(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023116082
(43)【公開日】2023-08-22
(54)【発明の名称】モータ駆動制御装置、モータユニット、およびモータ駆動制御方法
(51)【国際特許分類】
H02P 6/08 20160101AFI20230815BHJP
【FI】
H02P6/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022018655
(22)【出願日】2022-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】清水 大介
(72)【発明者】
【氏名】青木 政人
(72)【発明者】
【氏名】海津 浩之
【テーマコード(参考)】
5H560
【Fターム(参考)】
5H560AA01
5H560BB04
5H560DA03
5H560DB02
5H560DC20
5H560EB01
5H560RR10
5H560TT11
5H560TT15
5H560XA04
5H560XA10
5H560XA12
(57)【要約】
【課題】モータの速度制御において、モータの回転速度の安定性および応答性の両方を向上させる。
【解決手段】モータ駆動制御装置2は、モータ3の駆動を制御するための駆動制御信号Sdに基づいて、モータ3のコイルに電圧を印加してモータ3を駆動する駆動回路6と、モータ3の回転速度Srが目標回転速度Stgに一致するように駆動制御信号Sdを生成するフィードバック制御を行う制御回路5と、を有する。制御回路5は、モータ3の回転速度Srの目標回転速度Stgに対する偏差Sdfが小さくなるほどフィードバック制御のゲインSgが小さくなるように、ゲインSgを階段状に変化させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータの駆動を制御するための駆動制御信号に基づいて、前記モータのコイルに電圧を印加して前記モータを駆動する駆動回路と、
前記モータの回転速度が目標回転速度に一致するように前記駆動制御信号を生成するフィードバック制御を行う制御回路と、を有し、
前記制御回路は、前記モータの回転速度の前記目標回転速度に対する偏差が小さくなるほど前記フィードバック制御のゲインが小さくなるように、前記ゲインを階段状に変化させる
モータ駆動制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のモータ駆動制御装置において、
前記偏差の大きさを表す複数の区分毎に前記ゲインの指定値が設定され、
前記制御回路は、前記偏差を算出し、算出した前記偏差が属する前記区分に設定されている前記指定値を選択し、選択した前記指定値に基づいて前記フィードバック制御を行う
モータ駆動制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載のモータ駆動制御装置において、
前記制御回路は、前記モータの回転速度の前記目標回転速度に対するオーバーシュートおよびアンダーシュートの少なくとも一方を含む過渡応答が発生したと判定した場合に、前記ゲインを、直前に選択した前記指定値よりも小さい値に変更して、前記フィードバック制御を行う
モータ駆動制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載のモータ駆動制御装置において、
前記制御回路は、前記目標回転速度が所定の閾値以上である場合に、前記過渡応答が発生したか否かを判定する
モータ駆動制御装置。
【請求項5】
請求項3または4に記載のモータ駆動制御装置において、
前記制御回路は、前記ゲインを前記指定値よりも小さい値に変更した場合、算出した前記偏差に関わらず前記ゲインを固定する
モータ駆動制御装置。
【請求項6】
請求項2乃至5の何れか一項に記載のモータ駆動制御装置において、
前記回転速度が前記目標回転速度よりも小さい範囲における前記偏差に対する前記指定値の変化の割合と、前記回転速度が前記目標回転速度よりも大きい範囲における前記偏差に対する前記指定値の変化の割合とが、互いに異なる
モータ駆動制御装置。
【請求項7】
請求項6に記載のモータ駆動制御装置において、
前記回転速度が前記目標回転速度よりも小さい範囲における前記区分の幅と、前記回転速度が前記目標回転速度よりも大きい範囲における前記区分の幅とが、互いに異なる
モータ駆動制御装置。
【請求項8】
請求項6または7に記載のモータ駆動制御装置において、
前記回転速度が前記目標回転速度よりも小さい範囲における前記区分に対応付けられた前記指定値と、前記回転速度が前記目標回転速度よりも大きい範囲における前記区分に対応付けられた前記指定値とが、互いに異なる
モータ駆動制御装置。
【請求項9】
請求項1乃至8の何れか一項に記載のモータ駆動制御装置と、
前記モータと、を備える
モータユニット。
【請求項10】
モータの回転速度が目標回転速度に一致するようにフィードバック制御を行うためのモータ駆動制御方法であって、
前記モータの回転速度を検出する第1ステップと、
第1ステップにおいて検出した前記回転速度の前記目標回転速度に対する偏差が小さくなるほど前記フィードバック制御のゲインが小さくなるように、前記ゲインを階段状に変化させる第2ステップと、を含む
モータ駆動制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ駆動制御装置、モータユニット、およびモータ駆動制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ファンモータ等のモータの制御方法として、モータの回転速度が目標回転速度に一致するように制御する速度制御が知られている。モータの速度制御において、より短時間にモータの回転速度が目標回転速度に到達することが望ましい。
【0003】
モータの回転速度の応答性を向上させる方法としては、目標回転速度とモータの回転速度との誤差に対するモータの制御量を上げること、すなわち、速度制御のゲインを上げる方法が知られている。
【0004】
モータの速度制御のゲインを上げた場合、例えば、モータの起動時や目標回転速度が変更された時において、モータの回転速度の応答性を向上させることが可能である。しかしながら、モータの回転速度の目標回転速度に対するオーバーシュートおよびアンダーシュートが発生し易くなり、回転速度の安定性が低下する。オーバーシュートおよびアンダーシュートが発生した場合、モータから異音(例えば、うねり音)が発生するため、好ましくない。
【0005】
モータの速度制御における回転速度の安定性を向上させる技術として、例えば、回転速度の目標値に対する誤差に応じて速度制御のゲインを連続的に変化させる技術が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されたモータの制御装置は、同文献の第3図に示されるように、モータの速度制御のゲインを連続的に下げていくため、モータの回転速度の安定性を向上させることはできるが、回転速度の応答性の向上は見込めない。すなわち、オーバーシュートやアンダーシュートの発生を抑えることはできるが、モータの回転速度が目標回転速度に到達するまでの時間が長くなる傾向にある。
【0008】
本発明は、上述した課題を解消するためのものであり、モータの速度制御において、モータの回転速度の安定性および応答性の両方を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の代表的な実施の形態に係るモータ駆動制御装置は、モータの駆動を制御するための駆動制御信号に基づいて、前記モータのコイルに電圧を印加して前記モータを駆動する駆動回路と、前記モータの回転速度が目標回転速度に一致するように前記駆動制御信号を生成するフィードバック制御を行う制御回路と、を有し、前記制御回路は、前記モータの回転速度の前記目標回転速度に対する偏差が小さくなるほど前記フィードバック制御のゲインが小さくなるように、前記ゲインを階段状に変化させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、モータの速度制御において、モータの回転速度の安定性および応答性の両方を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施の形態1に係るモータ駆動制御装置を備えたモータユニットの構成を示す図である。
【
図2】実施の形態1に係る、モータの回転速度とゲインの指定値との対応関係を説明するための図である。
【
図3】実施の形態1に係るゲインテーブルの一例を示す図である。
【
図4】実施の形態1に係るモータ駆動制御装置によるゲイン調整の処理の流れを示すフローチャートである。
【
図5】過渡応答判定処理(ステップS5)の流れを示すフローチャートである。
【
図6】モータの加速時における、実施の形態1に係るモータ駆動制御装置のゲインおよび回転速度の時間的な変化と、比較例としてのゲインを一定にした従来技術のフィードバック制御のゲインおよび回転速度の時間的な変化とを示す図である。
【
図7】モータの減速時における、実施の形態1に係るモータ駆動制御装置のゲインおよび回転速度の時間的な変化と、比較例としてのゲインを一定にした従来技術のフィードバック制御のゲインおよび回転速度の時間的な変化とを示す図である。
【
図8】モータの加速時における、実施の形態1に係るモータ駆動制御装置のゲインおよび回転速度の時間的な変化と、比較例としての、回転速度の偏差に応じてゲインを連続的に変化させる従来技術のゲインおよび回転速度の時間的な変化とを示す図である。
【
図9】モータの減速時における、実施の形態1に係るモータ駆動制御装置のゲインおよび回転速度の時間的な変化と、比較例としての、回転速度の偏差に応じてゲインを連続的に変化させる従来技術のゲインおよび回転速度の時間的な変化とを示す図である。
【
図10】モータの加速時における、実施の形態1に係るモータ駆動制御装置のゲインおよび回転速度の時間的な変化を示す図である。
【
図11】モータの減速時における、実施の形態1に係るモータ駆動制御装置のゲインおよび回転速度の時間的な変化を示す図である。
【
図12】モータの回転速度が目標回転速度に到達した後に回転速度が変化したときの、実施の形態1に係るモータ駆動制御装置のゲインおよび回転速度の時間的な変化を示す図である。
【
図13】本発明の実施の形態2に係るモータ駆動制御装置を備えたモータユニットの構成を示す図である。
【
図14】実施の形態2に係る、モータの回転速度とゲインの指定値との対応関係を説明するための図である。
【
図15】実施の形態2に係る、モータの加速時のゲインテーブルの一例を示す図である。
【
図16】実施の形態2に係る、モータの減速時のゲインテーブルの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.実施の形態の概要
先ず、本願において開示される発明の代表的な実施の形態について概要を説明する。なお、以下の説明では、一例として、発明の構成要素に対応する図面上の参照符号を、括弧を付して記載している。
【0013】
〔1〕本発明の代表的な実施の形態に係るモータ駆動制御装置(2,2A)は、モータ(3)の駆動を制御するための駆動制御信号(Sd)に基づいて、前記モータのコイルに電圧を印加して前記モータを駆動する駆動回路(6)と、前記モータの回転速度(Sr)が目標回転速度(Stg)に一致するように前記駆動制御信号を生成するフィードバック制御を行う制御回路(5,5A)と、を有し、前記制御回路は、前記モータの回転速度の前記目標回転速度に対する偏差(Sdf)が小さくなるほど前記フィードバック制御のゲイン(Sg)が小さくなるように、前記ゲインを階段状に変化させることを特徴とする。
【0014】
〔2〕上記〔1〕に記載のモータ駆動制御装置において、前記偏差の大きさを表す複数の区分(Rd1~Rd3,Ra1~Ra3)毎に前記ゲインの指定値が設定され、前記制御回路は、前記偏差を算出し、算出した前記偏差が属する前記区分に設定されている前記指定値を選択し、選択した前記指定値に基づいて前記フィードバック制御を行ってもよい。
【0015】
〔3〕上記〔2〕に記載のモータ駆動制御装置において、前記制御回路は、前記モータの回転速度の前記目標回転速度に対するオーバーシュートおよびアンダーシュートの少なくとも一方を含む過渡応答が発生したと判定した場合に、前記ゲインを、直前に選択した前記指定値よりも小さい値(G0)に変更して、前記フィードバック制御を行ってもよい。
【0016】
〔4〕上記〔3〕に記載のモータ駆動制御装置において、前記制御回路は、前記目標回転速度が所定の閾値(Sth)以上である場合に、前記過渡応答が発生したか否かを判定してもよい。
【0017】
〔5〕上記〔3〕または〔4〕に記載のモータ駆動制御装置において、前記制御回路は、前記ゲインを前記指定値よりも小さい値(G0)に変更した場合、算出した前記偏差に関わらず前記ゲインを固定してもよい。
【0018】
〔6〕上記〔2〕乃至〔5〕の何れかに記載のモータ駆動制御装置(2A)において、前記回転速度が前記目標回転速度よりも小さい範囲(Ra1~Ra3)における前記偏差に対する前記指定値の変化の割合と、前記回転速度が前記目標回転速度よりも大きい範囲(Rd1~Rd3)における前記偏差に対する前記指定値の変化の割合とが、互いに異なっていてもよい。
【0019】
〔7〕上記〔6〕に記載のモータ駆動制御装置(2A)において、前記回転速度が前記目標回転速度よりも小さい範囲における前記区分(Ra1~Ra3)の幅と、前記回転速度が前記目標回転速度よりも大きい範囲における前記区分(Rd1~Rd3)の幅とが、互いに異なっていてもよい。
【0020】
〔8〕上記〔6〕または〔7〕に記載のモータ駆動制御装置において、前記回転速度が前記目標回転速度よりも小さい範囲における前記区分(Ra1~Ra3)に対応付けられた前記指定値(Ga0~Ga3)と、前記回転速度が前記目標回転速度よりも大きい範囲における前記区分(Rd1~Rd3)に対応付けられた前記指定値(Gd0~Gd3)とが、互いに異なっていてもよい。
【0021】
〔9〕本発明の代表的な実施の形態に係るモータユニット(1,1A)は、上記〔1〕乃至〔8〕の何れかに記載のモータ駆動制御装置(2,2A)と、前記モータ(3)と、を備えることを特徴とする。
【0022】
〔10〕本発明の代表的な実施の形態に係るモータ駆動制御方法は、モータ(3)の回転速度(Sr)が目標回転速度(Stg)に一致するようにフィードバック制御を行うためのモータ駆動制御方法であって、前記モータの回転速度を検出する第1ステップ(S1)と、第1ステップにおいて検出した前記回転速度の前記目標回転速度に対する偏差が小さくなるほど前記フィードバック制御のゲインが小さくなるように、前記ゲインを階段状に変化させる第2ステップ(S5~S11)と、を含むことを特徴とする。
【0023】
2.実施の形態の具体例
以下、本発明の実施の形態の具体例について図を参照して説明する。なお、以下の説明において、各実施の形態において共通する構成要素には同一の参照符号を付し、繰り返しの説明を省略する。
【0024】
≪実施の形態1≫
図1は、本発明の実施の形態1に係るモータ駆動制御装置2を備えたモータユニット1の構成を示す図である。
【0025】
図1に示されるモータユニット1は、モータ3と、位置検出器4と、モータ駆動制御装置2とを備えている。
【0026】
モータ3は、少なくとも1つのコイルを有するモータである。例えば、モータ3は、3相(U相、V相、およびW相)のコイル(巻線)を有するブラシレスDCモータである。モータ3は、例えば、モータ3の出力軸にインペラ(不図示)が連結されることにより、一つのファンモータとして機能する。
【0027】
位置検出器4は、モータ3の回転子(ロータ)の回転に応じた位置検出信号Shを生成する装置である。位置検出器4は、例えば、ホール(HALL)素子である。ホール素子は、ロータの磁極を検出し、ロータの回転に応じて電圧が変化するホール信号を出力する。位置検出器4から出力されるホール信号は、例えば、パルス信号であり、位置検出信号Shとしてモータ駆動制御装置2に入力される。
【0028】
モータ駆動制御装置2は、モータ3の駆動を制御する装置である。モータ駆動制御装置2は、例えば、モータ3の回転速度Srが目標回転速度Stgに一致するようにモータ3の駆動を制御する。
【0029】
具体的には、モータ駆動制御装置2は、制御回路5と駆動回路6とを備えている。モータ駆動制御装置2は、外部の直流電源(不図示)から直流電圧の供給を受ける。直流電圧は、例えば、保護回路等を介してモータ駆動制御装置2内の電源ライン(不図示)に供給され、電源ラインを介して制御回路5および駆動回路6に電源電圧としてそれぞれ入力される。
【0030】
駆動回路6は、制御回路5から出力される駆動制御信号Sdに基づいて、モータ3を駆動する回路である。駆動制御信号Sdは、モータ3の駆動を制御するための信号であって、例えば、PWM(Pulse Width Modulation)信号である。
【0031】
駆動回路6は、例えば、スイッチ素子としてのトランジスタを複数有するインバータ回路である。駆動回路6は、例えば、駆動制御信号SdとしてのPWM信号に応じて、直流電圧とグラウンド電位との間でモータ3のコイルの接続先を切り替えることにより、モータ電流の向きを切り替えてモータ3を回転させる。
【0032】
なお、駆動回路6は、上述したインバータ回路を構成する各トランジスタを駆動制御信号Sdに基づいて駆動するためのプリドライブ回路を有していてもよい。また、上記インバータ回路には、モータ電流を検出するためのセンス抵抗が接続されていてもよい。
【0033】
制御回路5は、モータ駆動制御装置2の動作を統括的に制御するための回路である。本実施の形態において、制御回路5は、例えば、CPU等のプロセッサと、RAM,ROM、およびフラッシュメモリ等の各種記憶装置と、カウンタ(タイマ)、A/D変換回路、D/A変換回路、クロック発生回路、および入出力インターフェース回路等の周辺回路とが、バスや専用線を介して互いに接続された構成を有するプログラム処理装置である。例えば、制御回路5は、マイクロコントローラ(MCU:Micro Controller Unit)である。
【0034】
なお、制御回路5と駆動回路6とは、一つの半導体集積回路(IC:Integrated Circuit)としてパッケージ化された構成であってもよいし、個別の集積回路として夫々パッケージ化されて回路基板に実装され、回路基板上で互いに電気的に接続された構成であってもよい。
【0035】
制御回路5は、モータ3の回転速度Srが目標回転速度Stgに一致するように駆動制御信号Sdを生成するフィードバック制御を行う速度フィードバック機能を有している。更に、制御回路5は、速度フィードバック機能に加えて、モータ3の回転速度Srのフィードバック制御を行う際にモータ3の回転速度Srの目標回転速度Stgに対する偏差(速度偏差)Sdfに応じてフィードバック制御のゲインを変化させるゲイン調整機能を有している。
【0036】
制御回路5は、上述した各機能を実現するための機能部として、例えば、
図1に示すように、駆動指令解析部10、回転速度算出部11、速度偏差算出部12、ゲイン決定部13、操作量算出部14、駆動制御信号生成部15、および過渡応答判定部16を有している。
【0037】
制御回路5の上述した各機能部は、例えば、制御回路5としてのMCUのプログラム処理によって実現される。具体的には、制御回路5としてのMCUを構成するプロセッサが、メモリに格納されたプログラムにしたがって各種の演算を行って、MCUを構成する各周辺回路を制御することにより、上述した各機能部が実現される。
【0038】
先ず、主に速度フィードバック機能を実現するための機能部について説明する。
駆動指令解析部10は、例えば、モータ駆動制御装置2の外部に設けられた上位装置(不図示)から出力された駆動指令信号Scを受信する。駆動指令信号Scは、モータ3の駆動に関する目標値を指示する信号であって、例えば、モータ3の目標回転速度Stgを指示する速度指令信号である。
【0039】
駆動指令解析部10は、駆動指令信号Scを解析することにより、指定された目標回転速度Stgの情報を取得する。例えば、駆動指令信号Scが目標回転速度Stgに対応するデューティ比を有するPWM信号である場合、駆動指令解析部10は、駆動指令信号Scのデューティ比を解析し、そのデューティ比に対応する回転速度の情報を目標回転速度Stgとして出力する。
【0040】
回転速度算出部11は、モータ3の実際の回転速度Srを算出する機能部である。回転速度算出部11は、位置検出器4から出力された位置検出信号(例えば、ホール信号)Shに基づいてモータ3の回転速度Srを算出し、出力する。
【0041】
速度偏差算出部12は、モータ3の回転速度Srの目標回転速度Stgに対する偏差(速度偏差)Sdfを算出する機能部である。速度偏差算出部12は、例えば、駆動指令解析部10から出力された目標回転速度Stgから、回転速度算出部11によって算出された回転速度Srを減算することにより、偏差Sdf(=Stg-Sr)を算出する。
【0042】
操作量算出部14は、モータ3を駆動するための操作量Soを算出する機能部である。
【0043】
操作量Soは、モータ3の回転速度Srを目標回転速度Stgに一致させる(偏差Sdfをゼロにする)ために必要な、モータ3の駆動量を指定する情報である。
【0044】
操作量算出部14は、例えば、後述するゲイン決定部13によって決定されたフィードバック制御のゲインSgの値を用いて、PID(Proportional-Integral-Differential)制御演算を行うことにより、操作量Soを算出する。例えば、操作量算出部14は、ゲインSgが大きいほどモータ3の回転速度制御量が大きくなるように、操作量Soを算出する。
【0045】
駆動制御信号生成部15は、操作量算出部14によって算出された操作量Soに基づいて駆動制御信号Sdを生成する機能部である。例えば、駆動制御信号生成部15は、操作量Soに応じたデューティ比を有するPWM信号を生成し、駆動制御信号Sdとして出力する。駆動回路6は、駆動制御信号生成部15から出力された駆動制御信号Sdに基づいて、モータ3を駆動する。
【0046】
次に、主にゲイン調整機能を実現するための機能部について説明する。
制御回路5は、ゲイン調整機能として、モータ3の回転速度Srの目標回転速度Stgに対する偏差Sdfが小さくなるほどフィードバック制御のゲインSgが小さくなるように、ゲインSgを階段状に変化させる。
【0047】
具体的には、制御回路5は、ゲイン調整の機能部として、ゲイン決定部13および過渡応答判定部16を有する。
詳細は後述するが、ゲイン決定部13は、偏差Sdfの大きさを表す複数の区分(範囲)毎にゲインSgの指定値が設定されているゲインテーブル20を有する。ゲイン決定部13は、ゲインテーブル20を参照して、速度偏差算出部12から入力した偏差Sdfが属する区分に設定されているゲインSgの指定値を選択し、選択した指定値に基づいてフィードバック制御を行う。
【0048】
また、詳細は後述するが、過渡応答判定部16は、入力した偏差Sdfをもとに、回転速度Srの過渡応答の発生有無を判定し、過渡応答が発生したと判定した場合、過渡応答の発生を知らせる過渡応答報知信号Strを生成して、ゲイン決定部13に出力する。
【0049】
図2は、実施の形態1に係る、モータ3の回転速度SrとゲインSgの指定値との対応関係を説明するための図である。
【0050】
図2に示すように、実施の形態1に係るモータ駆動制御装置2において、モータ3の回転速度Srに対するゲインSgの指定値は、回転速度Srの目標回転速度Stgに対する偏差Sdfの大きさに応じて段階的に設定されている。例えば、
図2には、偏差Sdfの大きさが、偏差Sdfの値α,β,γに基づき、目標回転速度Stgに対して正側および負側にそれぞれ3つの区分(範囲)に分けられ、それぞれの区分にゲインSgの指定値が設定されている場合が示されている。
【0051】
例えば、
図2において、目標回転速度Stgに対して偏差Sdfの値が±αの範囲にある場合、すなわち、偏差Sdfの区分Rd1,Ra1には、ゲインSgの指定値として“G1”が設定されている。また、目標回転速度Stgに対して偏差Sdfの値が±αから±βまでの範囲にある場合、すなわち、偏差Sdfの区分Rd2,Ra2には、ゲインSgの指定値として“G2”が設定されている。また、目標回転速度Stgに対して偏差Sdfの値が±βを超えた範囲にある場合、すなわち、偏差Sdfの区分Rd3,Ra3には、ゲインSgの指定値として“G3”が設定されている。ここで、ゲインSgの指定値の大小関係は、G1<G2<G3である。このように、実施の形態1に係るモータ駆動制御装置2において、ゲインSgは、偏差Sdfが小さいほど、小さくなるように設定されている。
【0052】
具体的に、制御回路5のゲイン決定部13が、
図2に示したような、偏差Sdfの大きさを表す範囲(区分)とゲインSgの指定値との対応関係に基づいて、フィードバック制御のゲインSgの大きさを決定する。例えば、ゲイン決定部13は、偏差Sdfの大きさを表す範囲(区分)とゲインSgの指定値との対応関係を示す情報であるゲインテーブル20を有し、算出された偏差Sdfの値に基づいてゲインテーブル20を参照することにより、フィードバック制御のゲインSgの大きさを決定する。
【0053】
図3は、実施の形態1に係るゲインテーブル20の一例を示す図である。
図3に示すように、ゲインテーブル20は、偏差Sdfの大きさを表す範囲(区分)とゲインSgの指定値とを対応付けたテーブルである。
【0054】
ゲイン決定部13は、ゲインSgの大きさを決定するとき、速度偏差算出部12によって算出された偏差Sdfの値に対応するゲインSgの指定値をゲインテーブル20から読み出し、読み出した指定値をゲインSgの大きさとして決定する。例えば、偏差Sdfの絶対値|Sdf|が偏差Sdfの値αより大きく偏差Sdfの値β以下の場合には、ゲイン決定部13は、ゲインSgの指定値を“G2”とする。
【0055】
このように、偏差Sdfの大きさを所定の幅を持った複数の区分に分け、目標回転速度Stgから離れた区分ほどゲインSgの指定値が大きくなるように設定することにより、回転速度Srが目標回転速度Stgに近づくにつれて、フィードバック制御のゲインSgが階段状に低下するように制御することができる。
【0056】
また、制御回路5は、ゲイン調整機能として、モータ3の回転速度Srの目標回転速度Stgに対するオーバーシュートおよびアンダーシュートの少なくとも一方を含む過渡応答が発生したと判定した場合に、ゲインSgを、直前に選択した指定値よりも小さい値に変更してもよい。
【0057】
具体的には、制御回路5の過渡応答判定部16が、回転速度Srの過渡応答の有無を判定し、制御回路5のゲイン決定部13が、過渡応答判定部16による判定結果に基づいてゲインSgを変更する。
【0058】
過渡応答判定部16は、速度偏差算出部12によって算出された偏差Sdfに基づいて、過渡応答の発生の有無を判定する過渡応答判定処理を行う。
【0059】
過渡応答判定部16は、過渡応答の発生の有無の判定基準として、偏差Sdfの極性(正/負)の切り替わりの有無に加えて、偏差Sdfの大きさを用いてもよい。例えば、過渡応答判定部16は、偏差Sdf(=Stg-Sr)の極性が正(+)から負(-)に切り替わり、且つ偏差Sdfが+γ以上である(回転速度Srが“Stg+γ”以上である)ことを検出した場合に、回転速度Srの目標回転速度Stgに対するオーバーシュートが発生したと判定する。また、過渡応答判定部16は、偏差Sdf(=Stg-Sr)の極性が負(-)から正(+)に切り替わり、且つ偏差Sdfが-γ以上である(回転速度Srが“Stg-γ”以下である)ことを検出した場合に、回転速度Srの目標回転速度Stgに対するアンダーシュートが発生したと判定する。
【0060】
また、上述した過渡応答判定処理は、回転速度Srのオーバーシュートまたはアンダーシュートが発生し易い状況においてのみ、実行されてもよい。
【0061】
例えば、回転速度Srのオーバーシュートまたはアンダーシュートは、モータ3の駆動開始時や目標回転速度Stgの変更後に回転速度Srが目標回転速度Stgに向かって変化しているとき、すなわちモータ3の加速または減速時に、発生し易い。
【0062】
そこで、モータ3が加速または減速している場合、換言すれば、回転速度Srが安定していない場合に、過渡応答判定部16が過渡応答判定処理を実行するようにしてもよい。例えば、モータ3の回転速度Srが目標回転速度Stgを中心として偏差Sdfの値±γの範囲にある場合(Stg-γ<Sr<Stg+γ)には、過渡応答判定部16は、過渡応答判定処理を行わない。一方、モータ3の回転速度Srが目標回転速度Stgを中心として偏差Sdfの値±γの範囲にない場合(Sr≦Stg-γ,Stg+γ≦Sr)には、過渡応答判定部16は、過渡応答判定処理を行う。
【0063】
また、回転速度Srのオーバーシュートまたはアンダーシュートは、目標回転速度Stgが高いほど発生する傾向がある。そこで、目標回転速度Stgが所定の閾値Sth以上に設定されている場合に、過渡応答判定部16が過渡応答判定処理を行うようにしてもよい。
前述したように、過渡応答判定部16は、過渡応答が発生したと判定した場合、過渡応答の発生を知らせる過渡応答報知信号Strを生成して、ゲイン決定部13に出力する。
【0064】
ゲイン決定部13は、過渡応答判定部16から出力された過渡応答報知信号Strを受け取った場合に、ゲインSgを直前に選択した指定値よりも小さい値に変更する。例えば、ゲインSgの指定値が“G1”に設定され、且つモータ3が加速しているときに、回転速度Srが(Stg+γ)以上となった場合に、過渡応答判定部16が、回転速度Srのオーバーシュートが発生したと判定する。この場合、ゲイン決定部13は、ゲインSgの指定値を“G1”よりも小さい“G0”に設定する。同様に、ゲインSgの指定値が“G1”に設定され、且つモータ3が減速しているときに、回転速度Srが(Stg-γ)以下となった場合に、過渡応答判定部16が、回転速度Srのアンダーシュートが発生したと判定する。この場合、ゲイン決定部13は、ゲインSgの指定値を“G1”よりも小さい“G0”に設定する。
【0065】
このように、回転速度Srの過渡応答(オーバーシュートまたはアンダーシュート)の発生を検出した場合に、フィードバック制御のゲインSgを更に低下させることにより、その後の回転速度Srの変動を抑えることが可能となる。
【0066】
なお、制御回路5は、ゲインSgの指定値を“G1”よりも小さい“G0”値に変更した後、偏差Sdfの大きさに関わらず、ゲインSgの指定値を“G0”に固定してもよい。これによれば、回転速度Srをより安定させることができる。なお、目標回転速度Stgが変更された場合には、ゲインSgの固定が解除される。
【0067】
次に、実施の形態1に係るモータ駆動制御装置2によるゲイン調整の処理の流れについて説明する。
【0068】
図4は、実施の形態1に係るモータ駆動制御装置2によるゲイン調整の処理の流れを示すフローチャートである。
【0069】
先ず、モータ駆動制御装置2において、制御回路5がモータ3の回転速度Srの情報を取得する(ステップS1)。具体的には、上述したように、回転速度算出部11が、位置検出器4から出力されている位置検出信号Shに基づいて、モータ3の回転速度Srを算出する。
【0070】
次に、制御回路5が、目標回転速度Stgの情報を取得する(ステップS2)。具体的には、上述したように、駆動指令解析部10が駆動指令信号Scを解析することにより、目標回転速度Stgの情報を取得する。
【0071】
次に、制御回路5(過渡応答判定部16)が、目標回転速度Stgが所定の閾値Sth以上であるか否かを判定する(ステップS3)。目標回転速度Stgが所定の閾値Sthより小さい場合(ステップS3:NO)、制御回路5は、後述する過渡応答判定処理を行わずにステップS6に移行する。
【0072】
一方、目標回転速度Stgが所定の閾値Sth以上である場合(ステップS3:YES)、制御回路5は、モータ3が加速中または減速中であるか否かを判定する(ステップS4)。
【0073】
目標回転速度Stgが変化した場合、駆動指令解析部10は、モータ3が加速中または減速中であると判定し(ステップS4:YES)、過渡応答判定処理を行う(ステップS5)。なお、ステップS5の過渡応答判定処理の流れについては、後述する。
【0074】
一方、目標回転速度Stgが変化していない場合、駆動指令解析部10は、モータ3が加速中または減速中でないと判定し(ステップS4:NO)、後述する過渡応答判定処理を行わずにステップS6に移行する。
【0075】
ステップS6において、ゲイン決定部13は、偏差Sdfの絶対値|Sdf|がα以下であるか否かを判定する。偏差Sdfの絶対値|Sdf|がα以下である場合、ゲイン決定部13は、その時点で設定されているゲインSgの指定値が“G0”であるか否かを判定する(ステップS7)。ゲインSgの指定値≠G0である場合(ステップS7:NO)、ゲイン決定部13は、ゲインSgの指定値を“G1”に設定する(ステップS9)。一方、ゲインSgの指定値=G0である場合(ステップS7:YES)、ゲイン決定部13は、ゲインSgの指定値“G0”を維持する。
【0076】
ステップS6において、偏差Sdfの絶対値|Sdf|がαより大きい場合(ステップS6:NO)、ゲイン決定部13は、偏差Sdfの絶対値|Sdf|がβ以下であるか否かを判定する(ステップS8)。偏差Sdfの絶対値|Sdf|がβ以下である場合(ステップS8:YES)、ゲイン決定部13は、ゲインSgの指定値を“G2”に設定する(ステップS10)。一方、偏差Sdfの絶対値|Sdf|がβより大きい場合(ステップS8:NO)、ゲイン決定部13は、ゲインSgの指定値を“G3”に設定する(ステップS11)。
【0077】
次に、ステップS5の過渡応答判定処理について説明する。
図5は、過渡応答判定処理(ステップS5)の流れを示すフローチャートである。
【0078】
過渡応答判定処理(ステップS5)において、制御回路5の過渡応答判定部16が、速度偏差算出部12によって算出された偏差Sdf(=Stg-Sr)の極性が正(+)から負(-)に切り替わったか否かを判定する(ステップS51)。
【0079】
偏差Sdf(=Stg-Sr)の極性が正から負に切り替わった場合(ステップS51:YES)、過渡応答判定部16は、モータ3の回転速度Srが(Stg+γ)以上であるか否かを判定する(ステップS53)。
【0080】
モータ3の回転速度Srが(Stg+γ)より小さい場合(ステップS53:NO)、制御回路5は、過渡応答判定処理(ステップS5)を終了し、
図4のステップS6に移行する。一方、モータ3の回転速度Srが(Stg+γ)以上である場合(ステップS53:YES)、過渡応答判定部16は、回転速度Srの目標回転速度Stgに対するオーバーシュートが発生したと判定する(ステップS55)。この場合、ゲイン決定部13が、ゲインSgの指定値を“G0”に設定する(ステップS56)。その後、制御回路5は、
図4のステップS6に移行する。
【0081】
ステップS51において、偏差Sdf(=Stg-Sr)の極性が正から負に切り替わっていない場合(ステップS51:NO)、過渡応答判定部16は、偏差Sdf(=Stg-Sr)の極性が負から正に切り替わったか否かを判定する(ステップS52)。偏差Sdf(=Stg-Sr)の極性が負から正に切り替わっていない場合(ステップS52:NO)、制御回路5は、過渡応答判定処理(ステップS5)を終了し、
図4のステップS6に移行する。
【0082】
偏差Sdf(=Stg-Sr)の極性が負から正に切り替わった場合(ステップS52:YES)、過渡応答判定部16は、モータ3の回転速度Srが(Stg-γ)以下であるか否かを判定する(ステップS54)。
【0083】
モータ3の回転速度Srが(Stg-γ)より大きい場合(ステップS54:NO)、制御回路5は、過渡応答判定処理(ステップS5)を終了し、
図4のステップS6に移行する。一方、モータ3の回転速度Srが(Stg-γ)以下である場合(ステップS54:YES)、過渡応答判定部16は、回転速度Srの目標回転速度Stgに対するアンダーシュートが発生したと判定する(ステップS57)。この場合、ゲイン決定部13は、ゲインSgの指定値を“G0”に設定する(ステップS58)。その後、制御回路5は、
図4のステップS6に移行する。
以上説明した処理手順にしたがって、ゲイン調整の処理および過渡応答判定処理が実行される。
【0084】
次に、実施の形態1に係るモータ駆動制御装置2におけるゲイン調整機能による効果について説明する。
【0085】
図6は、モータの加速時における、実施の形態1に係るモータ駆動制御装置2のゲインSgの指定値および回転速度Srの時間的な変化と、比較例としてのゲインを一定(便宜上、比較例のゲインが本発明でのゲインSgの指定値G3相当であると仮定)にした従来技術のフィードバック制御のゲインおよび回転速度の時間的な変化とを示す図である。
【0086】
図6において、参照符号51および61は、実施の形態1に係るモータ駆動制御装置2におけるゲインSgおよびモータ3の回転速度Srをそれぞれ表し、参照符号51Aおよび61Aは、従来技術のようにゲインを一定にした場合のゲインおよびモータの回転速度をそれぞれ表している。
【0087】
図7は、モータの減速時における、実施の形態1に係るモータ駆動制御装置2のゲインSgの指定値および回転速度Srの時間的な変化と、比較例としてのゲインを一定(便宜上、比較例のゲインが本発明でのゲインSgの指定値G3相当であると仮定)にした従来技術のフィードバック制御のゲインおよび回転速度の時間的な変化とを示す図である。
【0088】
図7において、参照符号52および62は、実施の形態1に係るモータ駆動制御装置2におけるゲインSgおよびモータ3の回転速度Srをそれぞれ表し、参照符号52Aおよび62Aは、従来技術のようにゲインを一定にした場合のゲインおよびモータの回転速度をそれぞれ表している。
【0089】
図6および
図7に示すように、フィードバック制御のゲインを所定の値に固定した従来技術の場合、モータの加速時および減速時において回転速度のオーバーシュートおよびアンダーシュートが大きくなる。
【0090】
これに対し、実施の形態1に係るモータ駆動制御装置2によれば、回転速度Srの目標回転速度Stgに対する偏差Sdfが小さくなるほどゲインSgが小さくなるので、
図6および
図7に示すように、オーバーシュートおよびアンダーシュートを小さくすることができ、回転速度Srの安定性を向上させることが可能となる。
【0091】
図8は、モータ3の加速時における、実施の形態1に係るモータ駆動制御装置2のゲインSgの指定値および回転速度Srの時間的な変化と、比較例としての、回転速度の偏差に応じてゲインを連続的に変化させる従来技術のゲイン(便宜上、従来技術のゲインが、本発明でのゲインSgの指定値G3相当からG1相当に変化すると仮定)および回転速度の時間的な変化とを示す図である。
【0092】
図8において、参照符号53および63は、実施の形態1に係るモータ駆動制御装置におけるゲインSgおよびモータ3の回転速度Srをそれぞれ表し、参照符号53Aおよび63Aは、従来技術のように回転速度の偏差に応じてゲインを連続的に変化させた場合のゲインおよびモータの回転速度をそれぞれ表している。
【0093】
図9は、モータ3の減速時における、実施の形態1に係るモータ駆動制御装置2のゲインSgの指定値および回転速度Srの時間的な変化と、比較例としての、モータの回転速度の偏差に応じてゲインを連続的に変化させる従来技術のゲイン(便宜上、従来技術のゲインが、本発明でのゲインSgの指定値G3相当からG1相当に変化すると仮定)および回転速度の時間的な変化とを示す図である。
【0094】
図9において、参照符号54および64は、実施の形態1に係るモータ駆動制御装置2におけるゲインSgおよびモータ3の回転速度Srをそれぞれ表し、参照符号54Aおよび64Aは、従来技術のように回転速度の偏差に応じてゲインを連続的に変化させた場合のゲインおよびモータの回転速度をそれぞれ表している。
【0095】
図8および
図9に示すように、偏差に応じてフィードバック制御のゲインを連続的に変化させる従来技術の場合、モータの回転速度のオーバーシュートおよびアンダーシュートは小さくなるが、回転速度が目標速度に到達するまでの時間が長くなる。
【0096】
これに対し、実施の形態1に係るモータ駆動制御装置2によれば、偏差Sdfに応じてゲインSgが段階的(階段状)に変化するので、
図8および
図9に示すように、より短時間に回転速度Srを目標回転速度Stgに到達させることができ、モータ3の回転速度Srの安定性と応答性の両方を向上させることが可能となる。
【0097】
図10は、モータ3の加速時における、実施の形態1に係るモータ駆動制御装置2のゲインSgの指定値および回転速度Srの時間的な変化を示す図である。
【0098】
図10において、参照符号55および65は、実施の形態1に係るモータ駆動制御装置2において、回転速度Srのオーバーシュートおよびアンダーシュートが小さい場合のゲインSgおよびモータ3の回転速度Srをそれぞれ表し、参照符号55Aおよび65Aは、実施の形態1に係るモータ駆動制御装置2において、回転速度Srのオーバーシュートおよびアンダーシュートが大きい場合のゲインSgおよびモータ3の回転速度Srをそれぞれ表している。
【0099】
図11は、モータ3の減速時における、実施の形態1に係るモータ駆動制御装置2のゲインSgの指定値および回転速度Srの時間的な変化を示す図である。
【0100】
図11において、参照符号56および66は、実施の形態1に係るモータ駆動制御装置2において、回転速度Srのオーバーシュートおよびアンダーシュートが小さい場合のゲインSgおよびモータ3の回転速度Srをそれぞれ表し、参照符号56Aおよび66Aは、実施の形態1に係るモータ駆動制御装置2において、回転速度Srのオーバーシュートおよびアンダーシュートが大きい場合のゲインおよびモータ3の回転速度Srをそれぞれ表している。
【0101】
図10および
図11に示すように、実施の形態1に係るモータ駆動制御装置2によれば、何等かの原因で大きなオーバーシュートが発生した場合には、ゲインSgの指定値を“G1”よりも更に低い“G0“に設定するので、その後のオーバーシュートおよびアンダーシュートを小さくすることができ、より速やかに回転速度Srを目標回転速度Stgに到達させることが可能となる。
【0102】
図12は、モータ3の回転速度Srが目標回転速度Stgに到達した後に回転速度Srが変化したときの、実施の形態1に係るモータ駆動制御装置2のゲインSgの指定値および回転速度Srの時間的な変化を示す図である。
【0103】
図12において、参照符号57および67は、実施の形態1に係るモータ駆動制御装置2におけるゲインSgの指定値およびモータ3の回転速度Srをそれぞれ表している。
【0104】
例えば、モータ3の負荷変動等によって回転速度Srが変化した場合であっても、
図12に示すように、モータ駆動制御装置2が回転速度Srの偏差Sdfに応じてゲインSgの指定値を調整するので、より速やかに回転速度Srを目標回転速度Stgに安定させることが可能となる。
【0105】
このように、実施の形態1に係るモータ駆動制御装置2によれば、モータ3の速度制御において、モータ3の回転速度Srの安定性および応答性の両方を向上させることができる。
【0106】
≪実施の形態2≫
図13は、本発明の実施の形態2に係るモータ駆動制御装置2Aを備えたモータユニット1Aの構成を示す図である。
【0107】
図13に示すモータ駆動制御装置2Aでは、制御回路5Aにおけるゲイン決定部13Aは、二つのゲインテーブル(ゲインテーブル21,22)を有する。モータ駆動制御装置2Aは、二つのゲインテーブルを参照することにより、モータ3の加速時における回転速度Srの偏差Sdfの値に対するゲインSgの指定値の変化の割合とモータ3の減速時における回転速度Srの偏差Sdfの値に対するゲインSgの指定値の変化の割合とが相違するようにしている点において、実施の形態1に係るモータ駆動制御装置2と相違し、その他の点においては、実施の形態1に係るモータ駆動制御装置2と同様である。
【0108】
図14は、実施の形態2に係る、モータ3の回転速度SrとゲインSgの指定値との対応関係を説明するための図である。
【0109】
図14に示すように、実施の形態2に係るモータ駆動制御装置2Aにおいて、モータ3の加速時、すなわち回転速度Srが目標回転速度Stgよりも小さい範囲における回転速度Srの偏差Sdf(=Stg-Sr)の値に対するゲインSgの指定値の変化の割合と、モータ3の減速時、すなわち回転速度Srが目標回転速度Stgよりも大きい範囲における回転速度Srの偏差Sdfの値に対するゲインSgの指定値の変化の割合とが、互いに異なる。
【0110】
具体的には、回転速度Srが目標回転速度Stgよりも小さい範囲(偏差Sdfが正の範囲)における偏差Sdfの区分の幅と、回転速度Srが目標回転速度Stgよりも大きい範囲(偏差Sdfが負の範囲)における偏差Sdfの区分の幅とが、互いに異なる。
【0111】
また、回転速度Srが目標回転速度Stgよりも小さい範囲(偏差Sdfが正の範囲)における偏差Sdfの値の区分に対応付けられたゲインSgの指定値と、回転速度Srが目標回転速度Stgよりも大きい範囲(偏差Sdfが負の範囲)における偏差Sdfの値の区分に対応付けられたゲインSgの指定値とが、互いに異なる。
【0112】
例えば、モータ3の加速中のゲインSgの大きさは以下のように設定されている。
図14に示すように、回転速度Srの偏差Sdfの値が-αa≦Sdf<0の範囲にある場合、すなわち、偏差Sdfの区分Ra1には、ゲインSgの指定値として“Ga1”が設定されている。また、回転速度Srの偏差Sdfの値が-βa≦Sdf<-αaの範囲にある場合、すなわち、偏差Sdfの区分Ra2には、ゲインSgの指定値として“Ga2”が設定されている。また、回転速度Srの偏差Sdfの値がSdf<-βaの範囲にある場合、すなわち、偏差Sdfの区分Ra3には、ゲインSgの指定値として“Ga3”が設定されている。
【0113】
また、例えば、モータ3の減速中のゲインSgの大きさは以下のように設定されている。
図14に示すように、回転速度Srの偏差Sdfの値が0<Sdf≦αdの範囲にある場合、すなわち、偏差Sdfの区分Rd1には、ゲインSgの指定値として“Gd1”が設定されている。また、回転速度Srの偏差Sdfの値がαd<Sdf≦βdの範囲にある場合、すなわち、偏差Sdfの区分Rd2には、ゲインSgの指定値として“Gd2”が設定されている。また、回転速度Srの偏差Sdfの値がβd<Sdfの範囲にある場合、すなわち、偏差Sdfの区分Rd3には、ゲインSgの指定値として“Gd3”が設定されている。
【0114】
ここで、ゲインSgの指定値の大小関係は、Gd1<Gd2<Gd3,Ga1<Ga2<Ga3である。また、例えば、偏差Sdfの値の関係は、αd≠αa,βd≠βaである。更に、例えば、ゲインSgの指定値の大小関係は、Ga1<Gd1,Ga2<Gd2,Ga3<Gd3である。
【0115】
実施の形態2に係る制御回路5Aにおいて、ゲイン決定部13Aは、
図14に示したような、偏差Sdfの大きさを表す範囲(区分)とゲインSgの指定値との対応関係に基づいて、ゲインSgの大きさを決定する。
【0116】
例えば、
図13に示すように、ゲイン決定部13Aは、モータ3の加速時(回転速度の偏差Sdfが正(+)となる範囲)の、偏差Sdfの大きさを表す範囲(区分)とゲインSgの指定値との対応関係を示す情報であるゲインテーブル21と、モータ3の減速時(回転速度Srの偏差Sdfが負(-)となる範囲)の、偏差Sdfの大きさを表す範囲(区分)とゲインSgの指定値との対応関係を示す情報であるゲインテーブル22と、を有する。
【0117】
ゲイン決定部13Aは、速度偏差算出部12によって算出された偏差Sdf(=Stg-Sr)に基づいて、ゲインテーブル21,22を参照することにより、ゲインSgの大きさを決定する。
【0118】
図15は、実施の形態2に係る、モータ3の加速時のゲインテーブル21の一例を示す図である。
図15に示すように、ゲインテーブル21は、モータ3の加速時(回転速度Srの偏差Sdfが正(+)となる範囲)における偏差Sdfの大きさを表す範囲(区分)とゲインSgの指定値とを対応付けたテーブルである。
【0119】
図16は、実施の形態2に係る、モータ3の減速時のゲインテーブル22の一例を示す図である。
図16に示すように、ゲインテーブル22は、モータ3の減速時(回転速度Srの偏差Sdfが負(-)となる範囲)における偏差Sdfの大きさを表す範囲(区分)とゲインSgの指定値とを対応付けたテーブルである。
【0120】
ゲイン決定部13Aは、ゲインSgの大きさを決定するとき、速度偏差算出部12によって算出された偏差Sdfの値に対応するゲインSgの指定値をゲインテーブル21またはゲインテーブル22から読み出し、読み出した指定値をゲインSgの大きさとして決定する。例えば、偏差Sdfの値の極性が負(-)であり、偏差Sdfの絶対値|Sdf|がαdより大きくβd以下の場合、ゲイン決定部13Aは、ゲインSgの指定値を“Gd2”とする。
【0121】
また、実施の形態2に係るモータ駆動制御装置2Aにおいて、モータ3の加速時における過渡応答の判定基準である偏差Sdfの範囲(区分)およびその区分に設定されるゲインSgの指定値と、モータ3の加速時における過渡応答の判定基準である偏差Sdfの範囲(区分)およびその区分に設定されるゲインSgの指定値とが、互いに異なっていてもよい。すなわち、
図14乃至
図16において、偏差Sdfの値γd≠γa,ゲインSgの指定値Gd0≠Ga0であってもよい。
【0122】
このように、モータ3の加速時における回転速度Srの偏差Sdfの値に対するゲインSgの指定値の変化の割合とモータ3の減速時における回転速度Srの偏差Sdfの値に対するゲインSgの指定値の変化の割合とを相違させることにより、回転速度Srの応答性を更に向上させることが可能となる。
【0123】
例えば、モータ3の減速時においては、モータ3が慣性回転をしているため、モータ3の加速指令時に比べて、減速指令に対する応答性(追従性)が低い。そのため、例えば、モータ3の減速時の偏差Sdfの区分Rd2の幅をモータ3の加速時の偏差Sdfの区分Ra2の幅よりも広くするとともに、モータ3の減速時の区分Rd2のゲインの指定値“Gd2”をモータ3の加速時の区分Ra2のゲインの指定値“Ga2”より大きくすることにより、減速指令に対する回転速度Srの応答性を向上させることができる。これにより、モータ3の減速時においても、より速やかにモータ3の回転速度Srを目標回転速度Stgに到達させることが可能となる。
【0124】
≪実施の形態の拡張≫
以上、本発明者らによってなされた発明を実施の形態に基づいて具体的に説明したが、本発明はそれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能であることは言うまでもない。
【0125】
例えば、上記実施の形態において、回転速度Srの偏差Sdfの範囲を、目標回転速度Stgに対して正側(高回転速度側)と負側(低回転速度側)のそれぞれに3つの区分に分ける場合を例示したが、区分の数は2以上であればよい。例えば、偏差Sdfの区分の数、すなわちゲインSgの設定数が多いほど、回転速度Srを変化させていく過程において駆動制御信号SdとしてのPWM信号のデューティ比を細かく設定できるので、過渡応答(オーバーシュートおよびアンダーシュート)をより抑制することが可能となる。一方、ゲインSgの設定数が多すぎた場合、回転速度Srの応答性が低下する(回転速度Srが目標回転速度Stgに到達するまでの時間が長くなる)上に、モータ3の駆動制御がより複雑になる。したがって、偏差Sdfの区分の数(ゲインSgの設定数)は、10以下が好ましく、2から5の範囲がより好ましい。
また、目標回転速度Stgに対して正側と負側のそれぞれに設ける回転速度Srの偏差Sdfの区分の数は、必ずしも同じでなくてもよい。
【0126】
また、上記実施の形態において、モータ3の種類は、ブラシレスDCモータに限定されない。また、モータ3は、3相に限られず、例えば単相のブラシレスDCモータであってもよい。
【0127】
上記実施の形態において、位置検出器4としてホール素子を用いる場合を例示したが、これに限られない。例えば、位置検出器4として、ホールIC、エンコーダ、レゾルバなどを設け、それらの検出信号を位置検出信号Shとしてモータ駆動制御装置2,2Aに入力してもよい。また、モータ駆動制御装置2,2Aは、位置検出器4を設けることなく、公知の位置センサレス方式によってモータ3を駆動してもよい。
【0128】
また、制御回路5,5Aの各機能部が、MCUのプログラム処理によって実現される場合を例示したが、これに限られず、制御回路5,5Aの各機能部の一部または全部を専用回路(ハードウェア)によって実現してもよい。
【0129】
また、上述のフローチャートは一例であって、これらに限定されるものではなく、例えば、各ステップ間に他の処理が挿入されていてもよいし、処理が並列化されていてもよい。
【符号の説明】
【0130】
1,1A…モータユニット、2,2A…モータ駆動制御装置、3…モータ、4…位置検出器、5,5A…制御回路、6…駆動回路、10…駆動指令解析部、11…回転速度算出部、12…速度偏差算出部、13,13A…ゲイン決定部、14…操作量算出部、15…駆動制御信号生成部、16…過渡応答判定部、Sc…駆動指令信号(速度指令信号)、Stg…目標回転速度、Sr…回転速度、Sdf…偏差、Str…過渡応答報知信号、Sg…ゲイン、So…操作量、Sd…駆動制御信号、Sh…位置検出信号、Sth…(目標回転速度の)閾値、20~22…ゲインテーブル、Rd1~Rd3,Ra1~Ra3…偏差Sdfの区分、G0~G3,Gd0~Gd3,Ga0~Ga3…ゲインの指定値、α,αa,αd,β,βa,βd,γ,γa,γd…偏差の値。