(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023116073
(43)【公開日】2023-08-22
(54)【発明の名称】シュー生地
(51)【国際特許分類】
A21D 2/18 20060101AFI20230815BHJP
A21D 13/80 20170101ALI20230815BHJP
A21D 13/40 20170101ALI20230815BHJP
A21D 6/00 20060101ALI20230815BHJP
A21D 10/02 20060101ALI20230815BHJP
【FI】
A21D2/18
A21D13/80
A21D13/40
A21D6/00
A21D10/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022018639
(22)【出願日】2022-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】321006774
【氏名又は名称】DM三井製糖株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【弁理士】
【氏名又は名称】坂西 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100211100
【弁理士】
【氏名又は名称】福島 直樹
(72)【発明者】
【氏名】小島(大田) 和香奈
(72)【発明者】
【氏名】塩見 和世
【テーマコード(参考)】
4B032
【Fターム(参考)】
4B032DB20
4B032DE01
4B032DG02
4B032DK12
4B032DK18
4B032DK47
4B032DL06
4B032DL20
4B032DP08
4B032DP23
4B032DP37
4B032DP40
(57)【要約】
【課題】冷凍した場合でも焼成した際の膨らみやすさ、空洞のできやすさ、並びに、適度な硬さ及びサクサク感を良好に維持することができるシュー生地を提供すること。
【解決手段】イソマルツロース及び還元イソマルツロースからなる群より選択される少なくとも1種を含有する、シュー生地。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソマルツロース及び還元イソマルツロースからなる群より選択される少なくとも1種を含有する、シュー生地。
【請求項2】
前記シュー生地が冷凍されたシュー生地である、請求項1に記載のシュー生地。
【請求項3】
イソマルツロース及び還元イソマルツロースの両方を含有する、請求項1又は2に記載のシュー生地。
【請求項4】
イソマルツロース及び還元イソマルツロースの総含有量が、シュー生地の全質量を基準として、0.1~10.0質量%である、請求項1~3のいずれか一項に記載のシュー生地。
【請求項5】
イソマルツロース及び還元イソマルツロースからなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含む、シュー皮の保形性改善剤。
【請求項6】
イソマルツロース及び還元イソマルツロースの両方を有効成分として含む、請求項5に記載のシュー皮の保形性改善剤。
【請求項7】
イソマルツロース及び還元イソマルツロースからなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含む、シュー皮の食感改良剤。
【請求項8】
イソマルツロース及び還元イソマルツロースの両方を有効成分として含む、請求項7に記載のシュー皮の食感改良剤。
【請求項9】
イソマルツロース及び還元イソマルツロースからなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含む、シュー生地の冷凍耐性向上剤。
【請求項10】
イソマルツロース及び還元イソマルツロースの両方を有効成分として含む、請求項9に記載のシュー生地の冷凍耐性向上剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シュー生地に関する。本発明はまた、シュー皮の保形性改善剤、シュー皮の食感改良剤及びシュー生地の冷凍耐性向上剤にも関する。
【背景技術】
【0002】
シュークリームは古くから世界中で親しまれている焼菓子である。一般的に柔らかいシュー皮が主流であるが、近年、その高級感、目新しさ、食感の良好さ等から、クッキーシュー及びパイシューのような硬さ及びサク味を付与したシュー生地を好む消費者が増えている。また、冷凍技術の発展に伴い、焼成前のシュー生地を冷凍・輸送し、輸送先の店舗で焼成して、店頭に陳列する方法をとる店舗及び企業も増えている。シュー生地を製造する方法に関して、種々の技術手段が提案されている。例えば、特許文献1には、小麦粉、油脂、卵および水からなるシュー生地配合物に、α化澱粉および遅効性の化学膨張剤を加えてシュー生地を作り、所定の大きさに成形して冷凍することを特徴とする冷凍シュー生地の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シュー生地を冷凍及び解凍してから焼成した場合、シュー生地の焼成によって得られるシュー皮の膨らみが悪くなることによるサイズダウンや、シュー皮内部の空洞ができにくくなることによる作業性低下といった課題があった。これまでも、シュー生地にトレハロースを添加することで、焼成によって得られるシュー皮の膨らみや空洞のできやすさが改善することが知られていたが、トレハロースの添加では、焼成前にシュー生地を冷凍し、その後解凍及び焼成した場合での効果は十分でなかった。
【0005】
本発明の目的は、冷凍した場合でも焼成した際の膨らみやすさ、空洞のできやすさ、並びに、適度な硬さ及びサクサク感を良好に維持することができるシュー生地を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、イソマルツロース及び還元イソマルツロースからなる群より選択される少なくとも1種を含有する、シュー生地に関する。本発明のシュー生地は、イソマルツロース及び還元イソマルツロースからなる群より選択される少なくとも1種を含有するため、冷凍した場合でも焼成した際の膨らみやすさ、空洞のできやすさ、並びに、適度な硬さ及びサクサク感を良好に維持することができる。
【0007】
本発明のシュー生地は、冷凍されたシュー生地であってよい。
【0008】
本発明のシュー生地は、イソマルツロース及び還元イソマルツロースの両方を含有していてよい。
【0009】
イソマルツロース及び還元イソマルツロースの総含有量は、シュー生地の全質量を基準として、0.1~10.0質量%であってよい。この場合、本発明による効果が更に優れたものとなる。
【0010】
本発明はまた、イソマルツロース及び還元イソマルツロースからなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含む、シュー皮の保形性改善剤に関する。
【0011】
本発明のシュー皮の保形性改善剤は、イソマルツロース及び還元イソマルツロースの両方を有効成分として含んでいてよい。
【0012】
本発明はまた、イソマルツロース及び還元イソマルツロースからなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含む、シュー皮の食感改良剤に関する。
【0013】
本発明のシュー皮の食感改良剤は、イソマルツロース及び還元イソマルツロースの両方を有効成分として含んでいてよい。
【0014】
本発明は、イソマルツロース及び還元イソマルツロースからなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含む、シュー生地の冷凍耐性向上剤に関する。
【0015】
本発明のシュー生地の冷凍耐性向上剤は、イソマルツロース及び還元イソマルツロースの両方を有効成分として含んでいてよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、冷凍した場合でも焼成した際の膨らみやすさ、空洞のできやすさ、並びに、適度な硬さ及びサクサク感を良好に維持することができるシュー生地を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、冷凍期間0日間における各種糖類(グラニュ糖、トレハロース又はパラチノース)を含むシュー皮の側面及び断片を示す写真である。
【
図2】
図2は、冷凍期間2日間又は1週間における各種糖類(グラニュ糖、トレハロース又はパラチノース)を含むシュー皮の側面及び断片を示す写真である。
【
図3】
図3は、冷凍期間0日間、2日間、又は1週間における各種糖類(グラニュ糖、トレハロース又はパラチノース)を含むシュー皮の膨らみやすさの評価結果を示すグラフである。
【
図4】
図4は、冷凍期間0日間、2日間又は1週間における各種糖類(グラニュ糖、トレハロース又はパラチノース)を含むシュー皮の最大荷重を示すグラフである。
【
図5】
図5は、冷凍期間0日間、2日間又は1週間における各種糖類(グラニュ糖、トレハロース又はパラチノース)を含むシュー皮の破断荷重を示すグラフである。
【
図6】
図6は、冷凍期間0日間におけるパラチニットのみを含むシュー皮、又は、パラチニット及びパラチノースの両方を含むシュー皮の側面及び断片を示す写真である。
【
図7】
図7は、冷凍期間2日間、又は1週間におけるパラチニットのみを含むシュー皮、又は、パラチニット及びパラチノースの両方を含むシュー皮の側面及び断片を示す写真である。
【
図8】
図8は、冷凍期間0日間、2日間、又は1週間におけるパラチニットのみを含むシュー皮、又は、パラチニット及びパラチノースの両方を含むシュー皮の膨らみやすさの評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0019】
<シュー生地>
本実施形態に係るシュー生地は、イソマルツロース及び還元イソマルツロースからなる群より選択される少なくとも1種を含有する。
【0020】
イソマルツロースは、6-O-α-D-グルコピラノシル-D-フルクトースとも称される化合物である。また、イソマルツロースは、パラチノースとも呼ばれる。なお、「パラチノース/PALATINOSE」は、三井製糖株式会社の登録商標である。
【0021】
イソマルツロースは、天然において蜂蜜中に見出される。また、細菌や酵母に由来するα-グルコシルトランスフェラーゼ(イソマルチュロースシンターゼ)がショ糖に作用した場合に生じる転移生成物中にも存在する。工業的には、イソマルツロースは、プロタミノバクター・ルブラム(Protaminobacter rubrum)やセラチア・プリムチカ(Serratia plymuthica)等の細菌に由来するα-グルコシルトランスフェラーゼをショ糖に作用させることにより製造される。
【0022】
イソマルツロースとしては、天然由来のものを用いてもよく、酵素作用等により合成されたものを用いてもよい。また、イソマルツロースとしては、市販されているものを用いてもよい。市販品としては、例えば、結晶パラチノース(商品名「結晶パラチノースPST-N」、三井製糖株式会社)、粉末パラチノース(商品名「粉末パラチノースPST-NP」、三井製糖株式会社)等が挙げられる。
【0023】
シュー生地がイソマルツロースを含有する場合、焼成によって褐色を呈し、高級感のあるシュー皮が得られ易くなり、かつ、焼成によって得られるシュー皮に香ばしさを付与することができる。
【0024】
還元イソマルツロースは、イソマルツロースを水素化することにより還元(水素添加)したものである。還元イソマルツロースは、還元パラチノース(三井製糖株式会社の登録商標)ともいう。還元イソマルツロースは、主にα-D-グルコピラノシル-1,1-マンニトール(以下、GPMともいう)とα-D-グルコピラノシル-1,6-ソルビトール(以下、GPSともいう)との混合物である。
【0025】
還元イソマルツロースにおけるGPSとGPMの混合比は、特に制限されるものではなく、例えば、1対99~99対1であってもよい。また、GPMとGPSとがほぼ等モル(4対6~6対4、乾燥固形分重量比で95%以上)である混合物であってもよく、GPM又はGPSのいずれかに富む混合物であってもよい。
【0026】
GPMとGPSとは水に対する溶解度に差がある。この2成分の溶解度の違いを利用して上記混合比を調整することができる(例えば、特開平10-310595参照)。すなわち、溶解平衡は温度依存性であるため、還元イソマルツロースの水溶液の温度を制御することにより、2成分の濃度比を調整することができる。溶解平衡に調整した後、温度変化の速度を定めて還元イソマルツロース中のGPM及びGPSの濃度を制御することができる。
【0027】
還元イソマルツロースは、顆粒状のものであってもよい。顆粒状の還元イソマルツロースは、例えば、以下のようにして製造することができる。まず、還元イソマルツロースの溶液を減圧下で加熱して濃縮液を得る。次いで、減圧下でゆっくりと回転するドラムの内壁にこの濃縮液を吹き付け、内壁面に付着した還元イソマルツロースを攪拌器で掻き取り、さらに掻き取られた還元イソマルツロースをドラムの回転により顆粒状に造粒することで顆粒状とすることができる。
【0028】
還元イソマルツロースとしては、市販されているものを用いてもよい。市販品としては、例えば、パラチニットPN(三井製糖株式会社)、粉末パラチニットPNP(三井製糖株式会社)、パラチニットPNM-2(三井製糖株式会社)、パラチニットPNS-2(三井製糖株式会社)、パラチニットGS(三井製糖株式会社)、粉末パラチニットGSP(三井製糖株式会社)、パラチニットST-F(三井製糖株式会社)、パラチニットST-PNC(三井製糖株式会社)等が挙げられる。
【0029】
イソマルツロース及び還元イソマルツロースの総含有量は、本発明による効果がより一層優れたものとなることから、シュー生地の全質量を基準として、例えば、0.1質量%以上、1.0質量%以上、1.5質量%以上、2.0質量%以上、又は2.5質量%以上であってよく、10.0質量%以下、8.0質量%以下、6.0質量%以下、4.0質量%以下、又は3.5質量%以下であってよい。イソマルツロース及び還元イソマルツロースの総含有量は、本発明による効果がより一層優れたものとなることから、シュー生地の全質量を基準として、0.1~10.0質量%、1.0~8.0質量%、1.5~6.0質量%、2.0~4.0質量%、又は2.5~3.5質量%であってよい。
【0030】
本実施形態に係るシュー生地は、イソマルツロース及び還元イソマルツロースの両方を含んでいてもよい。この場合、本発明による効果がより一層優れたものとなる。イソマルツロース及び還元イソマルツロースの両方を用いることによって、シュー生地の焼成によって得られるシュー皮の着色を調整することもできる。
【0031】
イソマルツロースの質量に対する、還元イソマルツロースの質量の比(還元イソマルツロース/イソマルツロース)は、本発明による効果がより一層優れたものとなることから、1/9以上、2/8以上、3/7以上、又は4/6以上であってよく、9/1以下、8/2以下、7/3以下、又は6/4以下であってよい。
【0032】
本実施形態に係るシュー生地は、冷凍されたシュー生地であってよい。すなわち、本実施形態に係るシュー生地は、当該シュー生地の温度(品温)が18℃以下になるように保管されるものであってよい。
【0033】
シュー生地は、穀粉類、油脂類、卵類及び水を主体とし、澱粉の糊化作用を利用して得られる。
【0034】
穀粉類としては、小麦粉(強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、小麦全粒粉、焙焼小麦粉、デュラムセモリナ、超強力粉等)、米粉(上新粉、上用粉、もち粉、白玉粉、玄米粉等)、大麦粉、ライ麦粉、とうもろこし粉、あわ粉、ひえ粉、はと麦粉、大豆粉等が挙げられる。穀粉類は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
油脂類としては、バター、マーガリン、ラード、牛脂、ショートニング、ファットスプレッド、液状油、粉末油脂等が挙げられる。油脂類は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
卵類としては、全卵、卵黄、卵白、加塩全卵、加塩卵黄、加塩卵白、加糖全卵、加糖卵黄、加糖卵白、乾燥全卵、乾燥卵黄、凍結全卵、凍結卵黄、凍結卵白、凍結加糖全卵、凍結加糖卵黄、凍結加糖卵白、酵素処理全卵、酵素処理卵黄等が挙げられる。卵類は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
シュー生地は、上記以外の食品又は添加物を配合することができる。シュー生地に使用できる上記成分以外の食品又は添加物としては、例えば、コーンスターチ、小麦澱粉等の澱粉類、澱粉に対し糊化、リン酸架橋等の処理を施した加工澱粉類、クリーム、チーズ、濃縮ホエイ、濃縮乳、脱脂濃縮乳、無糖練乳、無糖脱脂練乳、加糖練乳、加糖脱脂練乳、全粉乳、脱脂粉乳、クリームパウダー、ホエイパウダー、蛋白質濃縮ホエイパウダー、バターミルクパウダー、加糖粉乳、調製粉乳等の乳製品、岩塩、精製塩、天塩等の食塩、デキストリン類、カゼインカルシウム、カゼインナトリウム、カゼインカリウム等の乳蛋白、アミラーゼ、プロテアーゼ、アミログルコシダーゼ、プルラナーゼ、ペントサナーゼ、セルラーゼ、リパーゼ、ホスフォリパーゼ、カタラーゼ、リポキシゲナーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼ、スルフィドリルオキシダーゼ、ヘキソースオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ等の酵素、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸エステル、レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム等の乳化剤、重炭酸アンモニウム、重曹、バーキングパウダー、イスパタ等の膨張剤、アスコルビン酸、シスチン等の酸化剤や還元剤、トコフェロール、茶抽出物、アスコルビン酸脂肪酸エステル等の酸化防止剤、β-カロチン、カラメル、紅麹色素等の着色料類、酢酸、乳酸、グルコン酸等の酸味料、塩化カリウム等の呈味剤、調味料、pH調整剤、食品保存料、日持ち向上剤、果実、ナッツペースト、香辛料、カカオマス、ココアパウダー、穀類、豆類、野菜類、肉類、酒類、魚介類等の食品素材、着香料等が挙げられる。
【0038】
本実施形態に係るシュー生地は、イソマルツロース及び還元イソマルツロースからなる群より選択される少なくとも1種をシュー生地の原料に配合する配合工程を含む方法によって製造することができる。本実施形態に係るシュー生地は、配合工程を含むこと以外は通常の方法に従って製造することができる。本実施形態に係るシュー生地は、例えば、水、油脂類、食塩等を大きめの鍋、ボール等の容器に入れて、これらを加熱する。次いで、容器内に穀粉類を加え、原料混合物を練り上げて糊化させる。糊化させた原料混合物に、卵類と、イソマルツロース及び/又は還元イソマルツロースと、を1回又は複数回に分けて加え、その後、均一に混合することによって得ることができる。
【0039】
本実施形態に係るシュー生地では、冷凍した場合でも焼成した際の膨らみやすさ、空洞のできやすさ、並びに、適度な硬さ及びサクサク感が良好に維持されているため、冷凍耐性が向上している。したがって、本発明の一実施形態として、イソマルツロース及び還元イソマルツロースからなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含む、シュー生地の冷凍耐性向上剤が提供される。また、本発明の一実施形態として、シュー生地にイソマルツロース及び還元イソマルツロースからなる群より選択される少なくとも1種を含有させることを含む、シュー生地の冷凍耐性を向上させる方法が提供される。シュー生地の冷凍耐性向上剤及びシュー生地の冷凍耐性を向上させる方法は、上述した具体的態様を際限なく適用することができる。
【0040】
<シュー皮>
本実施形態に係るシュー皮は、イソマルツロース及び還元イソマルツロースからなる群より選択される少なくとも1種を含むシュー生地の焼成物である。
【0041】
本実施形態に係るシュー皮は、イソマルツロース及び還元イソマルツロースからなる群より選択される少なくとも1種を含むシュー生地を焼成してシュー皮を得る焼成工程を含む方法によって得ることができる。焼成工程は、イソマルツロース及び還元イソマルツロースからなる群より選択される少なくとも1種を含むシュー生地を用いること以外は、通常のシュー皮の焼成条件で行うことができる。焼成温度は、例えば、150℃~250℃であってよい。焼成時間は、焼成温度等に応じて適宜設定することができる。
【0042】
本実施形態に係るシュー皮では、イソマルツロース及び還元イソマルツロースからなる群より選択される少なくとも1種を含むことによって、保形性が改善されている。したがって、本発明の一実施形態として、イソマルツロース及び還元イソマルツロースからなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含む、シュー皮の保形性改善剤が提供される。当該シュー皮の保形性改善剤によれば、冷凍されたシュー生地を用いる場合でも、改善された保形性を有するシュー皮を得ることが可能になる。
【0043】
本発明の一実施形態として、シュー生地にイソマルツロース及び還元イソマルツロースからなる群より選択される少なくとも1種を含有させることを含む、シュー皮の保形性を改善する方法が提供される。シュー皮の保形性改善剤及びシュー皮の保形性を改善する方法は、上述した具体的態様を際限なく適用することができる。
【0044】
本実施形態に係るシュー皮は、イソマルツロース及び還元イソマルツロースからなる群より選択される少なくとも1種を含むシュー生地の焼成物であるため、冷凍されたシュー生地を用いることによる食感変化が抑制され、食感が改良されている。したがって、本発明の一実施形態として、イソマルツロース及び還元イソマルツロースからなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含む、シュー皮の食感改良剤が提供される。当該シュー皮の食感改良剤によれば、冷凍されたシュー生地を用いた場合の食感変化が抑制される。よって、本実施形態に係るシュー皮の食感改良剤は、シュー皮の食感変化抑制剤ということもできる。また、本発明の一実施形態として、シュー生地にイソマルツロース及び還元イソマルツロースからなる群より選択される少なくとも1種を含有させることを含む、シュー皮の食感を改良する方法が提供される。シュー皮の食感改良剤及びシュー皮の食感を改良する方法は、上述した具体的態様を際限なく適用することができる。
【実施例0045】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例により限定されるものではない。
【0046】
パラチノース(イソマルツロース)入りのシュー生地を作製し、焼成前のシュー生地について、0日間、2日間、又は1週間冷凍したものそれぞれを試験に用いた。また、それらのシュー生地を焼成したシュー皮についても、それぞれ評価を行った。
【0047】
〔試験例1:パラチノース入りシュー生地の作製及び評価〕
<1.シュー生地の作製>
シュー生地を以下の配合・手順でシュー生地を作製し、評価した。シュー生地は、BLANK(BLK)群(糖無添加)、グラニュ糖群、トレハロース群、及びパラチノース群の4群を作製した。BLANK群、グラニュ糖群及びトレハロース群は比較例である。グラニュ糖、パラチノースは三井製糖株式会社製、トレハロースは株式会社林原製を用いた。
【表1】
【0048】
(試作手順)
室温に戻したバターと水を鍋に入れ、中火で水を沸騰させてバターを溶かした。その後、火を止めて、ふるった小麦粉を鍋に加えて軽くまとめた。弱火で3分間生地を練った後、火を止め、溶き卵と、グラニュ糖、トレハロース又はパラチノースとを2回に分けて加え、計2分間混ぜあわせた。これにより得られた混合物を絞り袋に入れ、直径約4cm(13g)ずつ絞り出した。これによって得たシュー生地を冷凍せず、又は冷凍した後、180℃のオーブンで30分焼成した。焼成したシュー生地(シュー皮)を外観・官能評価及び硬さ(クリープメータ)の評価に用いた。
【0049】
<2.焼成前シュー生地の評価>
冷凍解凍の有無にかかわらず、焼成前のシュー生地では、いずれの群でも生地のダレ、硬さ、及びべたつきに変化は見られず、糖の添加による作業性及び外観への影響は見られなかった。
【0050】
<3.焼成後シュー生地の評価>
図1及び
図2並びに表2及び表3は、食感、外観及び味質の評価結果を示す。
【表2】
【表3】
【0051】
(食感)
BLANK群とパラチノース群は冷凍の有無に関わらず、適度な硬さとサクサク感があり、グラニュ糖群は比較的柔らかい食感であった。トレハロース群は冷凍0日間では比較的柔らかい食感を有していたが、冷凍日数が増すにつれ、冷凍0日間よりも生地に硬さが生じた。以上より、パラチノース群は、適度な硬さとサクサク感を有するシュー皮となり、冷凍による食感変化が少ないことが明らかとなった。
【0052】
(外観)
冷凍の有無に関わらず、パラチノース群は、焼成により褐色を呈し、高級感のあるシュー皮となった。BLANK群、トレハロース群、グラニュ糖群では焼成による着色が弱く、淡褐色のシュー皮となった。
【0053】
(味質)
冷凍の有無に関わらず、パラチノース群は、焼成により香ばしさが付与された。一方、グラニュ糖群ではシューの甘さが強くなり、シュー皮の味質には適さなかった。
【0054】
(空洞のできやすさの評価)
焼成したシュー皮を縦半分に切断し、シュー皮断面の50%面積以上を占める空洞がある場合を、空洞有、それ以外を空洞無として、各群3個のシュー皮を評価した。表4は、空洞のできやすさの評価結果を示す。
【表4】
【0055】
結果、冷凍0日間では、空洞有のシュー皮は、BLANK群2個、グラニュ糖群1個、トレハロース群1個、パラチノース群2個であった。2日間冷凍した場合は、BLANK群2個、グラニュ糖群1個、トレハロース群1個、パラチノース群2個であり、1週間冷凍した場合は、BLANK群0個、グラニュ糖群0個、トレハロース群0個、パラチノース群2個であった。以上より、パラチノースを添加したシュー生地は、冷凍した場合でもシュー皮の空洞のできやすさに影響を受けにくいことが明らかになった。
【0056】
(膨らみやすさ)
冷凍0日間、冷凍2日間、冷凍1週間で解凍・焼成したシュー皮の膨らみやすさを評価した。膨らみやすさは、以下の式を用いて求めた。
図3は、膨らみやすさの評価結果を示す。
膨らみやすさ(cm)=シュー皮の高さ(cm)+(シュー皮の縦幅(cm)+シュー皮の横幅(cm))/2
【0057】
結果、冷凍0日間ではBLANK群でシュー皮の膨らみが最も小さく、他の3群は同等に膨らんだ。一方、冷凍2日間、1週間では、パラチノース群は冷凍の有無に関わらず良好な膨らみを維持したが、他の3群は冷凍日数が増すほど、膨らみが悪くなった。以上より、パラチノースを添加したシュー生地は、冷凍した場合でもシュー皮の膨らみやすさに影響を受けにくいことが明らかとなった。
【0058】
(硬さ)
冷凍0日間、冷凍2日間、冷凍1週間で解凍・焼成したシュー皮の硬さを比較した。硬さはクリープメータ(RE2-33005S、株式会社山電製)を用いて、表5に記載の測定条件で、シュー皮の最も高い箇所で最大荷重及び破断荷重を測定した。表6及び表7は、冷凍0日間でのシュー皮の最大荷重(N)及び破断荷重(N)を示す。
図4及び
図5は、BLANK群、グラニュ糖群、トレハロース群及びパラチノース群それぞれの「冷凍0日間」での結果を1としたときの最大荷重(N)及び破断荷重(N)の経時変化を示す。
【表5】
【表6】
【表7】
【0059】
結果、冷凍0日間では、パラチノース群は、グラニュ糖群やトレハロース群よりも硬さのあるシュー皮であった。また、冷凍日数が増すにつれ、トレハロース群では硬さが増し、食感変化が生じるが、パラチノース群は他の群よりも食感変化が起こりにくく、冷凍0日間と同様の硬さ・食感を維持できることが明らかとなった。
【0060】
〔試験例2:パラチノース入りシュー生地の作製及び評価2(パラチニットとの併用による効果)〕
<1.シュー生地の作製>
シュー生地を次に示す方法で作製した。シュー生地は、BLANK(BLK)群(糖無添加)、パラチニット群、パラチノース:パラチニット=5:5群、パラチノース:パラチニット=3:7群の4群を作製した。BLANK群は比較例である。グラニュ糖、パラチノース(イソマルツロース)、及びパラチニット(還元イソマルツロース)は三井製糖株式会社製、トレハロースは株式会社林原製を用いた。
【0061】
【0062】
(試作手順)
室温に戻したバターと水を鍋に入れ、中火で沸騰させてバターを溶かした。火を止めて、ふるった小麦粉を鍋に加えて軽くまとめた。弱火で3分間生地を練った後、火を止め、溶き卵と、パラチノース又はパラチニットとを2回に分けて加え、計2分間混ぜあわせた。これにより得られた混合物を、絞り袋に入れ、直径約4cm(13g)ずつ絞り出した。得られたシュー生地を冷凍せず、または冷凍した後、180℃のオーブンで30分焼成した。焼成したシュー生地(シュー皮)について、外観及び官能評価を実施した。
【0063】
<2.焼成前シュー生地の評価>
冷凍解凍の有無にかかわらず、焼成前のシュー生地では、いずれの群でも生地のダレや硬さ、べたつきに変化は見られず、糖の添加による作業性及び外観への影響は見られなかった。
【0064】
<3.焼成後シュー皮の評価>
図6及び
図7並びに表9及び表10は、食感、外観及び味質の評価結果を示す。
【表9】
【表10】
【0065】
(食感)
冷凍の有無に関わらず、いずれの群も適度な硬さとサクサク感が有し、良好な食感を維持していた。
【0066】
(外観)
冷凍の有無に関わらず、パラチノースを配合した2群は、焼成により褐色を呈し、高級感のあるシュー皮となった。また、パラチノースをパラチニットで置換える量が多いほど、シュー皮の着色が低減した。
【0067】
(味質)
冷凍の有無に関わらず、パラチノースやパラチニットを添加したシュー皮は、BLANK群と同等の甘味を有しており、甘味への影響は見られなかった。また、パラチノースを添加することで、焼成後のシュー皮に香ばしさが付与された。
【0068】
(空洞のできやすさ)
焼成後のシュー皮を縦半分に切断し、シュー皮断面の50%面積以上を占める空洞がある場合を、空洞有、それ以外を空洞無として、各群3個のシュー皮を評価した。空洞のできやすさの評価結果を表11に示す。
【表11】
【0069】
結果、冷凍0日間では、空洞有のシュー皮は、BLANKで2個、パラチニット入りで2個、パラチノース:パラチニット=5:5で3個、パラチノース:パラチニット=3:7で2個であった。2日間冷凍した場合は、BLANK群2個、パラチニット群1個、パラチノース:パラチニット=5:5群3個であり、1週間冷凍した場合は、BLANK群0個、パラチニット群2個、パラチノース:パラチニット=5:5群2個、パラチノース:パラチニット=3:7群2個であった。以上より、パラチノースを添加するほどシュー皮に空洞ができやすくなるが、パラチノースの一部または全部をパラチニットに置き換えても、空洞のできやすさにおいて十分な効果が得られることが明らかとなった。
【0070】
(膨らみやすさ)
冷凍0日間、冷凍2日間、又は冷凍1週間で解凍・焼成したシュー皮の膨らみやすさを評価した(評価した群は、BLANK、パラチニット、パラチノース:パラチニット=5:5の3群)。膨らみやすさは、以下の式を用いて求めた。
図8は、膨らみやすさの評価結果を示す。
膨らみやすさ(cm)=シュー皮の高さ(cm)+(シュー皮の縦幅(cm)+シュー皮の横幅(cm))/2
【0071】
結果、冷凍0日間ではいずれの群も同様の膨らみを有していたが、冷凍2日間、1週間では、パラチニットを添加した群及びパラチニット及びパラチノースを添加した群で、シュー皮の膨らみが良好に維持された。その効果はパラチニット単独添加でも十分見られたが、一部をパラチノースで置換えることでさらに良好な効果を得ることができることが明らかとなった。
【0072】
以上より、パラチノースを配合したシュー皮は、適度な硬さ及びサクサク感を有し、焼成によって得られるシュー皮の膨らみやすさ及び空洞のできやすさも良好であった。これらの効果は冷凍及び解凍した後に焼成した場合でも、他の糖類よりも良好に維持されていた。さらに、パラチノースを配合したシュー皮は着色がよく、香ばしさが付与されることがわかった。また、パラチノースの一部または全部をパラチニットに置き換えることで、シュー皮の着色が調整された冷凍耐性のあるシュー皮を得ることもできる。