(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023116158
(43)【公開日】2023-08-22
(54)【発明の名称】空洞探査システム、空洞探査方法および空洞探査プログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 29/04 20060101AFI20230815BHJP
【FI】
G01N29/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022018796
(22)【出願日】2022-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】304023994
【氏名又は名称】国立大学法人山梨大学
(71)【出願人】
【識別番号】514158431
【氏名又は名称】ファーストコーポレーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000660
【氏名又は名称】Knowledge Partners弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 裕
(72)【発明者】
【氏名】藤倉 正巳
【テーマコード(参考)】
2G047
【Fターム(参考)】
2G047AA05
2G047AA10
2G047BC03
2G047CA01
2G047CA03
2G047CA07
2G047GD02
2G047GG27
2G047GG37
(57)【要約】
【課題】打撃によって生じる多様な打撃音に基づいて空洞の有無に関する情報を特定できる技術の提供。
【解決手段】生コンクリートが中に存在する型枠をハンマーで打撃したことによって生じた打撃音に関する情報を取得する打撃音情報取得部と、前記打撃音に関する情報を入力して前記生コンクリートの内部における空洞の有無に関する情報を出力するように機械学習された機械学習モデルに対して、前記打撃音に関する情報を入力し、出力された前記空洞の有無に関する情報を利用者に提示する空洞情報提示部と、を備える空洞探査システムを構成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生コンクリートが中に存在する型枠をハンマーで打撃したことによって生じた打撃音に関する情報を取得する打撃音情報取得部と、
前記打撃音に関する情報を入力して前記生コンクリートの内部における空洞の有無に関する情報を出力するように機械学習された機械学習モデルに対して、前記打撃音に関する情報を入力し、出力された前記空洞の有無に関する情報を利用者に提示する空洞情報提示部と、
を備える空洞探査システム。
【請求項2】
前記ハンマーには、前記ハンマーに作用する加速度を検出する加速度センサと、前記ハンマーの打撃面に作用する圧力を検出する圧力センサと、が備えられており、
前記打撃音情報取得部は、マイクで集音した音を取得し、前記加速度センサの出力値と、前記圧力センサの出力値と、に基づいて、集音した音から前記打撃音を抽出する、
請求項1に記載の空洞探査システム。
【請求項3】
前記ハンマーには、前記ハンマーに作用する加速度を検出する加速度センサと、前記ハンマーの打撃面に作用する圧力を検出する圧力センサと、が備えられており、
前記打撃音情報取得部は、マイクで集音した音を取得し、前記加速度センサの出力値と、前記圧力センサの出力値と、に基づいて、集音した音が空洞探査可能な前記打撃音を含むか否かを判定する、
請求項1に記載の空洞探査システム。
【請求項4】
前記空洞の有無に関する情報は、
前記ハンマーで前記型枠を打撃した打撃位置と、前記打撃位置に対する相対的な前記空洞の位置である空洞位置と、を示す情報である、
請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の空洞探査システム。
【請求項5】
前記機械学習モデルは、
複数の前記打撃位置と、複数の前記空洞位置と、の組合せのそれぞれについて、各位置が前記打撃音を発生させた際の前記打撃位置と、前記空洞位置と、の組合せである可能性を示す値を出力する、
請求項4に記載の空洞探査システム。
【請求項6】
前記打撃音情報取得部は、
前記打撃音の時間および周波数ごとの強度を示すスペクトログラムを、前記打撃音に関する情報として取得する、
請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の空洞探査システム。
【請求項7】
前記打撃音情報取得部は、
マイクで集音した音に基づいて、一定の時間幅内の音に対するフーリエ変換を異なる複数の時間に対して実行する短時間フーリエ変換を実行して前記スペクトログラムを取得する、
請求項6に記載の空洞探査システム。
【請求項8】
生コンクリートが中に存在する型枠をハンマーで打撃したことによって生じた打撃音に関する情報を取得する打撃音情報取得工程と、
前記打撃音に関する情報を入力して前記生コンクリートの内部における空洞の有無に関する情報を出力するように機械学習された機械学習モデルに対して、前記打撃音に関する情報を入力し、出力された前記空洞の有無に関する情報を利用者に提示する空洞情報提示工程と、
を含む空洞探査方法。
【請求項9】
コンピュータを、
生コンクリートが中に存在する型枠をハンマーで打撃したことによって生じた打撃音に関する情報を取得する打撃音情報取得部、
前記打撃音に関する情報を入力して前記生コンクリートの内部における空洞の有無に関する情報を出力するように機械学習された機械学習モデルに対して、前記打撃音に関する情報を入力し、出力された前記空洞の有無に関する情報を利用者に提示する空洞情報提示部、
として機能させる空洞探査プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリート造建物の生コンクリート打設時において発生するコンクリート中の空洞に関し、その空洞探査システム、空洞探査方法および空洞探査プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、合板の型枠に充填したコンクリートが固まる前に充填状態の判定を行う技術が知られている。例えば、特許文献1には、ハンマーでコンクリートの型枠をたたいた場合に生じる音圧と加速度を測定し、音圧の加振加速度に対する比に基づいて、充填状態を判定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の技術においては、コンクリートの充填部分と未充填部分とで音圧の加振加速度に対する比の特性が異なることに基づいて、充填状態を判定している。しかし、コンクリートに空洞が発生することを想定した場合、ハンマーにより打撃された位置と空洞の位置との関係に応じて、種々の音が生じる。従って、音圧の加振加速度に対する比は、充填部分および未充填部分のように、単純に2種類に区別されるとは限らない。
本発明は、前記課題にかんがみてなされたもので、打撃によって生じる多様な打撃音に基づいて空洞の有無に関する情報を特定できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の目的を達成するため、空洞探査システムは、生コンクリートが中に存在する型枠をハンマーで打撃したことによって生じた打撃音に関する情報を取得する打撃音情報取得部と、前記打撃音に関する情報を入力して前記生コンクリートの内部における空洞の有無に関する情報を出力するように機械学習された機械学習モデルに対して、前記打撃音に関する情報を入力し、出力された前記空洞の有無に関する情報を利用者に提示する空洞情報提示部と、を備える。
【0006】
すなわち、空洞探査システムにおいては、打撃音に関する情報に基づいて、空洞の有無に関する情報を出力するように機械学習が行われる。このため、機械学習後の機械学習モデルを利用すれば、打撃によって生じる多様な打撃音に基づいて空洞の有無に関する情報を特定することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図3】
図3Aは型枠上の位置を示す図であり、
図3Bは打撃位置と空洞位置の組合せに対応したラベルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
ここでは、下記の順序に従って本発明の実施の形態について説明する。
(1)システムの構成:
(1-1)機械学習処理:
(1-2)空洞探査処理:
(2)他の実施形態:
【0009】
(1)システムの構成:
図1は、本発明の一実施形態である空洞探査システムとして機能するコンピュータ10の概略構成を示す図である。コンピュータ10は、制御部20、記憶媒体30、表示部40を備えている。制御部20は、図示しないCPU,RAM,ROMを備えており、記憶媒体30等に記憶された各種プログラムを実行することができる。記憶媒体30は、各種の情報を記憶可能な媒体であり、本実施形態においては、機械学習のための教師データ30aが記憶媒体30に記憶される。また、機械学習によって機械学習モデルが生成されると、当該モデルを示す情報が機械学習モデル30bとして記憶媒体30に記憶される。表示部40は、各種の情報を表示するディスプレイである。表示部40は、コンピュータ10と一体であっても良いし、別個の装置であっても良い。
【0010】
本実施形態においてコンピュータ10は、機械学習モデル30bを生成する機能と、機械学習モデル30bに基づいて空洞の有無に関する情報を取得する機能とを有しているが、これらの機能は別個の装置によって実現されても良い。例えば、機械学習モデル30bを生成する機能は、可搬型のコンピュータ、据置型のコンピュータやクラウド型のコンピュータによって実現される構成を想定可能である。また、例えば、機械学習モデル30bに基づいて空洞の有無に関する情報を取得する機能は、機械学習を行うコンピュータと別個の可搬型のコンピュータ、据置型のコンピュータやクラウド型のコンピュータによって実現される構成を想定可能である。機械学習は、GPU(Graphics Processing Unit)を備えるコンピュータなど、一般に高スペックのコンピュータによって実現される。一方、機械学習モデルを利用した演算は、機械学習を行うコンピュータより低スペックのコンピュータで実現可能である。従って、機械学習モデル30bに基づいて空洞の有無に関する情報を取得する機能は、スマートフォンやタブレット端末などの可搬型のコンピュータによって容易に実現可能である。
【0011】
コンピュータ10には、マイク50および加速度センサ60a,圧力センサ60bが接続される。本実施形態において接続の態様は、有線接続であっても良いし、無線接続であっても良い。マイク50は、図示しないA/D変換部を備えており、周囲の音を集音し、音圧の時間変化を示すデジタル信号を出力する。むろん、A/D変換部はコンピュータ10に備えられていても良いし、別個のA/D変換部を介してコンピュータ10に信号が入力される構成でもよい。なお、本実施形態において、マイク50から生コンクリートの型枠までの距離は約1mであり、サンプリング周波数は48kHz、量子化ビットは24bitである。むろん、この構成は一例であり、他の構成であっても良い。また、マイク50の位置は限定されないが、教師データ30aを生成する際のマイクの位置と、空洞の有無の判定を行う際のマイクの位置は、同一または類似の位置であることが好ましい。
【0012】
本実施形態において、加速度センサ60aおよび圧力センサ60bはハンマー60に備えられている。
図2Aは、本実施形態にかかるハンマー60を模式的に示す図である。ハンマー60は、グリップ部60cとヘッド部60dとを備え、グリップ部60cを握ってヘッド部60dを打撃対象に対して打ち付けるように構成されている。ヘッド部60dの先端側で打撃対象に対して直接的に触れる部分には打撃部60eが取り付けられている。本実施形態において、ヘッド部60dと打撃部60eとは、円柱状である。
【0013】
本実施形態において、ヘッド部60dの打撃部60e側の先端には加速度センサ60aが取り付けられている。打撃部60eとヘッド部60dとの間には、圧力センサ60bが取り付けられている。加速度センサ60aおよび圧力センサ60bは、コンピュータ10に接続される。
【0014】
なお、本実施形態においては、グリップ部60cの長手方向とヘッド部60dの長手方向とが垂直であり、
図2Aにおいては、グリップ部60cの長手方向をY軸、ヘッド部60dの長手方向をX軸としている。また、
図2Aにおいては、ヘッド部60dからみた打撃部60eの方向をX軸の正方向とし、ヘッド部60dから見てグリップ部60cが延びる方向をY軸の正方向としている。また、本明細書では、Y軸およびX軸と垂直であり、
図2Aの手前側に向けた方向がZ軸の正方向であるとする。
【0015】
本実施形態において加速度センサ60aは、ハンマー60に作用する加速度を検出するセンサである。本実施形態において加速度センサ60aは3軸加速度センサであり、加速度センサ60aに作用する3軸の加速度に対応した3個の電圧値を出力する。すなわち、加速度センサ60aは、図示しないA/D変換部を備えており、加速度に対応した電圧値をデジタル信号に変換し、電圧値の時間変化を示すデジタル信号を出力する。むろん、A/D変換部はコンピュータ10に備えられていても良いし、別個のA/D変換部を介してコンピュータ10に信号が入力される構成でもよい。本実施形態において、加速度センサ60aの加速度検出軸は
図2Aに示すハンマー60の姿勢において、
図2A等に示すX軸、Y軸、Z軸とするが、むろん、軸の方向は任意である。
【0016】
本実施形態において圧力センサ60bは、打撃部60eとヘッド部60dとの間に作用する圧力を検出するセンサである。本実施形態においては、当該圧力と、ハンマー60の打撃面(打撃部60eのX軸正方向側の端面60e1)に作用する圧力とがほぼ同一であると見なされている。本実施形態において、圧力センサ60bは、ハンマー60に2個取り付けられる。
図2Bは、打撃部60eおよび圧力センサ60bがヘッド部60dから取り外された状態を示す模式図である。
図2Bに示されるように、圧力センサ60bは、Z軸方向に並べられる。本実施形態の圧力センサ60bは、薄膜型圧力センサを使用しており、円形の板状の外形を有している。すなわち、圧力センサ60bは、導電部材(ゴムやフィルタなど)と電極で構成され、圧力によって導電部材と電極の接触面積が増減することにより、電気抵抗が変化し、力の大小が測定される。
【0017】
圧力センサ60bは、図示しないA/D変換部を備えており、圧力に対応した抵抗値をデジタル信号に変換し、抵抗値の時間変化を示すデジタル信号を出力する。むろん、A/D変換部はコンピュータ10に備えられていても良いし、別個のA/D変換部を介してコンピュータ10に信号が入力される構成でもよい。
【0018】
本実施形態においては、ヘッド部60dと打撃部60eとの間に分散ゴム60fが2個取り付けられる。すなわち、分散ゴム60fは、圧力センサ60bに接触しないようにY軸方向に並べられて配置される。分散ゴム60fは、圧力センサ60bとほぼ同一の形状であり、打撃部60eによる打撃の際に作用する圧力が、圧力センサ60bのセンシング部全体に分散するように厚さおよび形状が設定されている。
【0019】
加速度センサ60aは加速度を検出できれば良く、その態様は限定されない。従って、公知の種々の加速度センサを採用可能である。また、圧力センサ60bは圧力を検出できれば良く、その態様は限定されない。従って、公知の種々の圧力センサを採用可能である。
【0020】
本実施形態において、
図1に示した制御部20は、空洞探査プログラムを実行することができる。空洞探査プログラムは、生コンクリートが中に存在する型枠をハンマー60で打撃したことによって生じた打撃音に基づいて、生コンクリート内の空洞の有無および空洞の位置を判定する機能を制御部20に実行させる。また、本実施形態において空洞探査プログラムは、打撃音に基づいて機械学習を行う機能も制御部20に実行させる。
【0021】
(1-1)機械学習処理:
空洞探査プログラムが実行されると、制御部20は、打撃音情報取得部20a,空洞情報提示部20b,機械学習部20cとして機能する。ここでは、まず、機械学習について説明する。機械学習は、打撃音情報取得部20aおよび機械学習部20cの機能によって実現される。機械学習を行うためには、予め教師データ30aが用意され、記憶媒体30に記憶される。
【0022】
教師データ30aは、打撃音に関する情報と、空洞の有無および位置を示すラベルと、の組合せを示すデータである。組合せは複数個であり、組合せの数は機械学習が収束するために充分な数である。ラベルのフォーマットは、種々の態様であって良く、機械学習モデル30bからの出力として望まれる情報の態様に応じて変更可能である。本実施形態においては、複数の打撃位置と、複数の空洞位置と、の組合せを示す情報がラベルとなっている。
【0023】
図3Aは、打撃位置および空洞位置の例を示す図である。本実施形態においては、矩形によって型枠Fを模式的に示している。本実施形態においては、型枠Fに対して打撃し得る位置と空洞が存在し得る位置とが予め複数の位置に分類されており、
図3Aに示す位置P
1~P
15は当該分類された位置である。
【0024】
本実施形態における打撃位置は、複数の位置P1~P15のいずれかである。すなわち、打撃される際には、型枠の表面の位置P1~P15のいずれかが選択され、打撃される。また、本実施形態における空洞位置は、位置P6~P10のいずれかである。空洞位置が位置P6~P10のいずれかである場合、空洞は、これらの位置の内側に存在すると定義される。なお、本実施形態において、空洞の奥行き方向の位置は、打撃音に大きな影響がないと見なされている。例えば、空洞位置が位置P6である場合、型枠Fの位置P6のすぐ裏側に空洞がある場合と、位置P6の奥側に空洞がある場合と、で打撃音に有意な差異はないと見なされている。従って、本実施形態においては、空洞の奥行き方向の位置は特定されないが、少なくとも、型枠Fの打撃面方向の位置が位置P6~P10の中から特定されることになる。
【0025】
本実施形態においては、打撃位置が位置P
1~P
15のそれぞれであり、空洞位置が位置P
6~P
10のそれぞれである組合せの全てについて、ラベルが割り当てられる。
図3Bは、当該ラベルの定義を示す図である。
図3Bに示すように、ラベルを定義する際には、全ての位置P
1~P
15が打撃位置である場合が想定される。さらに、各打撃位置が打撃された際の生コンクリート内の空洞位置が全ての位置P
1~P
15のそれぞれである場合についてラベルが定義される。
【0026】
例えば、
図3Bに示すように、打撃位置が位置P
1である場合において、空洞が存在する場合の打撃音のラベルは、空洞位置が位置P
6である場合のラベル1から空洞位置が位置P
10である場合のラベル5まで定義される。さらに、打撃位置が位置P
1である場合において、空洞が存在しない場合の打撃音のラベルがラベル6として定義される。同様の定義が、位置P
2~P
15についても定義されることで、ラベルは1~90の合計90個定義される。教師データ30aは、各ラベルが示す打撃位置および空洞位置の組合せにおいて実測された複数の打撃音に基づいて、打撃音に関する情報が生成され、当該情報と、各ラベルとが対応付けられることによって定義される。
【0027】
本実施形態においては、生コンクリートが充填された型枠Fをハンマー60で打撃し、打撃によって生じた打撃音に関する情報を、打撃音情報取得部20aによって取得することによって教師データ30aを生成する。
図4は、機械学習処理のフローチャートである。
【0028】
機械学習処理が開始されると、打撃音情報取得部20aは、マイク50で収集された時系列の音、加速度、圧力を取得する(ステップS100)。すなわち、利用者は、充填された型枠内の位置P6~P10のいずれかに空洞を設け、ハンマー60を利用して型枠表面の位置P1~P15のいずれかを打撃する。ハンマー60の向きや打撃法は限定されないが、本実施形態においては、以下の態様で打撃を行うことが決められている。すなわち、利用者は、グリップ部60cの長手方向を鉛直方向に垂直に向け、かつ、ヘッド部60dの長手方向を水平方向に平行に向け、打撃部60eの端面60e1を型枠Fの表面に平行に向けるようにして構える。この後、利用者は振りかぶり、手首のスナップをきかせて打撃部60eの端面60e1が型枠の表面に平行になるように打撃する。なお、教師データ30aを生成する際のハンマー60による打撃法と、空洞の有無の判定を行う際のハンマー60による打撃法は、同一または類似であることが好ましい。
【0029】
打撃が行われる前後において制御部20は、打撃音情報取得部20aの機能により、図示しないインタフェースを介して時系列でマイク50の出力値を取得し、RAM等に記憶させる。また、制御部20は、打撃音情報取得部20aの機能により、図示しないインタフェースを介して時系列で加速度センサ60aおよび圧力センサ60bの出力値を取得し、RAM等に記憶させる。
【0030】
なお、教師データ30aを生成する際には、型枠内に生コンクリートを模した材料、例えば、砂などが充填されてもよいし、生コンクリートが充填されても良い。また、任意の位置に空洞を生成することが困難である場合には、空洞を模した物体、例えば、薄い樹脂で生成された中空の立方体等が利用されても良い。さらに、空洞の大きさは、生コンクリートに発生すると不都合がある大きさとして典型的な大きさであれば良い。
【0031】
次に、打撃音情報取得部20aは、時系列の音が、空洞探査可能な打撃音を含むか否か判定する(ステップS105)。本実施形態においては、打撃を行う際のハンマー60の姿勢や動きを特定の範囲に限定し、当該特定の範囲内の姿勢や動きで生成された音を、空洞探査可能な打撃音と見なす。
【0032】
このため、打撃音情報取得部20aは、加速度センサ60aおよび圧力センサ60bの時系列の出力値が特定の範囲内に含まれるか否か判定する。
図5A~
図5Cは、時系列の音、圧力、加速度を示している。横軸は、時間である。なお、加速度、圧力はセンサから出力された電圧値を示しており、音は、音圧の基準値が1になるように規格化してある。また、圧力センサ60bは2個存在するため、Z軸の正方向側に存在する圧力センサ60bの出力値を右圧力センサ、負方向側に存在する圧力センサ60bの出力値を左圧力センサとして示している。また、右圧力センサの出力値はグレーであり、矩形のマーカーで示されている。左圧力センサの出力値は黒であり、丸のマーカーで示されている。加速度センサ60aは3軸加速度センサであり、X軸,Y軸,Z軸のそれぞれについて正負の値が出力されるため、各軸の出力値を示している。
図5Cにおいて、X軸方向の出力値が黒、Y軸方向の出力値が濃いグレー、Z軸方向の出力値が薄いグレーである。
【0033】
図5Bに示す圧力において、時間範囲R
3の出力値に着目すると、当該時間範囲R
3内に2つの圧力センサ60bに対して急激に圧力が作用したこと、すなわち、打撃が行われたことがわかる。なお、2つの圧力センサ60bの出力値の最大値の差分が閾値以下である場合や、出力が最大値となる時間の差が閾値以下である場合、打撃部60eの端面60e1が型枠Fの表面に対してほぼ平行に当たったことを示す。
【0034】
図5Cに示す加速度において、時間範囲R
1の出力値に着目すると、X軸方向、Z軸方向の出力値はほぼ0であり、Y軸方向の正方向に0ではない加速度(重力加速度に相当)を有している。これらの出力値は、
図2Aに示されるように、グリップ部60cの長手方向が鉛直方向に向いており、傾いておらず、ヘッド部60dの長手方向が水平に向いている状態に対応している。従って、打撃の前に、X軸方向、Z軸方向の出力値の絶対値が第1の閾値以下であり、Y軸方向の出力値の絶対値が第1の閾値より大きい第2の閾値以上であり、向きが重力方向であれば、
図2Aのような姿勢で待機されていたことがわかる。
【0035】
また、
図5Cに示す加速度において、時間範囲R
2の出力値に着目すると、X軸方向の出力値が一旦増加した後に徐々に減少し、負の加速度になっている。この加速度は、ハンマー60を振りかぶることによってX軸方向に負の加速度が作用することに応じて生じる。また、時間範囲R
2において、Y軸方向の出力値は、徐々に小さくなり、やがて負の加速度になっている。この加速度は、ハンマー60を振りかぶることによってグリップ部60cの長手方向が垂直方向に対して傾くことに応じて生じる。時間範囲R
2において、Z軸方向の出力値は、0付近で一定である。
【0036】
さらに、
図5Cに示す加速度において、時間範囲R
3の出力値に着目すると、X軸およびY軸の出力値が負の値から急激に上昇し、正の値になる。この加速度は、ハンマー60が型枠Fに向けて移動したことに応じて生じる。さらに、X軸およびY軸の出力値が最大値になると急激に減少し、元の値(時間範囲R
1での値)に戻る。時間範囲R
3において、Z軸方向の出力値は、0付近で一定である。
【0037】
本実施形態において、打撃音情報取得部20aは、以上のような圧力および加速度の出力値に基づいて、利用者が予め決められた方法で打撃を行ったか否か判定する。例えば、打撃音情報取得部20aは、加速度が変化していない時間範囲R1において、X軸方向、Z軸方向の出力値の絶対値が第1の閾値以下であり、Y軸方向の出力値の絶対値が第1の閾値より大きい第2の閾値以上であり、向きが重力方向であるという条件を充足するか否か判定する。条件を充足すれば、打撃音情報取得部20aは、取得した音を打撃音の候補とする。この条件を充足しない場合、打撃音情報取得部20aは、取得した音は空洞探査可能な打撃音ではないと見なす。
【0038】
さらに、時間範囲R1に続く時間範囲R2において、打撃音情報取得部20aは、X軸方向の出力値が一旦増加した後に既定範囲内の傾きで減少し、負の加速度になり、Y軸方向の出力値が既定範囲内の傾きで減少し、負の加速度になり、Z軸方向の出力値の絶対値が閾値以下であるという条件を充足するか否か判定する。条件を充足すれば、打撃音情報取得部20aは、取得した音を打撃音の候補とする。この条件を充足しない場合、打撃音情報取得部20aは、取得した音は空洞探査可能な打撃音ではないと見なす。さらに、時間範囲R2に続く時間範囲R3において、打撃音情報取得部20aは、X軸およびY軸の出力値が既定範囲内の傾きで増加し、正の値になり、Z軸方向の出力値の絶対値が閾値以下であるという条件を充足するか否か判定する。条件を充足すれば、打撃音情報取得部20aは、取得した音を空洞探査可能な打撃音と見なす。この条件を充足しない場合、打撃音情報取得部20aは、取得した音は空洞探査可能な打撃音ではないと見なす。
【0039】
なお、判定の際の以上の条件は一例であり、以上の条件の一部は条件に含まれなくても良い。また、他の条件が含まれても良い。例えば、時間範囲R2における加速度の最大値や最小値が既定の範囲内であるか否かが条件に含まれていても良い。また、2つの圧力センサ60bの出力値の最大値が過度に大きい場合や、過度に小さい場合には、例外的なたたき方であると見なされ、空洞探査可能な打撃音と見なされない構成であっても良い。さらに、各時間範囲の長さにも閾値が設けられて良い。
【0040】
いずれにしても、空洞探査可能な打撃音であると見なされた場合、制御部20は、ステップS110以降の処理を実行する。空洞探査可能な打撃音であると見なされない場合、制御部20は、ステップS100以降の処理を繰り返す。以上のような構成によれば、教師データ30aの基となる打撃音を発生させたハンマー60の動作を一定の範囲に限定することができる。従って、当該打撃音に基づいて機械学習する際に、容易に機械学習が進むように教師データ30aを定義することが可能である。
【0041】
空洞探査可能な打撃音を含むと判定された場合、打撃音情報取得部20aは、加速度センサ60aの出力値と、圧力センサ60bの出力値と、に基づいて、集音した音から打撃音を抽出する(ステップS110)。すなわち、打撃音情報取得部20aは、時系列の音の中から、打撃によって生じた音が含まれる既定の長さの音を抽出し、打撃音と見なす。
【0042】
具体的には、例えば、打撃音情報取得部20aは、圧力センサ60bの出力値がピークとなる時刻と、加速度センサ60aにおけるX軸およびY軸の出力値が正から負に急変する時刻とを特定し、両時刻が含まれる時間帯に打撃が行われたとみなす。さらに、打撃音情報取得部20aは、当該時点を含む
図5Aのような音の集合において、音圧が初めて閾値を超えた時点を特定する。さらに、打撃音情報取得部20aは、当該時点から既定の長さ(例えば、0.1秒)だけ時間軸をさかのぼった時点を開始時点とし、開始時点から既定の長さ(例えば、0.5秒)の音を打撃音として抽出する。
図6Aは、このようにして抽出された打撃音の例を示している。以上の構成によれば、時系列の音から、空洞探査可能な打撃音を容易に抽出することが可能になる。なお、打撃音においては、
図6Aに示されるように、打撃されたタイミング以前の音より、打撃されたタイミング以後の音の方が長い時間になっていることが好ましい。この構成であれば、打撃後の残響を含む解析が実施できるように打撃音を取得することができる。
【0043】
以上のようにして打撃音が抽出されると、打撃音情報取得部20aは、全ラベルについて既定回数の打撃音の抽出が抽出したか否か判定する(ステップS115)。すなわち、本実施形態においては、各ラベルについて既定回数の打撃音のサンプリングを行い、各ラベルについて、ラベルと打撃音とが組となった教師データが既定個数生成されるように決められている。そこで、打撃音情報取得部20aは、全てのラベルについて、既定個数の組が生成されていなければ、ステップS100以降の処理を繰り返す。
【0044】
すなわち、同一のラベルについて、既定回数の打撃音のサンプリングが実施されていなければ、打撃音情報取得部20aは、打撃位置および空洞位置が同一の状態でステップS100以降の処理を繰り返す。同一のラベルについて、既定回数の打撃音のサンプリングが実施された場合、打撃音情報取得部20aは、打撃位置および空洞位置のいずれか一方を変化させてステップS100以降の処理を繰り返す。
【0045】
ステップS115において、全ラベルについて既定回数の打撃音の抽出が抽出したと判定された場合、打撃音情報取得部20aは、打撃音をスペクトログラムに変換し、教師データ30aを生成する(ステップS120)。すなわち、制御部20は、打撃音情報取得部20aの機能により、各打撃音に基づいて短時間フーリエ変換を実行する。短時間フーリエ変換は、マイク50で集音した音に基づいて、一定の時間幅内の音に対するフーリエ変換を異なる複数の時間に対して実行する処理である。例えば、
図6Aに示される打撃音を一定の時間幅毎に切り出し、切り出した窓幅に対して窓関数をかけてフーリエ変換を実行する処理である。この際、通常は、切り出した期間がオーバーラップするように、切り出し期間が設定される。
【0046】
図6Aにおいては、打撃音から0.025秒の時間幅、オーバーラップ幅0.015秒で切り出しを行う場合に切り出される別個の時間幅の3個を時間幅T
1~T
3として例示している。このような切り出しを打撃音の全期間(
図6Aにおいては0.5秒間)について実施してフーリエ変換を行うと、切り出された時間幅毎に、周波数毎の強度を示すスペクトルが得られる。このようなスペクトルが、各時間幅の時間軸上の位置に対応付けられたデータがスペクトログラムである。
【0047】
図6Bは、
図6Aの打撃音のスペクトログラムの例を示しており、横軸が時間(ms)、縦軸が周波数(kHz)である。
図6Bにおいては、時間および周波数毎の強度(パワー)をグレースケールで示しており、色が白に近いほど強度が大きいことを示している。本実施形態において、切り出された時間幅毎のスペクトルは、時間軸上で各時間幅の始点に対応付けて表記される。例えば、時間幅T
1の始点は50msの時点であるため、時間幅T
1についてのフーリエ変換で得られたスペクトルは、
図6Bにおいて、50msの位置に縦方向に並べて表記される。以上のようにして得られたスペクトログラムによれば、短期間(0.025秒)毎の音の周波数成分の強度を詳細に特定することができる。従って、打撃音に基づいた機械学習を進めやすくすることができる。
【0048】
ステップS100~S115のループ処理によって抽出された全ての打撃音についてスペクトログラムが得られると、打撃音情報取得部20aは、各打撃音のスペクトログラムに対してラベルを対応付けて教師データ30aを生成する。すなわち、各打撃音は、打撃音を発生させた場合の打撃位置と、打撃された型枠内の空洞の有無や位置を示す空洞位置とが対応付けられている。打撃音情報取得部20aは、当該打撃位置および空洞位置を示すラベルを、打撃音から生成されたスペクトログラムに対応付けて、教師データ30aとする。
【0049】
教師データ30aが生成されると、機械学習部20cは、訓練モデルを取得する(ステップS125)。本実施形態において、機械学習処理は、ニューラルネットワークを形成する訓練モデルを最適化する処理である。ここで、モデルとは、分類対象のデータと分類結果のデータとの対応関係を導出する式を示す情報である。本実施形態において分類結果は、打撃位置および空洞位置である。分類対象は打撃音から変換されたスペクトログラムである。すなわち、本実施形態においては、機械学習のモデルに対して、打撃音から変換されたスペクトログラムを入力し、打撃位置および空洞位置を出力するモデルを機械学習する。
【0050】
機械学習は、種々の手法で行われて良いが、本実施形態においては、畳み込み層を含むニューラルネットワークによって機械学習が行われる。
図6Cは、本実施形態におけるニューラルネットワークを模式的に示す図である。入力層は、
図6Bに示されるような、スペクトログラムを入力するための層である。この例であれば、時間および周波数毎の強度を示す値が入力層に入力される。入力層以後、畳み込み層、バッチ正規化層、RELU(Rectified Linear Unit)、最大プーリング層の組LPが複数回繰り返される。繰り返し回数は限定されず、種々の値とすることができる。
【0051】
そして、出力層の直前には全結合層が存在し、全結合層の後にソフトマックス関数による処理を経て、各ラベルに対応するノードの出力値が得られる。なお、本実施形態においては、
図3Bに示すようにラベルが90種類存在するため、出力層のノード数は90個である。
【0052】
次に、機械学習部20cは、テストデータを取得する(ステップS130)。本実施形態において制御部20は、機械学習部20cの機能により、ステップS120で取得された教師データ30aの一部を抽出し、テストデータとする。テストデータは、学習の汎化が行われたか否かを確認するためのデータであり、機械学習には使用されない。
【0053】
次に、機械学習部20cは、初期値を決定する(ステップS135)。すなわち、制御部20は、機械学習部20cの機能により、ステップS125で取得した訓練モデルのうち、学習対象となる可変のパラメーター(フィルタの重みやバイアス等)に対して初期値を与える。初期値は、種々の手法で決定されて良い。むろん、学習の過程でパラメータが最適化されるように初期値が調整されても良いし、各種のデータベース等から学習済のパラメータが取得されて利用されても良い。
【0054】
次に、機械学習部20cは、機械学習を行う(ステップS140)。すなわち、制御部20は、機械学習部20cの機能により、ステップS125で取得した訓練モデルに教師データ30aのスペクトログラムを入力し、打撃位置および空洞位置を示す情報を出力する。出力が得られると、機械学習部20cの機能は、当該出力と、教師データ30aが示すラベルとの誤差を示す損失関数によって誤差を特定する。損失関数が得られたら、制御部20は、既定の最適化アルゴリズム、例えば、確率的勾配降下法等によってパラメータを更新する。すなわち、制御部20は、損失関数のパラメータによる微分に基づいてパラメータを更新する処理を既定回数繰り返す。
【0055】
以上のようにして、既定回数のパラメータの更新が行われると、機械学習部20cは、訓練モデルの汎化が完了したか否かを判定する(ステップS145)。すなわち、制御部20は、機械学習部20cの機能により、ステップS130で取得したテストデータのスペクトログラムを訓練モデルに入力して打撃位置および空洞位置を出力する。そして、制御部20は、出力された打撃位置および空洞位置と、テストデータに対応づけられたラベルとが一致している数を取得し、サンプル数で除することで判定精度を取得する。本実施形態において、制御部20は、判定精度が閾値以上である場合に汎化が完了したと判定する。
【0056】
なお、汎化性能の評価に加え、ハイパーパラメータの妥当性の検証が行われてもよい。すなわち、学習対象となる可変のパラメータ以外の可変量であるハイパーパラメータ、例えば、フィルタサイズやノードの数等がチューニングされる構成において、制御部20は、検証データに基づいてハイパーパラメータの妥当性を検証しても良い。検証データは、ステップS130と同様の処理により、検証データを予め抽出し、訓練に用いないデータとして確保しておくことで取得すれば良い。
【0057】
ステップS145において、訓練モデルの汎化が完了したと判定されない場合、制御部20は、ステップS140を繰り返す。すなわち、さらに学習対象となる可変のパラメータを更新する処理を行う。一方、ステップS145において、訓練モデルの汎化が完了したと判定された場合、制御部20は、機械学習モデルを記録する(ステップS150)。すなわち、制御部20は、訓練モデルを機械学習モデル30bとして記憶媒体30に記録する。
【0058】
(1-2)空洞探査処理:
以上のようにして機械学習モデル30bが生成されると、以後、当該機械学習モデル30bを利用して、空洞位置の特定を行うことが可能になる。コンピュータ10の記憶媒体30に機械学習モデル30bが記憶されている状態において、利用者は、型枠に生コンクリートを充填し、生コンクリートが固まる前に空洞の有無および位置を判定する機能をコンピュータ10に実行させることができる。
【0059】
当該判定に際しては、ハンマー60およびマイク50が用意され、マイク50は、型枠と予め決められた関係にある既定の位置に設置される。マイク50の位置は限定されず、教師データ30aを生成する際のマイクの位置と、空洞有無の判定を行う際のマイクの位置は、同一または類似の位置であることが好ましいと前述したが、さらに、マイクは打撃位置から所定の距離内にあることが好ましく、例えば、ハンマー60を使用する作業者と共にマイクを移動させることもできる。なお、型枠の素材や大きさ等は、教師データ30aを生成する際の条件と同一または類似であることが好ましい。ここでは、教師データ30aを生成する際の条件と同一の型枠が利用されることを想定して説明を続ける。
【0060】
型枠に生コンクリートが充填されると、利用者は、コンピュータ10を操作し、空洞探査処理を開始する。
図7は空洞探査処理のフローチャートである。空洞探査処理を開始した後に、利用者は、ハンマー60で型枠を打撃する。本実施形態において、利用者は、予め決められた複数の位置P
1~P
15のいずれかをハンマー60で打撃する。また、この際、利用者は、教師データ30aを生成した際の打撃法と同様の打撃法で型枠を打撃する。
【0061】
空洞探査処理が開始されると、打撃音情報取得部20aは、生コンクリートが中に存在する型枠をハンマー60で打撃したことによって生じた打撃音に関する情報を取得する。この処理を行うため、打撃音情報取得部20aは、まず、時系列の音、加速度、圧力を取得する(ステップS200)。次に、打撃音情報取得部20aは、空洞探査可能な打撃音を含むか否か判定する(ステップS205)。ステップS205において、空洞探査可能な打撃音を含むと判定されない場合、利用者はハンマー60によって同じ打撃位置または打撃位置を変えて再度打撃を行い、制御部20は、ステップS200以降を繰り返す。ステップS205において、空洞探査可能な打撃音を含むと判定された場合、打撃音情報取得部20aは、打撃音を抽出する。
【0062】
これらのステップS200~S210は、上述のステップS100~S110と同様の処理である。すなわち、生コンクリート内の空洞の有無等を判定する際においても、打撃音情報取得部20aは、マイク50で集音した音を取得し、加速度センサ60aの出力値と、圧力センサ60bの出力値と、に基づいて、集音した音が空洞探査可能な打撃音を含むか否かを判定する。この構成によれば、打撃音を発生させたハンマー60の動作を一定の範囲に限定することができる。従って、抽出される打撃音の品質を高品質に保つことができ、機械学習による判定結果の精度を高めることができる。
【0063】
また、打撃音情報取得部20aは、マイク50で集音した音を取得し、加速度センサ60aの出力値と、圧力センサ60bの出力値と、に基づいて、集音した音から打撃音を抽出する。この構成によれば、時系列の音から、空洞探査可能な打撃音を容易に抽出することが可能になる。さらに、空洞探査システムは、他の作業者が空洞探査や生コンクリートの充填等の作業を行っている環境下で使用される可能性が高いが、本実施形態のようにセンサの出力値に基づいて打撃音を抽出すれば、ハンマー60による打撃と異なる音を誤って取得してしまう可能性を低減することができる。
【0064】
打撃音が抽出されると、制御部20は、空洞情報提示部20bとして機能することによって、空洞の有無および位置を判定する。ここで、空洞情報提示部20bは、機械学習モデル30bに対して、打撃音に関する情報を入力し、出力された空洞の有無に関する情報を利用者に提示する機能である。本実施形態においては、上述のように、打撃音に関する情報が打撃音のスペクトログラムであり、空洞の有無に関する情報が打撃位置および空洞位置を示すラベルである。
【0065】
このため、空洞情報提示部20bは、ステップS210で抽出した打撃音をスペクトログラムに変換し、機械学習モデル30bに入力する(ステップS215)。ステップS215において、スペクトログラムへの変換は、ステップS120における変換と同様である。すなわち、空洞情報提示部20bは、ステップS210で抽出された打撃音に対して、一定の時間幅内の音に対するフーリエ変換を異なる複数の時間に対して実行する。この結果、例えば、
図6Aに示した例であれば、
図6Bのように変換される。このようなスペクトログラムは、打撃音の時間および周波数ごとの強度を示しているため、スペクトログラムを使用すれば、打撃音の時間および周波数毎の特性に基づいて、空洞の有無や位置を判定することが可能になる。
【0066】
スペクトログラムが得られると、空洞情報提示部20bは、当該スペクトログラムを機械学習モデル30bに入力する。すなわち、空洞情報提示部20bは、時間および周波数毎の強度の値を、入力層の各ノードの入力とし、機械学習モデル30bに基づいて計算を行う。この結果、90個のラベルのそれぞれに対応する値が出力される。
【0067】
当該ラベルに対応した値は、複数の打撃位置と、複数の空洞位置と、の組合せのそれぞれについて、各位置が打撃音を発生させた際の打撃位置と、空洞位置と、の組合せである可能性を示す値である。例えば、
図3Bに示す例において、出力層のノードのうち、ラベル2に対応するノードの値が最大値で、他のノードの値が相対的に小さい場合、機械学習モデル30bによって打撃位置が位置P
1であり、空洞位置が位置P
7である可能性が最も高いと判定されたことになる。
【0068】
空洞情報提示部20bは、機械学習モデル30bの出力層の値の中から、最も値が大きいノードに対応するラベルを特定し、当該ラベルに対応する打撃位置に対して打撃され、当該ラベルに対応する空洞位置が存在する(または空洞が存在しない)と判定する。そして、空洞情報提示部20bは、当該打撃位置および空洞位置を判定結果として出力する(ステップS220)。すなわち、制御部20は、空洞情報提示部20bの機能により、表示部40を制御し、打撃位置および空洞位置を示す情報(空洞が無い場合は存在しないことを示す情報)を表示させる。この構成によれば、利用者は、生コンクリートに空洞が含まれるか否かを認識することができる。また、空洞が存在する場合、利用者は、空洞の位置を認識することができる。
【0069】
以上の構成においては、打撃音と、打撃位置および空洞位置と、を対応付けた複数の組の教師データ30aに基づいて機械学習モデル30bを生成する。従って、打撃によって生じる多様な打撃音に基づいて、各打撃音が発生した際の打撃位置と空洞位置として、最も確からしい位置が導出できるように学習される。このため、本実施形態によれば、打撃によって生じる多様な打撃音に基づいて空洞の有無に関する情報を特定することができる。
【0070】
さらに、本実施形態においては、複数の打撃位置と、複数の空洞位置と、の組合せのそれぞれに対応したラベル毎の出力が得られる。すなわち、打撃音に基づいて、空洞の有無のみを出力するのではなく、打撃位置と空洞位置とを詳細に特定した出力が得られる。このため、本実施形態においては、空洞の有無のみならず、空洞の位置も特定可能になる。また、実際に打撃した位置と、機械学習モデル30bから出力された打撃位置とが著しく異なっている場合には、判定結果の信頼性が低い可能性があると推定することが可能である。
【0071】
さらに、打撃位置と空洞位置とを詳細に特定した判定結果が得られることを利用すれば、種々の態様で判定結果を利用することができる。例えば、生コンクリートが充填された型枠の異なる打撃位置に対して打撃を行うと、各打撃によって生じた打撃音について打撃位置と空洞位置の組合せに対応した判定結果が得られる。この場合に、複数の判定結果において得られた空洞位置の中で、同一の空洞位置と判定された数が最も多い位置が、実際の空洞位置として最も可能性が高いと結論づけることが可能である。
【0072】
さらに、打撃位置と空洞位置とを詳細に区別して判定を行う構成により、少なくとも空洞の有無としては正しい判定結果が得られる可能性が高くなる。すなわち、空洞位置が位置P6~P10のいずれかであると判定された場合を空洞あり、空洞なしと判定された場合を空洞なしと分類すると、空洞の有無についての判定の正解率は極めて高くなることが確認されている。具体的には、打撃位置を学習せず、空洞位置の変化に応じてノードが異なる機械学習モデルで学習を進めた場合と、本実施形態とを比較すると、空洞の有無に関する判定の正解率は本実施形態の方が高いことが確認されている。また、打撃位置と空洞位置とを学習せず、空洞の有無のみを出力する機械学習モデルで学習を進めた場合と、本実施形態とを比較すると、空洞の有無に関する判定の正解率は本実施形態の方が高いことが確認されている。従って、打撃位置と空洞位置とを詳細に区別して判定を行う構成とすれば、高い精度で空洞の有無を判定することが可能になる。
【0073】
(2)他の実施形態:
以上の実施形態は本発明を実施するための一例であり、打撃音に関する情報を機械学習モデルに入力し、空洞の有無に関する情報を出力する限りにおいて、他にも種々の実施形態を採用可能である。例えば、上述の実施形態においては、1台のコンピュータ10によって、空洞探査システムが構成されていたが、より多数の装置、例えば、クラウドサーバ等によってシステムが実現されても良い。
【0074】
さらに、打撃音情報取得部20a,空洞情報提示部20b,機械学習部20cの少なくとも一部が複数の装置に分かれて存在してもよい。例えば、打撃音情報取得部20aによって教師データ30aが取得される処理と、判定対象の打撃音が取得される処理とが異なる装置で実施される構成等であっても良い。むろん、上述の実施形態の一部の構成が省略されてもよいし、処理の順序が変動または省略されてもよい。
【0075】
さらに、型枠への打撃位置や型枠内の空洞位置の定義は、上述の実施形態のような定義に限定されない。例えば、位置の数は15個でなくてもよい。また、打撃位置の数と空洞位置の数とが一致していていても良い。例えば、
図3Aに示す位置P
1~P
15のいずれかが打撃位置であり、位置P
1~P
15のいずれかが空洞位置である構成が採用されてもよい。
【0076】
さらに、位置の分類が型枠の表面上に表記され、利用者が打撃する打撃位置が明示されているなどの構成が採用されてもよい。さらに、空洞位置は1カ所であることが想定されているが、複数カ所に空洞位置が存在することが想定されても良い。この場合、空洞位置の数および位置毎に教師データ30aが定義され、機械学習が行われる。
【0077】
打撃音情報取得部は、生コンクリートが中に存在する型枠をハンマーで打撃したことによって生じた打撃音に関する情報を取得することができればよい。すなわち、打撃音情報取得部は、空洞の有無に応じて変化する打撃音に関する情報を取得することができればよい。生コンクリートは、固まる前のコンクリートである。すなわち、空洞の存在が特定された場合に、振動機による加振等で空洞を排除することが可能な状態のコンクリートであれば良い。
【0078】
型枠は、生コンクリートが充填される枠であれば良く、素材や厚さ等は限定されない。ハンマーは、型枠をたたくことによって音を生じさせる道具であれば良く、素材や形状等は限定されない。打撃音は、型枠に対する打撃で生じた音であり、上述の実施形態以外にも種々の手法で集音されて良い。例えば、型枠内を伝わる音が集音されても良い。また、型枠の位置や打撃位置とマイクの位置との関係は種々の関係であって良い。
【0079】
打撃音に関する情報は、空洞の有無に関する情報を含むんでいれば良く、打撃音自体であっても良いし、上述の実施形態のようにスペクトログラムであっても良く、種々の態様を採用可能である。すなわち、打撃音や打撃音から生成された情報であって、機械学習モデルへの入力となり得る情報であれば、各種の情報が打撃音に関する情報となり得る。このような情報としては、例えば、打撃音を変換して得られる周波数領域の信号(離散フーリエ変換された信号、ウェーブレット変換された信号等)であっても良い。
【0080】
機械学習は、特定の条件に対して実施されてもよいし、特定の条件に限定されないように機械学習が実施されてもよい。特定の条件としては、例えば、型枠の素材や厚さ等、ハンマーの素材や形状等、マイクの配置等が決められている状態であることが想定され、この場合、当該特定の条件における教師データに基づいて機械学習が行われる。特定の条件に限定されない態様としては、例えば、型枠の素材や厚さ等、ハンマーの素材や形状等、マイクの配置等が限定されず、複数の種類の型枠等や任意の種類の型枠等が利用される状況が想定される。この場合、複数の条件(型枠等)における教師データに基づいて機械学習が行われ、任意の条件下で測定された打撃音に関する出力が行われる態様が想定される。
【0081】
空洞情報提示部は、打撃音に関する情報を入力して生コンクリートの内部における空洞の有無に関する情報を出力するように機械学習された機械学習モデルに対して、打撃音に関する情報を入力し、出力された空洞の有無に関する情報を利用者に提示することができればよい。すなわち、空洞情報提示部は、打撃音に基づいて空洞の有無に関する情報を機械学習モデルに基づいて推定し、利用者に提示することができればよい。
【0082】
機械学習の態様は限定されず、例えばニューラルネットワークによる機械学習が行われる場合、モデルを構成する層の数やノードの数、活性化関数の種類、損失関数の種類、勾配降下法の種類、勾配降下法の最適化アルゴリズムの種類、ミニバッチ学習の有無やバッチの数、学習率、初期値、過学習抑制手法の種類や有無、畳み込み層の有無、畳み込み演算におけるフィルタのサイズ、フィルタの種類、パディングやストライドの種類、プーリング層の種類や有無、全結合層の有無、再帰的な構造の有無など、種々の要素を適宜選択して機械学習が行われればよい。むろん、他の機械学習、例えば、深層学習(ディープラーニング)、サポートベクターマシンやクラスタリング、強化学習等によって学習が行われてもよい。さらに、モデルの構造(例えば、層の数や層毎のノードの数等)が自動的に最適化される機械学習が行われてもよい。
【0083】
空洞の有無に関する情報は、空洞の有無自体を示す情報であっても良いし、他の情報、例えば、空洞の位置を示す情報や、空洞の数、大きさ、等を示す情報であっても良い。空洞の位置は、種々の態様で定義されていて良く、型枠の打撃面に平行な方向な位置のみならず、打撃面に垂直な奥行き方向の位置が含まれていても良い。
【0084】
さらに、集音した音が空洞探査可能な打撃音を含むか否かを判定するための態様は、上述のような態様に限定されない。例えば、型枠Fの打撃前にハンマー60を静止させた状態における加速度センサ60aの加速度検出軸方向は、上述の
図2A,
図2Bに示したX軸方向,Y軸方向,Z軸方向と一致していなくても良い。この場合、2以上の加速度検出軸方向において重力が検出され得る。また、加速度センサ60aのキャリブレーションにより重力が作用している方向を特定するなどして、実空間内に固定された各方向に作用する加速度が特定されても良い。
【0085】
いずれにしても、
図5Aに示す時間範囲R
1においては、加速度センサ60aの検出値や、検出結果から得られるベクトル、傾き、時間微分等の値と閾値とを比較して、ハンマー60の姿勢が特定の範囲であり、ほぼ静止していると見なせる範囲であることが特定されれば良い。また、時間範囲R
2においては、加速度センサ60aの検出値や、検出結果から得られるベクトル、傾き、時間微分等の値と閾値とを比較して、ハンマー60を振りかぶる動作が行われたことが特定されればよい。すなわち、加速度の特性が、ハンマー60を型枠Fから一旦遠ざけた後に型枠Fに向けて加速して打撃される際の特性であることが特定されれば良い。
【0086】
さらに、時間範囲R3においては、加速度センサ60aの検出値や、検出結果から得られるベクトル、傾き、時間微分等の値と閾値とを比較して、ハンマー60が型枠Fに接触したことによって生じる加速度が特定されればよい。また、時間範囲R3においては、圧力センサ60bの最大値が既定の範囲であり、左圧力センサと右圧力センサとの出力値の差異が閾値以下であれば良い。これらの条件が満たされた場合に、集音した音が空洞探査可能な打撃音であると判定されれば良い。すなわち、ハンマー60が静止された状態、振りかぶられた状態、打撃された状態が、連続して発生したことや、各状態における加速度および圧力が既定の特性の範囲内であることが特定された場合に、集音した音が空洞探査可能な打撃音であると判定されれば良い。
【0087】
さらに、空洞の有無に関する情報が、ハンマー60で型枠を打撃した打撃位置と、打撃位置に対する相対的な空洞の位置である空洞位置と、を示す情報である構成が採用されてもよい。例えば、
図3Aに示すような型枠は、対称性を考えると、同等の音になると推定できるような打撃位置と空洞位置との組合せが存在する。具体的には、型枠は、通常、構造体に設置されており、設置された状態の型枠に対して上方から生コンクリートを流し込む。従って、上方が空洞になっている。このため、音響的には、型枠の上下方向で特性が異なる。
【0088】
一方、上下方向に垂直であり、型枠の表面に平行な方向においては、
図3Aに示す中心線Lcを基準に線対称の対称性があり、発生する音は類似すると考えられる。例えば、空洞位置が位置P
6、打撃位置が位置P
2である場合の音と、空洞位置が位置P
6、打撃位置が位置P
12である場合の音と、は類似すると考えられる。そこで、型枠の上下方向に垂直であり、型枠の表面に平行な方向において、中心線Lcを中心に折り返して重なるような打撃位置と空洞位置の組は、打撃位置と、打撃位置に対する相対的な空洞の位置が同一であると見なすことができる。そして、打撃位置から見た空洞位置の関係が同一であると見なすことができるラベルに基づいて空洞位置が判定されてもよい。例えば、打撃位置が位置P
2である場合に、打撃位置が位置P
12、空洞位置が位置P
6であることを示す判定結果が得られた場合、空洞位置が位置P
6であると推定されたと見なしても良い。
【0089】
さらに、このような音の類似を考慮した場合、例えば、上述の実施形態における機械学習モデル30bのラベルの中で、打撃位置と空洞位置が同一の位置関係にあるラベルを同一であると見なす構成としても良い。例えば、打撃位置が位置P12、空洞位置が位置P6であるラベルと、打撃位置が位置P2、空洞位置が位置P6であるラベルと、を区別せず、同一のラベルとしても良い。
【0090】
空洞の有無に関する情報の提示態様は、種々の態様であって良い。従って、各種のアイコンやグラフ、図形、文字等で提供されても良いし、音等で提示されても良い。また、情報の提示タイミングは任意であり、ハンマーによる打撃が行われるたびに提示されても良いし、複数回の打撃が行われた場合に提示されても良いし、利用者による指示等に応じて提示されても良い。
【0091】
さらに、打撃音に関する情報を機械学習モデルに入力し、空洞の有無に関する情報を出力する手法は、プログラムや方法としても適用可能である。また、以上のようなシステム、プログラム、方法は、単独の装置として実現される場合や、複数の装置によって実現される場合が想定可能であり、各種の態様を含むものである。また、一部がソフトウェアであり一部がハードウェアであったりするなど、適宜、変更可能である。さらに、システムを制御するプログラムの記録媒体としても発明は成立する。むろん、そのソフトウェアの記録媒体は、磁気記録媒体であってもよいし半導体メモリであってもよいし、今後開発されるいかなる記録媒体においても全く同様に考えることができる。
【符号の説明】
【0092】
10…コンピュータ、20…制御部、20a…打撃音情報取得部、20b…空洞情報提示部、20c…機械学習部、30…記憶媒体、30a…教師データ、30b…機械学習モデル、40…表示部、50…マイク、60…ハンマー、60a…加速度センサ、60b…圧力センサ、60c…グリップ部、60d…ヘッド部、60e…打撃部、60e1…端面、60f…分散ゴム