IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 五洋建設株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-床版の接合構造 図1
  • 特開-床版の接合構造 図2
  • 特開-床版の接合構造 図3
  • 特開-床版の接合構造 図4
  • 特開-床版の接合構造 図5
  • 特開-床版の接合構造 図6
  • 特開-床版の接合構造 図7
  • 特開-床版の接合構造 図8
  • 特開-床版の接合構造 図9
  • 特開-床版の接合構造 図10
  • 特開-床版の接合構造 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023116120
(43)【公開日】2023-08-22
(54)【発明の名称】床版の接合構造
(51)【国際特許分類】
   E01D 19/12 20060101AFI20230815BHJP
   E01D 22/00 20060101ALI20230815BHJP
   E04B 5/02 20060101ALI20230815BHJP
   E04B 1/04 20060101ALI20230815BHJP
   E04B 1/61 20060101ALI20230815BHJP
【FI】
E01D19/12
E01D22/00 A
E04B5/02 R
E04B1/04 G
E04B1/61 502H
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022018720
(22)【出願日】2022-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100172096
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 理太
(74)【代理人】
【識別番号】100088719
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 博史
(72)【発明者】
【氏名】池野 勝哉
【テーマコード(参考)】
2D059
2E125
【Fターム(参考)】
2D059AA14
2D059GG55
2E125AA57
2E125AE02
2E125AE07
2E125AG07
2E125AG21
2E125AG22
2E125BA32
2E125BA33
2E125BB08
2E125BB28
2E125BB29
2E125BD01
2E125BE08
2E125CA82
(57)【要約】
【課題】接合端面間幅を短縮し、工費削減が可能な床版の接合構造の提供。
【解決手段】この床版1の接合構造は、鉄筋5の端部に鉄筋径より大径の拡径支圧部材9が固定され、対向する床版部材2,3の接合端部に拡径支圧部材9が収まる相手側に開口した格納部12,12…が凹設されている
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の床版部材を橋軸方向に接合してなる床版にあって、
互いに対向する床版部材の接合端面よりそれぞれ橋軸直角方向に間隔をおいて突出した複数の鉄筋を備え、対向する一方の床版部材の接合端面より突出した鉄筋間に他方の床版部材の接合端面より突出した鉄筋が配置され、前記対向する床版部材間に間詰材が充填される床版の接合構造において、
前記対向する床版部材の接合端部には、前記鉄筋の先端部が収まる相手側に開口した格納部が凹設されていることを特徴とする床版の接合構造。
【請求項2】
前記格納部は、前記床版部材の上面及び/又は下面に開口した凹溝状に形成されている請求項1に記載の床版の接合構造。
【請求項3】
前記格納部は、平面視円弧状又は半楕円状の凹溝である請求項2に記載の床版の接合構造。
【請求項4】
前記鉄筋の端部に鉄筋径より大径の拡径支圧部材が固定され、該拡径支圧部材が前記格納部に収まっている請求項1~3の何れか一に記載の床版の接合構造。
【請求項5】
前記拡径支圧部材は、少なくとも前記鉄筋の端部に設けたネジ部に螺合された複数のナット型部材によって構成されている請求項4に記載の床版の接合構造。
【請求項6】
前記格納部は、その端面側開口縁部が前記拡径支圧部材の支圧応力範囲に干渉しない位置に配置されている請求項4又は5に記載の床版の接合構造。
【請求項7】
前記鉄筋は、床版厚み方向に間隔をおいて複数段配置され、前記接合端面の床版厚み方向に隣り合う鉄筋間にせん断抵抗キー用凹部又は凸部が形成されている請求項1~6の何れか一に記載の床版の接合構造。
【請求項8】
前記せん断抵抗キー用凹部は、側面視円弧状又は半楕円状である請求項7に記載の床版の接合構造。
【請求項9】
前記間詰材は、少なくとも高強度繊維補強コンクリート又は高強度繊維補強モルタル以上の強度を有するものである請求項1~8の何れか一に記載の床版の接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の床版部材を橋軸方向に接合してなる高架道路や橋梁等の床版の接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
既設の高架道路や橋梁を構成するRC床版では、塩害や経年疲労等による劣化が問題として顕在化しており、近年では、劣化したRC床版の取り換え工事が広く計画・実施されている。
【0003】
この種の床版取り換え工事は、工事に伴う交通への影響を最小限に抑えるとともに、現地作業の工程を短縮し、速やかに供用を開始することが求められている。
【0004】
そこで、近年では、既存のRC床版に替えて複数のプレキャストコンクリート製の床版部材を橋軸方向に順次接合していき床版を構築する工法が広く採用されている。
【0005】
このPCa床版には、橋軸方向、橋軸直角方向の何れか又は双方にプレストレスを付与した床版部材が一般に用いられ、工場で製作したプレキャストコンクリート製の床版部材(以下、PCa床版部材という)をトレーラ等で現場に搬入し、橋軸方向に順次PCa床版部材を接合していくことによって床版を構築するようになっている。
【0006】
各PCa床版部材間の接合は、従来、ループ継手が広く用いられており、互いに間隔をおいて対向する床版部材の接合端面より突出したループ筋を互いに重複させて配置し、ループ筋の曲線部内に橋軸直角方向に向けた鉄筋(以下、横方向鉄筋という)を挿通させ、PCa床版部材間にコンクリートやモルタル等の間詰材を充填し、間詰材に重複させたループ筋及び横方向鉄筋が埋設されるようになっている。
【0007】
このループ継手は、ループ筋の曲線部に働く支圧力を有効に利用することによって、重ね継手より継手長を短くすることができるようになっている。
【0008】
しかしながら、ループ継手は、互いに対向した接合端面より突出したループ筋を重複させた後、ループ筋の曲縁部内に横方向鉄筋を後から挿入することが煩雑であり、鉄筋の曲げ加工の制限(最小曲げ半径が規定されている)ことから薄い床版には不向きであるという課題があった。
【0009】
また、ループ継手では、接合端面間に配置されるループ筋及び横方向鉄筋の配置が密となるため、接合端面間に充填された間詰材の締固めが困難であるという課題もあった。
【0010】
そこで、近年では、ループ継手に替わるものとして、所定の間隔をおいて互いに突き合わせて配置されたPCa床版部材の互いに対向する端面から突出した鉄筋の端部を互いに重複させ、その部分にコンクリートを打設してPCa床版部材間を連結する工法が使用されている。
【0011】
この種の工法では、PCa床版部材の端面から突出した鉄筋の端部に鉄筋径より大径の頭部を設け、鉄筋とコンクリートとの付着力及び頭部に作用する支圧抵抗力の複合作用により重複させる部分の長さ(継手長)を従来よりも短くした継手構造(あき重ね継手)が開発されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0012】
さらに、このあき重ね継手も用いた床版の接合構造では、接合端面間に充填する間詰材に超高強度繊維補強コンクリート(モルタル)を用いることにより、鉄筋とコンクリートとの付着力及び頭部に作用する支圧抵抗力を更に高め、接合端面間において橋軸直角方向に向けて配置される鉄筋を省略し、接合端面間幅の短縮を図ったものや、PCa床版部材の接合面の厚み方向略中央部に橋軸直角方向に連続又は断続する突条状の凸型せん断キーを設け、せん断抵抗の向上を図ったもの等も開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2001-11940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、上述の如き従来の技術では、接合端面間に充填する間詰材に超高強度繊維補強コンクリート(モルタル)を用いることで鉄筋とコンクリートとの付着力及び頭部に作用する支圧抵抗力を更に高め、接合端面間において橋軸直角方向に向けて配置される鉄筋を省略し、接合端面間幅を短縮できるという多大な利点がある一方、超高強度繊維補強コンクリート(モルタル)が高価なことから、工費が嵩むという問題を孕んでおり、更なる工費削減が望まれている。
【0015】
そこで、本発明は、このような従来の問題に鑑み、接合端面間幅を短縮し、工費削減が可能な床版の接合構造の提供を目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述の如き従来の問題を解決するための請求項1に記載の発明の特徴は、複数の床版部材を橋軸方向に接合してなる床版にあって、互いに対向する床版部材の接合端面よりそれぞれ橋軸直角方向に間隔をおいて突出した複数の鉄筋を備え、対向する一方の床版部材の接合端面より突出した鉄筋間に他方の床版部材の接合端面より突出した鉄筋が配置され、前記対向する床版部材間に間詰材が充填される床版の接合構造において、前記対向する床版部材の接合端部には、前記鉄筋の先端部が収まる相手側に開口した格納部が凹設されていることにある。
【0017】
請求項2に記載の発明の特徴は、請求項1の構成に加え、前記格納部は、前記床版部材の上面及び/又は下面に開口した凹溝状に形成されていることにある。
【0018】
請求項3に記載の発明の特徴は、請求項2の構成に加え、前記格納部は、平面視円弧状又は半楕円状の凹溝であることにある。
【0019】
請求項4に記載の発明の特徴は、請求項1~3の何れか一の構成に加え、前記鉄筋の端部に鉄筋径より大径の拡径支圧部材が固定され、該拡径支圧部材が前記格納部に収まっている
【0020】
請求項5に記載の発明の特徴は、請求項4の構成に加え、前記拡径支圧部材は、少なくとも前記鉄筋の端部に設けたネジ部に螺合された複数のナット型部材によって構成されていることにある。
【0021】
請求項6に記載の発明の特徴は、請求項4又は5の構成に加え、前記格納部は、その端面側開口縁部が前記拡径支圧部材の支圧応力範囲に干渉しない位置に配置されていることにある。
【0022】
請求項7に記載の発明の特徴は、請求項1~6の何れか一の構成に加え、前記鉄筋は、床版厚み方向に間隔をおいて複数段配置され、前記接合端面の床版厚み方向に隣り合う鉄筋間にせん断抵抗キー用凹部又はせん断抵抗キー用凸部が形成されていることにある。
【0023】
請求項8に記載の発明の特徴は、請求項7の構成に加え、前記せん断抵抗キー用凹部は、側面視円弧状又は半楕円状であることにある。
【0024】
請求項9に記載の発明の特徴は、請求項1~8の何れか一の構成に加え、前記間詰材は、少なくとも高強度繊維補強コンクリート又は高強度繊維補強モルタル以上の強度を有するものであることにある。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る鉄筋コンクリート構造物は、請求項1の構成を具備することによって、鉄筋の先端部を格納部に退避させ、その分だけ床版部材の接合端面間において隣り合う他方の鉄筋との重複長を短くすることにより、接合する床版部材の接合端面間幅を従来よりも短縮し、接合端面間に充填される間詰材の量を低減し、その分の費用を削減することができる。
【0026】
また、本発明において、請求項2の構成を具備することによって、床版部材を設置する際に鉄筋が接合する他方の接合部材との干渉を回避することができる。
【0027】
さらに、本発明において、請求項3の構成を具備することによって、接合面と間詰材との接着面積が増えて間詰材と床版部材との付着力が向上するとともに、応力集中を回避することができる。
【0028】
また、本発明において、請求項4の構成を具備することによって、鉄筋自体(直線部)の間詰材との付着強度に加え、隣り合う鉄筋に取り付けられた拡径支圧部材に所定の方向(鉄筋に対し所定の角度を成す方向)に圧縮応力伝達領域(圧縮ストラット)が形成され、拡径支圧部材が互いに支持し合うので、接合する床版部材の接合端面間幅を従来よりも短縮し、接合端面間に充填される間詰材の量を低減し、その分の費用を削減することができる。
【0029】
また、本発明において、請求項5の構成を具備することによって、作業現場において拡径支圧部材の位置を適正な位置に調整することができる。
【0030】
また、本発明において、請求項6の構成を具備することによって、拡径支圧部材が好適に支圧抵抗力を発揮することができる。
【0031】
また、本発明において、請求項7の構成を具備することによって、せん断抵抗の向上を図ることができる。
【0032】
また、本発明において、請求項8の構成を具備することによって、接合面と間詰材との接着面積が増えて間詰材と床版部材とのせん断耐力が向上するとともに、応力集中を回避することができる。
【0033】
また、本発明において、請求項9の構成を具備することによって、鉄筋と間詰材との付着力及び拡径支圧部材に作用する支圧抵抗力を更に高め、更に接合端面間幅を短縮できる。また、高強度繊維補強コンクリート又は高強度繊維補強モルタルでも所定の強度が得られるので、その分材料費を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明に係る床版の接合構造の一例を示す平面図である。
図2】同上の縦断面図である。
図3】同上の間詰材を充填する前の状態を示す平面図である。
図4】(a)は図3中のA-A線矢視断面図、(b)は同B-B線矢視断面図である。
図5】本発明に係る床版の接合構造の鉄筋の先端に拡径支圧部材を備えた例を示す平面図である。
図6】同上の鉄筋の先端に拡径支圧部材を備えた場合の支圧抵抗力の作用を説明するための概略鉄筋配置図である。
図7】同上の拡径支圧部材の他の一例を示す部分拡大平面図である。
図8】同上の床版部材を設置する際の状態を示す縦断面図である。
図9】(a)は同上のせん断キー用凸部を備えた床版の接合構造の実施例の態様を示す縦断面図、(b)は同せん断キー用凹部とせん断キー用凸部とを併用した床版の接合構造の実施例の態様を示す縦断面図である。
図10】本発明に係る床版の接合構造の効果確認のための曲げ載荷試験の結果を示すグラフであって、(a)は継手長8Dの場合の鉛直荷重と鉛直変位の関係を示すグラフ、(b)は同繰り返し荷重による鉛直荷重と鉛直変位の関係を示すグラフ、(c)は同繰り返し荷重の回数と最大ひび割れ幅の関係を示すグラフである。
図11】同上の曲げ載荷試験の結果を示すグラフであって、(a)は継手長6Dの場合の鉛直荷重と鉛直変位の関係を示すグラフ、(b)は同繰り返し荷重による鉛直荷重と鉛直変位の関係を示すグラフ、(c)は同繰り返し荷重の回数と最大ひび割れ幅の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
次に、本発明に係る床版の接合構造の実施態様を図1図11に示した実施例に基づいて説明する。尚、図中符号1は床版1、符号2、3は床版1を構成する床版部材である。
【0036】
この床版1は、工場等で予め製作されたプレキャストコンクリート製の複数の床版部材2,3によって構成され、各床版部材2,3を鋼桁4上に橋軸方向に並べて配置し、橋軸方向で隣り合う各床版部材2,3を互いに接合することにより構築されている。
【0037】
尚、本実施例において、橋軸方向とは高架道路や橋梁等を構成する床版の延長方向をいい、橋軸直角方向とは、橋軸方向と直交する方向であって高架道路や橋梁等を構成する床版の幅方向と平行な方向をいう。また、床版厚み方向とは、橋軸方向と直交する方向であって床版平面と直交する方向をいう。
【0038】
この床版1の接合構造は、図1図2に示すように、互いに対向する床版部材2,3の接合端面よりそれぞれ橋軸直角方向に間隔をおいて橋軸方向に突出した複数の鉄筋5,5…を備え、対向する一方の床版部材2の接合端面より突出した鉄筋5,5…間に他方の床版部材3の接合端面より突出した鉄筋5,5…が配置され、対向する床版部材2,3間に間詰材6が充填されるようになっている。
【0039】
床版部材2,3は、コンクリート製の床版本体7と、床版本体7内部に橋軸方向に向けて埋設された鉄筋5,5…と、床版本体7の橋軸方向、橋軸直角方向の何れか又は双方に向けて配置されPC鋼材(図示せず)とを備え、PC鋼材によって橋軸方向、橋軸直角方向の何れか又は双方にプレストレスが付与されている。尚、図中符号8は床版本体7内に埋設された橋軸直角方向に配筋された鉄筋である。
【0040】
鉄筋5,5…は、ネジ節鉄筋や異形鉄筋等を使用し、先端部が床版本体7の接合端面より突出した状態で床版本体7に埋設されている。
【0041】
鉄筋5,5…は、上下複数段(本実施例では上下二段)に配置されるとともに、互いに接合される床版部材2,3によって互いに鉄筋5,5…の橋軸直角方向にピッチ分だけずらして配置されており、上下二段において対向する一方の床版部材2の接合端面より橋軸方向に突出した鉄筋5,5…間に他方の床版部材3の接合端面より橋軸方向に突出した鉄筋5,5…が配置されるようになっている。
【0042】
即ち、互いに接合される床版部材2,3の接合端面より突出した鉄筋5,5…の端部は、互いに鉄筋5,5…間に所定の間隔(あき)を設けるとともに、長手方向の所定長さ分(継手長)だけ重複させて配置され、各鉄筋5,5…に作用する軸方向力が間詰材6を介して伝わる構造となっている。
【0043】
この鉄筋5,5…の突出長さは、両床版部材2,3間の接合端面間距離dよりも長く、先端部が後述する格納部12,12…内に収まるようになっている。
【0044】
尚、鉄筋5は、図5に示すように、先端部に鉄筋径より大径の拡径支圧部材9が固定されたものであってもよい。
【0045】
拡径支圧部材9は、一般に使用されるプレートナットや円形定着坂(EG定着板)等を使用し、鉄筋5,5…径よりも大径の円盤状に形成され、鉄筋5,5…の先端部に螺合又は溶接によって固定されている。
【0046】
尚、拡径支圧部材9は、図6に示すように、少なくとも鉄筋5の端部に設けたネジ部5aに螺合された複数(本実施例では一対)のナット型部材10,11によって構成してもよく、その場合、複数のナット型部材10,11の少なくとも一(本実施例ではナット型部材10)が隣り合う他のナット型部材(本実施例ではナット型部材11)に締め付けられることによって鉄筋5の所定の位置に固定することができるようになっている。
【0047】
拡径支圧部材9の位置は、図6に示すように、隣り合う鉄筋5,5…の対応する拡径支圧部同士が、支圧抵抗力Xが作用する方向(鉄筋5と所定の角度を成す方向)に配置され、隣り合う鉄筋5,5…の拡径支圧部材9が互いに支え合えるようになっている。
【0048】
床版本体7は、所定の厚みを有する平版状に形成され、橋軸方向両端の接合端部にそれぞれ接合される相手床版部材2,3側に開口した複数の格納部12,12…が橋軸直角方向に間隔をおいて凹設されている。
【0049】
即ち、床版本体7の接合端部は、隣り合う格納部12,12…間に接合端面を頂部とする凸部13,13…が形成され、格納部12,12…と凸部13,13…とが平面視凹凸状を成し、鉄筋5,5…の端部が接合端面である凸部13,13…の頂部より略水平に橋軸方向に突出している。
【0050】
格納部12,12…は、床版部材2,3の上面及び下面に開口した平面視、即ち、床版平面と平行な断面が円弧状又は半楕円状を成す凹溝状に形成されており、図3図4に示すように、接合作業において接合する床版部材2,3の接合端面を成す凸部13から突出した鉄筋5が互いに相手側床版部材3,2の接合端面と干渉することなく、格納部12,12…に収納できるようになっている。
【0051】
尚、格納部12,12…の態様は、本実施例に限定されるものではなく、例えば、格納部12,12…の断面は、床版部材2,3の上面側が開口し、下端側が閉鎖された有底溝状であってもよい。
【0052】
尚、格納部12,12…の位置は、互いに接合される床版部材2,3によって互いに鉄筋5,5…のピッチ分だけ橋軸直角方向にずらして配置されており、凸部13,13…端面より突出した鉄筋5,5…の端部を継手長だけ重複させるとともに鉄筋5,5…の先端部が格納部12,12…内に収まるようになっている。
【0053】
また、各格納部12,12…は、鉄筋5の先端部に拡径支圧部材9を備える場合、接合端面から橋軸方向円頂までの距離、具体的には、円弧状場合のその半径又は半楕円状断面の場合の短軸半径或いは長軸半径分の奥行きが拡径支圧部材9の軸方向長さよりあるようになっており、その端面側開口縁部(凸部13の頂面)が拡径支圧部材9の支圧応力範囲に干渉しない位置に配置されている。
【0054】
さらに、床版本体7には、図2図4に示すように、接合端面の床版厚み方向に隣り合う鉄筋5,5…間、即ち、凸部13の床版厚み方向中央部に凹状のせん断抵抗キー用凹部14が形成されている。
【0055】
このせん断抵抗キー用凹部14は、側面視、即ち床版側面と平行な断面が円弧状又は半楕円状に形成され、このせん断抵抗キー用凹部14内に間詰材6が充填されることにより、せん断抵抗が増すようになっている。
【0056】
尚、せん断抵抗キー用凹部14の態様は、上述の円弧状又は半楕円状のものに限定されず、例えば、橋軸直角方向断面が台形状又は矩形状の凹部に形成されてもよく、せん断抵抗キー用凹部14に替えて、図8(a)に示すように、凸部13,13…端面の床版厚み方向略中央より突出したせん断抵抗キー用凸部15を設けてもよく、図8(b)に示すように、対向する接合端部の一方にせん断キー用凹部14を設け、他方にせん断キー用凸部15を設けてもよい。
【0057】
間詰材6は、例えば、特殊な鋼繊維を含有する強度が100~120kN程度の高強度繊維補強コンクリート又は高強度繊維補強モルタルによって構成され、高い引張強度及び高い靭性を有しており、接合する床版部材2,3間に橋軸直角方向に向けた補強鉄筋を省略できるようになっている。尚、間詰材6には、高強度繊維補強コンクリート又は高強度繊維補強モルタルや、より強度の高いコンクリート又はモルタルを用いてもよい。
【0058】
また、高強度繊維補強コンクリート又は高強度繊維補強モルタルは、格納部12,12…、せん断抵抗キー用凹部14及び鉄筋5,5…間の隙間に好適に充填されるようになっている。
【0059】
このように構成された床版1の接合構造は、間詰材6との付着強度に寄与し難い鉄筋5,5…の先端部を格納部12,12…に収めることによって、その分の距離だけ接合する床版部材2,3の接合端面間距離を狭めることができ、継手長を一般の重ね継手に比べて短く(1/2~1/3程度)することができる。
【0060】
さらに、この床版1の接合構造では、接合端部に平面視半円形又は半楕円形状の格納部12,12…を設けたことにより、接合面と間詰材との接着面積が増えて間詰材と床版部材との付着力が向上するとともに、応力集中を回避することができ、繰り返し荷重が作用した際のひび割れの発生を分散させることができる。
【0061】
さらにまた、この床版1の接合構造では、間詰材6に少なくとも高強度繊維補強コンクリート又は高強度繊維補強モルタル以上の強度を有するコンクリート又はモルタルを用いることによって、高い引張強度及び高い靭性が得られ、接合する床版部材2,3間に橋軸直角方向に向けた補強鉄筋を省略できる。
【0062】
また、この床版の接合構造では、鉄筋5,5…の端部に拡径支圧部材9を設けることにより、鉄筋5,5…自体(直線部)の間詰材6との付着強度に加え、図6に示すように、隣り合う鉄筋5,5…に取り付けられた拡径支圧部材9に所定の方向(鉄筋5,5…に対し所定の角度を成す方向)の圧縮応力伝達領域(圧縮ストラット)に支圧抵抗力Xが作用し、拡径支圧部材9,9が互いに支持し合うので、継手長を一般の重ね継手に比べて1/3程度とすることができる。
【0063】
その際、この床版1の接合構造では、接合する相手側床版部材2,3の接合端部に形成された格納部12,12…に拡径支圧部材9が収められるようにし、その分の距離だけ接合する床版部材2,3の接合端面間距離を狭めることができる。
【0064】
次に、本発明に係る床版の接合構造の効果を確認するために実施した実験の結果を示す。尚、上述の実施例と同様の構成には同一符号を付して説明を省略する。
【0065】
実験は、下記表に示す各ケースの試験体に対し床版の使用時荷重で10回の繰り返し載荷を行った後、単調増加による曲げ載荷試験を実施し、各ケースの試験体についてひび割れ後の曲げ剛性、曲げ耐力、ひび割れ幅について比較した。
【表1】
【0066】
その結果、継手長8Dの場合、格納部12を設けた試験体(Case3-1、Case3-3)については、拡径支圧部材9の有無に関わらず、曲げ剛性(傾き)、曲げ耐力(ピーク)、ひび割れ幅(急激に増加しない)のいずれの観点においても十分な性能を発揮することが確認された。
【0067】
また、格納部12を設けた場合(Case3-3)、図10に示すように、格納部12を設けない場合(Case3-5)と比べ、ひび割れ後の曲げ剛性が優位であることが確認できた。
【0068】
さらに、継手長6Dの場合、図11に示すように、鉄筋5に拡径支圧部材9が無いケース(Case2-1)では、曲げ耐力に懸念があるものの、鉄筋5の端部にプレートナットからなる拡径支圧部材9を設けたケース(Case2-3)では、床版部材2,3の接合端面間距離(100mm)の場合でも、曲げ剛性、曲げ耐力、ひび割れ幅のいずれの観点においても十分な性能を発揮することが確認された。
【0069】
尚、上述の実施例では、間詰材として高強度繊維補強コンクリート又は高強度繊維補強モルタル以上の強度を有するものを用いる場合について説明したが、間詰材に一般的なコンクリート又はモルタルを用いてもよい。
【符号の説明】
【0070】
1 床版
2,3 床版部材
4 鋼桁
5 鉄筋
6 間詰材
7 床版本体
8 横筋
9 拡径支圧部材
10,11 ナット型部材
12 格納部
13 凸部
14 せん断抵抗キー用凹部
15 せん断抵抗キー用凸部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11