(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023116036
(43)【公開日】2023-08-22
(54)【発明の名称】パターン転写用積層体及び転写方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/08 20060101AFI20230815BHJP
G03F 7/20 20060101ALI20230815BHJP
G03F 7/004 20060101ALI20230815BHJP
G03F 7/11 20060101ALI20230815BHJP
G03F 7/38 20060101ALI20230815BHJP
【FI】
B32B27/08
G03F7/20 501
G03F7/004 512
G03F7/11 503
G03F7/38 511
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022018568
(22)【出願日】2022-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】000100849
【氏名又は名称】株式会社アイセロ
(71)【出願人】
【識別番号】592032636
【氏名又は名称】学校法人トヨタ学園
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 実
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 誠法
【テーマコード(参考)】
2H196
2H197
2H225
4F100
【Fターム(参考)】
2H196AA25
2H196EA02
2H196FA10
2H196GA08
2H197AA01
2H197HA10
2H197JA13
2H225AF01P
2H225AM53N
2H225AM67N
2H225AM80P
2H225AN14N
2H225AP01N
2H225BA04N
2H225CA12
2H225CA13
2H225CB05
2H225CC03
2H225CC21
4F100AK01B
4F100AK01C
4F100AK21B
4F100AT00A
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100CC00B
4F100EH46B
4F100EJ30
4F100EJ85B
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4F100JB09B
4F100JB14C
4F100JK02
4F100JL14
4F100JN17C
4F100JN18
(57)【要約】
【課題】パターニング基材に感光性レジスト層等を介してフォトマスクを密着させて感光をさせるものではなく、水溶性樹脂塗布層と感光済みの感光性レジスト層を基本とする層を、表面が平面、又は平面ではないパターニング基材に積層させて、その後の処理を行なうことができること。
【解決手段】フォトマスク、水溶性樹脂塗布層及び感光性レジスト層をこの順で積層させてなり、フォトマスクと水溶性樹脂塗布層は、その界面で剥離可能であるパターン転写用積層体。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォトマスク、水溶性樹脂塗布層及び感光性レジスト層をこの順で積層させてなり、フォトマスクと水溶性樹脂塗布層はその界面で剥離可能である、パターニング基材にパターンを転写するためのパターン転写用積層体。
【請求項2】
水溶性樹脂塗布層はフォトマスク上に水溶性樹脂溶液を塗布して形成された層である請求項1に記載のパターン転写用積層体。
【請求項3】
感光性レジスト層は、フォトマスクの微細パターンを反映して露光された潜像パターンを有する請求項1又は2に記載のパターン転写用積層体。
【請求項4】
潜像パターンの幅が2μm以下である請求項3に記載のパターン転写用積層体。
【請求項5】
水溶性樹脂塗布層の厚みが、以下の式1で求められる厚み以下である請求項1~4のいずれかに記載のパターン転写用積層体。
式1:厚み=[0.50×(パターン幅)2×(水溶性樹脂塗布層の屈折率)/(露光波長)]
【請求項6】
水溶性樹脂塗布層がポリビニルアルコールである請求項1~5のいずれかに記載のパターン転写用積層体。
【請求項7】
パターン転写用積層体の感光性レジスト層面にフレームを固定し、フォトマスクと水溶性樹脂塗布層はその界面で剥離可能である、請求項1~6のいずれかに記載のパターン転写用積層体。
【請求項8】
フォトマスクの水溶性樹脂塗布層側の面に、該フォトマスクと水溶性樹脂塗布層の界面の剥離を促進する層を有する請求項1~7のいずれかに記載のパターン転写用積層体。
【請求項9】
加工対象であるパターニング基材に密着させる前に、感光性レジスト層を露光するための請求項1~8のいずれかに記載のパターン転写用積層体。
【請求項10】
水溶性樹脂塗布層と感光済み感光性レジスト層のみからなるパターン転写用積層体。
【請求項11】
下記(a)~(g)工程を有する、感光性レジスト層を基材上に転写する方法。
(a)フォトマスクの一方の面に水溶性樹脂溶液を塗布する工程、
(b)得られた水溶性樹脂溶液層を乾燥して水溶性樹脂塗布層を得る工程、
(c)水溶性樹脂塗布層上に感光性レジスト層を形成する工程、
(d)フォトマスク側から光を照射して感光性レジスト層を露光する工程、
(e)フォトマスクから水溶性樹脂塗布層と感光性レジスト層からなる積層体を剥離する工程、
(f)剥離された水溶性樹脂塗布層と感光性レジスト層からなる積層体を、感光性レジスト層がパターニング基材表面に接するように密着する工程、
(g)表面に位置する水溶性樹脂塗布層を水洗して除去し、必要によりパターニング基材表面を現像及び/又は乾燥する工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトマスクに用意された微細パターンを忠実にフォトレジスト膜に転写することが求められる、フォトリソグラフィ微細加工技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ICやMEMSに代表されるデバイスは、高精度で複雑な構造が高度に組み合わされており、微細形状を一括で高い生産性と共に製作できるフォトリソグラフィ技術によって量産されている。生産性を高めるには、より微細なパターンを感光性レジスト膜に形成することがポイントとなる。通常は、レジスト膜を基材に成膜し、パターン状に紫外光照射することでパターンを転写する。
半導体産業は歴史的にみて、2μmより細かな解像力が求められるようになった1980年頃に、ガラスマスクを基板に近接させる方法から、マスクパターンを光学的に縮小した像を露光するステッパを利用する方法に移った。微細パターンを安定に形成することが求められるようになり、ガラスマスクを物理的に近接させる方法では、精度が安定して得られなくなったことを意味する。ステッパを利用する場合であっても、基板面は高度に平坦であることが求められる。これはフォトマスクの平面と基板の平面が、ステッパ装置のレンズを介して平面同士を光学的に一致する関係にするためである。平面度の確保には、大きな努力が払われている。基材が立体になると、上記技術では対応できなくなる。
【0003】
フォトマスク上に用意された微細パターンを、忠実に感光性レジストに転写する技術については、例えば特許文献1~4、非特許文献1~3に開示されている。
特許文献1では、立体構造を有するプラスチック成形品の形状に合わせて作られた、立体フォトマスクを密着させて露光する方法が開示されている。フォトマスクの材料としては、合成樹脂あるいは金属等を用いる。しかしながら、立体形状の上に微細パターン状のフォトマスクを作る方法が別途必要となる。また、フォトレジストを露光する際に、複数の方向からフォトレジストを露光させると共に、露光すべきレジスト面以外の面を遮光マスクで遮光しないと、フォトレジストは均等に露光されない。立体形状ごとに調整が必要な特殊なフォトマスク、及び露光装置が必要になる。
特許文献2には、電子部品の外部接続部がどのような形状であっても、接触子に確実に接触できる接触子製作方法が開示されている。波長の短いX線を利用することで、回折を少なくし、マスクと露光部分に隙間があっても露光パターンが劣化することを避けている。X線用の露光装置は特殊で高価である。更にマスクについても、X線を遮るために厚い金属膜が必要となり、特殊で高価になる。
特許文献3には、立体成形品に電気回路パターンを形成する立体マスクが開示されている。この立体マスクは、光造形法により作製した造形物の表面に不透明性塗膜を施すことにより得たものである。この立体マスクを平面フィルムマスクと接合することによって所望のパターンの開口部を有し、密着されるべき面の立体形状に加工されたフォトマスクを得る。このフォトマスクを、予め感光性レジストを成膜した立体成形品に密着配置し、露光・現像することにより立体的で微細な電気回路パターンが形成された立体回路成形体を得る。パターンをより微細化するには、立体マスク側、立体成形品の両方で精度良く製作することに加え、立体表面の全ての面で密着が必要となるため、これを実現することは難しい。
特許文献4には、水溶性樹脂を持つシート上に感光性レジスト膜を用意し、感光性レジスト膜を基材に貼り付ける前に、フォトマスクと感光性レジスト膜を密着させて露光することで微細パターンを潜像として用意しておく方法が開示されている。立体基材に貼り付けてから現像することで、パターンを立体上に転写する方法である。シートはほぼ平面であるため、フォトマスクに密着することが容易である。例示されたパターン幅は2μmであるが、広域で安定にパターンを得るに至っていない。フォトマスクとレジスト膜を別々の部品として用意し、光の波長を400nm程度の紫外光とする限り、パターン幅2μmが現実的な限界となる。
【0004】
非特許文献1には露光装置技術について網羅的に説明されている。ステッパはレンズを介して、マスク平面とウェハ平面を光学的に一致させる原理を有するが、ウェハの平面度を出すために、ウェハの平面矯正技術が紹介されている。そこでは、真空チャックの真空引き用の溝がウェハを変形させることは勿論、ウェハ裏面とチャック表面の間に挟まった微小な塵もデフォーカスの原因となることが示されている。附表4にはニコン社とキヤノン社の露光装置開発年表があり、ニコン社とキヤノン社の開発機種とその解像力が示されている。初期のステッパは、1970年代後半から導入されており、解像力が2から1μmであったことが分かる。
非特許文献2には、射出成形品の表面に電気回路を形成する立体回路基板(Molded Interconnect Device)が記載されている。機械的機能と電気的機能とを持ったプラスチック射出成形品である。その製作は、a.基板が複数アレイ状に並んだシートをまず用意し、b.金属薄膜を全面にスパッタリング蒸着し、c.レーザ描画により回路パターン形状の輪郭部の金属薄膜を除去し、d.めっきし、e.シートから個別に切断する、ものである。上記c.のレーザ描画は一点加工を繰り返すものである。高密度回路を形成するためには一点加工サイズを微細化することは必須となる。しかし、レーザスポットを小さくすると、一点での加工量が減り、同じ面積であっても時間をかけて処理する(面積は長さの2乗で増加する)ことになるため、生産性は低下する。また、微細化のためにはレーザを大きなNA値を持つレンズで集光することになるが、その焦点深度はNAの2乗で狭くなるため、オートフォーカスの制限が厳しくなる。立体形状に合わせて行うことは技術的に難しくなる。2014年5月時点のパンフレットに、最小線幅50μm、パターン間距離50μmの記述がある。
非特許文献3には、微細パターンを掘り込んだ型を、ポリマー材を成膜した基板に押し付けることで、そのパターンを大量に転写するナノインプリント技術に関する解説である。大面積の型の開発が進んだことで、用途が拡大し、量産が広がりつつあることが開示されている。以前の任意のナノパターンは、電子ビームリソグラフィで製造するマスターモールドの製造コストが高く(10~20nm幅パターンでは2~3cmマスター型で1000万円/枚)、インプリント特有に生じる欠陥発生の技術課題も多かった。このため、光リソグラフィの既存半導体製造技術に対して大きな優位性を示せなかった。100nm程度のパターンで良い新用途は、例えば、液晶パネルの反射防止層形成、偏光フィルム、有機ELパネルの光取り出し効率向上、自動車の窓ガラス等の撥水加工、微細なマイクロレンズアレーから大型レンズまでの光学部品、立体的な細胞の培養等がある。これには、アルミの陽極酸化で作る構造等、自然に構造を発生させる技術が利用された。
また、フォトリソグラフィは、微細形状を一括で高い生産性と共に製作できる長所を持つ。設備コストを抑えることができ、転写可能なパターンが微細になるほど、基材への付加価値を高くできる優れた方法と言える。しかし、これを高い自由度と共に実現できる方法は見い出されていない。感光性レジスト膜を基材面に用意し、フォトマスクを近接させて露光する微細パターン転写方法は、アライナ装置が確立されていると共に、その維持費が比較的安価であるため現在でも広く利用されている。但し、実際に転写可能なパターンサイズは2μm程度に留まる。これよりも微細なパターンを転写しようとしても、フォトマスクのガラス透明部を通り抜けた紫外線が、フォトマスクとレジスト膜間の隙間で不可避的に光回折し、パターンが崩れるためである。2μmよりも微細なパターンを得るには、ステッパが利用される。ステッパは装置とその維持費が高額になる。この維持費を節約できるマスクレス露光装置が市場に出ているが、装置購入に数千万円は下らず高価である。幅1μm程度のフォトマスクは1枚10万円程度であり、これを用いてパターン転写が忠実にできるならば理想的である。なお、高精度な平面でない基材(例えば、曲面や溝付き基材)に、2μm以下のパターンを転写することはステッパやマスクレス露光装置を用いても難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7―286280公報
【特許文献2】特開2005―79055公報
【特許文献3】特開平9―319068公報
【特許文献4】特開2017―071202公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「露光装置技術発展の系統化調査」高橋一雄、国立科学博物館 技術の系統化調査報告 第6集(平成18(2006)年3月31日)http://sts.kahaku.go.jp/diversity/document/system/pdf/022.pdf
【非特許文献2】パナソニック株式会社、3D実装デバイスMIPTEC(パンフレットその他、「MID用高速レーザ加工システム」進藤崇、高橋博、パナソニック電工技法(vol.57、No.3)、pp.10―15)
【非特許文献3】「ナノインプリントに新風 大面積化で用途も拡大」日経エレクトロニクス(2014.3.14)pp.49―58
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はパターニング基材に感光性レジスト層等を介してフォトマスクを密着させて感光をさせるものではなく、水溶性樹脂塗布層と感光済みの感光性レジスト層を基本とする層を、表面が平面、又は平面ではないパターニング基材に積層させて、その後の処理を行なうことができることを課題とする。
更に、本発明は、転写可能なパターンが微細であっても、条件により高い自由度と共に実現できる方法を達成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意した結果、以下の手段で解決できることを見出し、本発明に至った。
1.フォトマスク、水溶性樹脂塗布層及び感光性レジスト層をこの順で積層させてなり、フォトマスクと水溶性樹脂塗布層はその界面で剥離可能である、パターニング基材にパターンを転写するためのパターン転写用積層体。
2.水溶性樹脂塗布層はフォトマスク上に水溶性樹脂溶液を塗布して形成された層である1に記載のパターン転写用積層体。
3.感光性レジスト層は、フォトマスクの微細パターンを反映して露光された潜像パターンを有する1又は2に記載のパターン転写用積層体。
4.潜像パターンの幅が2μm以下である3に記載のパターン転写用積層体。
5.水溶性樹脂塗布層の厚みが、以下の式1で求められる厚み以下である1~4のいずれかに記載のパターン転写用積層体。
式1:厚み=[0.50×(パターン幅)2×(水溶性樹脂塗布層の屈折率)/(露光波長)]
6.水溶性樹脂塗布層がポリビニルアルコールである1~5のいずれかに記載のパターン転写用積層体。
7.パターン転写用積層体の感光性レジスト層面にフレームを固定し、フォトマスクと水溶性樹脂塗布層はその界面で剥離可能である、1~6のいずれかに記載のパターン転写用積層体。
8.フォトマスクの水溶性樹脂塗布層側の面に、該フォトマスクと水溶性樹脂塗布層の界面の剥離を促進する層を有する1~7のいずれかに記載のパターン転写用積層体。
9.加工対象であるパターニング基材に密着させる前に、感光性レジスト層を露光するための1~8のいずれかに記載のパターン転写用積層体。
10.水溶性樹脂塗布層と感光済み感光性レジスト層のみからなるパターン転写用積層体。
11.下記(a)~(g)工程を有する、感光性レジスト層を基材上に転写する方法。
(a)フォトマスクの一方の面に水溶性樹脂溶液を塗布する工程、
(b)得られた水溶性樹脂溶液層を乾燥して水溶性樹脂塗布層を得る工程、
(c)水溶性樹脂塗布層上に感光性レジスト層を形成する工程、
(d)フォトマスク側から光を照射して感光性レジスト層を露光する工程、
(e)フォトマスクから水溶性樹脂塗布層と感光性レジスト層からなる積層体を剥離する工程、
(f)剥離された水溶性樹脂塗布層と感光性レジスト層からなる積層体を、感光性レジスト層がパターニング基材表面に接するように密着する工程、
(g)表面に位置する水溶性樹脂塗布層を水洗して除去し、必要によりパターニング基材表面を現像及び/又は乾燥する工程
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、フォトマスク、水溶性樹脂塗布層及び感光性レジスト層をこの順で積層させてなり、フォトマスクと水溶性樹脂塗布層は、その界面で剥離可能であるパターン転写用積層体にすることができる。このため、パターニング基材表面が平面であっても、平面でなくても、その表面に感光性レジスト層を積層させることができ、ひいては各種の表面に対して感光性レジスト層を介して処理や加工を行なうことができる。また、感光時において、感光性レジスト膜とフォトマスク間の距離を、十分に近接できる程度の水溶性樹脂塗布層とすることができる。この効果に加えて、水溶性樹脂塗布層の厚みが下記式1で求められるパラメータ値以下であれば、露光時の回折広がりによるパターンのぼけを最小限に留めることができる。更に、感光性レジストに幅2μm以下の微細パターンを転写する理想的な条件が得られ、平面又は立体基材上に貼り付け後に現像処理を行うことでパターン転写が可能となる。
式1:厚み=[0.50×(パターン幅)2×(水溶性樹脂塗布層の屈折率)]/(露光波長)
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明のパターン転写用積層体。フォトマスク上に、水溶性樹脂溶液及び感光性レジストを順にスピン成膜して形成する状態を示す図
【
図2】パターン転写用積層体のフォトマスク面側から紫外線を照射し露光することで、感光性レジスト層に潜像を形成する図
【
図3】フォトマスクから水溶性樹脂塗布層及び感光性レジスト層を剥離する状態を示す図
【
図4】フォトマスク周辺部の感光性レジスト層面にフレームを固定したパターン転写用積層体のフォトマスク面側から紫外線を照射し露光することで、感光性レジスト層に潜像を形成する図
【
図5】フォトマスク周辺部に感光性レジスト層面にフレームを固定したパターン転写用積層体を、フレーム側から見た図
【
図6】フォトマスクから、フォトマスク周辺部に感光性レジスト層面上にフレームを固定した水溶性樹脂塗布層及び感光性レジスト層を剥離する図
【
図7】平面及び立体基材に感光性レジスト層を転写する工程を示す図
【
図8】ダイス鋼SKD11に5種の幅の感光性レジストパターンを転写した走査型電子顕微鏡写真
【
図9】
図8の最外周の幅1.1μmパターンの拡大図
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のパターン転写用積層体は、上記のようにフォトマスク、水溶性樹脂塗布層及び感光性レジスト層をこの順で積層させてなることを基本とする。そして、フォトマスクと水溶性樹脂塗布層は、その界面で剥離可能であるパターン転写用積層体であり、特に微細なパターンを転写するために有用である。
以下に本発明のパターン転写用積層体の構造を順に説明する。
【0012】
(フォトマスク)
本発明におけるフォトマスクとしては特に限定されるものではなく、公知のバイナリーマスクや位相シフトマスク等を使用することができる。フォトマスクの片面には、水溶性樹脂塗布層を形成できることが必要である。
フォトマスクは明暗のみを変化させる白黒マスク(バイナリーマスク)でも良く、ガラスに凹凸がある位相シフトマスク等でも良い。また大きさ、形状等は任意に調整できる。
また、フォトマスク、水溶性樹脂塗布層及び感光性レジスト層を一体として取り扱うことができる程度に、フォトマスクと水溶性樹脂塗布層との間は適切な接着力を有することが必要である。同時に、使用時において、水溶性樹脂塗布層をフォトマスクから剥離できる程度の剥離性を有することも必要である。
そのため、必要に応じてフォトマスクの水溶性樹脂塗布層側の表面を処理して、水溶性樹脂塗布層との間の接着力と剥離性を調整しても良い。そのために、フォトマスクの水溶性樹脂塗布層形成側の面に対して、該フォトマスクと水溶性樹脂塗布層の界面の剥離を促進する層として、公知のフッ素化合物(C4F8等)によるCFx膜等の離型材層を予め成膜することが可能である。
フォトマスクから下記の水溶性樹脂塗布層を剥離する手段としては、フィルム状の積層体を剥離する公知の手段を採用できる。この手段としては、フォトマスクの端部を指や器具等でつまんで、剥離方向に力を加える等の手段を採用できる。
【0013】
(水溶性樹脂塗布層)
本発明における水溶性樹脂塗布層は、フォトマスクの片面の全面又は十分な部分に形成される層であり、公知の水溶性樹脂からなる層で良いが、中でも、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリエステル及びポリスチレンスルホン酸から選ばれた1種以上からなる層が挙げられ、中でもポリビニルアルコールからなる層が好ましい。
本発明における水溶性樹脂塗布層は、フォトマスクに対して水溶性樹脂溶液を塗布乾燥してなる層である。そのため、樹脂フィルム等の基材表面に水溶性樹脂溶液を塗布・乾燥し、これをフォトマスクに転写等して積層させてなる層は、本発明における水溶性樹脂塗布層ではない。
水溶性樹脂溶液の25℃での粘度は1000mPa・s以下であることが、均一な水溶性樹脂塗布層を形成させる上で好ましい。その他、水溶性樹脂溶液中の水溶性樹脂の濃度等は、必要な水溶性樹脂塗布層の厚みを達成するために任意に調整し得る。
水溶性樹脂塗布層を構成する水溶性樹脂としては、適切な水溶性を供えることに加えて、水溶性樹脂塗布層をフォトマスクから確実に剥離し、剥離後の水溶性樹脂塗布層と感光性レジスト層の変形等を発生させないことが必要である。そのためには、水溶性樹脂塗布層が高い引張弾性率を有することが好ましい。このような水溶性樹脂塗布層の引張弾性率としては、23℃-50%RH環境下で調湿した後において、500N/mm2以上が好ましく、800N/mm2以上がより好ましく、1100N/mm2以上が更に好ましく、1300N/mm2以上が最も好ましい。500N/mm2未満の場合、フォトマスクから剥離する際に水溶性樹脂塗布層が伸びてしまうため、感光性レジスト層が伸びてレジストパターンのひび割れ等を発生させないように、注意しなくてはならない。
このポリビニルアルコールは変性及び/又は未変性のいずれでもよいが未変性のものが好ましい。変性ポリビニルアルコールの場合には、主鎖中に本発明の効果を阻害しない範囲で、例えば10モル%以下、好ましくは7モル%以下の範囲において、他の単量体を共重合させることができる。但し、アニオン性及びカチオン性の官能基を有する単量体を共重合した場合には、フォトマスクからの剥離が困難になる可能性があり、またレジスト材料との反応により本発明の効果を阻害する可能性があるため、単量体としては、ノニオン性の性質を有するものが好ましい。
ノニオン性の性質を有する単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、イソブチレン、α-オクテン、α-ドデセン、α-オクタデセン等のオレフィン類、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸等のジアルキルエステル類、ポリオキシエチレンビニルエーテル、ポリオキシプロピレンビニルエーテル等のポリオキシアルキレンビニルエーテル類、N-ビニルピロリドン等が挙げられる。これらの他の単量体は、単独でもよく、複数を組み合わせて用いてもよい。
【0014】
ポリビニルアルコールを採用する際には、ポリビニルアルコールのケン化度は60mol%以上が好ましく、70~95mol%が更に好ましい。ケン化度が60mol%未満の場合には、十分な水溶性を有さず、転写工程時に十分に水による溶解除去ができない可能性があり、その場合には、以後の工程に支障をきたす可能性がある。また、ポリビニルアルコールの重合度は500以上が好ましく、600~2000がより好ましく、1000~1500が更に好ましい。ポリビニルアルコールの重合度が500未満の場合には、形成したポリビニルアルコール層の機械的強度が弱く、フォトマスクからの剥離の際にフィルムが破損等する可能性がある。ポリビニルアルコールの重合度が2000を超える場合には、水溶液にした際の粘度が高くなり、フォトマスク上に水溶性樹脂塗布層としてポリビニルアルコール層を形成する際に支障をきたす可能性がある。
【0015】
ポリビニルアルコールには、感光性レジスト層に悪影響を及ぼさない限りにおいて公知の可塑剤を添加することができる。好ましくは、ジオール化合物及び/又はもしくは隣接する水酸基がδ位以降に位置するトリオール化合物を少なくとも1種以上含む。そして、好ましいジオール化合物は数平均分子量が600以上であり、より好ましくは800以上であり、更に好ましくは1000以上である。可塑剤を無添加、もしくはジオール化合物又は隣接する水酸基がδ位以降に位置するトリオール化合物以外の化合物を可塑剤として添加した場合、フォトマスクから剥離する際に確実に剥離できない等の支障をきたし、剥離時のノッキング等でレジストパターンに影響が出る可能性がある。
ここで、隣接する水酸基がδ位以降に位置するトリオール化合物とは、水酸基を3つ有し、そのうちのいずれの水酸基を基準にして、これに結合する炭素元素をα位としたとき、その基準の水酸基と残りの2つの水酸基の間には、最短でそれぞれ炭素や酸素等の原子価2以上の原子が4つ以上結合した化合物である。そして、3つの水酸基のうちの任意の2つの水酸基の組み合わせの全てにおいて、原子価2以上の原子が4つ以上結合することが必要である。
【0016】
例えば、下記化1に示す1,4,8-オクタントリオールは、4位の炭素原子に結合した水酸基を基準にすると、これに隣接する1位及び8位の水酸基の位置はそれぞれδ位及びε位となる。同様にして下記化2に示すオキシエチレングリセリルエーテルでは、分子中の中間に位置する水酸基を基準とすると、隣接の水酸基はそれぞれθ位に位置する。
本発明中の隣接する水酸基がδ位以降に位置するトリオール化合物は、トリオール化合物中の全ての水酸基が互いにδ位以降に位置しあう化合物である。
下記化3に示す1,2,8-オクタントリオールのように、隣接する2つの水酸基の間がδ位以降に位置するが、隣接する別の2つの水酸基の組合せが、γ位までの間に位置する化合物は、本発明における隣接する水酸基がδ位以降に位置するトリオール化合物ではない。
(化1)
(化2)
(化3)
【0017】
また、水溶性樹脂溶液には、本発明の効果を阻害しない範囲において、フォトマスクに形成する際のはじき防止のためのレベリング剤や、水で溶解する際の泡立ちを防ぐ目的で消泡剤を添加することができる。いずれも公知のものを使用でき、中でも非シリコーン系の材料が好ましい。
更に、水溶性樹脂塗布層はその上に感光性レジスト層が形成されることから、感光性レジストの溶液に含まれる溶媒、例えばアセトン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、酢酸2-メトキシ-1-メチルエチル等に侵されないことが必要である。侵された際には水溶性樹脂塗布層が溶解して穴開き等が発生し、本発明の効果を損なう可能性がある。
【0018】
水溶性樹脂塗布層の厚みのうち、好ましい厚みは以下の式1で求められた厚み以下である。
式1:厚み=[0.50×(パターン幅)2×(水溶性樹脂塗布層の屈折率)/(露光波長)]
屈折率が1.50の水溶性樹脂を使用し、求めるパターン幅1μm、使用する露光波長400nmの場合には、式1は、厚み=[0.50×(1μm)2×(1.5)/(0.4μm)]=1.9より、厚みは約1.9μm以下であることが好ましく、同様にパターン幅2μm、露光波長400nmの場合には、厚みは7.5μm以下であることが好ましい。同様に、パターン幅1μm、露光波長250nmの場合には厚み3.0μm以下であることが好ましく、露光波長365nmの場合には厚み2.0μm以下であることが好ましい。水溶性樹脂塗布層の厚みが式1により求めた厚みを超える場合には、フォトマスクと感光性レジスト層の間での光回折によりパターンぼけが発生し、結果としてパターン形状を損なう可能性がある。なお、求めるパターン幅によって、厚み等を広く調整できるが、より微細なパターンでの露光を前提にした通常の使用での厚みは、3.0μm以下が好ましく、2.6μm以下がより好ましく、2.3μm以下が更に好ましく、1.9μm以下が最も好ましい。
また、波長248nm以上での光線透過率が80%以上であることが好ましい。80%未満の場合には、水溶性樹脂塗布層で照射光が吸収され、感光性レジスト膜に照射される光の強度が弱くなり、パターン形状を損なう可能性がある。
【0019】
このような水溶性樹脂塗布層をフォトマスクの一方の面に設けるため、水溶性樹脂を溶媒に溶解してなる水溶性樹脂溶液を用いて、回転装置上に載置したフォトマスクを回転させながら、フォトマスク上に水溶性樹脂溶液を供給するスピンコート、フォトマスク上に水溶性樹脂溶液をスプレーするスプレーコートやスリットダイによるスリットコート等の公知の手段によりフォトマスクの全面に塗布・乾燥して設ける手段を採用しても良い。また、予め離型フィルム上に水溶性樹脂溶液層を形成しておき、この水溶性樹脂溶液層が乾燥する前に、フォトマスク上に公知の手段により転写しても良い。スピンコートにより塗布する場合には、B型粘度計を用いてずり速度1.7s-1で測定した25℃における粘度が350mPa・s以下であることが好ましい。350mPa・sを超える場合には、水溶性樹脂塗布層を形成する際に支障をきたす可能性がある。
このようにフォトマスクの水溶性樹脂塗布層を形成する側の面に、水溶性樹脂の溶液を塗布する等の手段により水溶性樹脂溶液層を形成させ、この水溶性樹脂溶液層を乾燥させることにより、フォトマスクの所望する領域全体に対して均一な水溶性樹脂塗布層を、その領域全面に対して確実に密着させて形成できる。仮に、別フィルムに形成した水溶性樹脂層や感光性レジスト層を、フォトマスクの表面に重ねる場合には、フォトマスク表面との間に密着できない隙間が形成される可能性がある。そして、この結果としてパターンが光回折で広がったり、光干渉縞が重畳してパターンが劣化したりする。
【0020】
(感光性レジスト層)
本発明の実施の形態による感光性レジスト層には、水溶性樹脂塗布層の上に形成できる、公知のポジ型レジスト及びネガ型レジストの両者を使用することができる。その中でも露光波長248nm~436nm(248nm:KrFエキシマレーザー、365nm:i線、436nm:g線)に適したレジストが好ましい。現像の結果、ポジ型レジストを使用した場合には、露光された領域が除去され、露光されなかった領域が基材に残る。ネガ型レジストを使用した場合には、露光されなかった領域が除去され、露光された領域が基材に残る。いずれにしても、感光性レジスト層は、フォトマスクの微細パターンを反映して露光された潜像パターンに基づくパターンが形成される。
感光性レジスト層の厚みは、基材にパターニング後に続くエッチング加工や堆積加工に耐える膜厚が好ましい。例えば、幅1μm、高さ2μmの堆積加工を行う際には、感光性レジスト膜の厚みは2μm以上が好ましい。
【0021】
(フレーム)
本発明においては、フォトマスクと水溶性樹脂塗布層の界面から水溶性樹脂塗布層以降の層の剥離を容易にするために、パターニングされる基材のパターン形成領域の外縁よりも外側の領域に対応するフォトマスク周辺部の感光性レジスト層面にフレームを補強枠として設けることができる。これにより、感光性レジスト層の剛性を向上させて、フォトマスクを水溶性樹脂塗布層の界面から無溶剤で剥離しやすくすることができる。また剥離後の水溶性樹脂塗布層と感光後の感光性レジスト層からなる積層体に対して、ある程度の剛性等を与えることができる。
フレームは感光性レジスト層表面の周縁部に設けることができ、周縁全てにわたって設けても良く、周縁部の複数箇所に分散して互いに独立して設けてもよい。フォトマスク表面をパターニング基材(パターン転写対象の物品)の表面に押し付けるため、フレームは周縁に設けられるのであり、中央部に設けられるのではない。
また、パターニング基材の表面が凸状曲面等である場合、パターン転写用積層体の感光性レジスト面に押圧がかかる場合があり、その際であっても、フレームによりパターン転写用積層体の形状を保ちながら、パターン転写を行うことができる。
フレームの厚さは0.050mm以上が好ましく、0.080mm以上がより好ましく、0.100mm以上が更に好ましく、0.140mm以上が最も好ましい。また1.000mm以下が好ましく、0.500mm以下がより好ましく、0.300mm以下が更に好ましい。例えば、日東電工株式会社製のリバアルファ等が挙げられる。
フレームは、片面が粘着層である厚膜シート状物でよく、感光性レジスト層に対して剥離可能であっても、剥離不可であっても良い。ウェハの加工時に使用する粘着シートが好ましい。
【0022】
(パターニング基材)
パターニング基材は本発明のパターン転写用積層体を使用する加工対象である、パターニング基材としては、表面が平滑又は立体のパターニング基材である。この立体のパターニング基材とは、半導体ウェハやディスプレイ用平面ガラス板のような表面が平滑で丈夫なものではなく、パターンを形成する領域に凹部、凸部、又は凹凸が形成された基材、表面粗さを持つ基材、柔らかいシート等の基材がある。またそのような表面の領域を有する、プリント基板、樹脂及び金属基板等、様々な用途の基材を対象にでき、それらの材料に関しても金属、非金属及び樹脂等の様々なものを対象にできる。そして、本発明のパターン転写用積層体を使用したパターニング基材への加工は、模様や回路の形成、エッチング等、公知の目的の加工とすることができる。特に微細なテキスチャ付き曲面金型(赤外線用レンズの反射防止構造等)や微細パターンを有する圧延ロール、曲面や壁面に設ける立体配線、マイクロコイル電気回路部品や磁気センサを設けたもの、電池内部構造のセパレータ等の幅が2.0μm以下のパターン等を得ることを目的としたパターニング基材を加工対象にすることができる。また、平面であっても幅が2.0μm以下のパターン等を設けるパターニング基材も加工対象にすることができる。
また、パターニング基材の用途、材料、形状、相対的な大きさ、配置、成膜方法、微細パターン転写方法におけるプロセス条件や追加の前処理や後処理等は限定されるものではない。そのため本発明のパターン転写用積層体は、上記の表面が平滑で丈夫なパターニング基材のみならず、表面形状が立体であったり、柔らかいパターニング基材に対してパターンを転写するためのものも包含する。
そして、加工対象であるパターニング基材にパターン転写用積層体を密着させる前に、本発明のパターン転写用積層体の感光性レジスト層を露光することが好ましい。
ただし、水溶性樹脂塗布層を水により除去する工程を必要とするので、パターニング基材は水に対して不溶性であることが必要である。
【0023】
(パターン転写用積層体の構造及びその製造方法)
図1に示すように、本発明のパターン転写用積層体1は、フォトマスク4、水溶性樹脂塗布層3、感光性レジスト層2を順に積層してなる積層体を基本とする。その具体的な構造、製造方法、及び使用方法の例を以下に示す。また、図示はしないが、感光性レジスト層2の表面に、剥離可能な保護層を設けて、パターン転写用積層体の保管時や、露光後のパターニング基材への密着直前までの間、感光性レジスト層2表面の汚染等を防止するようにしても良い。
【0024】
図1に示すように、本発明のパターン転写用積層体1は、フォトマスク4をスピン成膜用ヘッド5の上面に固定して回転させながら、フォトマスク4上のマスクパターン4Aがある面に、まず水溶性樹脂溶液を供給してスピンコートし、この層を乾燥させることにより水溶性樹脂塗布層3を形成し、更にその上に、同じく感光性レジスト層2をスピンコートして順に成膜して得たものである。
【0025】
(a)フォトマスクの一方の面に水溶性樹脂塗布層3を塗布する工程
フォトマスクの一方の面に水溶性樹脂塗布層3を得るための水溶性樹脂溶液の塗布工程としては、確実に均一な水溶性樹脂塗布層3を形成できる手段であれば良い。そして、上記のスピンコート以外にもスプレーコートやスリットコート等の任意の手段を採用可能である。
【0026】
(b)得られた水溶性樹脂溶液層を乾燥して水溶性樹脂塗布層3を得る工程
得られた水溶性樹脂溶液層の乾燥手段としては特に限定されない。任意の加熱手段による加熱を行って乾燥させてもよく、水溶性樹脂溶液層が十分に薄いときには、自然乾燥による乾燥でも良い。
得られた水溶性樹脂塗布層3は、全ての箇所において、フォトマスク4に完全に密着している。仮に、水溶性樹脂からなる層を予め得たフィルムをフォトマスクに被覆する手段を採用すると、両者を確実に完全に密着させるには相当の技量を有し、技量があったとしても相当に困難である。
【0027】
(c)水溶性樹脂塗布層3上に感光性レジスト層2を形成する工程
水溶性樹脂塗布層上に液状の感光性レジスト液を、水溶性樹脂塗布層3を形成するために採用できる塗布の手段と同様の手段を独立して採用できる。いずれにしても、確実に均一な感光性レジスト層2を形成できる手段であれば良い。
また、形成直後の感光性レジスト層2に対して、必要に応じて任意の加熱手段による加熱を行って乾燥させてもよく、感光性レジスト層2の厚みを考慮して、自然乾燥による乾燥でも良い。
【0028】
図2はパターン転写用積層体の断面図であり、フォトマスク4上に形成した水溶性樹脂塗布層3上に、感光性レジスト層2を成膜してなる。
(d)フォトマスク側から光を照射して感光性レジスト層を露光する工程
予めフォトマスク4のマスクパターン4Aの無い面側(
図2中の上方)から紫外線6等を照射して、感光性レジスト層2をマスクパターン状に露光することにより、潜像パターンである紫外光が照射されて感光済みの感光性レジスト2Aを有するパターン転写用積層体1Aを得る。この紫外光が照射された感光性レジスト2Aは紫外線が照射されて変化した感光性レジストであり、2Bは紫外線がフォトマスクにより遮光された結果、照射されずに、元の状態のままの感光性レジストである。
【0029】
(e)フォトマスクから水溶性樹脂塗布層3と感光性レジスト層2からなる積層体を剥離する工程
図3はパターン転写用積層体1Aを、フォトマスク4と水溶性樹脂塗布層3の界面において、フォトマスク4と、水溶性樹脂塗布層3及び感光性レジスト層2を剥離する図である。なお、フォトマスクから水溶性樹脂塗布層3と感光性レジスト層2からなる積層体を剥離する工程は、フォトマスクを水溶性樹脂塗布層3と感光性レジスト層2からなる積層体から剥離する工程も包含する。
フォトマスクから、水溶性樹脂塗布層3と感光性レジスト層2からなる積層体を剥離する工程において、フォトマスクに密着する水溶性樹脂塗布層3の端部から、剥離のきっかけとして小さい剥離域を形成させ、これをつまむことができる治具等でつまみ、徐々に剥離域を広げながら水溶性樹脂塗布層3全体に剥離域を拡大して、フォトマスク4と水溶性樹脂塗布層3全体を剥離する。この結果としてフォトマスクから水溶性樹脂塗布層3と感光性レジスト層2からなる積層体を得る。また、フォトマスク4の上に水溶性樹脂塗布層3を形成させる際に、フォトマスク4又は水溶性樹脂塗布層3のいずれかに対して、より密着性が強い小片(紙片、樹脂フィルム片、繊維片等)を、フォトマスク4と水溶性樹脂塗布層3の間であって、その小片の端部が水溶性樹脂塗布層3の端部から外部にはみ出すように設けてもよい。フォトマスクから、水溶性樹脂塗布層3と感光性レジスト層2からなる積層体を剥離する際には、治具や指先で小片の端部をつまんで、フォトマスク4と水溶性樹脂塗布層3を分離させることができる。
また、フォトマスク4の端部表面(水溶性樹脂塗布層3が形成されていない側の面)にポリイミド等を基材とする任意の粘着テープを貼付し、このテープの端部を指先で摘んでフォトマスクを剥がす方向に引っ張ることで、フォトマスク4と水溶性樹脂塗布層3の界面の端部等をわずかに剥がすことで、続く剥離のきっかけを作る。次いで、その端部のきっかけをピンセットで摘んでフォトマスク4を水溶性樹脂塗布層3以降の層から剥離させても良い。
なお、水溶性樹脂塗布層3及び感光性レジスト層2に影響を及ぼさない限りにおいて、有機溶剤等の公知の剥離剤を使用することができる。
【0030】
図4はフォトマスク4と、水溶性樹脂塗布層3以降の層の剥離を円滑に進める等のために、予め補強枠としてフレーム7を貼り付けたパターン転写用積層体1Bである。
図5はフォトマスク4を設けた状態をフレーム7側から見た図である。フォトマスク4の周辺部は、パターニングされる基材よりも外に設計できるため、この周辺部に補強枠としてフレーム7を設けることができる。この結果、例えば使用時において、フレーム7を把持しつつ、フォトマスク4と水溶性樹脂塗布層3との間を離すように力を与えることにより、フレーム7を有しない場合よりも円滑に水溶性樹脂塗布層3と感光性レジスト層2からなる積層体を剥離できる。
【0031】
図6は、補強枠としてフレーム7を貼り付けたパターン転写用積層体1Bのフォトマスク4と水溶性樹脂塗布層3の界面より水溶性樹脂塗布層3以降の層を剥離する図である。フレーム7を設けることで水溶性樹脂塗布層3及び感光性レジスト層2が補強され、剥離時のきっかけとなるため、剥離剤等を使用せず無溶剤な工程が可能となる。このようなフレーム7を設けることにより、水溶性樹脂塗布層3及び感光性レジスト層2からなる積層体全体の剛性を高めることができる。この結果として、この剥離工程を円滑に進めることができ、かつその後の水溶性樹脂塗布層3と感光性レジスト層2からなる積層体の取り扱い性を容易にさせることができる。
フレームの形状は
図5に示すものに限定されず、
図5において内周が円形でなくても良く、外形も正方形でなくても良い。更に
図6においてフレームの厚さは任意であり、水溶性樹脂塗布層3及び感光性レジスト層2が補強され、剥離時のきっかけになる程度に厚ければ良い。
【0032】
(f)剥離された水溶性樹脂塗布層3と感光性レジスト層2からなる積層体を、感光性レジスト層2がパターニング基材表面に接するように密着する工程
図7は、パターン転写用積層体1A及び1Bのフォトマスク4から剥離させた水溶性樹脂塗布層3及び感光性レジスト層2を、感光性レジスト層2側よりパターニング用平面基材8及びパターニング用立体基材9に密着させ、必要に応じて加熱により貼り付ける図である。その後、水溶性樹脂塗布層3は、水に溶解するために水洗除去されるため、感光性レジスト層2に影響を与えることなく水洗により除去することができる。更に、現像することによりパターニング用平面基材8上及びパターニング用立体基材9上に感光性レジスト層2の微細パターンを転写できる。
【0033】
(g)表面に位置する水溶性樹脂塗布層3を水洗して除去し、必要によりパターニング基材表面を現像する工程
上記(f)工程によりパターニング基材表面に、感光性レジスト層2を介して設けた水溶性樹脂塗布層3を水洗により除去する。
水洗の手段としては、水溶性樹脂塗布層3に対して水性液体を噴霧して、水溶性樹脂を溶解させて除去する手段や、パターニング基材ごと水性液体に浸漬して、水溶性樹脂を溶解させる手段等の任意の手段を採用できる。このようにして基材上に感光性レジスト層を転写できる。
【0034】
上記(g)工程の後、感光性レジスト層2に適合した任意の条件により現像をする。その後、目的とするパターンを得るように、蒸着、めっき堆積、イオン注入、エッチング等の公知の処理を行なうことができる。
【実施例0035】
以下、実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明する。なお、実施例は本発明の1形態を示すものであり、本発明はこれに限定されるものではない。
(フォトマスク)
フォトマスクは円周上に5種のライン―アンド―スペースのパターンが並んだ形状をデザインしたバイナリーマスクを使用した。中心から外周に向かって徐々に微細になっており、パターン幅は11.5μm、6.6μm、3.7μm、2.1μm及び1.1μmである。
【0036】
(水溶性樹脂水溶液)
日本酢ビ・ポバール社製のJポバール(JP-15:ケン化度90mol%、重合度1500(PVA1用)、JP-10:ケン化度90mol%、重合度1000(PVA2用)、JP-05:ケン化度89mol%、重合度600(PVA3、7及び8用)、JR-05:ケン化度70mol%、重合度600(PVA4及び9用)、JP-03:ケン化度90mol%、重合度300(PVA5用)、JP-24:ケン化度90mol%、重合度2400(PVA6用)、を用いて、表1に示される組成のPVA1~PVA9の水溶性樹脂水溶液を調製した。可塑剤添加量はPVA1~8は水溶性樹脂100重量部に対しそれぞれ5重量部添加した。表1の粘度はB型粘度計(東機産業社製TVB-10)を用いて25℃、ずり速度1.7s-1で測定した。
【0037】
【0038】
(感光性レジスト)
感光性レジストはノボラック樹脂系のポジ型レジスト(AZ1500、Clariant社)を使用した。
【0039】
(パターニング基材)
パターニング基材1は、外径21.4mmのダイス鋼SKD11を使用した。この表面を#10000にて研磨した。
パターニング基材2は、立体形状基材として、外径25mm、曲率半径130mmの湾曲面の高低差が0.6mmである平凸レンズを使用した。
【0040】
(パターン転写用積層体の作製)
スピンコーターの成膜用ヘッドにフォトマスクを固定し、フォトマスク上に表1に記載の水溶性樹脂水溶液を滴下、スピンヘッドを回転、乾燥させることで水溶性樹脂塗布層を得た。水溶性樹脂塗布層の厚みは水溶性樹脂水溶液塗布時のスピンヘッドの回転数で調整した。乾燥は80℃で実施した。その後、水溶性樹脂塗布層上に感光性レジストとしてポジ型レジストを滴下、スピンヘッドを回転、ベークすることで表2に記載の実施例1~4、及び6のパターン転写用積層体を得た。感光性レジスト層の厚みはスピンヘッドの回転数で調整した。
また、表2の実施例5及び7はパターニング基材の外径よりも外側に補強枠として厚さ175μmのフレーム(厚膜フレーム(リバアルファ、日東電工社))を固定した。
水溶性樹脂塗布層及び感光性レジスト層の厚みは段差計及びエリプソメーター(波長632.8nm)により測定した。
(露光)
マスクアライナを用いて実施例1~7のパターン転写用積層体のフォトマスク側から露光(水銀ランプ、波長365nm)を行い、感光性レジスト層に潜像パターンを得た。
【0041】
【0042】
(実施例及び比較例)
(パターン転写用積層体の作製)
実施例及び比較例として表3のパターン転写用積層体を得た。実施例8及び9は実施例1の水溶性樹脂塗布層の厚みを変えたものである。実施例10は実施例8と同じパターン転写用積層体を使用したが、下記表5に示すように、特に微細なパターン形成のみの場合の例であり、水溶性樹脂塗布層の厚みによっては、対応できないパターン幅があることを示す。比較例1では水溶性樹脂塗布層を設けず、比較例2及び3は実施例3の水溶性樹脂塗布層の重合度を変えたものである。比較例4及び5は実施例3の水溶性樹脂塗布層の可塑剤種を変えたもの、比較例6は水溶性樹脂塗布層に可塑剤が含まれていないものである。水溶性樹脂塗布層の厚みは水溶性樹脂水溶液塗布時のスピンヘッドの回転数で調整し、乾燥は80℃で実施した。その後、水溶性樹脂塗布層上に感光性レジストとしてポジ型レジストを滴下、スピンヘッドを回転、ベークし、比較例1~6のパターン転写用積層体を得た。
(露光)
マスクアライナを用いて比較例1~6のパターン転写用積層体のフォトマスク側から露光(水銀ランプ、波長365nm)を行い、感光性レジスト層に潜像パターンを得た。
【0043】
【0044】
比較例7では、ポリエステルフィルム上に表1のPVA1をバーコーターで塗布、80℃で乾燥することで厚み2.0μmの水溶性樹脂層を形成し、この水溶性樹脂層上にポジ型の感光性レジストをスピンコーターにより塗布、乾燥し、厚み1.5μmの感光性レジスト層を得た。その後、ポリエステルフィルムを剥離し、フォトマスクと水溶性樹脂層表面を合わせて、感光性レジスト側より熱と圧力を掛けて密着させた。この場合の水溶性樹脂層は本発明でいう水溶性樹脂塗布層ではない。
次いで実施例1と同様に露光(水銀ランプ、波長365nm)を行い、感光性レジスト層に潜像パターンを得た。
【0045】
比較例8では水溶性樹脂塗布層及び感光性レジスト層を設けずに、ポジ型の感光性レジストをパターニング基材2に直接スピン成膜した。その後、レジスト側にフォトマスクを近接させて、マスクアライナを用いて露光(水銀ランプ、波長365nm)を行い、感光性レジスト層に潜像パターンを得た。
【0046】
(水溶性樹脂塗布層の引張弾性率)
表1の水溶性樹脂水溶液を離型処理ポリエステルフィルム上にバーコートにより塗工・乾燥させ、23℃-50%RH環境下で調湿した後に、水溶性樹脂塗布層を剥離し、JIS K 7161-1:2014に従い、引張試験機を用いて引張弾性率を測定した。
【0047】
(パターン転写)
<フォトマスクからの剥離>
露光後潜像パターンを得た実施例1~4、6、8及び比較例1~6について、フォトマスクの端部表面にポリイミド粘着テープを貼付し、このテープを指先で摘んでフォトマスクを剥がす方向に引っ張ることで、フォトマスクと水溶性樹脂塗布層の界面の端部に剥離のきっかけを作る。次いで、その端部のきっかけをピンセットで摘んでフォトマスクを水溶性樹脂塗布層以降の層から剥離させ、感光性レジスト層等に影響を与えるかどうかを確認した。実施例5、7、9及び10については、厚膜フレームをピンセットでつまんでフォトマスクと水溶性樹脂塗布層の界面より剥離させた。
〇:フォトマスクからレジスト層等に悪影響を与えることなく剥離可能
×:フォトマスクからレジスト層等に悪影響を与えることなく剥離できない
【0048】
<パターニング基材1への転写>
実施例1~5、8及び9、比較例1~6について、フォトマスクから剥離した水溶性樹脂塗布層以降の層を感光性レジスト層側から基材であるパターニング基材1に真空密着させた。その後、水溶液樹脂塗布層を水洗により除去後、現像液に浸漬し、潜像パターンを現像した。実施例5及び実施例9のフレームは、水溶性樹脂塗布層の水洗工程で同時に除去した。比較例7は露光後、水溶性樹脂層を水洗により除去後、現像液に浸漬し、潜像パターンを現像した。
〇:パターン不良なし
×:ぼけ等のパターン不良あり
【0049】
<パターニング基材2への転写>
実施例6、7及び10について、フォトマスクから剥離させた水溶性樹脂塗布層以降の層を感光性レジスト層側からパターニングの基材2に真空密着させた。その後、水溶液ポリマー層を水洗により除去後、現像液に浸漬し、潜像パターンを現像した。実施例7及び10のフレームは、水溶性樹脂塗布層の水洗工程で同時に除去した。比較例8は露光後、現像液に浸漬し、潜像パターンを現像した。
〇:パターン不良なし
×:ぼけ等のパターン不良あり
【0050】
【0051】
【0052】
表4によると実施例1~5はいずれのパターン幅においても良好な転写結果が得られた。
図8はパターニング基材に転写したレジストパターンの走査型電子顕微鏡写真の一例である。中心から外周に向かって段階的に微細になっている5種のパターンである。
図9は
図8の最外周の幅1.1μmのパターンの拡大図である。
本実施例の水溶性樹脂塗布層の屈折率1.50、i線の露光波長365nmにおいてパターン幅1.1μm、2.1μm、3.7μm、6.6μm、11.5μmにおける、式1による厚みはそれぞれ、2.5μm、9.1μm、28.1μm、89.5μm及び271.7μmとなり、表2の実施例1~5の水溶性樹脂塗布層の厚みはパターン幅1.1μmにおける該厚み以下であったことから、パターン幅1.1μmの転写がパターンぼけ等なく可能であった。
【0053】
下記の各比較例は、水溶性樹脂塗布層を均一に塗布できなかったり、フォトマスクと水溶性樹脂塗布層をその界面で剥離することが困難な例である。均一な塗布は水溶性樹脂水溶液の濃度調整等により、剥離性の向上は水溶性樹脂水溶液中の添加剤の調整等により改善できるものである。これらの比較例は、本発明において、フォトマスクと水溶性樹脂塗布層はその界面で剥離可能である、という条件を満たさない例として示した。
比較例1では、水溶性樹脂塗布層を設けていないため、感光性レジスト層が剥離できず転写が不可能であった。実施例8では、パターン幅2.1μm以上のときには良好にパターン転写できたが、水溶性樹脂塗布層の厚みが式1を満たさなかったパターン幅1.1μmでは、良好なパターン転写が得られなかった。同様に実施例9ではパターン幅3.7μm以上のときには良好にパターン転写できたが、水溶性樹脂塗布層の厚みが式1を満たさなかったパターン幅2.1μm以下では、良好なパターン転写が得られなかった。
以上の結果より、更に微細で良好なパターン転写を得るには水溶性樹脂塗布層の厚みが式1から得られる厚み以下が好ましい。
比較例2では、水溶性樹脂塗布層として採用したポリビニルアルコールの重合度が低いため、水溶性樹脂塗布層の強度が弱く、フォトマスク端部の剥離のためのきっかけから剥離する際に水溶性樹脂塗布層が破れ、それに伴い感光性レジスト層が破損した。つまり、剥離可能に形成することができなかった。
比較例3では、水溶性樹脂水溶液の粘度が高く、スピンコートによりフォトマスク上に均一な水溶性樹脂塗布層を設けることができず、続く感光性レジスト層の厚みも不均一となりパターン形状に支障をきたした。
比較例4及び5では、水溶性樹脂塗布層の弾性率が低く、フォトマスク端部のきっかけから剥離する際にフィルムが伸び、それに伴い感光性レジスト層が破損した。つまり、剥離可能に形成することができなかった。
比較例6では、フォトマスク端部のきっかけからの剥離が困難であり、感光性レジスト層が破損した。つまり、剥離可能に形成することができなかった。
比較例7では、水溶性樹脂塗布層をフォトマスク上に設けていないため、露光時にフォトマスクを水溶性樹脂層に密着させた際に、フォトマスクと水溶性樹脂層の間で光回折等が起こり、パターン幅6.6μm、3.7μm、2.1μm及び1.1μmにおいて水溶性樹脂層の厚みが式1を満たしているが、良好なパターンを得ることができなかった。
【0054】
表5によると、実施例6及び7はいずれも表2の水溶性樹脂塗布層の厚みがパターン幅2.1μm及び1.1μmの式1の厚み以下の値であり、立体形状のパターニング基材に対して良好なパターン転写を得た。実施例10は、水溶性樹脂塗布層の厚みが式1を満たしたパターン幅2.1μmでは良好なパターン転写が得られたが、式1を満たさなかったパターン幅1.1μmでは、良好なパターン転写が得られなかった。以上の結果より、立体形状のパターニング基材に対しても、更に微細で良好なパターン転写を得るには水溶性樹脂塗布層の厚みが式1から得られる厚み以下が好ましい。
比較例8は、パターニング基材に感光性レジストを直接塗布しフォトマスク4越しに露光したものである。パターニング基材は湾曲面のために0.6mmの高低差があり、このギャップ中で生じる光回折により均一な露光が達成できず、良好なパターンを得ることができなかった。
全実施例について、感光性レジスト層上にフレームを設けた場合には、フォトマスクの剥離時、及びパターニング基材へのレジスト層の密着時における取り扱い性が、設けない場合よりも向上した。
本発明のパターン転写用積層体は、シリコンウェハ等の高度に平滑な基材だけでなく、鋼材のような表面が比較的荒れた形状の基材への微細パターンの転写が可能であり、また、立体形状の基材への微細パターンの転写が可能である。微細パターンとして生物模倣パターンを設計した際には、生物の持つ機能を表面に与えることが可能である。
立体形状を持つ基材へのフォトリソグラフィ技術による微細加工は、機能として立体形状を必要とするセンサ・アクチュエータ・マイクロ流路等のMEMSデバイス、光導波路とも整合する形で素子を配置する必要がある光デバイスシステム、LSIやイメージセンサ等の既存の平面デバイスを複数積み上げる等によって実現する3次元LSI等の小型集積システム、ウェハとは同様に扱えない精密機械部品中の局所的な平坦部・湾曲面をもつ部材やその製造に利用する金型、等に求められている。これらに応える加工技術が、フォトリソグラフィ技術が持つ一括で多点同時処理の特徴を維持しながら実現できるほど、生産性が高い技術となり産業に利用される可能性が高い。