(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023116044
(43)【公開日】2023-08-22
(54)【発明の名称】水性塗料組成物及びその硬化塗膜、並びに、塗装物品
(51)【国際特許分類】
C09D 133/00 20060101AFI20230815BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20230815BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20230815BHJP
C09D 7/45 20180101ALI20230815BHJP
C09D 201/04 20060101ALI20230815BHJP
【FI】
C09D133/00
C09D5/02
C09D7/61
C09D7/45
C09D201/04
【審査請求】有
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022018578
(22)【出願日】2022-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】000100780
【氏名又は名称】アイシン化工株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000615
【氏名又は名称】弁理士法人Vesta国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高平 孝嘉
(72)【発明者】
【氏名】堀井 誠治
(72)【発明者】
【氏名】澤上 利貴
(72)【発明者】
【氏名】田中 徹
(72)【発明者】
【氏名】浅野 英貴
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CD091
4J038CG001
4J038HA026
4J038HA216
4J038KA09
4J038MA08
4J038MA10
4J038MA13
4J038NA03
4J038NA05
4J038PB07
(57)【要約】
【課題】酸化マンガン系触媒を含んでいてもチョーキングが生じ難く耐候性の高い塗膜となること。
【解決手段】水性塗料組成物は、酸化マンガン系触媒と、活性炭と、水性樹脂と、分散剤とを含み、水を溶媒の主成分とし、水性樹脂がアクリル樹脂、変性アクリル樹脂、フッ素樹脂のうちの1種または2種以上であるものである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化マンガン系触媒と、活性炭と、水性樹脂と、分散剤とを含み、水を溶媒の主成分とする水性塗料組成物であって、
前記水性樹脂がアクリル樹脂、変性アクリル樹脂、フッ素樹脂のうちの1種または2種以上であることを特徴とする水性塗料組成物。
【請求項2】
前記水性樹脂は、前記酸化マンガン系触媒と前記活性炭の合計量を100質量部に対し、20質量部~400質量部の範囲内の配合であることを特徴とする請求項1に記載の水性塗料組成物。
【請求項3】
前記水性樹脂は、前記酸化マンガン系触媒100質量部に対し、30質量部~500質量部の範囲内の配合であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の水性塗料組成物。
【請求項4】
前記アクリル樹脂または前記変性アクリル樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が-30℃~130℃の範囲内であることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1つに記載の水性塗料組成物。
【請求項5】
前記フッ素樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が-30℃~100℃の範囲内であることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1つに記載の水性塗料組成物。
【請求項6】
前記酸化マンガン系触媒と前記活性炭の合計量は、前記酸化マンガン系触媒と前記活性炭と前記水性樹脂の合計量を100質量部に対し、25質量部~75質量部の範囲内の配合であることを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか1つに記載の水性塗料組成物。
【請求項7】
前記酸化マンガン系触媒は、前記活性炭100質量部に対し、11質量部~900質量部の範囲内の配合であることを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れか1つに記載の水性塗料組成物。
【請求項8】
前記酸化マンガン系触媒は、前記酸化マンガン系触媒と前記活性炭と前記水性樹脂の合計量を100質量部に対し、5質量部~65質量部の範囲内の配合であることを特徴とする請求項1乃至請求項7の何れか1つに記載の水性塗料組成物。
【請求項9】
酸化マンガン系触媒と、活性炭と、水性樹脂とを含む硬化塗膜であって、
前記水性樹脂がアクリル樹脂、変性アクリル樹脂、フッ素樹脂のうちの1種または2種以上であることを特徴とする硬化塗膜。
【請求項10】
前記水性樹脂は、前記酸化マンガン系触媒と前記活性炭の合計量を100質量部に対し、20質量部~400質量部の範囲内の含有であることを特徴とする請求項9に記載の硬化塗膜。
【請求項11】
前記水性樹脂は、前記酸化マンガン系触媒100質量部に対し、30質量部~500質量部の範囲内の含有であることを特徴とする請求項9または請求項10に記載の硬化塗膜。
【請求項12】
前記アクリル樹脂または前記変性アクリル樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が-30℃~130℃の範囲内であることを特徴とする請求項9乃至請求項11の何れか1つに記載の硬化塗膜。
【請求項13】
前記フッ素樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が-30℃~100℃の範囲内であることを特徴とする請求項9乃至請求項12の何れか1つに記載の硬化塗膜。
【請求項14】
前記酸化マンガン系触媒と前記活性炭の合計量は、前記酸化マンガン系触媒と前記活性炭と前記水性樹脂の合計量を100質量部に対し25質量部~75質量部の範囲内の含有であることを特徴とする請求項9乃至請求項13の何れか1つに記載の硬化塗膜。
【請求項15】
前記酸化マンガン系触媒は、前記活性炭100質量部に対し、11質量部~900質量部の範囲内の含有であることを特徴とする請求項9乃至請求項14の何れか1つに記載の硬化塗膜。
【請求項16】
前記酸化マンガン系触媒は、前記酸化マンガン系触媒と前記活性炭と前記水性樹脂の合計量を100質量部に対し、5質量部~65質量部の範囲内の含有であることを特徴とする請求項9乃至請求項15の何れか1つに記載の硬化塗膜。
【請求項17】
酸化マンガン系触媒と、活性炭と、水性樹脂とを含む硬化塗膜が基材面上に形成された塗装物品であって、
前記水性樹脂がアクリル樹脂、変性アクリル樹脂、フッ素樹脂のうちの1種または2種以上であることを特徴とする塗装物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、車両の構造部品、送風機等の大気が流れる部位に適用し、大気中のオゾンを分解して大気を浄化することができる水性塗料組成物及びその硬化塗膜、並びに、塗装物品に関するもので、特に、塗膜の耐候性を良好にできる水性塗料組成物及びその硬化塗膜、並びに、塗装物品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
工場や自動車から排出される排気ガスに含まれる窒素酸化物(NOX)、非メタン有機ガス(Non-Methane Organic Gases:NMOG)、炭化水素類(HC)等の揮発性有機化合物(Volatile Organic Compounds:VOC)は、大気中の酸素との化学反応や太陽光の紫外線による光化学変化によって、光化学オキシダント(Ox)に変換される。この光化学オキシダントは、オゾン(O3)を主成分とする大気汚染物質、即ち、環境負荷物質であり、光化学スモッグの原因となるものである。我が国では、光化学オキシダントの環境基準が1時間値で0.06ppm以下と定められているが、その現状は基準値超過が続いている状態であり、近年の地球環境保全問題の世界的な意識の向上の中で、光化学オキシダントの早急な削減対応が望まれている。
【0003】
そこで、光化学スモッグの発生を阻止する技術として、本出願人らは、先に、特許文献1として、大気に触れる箇所に塗装(コーティング)することで大気に含まれるオゾンを分解し大気を浄化できる水性塗料組成物を提案した。
この特許文献1の技術においては、酸化マンガン系触媒と活性炭とを併用することにより高いオゾン分解性が得られるものとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-152871号公報(特許第6945938号公報)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、オゾン分解触媒である酸化マンガン系触媒及び活性炭を含有する塗膜においては、耐候性が弱い問題がある。これは、塗膜に酸化マンガン系触媒が含まれていると、それが光を吸収して光触媒作用を生じることにより塗膜成分を分解、破壊し、塗膜の劣化を促進させるためである。更に、酸化マンガン系触媒と活性炭の含有によりオゾン分解作用を有する塗膜においては、オゾン分解で生じた酸素が塗膜の劣化(酸化劣化)を促進させる一因となっていることも考えられる。
【0006】
ここで、酸化マンガン系触媒及び活性炭を配合した水性塗料組成物を空気流が生じる箇所に塗布すれば、その空気流との接触で、効率的に大気中のオゾンを分解し大気を浄化することが可能となる。例えば、自動車であれば、自動車のラジエータやその付近の電動ファン、グリルシャッタ等の車両走行時やファンの回転により空気通過量が多い箇所に塗布することにより、車両走行時等にオゾンを酸素に還元し、大気を効果的に浄化することが可能となる。
しかし、こうした自動車の構造部品、特に、外装部品においては、光照射を受けることがあり、そこに酸化マンガン系触媒及び活性炭を含有する塗膜を塗布した場合には、塗膜に光触媒作用を有する酸化マンガン系触媒が含まれていることで、酸化マンガ系触媒付近の樹脂の劣化により酸化マンガン系触媒が樹脂と剥離してしまうチョーキング(白亜化)現象が生じやすくなる。
【0007】
そこで、本発明は、酸化マンガン系触媒を含んでいてもチョーキングが生じ難く耐候性の高い硬化塗膜を形成できる水性塗料組成物及びその硬化塗膜、並びに、塗装物品の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明の水性塗料組成物は、水を溶媒の主成分とし、オゾン分解触媒の酸化マンガン系触媒と、オゾン吸着性を有する活性炭と、水性樹脂と、分散剤とを含み、前記水性樹脂が(メタ)アクリル樹脂、変性アクリル樹脂、フッ素樹脂のうちの1種または2種以上であるものである。
【0009】
ここで、酸化マンガン系触媒は、オゾン分解の触媒機能を有するものであればよく、例えば、一酸化マンガンや二酸化マンガン等の金属酸化物触媒が使用されるが、好ましくは、触媒活性の高い二酸化マンガン系触媒である。
活性炭としては、例えば、椰子殻活性炭、石油ピッチ系活性炭、木質系活性炭等であればオゾン吸着比表面積が非常に高いことから好ましく用いられ、中でも、椰子殻活性炭が好ましい。
水性樹脂(水系樹脂とも呼ばれる)は、水性溶媒に溶解可能な水溶性樹脂または水に分散可能な水分散性樹脂をいう。
【0010】
請求項2の発明の水性塗料組成物の前記水性樹脂は、前記酸化マンガン系触媒と前記活性炭の合計配合量100質量部に対し、好ましくは、20質量部以上、400質量部以下、より好ましくは、25質量部以上、350質量部以下、更に好ましくは、30質量部以上、300質量部以下の配合であるものである。
【0011】
請求項3の発明の水性塗料組成物の前記水性樹脂は、前記酸化マンガン系触媒の配合量100質量部に対し、好ましくは、30質量部以上、500質量部以下、より好ましくは、40質量部以上、480質量部以下、更に好ましくは、45質量部以上、450質量部以下の範囲内の配合であるものである。
【0012】
請求項4の発明の水性塗料組成物の前記アクリル樹脂または前記変性アクリル樹脂は、ガラス転移温度(ガラス転移点,Tg)が、好ましくは、-30℃以上、130℃以下、より好ましくは、-25℃以上、120℃以下の範囲内であるものである。
【0013】
請求項5の発明の水性塗料組成物の前記フッ素樹脂は、ガラス転移温度(ガラス転移点,Tg)が、好ましくは、-30℃以上、100℃以下、より好ましくは、-25℃以上、90℃以下の範囲内であるものである。
【0014】
請求項6の発明の水性塗料組成物の前記酸化マンガン系触媒と前記活性炭の合計量は、前記酸化マンガン系触媒と前記活性炭と前記水性樹脂の合計配合量を100質量部に対し、好ましくは、25質量部以上、75質量部以下、より好ましくは、30質量部以上、65質量部以下の範囲内の配合であるものである。
【0015】
請求項7の発明の水性塗料組成物の前記酸化マンガン系触媒は、前記活性炭の配合量100質量部に対し、好ましくは、11質量部以上、900質量部以下、より好ましくは、15質量部、800質量部以下、更に好ましくは、20質量部以上、700質量部以下の範囲内の配合であるものである。
【0016】
請求項8の発明の水性塗料組成物の前記酸化マンガン系触媒は、前記酸化マンガン系触媒と前記活性炭と前記水性樹脂の合計配合量を100質量部に対し、好ましくは、5質量部以上、65質量部以下、より好ましくは、10質量部以上、60質量部以下、更に好ましくは、15質量部以上、55質量部以下の範囲内の配合であるものである。
【0017】
請求項9の発明の硬化塗膜は、酸化マンガン系触媒と、活性炭と、水性樹脂とを含み、前記水性樹脂が(メタ)アクリル樹脂、変性アクリル樹脂、フッ素樹脂のうちの1種または2種以上であるものである。
【0018】
請求項10の発明の硬化塗膜の前記水性樹脂は、前記酸化マンガン系触媒と前記活性炭の合計含有量を100質量部に対し、好ましくは、20質量部以上、400質量部以下、より好ましくは、25質量部以上、350質量部以下、更に好ましくは、30質量部以上、300質量部以下の含有であるものである。
【0019】
請求項11の発明の硬化塗膜の前記水性樹脂は、前記酸化マンガン系触媒の含有量100質量部に対し、30質量部以上、500質量部以下、より好ましくは、40質量部以上、480質量部以下、更に好ましくは、45質量部以上、450質量部以下の範囲内の含有であるものである。
【0020】
請求項12の発明の硬化塗膜の前記アクリル樹脂または前記変性アクリル樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が、好ましくは、-30℃以上、130℃以下、より好ましくは、-25℃以上、120℃以下の範囲内であるものである。
【0021】
請求項13の発明の硬化塗膜の前記フッ素樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が、好ましくは、-30℃以上、100℃以下、より好ましくは、-25℃以上、90℃以下の範囲内であるものである。
【0022】
請求項14の発明の硬化塗膜の前記酸化マンガン系触媒と前記活性炭の合計量は、前記酸化マンガン系触媒と前記活性炭と前記水性樹脂の合計含有量を100質量部に対し、好ましくは、25質量部以上、75質量部以下、より好ましくは、30質量部以上、65質量部以下の範囲内の含有であるものである。
【0023】
請求項15の発明の硬化塗膜の前記酸化マンガン系触媒は、前記活性炭の含有量を100質量部に対し、好ましくは、11質量部以上、900質量部以下、より好ましくは、15質量部以上、800質量部以下、更に好ましくは、20質量部以上、700質量部以下の範囲内の含有であるものである。
【0024】
請求項16の発明の硬化塗膜の前記酸化マンガン系触媒は、前記酸化マンガン系触媒と前記活性炭と前記水性樹脂の合計含有量を100質量部に対し、好ましくは、5質量部以上、65質量部以下、より好ましくは、10質量部以上、60質量部以下、更に好ましくは、15質量部以上、55質量部以下の範囲内の含有であるものである。
【0025】
請求項17の発明の塗装物品は、酸化マンガン系触媒と、活性炭と、水性樹脂とを含む硬化塗膜が基材面上に形成されたものであり、前記水性樹脂が(メタ)アクリル樹脂、変性アクリル樹脂、フッ素樹脂のうちの1種または2種以上であるものである。
上記塗装物品とは、部品、完成品、製品を問わず、基材(被塗布物)への塗装によって、酸化マンガン系触媒と、活性炭と、アクリル樹脂、変性アクリル樹脂、フッ素樹脂のうちの1種または2種以上である水性樹脂とを含む硬化塗膜が基材上に形成されているものであり、例えば、自動車等の車両の構成部品(特に外装部品)、屋根材や外壁等の建築用資材、送風機や電化製品等の構成部品、ビニルハウス、ビニルシート等の農業・園芸資材等が含まれる。より具体的には、例えば、フィルタ部材、ハニカム構造部材、ファン等である。
【発明の効果】
【0026】
請求項1の発明に係る水性塗料組成物は、酸化マンガン系触媒と、活性炭と、水性樹脂と、分散剤とを含み、水を溶媒の主成分とするものであり、前記水性樹脂をアクリル樹脂、変性アクリル樹脂、フッ素樹脂のうちの1種または2種以上としたものである。
本発明者らは、酸化マンガン系触媒と、活性炭と、水性樹脂と、分散剤と、水を主成分とする溶媒とを含む水性塗料組成物を基材に塗布し、乾燥することにより形成した硬化塗膜において酸化マンガン系触媒を含んでいても耐チョーキング性がある技術について鋭意実験研究を行った結果、バインダである水性樹脂をアクリル樹脂、変性アクリル樹脂、フッ素樹脂のうちの1種または2種以上とすることで、耐チョーキング性が得られることを見出し、本発明を完成させたものである。
【0027】
即ち、ポリマの種類によって光、酸化、水分等の劣化に対する弱点、分解機構(劣化のメカニズム)、劣化因子に相違があり、また、塗膜の含有する成分によってもポリマの劣化メカニズムに相違が生じてくるもので、ポリマの劣化には複雑な因子が存在するところ、バインダである水性樹脂がアクリル樹脂、変性アクリル樹脂、フッ素樹脂のうちの1種または2種以上であれば、硬化塗膜に酸化マンガン系触媒が含まれていても、光照射を受ける環境条件下で、チョーキング(白亜化)が生じ難く、耐候性(耐久性)が高いものとなる。
【0028】
請求項2の発明に係る水性塗料組成物は、前記水性樹脂を、前記酸化マンガン系触媒と前記活性炭の合計量を100質量部に対し、好ましくは、20質量部~400質量部の範囲内で配合したものである。
アクリル樹脂、変性アクリル樹脂、フッ素樹脂のうちの1種または2種以上である水性樹脂の酸化マンガン系触媒及び活性炭に対する配合量が多すぎるものでは、オゾン分解性を有する酸化マンガン系触媒及び活性炭の配合量が相対的に低くなることでオゾン分解性が低下する。一方で、水性樹脂の酸化マンガン系触媒及び活性炭に対する配合量が多すぎるものでは、バインダである水性樹脂の配合が相対的に低くなることで、脆弱で劣化がはやく耐チョーキング性が低下する。
水性樹脂の配合量が、酸化マンガン系触媒と活性炭の合計量100質量部に対し、好ましくは、20質量部~400質量部の範囲内であれば、オゾン分解性と耐候性を両立できる。より好ましくは、25質量部~350質量部の範囲内であり、更に好ましくは、30~300質量部の範囲内である。
【0029】
請求項3の発明に係る水性塗料組成物は、前記水性樹脂を、前記酸化マンガン系触媒100質量部に対し、30質量部~500質量部の範囲内で配合したものである。
アクリル樹脂、変性アクリル樹脂、フッ素樹脂のうちの1種または2種以上である水性樹脂の酸化マンガン系触媒に対する配合量が多すぎるものでは、オゾン分解性を有する酸化マンガン系触媒の配合量が相対的に低くなることになるから、酸化マンガン系触媒及び活性炭の相乗効果によるオゾン分解性能が低下する。一方で、水性樹脂の酸化マンガン系触媒に対する配合量が多すぎるものでは、バインダである水性樹脂の濃度が相対的に低く、酸化マンガン系触媒の濃度が相対的に高くなることで、耐チョーキング性が低下する。
水性樹脂の配合量が、酸化マンガン系触媒量100質量部に対し、好ましくは、30質量部~500質量部の範囲内であれば、オゾン分解性と耐候性をより両立できる。より好ましくは、40質量部~480質量部の範囲内であり、更に好ましくは、45~450質量部の範囲内である。
【0030】
請求項4の発明に係る水性塗料組成物は、前記アクリル樹脂または前記変性アクリル樹脂のガラス転移温度が-30℃~130℃の範囲内であるものである。
本発明者らは、鋭意実験研究の結果、アクリル樹脂または変性アクリル樹脂はガラス転移温度が-30℃~130℃の範囲内のものであれば、より高い耐候性が得られることを見出し、本発明を完成させたものである。
即ち、ガラス転移温度が-30℃~130℃の範囲内のアクリル樹脂または変性アクリル樹脂であれば、硬化塗膜に酸化マンガン系触媒が含まれていても、光照射を受ける環境条件下で、チョーキング(白亜化)がより生じ難く、耐候性(耐久性)がより高いものとなる。より好ましくは、ガラス転移温度が-25℃~120℃の範囲内のものである。
【0031】
請求項5の発明に係る水性塗料組成物は、前記フッ素樹脂のガラス転移温度が-30℃~100℃の範囲内のものである。
本発明者らは、鋭意実験研究の結果、フッ素樹脂はガラス転移温度が-30℃~100℃の範囲内のものであれば、より高い耐候性が得られることを見出し、本発明を完成させたものである。
即ち、ガラス転移温度が-30℃~100℃の範囲内のフッ素樹脂であれば、硬化塗膜に酸化マンガン系触媒が含まれていても、光照射を受ける環境条件下で、チョーキング(白亜化)がより生じ難く、耐候性(耐久性)がより高いものとなる。より好ましくは、ガラス転移温度が-25℃~90℃の範囲内のものである。
【0032】
請求項6の発明に係る水性塗料組成物は、前記酸化マンガン系触媒と前記活性炭の合計量が、前記酸化マンガン系触媒と前記活性炭と前記水性樹脂の合計量を100質量部に対し、25~75質量部の範囲内の配合であるものである。
塗膜成分となるオゾン分解性を有する酸化マンガン系触媒及び活性炭の濃度が高くなりすぎると、バインダである水性樹脂の配合が相対的に低くなることで、脆弱で劣化がはやく耐候性が低下する。一方、オゾン分解性を有する酸化マンガン系触媒及び活性炭の濃度が低すぎると、オゾン分解性が低下する。
酸化マンガン系触媒及び活性炭の配合量が、酸化マンガン系触媒と活性炭と水性樹脂の合計量100質量部に対し、好ましくは、25~75質量部の範囲内であれば、オゾン分解性と耐候性を両立できる。より好ましくは、30質量部~65質量部の範囲内である。
【0033】
請求項7の発明に係る水性塗料組成物は、前記酸化マンガン系触媒を、前記活性炭100質量部に対し、11質量部~900質量部の範囲内の配合としたものである。
酸化マンガン系触媒の配合が活性炭に対して多すぎるものでは、耐候性が低下する一方方で、酸化マンガン系触媒の配合が活性炭に対して少なすぎると、活性炭の配合が相対的に多くなり活性炭が凝集しやすくなることで、分散性が低下し、塗工性が低下する。
酸化マンガン系触媒の配合量が、活性炭100質量部に対し、好ましくは、11質量部~900質量部の範囲内であれば、塗工性と耐候性の両立を可能とする。より好ましくは、15質量部~800質量部、更に好ましくは、20質量部~700質量部の範囲内である。
【0034】
請求項8の発明に係る水性塗料組成物は、前記酸化マンガン系触媒を、前記酸化マンガン系触媒と前記活性炭と前記水性樹脂の合計量を100質量部に対し、5質量部~65質量部の範囲内の配合としたものである。
塗膜成分となる酸化マンガン系触媒の濃度が多すぎるものでは、耐候性が低下する一方方で、少なすぎると、酸化マンガン系触媒と活性炭の相乗効果によるオゾン分解性が低下することになる。
酸化マンガン系触媒が、酸化マンガン系触媒と活性炭と水性樹脂の合計量100質量部に対し、好ましくは、5質量部~65質量部の範囲内の含有であれば、オゾン分解性と耐候性の両立を更に可能とする。より好ましくは、10質量部~60質量部、更に好ましくは、15質量部~55質量部の範囲内である。
【0035】
請求項9の発明に係る硬化塗膜は、酸化マンガン系触媒と、活性炭と、水性樹脂とを含み、前記水性樹脂がアクリル樹脂、変性アクリル樹脂、フッ素樹脂のうちの1種または2種以上であるものである。
本発明者らは、酸化マンガン系触媒と、活性炭と、水性樹脂と、分散剤と、水を主成分とする溶媒とを含む水性塗料組成物を基材に塗布し、乾燥することにより形成した硬化塗膜において酸化マンガン系触媒を含んでいても耐チョーキング性がある技術について鋭意実験研究を行った結果、バインダである水性樹脂をアクリル樹脂、変性アクリル樹脂、フッ素樹脂のうちの1種または2種以上とすることで、耐チョーキング性が得られることを見出し、本発明を完成させたものである。
【0036】
即ち、ポリマの種類によって光、酸化、水分等の劣化に対する弱点、分解機構(劣化のメカニズム)、劣化因子に相違があり、また、塗膜の含有する成分によってもポリマの劣化メカニズムに相違が生じてくるもので、ポリマの劣化には複雑な因子が存在するところ、バインダである水性樹脂がアクリル樹脂、変性アクリル樹脂、フッ素樹脂のうちの1種または2種以上であれば、硬化塗膜に酸化マンガン系触媒が含まれていても、光照射を受ける環境条件下で、チョーキング(白亜化)がより生じ難く、耐候性(耐久性)がより高いものとなる。
【0037】
請求項10の発明に係る硬化塗膜は、前記水性樹脂を、前記酸化マンガン系触媒と前記活性炭の合計量を100質量部に対し、20質量部~400質量部の範囲内の含有としたものである。
ここで、アクリル樹脂、変性アクリル樹脂、フッ素樹脂のうちの1種または2種以上である水性樹脂の酸化マンガン系触媒及び活性炭に対する配合量が多すぎるものでは、オゾン分解性を有する酸化マンガ系触媒及び活性炭の配合量が相対的に低くなることでオゾン分解性が低下する。一方で、水性樹脂の酸化マンガン系触媒及び活性炭に対する配合量が多すぎるものでは、バインダである水性樹脂の配合が相対的に低くなることで、脆弱で劣化がはやく耐チョーキング性が低下する。
水性樹脂の含有量が、酸化マンガン系触媒と活性炭の合計量100質量部に対し、好ましくは、20質量部~400質量部の範囲内であれば、オゾン分解性と耐候性を両立できる。より好ましくは、25質量部~350質量部、更に好ましくは、30~300質量部の範囲内である。
【0038】
請求項11の発明に係る硬化塗膜は、前記水性樹脂を、前記酸化マンガン系触媒100質量部に対し、30質量部~500質量部の範囲内の含有としたものである。
アクリル樹脂、変性アクリル樹脂、フッ素樹脂のうちの1種または2種以上である水性樹脂の酸化マンガン系触媒に対する配合量が多すぎるものでは、オゾン分解性を有する酸化マンガン系触媒の配合量が相対的に低くなることになるから、酸化マンガン系触媒及び活性炭の相乗効果によるオゾン分解性能が低下する。一方で、水性樹脂の酸化マンガン系触媒に対する配合量が多すぎるものでは、バインダである水性樹脂の濃度が相対的に低く、酸化マンガン系触媒の濃度が相対的に高くなることで、耐チョーキング性が低下する。
水性樹脂の含有量が、酸化マンガン系触媒量100質量部に対し、好ましくは、30質量部~500質量部の範囲内であれば、オゾン分解性と耐候性をより両立できる。より好ましくは、40質量部~480質量部、更に好ましくは、45~450質量部の範囲内である。
【0039】
請求項12の発明に係る硬化塗膜は、ガラス転移温度が-30℃~130℃の範囲内の前記アクリル樹脂または前記変性アクリル樹脂を用いたものである。
本発明者らは、鋭意実験研究の結果、アクリル樹脂または変性アクリル樹脂は、ガラス転移温度が-30℃~130℃の範囲内のものであれば、より高い耐候性が得られることを見出し、本発明を完成させたものである。
即ち、ガラス転移温度が-30℃~130℃の範囲内のアクリル樹脂または変性アクリル樹脂であれば、硬化塗膜に酸化マンガン系触媒が含まれていても、光照射を受ける環境条件下で、チョーキング(白亜化)がより生じ難く、高い耐候性(耐久性)がより高いもとなる。より好ましくは、ガラス転移温度が-25℃~120℃の範囲内のものである。
【0040】
請求項13の発明に係る硬化塗膜は、ガラス転移温度が-30℃~100℃の範囲内の前記フッ素樹脂を用いたものである。
本発明者らは、鋭意実験研究の結果、フッ素樹脂はガラス転移温度が-30℃~100℃の範囲内のものであれば、より高い耐候性が得られることを見出し、本発明を完成させたものである。
即ち、ガラス転移温度が-30℃~100℃の範囲内のフッ素樹脂であれば、硬化塗膜に酸化マンガン系触媒が含まれていても、光照射を受ける環境条件下で、チョーキング(白亜化)がより生じ難く、耐候性(耐久性)がより高いもとなる。より好ましくは、ガラス転移温度(Tg)が-25℃~90℃の範囲内のものである。
【0041】
請求項14の発明に係る硬化塗膜は、前記酸化マンガン系触媒と前記活性炭の合計含有量を、前記酸化マンガン系触媒と前記活性炭と前記水性樹脂の合計量を100質量部に対し25~75質量部の範囲内としたものである。
塗膜成分となるオゾン分解性を有する酸化マンガン系触媒及び活性炭の濃度が高くなりすぎると、バインダである水性樹脂の配合が相対的に低くなることで、脆弱で劣化がはやく耐候性が低下する。一方、オゾン分解性を有する酸化マンガン系触媒及び活性炭の濃度が低すぎると、オゾン分解性が低下する。
酸化マンガン系触媒及び活性炭の含有量が、酸化マンガン系触媒と活性炭と水性樹脂の合計量100質量部に対し、好ましくは、25~75質量部の範囲内であれば、オゾン分解性と耐候性を両立できる。より好ましくは、30質量部~65質量部の範囲内である。
【0042】
請求項15の発明に係る硬化塗膜は、前記酸化マンガン系触媒を前記活性炭100質量部に対し、11質量部~900質量部の範囲内の含有としたものである。
酸化マンガン系触媒の配合が活性炭に対して多すぎるものでは、耐候性が低下する一方方で、酸化マンガン系触媒の配合が活性炭に対して少なすぎると、活性炭の配合が相対的に多くなり活性炭が凝集しやすくなることで、分散性が低下し、塗工性が低下する。
酸化マンガン系触媒が、活性炭100質量部に対し、好ましくは、11質量部~900質量部の範囲内の含有であれば、塗工性と耐候性の両立を可能とする。より好ましくは、15質量部~800質量部、更に好ましくは、20質量部~700質量部の範囲内である。
【0043】
請求項16の発明に係る硬化塗膜は、前記酸化マンガン系触媒を、前記酸化マンガン系触媒と前記活性炭と前記水性樹脂の合計量を100質量部に対し、5質量部~65質量部の範囲内の含有としたものである。
塗膜成分となる酸化マンガン系触媒の濃度が多すぎるものでは、耐候性が低下する一方方で、少なすぎると、酸化マンガン系触媒と活性炭の相乗効果によるオゾン分解性が低下することになる。
酸化マンガン系触媒が、酸化マンガン系触媒と活性炭と水性樹脂の合計量100質量部に対し、好ましくは、5質量部~65質量部の範囲内の含有であれば、オゾン分解性と耐候性の両立を向上できる。より好ましくは、10質量部~60質量部、更に好ましくは、15質量部~55質量部の範囲内である。
【0044】
請求項17の発明の塗装物品は、酸化マンガン系触媒と、活性炭と、水性樹脂とを含む硬化塗膜が基材面上に形成されたものであり、前記水性樹脂がアクリル樹脂、変性アクリル樹脂、フッ素樹脂のうちの1種または2種以上であるものである。
本発明者らは、酸化マンガン系触媒と、活性炭と、水性樹脂と、分散剤と、水を主成分とする溶媒とを含む水性塗料組成物を基材に塗布し、乾燥することにより形成した硬化塗膜において酸化マンガン系触媒を含んでいても耐チョーキング性がある技術について鋭意実験研究を行った結果、バインダである水性樹脂をアクリル樹脂、変性アクリル樹脂、フッ素樹脂のうちの1種または2種以上とすることで、耐チョーキング性が得られることを見出し、本発明を完成させたものである。
【0045】
即ち、ポリマの種類によって光、酸化、水分等の劣化に対する弱点、分解機構(劣化のメカニズム)、劣化因子に相違があり、また、塗膜の含有する成分によってもポリマの劣化メカニズムに相違が生じてくるもので、ポリマの劣化には複雑な因子が存在するところ、バインダである水性樹脂がアクリル樹脂、変性アクリル樹脂、フッ素樹脂のうちの1種または2種以上であれば、硬化塗膜に酸化マンガン系触媒が含まれていても、光照射を受ける環境条件下で、チョーキング(白亜化)がより生じ難く、耐候性(耐久性)がより高いものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態の水性塗料組成物の硬化塗膜についてのオゾン分解性を評価するための評価試験の方法を説明するための模式図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施の形態の水性塗料組成物を適用する塗装物品の一例を説明するための模式図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施の形態の水性塗料組成物を適用する塗装物品の他の例を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
なお、実施の形態において、図示の同一記号及び同一符号は、同一または相当する機能部分であるから、ここではその重複する説明を省略する。
【0048】
[実施の形態]
まず、本発明の実施の形態に係る水性塗料組成物について説明する。
本発明の実施の形態の水性塗料組成物は、酸化マンガン系触媒と、活性炭と、分散剤と、水性樹脂と、pH調整剤と、水を主成分とする溶媒とを配合したものである。
【0049】
酸化マンガン(MnxOy)系触媒としては、マンガンの酸化物として、例えば、一酸化マンガン(MnO)系触媒、二酸化マンガン(酸化マンガン(IV))系触媒、スピネル型マンガン酸金属等が使用できるが、特に、オゾン分解触媒活性が高く、オゾン分解性の高い塗膜を形成できる二酸化マンガン(MnO2)系触媒が好ましい。なお、一般的に、二酸化マンガンと呼ばれるマンガンの酸化物は、不定比化合物であることから、実際には、MnOx(x=1.93~2)程度の組成である。
二酸化マンガンは、天然のものであってもよいし、電解法や化学合成法により製造されたものであってもよく、更に、非晶質のものであってもよいし、結晶構造を含むものであってもよい。二酸化マンガンの結晶構造としては、例えば、アルファ型、ベータ型、ガンマ型、デルタ型があるが、より好ましくは、α-二酸化マンガン(クリプトメレン(cryptomelane)形態のもの)である。また、二酸化マンガンは、アモルファス構造を有するものであってもよい。
なお、酸化マンガン系触媒としては、酸化マンガン(例えば、二酸化マンガン)をベースにしてNiO、CuO、AgO等の助触媒を含むものであってもよく、また、水分を吸着する酸化カルシウム等を含んでいてもよい。酸化マンガン系触媒は、好ましくは、酸化マンガン(例えば、二酸化マンガン)の含有率が70%以上、より好ましくは、80%以上のものである。
【0050】
二酸化マンガン系触媒等の酸化マンガン系触媒としては、N2吸着のBET法によって測定した比表面積が、100m2/g以上、400m2/g以下のものを用いるのが好ましい。表面積が大きすぎるものでは、凝集が生じやすくて分散性や分散安定性が低下する。分散性が低下すると、塗布装置の目詰まりが生じたり、塗膜表面に塗料ブツ(凝集物)が生じて塗膜の成膜性や付着性が損なわれたりし、塗膜の欠落、剥離や触媒の脱落が生じ易くなる。また、分散安定性が低下すると、貯蔵安定性を確保することができない。一方、表面積が小さすぎるものでは、所望とする高いオゾン分解性能を得ることができない。N2吸着のBET法によって測定した比表面積が、100m2/g以上、400m2/g以下の範囲内である酸化マンガン系触媒であれば、分散性や分散安定性を良くできて、塗膜の成膜性及び付着性も良好で、触媒の脱落が生じ難く、持続して高いオゾン分解性能を得ることができる。また、塗料組成物の良好な貯蔵安定性を得ることができる。より好ましくは、BET法による比表面積が150m2/g以上、350m2/g以下のものであり、更に好ましくは、180m2/g以上、300m2/g以下のものである。
【0051】
なお、「比表面積」は、気体吸着法(BET法)によるものである。BET(Brunauer-Emmett-Teller)法とは、粒子表面に吸着占有面積の分かった分子を液体窒素の温度で吸着させ、その量から試料の比表面積を求める方法であって、窒素等の不活性気体の低温物理吸着によるものである。
【0052】
更に、二酸化マンガン系触媒等の酸化マンガン系触媒としては、その中位径(平均粒子径)が、1~20μmの範囲内にあるものを用いるのが好ましい。粒径が大きすぎるものは、表面積が小さくなるから、所望とする高いオゾン分解性能を得ることができない。また、塗膜の成膜性、成膜膜厚、付着性が低下し、塗膜剥がれや触媒の脱落が生じ易くなる。一方で、粒径が小さすぎるものは、凝集が生じやすくて分散性や分散安定性が低下する。分散性が低下すると、塗膜表面に塗料ブツ(凝集物)が生じて塗膜の成膜性や付着性が損なわれ、塗膜の欠落、剥離や触媒の脱落が生じ易くなる。また、分散安定性が低下すると、貯蔵安定性を確保することができない。中位径(平均粒子径)が、1~20μmの範囲内にある酸化マンガン系触媒であれば、分散性や分散安定性を良くすることができ、塗膜の成膜性及び付着性も良好で触媒の脱落が生じ難く、高いオゾン分解性能を長く発揮できる。また、塗料組成物の良好な貯蔵安定性を得ることができる。より好ましくは、中位径(平均粒子径)が3~18μmの範囲内のものであり、更に好ましくは、5~15μmの範囲内のものである。
【0053】
なお、「中位径」とは、JISZ8901「試験用粉体及び試験用粒子」の本文及び解説の用語の定義によれば、粉体の粒径分布において、ある粒子径より大きい個数(ま
たは質量)が、全粉体のそれの50%を占めるときの粒子径(直径)、即ち、オーバサイズ50%の粒径であり、通常、メディアン径または50%粒子径といいD50と表わされる。定義的には、平均粒子径と中位径で粒子群のサイズを表現されるが、ここでは、商品説明の表示、レーザ回折・散乱法によって測定した値である。そして、この「レーザ回折・散乱法によって測定した中位径」とは、レーザ回折式粒度分布測定装置を用いてレーザ回折・散乱法によって得られた粒度分布において積算重量部が50%となる粒子径(D50)をいう。なお、上記数値は、厳格なものでなく、製品毎の誤差があり、測定等による誤差を含むと1割程度以下の誤差の混入を否定するものではない。この誤差の観点から見ると、正規分布を呈しており、粒径は正規分布を示すものであるから、中位径≒平均粒子径と見做しても両者の違いは数パーセント内であり、誤差と見做される程度である。
【0054】
また、活性炭としては、大鋸屑、木材チップ、木炭、竹炭、石炭(亜炭、褐炭、瀝青炭)、石油系(石油ピッチ、オイルカーボン等)、胡桃殻炭、椰子殻炭、樹脂(フェノール樹脂、エポキシ樹脂等)、レーヨン等が使用できるが、好ましくは、その炭素率が90%以上のものである。中でも、オゾン吸着比表面積の高い椰子殻炭、石油ピッチ系活性炭、木質系活性炭等が好ましい。椰子殻炭としては、炭素成分が多いココヤシ、油ヤシ、サゴヤシ等の椰子殻炭が好ましい。なお、活性炭は、コバルト、鉄等を中心金属とする有機金属錯体等を担持するものを使用してもよい。
【0055】
このような椰子殻炭等の活性炭としては、N2吸着のBET法によって測定した比表面積が、500m2/g以上、3000m2/g以下のものを用いるのが好ましい。表面積が大きすぎるものでは、凝集が生じやすくて分散性や分散安定性が低下する。分散性が低下すると、塗布装置の目詰まりが生じたり、塗膜表面に塗料ブツ(凝集物)が生じて塗膜の成膜性や付着性が損なわれたりし、塗膜の欠落、剥離や活性炭の脱落が生じ易くなる。また、分散安定性が低下すると、貯蔵安定性を確保することができない。一方、表面積が小さすぎるものでは、所望とする高いオゾン分解性能を得ることができない。N2吸着のBET法によって測定したBET比表面積が、500m2/g以上、3000m2/g以下の範囲内である活性炭であれば、分散性や分散安定性を良くできて、塗膜の成膜性及び付着性も良好で、活性炭の脱落が生じ難く、持続して高いオゾン分解性能を得ることができる。また、塗料組成物の良好な貯蔵安定性を得ることができる。より好ましくは、BET法による比表面積が600m2/g以上、2500m2/g以下のものであり、更に好ましくは、900m2/g以上、2000m2/g以下のものである。なお、この活性炭の全細孔容積は、窒素BETの窒素吸着等温線において、相対圧力P/P0が1.0のときの窒素吸着量からの算出で、例えば、0.1cm3/g~1.5cm3/gの範囲内にあり、より好ましくは、0.2cm3/g~1.0cm3/gの範囲内にある。また、この活性炭の平均細孔径(全細孔容積/BET比表面積×4で算出)は、オゾンの吸着能と大気中の粒子状物質等による目詰まりを防止する観点から、例えば、0.3~10nmの範囲内であり、より好ましくは、0.5~5nmの範囲内である。
【0056】
更に、この椰子殻炭等の活性炭は、その中位径(平均粒子径)が、1~20μmの範囲内にあるものを用いるのが好ましい。粒径が大きすぎるものは、表面積が小さくなるから、所望とする高いオゾン分解性能を得ることができない。また、塗膜の成膜性及び付着性が低下し、塗膜剥がれや活性炭の脱落が生じ易くなる。一方で、粒径が小さすぎるものは、凝集が生じやすくて分散性や分散安定性が低下する。分散性が低下すると、塗膜表面に塗料ブツ(凝集物)が生じて塗膜の成膜性、成膜膜厚、付着性が低下し、塗膜の欠落、剥離や触媒の脱落が生じ易くなる。また、分散安定性が低下すると、貯蔵安定性を確保することができない。中位径(平均粒子径)が、1~20μmの範囲内にある活性炭であれば、分散性や分散安定性を良くすることができ、塗膜の成膜性及び付着性も良好で触媒の脱落が生じ難く、高いオゾン分解性能を長く発揮できる。より好ましくは、中位径(平均粒子径)が3~18μmの範囲内のものであり、更に好ましくは、5~15μmの範囲内のものである。
【0057】
また、本実施の水性塗料組成物に配合する分散剤としては、例えば、ポリアクリレート系分散剤が使用できる。ポリアクリレート系分散剤は、例えば、ポリアクリレートの塩や、アクリル骨格または変性アクリル骨格をベースとする分散剤である。なお、ポリアクリレート系分散剤には、変性ポリアクリレート系のものも含まれる。
【0058】
特に、ポリアクリレート系分散剤であれば、酸化マンガン系触媒及び活性炭の凝集を防止(脱凝集)できて酸化マンガン系触媒及び活性炭を塗料中に細かく高分散させることができ、また、その分散安定性も高くできる。
【0059】
即ち、オゾン分解性能を有する酸化マンガン系触媒と活性炭は粒子状や粉末状であるから、粒子状や粉末状である酸化マンガン系触媒と活性炭を塗料化するには酸化マンガン系触媒と活性炭が塗料を構成する樹脂、溶媒等の成分に均一に分散される必要があるところ、オゾンを多く吸着できる表面積の大きな酸化マンガン系触媒と活性炭は凝集しやすく、特に、活性炭は細孔を有することから、その細孔に塗料成分である樹脂(有機物)や酸化マンガン系触媒が付着することで凝集が生じやすい状態にある。酸化マンガン系触媒や活性炭の分散性が低くて凝集が多いと、凝集ゲル化や粘度の上昇が生じ塗料化が困難となったり、塗布時において塗布装置の配管、ポンプ等の目詰まりを生じさせたりする。また、塗料化できたとしても、塗膜にブツやざらつきが生じ、素地を覆い隠すまでに塗布するとなるとその塗膜の膜厚は厚くなり、塗膜の成膜性及び付着性に欠け、外観性も悪いものとなる。更に、酸化マンガン系触媒や活性炭の凝集が多いと、オゾンを吸着できる量も少なく、高いオゾン分解性能を得ることができない。当然、酸化マンガン系触媒や活性炭の分散性が低くて凝集が多いと凝集ゲル化や粘度の上昇により、塗料としての貯蔵安定性にも欠け、長期保存も困難である。したがって、粒子状や粉末状の酸化マンガン系触媒及び活性炭を用いてそれらを塗料化するにあたっては、酸化マンガン系触媒と活性炭の凝集を防止する高分散の技術が必要となる。
【0060】
そこで、ポリアクリレート系分散剤を配合することにより、酸化マンガン系触媒及び活性炭を十分に脱凝集させて安定化させることができる。即ち、酸化マンガン系触媒及び活性炭を細かく高分散でき、例えば、JISK 5600及びJISK 5400(1990)に準拠しグラインドゲージにより測定される分散度が、線状法で、最大粒子径(Dmax)20μm以下にすることができる。また、レーザ回折式粒度分布測定装置を用いたレーザ解析法では、体積基準の90%の累積粒子径(D90)で、10μm以下にすることができる。
【0061】
特に、このようにポリアクリレート系分散剤によって細かい粒度に酸化マンガン系触媒及び活性炭が高分散された水性塗料組成物から形成された塗膜では、ブツやざらつきが抑制され、優れた成膜性及び基材対する付着性が確保され、また、良好な平滑性、即ち、良好な外観性が得られる。塗膜にブツが生じ難く、成膜性に優れていることで、例えば、乾燥膜厚5μm以下でも素地を十分に覆い隠すことができる薄膜の形成が可能である。
そして、ポリアクリレート系分散剤によって細かい粒度に酸化マンガン系触媒及び活性炭が高分散された水性塗料組成物を基材に塗布し、乾燥させて得られる硬化塗膜では、酸化マンガン系触媒及び活性炭が細かい粒子サイズに高分散されていることで、酸化マンガン系触媒及び活性炭によるオゾン吸着量を高くでき、高いオゾン分解性能が発揮できる。特に、ポリアクリレート系分散剤の少ない量で酸化マンガン系触媒及び活性炭を高分散できるから、ポリアクリレート系分散剤が酸化マンガン系触媒及び活性炭へのオゾンの吸着を阻害することもなく、酸化マンガン系触媒及び活性炭は少ない量でも多くのオゾンを吸着できる。よって、この水性塗料組成物から形成される硬化塗膜では、薄膜で優れたオゾン分解性能を発揮できる。
加えて、このようにポリアクリレート系分散剤を用いた水性塗料組成物では、酸化マンガン系触媒及び活性炭の分散安定性も高くて再凝集しないことで、貯蔵安定性も高く長期の保存が可能となる。例えば、1カ月間保管後も凝集による沈殿分離が生じ難く、保存安定性が高いものである。
【0062】
なお、ポリアクリレート系分散剤は、その重量平均分子量が5000~30000の範囲内にあるものが好ましい。分子量が高いものほど、分子内に複数の吸着サイトを有するため低濃度からでも酸化マンガン系触媒や活性炭を多点に吸着して凝集を阻止できる。しかし、分子量が高すぎるものでは、塗料成分との相溶性、親和性が低下して馴染みが悪くなり塗料化が困難となる。一方で分子量が低すぎるものでは、吸着点が少ないことで、酸化マンガン系触媒や活性炭の分散性に劣るものとなる。分散性を高めるために配合量を多くすると、酸化マンガン系触媒や活性炭へのオゾンの吸着を阻害し、オゾン分解性能を低下させることになる。重量分子量が5000~30000の範囲内であるポリアクリレート系分散剤であれば、他の材料との馴染みもよく、酸化マンガン系触媒や活性炭の高分散性を確保できる。より好ましくは、重量平均分子量が6000~28000の範囲内にあるものであり、更に好ましくは、重量平均分子量が7000~25000の範囲内にあるものである。
なお、重量平均分子量(Mw)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC:GEL permeation chromatography)法により測定され、GPCで測定したクロマトグラムを標準ポリスチレンの分子量に換算したものである。
【0063】
また、ポリアクリレート系分散剤は、酸価が1~50の範囲内のものを用いるのが好ましい。酸価が高すぎるものは、他の材料、例えば、顔料等の添加剤の極性によっては吸着性が悪くなるからである。更に、このポリアクリレート系分散剤は、水素イオン指数がpH4~pH9の範囲内のものを用いるのが好ましい。当該範囲外のものを用いた場合、例えば、顔料等の添加剤の種類によっては塗料成分の分散性が悪くなる。水素イオン指数がpH4~pH9の範囲内ものであれば、配合材料の種類に影響なく、塗料成分の分散安定性を確保できる。より好ましい酸価は、3~48、更に好ましくは、5~45の範囲内のものである。より好ましい水素イオン指数がpH4.5~pH9、更に好ましくは、pH5~pH9の範囲内のものである。
なお、酸価は、JIS K0070に準じた中和滴定法を用いて測定されるものである。また、ポリアクリレート系分散剤の水素イオン指数は、その濃度が約1%~99%の希釈液(エマルジョン、ディスパージョン、水溶液)の測定(液温25℃)である。
【0064】
このようなポリアクリレート系分散剤としては、市販の製品、例えば、BYK-Chemie(ビックケミー)社のDESPERBYK、Ciba Specialty Chemicals社やEFKA ADDITIVES B.V.(エフカアディティブズ)
社のEFKA、楠本化成(株)社のDISPARLON、SANNOPKO(サンノプコ)社のSNシックナー等を使用することができる。
なお、このようなポリアクリレート系分散剤による酸化マンガン系触媒及び活性炭の高分散及び分散安定性の付与は、例えば、ポリアクリレートの酸化マンガン系触媒及び活性炭に対する電気的反発による吸着や、ポリアクリレートのアンカ基やポリマ鎖等による立体障害等によって、酸化マンガン系触媒及び活性炭の凝集を阻止(脱凝集)し、酸化マンガン系触媒及び活性炭を細かい粒子サイズで安定させていること等が考えられる。特に、ポリアクリレート系分散剤の高分子量体によって、複数の吸着サイトを有することで低濃度の使用量でも、酸化マンガン系触媒及び活性炭に吸着して、酸化マンガン系触媒及び活性炭の高分散を可能とし、高濃度の使用を必要としないことで、酸化マンガン系触媒及び活性炭へのオゾンの吸着を阻害し難いものである。
【0065】
しかし、本発明を実施する場合には、酸化マンガン系触媒及び活性炭を高分散できれば、その他の分散剤を使用することも可能である。
なお、分散剤の配合量は、酸化マンガン系触媒及び活性炭の合計量を100質量部に対し、1.5質量部~75質量部の範囲内が好ましく、より好ましくは、2質量部~60質量部の範囲内、更に好ましくは2.5質量部~50質量部の範囲内である。上記範囲内であれば、高い貯蔵安定性とオゾン分解性を両立させることができる。
【0066】
また、pH調整剤としては、塗料調製において水素イオン指数を所定のpH(例えば、pH7~pH12)に調整できるものであればよく、例えば、トリエチルアミン(TEA)等の低沸点アミン、アンモニア、ジメチルアミノエタノール等が使用される。このようなpH調整剤による中和によって、塗料組成物の粘度低下を防止し、酸化マンガン系触媒及び活性炭の沈降を抑制する。これより、酸化マンガン系触媒及び活性炭の高分散性が維持され、塗布性を良好にできる。
【0067】
更に、水を主成分とする溶媒は、水のみからなるもの、即ち、全溶媒に対して水が100質量%であるものに限定されず、全溶媒に対して水が50質量%を超えるものであればよく、好ましくは、75質量%以上、より好ましくは、90質量%、更に好ましくは、95質量%以上であり、有機溶媒を多少含んでいてもよい。なお、水としては、例えば、イオン交換水等を使用することができる。
【0068】
そして、本実施の形態の水性塗料組成物に配合する水性樹脂は、アクリル樹脂、変性アクリル樹脂、フッ素樹脂のうちの1種または2種以上が使用される。
【0069】
特に、アクリル樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が-30℃~130℃の範囲内のものが好ましく、より好ましくは、ガラス転移温度が-25℃~120℃、更に好ましくは、-25℃~90℃、特に好ましくは、-20℃~70℃の範囲内のものである。
なお、ガラス転移温度(Tg)の測定は示差走査熱量測定(DSC)によるものである。
【0070】
ここで、アクリル樹脂は、広くアクリル樹脂及びメタクリル樹脂を含むものであって、(メタ)アクリル酸(アクリル酸またはメタアクリル酸を意味する。以下、同様。)及び(メタ)アクリル酸エステルの単独重合体または共重合体、または、これら(メタ)アクリル酸等と共重合可能な単量体との共重合体を意味する。
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メ
タ)アクリル酸-n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸-3-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸-2,2-ビス(ヒドロキシメチル)エチル、(メタ)アクリル酸-3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸アミノプロピル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸メトキシプロピル、(メタ)アクリル酸メトキシブチル、(メタ)アクリル酸ステアリル等がある。
【0071】
(メタ)アクリル酸等と共重合可能な単量体としては、エチレン性不飽和基を有する単量体が好ましく、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン、ブタジエン、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルフェノール、塩化ビニル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、ピバリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ビニルアルコール、アリルアルコール、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、(メタ)アクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-ブトキシメチロール(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル等がある。このときの共重合法としては、乳化重合が一般的であるが、これに限定されるものではない。また、酸の場合は、そのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等であってもよい。
【0072】
また、変性アクリル樹脂は、アクリル樹脂を変性したもの、例えば、(メタ)アクリル酸等の重合体及び共重合体をウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂等で変性したウレタン変性、エポキシ変性、フェノール変性、メラミン変性(メタ)アクリル酸等の重合体等であり、ウレタン変性(メタ)アクリル樹脂、エポキシ変性(メタ)アクリル樹脂、フェノール変性(メタ)アクリル樹脂、メラミン変性(メタ)アクリル樹脂等が使用できる。なお、変性アクリル樹脂は、樹脂を構成する全ての構造単位100質量%に対し、アクリル樹脂を構成する構造単位の割合が50質量%を超え、変性物は、その変性成分由来の構造単位の割合が50質量%未満のものが好ましい。
【0073】
変性アクリル樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が-30℃~130℃の範囲内のものが好ましく、より好ましくは、ガラス転移温度が-25℃~110℃、更に好ましくは、-25℃~80℃、特に好ましくは、-20℃~70℃の範囲内のものである。
【0074】
更に、フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド、ポリクロロトリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン・エチレン共重合体等を用いることができる。
【0075】
フッ素樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が-30℃~100℃の範囲内のものが好ましく、より好ましくは、ガラス転移温度が-25℃~90℃、更に好ましくは、-25℃~80℃、特に好ましくは、-20℃~50℃の範囲内のものである。
【0076】
これらアクリル樹脂、変性アクリル樹脂、フッ素樹脂は、その粒子径が中位径(平均粒子径)で50~150nmの範囲内にあるものを用いるのが好ましい。当該範囲内であれば、樹脂分の水への分散性が高く、塗膜の成膜性や均一性が良好で、金属等の基材に対する塗膜の付着性等を良好に発揮できる。より好ましくは、中位径(平均粒子径)が、60~140nmの範囲内、更に好ましくは、70~130nmの範囲内であるものである。
【0077】
更に、これらアクリル樹脂、変性アクリル樹脂、フッ素樹脂は、その水素イオン指数がpH7~pH9の範囲内である弱アルカリ性のもの(樹脂濃度が約1%~99%の樹脂希釈液(エマルジョン、ディスパージョン、水溶液)の測定(液温25℃))が好ましい。これにより、樹脂分の水への分散性が高く、成膜性や均一性が良好で緻密な塗膜を形成でき、また、金属等の基材に対する付着性を高くできる。
【0078】
なお、これらアクリル樹脂、変性アクリル樹脂、フッ素樹脂の水性樹脂は、通常、水性溶媒に溶解または分散された水溶性樹脂(樹脂水溶液)、エマルジョン、ディスパージョン、水性ワニス、水性ゾル等の形態で配合される。なお、「エマルジョン(emulsion,エマルションともいう。)」とは、乳濁液ともいい、液体中に液体粒子がコロイド粒子あるいはそれより粗大な粒子として乳状をなすもの(分散系)が、本来の意味であるが(長倉三郎他編「岩波理化学辞典(第5版)」152頁,1998年2月20日株式会社岩波書店発行)、本明細書においては、より広い意味で一般的に用いられている「液体中に固体または液体の粒子が分散しているもの」として、「エマルジョン」という用語を用いるものとする。
【0079】
ところで、本発明を実施する場合には、オゾン分解以外の水性塗料の目的、用途等に応じ、例えば、防錆用や耐チッピング用等に応じ、着色顔料、体質顔料、防錆顔料、機能性顔料等の顔料や、塗布性や塗膜性能の向上を図るための添加剤を配合することも可能である。
【0080】
このときの着色顔料としては、例えば、カーボンブラック、酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛有機系のアゾキレート系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、フタロシアニン系顔料、インジゴ顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属錯体顔料、黄鉛、黄色酸化鉄、ベンガラ、二酸化チタン等が使用できる。
【0081】
防錆顔料としては、例えば、リン酸亜鉛、亜リン酸亜鉛、ポリリン酸アルミニウム、トリポリリン酸アルミニウム、モリブデン酸亜鉛カルシウム、オルトリン酸亜鉛、ポリリン酸亜鉛、モリブデン酸亜鉛、リンモリブデン酸亜鉛、リンモリブデン酸アルミニウム、酸化亜鉛、リン・ケイ酸亜鉛、リン酸アルミニウム亜鉛、リン酸カルシウム亜鉛、シアナミド亜鉛カルシウム、メタホウ酸バリウム、アミノリン酸マグネシウム等が使用できる。環境保護の観点からすれば、クロム系等の有害重金属を含まない防錆顔料が望ましい。
このような防錆顔料は、塗膜成分中において、30質量%以下の含有が好ましく、より好ましくは20質量%以下の含有である。上記含有量であれば塗料組成物の安定性も良い。
【0082】
体質顔料としては、例えば、タルク、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、マイカ、クレー、シリカ、珪藻土、アルミナ、バリタ、ニ酸化ケイ素等が使用できる。特に、タルクの使用により塗膜内に多くの層の積み重なりを形成し、タルクの配列により形成される層の緻密性によって腐食因子の侵入を防止することができる。
【0083】
添加剤としては、例えば、粘度調整剤、増膜助剤、主に顔料を分散させる分散剤、消泡剤、充填材、可塑剤、タレ止め剤、造膜助剤、チキソ剤、レベリング剤、pH調整剤、中和剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、沈降防止剤、接着性付与剤、硬化触媒、中和剤、ドライヤ(乾燥剤)、安定剤、表面調整剤(塗膜面調整剤)等が使用できる。
【0084】
例えば、主に顔料をより良く分散させる分散剤としては、ポリカルボン酸系等の分散剤が使用できる。
消泡剤としては、例えば、シリコン系やアクリル系等の消泡剤が使用でき、このような消泡剤の添加により、塗料組成物を調製する混合時に細かい泡が発生して水性塗料組成物が不均一になるのを防止し、粘度や流動性を調整することができる。また、消泡により気泡からの水分の侵入による錆の発生を防止でき、防錆性の向上を図ることができる。
ドライヤ(乾燥剤)としては、例えば、ナフテン酸コバルト、ナフテン酸鉛等の金属ドライヤ(金属乾燥剤)を使用でき、このようなドライヤを添加することで、水性塗料組成物が塗布されて塗膜が形成される段階において、乾燥の促進を図り、水性樹脂が更に重合して緻密な塗膜となるのを促進できる。
安定剤としては、例えば、アルカノールアミン誘導体(ジイソプロパノールアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、トリエタノールアミン)等を使用でき、このような安定剤を添加した場合には、流動性、粘度、分散性等を調製して塗料の安定化を図ることができる。また、アルカノールアミン誘導体は、初期錆防止剤として機能することもある。
【0085】
ここで、これら酸化マンガン系触媒と、活性炭と、分散剤と、アクリル樹脂、変性アクリル樹脂、フッ素樹脂のうちの1種以上の水性樹脂と、pH調整剤と、水を主成分とする溶媒とを含有する本実施の形態に係る水性塗料組成物の製造方法について、その一例を説明する。
【0086】
まず、水を主成分とする溶媒と、酸化マンガン系触媒と、活性炭と、分散剤とを混合し、それら混合材料を撹拌機で分散させる分散工程を実施する。
次に、分散工程で酸化マンガン系触媒と活性炭と分散剤とが水に混合分散されたその混合物にpH調整剤(中和剤)を加えて中和工程を実施する。
更に、中和工程で中和された混合物と、アクリル樹脂、変性アクリル樹脂、フッ素樹脂のうちの1種以上の水性樹脂とを混合し、それらを攪拌機で混合分散する塗料化工程を実施する。
これより、酸化マンガン系触媒と、活性炭と、分散剤と、アクリル樹脂、変性アクリル樹脂、フッ素樹脂のうちの1種以上の水性樹脂と、pH調整剤と、溶媒としての水とを含有した本実施の形態に係る水性塗料組成物が作製される。
【0087】
分散工程や塗料化工程で使用する撹拌機(混合分散機)としては、例えば、ボールミル、ビーズミル、高圧噴射器、ディゾルバ、バンバリーミキサ、プラネタリーミキサ、バタフライミキサ、スパイラルミキサ、ロールミル、サンドミル、ペイントシェーカ、グレンミル、高速インペラーミル、オープンニーダ、真空ニーダ、アトライタ、ディスパ、ホモミキサ、ホモジナーザ、コロイドミル、マイクロフルイダイザ、ソノレータ、キャビトロン等を使用できる。好ましくは、ビーズミルまたはロールミルによって、少ないエネルギ量で酸化マンガン系触媒及び活性炭を所定の細かいサイズまで分散できる。なお、必要に応じ、顔料を配合する場合には、分散工程で顔料を混合してもよい。
【0088】
中和工程では、酸化マンガン系触媒と活性炭と水と分散剤との混合物にpH調整剤を混合することによる中和によって、好ましくは、それらの水素イオン指数をpH7~pH12、より好ましくは、pH8~pH11.5、更に好ましくは、pH9.5~pH11の範囲内に調整する。これより、塗料組成物の粘度の低下による塗料成分の沈降を防止し、均一な分散及び塗料の安定化を可能として塗布性及び塗装後の均一な塗膜性能を確保できる。
塗料化工程では、中和された混合物と、アクリル樹脂、変性アクリル樹脂、フッ素樹脂のうちの1種以上の水性樹脂とを混合し、それらを攪拌機で混合分散する。必要に応じ、添加剤を配合する場合には、この塗料化工程で添加剤を混合してもよい。
なお、本発明を実施する場合には、水性塗料組成物の製造方法は、上述の方法に限定されるものではない。
【0089】
こうして作製された水性塗料組成物は、公知の塗装方法、例えば、エアスプレ法、シャワー法、スプレー法、ロールコート法、カーテンフローコート法、ダイコート法、刷毛塗り法、浸漬法、シボリ(シゴキ)法、ナイフコーター法、バーコート法、静電塗装法等の塗布手段により、基材(被塗物、塗装対象物)の所定の塗装部位に任意の塗布量、厚さ及び塗布形態で塗布できる。基材に塗布された水性塗料組成物は、自然乾燥や乾燥炉での乾燥・焼付けによって、必要に応じて、所定温度での所定時間の加熱乾燥、乾燥機による強制乾燥によって水分、溶媒が蒸発、揮発されることで硬化し、塗布した基材の表面上で硬化塗膜(コーティング層)となる。
なお、本実施の形態の水性塗料組成物は、所望とする施工部位(例えば、ラジエータ、ファン等)に直接塗布し、乾燥することで、適用箇所に直接、硬化塗膜を形成してもよいし、塩化ビニル等のシート(ラッピングシート)等の基材に塗布し、乾燥させてシート上に硬化塗膜を形成し、その硬化塗膜付きのシートを所望の施工部位(例えば、車両ルーフ、車室内部品)等に貼ることで、適用することも可能である。塩化ビニル等のシート(ラッピングシート)等の基材に塗布し、乾燥して、シート等の基材上に硬化塗膜を形成したもの(硬化塗膜付きシート)では、塗布設備や乾燥設備がなくても、任意の部位に施工が可能となり、設備投資の費用が掛からないものとなる。
【0090】
酸化マンガン系触媒と、活性炭と、分散剤と、アクリル樹脂、変性アクリル樹脂、フッ素樹脂のうちの1種以上の水性樹脂と、pH調整剤と、水を主成分とする溶媒とを含有する本実施の形態の水性塗料組成物を基材(被塗物、塗装対象物)の表面に塗布し、基材の表面に塗布された水性塗料組成物が乾燥により硬化されて、基材の表面に形成されたその硬化塗膜においては、塗膜成分として酸化マンガン系触媒及び活性炭を含むことによりオゾン分解性を発揮する。
【0091】
即ち、酸化マンガン系触媒により、その触媒上でオゾンの吸着、オゾンの自己分解反応の活性エネルギの低下、オゾンの分解、脱離反応が生じ、酸化マンガン系触媒の触媒機能によりオゾンが還元、分解されて酸素へと変換される。つまり、オゾンを無害な酸素に還元することができる。
また、活性炭においては、その細孔にオゾンを吸着し、活性炭に吸着されたオゾンは、活性炭と反応することにより、または、活性炭から電子を受け取ること(オゾンの自己分解反応の活性エネルギを低下させる触媒機能)により、一酸化炭素、二酸化炭素(炭酸ガス)、活性酸素、酸素等に変換される。つまり、オゾンを無害なものに変換することができる。特に、二酸化マンガンが高温域(例えば、80℃付近)で最も活性が高くなるのに対し、活性炭は、常温(15~25℃)を含む広い温度域で活性が高く、また、高い湿度環境においても活性が高いものである。
【0092】
特に、これら酸化マンガン系触媒と活性炭を併用した本実施の形態の水性塗料組成物によれば、それらを単独で用いた場合と比較して、高いオゾン分解性能を得ることができる。この理由については必ずしも明らかではないが、例えば、活性炭とオゾンとの反応熱により酸化マンガン系触媒のオゾン触媒反応が促進される、酸化マンガン系触媒と活性炭の併用により広範囲の温度帯でオゾン分解性能が得られる、活性炭の細孔内に酸化マンガン系触媒が入り込み活性炭及び酸化マンガン系触媒がオゾンと効率良く接触する、酸化マンガン系触媒によって活性酸素等による活性炭の酸化、消費が防止される等によって、酸化マンガン系触媒または活性炭の何れか一方のみを使用した場合と比較してオゾン分解能が向上したことが考えられる。
【0093】
また、塗料として実用化するには、水性塗料組成物の長期保存性、即ち、貯蔵安定性が必要とされるところ、オゾン分解能を有する材料として活性炭のみを単独で用いた場合には、活性炭の吸着特性により、塗料成分の樹脂分(有機物)を吸着して凝集することから、所望のオゾン分解性能を得るための活性炭の所定の配合量では、塗料の安定性を確保することが困難である。しかし、本実施の形態の水性塗料組成物においては、活性炭及び酸化マンガン系触媒を併用してオゾン分解するものであるから、オゾン分解性能及び貯蔵安定性の両方を満足させることが可能である。また、活性炭のみを単独で用いた場合よりも長寿命化できる。一方、酸化マンガン系触媒は高価であり、酸化マンガン系触媒のみを単独で用いた場合には、塗料がコスト高となってしまうところ、活性炭は安価に入手できるから、酸化マンガン系触媒及び活性炭を併用することにより、水性塗料組成物のコストも抑えられる。
【0094】
こうして、酸化マンガン系触媒と活性炭を含む本実施の形態の水性塗料組成物によれば、それを基材に塗布し乾燥してなる硬化塗膜において酸化マンガン系触媒及び活性炭を含有することにより、硬化塗膜に触れる大気中のオゾンを分解することができ、大気を浄化することができる。
【0095】
特に、本実施の形態の水性塗料組成物によれば、硬化塗膜において酸化マンガン系触媒及び活性炭のバインダとなる水性樹脂がアクリル樹脂、変性アクリル樹脂、フッ素樹脂のうちの1種以上であるから、後述するように、光が照射される曝露下でも、チョーキングが生じ難く、高い耐候性を有するものである。
【0096】
次に、本発明の実施の形態に係る水性塗料組成物の実施例を具体的に説明する。
本実施の形態に係る水性塗料組成物の実施例として、表1に示す配合組成で各種水性塗料組成物を作製した。また、比較例として表1に示す各種水性塗料組成物も作製した。
【0097】
【0098】
表1に示したように、各実施例の水性塗料組成物は、活性炭(原料:椰子殻、平均粒子径:5μm、BET比表面積:2000m2/g)と、二酸化マンガン系触媒(二酸化マンガンの含有量:70%以上、平均粒子径:5μm、BET比表面積:250m2/g)と、ポリアクリレート系分散剤と、溶媒としての水と、pH調整剤(中和剤)としてのトリエチルアミン(TEA)と、水性樹脂としてのアクリル樹脂A(樹脂固形分:47%、最低造膜温度(Minimum Film-forming Temperature:MFT):40℃、ガラス転移温度(Tg):70℃)、変性アクリル樹脂A(樹脂固形分:30%、最低造膜温度:20℃、ガラス転移温度(Tg):70℃)、またはフッ素樹脂A(樹脂固形分:50%、最低造膜温度:50℃、ガラス転移温度(Tg):50℃)と、添加剤(粘度調整剤・増粘助剤)とを配合してなるものである。
なお、表1において、活性炭及び二酸化マンガン系触媒は共に固形分100%のものであり、水は溶媒として添加したイオン交換水である。また、表1における各材料の配合量の単位は質量部である。
【0099】
各実施例の水性塗料組成物の作製においては、最初に、活性炭と、二酸化マンガン系触媒と、溶媒としての水と、ポリアクリレート系分散剤とを、表1の配合にしたがって混合し、それら混合物をビーズミルに入れて分散する分散工程を実施した。
このときのビーズミルは、メディアとして1.5mmジルコン(ジルコニアビーズミル)を用い、回転数1500rpm×90分の条件で混合材料を分散した。
【0100】
続いて、このようにして分散された混合物に対し、表1の配合にしたがって、pH調整剤としてのトリエチルアミン(TEA)を加えることにより中和を行う中和工程を実施した後、その中和された混合物に対し、表1の配合にしたがって、アクリル樹脂A、変性アクリル樹脂A、またはフッ素樹脂Aのエマルションを混合し、更に、添加剤(粘度調整剤・増粘助剤)を混合して、ディスパで5~10分間攪拌することにより材料を混合分散させる塗料化工程を実施した。以上の工程により、実施例に係る各種水性塗料組成物を得た。
【0101】
なお、このようにして作製した本実施例の水性塗料組成物は、粒子(活性炭及び二酸化マンガン系触媒)の粒度が、JISK 5600及びJISK 5400(1990)に準拠したグラインドケージによる線状法の測定で最大粒子径(Dmax)が20μm以下であり、また、レーザ回折式粒度分布測定装置を用いたレーザ解析法による測定で、体積基準の90%の累積粒子径(D90)が10μm以下であった。
【0102】
一方、表1に示した比較例は、実施例とは異なる樹脂を使用した例である。即ち、比較例では、ポリプロプレン樹脂A(樹脂固形分:30%、最低造膜温度:40℃、ガラス転移温度(Tg):30℃)、ポリプロピレン樹脂B(樹脂固形分:30%、最低造膜温度:60℃、ガラス転移温度(Tg):50℃)、エポキシ樹脂(樹脂固形分:47%、最低造膜温度:50℃、ガラス転移温度(Tg):60℃)、またはウレタン樹脂(樹脂固形分:47%、最低造膜温度:10℃、ガラス転移温度(Tg):10℃)を使用し、その他の材料は、実施例と同一として、実施例と同じ手順で作製したものである。
【0103】
ここで、表1の配合で作製した実施例及び比較例の各水性塗料組成物について、それを基材に塗布し、乾燥することによって硬化塗膜(コーティング膜)を形成し、そのオゾン分解性及び耐候性について評価試験を行った。
オゾン分解性の試験においては、
図1に示すように、評価用としてポリプロピレン基材20(以下、樹脂製基材20と称す)の表面に水性塗料組成物を塗布し、乾燥(100℃×10分)することで樹脂製基材20(約150mmX70mmX3mm厚)上に硬化塗膜1(約150mmX70mmX10~20μm膜厚)を形成してなる試験体T、即ち、水性塗料組成物から形成された硬化塗膜1付きの樹脂製基材20からなる試験体Tを用いて行った。なお、水性塗料組成物は、樹脂製基材20に対し、その素地が覆い隠れるまでに塗布を行っている。
【0104】
具体的には、
図1に示すように、10Lのテドラー(登録商標)バッグ10の袋内に試験体Tを入れてヒートシールで密封し、更に、その袋内にスリーブSからエアーポンプ(エアブロー)で空気を封入後、オゾン発生機で発生させたオゾンを注入して、バック10の袋内のオゾン濃度を2.0ppmとした。
そして、2時間経過後に検出器(オゾンセンサー)によってバック10の袋内のオゾン濃度を測定することにより、初期のオゾン濃度との比較で、オゾン分解率を算出した。なお、このときの評価試験は、25℃の室温(常温)下で行った。
このときのオゾン分解率が90%以上であった場合には◎と評価し、80%以上、90%未満であった場合には〇と評価し、80%未満であった場合には△と評価した。
【0105】
耐候性試験においては、評価用としてステンレス鋼(SUS)製またはアルミニウム(AL)製の基材の表面に水性塗料組成物を塗付し、乾燥(100℃×10分)することで金属製の基材(約150mmX70mmX1mm厚)上に硬化塗膜(約150mmX70mmX10~20μm膜厚)を形成してなる試験体、即ち、水性塗料組成物から形成された硬化塗膜付きの金属製基材からなる試験体を用いて行った。
【0106】
具体的には、スーパーキセノンウェザーメータ(スガ試験機株式会社、SX75)を用い、評価用の試験体に対して、照射積算強度を250MJ/m2とする条件で、キセノンランプ(スーパーキセノン180W/m2(300~400nm))を照射することでスーパーキセノン方式による促進耐候性試験を行った。
そして、照射積算強度が250MJ/m2となった時点で、試験体の金属製基材の塗装面、即ち、硬化塗膜を布でなぞり、その布への粉の付着状態からチョーキングを確認し、耐チョーキング性、即ち、耐候性の評価を行った。布への粉の付着性を相対的な4段階で評価し、布に粉がほぼ付着していないものについては◎、布に粉がわずかに付着したものについては〇、布への粉の付着量が中程度であったものについては△、布に粉が多く付着したものについては耐候性に劣り、実用的に使用できないと判断して×と評価した。
【0107】
総合評価として、これらオゾン分解性及び耐候性の評価試験で◎、〇、△の評価であったものを合格(〇)と判断し、オゾン分解性または耐候性の何れかの評価試験で×の評価があったものは不合格(×)と判断した。これらの評価試験の結果は、表1の下段に示した通りである。
【0108】
表1の下段に示したように、水性樹脂として、アクリル樹脂、変性アクリル樹脂、及びフッ素樹脂のうちの何れかを使用した実施例においては、何れも、オゾン分解性試験におけるオゾン分解率が80%以上で◎または〇の評価であり、かつ、耐候性試験における耐チョーキング性が何れも◎または〇の評価であり、高い耐候性を示した。
【0109】
これに対し、水性樹脂として、ポリプロプレン樹脂、エポキシ樹脂、またはウレタン樹脂を使用した比較例においては、オゾン分解性試験では◎または〇の評価であるも、耐候性試験においては、何れも×の評価であり、耐チョーキング性、即ち、耐候性に劣るものであった。特に、これらは積算照射強度25MJ/m2を超えると、チョーキングが生じるものであった。
【0110】
このように、自動車等の車両構造部品に対する塗装で一般的に使用されているポリプロプレン樹脂、エポキシ樹脂またはウレタン樹脂を用いた水性塗料組成物から形成された比較例の硬化塗膜では、酸化マンガン系触媒を含んでいることにより、光の照射下では酸化マンガン系触媒の光触媒作用によって樹脂の分解が促進されることで、チョーキング(白亜化)が生じやすく耐候性が劣るのに対し、アクリル樹脂、変性アクリル樹脂及びフッ素樹脂のうちの何れかを用いた水性塗料組成物から形成された実施例の硬化塗膜では、樹脂の劣化が抑制され、チョーキングが生じ難く耐候性に優れるものであった。
【0111】
この理由については一概に特定することができるものではないが、例えば、アクリル樹脂や変性アクリル樹脂やフッ素樹脂では、結合エネルギの高いC-F結合やO-H結合等を有し、ポリマを構成するモノマー単位の分子の結合エネルギや原子間結合エネルギが高いことで、紫外線や酸化マンガン系触媒の光触媒作用によってもポリマー鎖の結合が切断され難く、樹脂(有機物)の分解、劣化が生じ難いものと考えることができる。即ち、塗膜の酸化マンガン系触媒の含有により酸化マンガン系触媒が光のエネルギを吸収し、高エネルギ状態とされてOHラジカルやスーパーオキサイドアニオン(O2
-)やパーヒドロキシラジカル等の活性酸素を生成することにより、それが樹脂(有機物)の分子結合エネルギを切断することで樹脂が分解され劣化することになるものと考えられるが、アクリル樹脂や変性アクリル樹脂やフッ素樹脂では、それを構成する原子間や分子の結合エネルギが高いことで、分解、劣化が生じ難いものと考えることができる。
特に、酸化マンガン系触媒の光触媒作用で生じるOHラジカル等の活性酸素は、紫外線のUVBやUBAの約300~400nmの光の短波長よりも大きなエネルギを有するものと考えられ、その光酸化触媒反応による樹脂の劣化は、紫外線による励起、光酸化劣化のプロセスとは異なるものである。
【0112】
また、アクリル樹脂や変性アクリル樹脂やフッ素樹脂では、吸水性、吸湿性が低いことによって、一次結合、二次結合の加水分解が生じ難かったり、二酸化マンガン系触媒の光酸化触媒反応を進行させ難かったり、塗膜内部に酸素を運び難かったりすることが関連していることも考えられる。
即ち、酸化マンガン系触媒は、光の吸収により、酸素や水分との相互作用でヒドロキシラジカル等を生じるものであるところ、アクリル樹脂や変性アクリル樹脂やフッ素樹脂では、吸水性、吸湿性が低いことにより、塗膜の透湿性を低くし、また、塗膜内部に酸素を運搬し難いことで、二酸化マンガン系触媒の光酸化触媒反応による劣化を防止できると考えることができる。更には、吸水性、吸湿性が低いことで、光と酸素による自動酸化の促進を生じ難いものとも考えることができる。
加えて、アクリル樹脂、変性アクリル樹脂、フッ素樹脂は、二酸化マンガン系触媒との相溶性、濡れ性がよいことで、或いは、低表面エネルギによって塗膜内部への水分の浸透性、透湿性が低いことで、水分子に起因する光酸化の促進を防止でき、また、二酸化マンガン系触媒の光酸化触媒反応の促進を防止できると推測することもできる。
【0113】
更に、アクリル樹脂、変性アクリル樹脂、フッ素樹脂では、そのポリマの主鎖にC-F結合、O-H結合、C=O結合、C=C結合等の大きな結合エネルギを有することで、二酸化マンガン系触媒のOHラジカル自体の発生を抑制できている可能性もあると考えることができる。また、それらの結合がC-C結合やCーH結合を立体的、電子的に保護、劣化を受けにくい構造としていると考えることもできる。また、構造上の規則性の均一性が高いく、分解し難いことも考えられる。
また、アクリル樹脂、変性アクリル樹脂、フッ素樹脂では、温度上昇も相対的に少ないので、熱による分子の切断や酸素の結合等による樹脂の劣化、分解反応の促進を抑制できるとも考えることができる。
加えて、アクリル樹脂、変性アクリル樹脂、フッ素樹脂は、一般的に、ポリマ製造時の重合反応時に使用される重合触媒や重合反応を終了させる添加物等の残留不純物の少ないものを入手でき、それら残留触媒の作用による樹脂劣化が少ないものとも考えられる。
【0114】
特に、酸化マンガン系触媒と活性炭の含有によりオゾン分解作用を有する硬化塗膜においては、オゾン分解で生じた酸素が樹脂光酸化劣化を生じさせやすくしている一因となっていることも考えられ、また、光触媒の有機物の分解により生じるH20が樹脂の結合の分解を促進しやすいことも考えられるが、このように、アクリル樹脂や変性アクリル樹脂やフッ素樹脂をバインダとするものでは、それら樹脂の分解、劣化が抑制されてチョーキングが生じ難く、高い耐候性を有するものとなる。
【0115】
ここで、本発明者らは、耐候性の高い硬化塗膜を形成できるアクリル樹脂、変性アクリル樹脂及びフッ素樹脂について、更に、種々の樹脂で水性塗料組成物を作製し、上述と同じオゾン分解性試験及び耐候性試験を行った。
【0116】
まず、種々のアクリル樹脂を使用し、また、二酸化マンガン系触媒と活性炭の総濃度を変化させて、表2の配合組成で各種水性塗料組成物を作製した実施例について説明する。
表2に示す実施例1-1及び実施例1-2は、上記表1と同一であり、実施例1-3乃至実施例1-11は、上述と同じ手順で作製したものである。
【0117】
【0118】
表2に示すように、実施例1-1乃至実施例1-6は、何れも、水性樹脂として、アクリル樹脂A(樹脂固形分:47%、最低造膜温度:40℃、ガラス転移温度(Tg):70℃)を使用したものである。また、実施例1-1乃至実施例1-6は、二酸化マンガン系触媒と活性炭の総濃度を相違させて作製したものである。
【0119】
具体的には、実施例1-1においては、活性炭を3.2g、二酸化マンガン系触媒を7.2g、アクリル樹脂Aを固形分で5.64gの配合によって、二酸化マンガン系触媒及び活性炭の合計配合量を、アクリル樹脂A(固形分)、活性炭、及び二酸化マンガン系触媒の合計配合量100質量部に対し、65質量部(小数点以下四捨五入、以下同様)としたものである。
なお、この実施例1-1の配合においては、アクリル樹脂A(固形分)の配合量が、二酸化マンガン系触媒と活性炭の合計量100質量部に対し、54質量部であり、二酸化マンガン系触媒100質量部に対し、78質量部である。また、二酸化マンガン系触媒の配合量が、活性炭100質量部に対し、225質量部であり、アクリル樹脂A(固形分)、活性炭、及び二酸化マンガン系触媒の合計配合量100質量部に対し、45質量部である。
【0120】
実施例1-2においては、活性炭を2.2g、二酸化マンガン系触媒を5.1g、アクリル樹脂Aを固形分で17.25gの配合によって、二酸化マンガン系触媒及び活性炭の合計配合量を、アクリル樹脂A(固形分)、活性炭、及び二酸化マンガン系触媒の合計配合量100質量部に対し30質量部としたものである。
なお、この実施例1-2の配合においては、アクリル樹脂A(固形分)の配合量が、二酸化マンガン系触媒と活性炭の合計量100質量部に対し、236質量部であり、二酸化マンガン系触媒100質量部に対し、338質量部である。また、二酸化マンガン系触媒の配合量が、活性炭100質量部に対し、232質量部であり、アクリル樹脂A(固形分)、活性炭、及び二酸化マンガン系触媒の合計配合量100質量部に対し、21質量部である。
【0121】
実施例1-3においては、活性炭を3.6g、二酸化マンガン系触媒を8.0g、アクリル樹脂Aを固形分で3.81gの配合によって、二酸化マンガン系触媒及び活性炭の合計配合量を、アクリル樹脂A(固形分)、活性炭、及び二酸化マンガン系触媒の合計配合量100質量部に対し75質量部としたものである。
なお、この実施例1-3の配合においては、アクリル樹脂A(固形分)の配合量が、二酸化マンガン系触媒と活性炭の合計量100質量部に対し、33質量部であり、二酸化マンガン系触媒100質量部に対し、48質量部である。また、二酸化マンガン系触媒の配合量が、活性炭100質量部に対し、222質量部であり、アクリル樹脂A(固形分)、活性炭、及び二酸化マンガン系触媒の合計配合量100質量部に対し、52質量部である。
【0122】
実施例1-4においては、活性炭を2.6g、二酸化マンガン系触媒を5.9g、アクリル樹脂Aを固形分で10.39gの配合によって、二酸化マンガン系触媒及び活性炭の合計配合量を、アクリル樹脂A(固形分)、活性炭、及び二酸化マンガン系触媒の合計配合量100質量部に対し45質量部としたものである。
なお、この実施例1-4の配合においては、アクリル樹脂A(固形分)の配合量が、二酸化マンガン系触媒と活性炭の合計量100質量部に対し、122質量部であり、二酸化マンガン系触媒100質量部に対し、176質量部である。また、二酸化マンガン系触媒の配合量が、活性炭100質量部に対し、227質量部であり、アクリル樹脂A(固形分)、活性炭、二酸化マンガン系触媒の合計配合量100質量部に対し、31質量部である。
【0123】
実施例1-5においては、活性炭を2.3g、二酸化マンガン系触媒を5.3g、アクリル樹脂Aを固形分で14.15gの配合によって、二酸化マンガン系触媒及び活性炭の合計配合量を、アクリル樹脂A(固形分)及び活性炭及び二酸化マンガン系触媒の合計配合量100質量部に対し35質量部としたものである。
なお、この実施例1-5の配合においては、アクリル樹脂A(固形分)の配合量が、二酸化マンガン系触媒と活性炭の合計量100質量部に対し、186質量部であり、二酸化マンガン系触媒100質量部に対し、267質量部である。また、二酸化マンガン系触媒の配合量が、活性炭100質量部に対し、230質量部であり、アクリル樹脂A(固形分)、活性炭、及び二酸化マンガン系触媒の合計配合量100質量部に対し、24質量部である。
【0124】
実施例1-6においては、活性炭を2.0g、二酸化マンガン系触媒を4.7g、アクリル樹脂Aを固形分で20.07gの配合によって、二酸化マンガン系触媒及び活性炭の合計配合量を、アクリル樹脂A(固形分)、活性炭、及び二酸化マンガン系触媒の合計配合量100質量部に対し75質量部としたものである。
なお、この実施例1-6の配合においては、アクリル樹脂A(固形分)の配合量が、二酸化マンガン系触媒と活性炭の合計量100質量部に対し、300質量部であり、二酸化マンガン系触媒100質量部に対し、427質量部である。また、二酸化マンガン系触媒の配合量が、活性炭100質量部に対し、235質量部であり、アクリル樹脂A(固形分)、性炭、及び二酸化マンガン系触媒の合計配合量100質量部に対し、18質量部である。
【0125】
表2に示すように、同じアクリル樹脂Aを用いているも二酸化マンガン系触媒と活性炭の総濃度を様々変化させた実施例1-1乃至実施例1-6では、二酸化マンガン系触媒と活性炭の総濃度が低いものほどオゾン分解率は低下するが、耐候性(耐チョーキング性)は高いものとなった。換言すれば、二酸化マンガン系触媒と活性炭の総濃度が高いほどオゾン分解率が高くなる一方で、耐候性は低くなった。
【0126】
なお、より詳細には、二酸化マンガン系触媒と活性炭の総濃度を75%とした実施例1-3ではオゾン分解率が99.9%、二酸化マンガン系触媒と活性炭の総濃度を65%とした実施例1-1ではオゾン分解率が99.8%、二酸化マンガン系触媒と活性炭の総濃度を45%とした実施例1-4ではオゾン分解率が99.8%、二酸化マンガン系触媒と活性炭の総濃度を35%とした実施例1-5ではオゾン分解率が87.2%、二酸化マンガン系触媒と活性炭の総濃度を30%とした実施例1-2ではオゾン分解率が80.9%、二酸化マンガン系触媒と活性炭の総濃度を25%とした実施例1-2ではオゾン分解率が75.2%であった。
【0127】
そして、二酸化マンガン系触媒と活性炭の総濃度が75%を超えると耐候性が低下し、二酸化マンガン系触媒と活性炭の総濃度が25%未満でオゾン分解性が低下する。即ち、二酸化マンガン系触媒と活性炭の総濃度を高くすれば高いオゾン分解性が得られるが、二酸化マンガン系触媒及び活性炭が多くなり水性樹脂が少なくなると、日光等が照射する曝露下では二酸化マンガン系樹脂の光触媒作用により樹脂の劣化が促進されることで、チョーキングが生じやすくなる。高いオゾン分解性からすれば、好ましくは、25%以上、より好ましくは、30%以上、更に好ましくは、45%以上である。高い耐候性からすれば、好ましくは、75%以下、より好ましくは、70%以下、更に好ましくは、65%以下である。
二酸化マンガン系触媒と活性炭の総濃度が、好ましくは、25%以上、75%以下の範囲内であれば、オゾン分解性と耐候性の両立が可能である。より好ましくは、30%以上、70%以下の範囲内、更に好ましくは、30%以上、65%以下の範囲内である。
【0128】
また、実施例1-7及び実施例1-8は、水性樹脂として、アクリル樹脂B(樹脂固形分:47%、最低造膜温度:100℃、ガラス転移温度(Tg):-20℃)を使用したものであり、実施例1-7と実施例1-8とでは、二酸化マンガン系触媒と活性炭の総濃度を相違させて作製したものである。
【0129】
具体的には、実施例1-7においては、活性炭を3.2g、二酸化マンガン系触媒を7.2g、アクリル樹脂Bを固形分で5.63gの配合によって、二酸化マンガン系触媒及び活性炭の合計配合量を、アクリル樹脂B(固形分)、活性炭、二酸化マンガン系触媒の合計配合量100質量部に対し65質量部としたものである。
なお、この実施例1-7の配合においては、アクリル樹脂B(固形分)の配合量が、二酸化マンガン系触媒と活性炭の合計量100質量部に対し、54質量部であり、二酸化マンガン系触媒100質量部に対し、78質量部である。また、二酸化マンガン系触媒の配合量が、活性炭100質量部に対し、225質量部であり、アクリル樹脂B(固形分)、活性炭、及び二酸化マンガン系触媒の合計配合量100質量部に対し、50質量部である。
【0130】
実施例1-8においては、活性炭を2.2g、二酸化マンガン系触媒を5.1g、アクリル樹脂Aを固形分で19.15gの配合によって、二酸化マンガン系触媒及び活性炭の合計配合量を、アクリル樹脂B(固形分)、活性炭、及び二酸化マンガン系触媒の合計配合量100質量部に対し30質量部としたものである。
なお、この実施例1-8の配合においては、アクリル樹脂B(固形分)の配合量が、二酸化マンガン系触媒と活性炭の合計量100質量部に対し、262質量部であり、二酸化マンガン系触媒100質量部に対し、376質量部である。また、二酸化マンガン系触媒の配合量が、活性炭100質量部に対し、232質量部であり、アクリル樹脂B(固形分)、活性炭、及び二酸化マンガン系触媒の合計配合量100質量部に対し、19質量部である。
【0131】
実施例1-9及び実施例1-10は、水性樹脂として、アクリル樹脂C(樹脂固形分:50%、最低造膜温度:60℃、ガラス転移温度(Tg):90℃)を使用したものであり、実施例1-9と実施例1-10とでは、二酸化マンガン系触媒と活性炭の総濃度を相違させて作製したものである。
【0132】
具体的には、実施例1-9においては、活性炭を3.2g、二酸化マンガン系触媒を7.2g、アクリル樹脂Cを固形分で5.65gの配合によって、二酸化マンガン系触媒及び活性炭の合計配合量を、アクリル樹脂C(固形分)、活性炭、及び二酸化マンガン系触媒の合計配合量100質量部に対し65質量部としたものである。
なお、この実施例1-9の配合においては、アクリル樹脂C(固形分)の配合量が、二酸化マンガン系触媒と活性炭の合計量100質量部に対し、54質量部であり、二酸化マンガン系触媒100質量部に対し、79質量部である。また、二酸化マンガン系触媒の配合量が、活性炭100質量部に対し、225質量部であり、アクリル樹脂C(固形分)、活性炭、二酸化マンガン系触媒の合計配合量100質量部に対し、50質量部である。
【0133】
実施例1-10においては、活性炭を2.2g、二酸化マンガン系触媒を5.1g、アクリル樹脂Cを固形分で17.25gの配合によって、二酸化マンガン系触媒及び活性炭の合計配合量を、アクリル樹脂C(固形分)、活性炭、及び二酸化マンガン系触媒の合計配合量100質量部に対し30質量部としたものである。
なお、この実施例1-10の配合においては、アクリル樹脂C(固形分)の配合量が、二酸化マンガン系触媒と活性炭の合計量100質量部に対し、236質量部であり、二酸化マンガン系触媒100質量部に対し、337質量部である。また、二酸化マンガン系触媒の配合量が、活性炭100質量部に対し、232質量部であり、アクリル樹脂C(固形分)、活性炭、及び二酸化マンガン系触媒の合計配合量100質量部に対し、21質量部である。
【0134】
実施例1-11は、水性樹脂として、アクリル樹脂D(樹脂固形分:30%、最低造膜温度:70℃、ガラス転移温度(Tg):120℃)を使用したものである。
この実施例1-11においては、活性炭を2.2g、二酸化マンガン系触媒を5.1g、アクリル樹脂Cを固形分で17.25gの配合によって、二酸化マンガン系触媒及び活性炭の合計配合量を、アクリル樹脂D(固形分)、活性炭、及び二酸化マンガン系触媒の合計配合量100質量部に対し30質量部としたものである。
なお、この実施例1-11の配合においては、アクリル樹脂D(固形分)の配合量が、二酸化マンガン系触媒と活性炭の合計量100質量部に対し、236質量部であり、二酸化マンガン系触媒100質量部に対し、338質量部である。また、二酸化マンガン系触媒の配合量が、活性炭100質量部に対し、232質量部であり、アクリル樹脂C(固形分)、活性炭、及び二酸化マンガン系触媒の合計配合量100質量部に対し、21質量部である。
【0135】
表2の実施例1-1乃至実施例1-11で示されように、何れのアクリル樹脂を使用しても良好な耐候性が得られ、また、二酸化マンガン系触媒と活性炭の総濃度が25%~75%の所定範囲にあることで、良好な耐候性かつオゾン分解性が得られた。
【0136】
ここで、一般的には、ガラス転移温度が低いほど室温では分子運動が活発なので、劣化反応が生じやすいと考えられているところ、実施例1-2、実施例1-8、実施例1-10、及び実施例1-11の比較から分かるように、アクリル樹脂ではガラス転移温度(Tg)が低い方が、より耐候性が高いものとなった。この理由については必ずしも明らかではないが、アクリル樹脂においては、ガラス転移温度(Tg)が低いものでは側鎖のカーボン数が多くてその解離に多くのエネルギを要することが考えられる。
【0137】
そして、本発明者らの実験研究によれば、アクリル樹脂はガラス転移温度が130℃以下であれば良好な耐候性が得られ、より好ましくは、120℃以下、更に好ましくは、90℃以下であり、特に好ましくは70℃以下のものである。一方で、ガラス転移温度が低すぎるものは、耐熱性が低下し、高温環境条件下の使用に適さないものとなるから、好ましくは、-30℃以上のものであり、より好ましくは、-25℃以上のもの、更に好ましくは、-20℃以上のものである。
【0138】
次に、種々の変性アクリル樹脂を使用し表3の配合組成で各種の水性塗料組成物を作製した実施例について説明する。
表3に示す実施例2-1及び実施例2-2は、上記表1と同一であり、実施例2-3及び実施例2-4は、上述と同じ手順で作製したものである。
【0139】
【0140】
実施例2-1及び実施例2-2は、上述したように、水性樹脂として、変性アクリル樹脂A(樹脂固形分:30%、最低造膜温度:20℃、ガラス転移温度(Tg):70℃)を使用したものである。
実施例2-3は、水性樹脂として、変性アクリル樹脂B(樹脂固形分:30%、最低造膜温度:50℃、ガラス転移温度(Tg):80℃)を使用したものである。
実施例2-4は、水性樹脂として、変性アクリル樹脂C(樹脂固形分:45%、最低造膜温度:70℃、ガラス転移温度(Tg):110℃)を使用したものである。
【0141】
具体的には、実施例2-1においては、活性炭を3.2g、二酸化マンガン系触媒を7.2g、変性アクリル樹脂Aを固形分で5.58gの配合によって、二酸化マンガン系触媒及び活性炭の合計配合量を、変性アクリル樹脂A(固形分)、活性炭、及び二酸化マンガン系触媒の合計配合量100質量部に対し65質量部としたものである。
なお、この実施例2-1の配合においては、変性アクリル樹脂A(固形分)の配合量が、二酸化マンガン系触媒と活性炭の合計量100質量部に対し、54質量部であり、二酸化マンガン系触媒100質量部に対し、78質量部である。また、二酸化マンガン系触媒の配合量が、活性炭100質量部に対し、225質量部であり、変性アクリル樹脂A(固形分)、活性炭、及び二酸化マンガン系触媒の合計配合量100質量部に対し、45質量部である。
【0142】
実施例2-2においては、活性炭を2.2g、二酸化マンガン系触媒を5.1g、変性アクリル樹脂Aを固形分で17.25gの配合によって、二酸化マンガン系触媒及び活性炭の合計配合量を、変性アクリル樹脂A(固形分)、活性炭、及び二酸化マンガン系触媒の合計配合量100質量部に対し30質量部としたものである。
なお、この実施例2-2の配合においては、変性アクリル樹脂A(固形分)の配合量が、二酸化マンガン系触媒と活性炭の合計量100質量部に対し、236質量部であり、二酸化マンガン系触媒100質量部に対し、338質量部である。また、二酸化マンガン系触媒の配合量が、活性炭100質量部に対し、232質量部であり、変性アクリル樹脂A(固形分)、活性炭、及び二酸化マンガン系触媒の合計配合量100質量部に対し、21質量部である。
【0143】
実施例2-3においては、活性炭を2.2g、二酸化マンガン系触媒を5.1g、変性アクリル樹脂Bを固形分で17.25gの配合によって、二酸化マンガン系触媒及び活性炭の合計配合量を、変性アクリル樹脂B(固形分)、活性炭、及び二酸化マンガン系触媒の合計配合量100質量部に対し65質量部としたものである。
なお、この実施例2-3の配合においては、変性アクリル樹脂B(固形分)の配合量が、二酸化マンガン系触媒と活性炭の合計量100質量部に対し、236質量部であり、二酸化マンガン系触媒100質量部に対し、338質量部である。また、二酸化マンガン系触媒の配合量が、活性炭100質量部に対し、232質量部であり、変性アクリル樹脂B(固形分)、活性炭、及び二酸化マンガン系触媒の合計配合量100質量部に対し、21質量部である。
【0144】
実施例2-4においては、活性炭を2.2g、二酸化マンガン系触媒を5.1g、変性アクリル樹脂Cを固形分で17.25gの配合によって、二酸化マンガン系触媒及び活性炭の合計配合量を、変性アクリル樹脂C(固形分)、活性炭、及び二酸化マンガン系触媒の合計配合量100質量部に対し30質量部としたものである。
なお、この実施例2-4の配合においては、変性アクリル樹脂C(固形分)の配合量が、二酸化マンガン系触媒と活性炭の合計量100質量部に対し、236質量部であり、二酸化マンガン系触媒100質量部に対し、338質量部である。また、二酸化マンガン系触媒の配合量が、活性炭100質量部に対し、232質量部であり、変性アクリル樹脂C(固形分)、活性炭、及び二酸化マンガン系触媒の合計配合量100質量部に対し、21質量部である。
【0145】
実施例2-1乃至実施例2-4で示すように、何れの変性アクリル樹脂でも良好な耐候性が得られ、また、二酸化マンガン系触媒と活性炭の総濃度が30%~65%の範囲であることで良好なオゾン分解性が得られた。
特に、実施例2-2、実施例2-3、実施例2-4の比較から分かるように、変性アクリル樹脂においても、ガラス転移温度(Tg)が低いもので耐候性が高いものとなった。本発明者らの実験研究によれば、変性アクリル樹脂はガラス転移温度が130℃以下であれば良好な耐候性が得られ、より好ましくは、110℃以下であり、更に好ましくは80℃以下、特に好ましくは、70℃以下のものである。一方で、ガラス転移温度が低すぎるものは、耐熱性が低下し、高温環境条件下の使用に適さないものとなるから、好ましくは、-30℃以上のものであり、より好ましくは、-25℃以上のもの、更に好ましくは、-20℃以上のものである。
【0146】
更に、種々のフッ素樹脂を使用して表4の配合組成で各種の水性塗料組成物を作製した実施例について説明する。
表4に示す実施例3-1及び実施例3-2は、上記表1と同一であり、実施例3-3及び実施例3-4は、上述と同じ手順で作製したものである。
【0147】
【0148】
実施例3-1及び実施例3-2は、上述したように、水性樹脂として、フッ素樹脂A(樹脂固形分:50%、最低造膜温度:50℃、ガラス転移温度(Tg):50℃)を使用したものである。
実施例3-2は、水性樹脂として、フッ素樹脂B(樹脂固形分:50%、最低造膜温度:70℃、ガラス転移温度(Tg):80℃)を使用したものである。
実施例3-3は、水性樹脂として、フッ素樹脂C(樹脂固形分:45%、最低造膜温度:70℃、ガラス転移温度(Tg):90℃)を使用したものである。
【0149】
具体的には、実施例3-1においては、活性炭を3.2g、二酸化マンガン系触媒を7.2g、フッ素樹脂Aを固形分で5.58gの配合によって、二酸化マンガン系触媒及び活性炭の合計配合量を、フッ素樹脂A(固形分)、活性炭、及び二酸化マンガン系触媒の合計配合量100質量部に対し65質量部としたものである。
なお、この実施例3-1の配合においては、フッ素樹脂A(固形分)の配合量が、二酸化マンガン系触媒と活性炭の合計量100質量部に対し、54質量部であり、二酸化マンガン系触媒100質量部に対し、78質量部である。また、二酸化マンガン系触媒の配合量が、活性炭100質量部に対し、225質量部であり、フッ素樹脂A(固形分)、活性炭、及び二酸化マンガン系触媒の合計配合量100質量部に対し、45質量部である。
【0150】
実施例3-2においては、活性炭を2.2g、二酸化マンガン系触媒を5.1g、フッ素樹脂Aを固形分で17.25gの配合によって、二酸化マンガン系触媒及び活性炭の合計配合量を、フッ素樹脂A(固形分)、活性炭、及び二酸化マンガン系触媒の合計配合量100質量部に対し30質量部としたものである。
なお、この実施例3-2の配合においては、フッ素樹脂A(固形分)の配合量が、二酸化マンガン系触媒と活性炭の合計量100質量部に対し、236質量部であり、二酸化マンガン系触媒100質量部に対し、338質量部である。また、二酸化マンガン系触媒の配合量が、活性炭100質量部に対し、232質量部であり、フッ素樹脂A(固形分)、活性炭、及び二酸化マンガン系触媒の合計配合量100質量部に対し、21質量部である。
【0151】
実施例3-3においては、活性炭を2.2g、二酸化マンガン系触媒を5.1g、フッ素樹脂Bを固形分で17.25gの配合によって、二酸化マンガン系触媒及び活性炭の合計配合量を、フッ素樹脂B(固形分)及び活性炭及び二酸化マンガン系触媒の合計配合量100質量部に対し65質量部としたものである。
なお、この実施例3-3の配合においては、フッ素樹脂B(固形分)の配合量が、二酸化マンガン系触媒と活性炭の合計量100質量部に対し、236質量部であり、二酸化マンガン系触媒100質量部に対し、338質量部である。また、二酸化マンガン系触媒の配合量が、活性炭100質量部に対し、232質量部であり、フッ素樹脂B(固形分)、活性炭、及び二酸化マンガン系触媒の合計配合量100質量部に対し、21質量部である。
【0152】
実施例3-4においては、活性炭を2.2g、二酸化マンガン系触媒を5.1g、フッ素樹脂Cを固形分で17.24gの配合によって、二酸化マンガン系触媒及び活性炭の合計配合量は、フッ素樹脂C(固形分)、活性炭、及び二酸化マンガン系触媒の合計配合量100質量部に対し30質量部としたものである。
なお、この実施例3-4の配合においては、フッ素樹脂C(固形分)の配合量が、二酸化マンガン系触媒と活性炭の合計量100質量部に対し、236質量部であり、二酸化マンガン系触媒100質量部に対し、338質量部である。また、酸化マンガン系触媒の配合量が、活性炭100質量部に対し、232質量部であり、フッ素樹脂C(固形分)、活性炭、及び二酸化マンガン系触媒の合計配合量100質量部に対し、21質量部である。
【0153】
実施例3-1乃至実施例3-4で示すように、何れのフッ素樹脂でも良好な耐候性が得られ、また、二酸化マンガン系触媒と活性炭の総濃度が30%~65%の範囲であることで良好なオゾン分解性が得られた。
特に、実施例3-2、実施例3-3、実施例3-4の比較から分かるように、フッ素樹脂においても、ガラス転移温度(Tg)が低いものが、より耐候性が高いものとなった。本発明者らの実験研究によれば、フッ素樹脂はガラス転移温度が100℃以下であれば良好な耐候性が得られ、より好ましくは、90℃以下であり、更に好ましくは80℃以下であり、特に好ましくは、50℃以下のものである。一方で、ガラス転移温度が低すぎるものは、耐熱性が低下し、高温環境条件下の使用に適さないものとなるから、好ましくは、-30℃以上のものであり、より好ましくは、-25℃以上のもの、更に好ましくは、-20℃以上のものである。
【0154】
なお、本発明者らは、上記実施例の全てにおいて、作製した水性塗料組成物を20℃の温度条件で1カ月間保管し、1カ月後の凝集の有無を確認したところ、20℃で1カ月間保管しても、凝集が生じておらず、貯蔵安定性に優れることも確認している。また、基材の金属性または樹脂製(非金属製)を問わず、上記実施例で作製された硬化塗膜はそれら基材に対する付着性も良好なものであった。
【0155】
ところで、更に、本発明者らは、塗膜成分となるアクリル樹脂、変性アクリル樹脂、フッ素樹脂のうちの1種以上の水性樹脂や、オゾン分解性を発揮する酸化マンガン系触媒及び活性炭の最適な配合について検討を行ったところ、アクリル樹脂、変性アクリル樹脂、フッ素樹脂のうちの1種以上の水性樹脂は、酸化マンガン系触媒と活性炭の合計量(固形分)100質量部に対し、20質量部~400質量部の範囲内の配合が好ましい。より好ましくは、25質量部~350質量部、更に好ましくは、30~300質量部、特に好ましくは、50~280質量部の範囲内である。
アクリル樹脂、変性アクリル樹脂、フッ素樹脂のうちの1種または2種以上である水性樹脂の酸化マンガン系触媒及び活性炭に対する配合量が多すぎるものでは、オゾン分解性を有する酸化マンガン系触媒及び活性炭の配合量が相対的に低くなることから、オゾン分解性が低下する。このため、水性樹脂の配合量を酸化マンガン系触媒と活性炭の合計量100質量部に対し、400質量部以下とするのが好ましく、より好ましくは、350質量部以下、更に好ましくは、300質量部以下、特に好ましくは、280質量部以下である。一方で、水性樹脂の酸化マンガン系触媒及び活性炭に対する配合量が多すぎるものでは、バインダである水性樹脂の配合が相対的に低くなることで、脆弱で劣化がはやく耐チョーキング性が低下する。このため、水性樹脂の配合量を酸化マンガン系触媒と活性炭の合計量100質量部に対し、20質量部以上とするのが好ましく、より好ましくは、25質量部以上、更に好ましくは、30質量部以上、特に好ましくは、50質量部以上である。
上記範囲内であれば、オゾン分解性と耐チョーキング、即ち、耐候性とを両立できる。
【0156】
また、アクリル樹脂、変性アクリル樹脂、フッ素樹脂のうちの1種以上の水性樹脂は、酸化マンガン系触媒100質量部に対し、30質量部~500質量部の範囲内の配合が好ましい。より好ましくは、40質量部~480質量部、更に好ましくは、45~450質量部、特に好ましくは、70~400質量部の範囲内である。
アクリル樹脂、変性アクリル樹脂、フッ素樹脂のうちの1種以上である水性樹脂の酸化マンガン系触媒に対する配合量が多すぎるものでは、オゾン分解性を有する酸化マンガン系触媒の配合量が相対的に低くなることになるから、酸化マンガン系触媒及び活性炭の相乗効果によるオゾン分解性能が低下する。このため、水性樹脂の配合量を酸化マンガン系触媒100質量部に対し、500質量部以下とするのが好ましく、より好ましくは、480質量部以下、更に好ましくは、450質量部以下、特に好ましくは、400質量部以下である。一方で、水性樹脂の酸化マンガン系触媒に対する配合量が多すぎるものでは、バインダである水性樹脂の濃度が相対的に低く、酸化マンガン系触媒の濃度が相対的に高くなることで、耐チョーキング性が低下する。このため、水性樹脂の配合量を酸化マンガン系触媒100質量部に対し、30質量部以上とするのが好ましく、より好ましくは、40質量部以上、更に好ましくは、45質量部以上、特に好ましくは、70質量部以上である。
上記範囲内であれば、オゾン分解性と耐チョーキング、即ち、耐候性の両立を向上できる。
【0157】
更に、酸化マンガン系触媒は、活性炭100質量部に対し、11質量部~900質量部の範囲内の配合が好ましい。より好ましくは、15質量部~800質量部、更に好ましくは、20質量部~700質量部の範囲内である。
酸化マンガン系触媒の配合が活性炭に対して多すぎるものでは、耐候性が低下する。また、コスト増を招く。そこで、酸化マンガン系触媒は、活性炭100質量部に対し、900質量部以下が好ましく、より好ましくは、800質量部以下、更に好ましくは、700質量部以下である。一方で、酸化マンガン系触媒の配合が少なく、相対的に活性炭の配合が多くなると、活性炭が凝集しやすいことで、分散性が低下し、塗工性が低下する。このため、酸化マンガン系触媒は、活性炭100質量部に対し、11質量部以上が好ましく、より好ましくは、15質量部以上、更に好ましくは、20質量部以上である。
上記範囲内であれば、塗工性と耐候性を両立でき、また、低コストで済む。
【0158】
加えて、酸化マンガン系触媒は、酸化マンガン系触媒と活性炭と水性樹脂の合計量を100質量部に対し、5質量部~65質量部の範囲内の配合が好ましい。より好ましくは、10質量部~60質量部、更に好ましくは、15質量部~55質量部、特に好ましくは、18質量部~50質量部の範囲内である。
塗膜成分となる酸化マンガン系触媒の濃度が多すぎるものでは、耐候性が低下する。このため、酸化マンガン系触媒は、酸化マンガン系触媒と活性炭と水性樹脂の合計量を100質量部に対し、65質量部以下が好ましく、より好ましくは、60質量部以下、更に好ましくは、55質量部以下、より好ましくは、50質量部以下である。一方で、酸化マンガン系触媒の濃度が少なすぎると、酸化マンガン系触媒と活性炭の相乗効果によるオゾン分解性が低下することになる。このため、酸化マンガン系触媒は、酸化マンガン系触媒と活性炭と水性樹脂の合計量を100質量部に対し、5質量部以上が好ましく、より好ましくは、10質量部以上、更に好ましくは、15質量部以上、より好ましくは、18質量部以上である。
上記範囲内であれば、オゾン分解性と耐候性の両立を向上できる。
【0159】
なお、水性塗料組成物全体からすれば、活性炭は、好ましくは、1~40質量%、より好ましくは、1.5~20質量%、更に好ましくは、2~10質量%、特に好ましくは、2~5質量%の範囲内であり、二酸化マンガン系触媒は、好ましくは、1~40質量%、より好ましくは、2~20質量%、更に好ましくは、3~15質量%、特に好ましくは、4~10質量%の範囲内であり、分散剤は、好ましくは、0.2~2質量%、より好ましくは、0.3~1質量%、更に好ましくは、0.3~0.8質量%の範囲内であり、アクリル樹脂、変性アクリル樹脂またはフッ素樹脂の何れか1種以上の水性樹脂は、固形分換算で、好ましくは、2~30質量%、より好ましくは、2~25質量%、更に好ましくは、3~25質量%の範囲内であり、pH調整剤は、好ましくは、0.1~5質量%、より好ましくは、0.5~4質量%、更に好ましくは、1~3質量%の範囲内であり、添加剤は、0~10質量%、より好ましくは、1~8質量%、更に好ましくは、3~8質量%の範囲内の濃度である。
【0160】
硬化塗膜の塗膜成分からすれば、活性炭は、好ましくは、3~60質量%、より好ましくは、4~35質量%、更に好ましくは、5~30質量%、特に好ましくは、5~25質量%の範囲内であり、二酸化マンガン系触媒は、好ましくは、3~60質量%、より好ましくは、5~60質量%、更に好ましくは、10~60質量%、特に好ましくは、15~50質量%の範囲内であり、アクリル樹脂、変性アクリル樹脂またはフッ素樹脂の何れか1種以上の水性樹脂は、固形分換算で、好ましくは、15~90質量%、より好ましくは、25~85質量%、更に好ましくは、25~85質量%の範囲内の濃度である。
【0161】
このように酸化マンガン系触媒と、活性炭と、アクリル樹脂、変性アクリル樹脂またはフッ素樹脂の何れか1種以上の水性樹脂と、分散剤とを含み、水を溶媒の主成分とする水性塗料組成物を基材に塗布し、乾燥することにより形成される硬化塗膜では、光照射による酸化マンガン系触媒の光触媒作用によっても、アクリル樹脂、変性アクリル樹脂またはフッ素樹脂が分解、劣化し難いことにより、酸化マンガン系触媒が樹脂と剥離し難くて塗膜界面がチョーキング(白亜化)し難いものであり、また、層間剥離も防止される。
【0162】
特に、オゾンの分解により生じた酸素が比較的多く存在することで、光酸化が促進されやすい環境と考えられ、また、二酸化マンガン系触媒等の酸化マンガン系触媒は、光の吸収により酸素と水分との相互作用でヒドロキシラジカルやスーパーオキサイドアニオン(O2
-)やパーヒドロキシラジカル等の遊離ラジカルを生成するものであるから、酸化マンガン系触媒の光触媒作用による樹脂の分解が促進されやすい環境にあると考えられるが、アクリル樹脂、変性アクリル樹脂またはフッ素樹脂をバインダとすることで、光照射による酸化マンガン系触媒の光触媒作用によっても塗膜がチョーキング(白亜化)し難いものとなり、高い耐候性を有する。
【0163】
そして、塗膜成分の劣化については、水性塗料組成物を塗布した基材の成分によっても影響を受ける可能性があるところ、本発明者らの実験研究によって、本実施の形態の水性塗料組成物を塗布する塗装対象物の基材が金属製であっても、また、非金属のもの、例えば、樹脂製であっても、それら基材に塗布し、乾燥することにより形成される硬化塗膜は、良好な耐候性を有することを確認している。
【0164】
このように本実施の形態の水性塗料組成物によれば、光触媒作用を有する二酸化マンガン系触媒を含有するものであっても、水性樹脂としてアクリル樹脂、変性アクリル樹脂、フッ素樹脂を用いたことにより耐チョーキング性、即ち、耐候性が高いから、日光等の光が照射される部位への適用であってもチョーキングが生じ難くて耐久性がよく、塗布の適用範囲を拡大することができる。
【0165】
本実施の形態の水性塗料組成物を施工、適用する一例として、自動車等の車両であれば、車両走行時等に空気の流れが多い箇所、例えば、車両の走行中にエンジンルームに取り込まれる空気が通過する自動車のラジエータやその付近の電動ファン、グリルやグリルシャッタ、アンダーカバ等に本実施の形態の水性塗料組成物を塗布し、そこに硬化塗膜を形成することで、そこでは、車両走行時等に空気が多く通過することで、硬化塗膜に接した空気中に滞留するオゾンを効果的に分解除去し、減少できることになる。即ち、効果的に、車両の走行中に大気中のオゾンを浄化し、環境中の有害物質を減らすことができる。
【0166】
例えば、
図2を参照して説明すると、自動車においては、その走行時に、図示しないエアコンのコンデンサとフロントグリル(ラジエータグリル)の間に配置されている開閉可能な構成のグリルシャッタGが開状態にあると、車両のフロントグリルの開口から外気が取り入れられる。そして、フロントグリルを通過した空気(走行風)は、グリルシャッタGの開口を通って、エンジンを冷却するラジエータR及びその後方のファンF1を通過し、エンジンを収容するエンジンルーム側に流れ込む。また、車両停止時であっても、ラジエータRの後方に取付けられラジエータRに流す冷却水の冷却効率を上げるためのファンF1を順回転させることで、ファンF1の吸引によって、フロント側からラジエータR側へと流れる空気流が生じ、フロントグリルの開口から外気が取り入れられ、ラジエータR及びその後方のファンF1を通過し、エンジンルーム側に流れ込む。なお、グリルシャッタGを閉じた状態では、外からの空気がグリルシャッタGに接触することでラジエータR側への流入が遮断される。
【0167】
そこで、このように車両走行時やファンF1の回転時で生じる空気流の流路に配置され、空気が接触、流通するグリルやグリルシャッタGの表面、ラジエータRのコアやファンF1の羽根の表面等に、本実施の形態の水性塗料組成物を塗布し乾燥して硬化塗膜を形成することにより、それら硬化塗膜に触れる空気中のオゾンを、硬化塗膜に含まれる活性炭及び酸化マンガン系触媒によって分解できることで、効果的に大気を浄化することが可能となる。中でもファンF1の羽根は板状に形成され、また、グリルやグリルシャッタGの構成部品もメッシュ状や桟状に形成され開口も広いため、水性塗料組成物のスプレー塗布等の簡便な塗装技術で容易に部材の表面に塗料をコーティングさせることができる。
【0168】
特に、こうした自動車のグリルやグリルシャッタG、ラジエータRやその付近の電動ファンF1等を含む外装部品では、日光等の光が届くことがあるので、本実施の形態の水性塗料組成物から形成される硬化塗膜であれば、耐チョーキング性、即ち、耐候性があることで、長期間脱離し難く、塗膜の長寿命化によりオゾン分解性を長期間維持することが可能となる。
【0169】
また、こうした自動車等の車両部品に限定されず、扇風機(羽根無し扇風機を含む)、サーキュレータ、エアコン、空気清浄機等の空気の流れが生じる送風機等に本実施の形態の水性塗料組成物を塗装して適用することでも、それらが空気の流れを生じさせるものであることで、大気中のオゾンが水性塗料組成物から形成された硬化塗膜中の二酸化マンガン系触媒及び活性炭によって分解されることにより大気中のオゾンを効果的に浄化することが可能であり、オゾン濃度が低減された空気の送風が可能である。特に、本実施の形態の水性塗料組成物から形成される硬化塗膜では耐候性が高いから、室内・屋内のみならず、室外・屋外に設置される日光が照射される送風機等への適用でも、チョーキングが生じ難く耐久性が高いことで長期間、脱離し難く、オゾン分解性を長期間維持することが可能であり、室外・屋外の日光が照射される部位への適用も好適である。
【0170】
例えば、
図3を参照して説明すると、モータ等の駆動により空気を吸い込み、送風(吐出)する回転羽根を有するファンF2と、ファンF2の前方(送風側または吸気側)及び後方(吸気側又は送風側)に配設される通気部材(フィルタ)Vと、ファンF2を収容し、ファンF2の前後に配置される通気部材Vが端部に取付けられる筒状の収容部材Cと、ファンF2を回転駆動するモータ等の駆動部(図示せず)を備えた送風機であれば、ファンF2や通気部材Vや収容部材Cに対し、詳細には、例えば、ファンF2の羽根や、通気部材Vを構成する部材の全面または一部の表面や、収容部材Cの内周面に対し、本実施の形態の水性塗料組成物を塗布し乾燥して硬化塗膜を形成することにより、それら硬化塗膜に触れる空気中のオゾンを、硬化塗膜に含まれる活性炭及び酸化マンガン系触媒によって分解できることで、効果的に大気を浄化することが可能となる。
【0171】
なお、ファンF2は、回転駆動により空気を吸い込み、送風するものであり、例えば、軸流ファン(プロペラファン)、遠心ファン(シロッコファン、ターボファン)、斜流ファン(混流ファン)、横流ファン(クロスフローファン、貫流ファン、ラインフローファン(登録商標))等が使用できる。
通気部材Vは、ファンF2により生じる空気流の流路に設置され、空気の流通を許容するものであれば、その形状は特に限定されず、例えば、
図3に示した同心円状に配置された複数の環状や、網目状(メッシュ状)や、ハニカム状、柵状、格子状、羽根状(中心部から複数の直線状または湾曲状のものが放射状や渦巻状に配置されたもの)、断面形状が円形状や多角形状(三角形状や四角形状等)の貫通孔が複数配置されたもの等の何れの形態であってもよく、空気の流通を許容する貫通孔や部材間の間隙が形成されているものである。例えば、ハニカム状のものや、凹凸が形成されているものでは、空気との接触面積を大きくでき、塗装面積を増やすことできるため、オゾンの低減効果を高めることができる。特に、ハニカム状のものでは低圧損化が可能である。
収容部材Cは、ファンF2の外径よりも大きな径の筒状でファンF2を収容し、ファンF2の回転駆動により吸気された空気を送風側(排気側)に案内するものであり、ファンF2の空気流量を高めことができる。
ファンF2が収容され、通気部材Vが取付けられた送風機は、三脚、台座等の支持部材で支持されることより床や地面等に設置するものであってもよいし、吊り下げて設置するものであってもよく、床置き型(地面設置型)、卓上型、天井固定型、側壁固定型等の何れであってもよい。
【0172】
このような送風機に本実施の形態の水性塗料組成物を適用する場合には、空気を吸い込み、送風して空気の流れを発生するファンF2に対し、酸化マンガン系触媒と、活性炭と、アクリル樹脂、変性アクリル樹脂またはフッ素樹脂の何れか1種以上の水性樹脂と、分散剤とを含み、水を溶媒の主成分とする水性塗料組成物を塗布し乾燥したことにより、酸化マンガン系触媒、活性炭、及びアクリル樹脂、変性アクリル樹脂またはフッ素樹脂の何れか1種以上の水性樹脂を含む硬化塗膜が形成された送風機となる。
即ち、空気を吸い込み、送風して空気の流れを発生するファンF2と、酸化マンガン系触媒、活性炭、アクリル樹脂、変性アクリル樹脂またはフッ素樹脂の何れか1種以上の水性樹脂、及び分散剤を含み、水を溶媒の主成分とする水性塗料組成物をファンF2に塗布し乾燥したことにより、ファンF2に形成された、酸化マンガン系触媒、活性炭、及びアクリル樹脂、変性アクリル樹脂またはフッ素樹脂の何れか1種以上の水性樹脂とを含む硬化塗膜とを具備する送風機となる。
【0173】
また、送風機は、ファンF2により生じる空気の流れが通過する通気部材Vを有するから、その通気部材Vに対し、酸化マンガン系触媒、活性炭、アクリル樹脂、変性アクリル樹脂またはフッ素樹脂の何れか1種以上の水性樹脂、及び分散剤を含み水を溶媒の主成分とする水性塗料組成物を塗布し乾燥することにより、酸化マンガン系触媒、活性炭、及びアクリル樹脂、変性アクリル樹脂またはフッ素樹脂の何れか1種以上の水性樹脂を含む硬化塗膜が通気部材Vに形成されたものとすることができる。特に、このようなフィルタ等の通気部材Vでは、空気との接触面積が大きいものであるから、そこに活性炭及び酸化マンガン系触媒を含む硬化塗膜を形成することで、そこを通過する空気のオゾン濃度を効果的に低減することができる。
即ち、空気を吸い込み、送風して空気の流れを発生するファンF2と、ファンF2により生じる空気の流れが通過する通気部材Vと、酸化マンガン系触媒、活性炭、アクリル樹脂、変性アクリル樹脂またはフッ素樹脂の何れか1種以上の水性樹脂、及び分散剤を含み水を溶媒の主成分とする水性塗料組成物をファンF2に塗布し乾燥したことにより、ファンF2に形成された、酸化マンガン系触媒、活性炭、及びアクリル樹脂、変性アクリル樹脂またはフッ素樹脂の何れか1種以上の水性樹脂とを含む硬化塗膜とを具備する送風機となる。
【0174】
更に、送風機は、ファンF2を収容する収容部材Cを有し、その収容部材Cに対し、酸化マンガン系触媒、活性炭、アクリル樹脂、変性アクリル樹脂またはフッ素樹脂の何れか1種以上の水性樹脂、及び分散剤を含み水を溶媒の主成分とする水性塗料組成物を塗布し乾燥することにより、酸化マンガン系触媒、活性炭、及びアクリル樹脂、変性アクリル樹脂またはフッ素樹脂の何れか1種以上の水性樹脂を含む硬化塗膜が収容部材Cに形成されたものとすることができる。
即ち、空気を吸い込み、送風して空気の流れを発生するファンF2と、ファンF2により生じる空気の流れが通過する通気部材Vと、ファンF2を収容する収容部材Cと、酸化マンガン系触媒、活性炭、アクリル樹脂、変性アクリル樹脂またはフッ素樹脂の何れか1種以上の水性樹脂、及び分散剤を含み水を溶媒の主成分とする水性塗料組成物をファンF2に塗布し乾燥したことにより、ファンF2に形成された、酸化マンガン系触媒、活性炭、及びアクリル樹脂、変性アクリル樹脂またはフッ素樹脂の何れか1種以上の水性樹脂とを含む硬化塗膜とを具備する送風機となる。
【0175】
このように空気の流れが生じ空気が接触、通過する部位に本実施の形態の水性塗料組成物を塗布し乾燥して硬化塗膜を形成、コーティングすることで、それに含まれる二酸化マンガン系触媒及び活性炭によって、空気流に含まれるオゾンを分解できて、オゾン濃度が低減された空気を送風するから、大気中のオゾンを効果的に浄化することが可能となる。
【0176】
特に、オゾンは、農作物、園芸作物にも悪影響を及ぼし、植物自身に障害を生じさせ農作物、園芸作物の成長や収穫量の低減を招く等の被害を及ぼすところ、そのような農作物、園芸作物を育てる空調において、上述した、酸化マンガン系触媒、活性炭、及びアクリル樹脂、変性アクリル樹脂またはフッ素樹脂の何れか1種以上の水性樹脂を含む硬化塗膜を備えた送風機を使用することによって、農作物、園芸作物を育てる空間中のオゾン濃度の低減化を可能とし、オゾンによる農作物、園芸作物の被害の削減化を可能とする。即ち、酸化マンガン系触媒、活性炭、及びアクリル樹脂、変性アクリル樹脂またはフッ素樹脂の何れか1種以上の水性樹脂を含む硬化塗膜を備えた送風機を有する空調システムでは、空気環境のオゾン濃度の低減化を可能とし、オゾン濃度が低減化された空間を提供できる。
【0177】
勿論、家庭や工場の空調設備における送風機への適用によっても、或いは、その他の物品、例えば、鉄道車両、船舶、航空機、建築構造物、建設機器、オゾンを発生させるOA機器、電気機器(例えば、乾式複写機、オゾナイザ、紫外線灯、空気清浄機(脱臭用、殺菌用、漂白用等))等、例えば、浄化装置のハウジング、オゾン発生器(高電圧発生装置、コロナ帯電器等)近傍のケーシング、排気フィルタ、排気ダクト、排気ファン等への適用においても、大気、空気中のオゾン濃度の低減化に貢献することができる。
例えば、オゾンによるウィスル等の除菌や脱臭を行う空気清浄機を使用した室内、殊に、医療用器具等を除菌する空間では、残存オゾンによる異臭があることから、このような残存オゾンを分解するために、室内の壁面や空調システムの送風機等に本実施の形態の水性塗料組成物を塗装することで、それから形成されるコーティング膜に含まれる酸化マンガン系触媒及び活性炭によって、室内に滞留する残存オゾンを分解して、作業環境を良くすることが可能となる。
【0178】
こうして、大気、空気が触れる箇所(構造体等)に対してその表面を本実施の形態の水性塗料組成物で覆い、当該表面に硬化塗膜を形成する表面処理(塗装)によりオゾン分解性能を付与するものであり、大気、空気が触れる箇所に本実施の形態の水性塗料組成物を塗装することで、大気中に滞留するオゾンを低減化することが可能となる。こうした本実施の形態の水性塗料組成物は、酸化マンガン系触媒及び活性炭を細かく分散させて塗料化したものであり、基材に塗装する塗料であるから、作業も容易で、広範囲な物品、部位に亘って適用可能であり、大気浄化に効果的に貢献できるものである。
特に、本実施の形態の水性塗料組成物から形成される硬化塗膜は耐候性が高いから、室外・屋外で使用される物品への適用でも、即ち、日光等の光が当たる場所で使用される物品(構造品、部品を含む)、外壁、外装材、外装部品等に対して塗装しても、チョーキングが生じ難く耐久性が高いことで、塗膜の長寿命化が可能であり、長期間高いオゾン分解効果を維持できる。
【0179】
ところで、このように、本実施の形態の水性塗料組成物を基材に塗布してなるものは、基材(塗装対象物、被塗布物)と、酸化マンガン系触媒、活性炭、アクリル樹脂、変性アクリル樹脂またはフッ素樹脂の1種以上の水性樹脂及び分散剤を含み、水を溶媒の主成分とする水性塗料組成物を基材に塗布し乾燥したことにより、基材の表面に形成された、酸化マンガン系触媒、活性炭、及びアクリル樹脂、変性アクリル樹脂またはフッ素樹脂の1種以上の水性樹脂を含む硬化塗膜とを具備する塗装物品(塗膜被覆形成品、塗装被覆品)と捉えることができる。
【0180】
ここで、基材としては、空気が接触、好ましくは、空気流が通過する物品、例えば、自動車等の車両のグリル、グリルシャッタ、ラジエータ、ラジエータファンや、空調設備、送風機、エアコン、空気清浄機、複写機、プリンタ等に使用されるフィルタ(繊維フィルタ、不織布フィルタ、金属フィルタ、セラミックフィルタ、樹脂フィルタ、HPAフィルタ(High Efficiency Particulate Air Filter)、ULPAフィルタ(Ultra Low Penetration Air Filter)等)や、扇風機(羽根無し扇風機を含む)、サーキュレータ、エアコン(室外機を含む)、空気清浄機(オゾンによるウィスル等の除菌や脱臭を行う空気清浄機を含む)、換気扇等に使用されるファンや、空調システム等に使用される金属や樹脂製等のダクト(給気ダクト、排気ダクト、空気循環ダクト等)、建築用資材(内装材、外装材、壁材、屋根材、床材、天井材、網戸、窓、カーテン、フェンス)、農業用資材・園芸用資材(ビニルハウス等のビニルシート、除草用、害虫忌避用、光合成促進用、防風用、保温用等のシート・ネット・マルチ、野菜・果実・園芸用袋等の包装資材、ポット・育苗箱、土壌材料、軽石、パイプ資材等)がある。こうした中でも、特に、日光等の光が照射される物品、例えば、自動車の構成部品、屋外で使用される送風機(エアコンの室外機、農業用の循環扇等を含む)、屋外で使用されるフィルタ部材やハニカム構造部材、ビニルハウスのビニルシート等の園芸用資材、建築物の屋根や外壁等の物品において、日光等の光が照射される曝露面に本実施の形態の水性塗料組成物を塗装し、コーティングの硬化塗膜を被覆しても、その塗膜ではチョーキングが生じ難く、耐久性の高いことで、長期間の高いオゾン分解効果が得られる。
更に、上述したように、本実施の形態の水性塗料組成物は、所望とする施工部位への適用は、直接塗布することに限定されず、塩化ビニル等のシート(ラッピングシート)等の基材に塗布し、乾燥させてシート上に硬化塗膜を形成し、その硬化塗膜付きのシートを貼ることで、施工してもよい。
【0181】
特に、本実施の形態の水性塗料組成物の硬化塗膜では、アクリル樹脂、変性アクリル樹脂またはフッ素樹脂の1種以上がバインダであることで、基材が、ステンレス鋼(SUS)やアルミニウム等の金属製であっても、また、スレート、コンクリート、木材、樹脂等であっても、耐チョーキング性、耐候性が良好に発揮される。
【0182】
このように、酸化マンガン系触媒、活性炭、アクリル樹脂、変性アクリル樹脂またはフッ素樹脂の1種以上の水性樹脂及び分散剤を含み、水を溶媒の主成分とする水性塗料組成物を基材に塗布し乾燥したことにより、基材上に酸化マンガン系触媒、活性炭、及びアクリル樹脂、変性アクリル樹脂またはフッ素樹脂の1種以上の水性樹脂を含む硬化塗膜が形成された塗装物品では、硬化塗膜にオゾンが接触することで大気中に含まれるオゾンが分解されるものであり、特に、空気流の流路を構成している部材では、効果的にオゾン濃度の低減が可能であり、効果的に大気を浄化させることができる。また、酸化マンガン系触媒、活性炭、アクリル樹脂、変性アクリル樹脂またはフッ素樹脂の1種以上の水性樹脂及び分散剤を含み、水を溶媒の主成分とする水性塗料組成物であれば、VOCの排出量も少なく環境に優しいものでもある。
【0183】
以上説明してきたように、上記実施の形態の水性塗料組成物は、酸化マンガン系触媒と、活性炭と、水性樹脂と、分散剤とを含み、水を溶媒の主成分とする水性塗料組成物であって、水性樹脂がアクリル樹脂、変性アクリル樹脂、フッ素樹脂のうちの1種または2種以上であるものである。
【0184】
また、酸化マンガン系触媒と、活性炭と、アクリル樹脂、変性アクリル樹脂、フッ素樹脂のうちの1種または2種以上の水性樹脂と、分散剤とを含み、水を溶媒の主成分とする水性塗料組成物を塗布し、乾燥することにより硬化してなる硬化塗膜は、酸化マンガン系触媒、活性炭、及びアクリル樹脂、変性アクリル樹脂、フッ素樹脂のうちの1種または2種以上の水性樹脂を含むものである。
即ち、上記実施の形態の硬化塗膜は、酸化マンガン系触媒と、活性炭と、水性樹脂とを含む硬化塗膜であって、水性樹脂は、アクリル樹脂、変性アクリル樹脂、フッ素樹脂のうちの1種または2種以上であるものである。
【0185】
上記実施の形態の水性塗料組成物を塗布し、乾燥することにより形成される硬化塗膜においては、アクリル樹脂、変性アクリル樹脂、フッ素樹脂の1種以上がバインダ成分となるものであるから、酸化マンガン系触媒を含んでいても、耐チョーキング性、即ち、耐候性が高いものとなる。よって、日光等の光照射のある屋外の環境条件下でも、基材に塗布した硬化塗膜が剥がれ難く、塗膜の長寿命化を可能とし、長期間高いオゾン分解性を維持できる。
【0186】
特に、上記実施の形態において、アクリル樹脂または変性アクリル樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が、好ましくは、-30℃~130℃の範囲内のものであれば、耐候性を向上でき、また、耐熱性も良好なものとなる。
また、フッ素樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が、好ましくは、-30℃~100℃の範囲内のものであれば、耐候性を向上でき、また、耐熱性も良好なものとなる。
【0187】
上記実施の形態において、酸化マンガン系触媒と活性炭の合計量は、酸化マンガン系触媒と活性炭と水性樹脂の合計量を100質量部に対し、好ましくは、25~75質量部の範囲内の配合であれば、オゾン分解性と耐候性を両立できる。より好ましくは、30質量部~65質量部の範囲内である。
【0188】
特に、アクリル樹脂、変性アクリル樹脂、フッ素樹脂のうちの1種以上の水性樹脂は、酸化マンガン系触媒と活性炭の合計量100質量部に対し、好ましくは、20質量部~400質量部の範囲内の配合であれば、オゾン分解性と耐候性とをより両立できる。より好ましくは、25質量部~350質量部、更に好ましくは、30~300質量部、特に好ましくは、50~280質量部の範囲内である。
更に、アクリル樹脂、変性アクリル樹脂、フッ素樹脂のうちの1種以上の水性樹脂は、酸化マンガン系触媒100質量部に対し、好ましくは、30質量部~500質量部の範囲内の配合であれば、オゾン分解性と耐候性とをより両立できる。より好ましくは、40質量部~480質量部、更に好ましくは、45~450質量部、特に好ましくは、70~400質量部の範囲内である。
加えて、酸化マンガン系触媒が、酸化マンガン系触媒と活性炭と水性樹脂の合計量100質量部に対し、好ましくは、5質量部~65質量部の範囲内の含有であれば、オゾン分解性と耐候性の両立を更に可能とする。より好ましくは、10質量部~60質量部、更に好ましくは、15質量部~55質量部、特に好ましくは、18質量部~50質量部の範囲内である。
【0189】
また、酸化マンガン系触媒の配合量が、活性炭100質量部に対し、好ましくは、11質量部~900質量部の範囲内であれば、塗工性と耐候性の両立を可能とする。より好ましくは、15質量部~800質量部、更に好ましくは、20質量部~700質量部の範囲内である。
【0190】
なお、上記説明は、酸化マンガン系触媒、活性炭、及びアクリル樹脂、変性アクリル樹脂またはフッ素樹脂の1種以上の水性樹脂を含む硬化塗膜を大気(空気)と接触させることで大気(空気)中のオゾンを分解する分解方法の発明とも捉えることもできる。
または、酸化マンガン系触媒と、活性炭と、分散剤と、変性アクリル樹脂またはフッ素樹脂の1種以上の水性樹脂と、pH調整剤と、溶媒としての水とを含有する本実施の形態に係る水性塗料組成物を塗装対象物に塗布し、乾燥する硬化塗膜の形成方法の発明と捉えることもできる。このような硬化塗膜の形成方法では、水性塗料組成物が水を主溶媒としているから、VOCの排出量が少ないものであり、塗料組成物を基材に塗布して硬化させるとき、即ち、乾燥させるときの作業環境を悪化させることもなく、環境に優しいものである。
更には、酸化マンガン系触媒と、活性炭と、水性樹脂とを含む硬化塗膜が基材面上に形成された塗装物品であって、水性樹脂は、アクリル樹脂、変性アクリル樹脂、フッ素樹脂のうちの1種または2種以上である塗装物品(塗膜被覆形成品、塗装被覆品)の発明と捉えることもできる。
【0191】
なお、本発明を実施するに際しては、水性塗料組成物及びその硬化膜、並びにそれが適用された塗装物品のその他の部分の構成、組成、配合、成分、形状、数量、材質、大きさ、製造方法等について、本実施の形態及び実施例に限定されるものではない。また、本実施の形態及び実施例で挙げている数値は、臨界値を示すものではなく、実施に好適な好適値を示すものであるから、上記数値を若干変更してもその実施を否定するものではない。