
R
2は、メチル基又はエチル基であり、
nは、1~12の整数であり、
mは、2~6の整数であり、
pは、0又は1であり、
qは、0~2の整数であり、
rは、0~3の整数である]
で表される、[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5]
前記混合が、10℃以上50℃未満で実施される、[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6]
前記混合が、0℃以上10℃未満で実施された後に10℃以上50℃未満で更に実施される、[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法。
[7]
前記水系混合物を遠心分離し、上澄み液を得る工程を更に含む、[1]~[6]のいずれかに記載の製造方法。
[8]
前記水系混合物をろ過し、ろ液を得る工程を更に含む、[1]~[6]のいずれかに記載の製造方法。
[9]
前記ナノ粒子の平均粒子径が、30nm以上1,000nm以下である、[1]~[8]のいずれかに記載の製造方法。
[10]
前記ナノ粒子の平均粒子径が、100nm以上500nm以下である、[1]~[9]のいずれかに記載の製造方法。
[11]
前記水媒体のpHが、5以上9以下である、[1]~[10]のいずれかに記載の製造方法。
[12]
前記水媒体が、純水、注射用水、生理食塩水、細胞培養液、血漿、又は血清である、[1]~[11]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、簡便な方法でナノ粒子を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0012】
<ナノ粒子の製造方法>
本発明の一実施形態は、下記一般式(1):
【化3】
[式中、
Xは、炭化水素基であり、
Yは、酸素原子を有する置換基である]
で表される構成単位を含む化合物(以下「化合物(1)」という。)を準備する工程(以下「準備工程」という。)と、
前記化合物(1)と水媒体とを混合して、前記化合物(1)を含むナノ粒子を含む水系混合物を得る工程(以下「ナノ粒子形成工程」という。)と、
を含み、
ゲル浸透クロマトグラフィーによって得られる前記化合物(1)の微分分子量分布曲線において、1,000以上5,000以下の分子量の領域のピークの面積が、全領域のピークの面積を基準として、5%以上である、ナノ粒子の製造方法に関する。
【0013】
本実施形態に係る製造方法では、化合物(1)を水と混合するだけで、ナノ粒子を形成することができる。この理由としては、下記のものが想定されるが、本発明はこの想定理由によって何ら限定されるものではない。
側鎖に酸素原子を有する置換基などの水と相互作用しうる元素を有する高分子では、高分子側鎖の親水性部分が水和することにより水溶性が観察され得る。また、側鎖の構造中に親水性部分と疎水性部分を有する高分子は、水中で下限臨界溶液温度(LCST)と呼ばれる相転移温度を有し、ある温度を境にそれより高い温度では疎水性部分の相互作用が強まることで不溶化し、それより低い温度では親水性部分の水和によって水に溶解され得る。この相転移挙動によって凝集・析出する粒子のサイズは、高分子の主鎖・側鎖の構造や分子量だけでなく、相転移を起こさせる温度や濃度などによっても影響を受けることが知られている。
すなわち、化合物(1)を水と混合した際に、化合物(1)の側鎖に酸素原子を有する置換基を有することにより、その親水性部分が水和状態となり得、一方で化合物(1)の疎水性部分の相互作用が働き得る。この両者の働きを利用して、特定の分子量において、温度や濃度を適宜に調節し前記相転移の挙動をコントロールすることにより、ナノ粒子を形成させることができる。
【0014】
[準備工程]
本実施形態に係る製造方法における準備工程は、化合物(1)を準備する工程である。準備の方法は特に限定されず、化合物(1)を合成してもよいし、購入してもよい。化合物(1)の形態は特に限定されず、例えば、固体形態、及び溶液形態が挙げられる。
【0015】
(化合物(1))
化合物(1)は、前記一般式(1)で表される構成単位を含む化合物(分子量分布を有する重合体)である。化合物(1)は、生体適合性を有することが好ましい。
【0016】
一般式(1)において、Xは、炭化水素基であり、好ましくは飽和炭化水素基であり、より好ましくは炭素数2~14の飽和炭化水素基であり、更に好ましくは炭素数2又は3の飽和炭化水素基である。
【0017】
一般式(1)において、Yは、酸素原子を有する置換基であり、好ましくはエステル結合及び/又はエーテル結合を含む炭化水素基であり、より好ましくはエステル結合及びエーテル結合を含む炭化水素基である。
【0018】
化合物(1)が、一般式(1)で表される構成単位を2以上含む場合には、各構成単位におけるX及びYはそれぞれ同じでもよいし、異なっていてもよい。
【0019】
一般式(1)は、下記一般式(2):
【化4】
で表されることが好ましい。
【0020】
一般式(2)において、R1は、水素原子又はメチル基であり、好ましくは水素原子である。
【0021】
一般式(2)において、R2は、メチル基又はエチル基であり、好ましくはメチル基である。
【0022】
一般式(2)において、nは、1~12の整数であり、好ましくは1~8の整数であり、より好ましくは1~4の整数であり、更に好ましくは1である。
【0023】
一般式(2)において、mは、2~6の整数であり、好ましくは2~4の整数である。
【0024】
一般式(2)において、pは、0又は1であり、好ましくは1である。
【0025】
一般式(2)において、qは、0~2の整数であり、好ましくは1又は2であり、より好ましくは1である。
【0026】
一般式(2)において、rは、0~3の整数であり、好ましくは0又は1であり、より好ましくは0である。
【0027】
特に限定するものではないが、一般式(2)において、R1が水素原子であり、R2がメチル基であり、nが1であり、pが1であり、qが1であり、rが0であることが好ましい。このような構成単位は、メトキシエチルアクリレート(以下「MEA」ともいう。)に由来するものである。MEAに由来する構成単位を複数含む化合物を、ポリメトキシエチルアクリレート(以下「PMEA」ともいう。)と称する。
【0028】
化合物(1)が、一般式(2)で表される構成単位を2以上含む場合には、各構成単位におけるR1、R2、n、m、p、q及びrはそれぞれ同じでもよいし、異なっていてもよい。
【0029】
化合物(1)は、一般式(1)又は(2)で表される構成単位に加えて、その他の構成単位を含んでいてもよい。その他の構成単位は、ナノ粒子の形成に悪影響を与えるものでなければ、特に限定されない。また、その他の構成単位は、生体適合性に悪影響を与えないものであることが好ましい。
【0030】
化合物(1)を構成する全ての構成単位に対する、一般式(1)又は(2)で表される構成単位の量は、好ましくは60モル%以上であり、より好ましくは70モル%以上であり、更に好ましくは80モル%以上であり、特に好ましくは90モル%以上である。このような量とすることによって、生体適合性をより向上させることができる。上限は特に限定されないが、例えば、100モル%、98モル%、又は96モル%としてもよい。
一般式(1)又は(2)で表される構成単位の量は、得られた化合物(1)のNMR測定により定量することができる。また、重合反応後の溶媒に含まれる残存モノマーをガスクロマトグラフィー(GC)又は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にて分析し、仕込み時のモノマー量との差し引きから反応に消費されたモノマーを算出することができる。この結果から、得られた化合物(1)の構成単位を算出することができる。
【0031】
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって得られる化合物(1)の微分分子量分布曲線において、1,000以上5,000以下の分子量の領域(以下「低分子量領域」という。)のピークの面積は、全領域のピークの面積を基準として、5%以上であり、好ましくは10%以上であり、より好ましくは20%以上であり、更に好ましくは30%以上であり、特に好ましくは50%以上である。化合物(1)のうち、低分子量領域のピークに対応する化合物(以下「低分子量化合物」という。)を、水媒体と混合することによってナノ粒子を形成することができる。低分子量領域のピークの面積の割合の上限は特に限定されないが、例えば、100%、99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、又は80%としてもよい。
【0032】
化合物(1)の微分分子量分布曲線は、実施例に記載の方法によって得ることができる。なお、化合物(1)の分子量は、ポリスチレン換算値である。
【0033】
GPCによって得られる化合物(1)の微分分子量分布曲線において、5,000を超える分子量の領域(以下「高分子量領域」という。)のピークに対応する化合物(以下「高分子量化合物」という。)は、低分子量化合物を含むナノ粒子が形成された後、容易に除去可能である。そのため、重合により得られた低分子量化合物と高分子量化合物との混合物から、低分子量化合物を予め単離する工程は省略することができる。高分子量領域の上限は特に限定されないが、例えば、200,000、又は100,000としてもよい。
【0034】
(重合方法)
化合物(1)を合成によって準備する方法は、特に限定されず、既知の重合方法を適宜採用することができる。例えば、国際公開第2016/208642号に記載の重合方法を採用してもよい。
【0035】
準備工程の一例として、重合反応により一般式(1)又は(2)で表される構成単位を形成するモノマーと、重合開始剤と、を溶媒の存在下で反応させる方法が挙げられる。この反応により得られる化合物(1)の微分分子量分布曲線は、例えば、重合開始剤の量を変化させることで調節することができる。すなわち、重合開始剤の量を増やすことにより、低分子量領域のピークの面積の割合を増やすことができる。
【0036】
モノマーの種類は、一般式(1)又は(2)で表される構成単位に応じて適宜選択すればよい。
【0037】
重合開始剤の種類は特に限定されないが、例えば、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、及び2,2’-アゾビス(2-シクロプロピルプロピオニトリル)が挙げられる。
【0038】
溶媒の種類は、重合反応を阻害しなければ特に限定されないが、例えば、エーテル系溶媒(例えば、ジオキサン及びテトラヒドロフラン)、ケトン系溶媒(例えば、メチルエチルケトン)、ニトリル系溶媒(例えば、アセトニトリル及びプロピオニトリル)、アミド系溶媒(例えば、N,N-ジメチルホルムアミド及びN,N-ジメチルアセトアミド)、及び芳香族炭化水素系溶媒(例えば、ベンゼン及びトルエン)が挙げられる。
【0039】
通常、重合反応で化合物(1)を準備すると、低分子量化合物と高分子量化合物との混合物が得られるが、高分子量化合物は、低分子量化合物を含むナノ粒子が形成された後、容易に除去できるため、低分子量化合物を予め単離する工程は省略することが可能である。
【0040】
(分画方法)
低分子量化合物が高分子量化合物と混合状態にある場合、分画によって低分子量化合物を単離してもよい。分画の方法は特に限定されず、既知の方法を適宜採用することができる。例えば、単離対象化合物に対する良溶媒と貧溶媒との割合を段階的に変更した複数の混合溶媒を使用して、複数の画分を得、目的の画分を選択することが挙げられる。低分子量化合物及び高分子量化合物がPMEAの場合には、例えば、トルエンとヘキサンとの混合溶媒を使用して分画を行うことができる。
【0041】
[ナノ粒子形成工程]
本実施形態に係る製造方法におけるナノ粒子形成工程は、化合物(1)と水媒体とを混合して、前記化合物(1)を含むナノ粒子を含む水系混合物を得る工程である。
【0042】
水媒体は、水を含む液体であれば特に限定されないが、生体適合性を有するものが好ましい。
【0043】
水媒体のpHは、生体物質に悪影響を及ぼさない範囲が好ましく、好ましくは5以上9以下であり、より好ましくは6以上8以下である。
【0044】
水媒体としては、例えば、純水、注射用水、生理食塩水、細胞培養液、血漿、及び血清が挙げられる。
【0045】
化合物(1)と水媒体との混合温度は特に限定されないが、生体物質に悪影響を及ぼさない範囲が好ましく、好ましくは10℃以上50℃未満であり、より好ましくは15℃以上40℃以下である。
【0046】
化合物(1)と水媒体との混合を、0℃以上10℃未満で実施し、次に10℃以上50℃未満(好ましくは15℃以上40℃以下)で更に実施してもよい。この方法は、低分子量化合物と高分子量化合物との混合物を使用する際に好適である。すなわち、低分子量化合物及び高分子量化合物(特に、PMEA)は水に難溶性であるが、低温条件では溶解性が向上する性質を有するため、0℃以上10℃未満で混合すると、これらの化合物が溶解する。その際、高分子量化合物に囲まれていた低分子量化合物が解放されることになり、解放された低分子量化合物がナノ粒子を形成することができるため、ナノ粒子の生成効率が向上する。
【0047】
ナノ粒子の好ましい平均粒子径は、その用途に応じて異なるが、例えば、30nm以上1,000nm以下、又は100nm以上500nm以下としてもよい。
ナノ粒子の平均粒子径は、実施例に記載の方法によって測定することができる。
【0048】
[ナノ粒子回収工程]
本実施形態に係る製造方法は、形成されたナノ粒子を回収する工程を更に含むことが好ましい。「回収」とは、ナノ粒子を他の成分から分離し、取得することを意味する。他の成分としては、例えば、ナノ粒子を形成しない高分子量化合物が挙げられる。なお、ナノ粒子を他の成分から分離し、廃棄することは「回収」には該当しない。
【0049】
回収工程としては、例えば、ナノ粒子形成工程で得られた水系混合物を遠心分離し、上澄み液を得る工程が挙げられる。遠心分離により、高分子量化合物は沈殿し、ナノ粒子は上澄みに含まれるため、上澄みを得ることにより、ナノ粒子を回収することができる。
【0050】
遠心分離の遠心力は、例えば、1600~3000×g、又は2000~2600×gとしてもよい。
【0051】
遠心分離の時間は、例えば、5~30分、又は10~20分としてもよい。
【0052】
別の回収工程としては、例えば、ナノ粒子形成工程で得られた水系混合物をろ過し、ろ液を得る工程が挙げられる。ろ過により、高分子量化合物を除去し、ナノ粒子を含むろ液を得ることにより、ナノ粒子を回収することができる。
【実施例0053】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではない。
【0054】
<測定方法>
[微分分子量分布曲線]
ピーク分子量が既知の標準ポリスチレンを用い、該標準ポリスチレンで校正したゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)(島津社製「Prominence GPCシステム」、カラム構成:Tosoh TSK-gel guardcolumn HHR-H、G5000HHR、G4000HHR、G3000HHR)を使用して、重合体の数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)を測定した。(溶媒:テトラヒドロフラン、温度:40℃、流量:1.0mL/min)。得られたクロマトグラムのピーク面積でMw=5000以下の面積を除し、Mw=5000以下のポリマーの含有量を求めた。
【0055】
[ナノ粒子の平均粒子径]
NanoSight NS300、解析ソフトNTA3.4(Malvern社製)を使用してナノ粒子トラッキング解析(NTA)を実施した。
測定サンプル原液をモジュールセルに注入し、青色レーザ(488nm、<45mW)を照射し、その散乱光からサンプル原液中のナノ粒子のブラウン運動の様子をリアルタイムに観察した。その後、室温(27℃)にて60秒毎に合計5回サンプル原液中のナノ粒子のブラウン運動の速度を計測し、当該速度に基づき算出された粒子径の平均値から平均粒子径を算出した。実施例2では、その後37℃に温度設定して10分静置後、同様に平均粒子径を算出した。
【0056】
<ポリメトキシエチルアクリレート(PMEA)の製造>
[PMEA(0)の製造]
溶媒としての1,4-ジオキサン(600g)、2-メトキシエチルアクリレート(MEA)モノマー(30.0g)、及び重合開始剤としてのアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)(1.51g)を混合し、窒素雰囲気下75℃で6時間反応させた。上記の反応を二回繰り返したのち、得られた重合溶液を混合してヘキサン注ぎ込むことでPMEA(0)を58.7g得た。得られたPMEA(0)の分子量はMw=11400、Mn=3250であった。Mw=1000以上5000以下の含有量は38%であった。
【0057】
[PMEA(1)の製造]
上記PMEA(0)(58.7g)をトルエン(500mL)に溶解させ、攪拌しながら徐々にヘキサンを加えた。溶媒の比率(トルエン/ヘキサン)が0.25になった時点で30分間静置し、上澄み液を回収した。上澄み液の溶媒をエバポレーターで除去し、PMEA(1)を得た。PMEA(1)の分子量はMw=1520、Mn=1370であった。Mw=1000以上5000以下の含有量は88%であった。
【0058】
[PMEA(2)の製造]
上記PMEA(0)(58.7g)をトルエン(500mL)に溶解させ、攪拌しながら徐々にヘキサンを加えた。溶媒の比率(トルエン/ヘキサン)が1なった時点で30分間静置し、上澄み液を回収した。上澄み液の溶媒をエバポレーターで除去し、ポリマーを得た。前記ポリマー(40g)をトルエン(500mL)に溶解させ、攪拌しながら徐々にヘキサンを加えた。溶媒の比率(トルエン/ヘキサン)が1.25なった時点で30分間静置し、上澄み液を回収した。上澄み液の溶媒をエバポレーターで除去し、PMEA(2)を得た。PMEA(2)の分子量はMw=17400、Mn=9150であった。Mw=1000以上5000以下の含有量は13%であった。
【0059】
[PMEA(3)の製造]
溶媒としての1,4-ジオキサン(60g)、MEAモノマー(15g)、及び重合開始剤としてのAIBN(15mg)を混合し、窒素雰囲気下75℃で6時間反応させた。残存したMEAモノマー、溶媒、及び低分子量画分を除去するため、良溶媒としてのテトラヒドロフラン(THF)、及び貧溶媒としてのヘキサンを用いて、沈殿精製操作を3度繰り返した。生じた沈殿に対して純水1500mLを加えて12時間攪拌し、水に可溶な成分を除去し、得られた沈殿を回収しPMEA(3)を得た。PMEA(3)の分子量はMw=58300、Mn=20800であった。Mw=1000以上5000以下の含有量は1.3%であった。
【0060】
<ナノ粒子の形成>
[実施例1]
PMEA(1)(0.2g)に純水(10mL)を加え、4℃で1時間静置した後、37℃、2280×gで15分間、遠心分離し、上澄み液を回収した。回収した上澄み液に含まれるPMEAの分子量はMw=1490、Mn=1330であった。
回収した上澄み液を、室温(27℃)でナノ粒子トラッキング解析(NTA)にて分析したところ、平均105nmのナノ粒子が形成されていることを確認した。
【0061】
[実施例2]
実施例1に記載の方法と同様に上澄み液を回収した。実施例2では、前記[ナノ粒子の平均粒子径]の欄に記載のとおり、回収した上澄み液を昇温し、37℃でNTAにて分析したところ、平均448nmのナノ粒子が形成されていることを確認した。
【0062】
[実施例3]
PMEA(1)の代わりにPMEA(2)を使用した以外は実施例1に記載の方法と同様に上澄み液を回収した。回収した上澄み液に含まれるPMEAの分子量はMw=2700、Mn=2280であった。回収した上澄み液を、27℃下でNTAにて分析したところ、平均132nmのナノ粒子が形成されていることを確認した。
【0063】
[比較例1]
PMEA(1)の代わりにPMEA(3)を使用した以外は実施例1に記載の方法と同様に上澄み液を回収した。回収した上澄み液を、27℃でNTAにて分析したところ、ナノ粒子は観察されなかった。